(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 7/40 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
A47C7/40
(21)【出願番号】P 2018167516
(22)【出願日】2018-09-07
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】南 星治
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-177759(JP,A)
【文献】特開2004-329320(JP,A)
【文献】米国特許第5683142(US,A)
【文献】特開平8-70952(JP,A)
【文献】特開平10-127405(JP,A)
【文献】特開平2-36809(JP,A)
【文献】特開2013-103089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/40 - A47C 7/48
A47C 1/02 - A47C 1/037
A47C 3/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれとその後ろに配置された背支柱とを備えており、前記背もたれは、左右長手のピンを介して前記背支柱に連結されている構成であって、
前記背もたれと背支柱とのうちいずれか一方に左右のブラケット部を設けて、前記左右のブラケット部に、前記ピンを介して継手部材が相対回動可能に連結されている一方、
前記背もたれと背支柱とのうち他方に、前記ピンが左右抜け不能に保持される左右の側板を有する抱持部が形成されていて、前記抱持部に、前記ピンが落とし込まれる軸受け溝を形成しており、
更に、前記抱持部と継手部材とに、前後方向から係合して前記ピンを軸受け溝から抜け不能に保持する係合部が形成されている、
椅子。
【請求項2】
前記背もたれの背面に左右のブラケット部を突設して、前記ブラケット部に、前記ピンによって前記継手部材が連結されている一方、
前記背支柱は、前記背もたれに向いた左右の側板を有する平断面コ字形の形態であって、上端部に前記抱持部を形成しており、前記背支柱と継手部材とに前記係合部を形成している、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記係合部は、先端に鉤部を有する係合爪と、前記係合爪が嵌まり込む筒型の係合ボス部とで構成されている、
請求項1又は2に記載した椅子。
【請求項4】
前記抱持部に、着座者の体圧によって後ろ向きに押された前記ピンを後ろから支持する前傾姿勢の受けリブが形成されている、
請求項2又は3に記載した椅子。
【請求項5】
前記継手部材に、前記受けリブの下方に位置する上面板を設けており、前記上面板の前端には上向き片を設けている、
請求項4に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背もたれの取付け構造に特徴を有する椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子は様々の形態があり、背もたれの形態や取付け構造も千差万別であるが、フィット性やクッション性の向上が要請されている。そこで、特許文献1には、背もたれを、多数のエレメントがヒンジ部によって連結された構成として、この背もたれを、その下端部は座アウターシェル等の座受け部材に回動可能に連結して、上下中途部は背支柱に回動可能に連結することにより、着座者の体圧によって背もたれの形態を変化させるようにした椅子が開示されている。
【0003】
この特許文献1では、背もたれの上下中途部をピンで背支柱に連結するにおいて、背支柱の上端にピンを挿通してその両端部を背支柱の左右両側に露出させておく一方、背もたれには、ピンの露出部に上から嵌合する挿入穴を形成して、ピンの露出部を、背もたれにビスで固定した押さえ部材によって抜け不能に保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の背もたれは、着座者の動きに対する形状変化の追従性に優れており、例えば、着座者が上半身を捩じると、上部のエレメントが集中的に変形して高いフィット性を確保できるなどの利点があり、従来にない画期的な椅子として評価できる。従って、その機能を活かして様々に展開できるといえるが、構造的にみると、展開に当たって改良の余地は残っているといえる。
【0006】
例えば、背もたれの上下中途部をピンで背支柱に連結するにおいては、ビスで固定された押さえ部材によって連結状態を保持しているが、押さえ部材を使用すると、締結作業に手間が掛かったり、押さえ部材を手前から固定できない構造の背もたれには適用できないといった問題があるため、押さえ部材を使用せずに美麗かつ簡単に連結できる構造が要請されているといえる。
【0007】
本願発明はこのような現状を契機して成されたものであり、背もたれを背支柱に連結することについて、改良された技術を提供しようするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、
「背もたれとその後ろに配置された背支柱とを備えており、前記背もたれは、左右長手のピンを介して前記背支柱に連結されている椅子において、
前記背もたれと背支柱とのうちいずれか一方に左右のブラケット部を設けて、前記左右のブラケット部に、前記ピンを介して継手部材が相対回動可能に連結されている一方、
前記背もたれと背支柱とのうち他方に、前記ピンが左右抜け不能に保持される左右の側板を有する抱持部が形成されていて、前記抱持部に、前記ピンが落とし込まれる軸受け溝を形成しており、
更に、前記抱持部と継手部材とに、前後方向から係合して前記ピンを軸受け溝から抜け不能に保持する係合部(係合手段)が形成されている」
という構成になっている。
【0009】
請求項1の好適な展開例として、請求項2の発明では、
「前記背もたれの背面に左右のブラケット部を突設して、前記ブラケット部に、前記ピンによって前記継手部材が連結されている一方、
前記背支柱は、前記背もたれに向いた左右の側板を有する平断面コ字形の形態であって、上端部に前記抱持部を形成しており、前記背支柱と継手部材とに前記係合部を形成している」
という構成になっている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「前記係合部は、先端に鉤部を有する係合爪と、前記係合爪が嵌まり込む筒型の係合ボス部とで構成されている」
という構成になっている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2又は3において、
「前記抱持部に、着座者の体圧によって後ろ向きに押された前記ピンを後ろから支持する前傾姿勢の受けリブが形成されている」
という構成になっている。なお、請求項4で特定している前傾姿勢とは、ピンが当たる面が前傾姿勢になっているということである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4において、
「前記継手部材に、前記受けリブの下方に位置する上面板を設けており、前記上面板の前端には上向き片を設けている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0013】
本願発明において、背もたれを背支柱に向けて移動させてピンを軸受け溝に落とし込み、その状態で、継手部材を部材に押し付けて係合部を互いに係合させると、ピンが軸受け溝から抜け不能に保持されて、背支柱に対して背もたれが取付けられる。
【0014】
従って、ごく簡単な作業により、背もたれを背支柱に離反不能に連結できる。かつ、ピンは抱持部の側板で左右から覆われているため、ピンが抜けることもないし、ピンが露出して美観を損なうこともない。従って、本願発明では、背支柱に対する背もたれの連結を、美麗な外観を保持しつつ、ビスを使用せずに簡単に行える。
【0015】
背もたれに抱持部を形成して、背支柱に継手部材を連結しておくことも可能であるが、この場合は、背支柱の外側に抱持部が露出するため、背支柱と抱持部との境界が人目に触れて美観を悪化させるおそれがある。これに対して請求項2のように、背もたれに継手部材を連結して背支柱に抱持部を設けると、背支柱に設けた抱持部で継手部材などの部材をすっぽりと覆うことができるため、スッキリとした外観にして美観を向上できる。
【0016】
係合部は様々な組み合わせを採用できるが、請求項3のように、係合爪と筒型係合ボス部との組み合わせを採用すると、係合爪の動きを筒型係合ボス部によって拘束できるため、係合状態の保持を確実化できる利点がある。なお、係合部の他に、位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによる位置決め手段を併用すると、背もたれの動きが係合爪に波及することを防止できるため、係合状態の維持効果を更に向上できる。
【0017】
着座者した人が背もたれにもたれ掛かると、体圧がピンを介して抱持部の軸受け溝に押圧力として作用するが、ピンに作用した押圧力を軸受け溝のみで支持すると、ピンに大きな曲げ力が作用して耐久性が低下するおそれがある。また、体圧の分力がピンを上向き動させるように作用すると、ピンが軸受け溝から抜け勝手になってしまう。
【0018】
これに対して請求項4の構成を採用すると、押圧力を受けリブで支持できるため、ピンに対する負担を軽減してピンの耐久性を向上できる。また、受けリブは前傾姿勢であるため、後ろ向きの押圧力によってピンは下向きにガイドされて、軸受け溝に深く嵌まるような傾向を呈する。このため、ピンが軸受け溝から抜ける方向に移動することを防止して、背もたれをガタ付きのない状態に後傾させることができる。
【0019】
そして、長期に亙って使用していると受けリブから樹脂粉が出ることがあり、これが床等に落下して美観を損なうことがあるが、請求項5では、樹脂粉が発生しても継手部材の上面板で受けることができるため、美観の悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】椅子の外観を示す図で、(A)は前方斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【
図2】椅子の外観を示す図で、(A)は背面図、(B)は後方斜視図、(C)は平面図である。
【
図4】(A)は座クッションと背もたれとを分離した状態の斜視図、(B)は座インナーシェルを分離した状態の斜視図である。
【
図5】(A)は分離斜視図、(B)は下方から見た斜視図である。
【
図7】(A)は背もたれの側面図、(B)の背もたれの平面図である。
【
図8】(A)は背板の下端の取付け構造を示す斜視図、(B)は背板の取付け手順の一部を示す分離斜視図である。
【
図9】(A)は
図3のIX-IX 視断面図、(B)は背もたれの下部の連結構造を示す分離斜視図である。
【
図10】(A)(B)とも、背支柱に対する背板の連結構造を示す斜視図である。
【
図11】(A)は背支柱に対する背板の連結構造を示す斜視図、(B)は背支柱の部分斜視図、(C)はブラケットの斜視図である。
【
図12】背板と背支柱との連結部を中心にした縦断側面図であり、取付け手順を示すため背板を併記している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1).概要
次に、本願発明の実施形態を説明する。本願発明は、オフィス等で使用されている回転椅子に適用している。まず、
図1~5を参照して、椅子の概要を説明する。椅子は、座1と背もたれ2と脚装置3とを備えている。脚装置3は、5本の枝杆と脚支柱4(ガスシリンダ)を備えており、各枝杆の先端にキャスタを設けている。
【0022】
背もたれ2は、合成樹脂製の背板のみで構成されている。従って、本実施形態では背もたれ2と背板とは同じあり、以下では、背板の意味として背もたれ2の文言を使用する。なお、背もたれ2は、背板の前面に背クッションを張った構造と成したり、背板(背インナーシェル)を化粧用のクロスで覆った構造と成したりすることも可能であり、この場合は、背もたれ2と背板とは異なる概念になる。
【0023】
図5に示すように、脚支柱4の上端に平面視四角形のベース5を嵌着している。他方、例えば
図4のとおり、座1は、合成樹脂製の座インナーシェル6に座クッション7を張って表皮材で覆った構造であり、座インナーシェル6は、合成樹脂製の座アウターシェル(座受け部材)8に連結している。そして、
図5(B)から理解できるように、座アウターシェル8に、下向きに開口した底面視角形のボス部8aが形成されており、ボス部8aとベース5とを互いに嵌め合わせてビスで固定している。
【0024】
脚支柱4の上端にはロックを解除するためのプッシュバルブ(図示せず)が突出しており、プッシュバルブは、例えば
図3に示す前倒れ回動式の押圧部材9によって押し下げられる。押圧部材9は、座アウターシェル8に回動自在に連結されている。座アウターシェル8のうち押圧部材9よりも手前の部位には中継リンク11が水平回動自在に取付けられており、中継リンク11と押圧部材9とは、両端にボール(図示せず)を設けたワイヤー10によって連結されている。
【0025】
図3に簡単に示すように、中継リンク11には、操作具の一例としての操作ベルト13の一端が係止されている。操作ベルト13の他端13aは、座アウターシェル8に形成したスリット穴14(図(A)(B)参照)から下方に延出しており、操作ベルト13の他端13aを引っ張ると、中継リンク11が水平回動して押圧部材9を下向きに回動させ、その結果、脚支柱のプッシュバルブが押し下げられて、ガスシリンダのロックが解除される。
【0026】
背もたれ2の下端には前向き部15が一体に形成されている一方、座アウターシェル8の後部上面に、スチール板等の金属板からなる左右長手の補強板(補強金具)16が固定されており、補強板16に形成した左右の軸受け部17に、背もたれ2の前向き部15が上向き動不能に保持されている。背もたれ2は、座アウターシェル8及び補強板16に対して、僅かながら後傾可能になっている。
【0027】
また、座アウターシェル8の後端には、背もたれ2の後ろに位置した上下長手の背支柱18が一体に形成されており、背支柱18の上端部に、背もたれ2のうち左右中間部でかつ上下中途高さ部位が連結されている。背もたれ2は、背支柱18に対しても僅かに後傾可能に連結されている。なお、背支柱18は、正確には、座アウターシェル8に繋がった前向きのロア部18aを有しており、ロア部18aの後端から上向きに立ち上がっている。
図1(A)に示すように、椅子には、オプション品として肘掛け19を設けることができる。
【0028】
(2).背もたれの構造
例えば
図6に明示するように、正面視において、背もたれ2のうち左右側縁は、着座者の腰部のあたりに位置する分が左右に膨れている。従って、背もたれ2のうち前向き部15を除いた部分(着座者の体圧を受ける必須の部分)は、正面視で略六角形になっており、各頂点部は丸みを持っている。
【0029】
更に、背もたれ2は、例えば
図7(A)に示すように、側面視では、着座者の腰部を支える部分(ランバーサポート部)が最も前に位置するように前向き凸状に曲がって、平面視では、
図7(B)に明示するように、左右側部が斜め前向き姿勢となって前向きに凹んでいる。
【0030】
従って、背もたれ2は、概ね着座者の腰部の高さに位置した左右長手の稜線(ランバーサポート部)を挟んで上下のエリアに分かれて、上下のエリアは、それぞれ左右の傾斜エリアと、傾斜エリアの間に位置したセンターエリアに分かれている。従って、背もたれ2は、上センターエリア21と左右の上サイドエリア22、下センターエリア23と左右の下サイドエリア24との6つのエリアに分かれている。
【0031】
かつ、上下センターエリア21,23はセンター横長ヒンジ部25を介して一体に繋がり、上下サイドエリア22,24はサイド横長ヒンジ部26を介して一体に繋がり、上センターエリア21と上サイドエリア22は上縦長ヒンジ部27を介して一体に繋がり、下センターエリア23と下サイドエリア24とは、下縦長ヒンジ部28を介して一体に繋がっている。左右の上縦長ヒンジ部27は上に向けて間隔が広がるように傾斜しており、左右の下縦長ヒンジ部28は、下に向けて間隔が広がるように傾斜している。従って、上センターエリア21は上広がりの台形になって、下センターエリア23は下広がりの台形状になっている。
【0032】
図7(B)に明示するように、各ヒンジ部25,26,27,28は薄肉化によって形成しており、概ね50~60mm程度の幅を有している。従って、各ヒンジ部25,26,27,28は、それ自体が湾曲した形態になっている。また、サイド横長ヒンジ部26は、左右外側に向けて幅寸法が若干広がっている。他のヒンジ部25,27,28はほぼ等幅になっている。
【0033】
図7(A)に明示するように、背もたれ2のうち上センターエリア21の下端部が背支柱18に連結されている。また、背もたれ2には、円形の多数の小穴29が斜め格子方向に整列して多数形成されている。各小穴29は、基本的に前後に開口した貫通穴であるが、背支柱18との取付け部では、貫通せずに前にだけ開口した形態になっているものがある(
図12参照)。
【0034】
小穴29の群は、各ヒンジ部25,26,27,28にも多数形成されている。ヒンジ部25,26,27,28は、多数の小穴29が存在することにより、容易に変形する。小穴29の内径は数mmであり、斜め方向のピッチは内径の2倍程度になっているが、これは一例であり、内径やピッチ、配列態様は任意に設定できる。内径が異なる複数種類の小穴29を形成してもよい。
【0035】
(3).背もたれの意義
着座者が例えば執務を行う場合は、腰部をセンター横長ヒンジ部25に当てることにより、上半身を直立させた姿勢を長時間に亙ってとり続けることができる。従って、身体への負担が少ない姿勢をとり続けることができる。この場合、センター横長ヒンジ部25は、縦断側面視で緩く湾曲しているため、着座者の腰部への当たりは柔らかくて快適である。
【0036】
着座者の腰部の体圧によってセンター横長ヒンジ部25がある程度の強さで押されると、センター横長ヒンジ部25は上下に広がるように変形し、左右のサイドエリア22,24が内側に引っ張られる。その結果、背もたれ2は内向きに窄まるような傾向を呈する。換言すると、背もたれ2が着座者の身体を包むような状態に変形する。従って、着座者の身体の姿勢安定性は高くなる。
【0037】
本実施形態の背もたれ2はロッキングしないが、背支柱18との連結部には多少のクリアランスがあるため、僅かながら後傾できる。そして、着座者が身体を伸ばすようにして背もたれ2にもたれ掛かると、体圧の作用点が背支柱18の上端よりも上に位置することにより、
図3に矢印31で示すように、上エリア21,22が少し後傾し得る。
【0038】
この場合、上エリア21,22が後傾すると、背もたれ2が全体として広がる傾向を呈するため、横長ヒンジ部25,26は曲がりやすくなる。また、横長ヒンジ部25,26は帯状でもともと前後方向に曲がり変形しやすいため、上エリア21,22の後傾は更に容易になる。
【0039】
また、背もたれ2の下端は補強板16に連結されているため、着座者の体圧が横長ヒンジ部25,26よりも上の部位に作用すると、横長ヒンジ部25,25は、縦断側面視での曲がりの程度を小さくする傾向を呈する。すると、左右エリア22、24は外側に広がる傾向を呈する。
【0040】
つまり、着座者の体圧が横長ヒンジ部25,26よりも上の部分に作用すると、背もたれ2は、偏平な状態に変形しようとする。このため、窮屈感を無くしてリラックス状態を得ることができる。また、背もたれ2は弾性変形するため、着座者が身体を後傾させようとする動きに対するクッション性も保持できる。この面でも、快適性を向上できる。
【0041】
着座者が身体を右又は左に傾けた状態で背もたれ2にもたれ掛かったり、着座者が身体を右又は左に偏らせた状態で座1に腰掛けていて、その状態で背もたれ2にもたれ掛かったりすると、センター横長ヒンジ部25に体圧が強く作用するが、本実施形態では、縦長ヒンジ部27,28は広幅で変形しやすいため、
図3に矢印32で示すように、片側の上下サイドエリア22,24が一緒に後ろ側に回動する。従って、着座者が身体を偏らせて後傾しても、身体に追従して変形する機能に優れているし、着座者の身体への当たりも柔らかい。従って、快適さを向上できる。
【0042】
着座者が上半身を右又は左に傾けた状態(或いは上半身を捩じった状態)で背もたれ2にもたれ掛かることも多くあるが、この場合、
図3及び
図7(B)に矢印33で示すように、片側の上サイドエリア22に強く作用する。すると、本実施形態では、
図7(B)に一点鎖線で示すように、上サイドエリア22が後ろに大きく後傾(回動)しうる。この点においても、身体の動きに追従して背もたれ2が変形する機能に優れている。
【0043】
以上のとおり、本実施形態の背もたれ2は、合成樹脂製の単一品でありながら、着座者の身体への高い追従性を確保して弾性変形できる。従って、シンプルな構造でありながら着座者の身体へのフィット性、クッション性に優れており、高い品質を確保できる。
【0044】
(4).背もたれと座アウターシェルとの連結構造
次に、主として
図8,9を参照して、背もたれ2と座アウターシェル8との連結構造を説明する。既述のとおり、座アウターシェル8の後部上面には、左右長手の補強板16がビス(図示せず)で固定されており、この補強板16に軸受け部17が形成されている。
【0045】
例えば
図9(B)に示すように、補強板16の軸受け部17は、切り起こしによって形成されており、起立部とその上端から後ろに向いた水平片とを有して側面逆L形の形態になっている。他方、
図8(B)及び
図9(A)に示すように、背もたれ2における前向き部15の左右両端部には、軸受け部17に下方から係合する左右長手の第1ボス部35が一体に形成されている。
【0046】
座アウターシェル8の後面は後ろ壁37で規定されており、背もたれ2の前向き部15後ろ壁37に載っている。後ろ壁37と軸受け部17との間に逃がし空所36を形成しており、この逃がし凹所に第1ボス部35が入り込んでいると共に、背もたれ2のロア部18aには、逃がし空所36に入り込んで後ろ壁37の前面に係合する第2ボス部(段部)段部38が形成されている。
【0047】
第1ボス部35及び第2ボス部38は可動係合部を構成して、座アウターシェル8の後ろ壁37と補強板16の軸受け部17とは、固定係合部を構成している。なお、第2ボス部38の下端と第1ボス部35の下端とを同一面状に揃えることも可能である。
【0048】
背もたれ2の下端は、後ろ第2ボス部38が後ろ壁37の前面に係合する(当たる)ことによって後ろ向き移動不能に保持され、更に、第1ボス部35が軸受け部17に下方及び後方から係合する(当たる)ことにより、上向き動不能及び前進動不能に保持されている。背もたれ2の第1ボス部35は、前向き部15の前端から下方に段落ちした状態に形成されており、側面視で前後長手の長円形状になっている。
【0049】
座アウターシェル8の後ろ壁37は、座1の後端よりも手前に位置している。従って、座インナーシェル6のうち座アウターシェル8の後ろに位置した後部は、オーバーハング部6aになっている。このオーバーハング部6aは、ヒンジ部6bにより、着座者の体圧によって後傾可能になっている。
【0050】
背もたれ2の取付けは、まず、背もたれ2を、
図8(B)に示すように、その前向き部15が下向き姿勢になるように手前側に大きく倒れた非使用姿勢にしてから、ボス部35,38を逃がし空所36に嵌め込み、次いで、背もたれ2を所定の姿勢に起こし、次いで、背もたれ2の上部を背支柱18の上端部に連結する、という手順で行われる。従って、背もたれ2の下部の連結は、ビス等のファスナを使用することなくワンタッチ的に行うことができる。従って、椅子の組み立ての手間を軽減できる。
【0051】
図9(A)に示すように、逃がし空所36の箇所に左右のリブ36aを形成しており、リブ36aの上面は、側面視で上向きに凹んだ湾曲面(ガイド面)36bになっている。そして、左右のリブ36aは、平面視で第1ボス部35と重なるように配置されている。背もたれ2の前向き部15には、逃がし空所36に入り込んで後ろ壁37の前面に係合する第2ボス部(段部)段部38が形成されている。
【0052】
そして、背もたれ2の取付けに当たっては、背もたれ2を前傾した非使用姿勢から使用姿勢に起こす(後傾させる)において、第1ボス部35がリブ36aの湾曲面36bに当たっていて、湾曲面36bを支点にして背もたれ2の回動を行えるため、背もたれ2を所定の姿勢に保持することを自動的に行える。従って、背もたれ2の組み付けを、迅速かつ正確に行うことがより確実になる。
【0053】
補強板16は、
図1(A)に示す肘掛け19の取付けにも使用されている。
図5(A)及び
図9(B)に示すように、座アウターシェル8の後部のうち補強板16の左右端部の下方部位に、平坦で三角形状の固定座39aを形成する一方、補強板16の左右両端部に、固定座39aに上から重なる重合部39bを形成しており、固定座39a及び重合部39bに、ビスの軸部が上方から挿通される貫通穴40a,40bを形成している。ビスは、肘掛け19のベース部に設けたナット部にねじ込まれている。
【0054】
補強板16の重合部39bは、図示しないビスによって座アウターシェル8の固定座39aに固定されている。
図8(A)や
図9(B)に示すように、補強板16のうち左右中間部寄りの部位にも、補強板16を固定するためのビス穴16aが空いている。
【0055】
(5).背もたれと背支柱との連結構造
次に、背もたれ2と背支柱18との連結構造を、
図10~12を参照して説明する。
図10~12の各図に示すように、背もたれ2の上センターエリア21のうち下部の左右中間部に、左右の側壁41とこれに連続した庇板42とを有するブラケット部43が形成されており、ブラケット部43の内部に継手部材44が左右長手のピン45で連結されていて、継手部材44が背支柱18の上端部に連結されている。
【0056】
ブラケット部43を構成する左右側壁41の上部に厚肉状の軸支部41aが形成されており、継手部材44の上部がピン45によって軸支部41aに連結されている。ブラケット部43における庇板42の下方には、ピン45を斜め上方から支持する支持片47が、左右方向に並んで多数形成されている。
【0057】
継手部材44は合成樹脂製であり、背支柱18の側に位置した背板(基板)48と、左右の側板49と、上面板50及び下面板51とを有しており、全体としては、背もたれ2のブラケット部43に向けて開口した箱状の形態を成しており、側板49の上部を上向きに延出させて軸受け部49aを形成し、これにピン45が挿通している。ピン45の左右両端部は、ブラケット部43の外側にはみ出た露出部になっている。また、上面板50の先端には、上向きリブ50aを形成している。
【0058】
背支柱18は、基板とその左右両端に設けた前向きの側板18bとによって樋状の形態を成しており、上端部に、側板18bの前向き突出寸法を大きくした抱持部(ポケット部)52が形成されて、この抱持部52に、背もたれ2のブラケット部43及び継手部材44が入り込んでいる。抱持部52の上面は天板で塞がれている。
【0059】
そして、抱持部52の内部には、ブラケット部43を左右両側から囲う左右の内壁53が形成されており、内壁53の上部に、ピン45の露出部45aが上から嵌まり込む軸受け溝54を形成している。内壁53の下端は、リブを介して側板18bと接続されており、内壁53と側板18bとの間に形成された空間に、背もたれ2のブラケット部43が入り込むようになっている。
【0060】
図11(A)に示すように、軸受け溝54は、鉛直線に対して少し前傾している。また、背支柱18の抱持部52に、左右中間部に位置した係合爪55と、その左右両側に位置した位置決め突起56を前向きに突設している。
【0061】
一方、継手部材44の背板48には、係合爪55が嵌入し係合する係合穴を有する角形の係合ボス部57と、位置決め突起56が嵌まり込む角筒状の位置決めボス部58とを形成している。係合爪55の先端には下向きの鉤部が形成されており、係合爪55が係合ボス部57の先端に引っ掛かり係合することにより、背もたれ2が、継手部材44を介して背支柱18に外れ不能に連結される。また、左右の位置決め突起56が位置決めボス部58は上下左右にガタツキのない状態に保持されている。
【0062】
背もたれ2の取付け手順としては、まず、予め継手部材44を背もたれ2のブラケット部43にピン45で連結しておく。そして、既に述べた手順で背もたれ2の下端部を座アウターシェル8の後端部に連結しつつ、背もたれ2を使用姿勢に起こすことにより、ピン45の露出部45aを背支柱18の軸受け溝54に上から嵌め込む。次いで、継手部材44を背支柱18の抱持部52に押し付けて、係合爪55に対する係合ボス部57の嵌め込みと、位置決め突起56に対する位置決めボス部58の嵌め込みとを行う。
【0063】
係合爪55に対する係合ボス部57の嵌め込みと、突起56に対する位置決めボス部58の嵌め込みとは、継手部材44を、ピン45を支点にして後ろ向きに回動させることによって行う。
【0064】
係合爪55に対する係合ボス部57の嵌め込みに伴い、係合爪55が、弾性に抗していったん逃げ回動してから戻り回動することにより、鉤部が係合ボス部57に引っ掛かった状態になって、継手部材44及び背もたれ2は、背支柱18に対して上下左右に離脱不能に保持される。これにより、ピン45の露出部45aが軸受け溝54に嵌まり込んだ状態に保持される。従って、背もたれ2の取付けをワンタッチ的に行うことができる。
【0065】
背もたれ2を取り外す場合は、係合爪55を指先又は工具で上向きに回動させることにより、係合ボス部57に対する係合爪55の係合を解除してから、継手部材44を手前に回動させることにより、位置決め突起56と位置決めボス部58との嵌合を解除し、次いで、背もたれ2の上部を上向きに引いて、ピン45を軸受け溝54から抜き外す、という手順を踏むことになる。
【0066】
例えば
図11(C)及び
図12に示すように、背支柱18の上端部内に、ピン45に対して上斜め後方から当たる受けリブ59の群を左右に多数並設している。正確には、受けリブ59の前面は前倒れ姿勢になっている。従って、着座者の体圧によって背もたれ2に後ろ向きの外力が掛かると、ピン45は、受けリブ59によって下向きに押される傾向を呈して、軸受け溝54に深く押し込まれる外力を受ける。従って、着座者の体圧によって背もたれ2が背支柱18から外れるような不具合は皆無である。
【0067】
さて、
図11(A)から理解できるように、受けリブ59の前面は軸受け溝54の開口方向と殆ど平行になっており、従って、受けリブ59の前面と直交した垂線は、軸受け溝54の開口方向と直交している。
【0068】
そして、着座者の体圧がピン45よりも下方に作用すると、背もたれ2はその上部が手前に向けて回動する傾向を呈することになり、すると、ピン45は
図12において時計回りに回転する傾向を呈しつつ、軸受け溝54から抜けようとするが、前傾姿勢の受けリブ59を設けると、ピン45が時計回り方向に回転することが摩擦によって抑制されると共に、背もたれ2に対する押圧力に上向きの分力があっても、上向きの分力は受けリブ59によって押さえられて、上向き動することが防止される。従って、ピン45の抜けを確実に防止できる。
【0069】
着座者の体圧がピン45よりも上方に作用すると、背もたれ2の上部はピン45を支点にして後傾する傾向を呈するが、この場合は、着座者の体圧による後ろ向きの押圧力は下向きの分力を含んでいるため、ピン45は、軸受け溝54及びガイド受けリブ59のガイド作用により、軸受け溝54に深く押し込まれるような外力を受ける。従って、ピン45が軸受け溝54から抜け出ることは皆無である。
【0070】
受けリブ59はこのように優れた機能を有しているが、ピン45が受けリブ59に当たることが長期に亙って繰り返されると、受けリブ59が磨滅して樹脂粉が発生することがあり、この樹脂粉が床に落下したり、背もたれ2の前向き部15に落下したりして人目に触れると、美観を損なうおそれがある。
【0071】
この点について本実施形態では、
図12に明示するように、継手部材44の上面板50を受けリブ59及びピン45の直下部に位置させて、上面板50の先端に上向きリブ50aを形成することにより、上面板50を樹脂粉の受け部材として機能させている。従って、樹脂粉の落下による美観の悪化を、構造を複雑化することなく防止できる。
【0072】
背もたれ2の下端は、若干のクリアランスを持って座アウターシェル8に連結されており、また、背支柱18との連結部では、ピン45を支点にして少し前後傾動し得る。従って、背もたれ2は僅かながら前後方向に回動可能である。
【0073】
本実施形態では、背もたれ2に設けた庇板42は抱持部52の内部に入り込んでいるため、庇板42が抱持部52の天板に当たることによっても、背もたれ2の上向き移動が阻止されている。従って、背もたれ2の安定性が高い。また、庇板42の上面は側面視で緩く湾曲しているため、背もたれ2がピン45を中心にして回動することが許容されている。従って、背もたれ2が着座者の動きに追従して回動することを、スムース化できる。
【0074】
(6).その他
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えは、継手部材を背支柱にピンで連結して、継手部材を係合手段で背もたれに連結することも可能である。係合手段としては、実施形態のような係合爪の箱型係合ボス部との組み合わせには限らず、係合爪と係合爪との組み合わせなども採用できる。係合穴を有する係合片と、係合穴に嵌合する係合突起との組み合わせも採用可能である。係合手段を複数形成することも可能である。
【0075】
継手部材と抱持部との位置決め手段としては、位置決め突起と位置決め穴との組み合わせや、継手部材の外周をリブで囲うといったことも採用可能である。実施形態では継手部材はピンで吊支されているが、継手部材を背もたれの背面又は背支柱の前面に重ねた状態に配置することも可能である。この場合は、背もたれを背支柱に押し当てることにより、係合部同士を係合させることができる。
【0076】
実施形態では背もたれを背板のみで構成したが、少なくとも前面に背クッションを張った構造にしたり、前後面をクロス等の袋状表皮材で覆ったりすることも可能である。フレームにメッシュ材を張った構造の背もたれにも適用できる。また、本願発明は、背もたれ及び背支柱がばね手段に抗して後傾するロッキング椅子にも適用できる。
【0077】
また、実施形態のように背もたれを複数のエリアがヒンジ部で繋がった構成とする場合、特許文献1と同様に、背板を、上段のエリアと中段のエリアと下段のエリアとの3段式に構成して、格段をセンターエリアと左右のサイドエリアとに分けることも可能ある。この場合は、上段においてセンターエリアとサイドエリアとを繋ぐ左右の縦長ヒンジ部は、上に向けて互いの間隔が狭まる姿勢とするのが好ましい。背支柱は、座アウターシェルとは別部材に構成してもよい。
【0078】
背もたれ(背板)の下端は、座の後端や背支柱の下端部(前後方向に延びる部分)に連結することも可能である。或いは、座アウターシェルでない他の座受け部材(例えば、ベースや、ベースと座アウターシェルとの間に配置された中間金具など)に連結することも可能である。
【0079】
本願発明は、背もたれがばね手段に抗して後傾動するロッキング椅子にも適用できる。脚装置はガスシリンダ方式である必要はないのであり、4本足方式等の非回転椅子にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 座
2 背もたれ
18 背支柱
18a 側板
41 ブラケット部
42 庇片
45 ピン
44 継手部材
50 上面板(粉受け部)
52 抱持部
43 抱持部に設けた内壁
54 軸受け溝
55 係合部の一例としての係合爪
56 位置決め突起
57 係合ボス部
58 位置決めボス部
59 受けリブ