(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220812BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20220812BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20220812BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20220812BHJP
C22C 9/08 20060101ALI20220812BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20220812BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220812BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20220812BHJP
【FI】
C23C14/34 A
H01L21/285 C
H01L21/285 301
C22C9/02
C22C9/06
C22C9/08
C22C9/00
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 628
C22F1/00 661Z
C22F1/00 683
C22F1/00 685A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 A
(21)【出願番号】P 2019000733
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018075019
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森 曉
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 訓
(72)【発明者】
【氏名】谷 雨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄次
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-71832(JP,A)
【文献】特開2014-201814(JP,A)
【文献】特開2014-51709(JP,A)
【文献】特開2011-184711(JP,A)
【文献】特開2018-204103(JP,A)
【文献】特開2017-150010(JP,A)
【文献】特許第3403918(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C22C 9/00-9/10
H01L 21/285
C22F 1/00-1/18
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で5massppm以上50massppm以下の範囲で含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、
電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に
(1)式:2500>19×X1+290×X2
を満足するとともに、
電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が2.0°以下とされており、
相対密度が95%以上とされていることを特徴とするスパッタリングターゲット材。
【請求項2】
電子後方散乱回折法で測定された同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)が4°以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項3】
Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で10massppm以上50massppm以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、
(2)式:1600>11×X1+280×X2
を満足することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項5】
電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が1.5°以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項6】
銅粉の焼結体からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等における配線膜等として使用される銅膜を形成する際に用いられるスパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等の配線膜としてAlが広く使用されている。最近では、配線膜の微細化(幅狭化)および薄膜化が図られており、従来よりも比抵抗の低い配線膜が求められている。
そこで、上述の配線膜の微細化および薄膜化にともない、Alよりも比抵抗の低い材料である銅(Cu)からなる配線膜が提供されている。
【0003】
ところで、上述の配線膜は、通常、スパッタリングターゲットを用いて真空雰囲気中で成膜される。ここで、スパッタリングターゲットを用いて成膜を行う場合、スパッタリングターゲット内の異物に起因して異常放電(アーキング)が発生することがあり、そのため均一な配線膜を形成できないことがある。ここで異常放電とは、正常なスパッタリング時と比較して極端に高い電流が突然急激に流れて、異常に大きな放電が急激に発生してしまう現象であり、このような異常放電が発生すれば、パーティクルの発生原因となったり、配線膜の膜厚が不均一となったりしてしまうおそれがある。したがって、成膜時の異常放電はできるだけ回避することが望まれる。
そこで、下記の特許文献1~7には、純銅系のスパッタリングターゲットにおいて、成膜時における異常放電の発生を抑制する技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、純度が99.99mass%以上である純銅からなり、平均結晶粒径が40μm以下とされるとともに、(Σ3+Σ9)粒界長さ比率を規定した熱延銅板が提案されている。
特許文献2には、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上とされ、Al,Si,Fe,S,Cl,O,H,N,Cの含有量の上限を規定するとともに、大傾角粒界長さの比率を規定した高純度銅スパッタリングターゲット材が提案されている。
【0005】
特許文献3には、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上とされ、Al,Si,Fe,S,Cl,O,H,N,Cの含有量の上限を規定するとともに、電子後方散乱回折を用いた結晶方位測定によって得られた結晶方位の局所方位差を規定した高純度銅スパッタリングターゲット材が提案されている。
特許文献4には、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上とされ、Al,Si,Fe,S,Cl,O,H,N,Cの含有量の上限を規定するとともに、昇温脱離ガス分析装置によって放出された放出ガスの分子数を規定した高純度銅スパッタリングターゲット材が提案されている。
【0006】
特許文献5には、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上とされ、Al,Si,Fe,S,Cl,O,H,N,Cの含有量の上限を規定するとともに、電子後方散乱回折を用いた結晶方位測定によって得られた、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値を規定した高純度銅スパッタリングターゲット材が提案されている。
特許文献6には、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上とされ、Al,Si,Fe,S,Cl,O,H,N,Cの含有量の上限を規定するとともに、電子後方散乱回折を用いた結晶方位測定によって得られた、ターゲットのスパッタ面における<113>±10°の面方位を有する結晶の面積比率を規定した高純度銅スパッタリングターゲット材が提案されている。
【0007】
特許文献7には、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上とされ、Al,Si,Fe,S,Cl,O,H,N,Cの含有量の上限を規定するとともに、昇温脱離ガス分析装置によって放出されたガス成分のうちのH2Oガス分子数を規定した高純度銅スパッタリングターゲット材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-201814号公報
【文献】特開2017-043790号公報
【文献】特開2017-071832号公報
【文献】特開2017-071833号公報
【文献】特開2017-071834号公報
【文献】特開2017-150008号公報
【文献】特開2017-150010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、最近では、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等においては、配線膜のさらなる高密度化が求められており、従来にも増して、微細化および薄膜化された配線膜を安定して形成する必要がある。また、さらなる高速成膜のために高電圧を負荷する必要があり、この場合においても異常放電の発生を抑制することが求められている。
【0010】
ここで、上述した特許文献1~7に記載された発明においては、それぞれ異常放電を抑制する効果が十分に認められるものである。
しかしながら、これら特許文献1~7に記載された発明においては、高純度銅で構成されていることから、長期間使用した場合には、スパッタ時の熱履歴等によって結晶粒が成長して粗大化し易く、かつ、結晶方位が優先方位に偏り易くなり、成膜中における異常放電(アーキング)の発生を十分に抑制することができず、微細化および薄膜化された配線膜を効率良く安定して形成することができなくなるおそれがあった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、長期間使用した場合であっても、成膜中における異常放電(アーキング)の発生を十分に抑制することができ、微細化および薄膜化された銅膜を効率良く安定して形成することが可能なスパッタリングターゲット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明のスパッタリングターゲット材は、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で5massppm以上50massppm以下の範囲で含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、
(1)式:2500>19×X1+290×X2
を満足するとともに、電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が2.0°以下とされており、相対密度が95%以上とされていることを特徴としている。
【0013】
この構成のスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、(1)式:2500>19×X1+290×X2を満足しているので、平均結晶粒径が十分に小さく、かつ、結晶方位がランダムであることから、スパッタ成膜時における異常放電の発生を十分に抑制することができる。
そして、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で5massppm以上50massppm以下の範囲で含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる組成とされているので、これらAg,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの元素によって、熱が加わった場合でも結晶粒の成長が抑制されるとともに、結晶が優先方位に偏ることを抑制できる。よって、長期間使用した場合であっても、成膜中における異常放電(アーキング)の発生を十分に抑制することができる。また、上述の元素の合計含有量が50massppm以下に制限されているので、成膜した銅膜の比抵抗が大きく低下することを抑制でき、配線膜等として適切に使用することができる。さらに、ターゲットスパッタ面において局所的に添加元素の濃度が高い領域(添加元素高濃度領域)が生じにくく、この添加元素高濃度領域に起因した異常放電の発生を抑制することができる。
また、電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が2.0°以下とされているので、結晶粒内の歪が少なく、スパッタ時の2次電子の発生状況が安定することになり、異常放電の発生を抑制することが可能となる。
さらに、相対密度が95%以上とされているので、内部に空孔が少なく、空孔に起因した異常放電の発生を抑制することができる。
【0014】
ここで、本発明のスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で測定された同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)が4°以下であることが好ましい。
この場合、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位の局所方位差の平均値(GOS)が4°以下とされているので、結晶粒内における局所方位差が小さく、スパッタ時の2次電子の発生状況が安定することになり、異常放電の発生を抑制することが可能となる。
【0015】
また、本発明のスパッタリングターゲット材においては、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で10massppm以上50massppm以下の範囲で含有してもよい。
この場合、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で10massppm以上含有しているので、これらAg,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの元素によって、熱が加わった場合でも結晶粒の成長を確実に抑制することができ、結晶が優先方位に偏ることをさらに効果的に抑制することできる。
【0016】
さらに、本発明のスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、
(2)式:1600>11×X1+280×X2
を満足することが好ましい。
この場合、電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、(2)式:1600>11×X1+280×X2を満足しているので、平均結晶粒径がさらに小さく、かつ、結晶方位がさらにランダムであることから、スパッタ成膜時における異常放電の発生をさらに抑制することができる。
【0017】
また、本発明のスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が1.5°以下とされていてもよい。
この場合、結晶粒内の歪がさらに少なく、スパッタ時の2次電子の発生状況がさらに安定することになり、異常放電の発生をさらに効果的に抑制することが可能となる。
【0018】
さらに、本発明のスパッタリングターゲット材においては、銅粉の焼結体からなるものとしてもよい。
この場合、原料となる銅粉の粒径を調整することで、スパッタリングターゲットの平均結晶粒径X1を小さくすることができる。また、結晶の配向性がランダムとなりやすく、極点図の強度の最大値X2が小さくなる。このため、スパッタ成膜時における異常放電の発生をさらに確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、長期間使用した場合であっても、成膜中における異常放電(アーキング)の発生を十分に抑制することができ、微細化および薄膜化された銅膜を効率良く安定して形成することが可能なスパッタリングターゲット材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材について説明する。
本実施形態であるスパッタリングターゲット材は、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等において配線膜として使用される銅膜を基板上に成膜する際に用いられるものである。
【0021】
そして、本実施形態であるスパッタリングターゲット材は、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で5massppm以上50massppm以下の範囲で含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる組成とされている。
【0022】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、
(1)式:2500>19×X1+290×X2
を満足するものとされている。
また、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が2.0°以下とされている。
なお、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、相対密度が95%以上とされている。
【0023】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法で測定された同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)が4°以下であることが好ましい。
【0024】
以下に、本実施形態であるスパッタリングターゲット材において、上述のように、組成、平均結晶粒径と極点図の強度の最大値との関係式、電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)、電子後方散乱回折法で測定された同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)を、上述のように規定した理由について説明する。
【0025】
(Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上)
上述のAg,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feといった元素は、純銅中に微量添加されることにより、結晶粒の成長を阻害する作用を有する。このため、スパッタ時の熱履歴によって結晶粒が粗大化することや結晶方位が優先成長方位に偏ることを抑制できる。一方、上述のAg,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feを過剰に含有すると、成膜した銅膜の比抵抗値が上昇してしまい、配線膜としての特性が不十分となるおそれがある。さらに、ターゲットスパッタ面において、添加元素の濃度が高い領域(添加元素高濃度領域)と低い領域(添加元素低濃度領域)とが生じ、添加元素高濃度領域に電荷が溜まり、異常放電が発生しやすくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量を5massppm以上50massppm以下の範囲内に規定している。
なお、結晶粒の成長を確実に抑制するためには、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量の下限を10massppm以上とすることが好ましく、15massppm以上とすることがさらに好ましく、20massppm以上することがより好ましい。一方、成膜した銅膜の比抵抗値の上昇をさらに抑制するとともに添加元素高濃度領域に起因した異常放電の発生をさらに抑制するためには、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量の上限を40massppm以下とすることが好ましく、35massppm以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
(平均結晶粒径と極点図の強度の最大値との関係式)
スパッタ時の異常放電を抑制するためには、結晶粒径が微細であること、及び、結晶方位がランダムであること、が好ましい。
本実施形態においては、各種スパッタリングターゲット材によるスパッタ試験を実施し、平均結晶粒径X1(μm)と、結晶方位の配向性を示す極点図の強度の最大値X2と、を説明変数とし、異常放電回数を目的変数として、重回帰計算を行った結果、
(1)式:2500>19×X1+290×X2
を満足することで、スパッタ時の異常放電回数を十分に低減可能となることを確認した。なお、上述の平均結晶粒径X1は、電子後方散乱回折法(EBSD法)で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出されたものとした。
ここで、異常放電回数をさらに低減するためには、19×X1+290×X2を2200未満とすることが好ましく、2000未満とすることがさらに好ましい。
また、実施形態においては、平均結晶粒径X1(μm)と、極点図の強度の最大値X2とが、
(2)式:1600>11×X1+280×X2
を満足することがさらに好ましい。
【0027】
(結晶方位の局所方位差)
電子後方散乱回折法(EBSD法)で測定された結晶方位の局所方位差(Kernel Average Misorientation:KAM)が2.0°を超えると、結晶粒内のひずみが比較的大きいことから、このひずみの存在する領域において、スパッタ時における2次電子の発生状況が不安定になるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、電子後方散乱回折法で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)を2.0°以下とすることにより、結晶粒内のひずみを少なくして、スパッタ時における2次電子の発生状況を安定させることが可能となる。
なお、スパッタ時における2次電子の発生状況を確実に安定させるためには、上述のKAMを1.5°以下とすることが好ましく、1.0°以下とすることがさらに好ましく、0.7°以下とすることがより好ましい。
【0028】
(相対密度)
スパッタリングターゲット材の相対密度が低いと、内部に空孔が多く存在することになり、スパッタ成膜時において、この空孔を起因とする異常放電が発生するおそれがある。
そこで、本実施形態においては、スパッタリングターゲット材の相対密度を95%以上に設定している。
なお、スパッタリングターゲット材の相対密度は、97%以上であることが好ましく、98%以上とすることがさらに好ましい。
【0029】
(同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値)
電子後方散乱回折法(EBSD法)で測定された、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)が4°を超えると、比較的ひずみが大きいことから、このひずみが存在する領域において、スパッタ時における2次電子の発生状況が不安定になるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、電子後方散乱回折法で測定された、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)を4°以下とすることにより、結晶粒内のひずみを少なくして、スパッタ時における2次電子の発生状況を安定させることが可能となる。
なお、スパッタ時における2次電子の発生状況を確実に安定させるためには、上述のGOSを3°以下とすることが好ましい。
【0030】
次に、本実施形態であるスパッタリングターゲット材の製造方法について説明する。本実施形態であるスパッタリングターゲットは、溶解鋳造法、及び、粉末焼結法によって製造することができる。
以下に、溶解鋳造法で製造された鋳塊加工材からなるスパッタリングターゲットの製造方法、及び、粉末焼結法で製造された焼結体からなるスパッタリングターゲットの製造方法についてそれぞれ説明する。
【0031】
(溶解鋳造法)
銅の純度が99.99mass%以上の電気銅を準備し、これを電解精製する。上述の電気銅をアノードとし、チタン板をカソードとし、これらアノード及びカソードを電解液に浸漬して電解を行う。ここで、電解液は、試薬の硝酸銅を水で希釈することにより調製し、さらに塩酸を添加したものを使用する。このように、硝酸銅電解液中に塩酸を加えることにより、亜硝酸ガスの発生を抑制でき、電着銅中の不純物量を低減することが可能となるのである(特許第3102177号公報参照)。このような電解精製を実施することにより、O、H、N、Cを除いたCuの純度を99.99998mass%以上とした高純度銅が得られる。
【0032】
次に、この高純度銅を溶解原料として真空溶解炉で溶解するとともに、得られた銅溶湯に、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feといった元素を、合計含有量で5massppm以上50massppm以下の範囲内となるように添加し、その後、鋳造して、上述の組成の銅鋳塊を作製する。
得られた銅鋳塊に対して、700℃以上900℃以下の温度範囲で熱間鍛造を行う。これにより、鋳造組織を破壊して等軸の結晶粒を有する組織に調節する。
【0033】
次に、上述の熱間鍛造材に対して、700℃以上900℃以下の温度範囲で熱間圧延を実施し、結晶粒径を微細化させる。なお、この熱間圧延時の1パス当たりの加工率は5%以上15%以下の範囲内とすることが好ましい。
次に、上述の熱間圧延材に対して、100℃以上200℃以下の温度範囲で温間加工を実施する。なお、この温間加工時の1パス当たりの加工率は5%以上10%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0034】
次に、上述の温間加工材に対して、冷間圧延を実施する。結晶粒を微細化し、結晶方位をランダム化するとともに、結晶粒内のひずみを小さくするには,冷間圧延のときの圧下率を大きくとることが有効である。そうすることによって,引き続き行われる冷間加工後の熱処理で容易に再結晶が生じ,結晶粒内のひずみが少なくなる。このため、1回の圧延パスにおける圧下率は15%以上25%以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、圧延全体における圧延率は40%以上とすることが好ましい。
【0035】
次に、冷間加工材に対して、再結晶熱処理を行う。熱処理温度は、250℃以上350℃以下、保持時間は2時間以上3時間以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、冷間加工及び熱処理を複数回繰り返すことで、結晶粒を微細化し、結晶方位をランダム化するとともに、結晶粒内のひずみを小さくしてもよい。
【0036】
その後、機械加工することで所定寸法のスパッタターゲット材とする。以上のようにして、鋳塊加工材からなるスパッタリングターゲット材が製造される。なお、溶解鋳造法で製造された鋳塊加工材からなるスパッタリングターゲット材においては、内部に存在する空孔が少なく、相対密度は95%以上となる。
【0037】
(粉末焼結法)
銅の純度が99.9999mass%以上の高純度銅を溶解し、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feといった元素を、合計含有量で5massppm以上50massppm以下の範囲内となるように添加し、鋳造して銅インゴットを得た。この銅インゴットを圧延して、アノード板とした。また、銅の純度が99.9999mass%以上の高純度銅の圧延板をカソード板とした。
上述のアノード板とカソード板を、硫酸銅溶液中に浸漬し、通常の電解条件で直流電流を通電し、電解銅粉を得た。得られた電解粉を、酸洗・中和、脱水、乾燥、篩い分けし、所定の平均粒径の電解銅粉を得た後、界面活性剤と一緒に円筒形の容器に入れて、48時間回転混合した。このようにして、原料銅粉を得た。
【0038】
得られた原料銅粉を、グラファイトモールドに充填し、ホットプレス装置内にセットして焼結し、焼結体を得た。ここで、焼結条件は、真空中の雰囲気で、荷重を10MPa以上20MPa以下の範囲内、昇温速度を5℃/分以上20℃/分以下の範囲内、保持温度を850℃以上1050℃以下の範囲内、保持時間を1時間以上2時間以下の範囲内とした。
ここで、焼結体の相対密度が95%以上となるように、焼結条件を設定する。
【0039】
その後、機械加工することで所定寸法のスパッタターゲット材とする。以上のようにして、焼結体からなるスパッタリングターゲット材が製造される。
【0040】
以上のようにして、本実施形態であるスパッタリングターゲット材が製造されることになる。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態であるスパッタリングターゲット材によれば、電子後方散乱回折法(EBSD法)で観察し、双晶を含まずに面積平均として算出された平均結晶粒径をX1(μm)とし、極点図の強度の最大値をX2とした場合に、
(1)式:2500>19×X1+290×X2
を満足しているので、平均結晶粒径が十分に小さく、かつ、結晶方位がランダムであることから、スパッタ成膜時における異常放電の発生を十分に抑制することができる。
また、平均結晶粒径X1(μm)と、極点図の強度の最大値X2とが、
(2)式:1600>11×X1+280×X2
を満足する場合には、平均結晶粒径がさらに小さく、かつ、結晶方位がさらにランダムであることから、スパッタ成膜時における異常放電の発生をさらに抑制することができる。
【0042】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で5massppm以上50massppm以下の範囲で含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる組成とされているので、これらAg,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの元素によって、熱が加わった場合でも結晶粒の成長が抑制されるとともに、結晶が優先方位に偏ることを抑制できる。よって、長期間使用した場合であっても、成膜中における異常放電(アーキング)の発生を十分に抑制することができる。
また、成膜した銅膜の比抵抗が大きく低下することを抑制でき、配線膜等として適切に使用することができる。
なお、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上を合計で10massppm以上含有する場合には、熱が加わった際の結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0043】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、電子後方散乱回折法(EBSD法)で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が2.0°以下とされているので、結晶粒におけるひずみが少なく、スパッタ時の2次電子の発生状況が安定することになり、異常放電の発生を抑制することが可能となる。
なお、電子後方散乱回折法(EBSD法)で測定された結晶方位の局所方位差(KAM)が1.5°以下とされている場合には、さらにスパッタ時の2次電子の発生状況が安定することになり、異常放電の発生を確実に抑制することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲット材においては、相対密度を95%以上とされているので、スパッタリングターゲット材の内部に存在する空孔が少なく、スパッタ成膜時おいて、空孔に起因した異常放電の発生を抑制することができる。
【0045】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲット材において、電子後方散乱回折法(EBSD法)で測定された同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)が4°以下とされている場合には、結晶粒内における局所方位差が小さく、スパッタ時の2次電子の発生状況が安定することになり、異常放電の発生を抑制することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲット材において、銅粉の焼結体で構成したものとした場合には、原料となる銅粉の粒径を調整することで、スパッタリングターゲット材の平均結晶粒径X1を小さくすることができるとともに、結晶の配向性がランダムとなりやすく極点図の強度の最大値X2が小さくなる。このため、スパッタ成膜時における異常放電の発生をさらに確実に抑制することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、配線膜として銅膜を形成するスパッタリングターゲットを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の用途で銅膜を用いる場合であっても適用することができる。
また、製造方法については、本実施形態に限定されることはなく、他の製造方法によって製造されたものであってもよい。
【実施例】
【0048】
以下に、前述した本実施形態であるスパッタリングターゲット材について評価した評価試験の結果について説明する。
【0049】
(実施例1)
銅の純度が99.99mass%以上の電気銅を準備し、上述の実施の形態の欄に記載したように電解精製して、O、H、N、Cを除いたCuの純度を99.99998mass%以上とした高純度銅原料を得る。
この高純度銅原料を高純度カーボンで作製した坩堝に入れ、1130℃で真空溶解(圧力10-3Pa)し、得られた銅溶湯にAg,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feといった元素を所定量添加した。
その後、高純度カーボンで作製したモールド内に真空状態(圧力10-3Pa)で流し込み、直径80mm×高さ40mmの銅インゴットを作製した。
【0050】
ここで、本発明例1-10及び比較例1,4においては、以下のような工程によってスパッタリングターゲット材を製造した。
なお、比較例2においては、下記の熱処理工程を実施せずに、スパッタリングターゲット材を製造した。
また、比較例3においては、熱間圧延工程及び温間圧延工程を実施せずに、スパッタリングターゲット材を製造した。
1) 熱間鍛造工程:温度800℃
2) 熱間圧延工程:温度800℃、加工率10%
3) 温間圧延工程:温度150℃、加工率7%
4) 冷間圧延工程:加工率20%
5) 熱処理工程:温度300℃、保持時間2.5時間
6) 機械加工工程
【0051】
以上の工程により、直径125mm、厚さ5mmの円板形状をなすスパッタリングターゲット材を得た。
このスパッタリングターゲット材を、Cu-Cr―Zr合金(C18150)のバッキングプレートとHIP接合した。
【0052】
得られたスパッタリングターゲット材について、成分組成、平均結晶粒径X1、極点図の強度の最大値X2、結晶方位の局所方位差(KAM)、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)、スパッタ成膜時における異常放電発生回数について、以下の手順で評価した。なお、実施例1のスパッタリングターゲット材においては、全て相対密度は95%以上であった。
【0053】
(成分組成)
得られたスパッタリングターゲット材から分析試料を採取し、これを粉砕し、酸で前処理した後、ICP法によって、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feを定量分析した。評価結果を表1に示す。
【0054】
(平均結晶粒径X1)
スパッタリングターゲット材から測定試料を採取し、IM4000イオン研磨を15min実施した。イオン研磨した測定試料について、EBSD装置(日本電子株式会社製JSM-7001FA)を用いて測定し、双晶を含まずに、面積平均によって平均結晶粒径を求めた。なお、EBSD測定の条件を以下に示す。
解析範囲:800.0μm×1200.0μm
測定ステップ:2.50μm
取り込み時間:7.6msec/point
また、SEM条件を以下に示す。
加速電圧:15kV
ビーム電流:約3.2nA
WD:15mm
【0055】
(極点図の強度の最大値X2)
上述した条件で、EBSD装置を用いて、極点図の強度の最大値X2を求めた。上述の平均結晶粒径X1と極点図の強度の最大値X2から、19×X1+290×X2の値を算出し、表2に記載した。
【0056】
(結晶方位の局所方位差)
上述した条件でEBSD装置を用いて、結晶方位の局所方位差(KAM)を求めた。
【0057】
(同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値)
上述した条件でEBSD装置を用いて、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)を求めた。
【0058】
(異常放電発生回数)
以下に示す条件でスパッタ試験を行い、異常放電測定装置(ランドマークテクノロジー社製MAM Genesis、閾値500V)を用いて、1分間の放電中に発生した異常放電発生回数を計測した。なお、プリスパッタとして、スパッタ電力を200W,400W,1000W,2000W,3000Wの順に増加させて、それぞれ5分間連続放電し、合計の電力量を550Whとした。そして、電力量15kWhの間に生じた異常放電回数を測定した。評価結果を表2に示す。
スパッタ方式:DCマグネトロンスパッタ
到達真空:4×10-6Torr以下
スパッタArガス圧:0.4Pa
スパッタ電力:3000W
放電方式:1分間毎の間欠放電
計測時間:プリスパッタ後10時間
【0059】
【0060】
【0061】
Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量が2.4massppmと本発明の範囲よりも少なく、平均結晶粒径と極点図の強度の最大値との関係式を満足しない比較例1においては、異常放電発生回数が多く、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。スパッタ時の熱履歴によって結晶粒が粗大化することや結晶方位が優先成長方位に偏ることを抑制できなかったためと推測される。
【0062】
熱処理工程を実施しなかった比較例2においては、KAMが2.70°、GOSが6.54°と大きく、異常放電発生回数が多く、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。結晶粒に歪が多く存在していたためと推測される。
【0063】
熱間圧延工程及び温間圧延工程を実施せず、平均結晶粒径と極点図の強度の最大値との関係式を満足しない比較例3においては、異常放電発生回数が多く、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。スパッタ時の熱履歴によって結晶方位が優先成長方位に偏ることを抑制できなかったためと推測される。
【0064】
Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量が65.7massppmと本発明の範囲よりも多い比較例4においては、異常放電発生回数が多く、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。ターゲットスパッタ面において、添加元素の濃度が高い領域(添加元素高濃度領域)と低い領域(添加元素低濃度領域)とが生じ、添加元素高濃度領域に電荷が溜まり、異常放電が発生したためと推測される。
【0065】
これに対して、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量が本発明の範囲内とされ、平均結晶粒径と極点図の強度の最大値とが(1)式を満足する本発明例1-10においては、異常放電発生回数が少なく、安定してスパッタ成膜が可能であった。
【0066】
(実施例2)
上述の実施の形態の欄に記載したように、銅の純度が99.9999mass%以上の高純度銅に、表3に示すように所定元素を添加した圧延材をアノード板とし、銅の純度が99.9999mass%以上の高純度銅をカソード板とし、電解銅粉を得た。得られた電解粉を、酸洗・中和、脱水、乾燥、篩い分けし、表4に示す平均粒径の電解銅粉を得た後、界面活性剤と一緒に円筒形の容器に入れて、48時間回転混合した。このようにして、原料銅粉を得た。
【0067】
得られた原料銅粉を、グラファイトモールドに充填し、ホットプレス装置内にセットした。そして、表4に示す焼結条件で焼結し、焼結体を得た。
なお、得られた焼結体の相対密度を測定した。測定試料の寸法と重量から室温における実測密度を測定し、真密度を8.94として、相対密度を算出した。評価結果を表4に示す。
【0068】
そして、得られた焼結体に対して機械加工を実施し、直径125mm、厚さ5mmの円板形状をなすスパッタリングターゲット材を得た。
このスパッタリングターゲット材を、Cu-Cr―Zr合金(C18150)のバッキングプレートとHIP接合した。
【0069】
得られたスパッタリングターゲット材について、実施例1と同様の手順にて、成分組成、平均結晶粒径X1、極点図の強度の最大値X2、結晶方位の局所方位差(KAM)、同一結晶粒内における一の測定点と他の全ての測定点間の結晶方位差の平均値(GOS)、スパッタ成膜時における異常放電発生回数について評価した。評価結果を表5に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
相対密度が93.5%とされた比較例11においては、異常放電の発生回数が多くなった。焼結体の内部に存在する空孔に起因した異常放電が発生したためと推測される。
これに対して、相対密度が95%以上とされるとともに、Ag,As,Pb,Sb,Bi,Cd,Sn,Ni,Feの中から選択される1種又は2種以上の合計含有量が本発明の範囲内とされ、平均結晶粒径と極点図の強度の最大値とが(1)式を満足する本発明例11-14においては、異常放電発生回数が少なく、安定してスパッタ成膜が可能であった。
【0074】
以上の確認実験の結果、本発明例によれば、長期間使用した場合であっても、成膜中における異常放電(アーキング)の発生を十分に抑制することができ、微細化および薄膜化された配線膜を効率良く安定して形成することが可能なスパッタリングターゲット材を提供可能であることが確認された。