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特許7121837繊維強化樹脂シートおよびその製造方法、繊維強化樹脂シートの積層体、並びに繊維強化樹脂成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シートおよびその製造方法、繊維強化樹脂シートの積層体、並びに繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20220810BHJP
   B29C 70/20 20060101ALI20220810BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20220810BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20220810BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20220810BHJP
【FI】
B29B11/16
B29C70/20
B29C70/42
B32B5/28 A
B29K101:12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021110875
(22)【出願日】2021-07-02
(62)【分割の表示】P 2021521314の分割
【原出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2021151797
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2019192111
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】中野 結
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 保飛
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/055932(WO,A1)
【文献】特開平02-115236(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022835(WO,A1)
【文献】特開平01-289837(JP,A)
【文献】特開2014-169411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性のシート状のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂の両面に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを備え、かつ厚み方向に貫通する所定パターンの切込みが形成された繊維強化樹脂シートであって、
前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込みは、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを有し、
前記複数の縦カットラインは、前記縦基準線上に形成された複数のカット中断部を介して互いに分断されており、
一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記縦カットラインは、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように形成される、ことを特徴とする繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂シートが複数積層された積層体であって、
複数の前記繊維強化樹脂シートは、前記繊維方向が互い違いになる状態で積層されかつ互いに熱融着されている、ことを特徴とする繊維強化樹脂シートの積層体。
【請求項3】
同一方向に配向された多数の強化繊維を含む繊維強化樹脂シートを製造する方法であって、
熱可塑性の樹脂シートの両面に開繊後の前記強化繊維を供給しつつ当該樹脂シートの両面を加熱することにより、同一方向に配向された前記強化繊維を前記樹脂シートの両面に含浸させる含浸工程と、
前記強化繊維が含浸された前記樹脂シートに当該樹脂シートを貫通する所定パターンの切込みを形成する切込み形成工程とを含み、
前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込み形成工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成し、
一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記切込み形成工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する、ことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
同一方向に配向された多数の強化繊維を含む繊維強化樹脂シートを製造する方法であって、
熱可塑性の樹脂シートの両面または片面に開繊後の前記強化繊維を供給しつつ当該樹脂シートを両側から加熱ローラで挟み込むことにより、同一方向に配向された前記強化繊維を前記樹脂シートの両面または片面に含浸させる含浸工程と、
前記強化繊維が含浸された前記樹脂シートに当該樹脂シートを貫通する所定パターンの切込みを形成する切込み形成工程とを含み、
前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込み形成工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成し、
一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記切込み形成工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する、ことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
熱可塑性のシート状のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂の両面に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを含むシート状の基材を複数用意する第1の工程と、
用意された複数の前記基材に当該基材を貫通する所定パターンの切込みを形成する第2の工程と、
前記切込みが形成された複数の前記基材を、各基材に含有された前記強化繊維の配向方向である繊維方向が互い違いになる状態で積み重ねるとともに、積み重ねた当該基材をプレス加工により所望の形状に成形する第3の工程とを含み、
前記繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記第2の工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成し、
一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記第2の工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する、ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性のシート状のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂の両面または片面に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを含むシート状の基材を複数用意する第1の工程と、
用意された複数の前記基材に当該基材を貫通する所定パターンの切込みを形成する第2の工程と、
前記切込みが形成された複数の前記基材を、各基材に含有された前記強化繊維の配向方向である繊維方向が互い違いになる状態で積み重ねるとともに、積み重ねた当該基材をプレス加工により所望の形状に成形する第3の工程とを含み、
前記第1の工程では、熱可塑性の樹脂シートの両面または片面に開繊後の前記強化繊維を供給しつつ当該樹脂シートを加熱ローラで両側から挟み込むことにより、前記強化繊維を前記マトリックス樹脂の両面または片面に含浸させ、
前記繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記第2の工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成し、
一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記第2の工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する、ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス樹脂と強化繊維とを含むシート状の基材(繊維強化樹脂シート)から繊維強化樹脂成形品を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂成形品を製造する方法として、下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1の製造方法は、一方向に引き揃えられた強化繊維をマトリックス樹脂に含浸させた基材(プリプレグ基材)を用意する工程と、用意した基材の全面に強化繊維を横切る断続的な切込みを形成する工程と、当該切込みを有する基材をその繊維方向(強化繊維の配向方向)が互い違いになるように積み重ねる工程と、積み重ねた基材(積層基材)を加熱型プレス成形機により所望の形状に成形する工程とを含む。
【0003】
上記特許文献1において、基材に形成される切込みは、その全てが強化繊維を横切る(切断する)方向に設定される。これは、強化繊維の繊維長を短くすることでプレス加工時の樹脂の流動を促進させ、成形品の形状自由度を向上させるためである。
【0004】
しかしながら、本願発明者の研究によれば、上記のように全ての切込みを強化繊維を横切るように形成しても、必ずしも十分な形状自由度が得られないことが分かった。もちろん、切込みの数を増やして繊維長をより短くすれば形状自由度は向上するが、それでは強化繊維による補強効果が減損されて、成形品の強度が大幅に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-207544号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、強化繊維による良好な補強効果を享受しながら成形品の形状自由度を高めることが可能な繊維強化樹脂成形品を製造することを目的とする。
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る繊維強化樹脂シートは、熱可塑性のシート状のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂の両面に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを備え、かつ厚み方向に貫通する所定パターンの切込みが形成されたものである。前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込みは、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを有する。前記複数の縦カットラインは、前記縦基準線上に形成された複数のカット中断部を介して互いに分断されている。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記縦カットラインは、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように形成される。
【0008】
本発明の他の局面に係る繊維強化樹脂シートの積層体は、上述した繊維強化樹脂シートが複数積層されたものである。複数の前記繊維強化樹脂シートは、前記繊維方向が互い違いになる状態で積層されかつ互いに熱融着されている。
【0009】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、同一方向に配向された多数の強化繊維を含む繊維強化樹脂シートを製造する方法であって、熱可塑性の樹脂シートの両面に開繊後の前記強化繊維を供給しつつ当該樹脂シートの両面を加熱することにより、同一方向に配向された前記強化繊維を前記樹脂シートの両面に含浸させる含浸工程と、前記強化繊維が含浸された前記樹脂シートに当該樹脂シートを貫通する所定パターンの切込みを形成する切込み形成工程とを含む。前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込み形成工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成する。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記切込み形成工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する。
【0010】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、同一方向に配向された多数の強化繊維を含む繊維強化樹脂シートを製造する方法であって、熱可塑性の樹脂シートの両面または片面に開繊後の前記強化繊維を供給しつつ当該樹脂シートを両側から加熱ローラで挟み込むことにより、同一方向に配向された前記強化繊維を前記樹脂シートの両面または片面に含浸させる含浸工程と、前記強化繊維が含浸された前記樹脂シートに当該樹脂シートを貫通する所定パターンの切込みを形成する切込み形成工程とを含む。前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込み形成工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成する。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記切込み形成工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する。
【0011】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法は、熱可塑性のシート状のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂の両面に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを含むシート状の基材を複数用意する第1の工程と、用意された複数の前記基材に当該基材を貫通する所定パターンの切込みを形成する第2の工程と、前記切込みが形成された複数の前記基材を、各基材に含有された前記強化繊維の配向方向である繊維方向が互い違いになる状態で積み重ねるとともに、積み重ねた当該基材をプレス加工により所望の形状に成形する第3の工程とを含む。前記繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記第2の工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成する。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記第2の工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する。
【0012】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法は、熱可塑性のシート状のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂の両面または片面に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを含むシート状の基材を複数用意する第1の工程と、用意された複数の前記基材に当該基材を貫通する所定パターンの切込みを形成する第2の工程と、前記切込みが形成された複数の前記基材を、各基材に含有された前記強化繊維の配向方向である繊維方向が互い違いになる状態で積み重ねるとともに、積み重ねた当該基材をプレス加工により所望の形状に成形する第3の工程とを含む。前記第1の工程では、熱可塑性の樹脂シートの両面または片面に開繊後の前記強化繊維を供給しつつ当該樹脂シートを加熱ローラで両側から挟み込むことにより、前記強化繊維を前記マトリックス樹脂の両面または片面に含浸させる。前記繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記第2の工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成する。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記第2の工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する。
【0013】
本発明によれば、強化繊維による成形品の補強効果を享受しながら成形品の形状自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法の概略手順を示すフローチャートである。
図2】UDシートを作製するシート製造装置の概略構成を示す図である。
図3】UDシートから切り出された基材シートを示す斜視図である。
図4】基材シートに形成される切込みの具体的パターンを示す平面図である。
図5図4の一部拡大図である。
図6】熱プレス機の構成および当該熱プレス機を用いたプレス加工の手順を説明するための断面図である。
図7】基材シートの積み重ね方法を説明するための斜視図である。
図8】本発明の第2実施形態を説明するための図であり、基材シートに形成される切込みの具体的パターンを示す平面図である。
図9図8の一部拡大図である。
図10】実験用に成形した成形品の形状を示す斜視図である。
図11】本発明の第3実施形態において基材シートを積み重ねる方法を示す斜視図である。
図12図11に対応する平面図である。
図13】基材シートの切込みパターンを変えた変形例(その1)を示す平面図である。
図14】基材シートの切込みパターンを変えた変形例(その2)を示す平面図である。
図15】基材シートの切込みパターンを変えた変形例(その3)を示す平面図である。
図16】基材シートの切込みパターンを変えた変形例(その4)を示す平面図である。
図17】基材シートの切込みパターンを変えた変形例(その5)を示す平面図である。
図18】比較例1における基材シートの切込みパターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法について説明する。本実施形態において、繊維強化樹脂成形品は、強化繊維が含有された合成樹脂製の成形品(複合成形品)であり、図1に示す各工程(S1~S4)により製造される。すなわち、本実施形態における繊維強化樹脂成形品の製造方法は、UDシートを作製する工程S1と、UDシートから所定サイズの基材シートを複数切り出す工程S2と、各基材シートに所定パターンの切込みを形成する工程S3と、複数の基材シートを積み重ねて熱プレス加工を施す工程S4とを含む。各工程の詳細は次のとおりである。
【0016】
(1)UDシートの作製
工程S1は、図2に示すUDシート7を作製する工程(シート作製工程)である。このシート作製工程S1により作製されるUDシート7は、熱可塑性樹脂製の樹脂シートR0に強化繊維Fが含浸された繊維強化樹脂シート(FRTPシート)である。なお、シート作製工程S1は、本発明における「含浸工程」に相当する。
【0017】
強化繊維Fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維等を用いることができる。中でも炭素繊維は、成形品の強度および耐食性等を向上させる上で有利である。炭素繊維としては、強度が特に高いPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0018】
樹脂シートR0の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロンMXD6、ナイロン9T、ナイロン11、ナイロン12等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニルスルホン、アクリル樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、液晶ポリマー等を用いることができる。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合したポリマーアロイを樹脂シートR0の材料として用いてもよい。
【0019】
UDシート7は、例えば図2に示されるシート製造装置1を用いて連続的に製造することができる。このシート製造装置1は、強化繊維の束である繊維束F0および熱可塑性の樹脂シートR0から、UDシート7を連続的に製造する装置である。
【0020】
具体的に、シート製造装置1は、上下に並ぶ複数対(図2では2対)の加熱ローラ2と、加熱ローラ2の下側において上下に並ぶ複数対(図2では2対)の冷却ローラ3と、加熱ローラ2と冷却ローラ3との間に掛け回された一対の無端ベルト4と、無端ベルト4の下側に位置する一対の引き出しローラ5と、引き出しローラ5の下側に配置された巻き取り用のボビン6とを備えている。
【0021】
最上段の加熱ローラ2の近傍には、繊維束F0を開繊して帯状に広げる開繊機構(図示省略)が設けられている。この開繊機構は、繊維束F0を連続的に開繊することにより、多数の連続した強化繊維Fを薄い帯状に広げつつ形成することが可能である。開繊機構としては、このような処理が可能な機構であればよく、繊維束を叩いて広げる機構、繊維束に風を当てて広げる機構、繊維束に超音波を当てて広げる機構など、種々の機構を用いることができる。
【0022】
図2の例において、上記開繊機構は、樹脂シートR0の一方の面に開繊後の強化繊維Fを供給する機構と、樹脂シートR0の他方の面に開繊後の強化繊維Fを供給する機構とを有する。前者の機構は、樹脂シートR0の一方の面と当該面と接する加熱ローラ2との間に強化繊維Fを導入するように設けられ、後者の機構は、樹脂シートR0の他方の面と当該面と接する加熱ローラ2との間に強化繊維Fを導入するように設けられる。ただし、開繊機構は、樹脂シートR0の一方の面のみに強化繊維Fを供給するものであってもよい。
【0023】
加熱ローラ2は、電気ヒータもしくは加熱媒体等により加熱された高温のローラである。加熱ローラ2は、樹脂シートR0およびその両面に導入された強化繊維Fを無端ベルト4を介して両側から挟み込みつつ加熱することにより、強化繊維Fを樹脂シートR0に連続的に含浸させる。強化繊維Fは、一方向(図2の上下方向)に引き揃えられた状態で樹脂シートR0に含浸される。
【0024】
冷却ローラ3は、冷却媒体等により冷却された低温のローラである。冷却ローラ3は、強化繊維Fが含浸された状態の樹脂シートR0を無端ベルト4を介して両側から挟み込みながら冷却することにより、強化繊維Fを樹脂シートR0に固定する。これにより、樹脂シートR0と強化繊維Fとが一体化されたUDシート7が成形される。
【0025】
引き出しローラ5は、成形されたUDシート7に張力を付与しつつこれを下方へ引き出すローラである。
【0026】
巻き取り用のボビン6は、UDシート7を巻き取るための芯材である。ボビン6は、モータ等の駆動源により回転駆動され、引き出しローラ5により引き出されたUDシート7を順次巻き取ることにより、UDシート7をロール状に纏める。
【0027】
(2)基材シートの切り出し
以上のようにしてUDシート7の作製が完了すると、次の工程S2において、UDシート7から図3に示す基材シート10を切り出す(切り出し工程)。具体的に、この切り出し工程S2では、UDシート7から複数枚の矩形状の基材シート10を切り出す。なお、この切り出し工程S2および上述したシート作製工程S1は、本発明における「第1の工程」に相当する。また、基材シート10は、本発明における「基材」もしくは「繊維強化樹脂シート」に相当する。
【0028】
各基材シート10は、マトリックス樹脂Rとこれに含浸された多数の強化繊維Fとを有する。マトリックス樹脂Rは、上述した樹脂シートR0(図2)に由来する熱可塑性の樹脂である。強化繊維Fは、同一方向に配向された状態でマトリックス樹脂Rに含浸されている。
【0029】
図3において符号Xを付した矢印は、基材シート10中の強化繊維Fの配向方向と平行な方向であり、以下ではこれを繊維方向Xという。また、図3において符号Yを付した矢印は、繊維方向Xと直交する方向であり、以下ではこれを繊維直交方向Yという。図3に示すように、基材シート10は、繊維方向Xに平行な(繊維直交方向Yに対向する)2辺と、繊維直交方向Yに平行な(繊維方向Xに対向する)2辺とを有する矩形状に形成されている。
【0030】
(3)切込みの形成
以上のようにして複数枚の基材シート10の形成が完了すると、次の工程S3において、各基材シート10に図4に示すような所定パターンの切込み11を形成する(切込み形成工程)。この切込み形成工程S3は、本発明における「第2の工程」に相当する。
【0031】
切込み形成工程S3における切込み11の形成は、例えばレーザー光を利用したレーザーカッターを用いて行うことができる。ただし、切込み11を形成する方法はレーザーカッターを用いたものに限られず、例えば切込み11のパターンに対応する型刃(トムソン刃もしくはエッチング刃)を用いて切込み11を形成したり、ロータリーカッターを用いて切込み11を形成することも可能である。
【0032】
図4の例において、切込み11は、繊維方向Xと平行な複数の縦カットライン12と、繊維直交方向Yと平行な複数の横カットライン13とを有する。縦カットライン12および横カットライン13は、それぞれ基材シート10を厚み方向に貫通する直線状のスリットである。なお、図4では、各カットライン12,13を明示するために、基材シート10に含有される強化繊維Fの図示は省略している。
【0033】
図4に示すように、基材シート10上において繊維方向Xと平行に延びかつ繊維直交方向Yに一定のピッチPy1で並ぶ複数の基準線を縦基準線Lとすると、複数の縦カットライン12は、いずれも縦基準線L上に形成されている。各縦基準線L上では、複数の縦カットライン12が互いに一定の間隔をあけるように断続的に形成されており、縦カットライン12どうしの間にはカットラインの非形成部であるカット中断部Qが形成されている。言い換えると、各縦基準線L上には、複数の縦カットライン12と複数のカット中断部Qとが交互に直線状に並ぶように形成されている。縦カットライン12の長さは全て同一である。
【0034】
基材シート10上において繊維直交方向Yと平行に延びかつ繊維方向Xに一定のピッチPx1で並ぶ複数の基準線を横基準線Hとすると、複数の横カットライン13は、いずれも横基準線H上に形成されている。各横カットライン13は、基材シート10における繊維直交方向Yの一方側の端部から他方側の端部まで連続して延びるように形成されている。より詳しくは、各横カットライン13は、基材シート10のうちその外形線(繊維直交方向Yに対向する2辺)の近傍を除く大部分の範囲において、繊維直交方向Yに沿って直線的に延びるように形成されている。なお、外形線の近傍に横カットライン13を形成しないのは、基材シート10が横カットライン13によって完全に切断されるのを避けるためである。
【0035】
カット中断部Qは、任意の横カットライン13に沿って千鳥状に配置されている。具体的に、カット中断部Qは、任意の横カットライン13に沿って、当該横カットライン13の繊維方向Xの一方側と他方側とに交互に現れるように形成されている。
【0036】
上記カット中断部Qの千鳥配置は、次のように言い換えることができる。すなわち、任意に選んだ一対の隣接する縦基準線Lのうちの一方を第1縦基準線L1、他方を第2縦基準線L2としたとき、カット中断部Qは、第1縦基準線L1上のカット中断部Qと第2縦基準線L2上のカット中断部Qとが繊維方向Xに関し互いにずれるように形成されている。
【0037】
上記のようなカット中断部Qの千鳥配置をより詳しく説明するため、図4における領域Z1(一点鎖線で囲んだ領域)に現れる切込みパターンを取り上げる。図5は、この領域Z1の切込みパターンを拡大して示す図である。領域Z1は、上述した第1縦基準線L1および第2縦基準線L2と、一対の隣接する横基準線Hのうちの一方である第1横基準線H1と、そのうちの他方である第2横基準線H2とが交差する領域を含む。以下の説明では、領域Z1に含まれる一対の横カットライン13、つまり第1・第2横基準線H1,H2上の横カットライン13のうちの一方を第1横カットライン13A、他方を第2横カットライン13Bとする。また、領域Z1に含まれる一対の縦カットライン12、つまり第1横カットライン13Aと第2横カットライン13Bとの間に位置する第1・第2縦基準線L1,L2上の縦カットライン12のうちの一方を第1縦カットライン12A、他方を第2縦カットライン12Bとする。
【0038】
図4および図5に示すように、第1縦カットライン12Aは第2横カットライン13Bとのみ交差し、第2縦カットライン12Bは第1横カットライン13Aとのみ交差する。言い換えると、第1縦カットライン12Aは、第1横カットライン13Aに対しカット中断部Qを介して分断されかつ第2横カットライン13Bに連なる(交差する)ように形成されている。これに対し、第2縦カットライン12Bは、第2横カットライン13Bに対しカット中断部Qを介して分断されかつ第1横カットライン13Aに連なる(交差する)ように形成されている。これにより、カット中断部Qは、その繊維方向X上の位置が第1横カットライン13Aの隣接部と第2横カットライン13Bの隣接部との間で交互に入れ替わるように配置される。
【0039】
基材シート10には、上記のような領域Z1内での切込みパターンが当該領域Z1以外の領域にも繰り返し現れるように、縦横の各カットライン12,13(切込み11)が形成されている。これにより、上述したカット中断部Qの千鳥配置が基材シート10の全体に亘って実現されている。
【0040】
(4)プレス加工
以上のようにして切込み11の形成が完了すると、次の工程S4において、図6に示す熱プレス機20を用いて基材シート10から繊維強化樹脂成形品を成形する(プレス工程)。なお、このプレス工程S4は、本発明における「第3の工程」に相当する。
【0041】
プレス工程S4ではまず、図6(a)に示すように、複数枚の基材シート10を厚み方向に積み重ね、熱プレス機20の型内に配置する。基材シート10は、いずれも上述した切込み形成工程S3を経て得られた基材シートであり、図4に示した切込み11を有している。なお、上記のように複数枚の基材シート10を熱プレス機20の型内に配置する際には、各基材シート10の端部(周縁)を事前に切り落としておくことが好ましい。このような端部の切り落としは、後述する本加工時に強化繊維Fの動きを円滑化し、賦形性を向上させる。
【0042】
図7は、複数枚の基材シート10を積み重ねる様子を示している。本図に示されるように、複数枚の基材シート10は、各基材シート10に含有された強化繊維Fの配向方向(繊維方向X)が互い違いになるように積み重ねられる。
【0043】
図7の例において、基材シート10は、1層目、2層目、3層目‥‥の順に繊維方向Xが90度ずつずれるように、言い換えるとn層目の基材シート10の繊維方向Xとn+1層目の基材シート10の繊維方向Xとが平面視で直交するように積み重ねられる。ただし、基材シート10を積み重ねる際には、基材シート10の繊維方向Xが全て同一方向に揃うことがないように基材シート10の向きを変えればよく、図7に示した例以外にも種々の積み重ね方法を採用することが可能である。例えば、1層目、2層目、3層目‥‥の順に繊維方向Xが45度ずつずれるように(言い換えると繊維方向Xが0°、45°、90°、135°の間で順に変化するように)基材シート10を積み重ねてもよい。
【0044】
図6に示すように、熱プレス機20は、パンチ21およびダイ22を備える。本実施形態において、ダイ22は、基材シート10を受け入れ可能な凹部22aを有する金型(雌型)であり、パンチ21は、ベース部21aと当該ベース部21aの下面に突設された挿入部21bとを有する金型(雄型)である。図7のように繊維方向Xが互い違いになるように積み重ねられた基材シート10は、ダイ22の凹部22a内に配置される。ダイ22には、凹部22a内の基材シート10を高温に加熱するためのヒータ(図示省略)が取り付けられている。
【0045】
上記のように熱プレス機20(ダイ22)への基材シート10のセットが完了すると、次に、基材シート10を加熱しつつダイ22にパンチ21を押し込む本加工(型締め)を行う。すなわち、上記ヒータによるダイ22の加熱を通じて基材シート10を所定の温度まで上昇させるとともに、パンチ21の挿入部21bをダイ22の凹部22aに挿入した状態で図外の加圧装置によりパンチ21を下方に押圧し、基材シート10を加圧する(図6(b)参照)。この基材シート10への加熱および加圧は、基材シート10を軟化および変形させる。
【0046】
図6(c)は、パンチ21がストロークエンドまで押し付けられた状態を示している。この状態でパンチ21とダイ22との間に区画される空間(つまり成形キャビティ)は、変形した基材シート10によって満たされる。すなわち、成形キャビティに対応した形状に基材シート10が変形することにより、繊維強化樹脂製の成形品30(繊維強化樹脂成形品)が得られる。成形品30は、所定の冷却期間をおいた後、パンチ21をダイ22から抜き出した状態でダイ22から取り出される。
【0047】
(5)作用効果
以上説明したように、本発明の第1実施形態では、UDシート7から切り出された複数枚の基材シート10にそれぞれ所定パターンの切込み11が形成されるとともに、当該切込み11を有する複数枚の基材シート10がその繊維方向X(強化繊維Fの配向方向)が互い違いになるように積み重ねられた状態で熱プレス機20によりプレス加工される。切込み11は、繊維方向Xに沿う複数の縦カットライン12と、繊維直交方向Yに沿う複数の横カットライン13とを有する。縦カットライン12は、横カットライン13に沿って千鳥状に(繊維方向X上の位置が互いに異なるように)配置されるカット中断部Qによって繊維方向Xに分断される。このような構成によれば、強化繊維Fによる補強効果を享受しながら成形品の形状自由度を高めることができるという利点がある。
【0048】
すなわち、上記第1実施形態では、繊維方向Xが互い違いになるように積み重ねられた複数枚の基材シート10がプレス加工されるので、加工後の成形品に含有される強化繊維Fの方向が一律に定まらず、成形品の機械的性質に疑似等方性が付与される結果、強化繊維Fによる好ましい補強効果を得ることができる。
【0049】
また、プレス加工の前に、繊維方向Xに延びる縦カットライン12と繊維直交方向Yに延びる横カットライン13とを含む切込み11が基材シート10に形成されるので、プレス加工時の樹脂の流動を促進して成形品の形状自由度を高めることができる。具体的には、横カットライン13が基材シート10中の強化繊維Fを切断することにより、強化繊維Fの繊維長が短縮される結果、当該強化繊維Fが樹脂の流動を阻害する程度を軽減することができる。これにより、基材シート10の賦形性、つまりプレス金型の形状(成形キャビティ)に追随して変形しようとする基材シート10の変形容易性を向上させることができ、成形品の形状自由度を良好に確保することができる。一方、縦カットライン12は強化繊維Fを切断するものではないが、基材シート10の一体性を低下させるので、やはり賦形性の向上に貢献する。そして、このような縦カットライン12が横カットライン13に追加して形成されることにより、横カットライン13のみが形成される場合と比較して、要求される賦形性を得るために必要な横カットライン13の本数を低減することができる。これにより、強化繊維Fを極端に細分することが不要になるので、強化繊維Fによる良好な補強効果を得ることができる。
【0050】
特に、上記第1実施形態では、縦カットライン12を繊維方向Xに分断するカット中断部Qが千鳥状に配置されるので、縦カットライン12およびカット中断部Qの形成パターンに一種のランダムさを付与することができる。これにより、例えばカット中断部Qが繊維直交方向Yに沿って一直線状に並ぶように縦カットラインを形成した場合と比較して、プレス加工時の樹脂の流動をより円滑化することができ、賦形性をより効果的に向上させることができる。
【0051】
また、上記第1実施形態では、横カットライン13が基材シート10の略全幅に亘って連続して延びるように形成されるので、横カットライン13を繊維直交方向Yに沿って断続的に形成した場合と比較して、基材シート10全体での横カットライン13の本数を減らすことができる。これにより、切込み11を形成する工程(切込み形成工程)を簡素化しつつ成形品の形状自由度を高めることができる。
【0052】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法を説明するための図である。第2実施形態の製造方法は、上述した第1実施形態に対し、切込み形成工程において基材シート10に切込み41を形成するパターンが異なるが、それ以外の工程(シート作製工程、切り出し工程、プレス工程)の内容は同一である。このため、以下では、第2実施形態における切込み41の特徴的なパターンについてのみ説明し、その余の点については説明を省略する。
【0053】
切込み41は、繊維方向Xと平行な複数の縦カットライン42と、繊維直交方向Yと平行な複数の横カットライン43とを有する。縦カットライン42および横カットライン43は、それぞれ基材シート10を厚み方向に貫通する直線状のスリットである。
【0054】
図8に示すように、基材シート10上において繊維方向Xと平行に延びかつ繊維直交方向Yに一定のピッチPy2で並ぶ複数の基準線を縦基準線Lsとすると、複数の縦カットライン42は、いずれも縦基準線Ls上に形成されている。各縦基準線Ls上では、複数の縦カットライン42が互いに一定の間隔をあけつつ(断続的に)形成されており、縦カットライン42どうしの間にはカットラインの非形成部であるカット中断部Qsが形成されている。言い換えると、各縦基準線Ls上には、複数の縦カットライン42と複数のカット中断部Qsとが交互に直線状に並ぶように形成されている。
【0055】
第2実施形態では、上述した第1実施形態と異なり、隣接する縦基準線Lsどうしの間で縦カットライン42の長さが異なる。例えば、複数の縦基準線Lsの1つである第1縦基準線Ls1上の各縦カットライン42の長さが短い場合、この第1縦基準線Ls1に隣接する第2縦基準線Ls2上では、各縦カットライン42の長さが第1縦基準線Ls1上のものよりも長くされる。また、第2縦基準線Ls2に隣接する第3縦基準線Ls3上では、各縦カットライン42の長さが再び短くなり、第1縦基準線Ls1上のものと同一とされる。
【0056】
基材シート10上において繊維直交方向Yと平行に延びかつ繊維方向Xに一定のピッチPx2で並ぶ複数の基準線を横基準線Hsとすると、複数の横カットライン43は、いずれも横基準線Hs上に形成されている。ただし、第2実施形態では、上述した第1実施形態と異なり、各横基準線Hs上において、複数の横カットライン43が互いに一定の間隔をあけるように断続的に形成されている。
【0057】
各横基準線Hsの複数の横カットライン43は、繊維直交方向Y上の位置が互いにずれるように(つまり千鳥状に)配置成されている。すなわち、任意に選ばれた一対の隣接する横基準線Hsのうちの一方を第1横基準線Hs1、他方を第2横基準線Hs2としたとき、第1横基準線Hs1上の各横カットライン43と、第2横基準線Hs2上の各横カットライン43とは、繊維直交方向Y上の位置が互いに異なる。一方、第2横基準線Hs2と隣接する横基準線を第3横基準線Hs3とすると、この第3横基準線Hs上の各横カットライン43と、第1横基準線Hs1上の各横カットライン43とは、繊維直交方向Y上の位置が互いに同一となる。言い換えると、第1横基準線Hs1上の各横カットライン43は、第2横基準線Hs2上の各横カットライン43と繊維方向Xに対向せず、第3横基準線Hs3上の各横カットライン43と繊維方向Xに対向する。
【0058】
各縦基準線Ls上の複数のカット中断部Qsは、繊維方向X上の位置が互いにずれるように(つまり千鳥状に)配置されている。例えば、第1縦基準線Ls1上の各カット中断部Qsと、第2縦基準線Ls2上の各カット中断部Qsとは、繊維方向X上の位置が互いに異なる。一方、第1縦基準線Ls1上の各カット中断部Qsの繊維方向X上の位置は、第3縦基準線Ls3上の各カット中断部Qsのそれと同一となる。
【0059】
上記のようなカット中断部Qの千鳥配置をより詳しく説明するため、図8における領域Z2(一点鎖線で囲んだ領域)に現れる切込みパターンを取り上げる。図9は、この領域Z2の切込みパターンを拡大して示す図である。領域Z2は、上述した第1~第3縦基準線Ls1~Ls3と、第1~第3横基準線Hs1~Hs3とが交差する領域を含む。以下の説明では、領域Z2に含まれる一対の横カットライン43のうちの一方を第1横カットライン43A、他方を第2横カットライン43Bとする。第1横カットライン43Aは第1横基準線Hs1上に位置しており、第2横カットライン43Bは第3横基準線Hs3上に位置している。これら第1・第2横カットライン43A,43Bは、他の横カットラインを挟むことなく繊維方向Xに相対向している。
【0060】
図9に示すように、領域Z2内には、第1縦基準線Ls1上に位置する3つの縦カットライン42A~42Cが含まれている。すなわち、第1縦基準線Ls1上には、第1横カットライン43Aと交差する第1縦カットライン42Aと、第2横カットライン43Bと交差する第3縦カットライン42Cと、これら第1・第3縦カットライン42A,42Cの間に位置しかつ第1・第2横カットライン43A,43Bのいずれとも交差しない第2縦カットライン42Bとが形成されている。第1縦カットライン42Aと第2縦カットライン42Bとはカット中断部Qsを介して分断され、第2縦カットライン42Bと第3縦カットライン42Cとはカット中断部Qsを介して分断されている。
【0061】
第2縦基準線Ls2上には、第1横カットライン43Aと交差する第4縦カットラインと42Dと、第2横カットライン43Bと交差する第5縦カットライン42Eとが形成されている。第4縦カットライン42Dと第5縦カットライン42Eとはカット中断部Qsを介して分断されている。
【0062】
第3縦基準線Ls3上には、第1横カットライン43Aと交差する第6縦カットライン42Fと、第2横カットライン43Bと交差する第8縦カットライン42Hと、これら第6・第8縦カットライン42F,42Hの間に位置しかつ第1・第2横カットライン43A,43Bのいずれとも交差しない第7縦カットライン42Gとが形成されている。第6縦カットライン42Fと第7縦カットライン42Gとはカット中断部Qsを介して分断され、第7縦カットライン42Gと第8縦カットライン42Hとはカット中断部Qsを介して分断されている。
【0063】
第1~第3縦カットライン42A~42Cの各長さと、第6~第8縦カットライン42F~42Hの各長さとは互いに同一である。これに対し、第4・第5縦カットライン42D,42Eの長さは相対的に長い。また、第4・第5縦カットライン42D,42Eの間の(つまり第2縦基準線Ls2上の)カット中断部Qsの繊維方向X上の位置は、第1縦基準線Ls1上のカット中断部Qs、および第3縦基準線Ls3上のカット中断部Qsとのいずれのものとも異なる。逆に、第1縦基準線Ls1上の各カット中断部Qsと、第3縦基準線Ls3上の各カット中断部Qsとは、繊維方向X上の位置が互いに同一とされる。
【0064】
基材シート10には、上記のような領域Z2内での切込みパターンが当該領域Z2以外の領域にも繰り返し現れるように、縦横の各カットライン42,43(切込み41)が形成されている。これにより、上述したカット中断部Qsの千鳥配置が基材シート10の全体に亘って実現されている。
【0065】
以上説明した本発明の第2実施形態では、基材シート10に形成される切込み41のパターンが上述した第1実施形態とは異なっているが、強化繊維Fが横カットライン43によって適宜の箇所で切断されるという点、および、縦カットライン42を分断するカット中断部Qsが繊維直交方向Yに沿って一直線状に並ばないように(千鳥状に)配置されるという点では、上述した第1実施形態と同じである。そのため、この第2実施形態においても、上述した第1実施形態と同様に、強化繊維Fによる補強効果を享受しながら成形品の形状自由度を高めることができる。
【0066】
特に、第2実施形態では、縦カットライン42を分断するカット中断部Qsが千鳥状に配置されるだけでなく、横カットライン43も千鳥状に配置されるので、上述した第1実施形態のように基材シート10の略全幅に亘って連続する横カットライン13を形成した場合よりも、切込みパターンのランダム性および材料の連続性が増す結果、成形品の強度をより高めることができる。
【0067】
<実施例1,2>
次に、上述した第1・第2実施形態による方法を適用して実際に繊維強化樹脂成形品を製造して得られた結果物を実施例1,2として説明する。本実施例では、図1に示した各工程を経て、図10に示す実験用の成形品(実験成形品)100を製造した。実験成形品100は、平板状のベース部101と、ベース部101の上面中央領域から突出する平面視十字状のリブ102とを有する。この実験成形品100の製造にあたっては、下記の製造条件に記載のとおり、ナイロン6(PA6)製のマトリックス樹脂に強化繊維としてPAN系炭素繊維を含浸させた基材シート10を20枚積み重ねてプレス加工した。基材シート10を積み重ねる際には、炭素繊維の配向方向(繊維方向)が0°、45°、90°、135°の4方向になるように各基材シート10を配置した。プレス加工では、基材シート10を270℃まで加熱した状態で5MPaの圧力を15分間加える熱間加圧と、基材シート10を30℃まで冷却した状態で10MPaの圧力を20分間加える冷間加圧とをこの順に実施した。
【0068】
また、実験成形品100とは別に、曲げ特性(後述する曲げ強さおよび曲げ弾性率)を測定するための曲げ試験片を作製した。この曲げ試験片を作製する際には基材シート10を48枚積み重ねた。その他の条件は上記実験成形品100の製造時と同一である。
【0069】
(製造条件)
マトリックス樹脂‥‥ナイロン6
強化繊維‥‥PAN系炭素繊維
積層枚数‥‥20枚(実験成形品)/48枚(曲げ試験片)
繊維方向‥‥4方向(0°、45°、90°、135°)
熱間加圧‥‥270℃、5MPa、15min
冷間加圧‥‥30℃、10MPa、20min
【0070】
【表1】
【0071】
上記表1は、切込みパターンが異なる複数種の基材シートから上記製造条件により製造された各実験成形品100およびこれに対応する曲げ試験片に対する性能試験の結果を示している。この表1に記載の実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2は、切込みパターン(または切込みの有無)が異なる基材シートから製造されたものであり、各例の特徴は以下のとおりである。
【0072】
(実施例1)
実施例1は、第1実施形態に対応する図4のパターンの切込み11を有する基材シート10を用いて製造したものである。縦基準線LのピッチPy1(隣接する縦基準線Lどうしの距離)は5mm、横基準線HのピッチPx1(隣接する横基準線Hどうしの距離)は20mmとした。
【0073】
(実施例2)
実施例2は、第2実施形態に対応する図8のパターンの切込み41を有する基材シート10を用いて製造したものである。縦基準線LsのピッチPy2は5mm、横基準線HsのピッチPx2は10mmとした。
【0074】
(比較例1)
比較例1は、図18に示すパターンの切込み111を有する基材シート10’を用いて製造したものである。切込み111は、繊維方向Xに延びかつ繊維直交方向Yに5mm間隔で並ぶ複数の縦カットライン112と、繊維直交方向Yに延びかつ繊維方向Xに20mm間隔で並ぶ複数の横カットライン113とを有する。横カットライン113は、基材シート10’の略全幅に亘って連続して延びるように形成されている。縦カットライン112は、繊維方向Xに沿って断続的に、言い換えると縦カットライン112とカット中断部Q’とが交互に並ぶように形成されている。カット中断部Q’は繊維直交方向Yに沿って一直線状に並ぶように形成されている。
【0075】
(比較例2)
比較例2は、切込みが全く形成されていない基材シートを用いて製造したものである。
【0076】
以上の実施例1,2および比較例1,2による各実験成形品100およびこれに対応する曲げ試験片について、図10に示すリブ102の高さ(リブ高さ)hを測定するとともに、曲げ強さと曲げ弾性率とをそれぞれ測定した。その結果をそれぞれ上記表1に示している。なお、表1におけるリブ高さhとは、リブ102の最大高さのことである。各例においてリブ102は一様の高さに形成されるとは限らないので、そのような場合はリブ102の最大高さをリブ高さhとするという意味である。リブ高さhが大きいことは、賦形性が良好であることを意味する。すなわち、実施例1,2および比較例1,2は全て同じプレス金型を用いて製造されたものであるから、リブ高さhの差は、成形キャビティに対する材料の追随性の差として捉えることができる。
【0077】
上記表1に示されるように、曲げ強さは、比較例2、実施例2、比較例1、実施例1の順に大きい。すなわち、比較例2の曲げ強さが最も大きく、その次に実施例2の曲げ強さが大きく、その次に比較例1の曲げ強さが大きい。実施例1の曲げ強さは最も小さい。
【0078】
曲げ弾性率は、比較例2、比較例1、実施例2、実施例1の順に大きい。ただし、実施例2と実施例1との間の曲げ弾性率の差は非常に小さい。
【0079】
リブ高さhは、実施例2、実施例1、比較例1、比較例2の順に大きい。実施例2のリブ高さhと実施例1のリブ高さhに大差はないが(37mmと35mm)、比較例1のリブ高さhは実施例1,2よりも大幅に小さい22mmである(実施例1よりも11mm小さい)。さらに、比較例2のリブ高さhはわずか3mmにまで低下している。
【0080】
以上の結果から、各例の特性について次のように考察することができる。
【0081】
比較例2は、曲げ強さおよび曲げ弾性率がともに最大であり、炭素繊維による補強効果が最も発揮されているといえる。これは、炭素繊維を切断する切込みが一切存在しない(炭素繊維の繊維長が一律に長い)ためと考えられる。しかしながら、炭素繊維の長大化はプレス加工時の樹脂の流動を阻害するので、賦形性が悪化することにつながる。比較例2の賦形性が際立って(リブ102の形成がほとんど不可能なほど)悪いのはこのためである。このように、比較例2は、最も高い機械的強度が得られるものの、成形品としての形状自由度があまりにも低く、実用に耐えることができない。
【0082】
比較例1は、比較例2に比べればリブ高さhが大きくなっており、賦形性が改善している。これは、基材シート10’に形成された切込み111(図18)の作用によるものと考えられる。しかしながら、実施例1,2に比べればリブ高さhは依然として低く、やはり実用に耐え得る形状自由度があるとは言い難い。また、機械的強度もあまり高くなく、特に曲げ強さについては比較例2だけでなく実施例2に比べても低いものとなっている。このように、比較例1は、賦形性が不十分な割に機械的強度も特段優れておらず、実用的とはいえない。
【0083】
これに対し、実施例1,2は、リブ高さhが十分に大きく、良好な賦形性が確保されている。一方、この賦形性向上とのトレードオフにより、機械的強度は少なくとも比較例2に比べれば低下しているが、その値は強化繊維のない樹脂に比べれば十分に大きく、繊維強化樹脂として十分な強度を有しているといえる。特に、実施例2については、比較例1よりも高い曲げ強さを有しており、機械的強度の面でも優れている。
【0084】
[第3実施形態]
図11および図12は、本発明の第3実施形態に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法を説明するための図である。この第3実施形態では、上記第2実施形態で用いたのと同様の基材シート10(図8に示すパターンの切込み41が形成された基材シート)を用いて成形品を製造するが、プレス工程において基材シート10を積み重ねる方法が上記第1・第2実施形態のものとは異なる。このため、以下では、プレス工程において基材シート10を積み重ねる方法を中心に説明する。
【0085】
第3実施形態では、プレス工程の際に、複数枚の基材シート10が積み重ねられた基材シートセットBS1,BS2‥‥を複数組形成し、形成した基材シートセットBS1,BS2‥‥を平面視の位置を少しずつずらしながら積み重ねる(オフセット積層)。以下では、上からn番目の基材シートセットを特定して指すときは、第n基材シートセットBSnということにする。例えば、最も上側の基材シートセットBS1を第1基材シートセットBS1といい、上から2番目の基材シートセットBS2を第2基材シートセットBS2という。一方、基材シートセットBS1,BS2‥‥を総称して指すときは、単に基材シートセットBSという。
【0086】
第3実施形態において、各基材シートセットBSは、それぞれ、繊維方向Xが直交する(平面視で90度の角度で交差する)状態で積み重ねられた2枚の基材シート10から構成されている。すなわち、各基材シートセットBSにおいて、上側の基材シート10の繊維方向X(換言すれば図8に示す縦基準線Lsの延設方向)の角度を0°とすると、下側の基材シート10は、その繊維方向Xの角度が90°になる状態で上側の基材シート10の下側に重ねられる。また、各基材シートセットBSを構成する2枚の基材シート10は、それぞれ同一の矩形状の外形を有しており、その4つの角部は互いに一致している。言い換えると、各基材シートセットBSを構成する2枚の基材シート10は、繊維方向Xが直交しかつ4つの角部が一致する状態で積み重ねられる。なお、基材シートセットBSは、本発明における「基材セット」もしくは「シートセット」に相当する。また、基材シートセットBS内の2つの基材シート10の繊維方向Xである0°および90°の方向は、それぞれ本発明における「第1方向」および「第2方向」に相当する。
【0087】
ここで、平面視において、第1基材シートセットBS1における上側の基材シート10の繊維方向Xと一致する方向を縦方向、当該縦方向と直交する方向を横方向とする。また、第1基材シートセットBS1における特定の角部(図12での左上の角部;以下同様)の位置を基準位置Rpとする。図11および図12に示すように、第2基材シートセットBS2は、その特定の角部を平面視で基準位置Rpから縦方向に距離ε、横方向に距離ηだけずらした状態で、第1基材シートセットBS1の下側に重ねられる。第3基材シートセットBS3は、その特定の角部を平面視で基準位置Rpから縦方向に距離2ε、横方向に距離2ηだけずらした状態で、第2基材シートセットBS2の下側に重ねられる。第4基材シートセットBS4は、その特定の角部を平面視で基準位置Rpから縦方向に距離ε、横方向に距離ηだけずらした状態で、第3基材シートセットBS3の下側に重ねられる。第5基材シートセットBS5は、その特定の角部を平面視で基準位置Rpに一致させた状態で、第4基材シートセットBS4の下側に重ねられる。このように、第1~第5基材シートセットBS1~BS5は、基準位置Rpからの縦方向(横方向)のずれ量が上から順に0→ε→2ε→ε→0(0→η→2η→η→0)と増減するように配置される。言い換えると、複数組の基材シートセットBSは、縦方向の位置を距離εずつずらし、かつ横方向の位置を距離ηずつずらしながら積み重ねられる。この場合において、距離εは本発明における「第1距離」に相当し、距離ηは本発明における「第2距離」に相当する。
【0088】
なお、図示しないが、上から6番目以降の基材シートセットが存在する場合も、上記と同様の法則で基準位置Rpからのずれ量が増減される。例えば、第6基材シートセットのずれ量はε(η)、第7基材シートセットのずれ量は2ε(2η)、第8基材シートセットのずれ量はε(η)、第9基材シートセットのずれ量は0とされる。
【0089】
上下に隣接する基材シートセットBSどうしの縦方向のずれ量である距離εは、各基材シート10における横基準線HsのピッチPx2(図8参照)と異なる値に設定される。また、上下に隣接する基材シートセットBSどうしの横方向のずれ量である距離ηは、各基材シート10における縦基準線LsのピッチPy2(図8参照)と異なる値に設定される。この場合において、横基準線HsのピッチPx2は本発明における「第2ピッチ」に相当し、縦基準線LsのピッチPy2は本発明における「第1ピッチ」に相当する。
【0090】
上記のようなずれ量(距離ε,η)の設定により、上下に隣接する基材シートセットBSに含まれる全ての(4枚の)基材シート10は、その縦カットライン42および横カットライン43が平面視で線状に重ならない関係になる。すなわち、上下に隣接する基材シートセットBS中において、任意の基材シート10の縦カットライン42は、他のいずれの基材シート10の縦カットライン42とも線状に重ならず、任意の基材シート10の横カットライン43は、他のいずれの基材シート10の横カットライン43とも線状に重ならない。
【0091】
より好ましくは、上記ずれ量(距離ε,η)は、上記ピッチPy2,Px2に一致しないだけでなく、当該ピッチPy2,Px2の1/2にも一致しない値に設定される。すなわち、縦方向のずれ量である距離εは、横基準線HsのピッチPx2および当該ピッチPx2の1/2のいずれにも一致しない値に設定される。同様に、横方向のずれ量である距離ηは、縦基準線LsのピッチPy2および当該ピッチPy2の1/2のいずれにも一致しない値に設定される。例えば、ピッチPy2が5mm、ピッチPx2が10mmである場合、距離ε,ηは、いずれも3mmに設定することができる。これにより、縦方向(横方向)のずれ量が0,ε,2ε(0,η,2η)である3組の基材シートセットBSにおいて、これに含まれる全ての基材シート10の縦カットライン42(横カットライン43)が平面視で線状に重ならないという関係が得られる。
【0092】
上記のような方法で積み重ねられた複数組の基材シートセットBSは、上述した第1実施形態と同様の熱プレス機(図6参照)を用いてプレス加工され、当該プレス加工を経て所定の成形品が成形される。
【0093】
以上説明した本発明の第3実施形態では、プレス工程の際に、繊維方向Xが互い違いになる状態で積み重ねられた複数枚(ここでは2枚)の基材シート10からなる複数組の基材シートセットBSが形成されるとともに、形成された基材シートセットBSが平面視の位置をずらしながら積み重ねられるので、縦カットライン42または横カットライン43によって強化繊維Fが切断される位置を基材シートセットBSごとにばらつかせることができる。このため、積み重ねられた基材シートセットBSをプレス加工したときに、強化繊維Fによる補強効果を成形品内でより均等に発揮させることができ、成形品の強度を効果的に向上させることができる。
【0094】
具体的に、上記第3実施形態では、上下に隣接する基材シートセットBSどうしの縦方向のずれ量が横基準線HsのピッチPx2とは異なる距離εに設定され、かつ横方向のずれ量が縦基準線LsのピッチPy2とは異なる距離ηに設定されるので、上下に隣接する基材シートセットBSの間で縦カットライン42および横カットライン43が平面視で線状に重なることが有効に回避され、上述した効果を適切に発揮させることができる。
【0095】
なお、上記第3実施形態では、複数組の基材シートセットBSが全て同一形状であることを前提に、これら複数組の基材シートセットBSを、各基材シートセットBSにおける特定の角部(図12での左上の角度部)の位置を平面視で縦横にずらしながら積み重ねるようにしたが、少なくとも上下に隣接する基材シートセットBSの間でカットライン(縦カットライン42および横カットライン43)が平面視で線状に重ならないように積み重ねればよく、そのための方法は上記第3実施形態による方法に限られない。例えば、基材シートセットBSごとに、その外形線に対するカットラインの相対位置をずらすことが考えられる。このようにすれば、例えば複数組の基材シートセットBSをそれぞれの4つの角部が互いに一致する状態で積み重ねながら、隣接する基材シートセットBSの間でカットラインが線状に重なるのを回避することができる。このような方法による積み重ねも、基材シートセットBSを平面視で位置ずれさせながら積み重ねる方法(オフセット積層)の一態様に該当する。
【0096】
また、上記第3実施形態では、繊維方向Xが直交する状態で2枚の基材シート10を積み重ねることにより各基材シートセットBSを形成したが、各基材シートセットBSの形成時には、繊維方向Xが全て同一方向に揃うことがないように向きを変えながら基材シート10を積み重ねればよく、例えば1層目、2層目、3層目‥‥の順に繊維方向Xが45度ずつずれるように(言い換えると繊維方向Xが0°、45°、90°、135°の間で順に変化するように)基材シート10を積み重ねてもよい。
【0097】
<実施例3>
次に、上述した第3実施形態による方法を適用して実際に繊維強化樹脂成形品を製造して得られた結果物を実施例3として説明する。この実施例3では、図8のパターンの切込み41(縦カットライン42および横カットライン43)を有する48枚の基材シート10を用いて、図1に示した各工程により、曲げ試験片を製造した。この曲げ試験片の製造にあたっては、下記の製造条件に記載のとおり、各基材シート10のマトリックス樹脂としてナイロン9T(PA9T)を用い、かつ強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いた。縦基準線LsのピッチPy2(隣接する縦基準線Lsどうしの距離)は5mm、横基準線HsのピッチPx2(隣接する横基準線Hsどうしの距離)は10mmとした。基材シート10を積み重ねる際には、炭素繊維の配向方向(繊維方向)が互い違いになりかつ平面視の位置が2枚1組でずれるように各基材シート10を配置した。詳しくは、図11および図12に示したように、炭素繊維の配向方向(繊維方向)が0°、90°とされた2枚の基材シート10からなる基材シートセットBSを24組形成するとともに、これら24組の基材シートセットBSを、平面視における縦方向および横方向のずれ量が上から順に0mm→3mm→6mm→3mm→0mm→3mm→6mm→3mm→0mm→3mmと変化するように積み重ねた(オフセット積層)。プレス加工では、基材シート10を300℃まで加熱した状態で3MPaの圧力を15分間加える熱間加圧と、基材シート10を30℃まで冷却した状態で10MPaの圧力を10分間加える冷間加圧とをこの順に実施した。
【0098】
(製造条件)
マトリックス樹脂‥‥ナイロン9T
強化繊維‥‥PAN系炭素繊維
積層枚数‥‥48枚(24セット)
繊維方向‥‥2方向(0°、90°)
オフセット積層‥‥有り(2枚1組で3mmずつオフセット)
熱間加圧‥‥300℃、3MPa、15min
冷間加圧‥‥30℃、10MPa、10min
【0099】
【表2】
【0100】
上記表2は、上記実施例3による曲げ試験片に対する性能試験の結果を示している。なお、表2中の実施例4は、基材シートセットBSを積み重ねる際の縦横の位置ずれ量を全てゼロとしたものである。すなわち、実施例4は、実施例3に対し、オフセット積層が採用されていない点のみが異なり、その他の条件は全て同一である。
【0101】
上記表2に示すように、実施例4は、マトリックス樹脂の相違を除いて類似の条件で作製された先の実施例2(表1)と比較して、曲げ強さが向上している。実施例3は、この実施例4よりもさらに高い曲げ強さを有している。すなわち、オフセット積層が採用された実施例3の曲げ強さは、オフセット積層が採用されていない実施例4の曲げ強さよりもさらに高くなっている。一方、曲げ弾性率については、実施例3と実施例4との間に有意な差は認められなかった。以上より、オフセット積層が機械的強度を向上させる効果をもたらすことが確認された。
【0102】
[変形例]
上記各実施形態では、プレス工程S4において、複数枚の基材シート10を熱プレス機20の型内に積み重ねて配置し、その状態でダイ22にパンチ21を押し込む本加工(型締め)を行うようにしたが、このプレス工程S4の前に、複数枚の基材シート10を一体に積層した積層体を成形することも可能である。具体的には、複数枚(例えば10枚以上)の基材シート10をその繊維方向Xが互い違いになるように積み重ねて熱融着させることにより、繊維強化樹脂シートの積層体を成形する。なお、この積層体の成形時には、第3実施形態で示したようなオフセット積層を採用することも可能である。すなわち、繊維方向Xが互いに違いになる状態で積み重ねられた複数枚の基材シート10からなる基材シートセットBS(図11図12)を複数組形成し、形成した基材シートセットBSを平面視で縦横に位置ずれさせながら積み重ねて熱融着させることにより、上記積層体を成形することも可能である。
【0103】
上記積層体は、1枚の基材シート10に比べて十分に大きな厚みをもったものとすることができる。このため、例えば比較的厚手の成形品を製造する際に、熱プレス機20の型内で材料を積み重ねる回数を減らすことができ、プレス工程S4の作業効率を向上させることができる。なお、基材シート10の熱融着の際には、積み重ねられた複数枚の基材シート10が運搬等の過程で自然分離しない程度の強度で各基材シート10のマトリックス樹脂Rが互いに結合されればよい。熱融着では、このような要求に適した過度に高くない温度、圧力を基材シート10に加えることが好ましい。
【0104】
上記各実施形態では、プレス工程S4において、パンチ21およびダイ22を含む熱プレス機20を用いたプレス加工を採用したが、本発明に適用可能な成形法は、加圧および加熱が可能なものであればよく、熱プレス機20を用いたものに限られない。一例として、ヒートアンドクールプレス成形、ホットスタンピング成形、真空加熱プレス成形といったプレス加工を適用することが可能である。中でもヒートアンドクールプレス成形は、本発明の基材の賦形性を発揮させるのに好適である。
【0105】
上記各実施形態では、基材シート10に形成する切込みの一例として、図4に示した切込み11と、図8に示した切込み41とを例示したが、繊維方向と平行な複数の縦カットリン、および繊維直交方向と平行な複数の横カットラインを含み、かつカット中断部が千鳥状に配置されるものであればよく、図4および図8に示したパターンのものに限られない。一例として、図13図17に示すパターンの切込みを形成することが考えられる。各図に示す切込み51,61,71,81,91は、それぞれ、繊維方向Xと平行な複数の縦基準線Lxに沿って延びる複数の縦カットライン52,62,72,82,92と、繊維直交方向Yと平行な複数の横基準線Hxに沿って延びる複数の横カットライン53,63,73,83,93とを有している。縦カットライン52,62,72,82,92を繊維方向Xに分断するカット中断部Qx1,Qx2,Qx3,Qx4,Qx5は、任意の縦基準線上のカット中断部とこれに隣接する縦基準線上のカット中断部とが繊維方向Xに関し互いにずれるように(つまり千鳥状に)配置されている。
【0106】
上記第3実施形態では、繊維方向Xが直交する状態で積み重ねられた2枚の基材シート10からなる基材シートセットBSを複数組形成し、形成した基材シートセットBSを平面視で位置ずれさせながら積み重ねるようにしたが、必ずしも基材シートセットBSごとに位置ずれを行う必要はない。例えば、繊維方向Xが90°の基材シート10の位置を固定しつつ、繊維方向Xが0°の基材シート10の位置のみを可変としてもよい。
【0107】
[まとめ]
上述した各実施形態およびその変形例に含まれる発明をまとめると以下のとおりである。
【0108】
本発明の一局面に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法は、熱可塑性のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを含むシート状の基材を複数用意する第1の工程と、用意された複数の前記基材に当該基材を貫通する所定パターンの切込みを形成する第2の工程と、前記切込みが形成された複数の前記基材を、各基材に含有された前記強化繊維の配向方向である繊維方向が互い違いになる状態で積み重ねるとともに、積み重ねた当該基材をプレス加工により所望の形状に成形する第3の工程とを含む。前記繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記第2の工程では、前記切込みとして、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを含む複数のカットラインを形成するとともに、前記縦カットラインどうしを前記繊維方向に分断させる複数のカット中断部を前記各縦基準線上に形成する。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記第2の工程では、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように前記縦カットラインを形成する。
【0109】
この製造方法によれば、繊維方向が互い違いになるように積み重ねられた複数の基材がプレス加工されるので、加工後の成形品に含有される強化繊維の方向が一律に定まらず、成形品の機械的性質に疑似等方性が付与される結果、強化繊維による好ましい補強効果を得ることができる。
【0110】
また、プレス加工の前に、繊維方向に延びる縦カットラインと繊維直交方向に延びる横カットラインとを含む切込みが基材に形成されるので、プレス加工時の樹脂の流動を促進して成形品の形状自由度を高めることができる。具体的には、横カットラインが基材中の強化繊維を切断することにより、強化繊維の繊維長が短縮される結果、当該強化繊維が樹脂の流動を阻害する程度を軽減することができる。これにより、基材の賦形性、つまりプレス金型の形状(成形キャビティ)に追随して変形しようとする基材の変形容易性を向上させることができ、成形品の形状自由度を良好に確保することができる。一方、縦カットラインは強化繊維を切断するものではないが、基材の一体性を低下させるので、やはり賦形性の向上に貢献する。そして、このような縦カットラインが横カットラインに追加して形成されることにより、横カットラインのみが形成される場合と比較して、要求される賦形性を得るために必要な横カットラインの本数を低減することができる。これにより、強化繊維を極端に細分することが不要になるので、強化繊維による良好な補強効果を得ることができる。
【0111】
特に、前記製造方法では、縦カットラインを繊維方向に分断するカット中断部が千鳥状に(つまり隣接する縦基準線上のカット中断部の位置が繊維方向に関し互いにずれるように)配置されるので、縦カットラインおよびカット中断部の形成パターンに一種のランダムさを付与することができる。これにより、例えばカット中断部が繊維直交方向に沿って一直線状に並ぶように縦カットラインを形成した場合と比較して、プレス加工時の樹脂の流動をより円滑化することができ、賦形性をより効果的に向上させることができる。
【0112】
前記製造方法において、好ましくは、前記横カットラインのうちの任意の1つを第1横カットライン、当該第1横カットラインと前記繊維方向に対向する他の横カットラインを第2横カットラインとしたとき、前記第1縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインに対し前記カット中断部を介して分断されかつ前記第2横カットラインに連なる第1縦カットラインを有し、前記第2縦基準線上の縦カットラインは、前記第2横カットラインに対し前記カット中断部を介して分断されかつ前記第1横カットラインに連なる第2縦カットラインを有する。
【0113】
この方法によれば、カット中断部の千鳥配置を具体的に実現することができる。
【0114】
前記方法において、より好ましくは、前記第1横カットラインおよび前記第2横カットラインは、それぞれ、前記基材における前記繊維直交方向の一方側の端部から他方側の端部まで連続して延びるように形成される。
【0115】
このように、横カットラインを基材の略全幅に亘って連続形成した場合には、横カットラインを繊維直交方向に沿って断続的に形成した場合と比較して、基材全体での横カットラインの本数を減らすことができ、切込みパターンを簡素化しつつ成形品の形状自由度を高めることができる。
【0116】
ここで、前記切込みの形成パターンは次のようなものであってもよい。すなわち、前記横カットラインのうちの任意の1つを第1横カットライン、当該第1横カットラインと前記繊維方向に対向する他の横カットラインを第2横カットラインとしたとき、前記第1縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインと交差する第1縦カットラインと、前記第1横カットラインおよび前記第2横カットラインの間に位置しかつ前記第1縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第2縦カットラインと、前記第2横カットラインと交差しかつ前記第2縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第3縦カットラインとを有し、前記第2縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインと交差する第4縦カットラインと、前記第2横カットラインと交差しかつ前記第4縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第5縦カットラインとを有し、前記第2縦基準線と隣接する第3縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインと交差する第6縦カットラインと、前記第1横カットラインおよび前記第2横カットラインの間に位置しかつ前記第6縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第7縦カットラインと、前記第2横カットラインと交差しかつ前記第7縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第8縦カットラインとを有する。
【0117】
この方法によっても、カット中断部の千鳥配置を実現して成形品の形状自由度を高めることができる。
【0118】
さらに、一対の隣接する前記横基準線のうちの一方を第1横基準線、他方を第2横基準線としたとき、当該第1横基準線および第2横基準線上にそれぞれ複数の前記横カットラインが断続的に形成され、前記第1横基準線上の複数の前記横カットラインと、前記第2横基準線上の複数の前記横カットラインとは、前記繊維直交方向上の位置が互いに異なるように千鳥状に配置されることが好ましい。
【0119】
このように、縦カットラインを分断するカット中断部を千鳥状に配置するだけでなく、横カットラインも千鳥状に配置した場合には、例えば基材の略全幅に亘って連続する横カットラインを形成した場合と比較して、切込みパターンのランダム性および材料の連続性が増すので、成形品の強度をより高めることができる。
【0120】
好ましくは、前記第3の工程では、前記繊維方向が第1方向に設定された前記基材と前記繊維方向が前記第1方向と異なる第2方向に設定された前記基材とを含む複数の基材が積み重ねられた第1基材セットと、前記繊維方向が前記第1方向に設定された前記基材と前記繊維方向が前記第2方向に設定された前記基材とを含む複数の基材が積み重ねられた第2基材セットとを少なくとも形成し、前記第1基材セットに含まれる前記各基材の前記縦カットラインおよび前記横カットラインと、前記第2基材セットに含まれる前記各基材の前記縦カットラインおよび前記横カットラインとが平面視で線状に重ならないように、前記第1基材セットと前記第2基材セットとを平面視で位置ずれさせながら積み重ねる。
【0121】
この方法によれば、縦カットラインまたは横カットラインによって強化繊維が切断される位置が基材セットごとにばらつくので、積み重ねられた基材セットをプレス加工したときに、強化繊維による補強効果を成形品内でより均等に発揮させることができ、成形品の強度を効果的に向上させることができる。
【0122】
前記第2の工程では、複数の前記縦カットラインを、一定の第1ピッチで並ぶ複数の前記縦基準線に沿って形成するとともに、複数の前記横カットラインを、一定の第2ピッチで並ぶ複数の前記横基準線に沿って形成することができる。この場合において、好ましくは、前記第1基材セットにおける最も上側の基材の前記繊維方向を縦方向、当該基材の前記繊維直交方向を横方向としたとき、前記第3の工程では、前記第1基材セットと前記第2基材セットとを、平面視で前記縦方向に第1距離だけずらしかつ前記横方向に第2距離だけずらした状態で積み重ねる。前記第1距離は前記第2ピッチと異なる値に設定され、前記第2距離は前記第1ピッチと異なる値に設定される。
【0123】
この方法によれば、上下に隣接する基材セットの間で縦カットラインおよび横カットラインが平面視で線状に重なることが有効に回避され、上述した効果を適切に発揮させることができる。
【0124】
本発明の他の局面に係る繊維強化樹脂シートは、熱可塑性のマトリックス樹脂と当該マトリックス樹脂に同一方向に配向された状態で含浸された多数の強化繊維とを備え、かつ厚み方向に貫通する所定パターンの切込みが形成されたものである。前記強化繊維の配向方向を繊維方向、当該繊維方向と直交する方向を繊維直交方向としたとき、前記切込みは、前記繊維方向と平行でかつ前記繊維直交方向に並ぶ複数の縦基準線に沿って延びる複数の縦カットラインと、前記繊維直交方向と平行でかつ前記繊維方向に並ぶ複数の横基準線に沿って延びる複数の横カットラインとを有する。前記複数の縦カットラインは、前記縦基準線上に形成された複数のカット中断部を介して互いに分断されている。一対の隣接する前記縦基準線のうちの一方を第1縦基準線、他方を第2縦基準線としたとき、前記縦カットラインは、前記第1縦基準線上の前記カット中断部と前記第2縦基準線上の前記カット中断部とが前記繊維方向に関し互いにずれるように形成される。
【0125】
この繊維強化樹脂シートは、例えば上述した製造方法に供されることにより、強度が高くかつ形状自由度の高い成形品の製造に貢献する。
【0126】
前記切込みのパターンの具体例として、次のようなものが好適である。すなわち、前記横カットラインのうちの任意の1つを第1横カットライン、当該第1横カットラインと前記繊維方向に対向する他の横カットラインを第2横カットラインとしたとき、前記第1縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインに対し前記カット中断部を介して分断されかつ前記第2横カットラインに連なる第1縦カットラインを有し、前記第2縦基準線上の縦カットラインは、前記第2横カットラインに対し前記カット中断部を介して分断されかつ前記第1横カットラインに連なる第2縦カットラインを有する。
【0127】
この場合、前記第1横カットラインおよび前記第2横カットラインは、それぞれ、前記基材における前記繊維直交方向の一方側の端部から他方側の端部まで連続して延びるように形成されることが好ましい。
【0128】
前記切込みのパターンは次のようなものであってもよい。すなわち、前記横カットラインのうちの任意の1つを第1横カットライン、当該第1横カットラインと前記繊維方向に対向する他の横カットラインを第2横カットラインとしたとき、前記第1縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインと交差する第1縦カットラインと、前記第1横カットラインおよび前記第2横カットラインの間に位置しかつ前記第1縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第2縦カットラインと、前記第2横カットラインと交差しかつ前記第2縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第3縦カットラインとを有し、前記第2縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインと交差する第4縦カットラインと、前記第2横カットラインと交差しかつ前記第4縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第5縦カットラインとを有し、前記第2縦基準線と隣接する第3縦基準線上の縦カットラインは、前記第1横カットラインと交差する第6縦カットラインと、前記第1横カットラインおよび前記第2横カットラインの間に位置しかつ前記第6縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第7縦カットラインと、前記第2横カットラインと交差しかつ前記第7縦カットラインと前記カット中断部を介して分断された第8縦カットラインとを有する。
【0129】
この場合において、一対の隣接する前記横基準線のうちの一方を第1横基準線、他方を第2横基準線としたとき、当該第1横基準線および第2横基準線上にそれぞれ複数の前記横カットラインが断続的に形成され、前記第1横基準線上の複数の前記横カットラインと、前記第2横基準線上の複数の前記横カットラインとは、前記繊維直交方向上の位置が互いに異なるように千鳥状に配置されることが好ましい。
【0130】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化樹脂シートの積層体は、上述した繊維強化樹脂シートが複数積層されたものである。複数の前記繊維強化樹脂シートは、前記繊維方向が互い違いになる状態で積層されかつ互いに熱融着されている。
【0131】
この繊維強化樹脂シートの積層体は、上述した繊維強化樹脂シートの複数枚分の厚みを有するので、比較的厚手の成形品を製造するのに好適である。
【0132】
前記積層体の構造の具体例として、次のようなものが好適である。すなわち、前記積層体は、前記繊維方向が第1方向に設定された前記繊維強化樹脂シートと前記繊維方向が前記第1方向と異なる第2方向に設定された前記繊維強化樹脂シートとを含む複数の繊維強化樹脂シートが積み重ねられた第1シートセットと、前記繊維方向が前記第1方向に設定された前記繊維強化樹脂シートと前記繊維方向が前記第2方向に設定された前記繊維強化樹脂シートとを含む複数の繊維強化樹脂シートが積み重ねられた第2シートセットとを備える。前記第1シートセットに含まれる前記各繊維強化樹脂シートの前記縦カットラインおよび前記横カットラインと、前記第2シートセットに含まれる前記各繊維強化樹脂シートの前記縦カットラインおよび前記横カットラインとが平面視で線状に重ならないように、前記第1シートセットと前記第2シートセットとが平面視で位置ずれした状態で積み重ねられる。
【0133】
前記各繊維強化樹脂シートは、一定の第1ピッチで並ぶ複数の前記縦基準線に沿って形成された複数の前記縦カットラインと、一定の第2ピッチで並ぶ複数の前記横基準線に沿って形成された複数の前記横カットラインとを有するものとすることができる。この場合において、好ましくは、前記第1シートセットにおける最も上側の繊維強化樹脂シートの前記繊維方向を縦方向、当該繊維強化樹脂シートの前記繊維直交方向を横方向としたとき、前記第1シートセットと前記第2シートセットとは、平面視で前記縦方向に第1距離だけずれかつ前記横方向に第2距離だけずれた状態で積み重ねられる。前記第1距離は前記第2ピッチと異なる値に設定され、前記第2距離は前記第1ピッチと異なる値に設定される。
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