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特許7121751ボルチオキセチンHBr α型を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】ボルチオキセチンHBr α型を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 295/096 20060101AFI20220810BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20220810BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C07D295/096
A61K31/495
A61P25/24
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019557745
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2018060192
(87)【国際公開番号】W WO2018197360
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】PA201700264
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】591143065
【氏名又は名称】ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン,ハンス
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-505585(JP,A)
【文献】特表2009-541216(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104910099(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106316986(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105367515(CN,A)
【文献】特表2010-521501(JP,A)
【文献】特表2012-517961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 295/096
A61K 31/495
A61P 25/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルチオキセチンHBr結晶α型を製造するための方法であって:
a)ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液を得るステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液をHBr及びC~Cカルボン酸と混合することにより10℃を超える温度で混合物b)を得るステップと;
c)ステップb)で得られた析出物を回収するステップと;を含
前記基本的に純粋なトルエンは、トルエンを90%(w/w)超含む方法。
【請求項2】
ステップa)で得られたボルチオキセチンの濃度は、10g/Lトルエン~500g/Lトルエンの間にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)で得られたボルチオキセチンの濃度は、40g/Lトルエン~200g/Lトルエンの間にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基本的に純粋なトルエンは、トルエンを95%(w/)超含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)で得られる前記溶液の温度は、0℃から還流温度の間にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)で得られる前記溶液の温度は、25℃~40℃の間にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)におけるHBrの量は、ステップa)で得られた前記溶液中に存在するボルチオキセチンの量に対し、0.9~2モル当量の間にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)におけるHBrの量は、ステップa)で得られた前記溶液中に存在するボルチオキセチンの量に対し、1~1.3モル当量の間にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)におけるHBr:C~Cカルボン酸のモル比は、1:1~1:10である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップb)における前記酢酸中HBr混合物のHBr:C~Cカルボン酸のモル比は、1:2~1:4である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
混合物b)の温度は、10℃超かつ40℃以下ある、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記C~Cカルボン酸は酢酸である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記C~Cカルボン酸はプロピオン酸である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記HBr及び前記C~Cカルボン酸は、一緒に、酢酸に溶解した33%(w/w)HBrとなっている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルチオキセチンHBr塩の特定の多形の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第03/029232号パンフレット及び国際公開第2007/144005号パンフレットを含む国際特許出願に、化合物1-[2-(2,4-ジメチル-フェニルスルファニル)-フェニル]-ピペラジン及びその医薬上許容される塩が開示されている。後にWHOは、1-[2-(2,4-ジメチル-フェニルスルファニル)-フェニル]-ピペラジンの推奨国際一般名(INN)をボルチオキセチンとすることを発表した。ボルチオキセチンは、それ以前の文献においてはLu AA21004と称されていた。ボルチオキセチンは、それぞれ2013年9月及び12月に、世界中の数ある規制当局の中でも主要な当局であるFDA及びEMAにより、大うつ病性障害/大うつ病エピソードの治療薬としてBrintellix(商標)又はTrintellix(商標)(米国及びカナダ国)の商品名で承認を受けた。
【0003】
ボルチオキセチンは、5-HT、5-HT、及び5-HT1D受容体拮抗薬、5-HT1A受容体作動薬、5-HT1B受容体部分的作動薬、並びにセロトニン輸送体阻害薬である。加えて、ボルチオキセチンは、脳の特定部位において神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、及びヒスタミンの量を増加させることが示されている。これらの作用はいずれも臨床的意義があり、この化合物の作用機序に関与している可能性があると考えられている[J.Med.Chem.,54,3206-3221,2011;Eur.Neuropshycopharmacol.,18(suppl 4),S321,2008;Eur.Neuropshycopharmacol.,21(suppl 4),S407-408,2011;Int.J.Psychiatry Clin Pract.5,47,2012]。ボルチオキセチンは、その薬理学的特性を根拠として、認知機能向上作用を有する可能性があると考えられている。この見解は、ボルチオキセチンが、その抗うつ作用とは無関係に、認知機能に直接有益な効果をもたらすという臨床的証拠によって支持されているようである[Int.Clin.Psychopharm.,27,215-227,2012;Int J neurophychopharm 17,1557-1567,2014;Neuropsychopharm 40,2025-2037,2015]。
【0004】
ボルチオキセチンは、HBr塩としてのボルチオキセチンを5、10、15、及び20mg含有するフィルムコート錠として、並びにDL乳酸塩としてのボルチオキセチンを20mg/mL含有する経口用滴剤(oral drop)として市販されている。
【0005】
ボルチオキセチンHBrには幾つかの結晶形が存在することが国際公開第2007/144005号パンフレットに最初に開示され、後に、例えば、国際公開第2014/044721号パンフレット及びEP2975032号明細書において確認されている。ボルチオキセチンのFDAに承認された添付文書に記載されているように、Trintellix(商標)として市販されている多形はボルチオキセチンHBr塩のβ型である。本出願は、国際公開第2007/144005号パンフレットに定義されている多形の命名法に従う。
【0006】
中国特許第105367515号明細書、中国特許第106316986号明細書、及び中国特許第104910099号明細書には、ボルチオキセチンHBr α型を製造するための方法が開示されている。これらの方法は、その産業利用性を制限する可能性のある多くの特徴を有している。強酸性環境(HBr水溶液を添加した後)で酢酸エチルを溶媒として使用すると、溶媒が酸加水分解する可能性がある。他の方法では、アルコール溶媒和物を中間体として利用しており、この溶媒和物からアルコールを蒸発させることによりボルチオキセチンHBr α型を得ている。そのような方法には時間及びエネルギーを要する。更なる他の方法では数種の溶媒を連続して適用する上に、プロセス時間が長く、これらが相俟ってプロセス全体を複雑化させている。
【0007】
医薬化合物の異なる多形が利用できることは、多形の選択により溶解性や生物学的利用性等の因子を操作することができ、それらが今度は臨床成果又は様々な製剤化技術への適用可能性に影響を与えることができるため、望ましい可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高収率且つ規模の拡大(scale)が容易なボルチオキセチンHBr α型の簡便な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態において、本発明は、ボルチオキセチンHBr結晶α型(アルファ型)、即ち5.85、9.30、17.49、及び18.58(2θ°)(±0.1°)にXRPD反射を示すことを特徴とするボルチオキセチンHBr結晶を製造するための方法であって:
a)ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液を得るステップと、
b)ステップa)で得られた前記溶液をHBr及びC~Cカルボン酸と10℃を超える温度で混合することにより、混合物b)を得るステップと、
c)ステップb)で得られた析出物を回収するステップと、
を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図2】実施例2で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図3】実施例3で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図4a】実施例4で得られた生成物をRTで一晩乾燥させた後のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図4b】実施例4で得られた生成物を50℃で一晩乾燥させた後のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図4c】実施例4で得られた生成物を80℃で一晩乾燥させた後のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図5】実施例5で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図6a】実施例6で得られた生成物をRTで一晩乾燥させた後のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図6b】実施例6で得られた生成物を80℃で一晩乾燥させた後のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図7】実施例7で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図8】実施例8で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図9】実施例9で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図10】実施例10で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図11】実施例11で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図12】実施例12で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図13】実施例13で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
図14】実施例14で得られた生成物のXRPD回折図形である。x軸は2θ°角を表し、y軸はカウント数で表した回折強度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ボルチオキセチンHBr α型を製造するための方法を提供する。この結晶形は、国際公開第2007/144005号パンフレットの実施例4a及び4bにおいて、5.85、9.30、17.49、及び18.58(2θ°)(±0.1°)にXRPD反射を示すことを特徴とするボルチオキセチンHBr結晶であると定義されている。同様に、ボルチオキセチンHBr β型は、国際公開第2007/144005号パンフレットの実施例4c及び4dにおいて、6.89、9.73、13.78、及び14.62(2θ°)(±0.1°)にXRPD反射を示すことを特徴とするボルチオキセチンHBr結晶と定義されている。同様に、ボルチオキセチンHBr γ型は、国際公開第2007/144005号パンフレットの実施例4e及び4fにおいて、11.82、16.01、17.22、及び18.84(2θ°)(±0.1°)にXRPD反射を示すことを特徴とするボルチオキセチンHBr結晶と定義されている。X線粉末回折図形(XRPD)の測定は、PANalytical X’Pert PROX-Ray DiffractometerにてCuKα1線を用いて行った。試料は2θ角走査範囲を5~40°とし、X’celerator検出器を使用して反射モードで測定した。
【0012】
本明細書における「RT」は、室温、即ち19℃~25℃の間の温度を指すことを意図している。
【0013】
ステップa)において得られる溶液は、基本的に純粋なトルエン中のボルチオキセチン遊離塩基である。本文脈において、これは、ボルチオキセチンの懸濁液、即ち、溶解していないボルチオキセチンを含有するボルチオキセチンの溶液を含むことができる。便宜上、全てのボルチオキセチンが溶解した溶液及び溶解していないボルチオキセチンも含有する溶液の両方を、本明細書においては溶液と称することとする。ボルチオキセチンの濃度又は量の表記は、ボルチオキセチンの総量、即ち溶解しているボルチオキセチン及び溶解していないボルチオキセチンの濃度又は量を指すこととする。
【0014】
本発明のステップa)においては、ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液が得られる。一実施形態においては、前記溶液中のボルチオキセチンの濃度は、10g/L~500g/L、例えば40g/L~200g/L、例えば50g/L~200g/L、例えば50g/L~150g/L、例えば100g/Lである。
【0015】
本発明のステップa)においては、ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液が得られる。一実施形態における「基本的に純粋な」とは、トルエンの純度が90%を超え、例えば純度が95%を超え、例えば純度が98%を超えることを表すことを意図している。残部は、水(即ち、脱水されていないトルエンの適用)、又はベンゼン、キシレン、アルカン、若しくはアルケン等の他の溶媒又は溶媒不純物を含み得る。本文脈において、「XX%を超える純度」とは、溶媒が重量/重量基準でXX%を超えるトルエンを含むことを表すことを意図している。
【0016】
ステップa)で得られる溶液の温度は重要ではないと考えられているが、溶液にすることができるボルチオキセチンの量及びその速度に影響を与える可能性がある。一実施形態において、温度は0℃から還流温度までの間、例えば5℃~50℃、例えば10℃~30℃の間、例えば20℃前後である。一実施形態において、温度は25℃~40℃である。ステップa)の温度が規定の範囲内、例えば0℃から還流温度の間にあるとは、ステップa)で得られた溶液の温度が少なくとも1つの時点で規定の範囲内にあることを指すことを意図している。一実施形態において、「少なくとも1つの時点で」とは、少なくとも1分間、例えば少なくとも5分間、例えば少なくとも10分間を指すことを意図している。
【0017】
本発明のステップb)においては、ステップa)で得られた溶液がHBr及びC~Cカルボン酸と混合される。ステップb)で混合される3種の成分(即ち、ボルチオキセチン、HBr、及びC~Cカルボン酸)は任意の順序で混合することができる。例えば、ステップa)で得られた溶液をHBr及びC~Cカルボン酸に加えることもできるし、或いはステップa)で得られた溶液にHBr及びC~Cカルボン酸を加えることもできる。
【0018】
ステップb)において適用されるHBrの量は、収量を最適化するために、ステップa)で得られた溶液中のボルチオキセチンと少なくとも同程度(モル基準で)とするべきである。所望により、ステップb)における混合は、ステップa)で得られた溶液又はHBr及びC~Cカルボン酸を、1回のステップで総量よりも少ない量で加える複数回のステップで行うことができる。一実施形態において、ステップb)において適用されるHBrの量は、ステップa)で得られた溶液中に存在するボルチオキセチンの量に対し、0.9~10モル当量の間、例えば、ステップa)で得られた溶液中に存在するボルチオキセチンの量に対し、例えば0.9~5モル当量の間、例えば0.9~2モル当量の間、例えば0.9~1.3モル当量の間、例えば0.9~1.1モル当量の間にある。
【0019】
ステップb)の温度は10℃を超え、これは、混合物b)を得るためにステップa)で得られた溶液とHBr及びC~Cカルボン酸とを混合する際の温度が10℃を超えることを表すことを意図している。一実施形態において、ステップb)の温度は40℃以下、例えば25℃以下である。混合物b)を得た後、温度を適宜低下させることにより溶解性を低下させ、それによりボルチオキセチンHBr α型の収率を向上させることができる。一実施形態において、前記温度は、-20℃~30℃の間、例えば0℃~20℃の間、例えば0℃~10℃の間である。
【0020】
一実施形態において、本発明のステップb)におけるHBr:C~Cカルボン酸のモル比は、1:1~1:10、例えば1:2~1:4、例えば1:2.9又は例えば1:7.7である。
【0021】
本文脈において、C~Cカルボン酸は、ギ酸、酢酸、若しくはプロピオン酸、又はそれらの混合物を表すことを意図している。一実施形態において、C~Cカルボン酸は酢酸を指すことを意図しており、その場合、ステップb)においては、市販の酢酸中の33%(w/w)HBrを好都合に適用することができる。一実施形態において、C~Cカルボン酸はプロピオン酸を指すことを意図している。
【0022】
一実施形態において、本発明は、ボルチオキセチンHBr結晶α型を製造するための方法であって、
a)ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液を得るステップであって、前記溶液は、ボルチオキセチンを10g/L~500g/L含み、前記基本的に純粋なトルエンは、トルエンを90%(w/w)超含み、前記溶液の温度は5℃~還流温度の間にある、ステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液をHBr及びC~Cカルボン酸(酢酸又はプロピオン酸等)と混合することにより混合物b)を得るステップであって、HBrの量は、ステップa)で得られた溶液中のボルチオキセチンの量に対し0.9~10モル当量であり、HBr:C~Cカルボン酸のモル比は1:1~1:10であり、混合物b)の温度は10℃を超える、ステップと;
c)ステップb)で得られた析出物を回収するステップと;
を含む方法を提供する。
【0023】
一実施形態において、本発明は、ボルチオキセチンHBr結晶α型を製造するための方法であって、
a)ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液を得るステップであって、前記溶液は、ボルチオキセチンを40g/L~200g/L、例えば50g/L~200g/L含み、前記基本的に純粋なトルエンは、トルエンを95%(w/w)超含み、前記溶液の温度は、10℃~30℃の間にあるか又は25℃~40℃の間にある、ステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液をHBr及びC~Cカルボン酸(酢酸又はプロピオン酸等)と混合することにより混合物b)を得るステップであって、HBrの量は、ステップa)で得られた溶液中のボルチオキセチンの量に対し0.9~5モル当量であり、HBr:C~Cカルボン酸のモル比は1:1~1:8(1:1~1:4等)であり、混合物b)の温度は10℃を超え、且つ40℃以下、例えば25℃以下である、ステップと;
c)ステップb)で得られた析出物を回収するステップと;
を含む方法を提供する。
【0024】
一実施形態において、本発明は、ボルチオキセチンHBr結晶α型を製造するための方法であって、
a)ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液を得るステップであって、前記溶液は、ボルチオキセチンを40g/L~200g/L、例えば50g/L~150g/L含み、前記基本的に純粋なトルエンは、トルエンを98%(w/w)超含み、前記溶液の温度は、20℃~25℃の間にあるか又は25℃~40℃の間にある、ステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液をHBr及びC~Cカルボン酸(酢酸又はプロピオン酸等)と混合することにより混合物b)を得るステップであって、HBrの量は、ステップa)で得られた溶液中のボルチオキセチンの量に対し0.9~1.3モル当量であり、HBr:C~Cカルボン酸のモル比は1:1~1:8、例えば1:1~1:4、より具体的には1:3であり、混合物b)の温度は、10℃を超え、且つ40℃未満、例えば25℃未満である、ステップと;
c)ステップb)で得られた析出物を回収するステップと;
を含む方法を提供する。
【0025】
一実施形態において、本発明は、ボルチオキセチンHBr結晶α型を製造するための方法であって、
a)ボルチオキセチンの基本的に純粋なトルエン中の溶液を得るステップであって、前記溶液はボルチオキセチンを100g/L含み、前記基本的に純粋なトルエンはトルエンを98%(w/w)超含み、前記溶液の温度は、25℃~40℃の間、例えば20℃~25℃である、ステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液をHBr及びC~Cカルボン酸(酢酸又はプロピオン酸等)と混合することにより混合物b)を得るステップであって、HBrの量は、ステップa)で得られた溶液中のボルチオキセチンの量に対し0.9~1.1当量であり、HBr:C~Cカルボン酸のモル比は1:1~1:3であり、混合物b)の温度は、10℃を超え、且つ40℃以下、例えば25℃以下であるステップと;
c)ステップb)で得られた析出物を回収するステップと;
を含む方法を提供する。
【0026】
参考実施例1~5、11、及び14において報告する実験は、幅広い条件下でトルエンからボルチオキセチンHBrを析出させても所望のα型が得られないことを示すものである。幅広いボルチオキセチン濃度について調査を行い(50g/L~160g/L)、溶媒の変化について調査を行い(純粋なトルエン及び水中の95%トルエン)、異なる温度についても調査を行った(-15℃~50℃)。最後に、予め生成しておいたボルチオキセチンHBrの使用に加えて、液体及び気体HBrの添加によるボルチオキセチンHBrの生成も調査した。調査を行ったプロセス条件では所望のα型が得られないという結論に加えて、例1~5の結果は、小さいように見えるプロセス条件の変化が、析出する結晶形の違いを引き起こすことも示している。
【0027】
それとは対照的に、実施例6~10、12、及び13に示す実験は、所望のボルチオキセチンHBr α型をロバストなプロセスにおいて高収率で生成するプロセス条件を定めるものである。
【0028】
一実施形態において、本発明は、本発明の方法により得られるボルチオキセチンHBr結晶α型を提供する。
【0029】
一実施形態において、本発明は、本発明の方法により得られるボルチオキセチンHBr結晶α型及び医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【実施例
【0030】
実験
X線粉末回折図形(XRPD)は、PANalytical X’Pert PRO X-Ray DiffractometerにてCuKα1線(λ=1.5406Å)を用いて測定された。試料は、X’celerator検出器を使用して2θ角走査範囲を3~40°として反射モードで測定した。
【0031】
例1(参考)
機械的攪拌機、温度計、及び環流冷却器を備えた2Lの3ツ口フラスコに、トルエン(600mL)及びボルチオキセチン(100g、0.335mol)を投入した。混合物を加熱マントルで65℃に加熱し、水(27mL、1.5mol)を加えて透明な溶液を得た。加熱マントルを取り除き、HBr水溶液(48%、39.8mL(59.3g)、0.352mol)を加えた。フラスコを即座に氷/水で冷却した。50~55℃の温度で数分間経過した後に析出が開始した。攪拌を継続し、混合物をその後20分間かけて5℃に冷却した。攪拌を更に20分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(3×40mL)で洗浄し、40℃で一晩真空乾燥させた。収量126.0g。NMRからごく少量のトルエンの存在が示された。XRPDから、単離された生成物がボルチオキセチンHBr α型及びβ型の混合物であることが示された。得られたXRPDを図1に示す。
【0032】
例2(参考)
ボルチオキセチンHBr(1.0グラム、2.64mmol)をトルエン(6.0mL)及び水(0.27mL)中に、混合物を5分間加熱還流することにより溶解を試みた。しかし、透明な溶液は得られなかった。トルエン(12mL)及び水(0.54mL)を追加した。透明な混合物を氷/NaCl混合物で急冷し、30分間攪拌した。析出物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(3×1mL)で洗浄し、室温で一晩真空乾燥させた。収量1.1グラム。XRPDから純粋なボルチオキセチンHBr β型が得られたことが示された。得られたXRPDを図2に示す。
【0033】
例3(参考)
ボルチオキセチン(1.0グラム、3.35mmol)をトルエン(6.0mL)及び水(0.27mL)中に、混合物を65℃に加熱することにより溶解した。HBr水溶液(48%、0.4mL(0.59g)、3.52mmol)を加え、混合物を氷/NaCl混合物で10分間急冷(-15℃まで)し、更に30分間攪拌した。析出物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(3×2mL)で洗浄し、室温で一晩真空乾燥させた。収量1.16グラム。XRPDから、得られた生成物がボルチオキセチンHBr α型、ボルチオキセチンHBr水和物、及び同定されていない成分の混合物であることが示された。更に、XRPDから結晶化度が低いことが示された。得られたXRPDを図3に示す。
【0034】
例4(参考)
機械的攪拌機、温度計、及び環流冷却器を備えた500mLの3ツ口フラスコに、トルエン(200mL)及びボルチオキセチン(20.0g、67.0mmol)を投入した。混合物をRTで一晩攪拌することにより透明な溶液を得た。HBr水溶液(48%、7.96mL(11.9g)、70.4mmol)を短時間で加え、その直後に反応混合物を氷/水浴で冷却した。冷却しながら攪拌を10分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×30mL)で洗浄し、RT、50℃、及び80℃で一晩真空乾燥させた。収量24.57g。NMRからはトルエンの存在が示されなかった。XRPDは、析出物をRT及び50℃で一晩乾燥させた後に得られた生成物は、ボルチオキセチンHBr α型及びボルチオキセチンHBr水和物の混合物であり、80℃で一晩乾燥させると、恐らく結晶水が除去されたことにより、ボルチオキセチンHBr水和物の量が低減されたことが示された。RT、50℃、及び80℃で乾燥させた後に得られたXRPDをそれぞれ図4a、4b、及び4cに示す。
【0035】
例5(参考)
マグネチックスターラー、温度計、及び環流冷却器を備えた250mLの3ツ口フラスコにトルエン(80mL)及びボルチオキセチン(4.0g、13.4mmol)を投入した。混合物を攪拌することにより透明な溶液を得た。レクチャーボトル(lecture bottle)から臭化水素(気体)(約1.1g、13.5mmol)を慎重に加えた。生成が即座に析出を開始し、pHを測定(約pH=1)した後、RTで1時間攪拌を継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×10mL)で洗浄した。生成物は非常にゆっくりと濾過され、これを40℃で重量が一定になるまで真空乾燥させた。収量5.97g。XRPDでは、単離された生成物をボルチオキセチンHBr α型として同定できなかったことが示された。NMRから、得られた生成物が多量のトルエンを含んでいることも判明した。TGAでは50~110℃で約13%の重量損失が認められた。130℃で乾燥を継続すると、単離された生成物は褐色から黒色の物質に分解された。得られたXRPDを図5に示す。
【0036】
実施例6
機械的攪拌機、温度計、及び環流冷却器を備えた500mLの3ツ口フラスコに、トルエン(200mL)及びボルチオキセチン(20.0g、67.0mmol)を投入した。混合物をRTで30分間攪拌することにより透明な溶液を得た。酢酸中のHBr(33%、12.32mL(17.25g)、70.4mmol)を短時間で加え、その直後に反応混合物を氷/水浴で冷却した。冷却しながら攪拌を10分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×30mL)で洗浄し、RT及び80℃で一晩真空乾燥させた。収量23.77g。XRPDから、乾燥条件に関係なく、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。RT及び80℃で乾燥させることにより得られたXRPDをそれぞれ図6a及び6bに示す。
【0037】
実施例7
機械的攪拌機、温度計、及び環流冷却器を備えた4Lの3ツ口フラスコに、トルエン(3000mL)及びボルチオキセチン(300g、1.005mol)を投入した。混合物をRTで30分間攪拌することにより透明な溶液を得た。透明な溶液を10℃に冷却した。酢酸中のHBr(33%、185mL(259g)、1.055mol)を等圧滴下漏斗から5分間かけて添加した。この添加により温度が23℃に上昇した。酢酸中HBrの混合物を最初に数mL添加した直後に析出が開始したが、酢酸中HBr混合物の約半分を添加するまでは逆に高濃度(heavy)となった。この時点で析出物の殆どが再び溶解したが、酢酸中HBr混合物を添加し続けると再び析出を開始した。温度を5℃に低下させながら、攪拌を45分間継続した。析出物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(3×100mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量375.4g。XRPDから、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図7に示す。
【0038】
実施例8
マグネチックスターラーを備えた100mLのフラスコに、トルエン(50mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物をRTで30分間攪拌した。酢酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加え、その直後に反応混合物を氷/水浴で冷却した。攪拌を10分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量2.41g。XRPDから、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図8に示す。
【0039】
実施例9
マグネチックスターラーを備えた50mLのフラスコに、トルエン(10mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物をRTで30分間攪拌した。透明な溶液を得るために温度を40℃に昇温した。酢酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加え、その直後に反応混合物を氷/水浴で冷却した。攪拌を2分間継続した後、追加のトルエン(5.5mL)を加えて攪拌を継続した(10分間)。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量2.44g。XRPDから、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図9に示す。
【0040】
実施例10
マグネチックスターラーを備えた50mLのフラスコに、トルエン(20mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物を40℃で30分間攪拌した。酢酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加え、その直後に反応混合物を氷/水浴で冷却した。析出により攪拌が妨げられたので、追加のトルエン(5.5mL)を加えて攪拌を継続できるようにした(10分間)。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量2.30g。XRPDから、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図10に示す。
【0041】
例11(参考)
マグネチックスターラーを備えた50mLのフラスコに、トルエン(10mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物をRTで10分間攪拌した後、10℃で10分間攪拌した。酢酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加え、その直後に反応混合物を氷/水浴で冷却した。攪拌を10分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量2.43g。XRPDから、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr β型であることが示された。得られたXRPRを図11に示す。
【0042】
実施例12
マグネチックスターラーを備えた50mLのフラスコに、トルエン(20mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物をRTで30分間攪拌した。酢酸(2.00mL、2.10g、34.9mmol)及び酢酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加え、反応混合物を20分間攪拌した後、氷/水浴で冷却した。析出により攪拌が妨げられたので、トルエン(5.5mL)を追加して攪拌を継続できるようにした(10分間)。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量2.15g。XRPDは、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図12に示す。
【0043】
実施例13
マグネチックスターラーを備えた50mLのフラスコに、トルエン(20mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物をRTで30分間攪拌した。プロピオン酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加え、反応混合物を氷/水浴で冷却した。HBrのプロピオン酸溶液は、所望の重量増加に到達するまでプロピオン酸にHBrガスをバブリングすることにより得た。攪拌を20分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで4日間真空乾燥させた。収量1.91g。XRPDから、単離された生成物が純粋なボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図13に示す。
【0044】
例14(参考)
マグネチックスターラーを備えた50mLのフラスコに、トルエン(20mL)及びボルチオキセチン(2.0g、6.7mmol)を投入した。混合物をRTで10分間攪拌した後、10℃で更に10分間攪拌した。酢酸中のHBr(33%、1.23mL、1.73g、7.04mmol)を短時間で加えた後、反応混合物を氷/水浴で冷却し、攪拌を10分間継続した。析出した生成物を濾過により単離し、フィルタ上でトルエン(2×5mL)で洗浄し、RTで一晩真空乾燥させた。収量2.46g。XRPDから、単離された生成物がボルチオキセチンHBr γ型も含むボルチオキセチンHBr α型であることが示された。得られたXRPRを図14に示す。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14