(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用ガス発生抑制剤およびこの蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01G 11/20 20130101AFI20220810BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220810BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20220810BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220810BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H01G11/20
H01G11/30
H01G11/52
H01M4/62 Z
C01G23/00 B
C01G23/00 C
(21)【出願番号】P 2019515721
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017186
(87)【国際公開番号】W WO2018203523
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017091481
(32)【優先日】2017-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017135140
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】杉原 良介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 桂一
(72)【発明者】
【氏名】爪田 覚
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-297699(JP,A)
【文献】特開2009-106812(JP,A)
【文献】特開2007-229602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/20
H01G 11/30
H01G 11/52
H01M 4/62
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩、アルカリ土類金属のチタン酸塩から選ばれる1種以上のチタン酸塩を含有することを特徴とする蓄電デバイス用ガス発生抑制剤。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属が、
Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を用いることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに用いられるガス発生抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスは、それぞれが持つ高エネルギー密度、高出力密度という特徴を活用し、近年急速に実用化が行われている。
【0003】
しかしながら、このような蓄電デバイスにおいては、蓄電デバイスの内に存在する不純物(例えば活物質内に残存している未反応の炭酸リチウムなど)や水分の混入、あるいは使用によって電解液や電極を構成する材料が酸化分解することなどが原因となって、蓄電デバイス内に炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどのガスが発生してしまうという課題がある。係るガスは蓄電デバイスの性能を低下させる原因となるものであり、またこのようなガスの発生が継続することになると蓄電デバイスからの液漏れや形状変化(膨張)を招き、最終的には炎上、爆発という重大事象を引き起こすことになるものとなる。
ここで、このようなガスの中には、未反応の炭酸リチウムが経時劣化(分解)したり、充放電を繰り返すことによって電解液が酸化分解したりすることによって発生するガス(炭酸ガス)といったものもあるが、このようなガスとは別に、水素ガス、フッ素ガスの原因となるプロトン(H+)も発生する。具体的には、蓄電デバイス内に浸入した水分自体が電気分解することによって発生するプロトン(H+)や、電解液に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)やホウフッ化リチウム(LiBF4)などを用いている場合に、係る電解質から分解したBF4
-やPF6
-などの陰イオンと蓄電デバイス内に浸入した水分とが反応して形成されたフッ化水素(HF)がさらに解離することによって発生するプロトン(H+)などがある。そして、係るプロトン同士が結合することで水素ガスが発生したり、フッ化水素(HF)から解離したフッ素イオン同士が結合することでフッ素ガスが発生したりするのである。
また、電解質から分解したBF4
-やPF6
-などの陰イオンと未反応の炭酸リチウムとが反応することによって発生する炭酸ガスもある。
【0004】
そこで、従前から発生したガスを吸収するための様々なガス吸収材が開発されている(特許文献1~4)。具体的には、特許文献1には、炭酸ガスの吸収材として、リチウム複合酸化物やゼオライトを用いることが記載されている(特許文献1の請求項2、3および[0012]~[0014]参照)。特許文献2には、水酸化リチウムを炭酸ガスの吸収材として用いることが記載されている(特許文献2の請求項3および[0009]、[0010]参照)。特許文献3には、アルカリ金属の炭酸塩をフッ素ガスの吸収材として用いることが記載されている(特許文献3の請求項1、3、4および[0014]参照)。特許文献4には、ZnO、NaAlO2、ケイ素をフッ素ガスの吸収材として用いることが記載されている(特許文献4の請求項15、16および[0063]参照)。
【0005】
さらに、特許文献5には、炭酸リチウム粉末と酸化リチウム粉末と二酸化チタン粉末を特定の比率で混合した炭酸ガス吸収材が記載されており(特許文献5の請求項1および[0028]参照)、非特許文献1には、リチウム複合酸化物が炭酸ガスの吸収材料となり得ることが開示されている(非特許文献1の12頁の「新しいCO2吸収材料の特長」を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-297699号公報
【文献】特開2003-197487号公報
【文献】特許第5485741号公報
【文献】特表2013-541161号公報
【文献】特許第5231016号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】中川和明、加藤雅礼,「二酸化炭素を吸収する新セラミックス材料」,東芝レビュー、vol.56,No.8(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの文献はいずれも発生したガスを吸収することを目的とするものであり、ガスの発生自体を抑制すること、すなわちガス発生の源となるプロトン(H+)自体を捕捉することを目的(技術的思想)とするものではない。
従って、これらの文献に記載されている各種の吸収材は、液漏れ、形状変化(膨張)、炎上、爆発という事象については防止することができるかもしれないが、ガスが発生している(電解液や電極を構成する材料の酸化分解などが発生している)ことには変わりがないことから、蓄電デバイス性能の低下を防止することはできないものとなっている。
【0009】
また、従前のガス吸収材としては、蓄電デバイスにおいて使用実績の多い元素であることから、特許文献1、2に記載されているようなリチウム化合物を用いることが一般的となっている。
【0010】
今般、本願発明者らは鋭意検討を行った結果、一般的に用いられているリチウム化合物ではなく、ナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩、アルカリ土類金属のチタン酸塩から選ばれる1種以上のチタン酸塩がガスの発生自体を抑制する効果を有する、具体的にはガス発生の源となるプロトン(H+)自体を捕捉するという知見を得るに至った。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の提供を目的とするものである。また、この蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を用いた蓄電デバイスの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る蓄電デバイス用ガス発生抑制剤は、ナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩、アルカリ土類金属のチタン酸塩から選ばれる1種以上のチタン酸塩を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る蓄電デバイス用ガス発生抑制剤は、アルカリ土類金属が、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上のものであることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る蓄電デバイスは、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を含有することを特徴とする。
【0015】
(基本構造)
本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤は、ナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩、アルカリ土類金属のチタン酸塩から選ばれる1種以上のチタン酸塩を含有することを基本構造とする。このように、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤は、特定のアルカリ金属のチタン酸塩または/および特定のアルカリ土類金属のチタン酸塩を含有することによって、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生を抑制することができるのである。
具体的には、以下に例示(チタン酸ナトリウムを使用)する反応式に示すように、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンと、蓄電デバイス内において発生するプロトンとがイオン交換反応をすることによって、ガス発生の源となるプロトン(H+)自体を捕捉することができるのである。
また、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤のチタン酸イオンと炭酸イオンとがイオン交換反応をすることによって、炭酸ガスも捕捉することができるのである。
Na2TiO3 + 2H+ → H2TiO3 + 2Na+(プロトン捕捉=イオン交換反応)
Na2TiO3 + CO2 → Na2CO3 + TiO2(CO2吸収)
【0016】
(ナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩)
本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤に用いられるアルカリ金属のチタン酸塩は、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウムである。このように特定のアルカリ金属のチタン酸塩を含有することによって、従前の蓄電デバイスにおいて主に使用されていたチタン酸リチウムなどのリチウム化合物にはない、ガス発生の抑制効果を発現させることができるのである。なお、これらアルカリ金属のチタン酸塩については、単独で用いても良いし、併用することもできる。
【0017】
(アルカリ土類金属のチタン酸塩)
本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤に用いられるアルカリ土類金属のチタン酸塩は、具体的にはチタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸ラジウムが挙げられるが、その中でもチタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムを用いることが好ましい。また、アルカリ土類金属のチタン酸塩についても、上記したアルカリ金属のチタン酸塩と同様に単独で用いても良いし、併用することもできる。
【0018】
なお、これらチタン酸塩の配合量については特に限定されるものではないが、正極活物質に対して、5~70wt%とすることが好ましく、その中でも10~50wt%であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤は、ガス発生の抑制効果をより高めるために、後述する方法によって測定される粉体pHが10.5以上であることが好ましい。そしてその中でも11.0以上であることがより好ましく、11.5以上であることが更に好ましい。その理由としては、粉体pHが高いほど、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸塩)から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アルカリ土類金属イオンなどのカチオンが解離しやすくなり、それに伴って段落[0015]に示す反応式のイオン交換反応が促進され、その結果、プロトン(H+)を取り込みやすくなるためと考えられる。つまり、ガス発生の源となるプロトン(H+)をより捕捉しやすくなることで、ガス発生の抑制効果もより高くなるものと考えられる。
【0020】
(蓄電デバイス)
本発明の蓄電デバイスは、本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を含有するものであるが、その中でも正極またはセパレータの材料に含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る蓄電デバイス用ガス発生抑制剤によれば、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生を抑制することができる。
【0022】
本発明に係る蓄電デバイス用ガス発生抑制剤によれば、特定のアルカリ土類金属を用いたチタン酸塩とすることによって、上記の効果をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】作製した蓄電デバイスの構造を示す模式図である。
【
図2】蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の粉体pHと蓄電デバイスの体積変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
次に、本発明に係る蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を実施例および比較例に基づいて詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
アナタース型酸化チタン(テイカ社製AMT-100)300gと水酸化ナトリウム(シグマアルドリッチ社製)399gを湿式混合したのち、大気中において750℃で2hr焼成することによって、実施例1の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸ナトリウム(Na2TiO3))を作製した。
【0026】
(実施例2)
水酸化ナトリウムの量を133gとした以外は実施例1と同様にして実施例2の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸ナトリウム(Na4Ti5O12))を作製した。
【0027】
(実施例3)
水酸化ナトリウムの量を111gとした以外は実施例1と同様にして実施例3の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸ナトリウム(Na2Ti3O7))を作製した。
【0028】
(実施例4)
水酸化ナトリウムを水酸化カリウム(シグマアルドリッチ社製)249gとした以外は実施例1と同様にして実施例4の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸カリウム(K2Ti2O5))を作製した。
【0029】
(実施例5)
水酸化カリウムの量を108gとした以外は実施例4と同様にして実施例5の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸カリウム(K2Ti6O13))を作製した。
【0030】
(実施例6)
水酸化カリウムの量を144gとした以外は実施例4と同様にして実施例6の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸カリウム(K2Ti4O9))を作製した。
【0031】
(実施例7)
水酸化ナトリウムを水酸化マグネシウム(シグマアルドリッチ社製)438gとした以外は実施例1と同様にして実施例7の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸マグネシウム(MgTiO3))を作製した。
【0032】
(実施例8)
水酸化ナトリウムを水酸化カルシウム(シグマアルドリッチ社製)564gとした以外は実施例1と同様にして実施例8の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸カルシウム(CaTiO3))を作製した。
【0033】
(実施例9)
水酸化ナトリウムを水酸化ストロンチウム・8水和物(シグマアルドリッチ社製)997gとした以外は実施例1と同様にして実施例9の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸ストロンチウム(SrTiO3))を作製した。
【0034】
(実施例10)
水酸化ナトリウムを水酸化バリウム ・8水和物(シグマアルドリッチ社製)1194gとした以外は実施例1と同様にして実施例10の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤(チタン酸バリウム(BaTiO3))を作製した。
【0035】
(蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の粉体pHの測定)
作製した各蓄電デバイス用ガス発生抑制剤10gを純水100ml中に加え、攪拌しながら加熱し、沸騰した状態で5分間保持したのちに室温まで冷却した。その後、得られた懸濁液のpHを、pHメーター(堀場製作所製)を用いて測定し、その値を蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の粉体pHとした。
【0036】
次に、作製した各蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を用いて蓄電デバイス用正極を作製するとともに、係る正極を用いた蓄電デバイスを作製し、ガス発生の抑制効果、蓄電デバイス性能(サイクル特性)の評価を行った。
【0037】
(蓄電デバイス用正極の作製)
まず、実施例1~10の各蓄電デバイス用ガス発生抑制剤2.3gを活性炭(ATエレクトロード社製ベルファインAP20-0001)4.9gおよびアセチレンブラック(電気化学工業社製デンカブラック)0.9gと乾式混合した。次に、ポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KFポリマー)0.9gを加え、プラネタリーミキサーを用いて混練した。次に、N-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学社製)36gを加えて粘度調整をすることによって各正極用塗料を作製した。
【0038】
次に、上記にて作製した各正極用塗料をアルミ箔に塗付、乾燥することによって、各蓄電デバイス用正極を作製した。なお、このときの蓄電デバイス内に存在する実施例の各蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の重量は16.5mgであり、実施例の各蓄電デバイス用ガス発生抑制剤と活性炭の重量比は32:68であった。
【0039】
また、実施例4の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤と活性炭の量をそれぞれ1.4gと5.8g、3.5gと3.7g、5.0gと2.2gに変更したもの(すなわち、後記する蓄電デバイス内に存在する蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の重量を3.9mg 、33.6mg、77.9mgとしたもの)も作製した。なお、このときの実施例3の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤と活性炭の重量比はそれぞれ19:81、49:51、69:31であった。
【0040】
(蓄電デバイス用負極の作製)
まず、オルソチタン酸(テイカ社製)520gと水酸化リチウム・1水和物(FMC社製)218gを湿式混合したのち、大気中650℃で2hr焼成することによって、比表面積70m2/gの微粒子Li4Ti5O12を得た。
次に、上記の微粒子Li4Ti5O12、7.2gおよびアセチレンブラック(電気化学工業社製デンカブラック)0.9gを乾式混合した。次に、ポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KFポリマー)0.9gを加え、プラネタリーミキサーを用いて混練した。次に、N-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学社製)36gを加えて粘度調整をすることによって負極用塗料を作製した。
次に、上記にて作製した負極用塗料をアルミ箔に塗付、乾燥することによって、蓄電デバイス用負極を作製した。
【0041】
(蓄電デバイスの作製)
次に、上記にて作製した各蓄電デバイス用正極、負極、セパレータ(日本高度紙工業社製)、タブリードを準備し、
図1のように配置(積層)した後、ケースに納め、さらに電解液として1MのLiBF
4/PC(キシダ化学社製)を注液した後、封止することによって、表1に記載の実施例11~23の各蓄電デバイスを作製した。なお、このときの電気容量は600μAhであった。
また、比較例として、活性炭7.2g、アセチレンブラック0.9g、ポリフッ化ビニリデン0.9g、N-メチル-2-ピロリドン36gのみで作製した正極用塗料を用いた比較例1の蓄電デバイスと、実施例の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤2.3gの代わりにアナタース型酸化チタン(テイカ社製AMT-100)2.3gを用いた以外は上記と同様にして作製した正極用塗料を用いた比較例2の蓄電デバイスについても作製した。
【0042】
(ガス発生量の測定)
まず、作製した実施例11~23および比較例1、2の各蓄電デバイスの初期体積を、アルキメデスの原理に基づいて測定した。具体的には、25℃の水を張った水槽に蓄電デバイスを沈め、そのときの重量変化から各蓄電デバイスの初期体積を算出した。
次に、各蓄電デバイスを60℃の条件下において、1.5~2.9Vの電圧範囲、1Cの充放電速度の条件の下で3サイクル充放電を行った。その後、上記測定方法と同様にして、充放電後の各蓄電デバイスの体積を算出し、初期体積との差から充放電前後の各蓄電デバイスの体積変化を求めることによって、各蓄電デバイスからのガス発生量を測定した。また、以下の計算式から、各蓄電デバイスの体積変化率も求めた。
体積変化率(%)=体積変化(ml)÷初期体積(ml)×100
【0043】
(容量維持率(サイクル特性)の測定)
次に、作製した各蓄電デバイスを60℃の条件下において1.5~2.8Vの電圧範囲で、300Cの充放電速度で1000サイクル充放電を行った後、以下の計算式にて容量維持率(サイクル特性)の算出を行った。
1000サイクル目の放電容量÷2サイクル目の放電容量×100=容量維持率(%)
【0044】
(IRドロップの測定)
次に、作製した各蓄電デバイスを60℃の条件下において2.9V(つまり、2900mV)の一定電圧で放電を開始し、1000時間保持した。その後、放電開始0.5秒後の電圧を測定し、以下の計算式からIRドロップを算出した。なお、IRドロップとは蓄電デバイスの内部抵抗を表す値であり、値が小さいほど好ましいものとなる。
IRドロップ(mV)=2900(mV)-放電開始0.5秒後の電圧(mV)
【0045】
結果を表1および
図2に示す。その結果、実施例11~23の蓄電デバイスについては正極にナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩、アルカリ土類金属のチタン酸塩から選ばれる1種以上のチタン酸塩を含有した材料を用いていることから、比較例1、2の蓄電デバイスに比べてガスの発生量(絶対量)が少なく、体積変化率も小さい(より具体的には、体積変化率が10%以下)という結果となった。
【0046】
また、容量維持率(サイクル特性)についても、実施例11~23の蓄電デバイスは、比較例の蓄電デバイスに比べて高い容量維持率(サイクル特性)を発現するという結果となった。
【0047】
さらに、IRドロップについても、実施例11~23の蓄電デバイスは、比較例の蓄電デバイスに比べてIRドロップの値が小さく、良好な結果となった。
【0048】
なお、蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の粉体pHと蓄電デバイスの体積変化(各蓄電デバイスからのガス発生量)との関係をグラフ化すると、
図2に示すように線形の関係が成り立ち、相関関係(決定係数R
2)も0.97という高いものとなった。そして、
図2から、ガス発生の抑制効果をより高めるためには、粉体pHが10.5以上であることが好ましいという結果となった。そしてその中でも11.0以上であることがより好ましく、11.5以上であることが更に好ましいという結果となった。
【0049】
【0050】
以上の結果から、本発明に係る蓄電デバイス用ガス発生抑制剤によれば、ナトリウムのチタン酸塩、カリウムのチタン酸塩、アルカリ土類金属のチタン酸塩から選ばれる1種以上のチタン酸塩を含有することによって、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生を抑制することができることがわかった。
また、各種のガスの発生を抑制しつつ、高い容量維持率(サイクル特性)を発現させることができる蓄電デバイスを得ることができることがわかった。
さらに、ガス発生が抑制されることにより、蓄電デバイスの内部抵抗の上昇が効果的に抑制され、結果としてIRドロップを低減できることもわかった。
そして、この効果は、蓄電デバイス用ガス発生抑制剤の粉体pHが、10.5以上(より好ましくは11.0以上であり、さらに好ましくは11.5以上)である場合に特に顕著であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の蓄電デバイス用ガス発生抑制剤は、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 蓄電デバイス
2 正極(蓄電デバイス用ガス発生抑制剤を含有)
3 セパレータ
4 負極
5 タブリード
6 ケース