(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】改良された信頼性を伴うMEMSスイッチ式超音波トランスデューサアレイ
(51)【国際特許分類】
A61N 7/00 20060101AFI20220810BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20220810BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A61N7/00
H04R3/00 330
H04R1/40 330
(21)【出願番号】P 2021518440
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 IB2019000978
(87)【国際公開番号】W WO2020070549
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-06-29
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508154863
【氏名又は名称】インサイテック・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】グリーンバーグ, アディ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ, ヨアフ
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-086969(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143364(WO,A1)
【文献】特開2006-122659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/00
H04R 3/00
H04R 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波システムにおける信頼性を改良する方法であって、前記超音波システムは、
(i)複数のトランスデューサ要素と、
(ii)複数の位相伝送ラインに接続された位相発生器と、
(iii)スイッチマトリクスと
を備え、
前記スイッチマトリクスは、前記位相伝送ラインのうちの種々のものを前記トランスデューサ要素に切り替え可能に接続するための複数のビーム形成スイッチを備え、前記トランスデューサ要素の各々は、各々が異なる位相伝送ラインに接続されたビーム形成スイッチの組に関連付けられており、初期のスイッチアクティブ化パターンに従って、前記ビーム形成スイッチのうちのいくつかは、開放しており、前記ビーム形成スイッチのうちのいくつかは、閉鎖しており、
前記方法は、
(a)前記位相発生器における位相間の差動電圧を低減させることと、
(b)前記ビーム形成スイッチの近くにおける位相間の差動電圧を低減させることと、
(c)ステップ(a)および(b)に続いて、初期のスイッチアクティブ化パターンを改変することと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)における前記差動電圧は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する第1の所定の閾値を下回るように低減させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)における前記差動電圧は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する第2の所定の閾値を下回るように低減させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)および(b)を実施した後、かつステップ(c)を実施する前、一時停止するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記一時停止するステップは、環境条件または超音波処理パラメータのうちの少なくとも一方によって決定される持続時間を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記環境条件は、周囲RFレベルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記環境条件は、前記トランスデューサ要素からの反射である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
閉鎖されたスイッチにおける電圧を監視するステップをさらに含み、前記環境条件は、前記監視される電圧の大きさである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記超音波処理パラメータは、前記トランスデューサ要素のうちの1つから伝送されるパルスの振幅を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)を実施した後、かつステップ(b)を実施する前、一時停止するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)は、差動スイッチの複数の組を使用して前記位相伝送ラインを徐々に一緒に接続することによって実施され、各差動スイッチは、前記位相伝送ラインのうちの少なくとも1つに関連付けられている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、MEMSスイッチである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、CMOSスイッチである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
各組における前記差動スイッチまたは前記ビーム形成スイッチのうちの少なくとも一方は、順次、所定の順序においてアクティブにされる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記所定の順序は、
前記初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、
前記差動スイッチの各々が、関連付けられた位相伝送ラインを別の位相伝送ラインに結合する
、差動スイッチの各組の最初の差動スイッチであった以前の回数によって決定される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記所定の順序は、各スイッチ組における前記差動スイッチの各々が犠牲スイッチであった以前の回数に基づく、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記所定の順序は、
前記初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、
前記ビーム形成スイッチの各々が、アクティブにされた
、ビーム形成スイッチの各組の最初のビーム形成スイッチであった以前の回数によって決定される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
第1のビーム形成スイッチが閉鎖されており、第2のビーム形成スイッチが開放している前記ビーム形成スイッチの組において、ステップ(c)は、前記第2のビーム形成スイッチを閉鎖することと、その後、前記第1のスイッチを開放することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ビーム形成スイッチの第1の群が閉鎖されており、ビーム形成スイッチの第2の群が開放している前記ビーム形成スイッチの組において、ステップ(c)は、前記ビーム形成スイッチの前記第2の群を閉鎖することと、その後、前記ビーム形成スイッチの前記第1の群を開放することとを含み、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチは、順次、所定の順序において閉鎖される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記所定の順序は、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチの各々が最初に閉鎖されるべきであった以前の回数によって決定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記所定の順序は、前記トランスデューサ要素の幾何学形状に基づく、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記幾何学形状は、前記超音波システムにおける前記トランスデューサ要素の相対的場所を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
超音波システムであって、前記システムは、
フェーズドアレイとして集合的に動作可能な複数のトランスデューサ要素を備えている超音波トランスデューサ
と、
位相発生器と、
前記位相発生器に接続された複数の位相伝送ラインであって、前記位相伝送ラインの各々は、所定の位相シフトを有する、複数の位相伝送ラインと、
前記位相伝送ラインのうちの種々のものを前記トランスデューサ要素に選択可能に結合するためのビーム形成スイッチのマトリクスであって、前記トランスデューサ要素の各々は、各々が異なる位相伝送ラインに接続されたビーム形成スイッチの組に関連付けられている、ビーム形成スイッチのマトリクスと、
コントローラと
を備え、
前記コントローラは、
(a)前記位相発生器の平均電圧レベルを第1の所定の閾値を下回るように低減させることと、
(b)ビーム形成スイッチの各組に関して、前記ビーム形成スイッチ間の最大電圧差を第2の所定の閾値を下回るように低減させることと、
(c)前記電圧レベルが前記第1の所定の閾値を下回り、前記電圧差が前記第2の所定の閾値を下回るときを検出し、その後すぐに、前記スイッチの開放しているものおよび閉鎖しているもののアクティブ化パターンを改変することと
を行うように構成されている、システム。
【請求項26】
前記第1の所定の閾値は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記第2の所定の閾値は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する、請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記コントローラは、ステップ(a)および(b)を実施した後、かつステップ(c)を実施する前、前記超音波システムを一時停止するようにさらに構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項29】
前記コントローラは、環境条件または超音波処理パラメータのうちの少なくとも一方によって決定される持続時間にわたって、前記超音波システムを一時停止するようにさらに構成されている、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記環境条件は、周囲RFレベルである、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記環境条件は、前記トランスデューサ要素からの反射である、請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記コントローラは、閉鎖されたスイッチにおける電圧を監視するようにさらに構成され、前記環境条件は、前記監視される電圧の大きさである、請求項29に記載のシステム。
【請求項33】
前記超音波処理パラメータは、前記トランスデューサ要素のうちの1つから伝送されるパルスの振幅を含む、請求項29に記載のシステム。
【請求項34】
前記コントローラは、ステップ(a)を実施した後、かつステップ(b)を実施する前、前記超音波システムを一時停止するようにさらに構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項35】
前記コントローラは、差動スイッチの複数の組を使用して前記位相伝送ラインを徐々に一緒に接続することによって、ステップ(b)を実施するようにさらに構成され、各差動スイッチは、前記位相伝送ラインのうちの少なくとも1つに関連付けられている、請求項25に記載のシステム。
【請求項36】
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、MEMSスイッチである、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、CMOSスイッチである、請求項35に記載のシステム。
【請求項38】
各組における前記差動スイッチまたは前記ビーム形成スイッチのうちの少なくとも一方は、順次、所定の順序においてアクティブにされる、請求項35に記載のシステム。
【請求項39】
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記所定の順序は、
初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、
前記差動スイッチの各々が、関連付けられた位相伝送ラインを別の位相伝送ラインに結合する
、差動スイッチの各組の最初の差動スイッチであった以前の回数によって決定される、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記所定の順序は、各スイッチ組における前記差動スイッチの各々が犠牲スイッチであった以前の回数に基づく、請求項39に記載のシステム。
【請求項42】
前記所定の順序は、
初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、
前記ビーム形成スイッチの各々が、アクティブにされた
、ビーム形成スイッチの各組の最初のビーム形成スイッチであった以前の回数によって決定される、請求項39に記載のシステム。
【請求項43】
第1のビーム形成スイッチが閉鎖されており、第2のビーム形成スイッチが開放している前記ビーム形成スイッチの組において、前記コントローラは、前記第2のビーム形成スイッチを閉鎖し、その後、前記第1のスイッチを開放することによって、ステップ(c)を実施するようにさらに構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項44】
ビーム形成スイッチの第1の群が閉鎖されており、ビーム形成スイッチの第2の群が開放している前記ビーム形成スイッチの組において、前記コントローラは、前記ビーム形成スイッチの第2の群を閉鎖し、その後、前記ビーム形成スイッチの第1の群を開放することによって、ステップ(c)を実施するようにさらに構成され、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチは、順次、所定の順序において閉鎖される、請求項25に記載のシステム。
【請求項45】
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、請求項44に記載のシステム。
【請求項46】
前記所定の順序は、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチの各々が最初に閉鎖されるべきであった以前の回数によって決定される、請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
前記所定の順序は、前記トランスデューサ要素の幾何学形状に基づく、請求項44に記載のシステム。
【請求項48】
前記幾何学形状は、前記超音波システムにおける前記トランスデューサ要素の相対的場所を含む、請求項47に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年10月5日に出願された米国特許出願第16/153,024号の優先権および利益を主張し、参照することによってその全体として本明細書に組み込む。
(発明の分野)
【0002】
本発明の分野は、概して、超音波システムに関し、より具体的に、微小電気機械システム(MEMS)技術を使用して製造されたスイッチを実装する超音波トランスデューサのフェーズドアレイを伴うシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
集束超音波(すなわち、約20kHzを上回る周波数を有る音響波)が、患者の体内組織を撮像および療法的に治療するために使用されることができる。例えば、超音波は、腫瘍のアブレーションを伴う用途において使用され、それによって、侵襲的外科手術、標的化された薬物送達、血液脳関門の制御、血餅の溶解、および他の外科手術手技の必要性を排除し得る。治療中、圧電セラミックトランスデューサが、患者の身体の内側、またはより一般的に、患者の外部であるが、アブレートされるべき組織(すなわち、標的)に近接近する場所のいずれかに設置される。トランスデューサは、電子駆動信号を機械的振動に変換し、音響波の放出をもたらす。トランスデューサは、それらが放出する超音波エネルギーが、集合的に、標的組織領域に対応する(またはその中の)「焦点区域」において集束ビームを形成するように、他のそのようなトランスデューサに加えて、幾何学的に成形および位置付けられ得る。代替として、または加えて、単一のトランスデューサが、その位相の各々が独立して制御され得る複数の個々に駆動されるトランスデューサ要素から形成され得る。そのような「フェーズドアレイ」トランスデューサは、トランスデューサ間の相対位相を調節することによって、焦点区域を異なる場所に操向することを促進する。本明細書で使用されるように、用語「要素」は、アレイ内の個々のトランスデューサまたは単一のトランスデューサの独立して駆動可能な部分のいずれかを意味する。
【0004】
例証として、
図1は、集束音響エネルギービームを発生させ、それを標的化領域102に送達するために使用される例示的集束超音波システム100の簡略化された略図である。システム100は、多数のトランスデューサ要素106と、フェーズドアレイ104内の要素106を駆動するビーム形成器108と、ビーム形成器108と通信するコントローラ110と、支持回路網(例えば、周波数発生器)112とを有するフェーズドアレイ104を含む。いくつかの実施形態では、システムは、解剖学的特性を決定する、および/または超音波が集束されるであろう標的領域102の治療効果を監視するための磁気共鳴映像(MRI)デバイス、コンピュータ断層撮影(CT)デバイス、陽電子放出断層撮影(PET)デバイス、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)デバイス、もしくは超音波検査デバイス等の撮像機114をさらに含む。
【0005】
アレイ104は、湾曲した(例えば、球状または放物線状の)形状を有し得るが、1つ以上の平面状もしくは別様に成形された区分を含み得る。その寸法は、用途に応じて、数ミリメートル~数十センチメートル変動し得る。アレイ104のトランスデューサ要素は、(図内でPZTとして示される)圧電セラミック要素であり得、要素間の機械的結合を減衰するために好適なシリコーンゴムまたは任意の他の材料内に搭載され得る。圧電複合材料、または、概して、電気エネルギーを音響エネルギーに変換することが可能な任意の材料も、使用され得る。
【0006】
トランスデューサアレイ104は、個々のトランスデューサ要素106が、集合的に、標的化領域102において集束超音波ビームまたは野を生産するように、それらを駆動するビーム形成器108に結合される。n個のトランスデューサ要素に関して、ビーム形成器108は、各々がトランスデューサアレイ104内のトランスデューサ要素のうちの1つを駆動する相対振幅と、位相とを有する駆動信号を含むn個の駆動部回路を含み得る。ビーム形成器108は、支持回路網(例えば、周波数発生器)112から、典型的に、0.1MHz~10MHzの範囲内の高周波(RF)入力信号を受信する。いくつかの実施形態では、周波数発生器112は、ビーム形成器108と統合される。高周波発生器112およびビーム形成器108は、同一の周波数であるが、異なる位相および/または異なる振幅においてトランスデューサアレイ104の個々のトランスデューサ要素106を駆動するように構成される。
【0007】
ビーム形成器108によって課される増幅または減衰係数α1-αnおよび位相シフトφ1-φnは、超音波エネルギーを選択された解剖学的領域(例えば、標的領域102)上に伝送および集束させる役割を果たす。増幅係数および位相シフトは、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、配線、またはそれらの任意の組み合わせを通して計算機能を提供し得るコントローラ110を使用して算出される。例えば、コントローラ110は、所望の焦点または任意の他の所望の空間野パターンを取得するために必要な位相シフトおよび増幅係数を決定するために、ソフトウェアを用いて従来の様式で、かつ過度の実験をすることなくプログラムされる汎用目的もしくは特殊目的デジタルデータプロセッサを利用し得る。
【0008】
したがって、コントローラ110は、どのトランスデューサ要素が任意の時間においてアクティブであるか、およびそれらに適用される信号の位相および振幅を決定する。これは、選択されたトランスデューサ要素106を対応する駆動回路120に結合すること、またはそれらを接地することによって、選択されたトランスデューサ要素106を迅速かつ確実に通電および非通電させることが可能であるスイッチマトリクス116を必要とする。スイッチは、駆動回路120が動作する高い信号振幅(例えば、
図1の設定では80V)に耐えること、システム雑音の影響を受けないままであること、および患者の安全性を確実にするために十分な信頼性を伴って動作することが可能でなければならない。そのような用途のための従来的な切り替えソリューションは、固体相補型金属酸化膜半導体(CMOS)スイッチおよび電気機械式中継器を含む。但し、標準的なシリコンベースのCMOSスイッチは、かなりの寄生容量および抵抗を被る。中継器は、他方で、限定された作動寿命、限定される数のチャネル、および大きいパッケージサイズを有する。微小電気機械システム(MEMS)技術に基づくスイッチは、数十年にわたって公知であるが、最近になってようやく、高い性能をもたらす市販のデバイスとして入手可能な状態になってきた。MEMSスイッチは、非常に多数のオン/オフサイクルに耐え得る非常に小型の形状因子および非常に小さい作動移動をもたらす。
【0009】
特に、MEMSスイッチは、静電的に作動され、微小機械加工されたカンチレバービーム切り替え要素を典型的に利用し、カンチレバービーム切り替え要素は、事実上、静電気を介して作動される金属間接点を伴うマイクロメートルスケールの機械的中継器として動作する。MEMSスイッチの終端は、ソース、ゲート、およびドレインと考えられることができる。DC電圧が、ゲートに印加されると、静電引き下げ力がスイッチビーム上に発生させられる。ゲート電圧が、十分に高い値まで増大すると、それは、スイッチビームの抵抗ばね力を克服するために十分な誘引力を生成し、ビームは、接点がドレインに触れ、スイッチをオンにするまで、下に移動し始める。ゲート電圧が、除去されると、静電誘引力は、消失し、スイッチビームは、ソースとドレインとの間の接続を開放するための十分な復元力を伴うばねとしての機能を果たし、それによって、スイッチをオフにする。
【0010】
医療用デバイスの信頼性要件に伴って、上で説明されるもの等のシステムの中に多数展開されると、MEMSスイッチから構成されるスイッチマトリクスは、ある限界を示し得る。例えば、超音波パラメータ(例えば、位相シフト)が、従来のシステム内で調節されると、概して、トランスデューサ要素106は、単に、スイッチマトリクス116内の対応するビーム形成スイッチを開放することを介して、超音波制御回路網から接続解除される。接続解除されると、電圧が、RF信号、反射、および/または熱的もしくは機械的応力等の種々の源からスイッチ上に存在し得、これは、時期尚早な故障を受け得る「ホット」スイッチをもたらし得る。一般に、MEMSスイッチは、作動中にスイッチ接点上に存在する切り替え電圧に敏感である。例えば、切り替え電圧が、1Vを下回るとき、MEMSスイッチの寿命は、10億回のサイクルを上回り得る一方、切り替え電圧が、10Vまで上昇される場合、スイッチ寿命は、1億回のサイクルを下回るように降下し得る。したがって、MEMSスイッチ内の切り替え電圧を最小化することが、望ましい。故に、作動中、信頼性または切り替え速度を損なうことなくMEMSスイッチ内の切り替え電圧を最小化する、アプローチの必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、スイッチマトリクス内のビーム形成スイッチの切り替え電圧を限定する様式において、超音波システムを動作させるためのシステムおよび方法を提供する。本明細書で使用されるように、ビーム形成スイッチの状態を変化させるステップは、例えば、標的焦点プロファイル(例えば、標的焦点強度、焦点形状、焦点サイズ、および/または焦点場所)を伴う1つ以上の所望の標的場所において1つ以上の焦点を発生させるために、種々の位相伝送ラインを電気的接地もしくは同一または異なるトランスデューサ要素に結合するステップを含み得る。時として、「コールド切り替え」と称される、本アプローチは、(特定のMEMSスイッチ内の)ビーム形成スイッチの寿命を向上させ、それによって、有利なこととして、超音波システムの信頼性および耐久性を改良する。
【0012】
スイッチ寿命が、特定のスイッチ上の絶対的電圧レベルを最小化することによってだけではなく、同一のトランスデューサ要素に接続される、複数のスイッチ間の電圧差も最小化することによって、延長され得ることが見出されている。すなわち、並列に接続されるスイッチ間の電圧差は、低い全体的電圧においても有害であり得る。
【0013】
上で解説されるように、超音波トランスデューサ要素は、所望の場所において焦点を生産するように算出される位相において駆動される。典型的システムでは、トランスデューサ毎に正しい位相を伴う別個の信号を発生させるのではなく、信号発生器によって生産される、時変(例えば、正弦波)駆動部信号が、一連の位相伝送ラインを通して給送され、異なる位相オフセットを有する基礎信号のセットを生産する。これらの位相伝送ラインは、所望の位相においてトランスデューサ要素を駆動するようにトランスデューサ要素に選択的に結合され、それによって、所望の場所(例えば、標的領域)において焦点を発生させる。これを遂行するために、各トランスデューサ要素は、数が基礎信号の数に等しい、ビーム形成スイッチの専用のセットによって供与される。(その結果、スイッチマトリクス内のスイッチの数は、基礎信号の数×トランスデューサ要素の数である。)結果として、トランスデューサ要素は全て、ビーム形成スイッチの組に並列に接続され、トランスデューサ要素毎に、ビーム形成スイッチのうちの1つのみが、各セット内でアクティブ化(または閉鎖)される。閉鎖されたビーム形成スイッチは、全てのトランスデューサ要素の出力が、所望の焦点を達成するであろうように、トランスデューサ要素を適切な基礎信号に接続する。本発明の実施形態に従って、予防措置が、各組におけるスイッチに対して講じられる。例えば、超音波焦点を変化させるためにトランスデューサ要素へのスイッチの接続パターンを変更する時間になると、信号発生器によって生産される電圧は、最初に低減させられ得る(必ずしもゼロまでである必要はない)。現在閉鎖されているビーム形成スイッチが、本時点において開放される場合、電圧が、スイッチ上に存在し、それによって、それに損傷を引き起こし得る。加えて、トランスデューサ要素のそれぞれに関して、後に開放されるべき現在閉鎖されているスイッチと後に閉鎖されるべき現在開放しているスイッチとの間の電圧差は、有害であり得る。故に、種々の実施形態では、ビーム形成スイッチを横断する電圧は、例えば、後に開放された変化状態になるべき現在閉鎖されているスイッチの前、順次、(新しいスイッチパターンに従って)後に要素毎に閉鎖されるべきビーム形成スイッチを閉鎖することによって、低減させられ得る。このように、接地または他の電圧低減手段は、個々のトランスデューサ要素に関連付けられるビーム形成スイッチ全てが、現在閉鎖されているスイッチが開放される前、(本電圧が、ゼロボルトではない場合でも)実質的に同一の電圧における状態になるであろうように、均一な効果を有するであろう。手技が、順次的であるため、ビーム形成スイッチのうちのいくつかのものが、手技が毎回同様に繰り返される場合、他のものより経時的に多くの累積的電圧を被るであろう。したがって、大抵は、スイッチが、類似の電圧負荷に暴露されることを確実にするための放電方略が、採用され得る。
【0014】
加えて、または代替として、異なる位相伝送ラインの出力は、スイッチ間の電圧が、位相差によって影響を及ぼされないであろうように、1つのものから次のものに徐々に結合され得る。本順次的結合は、位相発生器において、または差動スイッチによって起こり得、各差動スイッチは、位相伝送ラインに関連付けられ得、位相伝送ラインを接地、コモン電圧、もしくは別の伝送ラインに結合し得る。故に、結合される伝送ライン(それによって、それに関連付けられるビーム形成スイッチ)の間の電圧差は、排除され(または少なくとも低減させられ)得る。いくつかの実施形態では、位相伝送ラインの順次的結合は、新しいスイッチパターンに従って後に閉鎖されるべきビーム形成スイッチを閉鎖することに先立って生じてもよい。ある差動スイッチが、犠牲スイッチとして指定されてもよく、方略は、電圧負荷を、便宜的にともに交換される、犠牲スイッチ上に集中させるように逆転される。
【0015】
1つの実装では、信号発生器の出力電圧が低減させられる、第1の段階では、超音波システムは、反射エネルギーの実質的部分(例えば、90%、80%、または70%)が消散するまで、ある持続時間(例えば、1マイクロ秒~1ミリ秒)にわたって、その現在の状態(例えば、超音波処理の現在のパターンを送達する)に留まってもよい。一実施形態では、反射エネルギーは、測定された電圧が、例えば、±0.5Vよりゼロに近接しているとき、実質的に消散したと決定される。続いて、新しいスイッチパターンに従って閉鎖されるべきビーム形成スイッチは、閉鎖され得る。加えて、または代替として、位相伝送ラインは、例えば、差動スイッチを使用して、順次、1つのものから別のものに結合され得る。本明細書で使用されるように、差動スイッチは、結合された伝送ライン上の電圧を実質的に等しくするように、位相伝送ラインを接地または互いに結合する、スイッチを指す。差動スイッチは、MEMSスイッチまたはCMOSスイッチであってもよい。現在アクティブにされているビーム形成スイッチの全てにおける電圧が、例えば、±0.5V(またはそれ未満の値)よりゼロに近い、もしくはビーム形成スイッチが、静定されたと見なされ得るようになって初めて、スイッチパターンが、異なる基礎信号がここでトランスデューサ要素に接続され、新しい場所において焦点を生産するように変更される。超音波システムは、次いで、治療手技に従って、新しい焦点にエネルギーを伝送する準備ができる。
【0016】
故に、1つの側面では、本発明は、(i)複数のトランスデューサ要素と、(ii)複数の位相伝送ラインに接続された位相発生器と、(iii)位相伝送ラインのうちの種々のものをトランスデューサ要素に切り替え可能に接続するための複数のビーム形成スイッチを含む、スイッチマトリクスであって、トランスデューサ要素の各々は、各々が異なる位相伝送ラインに接続されたビーム形成スイッチの組に関連付けられており、初期のスイッチアクティブ化パターンに従って、ビーム形成スイッチのうちのいくつかは、開放しており、ビーム形成スイッチのうちのいくつかは、閉鎖している、スイッチマトリクスとを含む、超音波システムにおける信頼性を改良する方法に関する。種々の実施形態では、本方法は、(a)位相発生器における位相間の差動電圧を低減させることと、(b)ビーム形成スイッチの近くにおける位相間の差動電圧を低減させることと、(c)ステップ(a)および(b)に続いて、初期のスイッチアクティブ化パターンを改変することとを含む。1つの実装では、ステップ(a)における差動電圧は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する第1の所定の閾値を下回るように低減させられる。加えて、ステップ(b)における差動電圧は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する第2の所定の閾値を下回るように低減させられ得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、ステップ(a)および(b)を実施した後、かつステップ(c)を実施する前、一時停止するステップを含む。一時停止するステップは、環境条件(例えば、周囲RFレベルまたはトランスデューサ要素からの反射)および/または超音波処理パラメータ(例えば、トランスデューサ要素のうちの1つから伝送されるパルスの振幅)によって決定される持続時間を有し得る。本明細書で使用されるように、用語「周囲RFレベル」は、超音波トランスデューサに近接して据え付けられるRF検出デバイスによって検出可能なRF信号を意味する。加えて、本方法は、閉鎖されたスイッチにおける電圧を監視するステップであって、環境条件は、監視される電圧の大きさである、ステップを含み得る。加えて、または代替として、本方法はさらにステップ(a)を実施した後、かつステップ(b)を実施する前、一時停止するステップを含み得る。
【0018】
種々の実施形態では、ステップ(b)が、複数の差動スイッチを使用して、位相伝送ラインを徐々に一緒に接続することによって実施され、各差動スイッチは、1つ以上の位相伝送ラインに関連付けられる。加えて、1つ以上のビーム形成スイッチおよび/または1つ以上の差動スイッチは、MEMSスイッチであってもよい。代替として、1つ以上のビーム形成スイッチおよび/または1つ以上の差動スイッチは、CMOSスイッチであってもよい。一実施形態では、各組における差動スイッチおよび/またはビーム形成スイッチは、順次、所定の順序においてアクティブにされる。所定の順序は、以前の切り替え順序に基づいてもよい。例えば、所定の順序は、差動スイッチの各々が、初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、関連付けられた位相伝送ラインを別の位相伝送ラインに結合する第1の差動スイッチであった以前の回数によって決定される。加えて、または代替として、所定の順序は、ビーム形成スイッチの各々が、初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、アクティブにされた、第1のビーム形成スイッチであった以前の回数によって決定され得る。1つの実装では、所定の順序は、各スイッチ組における差動スイッチの各々が犠牲スイッチであった以前の回数に基づく。
【0019】
いくつかの実施形態では、第1のビーム形成スイッチが閉鎖されており、第2のビーム形成スイッチが開放しているビーム形成スイッチの組において、ステップ(c)は、第2のビーム形成スイッチを閉鎖することと、その後、第1のスイッチを開放することとを含む。加えて、ビーム形成スイッチの第1の群が閉鎖されており、ビーム形成スイッチの第2の群が開放しているビーム形成スイッチの組において、ステップ(c)は、ビーム形成スイッチの第2の群を閉鎖することと、その後、ビーム形成スイッチの第1の群を開放することとを含んでもよく、第2の群におけるビーム形成スイッチは、順次、所定の順序において閉鎖される。再び、所定の順序は、以前の切り替え順序に基づいてもよい。例えば、所定の順序は、第2の群におけるビーム形成スイッチの各々が最初に閉鎖されるべきであった以前の回数によって決定され得る。加えて、または代替として、所定の順序は、トランスデューサ要素の幾何学形状(例えば、トランスデューサアレイ内のトランスデューサ要素の相対的場所)に基づいてもよい。
【0020】
別の側面では、本発明は、超音波システムであって、フェーズドアレイとして集合的に動作可能な複数のトランスデューサ要素を有する、超音波トランスデューサと、位相発生器と、位相発生器に接続された複数の位相伝送ラインであって、位相伝送ラインの各々は、所定の位相シフトを有する、複数の位相伝送ラインと、位相伝送ラインのうちの種々のものをトランスデューサ要素に選択可能に結合するためのビーム形成スイッチのマトリクスであって、トランスデューサ要素の各々は、各々が異なる位相伝送ラインに接続されたビーム形成スイッチの組に関連付けられている、ビーム形成スイッチのマトリクスと、コントローラとを含む、超音波システムに関する。種々の実施形態では、コントローラは、(a)位相発生器における位相間の差動電圧を低減させ(例えば、位相発生器の平均電圧レベルを第1の所定の閾値を下回るように低減させ)、(b)ビーム形成スイッチの各組に関して、ビーム形成スイッチの近傍における位相間の差動電圧を低減させ(例えば、ビーム形成スイッチ間の最大電圧差を第2の所定の閾値を下回るように低減させ)、(c)電圧レベルが、第1の所定の閾値を下回り、電圧差が、第2の所定の閾値を下回るときを検出し、その後すぐに、スイッチの開放しているものおよび閉鎖しているもののアクティブ化パターンを改変するように構成される。1つの実装では、第1の所定の閾値は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する。加えて、第2の所定の閾値は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する。
【0021】
いくつかの実施形態では、コントローラはさらに、ステップ(a)および(b)を実施した後、かつステップ(c)を実施する前、超音波システムを一時停止する(例えば、ビーム形成スイッチ状態を変化させることを遅延させる)ように構成される。コントローラはさらに、環境条件(例えば、周囲RFレベルまたはトランスデューサ要素からの反射)および/または超音波処理パラメータ(例えば、トランスデューサ要素のうちの1つから伝送されるパルスの振幅)によって決定される持続時間にわたって、超音波システムを一時停止するように構成され得る。本明細書で使用されるように、用語「周囲RFレベル」は、超音波トランスデューサに近接して据え付けられるRF検出デバイスによって検出可能なRF信号を意味する。加えて、コントローラはさらに、閉鎖されたスイッチにおける電圧を監視するように構成されてもよく、環境条件は、監視される電圧の大きさである。加えて、または代替として、コントローラはさらに、ステップ(a)を実施した後、かつステップ(b)を実施する前、超音波システムを一時停止するように構成され得る。
【0022】
種々の実施形態では、コントローラはさらに、差動スイッチの複数の組を使用して位相伝送ラインを徐々に一緒に接続することによって、ステップ(b)を実施するように構成され、各差動スイッチは、位相伝送ラインのうちの少なくとも1つに関連付けられる。加えて、1つ以上のビーム形成スイッチおよび/または1つ以上の差動スイッチは、MEMSスイッチであってもよい。代替として、1つ以上のビーム形成スイッチおよび/または1つ以上の差動スイッチは、CMOSスイッチであってもよい。一実施形態では、各組における差動スイッチおよび/またはビーム形成スイッチは、順次、所定の順序においてアクティブにされる。所定の順序は、以前の切り替え順序に基づいてもよい。例えば、所定の順序は、差動スイッチの各々が、初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、関連付けられた位相伝送ラインを別の位相伝送ラインに結合する第1の差動スイッチであった以前の回数によって決定される。加えて、または代替として、所定の順序は、ビーム形成スイッチの各々が、初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、アクティブにされた、第1のビーム形成スイッチであった以前の回数によって決定され得る。1つの実装では、所定の順序は、各スイッチ組における差動スイッチの各々が犠牲スイッチであった以前の回数に基づく。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1のビーム形成スイッチが閉鎖されており、第2のビーム形成スイッチが開放しているビーム形成スイッチの組において、コントローラはさらに、第2のビーム形成スイッチを閉鎖し、その後、第1のスイッチを開放することによって、ステップ(c)を実施するように構成される。加えて、ビーム形成スイッチの第1の群が閉鎖されており、ビーム形成スイッチの第2の群が開放しているビーム形成スイッチの組において、コントローラはさらに、ビーム形成スイッチの第2の群を閉鎖し、その後、ビーム形成スイッチの第1の群を開放することによって、ステップ(c)を実施するように構成され、第2の群におけるビーム形成スイッチは、順次、所定の順序において閉鎖される。再び、所定の順序は、以前の切り替え順序に基づいてもよい。例えば、所定の順序は、第2の群におけるビーム形成スイッチの各々が最初に閉鎖されるべきであった以前の回数によって決定され得る。加えて、または代替として、所定の順序は、トランスデューサ要素の幾何学形状(例えば、トランスデューサアレイ内のトランスデューサ要素の相対的場所)に基づいてもよい。
【0024】
本明細書で使用されるように、用語「実質的に」は、±10%、いくつかの実施形態では、±5%を意味する。本明細書全体を通した「一実施例」、「ある実施例」、「一実施形態」、または「ある実施形態」という言及は、実施例に関連して説明される、特定の特徴、構造、もしくは特性が、本技術の少なくとも1つの実施例内に含まれることを意味する。したがって、本明細書内全体を通した種々の場所における語句「一実施例では」、「ある実施例では」、「一実施形態」、または「ある実施形態」の表出は、必ずしも全て、同一の実施例を参照するわけではない。さらに、特定の特徴、構造、ルーチン、ステップ、または特性は、本技術の1つ以上の実施例において任意の好適な様式で組み合わせられてもよい。本明細書に提供される見出しは、便宜のためにすぎず、請求される技術の範囲または趣意を限定もしくは解釈することを意図されるものではない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
超音波システムにおける信頼性を改良する方法であって、前記超音波システムは、
(i)複数のトランスデューサ要素と、
(ii)複数の位相伝送ラインに接続された位相発生器と、
(iii)スイッチマトリクスと
を備え、
前記スイッチマトリクスは、前記位相伝送ラインのうちの種々のものを前記トランスデューサ要素に切り替え可能に接続するための複数のビーム形成スイッチを備え、前記トランスデューサ要素の各々は、各々が異なる位相伝送ラインに接続されたビーム形成スイッチの組に関連付けられており、初期のスイッチアクティブ化パターンに従って、前記ビーム形成スイッチのうちのいくつかは、開放しており、前記ビーム形成スイッチのうちのいくつかは、閉鎖しており、
前記方法は、
(a)前記位相発生器における位相間の差動電圧を低減させることと、
(b)前記ビーム形成スイッチの近くにおける位相間の差動電圧を低減させることと、
(c)ステップ(a)および(b)に続いて、初期のスイッチアクティブ化パターンを改変することと
を含む、方法。
(項目2)
ステップ(a)における前記差動電圧は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する第1の所定の閾値を下回るように低減させられる、項目1に記載の方法。
(項目3)
ステップ(b)における前記差動電圧は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する第2の所定の閾値を下回るように低減させられる、項目1に記載の方法。
(項目4)
ステップ(a)および(b)を実施した後、かつステップ(c)を実施する前、一時停止するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記一時停止するステップは、環境条件または超音波処理パラメータのうちの少なくとも一方によって決定される持続時間を有する、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記環境条件は、周囲RFレベルである、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記環境条件は、前記トランスデューサ要素からの反射である、項目5に記載の方法。
(項目8)
閉鎖されたスイッチにおける電圧を監視するステップをさらに含み、前記環境条件は、前記監視される電圧の大きさである、項目5に記載の方法。
(項目9)
前記超音波処理パラメータは、前記トランスデューサ要素のうちの1つから伝送されるパルスの振幅を含む、項目5に記載の方法。
(項目10)
ステップ(a)を実施した後、かつステップ(b)を実施する前、一時停止するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
ステップ(b)は、差動スイッチの複数の組を使用して前記位相伝送ラインを徐々に一緒に接続することによって実施され、各差動スイッチは、前記位相伝送ラインのうちの少なくとも1つに関連付けられている、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、MEMSスイッチである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、CMOSスイッチである、項目11に記載の方法。
(項目14)
各組における前記差動スイッチまたは前記ビーム形成スイッチのうちの少なくとも一方は、順次、所定の順序においてアクティブにされる、項目11に記載の方法。
(項目15)
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記所定の順序は、前記差動スイッチの各々が、前記初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、関連付けられた位相伝送ラインを別の位相伝送ラインに結合する前記第1の差動スイッチであった以前の回数によって決定される、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記所定の順序は、各スイッチ組における前記差動スイッチの各々が犠牲スイッチであった以前の回数に基づく、項目15に記載の方法。
(項目18)
前記所定の順序は、前記ビーム形成スイッチの各々が、前記初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、アクティブにされた前記第1のビーム形成スイッチであった以前の回数によって決定される、項目15に記載の方法。
(項目19)
第1のビーム形成スイッチが閉鎖されており、第2のビーム形成スイッチが開放している前記ビーム形成スイッチの組において、ステップ(c)は、前記第2のビーム形成スイッチを閉鎖することと、その後、前記第1のスイッチを開放することとを含む、項目1に記載の方法。
(項目20)
ビーム形成スイッチの第1の群が閉鎖されており、ビーム形成スイッチの第2の群が開放している前記ビーム形成スイッチの組において、ステップ(c)は、前記ビーム形成スイッチの前記第2の群を閉鎖することと、その後、前記ビーム形成スイッチの前記第1の群を開放することとを含み、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチは、順次、所定の順序において閉鎖される、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記所定の順序は、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチの各々が最初に閉鎖されるべきであった以前の回数によって決定される、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記所定の順序は、前記トランスデューサ要素の幾何学形状に基づく、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記幾何学形状は、前記超音波システムにおける前記トランスデューサ要素の相対的場所を含む、項目23に記載の方法。
(項目25)
超音波システムであって、前記システムは、
フェーズドアレイとして集合的に動作可能な複数のトランスデューサ要素を備えている超音波トランスデューサと、
位相発生器と、
前記位相発生器に接続された複数の位相伝送ラインであって、前記位相伝送ラインの各々は、所定の位相シフトを有する、複数の位相伝送ラインと、
前記位相伝送ラインのうちの種々のものを前記トランスデューサ要素に選択可能に結合するためのビーム形成スイッチのマトリクスであって、前記トランスデューサ要素の各々は、各々が異なる位相伝送ラインに接続されたビーム形成スイッチの組に関連付けられている、ビーム形成スイッチのマトリクスと、
コントローラと
を備え、
前記コントローラは、
(a)前記位相発生器の平均電圧レベルを第1の所定の閾値を下回るように低減させることと、
(b)ビーム形成スイッチの各組に関して、前記ビーム形成スイッチ間の最大電圧差を第2の所定の閾値を下回るように低減させることと、
(c)前記電圧レベルが前記第1の所定の閾値を下回り、前記電圧差が前記第2の所定の閾値を下回るときを検出し、その後すぐに、前記スイッチの開放しているものおよび閉鎖しているもののアクティブ化パターンを改変することと
を行うように構成されている、システム。
(項目26)
前記第1の所定の閾値は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する、項目25に記載のシステム。
(項目27)
前記第2の所定の閾値は、±0.5Vよりゼロに近い電圧に対応する、項目25に記載のシステム。
(項目28)
前記コントローラは、ステップ(a)および(b)を実施した後、かつステップ(c)を実施する前、前記超音波システムを一時停止するようにさらに構成されている、項目25に記載のシステム。
(項目29)
前記コントローラは、環境条件または超音波処理パラメータのうちの少なくとも一方によって決定される持続時間にわたって、前記超音波システムを一時停止するようにさらに構成されている、項目28に記載のシステム。
(項目30)
前記環境条件は、周囲RFレベルである、項目29に記載のシステム。
(項目31)
前記環境条件は、前記トランスデューサ要素からの反射である、項目29に記載のシステム。
(項目32)
前記コントローラは、閉鎖されたスイッチにおける電圧を監視するようにさらに構成され、前記環境条件は、前記監視される電圧の大きさである、項目29に記載のシステム。
(項目33)
前記超音波処理パラメータは、前記トランスデューサ要素のうちの1つから伝送されるパルスの振幅を含む、項目29に記載のシステム。
(項目34)
前記コントローラは、ステップ(a)を実施した後、かつステップ(b)を実施する前、前記超音波システムを一時停止するようにさらに構成されている、項目25に記載のシステム。
(項目35)
前記コントローラは、差動スイッチの複数の組を使用して前記位相伝送ラインを徐々に一緒に接続することによって、ステップ(b)を実施するようにさらに構成され、各差動スイッチは、前記位相伝送ラインのうちの少なくとも1つに関連付けられている、項目25に記載のシステム。
(項目36)
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、MEMSスイッチである、項目35に記載のシステム。
(項目37)
前記ビーム形成スイッチまたは前記差動スイッチのうちの少なくとも一方は、CMOSスイッチである、項目35に記載のシステム。
(項目38)
各組における前記差動スイッチまたは前記ビーム形成スイッチのうちの少なくとも一方は、順次、所定の順序においてアクティブにされる、項目35に記載のシステム。
(項目39)
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、項目38に記載のシステム。
(項目40)
前記所定の順序は、前記差動スイッチの各々が、初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、関連付けられた位相伝送ラインを別の位相伝送ラインに結合する前記第1の差動スイッチであった以前の回数によって決定される、項目39に記載のシステム。
(項目41)
前記所定の順序は、各スイッチ組における前記差動スイッチの各々が犠牲スイッチであった以前の回数に基づく、項目39に記載のシステム。
(項目42)
前記所定の順序は、前記ビーム形成スイッチの各々が、初期のスイッチアクティブ化パターンを新しいスイッチアクティブ化パターンに変更するとき、アクティブにされた前記第1のビーム形成スイッチであった以前の回数によって決定される、項目39に記載のシステム。
(項目43)
第1のビーム形成スイッチが閉鎖されており、第2のビーム形成スイッチが開放している前記ビーム形成スイッチの組において、前記コントローラは、前記第2のビーム形成スイッチを閉鎖し、その後、前記第1のスイッチを開放することによって、ステップ(c)を実施するようにさらに構成されている、項目25に記載のシステム。
(項目44)
ビーム形成スイッチの第1の群が閉鎖されており、ビーム形成スイッチの第2の群が開放している前記ビーム形成スイッチの組において、前記コントローラは、前記ビーム形成スイッチの第2の群を閉鎖し、その後、前記ビーム形成スイッチの第1の群を開放することによって、ステップ(c)を実施するようにさらに構成され、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチは、順次、所定の順序において閉鎖される、項目25に記載のシステム。
(項目45)
前記所定の順序は、以前の切り替え順序に基づく、項目44に記載のシステム。
(項目46)
前記所定の順序は、前記第2の群における前記ビーム形成スイッチの各々が最初に閉鎖されるべきであった以前の回数によって決定される、項目45に記載のシステム。
(項目47)
前記所定の順序は、前記トランスデューサ要素の幾何学形状に基づく、項目44に記載のシステム。
(項目48)
前記幾何学形状は、前記超音波システムにおける前記トランスデューサ要素の相対的場所を含む、項目47に記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図面では、同様の参照記号は、概して、異なる図全体を通して同一の部分を指す。また、図面は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、概して、発明の概念の原理を図示することに強調が置かれている。以下の説明では、本発明の種々の実施形態は、以下の図面を参照して説明される。
【0026】
【
図1】
図1は、従来技術において説明される集束超音波システムを図示する。
【0027】
【
図2A】
図2Aおよび2Bは、種々の実施形態による、例示的集束超音波システムを図式的に描写する。
【
図2B】
図2Aおよび2Bは、種々の実施形態による、例示的集束超音波システムを図式的に描写する。
【0028】
【
図2C】
図2Cおよび2Dは、種々の実施形態による、種々の位相値を伴うトランスデューサ要素を駆動するためのビーム形成スイッチおよび差動スイッチの代表的セットを図示する。
【
図2D】
図2Cおよび2Dは、種々の実施形態による、種々の位相値を伴うトランスデューサ要素を駆動するためのビーム形成スイッチおよび差動スイッチの代表的セットを図示する。
【0029】
【
図2E】
図2Eは、種々の実施形態による、標的領域において音響エネルギーへの異なる寄与をもたらすトランスデューサ要素を含む集束超音波システムを描写する。
【0030】
【
図3A】
図3Aおよび3Bは、種々の実施形態による、スイッチマトリクスを有する超音波システムにおける信頼性を改良するための種々のアプローチを図示するフローチャートである。
【
図3B】
図3Aおよび3Bは、種々の実施形態による、スイッチマトリクスを有する超音波システムにおける信頼性を改良するための種々のアプローチを図示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の種々の実施形態による、フェーズドアレイ超音波トランスデューサは、典型的に、その線形寸法が、一般に、動作の間に発生させられる音響波の波長以下である、多数の(例えば、数百から数千までの)個々のトランスデューサ要素を含む。小型トランスデューサ要素を使用することは、大きい体積にわたる、音響ビームの3次元における操向性、すなわち、焦点深度および側方焦点位置の両方の操向の増加をもたらす。例えば、波長の半分以下のトランスデューサ要素寸法を用いることで、各方向における操向角(すなわち、達成され得るトランスデューサ表面の法線に対する最大角度)は、±π/2であり、これは、完全な半球にわたる動作を促進する。ある実施形態では、トランスデューサ要素は、均一なサイズおよび形状であり、等方性アレイを形成するように(例えば、タイル方式において)均一に配列される。他の実施形態では、トランスデューサ要素は、種々のサイズおよび/または形状であり、臨床的用途および/またはトランスデューサ要素が近接して設置される患者の身体の形状および場所に応じて、任意の好適な様式において配列され得る。
【0032】
図2Aは、本発明の種々の実施形態による、例示的集束超音波システム200を図式的に描写する。従来のシステムと同様に、システム200は、複数のトランスデューサ要素206のフェーズドアレイ204と、フェーズドアレイ204を駆動する、ビーム形成器208と、ビーム形成器208と通信する、コントローラ210と、支持回路網(例えば、周波数発生器、位相発生器、および/または任意の他の好適なコンポーネント)212と含む。一実施形態では、位相発生器212は、AC信号源214と、位相伝送ラインの集合216とを含む。位相伝送ラインは、AC信号を受信し、異なる相対位相における信号(または「基礎」信号)を出力し、これらは、ビーム形成器208に提供される。加えて、位相監視回路218が、1つのトランスデューサ要素206に結合される、各伝送ライン216内の位相値を監視するために実装され得る。典型的な展開では、ビーム形成器208は、ゲート駆動部222から伝送される信号に基づいて、選択的に、位相伝送ライン216のいずれかをトランスデューサ要素206のうちのそれぞれ1つに結合させ、およびそれから結合解除するための複数のビーム形成スイッチを有する、切り替えマトリクス220を含む。ビーム形成スイッチは、例えば、電気スイッチ(例えば、トランジスタ)および/または機械スイッチであってもよい。1つの実装では、ビーム形成スイッチは、微小電気機械システム(MEMS)技術を使用して製造される(したがって、本明細書では、MEMSスイッチと称される)。代替として、ビーム形成スイッチは、CMOSスイッチであってもよい。
【0033】
治療中の任意の瞬間においてトランスデューサ要素206毎にアクティブであるべきスイッチのパターンを決定するために、コントローラ210は、コントローラ210自体または別個のコンピュータ上で起動するアプリケーション226からデータを受信し得る。アプリケーション226は、リアルタイムのデータおよび計画立案データを提供し得る。例えば、計画立案データは、各標的場所における所望の焦点経路およびその滞留時間を含む、焦点の軌道を規定し、コントローラ210が、焦点を発生させ、これに計画立案される軌道を横断させるために個々のトランスデューサ要素に適用されるべき位相を算出することを可能にし得る。完璧である計画は、存在しないため、治療中に取得されるリアルタイムのデータ(例えば、撮像データ)が、コントローラ210が、治療が適用されるにつれて遭遇される、実際の条件に適応するために、計画立案された軌道を修正すること可能にし得る。
【0034】
種々の実施形態では、各ビーム形成スイッチは、アクティブ化に応じて(すなわち、「閉鎖される」と)、位相伝送ライン216をトランスデューサ要素206に電気的に結合する。MEMSゲート駆動部222は、個々のトランスデューサ要素206が対応する設定を用いて駆動されるとき、集束超音波ビームが、集合的に、所望の場所(例えば、標的場所102)において生産されるように、トランスデューサ要素206を駆動する信号の相対位相を設定する。
図2Bを参照すると、一実施形態では、位相伝送ライン216は、要素206に対して利用可能な位相値をいくつかの離散値に限定することによって単純化される。例えば、それぞれ、φ
1、φ
2、φ
3、・・・、φ
8の位相値に対応する8つの「基礎」信号を有する、8つの位相伝送ライン216が、存在し得、8つの位相値は、集合的に、0~2πの範囲を網羅する。各トランスデューサ要素206は、したがって、8つの位相値のうちの1つによって駆動され得る。本アプローチは、有利なこととして、回路の複雑性および費用を低減させ得る。加えて、ビーム形成器208および/またはコントローラ210は、位相発生器212に、各伝送ライン216内の位相値を変化させてもよい。例えば、8つの位相伝送ライン216は、それぞれ、φ
1+Δφ、φ
2+Δφ、φ
3+Δφ、・・・、φ
8+Δφの位相値を有し得る。
【0035】
種々のアプローチが、所望の位相値を用いてトランスデューサ要素206を駆動するために採用され得る。例えば、各トランスデューサ要素206は、ビーム形成スイッチ220を介して位相伝送ライン216のうちの1つのみ、すなわち、所望の位相値を有するものに結合され得る。ビーム形成スイッチを介して位相伝送ラインのうちの選択されるものをトランスデューサ要素に選択的に結合することによって、集束ビームは、種々の経路に沿って、および/または種々の標的場所において操向されることができる。
【0036】
図2Cは、ビーム形成スイッチ220の代表的な編成および動作を図示する。単純化のために、2つのトランスデューサ要素206が、E
1およびE
2と標識され、(8つではなく)3つの位相分離基礎信号φ
1、φ
2、φ
3によって駆動されるものとして示されている。トランスデューサ要素E
1およびE
2は、それぞれ、ビーム形成スイッチ250、252の専用のセットによって選択的に信号に結合される、すなわち、スイッチ250、252の各セットは、スイッチマトリクス220内に位置するが、特定のトランスデューサ要素専用である。
図2Cでは、スイッチ250
1および252
1が、閉鎖され、他のスイッチが、開放しており、そのため、E
1およびE
2が、信号φ
1のみを受信する。他のトランスデューサ要素は、それに関連付けられるスイッチセットの状態に応じて、異なる信号またはそれらの組み合わせを受信する、もしくは全く信号を受信しない場合がある。スイッチ250、252は、電気スイッチ(例えば、トランジスタ)および/または機械スイッチであってもよい。1つの実装では、スイッチ250、252は、MEMSスイッチである。別の実装では、スイッチ250、252は、CMOSスイッチである。代替として、スイッチ250、252は、MEMSスイッチおよびCMOSスイッチの組み合わせを含み得る。
【0037】
トランスデューサ要素(要素E1、E2を含む)は、トランスデューサ表面の単一の隣接面積を形成する、または複数の非隣接表面部分を含み得る。種々のトランスデューサ要素に専用のスイッチセットは、別個に制御可能である、すなわち、各トランスデューサ要素は、標的領域102において治療目標を達成するように、他の要素の周波数および/または位相から独立している、周波数および/または位相を伴う超音波パルスを放出することが独立して可能である。
【0038】
トランスデューサ要素206(またはトランスデューサ要素の群)から伝送される音響パルスが、標的領域102において焦点区域を発生させることに先立って、トランスデューサアレイ204と標的領域102との間に位置する、超音波媒体および/または介在組織を横断し得る。しかしながら、超音波媒体および/または介在組織の不均質性は、パルス内に音響収差を引き起こし、焦点区域における音響エネルギーの強度を減少させ、焦点プロファイルを歪曲し得、さらに焦点区域の場所を移動させ得る。故に、種々の実施形態では、トランスデューサ要素(またはトランスデューサ要素の群)の位相シフトは、音響収差を考慮するために調節される。加えて、トランスデューサ要素の位相シフトは、焦点区域を異なる場所に操向するために調節される。本アプローチは、各々が焦点区域に対応する、複数の小領域の中断が必要であるように、標的領域が大きい体積に及ぶとき、および/または複数の標的領域が治療のために識別されるときに必要となり得る。
【0039】
トランスデューサ要素の位相シフトを調節するために、トランスデューサ要素に関連付けられるビーム形成スイッチは、現在結合されている位相伝送ライン216からトランスデューサ要素206を接続解除するために非アクティブ化(または「開放」)され、続いて、コントローラ210によって決定される所望の新しい値に対応する位相シフトを有する、位相伝送ライン216にトランスデューサ要素206を接続するためにアクティブ化(または「閉鎖」)され得る。本状況において、電圧が、スイッチ上に存在し、それらを時期尚早の故障に対して脆弱にし得る。
図2Cを参照して、スイッチパターンが、逆転されるべきである、すなわち、現在閉鎖されているスイッチ250
1、252
1が、開放されるべきであり、両方とも開放している、他のスイッチ250
2、252
2が、閉鎖されるべきであると仮定する。1つのアプローチでは、AC信号源214(
図2A参照)の出力電圧レベルは、例えば、±0.5V RMSよりゼロに近づけられる。加えて、ビーム形成スイッチへの電圧によって誘発される損傷を軽減させるために、「メイクビフォアブレーク」と称されるアプローチが、適用され得る。本アプローチでは、後に新しいスイッチパターンに従って閉鎖されるであろう、現在開放しているビーム形成スイッチ(例えば、スイッチ250
2、252
2)が、後に開放された変化状態になるであろう、現在閉鎖されているビーム形成スイッチ(例えば、スイッチ250
1、252
1)の前に閉鎖される。このように、各トランスデューサ要素に関連付けられるビーム形成スイッチは、任意のスイッチが開放される前、(本電圧が、ゼロボルトではない場合でも)実質的に同一の電圧になるであろう。これは、有利なこととして、位相差の結果として生じ得る、ビーム形成スイッチ間の著しいピーク電圧差を回避する。いくつかの実施形態では、ビーム形成スイッチの閉鎖は、順次、要素毎に生じる。例えば、トランスデューサ要素E
2に関連付けられるスイッチ252
2は、トランスデューサ要素E
1に関連付けられるスイッチ250
2が閉鎖されて初めて、閉鎖され得、トランスデューサ要素E
3(図示せず)に関連付けられるビーム形成スイッチは、トランスデューサ要素E
2に関連付けられるスイッチ252
2が閉鎖されて初めて、閉鎖され得る等となる。ビーム形成スイッチの閉鎖パターンは、スイッチ順序付け論理によって、より早期に閉鎖されたスイッチへの損傷を回避する(または少なくとも低減させる)ような、さらに下記に説明されるようなスイッチ結合方略に従って決定され得る。
【0040】
加えて、または代替として、異なる位相伝送ライン216の出力は、スイッチ間の電位が、位相差によって影響を及ぼされることがないであろうように、1つのものから次のものに徐々に結合され得る。本順次の結合は、上で説明されるメイクビフォアブレークプロセスに先立って生じ得、位相発生器212において、またはスイッチマトリクス220内に実装される、もしくはいくつかの実施形態では、それと別個である、かつビーム形成スイッチの異なるスイッチセットに関連付けられる、(随意の)差動スイッチ255によって起こり得、各差動スイッチ255は、位相伝送ライン216に関連付けられ、位相伝送ラインを接地、コモン電圧、または別の伝送ラインに結合し得る。故に、差動スイッチ255の実装は、位相伝送ライン間の電圧差を最小化するための、すなわち、位相伝送ラインを互いに結合することによる、または位相伝送ラインを(
図2Dに示されるように)コモン電圧もしくは接地に結合することによる、少なくとも2つのアプローチを提供する。各アプローチは、単独で、電圧差を最小化するために十分であり得るが、2つのアプローチは、同様に、組み合わせられることができる。しかしながら、AC源214の電圧レベルが、例えば、1つ以上の差動スイッチ255を伴う全ての信号ライン216を接地することによって十分に低く駆動され、ビーム形成スイッチ間の最大ピーク間電位が、例えば、±0.5Vを超過しない場合、位相伝送ラインをともに接続することは必要ではない場合がある。
【0041】
ビーム形成スイッチの全てにおける電圧が、開放/閉鎖されたスイッチパターンの変化がいかなるスイッチも大きさが±0.5Vより大きい電圧に曝さないであろう程度に十分に低い場合、スイッチパターンは、変化され得る(例えば、上記の実施例を参照すると、スイッチ2501、2521が、開放され、スイッチ2502、2522が、閉鎖される)。依然として、コントローラ210は、静定された安全な動作を確実にするために、短い間隔にわたって、ビーム形成スイッチ状態を変化させることを遅延させてもよい。間隔の必要性および持続時間は、超音波処理パラメータ(印加される超音波パルスの振幅等)および/または環境条件(RF信号、トランスデューサ要素からの反射、および/または熱的もしくは機械的応力等)によって決定され得る。一般に、持続時間は、1マイクロ秒~1ミリ秒の範囲に及ぶであろう。1つの実装では、遅延は、反射エネルギーの実質的部分(例えば、90%、80%、または70%)が消散するまで継続する。
【0042】
上で説明されるビーム形成スイッチを閉鎖することの順序は、閉鎖される第1のビーム形成スイッチが、後続のビーム形成スイッチより高いピーク間電圧を被るであろうため、重要であり得る。故に、スイッチマトリクス220内の任意の特定のビーム形成スイッチ250/252が、他のビーム形成スイッチと比較して過度に頻繁に最初に閉鎖される場合、これは、より急速に摩耗するであろう。加えて、差動スイッチ255の閉鎖パターンは、結合される異なる位相伝送ラインを接続する第1の差動スイッチ255も、各新しいスイッチ結合を用いて、より多くの位相が、追加され、より多くの振幅相殺につながることから、後続のスイッチより高いピーク間電圧を被り得るため、重要であり得る。
【0043】
故に、再び
図2Bを参照すると、一実施形態では、コントローラ210は、コンピュータメモリまたは大容量記憶デバイス内にスイッチ順序付け論理262およびアクティブ化テーブルもしくはデータベース265を実装する、回路網または実行可能プログラムコードを含む、ビーム形成モジュール260を含む、もしくはそれと通信する。アクティブ化テーブル265は、メイクビフォアブレークプロセスの間に閉鎖される差動スイッチ255および/またはビーム形成スイッチに関連付けられる、スイッチアクティブ化パターンの実行ログを保持する。1つの実装では、例えば、アクティブ化テーブル265は、スイッチマトリクス220の各差動スイッチ255および/または各ビーム形成スイッチに関して、各スイッチ結合シーケンスにおけるその順序的場所を記憶する。別の実装では、アクティブ化テーブル265は、各差動スイッチ255が2つの位相伝送ライン216をともに接続する、第1のスイッチであった回数に対応する更新値、および/または各ビーム形成スイッチがメイクビフォアブレークプロセスの間に閉鎖された第1のものであった回数に対応する更新値のみを記憶する。アクティブ化テーブル265内に記憶される記録に基づいて、スイッチ順序付け論理262は、スイッチセット毎に、結合の順序、またはより単純な実装では、どのビーム形成スイッチが最初に閉鎖されるべきであるか、および/または位相伝送ライン216のどの対が最初に結合されるべきであるか、すなわち、(第1のスイッチ結合が、後続の結合よりもスイッチに対して有害であるという仮定に基づいて)各組におけるどの差動スイッチ255が最初に閉鎖されるべきであるかを決定する。すなわち、スイッチ順序付け論理262は、累積的に、ビーム形成スイッチおよび/または差動ビーム形成スイッチのいずれも、過剰な電圧負荷に屈しないように、スイッチパターン遷移毎の閉鎖順序を配列してもよく、例えば、スイッチ閉鎖シーケンス内での各ビーム形成スイッチ250/252の順序的場所は、スイッチ間で平均化もしくは平衡化され得る。代替として、前述に説明されるように、ビーム形成スイッチ250/252間で電圧負荷を均衡化する代わりに、スイッチ順序付け論理262は、犠牲スイッチとして指定される、ある差動スイッチ255に故意に過負荷をかけてもよい。これは、特に、位相伝送ラインの結合が、新しいスイッチパターンにおいて閉鎖されるべきビーム形成スイッチの閉鎖に先立って生じるときに好適である。これらの犠牲スイッチは、容易に交換される個別の基板またはチップ上に常駐してもよく、事実上、周期的な予防的交換のためにスケジュール化され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、トランスデューサ要素(またはトランスデューサ要素の群)に関連付けられる位相シフトは、実質的に同時に調節される、すなわち、信号発生器212の出力電圧は、現在アクティブにされているトランスデューサ要素206に接続される位相伝送ライン間の差動電圧を低減させるように、最初に減少され得る。現在アクティブにされているトランスデューサ要素に関連付けられ、最初に閉鎖されるように指定される、差動スイッチ225は、次いで、全てのアクティブにされたトランスデューサ要素のために2つの位相伝送ラインをともに接続するために実質的に同時にアクティブにされる。差動スイッチのアクティブ化プロセスは、伝送ライン全て(または少なくとも、アクティブにされたトランスデューサ要素に接続されるもの)がともに接続されるまで、徐々に実施される。本アプローチを使用して、現在アクティブにされているトランスデューサ要素に対応する、最初に閉鎖される差動スイッチは、同一の量の電圧負荷を被り得る。
【0045】
しかしながら、標的領域102における音響エネルギーに有意に寄与する、トランスデューサに関連付けられるスイッチにおける電圧負荷を低下させることが、望ましくあり得る。種々の実施形態では、ビーム形成スイッチの閉鎖順序は、全体的または部分的に、トランスデューサ要素の幾何学形状(例えば、場所)に基づいて決定される。例えば、
図2Eを参照すると、トランスデューサの(下記に定義されるような)中心領域に位置するトランスデューサ要素272は、標的領域102においてより多くの音響エネルギーに寄与し得る一方、トランスデューサの外側領域に位置するトランスデューサ要素274は、そこから放出される音響エネルギーが、殆ど、トランスデューサ要素274と標的領域102との間に位置する超音波媒体によって反射または吸収されるため、あまり寄与しない場合がある。故に、スイッチ順序付け論理262は、トランスデューサ要素272に関連付けられるビーム形成スイッチに先立って、閉鎖されるべきトランスデューサ要素274に関連付けられるビーム形成スイッチ250、252を配列し得る。再び、そのようなスイッチパターンは、アクティブ化テーブル265の中に記憶され、後の時間においてそこから読み出され得る。本明細書で使用されるように、「中心領域」は、トランスデューサアレイ204の周囲を形成する要素を除いて、トランスデューサ要素206の全てを含み得る。代替として、「中心領域」は、半径方向範囲のごく一部、例えば、10%、20%、50%等にすぎない面積内に位置する要素を含み得る。「外側領域」は、典型的に、中心領域の外側における、要素206の全てを含む。
【0046】
図3Aおよび3Bは、種々の実施形態による、スイッチマトリクスを有する超音波システムにおける信頼性を改良するための2つの例示的アプローチを図示する、フローチャートである。第1のステップ302では、信号発生器212の出力電圧が、所定の閾値(例えば、±0.5V)を下回るように低減させられる。第2のステップ304では、超音波システムは、随意に、反射エネルギーの実質的部分(例えば、90%、80%、または70%)が、消散するまで、数マイクロ秒にわたって、その現在の状態に留まり得る。第3のステップ306では、現在アクティブにされているトランスデューサ要素に接続される位相伝送ライン(各々が、ビーム形成スイッチに関連付けられる)は、例えば、差動スイッチセットを使用して、順次、接地または互いに結合され得る。代替として、または加えて、新しいスイッチパターンに従って閉鎖されるべき、現在開放しているビーム形成スイッチが、閉鎖され(ステップ308において)、続いて、開放されるべき、現在閉鎖されているスイッチが、開放される(ステップ310において)。(ステップ306、308、310が実施される実施形態では、ステップ306が、ステップ308、310の前または後に実施され得る。)再び、超音波システムは、次いで、随意に、固定された間隔の後、全ての並列ビーム形成スイッチセット内の電圧が、(例えば、実施例として±0.5V(またはそれ未満の値)よりゼロに近い)所定の閾値を下回る、もしくはスイッチが、静定されたと見なされ得るようになる(ステップ312において)まで、数マイクロ秒にわたってそのような状態に留まってもよい。各トランスデューサ要素に関連付けられるビーム形成スイッチは、次いで、基礎信号の異なる組み合わせが、ここでトランスデューサに接続され、新しい標的場所において焦点を生産するように、変更されたスイッチパターンに従ってそれらの状態を変化させる(ステップ314において)。超音波システムは、次いで、治療手技に従って、エネルギーを新しい焦点に伝送する準備ができる(ステップ316において)。
【0047】
一般に、スイッチ結合または閉鎖方略を実施するための機能性は、超音波システム200のコントローラ210内に統合されるか、もしくは別個の外部コントローラによって提供されているかにかかわらず、ハードウェア、ソフトウェア、または両方の組み合わせの中に実装される、1つ以上のモジュールの中に構造化され得る。機能が、1つ以上のソフトウェアプログラムとして提供される、実施形態に関して、プログラムは、FORTRAN、PASCAL、JAVA(登録商標)、C、C++、C#、PYTHON、BASIC、種々のスクリプト言語、および/またはHTML等のいくつかの高水準言語のいずれかで記述され得る。加えて、ソフトウェアは、標的コンピュータ(例えば、コントローラ)上に常駐するマイクロプロセッサを対象とするアセンブリ言語で実装されることができ、例えば、ソフトウェアは、これが、IBMPCまたはPCクローン上で起動するように構成される場合、Intel 80×86アセンブリ言語で実装され得る。ソフトウェアは、限定ではないが、フロッピー(登録商標)ディスク、ジャンプドライブ、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、EEPROM、フィールドプログラマブルゲートアレイ、またはCD-ROMを含む、製造品上に具現化され得る。ビーム形成モジュール260も、限定ではないが、C、C++、C#、Ada、Basic、Cobra、Fortran、Java(登録商標)、Lisp、Perl、Python、Ruby、またはObject Pascal、もしくは低水準アセンブリ言語等の高水準言語を含む、任意の好適なプログラミング言語でプログラムされ得る。ハードウェア回路網を使用する実施形態は、例えば、1つ以上のFPGA、CPLD、もしくはASICプロセッサを使用して実装され得る。本明細書に説明される本システムのコンポーネントまたはその一部は、1つの場所において構築され、互いに直接結合される、もしくは代替として、分散され、PWB、コネクタ、および/またはケーブルを用いて互いに接続されもよい。
【0048】
加えて、本明細書において広く使用される、用語「コントローラ」は、上で説明されるような任意の機能性を実施するために利用される、必要なハードウェアコンポーネントおよび/またはソフトウェアモジュールの全てを含み、コントローラは、複数のハードウェアコンポーネントおよび/またはソフトウェアモジュールを含んでもよく、機能性は、異なるコンポーネントおよび/またはモジュール間に分散されることができる。
【0049】
本明細書に採用される用語および表現は、説明の用語および表現として使用されており、限定のものではなく、そのような用語および表現の使用において、示され、説明される特徴またはその一部のいかなる均等物も除外する意図はない。加えて、本発明のある実施形態を説明したが、本明細書に開示される概念を組み込む他の実施形態も、本発明の精神および範囲から逸脱することなく使用され得ることが、当業者に明白となるであろう。故に、説明される実施形態は、全ての点において例証的にすぎず、制限的ではないものとして考慮されるべきである。