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特許7121658改善されたシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜
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  • 特許-改善されたシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】改善されたシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/44 20060101AFI20220810BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220810BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A61L27/44
A61L27/18
A61L27/36 200
A61L27/36 300
A61L27/50
A61L27/58
A61L27/54
A61L27/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018554507
(86)(22)【出願日】2017-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 AU2017050335
(87)【国際公開番号】W WO2017177281
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-07
(31)【優先権主張番号】2016901399
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】514008527
【氏名又は名称】イアー サイエンス インスティテュート オーストラリア
(73)【特許権者】
【識別番号】518360715
【氏名又は名称】ディーキン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アトラス,マーカス
(72)【発明者】
【氏名】アラダイス,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ディリー,ロドニー
(72)【発明者】
【氏名】ラジュコワ,ランガム
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520608(JP,A)
【文献】特開2010-259767(JP,A)
【文献】特開2014-050412(JP,A)
【文献】Acta Biomaterialia (2013), 9, p.8962-8971
【文献】Polymer Engineering and Science (2012), 52, p.2025-2032
【文献】Biomaterials (2003), 24, p.789-799
【文献】Journal of Biomedical Materials Research (1988), 22, p.423-439
【文献】Journal of Biomedical Materials Research (1990), 24, p.277-293
【文献】J. Biomater. Appl. (2010), 24, p.591-606
【文献】Polym. Adv. Technol. (2012), 23, p.639-644
【文献】New J. Chem. (2013), 37, p.3109-3115
【文献】Tissue Engineering (2003), 9 (6), p.1113-1121
【文献】Materials Letters (2009), 63, p.263-265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓膜として又は鼓膜の再生のための足場として用いられるための、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスであって、膜マトリックスが、:
(a)膜の合計重量の約0.1%から約95%の範囲の量でシルクフィブロインを含み(w/w)、
(b)少なくとも1%(w/w)の生体適合性ポリウレタンを含み、
(c)純粋なシルク膜と比較して低い共鳴ピークを有し、3,000Hz未満の周波数において純粋なシルク膜と比較して高い振動振幅を有し、
(d)5MPaから100MPaの間の引張強度を有する;シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックス。
【請求項2】
複数の膜マトリックスをさらに含む、請求項1に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックス。
【請求項3】
少なくとも一の第一の膜マトリックスが、シルクフィブロインを含み、少なくとも一の第二の膜マトリックスが、生体適合性ポリウレタンを含む、請求項2に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックス。
【請求項4】
(a)繭又は繊維からのセリシンの除去後、シルクタンパク質又はシルクタンパク質複合体溶液を調製すること;
(b)溶媒を用いて、生体適合性ポリウレタン及びシルクフィブロインを溶解すること;及び
(c)調製された溶液を乾燥させて、シルクタンパク質生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを作製すること
の工程を含む、請求項1に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを作製する方法。
【請求項5】
少なくとも一の活性剤を含む、請求項1のいずれか一項に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックス。
【請求項6】
活性剤が、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体又はそれらの断片若しくは部分、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、成長因子又は組換え成長因子及びそれらの断片及びバリアント、サイトカイン、酵素、抗生物質又は抗菌性化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬剤、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックス。
【請求項7】
膜が、ケラチノサイト、線維芽細胞、粘膜上皮、内皮細胞、軟骨細胞、誘導多能性幹細胞、成体幹細胞及び胚性幹細胞、及びそれらの組み合わせの増殖を支持する、請求項5に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックス。
【請求項8】
鼓膜として又は鼓膜の再生のための足場として用いられるためのデバイスであって、請求項1から3又は5から7のいずれか一項に記載のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを含むデバイス。
【請求項9】
複数のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスをさらに含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
少なくとも一の第一の膜マトリックスが、シルクフィブロインを含み、少なくとも一の第二の膜マトリックスが、生体適合性ポリウレタンを含む、請求項9に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、鼓膜に対する穿孔及び損傷を含む中耳の修繕における使用のための膜の調製に関する。より詳細には本発明は、改善された生分解特性、機械的及び振動音響的特性を有するシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜を、溶媒を用いて調製するための組成物及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
以下の議論は、本発明の理解を促進することのみを意図する。議論は、言及された材料のいずれかが、本出願の優先日における共通の一般的な知識であるか、又はその部分であったという認定又は承認ではない。
【0003】
鼓膜(eardrum)又は鼓膜(tympanic membrane)の慢性穿孔は、鼓膜形成術又は鼓室形成術タイプ1として知られる技術である、穿孔を覆う移植片材料を用いる外科的介入を必要とする比較的一般的な状態である。
【0004】
筋膜、脂肪、軟骨膜及び軟骨などの自家移植片は、この手術において使用される最も一般的な組織である。しかしながら、このアプローチは、鼓膜と移植片の機械的特性のミスマッチ、移植片の非透過性、ドナー部位の病的状態及び手術時間の増加を含む、さまざまな制限を有する。
【0005】
近年の材料科学における発展に伴い、脱細胞化した組織(例、AlloDerm(登録商標))、ポリマー(例、ヒアルロン酸、キトサン及びアルギン酸カルシウム)及び合成の材料[例、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)]などのさまざまな代替足場材料が、移植材料として調査されてきた。しかしながら、最適な足場の選択は、解決されないままである。
【0006】
シルクフィブロインは、組織エンジニアリングにおいて、バイオ足場としてのその可能性のため、広く研究されてきた。それは、抗原性タンパク質セリシンの除去後のカイコ繭に由来する。シルクフィブロイン溶液は、フィルム、ファイバー、マット、ヒドロゲル及びスポンジなどの、広い生物医学的適用にさまざまな形態に加工することができる。
【0007】
シルクフィブロインは、生分解性であり、生体適合性で、かつ、コラーゲン及びポリ乳酸(PLA)などのほとんどの他の自然の及び合成のバイオ材料と比較して優れた機械的強度及び強靱性を有する。重要なことに、シルクフィブロインは、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、グリア細胞、線維芽細胞、骨芽細胞及びケラチノサイトなどの、多くの異なる細胞タイプの付着及び増殖を支持することができる。
【0008】
シルクの主要な有益な点の1つは、加工状態の単純な変化を介して、特定の組織エンジニアリング適用に適合するよう重要な特性を変えることができる能力である。加工方法の操作(例、水対有機溶媒、水対アルコールアニールすること)及び加工変数(例、乾燥率、シルク濃度)は、シルクの物理的な及び構造的特性を変えることができ、足場材料としてのその性能に影響を与えることができる。
【0009】
しかしながら、多くの場合、機械的特性に影響を及ぼすブレンド成分を添加することは、依然として課題である。特に、他のポリマーの添加を避け、延長された時間枠の間、安定性を維持する膜を生み出すことが、依然として目標のままである。
【0010】
シルクフィブロインフィルムの物理的な及び機械的特性を変更して、機械的及び振動音響的特性を改善し、生物医学的用途及び他の用途のためのより柔軟性のシルクフィブロインベースの系を提供する、ニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、適当な溶媒を用いることにより、そして生体適合性ポリウレタンなどのマトリックス剤を含むことにより、シルクフィブロイン膜の機械的及び振動音響的特徴、酵素分解率及び強度、並びに柔軟性を変えることが可能であることを同定し、その点において一般的な適用の主になるものを同定した。
【0012】
凍結乾燥されたシルクは、長期間、保管することができる。これにより、必要に応じフィルムをキャストすることができるが、水性シルクフィブロイン溶液は、すぐにキャストされなければならず、ゲル化して使用不能になる前に数日から数週以内に使用されなければならない。さらに、生体適合性ポリウレタンシルクのようなマトリックス剤で生成されたデバイスは、用いられる溶媒にもよるが、水に溶解性ではなく、フィルムを縮ませること及び曲げることを引き起こすかもしれない工程である、エタノール又はメタノールを用いてアニールすることを必要としない。
【0013】
第一の態様において、本発明は、シルクフィブロイン/生体適合性ポリウレタン膜マトリックスであって、当該膜マトリックスが:
(a)膜の合計体積の約0.1%から約95%の範囲の量でシルクフィブロインを含み(w/w)、
(b)少なくとも1%(w/w)の生体適合性ポリウレタンを含み、
(c)in vivoで20Hzから20KHzの間の音波を中耳に伝達し、
(d)5MPaから100MPaの間の引張強度を有し、
(e)生体適合性ポリウレタン及びシルクフィブロインの両方に適合性の溶媒に可溶化された生体適合性ポリウレタン及びシルクタンパク質から作製される、
ものを提供する。
【0014】
本発明のシルクフィブロイン膜マトリックスは、組織エンジニアリングのための構築物を提供する。それは、ケラチノサイト、線維芽細胞、粘膜上皮、内皮細胞、軟骨細胞等がその上を増殖し得るマトリックスを提供する。膜マトリックスは、誘導多能性幹細胞、成体幹細胞及び胚性幹細胞並びにそれらの組み合わせを用いる細胞療法に使用され、患者において、これらの細胞をその上で増殖させることができる足場を提供し得る。
【0015】
本発明のシルクフィブロイン膜マトリックスは、生体適合性ポリウレタンを欠くシルクフィブロインフィルムと比較して明白な特性を有する。弾性及び耐久性は、生体適合性ポリウレタンの使用、又は含有及び使用に伴い、強化される。材料加工におけるシルクフィブロインと組み合わせた生体適合性ポリウレタンの使用は、シルクフィブロインを用いて達成できる機能的な特性を拡張し、バイオ材料及びデバイスにおいて潜在的な有用性を有する、より柔軟性のあるフィルムの形成を拡張する。
【0016】
第二の態様において、本発明は、シルクフィブロイン/生体適合性ポリウレタン膜マトリックスであって、当該膜マトリックスが:
(a)膜の合計体積の約0.1%から約95%の範囲の量でシルクフィブロインを含み(w/w)、
(b)少なくとも1%(w/w)の生体適合性ポリウレタンを含み、
(c)in vivoで20Hzから20KHzの間の音波を中耳に伝達し、
(d)5MPaから100MPaの間の引張強度を有し、
(e)シルクフィブロインが生体適合性ポリウレタン膜へのコーティングを提供する、複合膜として作製される、
ものを提供する。
【0017】
第三の態様において、本発明は、
(a)セリシンの繭又は繊維からの除去後、シルクタンパク質又はシルクタンパク質複合体溶液を調製する工程;
(b)適切な溶媒を用いて、生体適合性ポリウレタン及びシルクフィブロインを溶解する工程;及び
(c)調製された溶液を乾燥させて、シルクタンパク質及びポリウレタン膜マトリックス膜を作製する工程、
を含む、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを作製する方法を提供する。
【0018】
第四の態様において、本発明は、本明細書中に記載される膜マトリックスを含む、鼓膜穿孔、特に慢性穿孔の修繕のためのデバイスを提供する。これに関して、膜マトリックスは、好ましくは、およそ10MPaから95MPaの間の引張強度を有し、より好ましくは、およそ10からおよそ50MPaの間の引張強度を有する。
【0019】
一実施形態において、本明細書で提供されるのは、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスであり、当該膜マトリックスは、分解に抵抗性であり、及び/又は、退縮、無気肺及びコレステリン腫に抵抗する長期の構造的支持を提供する。
【0020】
この態様の一実施形態において、当該デバイスは、複数のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを含む。この実施形態において、当該デバイスは、シルクフィブロインを含む少なくとも一の第一の膜マトリックスと、生体適合性ポリウレタンを含む少なくとも一の第二の膜マトリックスと、を含んでいてもよい。
【0021】
第五の態様において、本発明は、本明細書中に記載される膜マトリックスを含む、外耳道、弛緩部及び/又は鼓室蓋骨の修繕における使用のためのデバイスを提供する。
【0022】
第六の態様において、本発明は、対象の鼓膜に、より好ましくは、穿孔された、対象の鼓膜、及び/又は弛緩部及び/又は対象の弛緩部の近位にある鼓室蓋骨などの鼓膜に移植され又は適用される場合に、少なくとも鼓膜の細胞の増殖、移動及び/又は接着を支持する、本明細書に記載の膜マトリックスの使用にある本発明は、ヒドロキシアパタイト遊離移植片を覆うことを含む、乳様突起切除術後の対象の外耳道の再構築のための乳様突起閉塞技術における、本明細書に記載される膜マトリックスの使用を提供する。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、鼓膜、より好ましくは慢性鼓膜穿孔、及び/又は欠陥のある弛緩部及び/又は弛緩部の近位にある鼓室蓋骨などの、鼓膜穿孔を、かかる治療を必要とする対象において、修繕するための方法を提供し、前述の方法は、修繕される損傷した組織又は組織に対する、本明細書に記載される膜マトリックスを含む。
【0024】
本発明により製造されたシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスは、少なくとも一の活性剤を含んでいてもよい。活性剤は、好ましくは、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体又はそれらの断片若しくは部分、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、成長因子又は組換え成長因子並びにそれらの断片及びバリアント、サイトカイン、酵素、抗生物質又は抗菌性化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬剤、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0025】
本発明は、生体適合性ポリウレタンを欠くシルクフィブロイン膜と比較して明白な特性を有する、シルクフィブロイン及び生体適合性ポリウレタンを含む膜マトリックスを提供する。より具体的には、生体適合性ポリウレタンの使用、又は含有及び使用により、溶解性、生体適合性、強度、分解特徴及び柔軟性を変えることである。
【0026】
材料加工におけるシルクフィブロインと組み合わせた生体適合性ポリウレタンの使用は、シルクフィブロインを用いて達成できる機能的な特性を拡張し、バイオ材料及びデバイス適用において潜在的な有用性を有する、より強い、又はより柔軟性のあるフィルムの形成を拡張する。
【0027】
本発明は、対象の外耳道、鼓膜穿孔及び/又は弛緩部の修繕における使用のためのキットをも提供し、前述のキットは、本明細書に記載される膜マトリックスを含む。キットは、本明細書に記載される、生物学的活性分子のいずれかの一以上の溶液を含んでもよい。一以上の生物学的活性分子の溶液は、対象への膜マトリックスのインプランテーションより前の膜への適用のためであってもよく、膜マトリックスの対象への一回又はその後に複数回起こり得る移植又はインプランテーション後の膜マトリックスへの適用のためであってもよい。
【0028】
従って、本発明の膜マトリックスは、損傷した組織の修繕及び再生における使用のためのカスタマイズされた移植片インプラントを提供する。一形態において、損傷した組織は穿孔された鼓膜である、及び/又はかかる治療を必要とする対象における、弛緩部及び鼓室蓋骨を含む外耳道の再構築及び再生である。
【0029】
膜マトリックスをカスタマイズすることは、修繕に使用される組織の天然の形態に実質的に類似するように再生を促進することを支援することができ、それによって対象のために改善された治癒アウトカムのためのより良い機会を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
添付の図と併せた以下の例示的な実施形態の説明から、本発明の、これらの及び/又は他の、態様及び有益な点は明らかになるであろうし、より迅速に理解されるであろう。
【0031】
図において、以下の略称を適用する:
TPU 熱可塑性ポリウレタン
PBS リン酸緩衝生理食塩水
【0032】
図1】純粋なシルク膜(a)、純粋なポリウレタン膜(b)、及びシルク:ポリウレタン膜の1:4ミックス(c)の透過性を示す図である。
図2】40%(w/w)グリセロールを含有する純粋なシルクフィルム及びシルクフィルムと比較した、1:4シルク:ポリウレタンフィルムの周波数応答を示す図である。
図3】28日間にわたり1mg/mLプロテアーゼ溶液に暴露されたシルク/ポリウレタンの1:4ミックスのin vitro分解によりもたらされる重量減少を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明者らは、適当な溶媒を用いることにより、そして生体適合性ポリウレタンなどのマトリックス剤を含むことにより、シルクフィブロイン膜の機械的特性、酵素分解率及び柔軟性を変えることが可能であることを発見した。その結果、本発明は、生体適合性ポリウレタンと組み合わせて調製される複合体シルクフィブロイン膜に向けられる。そのマトリックスは、(i)相対的に長い期間保管することができ、(ii)水中で相対的に不溶性であり、(iii)生体適合性を有し、他の多くの自然の及びシルクフィブロイン合成バイオ材料と比較して、より低い弾性を有する。
【0034】
本発明により製造されるシルクフィブロイン膜マトリックスは、広い生物医学的適用に対応する、フィルム、繊維、マット、ヒドロゲル及びスポンジとして、組織エンジニアリングにおける足場などの、複数の利用方法がある。
【0035】
シルクフィブロイン膜マトリックスを鼓膜の修繕において使用する場合、本発明者らは、生体適合性ポリウレタンを用いることにより、シルクフィブロイン膜の機械的及び振動音響的特徴のうちの一以上を少なくとも改善することが可能であることを発見した。
【0036】
便宜上、以下のセクションでは、一般に、本明細書で使用される用語のさまざまな意味を概説する。この議論の後、シルクフィブロイン膜マトリックスに関する一般的な態様について議論され、続いて、膜の様々な実施形態の特性及びそれらをどのように採用するかを実証する特定の実施例について議論する。
【0037】
定義
当業者は、本明細書に記載される本発明が、具体的に記載されたもの以外の変形及び変更が可能であることを理解するであろう。本発明は、かかる全ての変形及び変更を含む。本発明はまた、本明細書中に個別に又は集合的に言及され又は示される工程、特性、製剤及び化合物の全て、並びにあらゆる組み合わせ又は任意の2つ以上の工程又は特性を含む。
【0038】
本明細書に引用された各文献、参考文献、特許出願又は特許は、参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれており、読者が本明細書の一部として読んで考慮する必要があることを意味する。本明細書で引用された文献、参考文献、特許出願又は特許が本明細書において繰り返されないことは、単に簡潔さの理由によるものである。しかしながら、引用された材料又はその材料に含まれる情報は、共通の一般的な知識であると理解されるべきではない。
【0039】
本明細書中で言及された、又は参照により本明細書に組み込まれた任意の文献において、任意の製品の製造者の指示書、説明、製品仕様、及び製品シートは、参照により本明細書中に組み込まれ、本発明の実施において採用することができる。
【0040】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態のいずれかによって範囲が限定されるものではない。これらの実施形態は、例示のみの目的を意図している。機能的に同等の製品、製剤及び方法は、本明細書に記載の本発明の範囲内であることは明らかである。
【0041】
本明細書に記載される本発明は、一以上の値(例、サイズ、濃度など)の範囲を含み得る。値の範囲は、範囲の境界を定めるその値に直接隣接する値と同じ又は実質的に同じ結果につながる、範囲を定義する値及び範囲の近傍にある値を含めた、当該範囲内の全ての値を含むと理解されるであろう。
【0042】
本明細書を通じて、文脈上そうでないことを要求しない限り、単語「含む(comprise)」又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」のような変形は、記載された整数又は整数の群の包含することを意味すると理解されるであろうが、他の整数又は整数の群を包含しないことを意味するとは理解されないであろう。
【0043】
本明細書で使用される選択された用語の他の定義は、本発明の詳細な説明の中に見出され得るし、全体を通して適用され得る。他に定義されない限り、本明細書で使用される他の全ての科学及び技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0044】
本明細書中に、引用された材料又は含まれる情報への言及は、当該材料又は情報が共通の一般的な知識の一部であるか、又はオーストラリア若しくは他の国で知られていたという譲歩として理解されるべきではない。
【0045】
本発明のデバイス及びそれがどのように使用され得るかを記載する目的のために、用語「穿孔された」、「穿孔」、又は「穿孔する」のそれらの任意の他の変形は、本発明のデバイスを用いて修繕することができる、対象の鼓膜に対する任意の損傷を含むと理解されるであろう。包括的でない例において、かかる損傷は、物理的な力又は疾患の結果としての、鼓膜における穴若しくは裂け目、又は膜又は膜の層の任意の部分の変形若しくは損失を含んでもよい。鼓膜又は鼓膜(eardrum)は、外耳道の内側境界における緊張部及び弛緩部を含む。弛緩部は、退縮及びコレステリン腫の対象であり、近傍にある鼓膜の鼓室上鼓室、鼓室蓋骨及び外耳道の軟組織は、しばしば、この状態の外科治療の後に再構築を必要とする。
【0046】
本発明のデバイス及びそれがどのように使用され得るかを記載する目的のために、用語「欠陥のある」又はそれらの用語のその他のかかる変形は、本発明のデバイスを用いて修繕又は再構築することができる、対象の周囲の領域の骨又は弛緩部の軟組織に対する損傷又は疾患を含むと理解されるであろう。これは、とりわけ、コレステリン腫による損傷又は疾患、又は乳様突起切除術後の対象の外耳道の必要な修繕による損傷又は疾患を含み得る。
【0047】
本発明のデバイスを記載する目的で、用語「生体適合性ポリウレタン」は、体内に移植された場合に、周辺組織への任意の顕著な有害変化を引き起こさない、カルバミン酸(ウレタン)結合により接続された有機単位で構成されたポリマーを意味するものと理解されよう。生体適合性ポリウレタンは、医薬療法のレシピエント又は受益者において任意の望ましくない局所又は全身作用をもたらさずに、所望の医薬療法を実施する能力を有する。生体適合性ポリウレタンは、生体系への任意の有毒性又は傷害性作用を有さない。
【0048】
本発明の特性は、これから以下の非限定的な記載及び例示を参考にして議論されるであろう。
【0049】
実施形態
本発明により製造されるシルクフィブロイン膜マトリックスは、生分解性、生体適合性であり、コラーゲン及びポリ乳酸(PLA)などのほとんどの他の自然の及び合成のバイオ材料と比較して、それらの機械的強度、伸長及び剛性の一以上が改善されている。
【0050】
A.シルクフィブロイン膜マトリックス
本発明は、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを提供する。本発明の膜マトリックスは、生体適合性ポリウレタンを欠くシルクフィルムよりも高い延性を呈する。
【0051】
本発明の膜は、鼓膜穿孔、特に慢性的穿孔の修繕のために作製される。加えて、又は或いは、本発明の膜は、対象の外耳道、特に弛緩部及び/又は鼓室蓋骨の修繕のために作製されてもよい。好ましくは、当該膜は、とりわけ鼓膜の修繕に適したデバイスを送達するよう作製される。
【0052】
第一の態様において、本発明は、シルクフィブロイン/生体適合性ポリウレタン膜マトリックスであって、当該膜マトリックスが:
(a)膜の合計体積の約0.1%から約95%の範囲の量でシルクフィブロインを含み(w/w)、
(b)少なくとも1%(w/w)の生体適合性ポリウレタンを含み、
(c)in vivoで20Hzから20KHzの間の音波を中耳に伝達し、
(d)5MPaから100MPaの間の引張強度を有し、
(e)シルクフィブロインを分解することなく生体適合性ポリウレタンを溶解することが可能な溶媒に可溶化された生体適合性ポリウレタン及びシルクタンパク質から作製される、
ものを提供する。
【0053】
第二の態様において、本発明は、シルクフィブロイン/生体適合性ポリウレタン膜マトリックスであって、当該膜マトリックスが:
(a)膜の合計体積の約0.1%から約95%の範囲の量でシルクフィブロインを含み(w/w)、
(b)少なくとも1%(w/w)の生体適合性ポリウレタンを含み、
(c)in vivoで20Hzから20KHzの間の音波を中耳に伝達し、
(d)5MPaから100MPaの間の引張強度を有し、
(e)シルクフィブロインが生体適合性ポリウレタン膜へのコーティングを提供する、複合膜マトリックスとして作製される、
ものを提供する。
【0054】
シルクフィブロインは、膜の合計体積の約0.1%から約95%(wt%)の範囲の量で、膜中に存在する。好ましくは、シルクフィブロインは、膜の合計重量の約5.0%から約75.0%から選択される量で存在する。所望なら、シルクフィブロイン量は、膜の合計重量の5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%である。
【0055】
本発明で用いられる生体適合性ポリウレタンは、好ましくは、体内に移植された場合に、周辺組織への任意の顕著な有害変化を引き起こさない、有機単位の一以上のポリマーで構成されている。例えば生体適合性ポリウレタンは、カルバミン酸(ウレタン)結合により接続された有機単位の一以上のポリマーで構成することができる。
【0056】
本発明で用いられる生体適合性ポリウレタンは、レシピエントにおいて望ましくない局所又は全身効果を誘発せずに、医学療法に用いることができる。好ましくは、それらは、生体系への任意の有毒性又は傷害性作用を有さないであろう。特に好ましい実施形態において、生体適合性ポリウレタンは、a,x-ジヒドロキシプロピルポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を含有する生体適合性ポリウレタンを含むポリ(アルキレンオキシド)オリゴマー及びコオリゴマー複合体/調製物又は複合体/共有結合調製物である(そのような組成物の例は、WO/1992/000338、WO/1992/009647、WO/1999/001496、WO/1999/003863、WO/1999/050327、WO/1998/013405、WO/2001/007499、WO/1998/054242、WO/2000/064971、及びWO/2005/052019に見出してもよい)。同定された明細書それぞれの内容は、具体的に参照により本明細書に組み込まれる。本発明で用いられてもよいPDMS生体適合性ポリウレタンの他の例としては、心臓血管適用(血管移植片、血液ポンプ、人工心臓、心臓ペースメーカー、ステントなど)、カテーテル、整形外科インプラントに用いられるAorTech Biomaterials Pty製のElast-Eon(商標)(PDMS/PHMOマクロジオールに基づく);心臓弁、人工心臓血液輸送隔膜に用いられるApplied Biomedical Corp.製のAngioflex(登録商標)[PDMS/ポリ(テトラメチレンオキシド)マクロジオールに基づく];人工心臓、大動脈内バルーン、及び血液導管に用いられる、Arrow International製のCardiothane(登録商標)-51[PDMS/ポリ(テトラメチレンオキシド)マクロジオールに基づく];それぞれ長期及び短期生物医学的適用に用いられるPolymer Technology Group製の1,11-14 PurSilTM10,15及びPurSil-ALTM(芳香族及び脂肪族シロキサンポリエーテルTPU)が挙げられる。PDMSポリウレタンコポリマーの例は、Stefanovic I.S., et al, (2015) JOURNAL OF BIOMEDICAL MATERIALS RESEARCH A, 103A(4), 1459-1475に見出されてもよく、それらの内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。本発明の方法で用いられてもよいポリウレタンのさらに別の形態は、Pellethene 2368-80A(Dow Chemical Co)又は/及びBiomerから選択される。
【0057】
シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜の生体適合性ポリウレタン含有量は、少なくとも約1%(w/v)であろう。好ましくは、生体適合性ポリウレタン含有量は、膜の合計容積の1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、及び99%(w/v)又はそれ以上からなる群より選択される。
【0058】
一実施形態において、当該膜マトリックス中の生体適合性ポリウレタンに対するシルクの含有量比は、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.5、1:8、1:8.5、1:9、1:9.5、1:10、1:10.5、1:11、1:11.5、1:12、1:12.5、1:13、1:13.5、1:14、1:14.5、1:15、1:15.5、1:16、1:16.5、1:17、1:17.5、1:18、1:18.5、1:19、1:19.5、1:20、1:21、1:22、1:23、1:24、1:25、1:26、1:27、1:28、1:29、1:30、1:31、1:32、1:33、1:34、1:35、1:36、1:37、1:38、1:39、1:40、1:41、1:42、1:43、1:44、1:45、1:46、1:47、1:48、1:49、1:50、1:51、1:52、1:53、1:54、1:55、1:56、1:57、1:58、1:59、1:60、1:61、1:62、1:63、1:64、1:65、1:66、1:67、1:68、1:69、1:70、1:71、1:72、1:73、1:74、1:75、1:76、1:77、1:78、1:79、1:80、1:81、1:82、1:83、1:84、1:85、1:86、1:87、1:88、1:89、1:90、1:91、1:92、1:93、1:94、1:95、1:96、1:97、1:98、1:99及び1:100からなる群より選択される。
【0059】
一実施形態において、当該膜マトリックス中のシルクに対する生体適合性ポリウレタンの含有量比は、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.5、1:8、1:8.5、1:9、1:9.5、1:10、1:10.5、1:11、1:11.5、1:12、1:12.5、1:13、1:13.5、1:14、1:14.5、1:15、1:15.5、1:16、1:16.5、1:17、1:17.5、1:18、1:18.5、1:19、1:19.5、1:20、1:21、1:22、1:23、1:24、1:25、1:26、1:27、1:28、1:29、1:30、1:31、1:32、1:33、1:34、1:35、1:36、1:37、1:38、1:39、1:40、1:41、1:42、1:43、1:44、1:45、1:46、1:47、1:48、1:49、1:50、1:51、1:52、1:53、1:54、1:55、1:56、1:57、1:58、1:59、1:60、1:61、1:62、1:63、1:64、1:65、1:66、1:67、1:68、1:69、1:70、1:71、1:72、1:73、1:74、1:75、1:76、1:77、1:78、1:79、1:80、1:81、1:82、1:83、1:84、1:85、1:86、1:87、1:88、1:89、1:90、1:91、1:92、1:93、1:94、1:95、1:96、1:97、1:98、1:99及び1:100からなる群より選択される。
【0060】
膜マトリックスの引張強度は、シルクフィブロイン及びグリセロールの含有量を変えることにより変えることができる。理想的には、引張強度は、膜がバイオエンジニアリングされる目的のために選択される。例えば、膜が組織エンジニアリングのためのバイオ足場として形成される場合、引張強度は、150MPaと同じくらい大きいものであり得、或いは必要とされる場合それより大きくでさえあり得る。望ましくは、膜マトリックスの引張強度は、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100MPa又はこれらの数値の間の任意の値の引張強度である、5MPa及び100MPaの範囲であり、それは、材料が利用される目的に応じて許容可能である。例えば、骨の足場修繕として又は傷修繕において膜マトリックスが使用される場合、デバイスの引張強度は、50MPaから150MPaの間であり得る。或いは、膜マトリックスが、鼓膜の修繕のためのデバイスとして使用される場合、材料の引張強度は、5から50MPaの範囲となるだろう。例えば、かかる膜マトリックスは、9、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20、25、30、35、40、45、50MPa又はこれらの数値の間の任意の値の引張強度を有し得る。
【0061】
一実施形態において、単一の膜マトリックスが、存在してもよい。別の実施形態において、多層の膜マトリックスが、存在してもよい。
【0062】
この態様の一実施形態において、多層の膜マトリックスは、同じタイプの膜マトリックスを含んでいてもよい。別の実施形態において、多層の膜マトリックスは、異なるタイプの膜マトリックスを含んでいてもよい。
【0063】
例えば、多層のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタンが、同時に用いられてもよい。
【0064】
或いは、少なくとも一の膜マトリックス層が、シルクフィブロイン膜マトリックスを含んでいてもよく、少なくとも一の第二の膜マトリックス層が、生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを含んでいてもよい。或いは、又は加えて、少なくとも一の第三の膜マトリックス層が、シルクフィブロイン及び生体適合性ポリウレタンの両方の膜マトリックスを含みながら存在してもよい。
【0065】
シルクフィブロインから本発明の膜を調製することにより、本発明者らは、ほとんどの他の自然の及び合成のシルクフィブロインバイオ材料と比較して強くかつ弾力性があり、裂け目又は破損を伴わずにひずみに耐え得る、改善された膜マトリックスを開発した。材料の強度及び弾力性は、材料が破損すること又は粉々になることを伴わずに伸長する能力として定義することができる。
【0066】
裂けること又は破損することを伴わずひずみに耐えるための膜マトリックスの弾力性は、生体適合性ポリウレタンの含有量を変えることにより変えることができる。理想的には、膜は、最大300%まで伸長された場合に、弾性を維持することができる。即ちそれは、最大300%まで変形して、それでも本来の長さに戻ることができる。シルクは単独では、乾燥している場合にはもろいが、湿潤している場合であっても、多くの場合、より高い%伸長で可塑的に変形する。本発明の特定の形態において、膜は、5から300%の間の伸長のパーセンテージを有するであろう。低い伸長は、もろい材料と関係する。もろい材料は、しばしば、より高い引張強度及び高い係数を有するが低い伸長を有する。
【0067】
組織エンジニアリングのためのバイオ足場として膜が形成される場合、伸長のパーセンテージは、必要とされる場合5%MPa程度に低いものであり得るし、膜が適用される使用によって、300%と同じくらい高いか又はそれより大きいものであり得る。望ましくは、膜マトリックスの伸長のパーセンテージは、許容可能である、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290又は300%又はこれらの数値の間の任意の値の伸長のパーセンテージである、50から250パーセンテージの範囲である。
【0068】
膜マトリックスが、例えば骨又は傷修繕において、修復用の足場として使用される場合、膜の伸長のパーセンテージは、5から200%の間であり得る。或いは、膜マトリックスが、鼓膜の修繕のためのデバイスとして使用される場合、材料の伸長のパーセンテージは、80から170%の範囲であるだろう。
【0069】
材料加工におけるシルクフィブロインと組み合わせた生体適合性ポリウレタンの使用は、シルクフィブロインを用いて達成できる機能的特性、及びバイオ材料及びデバイス適用において可能性のある有用性を有する、より柔軟性のある膜の形成を拡張する。
【0070】
本発明のデバイスの膜は、5から2000MPaほどのヤング係数を有する。例えば、ヤング係数は、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018、1019、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1100、1110、1120、1130、1140、1150、1160、1170、1180、1190、1200、1210、1220、1230、1240、1250、1260、1270、1280、1290、1300、1310、1320、1330、1340、1350、1360、1370、1380、1390、1400、1410、1420、1430、1440、1450、1460、1470、1480、1490、1500、1510、1520、1530、1540、1550、1560、1570、1580、1590、1600、1610、1620、1630、1640、1650、1660、1670、1680、1690、1700、1710、1720、1730、1740、1750、1760、1770、1780、1790、1800、1810、1820、1830、1840、1850、1860、1870、1880、1890、1900、1910、1920、1930、1940、1950、1960、1970、1980、1990又はその間の任意の値であり得る。理想的には、ヤング係数は、膜が使用される用途とマッチするであろう。例えば、膜マトリックスが骨の修繕又は傷修繕において足場として使用される場合、ヤング係数は、400MPaから2000MPaの間であってよい。或いは、膜マトリックスが鼓膜の修繕のためのデバイスとして使用される場合、材料のヤング係数は、100から500MPaの範囲であるだろう。例えば、かかる膜マトリックスは、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490若しくは500MPa又はこれらの数値の間の任意の値のヤング係数を有し得る。
【0071】
このヤング係数値は、穿孔のサイズ及び音響特性と、実質的にマッチするよう選択される。およそ200、210、220、230、240、250、260、270、280、290又は300MPaのヤング係数が好ましい。これに関して、中耳小骨への音伝送は、デバイスを含む移植片の「剛性」に依存し、聴力アウトカムの即時の改善のための大きな穿孔における重要な問題である。
【0072】
本発明の膜が、バイオ足場などの生物学的セッティングにおいて、又は、傷修繕品において、骨の代用物として、若しくは鼓膜の修繕においてを含むがこれらに限定されない、損傷した組織の修繕において使用される場合、膜は、効率的な増殖及び膜にわたる細胞の増殖のために細胞接着を促進するよう適合される。本発明のシルクフィブロイン膜マトリックスは、従って、組織エンジニアリングのための構築物を提供する。それらは、その上で、ケラチノサイト、線維芽細胞、グリア細胞、骨芽細胞、破骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、軟骨細胞等が増殖し得るマトリックスを提供する。膜マトリックスは、また、誘導多能性幹細胞、成体幹細胞及び胚性幹細胞並びにそれらの組み合わせを用いる細胞療法においても使用され、患者においてこれらの上を細胞が増殖することができる足場を提供することができる。
【0073】
好ましくは、ドナーから得られるか、確立した細胞培養株から得られるか、又は分子又は遺伝学的手段による細胞変更の前若しくは後の、ケラチノサイト、軟骨細胞、線維芽細胞、筋肉細胞及び骨細胞などの筋肉及び骨格系の細胞、及び幹細胞(例えば、胚性幹細胞、成体幹細胞、及び誘導多能性幹細胞を含む)、並びにそれらの組み合わせを含む、任意の細胞タイプが、培養及び可能性のあるインプランテーションのために膜に添加され得る。組織片は、異なる細胞タイプと構築物を移植するために使用され得る。
【0074】
本発明の膜は、滑らかである必要はなく、それらは、それらの表面上に、およそ0.001ミクロンからおよそ200ミクロンの間の範囲のサイズである孔又は表面変形を有し得る。膜が孔を含む場合、孔は、膜を横切ってもよく、又はそれらは、一端で閉じられていてもよい。孔が膜を横切る場合、それらは、膜を通る細胞の増殖を支持してもよく又は支持しなくてもよい。膜が鼓膜としての使用を見出す場合、それらは、膜を通る細胞の横方向の増殖を支持しない。しかしながら、これらの膜がバイオ足場として使用される場合、それらは、膜を通る細胞の横方向の増殖を支持し得る。
【0075】
一実施形態において、膜は、それらの表面上に、およそ0.001ミクロンからおよそ200ミクロンの間の直径を有する一以上の孔又は表面変形を含み、それは細胞の浸入及び組織形成を促進する。好ましい形態において、孔又は表面変形は、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200ミクロン又はこれらの数値の間の任意の値の直径を有する。
【0076】
孔が膜に存在する場合、それらは、かかる治療を必要とする対象へのインプランテーションの際に、新しい組織形成及びホスト組織統合を促進するリモデリングのための、空隙容量を提供するであろう。これに関して、デバイスは、機械的安定性を維持するが効率的な栄養物及び代謝産物輸送を可能にする構造を提供する。
【0077】
膜マトリックスの厚さは、およそ1ミクロンからおよそ2mmの間で変わるであろう。例えば、膜は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、410、415、420、425、430、435、440、445、450、455、460、465、470、475、480、485、490、495、500、510、515、520、525、530、535、540、545、550、555、560、565、570、575、580、585、590、595、600、650、700、750、800、850、900、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、2000ミクロンの厚さを有し得る。
【0078】
膜が、鼓膜代替品として使用される場合、それらは、およそ10からおよそ600ミクロンの間の厚さを有するであろう。最も好ましくは、膜は、およそ30からおよそ100ミクロンの間の厚さを有する。例えば、膜は、30から50ミクロン、50から65ミクロン、65から80ミクロン又は80から100ミクロンの範囲である。
【0079】
膜が足場として使用されている場合、膜は、最大2mmなどはるかに厚くてもよい。これに関して、かかる使用における膜の相対的な厚さは、生分解能力の速度並びに膜が意図された使用のために供給しなければならない引張強度、強靱性、及び弾性の程度に基づいて、決定されるであろう。
【0080】
本発明の膜マトリックスは、生分解性、又はより好ましくは非生分解性であってもよい。これに関して、膜が、生分解性である場合、膜は、完全な分解に最大2年以上かかる生分解能力を有し得る。好ましくは、膜は、18、19、20、21、22、23、24カ月にわたり生分解性である。対象において使用される際に分解されるべきであるバイオ足場として使用される場合、膜は、理想的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11年といった、1から12年の間の生物学的寿命を有してもよい。好ましくは、膜は、生分解性でなく、又は少なくともシルクが、ポリウレタンを生分解する場合には、ポリウレタンは、生分解性しないであろう。
【0081】
本発明のシルクフィブロイン膜マトリックスは、ポリウレタンを欠くシルクフィブロインフィルムと比較して、明白な特性を有する。例えば、ポリウレタンの使用、又は含有及び使用に伴い、柔軟性が強化される。
【0082】
本発明の膜マトリックスは、かかる治療を必要とする対象に対して非自己性である、一以上の追加の材料又はその層も含み得る。例えば、シルク膜は、追加の可塑剤、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルロニック127、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、及び1,2,6-ヘキサントリオール(hexanetrioland)及び1,3-プロパンジオールから選択される添加剤を含む少なくとも一の添加剤又は層を含み得る。添加剤のさらなる例は、Jose, R.R. et al., 2015. Polyol-Silk Bioink Formulations as Two-Part Room-Temperature Curable Materials for 3D Printing. ACS Biomaterials Science & Engineering, 1, pp.780-788に説明され、それは相互参照により本明細書中に組み込まれる。
【0083】
膜において使用され得る材料は、ヒアルロン酸ベースのヒドロゲル(Carbylan)及びフィルム(Seprafilm);アルギン酸カルシウム;ポリ(グリセロールセバケート);水溶解性の及び不溶性のキトサン;及びコラーゲンを含む群から選択される材料のいずれかを含む。
【0084】
膜マトリックスは、追加の可塑剤を含み得る。例えば、膜マトリックスは、デバイスが使用より前の乾燥状態において操作可能であるように、とりわけ、ゼラチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルロニック127、脂肪族ポリエステル、ポリ(アルキレン)オキシド、ポリ(L-乳酸)、70/30L-ラクチド/e-カプロラクトンコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(DL-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(D-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(L-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(ラクチド-co-グリコール酸)、ポリ(ビニルピロリジン)、ポリ(ジメチルポリシロキサン)、ポリ(リシン)、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、プロテオグリカン、ポリペプチド、ポリ(エチレン-co-ビニル)アルコール、1,2,6-ヘキサンジオール、1,3-プロパンジオール、ポリ(ビニル)アルコール、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ(プロピレン)グリコール、ポリーL-ラクチド-co-グリコリド-co-ε-カプロラクトン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリグラクチン910、又はそれらの組み合わせを含む群から選択される一以上の添加剤をさらに含み得る。
【0085】
本発明により製造されるシルクフィブロイン膜マトリックスは、膜又はそれらの上の孔(存在する場合)に浸透する、細胞の増殖を支援する又は促進する少なくとも一の活性剤を含み得る。活性剤は、好ましくはビタミン、ミネラル、タンパク質(かかるサイトカイン、酵素並びに成長因子又は組換え成長因子及びそれらの断片及びバリアントを含む細胞増殖調節剤)、タンパク質阻害剤、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体又はそれらの断片又は部分、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、炭水化物、補因子、抗生物質又は抗菌性化合物、抗炎症剤、抗増殖剤、抗ヒスタミン、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、薬剤、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0086】
好ましくは、生物学的活性分子は、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子-アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子-ベータ(TGF-β)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HB-EGF)、アンフィレグリン、エピジェン、エピレグリン、ベータセルリンを含む上皮成長因子;酸性線維芽細胞成長因子(FGF-1/aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2/bFGF)を含む線維芽細胞成長因子;ケラチノサイト成長因子1(KGF-1/FGF-7)、ケラチノサイト成長因子2(KGF-2/FGF-10)を含むケラチノサイト成長因子;インスリン様成長因子1(IGF-1)、インスリン様成長因子2(IGF-2)を含むインスリン様成長因子;血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)、肝細胞成長因子(HGF)、IL-6、IL-19、IL-24を含むサイトカインを含む血小板由来成長因子;ヒアルロン酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンを含む細胞外マトリックスタンパク質;及びtrans-レチノイン酸(ビタミンA)、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、(+)-α-トコフェロール(ビタミンE)を含むビタミンを含む群から選択されるいずれか一以上の生物学的活性分子を含む。より好ましくは、生物学的活性分子は、ヒアルロン酸;ビトロネクチン;アンフィレグリン;インターロイキン19(IL-19);インターロイキン24(IL-24);トランスフォーミング成長因子-アルファ(TGF-α);VEGF;及びフィブロネクチンを含む群から選択されるいずれか一以上の生物学的活性分子を含む。
【0087】
本発明の膜マトリックスは、デバイスの形態で、複数の膜の複合物として調製することができる。かかる環境において、デバイスは、2以上の膜層を有することができる。各層は、同じ又は異なる特徴を伴って調製してもよい。代替する本発明の形態において、一以上の膜が別の表面に積層される複合デバイスが調製され得る。その表面は、デバイスが利用される方法における使用に適した任意の材料で調製され得る。膜が組織エンジニアリングのために使用される場合、膜がその上に積層される表面は、好ましくは生体適合性であるタイプのものである。表面は、膜より固い又はより大きい引張強度を有する別の材料から調製してもよい。
【0088】
膜がデバイスとして調製される場合、デバイスにおいて、一以上の膜層があってもよい。デバイスにおける各層の厚さは、およそ10ミクロンからおよそ2mmの間で変わるであろう。好ましくは、膜が鼓膜代替品として使用される場合、膜は、およそ5からおよそ100μmの間の厚さを有するであろう。最も好ましくは、一以上の膜層は、およそ10からおよそ80μmの間の組み合わせられた厚さを有する。
【0089】
本発明のデバイスが本発明の方法により製造されるものとは異なる材料から調製される層を含む場合、それらの材料は、治療される対象に対し非自己性であるソースなどの任意のソースであり得る。かかる材料は、非哺乳動物ソースのものであり得る。或いは、それらは、とりわけ、鼓膜、心膜、骨膜、真皮、筋膜を含む、非自己性哺乳動物膜からの脱細胞化した組織を含む群から選択され得る。かかる追加の材料は、特に、デバイスが再構築手術において配置される場合に、適切かもしれない。
【0090】
シルクフィブロイン膜マトリックスの作製
第三の態様において、本発明は、
a.セリシンの繭又は繊維からの除去後、シルクタンパク質又はシルクタンパク質複合体溶液を調製する工程;
b.溶媒を用いて、生体適合性ポリウレタン及びシルクフィブロインを溶解する工程;及び
c.調製された溶液を乾燥させて、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン複合体を作製する工程、
を含む、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを作製する方法を提供する。
【0091】
結果として生じる生成物は、その後、備え付けられた膜の中にキャストされて、フィルム又は膜を形成する。これらのフィルムは、機械的特性及び構造的特性について評価すると、強化された特性を示し、それは、おそらくフィルムにおける、安定化水素結合架橋としてのβシートの形成において、シルクフィブロイン結晶化挙動に影響を与えることにより成立した。
【0092】
この作製方法の工程(b)によれば、生体適合性ポリウレタン及びシルクフィブロインは、ヘキサフルオロイソプロパノール、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒を用いて溶解される。好ましくは、生体適合性ポリウレタン及びシルクフィブロインは、ヘキサフルオロイソプロパノール、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解されたLiBrなどの塩を用いて溶解される。
【0093】
或いは、当該フィブロインは、リン酸、ギ酸、硫酸、塩酸などの酸の濃縮された水性溶液に、又は塩の濃縮された水性、有機性及び水性-有機性溶液に溶解することができる。シルクはまた、有機溶媒(ジメチルアセトアミド(DMAc)及びジメチルホルムアミド(DMF))中のハロゲン化リチウムに可溶性である。例えばフィブロインの10.0%溶液は、DMAA又はDMF中のLiBrの2~3M溶液中、及び水中のLiBrの9.5~10M溶液中、50Cで得ることができる。フィブロインは、酸(リン酸、ギ酸、硫酸、塩酸)の濃縮された水性溶液、並びにLiCNS、LiBr、CaCl、Ca(CNS)、ZnCl、NHCNS、CuSO+NHOH、Ca(NOなどの塩の濃縮された水性、有機性及び水性-有機性溶液にも溶解する。さらに、ZnClの水性溶液は、最も効果的な溶媒であるが、DMAA、DMF、及びN-メチル-2-ピロリドン中のZnClの溶液において、フィブロインは、155Cのみで溶解して、相対的に薄い溶液を形成する(1.0 2.0wt%)。LiCl、LiBr、NaSCN及びKSCNの水性及び水性-有機性溶液もまた、最大20wt%のフィブロインを溶解し、混合物の溶解力が、溶媒中の水の相対的含有量の減少と共に上昇する。全ての文書が参照により本明細書に組み込まれる、Sashina et al., 2006 RUSSIAN JOURNAL OF APPLIED CHEMISTRY Vol. 79 No. 6 869 to 876を参照されたい。
【0094】
繭又は生のシルクからセリシンを除去する過程は、デガミングと呼ばれる。かかるデガミング過程は、当業者によく知られている。例えば、デガミング過程の例としては、(1)せっけん、炭酸ナトリウム等をアルカリ水性溶液中で煮沸する方法、(2)Aspergillus sp等から抽出したプロテアーゼを用いたデガミング方法、及び(3)高い温度及び高い圧力のポットを使用した高温高圧方法、が挙げられる。
【0095】
本発明の第二の態様の例示的な一形態において、作製方法は、:
a)シルク繊維をデガミングする工程;
b)工程(a)のデガミングされた繊維を乾燥させ、生成物をカオトロピック塩に溶解する工程;
c)工程(b)のシルク溶液をdHOに対して透析し、シルク溶液を得る工程;
d)工程(c)のシルク溶液を凍結乾燥させる工程;
e)ヘキサフルオロイソプロパノール、N,N-ジメチルアセトアミド又はジメチルホルムアミドなどの溶媒にポリウレタンを添加して、工程(d)の組成物を溶解する工程;及び
f)工程(e)の溶液を膜マトリックスにする工程
を含む。
【0096】
シルクタンパク質又はシルクタンパク質複合体溶液を、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、塩化亜鉛(ZnCl)及び塩化カルシウム(CaCl)、チオシアン酸リチウム(LiSCN)から選択されるものを含む、少なくとも一の化合物又はエタノール水性溶液より構成されるカオトロピック塩を用いて溶解してもよい。好ましくは、臭化リチウムが使用される。
【0097】
本発明の別の例示的な形態において、作製方法は、:
a)シルク繊維をデガミングする工程;
b)工程(a)のデガミングされた繊維を乾燥させ、生成物をカオトロピック塩溶液に溶解する工程;
c)工程(b)のシルク溶液をdHOに対して透析し、シルク溶液を得る工程;
d)工程(c)のシルク溶液を凍結乾燥させて、シルク泡状物質を形成させる工程;及び
e)生体適合性ポリウレタンを、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解し、その後、それを備え付けられた膜の中にキャストして、蒸発させる工程、又は
f)生体適合性ポリウレタンを加熱することにより溶融して、(f1)それを備え付けられた膜の中にキャストして冷却する工程、若しくは(f2)備え付けられた膜の中に射出成型して、膜を放冷する工程;及び
g)場合により、プラズマの適用、バイオ分子若しくは界面活性剤の吸着、親水性化合物の共有結合による移植、重合、UV処理、化学的エッチング、オゾン処理、交互吸着法、電着法又は電気化学的エッチングの少なくとも一により、工程(e)又は工程(f)の膜の表面を処理する工程;
h)工程(c)の水性シルク生成物を用いて、工程(e)又は工程(f)の膜をコーティングする工程;又は
i)工程(d)のシルク泡状物質をHFIP又はギ酸などの適切な溶媒に溶解し、工程(e)又は(f)の膜をコーティングする工程
を含む。
【0098】
耳鼻科用修繕のためのデバイス
第四の態様において、本発明は、本明細書中に記載される膜マトリックスを含む、具体的には慢性穿孔といった穿孔などの耳鼻科用状態の修繕のためのデバイスを提供する。
【0099】
好ましくは、本明細書中に記載されるシルクフィブロイン膜は鼓膜穿孔の修繕のために作製される。かかる修繕に適している膜マトリックスは、好ましくは、5MPaから100MPaの間の、より好ましくはおよそ10MPaから95MPaの間の引張強度、望ましくはおよそ10からおよそ50MPの間の引張強度を有するであろう。
【0100】
かかる膜が鼓膜の穿孔の修繕のために使用される場合、膜は、音波を伝導しなければならない。これに関して、本発明の膜は、鼓膜再構築に使用される天然の鼓膜又は軟骨と実質的に一致するか又はそれより大きい振動音響的特徴を有するべきである。振動音響的特徴は、上記に議論されるように、デバイスの引張強度、弾性及び厚さに関連する。さらに、中耳小骨への音伝送は、またデバイスの「剛性」に依存する。剛性は、聴力アウトカムの即時改善のために、大きな穿孔において重要な問題である。一以上の膜の特定の引張強度は、膜を用いて治療される対象において、設置のすぐ後に、改善された聴力アウトカムをもたらす最適な音響伝送を促進する。
【0101】
好ましくは、本明細書中に記載される膜は、20Hzから20KHzの間の音波をin vivoで中耳に伝導する強度、弾性、厚さ及び「剛性」を有するであろう。
【0102】
いかなる改変された本明細書中に記載される本発明の膜構築物も、再構築手術に適合される膜の周りに周縁スカートを有してもよい。これは、鼓室輪に加えて又は鼓室輪の一部であるかもしれない。これに関して、デバイスは、その周縁で実質的に厚くされ、乳様突起炎、慢性化膿性中耳炎又はコレステリン腫のための治療の一部として行われる乳様突起切除術手術(根治的乳様突起切除術、Canal Wall Down乳様突起切除術、Canal Wall Up乳様突起切除術、Cortical乳様突起切除術、改変根治的乳様突起切除術を含む)に膜が使用されるのを可能にし得る。
【0103】
シルク膜の文脈において本明細書中に使用される用語「周縁」は、膜の平面を取り囲んでいる境界線を言う。膜の周縁は、必ずしも円形でなく、同じ膜の厚さである必要はない。例えば、膜の周縁は、最大で5mm厚、最小で10ミクロンであるかもしれず、その間の厚さを含むであろう。
【0104】
本明細書中に記載される膜は、周縁スカートを組み込む場合があるが、膜は、20Hzから20KHzの間の音波をin vivoで中耳に伝達するであろう。
【0105】
好ましい実施形態において、膜は、5MPaから100MPaの間の引張強度を有する。
【0106】
本発明の膜は、鼓膜再構築に使用される天然の鼓膜又は軟骨と実質的に一致するか又はそれより大きい振動音響的特徴を有する。
【0107】
かかる治療を必要とする対象の鼓膜の修繕に使用される場合、膜は、20Hzから20KHzの間の音波を中耳小骨に伝達することができる。
【0108】
振動音響的特徴は、デバイスの引張強度、弾性及び厚さに関係する。それらは、好ましくは、音の伝導に最適化される。
【0109】
中耳小骨への音伝送は、デバイスの「剛性」に依存する。剛性は、聴力アウトカムの即時改善のために、大きな穿孔において重要な問題である。一以上の膜の比剛性は、破裂への抵抗性を提供し、デバイスで治療される対象のために、設置のすぐ後に改善された聴力アウトカムをもたらす最適な音響伝送を促進する。
【0110】
本発明のデバイスの膜は、5MPaから100MPaの間の引張強度も有する。この値は、穿孔のサイズ及び音響特性と、実質的にマッチするような範囲で選択される。
【0111】
好ましい実施形態において、デバイスは、10MPaから50MPaの引張強度を有する。より好ましくは、本発明のデバイスは、30MPaから50MPaの引張強度を有する。かかる引張強度は、特に、穿孔の最も一般的領域である、緊張部における穿孔を治療するのに有用である。
【0112】
本発明が、特に慢性穿孔といった鼓膜穿孔の修繕のための膜を提供する場合、膜マトリック層は、膜の反対側に2つの卵形又は実質的に円形の面を有する、実質的に円盤形である。好ましくは、片方又は両方の面は、およそ3mmからおよそ25mmの間の直径を有し、より好ましくはおよそ10mmからおよそ20mmの間の直径を有する。好ましくは、デバイスの片方又は両方の卵面は、およそ9mmからおよそ8mmの直径を有する。より好ましくは、デバイスの片方又は両方の卵面は、およそ6mmからおよそ5mmの直径を有する。最も好ましくはデバイスの片方又は両方の面は、実質的に円形であり、およそ9.5~10mmの最適な直径及び5~15mmの範囲を有する。
【0113】
本発明の膜マトリックスは、修繕される領域のサイズ及び形にマッチさせるため、製造後にトリミングすることができる。このトリミングは、外科用ハサミなどの、適切な切断デバイスを用いて、実施することができる。デバイスはまた、デバイスの一以上の表面における溝を切り込んで又は切断して、デバイスの柔軟性又は屈曲性を改善すること又は折り畳むことを可能にし、その折りたたまれた構造を実質的に維持することにより、製造後にも操作され得る。
【0114】
さらに、膜は、他の特性を示してもよい。本発明をここに、それらの好ましい特性に関連して記載する。
【0115】
A.透過性
本発明のデバイスは、少なくとも部分的に半透明である。好ましくは10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99及び100%透明であり、それはデバイスを用いて治療された対象の鼓膜及び中耳の、治療後検診を支援することができる。
【0116】
本発明のデバイスは透明であってもよく又は半透明であってもよく、損傷していない鼓膜と同様であってもよい。これは、デバイスを用いた鼓膜の修繕後のファローアップの間の感染又は欠陥についての、対象の中耳の検診を可能とする。
【0117】
B.生分解能力
好ましい形態において、デバイスは、少なくとも12カ月の生物学的寿命を有する生分解性である。好ましくは、デバイスは、少なくとも36カ月の寿命予測値を有するであろう。
【0118】
デバイスは、完全な又は実質的に完全な傷閉合が起こる時まで、場所にとどまらなければならないため、12から36カ月の間のin vivo生物学的寿命が好ましい。典型的には、嚢胞形成などの起こり得る長期間合併症を避けるため、最小限の時間の間、in vivoにデバイスを有することが、組織エンジニアリングにおいて、有益である。例えば、小さな穿孔は、相対的に短い時間の期間で(閉合のためおよそ2週、加えて、完全なリモデリングのために4~6週)治癒し得るが、より大きな穿孔は、有意により長くかかり、新生鼓膜の完全な細胞リモデリングのために12カ月までを必要とする。デバイスのバイオ機械的特性は、デバイスを用いて治療される対象におけるコレステリン腫を含む萎縮及び退縮などの後期の合併症を実質的に避けるように選択されてきた。
【0119】
C.細胞接着
本発明の実施形態において、膜は、効率的な増殖及び膜にわたる細胞の増殖のために細胞接着を促進するよう適合される。
【0120】
ドナーから得られるか、樹立された細胞培養株から得られるか、又は分子若しくは遺伝子的手段による細胞修飾の前若しくは後の、ケラチノサイト、軟骨細胞、線維芽細胞、筋肉細胞及び骨細胞などの筋肉及び骨格系の細胞、並びに幹細胞(例えば、胚性幹細胞、成体幹細胞、及び人工多能性幹細胞を含む)、並びにそれらの組み合わせを含む、任意の細胞型が、培養及び可能性のあるインプランテーションのために組織エンジニア構築物に添加され得る。組織片はまた、異なる細胞型と構築物を移植するために使用され得る。好ましくは、膜構造は、コレステリン腫において、ケラチノサイトの中耳への移動を予防するなど、使用の際にそれを介した中耳への細胞の浸潤を制御又は予防する。
【0121】
この実施形態の一形態において、膜は、およそ0.001ミクロンからおよそ5μmミクロンの間の範囲の孔又は表面変形を有するであろう。この実施形態の別の形態において、膜の本体内の孔は、中間層の細胞浸潤及び組織形成を促進するために、およそ5μmからおよそ200μmの間の直径を有する。
【0122】
孔が膜中に存在する場合、それらは、かかる治療を必要とする対象へのインプランテーションの際に宿主組織統合を促進するように、新しい組織の形成及びリモデリングのための空隙容量を提供するであろう。これに関して、デバイスは、機械的安定性を維持するが効率的な栄養物及び代謝産物輸送を可能にする構造を提供する。
【0123】
表面孔又は変形が存在する場合、表面孔又は変形は、かかる治療を必要とする対象の穿孔された鼓膜又は外耳道に移植される場合、少なくともケラチノサイトの増殖、移動及び/又は接着を支持するであろう。これは、慢性穿孔などの損傷からの、鼓膜の修繕及び再生を促進するためである。従って、本発明のデバイスは、自然の創傷治癒過程を介した、慢性鼓膜穿孔又は外耳道軟組織及び骨の欠陥のある部分の閉合を加速することを可能とする足場を提供する。
【0124】
D.厚さ
本発明のデバイスの厚さは、膜から必要とされる振動音響的特性及び機械的特性、膜層の数、又はデバイスを用いて治療される対象における鼓膜穿孔又は外耳道の欠陥のある部分のサイズなどの因子に依存して変わるであろう。本発明によれば、膜は、20Hzから20KHzの間の音波を中耳小骨に伝達しなければならない。このパラメーターの限定の範囲内で、膜は、本発明の方法により調製される単層として調製することができる。或いは、デバイスは、本発明の方法の生成物と様々な材料範囲から製造される他の層とにより形成される複数の層を有し得る。複数の層がある場合、デバイスの膜部分は、20Hzから20KHzの間の音波を中耳小骨に伝達しなければならない。
【0125】
デバイスの膜部分が20Hzから20kHzの間の音波を中耳小骨に伝達するならば、膜のスカートは、より厚くてもよい。これは、再構築手術が適切である場合、望ましい。これに関して、デバイスは、乳様突起炎、慢性化膿性中耳炎又はコレステリン腫のための治療の一部として行われる乳様突起切除術(根治的乳様突起切除術、Canal Wall Down乳様突起切除術、Canal Wall Up乳様突起切除術、Cortical乳様突起切除術、改変根治的乳様突起切除術を含む)の間の外科的要求に応じるために、その周縁で実質的に厚くなっていてもよい。
【0126】
シルク膜の文脈において本明細書中に使用される用語「周縁」は、膜の平面を取り囲んでいる境界線を言う。膜の周縁は、必ずしも円形でなく、同じ膜の厚さである必要はない。例えば、膜の周縁は、最大で5mm厚、最小で10ミクロンであるかもしれず、その間の厚さを含むであろう。
【0127】
本発明を記載する目的のために、用語「膜」、「膜マトリックス」、「膜層」、「膜マトリックス層」、「線維維性膜」及び「フィルム」は、互いに交換可能に使用され得る。
【0128】
好ましい形態において、デバイスは、互いに近傍に積層された1から3の間の膜を有する。従って、デバイスは、単一の膜、2つの膜又は3つの膜からなり得る。
【0129】
デバイスの膜層は、デバイスの外面の一以上の膜の露出面の間の距離として測定される厚さを有する。
【0130】
膜層は、およそ1からおよそ600ミクロンの間の組み合わせられた厚さを有するであろう。前述の厚さは、しかし、20Hzから20KHzの間の音波を中耳小骨に伝達するよう選択されなければならない。このパラメーターの範囲内の膜の構築物における変動性は、認識されるべきである。好ましくは、このパラメーターを満たす膜層は、およそ10からおよそ300ミクロンの組み合わせられた厚さを有する。最も好ましくは、膜層は、およそ30からおよそ150ミクロンの間の組み合わせられた厚さを有する。説明のために、膜層は、およそ10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590及びおよそ600ミクロンの組み合わせられた厚さを有する。
【0131】
膜が1より多い層を含む場合、層の少なくとも一は、線維性材料を含む。
【0132】
さまざまな態様において、少なくとも本発明の方法により調製されたシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスを含む第一の層、及び第一の層と同じであってもよく又は異なっていてもよい材料の組成物を有する第二の層を含む、線維性膜が開示される。複数の層がある場合、各層の任意のファイバーが整列するように層を配置することが好ましい。
【0133】
シルク膜は、追加の可塑剤、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルロニック127及びポリ(エチレングリコール)(PEG)から選択される添加剤を含む少なくとも一の添加剤を含み得る。
【0134】
E.層の組成
本発明の一実施形態において、デバイスは、少なくとも一層がシルクフィブロインで構成され、少なくとも一層が生体適合性ポリマーで構成される、複数の層を含んでいてもよい。
【0135】
別の実施形態において、デバイスは、少なくとも一層がシルクフィブロイン膜マトリックスで構成され、及び/又は少なくとも一層が生体適合性ポリウレタン膜マトリックスで構成され、及び/又は少なくとも一層が組み合わせられたシルクフィブロイン/生体適合性ポリウレタン膜マトリックスである、複数の層を含んでいてもよい。
【0136】
本発明の別の実施形態において、少なくとも一層が本発明による膜マトリックスであり、少なくとも一層が本発明のものと異なる材料で構成されている、複数の層が存在してもよい。
【0137】
この実施形態において、デバイスを製造するために用いられる膜の層において使用されてもよい材料は、ヒアルロン酸ベースのヒドロゲル(Carbylan)及びフィルム(Seprafilm);アルギン酸カルシウム;ポリ(グリセロールセバケート);水に溶解性及び不溶性のキトサン;及びコラーゲンを含む群から選択される材料のいずれかを含む。
【0138】
コラーゲンは、主要な細胞外マトリックス構成要素であり、高い引張強度、柔軟性、非反応性、非毒性及び非発癌性を含む物理的な特徴を有する。鼓膜の固有層の主成分として、コラーゲンは、鼓膜の弾力性及び完全性を維持することを補助し、これ故に聴覚において鍵となる役割を果たす。
【0139】
デバイス中で使用される一以上の層が、可塑化剤を含んでいてもよい。
【0140】
例えば、本発明のデバイスは、デバイスが使用前の乾燥状態で管理可能になるように、とりわけ、グリセロール、ゼラチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルロニック127、脂肪族ポリエステル、ポリ(アルキレン)オキシド、ポリ(L-乳酸)、70/30L-ラクチド/e-カプロラクトンコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(DL-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(D-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(L-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(ラクチド-co-グリコール酸)、ポリ(ビニルピロリジン)、ポリ(ジメチルポリシロキサン)、ポリ(リシン)、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、アルギネート、フィブリン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ポリペプチド、ポリ(エチレン-co-ビニル)アルコール、ポリ(ビニル)アルコール、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ(プロピレン)グリコール、ポリ-L-ラクチド-co-グリコリド-co-ε-カプロラクトン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリグラクチン910、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される一以上の添加剤をさらに含んでいてもよい。同じく一以上の架橋剤が、シルクとポリウレタンを共有結合させるために用いられてもよい。例(シルクと共に使用される)としては、グルタルアルデヒド、ゲニピン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と過酸化水素水(H)、チロシナーゼ(例えば、マッシュルームチロシナーゼ)又はトランスグルタマーゼ(例えば、微生物トランスグルタマーゼ)による酵素架橋、エチレングリコールベースの系:例えば、ポリエチレンジグリシジルエーテル(PEGDE)、エチレングリコール、ジグリシジルエーテル(EGDE)、トリス(2,2’-ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)六水和物と過硫酸ナトリウム(SPS)又は加硫酸アンモニウム(APS)、及び1-エチル-3,3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)-N-ヒドロキシスクシンイミドが挙げられる。
【0141】
脂肪族ポリエステルは、D-ラクチド、L-ラクチド、ポリ(乳酸)、ポリ(ラクチド)グリコール酸、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、グリコリド、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、イプシロン-カプロラクトン、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)及びそれらの組み合わせから選択され得る。ポリ(アルキレン)オキシドは、ポリ(エチレン)オキシド及びポリ(プロピレン)オキシドから選択され得る。
【0142】
本発明のデバイスが、本発明の方法により製造されるものと異なる材料から調製される層を含む場合、それらの材料は、治療される対象に対し非自己性であるソースなどの任意のソースであり得る。かかる材料は、非哺乳動物ソースのものであり得る。或いは、それらは、とりわけ、鼓膜、心膜、骨膜、真皮、筋膜を含む、非自己性哺乳動物膜からの脱細胞化した組織を含む群から選択され得る。かかる追加の材料は、特に、デバイスが再建術において配置される場合に、適切になり得る。
【0143】
F.膜マトリックスにおける活性剤
一実施形態において、膜マトリックスは、少なくとも一の活性剤を含む。活性剤は、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体又はそれらの断片若しくは部分、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、成長因子又は組換え成長因子及びそれらの断片及びバリアント、サイトカイン、酵素、抗生物質又は抗菌剤/抗菌性化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬剤、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0144】
例えば、本発明の膜は、in vivoインプランテーション後及びin vitro培養後の、鼓膜ケラチノサイトの増殖、移動及び/又は接着を支持する様々な生体適合性の活性剤を含み得る。好ましくは、バイオ材料は、デバイスが相対的にやわらかいことを提供するよう選択される。
【0145】
この実施形態によれば、シルクフィブロイン及び/又は生体適合性ポリウレタン溶液を、ヘキサフルオロイソプロパノール又はジメチルホルムアミド処理などの溶媒により不活性化されない少なくとも一の活性剤とブレンドすること;当該溶液をフィルム支持表面にキャストすること;及びフィルムを乾燥させることを含む、少なくとも一の活性剤をシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜マトリックスに埋め込む方法が提供される。
【0146】
代替の実施形態において、本発明により製造されるシルクフィブロイン及び/又は生体適合性ポリウレタン溶液を、フィルム支持表面にキャストすること;及び活性剤の存在下でフィルムを乾燥させることを含む、少なくとも一の活性剤を膜マトリックスに浸透させる方法が提供される。
【0147】
本発明の膜に組込まれる又は浸される生物学的活性分子は、鼓膜の細胞の増殖を支援する又は促進する剤を含む。生物学的活性分子は、デバイスの表面に結合され得る、又はデバイスの孔中に位置し得る。
【0148】
生物学的活性分子は、ビタミン、タンパク質、ペプチド、酵素、炭水化物、補因子、ヌクレオチド(DNA又はRNA又はそれらの由来物)、有機低分子(例えば、薬剤)、抗生物質、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗炎症剤、抗増殖剤、サイトカイン、タンパク質阻害剤、抗ヒスタミン群から選択される分子を含む。好ましくは、生物学的活性分子は、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子-アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子-ベータ(TGF-β)ヘパリン結合性上皮成長因子(HB-EGF)、アンフィレグリン、エピジェン、エピレグリン、ベータセルリンを含む上皮成長因子;酸性線維芽細胞成長因子(FGF-1/aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2/bFGF)を含む線維芽細胞成長因子;ケラチノサイト成長因子1(KGF-1/FGF-7)、ケラチノサイト成長因子2(KGF-2/FGF-10)を含むケラチノサイト成長因子;インスリン様成長因子1(IGF-1)、インスリン様成長因子2(IGF-2)を含むインスリン様成長因子;血管内皮成長因子165(VEGF165)、血小板由来成長因子(PDGF)、IL-6、IL-19、IL-24を含むサイトカインを含む血小板由来成長因子;ヒアルロン酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンを含む細胞外マトリックスタンパク質;及びtrans-レチノイン酸(ビタミンA)、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、(+)-α-トコフェロール(ビタミンE)を含むビタミンを含む群から選択されるいずれか一以上の生物学的活性分子を含む。より好ましくは、生物学的活性分子は、ヒアルロン酸;ビトロネクチン;アンフィレグリン;インターロイキン19(IL-19);インターロイキン24(IL-24);トランスフォーミング成長因子-アルファ(TGF-α);VEGF;及びフィブロネクチンを含む群から選択されるいずれか一以上の生物学的活性分子を含む。
【0149】
生物学的活性分子の濃度は、好ましくは5ng/mlから150μg/mlの間である。
【0150】
ヒアルロン酸がシルク膜中に存在する場合、それは、好ましくはおよそ1μg/mlからおよそ10μg/mlの間、より好ましくはおよそ5μg/mlの濃度であるだろう。
【0151】
ビトロネクチンがシルク膜中に存在する場合、それは、好ましくはおよそ0.1μg/mlからおよそ1.0μg/mlの間、より好ましくはおよそ0.5μg/mlの濃度であるだろう。
【0152】
アンフィレグリンがシルク膜中に存在する場合、それは、好ましくはおよそ20ng/mlからおよそ100ng/mlの間、より好ましくはおよそ60ng/mlの濃度であるだろう。
【0153】
IL-19又はIL-24がシルク膜中に存在する場合、それは、好ましくはおよそ20ng/mlからおよそ100ng/mlの間、より好ましくはおよそ60ng/mlの濃度であるだろう。
【0154】
TGF-αがシルク膜中に存在する場合、それは、好ましくはおよそ20ng/mlからおよそ140ng/mlの間、及びより好ましくはおよそ80ng/mlの濃度であるだろう。
【0155】
VEGFがシルク膜中に存在する場合、それは、好ましくはおよそ60ng/ml及びおよそ200ng/mlの間、より好ましくはおよそ100ng/mlの濃度であるだろう。
【0156】
本発明のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜は、医療デバイスの形成に用いられてもよい。生物学的活性分子は、デバイス形成の間に添加され得る、及び/又はデバイスが形成された後に及び/又はデバイスのインプランテーション又は移植の間に、別にデバイスに添加され得る。
【0157】
デバイスは、本明細書中にリストされた化合物のいずれかを個別に又は任意の組み合わせで含み得るが、これらに限定されない。本明細書中にリストされた生物学的活性分子のいずれかを既知の方法により、即時放出又は長期放出用に製剤化してもよい。さらに、デバイスは、2以上の生物学的活性分子を異なる方法で含み得る。例えば、とりわけ、デバイスは、1の生物学的に活性な化合物が浸透しかつ別のものに覆われていてもよい。別の実施形態において、デバイスは、長期放出のために製剤化される一の生物学的活性分子及び即時放出のために製剤化される第二の生物学的に活性な化合物を含む。
【0158】
鼓膜修繕を含む創傷治癒は、十分な栄養を必要とする。創傷治癒栄養物は、亜鉛、鉄、ビタミンC、アルギニン、及び他の生物学的活性分子のソースを含む。従って、デバイスは、創傷治癒に必要とされるこれらの栄養物の一以上の生理学的に利用可能な形態に浸透され得るか又はそれに覆われ得る。これらの栄養物は長期放出用に製剤化されることが好ましい。
【0159】
好ましい実施形態において、免疫調節剤として利用されるタンパク質、ポリペプチド又はペプチド(抗生物質を含む)は、好ましくは、鼓膜又は外耳道の欠陥のある部分への修繕を必要とする対象と同種に由来する。例えば、対象がヒトである場合、免疫調節剤として使用されるタンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、好ましくはヒトであるか、又は当該タンパク質、ポリペプチド又はペプチドに対する免疫応答の可能性を減少させるようヒト化される。
【0160】
生物学的活性分子は、in vivoで、鼓膜ケラチノサイト及び粘膜細胞を含む細胞の、デバイス上又はデバイス内の増殖、移動及び/又は増殖を強化し、それは、かかる療法を必要とする対象のため、移植片として使用され、鼓膜における穿孔又は外耳道の欠陥のある部分の、閉合を促進すると考えられる。また、これらの生物学的活性分子は、実質的に発病前の状態のものに機能性を回復させるために治癒後の傷部位をリモデリングさせ、それによって長期間における前述の対象についての治癒及び聴力アウトカムを強化することを可能とする、生物学的信号を提供するであろうことが予期される。本発明のデバイスは、生物学的活性分子を含まなくてもよい;しかしながら、かかる療法を必要とする対象における、鼓膜又は外耳道を修繕するための閉合時間は、生物学的活性分子を含むデバイスの使用と比較して、減じ得る。
【0161】
本発明の別の実施形態において、本発明の方法により製造されるシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜は、頑丈な又は高強度の再構築適用に及ぶ、さまざまな適用に適合させることができる。例えば、膜の周縁スカートは、再構築材料又は組織エンジニアリング又は再構築足場を形成するよう適合され得る。いくつかの実施形態において、複合材料は、整形外科的適用のための手術道具を形成するよう適合される。いくつかの実施形態において、複合材料は、骨足場材料を形成するよう適合され得る。これらの実施形態において、骨足場材料は、骨伝導剤、骨誘導剤、骨形成剤、又はそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0162】
G.製造
本発明のシルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜は、キャストされるが、本発明は、膜における複数の層の形成を予期する。この程度まで、本発明の方法により作られない層は、デバイスの製造の間、取り付けられる前に、別に作られてもよい。或いは、膜層は、デバイスを折りたたむことにより作られてもよい。
【0163】
多層デバイスの開発における使用に適切な追加の層を調製する方法は、:エレクトロスピニングを含むスピニング;マイクロ製織を含む製織;又はキャスト又はディップコーティングの少なくともいずれか一以上を含む。
【0164】
織物方法は、ミクロスケールではあるが標準的な繊維織機と類似のマイクロ製織デバイスの使用を含んでもよい。結果物は、実質的に規則正しく織られた材料であり、非織物方法としては、とりわけ、キャスティングが挙げられる。キャスティングは、繊維を含有する一定量の可溶化フィブロイン溶液をキャスティング容器に入れ、液体を蒸発させ、フィブロインタンパク質の固体キャストを残すことを含む。
【0165】
エレクトロスピニングは、電荷を使用して、タンパク質の溶液から、非常に細かい(マイクロ又はナノスケールの)フィブロイン繊維を引く。それは、特に、大きく及び複雑な分子を用いたファイバーの製造に適合する。
【0166】
デバイスを調製するためのかかる方法は、デバイスの表面上又はデバイスの表面内に、孔を製造する。孔の形及びサイズは、使用される、デバイスを調製する方法によって変わるであろう。
【0167】
H.サイズ及び形
鼓膜修繕においてデバイスが使用される場合、デバイスは、デバイスの反対側に2の卵形又は実質的に円形の面を有する、実質的に円盤状形として存在する。
【0168】
かかるデバイスを、穿孔された鼓膜の修繕におけるその使用を促進するであろう、任意のサイズ、形又は構造で形成することができる。例えば、デバイスは、特に、タイプ1鼓室形成術又は鼓膜形成術の文脈において鼓膜穿孔の閉塞を促進するであろう、サイズ、形又は構造で形成され得る。
【0169】
別の形態において、デバイスは、外耳道、弛緩部及び上鼓室領域の再構築を促進する、形又は構造で形成される。従って、デバイスは、外耳道軟組織及び骨の欠陥のある部分に合わせるよう適合される。これは、デバイスの調節された構造が維持されるようなデバイスの折り畳み又はデバイスの一以上の側部の切り込みを含むかもしれない。従って、デバイスのサイズ、形及び構造は、外耳道の欠陥のある部分を覆う又はそれに合うのに十分であるろう。
【0170】
デバイスが、中耳の再構築手術に使用される場合、それは、膜の複数の層により形成されるスカートにより囲まれる、天然の鼓膜と類似する円盤状の形を含む。スカートは、手術の間に除去された組織の再構築形成のための基礎を提供する。
【0171】
その結果、本明細書中で提供されるまた別の態様は、対象における罹患した又は損傷した骨組織を修繕する又は置換する方法に関し、それは、罹患した又は損傷した骨組織の標的部位に、シルクフィブロイン生体適合性ポリウレタン膜を含む少なくとも一層を含む、又は少なくとも一層がシルクフィブロイン膜であり少なくとも一層が生体適合性ポリウレタン膜である少なくとも二層を含む、骨足場材料を置くことを含む。
【0172】
いくつかの実施形態において、骨足場材料は、骨伝導剤、骨誘導剤、骨形成剤、又はそれらの任意の組み合わせをさらに含み得る。
【0173】
いくつかの実施形態において、骨足場材料は、さらに細胞(例、幹細胞)を含み得る。これらの実施形態において、本明細書中に記載される骨足場材料を、細胞(s)を増殖させ(例、天然の細胞又は外から添加される細胞)及び細胞外マトリックスと置換するための、一時的な、生分解性の支持コンジットとして使用することができ、従って、さらに時間にわたりバイオ化学的特性が改善する。
【0174】
本発明のデバイスの前面は、鼓膜穿孔又は外耳道の欠陥のある部分の寸法により選択され得る、卵又は円形以外の形であり得る。
【0175】
本発明のデバイスの前面は、さまざまなサイズを含み得る。好ましい形態において、前面は、およそ10mmから20mmの直径、より好ましくはおよそ15mmの直径を有する、卵形又は実質的に円形の形である。第一の望ましい形態において、前面は、およそ9mm×およそ8mmの直径を有する卵形である。第二の望ましい形態において、前面は、およそ6mm×およそ5mmの卵形である。第三の望ましい形態において、前面は、およそ3mmの直径を有する実質的に円形の形である。
【0176】
デバイスは、前面の外縁の周りからトリミングしてもよく、それによってデバイスを、利用可能なデバイスより小さい鼓膜穿孔又は外耳道の欠陥のある部分の修繕のためにカスタマイズすることができる。
【0177】
本発明のデバイスは、製造後に修繕を必要とする鼓膜の領域のサイズ及び形にマッチするようトリミングすることができる。このトリミングは、レーザー切断などの適切な切断デバイス又は外科用ハサミを用いて実施され得る。デバイスは、製造後、デバイスの一以上の面において切り込む又は溝を切断して、デバイスの柔軟性又は屈曲性を改善することにより、或いは、折り畳みを可能にし、及び実質的にその折り畳まれた構造を維持することにより、操作され得る。
【0178】
好ましくは、両面は、およそ3mmからおよそ25mm、より好ましくはおよそ10mmからおよそ20mmの間の直径を有する。好ましくは、デバイスのいずれの卵面も、およそ9mmからおよそ8mmの直径を有する。さらにより好ましくは、デバイスのいずれの卵面も、およそ6mmからおよそ5mmの直径を有する。最も好ましくは、デバイスの両面は、実質的に円形であり、およそ3mmの直径を有する。
【0179】
デバイスの面の片方又は両方は、さまざまなハサミ又はナイフ又は刃物などの切断道具を含む異なる道具を用いて、切れ込みを入れてもよく、又は溝切断してもよい。
【0180】
I.キット
本発明はまた、対象の外耳道、鼓膜穿孔及び/又は弛緩部の修繕における使用のためのキットを提供し、前述のキットは、本明細書に記載されるデバイスを含む。キットはまた、一以上の、本明細書に記載される生物学的活性分子のいずれかの溶液を含んでもよい。生物学的活性分子の一以上の溶液は、デバイスの対象へのインプランテーションより前のデバイスへの適用のためであってもよく、一度起こるかもしれず又はその後に複数回の機会に起こるかもしれない、対象の鼓膜へのデバイスのインプランテーション又は移植の後のデバイスへの適用のためであってもよい。
【0181】
本発明のデバイスは、鼓膜の修繕又は外耳道の再構築の促進のためのキットの形態で提供され得る。これに関して、キットにおけるデバイスは、包装され又は容器中に、無菌形態で提供され得る。キットは、同じ又は異なるサイズの一以上のデバイス、及び鼓膜又は外耳道の修繕を促進するであろう、任意の他の医療デバイス、消耗品又は薬剤を含み得る。好ましくは、キット中のデバイスは、キット内容物の残りとは別に、無菌容器又は包装で提供されるであろう。キットはまた、例えば、とりわけプラスティックフィルム又はシートといった、自然の又は合成材料のデバイスのための支持体を含み得る。前述の消耗品は、包帯、鼓膜及び周囲の皮膚を滅菌するための滅菌手段、手袋、滅菌シート、綿棒、抗生物質クリーム又は軟膏の一以上を含み得る。一実施形態において、前述のキットは、少なくとも一のデバイス及び一以上の生物学的活性分子を含む。キットは、対象へのインプランテーション又は移植より前にデバイスに適用するための生物学的活性分子を含み得る。生物学的活性分子は、一以上の溶液の形態であり得る。加えて又は或いは、デバイスをインプランテーションした後又は移植した後に、デバイスを用いて治療される対象の鼓膜に、生物学的活性分子を適用してもよい。これは、すぐであってもよく及び/又はインプランテーションの数時間又は数日後の期間にわたる一連の治療であってもよい。
【0182】
J.使用の方法
さらなる態様において、本発明は、鼓膜、より好ましくはかかる治療を必要とする対象における、慢性鼓膜穿孔などの鼓膜穿孔、及び/又は欠陥のある弛緩部及び/又は鼓室蓋骨を修繕するための方法を提供し、前述の方法は、本明細書に記載されるデバイスを用いることを含む。
【0183】
本発明は、さらにかかる治療を必要とする対象において、鼓膜穿孔を修繕するための方法を提供し、前述の方法は、本明細書中に記載される本発明のデバイスを用いることを含む。
【0184】
本発明は、鼓膜穿孔を修繕するためのデバイスの使用が、唯一の鼓膜の治療であってもよく、又は鼓膜を治療する又は修繕する過程で同時に又は併用して使用される他の療法又は治療を加えたものであってもよいことを提供する。例えば、本発明は、鼓膜をデバイスと接触させること、及び鼓膜をデバイスと接触させることを含まない追加の療法を用いて鼓膜を治療することを含む鼓膜の修繕を提供し、接触させること及び追加の療法は、個別に又は一緒に、鼓膜損傷の少なくとも一の態様の維持又は悪化の軽減において、測定可能な改善を引き起こす。
【0185】
別の態様において、本発明は、対象の鼓膜、好ましくは対象の鼓膜の穿孔された緊張部及び/又は対象の弛緩部及び/又は鼓室蓋骨などの鼓膜に移植され又は適用される際の、少なくとも鼓膜の細胞の増殖、移動及び/又は接着を支持するための、本明細書に記載されるデバイスの使用を提供する。本発明はまた、ヒドロキシアパタイト遊離移植片を覆うことを含む、乳様突起切除術後の対象の外耳道の再構築のための乳様突起閉塞技術における、本明細書に記載されるデバイスの使用を提供する。
【0186】
本発明のデバイスは、鼓膜の全ての部分と関連する鼓膜又は鼓膜穿孔において使用してもよく、対象からの自家移植片を用いる既存の技術を用いて、当技術分野で知られているアンレー、アンダーレイ又はインレイ技術として使用してもよい。
【0187】
従って、本発明のデバイスは、かかる治療を必要とする対象において、穿孔された鼓膜の修繕及び再生における使用のための、及び/又は弛緩部及び鼓室蓋骨を含む外耳道の再構築及び再生のための、カスタマイズされた移植片インプラントを提供する。デバイスをカスタマイズすることは、鼓膜及び/又は外耳道を天然の形態に実質的に似せ、それによって対象についての治癒及び聴力アウトカムの改善のためのより良い機会を可能にすることを含む、鼓膜の再生を促進することを支援し得る。デバイスにおける線維性中間層の含有は、鼓膜を音響により効率的に作るが、一方、対象において、萎縮、再穿孔及びコレステリン腫形成の可能性を減じるという点で特に有益である。
【0188】
本発明はまた、かかる治療を必要とする対象において、欠陥のある弛緩部を含む外耳道の再構築における使用のための方法を提供し、前述の方法は、本明細書中に記載される本発明のデバイスを用いることを含む。弛緩部は、技術的には、鼓膜の一部であり、これは、典型的には、近傍にある鼓室蓋と呼ばれる外耳道の骨をもむしばむコレステリン腫に関与する領域であり、鼓室の上鼓室を含み得る。従って、本発明のデバイスを用いたコレステリン腫における鼓膜(eardrum)の再構築は、しばしば、近接しかつ相互に接続した上鼓室及び鼓室蓋骨の再構築を必要とする。
【0189】
従って、この治療は、鼓膜の穿孔の修繕と併せて行ってもよい。或いは、治療は、鼓膜の穿孔持たない又は鼓膜の穿孔の修繕を必要としない、対象の外耳道を再構築するためであってもよい。
【0190】
本発明はまた、鼓膜に、特に対象の鼓膜、及び/又は弛緩部又は鼓室蓋骨に移植された又はインプランテーションされた際に、少なくとも鼓膜の細胞の増殖、移動及び/又は接着を支持するための、本明細書中に記載されるデバイスの使用を提供する。
【0191】
耳手術において、乳様突起切除術後の骨外耳道の再構築は、一般的に、必要とされる。デバイスは、かかる治療を必要とする対象の鼓室蓋の再構築において使用してもよい。この再構築過程において、本発明のデバイスを用いることの利益は、それが統合でき、その多孔構造を介して、領域への血液供給を支援できることであり、デバイス中のバイオ分子は再構築された領域への対象自身の細胞及び組織の増殖を促進することができることである。
【0192】
また、本発明のデバイスは、例えば、慢性中耳炎のための乳様突起切除術といった乳様突起切除術などの間に罹患又は損傷していてもよい外耳道底の修繕又は再生に使用してもよい。これに関して、乳様突起閉塞は、慢性中耳炎のためのcanal wall-down乳様突起切除術後に乳様突起腔のサイズを減少させることが示されている。鼓室乳突乳様突起又は乳様突起閉塞の他の兆候は、一時的な骨切除(外傷又は腫瘍に続発する)及び脳脊髄液漏れの再構築を含む。閉塞を伴わずに、canal wall-down乳様突起腔は、腔の頻繁な掃除を必要とする持続性の耳漏、補聴器の使用の困難、感染の影響を受けやすいことに起因する侵水不寛容、及びめまいへの傾向をもたらし得る。閉塞技術の大部分は、局所皮弁(例、筋肉、骨膜又は筋膜)又は遊離の移植片(例、骨片又は骨パテ、軟骨、脂肪又はヒドロキシアパタイトなどのセラミック材料)のいずれかからなる。ヒドロキシアパタイトは、主要な同種移植片材料であるが、これは、治癒フェイズにおいて、生存可能な組織により覆われることを必要とする。プラスティックメッシュ、プロプラスト及び多孔性ポリプロピレンなどの同種移植片は、感染のため、長期間では成功していなかった。プロプラストは、永続的な巨細胞反応と関係があることが見出された。瘻孔、持続性のドレナージ及び肉芽組織は、漸進的なプラスチックの不使用を引き起こす。最後に、アロプラストは、海綿骨及びその幹細胞を欠いており、辺縁血管分布を有する。
【0193】
従って、本発明のデバイスは、鼓室乳様突起切除術の後の再構築のための乳様突起閉塞技術に、ヒドロキシアパタイト遊離移植片を覆うために使用され得る。
【0194】
デバイスの別の利益は、それが、コレステリン腫、無気肺及び再発性穿孔の場合に、手術の後に見出される適さない中耳環境において、それを非常に有用にする固さ及び安定性を提供することができることである。ポリウレタンをシルク膜と共に含有することが、耳管機能障害などの慢性中耳疾患を有する患者のための継続的な構造的支持を生成し得る、より長期持続性の移植片を提供するであろう。
【0195】
実施例
材料及び方法
実施例1 - シルク泡状物質の調製
多化性のBombyx moriカイコからの、巻き取られ、デガミングされていない繊維を、北東インドの製造センターから購入した。2g/L炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、セントルイス、MO、米国)及び1g/L無香オリーブオイルせっけん(Vasse Virgin、ウィルヤブラップ、西オーストラリア、オーストラリア)を用いて、98℃で、30分、繊維からデガミングした。デガミングは、ロータリー染色機(Ahiba IR Pro、Datacolor、ローレンスビル、米国)を用いて実施した。デガミングされた繊維を一晩、40℃で乾燥させ、その後、9.3M臭化リチウムを用いて、5時間、60℃で溶解した。溶解したシルク溶液を、4℃で3日間、脱イオン水(dHO)に対して透析し、重量分析により計算される4から5%w/vの間の濃度の水性シルク溶液を得た。各バッチからのシルク溶液を4%w/vに希釈し、その後、各チューブに20mLピペッティングした。その溶液を-80℃のフリーザーで24時間、凍結した。凍結したチューブをフリーザーから取り出し、蓋を外して実験室用ワイパー(Kimwipes)に交換して、ゴムバンドで固定し、その後、予め冷却されたFreeZone凍結乾燥機(Labconco、カンザスシティ、MO、米国)に移し、4日間、乾燥させた。
【0196】
実施例2 - ブレンドされたシルクフィブロイン/ポリウレタン膜の調製
凍結乾燥させたシルク泡状物質を、メスを用いて小塊にスライスし、ポリウレタンペレットと共に滅菌遠心管に添加した。その2種の材料を、その後、ロータリーミキサーにより室温で5時間、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に溶解した。用いられたシルク、ポリウレタン及びHFIPの量を計算して、2種の材料の最終濃度を5%(w/v)ポリウレタン及び1.25%(w/v)シルクフィブロイン(又は1:4 シルク:ポリウレタン)とした。溶解した試料を、7000×gで、2分間、遠心分離し、泡を除去し、その後、55mm径ペトリディッシュにキャストした。ドラフトチャンバーで、24時間、乾燥させた。全ての膜の最終的な厚さは、100μmであった。
【0197】
実施例3 - UV-可視分光測光法
可視波長にわたるフィルム透過性を、拡散反射率アクセサリーを有するCary5000UV-可視分光光度計(Agilent、サンタクララ、CA、米国)を用いて、測定した。700から380nmのスキャニングにより試料の%透過率を決定した。試料を、取り付けられた参照標準を用いてスキャンして合計透過率を決定し、再び、取り付けられた光トラップを用いて拡散透過率を決定した。結果としてもたらされる合計及び拡散透過率スキャンを各フィルムタイプについて、一緒にプロットした。各試料の陰影を、380、550及び700nmで、定量化した。
【0198】
実施例4 - 張力機械的特性
張力試験のためのフィルムを、5mm幅の細長い一片にスライスし、その後、張力試験より少なくとも48時間前に、20℃±2℃及び65%±2%相対湿度で調節した。100Nロードセルを有するモデル5967テスター(Instron、ノーウッド、MA、米国)を用いて張力試験を実施した。15mmのゲージ長を用いて、試料を破損まで試験した。15mm/分の伸長率、及び0.1Nのプレロード。細長い一片に切断する前に各フィルムの厚さを測定した。小数点第3位デジタルマイクロメータ(Kinchrome、メルボルン、オーストラリア)を用いて、6か所で、フィルムを測定した。これらの測定値の平均の厚さを使用して、断面積を計算し、続いて、各フィルムのひずみと応力を計算した。20の細長い一片の最小値を少なくとも3のフィルムにわたり試験した。張力特性を、これらの測定値の平均±標準偏差として表現した。
【0199】
実施例5 - フィルム音響特性
円形の試料は、7.5mmの内径を有する、中が空洞のナイロンチューブからなる、特注のモデル外耳道の端に備え付けた。チューブの反対端に備え付けられたER-2聴覚イヤホン(Etymotic Research、エルクグローブビレッジ、IL、米国)を使用し、PCI信号発生器(PCI-6711、National Instrument、オースティン、米国)により生じた周期的なチャープ信号を用いて、試料を刺激した。プローブマイクロホン(ER-7C;Etymotic Research)を使用して外耳道内の動的圧力応答を測定した。すぐに外耳道内の試料の近傍に留まるように、外耳道壁における穴を介して、プローブを与えた。異なる材料の音響応答を、レーザードップラー振動記録計(CLV-2534、Polytec、ヴァルトブロン、ドイツ)を用いて決定し、それは、固定された試料の曝露された側に焦点を当てた。
【0200】
専用PCに接続されたデータ収集カード(PCI-4462、National Instruments)を用いて、振動記録計及びプローブマイクロホンの両方からの信号を検出した。ソフトウェアパッケージVibsoft84バージョン5.0(Polytec、ヴァルトブロン、ドイツ)を用いて、12.5Hzから20kHzに及ぶ周波数にわたり、高速フーリエトランスファー(fast Fourier transfer)を行い、トランスファー関数をdB rel 1mm/s/Paとして計算した。第一の共振ピークの振幅は、第一の100Hzより少ない、及び8kHzより多い全ての周波数を除くものにより計算した。最大振幅及び対応周波数を、Origin2015を用いて決定した。各試料についてのFFTプロットを表示して、この最大値が、第一の共振ピークに関係することを確認した。これらの測定値を試料あたり30の測定値(各膜から穴を開けた3つの10mmディスクを有する10のシルク膜)について、決定した。平均ピーク周波数及び振幅を使用して試験した異なる材料の音伝送特性を記載した。
【0201】
実施例6 - 圧負荷下のフィルムの側方変位
シルクフィルムの鼓膜(eardrum)修繕のための材料としての適合性を試験するため、フィルムを、フィルムに対して最大7kPaの圧力適用するため設計された特注のモデル外耳道中で試験した。モデルは、文献(Grewe et al., 2013)に記載された平均ヒト外耳道にマッチする内法を有するナイロンプラスティックチューブで構成された。フィルムディスクを、ラバーO-リングを有するキャップ上のスクリューを用いて(チューブの中耳側を表す)チューブの一端にあて、一方、(耳の外側開口を表す)チューブのもう一方を注射器ポンプに接続した。圧力をリアルタイムにモニターできるように、チューブ内の、試料のすぐ前の小さなポートを介して圧力センサーを接続した。小さな電子的な変位センサーを、フィルムのすぐ前に置いた。光学センサーは、赤外線(IR)LED及び検出器からなり、試料及びセンサー間の距離を、反射IR光の強度における変化として測定した。センサーは、(線形変換ステージにより測定されるように)2mmから5mmの間の距離を有する出力電圧の線形変化を生み出した。白い修正液の小さなドットを、各試料の中央に置いて、その反射率を改善した。
【0202】
実施例7 - フィルム二次構造
結晶(βシート及びターン)及び非晶質(α-ヘリックス及びランダムコイル)モチーフの割合を、Vertex70フーリエ変換赤外線(FTIR)分光光度計(Bruker,ビレリカ,MA,米国)を用いて、各フィルムタイプにおいて測定した。4000から600cm-1の範囲にわたる吸光度モードでスキャンを行った。各タイプの合計3のフィルムのスキャンを行い、フィルムタイプあたり、合計18の測定のため、フィルムあたり6回(フィルムの端、上面、フィルム底面の端、フィルム上面の中央、フィルム底面の中央)のスキャンを行った。上面及び底面スキャンを、平均し、アミドI領域(1705から1595cm-1)をデコンボリューションさせ、以前(Rajkhowa et al., 2012)に記載された7つの既知の立体配座位置を用いて、カーブフィッティングさせた。これら7つのデコンボリューションしたピークのそれぞれの相対ピーク面積を使用して、側鎖、βシート、ランダムコイル、α-ヘリックス及びβ-ターンの%含有量を決定した。%ピーク面積値を、6の測定値(3つの別のフィルムの中央及び端領域)の平均±標準偏差として表現した。フィルムタイプあたりの全ての試料の平均したスキャンをデコンボリューション後にプロットした。
【0203】
実施例8 - 分解に対する抵抗
フィルムを、以前の研究(Rajkhowa et al., 2011)に基づいて改変した方法を用いたin vitro酵素分解研究を用いて試験した。フィルムを、20℃±2℃及び65%±2%の相対湿度で少なくとも48時間、調節し、その後、フィルムあたり、5の細長い一片に切り分けた。フィルムの細長い一片を、UV光を用いて30分間滅菌する前に、各試料の重量を、小数点以下4桁を用いて記録した。各細長い一片を、その後、無菌で、15mLプラスティックチューブに移した。対照試料を0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.4でインキュベートし、一方、実験試料を、1mg/mLプロテアーゼXIV(Sigma-Aldrich,セントルイス、MO、米国)を含有する0.1M PBSでインキュベートした。試料を、3日にわたりインキュベートした;プロテアーゼ溶液及びバッファーを毎日交換して、最適な酵素活性を維持した。6時間後、1日後及び3日後に試料を除去した。各時点において、対照及び実験フィルムの細長い一片を、インキュベーターから除去し、dH2Oを用いて十分にすすぎ、その後、2%酢酸に30分間浸し、結合したプロテアーゼを除去した。細長い一片を、その後、十分に再びすすいで酢酸を除去し、ドラフトチャンバー中で一晩乾燥させた。一度乾燥させると、フィルムの細長い一片を、20℃±2℃及び65%±2%の相対湿度で少なくとも48時間再び調節し、再度量り分けた。合計5の細長い一片に各実験群について及び各時点で量り分けた。各時点での試料の重量減少は、オリジナルの(調節された)重量のパーセンテージとして表現した5の試料の平均±標準偏差として現れた。
【0204】
実施例9 - 表面計量学及び粗度
各試料の表面粗度を、光学形状測定を用いて計算する。簡潔に述べると、3つのフィルムの上及び底を、Veeco Dektak 150 Contour GT(Bruker、ビレリカ、MA、米国)上で、撮像する。2X倍率器を用いて50Xの倍率でスキャンを行う。各スキャンについてのアウトプットファイルを、その後、オープンソースソフトウェアGwyddion(バージョン2.44)にインポートする;スキャンを平面レベリングにより補正し、その後、二乗平均平方根(RMS)粗度(R)を計算する。Gwyddionにより同定した欠測データをマスクし、粗度計算から除く。粗度データは、測定した各タイプの3つのフィルムの平均±標準偏差として表される。
【0205】
実施例10 - 走査電子顕微鏡法
組織培養プレートにおける試料をPBSで30分間、RTですすぎ、その後、RTで、1時間ごとにエチルアルコールの濃度を増加させながら(50%、70%、95%、100%超脱水2回の交換)、脱水する。COにおける試料の臨界点乾燥をEmitechモデルK850臨界点乾燥機で行う。アルゴンガス中、0.07トールでの2分間、25kVで、Polaron Equipment Inc、モデルE5100スパッタコーターにおいて、スパッタコーティングを行う。試料を、アルミニウムスタブ上にマウントし、Philips、モデルXL30スキャニング電子顕微鏡で見る。画像を18x、200x及び500x倍率で取得する。画像情報を各画像上に刻み込まれたデータバーに記録した。
【0206】
実施例11 - ナノインデンテーション
材料を、金属スタブ上に強力瞬間接着剤でくっつけ、Hysitronナノインデンター950のステージ上に置く。試料を、アルミニウム対照試料に対して、キャリブレートする。各試験試料について、各測定点でソフトウェアにおいて、20の測定を硬度について行い、相当弾性係数を計算する。
【0207】
実施例12 - 細胞移動
DMEM/10%FBS中で増殖させたストック培養からのヒト鼓膜ケラチノサイトを、トランスウェル培養インサートに24時間、プレートする。トランスウェル膜は、事前に2mm生検パンチを用いて穿孔し3つの穴を作っていなければならない。インサートは、試験材料上に置き、細胞は、培地中で覆われる。48時間にわたり、細胞は、支持膜から試験材料に移動する。細胞は、その後、ホルマリン中で固定し、試験材料へ移動した細胞を、核染色(DAPI)後に蛍光顕微鏡で撮像し、PBS/グリセロールポリウレタン中、カバースリップの下、スライド上にマウントする。移動量を、覆われた表面積の割合に基づいて推定する。
【0208】
実施例13 - 細胞生存率
細胞生存率についての定量的比色分析アッセイを、細胞毒性対照として5%DMSOを用い、ヒト鼓膜ケラチノサイト培養物を用いて行う。アッセイは、96ウェル培養プレート中で、CellTiter96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assayキットを用いて行い、MTS基質コンバージョンにより、細胞数を推定する。Epoch、BioTekプレートリーダーにおいて、プレートを読む。
【0209】
結果:
透過性:
ポリウレタンベースの膜は、可視波長での純粋なシルク膜と類似の合計透過率を示した(図1)。ポリウレタンベースの膜は、より高い拡散透過率を示し、それらが光をより多く散乱させることが示唆された(フィルムをわずかに不鮮明にした/濁らせた)。しかしながら、これは、用いられるポリウレタンのタイプに依存する。より高い又はより低い透明性である他のポリウレタンが、選択されてもよい。
【0210】
音響特性(LDV):
ポリウレタンのより低い剛性が、シルクベースの膜の音響特性を改善する(図2)。純粋なシルク膜と比較して、シルク/ポリウレタン膜は、より低い共鳴ピークを有し、それらを自然な鼓膜の共鳴(500から1,000Hzの間)により近づける。シルクベースの膜のより高い振幅が維持され、3,000Hz未満の周波数では、振動振幅が純粋なシルク膜と比較してより良好である(図2)。
【0211】
機械的特性(引張強度、ヤング係数、最大限伸長、空気圧負荷下での変位、ナノインデンテーション):
空気圧負荷下での変位:
表1は、ポリウレタン含有量がフィルムにおいて増加するにつれ、全体的な剛性(ヤング係数)が低下し、破断伸びが上昇することを示している。これは、フィルムの全体的感覚と一致する。フィルムにおいてポリウレタン含有量が高いほど、弾性及び柔軟性が大きく感じられる。ポリウレタンが、主な成分になると(即ち、フィルム中に50%より多くのポリウレタンが存在する場合)、ポリウレタンが、マトリックスになり、このマトリックス内に、シルクの球が位置する。シルクは、硬化剤として作用する。
【表1】
【0212】
化学的特性(βシート含有量、分解に対する抵抗):
分解に対する抵抗
in vitroで1mg/mLプロテアーゼ酵素カクテルと共に28日間インキュベートした場合に、有意な分解は検出されなかった(図3)。0.4%w/wの平均重量減少であった対照フィルム(酵素を含まずにインキュベート)と比較して、28日後の減少は0.8%w/wであった。これは、グリセロールを用いて可塑化されたシルク膜を超える有意な改善であった。
【0213】
使用されるプロテアーゼタイプ及び選択された濃度は、以前の方法に基づき、シルク繊維の分解におけるそれらの効率のために選択された(Horan et al., 2005)。当該研究は、加速された分解研究として理解することができる。分解は、in vivo環境において、はるかに緩やかであると考えられる。
【0214】
参考文献
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WO2012090553A1
図1
図2
図3