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特許7121750ピラジノカルバゾール誘導体の合成のためのピペラジン環の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】ピラジノカルバゾール誘導体の合成のためのピペラジン環の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/06 20060101AFI20220810BHJP
   C07B 53/00 20060101ALI20220810BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220810BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALN20220810BHJP
   A61P 25/24 20060101ALN20220810BHJP
【FI】
C07D487/06
C07B53/00 F
C07B61/00 300
A61K31/4985
A61P25/24
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2019557487
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 IB2018052753
(87)【国際公開番号】W WO2018193414
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】110037
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(31)【優先権主張番号】17167851.9
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516336091
【氏名又は名称】テクニメデ ソシエダーデ テクニコ-メディシナル エス.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】カルラ パトリシア ダ コスタ ペレイラ ロサ
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン カルロス ラモス ダミル
(72)【発明者】
【氏名】アナ バネッサ コルデイロ シモエンス
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン ペドロ シルバ セルラ
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104774208(CN,A)
【文献】Andreeva, N. I.; et al,Pyrazidole enantiomers: preparation and pharmacological properties,Pharmaceutical Chemistry Journal ,1992年,26(5),,365-369,(Khimiko-Farmatsevticheskii Zhurnal (1992), 26(5), 4-7)
【文献】Bokanov, A. I.; et al,Synthesis of heterocycles on the basis of iminotetrahydrocarbazoles. 1, 3-Benzyl-8-methyl-2-oxo-2, 3, 3a, 4, 5 ,6-hexahydro-1H-pyrazino[3, 2, 1-j, k]-carbazole,Chemistry of Heterocyclic Compounds ,1987年,23(12),,1311-1315,Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinenii (1987), (12), 1632-1635
【文献】William, R. Roderick.; et al,Derivatives of Piperazine. XXXV. Synthesis of 2-Phenylpiperazine and Some Derivatives,Journal of Medicinal Chemistry,1966年,9(2),,181-185
【文献】Ivanov, P. Yu.; et al,A new approach to the synthesis of pyrazidol,Pharmaceutical Chemistry Journal,1987年,21(1),,62-65,(Khimiko-Farmatsevticheskii Zhurnal (1987), 21(1), 71-75)
【文献】Pascal de Tullio et al.,First Preparative Enantiomer Resolution of Pirlindole, a Potent Antidepressant Drug,Helvetica Chimica Acta,1998年,81(3),pp. 539-547
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/06
A61K 31/4985
A61P 25/24
C07B 53/00
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIまたはIIIのピルリンドールエナンチオマー
【化1】
またはそれらの薬学的に許容される塩の合成方法であって、
式VIの化合物(S)-6-メチル-N-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミンまたは式VIIIの化合物(R)-6-メチル-N-((R)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミンと、
【化2】
式XIIのアシル化化合物
【化3】
とを反応させる工程と
(式中、
は、-Br、-Cl、-OT、-OM、OH、-OR1、-OCORまたはイミダゾールから選択される脱離基であり、
は、水素、C-Cアルキル鎖またはアリールであり、第1非プロトン性溶媒中、アルカリ剤の存在下で、式Xの化合物、2-置換N-((S)-6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-イル)-N-((S)-1-フェニルエチル)アセトアミドまたは式XIの化合物、2-置換N-((R)-6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-イル)-N-((R)-1-フェニルエチル)アセトアミドを生成する
【化4】
式Xの化合物または式XIの化合物の分子内インドールアセトアミド環化工程と
(式中、Lは、-Br、-Cl、-I、-OT、-OM、-OH、-ORから選択される脱離基であり、
第2非プロトン性溶媒中、アルカリ剤および相間移動触媒の存在下で、式IVの化合物、(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンまたは式XIVの化合物(R)-8-メチル-3-((R)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンを生成する
【化5】
式IVの化合物または式XIVの化合物の前記ラクタム環を、第3非プロトン性溶媒中、還元剤の存在下で、それぞれ式Vの化合物または式IXの化合物に還元する工程と、
【化6】
接触水素化分解または酸性フェニル開裂により、式IIもしくはIIIのピルリンドールエナンチオマーまたはそれらの薬学的に許容される塩を生成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記アルカリ剤が、第3級有機アミン、アルカリ金属塩の炭酸塩、アルカリ金属塩の炭酸水素塩、またはアルカリ金属塩から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3級有機アミンがピリジンまたはトリメチルアミンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩の炭酸塩が炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩の炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属塩が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ剤が水酸化ナトリウムである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1非プロトン性溶媒および第2非プロトン性溶媒が、独立して、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメトキシエタン、ジエチルエーテルまたはトルエンから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1非プロトン性溶媒がトルエンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第2非プロトン性溶媒がトルエンである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第3非プロトン性溶媒が、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルまたはトルエンから選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第3非プロトン性溶媒がテトラヒドロフランである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
が-Clである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
が-Clである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
がC-Cアルキル鎖である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
アルカリ剤:化合物式VIまたはVIII:化合物式XIIのモル比が1:1:1~15:1:4である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
アルカリ剤:化合物式VIまたはVIII:化合物式XIIのモル比が10:1:3である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
アルカリ剤:式XまたはXIの化合物:相間移動触媒のモル比が1:1:0.005~15:1:0.1である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
アルカリ剤:化合物式XまたはXI:相間移動触媒のモル比が10:1:0.01である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記還元剤:化合物式IVまたは化合物式XIVのモル比が1:1~4:1である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
還元剤:化合物式IVまたは化合物式XIVのモル比が3.3:1である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記還元剤が、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(Dibal-H)、水素化アルミニウム(AlH)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムまたはボランテトラヒドロフラン(THF)錯体から選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記相間移動触媒が、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、硫酸水素テトラブチルアンモニウムおよびベンジルトリブチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウムハロゲン塩から選択される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記アシル化化合物XIIがクロロアセチルクロリドである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記相間移動触媒がテトラブチルアンモニウムブロミドである、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ピルリンドールエナンチオマーIIまたはIIIの薬学的に許容される塩が、酢酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、マンデル酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、乳酸塩、エタンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、リン酸塩である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記接触水素化分解が20~70℃で実施される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記接触水素化分解が2~8時間実施される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記接触水素化分解が500~2000KPaの水素圧で実施される、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記接触水素化分解が20~70℃で、2~8時間、500KPa~2000KPaの水素圧で実施される、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記接触水素化分解が、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびジクロロメタンから選択される酸性化溶媒混合液で実施される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピペラジン環の合成のための、特に抗うつ薬ピルリンドールなどのピラジノカルバゾールの合成における中間体として有用な複素環式化合物の調製のための改善された方法に関する。記載の方法は、ピルリンドールエナンチオマー、またはその薬学的に許容される塩を調製するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
ピルリンドール塩酸塩は、式Iで表される化合物である。
【化1】
【0003】
これは、ピラジドール(商標)という名前で市販されている医薬品有効成分である8-メチル-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール塩酸塩の一般名である。この化合物は抗うつ剤として有効である。
【0004】
ピルリンドールの化学構造は、ピラジノカルバゾール群に属する。それは、2つのエナンチオマー、式IIの(R)-ピルリンドールおよび式IIIの(S)-ピルリンドールの存在を予測する1つの立体中心からなる。
【化2】
【0005】
ピルリンドールの薬理データと臨床使用はラセミ体で行われたが、近年、各エナンチオマーの薬理プロファイルへの関心が高まっている(WO2015/171005A1)。
【0006】
2014年5月9日に提出された文書WO2015/171003A1(Tecnimede group)は、ラセミ体ピルリンドールの光学活性ピルリンドールへの分割を開示している。記載の分割-ラセミ化-リサイクル(RRR)合成には、光学活性有機酸からの塩の形態のジアステレオマーの対の調製による誘導体化が含まれる。これらのジアステレオマーは、結晶化などの従来技術によって分離することができる。実験室規模または(R)もしくは(S)ピルリンドールの前臨床バッチを調製することは非常に効率的な手順であるが、本方法は出発物質としてピルリンドールラセミ体に依存しているため、工業規模では経済的に便利ではない。
【0007】
ピルリンドールを調製する方法には、ピペラジン環の形成が含まれる。最新技術では、ピペラジン環形成のさまざまな方法が開示されているが、それらは一般に多段階アプローチであり、低収率、高価な試薬によって妨げられているか、不成功に終わると報告されている(Roderick et al. Journal of Medicinal Chemistry 1966, 9, 181-185)。
【0008】
Andreevaらによって説明されたピルリンドールエナンチオマーの最初の不斉合成(Pharmaceutical Chemistry 1992、26、365-369)は、テトラヒドロカルバゾール-アミンからピラジノカルバゾールピペラジン環系を調製する一段階法を開示している。この方法は非常に低い収率(23.8%)を開示し、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはジメチルホルムアミド(DMF)の存在下で水素化ナトリウム(NaH)を使用し、両条件は、反応発火または反応熱暴走を引き起こす可能性のある発熱分解を発生させるとして説明されている。
【0009】
水素化ナトリウムとDMSOとの混合は、ジムシルアニオンを生成する。このアニオンは実験室規模で非常に頻繁に使用されるが、不安定であるため、大規模での使用は特定の予防措置の下で行う必要がある。ジムシルアニオン分解は発熱性である。ジムシルアニオンの分解は20℃でも始まり、40℃を超えるとかなりの速度で分解すると報告されている(Lynessら米国特許第3288860号明細書)。
【0010】
DMFと水素化ナトリウムとの混合は、Sax & Lewis’s Dangerous Properties of Industrial Materialsに報告されており、50℃を超えると発火を伴う激しい反応を起こす。Buckeyら(Chemical & Engineering News, 1982, 60(28), 5)は、水素化ナトリウムとDMFを含むパイロットプラント反応器の50℃からの熱暴走について説明している。加速熱量測定(ARC)試験では、26℃という低い発熱活性が示された。DMAでも同様の挙動が見られた。De Wallら(Chem. Eng. News, 1982, 60(37), 5)は同様の出来事を報告しており、暴走は40℃で始まり、10分未満で100℃上昇し、ほとんどのDMFを煮沸除去した。
【0011】
ピラジノカルバゾール誘導体のピペラジン環系を調製するための代替方法は、3段階アプローチでのラクタム環の形成を含むことができる:
1.N-アシル化反応;
2.ラクタム環を得るための分子内インドールアセトアミド環化;
3.ラクタム還元。
【0012】
ラクタム環を生成するための分子内インドールクロロアセトアミド環化は、Bokanov et al. (Pharmaceutical Chemistry Journal 1988, 23, 12, 1311-1315)によって、特にピラジノカルバゾロン誘導体の非エナンチオ選択的合成において説明されている。Bokanovらは、ピペラジン環へのラクタム還元については説明していない。
【0013】
ラクタム環を生成するための分子内インドールクロロアセトアミド環化は、Rubiralta et al. (Journal of Organic Chemistry 1989, 54, 23, 5591-5597)およびBennasar, et al. (Journal of Organic Chemistry 1996, 61, 4, 1239-1251)によっても、光環化反応の予期せぬ結果として説明されている。ラクタム変換率は低かった(<11%収率)。
【0014】
ピペラジン環系へのピラジノンのラクタム還元は、Aubry et al. (Biorganic Medicinal Chemistry Letters 2007, 17, 2598-2602)およびSaito et al. (Tetrahedron 1995, 51, 30, 8213-8230)の両方によって、アルカロイド天然物の全合成において開示されている。
【0015】
ピペラジン環誘導体の調製のための改善された方法、特に、式IIおよびIIIのピルリンドールエナンチオマー化合物のピラジノカルバゾール中間体前駆体の調製のためのエナンチオ選択的方法の必要性が存在する。
【0016】
これらの事実は、本開示により対処される技術的問題を説明するために開示されている。
【発明の概要】
【0017】
本明細書に開示される方法は、ピペラジン環の調製、特にピルリンドールエナンチオマーIIおよびIIIなどのピラジノカルバゾールまたはそれらの薬学的に許容される塩の調製のための改善された方法を提供する。
【0018】
本開示は、式VIの化合物((S)-6-メチル-N-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミン)の式IVの化合物(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オン)への変換に関し、これはN-アシル化および分子内インドールアセトアミド環化を伴う2段階、1反応容器アプローチで調製できる。N-アシル化反応は、二相性アルカリ条件下である;式VIの未反応化合物は、濾過により塩酸塩の形態で回収され、N-アセチル化工程で再利用される。分子内インドールアセトアミド環化は、相間移動触媒条件下で二相アルカリ系でも実施される。使用される相間移動触媒の量は大幅に減少し、特に式Xの化合物に関して0.1当量未満、より具体的には0.01当量であった。
【0019】
本開示は、式IIまたはIIIのピルリンドールエナンチオマー
【化3】

またはそれらの薬学的に許容される塩の合成方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
式VIの化合物(S)-6-メチル-N-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミンまたは式VIIIの化合物(R)-6-メチル-N-((R)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミンと、
【化4】

式XIIのアシル化化合物
【化5】
XII
とを反応させる工程
(式中、
は、-Br、-Cl、-OT、-OM、OH、-OR、-OCORまたはイミダゾールから選択される脱離基であり、
は、水素、C-Cアルキル鎖またはアリールであり、第1非プロトン性溶媒中、アルカリ剤の存在下で、式Xの化合物、2-置換N-((S)-6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-イル)-N-((S)-1-フェニルエチル)アセトアミドまたは式XIの化合物、2-置換N-((R)-6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-イル)-N-((R)-1-フェニルエチル)アセトアミドを生成する
【化6】

);
式Xの化合物または式XIの化合物の分子内インドールアセトアミド環化工程
(式中、Lは、-Br、-Cl、-I、-OT、-OM、-OH、-ORから選択される脱離基であり、第2非プロトン性溶媒中、アルカリ剤および相間移動触媒の存在下で、式IVの化合物、(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンまたは式XIVの化合物(R)-8-メチル-3-((R)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンを生成する
【化7】
);
式IVの化合物または式XIVの化合物のラクタム環を、第3非プロトン性溶媒中、還元剤の存在下で、それぞれ式Vの化合物または式IXの化合物に還元する工程
【化8】
ならびに
接触水素化分解または酸性フェニル開裂により、式IIもしくはIIIのピルリンドールエナンチオマーまたはそれらの薬学的に許容される塩を生成する工程。
【0020】
一実施形態では、アルカリ剤は、第3級有機アミン、例えばピリジンもしくはトリメチルアミン;アルカリ金属塩の炭酸塩、例えば炭酸カリウムもしくは炭酸ナトリウム;アルカリ金属塩の炭酸水素塩、例えば炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸水素カリウム;またはアルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムから選択されてもよい。
【0021】
一実施形態では、アルカリ剤は水酸化ナトリウムであり、特にアルカリ剤は水酸化ナトリウムの50%(w/v)水溶液である。
【0022】
一実施形態では、第1非プロトン性溶媒および第2非プロトン性溶媒は、独立して、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメトキシエタン、ジエチルエーテルまたはトルエンから選択されてもよく、好ましくは第1非プロトン性溶媒はトルエンであり得る;第2非プロトン性溶媒もトルエンであってもよい。
【0023】
一実施形態では、第3非プロトン性溶媒は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルまたはトルエンから選択されてもよく、好ましくはテトラヒドロフランであってもよい。
【0024】
一実施形態では、Lは-Clであってもよい。
【0025】
一実施形態では、Lは-Clであってもよい。
【0026】
一実施形態では、RはC-Cアルキル鎖であってもよい。
【0027】
一実施形態では、アルカリ剤:化合物式VIまたはVIII:化合物式XIIのモル比は、1:1:1~15:1:4、好ましくは10:1:3であり得る。
【0028】
アルカリ剤:式XまたはXIの化合物:相間移動触媒のモル比が1:1:0.005~15:1:0.1の間、好ましくは10:1:0.01であり得る、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
一実施形態では、還元剤:化合物式IVまたは化合物式XIVのモル比は、1:1~4:1の間、好ましくは3.3:1であり得る。
【0030】
一実施形態では、還元剤は、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(Dibal-H)、水素化アルミニウム(AlH)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムまたはボランテトラヒドロフラン(THF)錯体から選択されてもよく、好ましくは水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムである。
【0031】
一実施形態では、相間移動触媒は、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、硫酸水素テトラブチルアンモニウムおよびベンジルトリブチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウムハロゲン塩から選択されてもよい。
【0032】
一実施形態では、アシル化化合物XIIはクロロアセチルクロリドである。
【0033】
一実施形態では、相間移動触媒はテトラブチルアンモニウムブロミドである。
【0034】
一実施形態では、ピルリンドールエナンチオマーIIIまたはIIの薬学的に許容される塩は、酢酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、マンデル酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、乳酸塩、エタンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、リン酸塩であり得る。
【0035】
一実施形態では、接触水素化分解は、20~70℃、好ましくは50℃で実施され得る。
【0036】
一実施形態では、接触水素化分解は、2~8時間、好ましくは5時間実施され得る。
【0037】
一実施形態では、接触水素化分解は、500KPa~2000KPa(5~20バール)、より好ましくは700KPa(7バール)の水素圧で実施され得る。
【0038】
一実施形態では、接触水素化分解は、20~70℃で、好ましくは2~8時間、500KPa~2000KPa(5~20バール)の水素圧で実施される。
【0039】
一実施形態では、接触水素化分解は、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびジクロロメタンから選択される酸性化溶媒混合液で実施されてもよく、好ましくは、酸性化溶媒混合液はプロトン性溶媒とジクロロメタンとの混合液であり、より好ましくはメタノールとジクロロメタンとの混合液である。
【0040】
一実施形態では、式Vのピラジノカルバゾール誘導体化合物は、式IVの化合物のラクタム環の選択的還元により得られ、ピペラジン環をもたらした。
【0041】
一実施形態では、この方法により得られる式Vの化合物の接触水素化分解は、塩基性化が必要ではないため簡単な精製工程を必要とする式IIIの高純度クルード化合物((S)-ピリンドール)を生成する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本開示は、ピペラジン環の合成のための、特にピラジノカルバゾールの合成における中間体として有用な複素環式化合物の調製のための方法を提供する。これらの中間体は、対応する酸塩に容易に変換可能なピルリンドールエナンチオマーの不斉合成での使用に適している。
【0043】
本開示は、式IVのピラジノカルバゾロン誘導体、(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンを得るためのN-アシル化および分子内環化反応に関する。
【化9】
IV
【0044】
別の態様は、式IVの化合物の式Vのピペラジン誘導体化合物(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾールへの選択的還元に言及し、
【化10】

これを接触水素化分解して式IIIの(S)-ピルリンドール化合物を得ることができる。
【0045】
一実施形態では、式VIの化合物、(S)-6-メチル-N-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミン
【化11】
VI
は、ピラジノカルバゾールVの合成における中間体であり、2つの工程で調製できる:
‐式VIIの化合物、6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-オン
【化12】
VII
とキラル補助剤(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンとの1-縮合、続いて:
‐水素化ホウ素ナトリウムによる2-立体選択的還元。
【0046】
一実施形態では、本開示の方法は、式IIの(R)-ピルリンドールの調製であり、ここで式VIの化合物のエナンチオマー、(R)-6-メチル-N-((R)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミン(式VIII)
【化13】
VIII
は、化合物式VIIと(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンとの縮合から得られる。
【0047】
一実施形態では、式VIIIの化合物をアシル化、環化および還元して、式IXの化合物(R)-8-メチル-3-((R)-1-フェニルエチル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾールを得ることができ、
【化14】
IX
これを接触水素化分解して式IIの(R)-ピルリンドール化合物を得ることができる。
【0048】
本開示の別の態様は、式VIの化合物のN-アシル化反応に関し、式Xの化合物、2-置換N-((S)-6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-イル)-N-((S)-1-フェニルエチル)アセトアミド
【化15】

を生成する。
【0049】
本開示の別の態様は、式VIIIの化合物のN-アシル化反応に関し、式XIの化合物、2-置換N-((R)-6-メチル-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-イル)-N-((R)-1-フェニルエチル)アセトアミド
【化16】
XI
を生成する。
【0050】
一実施形態では、式VIの化合物または式VIIIの化合物は、適切な溶媒中および適切なアルカリ剤の存在下で、LおよびLが脱離基である式XIIの化合物と反応する。
【化17】
XII
【0051】
脱離基の例には、-Br、-Clなどのハロゲン、または-OTや-OMなどのスルホンアルコール、またはヒドロキシル基-OH、または-ORなどのアルコキシ基、または-OCORなどのカルボン酸の無水物、またはイミダゾールが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、Lは-Clである。Rは水素、C-Cアルキルまたはアリールである。
【0052】
式XIIの化合物は、式XIIIのケテンで表すこともできる
【化18】
XIII
【0053】
式XIIIのケテン化合物は市販されているか、または式XIIの化合物からin situで調製することができる。最新技術は、アシル化剤XIIからケテンを調製する手順を開示している(例えば、Brady et al. Journal of Organic Chemistry 1981, vol. 46, 20 p. 4047 - 4050)。
【0054】
一実施形態では、本開示による式VIの化合物の式Xの化合物への変換に適した溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタン(DCM)、ジメトキシエタン(DME)、ジエチルエーテルまたはトルエンなどの非プロトン性溶媒から選択されるが、これらに限定されない。
【0055】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、上記の適切な溶媒は好ましくはトルエンである。
【0056】
一実施形態では、本開示による適切なアルカリ剤は、ピリジンもしくはトリエチルアミンなどの第3級有機アミン、または炭酸カリウムもしくは炭酸ナトリウムもしくは炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属塩の炭酸塩もしくは炭酸水素塩、または水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属塩から選択されるが、これらに限定されない。
【0057】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、好ましくはアルカリ剤は水酸化ナトリウムであり、さらにより好ましくはアルカリ剤は水酸化ナトリウムの50%(w/v)水溶液である。
【0058】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、好ましくは、アシル化反応成分アルカリ剤、化合物式VI、および化合物式XIIのモル比は1:1:1~15:1:4であり、より好ましくは10:1:3である。
【0059】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、好ましくは、アシル化反応成分アルカリ剤、化合物式VIII、および化合物式XIIのモル比は1:1:1~15:1:4であり、より好ましくは10:1:3である。
【0060】
一実施形態では、反応は、-10℃~20℃、好ましくは0~5℃の温度で、30分~10時間、より好ましくは4時間起こる。
【0061】
一実施形態では、好ましくは式XIIの化合物はハロゲン化アシルである。
【0062】
本開示の別の実施形態は、式Xの化合物の式IVの化合物への分子内インドールアセトアミド環化に関し、式中Lは、適切な溶媒中および適切なアルカリ剤および相間移動触媒の存在下での脱離基である。
【0063】
本開示の別の実施形態は、式XIの化合物の式XIVの化合物、(R)-8-メチル-3-((R)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンへの分子内インドールアセトアミド環化に関し、
【化19】
XIV
式中Lは、適切な溶媒中および適切なアルカリ剤および相間移動触媒の存在下での脱離基である。
【0064】
脱離基の例には、-Br、-Cl、-Iなどのハロゲン、または-OTや-OMなどのスルホンアルコールまたは-ORなどのアルコキシ基が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、Lは-Clである。Rは水素、C-Cアルキルまたはアリールである。
【0065】
一実施形態では、式XIIの化合物は、好ましくは塩化クロロアセチルである。
【0066】
一実施形態では、本開示による適切なアルカリ剤は、ピリジンもしくはトリメチルアミンなどの第3級有機アミン、または炭酸カリウムもしくは炭酸ナトリウムもしくは炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属塩の炭酸塩もしくは炭酸水素塩、または水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩から選択されるが、これらに限定されない。
【0067】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、アルカリ剤は、好ましくは水酸化ナトリウムであり、さらにより好ましくは、アルカリ剤は水酸化ナトリウムの50%(w/v)水溶液である。
【0068】
一実施形態では、本開示による適切な溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメトキシエタン、ジエチルエーテルまたはトルエンなどの非プロトン性溶媒から選択されるが、これらに限定されない。好ましくは、溶媒はトルエンである。
【0069】
一実施形態では、本開示による適切な相間移動触媒は、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、硫酸水素テトラブチルアンモニウムおよびベンジルトリブチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウムハロゲン塩を含む群から選択されるが、これらに限定されない。
【0070】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、好ましくは相間移動触媒はテトラブチルアンモニウムブロミドである。
【0071】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、モル比は、好ましくは、環化反応成分のアルカリ剤、式Xの化合物、および相間移動触媒の間で1:1:0.005~15:1:0.1である。より好ましくは、10:1:0.01である。
【0072】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、モル比は、好ましくは、環化反応成分のアルカリ剤、式XIの化合物、および相間移動触媒の間で1:1:0.005~15:1:0.1である。より好ましくは、10:1:0.01である。
【0073】
一実施形態では、環化反応は、20℃~100℃の温度で、好ましくは65℃で30分~2時間、より好ましくは1時間起こる。
【0074】
本開示の別の実施形態は、適切な溶媒、特に非プロトン性溶媒中、および適切な還元剤での式IVの化合物の式Vの化合物への選択的ラクタム還元反応に関する。
【0075】
本開示の別の実施形態は、適切な溶媒、特に非プロトン性溶媒中、および適切な還元剤での式XIVの化合物の式IXの化合物への選択的ラクタム還元反応に関する。
【0076】
本開示によれば、適切な還元剤は、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)などの有機リチウム試薬、水素化ジイソブチルアルミニウム(Dibal-H)、水素化アルミニウム(AlH)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムだけではなく、ボランTHF錯体などの有機ホウ素試薬もしくは錯体も含むが、これらに限定されない。
【0077】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、好ましくは、還元剤は、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムである。
【0078】
一実施形態では、本開示による化合物式Vまたは式IXの化合物の調製に適した溶媒には、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルおよびトルエンなどの非プロトン性溶媒が含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
一実施形態では、さらに良好な結果を得るために、非プロトン性溶媒は、好ましくはテトラヒドロフランである。
【0080】
一実施形態では、好ましくは、ラクタム還元成分還元剤:化合物式IVのモル比は1:1~4:1であり、より好ましくは3.3:1である。
【0081】
一実施形態では、好ましくは、ラクタム還元成分還元剤:化合物式XIVのモル比は1:1~4:1であり、より好ましくは3.3:1である。
【0082】
一実施形態では、ラクタム還元は、室温~100℃の温度で、好ましくは50℃で30分~5時間、好ましくは30分~3時間、より好ましくは1時間起こる。
【0083】
一実施形態では、本開示による方法によって得られた中間体Vを、接触水素化分解または酸性フェニルエチル切断にかけることができる。酸性化有機溶媒混合液中での接触水素化分解により、式IIIの化合物(S)-ピリンドールが得られる。接触水素化分解は、水素圧下または転移水素化分解条件下である。
【0084】
一実施形態では、本開示による方法によって得られた中間体IXを、接触水素化分解または酸性フェニルエチル切断にかけることができる。酸性化有機溶媒混合液中での接触水素化分解により、式IIIの化合物(R)-ピリンドールが得られる。接触水素化分解は、水素圧下または転移水素化分解条件下である。
【0085】
一実施形態では、好ましくは、酸性フェニルエチル開裂は、三ハロゲン化ホウ素またはアルミニウムなどの酸性開裂剤によって行われる。より好ましくは、酸性開裂剤は三塩化ホウ素、三臭化ホウ素または塩化アルミニウムである。
【0086】
一実施形態では、好ましくは、接触水素化分解は不均一触媒を使用し、水素圧下で起こる。好ましくは、不均一触媒は木炭上のパラジウムである。より好ましくは、不均一触媒は、約3.2モル%のパラジウム含有量を有することになる。
【0087】
一実施形態では、好ましくは、接触水素化分解の水素圧は、500KPa~2000KPa(5~20バール)、より好ましくは700KPa(7バール)である。
【0088】
一実施形態では、好ましくは、接触水素化分解の温度は20~70℃であり得る。より好ましくは、温度は50℃である。
【0089】
一実施形態では、好ましくは、接触水素化分解は、2~8時間、より好ましくは5時間続く。
【0090】
一実施形態では、適切な接触水素化分解酸性化溶媒混合液は、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびジクロロメタンから選択される有機溶媒の混合液であり得、好ましくは、溶媒混合液は、プロトン性溶媒とジクロロメタンとの混合液、より好ましくはメタノールとジクロロメタンとの混合液から構成される。
【0091】
一実施形態では、溶媒混合液の酸性化は、好ましくは、HClガスの吸収により生じる。
【0092】
一実施形態では、得られる式IIIまたは式IIの高純度クルード化合物は、塩基中和を必要とせず、水および/またはプロトン性溶媒から即座に再結晶化される。
【0093】
本開示の特定の一実施形態は、以下の工程を含む方法である:
式VI、またはVIIIの化合物をトルエンに入れる;
50%(w/v)NaOH水溶液を0~5℃で加える;
クロロアセチルクロリドのトルエン混合液を、前に得た組み合わせに、反応が起こるのに十分な温度と時間、特に0~5℃で4時間加える;
前の工程で得た氷水冷却反応混合液に水を加える;
相を分離し、水相をトルエンで抽出する;
有機相を有機酸または無機酸溶液で処理し、得られた懸濁液を濾過する、特に2M HCl水溶液;
式VIの化合物の塩または式VIIIの化合物の塩として同定した濾過固体を回収し、クロロアセチル化工程で再利用する;
母液の相を分離し、水相をトルエンで抽出する;
有機相を乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、式X、またはXIのクルード化合物のトルエン混合液を得る;
相間移動触媒と50%(w/v)水酸化ナトリウム水溶液を、前工程で得たクルード生成物(特にトルエン)混合液に、反応が起こるのに十分な温度と時間、特に65℃で1時間加える;
水を混合液に0℃で加え、相を分離する;
有機層をHCl水溶液と水で洗浄する;
有機層を乾燥させ、濾過し、蒸発させて、式IV、またはXIVの化合物を得る;
式IVの化合物、または式XIVの化合物をTHFに入れる;
水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのTHF混合液を、前に調製したTHF混合液に、反応が起こるのに十分な温度と時間で加える(追加の水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのトルエン混合液が必要な場合がある);
5%(w/v)NaOH水溶液、水およびDCMを加える;
相を分離し、水相をDCMで抽出する;
有機相を乾燥させ、濾過し、溶媒を蒸発させて、式V、またはIXのクルード生成物を得る;
前の工程で得たクルード生成物をDCMに入れ、メタノール(MeOH)を加えて式V、またはIXの化合物を得る。
【0094】
本開示の方法は、産業利用に適しており、トリメチルアミンと酸塩化物の不安定な混合物の代替としての、トルエンと水酸化ナトリウムの50%(w/v)水溶液の混合液で作られた二相系における、酸塩化物、特に塩化アセチルの混合物の使用などの利点を示す;;また、使用される相間移動触媒の負荷は大幅に減少し、特に式Xの化合物に関して0.1当量未満であった。
【0095】
本開示の方法は、ラクタム環のピペラジンへの選択的還元も記載している。
【0096】
一実施形態では、本開示による薬学的に許容される塩には、式IIおよびIIIの化合物が形成することができる治療効果のある無毒酸塩形態が含まれる。
【0097】
塩基として遊離形態で生じる式IIおよびIIIの化合物の酸付加塩形態は、遊離塩基を、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など;または、有機酸、例えば、酢酸、クエン酸、クエン酸無水物、マンデル酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、コハク酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、シクラミン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸、1,2-エタンジスルホン酸などの適切な酸で処理することにより得ることができる。
【0098】
一実施形態では、塩基での処理により、塩形態を遊離形態に変換することができる。
【0099】
一実施形態では、式IIおよびIIIの化合物およびそれらの塩は、溶媒和物の形態であり得、これは本開示の範囲内に含まれる。そのような溶媒和物には、例えば、水和物、アルコラートなどが含まれる。
【0100】
一実施形態では、上述の全ての範囲において、光学活性中心は、配置「R」または「S」の両方を想定することができる。
【0101】
一実施形態では、式I、IIおよびIIIの化合物ならびにいくつかの中間体は、それらの構造内に1つまたは2つの立体中心を有する。この立体中心は、RまたはS配置で存在することができ、RおよびS表記は、Pure Applied Chemistry 1976, 45, 11-30に記載されている規則に対応して使用される。
【0102】
本開示は、式I、IIおよびIIIの化合物または中間体のエナンチオマーおよびジアステレオマーなどの全ての立体異性体に関する。
【0103】
式VIIの化合物から出発する式IIIの化合物の調製は、各中間体が単離される一連の別個の反応で実施することができ、または伸縮合成として実施することができる。
【0104】
本開示の目的のために、エナンチオマー純度が97%以上である場合、エナンチオマー的に純粋であると見なされる。
【0105】
本開示によれば、本開示の方法によって生成されるピルリンドールエナンチオマーIIおよびIIIは、CNS障害、特にうつ病の治療に特に有用な医薬組成物として調製することができる。そのような組成物は、(R)-ピルリンドールIIまたは(S)-ピルリンドールIIIを、当業者に知られている薬学的担体および/または賦形剤と共に含む。
【実施例
【0106】
(実施例1:(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オンの調製:式IV)
【化20】
IV
一実施形態では、(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オン(式IV)の調製を次のように実施した。VI(S)-6-メチル-N-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-1-アミン(30g、98.5mmol)のトルエン溶液(300mL)に、50%(w/v)NaOH水溶液(79g)を0~5℃で滴加し、その後、塩化クロロアセチル(12mL、148mmol、1.5当量)のトルエン溶液(15mL)を0~5℃で滴加した。混合液を0~5℃で約2.5時間撹拌し、トルエン(15mL)中の追加の塩化クロロアセチル(12mL、148mmol、1.5当量)を0~5℃で滴加した。混合液を0~5℃で約1.5時間撹拌した。水を反応混合液に加え、温度を5℃未満に保った。相を分離し、水相をトルエンで抽出した。有機相を2M HCl水溶液で処理した。得られた懸濁液を濾過した。濾過固体はVIのHCl塩として同定され、これは遊離し、クロロアセチル化工程に戻すことができる。母液の相を分離し、水相をトルエンで抽出した。有機相をNaSOで乾燥させ、濾過し、トルエン中の溶液として約350mLになるまで減圧濃縮した。式Xの化合物のクルード生成物のトルエン溶液を次の工程で反応させた。
【0107】
一実施形態では、同じ反応容器内で、前の工程で得られたクルード中間体のトルエン溶液に、TBAB(0.394g、1.22mmol、前工程の理論収率に対して1w/w%)および50%(w/v)NaOH水溶液(8.1g、10当量)を加えた。反応が完了するまで、反応混合液を65℃で1時間撹拌した。混合液に水を0℃で加え、相を分離し、有機相をHCl水溶液および水で洗浄し、NaSOで乾燥させ、濾過し、蒸発させて32.87gの化合物IV(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オン(収率:2工程で97%)を茶色固体として得た。クルード生成物は、さらに精製することなく次の工程で反応させた。
【0108】
(実施例2:(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾールの調製:式V)
【化21】

一実施形態では、(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール(式V)の調製を次のように実施した。IV(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-3a,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール-2(3H)-オン(95.4mmol)の32.87gの乾燥THF(170mL)撹拌溶液に、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(70w/w%、237mmol、2.5当量)のトルエン溶液66mLを滴加した。反応混合液を40℃に加温し、添加の終わりに、混合液を50℃で出発物質が全て消費されるまで撹拌した。追加の22mLの水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム溶液(70w/w%、79mmol、0.8当量)を滴加した。完了後、混合液を室温まで冷却し、5%NaOH水溶液を慎重に加えた。水とDCMを混合液に加え、相を分離し、水相をDCMで抽出した。有機相をNaSOで乾燥させ、濾過し、溶媒を蒸発させて、茶色固体を得た(28.8g)。このクルード生成物をDCMに溶解し、MeOHを加えた。白色固体が沈殿した。固体を濾過し、MeOHで洗浄して、V(S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール14.6g(収率:46%)を、オフホワイトの綿状固体として得た。
【0109】
(実施例3:(S)-ピルリンドール塩酸塩の調製:式III)
一実施形態では、(S)-ピルリンドール塩酸塩IIIの調製を以下のように実施した。遊離アミンV((S)-8-メチル-3-((S)-1-フェニルエチル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ピラジノ[3,2,1-jk]カルバゾール)(8.32g、25mmol)をDCM(42mL)に溶解し、MeOH中の過剰のHCl(42mL)を加えた。溶媒を減圧下で蒸発乾固させ、黄色油を得た。残渣をMeOH(120mL)に溶解し、Pd/C(1.74g、~50%水)のMeOH(20mL)分散液に加えた。反応混合液を、50℃で750KPa(7.5バール)の水素圧下で5時間撹拌した。完了後(HPLC)、懸濁液をセライトパッドで濾過し、濾過ケーキをMeOHで洗浄した。得られた溶液のpHをチェックし(<3)、蒸発させ、式IIIの化合物のクルード塩酸塩を得た。クルード物質にiPrOHを加え、懸濁液を還流させながら撹拌した。懸濁液を濾過し、生成物を真空下で乾燥させ、(S)-ピルリンドールの塩酸塩、式IIIの化合物(5.11g、19.5mmol、収率:77%)を得た。純度>99.5%(HPLC)。エナンチオマー純度99.5%(キラルHPLC)。MS(ESI):m/z 227.2(M+H)
【0110】
【表1】
【0111】
驚くべきことに、式IIまたはIIIのピルリンドールエナンチオマーの合成のための本開示の方法は、文献に既に開示されている方法よりも高い個々のおよび全体的な収率に関与する。特により高いラクタム環形成収率において、本開示は97%の収率を記載しているが、Bokanovらは収率42%を報告している。より高い収率はピペラジン環形成についても観察され、本開示は、Andreevaらにより示された23.8%の代わりに45%の収率を記載している。同じことが水素化分解についても見られ、Andreevaらはピルリンドール塩単離について42%収率を展開し、本開示は同じ変換について77%収率を記載している。本開示の方法のさらなる利点は、毒性化合物であるベンゼンを接触水素化分解から除去する可能性である。さらなる利点は、本開示の方法が、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはジメチルホルムアミド(DMF)の存在下で水素化ナトリウム(NaH)を使用するAndreeva et al. 1992に開示されている方法よりも安全であることである。本開示の方法は、前記方法から発熱分解が生じないため、より安全である。
【0112】
本書で使用される「含む」という用語は、記載されている機能、整数、工程、成分の存在を示すことを意図しているが、1つ以上の他の機能、整数、工程、成分、またはそれらの群の存在もしくは追加を排除するものではない。
【0113】
本明細書で特に明記しない限り、記載の特定の一連の工程は例示にすぎず、本開示から逸脱することなく変更することができることを当業者は理解するであろう。したがって、特に明記しない限り、記載の工程は順不同であるため、可能な場合、任意の便利なまたは望ましい順序で工程を実行することができることを意味する。
【0114】
本開示は、記載の実施形態に限定されるものとは決して見なされるべきではなく、当業者は、その修正に対する多くの可能性を予見するであろう。
【0115】
上述の実施形態は組み合わせ可能である。
【0116】
以下の請求項は、本開示の特定の実施形態をさらに説明する。