(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】水抜きパイプ及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20220810BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
E02D17/20 106
E02D3/10 101
(21)【出願番号】P 2018172741
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山地 宏志
(72)【発明者】
【氏名】中森 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】水落 直人
(72)【発明者】
【氏名】山下 高俊
(72)【発明者】
【氏名】川端 篤
(72)【発明者】
【氏名】渕山 美怜
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-001675(JP,A)
【文献】実開昭50-057209(JP,U)
【文献】特開平04-194226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に埋設される水抜きパイプであって、
軸線方向から見て所定の径を有する円周形状をなし、前記軸線回りに螺旋状に巻回され、かつ該軸線方向に互いに隣り合う部分が互いに離間した鋼製の螺旋部材、及び、前記軸線に平行にかつ互いに間隔をおいて前記螺旋部材の外周側に固定された鋼製の複数の長尺材を有する筒部と、
前記筒部内に充填された空隙を有する導水材と
、
外周面に設けられたねじ溝に前記螺旋部材の端部が螺合した中空管からなる連結部とを有することを特徴とする水抜きパイプ。
【請求項2】
請求項
1に記載の水抜きパイプの施工方法であって、
前記筒部よりも外径の大きな円環状をなして前面に周方向に沿って配置されたビットを有するヘッドプロテクターの後面に設けられた溝に、前記筒部の内側に配置された円筒状のサポートパイプの前端側に設けられた凸部を挿入して、前記ヘッドプロテクターの前記サポートパイプに対する周方向の回転が規制されるように前記ヘッドプロテクターを前記サポートパイプに取り付けるステップと、
前記ヘッドプロテクター及び前記サポートパイプを周方向に回転させながら前記地盤中を前進させるステップと、
前記筒部を前進させるステップと、
前記サポートパイプの前端側に侵入した前記地盤を削孔するステップと、
前記ヘッドプロテクターを前記地盤内に残置させて、前記サポートパイプを後退させるステップとを有することを特徴とする水抜きパイプの施工方法。
【請求項3】
前記サポートパイプは、外周面が閉塞しており、
前記地盤を削孔するステップは、水削孔によりなされることを特徴とする請求項
2に記載の水抜きパイプの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地盤内に埋設される水抜きパイプ及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面等の側面を有する地盤には、地盤内に浸透した水を側面から排水して地盤を安定させるために水抜きパイプが埋設される。水抜きパイプの周壁には孔が設けられており、地盤内に浸透した水はこの孔から水抜きパイプに浸入して外部に排出される。地盤に浸透した水は、地盤内に均等に分布しているのではなく、特定の通り道に沿って流れている。水抜きパイプの孔がこの水の通り道にぶつかる確率が高くなるように、水抜きパイプの孔を大きくし、孔の数を多くすることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、網状の高密度ポリエチレン製の排水管を不織布フィルタ及びジオテキスタイルネットで覆った水抜きパイプが記載されている。この水抜きパイプは、スリットを有する薄肉鋼管内に配置される。また、特許文献2には、円周上に間隔をおいて互いに平行に配置された鉄筋に、断面三角形の線材をわずかな間隙をもって螺旋状に巻きつけて形成した水抜きパイプが記載されている。線材を円周上に配置された複数の鉄筋に巻きつけるため、鉄筋の延在方向から見て、線材は円周形状ではなく多角形状をなす。線材の断面三角形のフラットな外面が先端側に傾いた状態で、線材の頂点が鉄筋に溶接される。このように螺旋状に巻かれて断面の傾斜した線材が鉄筋の外側に配置されているため、水抜きパイプの地中への打ち込みが容易であり、打ち込み時に土砂が線材間の間隙に入り難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-21383号公報
【文献】特開平4-194226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の水抜きパイプは、薄肉鋼管内に配置されるものであり、薄肉鋼管のスリットに水の通り道がぶつかる確率が低く、排水が不十分になるおそれがあった。また、鋼管内に配置するのではなく、単独で地盤内に埋設すると強度が不足するおそれがあった。特許文献2に記載の水抜きパイプは、孔(間隙)に水の通り道がぶつかる確率が高いが、使用中に土砂がパイプ内に流入するおそれがあった。また、断面三角形の線材の向きを定めて線材を複数の鉄筋に溶接する必要があるため、その製造が煩雑であった。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、排水性及び強度が高く、比較的容易に製造でき、土砂の流入が防止された水抜きパイプ、並びにその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、地盤内に埋設される水抜きパイプ(1)であって、軸線回りに螺旋状に巻回され、かつ該軸線方向に互いに隣り合う部分が互いに離間した鋼製の螺旋部材(5)、及び、前記軸線に平行にかつ互いに間隔をおいて前記螺旋部材の外周側に固定された鋼製の複数の長尺材(4)を有する筒部(2)と、前記筒部内に充填された導水材(3)とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、筒部の表面がグリッド状になり、孔が大きくかつ多くなるため、排水性が向上する。また、筒部が鋼製であるため、強度が高く、螺旋部材の断面角度等に限定がないため、比較的容易に筒部を製造できる。更に、筒部には導水材が充填されているため、土砂が水抜きパイプ内に流入することを防止できる。
【0009】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記螺旋部材は、前記軸線方向から見て所定の径を有する円周形状をなし、外周面に設けられたねじ溝(7)に前記螺旋部材の端部が螺合した中空管からなる連結部(6)を更に有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、筒部を容易に連結できる。また、連結部が筒部の内側に配置されるため、水抜きパイプを挿入するための孔の削孔径を連結部の外径ではなく筒部の外径に基づいて設定でき、地盤と水抜きパイプとの間に過大な隙間が生じることを防止できる。
【0011】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成を有する水抜きパイプの施工方法であって、前記筒部よりも外径の大きな円環状をなして前面に周方向に沿って配置されたビット(8)を有するヘッドプロテクター(9)の後面に設けられた溝(12)に、前記筒部の内側に配置された円筒状のサポートパイプ(10)の前端側に設けられた凸部(11)を挿入して、前記ヘッドプロテクターの前記サポートパイプに対する周方向の回転が規制されるように前記ヘッドプロテクターを前記サポートパイプに取り付けるステップと、前記ヘッドプロテクター及び前記サポートパイプを周方向に回転させながら前記地盤中を前進させるステップと、前記筒部を前進させるステップと、前記サポートパイプの前端側に侵入した前記地盤を削孔するステップと、前記ヘッドプロテクターを前記地盤内に残置させて、前記サポートパイプを後退させるステップとを有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、自立性の低い地盤に対して、水抜きパイプを設置できる。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記サポートパイプは、外周面が閉塞しており、前記地盤を削孔するステップは、水削孔によりなされることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、水削孔を行っても、サポートパイプの外側には水が放出されないため、水抜きパイプの設置箇所の周囲の地盤を弛めずに削孔できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排水性及び強度が高く、比較的容易に製造でき、土砂の流入が防止された水抜きパイプ、並びにその施工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る水抜きパイプ及びその構成部材を示す正面図(A:長尺材、B:螺旋部材、C:水抜きパイプ)
【
図2】実施形態に係る水抜きパイプの筒部の連結を示す正面図(導水材の図示は省略)
【
図3】実施形態に係る水抜きパイプの施工のためのヘッドプロテクターを示す図(A:前方から見た図、B:後方から見た図、C:A図におけるC-C断面図)
【
図4】実施形態に係る水抜きパイプの施工のためのサポートパイプを示す図(A:前方から見た図、B:正面図)
【
図5】実施形態に係る水抜きパイプの施工手順を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る水抜きパイプ1を説明する。水抜きパイプ1は、法面等の斜面を有する地盤内に埋設され、地盤に浸透した水を排出するものである。
図1(C)に示すように、水抜きパイプ1は、筒部2と、筒部2内に充填された導水材3とを有する。筒部2は、
図1(A)に示す互いに平行に配置された複数の長尺材4と、
図1(B)に示す螺旋部材5とを有する。
【0018】
長尺材4は、真っ直ぐに延在する鋼材であり、耐腐食加工がなされている。互いに平行に配置された複数の長尺材4は、その延在方向から見て円周上に、互いに間隔をおいて配置される。例えば、長尺材4として、直径3mm程度の丸鋼を用いる、12本の長尺材4を互いに等間隔に円周上に配置してもよい。
【0019】
螺旋部材5は、長尺の鋼材を長尺材4の延在方向に平行な軸線回りに螺旋状に巻回して形成された部材であり、耐腐食加工がなされている。螺旋部材5において軸線方向に互いに隣り合う部分は、互いに離間している。また、螺旋部材5は、軸線方向から見て所定の径を有する円周形状をなす。例えば、螺旋部材5は、縦2mm、横3mmの角形の長尺の鋼材を、外径44mm、内径38mmとなるように、10.2mmピッチで螺旋状に巻回して形成してもよい。
【0020】
図1(C)に示すように、螺旋部材5の外周側に長尺材4を溶接等により固定することによって、グリッド状構造の筒部2が形成される。グリッド状構造であることから、筒部2に形成された孔は大きく、その数も多い。そのため、筒部2の孔が水の通り道にぶつかる確率が高く、かつ孔が詰まり難く、排水性が高まる。また、長尺材4及び螺旋部材5が鋼材からなるため、強度が高い。また、螺旋部材5の断面が長尺材4に対してなす角度は限定されないため、筒部2の製造が比較的容易である。
【0021】
導水材3は、水を通過させるが土砂等を通過させない空隙を有する部材であり、例えば、ガラスウールをその素材とすることができる。筒部2内に導水材3が充填されるため、使用中に土砂が筒部2内に流入して水抜きパイプ1が詰まることが抑制される。
【0022】
図2は、連結部6を有する水抜きパイプ1を示す。なお、
図2においては、導水材3の図示を省略している。連結部6は、外周面に螺旋部材5が螺合するねじ溝7が形成された中空管からなる。連結部6の両端部のねじ溝7に対して、それぞれ、筒部2の端部における螺旋部材5が螺合することにより、2つの筒部2が互いに連結される。このように、螺旋部材5がねじとして機能するため、筒部2同士の連結が容易である。
【0023】
また、筒部2において、螺旋部材5が長尺材4よりも内側に存在し、連結部6の外周面にねじ溝7が形成されているため、連結部6は、筒部2の内側に配置される。そのため、水抜きパイプ1を地盤内に挿入するための削孔径は、筒部2の外径に基づき設定される。仮に、連結部6が筒部2の外側に配置されると、水抜きパイプ1を地盤内に挿入するための削孔径は、連結部6の外径に基づき設定されるが、この場合、削孔径が大きくなって筒部2と地盤との間に隙間が生じて地盤が弛む。本実施形態では、連結部6が筒部2の内側に配置されるため、このような問題は生じない。また、連結部6を鋼製とした場合、連結部6は、孔を有さないため、筒部2よりも剛性が大きく、水抜きパイプ1を地盤に設けられた孔に挿入する時の、挿入抵抗に対する補強部材として機能する。
【0024】
水抜きパイプ1を地盤内に挿入するために、地盤は削孔される。削孔しても地盤が自立する場合は、必要な長さの孔を設けた後、水抜きパイプ1をその孔に挿入する。地盤の自立性が低い場合の削孔手段の例を説明する。
図3及び
図4は削孔のための器具を示し、
図5は削孔の手順を示す。
【0025】
図3は、前面にビット8を有する円環状のヘッドプロテクター9を示し、
図4は、前端側にヘッドプロテクターが8取り付けられる円筒状のサポートパイプ10を示す。サポートパイプ10の周壁は孔を有さずに閉塞しており、前方及び後方は開口している。サポートパイプ10の周壁の前端側には凹凸が設けられており、その凸部11は、ヘッドプロテクター9の後面に設けられた溝12に突入している。凸部11が溝12を画成する面に係止されるため、サポートパイプ10を周方向に回転させるとヘッドプロテクター9も回転する。また、サポートパイプ10を前進させると、ヘッドプロテクター9も前進するが、サポートパイプ10を後退させると、凸部11が溝12から抜けてヘッドプロテクター9はサポートパイプ10から分離する。サポートパイプ10の外径は、筒部2の内径よりも小さく、ヘッドプロテクター9の外径は、筒部2の外径よりも大きい。従って、筒部2の内側にサポートパイプ10を配置してサポートパイプの前端側にヘッドプロテクター9を取り付けると、前後方向において、筒部2はヘッドプロテクター9に整合するように配置される。
【0026】
図5(A)は、削孔サイクルの最初の状態を示す。ヘッドプロテクター9が取り付けられたサポートパイプ10の前端側が、地盤内に突入しており、サポートパイプ10は、筒部2の内側に配置されている。
【0027】
サポートパイプ10を周方向に回転させてビット8で地盤を円環状に削りながら、ヘッドプロテクター9及びサポートパイプ10を300~500mm程度前進させる(
図5(B))。この時、筒部2は、移動せず、サポートパイプ10の前端側に地盤の土砂が侵入する。続いて筒部2を、その前端がヘッドプロテクター9の後面に当接するまで前進させる(
図5(C))。続いて、サポートパイプ10の前端側に侵入した土砂を削岩機13により水削孔する(
図5(D))。この時、サポートパイプ10の周壁に孔がないため、削岩機13から放出された水はサポートパイプ10の外側に放出されず、水抜きパイプ1の設置箇所の周辺の地盤を弛めない。スライム状になった土砂を排出し、削岩機13を後退させる(
図5(E))。以上のサイクルを繰り返して、地盤を削孔する。
【0028】
目的の深さまで削孔したら、サポートパイプ10を周方向の逆向きにわずかに回転させて後退させる。すると、ヘッドプロテクター9がサポートパイプ10から分離し、ヘッドプロテクター9と筒部2とが孔内に残る。ヘッドプロテクター9は孔内に残置され、筒部2に導水材3(
図1参照)を充填して、水抜きパイプ1が地盤内に設置される。
【0029】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。長尺材として、棒材に代えてパイプ材を用いてもよい。長尺材及び螺旋部材の断面形状は変更してもよい。長尺材の本数を変更してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1:水抜きパイプ
2:筒部
3:導水材
4:長尺材
5:螺旋部材
6:連結部
7:ねじ溝
8:ビット
9:ヘッドプロテクター
10:サポートパイプ
11:凸部
12:溝
13:削岩機