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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】細長い電極を備えるイオントラップ
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20220810BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20220810BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220810BHJP
【FI】
H01J49/42 900
H01J49/42 550
H01J49/42 250
H01J49/42 150
H01J49/06 700
G01N27/62 E
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020089408
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2020191284
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】1907235.4
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ペーター ハウスシルト
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マカロフ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ホロメーエフ
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー グリンフェルト
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルド デニソフ
(72)【発明者】
【氏名】アメリア ピーターソン
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-503864(JP,A)
【文献】特表2010-514103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
H01J 49/06
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップ1であって、
前記イオントラップ1内のイオンを排出方向Eに排出可能である開口4を有するイオン捕捉用の1つの排出電極2、及び、イオン捕捉用の複数のさらなる電極3、を含むイオン捕捉用の複数の電極と、
RF電源6に接続された一次巻線5と、
前記一次巻線5と結合しており、前記RF電源6のRF電圧を変圧し、その変圧されたRF信号を前記排出電極2に供給する二次巻線7と、
前記一次巻線5と結合しており、前記RF電源6のRF電圧を変圧し、その変圧されたRF信号を前記複数のさらなる電極3に供給する二次巻線7’と、
第1のDC電源8と、
第2のDC電源9と、
コントローラ50と、を備え、
前記排出電極2および前記複数のさらなる電極3が、長手方向Lに細長く、
前記長手方向Lと前記排出方向Eとの間の角度αが、90°からのずれが15°以内であり、
前記コントローラ50が、ある期間、前記二次巻線7を介して第1のDC電源8によって与えられた第1のDC電圧を前記排出電極2に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に引き寄せ、前記二次巻線7’を介して前記第2のDC電源9によって与えられた第2のDC電圧を前記複数のさらなる電極3の少なくとも70%に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に追いやる、イオントラップ1。
【請求項2】
前記イオントラップ1が、3つのさらなる電極3を備えている、請求項1に記載のイオントラップ1。
【請求項3】
前記イオントラップ1が、5つのさらなる電極3を備えている、請求項1に記載のイオントラップ1。
【請求項4】
前記イオントラップ1が、7つのさらなる電極3を備えている、請求項1に記載のイオントラップ1。
【請求項5】
前記イオントラップ1が、湾曲したイオントラップである、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項6】
前記長手方向Lと前記排出方向Eとの間の角度αが、90°からのずれが7°以内である、請求項1~5のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項7】
前記コントローラ50が、前記ある期間、前記二次巻線7’を介して前記第2のDC電源9によって与えられた前記第2のDC電圧を前記複数のさらなる電極3の少なくとも80%に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に追いやる、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項8】
前記コントローラ50が、前記ある期間、前記二次巻線7’を介して前記第2のDC電源9によって与えられた前記第2のDC電圧をすべての複数のさらなる電極3に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に追いやる、請求項7に記載のイオントラップ1。
【請求項9】
前記コントローラ50が、前記二次巻線7を介して第1のDC電源8によって与えられた第1のDC電圧を前記排出電極2に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に引き寄せると同時に、前記二次巻線7’を介して前記第2のDC電源9によって与えられた第2のDC電圧を前記複数のさらなる電極3の少なくとも70%に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に追いやる、請求項1~8のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項10】
前記排出電極2に印加される前記第1のDC電圧と前記複数のさらなる電極3に印加される前記第2のDC電圧との間の電圧差が、50V~800Vである、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項11】
前記イオントラップが、集束レンズ10を備え、前記集束レンズ10が、前記排出電極2の前記開口4の下流に、排出されたイオンに対して配置され、かつ排出されたイオンを集束させる、請求項1~10のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項12】
前記集束レンズ10が、排出されたイオンが向けられる開口11を有し、前記開口11が、前記排出電極2の前記開口4よりも大きい、請求項11に記載のイオントラップ1。
【請求項13】
前記集束レンズ10が、DC電圧が印加される静電レンズであり、前記集束レンズ10の前記DC電圧と前記排出電極2の前記第1のDC電圧との間の電圧差が、250V~1500Vである、請求項11又は12に記載のイオントラップ1。
【請求項14】
前記集束レンズ10が、DC電圧が印加される静電レンズであり、前記集束レンズ10の前記DC電圧と前記排出電極2の前記第1のDC電圧との間の電圧差と、前記排出電極2に印加される前記DC電圧と前記さらなる電極3に印加される前記DC電圧との間の電圧差との比が、1.5~6である、請求項11~13のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項15】
前記イオントラップが、前記集束レンズ10の下流に、排出されたイオンに対して配置された加速レンズ12を備えている、請求項11~14のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項16】
前記加速レンズ12が、排出されたイオンが向けられる開口13を有し、前記開口13が、集束レンズ10の開口11よりも小さい、請求項15に記載のイオントラップ1。
【請求項17】
前記加速レンズ12が、DC電圧が印加される静電レンズであり、前記加速レンズ12の前記DC電圧と前記集束レンズ10の前記DC電圧との間の電圧差が、800V~5000Vである、請求項15又は16に記載のイオントラップ1。
【請求項18】
前記加速レンズ12が、DC電圧が印加される静電レンズであり、前記加速レンズ12の前記DC電圧と前記排出電極2の前記第1のDC電圧との間の電圧差と、前記排出電極2に印加される前記第1のDC電圧と前記さらなる電極3に印加される前記第2のDC電圧との間の電圧差との比が、2~12である、請求項15~17のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項19】
前記加速レンズ12が、DC電圧が印加される静電レンズであり、前記排出電極2に印加される前記第1のDC電圧と前記さらなる電極3に印加される前記第2のDC電圧との間の電圧差と、前記加速レンズ12の前記DC電圧と前記さらなる電極3に印加される前記第2のDC電圧との間の電圧差との比が、0.05~0.4である、請求項15~18のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項20】
前記変圧された信号を前記排出電極2に供給する前記二次巻線7と、前記変圧された信号を前記さらなる電極3のうちの1つに供給する前記二次巻線7’とが、直列に接続された一対の二次巻線である、請求項1~19のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項21】
前記変圧された信号を前記複数のさらなる電極3のうちの2つに供給する前記二次巻線7’が、直列に接続された一対の二次巻線である、請求項1~20のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項22】
前記イオントラップの前記排出電極2および複数のさらなる電極3の前記RF電源からRF信号をタップすることにより、質量分析計のさらなる構成要素に、具体的にはHCDセルまたは輸送多極に、RF電圧が供給される、請求項1~21のいずれか一項に記載のイオントラップ1。
【請求項23】
イオン捕捉用に長手方向Lに細長い1つの排出電極2および複数のさらなる電極3を含むイオン捕捉用の複数の電極を備えているイオントラップ1からイオンを排出する方法であって、
前記排出電極2が、前記イオントラップ1内のイオンを排出方向Eに排出可能である開口4を備え、前記長手方向Lと前記排出方向Eとの間の角度αが、90°からのずれが15°以内であり、RF電圧が、RF電源6に接続された一次巻線5と、前記一次巻線5と結合しており前記RF電源6の前記RF電圧を変圧しその変圧されたRF電圧を前記排出電極2に供給する二次巻線7と、前記一次巻線5と結合しており前記RF電源6の前記RF電圧を変圧しその変圧されたRF電圧を前記複数のさらなる電極3に供給する二次巻線7’と、第1のDC電源8と、第2のDC電源9とによって、前記イオントラップ1に供給され、
前記方法が、
前記イオントラップ1の前記1つの排出電極2および前記複数のさらなる電極3に供給される前記RF電圧をオフに切り替えるステップと、
ある期間、二次巻線7を介して前記第1のDC電源8によって与えられた第1のDC電圧を前記排出電極2に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に引き寄せ、前記二次巻線7’を介して前記第2のDC電源9によって与えられた第2のDC電圧を前記複数のさらなる電極3の少なくとも70%に印加して、前記イオントラップ内のイオンを前記排出電極2の前記開口4に追いやるステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントラップおよびイオントラップからイオンを排出する方法に関し、ここでは、イオンは、イオントラップの長手方向Lに対して直角またはほぼ直角である排出方向Eに排出される。
【背景技術】
【0002】
イオンの流入ストリームに対してバッファを提供し、特定の質量分析計に適した空間的特性、角度的特性、および時間的特性を備えたパケットを用意するために、イオントラップを使用することができる。パルス質量分析計の例には、飛行時間(TOF:Time-Of-Fight)型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT ICR:Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance)型、Orbitrap(登録商標)型(すなわち、静電オンリートラッピングを使用するもの)、またはさらなるイオントラップが含まれる。
【0003】
イオントラップは、イオンを輸送するまたは蓄積するのにRF場を使用する蓄積デバイスである。通常、イオントラップには、変圧器の一次巻線にRF信号を提供するRF信号発生器が含まれる。変圧器の二次巻線は、蓄積デバイスの電極(通常、4つ)に接続されている。通常、イオントラップは、長手方向Lに延在する細長い電極を備え、電極は、長手方向に対して直角な軸に沿って対になっている。例えば4つの電極を有するイオントラップでは、電極は、イオントラップに入るまたはイオントラップで作り出されるイオンを含む、双曲線等電位を有する四重極RF場を作り出すように形作られている。イオントラップ内の捕捉は、DC場の使用によって助けられ得る。図2aから分かるように、4つの細長い電極のそれぞれは、z軸に沿って3つに分割されている。大きな中央セクションに比べて、高いDC電圧を各電極の前セクションおよび後セクションに印加して、RF場成分とDC場成分との重ね合わせから生じるイオントラップの捕捉場に電位井戸を重ね合わせることができる。RF電圧を電極に印加して、イオン選択を助けるRF場成分を作り出すこともできる。
【0004】
具体的には、細長い電極を有する2つのタイプのイオントラップがあり、線形イオントラップは、真っすぐな線形電極を備える。Cトラップと呼ばれる湾曲した線形イオントラップは、湾曲した電極を備える。イオントラップは、様々な個数の電極を有することができる。具体的には、一対の電極を有するイオントラップがある。イオントラップには、4つの電極(四重極イオントラップ)、6つまたは8つの電極があるのが好ましい。
【0005】
本発明は、このようなイオントラップに関し、イオントラップは、イオントラップの長手方向Lに対して直角またはほぼ直角である排出方向Eにおいてイオントラップに捕捉されたイオンを排出する。したがって、イオントラップは、排出方向Eに開口を有する1つの電極である排出電極を備える。開口は、排出電極の中央に、または少なくとも電極の中央の近くに位置付けられるのが好ましい。開口は、具体的には、その長手方向Lにおける排出電極の中央に、または少なくともその長手方向Lにおける排出電極の中央の近くに位置付けられている。
【0006】
イオントラップからイオンを排出方向Eに排出するのに、好ましくはイオントラップ内のイオンを捕捉するRF電圧がオフに切り替えられるか、または少なくとも低減された後に、DC電圧を電極に印加する様々な手法が知られている。
【0007】
Chienらは、「Enhancement of resolution in Matrix-assisted Laser Desorption Using an Ion-trap Storage/Reflectron Tim-of-flight Mass Spectrometer」,Rapid.Comm.Mass Spectrom. Vol.7,837-844(1993)において、それを通してイオンがイオントラップを離れる電極に、イオンをこの排出電極に引き寄せるDC電圧を印加することを提案している。一方、Fountainらは、「Mass-selective Analysis of Ions in Time-of-flight Mass spectrometry Using an Ion-trap Storage Device”, Rapid.Comm.Mass Spectrom.Vol.8,487-494 (1994)において、それを通してイオンがイオントラップを離れる電極の反対側にある電極に、それを通してイオンがイオントラップから離れる電極にイオンを追いやるDC電圧を印加することを提案している。
【0008】
US5,569,917では、それを通してイオンがイオントラップを離れる電極に、イオンをこの排出電極に引き寄せるDC電圧を印加すると同時に、この電極の反対側にある電極に、それを通してイオンがイオントラップから離れる電極にイオンを追いやる反対の極性のDC電圧を印加することが開示されている。
【0009】
細長い電極を有するイオントラップに関して、同様の手法がUS2011/0315873 A1にも記載されている。どのようにDC電圧を電極に印加してイオントラップからイオンを排出するかの詳細を以下に示す。この手法でも、電圧差が、排出電極と排出電極の反対側の電極とに適用される。この手法では、これら2つの電極への特定のDC電圧供給が必要になる。
【0010】
この手法を使用したイオントラップからのイオンの排出効率には限りがある。イオントラップに蓄積されたイオンのすべてを、例えば加速レンズによって排出し、質量分析計に転送できるわけではない。とりわけ、この効率は、イオントラップ内の空間電荷の発生と、蓄積されたイオン集団の質量分布とによって決まる。
【0011】
また、排出電極に追いやられた多くのイオンは、排出電極の開口の縁に当たるために失われる。これにより、特にイオン排出中に、イオントラップの挙動にさらに影響を与える可能性がある縁の汚染が激しくなる。
【0012】
前述の問題により、さらに、排出されたイオンが転送される質量分析計のダイナミックレンジおよび線形性が限られてくる。
【0013】
イオントラップからイオンを排出する既知の手法のもう1つの欠点は、イオントラップの各電極に対し、特定のDC電圧を印加する必要があり、これは、多くのDC電源デバイスと、DC電極ごとに異なるDC電圧の印加のきめ細かい制御とを必要とすることである。本発明の目的は、より高いイオン排出効率を有する改良型イオントラップを提供することである。
【0014】
本発明の目的は、空間電荷に対するイオン排出効率の依存性が低減される、改良型イオントラップを提供することである。
【0015】
本発明の目的は、蓄積されたイオン集団内の質量分布に対するイオン排出効率の依存性が低減される、改良型イオントラップを提供することである。
【0016】
本発明の目的は、イオン排出中に、イオンが排出される開口の汚染が、先行技術のイオントラップに比べて低減される、改良型イオントラップを提供することである。
【0017】
本発明の目的は、それによって、イオントラップが排出されたイオンを供給する質量分析計のダイナミックレンジを拡大することができる、改良型イオントラップを提供することである。
【0018】
本発明の目的は、それによって、イオントラップが排出されたイオンを供給する質量分析計の線形性を高めることができる、改良型イオントラップを提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、簡略化電圧供給を備える改良型イオントラップを提供することである。
【発明の概要】
【0020】
これらの目的のうちの少なくとも1つ、好ましくはすべては、請求項1のイオントラップによって解決される。
【0021】
本発明のイオントラップは、イオン捕捉用に、1つの排出電極およびさらなる電極を備える。排出電極およびさらなる電極は、長手方向Lに細長くなっている。イオントラップは、真っすぐな線形イオントラップまたは湾曲した線形イオントラップ(Cトラップ)であり得る。また、イオントラップは、直線部分と曲線部分を有する電極を備える可能性がある。イオントラップは、線形四重極イオントラップ、すなわち、4つの細長い電極を有するイオントラップであり得る。しかし、本発明は、4つより多い電極(例えば、6つまたは8つの電極)を有するイオントラップに適用され得る。イオントラップの電極である排出電極とさらなる電極とは、イオントラップの長手方向Lに沿って同じ形状であるのが好ましい。そのため、長手方向は、直線(イオントラップ全体に沿って同じ方向)、または曲線、または一部直線と一部曲線のいずれであってもよい。
【0022】
特定の実施形態において、排出電極として、異なる時点で異なるイオントラップの電極を使用することができる。
【0023】
イオントラップの排出電極は、イオントラップ1内のイオンを排出方向Eに排出可能である開口を有する。排出されたイオン塊の排出方向Eは、その塊のイオンが、排出電極の開口を離れる際に飛ぶ平均方向として定義される。したがって、排出されたイオン塊では、排出方向は、通常、イオン塊の中央イオンビームの方向を定義している。排出方向Eに対して直角なイオンビームの幅は、尚も実験条件によって決まる可能性がある。排出されたイオンの排出方向Eは、電極の長手方向Lに対して少なくともほぼ直角である。長手方向Lと排出方向Eとの間の角度αは、90°からのずれが、通常15°以内、好ましくは10°以内、特に好ましくは5°以内である。
【0024】
イオントラップ内のイオン捕捉では、イオントラップの電極である排出電極およびさらなる電極には、RF電圧が供給される。いくつかのまたはすべての電極には、例えば、電位壁を作り出すために、イオン捕捉中に、DC電圧も供給され得る。
【0025】
電極に印加されるRF電圧は、RF電源によって与えられるRF電圧を変圧することによって発生する。このRF電源は、発生したRF信号を一次巻線に提供する。次に、一次巻線が二次巻線と誘導結合される。次に、この巻線における変圧によって発生したRF信号が、排出電極に供給される。さらに、一次巻線は、他の二次巻線とも誘導結合される。次に、これらの他の巻線における変圧によって発生した信号が、イオントラップの他の電極に供給される。
【0026】
イオントラップの電源は、様々な制御手段、例えば、プロセッサ、スイッチ、ならびに/またはプロセッサおよび他のソフトウェアおよびハードウェアの構成要素によって実行されるソフトウェアを含み得るコントローラによって制御される。
【0027】
電極にRF電圧を印加すると、イオンをイオントラップに捕捉することができる。必要に応じて、捕捉されたイオンは、排出前にイオントラップ内で冷却または熱化される。本発明によるイオントラップからのイオンの排出ではまた、DC電圧が、イオントラップの電極に印加されなければならない。通常、電極に与えられたRF電圧がオフに切り替えられた後に、DC電圧が印加される。本発明のイオントラップは、イオントラップの電極にDC電圧を与える、少なくとも2つのDC電源を備えている。DC電圧の印加は、イオントラップの制御装置によって制御される。
【0028】
イオントラップからのイオンの排出では、第1のDC電源によって与えられる第1のDC電圧が排出電極に印加される。第1のDC電圧は、またRF信号を排出電極に供給している二次巻線を介して排出電極に与えられる。第1のDC電圧を排出電極に印加して、イオントラップ内のイオンを排出電極の開口に引き寄せる。
【0029】
第2のDC電圧は、第2のDC電源によって与えられる。第2のDC電圧は、またRF信号をさらなる電極に供給している二次巻線を介してさらなる電極の少なくとも70%に与えられる。第2のDC電圧は、イオントラップ内のイオンを排出電極の開口に追いやる。したがって、第2のDC電源によってさらなる電極の少なくとも70%に与えられるDC電圧は、イオントラップ内のほとんどのイオンと同じ極性を有する。
【0030】
イオントラップが四重極であるように、さらなる電極の個数が3であるのが好ましい。ただし、他の実施形態では、さらなる電極の個数が、5(六極子)または7(八極子)であってもよい。
【0031】
好ましい実施形態において、イオントラップは、湾曲した電極を備える。特に、本発明のイオントラップは、湾曲したイオントラップとすることができる。
【0032】
本発明のイオントラップの好ましい実施形態において、長手方向Lと排出方向Eとの間の角度αは、90°からのずれが7°以内、好ましくは3°以内である。
【0033】
本発明のイオントラップの他の好ましい実施形態において、コントローラは、二次巻線を介して第2のDC電源によって与えられた第2のDC電圧をさらなる電極の少なくとも80%に印加している期間に、イオントラップ内のイオンを排出電極の開口に追いやる。本発明のイオントラップのより好ましい実施形態において、コントローラは、二次巻線を介して第2のDC電源によって与えられた第2のDC電圧をすべてのさらなる電極3に印加している期間に、イオントラップ内のイオンを排出電極の開口に追いやる。
【0034】
コントローラが第1のDC電圧を排出電極に印加し、第2のDC電圧をさらなる電極に印加している期間は、5ms~5000ms、好ましくは10ms~2000ms、特に好ましくは50ms~500msとすることができる。特に、両方のDC電圧を同時に印加することができるが、最大5000ns、好ましくは最大500ns、特に好ましくは最大100nsの遅延が発生する可能性がある。第2の電圧が、最初にさらなる電極に印加されるのが好ましい。
【0035】
通常、排出電極2に印加される第1のDC電圧とさらなる電極3に印加される第2のDC電圧との電圧差は、50V~800V、好ましくは100V~600V、特に好ましくは200V~400Vである。
【0036】
本発明のイオントラップは、好ましい実施形態では、集束レンズを備え、この集束レンズは、排出電極の開口の下流に、排出されたイオンに対して配置され、排出されたイオンを集束させる。集束レンズが、排出電極の開口よりも大きい、排出されたイオンが向けられる開口を有するのが好ましい。集束レンズ10は、DC電圧が印加される静電レンズであり得る。通常、集束レンズのDC電圧と排出電極の第1のDC電圧との電圧差は、250V~1、500V、好ましくは400V~1,000V、特に好ましくは600V~800Vである。通常、集束レンズのDC電圧と排出電極の第1のDC電圧との電圧差と、排出電極に印加される第1のDC電圧とさらなる電極3に印加される第2のDC電圧との電圧差との比は、1.5~6、好ましくは2.0~4、特に好ましくは2.2~3である。
【0037】
本発明のイオントラップは、好ましい実施形態において、加速レンズを備え、この加速レンズは、集束レンズの下流に、排出されたイオンに対して配置されている。加速レンズ12が、集束レンズの開口よりも小さい、排出されたイオンが向けられる開口13を有するのが好ましい。加速レンズ12が、DC電圧が印加される静電レンズであるのが好ましい。通常、加速レンズのDC電圧と集束レンズのDC電圧との電圧差は、800V~5,000V、好ましくは1,500V~3,500V、特に好ましくは2,000V~2,700Vである。通常、加速レンズのDC電圧と排出電極の第1のDC電圧との電圧差と、排出電極に印加される第1のDC電圧とさらなる電極に印加される第2のDC電圧との電圧差との比は、2~12、好ましくは4~9、特に好ましくは5~7である。通常、排出電極に印加される第1のDC電圧とさらなる電極に印加される第2のDC電圧との電圧差と、加速レンズのDC電圧とさらなる電極に印加される第2のDC電圧との電圧差との比は、0.05~0.4、好ましくは0.1~0.25、特に好ましくは0.12~0.2である。
【0038】
イオントラップの好ましい実施形態において、変圧されたRF電圧を排出電極に供給する二次巻線と、変圧されたRF電圧をさらなる電極のうちの1つに供給する二次巻線とは、直列に接続された一対の二次巻線である。
【0039】
イオントラップの好ましい実施形態において、変圧されたRF電圧をさらなる電極3のうちの2つに供給する二次巻線は、直列に接続された一対の二次巻線である。
【0040】
本発明のイオントラップの好ましい実施形態において、質量分析計のさらなる構成要素、具体的には、HCDセルまたは輸送多極には、イオントラップの排出電極2およびさらなる電極3のRF電源からRF電圧をタップすることによって、RF電圧が供給される。RF電圧をタップするのに、インダクタンスディバイダが使用されるのが好ましい。
【0041】
これらの目的のうちの少なくとも1つ、好ましくはすべては、請求項23のイオントラップからイオンを選択する方法によって解決される。
【0042】
イオントラップは、イオン捕捉用に、長手方向Lに細長い1つの排出電極およびさらなる電極を備え、排出電極は、イオントラップ内のイオンを排出方向Eに排出可能である開口を備え、長手方向Lと排出方向Eとの間の角度αは、90°からのずれが15°以内であり、RF電源に接続された一次巻線と、RF電源6のRF電圧を変圧し、かつ変圧されたRF電圧を排出電極に供給する、一次巻線と結合する二次巻線と、RF電源のRF電圧を変圧し、かつ変圧されたRF電圧をさらなる電極、第1のDC電源8、および第2のDC電源9に供給する、一次巻線と結合する二次巻線と、によって、RF電圧がイオントラップに供給される。
【0043】
この方法は、第1のステップにおいて、イオントラップの1つの排出電極およびさらなる電極に供給されるRF電圧をオフに切り替えることと、第2のステップにおいて、ある期間、二次巻線を介して第1のDC電源によって与えられた第1のDC電圧を排出電極に印加して、イオントラップ内のイオンを排出電極の開口に引き寄せ、二次巻線を介して第2のDC電源によって与えられた第2のDC電圧をさらなる電極の少なくとも70%に印加して、イオントラップ内のイオンを排出電極の開口4に追いやることと、を含む。
【0044】
本発明の方法のさらなる詳細は、本明細書から見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】先行技術による、イオントラップからのイオンの排出を示す。
図2】細長い電極を備えるイオントラップの排出電極を示す。
図3】線形イオントラップである、先行技術による別のイオントラップの電圧供給のより詳細な電気回路を示す。
図4】湾曲したイオントラップである、先行技術による別のイオントラップの電圧供給のより詳細な電気回路を示す。
図5】本発明のイオントラップの第1の実施形態の電圧供給の詳細な電気回路を示す。
図6】本発明のイオントラップの第2の実施形態からのイオンの排出を示す。
図7】HCDセルおよび輸送多極用のRF電圧供給も含む、図5に示す本発明のイオントラップの第1の実施形態の電圧供給の詳細な電気回路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、長手方向Lに細長い電極を有する先行技術によるイオントラップからのイオンの排出を示す。長手方向Lに対して直角なイオントラップの断面が示されている。イオントラップは、細長い排出電極2および3つのさらなる細長い電極3を備えている。排出電極2は、イオントラップ1に蓄積されたイオンを排出方向Eに排出可能である開口4を有する。この図では、さらに、イオンが排出される際のイオントラップの電極へのDC電圧供給を示す。排出されたイオンは、イオントラップの開口4から、開口13を有する加速レンズ12へ加速される。イオンが捕捉されると、少なくともRF電圧がイオントラップの4つの電極2、3に印加される。さらに、イオントラップの電極2、3のうちの少なくとも1つに小さなDC電圧を印加して、電位井戸による捕捉を高めることが可能である。軸方向捕捉は、トラップの端開口部(図示せず)にDC電圧を印加することで有効になる。
【0047】
捕捉されたイオンが排出される場合、RF電圧と、存在すれば小さなDC電圧もオフに切り替えられる。次に、下部のさらなる電極3と接地された加速レンズ12との間に位置付けられたオフセットDC電源を介して、オフセット電圧Vaccが印加される。同じオフセット電圧Vacc(図示せず)が、上部のさらなる電極3にも供給される。印加されるオフセット電圧の通常の値は、2,200Vである。第1のDC電源8を介して、第1のDC電圧Vejectが排出電極2に印加される。この第1のDC電圧Vejectは、第1のDC電源8によって、下部のさらなる電極3と排出電極2との間に印加される。第1のDC電圧Vejectの通常の値は、300Vであり、負極性が排出電極2に印加される。排出電極2も、電圧Vaccを供給するオフセットDC電源に接続されているため、接地に対して、1,900Vの電圧が排出電極2に印加される。第2のDC電源9を介して、第2のDC電圧が、イオントラップ内の排出電極2の反対側に配置された左のさらなる電極3に印加される。図示の例では、第2のDC電圧は、第1のDC電圧と同じ値のVejectを有する。この第2のDC電圧は、第1のDC電源9によって、下部のさらなる電極3と左のさらなる電極3’との間に印加される。次に、第2のDC電圧の値も300Vであり、正極性が左のさらなる電極3’に印加される。排出電極2も、電圧Vaccを供給するオフセットDC電源に接続されているため、接地に対して、2,500Vの電圧が左のさらなる電極3に印加される。これらの電圧がイオントラップの電極2、3に印加されると、正に帯電したイオンは、左のさらなる電極3に印加された電圧によって排出電極2の方向に押され、排出電極2に印加された電圧によって排出電極2へ引き寄せられる。正に帯電したイオンに対するこの効果は、左のさらなる電極3と排出電極2との電圧差によってもたらされる、イオントラップ内の電界によって生じる。この電界は、特に、排出電極2に向けられる成分を有し、イオントラップ内のイオンのイオンビーム32によって示されるように、排出電極2の開口4に向けられる。ただし、イオンのすべてが開口を通して排出され、さらに、加速レンズ12によって加速されるわけではない。イオンの一部が開口4の縁にぶつかる。これにより、イオン排出の効率が低下し、排出電極2のその開口の縁が汚染される。また、小さな点線円は、前述のようにDC電圧が印加されると、イオントラップ1からイオンが排出される中央領域を示す。
【0048】
図2は、細長い電極を備えるイオントラップの排出電極2を示す。排出電極は、長手方向Lに細長い。排出電極に設けられた開口4も示す。この開口部4を通して、イオントラップ1に捕捉されたイオンは、DC電圧をイオントラップ1の排出電極2に、またさらなる電極3にも印加することによって排出され得る。イオンが、イオンから開口4を通って排出方向Eに排出されることが示されている。排出されたイオンの排出方向Eが、電極の長手方向Lに対して実質的に直角であることが示されている。一般に、排出されたイオンの排出方向Eは、電極の長手方向Lに対して少なくともほぼ直角である。長手方向Lと排出方向Eとの間の角度αは、90°からのずれが、通常15°以内、好ましくは10°以内、特に好ましくは5°以内である。
【0049】
図3は、US2011/0315873 A1に開示された先行技術によるイオントラップ1の電圧供給の電気回路をより詳細に示す。この図には、線形イオントラップへの電圧供給が示されている。
【0050】
イオントラップ1に蓄積されたイオンの排出方向Eにおける排出が示されている。イオントラップは、排出電極2およびさらなる電極3、3’を備えている。排出しやすいように、排出電極2には、開口4が設けられている。
【0051】
一次巻線5が接続されているRF電源6が示されている。また、3対の対称的な二次巻線7、7’が示されており、これらは、一次巻線5と結合されている。以下に説明する二次巻線に供給されるRF電力をオフに切り替えるRFスイッチ20が示されている。供給されたRF電圧の切り替え後、さらなる二次巻線内のRF電圧を急速に低下させるために、全波整流器42に接続されている第1の対の二次対称巻線21が示されている。
【0052】
第2の対の二次巻線の第1および第2の巻線7’は、イオントラップ1の中央より上の右側にある、イオントラップのさらなる電極3に給電する。第3の対の二次巻線の第1の巻き線7’は、イオントラップの中央より下にあるイオントラップの他のさらなる電極3に給電する。第3の対の二次巻線の第2の巻線7は、イオントラップの他の排出電極2に給電する。図3から分かるように、第1、第2、および第3の対の二次巻線の第1の巻線のすべてが、第1の対の巻線の中央タップ22で一緒に接続されている。ただし、中央タップ22にはまた、第1の対の第2の巻線のみが接続されている。中央タップ22に近い第2および第3の対の二次巻線の第2の巻線7’および7の端は、代わりに、DCオフセット電源に接続されている。
【0053】
図3に示す回路では、正または負のオフセット(イオントラップに捕捉されたイオンの極性によって決まる)は、DCオフセットスイッチ23を通して選択可能であるDC電圧供給24、25から設定され得る。ただし、これらの選択されたDCオフセット電圧を単に二次巻線7、7’に直接供給するのではなく、それらは、さらなる高電圧供給スイッチ26および27を通して送られる。低い内部抵抗を有するのが好ましいこれらのスイッチ26および27は、DCオフセットが二次巻線7、7’に直接送達されるように設定され得る。代替構成では、スイッチは、独立したHVオフセットが、それぞれ排出電極2と右のさらなる電極3とに給電する、2つの二次巻線7、7’に印加可能であるように設定され得る。イオントラップ内に正イオンがある場合、DCプッシュ電圧供給9は、二次巻線7’に設定可能であるプッシュスイッチ27を通して大きな正電圧を供給することにより、大きな正電位を右のさらなる電極3に印加する。この大きな正電位は、イオントラップに蓄積されたイオンを、反対側の排出電極2に設けられた開口部4へ跳ね返す。対応するプルDC電圧供給8は、プルスイッチ8を通して二次巻線7に大きな負電位を供給することにより、その開口4へイオンを引き付ける排出電極2に大きな負電位を印加する。したがって、この配置により、例えば、イオントラップ内にイオンを捕捉するための電位井戸を提供するために使用され得る電極2および3に小さなDCオフセットを印加することができる。この電位は、例えば、RF電位が電極2および3に供給されるのと同時に供給されてもよい。スイッチ20を使用してRF電位をオフに切り替えると、DCオフセット電圧を24または25から電極のすべてに印加するのに加えて、DCプッシュ電圧供給9とプルDC電圧供給8とを、それぞれ、右のさらなる電極3と排出電極2とに印加することによって、イオントラップからイオンを直交方向に排出することができる。
【0054】
図4は、先行技術による湾曲したイオントラップ1(Cトラップ)の電圧供給の詳細な電気回路を示す。RF電圧およびDC電圧を与えるための電気回路は、図3に示すものと基本的に同じである。イオンは、ここでは、イオン源(図示せず)からイオンが供給される輸送多極31によってCトラップ1に供給されている。Cトラップ1は、捕捉されたイオンを、排出電極2の開口4を通して、Orbitrap(登録商標)質量分析計に排出する。
【0055】
図5は、本発明のイオントラップ1の第1の実施形態の電圧供給の電気回路を詳細に示す。イオントラップ1は、長手方向Lに細長い電極2、3を有し、線形イオントラップまたは湾曲イオントラップとすることができる。長手方向Lに対して直角なイオントラップ1の断面が示されている。イオントラップは、排出電極2および3つのさらなる電極を備えている。排出電極2には、イオントラップ1に蓄積されたイオンを排出方向Eに排出可能である開口4がある。
【0056】
この図にはさらに、イオンが捕捉されているときの電極2、3へのRF電圧供給と、イオンが排出されているときのイオントラップの電極2、3へのDC電圧供給が示されている。
【0057】
通常、イオンが捕捉されると、2つの対立する位相のうちの少なくともRF電圧がイオントラップの4つの電極2、3に印加される。さらに、イオントラップの電極2、3のうちの少なくとも1つに小さなDC電圧を印加して、電位井戸(電源9からLO OFFSET電圧として供給される)による捕捉を高めることが可能である。
【0058】
RF発生器は、変圧器の一次巻線5が接続されているRF電源6として示されている。変圧器配置におけるこの一次巻線5は、2対の二次巻線34、35と結合されている。第1の対の二次巻線34は、2つの巻線7’を介して、排出電極2と反対側のイオントラップ1内に配置された下部のさらなる電極3および左のさらなる電極3に変圧されたRF電圧を供給している。第2の対の二次巻線35は、巻線7を介して、変圧されたRF電圧を排出電極2に供給し、巻線7’を介して、変圧されたRF電圧を上部のさらなる電極3に供給している。さらに、イオンがイオントラップに捕捉されると、低オフセットDC電圧が必要に応じてすべての電極2、3に印加される。この状況では、プルスイッチ26が開かれ(下部スイッチ位置)、プッシュ(オフセット)スイッチ27がオンに切り替えられ、低オフセット電圧(OFFSET_LO)を与える。
【0059】
イオントラップのコントローラ50が、イオンを排出するようにイオントラップ1の電圧供給を切り替える場合、この制御装置は、RFスイッチ36、プルスイッチ26、およびプッシュスイッチ27を切り替える。最初に、イオントラップのすべての電極2、3に供給されるRF電圧をオフに切り替えるように、RFスイッチ36が入れられる。次に、0~1000nsの極わずかな遅れで、開いたプルスイッチ26を介して、第2のDC電圧である高プッシュ電圧(OFFSET_HI)をさらなる電極3および排出電極2に与えるように、プッシュスイッチ27が入れられる。プッシュ電圧の値は、通常1,500~2,500V、好ましくは1,800V~2,200Vである。次に、0~1000nsの極わずかな遅れで、高プッシュ電圧に加えて、第1のDC電圧(PULL_DC)を排出電極2に与えるように、プルスイッチ26が入れられる(上部スイッチ位置)。このDC電圧供給により、イオントラップ1内のイオンは、排出電極の開口4を通して排出される。イオン排出については、図6でより詳細に説明する。
【0060】
図6は、本発明のイオントラップ1の第2の実施形態からのイオンの排出を示す。イオントラップは、長手方向Lに細長い電極2、3を有する。長手方向Lに対して直角なイオントラップの断面が示されている。イオントラップは、排出電極2および3つのさらなる電極3を備える。排出電極2には、イオントラップ1に蓄積されたイオンを排出方向Eに排出可能である開口4がある。この図にはさらに、イオンが排出されているときのイオントラップの電極へのDC電圧供給が示されている。排出されたイオンは、開口13を有する加速レンズ12に加速される。さらに、排出電極2の開口と加速レンズ12との間に配置された、開口11を有する集束レンズ10が示されている。排出電極2、集束レンズ10、および加速レンズ12は、排出方向Eに沿って配置され、排出されたイオンは、最初に排出電極2の開口4を通過し、次に集束レンズ10の開口11を通過し、最後に加速レンズ12の開口13を通過する。
【0061】
通常、例えば、図5に示すようにイオンが捕捉されると、少なくともRF電圧がイオントラップの4つの電極2、3に印加される。さらに、イオントラップの電極2、3のうちの少なくとも1つに小さなDC電圧を印加して、電位井戸による捕捉を高めることが可能である。
【0062】
捕捉されたイオンが排出されると、RF電圧と、存在すれば小さなDC電圧もオフに切り替えられる。次に、第2のDC電圧Vaccが、3つのさらなる電極3と、接地されている加速レンズ12とが接続されている第2のDC電源9を介して印加される。3つのさらなる電極3には、RF電圧を3つのさらなる電極3に供給する変圧器の二次巻線7’を介して第2のDC電源9が接続されている。印加される第2の電圧の通常の値は、2,000Vである。第2のDC電源9は、第1のDC電源8を介して排出電極2にも接続され、それにより第1のDC電圧Vejectが排出電極2に印加される。この第1のDC電圧Vejectは、第1のDC電源8によって、さらなる電極3と排出電極2との間に印加される。第1のDC電圧Vejectの通常の値は、300Vであり、負極性が排出電極2に印加される。これにより、接地に対して、排出電極2に1,700Vの電圧が印加される。これらの電圧がイオントラップの電極2、3に印加されると、正に帯電したイオンは、さらなる電極3に印加された電圧によって排出電極2の方向に追いやられ、排出電極2に印加された電圧によって排出電極2に引き寄せられる。正に帯電したイオンに対するこの効果は、さらなる電極3と排出電極2との電圧差によってもたらされるイオントラップ内の電界によって生じる。この電界は、特に排出電極2に向けられる改善された成分と、特に排出電極2の開口4に向けられる改善された成分とを有する。さらなる電極3に対して、異なる電圧を有する排出電極2のみを提供することは、先行技術よりも不均一な電界をもたらす。したがって、この電界の等電位の曲率によって、排出電極2の開口4を通るイオンのより強い集束が達成され得る。イオントラップの容積内の電界のこのような不均一性は、イオンを広い領域(破線の円)から狭い排出開口4に通過させ得る収束レンズを作り出す。このように、より多量のイオンが排出開口よりもかなり広い領域から抽出され得、その開口の周りの排出電極の汚染が低減され得るという利点がある。したがって、図に示すように、イオントラップ内のイオンのイオンビーム32が、排出電極2の開口4の中央に向けられている。少なくともほぼすべてのイオンが、開口4を通過し、接地された加速レンズ12によってさらに加速される。本発明のイオントラップ1では、イオンが、開口4の縁にぶつからないか、またはぶつかるのがイオンのごく一部のみというのが好ましい。これは、イオン排出の効率向上につながり、排出電極2のその開口4の縁における汚染を回避することができる。また、点線の円は、前述のようにDC電圧が印加されるとき、イオントラップ1からイオンが排出される領域を示す。図1と比べて、円の直径が大きいので、イオントラップ内のより広い領域のイオンが、本発明のイオントラップによって排出される。さらに、開口4を出るイオンビーム32が強く分岐していることが示されている。これを低減するために、集束レンズが排出電極2と加速レンズ12との間に位置付けられている。集束レンズ10には、加速レンズ12の開口13よりも大きく、かつ開口4よりも大きい直径を有する広い開口11がある。通常、800V~5,000Vの電圧Vlensが、第3のDC電圧供給40によって集束レンズ10に印加され、この電圧は、集束レンズ10と接地された加速レンズ12との間に印加される。図示の実施形態では、2,400Vの電圧Vlensが印加される。電圧Vlensが、1,500V~3,500Vであるのが好ましい。集束レンズへの電圧Vlensの印加により、排出されたイオンのコリニアイオンビーム32が形成され得る。
【0063】
図7は、図5に示す電圧供給の詳細な電気回路を示し、ここでは、RF電圧供給から、さらなるRF電圧をタップし、質量分析計のさらなる構成要素、この実施形態では輸送多極およびHCDセルにRF電圧を与える。質量分析計のさらに他の構成要素には、同じやり方でRF電圧を供給することができる。イオントラップの電極と他の構成要素との共通の電源には、RF源の個数を減らし、質量分析計の性能に影響を与えるイオントラップと他の構成要素との同期問題を回避するという利点がある。本発明の方法のプロセスのいくつかは、独立型であるか、接続されているか、またはクラウドシステム内にある1つ以上のコンピュータおよびプロセッサを使用して、またプロセスを実行するためのソフトウェアによって、サポートまたは実施され得る。
【0064】
本出願に記載の実施形態は、本発明のイオントラップおよび本発明の方法の例を表す。したがって、本発明は、それぞれの実施形態単独で、または上述の実施形態のいくつかもしくはすべての特徴の組み合わせによって、何の制限もなく実現され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7