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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20220810BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
B60C11/03 100C
B60C11/12 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019113859
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020203657
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 眞由子
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-88125(JP,A)
【文献】特開2017-128194(JP,A)
【文献】特表2015-504808(JP,A)
【文献】米国特許第3494401(US,A)
【文献】特開2011-42260(JP,A)
【文献】特開2016-132359(JP,A)
【文献】特開平10-211805(JP,A)
【文献】特開2007-45324(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018174(WO,A1)
【文献】特開2015-16839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0108214(US,A1)
【文献】特開2019-73230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3本以上の周方向溝と、
前記周方向溝に区画され、幅方向一方側の接地端を含む第1のショルダー部と、
前記周方向溝に区画され、幅方向他方側の接地端を含む第2のショルダー部と、
前記第1のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第1の陸部と、
前記第2のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第2の陸部と、
前記第1のショルダー部及び前記第1の陸部の双方に、前記第1のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部と、
前記第2のショルダー部及び前記第2の陸部の双方に、前記第2のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部と、
を備え、
前記第1の陸部が、第1のブロック列及び第2のブロック列を有し、
前記第1のブロック列は、前記第1の陸部内において前記周方向溝の溝幅よりも狭幅とされ、周方向に延長する細溝と、当該細溝から前記第1のショルダー部を区画する周方向溝に延長する第1サイプとにより区画され、
前記第2のブロック列は、前記細溝と、当該細溝から前記第1のショルダー部を区画する周方向溝に隣り合う周方向溝に延長する第2サイプとにより区画され、
前記第1サイプは、周方向に凸となる曲部を有して延長し、前記第2サイプとは周方向にずれた位置に形成されたタイヤ。
【請求項2】
少なくとも3本以上の周方向溝と、
前記周方向溝に区画され、幅方向一方側の接地端を含む第1のショルダー部と、
前記周方向溝に区画され、幅方向他方側の接地端を含む第2のショルダー部と、
前記第1のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第1の陸部と、
前記第2のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第2の陸部と、
前記第1のショルダー部及び前記第1の陸部の双方に、前記第1のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部と、
前記第2のショルダー部及び前記第2の陸部の双方に、前記第2のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部と、
を備え、
前記第1の陸部が、前記第1のショルダー部を区画する周方向溝から当該周方向溝に隣り合う周方向溝に延長するサイプにより区画されたブロック列と、
前記周方向溝の溝幅よりも狭幅とされ、前記サイプと交差して周方向に断続的に延長する複数の細溝と、
を有するタイヤ。
【請求項3】
前記凹部のタイヤ幅方向に対する鋭角側の傾斜角度が0°~45°である請求項1又は請求項2記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関し、特に摩耗限界を適切に把握させることが可能なタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェット性能、及びロードノイズの向上が図られたタイヤにあっては、図6に示すように周方向溝の溝幅を広く設定する傾向にあった。
【0003】
しかしながら、同図のようなタイヤにあっては、周方向溝の溝幅が広く設定されていることに起因して、光が溝底内を照らし易く、外部から溝底が明るく見えてしまう結果、タイヤ本来の摩耗限界を迎える前に、ユーザーに摩耗限界が近づいたように誤認させてしまうと言う欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-124712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、ウェット性能及びロードノイズ性能を担保しつつ、摩耗限界に関するユーザーの誤認の可能性を低減,防止可能なタイヤ提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するためのタイヤの構成として、少なくとも3本以上の周方向溝と、周方向溝に区画され、幅方向一方側の接地端を含む第1のショルダー部と、周方向溝に区画され、幅方向他方側の接地端を含む第2のショルダー部と、第1のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第1の陸部と、第2のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第2の陸部と、第1のショルダー部及び第1の陸部の双方に、第1のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部と、第2のショルダー部及び第2の陸部の双方に、第2のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部とを備え、第1の陸部が、第1のブロック列及び第2のブロック列を有し、第1のブロック列は、第1の陸部内において周方向溝の溝幅よりも狭幅とされ、周方向に延長する細溝と、当該細溝から第1のショルダー部を区画する周方向溝に延長する第1サイプとにより区画され、第2のブロック列は、細溝と、当該細溝から第1のショルダー部を区画する周方向溝に隣り合う周方向溝に延長する第2サイプとにより区画され、第1サイプは、周方向に凸となる曲部を有して延長し、第2サイプとは周方向にずれた位置に形成された構成とした。
本構成によれば、ウェット性能及びロードノイズ性能を確保しつつ、摩耗限界に関するユーザーの誤認の可能性を低減可能なタイヤとすることができる。
また、少なくとも3本以上の周方向溝と、周方向溝に区画され、幅方向一方側の接地端を含む第1のショルダー部と、周方向溝に区画され、幅方向他方側の接地端を含む第2のショルダー部と、第1のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第1の陸部と、第2のショルダー部を区画する周方向溝と、当該周方向溝に隣り合う周方向溝との間に位置する第2の陸部と、第1のショルダー部及び第1の陸部の双方に、第1のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部と、第2のショルダー部及び第2の陸部の双方に、第2のショルダー部を区画する周方向溝を跨いで延長する凹部とを備え、第1の陸部が、第1のショルダー部を区画する周方向溝から当該周方向溝に隣り合う周方向溝に延長するサイプにより区画されたブロック列と、周方向溝の溝幅よりも狭幅とされ、サイプと交差して周方向に断続的に延長する複数の細溝とを有する構成としても良い。
また、凹部のタイヤ幅方向に対する鋭角側の傾斜角度を0°~45°としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】トレッドパターンを示す平面図(実施形態1)である。
図2】トレッドパターンを示す拡大図である。
図3】トレッドパターンを示す平面図(実施形態2)である。
図4】トレッドパターンを示す平面図(実施形態3)である。
図5】実施形態に係るタイヤのシミュレーション結果、及び評価を示す表である。
図6】従来のトレッドパターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
以下、各実施形態に基づき本発明を説明するが、タイヤ1の各部の寸法は、JATMA(日本自動車タイヤ協会)が発行する2018年度版「YEAR BOOK」に記載の方法による。同図の矢印Cはタイヤ周方向(単に周方向と言う)を示し、矢印Wはタイヤ幅方向(単に幅方向と言う)を示す。幅方向は、タイヤ回転軸と平行な方向である。また、タイヤには、車両に対する取り付け方向が規定されており、図中のINの符号が車両内側方向を示し、OUTの符号が車両外側方向を示すものとする。
【0010】
[実施形態1]
図1は、例えば内部に空気が充填されたタイヤ1のトレッド3のトレッドパターンを表す平面図である。同図に示すように、トレッド3には、それぞれ平行に延長する3本の周方向溝10;12;14が形成される。周方向溝10は、タイヤ1の赤道面CLを含むタイヤ幅方向中央において周方向に連続して延長する溝である。周方向溝12は、周方向溝10よりも幅方向内側において、周方向に連続して延長する溝である。周方向溝14は、周方向溝10よりも幅方向外側において、周方向に連続して延長する溝である。
【0011】
[内側陸部について]
周方向溝10と当該周方向溝10の幅方向内側に隣り合う周方向溝12との間には、内側陸部20が形成される。内側陸部20は、周方向溝10と周方向溝12とによって区画され、周方向に延長する領域であって、幅方向の略中央には、細溝22が形成される。細溝22は、各周方向溝10;12;14と平行に周方向に連続して延長する溝である。図示の細溝22は、例えば0.1mm以上3.0mm以下に設定されている。また、図示の細溝22は、内側陸部20を幅方向に等分割する位置(5:5)に形成されているが、例えば3:7~7:3に分割する位置に形成しても良く、4:6~6:4に分割する位置とするのがより好ましい。このような細溝22を形成することにより、細溝22を通じて水が排水されて排水性が向上し、さらに内側陸部20の剛性の緩和によってロードノイズの低下を図ることができる。なお、上記の機能を有するような細溝であれば良く、例えば波形やジグザグ形状の細溝であっても良い。
【0012】
内側陸部20には、細溝22から内側に位置する周方向溝12に向かって連続して延長する内側サイプ24と、細溝22から外側に位置する周方向溝10に向かって連続して延長する外側サイプ26とが形成される。
【0013】
内側サイプ24は、両端部がそれぞれ細溝22及び周方向溝12に開口して連通する溝であって、周方向に沿って規則的なピッチを有して形成される。図2に示すように、内側サイプ24は、周方向の一方に向けて凸となる曲部24aと、当該曲部24aを基点として細溝22に向けて拡張しながら延長する拡張部24bと、曲部24aを基点として周方向溝12に向けて直線的に延長する直線部24cとを有する。拡張部24bは、周方向の他方に傾斜しつつ、細溝22に向けて溝幅が漸次拡張しながら延長し、細溝22への開口部において最大幅となる。このような拡張部24bを形成することにより、ウェット路面走行時に内側サイプ24によって吸収された水が細溝22側に適正に導出され、排水性能(ウェット性能)が向上すると共に、ブロックの剛性緩和によってロードノイズの低下が図られる。
【0014】
直線部24cは、曲部24aを基点として周方向の他方に傾斜しつつ周方向溝12に向けて直線的に延長する。このように内側サイプ24は、周方向の一方に向けて凸となる曲部24aを有して概ねV字状に形成される。なお、図示の例では、曲部24aとして角を持たない湾曲状としたが、角を持つ屈曲状としても良い。
【0015】
図1に示すように、外側サイプ26は、両端部がそれぞれ細溝22及び周方向溝10に開口して連通する溝であって、周方向に沿って規則的なピッチを有して形成される。外側サイプ26は、細溝22から周方向の他方に傾斜しつつ周方向溝10に向かって直線的に延長する。外側サイプ26における細溝22に臨む一端側は、周方向に拡張されている。上記同様に、細溝22に臨む外側サイプ26の一端側を拡張することにより、ウェット性能及びロードノイズ性が向上する。
【0016】
以上のとおり、周方向溝10と周方向溝12とによって区画された内側陸部20には、細溝22と内側サイプ24及び外側サイプ26が形成されており、細溝22と周方向溝12及び内側サイプ24によって、同一形状のブロックが周方向に沿って規則的に配列された第1のブロック列B1が区画され、細溝22と周方向溝10及び外側サイプ26によって、同一形状のブロックが周方向に沿って配列された第2のブロック列B2が区画される。換言すれば、内側陸部20は、細溝22と当該細溝22の内側に隣り合う周方向溝12及び幅方向に延長する内側サイプ24によって区画された第1のブロック列B1と、細溝22と当該細溝22の外側に隣り合う周方向溝10及び幅方向に延長する外側サイプ26によって区画された第2のブロック列B2との複数のブロック列を含んで構成される。
【0017】
また、内側陸部20に形成された内側サイプ24と外側サイプ26とは、互いに周方向に位置ズレ(位相ずれ)した位置に形成されている。より詳細には、内側サイプ24及び外側サイプ26の延長線同士が内側陸部20内において互いに交わることなく形成されている。このような位置関係とすることにより、第1のブロック列B1のブロック剛性と第2のブロック列B2のブロック剛性の分布を内側陸部20内において均一化することができ、耐摩耗性の向上及びロードノイズの低下を図ることができる。また、排水性の観点から、内側サイプ24と外側サイプ26の傾斜角度は、幅方向と平行、或いは、幅方向に対して鋭角側が45°以下となるように設定するのが望ましい。ここで、サイプの傾斜角度とは、サイプの最内側の端点と最外側の端点とを結んだ直線の角度を言うものとする。
【0018】
[外側陸部について]
周方向溝10と当該周方向溝10の幅方向外側に隣り合う周方向溝14との間には、外側陸部30が形成される。外側陸部30には、周方向溝10から周方向溝14に向かって連続して延長するサイプ32が形成され、当該サイプ32によって同一形状のブロックが周方向に沿って配列されたブロック列B3が形成される。サイプ32は、両端部がそれぞれ周方向溝10及び周方向溝14に開口して連通する溝であって、周方向に沿って規則的なピッチを有して形成される。図2に示すように、サイプ32は、内側サイプ24とは逆方向に、周方向の他方に向けて凸となる曲部32aと、当該曲部32aを基点として周方向溝10に向けて直線的に延長する直線部32bと、曲部32aを基点として周方向溝14に向けて拡張しながら延長する拡張部32cとを有する。直線部32bにおける内側の延長線は、外側サイプ26の延長方向と一致しており、互いに隣り合うブロック列B2の各ブロックとブロック列B3の各ブロックとの剛性の均一化が図られる。拡張部32cは、周方向溝14に向かうに従って溝幅が拡大しており、周方向溝14への排水性及びロードノイズ性の向上が図られる。なお、サイプ32の傾斜角度やサイプ幅は、上述の内側サイプ24及び外側サイプ26と同様の範囲から任意に設定できる。
【0019】
[内側ショルダー部について]
図1に示すように、周方向溝12の内側には、内側ショルダー部40が形成される。内側ショルダー部40は、周方向溝12の内側端縁12aから内側トレッド端T1を含んで周方向に延長する領域である。当該領域のうち、P1で示す接地端までが路面と当接する接地領域(接地端)であり、接地端P1よりも内側の領域が非接地領域となる。同図に示すように、内側ショルダー部40には、概ね周方向溝12と交差する幅方向に延長する複数の横溝42と、各横溝42の間において幅方向に延長する内側ショルダーサイプ44が形成される。
【0020】
横溝42は、内側トレッド端T1から周方向の一方に向けて傾斜すると共に、屈曲部を基点として周方向の一方に向けて緩やかに傾斜しながら周方向溝12に向けて延長する溝であって、周方向溝12と交わることなく接地領域内において終端する。
【0021】
図2に示すように、内側ショルダーサイプ44は、周方向溝12を幅方向に跨ぐように形成された後述の内側凹部60と連通し、周方向の他方に向けて緩やかに傾斜しながら非接地領域において終端する細溝である。内側ショルダーサイプ44は、互いに周方向に隣り合う横溝42;42の周方向の離間距離の略中央部を横溝42の形状に沿うように延長する。
【0022】
[外側ショルダー部について]
図1に示すように、周方向溝14の外側には、外側ショルダー部50が形成される。外側ショルダー部50は、周方向溝14の外側端縁14aから外側トレッド端T2を含んで周方向に延長する領域である。当該領域のうち、P2で示す接地端までが路面と当接する接地領域(接地端)であり、接地端P2よりも外側の領域が非接地領域となる。つまり、本実施形態におけるタイヤの接地領域は、P1からP2に示す範囲となる。同図に示すように、外側ショルダー部50には、概ね周方向溝14と交差する幅方向に延長する複数の横溝52と、各横溝52の間において幅方向に延長する外側ショルダーサイプ54とが形成される。横溝52は、外側トレッド端T2の近傍に形成され、幅方向外側から内側に向かって周方向の他方に傾斜しながら延長する装飾溝56の先端側と連通すると共に、周方向の他方に向けて緩やかに傾斜しながら非接地領域を経て接地領域において終端する。
【0023】
外側ショルダーサイプ54は、周方向溝14を幅方向に跨ぐように形成された後述の外側凹部70と連通し、周方向の一方に向けて緩やかに傾斜しながら外側トレッド端T2側の非接地領域に至る細溝である。外側ショルダーサイプ54は、互いに周方向に隣接する横溝52;52の周方向の離間距離の略中央部を横溝52の形状に沿うように延長する。
【0024】
[内側凹部について]
図1図2に示すように、内側陸部20と内側ショルダー部40を隔てる周方向溝12と、外側陸部30と外側ショルダー部50とを隔てる周方向溝14とには、それぞれ内側凹部60及び外側凹部70が形成される。図2に示すように、内側凹部60は、周方向溝12と連通し、内側ショルダー部40側に食い込むように周方向の一方に傾斜して延長する第1溝部60aと、周方向溝12と連通し、内側陸部20の第1のブロック列B1側に食い込むように周方向の他方に傾斜して延長する第2溝部60bとを有する。つまり、内側凹部60を全体視した場合、内側凹部60は、周方向溝12を幅方向に跨ぐように延長しており、全体として幅方向内側から外側に向かって周方向の他方に傾斜するように形成される。
【0025】
第1溝部60aの幅方向の内側端S1は、前述の内側ショルダーサイプ44と連通しており、第1溝部60aと内側ショルダーサイプ44とが外観上一連となって内側トレッド端T1側に延長する。また、第1溝部60aの内側端S1は、周方向に隣り合う横溝42;42の外側端Q1;Q1の離間距離の略中央に位置しており、内側端S1と当該内側端S1から最も近い周方向の一方側の外側端Q1との離間距離L1と、内側端S1と当該内側端S1から最も近い周方向の他方側の外側端Q1との離間距離L2とは、外見上、その異同が判別し難い程度に設定される。
【0026】
周方向溝12と連通するこのような第1溝部60aを形成することにより、溝部を形成しない場合との比較において、周方向溝12によって隔てられた内側ショルダー部40における空白領域が減少し、第1溝部60aと横溝42との間に視覚的な一体性が生じるため、摩耗の進行によって周方向溝12の内部や溝底が露わとなった場合であっても、摩耗限界が近づいたと誤認させる可能性を効果的に減少させることができる。また、内側ショルダーサイプ44によって吸収された水を第1溝部60aを経由して周方向溝12に適切に排水できるため、排水性の向上を図ることができる。
【0027】
第2溝部60bの外側端S2は、周方向に隣り合う内側サイプ24;24の離間距離の中央又は略中央に位置しており、内側陸部20を周方向に見た場合、第2溝部60bと内側サイプ24とが交互に配列された位置関係となる。
【0028】
[外側凹部について]
図2に特に示すように、外側凹部70は、周方向溝14と連通し、外側ショルダー部50側に食い込むように周方向の一方に傾斜して延長する第1溝部70aと、周方向溝14と連通し、外側陸部30に食い込むように周方向の他方に傾斜して延長する第2溝部70bとを有する。つまり、外側凹部70を全体視した場合、外側凹部70は、周方向溝14を幅方向に跨ぐように延長しており、全体として幅方向内側から外側に向かって周方向の一方に傾斜するように形成される。換言すれば、前述の内側凹部60と外側凹部70は、互いに幅方向内側から外側に向かって逆方向に傾斜している。
【0029】
第1溝部70aの外側端S3は、前述の外側ショルダーサイプ54と連通しており、第1溝部70aと外側ショルダーサイプ54とが外観上一連となって外側トレッド端T2側に延長する。また、第1溝部70aの外側端S3は、周方向に隣り合う横溝52;52の内側端Q2;Q2の離間距離の中央又は略中央に位置しており、外側端S3と当該外側端S3から最も近い周方向の一方側の内側端Q2との離間距離L3と、外側端S3と当該外側端S3から最も近い周方向の他方側の内側端Q2との離間距離L4とは、外見上、その異同が判別し難い程度に設定される。
【0030】
前述の第1溝部60aと同様に、周方向溝14と連通する第1溝部70aを形成することにより、このような溝部を形成しない場合との比較において、周方向溝14によって隔てられた外側ショルダー部50における空白領域が減少し、第1溝部70aと横溝52との間に視覚的な一体性が生じ、摩耗の進行によって周方向溝14の内部や溝底が露わとなった場合であっても、摩耗限界が近づいたと誤認させる可能性を効果的に減少させることができる。また、外側ショルダーサイプ54によって吸収された水を第1溝部70aを経由して周方向溝14に適切に排水できるため、排水性の向上を図ることができる。なお、第2溝部70bの内側端は、外側陸部30に形成されたサイプ32;32間の離間距離の中央又は略中央に位置する。
【0031】
以上の通り、本例におけるタイヤ1は、周方向溝12を幅方向に跨ぐように形成された内側凹部60と、周方向溝14を幅方向に跨ぐように形成された外側凹部70とを有しており、当該一対の凹部60;70が形成されたことによって、周囲の領域に形成された溝との位置関係によって影響され易い摩耗限界に対する誤認の可能性を抑制することができる。また、図2に示すように、凹部60の傾斜角度θ1及び外側凹部70の傾斜角度θ2は、排水性向上の観点から幅方向と平行、或いは、幅方向に対して、鋭角側が45°以下となるように設定するのが望ましい。ここで、凹部の傾斜角度とは、凹部の最内側の端点と最外側の端点とを結んだ直線の角度を言うものとし、以下の例についても同様である。
【0032】
[実施形態2]
次に、図3を参照して、実施形態2について説明する。なお、以下の説明においては、実施形態1と異なる部分を詳細に述べ、同一部分については同一符号を用い、説明を省略又は簡略化する。
同図に示すように、実施形態2に係るタイヤ1のトレッド3には、周方向溝10;12;14と、主にこれらの周方向溝によって区画された内側陸部20と、外側陸部30と、内側ショルダー部40、及び外側ショルダー部50とが形成される。
【0033】
[内側陸部について]
同図に示すように、内側陸部20には、周方向に沿って断続的に延長する複数の細溝80と、当該細溝80と交差するように、周方向溝10及び周方向溝12間に渡って延長するサイプ82とが形成される。細溝80は、周方向溝10と、当該周方向溝10に隣り合う周方向溝12との幅方向の離間距離の中央又は略中央位置において周方向延長する溝であって、周方向に隣り合う他の細溝80と均等な間隔を有して配列される。細溝80の周方向の一方の端部は、幅方向内側に突出する鉤状とされており、当該形状によって細溝が途切れることによる摩耗感を低減することができると共に、ブロック剛性を適切なものとすることができるため、ロードノイズを低減させやすくなる。サイプ82は、一端が細溝80と連通し、他端が後述の内側凹部100と連通する第1サイプ82aと、一端が細溝80と連通し、他端が周方向溝10と連通する第2サイプ82bを有する。第1サイプ82a及び第2サイプ82bは、互いに幅方向内側から外側に向けて同一角度で周方向の他方に向けて傾斜し、細溝80の周方向の中央又は略中央を経て連続するように延長する。
【0034】
[内側ショルダー部について]
図3に示すように、内側ショルダー部40には、複数の横溝42と、各横溝42の間において幅方向に延長する第1内側ショルダーサイプ90が形成される。
【0035】
第1内側ショルダーサイプ90は、両端部が非接地領域内において終端しており、幅方向内側から横溝42の傾斜部と対応するように幅方向外側に向かって周方向の一方に傾斜して延長する傾斜部90aと、当該傾斜部90aと連通して幅方向に沿って直線的に延長する直線部90bを有する。第1内側ショルダーサイプ90は、周方向に隣り合う横溝42:42の離間距離の中央又は略中央の位置において延長する。
【0036】
[内側凹部について]
図3に示すように、内側陸部20と内側ショルダー部40を隔てる周方向溝12には、内側凹部100が形成される。内側凹部100は、周方向溝12と連通し、内側ショルダー部40側に食い込むように周方向の他方に傾斜して延長する第1溝部100aと、周方向溝12と連通し、内側陸部20の側に食い込むように周方向の一方に傾斜して延長する第2溝部100bとを有する。つまり、内側凹部100を全体視した場合、内側凹部100は、周方向溝12を幅方向に跨ぐように延長しており、全体として幅方向内側から外側に向かって周方向の一方に傾斜するように形成される。
【0037】
第1溝部100aの内側端S1は、前述の第1溝部100aと同様に、周方向に隣り合う横溝42;42の外側端Q3;Q3の離間距離の中央又は略中央に位置しており、内側端S1と当該内側端S1から最も近い周方向の一方側の外側端Q3との離間距離と、内側端S1と当該内側端S1から最も近い周方向の他方側の外側端Q3との離間距離とは、外見上、その異同が判別し難い程度に設定される。また、内側端S1には、幅方向内側に向かって延長する第2内側ショルダーサイプ110が連通する。第2内側ショルダーサイプ110は、第1溝部100aの傾斜方向に沿うように、幅方向外側から内側に向かって周方向の他方に緩やかに湾曲しつつ傾斜して延長する。第2内側ショルダーサイプ110は、実施形態1との比較において、接地領域内において終端しており、非接地領域に形成された第1内側ショルダーサイプ90と連通することはない。即ち、実施形態1に係る内側ショルダー部40は、幅方向に延長する内側ショルダーサイプ44によって略ブロック状に区画されているのに対して、本例における内側ショルダー部40は、第1内側ショルダーサイプ90と第2内側ショルダーサイプ110とが分断されており、サイプによる明確な区画が存在しない形態である。
【0038】
そして、このような第1溝部100a、及びこれに連通する第2内側ショルダーサイプ110を形成することにより、溝部やサイプを形成しない場合との比較において、周方向溝12によって隔てられた内側ショルダー部40における空白領域が減少し、横溝42との間に視覚的な一体性が生じ、摩耗の進行によって周方向溝12の内部や溝底が露わとなった場合であっても、摩耗限界が近づいたと誤認させる可能性を効果的に減少させることができる。また、第2内側ショルダーサイプ110によって吸収された水を第1溝部100aを経由して周方向溝12に適切に排水できるため、排水性の向上を図ることができる。
【0039】
第2溝部100bの外側端S2は、前述のサイプ82と連通する。内側陸部20を幅方向に横断的に延長するサイプ82が第2溝部100bと連通することにより、サイプ82によって吸収された水が第2溝部100bを経由して周方向溝12から適切に排水される。
【0040】
[外側凹部について]
図3に示すように、外側陸部30と外側ショルダー部50を隔てる周方向溝14には、外側凹部120が形成される。外側凹部120は、周方向溝14と連通し、外側陸部30側に食い込むように周方向の他方に傾斜して延長する第1溝部120aと、周方向溝14と連通し、外側ショルダー部50の側に食い込むように周方向の一方に傾斜して延長する第2溝部120bとを有する。つまり、外側凹部120を全体視した場合、外側凹部120は、周方向溝14を幅方向に跨ぐように延長しており、全体として幅方向内側から外側に向かって周方向の一方に傾斜するように形成される。つまり、本例における内側凹部100と外側凹部120とは互いに同一方向に傾斜している。なお、内側凹部100及び外側凹部120の傾斜角度は、実施形態1と同様に排水性を考慮して、幅方向と平行、或いは、幅方向に対して、鋭角側が45°以下となるように設定するのが望ましい。
【0041】
第1溝部120aの内側端S4は、外側陸部30をブロック状に区画するように、幅方向に沿って延長するサイプ32;32の離間距離の中央又は略中央に位置する。第2溝部120bの外側端S3は、周方向に隣り合う複数の横溝52;52の内側端Q4;Q4の離間距離の中央又は略中央に位置しており、外側端S3と当該外側端S3から最も近い周方向の一方側の内側端Q4との離間距離と、外側端S3と当該内側端S3から最も近い周方向の他方側の内側端Q4との離間距離とは、外見上、その異同が判別し難い程度に設定される。
【0042】
実施形態1との比較において、第2溝部120bは、接地領域内において終端しており、非接地領域に形成された溝やサイプと連通することはない。
【0043】
そして、このような第2溝部120bを形成することにより、このような溝部を形成しない場合との比較において、周方向溝14によって隔てられた外側ショルダー部50における空白領域が減少し、横溝52との間に視覚的な一体性が生じ、摩耗の進行によって周方向溝14の内部や溝底が露わとなった場合であっても、摩耗限界が近づいたと誤認させる可能性を効果的に減少させることができる。
【0044】
[実施形態3]
次に、図4を参照して、実施形態3について説明する。なお、以下の説明においては、実施形態1と異なる部分を詳細に述べ、同一部分については同一符号を用い、説明を省略又は簡略化する。
同図に示すように、本実施形態に係るタイヤ1の内側ショルダー部40には、前述の内側ショルダーサイプ44に替えて複数のピンホールサイプ130が形成された点で異なる。複数のピンホールサイプ130は、周方向に沿って2列となるように配列されている。幅方向外側に位置するピンホール列K1を構成する各ピンホールサイプ130は、周方向溝12と連通する前述の各第1溝部60aの周方向離間距離の中央又は略中央に位置する。また、幅方向内側に位置するピンホール列K2を構成する各ピンホールサイプ130は、前述の複数の横溝42の周方向の離間距離の中央又は略中央に位置する。よって、ピンホール列K1;K2を全体視した場合、各ピンホールサイプ130は周方向に沿って互い違いとなるように配列される。
【0045】
ここで、ピンホールサイプ130の直径は3.0~5.0mmとすることが好ましく、3.5~4.0とすることがより好ましい。また、同図のピンホールサイプ130は、所定の単位ピッチあたり2個配置する構成としたが、1個~4個配置することが好ましく、より好ましくは2~3個配置することが好ましい。一方、ピンホールサイプ130を多く配置しすぎると、内側ショルダー部40の剛性を十分に維持することができないばかりか、騒音性能の悪化や偏摩耗等の要因となりえることがある。
【0046】
このように、第1の実施形態における内側ショルダー部40の内側ショルダーサイプ44をピンホールサイプとすることにより、圧縮剛性をさげることができ、操縦安定性能を向上させることができると共に、耐摩耗性能を向上させることができる。
【0047】
次に、図5(a)を参照して、上述の実施形態1及び実施形態2に係るタイヤ1と、図6に示す従来例に係るタイヤTとの摩耗時におけるシミュレーション結果を説明する。図5(a)に示す表は、内側ショルダー部40及び外側ショルダー部50に形成された溝端部間の距離の変化を摩耗段階ごとに示す表である。ここで、摩耗段階としては、摩耗インジケータを用いて溝深さが1.6mmとなる段階を100%(摩耗限界)として定義した場合のNEW(0%摩耗)、50%摩耗、80%摩耗の3段階とした。また、併せて最下段には80%摩耗時における距離とNEWにおける距離の差を示している。
【0048】
同表中、実施形態1の「IN」の項目に記載された数値は、図1に示す第1溝部60aの内側端S1と横溝42の外側端Q1との幅方向に平行な離間距離R1を示し、「OUT」の項目に記載された数値は、上記同様に、第1溝部70aの外側端S3と横溝52の内側端Q2との幅方向に平行な離間距離(mm:ミリメータ)を示す。
また、実施形態2の「IN」の項目に記載された数値は、上記同様に、図3に示す第1溝部100aの内側端S1と横溝42の外側端Q3との幅方向に平行な離間距離を示し、「OUT」の項目に記載された数値は、上記同様に、図3に示す第2溝部120bの外側端S3と横溝52の内側端Q4との幅方向に平行な離間距離を示す。また、従来例の項目に記載された数値は、図6に示す従来のタイヤTにおける両ショルダー部SHに形成された複数の横溝520の先端部Q6と、当該先端部Q6に最も近い周方向溝の縁部S6との幅方向に平行な離間距離を示す。
【0049】
同表から明らかな通り、実施形態1,2の凹部60;70,凹部100;120に相当する溝を有しない周方向溝が形成された従来例に係るタイヤTと、実施形態1,2に係るタイヤ1とを比較した場合、実施形態1,2に係るタイヤ1の方が各摩耗段階における幅方向の離間距離の変化量が緩やかであるため、ある程度の摩耗進行によってもユーザーが摩耗したように感じることを抑制できる。
また、図5(b)に示す乗り心地、ノイズ、ウェット操縦安定性に関する各性能評価からも明らかな通り、実施形態1に係るタイヤ1は、従来のタイヤTに対していずれの性能においても上回っており、本実施形態に係るタイヤ1の優位性が証明された。
【0050】
以上の通り、本発明を複数の実施形態を通じて説明したが、本発明は以下のような多様な変更が可能である。例えば、各実施形態におけるショルダー部の踏面割合(P1~周方向溝12の縁),(P2~周方向溝14の縁)は、トレッド踏面幅(P1~P2)に対して、それぞれ15%~30%の範囲、より好ましくは、それぞれ20%~30%の範囲で設定可能である。また、各実施形態に係る内側陸部20及び外側陸部30の幅方向寸法は、トレッド踏面幅(P1~P2)に対して、それぞれ20%~30%の範囲で設定可能である。また、各実施形態に係る細溝22;80の幅方向寸法である溝幅は、周方向溝10;12;14の溝幅に対して20%以下に設定するのが好ましく、より好ましくは15%以下とすることが好ましい。細溝の溝幅は、例えば0.1mmから3.0mm程度に設定可能である。また、各実施形態に係るサイプの幅(サイプ幅)は、例えば0.1mm~2.0mm程度に設定可能である。また、このようなサイプを周方向に沿って複数形成する際には、各サイプ間の離間距離を10mm以上50mm以下、より好ましくは10mm以上40mm以下に設定可能である。このような範囲に設定することにより、ロードノイズを抑制しつつ、排水性を向上させることが可能となる。また、適切なブロック剛性を確保できることから、偏摩耗の抑制及び操縦安定性の向上を図ることができる。
また、各実施形態に係る内側凹部60;100及び外側凹部70;120の深さは、少なくともタイヤ1に設定された摩耗限界(厚さ)よりも深い寸法とすれば良く、例えば対応する周方向溝12;14の溝深さと同程度のものとすることができる。
【0051】
また、実施形態1において、内側サイプ24は、曲部24aを有しているが、これを屈曲部とした場合の屈曲角度は、0°から70°の範囲、より好ましくは0°から50°の範囲に設定可能である。
【0052】
また、実施形態2において、断続的に延長する細溝80同士の周方向の離間距離は、3mm以上10mm以下、より好ましくは4.5mm以上から6.5mm以下に設定可能である。このような設定とすることにより、剛性の緩和によるロードノイズの低減と排水性を担保することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 タイヤ,3 トレッド,10;12;14 周方向溝,20 内側陸部,
22 細溝,24 内側サイプ,26 外側サイプ,
30 外側陸部,32 サイプ,40 内側ショルダー部,
42 横溝,44 内側ショルダーサイプ,50 外側ショルダー部,52 横溝,
54 外側ショルダーサイプ,60;100 内側凹部,70;120 外側凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6