(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】切削工具及びワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/18 20060101AFI20220810BHJP
F04D 29/22 20060101ALI20220810BHJP
F04D 29/28 20060101ALI20220810BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
B23C3/18
F04D29/22 H
F04D29/28 R
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2020064561
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2020-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝二
(72)【発明者】
【氏名】上野 裕司
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/001761(WO,A1)
【文献】特開2001-328018(JP,A)
【文献】特開2013-035101(JP,A)
【文献】特開2019-198929(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101708559(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102722137(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00-9/00,
F04D 29/22,29/28,
B23D 77/00-77/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3つの直動送り軸と少なくとも2つの回転送り軸とを有する工作機械を用い、ワークに形成された孔であって、開口から孔の内部へ湾曲した孔を加工する加工方法であって、
(i)中心軸線に沿って延在し、工作機械の主軸に取り付けられる第1の端部と、前記第1の端部と反対側の第2の端部と、を有する軸状の工具本体と、前記軸状の工具本体の前記第2の端部に連結された先端部と、を備え、前記先端部が、周方向に複数の刃部を有する、工具を準備するステップと、
(ii)前記工具を工作機械の主軸に取り付けるステップと、
(iii)ワークに形成された前記湾曲した孔の開口に対して、前記工具を、加工面の垂線の方向に見た場合に前記工具の移動方向と前記工具の前記中心軸線との間の角度を示すチルト角を120度~240度の範囲で配置するステップと、
(iv)
前記直動送り軸及び前記回転送り軸によって、前記チルト角
を120度~240度の範囲
で調整しながら、前記湾曲した孔の前記開口から内部に向かって、前記湾曲した孔の内面に沿って前記工具を移動させて前記内面を加工するステップと、
(v)前記工具を前記湾曲した孔の前記内面から引き離した状態で、前記湾曲した孔の内部から前記開口に向かって前記工具を戻すステップと、
(vi)前記工具を、所定のピックフィードで前記湾曲した孔の前記開口の周縁に沿って移動させるステップと、
を含み、
前記ステップ(iii)~(vi)を複数回繰り返す、加工方法。
【請求項2】
前記ステップ(i)は、
前記湾曲した孔の前記開口の形状に基づいて、前記先端部の形状を決定することと、
前記湾曲した孔において前記先端部が到達する予定の最も深い位置に前記先端部を配置した場合に、前記湾曲した孔の内面と干渉しないようにかつ最も太くなるように前記軸状の工具本体の形状を決定することと、
を含む、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記工具の前記先端部が、前記工具の先端面を含む中心部を有し、前記複数の刃部は、前記中心部から径方向外向きに突出し、各刃部の切れ刃が、前記先端面に隣接する主切れ刃を含み、前記主切れ刃は、前記中心軸線を含む断面図における前記中心軸線に対して30度~150度の角度を成す輪郭を含み、
前記ステップ(iii)は、前記加工面の前記垂線と前記工具の前記中心軸線との間の角度を示すリード角を設定することを含み、
前記ステップ(vi)の前記ピックフィードPが、以下の式:
【数1】
ここで、R:工具の中心軸線と刃部の最外径部との間の半径、
H:カスプ高さ、
θt:チルト角、
θl:リード角、
によって算出される、請求項1に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、切削工具及びワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械によって加工されるワークは、様々な孔を含み得る。このような孔を有するワークの様々な加工方法が提案されている(例えば、特許文献1-3参照)。特許文献1は、クローズドインペラの製造方法を開示している。クローズドインペラは、内部に複数の湾曲した流路を有する。特許文献1の製造方法では、これらの流路は、3つの工具によって形成される(粗切削用の第一の工具、第一の工具の後に使用される第二の工具、及び、残った部分を切削するために第二の工具の後に使用される第三の工具)。特に、第三の工具は、工具の柄を向く部分にも刃(後刃)を有している。したがって、第三の工具は、流路に進入する方向、及び、流路から退出する方向の双方に使用可能である。このような第三の工具によって、粗切削の後に残った部分が切削される。
【0003】
特許文献2は、一体構造のディスクからロータを製造する方法を開示している。この方法では、ディスクに対して複数の半径方向の空洞が形成される。空洞を形成する際、まず、第1の工具が、ディスクの外径から開始して、空洞の外側部分を形成する。第1の工具は、連続したテラス成形加工をしながら中間深さに到達するまで前進する。続いて、第2の工具が、ディスクの内径から開始して、上記の空洞の外側部分に到達し、それによって空洞が形成される。代替的に、まず、第2の工具が、ディスクの内径から開始して、空洞の内側部分を形成してもよい。この場合、第2の工具は、連続したテラス成形加工をしながら中間深さに到達するまで前進する。続いて、第1の工具が、ディスクの外径から開始して、上記の空洞の内側部分に到達し、それによって空洞が形成される。
【0004】
特許文献3は、クローズドインペラの製造方法を開示している。この製造方法では、クローズドインペラの圧縮流路の表面仕上げが、エンドミル加工により実施される。エンドミル加工には、工具の中心軸線に平行な投影形状が、概ね楕円形状を有する工具が使用される。エンドミル加工の際、工具は、螺旋状の経路に沿って圧縮流路の壁面を加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/042653号
【文献】特開2014-40838号公報
【文献】特開2019-153298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワークに形成される孔は、しばしば湾曲している又は細い場合がある。このような孔を加工する場合、細い工具が必要とされ得る。細い工具を使用すると、例えば、加工速度及び切込み深さを増加させたときに、工具が振動する可能性がある。よって、上記のような孔を加工する場合には、効率良くワークを加工することが困難な場合がある。
【0007】
本開示は、上記のような課題を考慮して、ワークに形成された孔を効率良く加工することができる切削工具及び加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、研究の結果、孔の開口から内部に向かって工具が移動するときにのみ、孔の内面を切削することによって、工具の振動を低減可能であることを見出した。また、本発明者は、この方法において、工具のチルト角(加工される表面の垂線の方向から見た場合に、工具の移動方向と工具の中心軸線との間の角度)が120度~240度であれば、工具の振動を低減可能であることを見出した。さらに、本発明者は、工具の振動の低減は、低い径方向の切削力に起因することを見出した。したがって、本発明者は、径方向の切削力を低減することができる工具を上記の方法に用いれば、工具の振動をさらに低減できる可能性があることを着想した。
【0011】
本発明の他の態様は、互いに直交する3つの直動送り軸と少なくとも2つの回転送り軸とを有する工作機械を用い、ワークに形成された孔であって、開口から孔の内部へ湾曲した孔を加工するワークの加工方法であって、(i)中心軸線に沿って延在し、工作機械の主軸に取り付けられる第1の端部と、第1の端部と反対側の第2の端部と、を有する軸状の工具本体と、軸状の工具本体の第2の端部に連結された先端部と、を備え、先端部が、複数の刃部を有する、工具を準備するステップと、(ii)工具を工作機械の主軸に取り付けるステップと、(iii)ワークに形成された湾曲した孔の開口に対して、工具を、加工面の垂線の方向に見た場合に工具の移動方向と工具の中心軸線との間の角度を示すチルト角を120度~240度の角度で配置するステップと、(iv)直動送り軸及び回転送り軸によって、チルト角を120度~240度の範囲で調整しながら、湾曲した孔の開口から内部に向かって、湾曲した孔の内面に沿って工具を移動させて内面を加工するステップと、(v)工具を湾曲した孔の内面から引き離した状態で、湾曲した孔の内部から開口に向かって工具を戻すステップと、(vi)工具を、所定のピックフィードで湾曲した孔の開口の周縁に沿って移動させるステップと、を含み、ステップ(iii)~(vi)を複数回繰り返す、加工方法である。
【0012】
この方法によれば、孔の開口から内部に向かって工具が移動するときにのみ、孔の内面が加工される。また、チルト角は、120度~240度に設定される。したがって、本発明者の上記の知見によれば、工具の振動を低減することができ、ワークに形成された孔を効率良く加工することができる。
【0013】
ステップ(i)は、孔の開口の形状に基づいて、先端部の形状を決定することと、孔において先端部が到達する予定の最も深い位置に、先端部を配置した場合に、孔の内面と干渉しないようにかつ最も太くなるように軸状の工具本体の形状を決定することと、を含んでもよい。この場合、工具の形状を容易に決定することができる。
【0014】
工具の先端部が、工具の先端面を含む中心部を有してもよく、複数の刃部は、中心部から径方向外向きに突出してもよく、各刃部の切れ刃が、先端面に隣接する主切れ刃を含んでもよく、主切れ刃は、中心軸線を含む断面図における中心軸線に対して30度~150度の角度を成す輪郭を含んでもよく、ステップ(iii)は、加工面の垂線と工具の中心軸線との間の角度を示すリード角を設定することを含んでもよく、ステップ(vi)のピックフィードPが、以下の式:
【数1】
ここで、R:工具の中心軸線と刃部の最外径部との間の半径、
H:カスプ高さ、
θt:チルト角、
θl:リード角、
によって算出されてもよい。本開示の一態様に係る工具では、チルト角及びリード角に応じて切削幅が変動し得るため、所望のカスプ高さ(表面粗さ)は、幾何的に上記の式によって求められるピックフィードを使用することによって達成される。したがって、所望の表面粗さを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、ワークに形成された孔を効率良く加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る加工方法に使用される工作機械を示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は実施形態に係る加工方法を示す概略的な断面図である。
図3(b)は実施形態に係る加工方法を示す概略的な斜視図である。
【
図4】
図4(a)はリード角及びチルト角を示す概略的な斜視図である。
図4(b)はチルト角を示す概略的な平面図である。
【
図5】チルト角と、表面粗さ及び切削力と、の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は実施形態に係る工具を示す概略的な側面図である。
図6(b)はD部の拡大断面図である。
図6(c)はD部の拡大図である。
【
図7】
図7(a)は他の実施形態に係る工具を示す概略的な側面図である。
図7(b)はE部の拡大断面図である。
図7(c)はE部の拡大図である。
【
図8】
図8(a)はさらに他の実施形態に係る工具を示す概略的な側面図である。
図8(b)はF部の拡大断面図である。
図8(c)はF部の拡大図である。
【
図9】ピックフィードの算出方法を示す概略的な図である。
【
図10】実施形態に係る加工方法を示すフローチャートである。
【
図11】
図11(a)~(d)は、工具を準備するステップを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工具及びワークの加工方法を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺は変更されている場合がある。
【0018】
図1は、実施形態に係る加工方法に使用される工作機械を示す斜視図である。本開示に係る加工方法は、例えば、マシニングセンタ100で実施されることができる。しかしながら、本開示に係る加工方法は、マシニングセンタ以外の工作機械で実施されてもよい(例えば、互いに直交する3つの直動送り軸と、少なくとも2つの回転送り軸と、を有する工作機械)。マシニングセンタ100は、3つの直動送り軸及び2つの回転送り軸を有しており、例えば、主軸頭50が、X、Y及びZ軸方向に直線的に移動し、かつ、X軸周りのA軸方向及びZ軸周りのC軸方向に回転する。他の実施形態では、テーブル70が、上記の5軸のうちのいくつかの方向に移動又は回転してもよい。主軸頭50には、主軸60が回転可能に支持されており、主軸60には、工具Tが取り付けられている。テーブル70上には、ワークWが治具Jによって取り付けられている。主軸頭50及びテーブル70並びにこれらを支持する他の構成要素(例えば、ベッド及びコラム等)は、カバー90内に配置されており、オペレータは、扉91を介してテーブル20上のワークWにアクセス可能である。
【0019】
図2は、ワークの一例を示す斜視図であり、加工が終了した後のワークの形状を示している。本実施形態では、クローズドインペラWが、上記の工作機械100によって加工される。クローズドインペラWは、ハブ1と、複数のブレード2と、シュラウド3と、複数の流路(孔)4と、を備えている。ハブ1、ブレード2及びシュラウド3は一体であり、1つのワークから形成される。各流路4は、ハブ1、一対のブレード2及びシュラウド3によって画定される。流路4は、湾曲しており、クローズドインペラWの外周部と内周部との間を貫通している。本実施形態の加工方法では、クローズドインペラWの流路4が、工具Tによって形成される。しかしながら、本開示の加工方法は、クローズドインペラWの流路4の形成に限定されず、孔を有する様々なワークの加工に適用可能であり、チューブや筒状の内面加工であってもよい。また、本開示において、用語「孔」は、貫通孔に限定されず、一方の端部に開口を有するが、他方の端部は閉じているような孔も含み得る。例えば、孔は、湾曲した孔又は細い孔等、太い工具がその内部にアクセスすることが困難な形状を有し得るが、これらに限定されない。
【0020】
図3(a)は、実施形態に係る加工方法を示す概略的な断面図であり、
図3(b)は、実施形態に係る加工方法を示す概略的な斜視図である。クローズドインペラWに上記のような流路4を形成する際、まず、ドリル等の第1の工具(不図示)によって、外周側及び内周側の双方から孔(下孔)が開けられ、これによって貫通孔が形成される。続いて、第2の工具Tによって、外周側の開口5から貫通孔の中間部まで内面7が加工され、第2の工具T(又は別の工具)によって、内周側の開口6から貫通孔の中間部まで内面7が加工され、これによって流路4が形成される。加工方法は、更に別の工具を使用する更なる仕上げ工程を含んでもよい。本発明者は、研究の結果、工具Tを使用して流路4を形成する際に、
図3(a)(b)に示されるように、開口5,6から孔の内部に向かって工具が移動するときにのみ、孔の内面7を加工すること(いわゆる押し加工)によって、工具の振動を低減可能であることを見出した。以下に、この知見の根拠について説明する。
【0021】
図4(a)は、リード角及びチルト角を示す概略的な斜視図であり、
図4(b)は、チルト角を示す概略的な平面図である。
図4(a)に示されるように、リード角θlは、加工される表面8の垂線nと、工具Tの中心軸線Otと、の間の角度を示す。
図4(b)に示されるように、チルト角θtは、加工される表面8の垂線nの方向から見た場合に、工具Tの移動方向mと、工具の中心軸線Otと、の間の角度を示す。本発明者は、様々なチルト角θtにおいて工具Tを方向mに沿って移動させて表面8を加工し、各チルト角θtにおける表面8の表面粗さRa及び工具Tにかかる切削力を測定した。リード角θlは、30度に固定した。測定には、概ね球状の先端形状を有する一般的なロリポップミルが使用された。
【0022】
図5は、チルト角と、表面粗さ及び切削力と、の関係を示すグラフである。横軸がチルト角を示し、縦軸が切削力(左側の目盛)及び表面粗さ(算術平均粗さ、右側の目盛)を示す。棒グラフが表面粗さRaを示し、実線が径方向の切削力frを示し、破線が軸線方向の切削力faを示す。
図5から見て取れるように、チルト角θtが120度~240度の範囲では表面粗さRaは小さくかつ一定であり、この範囲では振動は発生していない。また、この範囲では、径方向の切削力frも同様に低く、このために振動が低減されたと推測される。本発明者は、この結果を上記の流路4の加工に適用することを着想した。
【0023】
図3(a)に示されるように、流路4を工具Tで加工する場合、通常、工具Tの中心軸線Otが孔の内面7と略平行になるように、かつ、工具Tの先端部が移動方向において先行するように、工具Tが配置される。このような姿勢で上記の知見に基づいてチルト角θtを120度~240度に設定するためには、工具Tは、開口5,6から孔の内部に向かって工具Tが移動するときにのみ、孔の内面7を加工する必要がある。したがって、本発明者は、
図3(b)に示されるように、開口5,6から孔の内部に向かって工具Tを移動させて内面7を加工し、続いて、工具Tを開口5,6まで戻して、工具Tを所定のピックフィードPで開口5,6に沿って移動させて、これらの動作を繰り返すことを着想した。
【0024】
図5を参照して、また上記のように、工具Tの振動の低減は、低い径方向の切削力frに起因すると推測される。したがって、本発明者は、上記の方法にしたがって流路4を加工する際に、径方向の切削力frを低減することができる工具Tを用いれば、工具Tの振動をさらに低減できる可能性があることを着想した。
【0025】
図3(a)に示されるように、開口5から孔の内部に向かって工具Tを移動させて内面7を加工する場合、切れ刃の先端部が切削力(送り分力)を主に受ける。したがって、本発明者は、この部分の形状を、切削力(送り分力)を軸方向に受けやすい形状にすることで、径方向の切削力を低減することを着想した。
【0026】
図6(a)は、実施形態に係る工具を示す概略的な側面図であり、
図6(b)は、D部の拡大断面図であり、
図6(c)は、D部の拡大図である。なお、
図6(a)では、工具Tを中心軸線Ot周りに回転させたときの輪郭が描かれていることに留意されたい(後述する
図7(a)及び
図8(a)も同様)。
図6(a)を参照して、工具Tは、軸状の工具本体11と、先端部12と、を備えている。例えば、工具Tは、一体であることができる。軸状の工具本体11は、工具の中心軸線Otに沿って延在している。軸状の工具本体11は、マシニングセンタ100の主軸60に取り付けられる第1の端部11aと、第1の端部11aと反対側の第2の端部11bと、を有している。先端部12は、軸状の工具本体11の第2の端部11bに連結されている。
【0027】
図6(b)(c)を参照して、先端部12は、中心部13と、複数の刃部14と、を有している。中心部13は、中心軸線Ot上に位置する。中心部13は、工具Tの先端面17を含んでいる。先端面17は、平面である。先端面17は、切れ刃を含まない。刃部14は、中心部13から径方向外向きに突出している。本実施形態では、工具Tは、円周方向に沿って、4つの刃部14を備えている。刃部14の切れ刃は、主切れ刃15と、副切れ刃16と、を含んでいる。主切れ刃15は、先端面17に隣接している。主切れ刃15は、中心軸線Otに平行な方向において、軸状の工具本体11から離れる方向を向いており、副切れ刃16は、中心軸線Otに平行な方向において、軸状の工具本体11を向く方向を向いている。主切れ刃15及び副切れ刃16は、直線状である。
【0028】
中心軸線Otを含む断面図において、主切れ刃15と中心軸線Otとの間の角度θ1は150度である。したがって、上述したようにクローズドインペラWの流路4を加工する場合、主切れ刃15にかかる切削力(送り分力)の半分は、軸線方向の切削力に変換される(リード角が90度でチルト角が180度の場合)。よって、径方向の切削力を低減することができる。主切れ刃15と副切れ刃16との間の角度は、例えば、90度程度である。主切れ刃15と副切れ刃16との間の角部は、丸められている。
【0029】
図7(a)は、他の実施形態に係る工具を示す概略的な側面図であり、
図7(b)は、E部の拡大断面図であり、
図7(c)は、E部の拡大図である。
図7の実施形態は、上記の
図6の実施形態と比して、刃部14の形状が異なる点で相違する。他の点は、
図6の実施形態と同様であってもよい。
【0030】
図7(b)(c)を参照して、本実施形態の主切れ刃15は、径方向内側の直線状の部分と、径方向外側の円弧状の部分と、を含んでいる。副切れ刃16は、主切れ刃15の円弧状の部分と連続した径方向外側の円弧状の部分と、径方向内側の直線状の部分と、を含んでいる。主切れ刃15の直線状の部分は、中心軸線Otに対して垂直である。したがって、主切れ刃15の直線状の部分と中心軸線Otとの間の角度θ1は、90度である。このため、上述したようにクローズドインペラWの流路4を加工する場合、主切れ刃15の直線状の部分にかかる切削力(送り分力)は、軸線方向である(リード角が90度でチルト角が180度の場合)。よって、径方向の切削力を低減することができる。また、主切れ刃15の円弧状の部分においても、円弧の中心周りに中心軸線Otから30度までの部分は、中心軸線Otに対して90度~150度を成す輪郭(接線)によって形成されている。これらの部分においても、同様に、径方向の切削力を低減することができる。副切れ刃16の直線状の部分は、中心軸線Otに対して、例えば、30度程度の角度を成す。
【0031】
図8(a)は、さらに他の実施形態に係る工具を示す概略的な側面図であり、
図8(b)は、F部の拡大断面図であり、
図8(c)は、F部の拡大図である。
図8の実施形態は、上記の
図6の実施形態と比して、工具Tの先端面17が曲面(凹面)である点、及び、刃部14の形状が異なる点で相違する。他の点は、
図6の実施形態と同様であってもよい。
【0032】
図8(b)(c)を参照して、主切れ刃15及び副切れ刃16は、直線状である。主切れ刃15と中心軸線Otとの間の角度θ1は、60度である。したがって、上述したようにクローズドインペラWの流路4を加工する場合、主切れ刃15にかかる切削力(送り分力)の大部分は、軸線方向に変換される(リード角が90度でチルト角が180度の場合)。よって、径方向の切削力を低減することができる。主切れ刃15と副切れ刃16との間の角度は、例えば、30度程度である。主切れ刃15と副切れ刃16との間の角部は、丸められている。
【0033】
続いて、ピックフィードの算出方法について説明する。
【0034】
図9は、ピックフィードの算出方法を示す概略的な図であり、リード角θlが90度でかつチルト角θtが180度で表面8を加工する工具Tを示している。
図9では、表面8を加工する際に工具Tは紙面に対して垂直な方向に移動し、ピックフィードPは右方向である。Rは、工具Tの中心軸線Otと刃部14の最外径部との間の半径を示し、Hは、カスプ高さ(表面8に残る凸部の高さ)を示す。
図9の状態では、ピックフィードPは、幾何学的に以下の式(1)によって求められる。
【0035】
【0036】
図6~
図8に示されるような実施形態に係る工具では、
図9の状態からチルト角θtが180度よりも小さくなると(又は、大きくなると)、切削幅が小さくなる。また、
図9の状態からリード角θlが90度よりも小さくなると、切削幅が大きくなる。これらのチルト角θt及びリード角θlの変化を考慮する場合、ピックフィードPは、幾何学的に以下の式(2)によって求められる。
【0037】
【0038】
したがって、上記の式(2)によってピックフィードPを算出することによって、所望のカスプ高さを有する表面が得られる。
【0039】
次に、実施形態に係るワークの加工方法について説明する。
【0040】
図10は、実施形態に係る加工方法を示すフローチャートである。以下に示されるマシニングセンタ100の動作は、例えば、NCプログラムに従って実行されてもよいし、又は、オペレータによって操作されてもよい。まず、オペレータは、上記のような工具(第2の工具)Tを準備する(ステップS100)。ステップS100については、詳しくは後述する。
【0041】
続いて、マシニングセンタ100は、ドリル等の第1の工具によって、ワークWに孔(下孔)を形成する(ステップS102)。続いて、例えば、自動工具交換装置(不図示)によって又はオペレータによって、第1の工具を主軸60から取り外し、準備した第2の工具Tを主軸60に取り付ける(ステップS104)。
【0042】
続いて、マシニングセンタ100は、ワークWに形成された外周部の開口5に対して、工具Tを、120度~240度の範囲の所定のチルト角θt(例えば、180度)で、かつ、0より大きく90度以下の所定のリード角θl(例えば、90度)で配置する(ステップS106)。ステップS106において、工具Tは、孔の内面7に接触していてもよく、又は、内面7から離れていてもよい。
【0043】
続いて、マシニングセンタ100は、開口5から孔の内部に向かって、内面7に沿って工具Tを移動させて内面7を加工する(ステップS108)。マシニングセンタ100は、所定の深さまで加工を続ける。
【0044】
続いて、マシニングセンタ100は、工具Tを孔の内面7から引き離した状態で、孔の内部から開口5に向かって工具Tを戻す(ステップS110)。例えば、マシニングセンタ100は、ステップS106において工具Tが配置された位置まで工具Tを戻してもよい。
【0045】
続いて、加工プログラムで指定された所定のピックフィードの位置に到達するまで(ステップS112)、マシニングセンタ100は、工具Tを、上記の式(2)によって算出されるピックフィードPを与え、開口5の周縁に沿って移動させ(ステップS114)、ステップS106~ステップS110を繰り返す。
【0046】
ステップS112において、所定のピックフィードの位置に到達した場合、マシニングセンタ100は、一連の動作を終了する。マシニングセンタ100は、同じ工具T(又は、異なる工具)を使用して、内周部の開口6から上記と同様な動作を実行してもよい。
【0047】
続いて、工具を準備するステップS100について説明する。
【0048】
図11(a)~(d)は、工具を準備するステップを示す概略図である。工具を準備するステップS100は、例えば、CAD上において、オペレータによって又はプログラムにしたがって実行されてもよい。
【0049】
図11(a)を参照して、まず、上記のステップS102で形成される孔(下孔)の形状を取得する。孔には、第1の工具によって加工されなかった残留部9が残っている。残留部9の形状に基づいて、開口5から挿入される工具によって加工される領域9aと、開口6から挿入される工具によって加工される領域9bと、を決定する。以下では、開口5から挿入される工具を準備する。しかしながら、開口6から挿入される工具も、同様な方法によって準備されてもよい。
【0050】
図11(b)を参照して、続いて、開口5の形状に基づいて、工具Tの先端部12の形状を決定する。例えば、先端部12の形状は、先端部12が所定のチルト角(例えば、180度)及びリード角(例えば、90度)で開口5に対して配置されたときに、先端部12が開口5に干渉しないように決定される。
【0051】
図11(c)を参照して、続いて、孔において先端部12が到達する予定の最も深い位置に先端部12を配置する。例えば、先端部12は、領域9aの最も深い部分に接触するように配置される。
【0052】
図11(d)を参照して、続いて、内面7と干渉しないようにかつ最も太くなるように、軸状の工具本体11の形状を決定する。この際、チルト角及びリード角を調整してもよい。また、決定された工具TをCAD上で開口5から孔の内部に向かって内面7に沿って移動させたときに、切れ刃以外の工具Tの部分が内面7と干渉するか否かを判定してもよい。干渉が起こる場合、オペレータは、軸状の工具本体11の形状を調整してもよい。
【0053】
以上のような実施形態に係る加工方法にしたがって孔の開口5から内部に向かって工具Tを移動させる場合、工具の先端面17に隣接する主切れ刃15が、切削力(送り分力)を主に受ける。
図6~
図8に示される工具Tでは、この主切れ刃15が、中心軸線Otに対して30度~150度の角度を成す輪郭を含む。したがって、切削力(送り分力)の半分以上が軸方向の切削力に変換され得る。よって、工具Tにかかる径方向の切削力が低減される。このため、工具Tの振動を低減することができ、ワークWに形成された孔を効率良く加工することができる。
【0054】
また、実施形態に係る加工方法によれば、孔の開口5から内部に向かって工具Tが移動するときにのみ、孔の内面7が加工される。また、チルト角θtは、120度~240度に設定される。したがって、
図5の結果に基づく本発明者の知見によれば、工具Tの振動を低減することができ、ワークWに形成された孔を効率良く加工することができる。
【0055】
また、実施形態に係る加工方法では、ステップS100は、孔の開口5の形状に基づいて、先端部12の形状を決定することと、孔において先端部12が到達する予定の最も深い位置に先端部12を配置した場合に、内面7と干渉しないようにかつ最も太くなるように軸状の工具本体11の形状を決定することと、を含む。したがって、工具Tの形状を容易に決定することができる。
【0056】
また、実施形態に係る加工方法では、ステップS106は、所定のチルト角θt及びリード角θlを設定することを含み、ステップ(vi)のピックフィードPが、上記の式(2)によって算出される。
図6~
図8に示されるような実施形態に係る工具では、所望のカスプ高さ(表面粗さ)は、幾何的に上記の式(2)によって求められるピックフィードPを使用することによって達成されるため、ステップS114において式(2)によって求められたピックフィードPを使用することによって、所望の表面粗さを得ることができる。
【0057】
工具及びワークの加工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解するだろう。また、当業者であれば、上記のステップは、上記の順番で実施される必要はなく、矛盾が生じない限り、他の順番で実施可能であることを理解するだろう。
【0058】
例えば、上記の実施形態に係る加工方法では、
図6~
図8に示される工具Tが使用される。しかしながら、他の実施形態に係る加工方法では、他の一般的な工具(例えば、ロリポップミル)が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
4 流路(孔)
5 開口
6 開口
7 孔の内面
11 軸状の工具本体
11a 軸状の工具本体の第1の端部
11b 軸状の工具本体の第2の端部
12 先端部
14 刃部
15 主切れ刃
17 工具の先端面
60 主軸
100 マシニングセンタ(工作機械)
n 加工面の垂線
Ot 工具の中心軸線
P ピックフィード
T 工具
W クローズドインペラ(ワーク)
θ1 主切れ刃の輪郭の中心軸線に対する角度
θl リード角
θt チルト角