(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】歯科材料用モノマー組成物、歯科材料用組成物及び歯科材料
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20220810BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20220810BHJP
A61K 6/20 20200101ALI20220810BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/60
A61K6/20
(21)【出願番号】P 2020563303
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050586
(87)【国際公開番号】W WO2020138071
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018247972
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田村 健範
(72)【発明者】
【氏名】小杉 洋子
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-506245(JP,A)
【文献】国際公開第2011/041677(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含む歯科材料用モノマー組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Xは酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つを含む炭素数1~200のn価の有機基であり、前記酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つがYと結合し、
前記Xが、下記一般式(X1)~下記一般式(X10)で表される基のいずれか1つであり、
前記Yは、下記一般式(A)で表される(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)、(メタ)アクリロイル基(Y2)、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基であり、ただし、一般式(1)で表される化合物中のすべてのYのうち、少なくとも1つ以上は前記(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であり、
複数存在する前記Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、
nは3以上の整数である。)
【化2】
(一般式(A)中、R
1aは水素原子又はメチル基を示し、R
1bは、炭素数2~6の2価の有機基であり、炭素数1~6のアルキル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基で置換されていてもよい。)
【化3】
(一般式(X1)~一般式(X10)中、*は結合位置を表す。一般式(X7)中、n
X7
は1~40の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物の分子量が350~2000である請求項1に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物中のすべての前記Yのうち、少なくとも2つ以上が前記(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)である請求項1又は請求項2に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項4】
前記一般式(A)中、前記R
1bが炭素数2~6の直鎖アルキレン基、又は炭素数2~6の直鎖オキシアルキレン基である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項5】
前記nが3~12の整数である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)中、前記少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)が、下記一般式(Y1a)~(Y1f)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【化4】
【請求項7】
前記一般式(1)で表される化合物として、下記化合物(1-1)~下記化合物(1-10)からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項8】
前記一般式(1)で表される化合物以外の(メタ)アクリレート化合物(2)をさらに含有する請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項9】
前記一般式(1)で表される化合物と前記(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量に対する前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、1.0質量%~40.0質量%である請求項
8に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリレート化合物(2)が、酸性基含有(メタ)アクリレート、酸性基を有しない単官能(メタ)アクリレート及び酸性基を有しない二官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の化合物である請求項
8又は請求項
9に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項11】
前記一般式(1)で表される化合物と前記(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量が、歯科材料用モノマー組成物全体に対して90質量%以上である請求項
8~請求項
10のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項12】
請求項1~請求項
11のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物、及び重合開始剤を含有する歯科材料用組成物。
【請求項13】
前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、歯科材料用組成物全体の質量に対して0.1質量%~20質量%である請求項
12に記載の歯科材料用組成物。
【請求項14】
歯科用接着性レジンセメント、歯科用コンポジットレジン、又は歯科用ボンディング材として用いられる請求項
12又は請求項
13に記載の歯科材料用組成物。
【請求項15】
請求項
12~請求項
14のいずれか1項に記載の歯科材料用組成物の硬化物である歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科材料用モノマー組成物、歯科材料用組成物及び歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の臨床現場において、歯牙修復に用いられるレジン系材料の使用範囲が拡大してきている。レジン系の歯科材料は、(メタ)アクリレート基を分子構造中に有するモノマーを含有する場合がある。上記のモノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)などの両末端に(メタ)アクリル基を有するジメタクリレートが代表的に挙げられる。
また、上記のモノマーとして、例えば特開2018-145133号公報において、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などが記載されている。
これらモノマーは、配合される組成物を用いて得られる歯科材料において要求される性質(例えば、接着性、強度などの機械的物性、取り扱いやすさなど)に応じて、使い分けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のモノマーの組合せのみでは、歯科材料に与える強度及び接着性の点において充分とはいえず、改善の余地があった。
【0004】
本開示は、上記問題に対処するものである。
即ち、本開示の一実施形態は、コンポジットレジン、レジンセメントなどの歯科用充填材としての用途においては硬化物に優れた曲げ強度を与え、ボンディング材などの歯科用接着材としての用途においては接着性が良好である歯科材料用モノマー組成物、歯科材料用組成物、及び歯科材料を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は以下の態様を含む。
<1>
下記一般式(1)で表される化合物を含む歯科材料用モノマー組成物。
【0006】
【0007】
(一般式(1)中、Xは酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つを含む炭素数1~200のn価の有機基であり、前記酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つがYと結合し、前記Yは、下記一般式(A)で表される(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)、(メタ)アクリロイル基(Y2)、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基であり、ただし、一般式(1)で表される化合物中のすべてのYのうち、少なくとも1つ以上は前記(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であり、複数存在する前記Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、nは3以上の整数である。)
【0008】
【0009】
(一般式(A)中、R1aは水素原子又はメチル基を示し、R1bは、炭素数2~6の2価の有機基であり、炭素数1~6のアルキル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基で置換されていてもよい。)
<2>
前記一般式(1)で表される化合物の分子量が350~2000である<1>に記載の歯科材料用モノマー組成物。
<3>
前記一般式(1)で表される化合物中のすべての前記Yのうち、少なくとも2つ以上が前記(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)である<1>又は<2>に記載の歯科材料用モノマー組成物。
<4>
前記一般式(A)中、前記R1bが炭素数2~6の直鎖アルキレン基、又は炭素数2~6の直鎖オキシアルキレン基である<1>~<3>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<5>
前記nが3~12の整数である<1>~<4>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<6>
前記Xが、下記一般式(X1)~下記一般式(X10)で表される基のいずれか1つである<1>~<5>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
【0010】
【0011】
(一般式(X1)~一般式(X10)中、*は結合位置を表す。一般式(X7)中、nX7は1~40の整数である。)
<7>
前記一般式(1)中、前記少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)が、下記一般式(Y1a)~(Y1f)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つを含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
【0012】
【0013】
<8>
前記一般式(1)で表される化合物として、下記化合物(1-1)~下記化合物(1-10)からなる群から選択される少なくとも1種を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
<9>
前記一般式(1)で表される化合物以外の(メタ)アクリレート化合物(2)をさらに含有する<1>~<8>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<10>
前記一般式(1)で表される化合物と前記(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量に対する前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、1.0質量%~40.0質量%である<9>に記載の歯科材料用モノマー組成物。
<11>
前記(メタ)アクリレート化合物(2)が、酸性基含有(メタ)アクリレート、酸性基を有しない単官能(メタ)アクリレート及び酸性基を有しない二官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の化合物である<9>又は<10>に記載の歯科材料用モノマー組成物。
<12>
前記一般式(1)で表される化合物と前記(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量が、歯科材料用モノマー組成物全体に対して90質量%以上である<9>~<11>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<13>
<1>~<12>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物、及び重合開始剤を含有する歯科材料用組成物。
<14>
前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、歯科材料用組成物全体の質量に対して0.1質量%~20質量%である<13>に記載の歯科材料用組成物。
<15>
歯科用接着性レジンセメント、歯科用コンポジットレジン、又は歯科用ボンディング材として用いられる<13>又は<14>に記載の歯科材料用組成物。
<16>
<13>~<15>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物の硬化物である歯科材料。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、コンポジットレジン、レジンセメントなどの歯科用充填材としての用途においては硬化物に優れた強度を与え、ボンディング材などの歯科用接着材としての用途においては接着性が良好である歯科材料用モノマー組成物、歯科材料用組成物、及び歯科材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0020】
[歯科材料用モノマー組成物]
本開示の歯科材料用モノマー組成物は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。
【0021】
【0022】
一般式(1)中、Xは酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つを含む炭素数1~200のn価の有機基であり、前記酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つがYと結合する。
【0023】
Yは、下記一般式(A)で表される(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)、(メタ)アクリロイル基(Y2)、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基であり、ただし、一般式(1)で表される化合物中のすべてのYのうち、少なくとも1つ以上は(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であり、複数存在するYはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、nは3以上の整数である。
【0024】
【0025】
一般式(A)中、R1aは水素原子又はメチル基を示し、R1bは、炭素数2~6の2価の有機基であり、炭素数1~6のアルキル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基で置換されていてもよい。
【0026】
本開示の歯科材料用モノマー組成物を用いることにより、コンポジットレジン、レジンセメントなどの歯科用充填材としての用途においては硬化物に優れた曲げ強度を与え、ボンディング材などの歯科用接着材としての用途においては接着性を向上させることができる。
【0027】
一般式(1)中、Xは、酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つを含む炭素数1~200のn価の有機基であるが、上記n価の有機基の炭素数としては、2~150であることが好ましく、3~30であることがより好ましい。
また、酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つを含む有機基としては、主鎖中に酸素原子が連続して存在する構造(例えば、「-O-O-」で表される構造)を有さないことが好ましく、酸素原子及び窒素原子以外の構造は炭化水素基であることが好ましい。
ここで、nは3以上の整数であるが、3~12の整数であることが好ましく、3~6の整数であることがより好ましく、3であることが特に好ましい。
【0028】
一般式(1)中、Xは下記一般式(X1)~下記一般式(X10)のいずれか1つであることが好ましく、下記一般式(X1)~下記一般式(X7)のいずれか1つで表されることがより好ましく、下記一般式(X1)~下記一般式(X5)のいずれか1つで表されることがさらに好ましく、下記一般式(X1)~下記一般式(X3)のいずれか1つで表されることがさらに好ましい。
ただし、下記一般式(X7)中、nX7は1~40の整数であるが、1~20の整数であることが好ましい。
【0029】
【0030】
一般式(X1)~一般式(X10)中、*は結合位置(Yとの結合位置)を表す。一般式(X7)中、nX7は1~40の整数である。
【0031】
一般式(1)中、各Yは、上記の一般式(A)で表される(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)、(メタ)アクリロイル基(Y2)、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基であり、一般式(1)で表される化合物中のすべてのYのうち、少なくとも1つが(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)である。
Yは、少なくとも2つ以上が(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であることが好ましく、少なくとも3つ以上が(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であることがより好ましく、すべてのYが(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であることがさらに好ましい。
また、Yが(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)以外の基又は水素原子を含む場合、水素原子を含むことが好ましい。例えば、すべてのYのうち1つが水素原子であり、残りのYが(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)であることが好ましい。
ここで、炭素数1~20の炭化水素基とは、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有する炭化水素基であってもよい。
【0032】
また、一般式(1)中、nは3以上の整数であるが、3~12の整数であることが好ましく、3~6の整数であることがより好ましく、3であることが特に好ましい。
【0033】
一般式(A)中、R1bは、炭素数2~6の2価の有機基であるが、炭素数2~6の直鎖アルキレン基、又は炭素数2~6の直鎖オキシアルキレン基であることが好ましく、炭素数2~4の直鎖アルキレン基、又は炭素数2~4の直鎖オキシアルキレン基であることがより好ましく、炭素数2~4の直鎖アルキレン基であることがさらに好ましい。
また、R1bは、炭素数1~6のアルキル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基で置換されていてもよく、無置換でもよい。
(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基におけるアルキレン基は、例えば炭素数1~12であってもよく、具体的には、(メタ)アクリロイルオキシメチレン基、(メタ)アクリロイルオキシエチレン基、(メタ)アクリロイルオキシプロピレン基等であってよい。
【0034】
(メタ)アクリロイル基含有基(Y1)が、下記一般式(Y1a)~(Y1f)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、下記一般式(Y1a)~(Y1d)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましく、下記一般式(Y1a)及び(Y1b)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つであることがさらに好ましい。
【0035】
【0036】
一般式(1)で表される化合物として、下記化合物(1-1)~下記化合物(1-10)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、特に、エナメル質に対する接着性が向上することから、下記化合物(1-1)で表される化合物がより好ましい。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、350~2000であることが好ましい。
これによって、得られる硬化物の曲げ強度をより向上させることができる。
上記の観点から、一般式(1)で表される化合物の分子量は、380~1500であることがより好ましく、400~700であることがさらに好ましい。
【0041】
本開示の歯科材料用モノマー組成物は、一般式(1)で表される化合物以外の(メタ)アクリレート化合物(2)をさらに含有することが好ましい。
【0042】
(メタ)アクリレート化合物(2)は、酸性基含有(メタ)アクリレート、酸性基を有しない単官能(メタ)アクリレート及び酸性基を有しない二官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の化合物であることが好ましい。
酸性基含有(メタ)アクリレートに含有される酸性基としては、例えば、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、リン酸基、チオリン酸基、ピロリン酸基、チオピロリン酸基、ホスホン酸基、チオホスホン酸基、スルホン酸基が挙げられる。なお、これらの酸性基は、酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の形態であってもよい。
カルボン酸基又はカルボン酸無水物基を有する酸性基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4-MET)及びその無水物等が挙げられる。
リン酸基を有する酸性基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)等が挙げられる。
酸性基を有しない単官能(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)2-イソシアナトエチルメタクリレート等が挙げられる。
酸性基を有しない二官能(メタ)アクリレートとしては、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0043】
一般式(1)で表される化合物と(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量が、歯科材料用モノマー組成物全体に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0044】
一般式(1)で表される化合物と前記(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量に対する前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、1.0質量%~40.0質量%であることが好ましく、3.0質量%~30.0質量%であることがより好ましい。
ただし、本開示の歯科材料用モノマー組成物をボンディング材、又はプライマーなどの前処理材として使用する場合は、一般式(1)で表される化合物と前記(メタ)アクリレート化合物(2)との合計含有量に対する前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、1.0質量%~95質量%であることが好ましく、3.0質量%~60質量%であることがより好ましい。
【0045】
[一般式(1)で表される化合物の製造方法]
一般式(1)で表される化合物は、後述する化合物(X)と後述する化合物(Y)の反応により得られることが好ましい。より具体的には、化合物(X)のヒドロキシ基、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの基と、化合物(Y)のイソシアネート基との反応により得られることが好ましい。
【0046】
一般式(1)で表される化合物の原料である化合物(X)として、ヒドロキシ基、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む化合物が挙げられる。具体的には、酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つを含む炭素数1~200の化合物であり、前記酸素原子及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つが水素原子と結合している化合物である。
【0047】
化合物(X)としては、上記一般式(X1)~上記一般式(X10)における結合位置*の少なくとも1つが、水素原子と結合している化合物が好ましい。また、一般式(X1)~上記一般式(X10)の結合位置*は、炭化水素基、(メタ)アクリロイル基等と結合していてもよい。
化合物(X)は、一般式(X1)~上記一般式(X10)のいずれかにおける2つ以上の結合位置*が、水素原子と結合している化合物であることが好ましく、3つの水素原子と結合している化合物であることがより好ましい。
【0048】
一般式(1)で表される化合物の原料である化合物(Y)として、イソシアネート基と(メタ)アクリロイルオキシ基とを含み、イソシアネート基と(メタ)アクリロイルオキシ基とが炭素数2~6の2価の有機基を介して結合した化合物が挙げられる。
【0049】
化合物(Y)としては、下記の一般式で表される化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
上記一般式中、R1a及びR1bは、前述の一般式(A)のR1a及びR1bと同様である。
【0052】
化合物(X)と化合物(Y)の反応は、無溶媒中で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば、公知の溶媒を用いることができ、例えば、n-ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒等の極性溶媒が挙げられる。
【0053】
化合物(X)と化合物(Y)を反応させる際には、反応速度向上の点から、触媒を添加してもよい。触媒としては、化合物(X)のヒドロキシ基、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの基と、化合物(Y)のイソシアネート基との反応を加速させる公知の触媒を使用できる。
【0054】
触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物などが挙げられる。
【0055】
触媒の使用量としては、化合物(X)と化合物(Y)の合計量に対して、0.001質量%~0.1質量%であってもよく、0.01質量%~0.1質量%であってもよい。
【0056】
反応温度は、特に制限されず、通常20℃~120℃、好ましくは30~100℃の範囲である。
【0057】
反応時間は、反応温度等の条件に依存するため特に限定されず、通常、数分から数10時間である。反応の終点の確認方法としては、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による分析等が挙げられる。
【0058】
化合物(X)と化合物(Y)の仕込み量として、モル比(X:Y)で1:1~1:12であることが好ましく、1:1~1:6であることがより好ましい。
【0059】
[歯科材料用組成物]
本開示の歯科材料用組成物は、本開示の歯科材料用モノマー組成物、及び重合開始剤、を含有する。この歯科材料用組成物は、化学重合性、熱重合性、又は光重合性を有し、例えば歯科修復材料として好ましく使用することができる。
【0060】
歯科材料用組成物中の一般式(1)で表される化合物の含有量は、歯科材料用組成物全体の質量に対して0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~10質量%であることがより好ましく、1.0質量%~8.0質量%がさらに好ましい。
ただし、ボンディング材等として用いる場合、一般式(1)で表される化合物の含有量は、歯科材料用組成物全体の質量に対して1.0質量%~80質量%であることが好ましく、3.0質量%~60質量%であることがより好ましく、5.0質量%~40質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
重合開始剤としては、歯科分野で用いられる一般的な重合開始剤を使用することができ、通常、歯科材料用組成物に含まれる一般式(1)で表される化合物等の重合性化合物の重合性と重合条件を考慮して選択される。
【0062】
化学重合を行う場合には、重合開始剤としては、例えば、酸化剤及び還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤が好ましい。レドックス系の重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された形態をとり、使用する直前に両者を混合すればよい。 重合開始剤としては、例えば、一般的に使用されている公知の重合開始剤であれば特に限定されず使用でき、通常、重合性化合物の重合性と重合条件を考慮して選択される。
【0063】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド、ジアシルパーオキシドなどの有機過酸化物/芳香族アミン系、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/銅塩系、有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤を用いることができる。また、重合開始剤として、トリブチルボランおよびその部分酸化物等のトリアルキルボランおよびその部分酸化物、5-ブチルバルビツール酸、5-ブチル-2-チオバルビツール酸系触媒等も好適に用いられる。
【0064】
加熱による熱重合を行う場合には、過酸化物、アゾ系化合物等の重合開始剤が好ましい。
過酸化物としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等が挙げられる。アゾ系化合物としては特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0065】
可視光線照射による光重合を行う場合には、カンファーキノン、アセチルベンゾイル等のα-ジケトン;ベンゾイルエチルエーテル等のベンゾイルアルキルエーテル;2-クロロチオキサントン、メチルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;ベンゾフェノン、p,p’-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類等の光重合触媒等が挙げられる。また、これら重合開始剤に加えて、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル安息香酸エチル等のアミン化合物、シトロネラール、ジメチルアミノベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール等のチオール基を有する化合物等の助触媒成分を併用することが好ましい。
【0066】
上記重合開始剤は一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。重合開始剤の配合量は、歯科材料用組成物100質量%に対して、0.01質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~5質量%がより好ましい。
【0067】
本開示の歯科材料用組成物は、フィラーを含んでもよい。フィラーは、歯科分野で用いられる一般的なフィラーであれば特に限定されず使用することができる。フィラーは、通常、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体等の微粉末が挙げられる。
【0068】
無機フィラーとしては、例えば、各種ガラス類(二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどの微粉末が挙げられる。
このような無機フィラーの具体例としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(ショット8235、ショットGM27884、ショットG018-053等)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(ショットG018-163等)、ランタンガラス(ショットGM31684等)、フルオロアルミノシリケートガラス(ショットG018-117等)、ジルコニウム、セシウム等を含むボロアルミノシリケートガラス(ショットG018-307等)が挙げられる。
【0069】
また、無機フィラーに重合性化合物を予め添加し、ペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いてもよい。
また、歯科材料用組成物において、粒径が0.1μm以下のミクロフィラーが配合された組成物は、歯科用コンポジットレジンに好適な態様の一つである。かかる粒径の小さなフィラーの材質としては、シリカ(例えば、商品名アエロジル)、アルミナ、ジルコニア、チタニア等が好ましい。このような粒径の小さい無機フィラーの配合は、コンポジットレジンの硬化物の研磨滑沢性を得る上で有利である。
【0070】
これらのフィラーは、目的に応じて、シランカップリング剤等の表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3~12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が使用される。
【0071】
これらのフィラーは一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。フィラーの配合量は、歯科材料用組成物(例えばコンポジットレジン組成物)の操作性(粘稠度)、その硬化物の曲げ強度等を考慮して適宜決定すればよく、歯科材料用組成物中に含まれるフィラー以外の全成分100質量部に対して、10質量部~2000質量部が好ましく、50質量部~1000質量部がより好ましく、100質量部~600質量部がさらに好ましい。
【0072】
本開示の歯科材料用組成物は、本開示のモノマー組成物、及び重合開始剤以外の成分を、目的に応じて適宜含んでもよい。本開示の歯科材料用組成物に含んでもよい成分は公知の成分であれば特に限定されないが、例えば、保存安定性を向上させるために重合禁止剤を含んでもよい。また、色調を調整するために、公知の顔料、染料等の色素を含んでいてもよい。さらに、硬化物の強度を向上させるために、公知のファイバー等の補強材を含んでもよい。また、本開示の歯科材料用組成物は、溶剤(アセトン、蒸留水等)、殺菌剤、消毒剤、安定化剤、保存剤などの添加剤を本開示の発明の効果を奏する限り必要に応じて含有してもよい。
【0073】
本開示の歯科材料用組成物は、前述の重合開始剤の重合方式にて適切な条件で硬化することができる。例えば、可視光照射による光重合開始剤を含有している本開示の歯科材料用組成物の場合は、歯科材料用組成物を所定の形状に加工したのち、公知の光照射装置を用いて所定の時間可視光を照射することにより、所望の硬化物を得ることができる。照射強度、照射強度等の条件は、歯科材料用組成物の硬化性に合わせて適切に変更することができる。また、可視光をはじめとした、光照射により硬化した硬化物を、さらに適切な条件で熱処理をすることにより、硬化物の曲げ強度を向上させてもよい。
【0074】
[歯科材料]
本開示の歯科材料は、本開示の歯科材料用組成物の硬化物である。歯科材料用組成物の硬化条件としては、歯科材料用組成物の組成、歯科材料の用途等に応じて適宜定めればよい。
【0075】
以上のようにして得られる本開示の歯科材料用組成物の硬化物は、歯科材料として好適に用いることができる。
本開示の歯科材料用組成物の使用方法は、歯科材料の使用法として一般に知られているものであれば、特に制限されない。例えば、本開示の歯科材料用組成物を齲蝕窩洞充填用コンポジットレジンとして使用する場合は、口腔内の窩洞に歯科材料用組成物を充填した後、公知の光照射装置を用いて光硬化させることにより、目的を達成できる。また、歯冠用コンポジットレジンとして使用する場合は、歯科材料用組成物を適切な形状に加工した後、公知の光照射装置を用いて光硬化させ、さらに所定の条件で熱処理を行うことで、所望の歯冠材料を得ることができる。
【0076】
本開示の歯科材料用組成物及び歯科材料は、例えば、義歯床用レジン、義歯床用裏装材、印象材、合着用材料(レジン添加型グラスアイオノマーセメント等)、歯科用接着材(歯科用接着性レジンセメント、歯牙裂溝封鎖材、歯科用ボンディング材、歯列矯正用接着材等)、CAD/CAM用レジンブロック(インレー、アンレー、クラウン、テンポラリークラウン等)、歯科修復充填材料(歯科用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン等)、硬質レジン、人工歯材料等として好ましく使用することができる。これらのうち、本開示の歯科材料用組成物及び歯科材料は、特に歯科用コンポジットレジン、歯科用接着性レジンセメント又は歯科用ボンディング材等に適している。
【実施例】
【0077】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例によって制限されるものではない。本開示の実施例にて使用した化合物の略号を以下に示す。
【0078】
[多官能グリセリン(メタ)アクリレート化合物(A)]
TMOIG:トリメタクリロイルオキシエチルカルボニルアミノグリセリン:以下の式(1-1)で表される化合物(公知のウレタン化反応の手法に従い、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI、昭和電工株式会社製)とグリセリン(シグマアルドリッチ社製)をモル比で1:3の割合で反応させて合成した化合物)
【0079】
【0080】
DMOIG:ジメタクリロイルオキシエチルカルボニルアミノグリセリン以下の式(1-2)で表される化合物及び下記(1-3)で表される化合物の混合物(公知のウレタン化反応の手法に従い、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI、昭和電工株式会社製)とグリセリン(シグマアルドリッチ社製)をモル比で1:2の割合で反応させて合成した化合物の混合物)
【0081】
【0082】
[重合性単量体(B)]
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(公知のウレタン化反応の手法に従い、2,2,4-トリメチルヘキシルジイソシアネート(TMHDI、東京化成工業株式会社)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、三菱ケミカル株式会社)をモル比で1:2の割合で反応させて合成した化合物)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社製)
【0083】
[酸性基含有重合性単量体(C)]
4-MET:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と1.2当量の蒸留水とを反応させて合成した化合物)
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0084】
[フィラー(D)]
R812:微粒子シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名「エアロジルR812」)
8235:シラン処理バリウムガラス粉(SCHOTT社製、商品名「8235」、粒径0.7μm、γ-MPTSをフィラー質量に対して6%で処理したもの)
GM27884:シラン処理バリウムガラス粉(SCHOTT社製、商品名「GM27884」、粒径1.5μm、γ-MPTSをフィラー質量に対して1.6%で処理したもの)
【0085】
[溶剤(E)]
Acetone:アセトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
蒸留水:蒸留水製造装置(東京理化器械株式会社製)により製造したもの
【0086】
[光重合開始剤(F)]
CQ:d,l-カンファーキノン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
DMABAE:N,N-ジメチル安息香酸エチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0087】
[その他の成分:重合禁止剤]
BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(東京化成工業株式会社製)
MEHQ:4-メトキシフェノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0088】
〔実施例1~8及び比較例1~4〕
<歯科材料用組成物の調製>
後述する表1に記載のとおりに各成分を混合し、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1の歯科用コンポジットレジンとして使用される歯科材料用組成物を調製した。後述する表2に記載のとおりに各成分を混合し、実施例4、実施例5、比較例2の歯科用ボンディング材として使用される歯科材料用組成物を調製した。後述する表3、表4に記載のとおりに各成分を混合し、実施例6、実施例7、実施例8、比較例3、比較例4の歯科用自己接着性レジンセメントとして使用される歯科材料用組成物を調製した。
【0089】
<歯科用組成物の三点曲げ強度測定法:実施例1~3、6~8、比較例1、3、4>
20~25℃に設定した室温下、歯科用練和紙上に採取した実施例1、実施例2、実施例3、実施例6、実施例7、実施例8、比較例1、比較例3、比較例4の歯科材料用組成物を2mm×2mm×25mmの試験体作用の型に充填し、裏表両面からルミラーフィルムで圧接した。歯科材料用組成物を充填した型を技工用LED照射器(アルファライトV、株式会社モリタ製)に設置し、裏表3分ずつ光照射して得られた硬化体を試験体とした。
各々の試験体を型から外して蒸留水に浸漬して、37±1℃の恒温器中で18時間保管後、試験体を取り出し、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製)を用いて三点曲げ試験を実施した。前記試験はクロスヘッドスピード1mm/minの荷重速度で試験体が破折するまで荷重を加えて実施し、得られた最大点応力より硬化体の強度を算出した。また、その際弾性率も併せて算出した。その結果を後述する表1に示す。
【0090】
【0091】
表1に示すように、歯科用コンポジットレジンとしての用途において、TMOIGを含む実施例1、実施例2、実施例3の歯科材料用組成物が、TMOIGを含まない比較例1より機械的物性(3点曲げ強度、及び弾性率)が優れていた。
なお、表中の「-」は、該当成分を含んでいないことを示す。また、表中の「SD」は、標準偏差を意味する。以下の表の記載についても同様である。
【0092】
<接着強さ評価方法>
牛歯被着体は、抜去した後、冷凍保存した牛下顎前歯を注水下解凍し、歯根切断、抜髄処理した。これを直径25mm、深さ25mmのプラスチック製円筒容器に設置し、アクリル樹脂中に包埋した。牛歯被着体は、使用直前に耐水エメリー紙(P400)にて研磨し、エナメル質及び象牙質の平滑面を削り出して使用した。
接着強さは、牛歯エナメル質あるいは象牙質面に平行、かつ表面に接して1.0mm/分のクロスヘッド速度で剪断負荷を掛け、牛歯表面に柱状に形成させた硬化物が表面から分離する時の剪断負荷より求めた。
各歯科材料用組成物の処理方法を以下に示す。
【0093】
<歯科用ボンディング材の接着強さ評価方法:実施例4、5、比較例2>
被着面に圧縮空気を約1秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質あるいは象牙質の平面に実施例4、実施例5、比較例2の歯科材料用組成物を塗布し、20秒後にそれぞれの歯科材料用組成物に含まれる揮発性の溶剤を歯科用エアーシリンジにて乾燥させた。その後、それぞれの歯科材料用組成物にLED可視光線照射器(トランスルクス 2ウェーブ)を用いて20秒間光照射して硬化させた後、直径2.38mmのプラスチック製モールド(ウルトラデントジャパン株式会社製)を設置し、光重合性材料(クリアフィル エーピーエックス、クラレノリタケデンタル株式会社製)を充填して同じLED可視光線照射器を用いて20秒間光照射して硬化させた。その後、水中浸漬して37℃の恒温機中で18時間保管後に接着強度を測定した。その結果を後述する表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示すように、歯科用ボンティング材としての用途において、TMOIGを含む実施例4、実施例5の歯科材料用組成物が、TMOIGを含まない比較例2と比べて歯質接着性に優れていた。
【0096】
<歯科用自己接着性レジンセメントの接着強さ評価方法:実施例6~8、比較例3、4>
牛歯エナメル質あるいは象牙質の被着面に圧縮空気を約1秒間吹き付けて乾燥した。次に、実施例6~8、比較例3、4の歯科材料用組成物を別途あらかじめ調製しておいた光硬化性組成物(クリアフィル エーピーエックス、クラレノリタケデンタル株式会社製)の円筒柱硬化物(φ2.3mm×高さ2.2mm)の被着面に塗布して、牛歯被着面に設置し、専用冶具を使用して5Nの力で圧接した。その後、それぞれの歯科材料用組成物の余剰分を除去して、LED可視光線照射器(トランスルクス 2ウェーブ、クルツァー・ジャパン株式会社製)を用いて4方向から10秒間ずつ光照射して硬化させた後、水中浸漬して37℃の恒温機中で18時間保管後に接着強度を測定した。
酸性基含有重合性単量体(C)として、MDPと4-METを使用した例(実施例6、7、比較例3)を表3に示し、酸性基含有重合性単量体(C)として、MDPのみを使用した例(実施例8、比較例4)を表4に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
表3、表4に示すように、歯科用自己接着性レジンセメントとしての用途において、TMOIG又はDMOIGを含む実施例6~8の歯科材料用組成物が、TMOIG及びDMOIGを含まない比較例3又は比較例4より曲げ強度が優れていた。さらに、実施例6~8の歯科材料用組成物の歯質接着性が、比較例3又は比較例4と比較して優れていた。特に、TMOIGを含む実施例6、8の歯科材料用組成物は、曲げ強度が優れていることがわかった。
【0100】
このことから、歯科材料用組成物がTMOIG又はDMOIGを含むことで、その硬化物に優れた曲げ強度を与えることがわかった。さらに、歯科材料用組成物がTMOIG又はDMOIGを含むことで、良好な歯質接着性を得ることができることがわかった。
【0101】
2018年12月28日に出願された日本国特許出願2018-247972号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。