(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】制振シートの設置方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220810BHJP
B63B 29/02 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
F16F15/02 S
B63B29/02 Z
(21)【出願番号】P 2019016847
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】306013120
【氏名又は名称】昭和電線ケーブルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 岳男
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211023(JP,A)
【文献】特開2010-084803(JP,A)
【文献】特開平10-138388(JP,A)
【文献】特開2001-032210(JP,A)
【文献】特開平01-178338(JP,A)
【文献】特開平05-196091(JP,A)
【文献】特開平09-310429(JP,A)
【文献】特開平01-114432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
B63B 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拘束板と、前記拘束板の一方の面に設けられた制振材とを備え、前記拘束板と前記制振材を貫通する貫通孔が形成されている制振シートについて、前記制振材が制振対象に対面するように設置する、制振シートの設置方法であって、
一端が前記制振対象に固定され、雄ネジを有する棒状の第1締結部材を前記貫通孔に貫通させた状態で、前記第1締結部材の他端に、雌ネジを有する第2締結部材を締め付ける締め付け工程を含み、
前記締付け工程では、前記制振シートが前記制振対象に対して0.4MPa以上0.8MPa以下の圧力で密着するように前記第2締結部材の締め付けを行う、
制振シートの設置方法。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記制振シートの中心に形成されている、
請求項1に記載の制振シートの設置方法。
【請求項3】
前記貫通孔は、複数であって、前記制振シートの中心と共に、前記制振シートの中心よりもコーナー部に近い部分に形成されている、
請求項1に記載の制振シートの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振シートの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制振シートの制振対象は、床、壁、機械装置の筐体などの振動体である。制振シートは、振動体の振動に起因して騒音等の不具合が生ずることを抑制するために、振動体に設置される。制振シートは、たとえば、接着剤を用いて制振対象に接着される。また、制振シートは、ボルトなどの締結部材を用いて制振対象に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-310429号公報
【文献】特開2010-84803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振シートは、たとえば、船舶において、床や壁に設置される。船舶において、床や壁は、一般的に、鋼板を用いて構成されており、振動に起因して騒音が生ずる。しかしながら、従来の制振シートは、騒音を抑制する制振効果(損失係数)が十分でない場合がある。また、制振シートが床や壁に十分に固定されず、制振シートが脱離する場合がある。
【0005】
特に、船舶において壁等に用いられた鋼板は、溶接などの熱による影響で歪みが生じ、表面に凹凸(不陸)がある場合が多いので、制振シートが壁等に十分に密着しない場合がある。そして、密着力の低下に伴い、制振効果の低下、および、制振シートの脱離が生ずる可能性が高まる。制振対象が船舶以外である場合においても同様な不具合が生ずる場合がある。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、制振効果が向上し、脱離の発生を抑制可能な、制振シートの設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制振シートの設置方法では、拘束板と、拘束板の一方の面に設けられた制振材とを備え、拘束板と制振材を貫通する貫通孔が形成されている制振シートについて、制振材が制振対象に対面するように設置する。当該設置方法は、一端が制振対象に固定され、雄ネジを有する棒状の第1締結部材を貫通孔に貫通させた状態で、第1締結部材の他端に、雌ネジを有する第2締結部材を締め付ける締め付け工程を含む。締付け工程では、制振シートが前記制振対象に対して0.4MPa以上0.8MPa以下の圧力で密着するように前記第2締結部材の締め付けを行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制振効果が向上し、脱離の発生を抑制可能な、制振シートの設置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る制振シート1の要部を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る制振シート1の要部を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る制振シート1の設置方法を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、例2と例1との各結果を示す図である。
【
図5】
図5は、例3と例1との各結果を示す図である。
【
図6】
図6は、例4と例1との各結果を示す図である。
【
図7】
図7は、例5と例1との各結果を示す図である。
【
図8】
図8は、例6と例1との各結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下より、発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、発明は、図面の内容に限定されない。また、図面は、概略を示すものであって、各部の寸法比などは、現実のものとは必ずしも一致しない。
【0011】
[A]構成
図1および
図2は、実施形態に係る制振シート1の要部を模式的に示す図である。
図1は、上面を示す図である。
図2は、
図1に示すX1-X1部分の断面を示す図であって、制振シート1が制振対象80に設置される際の様子を併せて示している。
図1および
図2において、z方向は、制振シート1の厚み方向zであり、x方向は、z方向に直交する第1方向であり、y方向は、厚み方向zおよび第1方向x方向に直交する方向である。
【0012】
本実施形態において、制振シート1は、
図1に示すように、第1方向xに沿った一対の辺と、第1方向xに直交する第2方向yに沿った一対の辺とを含む外形であって、4つの直角のコーナー部を備える正方形形状である。
【0013】
図2に示すように、制振シート1は、拘束板10と制振材20と粘着層30とを備えていると共に、貫通孔K1が形成されている平板である。そして、制振シート1は、拘束板10が制振材20および粘着層30を介して制振対象80に対面するように設置される。制振シート1の制振対象80は、たとえば、船舶の床や壁を構成する鋼板であって、制振シート1は、制振対象80に伝わった振動を減衰し、固体伝搬音を抑制するように構成されている。
【0014】
制振シート1を構成する各部の詳細について順次説明する。
【0015】
[A-1]拘束板10
制振シート1において、拘束板10は、たとえば、鋼、アルミニウムなどの金属材料を用いて形成された金属板である。拘束板10は、第1面10a、および、第1面10aの反対側に位置する第2面10bを有し、制振シート1が制振対象80に設置される際には、第2面10bが制振対象80の側に位置する。
【0016】
拘束板10は、金属板の他に、ポリ塩化ビニール、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどで形成された樹脂板であってもよい。拘束板10は、制振対象80の材料等に応じて適宜選択された材料を用いて形成される。
【0017】
[A-2]制振材20
制振シート1において、制振材20は、合成ゴム、その他材料を所定の割合で混合した混合物を用いて形成されている。制振材20は、制振シート1が制振対象80に設置された際に拘束板10において制振対象80の側に位置する第2面10bに設けられている。制振材20は、たとえば、拘束板10に接着されている。
【0018】
[A-3]粘着層30
制振シート1において、粘着層30は、制振材20を介して、拘束板10の第2面10bに設けられている。図示を省略しているが、制振シート1を制振対象80に設置する前は、粘着層30は、剥離紙(離型紙)で被覆された状態にある。
【0019】
[A-4]貫通孔K1
貫通孔K1は、制振シート1において第1面10aの側から第2面10bの側に貫通するように形成されている。ここでは、貫通孔K1は、円形状であって、複数が形成されている。たとえば、貫通孔K1は、5つであって、制振シート1の中心Cと共に、制振シート1の中心Cよりも制振シート1のコーナー部に近い部分のそれぞれに形成されている。
【0020】
[A-5]その他
本実施形態において、制振シート1を作製する際には、拘束板10の第2面10bに制振材20と粘着層30とを順次設ける。その後、制振材20と粘着層30とが設けられた拘束板10の一部を円形状に切断することで貫通孔K1を形成する。
【0021】
なお、本実施形態において、制振材20の厚み、および、拘束板10の厚みは、抑制する振動の周波数等に応じて任意であるが、制振材20の厚みが拘束板10の厚みよりも厚い方が好ましい。これにより、制振対象80に対して制振材20を均一に貼り付けることができるので、制振効果が向上し、脱離の発生を抑制可能である。たとえば、制振材20の厚みは、1.0mm以上6.0mm以下の範囲であるのに対して、拘束板10の厚みは、たとえば、0.6mm以上3.2mm以下の範囲である。
【0022】
[B]設置方法
上記の制振シート1を制振対象80に設置する設置方法に関して説明する。
【0023】
図3は、実施形態に係る制振シート1の設置方法を模式的に示す図である。
図3は、
図2と同様な部分の断面を示す図であって、制振シート1が制振対象80に設置される際の様子を併せて示している。
【0024】
ここでは、
図2と共に、
図3を用いて制振シート1の設置方法の説明を行う。本実施形態では、
図2および
図3に示すように、スタッドボルトなどの雄ネジ部材81(雄ネジを有する棒状の第1締結部材)、および、ナットなどの雌ネジ部材82(雌ネジを有する第2締結部材)を用いることによって、制振シート1の設置を行う。
【0025】
具体的には、まず、
図2に示すように、制振対象80に設けられた雄ネジ部材81に制振シート1の貫通孔K1を貫通させる。
【0026】
ここでは、たとえば、摩擦圧接によって雄ネジ部材81を制振対象80に接合する。そして、拘束板10の第2面10bが制振材20を介して制振対象80に対面するように、制振シート1を配置する。その後、制振対象80に設けられた雄ネジ部材81を制振シート1の貫通孔K1に挿入する。
【0027】
つぎに、
図3に示すように、貫通孔K1に挿入された雄ネジ部材81に雌ネジ部材82を締め付ける(締付け工程)。
【0028】
雌ネジ部材82の締め付けによって雌ネジ部材82が制振対象80の側に移動する。これに伴って、制振シート1は、制振材20が粘着層30を介して制振対象80に密着した状態になり、制振対象80に締結される。
【0029】
図示を省略しているが、制振対象80に設けられた複数の雄ネジ部材81のそれぞれが、複数の貫通孔K1のそれぞれに挿入され、その雄ネジ部材81のそれぞれに雌ネジ部材82が取り付けられて締結される。
【0030】
本実施形態では、制振シート1が制振対象80に対して0.4MPa以上0.8MPa以下の範囲の圧力で密着するように、雌ネジ部材82の締め付けを行う。つまり、制振シート1を構成する制振材20の面と制振対象80の面とが上記の圧力範囲で密着した部分を含む状態になる。具体的には、少くとも、締め付けられた雌ネジ部材82の周囲において、圧力が上記の圧力範囲になるように締め付けを行う。
【0031】
[C]まとめ
詳細については後述するが、制振シート1を構成する制振材20の面と制振対象80の面とが上記の圧力範囲で密着することによって、制振シート1の脱離を効果的に防止すると共に、制振効果を効果的に発現させることができる。
【0032】
本実施形態では、貫通孔K1は、複数であって、制振シート1の中心と共に、制振シート1の中心よりもコーナー部に近い部分に形成されている。このため、雌ネジ部材82の締め付けによって、制振材20を制振対象80に対して均一に密着させることができる。その結果、本実施形態は、制振効果を更に高めることができる。
【0033】
[D]変形形態
なお、上記の実施形態では、制振シート1は、外形が正方形形状である場合について説明したが、これに限らない。制振シート1の外形は、正方形形状などの多角形形状以外に円形状などの種々の形状であってもよい。制振シート1の外形は、設置場所等の事情に応じて、適宜、好適な形状を採用可能である。
【0034】
また、上記の実施形態では、制振シート1の貫通孔K1が、複数である場合について説明したが、これに限らない。たとえば、貫通孔K1が単数であって、制振シート1の中心に形成されていてもよい。この場合においても、制振材20を制振対象80に対して均一に密着させることができる。
【0035】
以上、発明の実施形態を説明したが、発明は上記記載内容に限定されるものではなく、当然ながら、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下より、制振シート1の設置方法に関する実施例等について
図4から
図8を用いて説明する。なお、理解を容易にするため、実施例等の説明では、上記の実施形態と同様に、各部に符号を付している。
【0037】
図4から
図8においては、例1から例6の結果を示している。例1、例2、および例6は、比較例であり、例3、例4、および、例5は、実施例である。
【0038】
具体的には、例1は、制振シート1を制振対象80に密着させたときの圧力(面圧)が0MPaである場合の結果である。つまり、例1は、雌ネジ部材82の締め付けを行わずに、粘着層30の粘着機能によって制振シート1を制振対象80に密着させた状態である場合の結果を示している。
【0039】
例2は、雌ネジ部材82の締め付けを行うことによって、制振シート1を制振対象80に密着させたときの圧力(面圧)が0.2MPaである場合の結果である。そして、例3は、その圧力が0.4MPaである場合の結果であり、例4は、その圧力が0.6MPaである場合の結果である。そして、例5は、その圧力が0.8MPaである場合の結果であり、例6は、その圧力が1.0MPaである場合の結果である。
【0040】
各例においては、制振対象80、制振シート1、雄ネジ部材81、および、雌ネジ部材82について下記条件に示すものを用いた。
【0041】
[制振対象80]
・材料:鋼板SS400
・厚み:9mm
【0042】
[制振シート1]
(拘束板10)
・材料:亜鉛メッキ鋼板SGHC
(制振材20)
・材料:合成ゴム
・厚み:4.5mm
【0043】
[雄ネジ部材81]
・スタッドボルト(ネジの呼び径:M6)
【0044】
[雌ネジ部材82]
・ナット(ネジの呼び径:M6)
【0045】
各例において、制振シート1を制振対象80に密着させたときの圧力(面圧)の測定は、圧力測定フィルム(商品名:プレスケール(登録商標),富士フイルム株式会社製)を用いて実行した。
【0046】
そして、各例において制振シート1を制振対象80に設置した状態に関して、振動の周波数と損失係数との関係(振動減衰特性)を測定した。ここでは、「制振鋼板の振動減衰特性試験方法」(JIS G 0602-1993)において、試験片の保持方式が「中央支持」である条件で測定を行った。
【0047】
図4から
図8のそれぞれにおいては、例2から例6のそれぞれの結果(実線)を例1の結果(破線)と共に併記している。つまり、
図4では、例2と例1との各結果を示し、
図5では、例3と例1との各結果を示し、
図6では、例4と例1との各結果を示している。同様に、
図7では、例5と例1との各結果を示し、
図8では、例6と例1との各結果を示している。
【0048】
例1(0MPa)および例2(0.2MPa)は、
図4に示すように、周波数が250Hzから500Hzである低周波数帯域において損失係数が同様である。そして、周波数が500Hzから1000Hzである高周波数帯域においては、損失係数は、例1(0MPa)よりも例2(0.2MPa)の方が大きい。
【0049】
例3(0.4MPa)は、
図5に示すように、低周波数帯域(250~500Hz)、および、高周波数帯域(500~1000Hz)の両者において、損失係数が例1(0MPa)よりも大きい。
【0050】
例4(0.6MPa)は、
図6に示すように、低周波数帯域(250~500Hz)、および、高周波数帯域(500~1000Hz)の両者において、損失係数が例1(0MPa)よりも大きい。
図6と
図5とを比較して判るように、例4(0.6MPa)は、低周波数帯域(250~500Hz)において、損失係数が例3(0.4MPa)よりも大きい。
【0051】
例5(0.8MPa)は、
図7に示すように、低周波数帯域(250~500Hz)、および、高周波数帯域(500~1000Hz)の両者において、損失係数が例1(0MPa)よりも大きい。
図7と
図6とを比較して判るように、例5(0.8MPa)は、周波数が500Hzである条件において、損失係数が例4(0.6MPa)よりも小さい。
【0052】
例6(1.0MPa)は、
図8に示すように、周波数が500Hzである条件において、損失係数が例1(0MPa)よりも小さい。
【0053】
図4から
図8のそれぞれに示す結果から判るように、制振シート1が制振対象80に対して0.4MPa以上0.8MPa以下の範囲の圧力で密着する場合(例2~例5)には、本範囲以外の場合(例1,例2,例6)よりも、広い周波数帯域(250~1000Hz)において、損失係数を高めて、振動減衰特性を向上することができる。その結果、制振シート1の脱離を効果的に防止すると共に、制振効果を効果的に発現させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…制振シート、10…拘束板、10a…第1面、10b…第2面、20…制振材、30…粘着層、80…制振対象、81…雄ネジ部材(第1締結部材)、82…雌ネジ部材(第2締結部材)、C…中心、K1…貫通孔