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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】ブラケット付き筒型防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/38 20060101AFI20220810BHJP
   F16F 1/387 20060101ALI20220810BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20220810BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
F16F1/38 Z
F16F1/387 F
F16F15/08 W
B60K5/12 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019220663
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2021089051
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 香澄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正樹
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-185193(JP,A)
【文献】特開2015-064098(JP,A)
【文献】特開2015-232361(JP,A)
【文献】特開2017-121882(JP,A)
【文献】実開昭60-167834(JP,U)
【文献】国際公開第2015/145566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/38- 1/393
F16F 15/08
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ部材とアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体で連結された筒型マウント本体と、
該アウタ筒部材が圧入固定された筒状部を有すると共に該筒状部の外周面に突出した取付部を有するアウタ側ブラケットと
を、含むブラケット付き筒型防振装置において、
前記筒型マウント本体には、前記インナ部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の相対変位量を制限する軸直ストッパが周方向で部分的に設けられている一方、
前記アウタ側ブラケットには、前記筒状部の軸方向端部において該軸直ストッパを周方向の両側に外れた部分に一対の切欠部が設けられており、
該一対の切欠部が何れも前記取付部を周方向に外れて位置せしめられており、
該筒状部の軸方向長さが該一対の切欠部によって短くされて、該アウタ筒部材が該切欠部を通じて外周へ露出しているブラケット付き筒型防振装置。
【請求項2】
前記切欠部が前記アウタ側ブラケットの前記筒状部の軸方向両端部に形成されている請求項1に記載のブラケット付き筒型防振装置。
【請求項3】
前記アウタ筒部材の軸方向長さが全周に亘って略一定とされている請求項1又は2に記載のブラケット付き筒型防振装置。
【請求項4】
前記アウタ側ブラケットの前記筒状部は、前記アウタ筒部材よりも肉厚とされている請求項1~3の何れか一項に記載のブラケット付き筒型防振装置。
【請求項5】
前記切欠部は、周方向において前記本体ゴム弾性体の前記アウタ筒部材への固着部分を含む位置に形成されており、
前記インナ部材と該アウタ筒部材を連結する該本体ゴム弾性体の軸方向の有効自由長は、前記アウタ側ブラケットの前記筒状部における該切欠部が形成された部分の軸方向長さ以上とされている請求項1~4の何れか一項に記載のブラケット付き筒型防振装置。
【請求項6】
前記切欠部における周方向の両端部分が、角のない滑らかな湾曲面によって構成されており、前記筒状部における該切欠部を外れた部分の軸方向端面と滑らかに連続している請求項1~5の何れか一項に記載のブラケット付き筒型防振装置。
【請求項7】
前記本体ゴム弾性体には前記インナ部材から前記アウタ筒部材に向かって左右方向の両側で斜め下方に延びる一対の連結部が設けられていると共に、
前記軸直ストッパが該インナ部材と該アウタ筒部材における上下方向の相対変位量を制限するようになっている一方、
前記アウタ側ブラケットには、周方向の一部分に前記取付部が設けられていると共に、左右方向の両側部分において該取付部を周方向で外れた位置に前記切欠部が設けられている請求項1~6の何れか一項に記載のブラケット付き筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウントなどに用いられるブラケット付き筒型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、筒型マウント本体の車両への装着に際して、筒型マウント本体が圧入固定される筒状部を備えたアウタ側ブラケットが採用されている。例えば、実開平6-054938号公報(特許文献1)に開示されているのが、それである。
【0003】
ところで、アウタ筒部材の軸方向長さは、要求特性から決まる本体ゴム弾性体の軸方向自由長や、筒状部への圧入固定による抜け抗力の設定等に応じて設計される。一方、アウタ筒部材は、製造や加工等の理由から比較的に薄肉とされており、要求される強度特性を単体で実現することが難しい場合があり、一般にアウタ側ブラケットによる補強効果が期待されている。このように、アウタ筒部材とアウタ側ブラケットの筒状部は、圧入によって相互に固定されることで、目的とする機能を発揮するように、機能的に相互に補完しているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-054938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、特許文献1に記載されているような、アウタ筒部材の全体がアウタ側ブラケットの筒状部へ圧入固定された従来構造のブラケット付き筒型防振装置では、アウタ筒部材と筒状部との機能的な相互補完が未だ充分でないとの知見を得た。特に、近年では車両の燃費性能の向上等を含む環境負担の軽減などの観点から部材の軽量化が要求されているが、アウタ筒部材と筒状部との機能的な相互補完を向上させることによって、部材の軽量化も同時に達成可能であることが明らかとなった。
【0006】
本発明の解決課題は、アウタ筒部材とアウタ側ブラケットの筒状部との機能的な相互補完を向上させることができると共に、軽量化も同時に達成することができる、新規な構造のブラケット付き筒型防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ部材とアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体で連結された筒型マウント本体と、該アウタ筒部材が圧入固定された筒状部を有すると共に該筒状部の外周面に突出した取付部を有するアウタ側ブラケットとを、含むブラケット付き筒型防振装置において、前記筒型マウント本体には、前記インナ部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の相対変位量を制限する軸直ストッパが周方向で部分的に設けられている一方、前記アウタ側ブラケットには、前記筒状部の軸方向端部において該軸直ストッパを周方向の両側に外れた部分に一対の切欠部が設けられており、該一対の切欠部が何れも前記取付部を周方向に外れて位置せしめられており、該筒状部の軸方向長さが該一対の切欠部によって短くされて、該アウタ筒部材が該切欠部を通じて外周へ露出しているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされたブラケット付き筒型防振装置によれば、軸直ストッパに対応する周方向位置においてアウタ側ブラケットの筒状部の軸方向長さが大きくされていることにより、筒状部に要求される補強機能が実現される。更に、軸方向長さの比較的に大きい筒状部の当該部位において、圧入固定力の効率的な確保も図られている。それ故、筒状部における軸直ストッパを周方向で外れた部分に切欠部を設けてアウタ筒部材を露出させても、ストッパ荷重に対する耐荷重性能や筒型マウント本体の筒状部に対する圧入固定力(抜け抗力)の確保等の目的とする機能が十分に発揮される。このように、アウタ筒部材の筒状部の機能的な相互補完の向上によって、切欠部の形成によるアウタ側ブラケットの軽量化が可能となる。
【0010】
第二の態様は、第一の態様に記載されたブラケット付き筒型防振装置において、前記切欠部が前記アウタ側ブラケットの前記筒状部の軸方向両端部に形成されているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされたブラケット付き筒型防振装置によれば、アウタ側ブラケットの筒状部の軸方向両端部にそれぞれ切欠部が形成されていることによって、アウタ側ブラケットの更なる軽量化が図られる。また、筒状部の軸方向両側に切欠部が設けられることで、筒状部に対するアウタ筒部材の圧入位置が軸方向の中央に近い位置となって、圧入による固定力が軸方向でバランス良く発揮される。
【0012】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたブラケット付き筒型防振装置において、前記アウタ筒部材の軸方向長さが全周に亘って略一定とされているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされたブラケット付き筒型防振装置によれば、例えば、アウタ筒部材の周方向での方向性をなくすことができて、筒型マウント本体の製造が容易になる。アウタ筒部材の軸方向長さが周方向で略一定とされていることにより、アウタ側ブラケットに切欠部が設けられていても、本体ゴム弾性体のアウタ筒部材への固着面積などを確保することができる。
【0014】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載されたブラケット付き筒型防振装置において、前記アウタ側ブラケットの前記筒状部は、前記アウタ筒部材よりも肉厚とされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされたブラケット付き筒型防振装置によれば、アウタ側ブラケットの筒状部が比較的に肉厚とされていることによって、軸直ストッパが設けられた部分において筒状部による耐荷重性能の補強が有利に実現されて、ストッパ荷重の入力によるアウタ筒部材や筒状部の損傷などが回避される。
【0016】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載されたブラケット付き筒型防振装置において、前記切欠部は、周方向において前記本体ゴム弾性体の前記アウタ筒部材への固着部分を含む位置に形成されており、前記インナ部材と該アウタ筒部材を連結する該本体ゴム弾性体の軸方向の有効自由長は、前記アウタ側ブラケットの前記筒状部における該切欠部が形成された部分の軸方向長さ以上とされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされたブラケット付き筒型防振装置によれば、アウタ側ブラケットの筒状部に切欠部が設けられていても、アウタ筒部材において切欠部を通じて外周に露出する部分まで本体ゴム弾性体が固着されることにより、アウタ筒部材に対する本体ゴム弾性体の固着面積が確保される。また、切欠部による軽量化を図りながら、本体ゴム弾性体の軸方向の自由長を大きく確保することもできて、本体ゴム弾性体のばね特性や減衰特性などの防振特性を大きな自由度で設定することが可能になる。加えて、第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載されたブラケット付き筒型防振装置において、前記切欠部における周方向の両端部分が、角のない滑らかな湾曲面によって構成されており、前記筒状部における該切欠部を外れた部分の軸方向端面と滑らかに連続しているものである。また、第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載されたブラケット付き筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体には前記インナ部材から前記アウタ筒部材に向かって左右方向の両側で斜め下方に延びる一対の連結部が設けられていると共に、前記軸直ストッパが該インナ部材と該アウタ筒部材における上下方向の相対変位量を制限するようになっている一方、前記アウタ側ブラケットには、周方向の一部分に前記取付部が設けられていると共に、左右方向の両側部分において該取付部を周方向で外れた位置に前記切欠部が設けられているものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ブラケット付き筒型防振装置において、アウタ筒部材とアウタ側ブラケットの筒状部との機能的な相互補完を向上させることができると共に、軽量化も同時に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図
図2図1のエンジンマウントを別の角度で示す斜視図
図3図1に示すエンジンマウントの正面図
図4図1に示すエンジンマウントの平面図
図5図1に示すエンジンマウントの右側面図
図6図3のVI-VI断面図
図7図6のVII-VII断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1~7には、本発明に従う構造とされたブラケット付き筒型防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、筒型マウント本体12がアウタ側ブラケット14に取り付けられた構造を有している。更に、筒型マウント本体12は、インナ部材16とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20によって連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図3中の上下方向を、左右方向とは図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0022】
インナ部材16は、図6,7に示すように、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材であって、略円筒形状とされている。インナ部材16は、軸方向の長さ寸法が全周に亘って略一定とされている。インナ部材16は、全周に亘って略一定の厚さ寸法を有している。インナ部材16の具体的な形状は、特に限定されず、例えば、円柱形状などの中実軸状や円筒以外の多角筒状などであっても良い。
【0023】
アウタ筒部材18は、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材とされている。アウタ筒部材18は、インナ部材16よりも大径の略円筒形状であって、インナ部材16よりも薄肉とされている。アウタ筒部材18は、内径寸法と外径寸法が何れも軸方向の全長に亘って略一定とされている。アウタ筒部材18は、厚さ寸法が全周に亘って略一定とされている。アウタ筒部材18の軸方向の長さ寸法は、全周に亘って略一定とされている。アウタ筒部材18は、図6に示すように、インナ部材16よりも軸方向の長さ寸法が小さくされている。なお、アウタ筒部材18の形成材料は、アウタ側ブラケット14の後述する筒状部34への圧入固定を考慮して、好適には鉄などの金属が選択される。
【0024】
図7に示すように、インナ部材16がアウタ筒部材18に対する挿通状態で配されて、それらインナ部材16とアウタ筒部材18の径方向間に本体ゴム弾性体20が設けられている。本体ゴム弾性体20は、インナ部材16の外周面に固着されるインナ被覆部22と、アウタ筒部材18の内周面に固着されるアウタ被覆部24と、それらインナ被覆部22とアウタ被覆部24を相互に連結する一対の連結部26,26とを、備えている。
【0025】
連結部26,26は、インナ部材16(インナ被覆部22)に対して左右方向の両側に設けられている。連結部26,26は、インナ被覆部22とアウタ被覆部24の間に跨って略径方向に延びている。連結部26,26は、長さ方向(略径方向)に延びる弾性中心軸が、インナ被覆部22からアウタ被覆部24に向けて次第に下傾している。連結部26,26は、インナ被覆部22及びアウタ被覆部24と一体形成されている。
【0026】
なお、連結部26の上側には、軸方向に貫通する第一のすぐり孔28が形成されている。連結部26の下側には、軸方向に貫通する第二のすぐり孔30が形成されている。
【0027】
本体ゴム弾性体20のアウタ被覆部24には、一対のストッパゴム32,32が設けられている。ストッパゴム32,32は、周方向で部分的に設けられており、アウタ被覆部24からインナ被覆部22に向けて突出する突起状とされている。ストッパゴム32,32は、上下方向でインナ被覆部22(インナ部材16)を挟んで対向して配置されている。ストッパゴム32,32は、インナ被覆部22に対して上下方向で所定の距離だけ離れた位置に設けられている。ストッパゴム32,32は、突出先端側に向けて、周方向で幅狭となっていると共に、軸方向でも幅狭となっており、先細形状とされている。ストッパゴム32の突出先端面は、上下方向に対して略直交して広がる略平面とされている。
【0028】
上側のストッパゴム32が第一のすぐり孔28に突出していると共に、下側のストッパゴム32が第二のすぐり孔30に突出している。上側のストッパゴム32とインナ被覆部22(インナ部材16)の間のストッパクリアランス(隙間)は、第一のすぐり孔28によって設けられている。下側のストッパゴム32とインナ被覆部22の間のストッパクリアランスは、第二のすぐり孔30によって設けられている。
【0029】
このような構造を有する筒型マウント本体12は、アウタ側ブラケット14に取り付けられている。アウタ側ブラケット14は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材とされている。アウタ側ブラケット14は、筒状部34を備えている。筒状部34は、全体として略円筒形状とされており、内周面が略円形断面の嵌合面36とされている。筒状部34は、アウタ筒部材18よりも厚肉とされており、変形剛性が大きくされている。
【0030】
筒状部34の軸方向端部には、図1~5に示すように、複数の切欠部38が形成されている。切欠部38は、筒状部34の軸方向端面に開口する凹状とされている。切欠部38は、筒状部34を径方向に貫通して形成されている。切欠部38は、筒状部34の左右両側において周方向で部分的に設けられている。切欠部38の内面は、周方向の中央部分が略平面とされていると共に、周方向の両端部分が角のない滑らかな湾曲面によって構成されており、筒状部34における切欠部38を外れた部分の軸方向端面と滑らかに連続している。
【0031】
切欠部38は、筒状部34の軸方向の両端部に形成されている。本実施形態では、軸方向両側の切欠部38,38が互いに略対称形状とされている。筒状部34は、周方向で切欠部38,38が形成された部分(後述する短尺部42)の軸方向中央が、周方向で切欠部38,38を外れた部分(後述する長尺部40)の軸方向中央と略同じ位置とされている。
【0032】
筒状部34は、切欠部38が設けられていることによって、図2,5などに示すように、軸方向の長さ寸法が周方向で変化している。即ち、筒状部34は、軸方向の長さ寸法が切欠部38によって周方向で部分的に短くされており、周方向で切欠部38の形成された部分の軸方向長さが、周方向で切欠部38を外れた部分の軸方向長さよりも短くされている。これにより、筒状部34は、切欠部38を周方向で外れた部分が、軸方向長さの長い長尺部40とされていると共に、周方向における切欠部38の形成された部分が、軸方向長さの短い短尺部42とされている。
【0033】
このような切欠部38が設けられていることによって、筒状部34を含むアウタ側ブラケット14の軽量化が図られている。なお、長尺部40の軸方向の長さ寸法が本体ゴム弾性体20の連結部26,26の軸方向の有効自由長よりも長くされていると共に、短尺部42の軸方向の長さ寸法が本体ゴム弾性体20の連結部26,26の軸方向の有効自由長よりも短くされている。
【0034】
アウタ側ブラケット14は、取付部44を備えている。取付部44は、図3,7に示すように、筒状部34から下方に向けて延び出していると共に、下端部において左右両側へ突出する一対の締結部46,46を備えている。締結部46は、上下方向に貫通するボルト穴48を有している。本実施形態において、筒状部34と取付部44が一体形成されている。
【0035】
筒型マウント本体12のアウタ筒部材18がアウタ側ブラケット14の筒状部34に圧入固定されることにより、筒型マウント本体12がアウタ側ブラケット14に取り付けられて、エンジンマウント10が構成されている。アウタ筒部材18の軸方向の長さ寸法は、図6に示すように、筒状部34における長尺部40の軸方向の長さ寸法と略同じとされている。従って、アウタ筒部材18の軸方向の長さ寸法は、図5に示すように、筒状部34における短尺部42の軸方向の長さ寸法よりも大きくされている。
【0036】
アウタ側ブラケット14に対する筒型マウント本体12の装着状態において、切欠部38は、図1~3に示すように、ストッパゴム32,32を周方向で外れた位置に設けられている。換言すれば、ストッパゴム32,32は、アウタ側ブラケット14の長尺部40,40に対して周方向で位置決めされている。アウタ側ブラケット14に対する筒型マウント本体12の装着状態において、切欠部38は、周方向において、アウタ筒部材18に対する連結部26の固着部分を含んだ位置に設けられている。
【0037】
アウタ側ブラケット14の筒状部34に取り付けられたアウタ筒部材18は、図6に示すように、筒状部34の長尺部40に対して軸方向の略全体が圧入されている。また、筒状部34に取り付けられたアウタ筒部材18は、図5に示すように、筒状部34の短尺部42に対して軸方向の中央部分が圧入されており、アウタ筒部材18の軸方向の両端部分が、周方向で切欠部38が形成された部分において筒状部34よりも軸方向外側に突出している。換言すれば、アウタ筒部材18は、軸方向の両端部分が複数の切欠部38を通じて周方向で部分的に筒状部34の外周側へ露出している。
【0038】
アウタ筒部材18の筒状部34への圧入面積は、筒状部34の長尺部40において、筒状部34の短尺部42よりも大きく確保されている。これにより、アウタ筒部材18と筒状部34の圧入固定力は、筒状部34に複数の切欠部38が設けられていても、長尺部40において十分に確保されている。
【0039】
また、切欠部38が筒状部34の周方向の同じ位置で筒状部34の軸方向両端部にそれぞれ設けられていることにより、アウタ筒部材18において筒状部34の短尺部42に圧入される部位が、軸方向の中央部分とされる。それ故、アウタ筒部材18の筒状部34への圧入による固定力が、全周に亘って軸方向でバランス良く及ぼされる。
【0040】
エンジンマウント10は、インナ部材16が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、アウタ側ブラケット14がボルト穴48,48に挿通される図示しないボルトによって車両ボデー50に取り付けられて、アウタ筒部材18がアウタ側ブラケット14を介して車両ボデー50に取り付けられる(図5参照)。これにより、図示しないパワーユニットが、エンジンマウント10を介して、車両ボデー50に取り付けられる。なお、インナ部材16は、図示しないパワーユニットに対して図示しないインナブラケットを介して取り付けられ得る。
【0041】
そして、通常振動の入力に対して、本体ゴム弾性体20の連結部26,26の弾性変形による振動減衰作用や振動絶縁作用に基づいた防振効果が発揮される。
【0042】
アウタ筒部材18において本体ゴム弾性体20の連結部26,26が設けられた部分は、後述する軸直ストッパ52,52が設けられる部分ほどの大荷重の入力が想定されない。そこで、周方向において連結部26,26が設けられた部分には、図3に示すように、アウタ側ブラケット14の筒状部34に切欠部38が設けられている。このように、周方向において切欠部38を避けることなく連結部26,26を設けることが可能であり、軸直ストッパ52,52を構成するストッパゴム32,32とは異なる周方向位置に設けられる連結部26,26を、大きな自由度で配置することができる。
【0043】
しかも、アウタ筒部材18が全周に亘って略一定の軸方向寸法とされていることから、アウタ筒部材18の内周面における連結部26,26の固着面積は、筒状部34に切欠部38が形成されていても影響されない。それ故、周方向において短尺部42,42が位置する部分に連結部26,26が配されていても、連結部26,26のアウタ筒部材18に対する固着強度を十分に確保することができる。
【0044】
また、インナ部材16とアウタ筒部材18とを連結する連結部26,26の軸方向の有効自由長が、アウタ側ブラケット14の短尺部42,42の軸方向長さと同じか或いはより長くされている。それ故、本体ゴム弾性体20のばねや減衰性能などの特性を、大きな自由度で設定することができる。
【0045】
アウタ側ブラケット14の短尺部42,42がアウタ筒部材18の軸方向の中央部分に取り付けられており、筒状部34に切欠部38が設けられた部分において、アウタ筒部材18の軸方向の中央部分が筒状部34によって補強されている。これにより、本体ゴム弾性体20の連結部26,26からアウタ筒部材18に及ぼされる荷重が軸方向の両端部分よりも大きくなる軸方向の中央部分において、アウタ筒部材18の耐荷重性能が、筒状部34の補強作用によって十分に確保されている。
【0046】
上下方向の大荷重の入力に対しては、インナ部材16とアウタ筒部材18がストッパゴム32,32及びインナ被覆部22を介して間接的に当接することにより、インナ部材16とアウタ筒部材18の上下方向の相対変位量が制限される。これにより、連結部26,26の変形量が制限されて、連結部26,26の過大な変形による損傷が回避される。このように、筒型マウント本体12において、インナ部材16とアウタ筒部材18の軸直角方向の相対変位量を制限する軸直ストッパ52,52が、ストッパゴム32,32を含んで構成される。軸直ストッパ52,52は、ストッパゴム32,32の形成部分に設けられている。
【0047】
切欠部38が周方向でストッパゴム32,32を外れた部分に設けられており、周方向でストッパゴム32,32が設けられる部分において筒状部34の軸方向寸法が大きくされている。これにより、ストッパ荷重がストッパゴム32,32の形成部分においてアウタ筒部材18に周方向で部分的に入力されても、当該ストッパ荷重の入力部分においてアウタ筒部材18が筒状部34の長尺部40によって効果的に補強される。それ故、アウタ筒部材18の耐荷重性能が、ストッパ荷重が直接的に作用する部分において筒状部34によって効果的に高められて、ストッパ荷重の入力によるアウタ筒部材18の損傷が回避される。
【0048】
このように、ストッパゴム32,32による軸直ストッパ52,52の構成部分を避けて筒状部34に切欠部38を設けることで、アウタ側ブラケット14の軽量化を図りつつ、アウタ筒部材18をストッパ荷重の入力部分において有効に補強することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、切欠部38の周方向の長さや深さなどの具体的な形状は、適宜に変更され得る。
【0050】
切欠部38は、必ずしも軸方向の両端部に設けられる必要はない。軸方向の両端部に切欠部38が設けられる場合に、軸方向両側の切欠部38は、周方向で異なる位置に設けられ得る。
【0051】
前記実施形態では、切欠部38が周方向において筒状部34の2箇所に設けられている例を示したが、切欠部38は、周方向において筒状部34の1箇所だけに設けられていても良いし、3箇所以上に設けられていても良い。
【0052】
前記実施形態では、軸直ストッパ52が周方向の2箇所に設けられている例を示したが、軸直ストッパ52は、周方向の1箇所だけに設けられていても良いし、3箇所以上に設けられていても良い。
【0053】
軸直ストッパ52は、例えば、インナ部材16からアウタ筒部材18に向けて突出するストッパゴムによって構成することもできる。軸直ストッパ52は、内部までゴム弾性体で構成されたストッパゴムで構成されるものに限定されず、例えば、金属や合成樹脂などで形成された部材の表面がゴム弾性体で覆われた構造のストッパ部材によって構成することもできる。また、ストッパゴム(ストッパ部材)は、インナ部材16とアウタ筒部材18の何れにも固着されていない別体構造とされていても良い。
【0054】
本体ゴム弾性体20の連結部26,26は、切欠部38を周方向で外れた部分においてアウタ筒部材18に固着されていても良い。これによれば、連結部26,26からアウタ筒部材18に及ぼされる荷重に対しても、筒状部34によるアウタ筒部材18の補強効果が軸方向の広い範囲で発揮される。
【0055】
前記実施形態のアウタ側ブラケット14は、筒状部34と取付部44が一体形成されており、筒状部34が周方向の一部において取付部44と一体的につながっているが、例えば、アウタ側ブラケット14において筒状部と取付部は別体とされていても良い。具体的には、例えば、円筒形状の筒状部が、プレス金具等で形成された取付部に対して溶接などの手段で固定されることにより、筒状部と取付部が別体として形成された構造のアウタ側ブラケットが実現され得る。
【0056】
前記実施形態のアウタ筒部材18は、軸方向寸法が全周に亘って一定とされていたが、アウタ筒部材の軸方向寸法は、周方向で変化していても良い。その場合に、短尺部42への圧入部分の軸方向寸法は、長尺部40への圧入部分の軸方向寸法に比して、大きくされていても良いし、小さくされていても良い。
【0057】
アウタ筒部材18は、軸直ストッパ52,52(ストッパゴム32,32)が設けられる部分において、アウタ側ブラケット14の筒状部34の長尺部40よりも軸方向の外側へ突出し得る。
【0058】
アウタ筒部材18は、全体がストレート形状である必要はなく、例えば、軸方向の端部に外周へ突出するフランジ状部が設けられていても良い。これによれば、アウタ筒部材18の強度の向上や、アウタ側ブラケット14に対する抜け抗力の向上などが実現される。このように、アウタ筒部材18は、軸方向の全長に亘って略一定の外径寸法及び内径寸法である必要はない。また、アウタ筒部材18は、厚さ寸法が周方向で変化していても良い。
【0059】
前記実施形態では、インナ部材16とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20の成形時に何れも固着されていたが、例えば、インナ部材16が本体ゴム弾性体20に対して後付けされる構造とされていても良い。この場合には、インナ部材16は、本体ゴム弾性体20に固着されずに取り付けられ得る。
【0060】
前記実施形態では、アウタ側ブラケット14が車両ボデー50とは別部品とされていたが、例えば、アウタ側ブラケットが車両ボデーの一部によって構成されていても良い。具体的には、例えば、円筒状の内周面を有するアームアイを備えたアーム部材が車両ボデーに設けられており、車両ボデーの一部である当該アーム部材によって、アウタ側ブラケットを構成することもできる。
【0061】
筒型マウント本体としては、内部に非圧縮性流体を封入した流体室を有する流体封入式の筒型防振装置を採用することもできる。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジンマウント(ブラケット付き筒型防振装置)
12 筒型マウント本体
14 アウタ側ブラケット
16 インナ部材
18 アウタ筒部材
20 本体ゴム弾性体
22 インナ被覆部
24 アウタ被覆部
26 連結部
28 第一のすぐり孔
30 第二のすぐり孔
32 ストッパゴム
34 筒状部
36 嵌合面
38 切欠部
40 長尺部
42 短尺部
44 取付部
46 締結部
48 ボルト穴
50 車両ボデー
52 軸直ストッパ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7