(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】銅粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20220812BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220812BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220812BHJP
H01J 49/14 20060101ALN20220812BHJP
【FI】
B22F9/24 B
B22F1/00 L
B22F1/102
H01J49/14 200
(21)【出願番号】P 2021054554
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2022-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077926(JP,A)
【文献】特開平05-331508(JP,A)
【文献】特開2009-084614(JP,A)
【文献】特開2020-090725(JP,A)
【文献】特開2016-069716(JP,A)
【文献】特開2014-221927(JP,A)
【文献】特開2010-116625(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102581294(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属銅からなるコア粒子の表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆された銅粒子において、
前記銅粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の合計した不純物濃度が10質量ppm未満であり、
前記銅粒子が一次粒子の状態でその平均粒径が50nmを超え200nm以下の範囲にあり、
前記銅粒子を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、CuC
2O
2H
-イオンの検出量が、Cu
+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあって、C
2H
3O
2
-イオンの検出量が、Cu
+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあることを特徴とする銅粒子。
【請求項2】
粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための分散剤及び表面保護剤を用いずに、請求項1に記載された銅粒子を製造する方法であって、
カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えて前記水分散液のpHを3以上6未満の酸性領域に調整する工程と、
前記pH調整したカルボン酸銅の水分散液に酸化還元電位が-0.7V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得る工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記混合液を60℃~75℃の温度に加熱し、1.5時間~2.5時間保持することにより、前記カルボン酸銅を還元して銅粒子が分散した銅粒子分散液を得る工程と
を含むことを特徴とする銅粒子の製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸銅が、水に難溶性であって、炭素数が4~8であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩である請求項2記載の銅粒子の製造方法。
【請求項4】
前記pH調整剤がカルボン酸アンモニウムである請求項2記載の銅粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電用又は接合用ペーストの原料として用いられる、銅粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の電極や電子回路の配線を形成する方法として、接合材料の銅粒子を導電性フィラーとして含有させた導電性ペーストや導電性インクを基板に印刷する方法が広くしられている。例えば、上記銅粒子はスラリー状に調製されてから有機物質に混入され、導電性ペーストや導電性インク等の接合材料として使用される。こうした導電性インクや導電性ペースト等を例えば、インクジェットプリンター、スクリーン印刷機、又はオフセット印刷機等を用いて直接基板に塗布することで、基板等上に簡便に配線等を形成する方法が近年開発され実用化されている。
【0003】
一方、近年になって、導電性インク等を用いて形成する電子回路を更に微細化し、又は電子デバイスを更に小型化かつ高密度化することが求められている。その結果、電子回路を形成する上で、より微細な配線パターンが求められている。このため、導電性インク等の原材料である導電性スラリーの一般的な導電性金属材料である銅粒子に対しても、ナノサイズ又はサブミクロンサイズの極小粒径であることが望まれるようになってきている。
【0004】
ナノサイズ又はサブミクロンサイズの粒子を製造する代表的な方法は、液相還元法である。この方法では、原料を溶媒中に溶解して金属イオンを含むように溶液を調製し、粒子同士の凝集を抑制するための分散剤が共存する中で金属イオンを還元することで金属粒子を析出させる。還元剤を用いて液中で銅イオンを還元する液相還元法による銅粒子の製造方法に関する従来の技術としては、例えば還元剤としてヒドラジン化合物や水酸化ホウ素ナトリウムを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1(請求項1、3~5、段落[0019])参照、特許文献2(請求項2、実施例1~5)参照、特許文献3(請求項2、段落[0024]、段落[0025])参照。)。
【0005】
特許文献1には、-(C=O)O-部位を複数有する配位子が銅に配位した銅錯体を含む水溶液に、粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための剤が存在しない条件下で、還元剤を作用させる銅粒子の製造方法が開示されている。この方法では、銅-ニトリロ三酢酸錯体を介してpH8~14の範囲でヒドラジン化合物或いは水素化ホウ素ナトリウム等を添加することにより、一次粒子の平均粒径が0.01μm以上0.3μm以下の銅粒子を製造している。
【0006】
また、特許文献2には、ヒドラジン系還元剤の添加前に銅塩水溶液のpHを水酸化ナトリウムを用いて12以上に調整した後、還元糖を添加してからヒドラジン系還元剤を添加することにより、粒径が0.5μm~3.1μmの銅粒子を製造する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、硫酸銅水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して酸化第二銅を生成させた後、グルコースのような還元剤を添加してからヒドラジン系還元剤を添加することにより、平均粒子径が0.1~10μmの銅粒子を製造する方法が記載されている。
【0008】
また、保護剤で表面が被覆された、金、銀、銅、白金、又はパラジウムなどの金属微粒子であって、前記保護剤がアミン化合物、カルボン酸化合物のうち少なくとも1種類から選択され、前記金属微粒子に含まれるアルカリ金属、ハロゲン、硫黄、及びリンの合計含有量が前記金属微粒子の質量に対して0.1mass%未満であることを特徴とする金属微粒子が開示されている(特許文献4(請求項1、4及び8、段落[0055]、段落[0098]、段落[0099])参照。)。ここで0.1mass%は1000質量ppmである。
【0009】
特許文献4に示される金属微粒子の製造方法では、還元剤及び保護剤を含む液相中に固体状態で分散する金属化合物から金属核を還元析出させ、この金属核を凝集させるとともに保護剤で被覆して、金属微粒子を生成した後で、金属微粒子に含まれるアルカリ金属、ハロゲン、硫黄及びリンの不純物を除去することにより、金属微粒子を精製している。そして原料としての金属化合物には、金属酸化物や貴金属酸化物のようなアルカリ金属、ハロゲン、硫黄及びリンの不純物を含まないものが好ましいとされる。
【0010】
特許文献4に示される実施例5においては、ビス(アセチルアセトナト)銅を原料として用い、ビス(2-エチルヘキシル)アミンを保護剤及び還元剤として用い、ドデシルアミンを保護剤として用いている。これらを混合した溶液を220℃に加熱して、Cu(C5H7O2)2を還元させ、ドデシルアミン及びビス(2-エチルヘキシル)アミンで被覆されたCu金属微粒子の分散液を得ている。そしてこの分散液を精製することによりCu金属微粒子を得ている。
【0011】
特許文献4には、実施例5で得られたCu金属微粒子に含まれる不純物元素及びその含有量を、イオンクロマトグラフィー又はICP蛍光分光分析により、測定したところ、Cl成分が0.005mass%(50質量ppm)含有され、Cl以外のハロゲン、アルカリ金属、硫黄、リンは検出されなかった旨が記載されている。
【0012】
更に、有機保護が銅ナノ粒子表面に形成された接合材料用粒子及びその製造方法が開示されている(特許文献5(請求項1、4、段落[0012]、段落[0015]参照。)。この接合材料用粒子は、BET比表面積が3.5m2/g以上8m2/g以下の範囲にあって、前記比表面積より換算したBET径が80nm以上200nm以下の範囲にあり、前記有機保護膜が前記接合材料用粒子100質量%に対して0.5質量%以上2.0質量%以下の範囲で含まれる。
また、この接合材料用粒子の製造方法では、室温のクエン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えてpH3以上pH7未満にpH調整し、不活性ガス雰囲気下でこのpH調整したクエン酸銅の水分散液にヒドラジン化合物を添加混合し、不活性ガス雰囲気下でこの混合液を60℃以上80℃以下の温度に加熱し1.5時間以上2.5時間以下保持することにより、クエン酸銅を還元して銅ナノ粒子を生成させ、この銅ナノ粒子の表面に有機保護膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2017-115119号公報
【文献】特許第2638271号公報
【文献】特許第3934869号公報
【文献】特開2013-072091号公報
【文献】特開2020-059914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1~3に示される液相還元法で得られるナノサイズ又はサブミクロンサイズの銅粒子には、酸化還元の駆動力となる、銅イオンの酸化還元電位とヒドラジン化合物又は水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤の酸化還元電位との差に起因して、濃度10質量ppm以上の数十質量ppmオーダーの濃度の金属不純物が含まれることがあった。
【0015】
特許文献3に示される工業用の硫酸銅を銅原料に使用する場合には、ニッケル、鉄、鉛、銀のような金属元素を金属不純物として含み易い。これらの金属元素の酸化還元電位はヒドラジン化合物や水酸化ホウ素ナトリウムの酸化還元電位よりも高いため、これらの金属元素は、銅イオンから銅に還元するときに、析出して、濃度10質量ppm以上の銅粒子の金属不純物になることがあった。また、特許文献1及び2のようにアルカリ性領域で還元した場合には、金属不純物が析出し易く、更に、特許文献1のように還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いたり、特許文献2のようにpH調整剤として水酸化ナトリウムを用いた場合には、ナトリウムが析出し易く、結果として金属不純物が濃度10質量ppm以上含まれる銅粒子が作られる課題があった。
【0016】
特許文献4に示される実施例5の銅粒子の評価として、銅粒子にアルカリ金属が含有元素として検出されない旨が記載されているが、特許文献4は、アルカリ金属以外の金属不純物についての記載がなく、次の理由でこの銅粒子はアルカリ金属以外の金属を含有している蓋然性が高い。即ち、特許文献4に示される方法で還元剤として用いた脂肪族アミン化合物、実施例5ではビス(2-エチルヘキシル)アミンは、金属微粒子への配位的な吸着性を示すとともに、電子供与性のアルキル基を有することで窒素原子上の非共有電子対の電子密度が高くなり、高い還元性を有する。このことから、金属化合物中には、アルカリ金属以外の酸化還元電位の観点から金属不純物となり得る金属元素、例えば鉄やニッケル等の金属元素が不純物として析出してしまう課題があった。
【0017】
また、特許文献4に示される銅粒子を含む金属微粒子の製造方法では、不純物を含まない金属化合物を原料として用いることが好ましいとされる。このため、不純物を含まない金属化合物、例えば金属酸化物や貴金属酸化物を原料として選定するなどの制約を生じ易かった。またこの銅粒子の方法では、230℃といった高温下でないと金属化合物からなる金属核を還元析出できず、更に金属微粒子に含まれる不純物を除去するための精製工程を必要とするという課題があった。
【0018】
更に、特許文献5に示される接合材料用粒子では、BET径での下限値を80nmとしているため、この粒子を用いて作られたペーストにより配線パターンを形成する場合、狭ピッチの微細な配線パターンを形成することが難しい場合があった。また特許文献5に示される接合材料用粒子の製造方法、即ち銅粒子の製造方法では、混合液のpHが中性に近いpH6~7の範囲では、また混合液の加熱温度が75℃を超えた場合には、不純物濃度が10質量ppm未満にならない課題があった。
【0019】
こうした濃度10質量ppm以上の金属不純物を含む銅粒子は、配線材料に用いた場合、銅配線等の導電性や伝熱性に優れるものの、濃度10質量ppm以上の金属不純物に起因して、金属不純物の拡散による他部材への特性悪化が懸念される。例えば、銅粒子を含む導電ペーストをMLCC(積層セラミックコンデンサ)に代表されるようなセラミック基材に塗布した場合、セラミック基材に金属不純物が拡散し、基材の絶縁性を損なうおそれがあった。
【0020】
本発明の目的は、配線材料又は接合材料として用いた場合に銅配線等の導電性や伝熱性に優れ、電子回路を形成する際に微細な配線パターンを実現でき、かつ金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうことのない銅粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、カルボン酸銅を銅の供給源とし、還元剤としてヒドラジン化合物を用いて、また水酸化ナトリウムを用いずに済む酸性領域において、所定の温度で、所定の時間、所定の酸化還元電位を有するヒドラジン化合物でカルボン酸銅を還元すると、粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための分散剤及び表面保護剤を用いずに、粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆され、かつ酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物を10質量ppm未満の濃度に低減した、一次粒子の平均粒径が50nmを超え200nm以下の範囲の銅粒子が得られることを知見し、本発明に到達した。
【0022】
本発明の第1の観点は、金属銅からなるコア粒子の表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆された銅粒子において、前記銅粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の合計した不純物濃度が10質量ppm未満であり、前記銅粒子が一次粒子の状態でその平均粒径が50nmを超え200nm以下の範囲にあり、前記銅粒子を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、CuC2O2H-イオンの検出量が、Cu+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあって、C2H3O2
-イオンの検出量が、Cu+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にある銅粒子である。
【0023】
本発明の第2の観点は、粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための分散剤及び表面保護剤を用いずに、第1の観点の銅粒子を製造する方法であって、カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えて前記水分散液のpHを3以上6未満の酸性領域に調整する工程と、前記pH調整したカルボン酸銅の水分散液に酸化還元電位が-0.7V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得る工程と、不活性ガス雰囲気下、前記混合液を60℃~75℃の温度に加熱し、1.5時間~2.5時間保持することにより、前記カルボン酸銅を還元して銅粒子が分散した銅粒子分散液を得る工程とを含むことを特徴とする銅粒子の製造方法である。
【0024】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記カルボン酸銅が、水に難溶性であって、炭素数が4~8であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩である銅粒子の製造方法である。
【0025】
本発明の第4の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記pH調整剤がカルボン酸アンモニウムである銅粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1の観点の銅粒子は、粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆されるため、銅粒子の保管中の耐酸化性に優れる。特に特許文献4に示される銅粒子では、アミン化合物やカルボン酸化合物のような添加物による保護剤で粒子表面が被覆されるため、金属不純物の混入リスクが高いのに対して、本発明の第1の観点の銅粒子は粒子表面がカルボン酸銅由来であるため、金属不純物の混入リスクが低い特長がある。また、酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物濃度が10質量ppm未満であるため、銅粒子を配線材料又は接合材料として用いた場合に金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうことがない。また、銅粒子は、一次粒子の平均粒径が50nmを超え200nm以下の範囲にあるため、配線材料又は接合材料として用いた場合に銅配線等の導電性や伝熱性に優れ、電子回路を形成する際に微細な配線パターンを実現できるとともに、銅粒子の反応面積が大きく、加熱による反応性が高く、これにより銅粒子を比較的低温で焼結させることができる。
【0027】
また、本発明の第1の観点の銅粒子は、銅粒子を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、CuC2O2H-イオンの検出量が、Cu+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあって、C2H3O2
-イオンの検出量が、Cu+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあるため、銅粒子を保護するうえで、有機保護膜の量が不足しない。この有機保護膜により、銅粒子の表面が酸化せず、かつ銅粒子同士の凝集を防ぐことができる。
【0028】
本発明の第2の観点の銅粒子の製造方法では、銅イオンの供給源を液中の水溶性の錯体からではなく、カルボン酸銅という金属化合物を銅イオンの供給源とすることにより、カルボン酸銅から僅かに溶出する銅イオンと、還元剤であるヒドラジン化合物とを逐次反応させるため、酸性領域でも液中の銅イオン濃度を低下させることが可能となり、一次粒子の平均粒径が50nmを超え200nm以下の範囲の銅粒子を得ることができる。
【0029】
また、カルボン酸銅を構成する非金属部分である有機分子が、表面保護膜として、銅粒子のコア粒子表面を被覆するため、特許文献4に示すような、銅粒子の凝集を防止するための分散剤や表面保護剤を用いなくても済み、また表面保護剤に起因する不純物の混入がなく、銅粒子の不純物濃度をより一層低下させることができる。また上記有機分子が銅粒子の表面に存在するため、銅粒子(コア粒子)の溶解を抑制し、銅イオンが水酸化銅(II)になりにくくかつ水酸化銅(II)として沈殿しにくく、目標とする粒子を高収率で製造することができる。更に得られた銅粒子の保管中の耐酸化性に優れる。
【0030】
更に、カルボン酸銅の水分散液のpHを3以上6未満の酸性領域に調整しておき、酸化還元電位が-0.7V~-0.5Vのヒドラジン化合物で60℃~75℃の温度で、所定の時間、カルボン酸銅を還元すると、特許文献5に記載のpH6~7の中和に近いpH値を含まないため、銅イオンの酸化還元電位とヒドラジン化合物の酸化還元電位との差が僅かになり、銅より卑な金属の析出が抑制され、銅より卑な金属の不純物濃度が10質量ppm未満となる。また特許文献5に記載された混合物の加熱を80℃の温度で行わないため、カルボン酸銅からの銅イオンの溶出が抑制され、一次粒子の粒径制御が容易になり、特許文献5に示されるBET径80nm~200nmの範囲よりも狭い50nmを超え80nm未満の範囲の一次粒子の平均粒径を得ることもできる。
【0031】
本発明の第3の観点の銅粒子の製造方法では、水に難溶性であって、炭素数が4~8であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩である。炭素数の異なるカルボン酸銅を用いることにより粒径を変化させることが可能であり、一次粒子の平均粒径が50nmを超え200nm以下の範囲にある銅粒子が得られる。また、2種以上の銅塩を用いることで、粒度分布の調整が可能となる。
【0032】
本発明の第4の観点の銅粒子の製造方法では、pH調整剤に、残留金属不純物の要因となる、例えばナトリウムを含む水酸化ナトリウムを用いずに、カルボン酸アンモニウムを用いて酸性領域を作り出すため、得られる銅粒子の金属不純物をより一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明実施形態の銅粒子の断面構造を模式的に表した図である。
【
図2】本発明実施形態の銅粒子の製造を示すフロー図である。
【
図3】実施例5の銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図である。
【
図4】実施例10の銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図である。
【
図5】実施例16の銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を実施するための実施形態を図面に基づいて説明する。
【0035】
〔銅粒子〕
図1に示すように、この実施形態の銅粒子10では、金属銅からなるコア粒子11の表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜12で被覆される。この銅粒子10は、粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の合計した不純物濃度が10質量ppm未満である。この不純物濃度は、1質量ppm未満であることが好ましい。上記不純物濃度が10質量ppm以上になると、銅粒子を配線材料として用いた場合に、金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうおそれがある。例えば配線が施される基板等を不純物が汚染して基板等の絶縁性を損なうおそれがある。
【0036】
上記カルボン酸銅としては、水に難溶性であって、炭素数が4~8であるカルボン酸銅からなる群より選ばれた1種又は2種以上の銅塩が好ましく用いられる。これを例示すれば、酒石酸銅(炭素数4)、クエン酸銅(炭素数6)、フタル酸銅(炭素数8)が挙げられる。しかし、これらに限るものではなく、安息香酸銅(炭素数14)も用いることができる。炭素数が大きいほど、より小さい粒径の銅粒子が得られる。炭素数が4未満のカルボン酸銅は水に溶け易くなる。炭素数が8を超えると、水に難溶性ではあるが、水中に分散しにくくなる。銅粒子10に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属としては、特許文献4に示されるカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属のみならず、アルカリ金属以外のアルカリ土類金属、遷移金属等が挙げられる。これらの金属の濃度は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)により測定される。不純物金属として、酸化還元電位が銅より卑な金属とするのは、銅より貴な金、銀等の金属は、酸化還元電位が銅より高いため、還元剤の種類の如何にかかわらず、析出してしまう元素であるからである。
【0037】
銅粒子10は、一次粒子の状態でその平均粒径が50nmを超え200nmの範囲にある。特許文献5では一次粒子の平均粒径の下限値をBET径で80nmとしているため、この粒子を用いて作られたペーストにより配線パターンを形成する場合、狭ピッチの微細な配線パターンを形成することが難しい場合があったけれども、本実施形態の銅粒子は、その下限値を50nmを超えた値にしているため、インクジェット方式による印刷に代表されるような更なる狭ピッチの微細な配線パターンを容易に形成することが可能になる。平均粒径が50nm以下では、銅粒子を用いてペーストを作製する際に、所定の組成では増粘してしまう不具合がある。また200nmを超えると、銅粒子の反応面積が大きくなく、加熱による反応性が低く、これにより比較的低温での焼結ができない。一次粒子の平均粒径は、狭ピッチの微細な配線パターンを容易に形成し得る観点から、50nmを超え80nm未満の範囲であることが好ましい。
【0038】
上記一次粒子の平均粒径は、次の方法により求められる。先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、銅粒子のサイズに応じて倍率を決め、銅粒子のSEM像を撮影する。10000倍から50000倍の範囲で撮影を行うことが好ましい。次いで、画像解析ソフトを用いてSEM像を解析し、1サンプルあたり300個以上の粒子についてHeywood径を求め、Heywood径の算術平均値を一次粒子の平均粒径とする。
【0039】
有機保護膜12は、カルボン酸銅由来の有機分子で構成されている。この有機保護膜12は、金属銅からなるコア粒子11の表面を被覆し、製造してからペーストになるまでの保管中のコア粒子11の酸化防止の役割を果たす。有機保護膜の被覆量は、銅粒子を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析することが好ましい。この分析法では、分析したときの、CuC2O2H-イオン及びC2H3O2
-イオンの検出量により測定される。本実施形態の有機保護膜は、銅粒子を上記分析法で分析したときに、CuC2O2H-イオンの検出量が、Cu+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあって、C2H3O2
-イオンの検出量が、Cu+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあるように、コア粒子11を被覆する。Cu+イオンの検出量に対するCuC2O2H-イオンの検出量及びCu+イオンの検出量に対するC2H3O2
-イオンの検出量は、コア粒子表面に存在するカルボン酸銅由来の被覆物の量を表している。
【0040】
上記イオンの検出量が上記範囲であれば、コア粒子11を保護するうえで、有機保護膜の量が不足しない。上記範囲の下限値未満では、有機保護膜の被覆量が少なくなり、コア粒子の表面が活性となって銅粒子を酸化させる。
【0041】
〔銅粒子の製造方法〕
本実施形態の銅粒子の製造方法では、カルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えてこの水分散液のpHを3以上6未満の酸性領域に調整し、このpH調整したカルボン酸銅の水分散液に、酸化還元電位が-0.7V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得た後、不活性ガス雰囲気下、前記混合液を60℃~75℃の温度に加熱し、1.5時間~2.5時間保持することにより、カルボン酸銅を還元して銅粒子が分散した銅粒子分散液を得る。
【0042】
出発原料のカルボン酸銅は、市販のカルボン酸銅水和物や工業用硫酸銅とカルボン酸ナトリウム、カルボン酸アンモニウムとを反応させて合成したもの等を用いることができる。またこのカルボン酸銅は、
図2に示すように、カルボン酸塩水溶液と銅電解液とを、大気雰囲気下、反応槽に入れ、60℃~80℃の温度で撹拌して反応させ、カルボン酸銅懸濁液を得た後、洗浄し、固液分離して、固形分を乾燥させて得られた粉末状の高純度のカルボン酸銅を用いてもよい。ここでのカルボン酸塩水溶液は、クエン酸、フタル酸、安息香酸、酒石酸等のカルボン酸のナトリウム塩やアンモニウム塩をイオン交換水、蒸留水等の純水に溶解して調製される。
【0043】
図2に示すように、粉末状のカルボン酸銅を室温のイオン交換水、蒸留水等の純水に入れ、均一に分散するように撹拌して、25質量%以上40質量%以下の濃度のカルボン酸銅の水分散液を得る。このカルボン酸銅の水分散液にpH調整剤を加えてこの水分散液のpHを3以上6未満の酸性領域に調整する。pH調整剤としては、金属成分を含まないカルボン酸アンモニウムが好ましい。pH調整剤によるpH調整をpH3以上6未満にするのは、pH3未満では、カルボン酸銅からの銅イオンの溶出が遅く、反応が速やかに進行しにくく、目標とする粒子が得にくい。またpH6以上では、ヒドラジン化合物でカルボン酸銅を還元するときに、溶出した銅イオンが水酸化銅(II)になり易くかつ沈殿し易くなり、高い収率で銅粒子を製造できない。またヒドラジンの還元力が強くなり、反応が進みやすくなるため、一次粒子の平均粒径が増大する。好ましいpHは4以上5以下である。
【0044】
図2に示すように、このpH調整したカルボン酸銅の水分散液に、雰囲気下で、還元剤として、酸化還元電位が-0.7V~-0.5Vの範囲にあるヒドラジン化合物の水溶液を添加混合して混合液を得る。ヒドラジン一水和物をはじめとするヒドラジン系の還元剤は、酸性域とアルカリ域で異なる反応となることが知られている。
ここで、酸化還元電位とは標準水素電極(NHE)に対する電位差の意味である。酸化還元電位が-0.7V未満では、銅との酸化還元電位差が大きくなり10質量ppm以上の金属不純物が含まれてしまう不具合があり、-0.5Vを超えると銅との酸化還元電位差が小さくなるため、カルボン酸銅の還元が完了しない不具合がある。好ましい酸化還元電位の範囲は-0.6V~-0.5Vである。
酸化還元電位E(V)は、pH値に基づいて、以下の式(1)で表される。
(酸性域)N
2H
5
+ = N
2 + 5H
+ + 4e
-
(アルカリ域)N
2H
4 + 4OH
- = N
2 + 4H
2O + 4e
-
酸化還元電位E(V):-0.23 -0.075×pH (1)
例えば、pHが3であるときには、上記式(1)は[-0.23 -0.075×3]となり、酸化還元電位は、-0.455Vとなる。なお、後述する実施例及び比較例における酸化還元電位は、小数点以下第二位を四捨五入して、例えば-0.455Vは-0.5Vで示している。
【0045】
次いで、
図2に示すように、不活性ガス雰囲気下でこの混合液を60℃以上75℃以下の温度に加熱し1.5時間以上2.5時間以下保持することにより、上記カルボン酸銅を還元してコア粒子を生成させ、このコア粒子の表面にカルボン酸銅由来の有機保護膜を形成して、所望の粒径の銅粒子の分散液が作られる。不活性ガス雰囲気下で加熱保持するのは、コア粒子の酸化を防止するためである。混合液の加熱温度が60℃未満では、カルボン酸銅の還元力が低すぎて還元反応が完了しない。75℃を超えるか、又は保持時間が2.5時間を超えると、カルボン酸銅からの銅イオンの溶出量が増えて、反応速度が上がるため、10質量ppm以上の金属不純物が含まれてしまうとともに、有機保護膜の被覆量が減少する。更に、一次粒子の粒径制御が困難になり、200nm以下の範囲の一次粒子の平均粒径を得ることが困難になる。また、保持時間が1.5時間未満では、カルボン酸銅が完全に還元せずに所望の粒子が得られない。2.5時間を超えると、粒径差によって生じた自由エネルギーを緩和するように微粒子の消失と粗粒子の成長が起こることで粒成長が生じるため、結果として平均粒径が200nm以下の範囲の一次粒子が得られない。好ましい加熱温度は65℃以上70℃以下であり、好ましい保持時間は2時間以上2.5時間以下である。
【0046】
このカルボン酸銅の還元を不活性ガス雰囲気下で行うのは、液中に溶出する銅の酸化を防止するためである。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。ヒドラジン化合物は、酸性下でカルボン酸銅を還元するときに、還元反応後に残渣を生じないこと、安全性が比較的高いこと及び取扱いが容易であること等の利点がある。このヒドラジン化合物としては、ヒドラジン一水和物、無水ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等が挙げられる。この中で、硫黄や塩素といった不純物となり得る成分がないことが望ましいため、ヒドラジン一水和物が好ましい。
【0047】
一般的にpH6未満の酸性液中で生成した銅は溶解してしまう。しかし本実施形態では、pH6未満の酸性液に還元剤であるヒドラジン化合物を添加混合して、液中にコア粒子が生成すると、カルボン酸銅から生成したカルボン酸イオン由来の成分がコア粒子表面を速やかに被覆し、コア粒子の溶解を抑制する。pH6未満の酸性液は、温度50℃以上70℃以下にしておくことが還元反応が進行し易く好ましい。
【0048】
図2に示すように、上記銅粒子の分散液を洗浄した後、これを不活性ガス雰囲気下で、例えば遠心分離機を用いて、固液分離して、凍結乾燥法、減圧乾燥法で乾燥することにより、目標とする、上述したコア粒子表面に有機保護膜が形成された銅粒子が得られる。この銅粒子は、コア粒子表面が有機保護膜で被覆されているため、配線用又は接合用ペーストとして用いるまで、大気中に保管しても、粒子の酸化を防止することができる。
【実施例】
【0049】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0050】
先ず、実施例と比較例で使用するカルボン酸銅の種類及びその炭素数と、カルボン酸銅に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度と、各金属の不純物濃度とを、以下の表1に示す。また表1の下部に、各カルボン酸銅の製造方法を示す。表1に示す酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度は概算値である。
【0051】
【0052】
<実施例1>
先ず、出発原料であるカルボン酸銅として、表1に示すクエン酸銅を用意した。このクエン酸銅を室温のイオン交換水に入れ、撹拌羽根を用いて撹拌し、濃度30質量%のクエン酸銅の水分散液を調製した。次いで、このクエン酸銅の水分散液にpH調整剤としてのクエン酸アンモニウム水溶液を加えて、上記水分散液のpHが3になるように調整した。次に、pH調整した液を50℃の温度にし、窒素ガス雰囲気下で、pH調整した液に還元剤として、銅イオンを還元できる1.2倍当量分である酸化還元電位が-0.5Vのヒドラジン一水和物水溶液(2倍希釈)を一気に添加し、撹拌羽を用いて均一に混合した。更に、目標とする銅粒子を合成するために、上記水分散液と上記還元剤との混合液を窒素ガス雰囲気下で保持温度の70℃まで昇温し、70℃で2時間保持した。遠心分離機を用いて、加熱保持した液中に生成した粒子を固液分離して回収した。回収した粒子を減圧乾燥法で乾燥し、実施例1の銅粒子を製造した。
【0053】
実施例1及び次に述べる実施例2~26の製造条件を下記の表2に、また比較例1~22の銅粒子の製造条件を下記の表3に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
<実施例2~26、比較例1~3、6~16>
実施例1の出発原料であるクエン酸銅と同一又は異なるカルボン酸銅を用い、調整したpH値を実施例1と同一又は変更し、還元剤の種類及び酸化還元電位を実施例1と同一又は変更し、銅粒子の合成時の保持温度とその保持時間を実施例1と同一又は変更した。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2~26、比較例1~3、6~16の銅粒子を製造した。これらの銅粒子の中で、実施例5、実施例10及び実施例16で得られた各銅粒子の集合体を走査型電子顕微鏡で撮影した写真図を、
図3、
図4及び
図5にそれぞれ示す。
【0057】
<比較例4>
実施例1の還元剤であるヒドラジン一水和物をギ酸アンモニウムに変更し、この還元剤の酸化還元電位を0.3Vに変更し、pH値を5に変更した。実施例1の合成時の保持温度及びその保持時間は変更しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、比較例4の銅粒子を製造した。
【0058】
<比較例5>
実施例1の還元剤であるヒドラジン一水和物をギ酸に変更し、この還元剤の酸化還元電位を-0.2Vに変更し、pH値を3に変更した。実施例1の合成時の保持温度は変更せずに、その保持時間を1.5時間に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例5の銅粒子を製造した。
【0059】
<比較例17>
実施例1のカルボン酸銅の代わりに、銅アンミン錯体を用いて、pH値を5に変更し、実施例1と同一の還元剤を用いて、還元剤の酸化還元電位を-0.9Vに変更した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例17の銅粒子を製造した。
【0060】
<比較例18>
実施例1のカルボン酸銅の代わりに、銅アンミン錯体を用いて、pH値を5に変更し、実施例1と同一の還元剤を用いて、還元剤の酸化還元電位を-1.0Vに変更した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例18の銅粒子を製造した。
【0061】
<比較例19>
実施例1のpH値を5に変更し、還元剤の酸化還元電位を-0.6Vに変更し、合成時の保持温度は変更せずに、その保持時間を1.5時間に変更した。更にコア粒子の表面保護剤として、メチルセルロースを粒子に対して5質量%添加した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例19の銅粒子を製造した。
【0062】
<比較例20>
比較例19で使用したコア粒子の表面保護剤であるメチルセルロースを、ポリエチレングリコールに変更し、粒子に対して5質量%添加した。それ以外は比較例19と同様にして、比較例20の銅粒子を製造した。
【0063】
<比較例21>
比較例19で使用したコア粒子の表面保護剤であるメチルセルロースを、ポリビニルアルコールに変更し、粒子に対して5質量%添加した。それ以外は比較例19と同様にして、比較例21の銅粒子を製造した。
【0064】
<比較例22>
比較例19で使用したコア粒子の表面保護剤であるメチルセルロースを、ゼラチンに変更し、粒子に対して5質量%添加した。それ以外は比較例19と同様にして、比較例22の銅粒子を製造した。
【0065】
<比較評価試験と結果>
実施例1~26及び比較例1~22の中で、銅粒子を製造することができた例における(1)銅粒子の一次粒子の平均粒径、(2)酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度、及び(3)銅粒子を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときのCu+イオンの検出量に対するCuC2O2H-イオンとC2H3O2
-イオンの各検出量を、上述した方法でそれぞれ求めた。それらの結果を以下の表4及び表6にそれぞれ示す。ここで、酸化還元電位が銅より卑な金属不純物の合計濃度は、各金属不純物を合計した濃度である。酸化還元電位が銅より卑な金属の不純物の合計濃度と各金属不純物の濃度を、以下の表5及び表7に示す。また還元不十分で合成できなかった比較例1、比較例4~6及び比較例9については、上記項目における値を記載していない。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表6及び表7から明らかなように、比較例1では、クエン酸銅の水分散液のpHを2に調整し、強酸性下で-0.4Vの還元剤を添加したため、混合液を70℃で2時間加熱したが、クエン酸銅からの銅イオンの溶出が遅く、クエン酸銅の還元が完了せず、銅粒子を製造することができなかった。
【0071】
比較例2では、クエン酸銅の水分散液のpHを8に調整し、アルカリ性下で-0.8Vの還元剤を添加したため、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が285nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が20質量ppmと高かった。
【0072】
比較例3では、クエン酸銅の水分散液のpHを10に調整し、強アルカリ性下で-1.0Vの還元剤を添加したため、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が320nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が60質量ppmと高かった。
【0073】
比較例4では、還元剤に0.3Vのギ酸アンモニウムを用いたため、クエン酸銅の還元が進行せず、銅粒子を製造することができなかった。
【0074】
比較例5では、還元剤に-0.2Vのギ酸を用いたため、クエン酸銅の還元が進行せず、銅粒子を製造することができなかった。
【0075】
比較例6では、クエン酸銅の還元剤として-0.6Vのヒドラジン-水和物を用いたが、混合液を70℃で加熱したが、その保持時間が1.0時間と短すぎたため、クエン酸銅の還元が完了せず、銅粒子を製造することができなかった。
【0076】
比較例7では、クエン酸銅の還元剤として-0.6Vのヒドラジン-水和物を用いたが、混合液を60℃で加熱したが、その保持時間が3.0時間と長すぎたため、得られた銅粒子の合計した金属不純物の濃度は10質量ppm未満であったが、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が251nmとなった。また、飛行時間型二次イオン質量分析では、CuC2O2H-イオンとC2H3O2
-イオンの検出量がCu+イオンの検出量に対して0.01倍未満となり、有機保護膜の被覆量が少なかった。
【0077】
比較例8では、クエン酸銅の還元剤として-0.6Vのヒドラジン-水和物を用いたが、混合液の加熱温度が80℃と高過ぎたため、その保持時間が1.5時間と適切であったが、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が225nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が20質量ppmと高かった。また、飛行時間型二次イオン質量分析では、CuC2O2H-イオンとC2H3O2
-イオンの検出量がCu+イオンの検出量に対して0.01倍未満となり、有機保護膜の被覆量が少なかった。
【0078】
比較例9では、クエン酸銅の還元剤として-0.6Vのヒドラジン-水和物を用いたが、混合液の加熱温度が55℃と低過ぎたため、その保持時間が2.5時間と適切であったが、クエン酸銅の還元が完了せず、銅粒子を製造することができなかった。
【0079】
比較例10では、クエン酸銅の還元剤として-0.7Vのヒドラジン-水和物を用いて、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、カルボン酸銅の水分散液をpH6で調整したため、銅イオンの酸化還元電位とヒドラジン化合物の酸化還元電位との差が大きくなり、銅より卑な金属の析出が促進され、得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が20質量ppmと高かった。
【0080】
比較例11では、フタル酸銅の水分散液のpHを8に調整し、-0.9Vの還元剤を用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が331nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が30質量ppmと高かった。
【0081】
比較例12では、フタル酸銅の水分散液のpHを10に調整し、-1.0Vの還元剤を用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が399nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が50質量ppmと高かった。
【0082】
比較例13では、酒石酸銅の水分散液のpHを8に調整し、-0.9Vの還元剤を用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が30質量ppmと高かった。
【0083】
比較例14では、酒石酸銅の水分散液のpHを10に調整し、-1.0Vの還元剤を用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が50質量ppmと高かった。
【0084】
比較例15では、安息香酸銅の水分散液のpHを8に調整し、-0.9Vの還元剤を用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が30質量ppmと高かった。
【0085】
比較例16では、安息香酸銅の水分散液のpHを10に調整し、-1.0Vの還元剤を用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が40質量ppmと高かった。
【0086】
比較例17では、還元剤としてヒドラジン-水和物を用いた。この還元剤の酸化還元電位が-0.9Vであって、銅アンミン錯体をpH値が5の酸性下で用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が400nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が50質量ppmと高かった。またCu+イオンの検出量に対するCuC2O2H-イオンとC2H3O2
-イオンの各検出量を調べたが、カルボン酸銅由来の成分が含まれなかったため、いずれも検出されなかった。
【0087】
比較例18では、還元剤としてヒドラジン-水和物を用いた。この還元剤の酸化還元電位が-1.0Vであって、銅アンミン錯体をpH値が5の酸性下で用いたため、混合液を70℃に加熱して2.0時間保持したけれども、液中で粒成長が生じて一次粒子の平均粒径が166nmとなり、しかも得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が90質量ppmと高かった。またCu+イオンの検出量に対するCuC2O2H-イオンとC2H3O2
-イオンの各検出量を調べたが、カルボン酸銅由来の成分が含まれなかったため、いずれも検出されなかった。
【0088】
比較例19~22では、それぞれメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチンをコア粒子の表面保護剤として添加したため、還元剤として-0.6Vのヒドラジン-水和物を用い、pH値を5に調整し、混合液を70℃に加熱して1.5時間保持したけれども、得られた銅粒子の合計した金属不純物濃度が20質量ppm~80質量ppmと高かった。これらは表面保護剤に含有する金属不純物が影響した結果であると考えられる。
【0089】
これらに対して、実施例1~26では、pH3以上pH6未満の酸性下で還元剤を添加混合し、還元剤としてヒドラジン化合物を用い、合成液の加熱時の保持温度を60℃以上75℃以下とし、その保持時間を1.5時間以上2.5時間以下にしたため、銅粒子の一次粒子の平均粒径は51nm(実施例22)~180nm(実施例19)の範囲にあり、銅粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の合計した不純物濃度が、いずれも10質量ppm未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の銅粒子は、ファインピッチ用鉛フリーの配線用又は接合用粒子として利用でき、この配線用粒子又は接合用粒子を原料として得られる配線用ペースト又は接合用ペーストは、微細な電子部品の実装に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
10 銅粒子
11 コア粒子
12 有機保護膜
【要約】
【課題】配線材料又は接合材料として用いた場合に銅配線等の導電性や伝熱性に優れ、電子回路を形成する際に微細な配線パターンを実現でき、かつ金属不純物の拡散により他部材の特性を損なうことがない。
【解決手段】粒子表面がカルボン酸銅由来の有機分子により構成された有機保護膜で被覆され、粒子に含まれる酸化還元電位が銅より卑な金属の合計した不純物濃度が10質量ppm未満であって、一次粒子の平均粒径が50nmを超え200nm以下の銅粒子である。銅粒子を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、CuC
2O
2H
-イオンの検出量が、Cu
+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にあって、C
2H
3O
2
-イオンの検出量が、Cu
+イオンの検出量に対して0.02倍以上の範囲にある。
【選択図】
図1