(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】安息香酸塩または安息香酸誘導体を含む、抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体脳炎を予防または治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20220810BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220810BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220810BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220810BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A61K31/192 ZMD
A61P25/18
A61P43/00 121
A61P37/02
A61K39/395 A
(21)【出願番号】P 2021526187
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 MY2019000025
(87)【国際公開番号】W WO2020017950
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-02-05
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521023779
【氏名又は名称】ザン, ル フェン
【氏名又は名称原語表記】TZANG, Ruu-Fen
【住所又は居所原語表記】Taiwan,Taipei,Zhong Shan N Rd Sec 7,Lane 190,Alley 12,No 9,2nd F
(73)【特許権者】
【識別番号】521023780
【氏名又は名称】藍 先元
【氏名又は名称原語表記】LANE,Hsien-Yuan
【住所又は居所原語表記】Taiwan,404,Taichung City,North Dist.,Jianxing Rd.,No.360,12F.-5
(73)【特許権者】
【識別番号】521022255
【氏名又は名称】科進製藥科技股分有限公司
【氏名又は名称原語表記】EXCELSIOR PHARMATECH LABS
【住所又は居所原語表記】Taiwan,115,Taipei City,Nangang Dist.,Park St.,No.3,14F.-7
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ザン, ル フェン
(72)【発明者】
【氏名】藍 先元
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/191992(WO,A1)
【文献】Neuroimmunology and Neuroinflammation,2016年,3,pp.189-191
【文献】Biological Psychiatry,2015年,77(6),pp.e27-e29
【文献】JAMA Psychiatry,2013年,70(12),pp.1267-1275
【文献】Acta Neuropsychiatrica,2015年,27(3), pp.159-167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の安息香酸
塩を含む、必要とする対象における抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎を予防または治療するための医薬組成物であって、
前記の安息香酸
塩は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するために
静脈内免疫グロブリンによる免疫療法と組み合わせて上記対象に投与されることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
上記の安息香酸塩は、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、
または安息香酸マグネシウ
ムである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
上記の安息香酸塩は、安息香酸ナトリウムである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
上記の抗NMDAR脳炎は、NMDARの機能低下によって引き起こされる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
上記の安息香酸
塩は、対象におけるNMDAR機能を増強または活性化する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
上記の安息香酸
塩は、200mg/日~2000mg/日の範囲の量で上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
上記の安息香酸
塩は、400mg/日~1800mg/日の範囲の量で上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
上記の安息香酸
塩は、450mg/日~1500mg/日の範囲の量で上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
上記の安息香酸
塩は、500mg/日~1000mg/日の範囲の量で上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
上記の安息香酸
塩は、1ヶ月間~2年間の期間範囲で上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
上記の安息香酸
塩は、4週間~12ヶ月間の期間範囲で上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
上記の安息香酸
塩は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するために追加の有効成分と組み合わせて上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
上記の追加の有効成分は、抗精神病薬である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
上記の安息香酸
塩は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するために追加の治療と組み合わせて上記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
上記の追加の治療は、心理療法、電気けいれん療法(ECT)、血漿交換、ステロイドによるパルス療法、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎の予防または治療、特に、安息香酸塩を使用することにより抗NMDAR脳炎を予防または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎は、自己抗体に関連するNMDAR機能障害によって引き起こされる自己免疫性脳炎である。過去の10年間では、その発生はますます判定されている。自己抗体は、血液脳関門を通過し、NMDA受容体と選択的に架橋することにより、興奮性海馬ニューロンと抑制性海馬ニューロンの両方でのNMDA受容体の内在化を引き起こし、最終的にNMDARを介したシナプス神経伝達の機能低下を引き起こす。
【0003】
抗NMDAR脳炎を患っている患者の大多数は、最初に精神病症状を示し、続いててんかんなどの神経学的症状を示す。通常、抗てんかん薬と神経弛緩薬は、抗NMDAR脳炎の患者にはあまり効果がない。さらに、メチルプレドニゾロンと静脈内免疫グロブリンによる免疫療法、または血漿交換による自己抗体の除去を含む治療法も、抗NMDAR脳炎の患者を治療するために使用されるが、一部の患者は免疫療法や抗精神病薬の治療後も難治性のままである。
【0004】
したがって、抗NMDAR脳炎の効果的な予防または治療の必要が求めている。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、上記の内容を鑑みて、必要とする対象における抗NMDAR脳炎を予防または治療する方法であって、有効量の安息香酸またはその塩および誘導体と薬学的に許容される賦形剤とを前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0006】
本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸塩およびその誘導体は、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、2-アミノ安息香酸塩、3-アミノ安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルナトリウム、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピルナトリウム、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、または安息香酸メチルであるが、これらに限定されない。
【0007】
本開示の別の実施態様において、上記の安息香酸塩は、安息香酸ナトリウムである。
【0008】
本開示の一つの実施態様において、上記の薬学的に許容される賦形剤は、充填剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、潤滑剤、懸濁剤、湿潤剤、溶媒、界面活性剤、酸、香味剤、ポリエチレングリコール(PEG)、アルキレングリコール、セバシン酸、ジメチルスルホキシド、アルコール、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0009】
本開示の一つの実施態様において、上記の抗NMDAR脳炎は、NMDARの機能低下によって引き起こされる。別の実施態様において、上記の抗NMDAR脳炎における細胞損傷は、自己抗体によって引き起こされる。
【0010】
本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、有効量で対象に投与されることにより、NMDAR機能を増強または活性化させ、抗NMDAR脳炎を予防または治療する。
【0011】
本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、200mg/日~2000mg/日の範囲の量、例えば、400mg/日~1800mg/日、600mg/日~1500mg/日、および800mg/日~1200mg/日で対象に投与されてもよい。
【0012】
本出願の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、1ヶ月間~2年間、例えば、4週間~12ヶ月間の期間範囲で対象に投与されてもよい。本出願の別の実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、約2ヶ月間の期間で対象に投与される。
【0013】
本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、組成物中の抗NMDAR脳炎を予防または治療するための唯一の有効成分として機能するか、あるいは、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するために追加の有効成分と組み合わせる。一つの実施態様において、上記の追加の有効成分は、抗精神病薬である。別の実施態様において、上記の抗精神病薬は、アリピプラゾール、クロザピン、パリペリドン、リスペリドン、ブレキシプラゾール、オランザピン、ケチアピン、ジプラシドン、アミスルプリド、アセナピン、イロペリドン、ルラシドン、カリプラジン、ゾテピン、ハロペリドール、クロルプロマジン、クロチアピン、フルペンチキソール、クロピクソール、スルピリド、クロルプロチキセン、レボメプロマジン、メソリダジン、ペリシアジン、プロマジン、チオリダジン、ロキサピン、モリドン、ペルフェナジン、チオチキセン、ドロペリドール、フルフェナジン、ピモジド、プロクロルペラジン、チオプロペラジン、トリフルオペラジン、ズクロペンチキソールからなる群から選択される。
【0014】
本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するために追加の治療と組み合わされる。一つの実施態様において、上記の追加の治療は、心理療法、電気けいれん療法(ECT)、他の脳刺激(例えば、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)および経頭蓋直流刺激(tDCS))、免疫療法、血漿交換、ステロイドによるパルス療法、およびそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。一つの実施態様において、上記のステロイドによるパルス療法は、メチルプレドニゾロンによるパルス療法である。
【0015】
上記に加えて、また、本開示は、必要とする対象における抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎を予防または治療する薬剤の製造のための、有効量の安息香酸またはその塩および誘導体の使用を提供する。さらに、本開示は、必要とする対象における抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎の予防または治療のための、有効量の安息香酸またはその塩および誘導体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の実施態様は、本開示を例示するために使用される。当業者は、本明細書の開示に基づいて、本開示の他の利点を理解することができる。また、本開示は、異なる具体的に実施例に記載されているように実施または適用することができる。
【0017】
また、本明細書で使用される場合、単数形「一つの(a、an)」、および「上記、前記(the)」は、明示的かつ明確に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。また、文脈が明確に別段の指示をしない限り、「または」という用語は、「および/または」という用語と交換可能に使用される。
【0018】
抗NMDAR脳炎とは、自己抗体が血液脳関門を通過して、興奮性海馬ニューロンと抑制性海馬ニューロンの両方でのNMDA受容体の選択的な架橋および内在化を引き起こすことにより、NMDARを介したシナプス電流の低下およびNMDARの機能低下を引き起こす自己免疫疾患である。
【0019】
本開示は、必要とする対象における抗NMDAR脳炎を予防または治療する方法であって、有効量の安息香酸またはその塩および誘導体を前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「治療する(treating)」または「治療(treatment)」という用語は、疾患、その症状、またはそれに対する素因を治癒、軽減、緩和、治療、改善、または予防することを目的として、有効量の安息香酸またはその塩およびその誘導体を、必要とする対象に投与することを指す。そのような対象は、任意の適切な診断方法からの結果に基づいて、医療専門家によって識別することができる。
【0021】
本開示の一つの実施態様において、本開示の方法によって治療される対象は、抗NMDAR脳炎に罹患している。抗NMDAR脳炎と診断された対象は、頭痛と吐き気があり、最初に精神症状を示し、続いて神経機能障害を示す。本開示のさらなる実施態様において、上記の精神症状は、興奮、認知機能低下、反復性解離性記憶障害、および統合失調症に関連するものを含む。本開示の別の実施態様において、抗NMDAR脳炎と診断された対象における神経機能障害は、てんかんを含む。別の実施態様において、上記の抗NMDAR脳炎と診断された対象は、その対象の脳脊髄液(cerebrospinal fluid、CSF)および血清において同定された抗NMDAR抗体を有する。別の実施態様において、上記の抗NMDAR脳炎における細胞損傷は、自己抗体によって引き起こされるものであり、上記の自己抗体は、血液脳関門を通過して脳に入り、興奮性海馬ニューロンと抑制性海馬ニューロンの両方でNMDARを選択的に架橋および内在化する。一つの実施態様において、本開示の方法によって治療される対象は、抗NMDAR脳炎を患っており、本開示の方法の前、後、または同時に追加の治療で治療することができる。さらなる実施態様において、本開示の方法と組み合わせて治療するための追加の治療は、心理療法、電気けいれん療法(ECT)、免疫療法、血漿交換、ステロイドによるパルス療法、およびそれらの任意の組み合わせである。さらに別の実施態様において、本開示の方法によって治療される対象は、抗NMDAR脳炎を患っており、かつ反応が不良であるか、または他の治療法には難治性を示す。
【0022】
安息香酸は、多くの植物や動物に自然に存在する。したがって、それは、乳製品を含む多くの食品における天然成分である(IPCS 1993)。安息香酸と安息香酸ナトリウムは、米国(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議.1965、1973)、台湾(衛生福利部)、および世界保健機関(IPCS 1993)においても合法的な食品添加物であり、フルーツゼリー、バター、醤油、加工肉などの製造に広く使用されている。
【0023】
D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)は、哺乳類の脳、腎臓および肝臓に存在するペルオキシソームのフラビン酵素であり、D-セリン、D-アラニン、およびその他のD-アミノ酸の分解を担当している。本開示では、安息香酸ナトリウムのような安息香酸塩を投与して、DAAO活性を阻害することにより、D-セリンおよび他のD-アミノ酸のシナプス濃度を上昇させる。本開示において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、有効量で対象に投与されて、NMDARの機能を増強または活性化することにより、抗NMDAR脳炎を予防または治療する。本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、抗NMDAR脳炎を有する対象においてDAAO活性を阻害することによってNMDA機能を増強する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、抗NMDAR脳炎およびその1つまたは複数の症状の発展、再発、または発症の予防をもたらすことにより、別の治療法の予防効果を増強または改善すること、重症度および障害の期間を減らすここと、障害の1つまたは複数の症状を改善すること、抗NMDAR脳炎の進行を防ぐこと、および/または、別の治療法の治療効果を強化または改善することに十分な治療量を指す。
【0025】
本開示のいくつかの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の有効量は、200mg/日~2000mg/日の範囲であってもよい。一つの実施態様において、投与量の下限値は、200mg/日、225mg/日、250mg/日、275mg/日、300mg/日、325mg/日、350mg/日、400mg/日、450mg/日、500mg/日、550mg/日、600mg/日、700mg/日、750mg/日,または800mg/日であってもよく、投与量の上限値は2000mg/日、1800mg/日、1500mg/日、1200mg/日、1000mg/日、900mg/日、800mg/日、750mg/日、700mg/日、または600mg/日であってもよい。例えば、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与量は、225mg/日~2000mg/日、250mg/日~1800mg/日、450mg/日~1500mg/日、500mg/日~1200mg/日、500mg/日~1000mg/日、550mg/日~1000mg/日、600mg/日~800mg/日、約1000mg/日、約900mg/日、約750mg/日、または約500mg/日であってもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、数値または範囲が記載される場合、当業者は、それが本開示に関連する特定の分野において適切で合理的な範囲を包含することを意図することを理解する。
【0027】
「少なくとも200mg~2000mg」が記載されることは、当該範囲内のすべての整数の単位量が本開示の一部として具体的に開示されることを意味する。したがって、200、201、202…250、251、252…1000、1001、1002…1997、1998、1999および2000の単位量は本開示の実施態様として含まれる。
【0028】
本開示のいくつかの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与は、例えば、1日1回、1日2回、1日3回、または1日4回で実施されてもよい。一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与は、1日1回で実施されてもよい。
【0029】
本開示のいくつかの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するのに十分な期間で対象に投与されてもよい。この十分な期間は、対象の種族、性別、体重または年齢、疾患の病期、症状または重症度、および投与の経路、タイミングまたは頻度に依存し得る。本開示のいくつかの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与は、少なくとも1ヶ月にわたって毎日で行われる。例えば、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与期間は、副作用が治療期間中に発生しない限り、1、2、3、4、もしくは6ヶ月間、または1、2、3、もしくは4年間であってもよく、またはそれらよりも長く続く場合がある。本開示の例示的な実施態様において、上記の期間は、1ヶ月間~2年間の範囲であってもよい。別の実施態様において、上記の期間は、4週間~12ヶ月間の範囲である。さらに別の実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体の投与は、2ヶ月間にわたって毎日である。
【0030】
本開示の一つの実施態様において、この方法は、安息香酸、安息香酸塩、またはそれらの誘導体の使用を含み、当該安息香酸、安息香酸塩、またはそれらの誘導体は、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、2-アミノ安息香酸塩、3-アミノ安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルナトリウム、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピルナトリウム、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、および安息香酸メチルからなる群から選択することができる。
【0031】
本開示の一つの実施態様において、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、経口剤形で投与される。本開示の一つの実施態様において、対象に投与される安息香酸またはその塩および誘導体は、医薬組成物に含まれ得る。本開示の医薬組成物は、安息香酸またはその塩および誘導体とその薬学的に許容される賦形剤とを含む。一つの実施態様において、本開示の医薬組成物を経口投与に適した形態で製剤することにより、当該医薬組成物を経口送達によって対象に投与することができる。あるいは、医薬組成物を乾燥粉末、錠剤、トローチ、カプセル、顆粒、またはピルの形態で製剤してもよい。上記の薬学的に許容される賦形剤は、充填剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、潤滑剤、懸濁剤、湿潤剤、溶媒、界面活性剤、酸、香味剤、ポリエチレングリコール(PEG)、アルキレングリコール、セバシン酸、ジメチルスルホキシド、アルコール、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0032】
本開示の医薬組成物は、抗NMDAR脳炎を予防または治療するための有効成分として、上記の安息香酸またはその塩および誘導体のみを含んでもよい。換言すれば、上記の安息香酸またはその塩および誘導体は、本開示の医薬組成物における抗NMDAR脳炎を予防または治療するための唯一の有効成分として機能する。この実施態様において、本開示は、上記の安息香酸またはその塩および誘導体のみを有効成分として使用することにより、抗NMDAR脳炎を予防または治療するための安全かつ効果的な治療法を提供する。
【0033】
あるいは、別の実施態様において、本開示の効果が阻害されない限り、医薬組成物は、別の有効成分と組み合わせて対象に投与されてもよい。上記の安息香酸またはその塩および誘導体と別の有効成分は、単一の組成物または別個の組成物で提供されてもよい。
【0034】
一つの実施態様において、本開示によって提供される方法における安息香酸またはその塩および誘導体の投与は、抗NMDAR脳炎のための任意の適切な従来の治療と組み合わせることができる。一つの実施態様において、抗NMDAR脳炎のための従来の治療は、一次または二次免疫療法、ステロイドによるパルス療法、電気けいれん療法、および抗精神病薬療法を含むが、これらに限定されない。
【0035】
多くの実施態様により、本開示を説明した。以下の実施例は、本開示の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
実施例
【0036】
本開示は、抗NMDAR脳炎の治療において、安息香酸ナトリウムの有効性および安全性を検討した。
【0037】
健康だった17歳の男性は、頭痛と吐き気を示したが、発熱してなかった。1週間後、彼は次第に興奮と認知機能の低下になり、精神医学的評価が必要になった。統合失調症の疑いと解離性記憶障害の繰り返しにより、この患者は急性精神科病棟に3回入院した。
【0038】
上記患者は、大量の抗精神病薬と電気けいれん療法(ECT)で治療されたが、高用量(アリピプラゾール20~30mg、クロザピン300~500mg、クロザピン500mgおよびパリペリドン9mg)の抗精神病薬および電気けいれん療法(週に3回、3週間)であっても、非常に悪い反応を示した。その後、脳脊髄液(CSF)および血清において抗NMDAR抗体が同定されており、抗NMDAR脳炎であると確認された。脳の磁気共鳴画像法では正常であることがわかった。
【0039】
上記患者は、メチルプレドニゾロンによるパルス療法の後、直ちに静脈内免疫グロブリン(IVIg)と血漿交換療法で治療された。しかし、2か月間の免疫療法と抗精神病薬治療の後、顕著な臨床的改善は見られなかった。
【0040】
そして、上記患者に安息香酸ナトリウムを1日あたり1000mgの用量で2ヶ月間投与した。解離や激越などを含む精神病症状が軽減された。上記患者は、明らかな臨床的改善がに観察されており、通常の生活に戻ることができた。
【0041】
上記の実施例の詳細な説明は、本開示の原理および作用を開示するために例示することに過ぎず、本開示の範囲を制限する意図はない。本開示の精神および原理によるすべての修正および変形は、添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが当業者に理解されるべきである。本明細書および実施例は、例示としてのみ考慮され、本開示の全ての範囲は、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。以下記載されている参考文献は、それぞれ個別に組み込まれているかのように、参照により本願に組み込まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0042】
DALMAU,J.(2016)NMDA receptor encephalitis and other antibody-mediated disorders of the synapse:The 2016 Cotzias Lecture.Neurology,87,2471-2482.
【0043】
DALMAU,J.,LANCASTER,E.,MARTINEZ-HERNANDEZ,E.,ROSENFELD,M.R.&BALICE-GORDON,R.(2011)Clinical experience and laboratory investigations in patients with anti-NMDAR encephalitis.LancetNeurol.,10,63-74.
【0044】
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【0045】
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