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特許7121742回折光除去スリットを用いた光学式検体検出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】回折光除去スリットを用いた光学式検体検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220810BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G01N21/41 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019549164
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034784
(87)【国際公開番号】W WO2019077932
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017202429
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「QOL向上と医療費削減に貢献する前立腺癌自動血液検査システムの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸登
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 高敏
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-032728(JP,A)
【文献】特開昭57-153250(JP,A)
【文献】特開2000-356586(JP,A)
【文献】特開平09-133803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源ユニットから励起光を照射することで検体の検出を行う光学式検体検出システムであって、
誘電体部材と、前記誘電体部材の上面に隣接する金属膜と、前記金属膜の上面に配置される試料溶液保持部材と、を有しており、前記誘電体部材に前記光源ユニットから照射された励起光が入射される入射面が形成された、センサーチップと、
前記光源ユニットと前記入射面との間に設けられた回折光除去スリットと、
前記入射面において反射した前記励起光の反射光のうち、所定の方向に進む反射光を検出する励起光検出ユニットと、
を備えており、
前記回折光除去スリットは、
前記光源ユニットから前記入射面に向かう前記励起光の光路に対して略鉛直方向に設けられた主部と、
前記主部における、前記入射面で反射した前記反射光が前記励起光検出ユニットに向かう光路が存在する端部側から少なくとも延設されており、前記励起光の光路方向の上流側に傾斜した、側壁部と
を有している、光学式検体検出システム。
【請求項2】
前記光源ユニットは、
前記励起光を照射する光源と、
前記光源から照射された前記励起光をコリメートするコリメーターと、
前記コリメートされた前記励起光の形状を整形するスリットと、を有する請求項1に記載の回折光除去スリット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)現象を応用した表面プラズモン共鳴装置や、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS:Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)の原理に基づいた表面プラズモン励起増強蛍光測定装置などを用いてセンサーチップ内に含まれる測定対象物質の検出を行う光学式検体検出システムにおいて、励起光の回折光を除去し、測定対象物質の検出精度を向上させる回折光除去スリット及びこれを用いた光学式検体検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極微少な物質の検出を行う場合において、物質の物理的現象を応用することでこのような物質の検出を可能とした様々な検体検出装置が用いられている。
このような検体検出装置の一つとして、ナノメートルレベルなどの微細領域中で電子と光が共鳴することにより、高い光出力を得る現象(表面プラズモン現象(SPR:Surface Plasmon Resonance)現象)を応用し、例えば、生体内の極微少なアナライトの検出を行うようにした表面プラズモン共鳴装置(以下、「SPR装置」と言う)が挙げられる。
【0003】
また、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を応用した、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS:Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)の原理に基づき、SPR装置よりもさらに高精度にアナライト検出を行えるようにした表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置(以下、「SPFS装置」と言う)も、このような検体検出装置の一つである。
【0004】
このようなSPFS装置100は、例えば、図8に示すように、励起光照射ユニット120、蛍光検出ユニット140、チップホルダー154、制御部160などが含まれ、チップホルダー154にセンサーチップ170を装着した状態で使用される。
【0005】
センサーチップ170は、誘電体部材172と、該誘電体部材172に形成された金属膜174と、誘電体部材172及び金属膜174上に固着された試料溶液保持部材176とを含む。
【0006】
また、センサーチップ170の金属膜174上の所定の領域(反応場)には、試料溶液に含まれるアナライトを捕捉するためのリガンドが均一に固定化されている。
【0007】
励起光照射ユニット120は、光源ユニット121、角度調整機構122及び光源制御部123を備えている。
【0008】
光源ユニット121は、例えば、励起光αの光源125、ビーム整形光学系126を少なくとも含む。これに加えて、APC(Automatic Power-Control)機構及び温度調整機構(いずれも不図示)などを含んでもよい。
【0009】
ビーム整形光学系126には、コリメーター126a及びスリット126bが含まれる。これに加えて、例えば、バンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、ズーム手段などが適宜含まれていてもよい。
【0010】
コリメーター126aは、光源125から照射された励起光αをコリメートする。また、スリット126bは、センサーチップにおける照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
【0011】
このように構成されたSPFS装置100では、センサーチップ170の試料溶液保持部材176にアナライトを含む試料溶液を注入し、該アナライトをリガンドにより捕捉するとともに、リガンドに捕捉されたアナライトを蛍光物質により標識した状態で、励起光照射ユニット120からセンサーチップ170に励起光αを照射することで、蛍光物質が励起され蛍光が生じる。蛍光検出ユニット140により、この蛍光γを検出することによって、アナライトの量の検出が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2015/064704
【文献】特開2006-242902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このようなスリット126bを用いた励起光照射ユニット120では、スリット126bに対して光源125から励起光αを照射することにより、所定の形状のビームとなるように整形しているが、スリットを回折する光(回折光)が生じてしまう。
【0014】
このため、励起光照射ユニット120のスリット126bから、センサーチップ170における照射スポットまでの距離が離れているほど、回折光は広がってしまう。このような回折光は、SPFS装置100による測定においては、悪影響を及ぼす要因となるため、除去することが好ましい。
【0015】
通常、このような回折光を除去する方法としては、励起光αの光路上に更なるスリットを設けることが考えられる。しかしながら、例えば、特許文献1や特許文献2のように、励起光αの反射光を用いる場合、ミラーやセンサーチップの近傍に更なるスリットを設けてしまうと、このスリットにより励起光αの反射光を遮ってしまう恐れがある。一方で、励起光αの反射光を遮らないように、スリットを小さくしてしまうと、回折光を除去しきれないことがある。
【0016】
本発明では、励起光の反射光を利用する検体検出装置において、励起光の反射光に影響を与えず、励起光の回折光を確実に除去することが可能となる回折光除去スリットを備えた光学式検体検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
また、本発明の一側面を反映した光学式検体検出システムは、
光源ユニットから励起光を照射することで検体の検出を行う光学式検体検出システムであって、
誘電体部材と、前記誘電体部材の上面に隣接する金属膜と、前記金属膜の上面に配置される試料溶液保持部材と、を有しており、前記誘電体部材に前記光源ユニットから照射された励起光が入射される入射面が形成された、センサーチップと、
前記光源ユニットと前記入射面との間に設けられた回折光除去スリットと、
前記入射面において反射した前記励起光の反射光のうち、所定の方向に進む反射光を検出する励起光検出ユニットと、
を備えており、
前記回折光除去スリットは、
前記光源ユニットから前記入射面に向かう前記励起光の光路に対して略鉛直方向に設けられた主部と、
前記主部における、前記入射面で反射した前記反射光が前記励起光検出ユニットに向かう光路が存在する端部側から少なくとも延設されており、前記励起光の光路方向の上流側に傾斜した、側壁部と
を有している
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、励起光照射ユニットと励起光反射面との間に設けた回折光除去スリットが、励起光の回折光を確実に除去する。さらに、回折光除去スリットが、励起光の光路方向上流側に傾斜した側壁部を有することで、励起光の回折光を確実に除去するとともに、励起光反射面に反射した励起光の反射光を回折光除去スリットにより遮ることがない。このため、励起光の反射光を利用する検体検出装置においても、励起光の反射光に影響を与えず、励起光の回折光を確実に除去することができる。
【0020】
また、回折光除去スリットとして、励起光の光路方向上流側に傾斜した側壁部を有することで、回折光除去スリットの励起光の光路に対して垂直な方向の大きさを小さくすることができ、検体検出装置の小型化に寄与することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る位置検出装置を含む表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置(SPFS装置)の構成を説明するための模式図である。
図2図2は、図1に示すSPFS装置の励起光照射ユニットの構成を説明するための模式図である。
図3図3は、回折光除去スリットの変形例を説明するための模式図である。
図4図4は、図1に示すSPFS装置の動作手順の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、図3に示す位置検出及び位置調整工程内の工程を示すフローチャートである。
図6図6は、センサーチップの位置情報を得る工程(S140)を説明するための模式図である。
図7図7は、受光センサーによる反射光βの検出結果の例を示すグラフである。
図8図8は、従来の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置(SPFS装置)の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいて、より詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る位置検出装置を含む表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置(SPFS装置)の構成を説明するための模式図である。
【0023】
図1に示すように、SPFS装置10は、励起光照射ユニット20、励起光検出ユニット30、蛍光検出ユニット40、搬送ユニット50及び制御部60を有している。
【0024】
SPFS装置10は、搬送ユニット50のチップホルダー54にセンサーチップ70を装着した状態で使用される。
センサーチップ70は、入射面72a、成膜面72b及び出射面72cを有する誘電体部材72と、成膜面72bに形成された金属膜74と、成膜面72bまたは金属膜74上に固着された試料溶液保持部材であるウェル部材76とを有する。通常、センサーチップ70は、検体検査毎に交換されるものである。
【0025】
センサーチップ70は、好ましくは各辺の長さが数mm~数cm程度の構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれないようなより小型の構造物又はより大型の構造物であっても構わない。
【0026】
誘電体部材72は、励起光αに対して透明な誘電体からなるプリズムとすることができる。誘電体部材72の入射面72aは、励起光照射ユニット20から照射される励起光αが誘電体部材72の内部に入射される面である。また、成膜面72b上には、金属膜74が形成されている。誘電体部材72の内部に入射した励起光αは、この金属膜74と誘電体部材72の成膜面72bとの界面(以下、便宜上「金属膜74の裏面」という)において反射され、出射面72cを介して、励起光αは誘電体部材72の外部に出射される。
【0027】
誘電体部材72の形状は特に限定されるものではなく、図1に示す誘電体部材72は、鉛直断面形状が略台形の六面体(截頭四角錐形状)からなるプリズムであるが、例えば、鉛直断面形状を三角形(いわゆる、三角プリズム)、半円形、半楕円形としたプリズムとすることもできる。
【0028】
入射面72aは、励起光αが励起光照射ユニット20に戻らないように形成される。励起光αの光源が、例えば、レーザーダイオード(以下、「LD」ともいう)である場合、励起光αがLDに戻ると、LDの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまう。
【0029】
このため、理想的な増強角を中心とする走査範囲において、励起光αが入射面72aに対して垂直に入射しないように、入射面72aの角度が設定される。本実施形態においては、入射面72aと成膜面72bとの角度、及び、出射面72cと成膜面72bとの角度は、いずれも、約80°である。
【0030】
なお、センサーチップ70の設計により、共鳴角(及びその極近傍にある増強角)が概ね決定される。設計要素は、誘電体部材72の屈折率、金属膜74の屈折率、金属膜74の膜厚、金属膜74の消衰係数、励起光αの波長などである。金属膜74上に固定化されたアナライトによって共鳴角及び増強角がシフトするが、その量は数度未満である。
【0031】
誘電体部材72は、複屈折特性を少なからず有する。誘電体部材72の材料は、例えば、ガラス、セラミックスなどの各種の無機物、天然ポリマー、合成ポリマーなどが含まれ、化学的安定性、製造安定性、光学的透明性の観点から、二酸化ケイ素(SiO2)または二酸化チタン(TiO2)を含むものが好ましい。
【0032】
また、誘電体部材72の材質は、少なくとも励起光αに対して光学的に透明な材料から形成されていれば、その材質は、上記のように特に限定されないが、安価で取り扱い性に優れるセンサーチップ70を提供する上で、例えば、樹脂材料から形成されていることが好ましい。
【0033】
誘電体部材72を樹脂材料から形成する場合、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン類、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)などのポリ環状オレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)などを用いることができる。
【0034】
金属膜74は、誘電体部材72の成膜面72b上に形成される。これにより、成膜面72bに全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜74中の自由電子との間で相互作用(表面プラズモン共鳴)が生じ、金属膜74の表面上に局在場光を生じさせることができる。
【0035】
金属膜74の材料は、表面プラズモン共鳴を生じさせうる金属であれば、特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、より好ましくは金からなり、さらに、これら金属の合金から構成してもよい。このような金属は、酸化に対して安定であり、かつ、表面プラズモン光による電場増強が大きくなるため、金属膜74として好適である。
【0036】
また、金属膜74の形成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法など)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられる。好ましくは、スパッタリング法、蒸着法を使用するのが、金属膜形成条件の調整が容易であるので望ましい。
【0037】
金属膜74の厚さとしては、特に限定されるものではないが、好ましくは、5~500nmの範囲内とするのが好ましく、電場増強効果の観点から、より好ましくは、金、銀、銅、白金の場合には20~70nm、アルミニウムの場合には、10~50nm、これらの合金の場合には10~70nmの範囲内であることが好ましい。
【0038】
金属膜74の厚さが上記範囲内であれば、表面プラズモン光が発生し易く好適である。また、このような厚さを有する金属膜74であれば、大きさ(縦×横)の寸法、形状は、特に限定されない。
【0039】
また、ウェル部材76の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、合成樹脂、金属、セラミックスなど種々の材料から作製することができる。
ウェル部材76の製造方法も、特に限定されるものではない。例えば、極一般的に行われる樹脂成形法、打ち抜きなどで作製することができる。
【0040】
このように作製されたウェル部材76は、誘電体部材72と略同一の屈折率を有する接着剤、マッチングオイル、透明な粘着シートなどを用いて、誘電体部材72に固着させることができる。
【0041】
また、図1では図示しないが、金属膜74の誘電体部材72と対向しない面(以下、便宜上「金属膜74の表面」という)には、アナライトを捕捉するためのリガンドが固定化されている。リガンドを固定化することで、アナライトを選択的に検出することが可能となる。
【0042】
本実施形態では、金属膜74上の所定の領域(反応場)に、リガンドが均一に固定化されている。リガンドの種類は、アナライトを捕捉することができれば特に限定されない。本実施形態では、リガンドは、アナライトに特異的な抗体またはその断片である。
【0043】
このように構成されるセンサーチップ70は、図1に示すように、SPFS装置10の搬送ユニット50のチップホルダー54に装着され、SPFS装置10によって検体検出が行われる。
【0044】
次に、SPFS装置10の各構成要素について説明する。前述するように、SPFS装置10は、励起光照射ユニット20、励起光検出ユニット30、蛍光検出ユニット40、搬送ユニット50及び制御部60を有する。
【0045】
励起光照射ユニット20は、チップホルダー54に保持されたセンサーチップ70に励起光αを照射する。後述するように、蛍光γの測定時には、励起光照射ユニット20は、金属膜74に対する入射角が表面プラズモン共鳴を生じさせる角度となるように、金属膜74に対するP波のみを入射面72aに向けて出射する。
【0046】
ここで「励起光」とは、蛍光物質を直接または間接的に励起させる光である。例えば、励起光αは、誘電体部材72を介して金属膜74に表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射されたときに、蛍光物質を励起させる局在場光を金属膜74の表面上に生じさせる光である。本実施形態におけるSPFS装置10では、励起光αを、センサーチップ70の位置検出及び位置調整のための測定光として使用する。このような、測定光としての励起光αの波長は、特に限定されるものではないが、可視広域から近赤外光域の波長とすることが好ましい。
【0047】
なお、図示しないが、励起光照射ユニット20とは別に、測定光を照射するための測定光照射ユニットを設け、励起光と測定光を別のユニットから照射するように構成することも可能である。
【0048】
励起光照射ユニット20は、励起光αを誘電体部材72に向けて出射するための構成と、金属膜74の裏面に対する励起光αの入射角度を走査するための構成とを含む。本実施形態では、励起光照射ユニット20は、光源ユニット21、角度調整機構22及び光源制御部23を含む。
【0049】
光源ユニット21は、コリメートされ、かつ波長及び光量が一定の励起光αを、金属膜74裏面に対して照射スポットの形状が略円形となるように照射する。光源ユニット21は、例えば、図2に示すように、励起光αの光源25やビーム整形光学系26、APC(Automatic Power-Control)機構及び温度調整機構(いずれも不図示)を含む。
【0050】
光源25の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード、水銀灯、その他のレーザー光源が含まれる。光源25から照射される光がビームでない場合には、光源25から照射される光は、レンズや鏡、スリットなどによりビームに変換される。また、光源25から照射される光が単色光でない場合には、光源25から照射される光は、回折格子などにより単色光に変換される。さらに、光源25から照射される光が直線偏光でない場合には、光源25から照射される光は、偏光子などにより直線偏光の光に変換される。
【0051】
ビーム整形光学系26は、図2に示すように、コリメーター26a、スリット26bを含む。ビーム整形光学系26は、これ以外にも、バンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、スリット、ズーム手段などを含んでいてもよい。また、ビーム整形光学系26は、これらの全てを含んでいてもよいし、一部のみを含んでいてもよい。
【0052】
コリメーター26aは、光源25から照射された励起光αをコリメートする。スリット26bやズーム手段は、金属膜74裏面における照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
【0053】
バンドパスフィルターは、光源25から照射された励起光αを中心波長のみの狭帯域光にする。光源25からの励起光αは、若干の波長分布幅を有しているためである。
直線偏光フィルターは、光源25から照射された励起光αを完全な直線偏光の光にする。半波長板は、金属膜74にP波成分が入射するように励起光αの偏光方向を調整する。
【0054】
APC機構は、光源25の出力が一定となるように光源25を制御する。より具体的には、APC機構は、励起光αから分岐させた光の光量を不図示のフォトダイオードなどで検出する。そして、APC機構は、回帰回路で投入エネルギーを制御することで、光源25の出力を一定に制御する。
【0055】
温度調整機構は、例えば、ヒーターやペルチェ素子などである。光源25の出射光の波長及びエネルギーは、温度によって変動することがある。このため、温度調整機構で光源25の温度を一定に保つことにより、光源25の出射光の波長及びエネルギーを一定に制御する。
【0056】
角度調整機構22は、金属膜74への励起光αの入射角を調整する。角度調整機構22は、誘電体部材72を介して金属膜74の所定の位置に向けて所定の入射角で励起光αを照射するために、励起光αの光軸とチップホルダー54とを相対的に回転させる。
【0057】
例えば、角度調整機構22は、光源ユニット21を励起光αの光軸と直交する軸(図1の紙面に対して垂直な軸)を中心として回動させる。このとき、入射角を走査しても金属膜74上での照射スポットの位置がほとんど変化しないように、回転軸の位置を設定する。回転中心の位置を、入射角の走査範囲の両端における2つの励起光αの光軸の交点近傍(成膜面72b上の照射位置と入射面72aとの間)に設定することで、照射位置のズレを極小化することができる。
【0058】
金属膜74に対する励起光αの入射角のうち、プラズモン散乱光の最大光量を得られる角度が増強角である。増強角またはその近傍の角度に励起光αの入射角を設定することで、高強度の蛍光γを測定することが可能となる。
【0059】
なお、センサーチップ70の誘電体部材72の材料及び形状、金属膜74の膜厚、ウェル部材76内の試料溶液の屈折率などにより、励起光αの基本的な入射条件が決定されるが、ウェル部材76内のアナライトの種類及び量、誘電体部材72の形状誤差などにより、最適な入射条件はわずかに変動する。このため、検体検査毎に最適な増強角を求めることが好ましい。本実施形態では、金属膜74の法線(図1におけるz軸方向の直線)に対する励起光αの好適な出射角は、約70°である。
【0060】
光源制御部23は、光源ユニット21に含まれる各種機器を制御して、光源ユニット21の励起光αの照射を制御する。光源制御部23は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置及び出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0061】
また、光源ユニット21とセンサーチップ70との間には、回折光除去スリット24が設けられている。回折光除去スリット24は、不透光性材料で構成されており、励起光αの光路に対して略鉛直方向に設けられた主部24aと、主部24aの端部から延設され励起光αの光路方向上流側に傾斜した側壁部24bとを有する。
【0062】
回折光除去スリット24の主部24aには、励起光αを再整形するためのスリット孔24cが設けられる。スリット孔24cは、上述するビーム整形光学系26のスリット26bと略同一の形状とすることが好ましい。
【0063】
回折光除去スリット24の側壁部24bは、少なくとも、主部24aにおいて、後述するようなセンサーチップ70からの反射光βが存在する端部側のみに設けられていればよいが、これに限らず、例えば、図3(a)や図3(b)のように、主部24aの複数の端部から側壁部24bを延設するようにしてもよい。また、本実施例においては、方形の主部24aとしているが、主部24aの形状は特に限定されるものではなく、円形などとしてもよい。
【0064】
回折光除去スリット24は、光源ユニット21とセンサーチップ70との間であれば、どの位置に設置されていても構わないが、回折光α1の影響を抑制する観点から、センサーチップ70になるべく近い位置に配置することが好ましい。回折光除去スリット24を、センサーチップ70の近傍に設置する場合には、主部24aをなるべく小さくし、その代わりに、側壁部24bを大きくすることで、反射光βを遮ることなく、ビーム整形光学系26のスリット26bで発生した回折光α1を除去することができる。
【0065】
回折光除去スリット24は、角度調整機構22により、光源ユニット21と連動して回動するように構成される。すなわち、回折光除去スリット24のスリット孔24cが、励起光αの光路軸と一致するように、角度調整機構22により回折光除去スリット24の位置を調整する。
【0066】
励起光検出ユニット30は、光学測定(例えば、増強角の検出や光学ブランク値の測定、蛍光γの検出など)を行う際のセンサーチップ70の位置決めのために、センサーチップ70への励起光αの照射によって、センサーチップ70の入射面72aにおいて生じた反射光βを検出する。なお、本明細書において、センサーチップ70のように励起光αを反射させる要素を「励起光反射体」と呼び、励起光αが反射する界面を「励起光反射面」と呼ぶ。
【0067】
好ましくは、励起光検出ユニット30は、最初の光学測定を行う前に、センサーチップ70の位置決めのために反射光βを検出する。多くの場合、最初の光学測定は、増強角の検出であることから、増強角の検出の前に反射光βを検出することが好ましい。増強角の検出を実施しない場合は、光学ブランクの測定前に反射光βを検出する。増強角の検出及び光学ブランクの測定の両方を実施しない場合は、蛍光γの検出前に反射光βを検出する。本実施形態では、励起光検出ユニット30は、励起光αの反射光βを検出する。励起光検出ユニット30は、受光センサー31及びセンサー制御部32を含む。
【0068】
受光センサー31は、励起光αの反射光βを検出する。受光センサー31の種類は、励起光αの反射光βを検出可能であれば、特に限定されるものではなく、例えば、フォトダイオード(PD)を用いることができる。
【0069】
受光センサー31の受光面の大きさは、励起光αのビーム径よりも大きいことが好ましい。例えば、励起光αのビーム径が1~1.5mm程度の場合、受光センサー31の受光面の1辺の長さは3mm以上であることが好ましい。
【0070】
受光センサー31は、励起光αの反射光βが入射する位置に配置される。本実施形態では、受光センサー31は、誘電体部材72の入射面72aからの反射光βやウェル部材76の境界面76aからの反射光βが入射する位置に配置される。好ましくは、受光センサー31は、蛍光γの検出時と同じかまたはそれに近い角度で出射された励起光αの反射光βが入射する位置に配置される。
【0071】
励起光αの照射位置は、入射角の変化によりわずかに変化するため、センサーチップ70の位置決め時と蛍光γの測定時とで励起光αの入射角を同じかまたはそれに近い角度にすることで、蛍光γの検出時の位置決め精度をより高くすることが可能となる。
【0072】
本実施形態では、金属膜74の法線(図1におけるz軸方向の直線)に対する励起光αの出射角が約70°である場合、入射面72aからの反射光βは、搬送ステージ52の進行方向(図1におけるx軸方向)にほぼ水平に進む。したがって、受光センサー31は、この水平方向に進む反射光βが入射する位置に配置される。
【0073】
センサー制御部32は、受光センサー31の出力値の検出や、検出した出力値による受光センサー31の感度の管理、適切な出力値を得るための受光センサー31の感度の変更などを制御する。センサー制御部32は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置及び出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0074】
蛍光検出ユニット40は、金属膜74への励起光αの照射により励起された蛍光物質から生じる蛍光γを検出する。また、必要に応じて、蛍光検出ユニット40は、金属膜74への励起光αの照射によって生じたプラズモン散乱光も検出する。蛍光検出ユニット40は、例えば、受光ユニット41、位置切替機構47及びセンサー制御部48を含む。
【0075】
受光ユニット41は、センサーチップ70の金属膜74の法線方向(図1におけるz軸方向)に配置される。受光ユニット41は、第1レンズ42、光学フィルター43、第2レンズ44及び受光センサー45を含む。
【0076】
第1レンズ42は、例えば、集光レンズであり、金属膜74上から生じる光を集光する。第2レンズ44は、例えば、結像レンズであり、第1レンズ42で集光された光を受光センサー45の受光面に結像させる。両レンズ42,44の間の光路は、略平行な光路となっている。光学フィルター43は、両レンズ42,44の間に配置されている。
【0077】
光学フィルター43は、蛍光成分のみを受光センサー45に導き、高いS/Nで蛍光γを検出するために、励起光成分(プラズモン散乱光)を除去する。光学フィルター43は、例えば、励起光反射フィルター、短波長カットフィルター及びバンドパスフィルターが含まれる。光学フィルター43は、例えば、所定の光成分を反射する多層膜を含むフィルターであるが、所定の光成分を吸収する色ガラスフィルターであってもよい。
【0078】
受光センサー45は、蛍光γを検出する。受光センサー45は、微少量のアナライトを標識した蛍光物質からの微弱な蛍光γを検出することが可能な、高い感度を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、光電子倍増管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)などを用いることができる。
【0079】
位置切替機構47は、光学フィルター43の位置を、受光ユニット41における光路上または光路外に切り替える。具体的には、受光センサー45が蛍光γを検出する時には、光学フィルター43を受光ユニット41の光路上に配置し、受光センサー45がプラズモン散乱光を検出する時には、光学フィルター43を受光ユニット41の光路外に配置する。位置切替機構47は、例えば、回転駆動部と、回転運動を利用して光学フィルター43を水平方向に移動させる公知の機構(ターンテーブルやラックアンドピニオンなど)とによって構成される。
【0080】
センサー制御部48は、受光センサー45の出力値の検出や、検出した出力値による受光センサー45の感度の管理、適切な出力値を得るための受光センサー45の感度の変更などを制御する。センサー制御部48は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置及び出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0081】
搬送ユニット50は、ユーザーによりチップホルダー54に装着されたセンサーチップ70を測定位置に搬送し、固定する。ここで「測定位置」とは、励起光照射ユニット20がセンサーチップ70に励起光αを照射し、それに伴い発生する蛍光γを蛍光検出ユニット40が検出する位置である。
【0082】
なお、搬送ユニット50は、後述する位置検出及び位置調整工程において、センサーチップ70と励起光照射ユニット20の光源ユニット21との距離を変化させるためにも用いられる。
【0083】
搬送ユニット50は、搬送ステージ52及びチップホルダー54を含む。チップホルダー54は、搬送ステージ52に固定されており、センサーチップ70を着脱可能に保持する。チップホルダー54の形状は、センサーチップ70を保持することが可能であり、かつ、励起光α、反射光β及び蛍光γの光路を妨げない形状であれば、特に限定されるものではない。例えば、チップホルダー54には、励起光α、反射光β及び蛍光γが通過するための開口が設けられている。
【0084】
搬送ステージ52は、チップホルダー54を一方向(図1におけるx軸方向)及びその逆方向に移動可能に構成される。搬送ステージ52は、例えば、ステッピングモーターなどにより駆動される。
【0085】
制御部60は、角度調整機構22、光源制御部23、位置切替機構47、センサー制御部48及び搬送ステージ52を制御する。また、制御部60は、励起光検出ユニット30の検出結果に基づいて、チップホルダー54に保持されたセンサーチップ70の位置を特定するとともに、搬送ステージ52によりチップホルダー54を移動させて、センサーチップ70を適切な測定位置に移動させる位置調整部としても機能する。制御部60は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置及び出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0086】
以下、SPFS装置10を用いた検体検出の流れについて説明する。図4は、SPFS装置10の動作手順の一例を示すフローチャート、図5は、図4に示される位置検出及び位置調整工程内の工程を示すフローチャートである。
【0087】
先ずユーザーは、検出対象となるアナライトと特異的に結合するリガンドを含む試料溶液をウェル部材76に注入し、金属膜74上にリガンドを固定化(1次反応)した後、ウェル部材76を洗浄し、リガンドに捕捉されなかった物質を除去する(S100)。
【0088】
なお、ここで用いられる試料溶液は、検体を用いて調製された溶液であり、例えば、検体と試薬とを混合して検体中に含有されるアナライトに蛍光物質を結合させるための処理をしたものが挙げられる。
このような検体としては、例えば、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが挙げられる。
【0089】
また、検体中に含有されるアナライトは、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0090】
このように準備されたセンサーチップ70を、着脱位置にある搬送ユニット50のチップホルダー54に装着する(S110)。チップホルダー54に装着されたセンサーチップ70は、搬送ユニット50によって、測定位置の近くまで搬送される(S120)。
【0091】
この時、制御部60は、励起光照射ユニット20、励起光検出ユニット30及び搬送ステージ52を操作して、センサーチップ70の位置情報及びウェル部材76と誘電体部材72との相対的位置情報を得るとともに、得られた位置情報に基づいてセンサーチップ70の位置を調整する(S130)。
【0092】
図5に示すように、位置検出及び位置調整工程では、まず、センサーチップの位置情報を取得する(S131)。そして、センサーチップ70の位置情報に基づき、測定位置からのセンサーチップ70の位置ズレの程度を特定する(S132)。次いで、得られた位置情報及び位置ズレの程度に基づき、搬送ステージ52によりチップホルダー54を移動させて、センサーチップ70を適切な測定位置に配置する(S133)。
【0093】
図6は、センサーチップ70の位置情報を得る工程(S130)を説明するための模式図である。
まず、図6(A)に示すように、センサーチップ70が光源ユニット21から離れた位置にある場合、光源ユニット21が励起光αを照射すると、励起光αはウェル部材76の側面で反射して、上方に向かう。したがって、励起光検出ユニット30の受光センサー31は、センサーチップ70からの反射光βは入射しない。
【0094】
センサーチップ70を光源ユニット21に近づけていくと、光源ユニット21からの励起光αは、ウェル部材76と誘電体部材72との境界部(以下「エッジ部」という)に到達する。この場合、図6(B)に示されるように、ウェル部材76の底面で反射した励起光α(反射光β)は受光センサー31に入射しないが、誘電体部材72の入射面72aで反射した励起光α(反射光β)は受光センサー31に入射する。したがって、受光センサー31には、センサーチップ70からの反射光βの一部が入射することになる。
【0095】
さらにセンサーチップ70を光源ユニット21に近づけていくと、光源ユニット21からの励起光αは、すべて誘電体部材72の入射面72aに到達する。したがって、図6(C)に示すように、受光センサー31には、センサーチップ70からの反射光βのすべてが入射することになる。
【0096】
図7は、受光センサー31による反射光βの検出結果の例を示すグラフである。この例では、搬送ステージ52によりセンサーチップ70を光源ユニット21の方へ移動させながら、受光センサー31により反射光βの強度を測定した。励起光αのビーム径は1~1.5mm程度である。
【0097】
図7に示すように、センサーチップ70を光源ユニット21に近づけていくと、位置Aから受光センサー31に入射する反射光βの光量が徐々に増加する。これは、図6(B)に示したように、励起光αの一部が入射面72aで反射して、受光センサー31に入射するためである。
【0098】
そして、センサーチップ70が位置Bを越えると、受光センサー31に入射する反射光βの光量が略一定となる。これは、図6(C)に示したように、励起光αのすべてが誘電体部材72の入射面72aに反射して、反射光βのすべてが受光センサー31に入射するためである。
【0099】
したがって、図7に示す位置Aから位置Bの間の傾斜部が、励起光αがエッジ部を通過したタイミングに一致する。なお、傾斜部の幅は、励起光αのx軸方向のビーム径(1~1.5mm程度)に対応している。
【0100】
ここで、位置Aと位置Bの中点である位置Mが、エッジ部、すなわち、誘電体部材72の端部の位置であると特定することができる。なお、位置Mは、単に位置Aと位置Bの中点としてもよいが、図6に示すグラフにおいて、反射光βの光量の最小値(位置Aにおける光量に対応する)と、反射光βの光量の最大値(位置Bにおける光量に対応する)を求め、これらの平均値を算出し、傾斜部においてこの平均値となる位置を検出することで特定することで、より正確にエッジ部の位置を特定することができる。この位置Mの位置情報をエッジ部位置情報とする。
【0101】
エッジ部位置情報により、センサーチップ70の位置を特定することができ、センサーチップ70が正確に測定位置に配置されているか否かを検出することができる。
センサーチップ70が測定位置に配置されていない場合には、搬送ステージ52を動作させて、センサーチップ70を測定位置に移動させる。通常、エッジ部の位置と金属膜74裏面の励起光αを照射すべき領域(反応場の裏側の領域)との距離は決まっているため、搬送ステージ52によってチップホルダー54をエッジ部の位置から所定距離だけ移動させることで、センサーチップ70を適切な測定位置に配置することができる。
【0102】
なお、センサーチップ70が高さ方向(z軸方向)にずれて配置されていた場合(例えば、センサーチップ70とチップホルダー54との間に異物が挟まっていた場合)も、チップホルダー54をエッジ部の位置から所定距離だけx軸方向に移動させることで、センサーチップ70を適切な測定位置に配置することができる。なお、制御部60は、適切な測定位置を記憶する。
【0103】
このように、センサーチップ70を適切な測定位置に配置した状態で、制御部60は、励起光照射ユニット20及び蛍光検出ユニット40を操作して、センサーチップ70に励起光αを照射するとともに、励起光αと同一波長のプラズモン散乱光を検出して、増強角を検出する(S140)。
【0104】
具体的には、制御部60は、励起光照射ユニット20を操作して、金属膜74に対する励起光αの入射角を走査しつつ、蛍光検出ユニット40を操作してプラズモン散乱光を検出する。この時、制御部60は、位置切替機構47を操作して、光学フィルター43を受光ユニット41の光路外に配置する。そして、制御部60は、プラズモン散乱光の光量が最大の時の励起光αの入射角を増強角として決定する。
【0105】
次いで、制御部60は、励起光照射ユニット20及び蛍光検出ユニット40を操作して、適切な測定位置に配置されたセンサーチップ70に励起光αを照射するとともに、受光センサー45の出力値(光学ブランク値)を記録する(S150)。
【0106】
この時、制御部60は、角度調整機構22を操作して、励起光αの入射角を増強角に設定する。また、制御部60は、位置切替機構47を操作して、光学フィルター43を受光ユニット41の光路内に配置する。
【0107】
次いで、制御部60は、搬送ステージ52を操作して、センサーチップ70を着脱位置に移動させ、ユーザーはセンサーチップ70をチップホルダー54から取り外す(S160)。
そして、ユーザーは、蛍光物質で標識された2次抗体を含む液体(標識液)をウェル部材76内に導入する(S170)。ウェル部材76内では、抗原抗体反応(2次反応)によって、金属膜74上に捕捉されているアナライトが蛍光物質で標識される。この後、ウェル部材76内を洗浄し、遊離の蛍光物質などを除去する。
【0108】
そして、ユーザーは再度、着脱位置にあるチップホルダー54にセンサーチップ70を装着する(S180)。チップホルダー54に装着されたセンサーチップ70は、搬送ユニット50によって、制御部60に記憶された適切な測定位置まで搬送される(S190)。
【0109】
なお、この時、制御部60に記憶された適切な測定位置の情報を用いずに、上述する工程S130と同様に制御して、センサーチップ70を適切な測定位置に配置するように構成することもできる。
【0110】
次いで、制御部60は、励起光照射ユニット20及び蛍光検出ユニット40を操作して、適切な測定位置に配置されたセンサーチップ70に励起光αを照射するとともに、リガンドに捕捉されているアナライトを標識する蛍光物質から放出された蛍光γを検出する(S200)。検出された蛍光γの強度に基づき、必要に応じて、アナライトの量や濃度などに換算することができる。
【0111】
以上の手順により、試料溶液中のアナライトの存在またはその量を検出することができる。
なお、1次反応(S100)の前に、位置検出及び位置調整(S130)、増強角検出(S150)、光学ブランク値測定(S160)を実施するようにしてもよい。
【0112】
また、励起光αの入射角があらかじめ決まっている場合は、増強角の検出(S150)を省略してもよい。この場合、センサーチップ70の位置検出及び位置調整(S130)は、光学ブランク値測定(S160)の前に実施される。このように、センサーチップ70の位置検出及び位置調整(S130)は、光学測定(増強角の検出、光学ブランク値の測定、蛍光の検出)を初めて実施する前に実施されることが好ましい。
【0113】
また、上記の説明では、アナライトとリガンドとを反応させる1次反応(S100)の後に、アナライトを蛍光物質で標識する2次反応(S180)を行っている(2工程方式)。しかしながら、アナライトを蛍光物質で標識するタイミングは、特に限定されるものではない。
【0114】
例えば、ウェル部材76内に試料溶液を導入する前に、試料溶液に標識液を添加してアナライトを予め蛍光物質で標識しておくこともできる。また、ウェル部材76内に試料溶液と標識液を同時に注入することで、蛍光物質で標識されたアナライトがリガンドに捕捉されることとなる。この場合、アナライトが蛍光物質で標識されるとともに、アナライトがリガンドに捕捉される。
【0115】
いずれの場合も、ウェル部材76内に試料溶液を導入することで、1次反応及び2次反応の両方を完了することができる(1工程方式)。このように1工程方式を採用する場合は、抗原抗体反応の前に増強角検出(S150)が実施され、さらにその前に、センサーチップの位置検出及び位置調整(S130及びS140)が実施される。
【0116】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、上記実施形態ではSPFS装置について説明したが、本発明に係る位置検出方法及び位置検出装置は、SPR装置などのSPFS装置以外の光学式検体検出システムにも適用されうる。
【0117】
さらに、上記実施形態では、試料溶液保持部材としてウェル部材である場合について説明したが、上述するように、境界面に反射した励起光αが、励起光検出ユニット30の受光センサー31に入射するような境界面を有する試料溶液保持部材であれば、特に限定されるものではなく、例えば、流路チップタイプのセンサーチップにおける流路蓋であってもよいなど、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0118】
10 SPFS装置
20 励起光照射ユニット
21 光源ユニット
22 角度調整機構
23 光源制御部
24 回折光除去スリット
24a 主部
24b 側壁部
24c スリット孔
25 光源
26 ビーム整形光学系
26a コリメーター
26b スリット
30 励起光検出ユニット
31 受光センサー
32 センサー制御部
40 蛍光検出ユニット
41 受光ユニット
42 レンズ
43 光学フィルター
44 レンズ
45 受光センサー
47 位置切替機構
48 センサー制御部
50 搬送ユニット
52 搬送ステージ
54 チップホルダー
60 制御部
70 センサーチップ
72 誘電体部材
72a 入射面
72b 成膜面
72c 出射面
74 金属膜
76 ウェル部材
76a 境界面
100 SPFS装置
120 励起光照射ユニット
121 光源ユニット
122 角度調整機構
123 光源制御部
125 光源
126 ビーム整形光学系
126a コリメーター
126b スリット
140 蛍光検出ユニット
154 チップホルダー
160 制御部
170 センサーチップ
172 誘電体部材
174 金属膜
176 試料溶液保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8