(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】構造情報表示装置、構造設計支援装置、及び構造設計支援モデル学習装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20220812BHJP
E04B 1/20 20060101ALI20220812BHJP
G06F 30/12 20200101ALI20220812BHJP
G06N 3/08 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
G06F30/13
E04B1/20 A ESW
G06F30/12
G06N3/08
(21)【出願番号】P 2017252614
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月17日にhttp://www.takenaka.co.jp/news/2017/11/04/index.html?のウェブサイトで公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月17日の日本経済新聞平成29年11月17日付日刊第14面で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月20日の建設通信新聞平成29年11月20日付朝刊第3面で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月27日の日刊建設産業新聞平成29年11月27日付朝刊第2面で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月30日の電気新聞平成29年11月30日付朝刊第11面で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】514080981
【氏名又は名称】HEROZ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 孝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】島野 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】松原 由典
(72)【発明者】
【氏名】小田島 暢之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】松岡 康友
(72)【発明者】
【氏名】木下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】井口 圭一
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-293527(JP,A)
【文献】特開2004-110658(JP,A)
【文献】特開2005-256345(JP,A)
【文献】特開2008-090637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/13
E04B 1/20
G06F 30/12
G06N 3/08
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に関する情報である入力情報と、前記建物の構造に関する実績情報を指定する情報である表示対象情報とを受け付ける受付部と、
複数の建物の各々についての前記建物に関する情報と前記建物の構造に関する実績情報とを表す構造設計データが格納されたデータベースから、前記受付部により受け付けた前記入力情報及び前記表示対象情報に対応する、前記建物の実績情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部によって取得された前記建物の構造に関する実績情報を表示する表示部と、
を含
み、
前記表示部は、1つの建物を1つのプロット点とする散布図の各軸に前記建物の構造に関する実績情報が表す数値を表示し、前記建物に関する情報毎に各プロット点を描画するように表示し、
前記建物の構造に関する実績情報の種類及び前記建物に関する情報の種類は、ユーザによって選択可能なように表示され、
前記ユーザによって前記プロット点が選択されると、前記プロット点に対応する前記建物の建設工事の詳細が表示される、
構造情報表示装置。
【請求項2】
前記建物に関する情報は、構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数の少なくとも1つを含み、
前記建物の構造に関する実績情報は、材料の数量に関する情報、検定比、積載荷重、地震荷重、柱支配面積、及び柱スパンの少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の構造情報表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造情報表示装置、構造設計支援装置、及び構造設計支援モデル学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事における構造設計を支援する建物の構造設計支援システムが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の構造設計支援システムでは、建物の強度を判定することにより、構造設計を支援する。しかし、上記特許文献1に記載の技術においては、構造設計の実績情報について考慮されていないため、適切でない場合がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、建設工事の構造設計に関する実績情報に基づき、構造設計の支援を適切に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の構造情報表示装置は、建物に関する情報である入力情報と、前記建物の構造に関する実績情報を指定する情報である表示対象情報とを受け付ける受付部と、複数の建物の各々についての前記建物に関する情報と前記建物の構造に関する実績情報とを表す構造設計データが格納されたデータベースから、前記受付部により受け付けた前記入力情報及び前記表示対象情報に対応する、前記建物の実績情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部によって取得された前記建物の構造に関する実績情報を表示する表示部と、を含んで構成される。これにより、過去の建設工事の情報が適切に表示されるため、構造設計を支援することができる。
【0007】
本発明の構造情報表示装置の前記建物に関する情報は、構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数の少なくとも1つを含み、前記建物の構造に関する実績情報は、材料の数量に関する情報、検定比、積載荷重、地震荷重、柱支配面積、及び柱スパンの少なくとも1つを含むようにすることができる。これにより、過去の建設工事の情報が適切に表示されるため、構造設計を支援することができる。
【0008】
本発明の構造設計支援装置は、設計対象の建物に関する情報と前記設計対象の建物の材料の数量に関する情報とを取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記設計対象の建物に関する情報及び前記設計対象の建物の材料の数量に関する情報と、学習用の建物に関する情報及び該学習用の建物の材料の数量に関する情報を表す学習用データから予め機械学習された学習済みモデルとに基づいて、前記設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かに関する情報を出力する推定部と、を含んで構成される。これにより、過去の建設工事の実績情報が反映された学習済みモデルに基づき、構造設計を適切に支援することができる。
【0009】
本発明の前記学習用データのうちの前記学習用の建物の材料の数量に関する情報は、前記学習用の建物の各箇所に対応する材料の数量に関する情報であり、前記推定部は、前記取得部によって取得された前記設計対象の建物に関する情報と前記学習済みモデルとに基づいて、前記設計対象の建物の各箇所の構造設計が適切であるか否かに関する情報を更に出力することができる。これにより、過去の建設工事の実績情報が反映された学習済みモデルに基づき、建物の各箇所の構造設計が適切であるか否かの情報が出力されるため、構造設計を適切に支援することができる。
【0010】
また、本発明の構造設計支援装置は、設計対象の建物の初期条件を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記初期条件の前記設計対象の建物の構造を変化させた場合の前記建物の構造設計に対して、建物の構造計算に関するシミュレーション及び建物の材料の数量に関するシミュレーションの少なくとも一方を行うシミュレーション部と、前記シミュレーション部によって得られたシミュレーション結果に応じた前記建物の構造設計に対する評価値に基づいて、建物の初期条件から前記建物の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させて、建物の初期条件から前記建物の構造設計を出力する学習済みモデルを得る学習部と、前記学習部によって得られた前記学習済みモデルに基づいて、前記設計対象の建物の構造設計を出力する設計出力部と、を含んで構成される。シミュレーション結果に応じた構造設計に対する評価値に基づき、設計対象の建物の複数の構造設計を出力することにより、構造設計を適切に支援することができる。
【0011】
本発明の構造設計支援装置の前記学習部は、前記シミュレーション結果に基づいて、前回得られた前記設計対象の建物の構造設計から次回の前記設計対象の建物の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させて、前記学習済みモデルを更新することを繰り返し、前記設計出力部は、前記学習部によって更新された前記学習済みモデルに基づいて、前回得られた前記設計対象の建物の構造設計から次回の前記設計対象の建物の構造設計を出力するようにすることができる。逐次更新される学習済みモデルを用いることにより、適切かつ効率的に構造設計の候補を得ることができる。
【0012】
本発明の構造設計支援装置の前記設計出力部は、建物の構造に関する実績情報が格納されたデータベースから前記実績情報を読み出し、前記学習済みモデルに基づき出力された前記構造設計の各々から、前記実績情報との間の類似度が閾値以上である前記構造設計を出力するようにすることができる。実績情報と類似する構造設計の候補が選別されることにより、過去の建設工事の構造設計と類似する構造設計の候補を得ることができる。
【0013】
本発明の構造設計支援モデル学習装置は、学習用の建物に関する情報及び該学習用の建物の材料の数量に関する情報を表す学習用データに基づいて、建物に関する情報から建物の材料の数量に関する情報を出力するためのモデルを機械学習させて、前記建物に関する情報から前記建物の材料の数量に関する情報を出力する学習済みモデルを得る学習部を含んで構成される。これにより、建物に関する情報及び建物の材料の数量に関する情報に応じて、建物の材料の数量に関する情報を出力する学習済みモデルを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建設工事の構造設計に関する実績情報に基づき、構造設計の支援を適切に行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る歩掛り構造情報表示装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】構造設計データベースに格納される情報の一例を示す図である。
【
図3】建物の各箇所に対応する歩掛の一例を示す図である。
【
図4】入力情報と表示対象情報とを説明するための説明図である。
【
図5】第1の実施形態における構造情報表示処理ルーチンの一例を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る構造設計支援システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図7】第2の実施形態に係るクライアント端末の概略構成を示すブロック図である。
【
図8】第2の実施形態に係る構造設計装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図9】第2の実施形態に係る構造設計支援装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図10】第2の実施形態に係る学習済みモデルの一例を示す図である。
【
図11】第2の実施形態における処理を説明するための説明図である。
【
図12】第2の実施形態における学習処理ルーチンの一例を示す図である。
【
図13】第2の実施形態における推定処理ルーチンの一例を示す図である。
【
図14】第3の実施形態に係る構造設計支援システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図15】第3の実施形態に係る構造設計支援装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図16】第3の実施形態における構造設計支援処理ルーチンの一例を示す図である。
【
図17】学習済みモデルの他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
<第1の実施形態に係る構造情報表示装置のシステム構成>
【0018】
図1は、第1の実施形態に係る構造情報表示装置の構成の一例を示すブロック図である。構造情報表示装置10は、機能的には、
図1に示されるように、操作装置12、コンピュータ20、及び表示装置30を含んだ構成で表すことができる。
【0019】
第1の実施形態では、過去の構造設計に関する実績情報を表示する構造情報表示装置について説明する。構造設計に関する実績情報を表示することにより、構造設計者の設計作業を支援することができる。
【0020】
操作装置12は、構造情報表示装置10のユーザから入力された操作情報を受け付ける。
【0021】
コンピュータ20は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んで構成されている。コンピュータ20は、機能的には、構造設計データベース22と、受付部24と、情報取得部26と、表示部28とを備えている。
【0022】
構造設計データベース22には、複数の建物の各々についての、建物に関する情報と建物の構造に関する実績情報とを表す構造設計データが格納されている。
【0023】
図2に、構造設計データベース22に格納される情報の一例を示す。
図2(A)に示されるように、建物に関する情報を示す建物テーブルには、構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数が含まれている。
【0024】
また、
図2(B)に示されるように、建物の構造に関する実績情報を示す歩掛テーブルには、各材料の歩掛が含まれている。歩掛とは、単位面積又は単位体積当たりの材料の数量である。例えば、歩掛テーブルには、コンクリートの歩掛、型枠の歩掛、鉄筋(R/A)の歩掛、及び鉄筋(R/C)の歩掛が含まれる。なお、歩掛は、本発明の材料の数量に関する情報の一例である。
【0025】
また、
図2(C)に示されるように、建物の構造に関する実績情報を示す構造情報テーブルには、検定比、積載荷重、地震荷重、柱支配面積、及び柱スパンが含まれている。なお、検定比とは、建物の部材耐力(F)と建物に作用する作用力(N)との割合(N/F)である。
【0026】
図2(B)に示される歩掛テーブルの各材料の歩掛には、建物の各箇所に対応する歩掛が含まれている。例えば、
図3に示されるように、コンクリート歩掛としては、柱のコンクリート歩掛、大梁のコンクリート歩掛、小梁のコンクリート歩掛、壁のコンクリート歩掛、及びスラブのコンクリート歩掛等が割り当てられている。
【0027】
受付部24は、建物に関する情報である入力情報と、建物の構造に関する実績情報を指定する情報である表示対象情報とを受け付ける。例えば、ユーザは、自らが設計している建物と類似する建物についての、建物に関する情報を入力情報とする。また、ユーザは、入力情報として設定した建物について所望する情報を、表示対象情報として入力する。
【0028】
図4に、受付部24によって受け付けられる入力情報と表示対象情報とを説明するための説明図を示す。例えば、ユーザは、
図4に示される表示画面XのC,Dの箇所を適宜選択して、入力情報を入力する。
図4に示される例では、構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数等が、入力情報として入力される。
【0029】
また、ユーザは、
図4に示される表示画面XのA,A1,B,B1の箇所を適宜選択して、表示対象情報を入力する。
図4に示される例では、歩掛、検定比、積載荷重、地震荷重、柱支配面積、及び柱スパンの何れを選択するかが、入力情報として入力される。
【0030】
例えば、A,Bの箇所において「歩掛」が選択された場合、ユーザはA1,B1の箇所において表示対象情報として、コンクリート、型枠、鉄筋(R/A)、鉄筋(R/C)、及び鉄骨等を更に選択することができる。また、ユーザはA1,B1の箇所において、柱、大梁、小梁、ブレース、壁、及びスラブを更に選択することができる。
【0031】
情報取得部26は、受付部24により受け付けた入力情報及び表示対象情報を取得する。そして、情報取得部26は、構造設計データベース22から入力情報及び表示対象情報に対応する、建物の実績情報を取得する。
【0032】
表示部28は、情報取得部26によって取得された建物の構造に関する実績情報を表示する。例えば、表示部28は、上記
図4のYに示されるように、表示対象情報A,Bとして「歩掛」が選択され、かつ表示対象情報A1として「コンクリート」及び「集計」が選択され、かつ表示対象情報B1として「鉄筋(R/A)」及び「集計」が選択された場合、上記
図4に示されるような表示画面Yを表示する。
【0033】
これにより、ユーザは、自ら設計している建物と類似する建物について、おおよそどれ位の歩掛であるのかを把握することができる。例えば、設計している建物がS造である場合、上記
図4に示されるように、コンクリート歩掛はおおよそ0.4~0.8の間であり、鉄筋(R/A)の歩掛はおおよそ0.1~0.8の間であることがわかる。
【0034】
また、例えば、上記
図4に示されるように、構造設計データベース22から実績情報が抽出され、表示画面Yに適切なグラフで実績情報が描画される。また、表示画面Yのプロット点Eを指定すると、当該プロット点に対応する建設工事の詳細が表示される。これにより、構造設計者は過去の建物の構造設計に関する実績情報を参照することができるため、構造設計の支援が適切に行われる。
【0035】
表示装置30は、表示部28の制御に応じて、表示画面を表示する。表示装置30は、例えばディスプレイ等によって実現される。例えば、表示装置30は、上記
図4に示されるように、表示画面X及び表示画面Y等を表示する。
【0036】
<構造情報表示装置の作用>
【0037】
次に、構造情報表示装置10の作用を説明する。構造設計データベース22に構造設計データが格納され、かつユーザによって操作装置12を介して入力情報及び表示対象情報が入力されると、構造情報表示装置10は、
図5に示す構造情報表示処理ルーチンを実行する。
【0038】
ステップS100において、受付部24は、入力情報と表示対象情報とを受け付ける。
【0039】
ステップS102において、情報取得部26は、上記ステップS100で受け付けた入力情報及び表示対象情報を取得する。そして、情報取得部26は、構造設計データベース22から入力情報及び表示対象情報に対応する、建物の実績情報を取得する。
【0040】
ステップS104において、表示部28は、上記ステップS102で取得された建物の構造に関する実績情報を表示する。
【0041】
表示装置30には、建物の構造に関する実績情報が表示される。
【0042】
以上詳細に説明したように、第1の実施形態では、複数の建物の各々についての構造設計データが格納されたデータベースから、入力情報及び表示対象情報に対応する、建物の実績情報を表示する。これにより、過去の建設工事の実績情報が適切に表示され、構造設計を支援することができる。
【0043】
<第2の実施形態に係る構造設計支援システムの構成>
【0044】
第2の実施形態では、過去の建設工事の実績情報を学習用データとして設定し、その学習用データに基づき機械学習によって学習済みモデルを生成する。そして、生成された学習済みモデルを用いて構造設計の支援を行う点が、第1の実施形態と異なる。
【0045】
図6は、第2の実施形態に係る構造設計支援システムの構成の一例を示すブロック図である。構造設計支援システム210は、機能的には、
図6に示されるように、クライアント端末211、構造設計装置212、及び構造設計支援装置213を含んだ構成で表すことができる。クライアント端末211、構造設計装置212、及び構造設計支援装置213は、所定の通信手段14によって接続されている。
【0046】
[クライアント端末]
【0047】
クライアント端末211は、
図7に示されるように、操作装置220と、コンピュータ230と、表示装置240とを備える。
【0048】
操作装置220は、ユーザによって入力された操作情報を受け付ける。例えば、構造設計者であるユーザによって入力された、所定の建物に関する設計情報を受け付ける。
【0049】
コンピュータ230は、CPU、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んで構成されている。コンピュータ230は、機能的には、受付部232と、設計部234と、制御部236と、送受信部238とを備えている。
【0050】
受付部232は、操作装置220から入力された操作情報を受け付ける。
【0051】
設計部234は、受付部232によって受け付けられた設計情報に応じて、所定の建物の設計を行う。例えば、コンピュータ230に所定のCAD(computer-aided design)システムが導入されている場合、設計部234は、ユーザによって入力された設計情報に基づいて、所定の建物を表すCADデータを生成する。これにより、ユーザによって建物の設計作業が行われ、設計対象の建物に関する情報(以下、単に「設計建物情報」と称する。)が生成される。設計建物情報には、例えば、設計対象の建物の建物規模、構造種別、用途、各種設計データ等が含まれる。
【0052】
制御部236は、受付部232によって受け付けられた操作情報に応じて制御処理を行う。例えば、制御部236は、受付部232によって受け付けられた操作情報に応じて、後述する構造設計装置212及び構造設計装置212へ、設計建物情報を送信するように、送受信部238を制御する。
【0053】
送受信部238は、制御部236による制御に応じて、構造設計装置212との間において情報の送受信を行う。また、送受信部238は、制御部236による制御に応じて、構造設計支援装置213との間において情報の送受信を行う。
【0054】
表示装置240は、制御部236の制御に応じて、所定の画面を表示する。
【0055】
[構造設計装置]
【0056】
構造設計装置212は、CPU、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含むコンピュータによって構成されている。構造設計装置212は、機能的には、
図8に示されるように、送受信部250と、歩掛計算部252とを備えている。
【0057】
送受信部250は、クライアント端末211との間において情報の送受信を行う。
【0058】
歩掛計算部252は、送受信部250によって取得した設計建物情報に応じて、設計対象の建物の歩掛を計算する。歩掛計算部252は、例えば、設計対象の建物がRC造である場合、設計建物情報に含まれる、設計対象の建物の各柱の大きさ、各梁の大きさ、及び各床の大きさに応じて、コンクリートの歩掛を計算する。
【0059】
送受信部250は、歩掛計算部252によって計算された歩掛をクライアント端末211へ送信する。
【0060】
[構造設計支援装置]
【0061】
構造設計支援装置213は、CPU、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含むコンピュータによって構成されている。構造設計支援装置213は、機能的には、
図9に示されるように、構造設計データベース260と、学習部262と、学習済みモデル記憶部264と、送受信部266と、推定部268とを備えている。送受信部266は、本発明の取得部の一例である。
【0062】
構造設計データベース260には、学習用の建物に関する情報を示す建物テーブルと学習用の建物の歩掛に関する情報を示す歩掛テーブルが格納されている。構造設計データベース260に格納された情報は、後述する学習部262により学習用データとして用いられる。例えば、1つの建物についての、建物の構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数と、建物のコンクリートの歩掛、型枠の歩掛、鉄筋(R/A)の歩掛、及び鉄筋(R/C)の歩掛とが、1つの学習用データとして用いられる。
【0063】
学習部262は、構造設計データベース260に格納された、複数の建物の各々についての学習用データを用いて、モデルを機械学習させて学習済みモデルを生成する。具体的には、学習部262は、設計建物情報から歩掛に関する情報を出力するためのモデルを機械学習させる。
【0064】
建物の構造設計をする際には、建物に関する情報(建物の構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数)に応じて、設計作業を適切に行う必要がある。しかし、構造設計作業は人手によって行われるため、設計内容に抜けや漏れが含まれる場合がある。これを抑制するため、複数人の構造設計者による検討が行われる。このとき、建物の材料の数量に関する情報の一例としての歩掛に関する情報が、構造設計内容の検討に有用である場合がある。
【0065】
例えば、過去の建設工事の実績情報に基づき、建物の建物規模が「X」程度である場合、その建物規模の歩掛はおおよそ「Y」程度という関係を、実績情報から予め対応付けることができる。このため、設計対象の建物の建物規模が「X」である場合、その歩掛が「Y」よりも著しく大きい、又は「Y」よりも著しく小さい場合には、その設計内容が不適切である可能性が高いと判断することができる。
【0066】
そこで、第2の実施形態では、建物に関する情報と歩掛に関する情報とを対応付けた学習用データを用いて、学習済みモデルを生成する。これにより、例えば、この程度の規模の建物であれば、歩掛はこの程度という情報が学習済みモデルへ反映される。そのため、学習済みモデルを用いて、設計対象の建物の構造設計内容が適切であるか否かの判断を支援することができる。
【0067】
第2の実施形態の学習済みモデルについては、例えば、モデルの一例として、
図10に示されるようなニューラルネットワークを用いることができ、学習アルゴリズムの一例としてディープラーニングを用いることができる。第2の実施形態の学習済みモデルは、設計建物情報から歩掛に関する情報を出力する学習済みモデルである。
【0068】
例えば、学習部262は、構造設計データベース260に格納された学習用データに基づき、設計建物情報が「X」でありかつ歩掛が「A」である学習用データに対しては、設計建物情報「X」が入力された際には歩掛「A」の確率が高くなるように、ニューラルネットワークを学習させる。
【0069】
そして、学習部262は、得られた学習済みモデルを学習済みモデル記憶部264へ格納する。
【0070】
学習済みモデル記憶部264には、学習部262によって生成された学習済みモデルが格納される。
【0071】
送受信部266は、クライアント端末211から送信された設計建物情報と歩掛とを受信する。
【0072】
推定部268は、送受信部266によって受信した設計建物情報及び歩掛と、学習済みモデル記憶部264に格納された学習済みモデルとに基づいて、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かに関する情報(以下、単に「検査情報」と称する。)を出力する。
【0073】
例えば、まず、推定部268は、送受信部266によって受信した設計建物情報を学習済みモデルに入力する。設計建物情報を学習済みモデルへ入力することにより、上記
図10に示されるように、入力した設計建物情報各に対する各歩掛の確率が出力される。
【0074】
そして、推定部268は、
図11に示されるように、確率が最も高い歩掛「A」と送受信部266によって受信した歩掛「X」とを比較して、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かを表す検査情報を生成する。
【0075】
例えば、推定部268は、歩掛「A」と歩掛「X」との差分が予め定められた閾値以上である場合には、設計対象の建物の構造設計が適切でないことを表す検査情報を生成する。また、推定部268は、歩掛「A」と歩掛「X」との差分が予め定められた閾値未満である場合には、設計対象の建物の構造設計が適切であることを表す検査情報を生成する。
【0076】
送受信部266は、推定部268によって推定された検査情報を、クライアント端末211へ送信する。
【0077】
クライアント端末211の送受信部238は、構造設計支援装置213から送信された検査情報を受信し、検査情報を制御部236へ出力する。制御部236は、検査情報を表示装置240へ表示させる。
【0078】
クライアント端末211を操作するユーザは、自らが設計している建物の設計建物情報が適切であるか否かを表す検査情報を確認する。これにより、ユーザは、自らが設計している建物の構造設計が適切であるか否かを知ることができる。
【0079】
<構造情報表示装置の作用>
【0080】
次に、構造設計支援システム210の作用を説明する。まず、構造設計支援装置213において、
図12に示す学習処理ルーチンが実行される。
【0081】
<学習処理ルーチン>
【0082】
ステップS200において、学習部262は、構造設計データベース260に格納された学習用データの各々を読み出す。
【0083】
ステップS202において、学習部262は、上記ステップS200で読み出した学習用データに基づいて、モデルの一例であるニューラルネットワークを、ディープラーニングによって学習させて、学習済みモデルを得る。
【0084】
ステップS204において、学習部262は、上記ステップS202で得られた学習済みモデルを、学習済みモデル記憶部264へ格納する。
【0085】
次に、構造設計支援システム210のクライアント端末211を操作するユーザによって、クライアント端末211が操作され、設計対象の建物の設計建物情報が作成される。そして、ユーザは、作成した設計建物情報を構造設計装置212へ送信する。
【0086】
構造設計装置212の送受信部250は、クライアント端末211から送信された設計建物情報を受信する。そして、構造設計装置212の歩掛計算部252は、送受信部250によって受信された設計建物情報に応じて、設計建物の歩掛を計算する。構造設計装置212の送受信部250は、歩掛計算部252によって計算された設計対象の建物の歩掛を、クライアント端末211へ送信する。
【0087】
クライアント端末211の送受信部238は、構造設計装置212の送受信部250から送信された歩掛を受信する。そして、ユーザは、クライアント端末211の操作装置220を操作し、設計部234によって得られた設計建物情報と構造設計装置212から送信された歩掛とを、構造設計支援装置213へ送信する。
【0088】
構造設計支援装置213の送受信部266が、クライアント端末211から送信された、設計建物情報及び歩掛を受信すると、構造設計支援装置213は
図13に示す推定処理ルーチンを実行する。
【0089】
ステップS250において、推定部268は、送受信部266によって受信された、設計建物情報と歩掛とを取得する。
【0090】
ステップS252において、推定部268は、学習済みモデル記憶部264に格納された学習済みモデルを読み出す。
【0091】
ステップS254において、推定部268は、上記ステップS250で取得した設計建物情報を、上記ステップS252で読み出した学習済みモデルへ入力する。これにより、設計建物情報に対応する各歩掛の確率が学習済みモデルから出力される。
【0092】
ステップS256において、推定部268は、上記ステップS254で得られた各歩掛の確率のうち、最も確率が高い歩掛を特定する。
【0093】
ステップS258において、推定部268は、上記ステップS250で取得された歩掛と、上記ステップS256で特定された歩掛とを比較する。例えば、推定部268は、上記ステップS250で取得された歩掛と、上記ステップS256で特定された歩掛との間の差分を算出する。
【0094】
ステップS260において、推定部268は、上記ステップS258で得られた歩掛同士の差分と予め設定された閾値とに基づいて、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かを表す検査情報を生成する。
【0095】
構造設計支援装置213の送受信部266は、上記ステップS260で得られた検査情報を、クライアント端末211へ送信する。
【0096】
クライアント端末211の送受信部238は、構造設計支援装置213から送信された検査情報を受信し、検査情報を表示装置240へ表示させる。
【0097】
クライアント端末211を操作するユーザは、自らが設計している建物の設計建物情報が適切であるか否かを表す検査情報を確認する。これにより、ユーザは、自らが設計している建物の構造設計が適切であるか否かを知ることができる。
【0098】
以上詳細に説明したように、第2の実施形態では、学習用の建物に関する情報及び該学習用の建物の歩掛を表す学習用データに基づいて、建物に関する情報から歩掛に関する情報を出力するためのモデルを機械学習させて、学習済みモデルを得る。これにより、機械学習を用いることにより、建物に関する情報及び歩掛に関する情報に応じて、歩掛に関する情報を出力する学習済みモデルを得ることができる。
【0099】
また、第2の実施形態では、設計建物情報と設計対象の建物の歩掛に関する情報と、学習用データから予め機械学習された学習済みモデルとに基づいて、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かに関する情報を出力する。これにより、過去の実績情報が反映された学習済みモデルに基づき、構造設計を適切に支援することができる。
【0100】
<第3の実施形態に係る構造設計支援システムの構成>
【0101】
第3の実施形態では、構造設計に関する初期条件に応じてシミュレーションを行う。そして、第3の実施形態では、シミュレーション結果に基づき、強化学習によって学習済みモデルを生成する。そして、得られた学習済みモデルを用いて構造設計の支援を行う点が、第1及び第2の実施形態と異なる。
【0102】
図14は、第3の実施形態に係る構造設計支援システムの構成の一例を示すブロック図である。構造設計支援システム310は、機能的には、
図14に示されるように、クライアント端末211、及び構造設計支援装置213を含んだ構成で表すことができる。
【0103】
[クライアント端末]
【0104】
ユーザは、クライアント端末211の操作装置220を操作し、設計対象の建物の初期条件を設定する。そして、ユーザは、設計対象の建物の初期条件を、送受信部238を介して構造設計支援装置213へ送信する。設計対象の建物の初期条件としては、例えば、建物の初期条件を設定したCADデータを用いることができる。
【0105】
[構造設計支援装置]
【0106】
構造設計支援装置213は、CPU、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含むコンピュータによって構成されている。構造設計支援装置213は、機能的には、
図15に示されるように、送受信部320と、設計出力部321と、シミュレーション部322と、学習部324と、学習済みモデル記憶部326と、構造設計データベース330とを備えている。送受信部320は、本発明の取得部の一例である。
【0107】
送受信部320は、クライアント端末211から送信された、設計対象の建物の初期条件を取得する。
【0108】
設計出力部321は、送受信部320によって取得された初期条件に対応する設計対象の建物の構造を変化させて、設計対象の建物の構造設計の候補を生成する。
【0109】
第3の実施形態では、強化学習によって学習済みモデルを生成する。そのため、設計出力部321によって変更される設計対象の建物の構造を、強化学習における環境sとする。また、設計対象の建物の構造部材である、柱、梁、及び床等の大きさ等を変化させることを行動aとする。また、設計対象の建物の構造部材を変化させたときの状態に応じた評価値を報酬rとする。そのため、本実施形態では、環境sは設計対象の建物の構造であり、行動aは建物の構造を変化させることであり、報酬rは建物の構造部材を変化させたときの状態に応じた評価値である。
【0110】
まず、設計出力部321は、初期条件に対応する建物の構造又は前回の処理によって生成された建物の構造設計の候補を示すCADデータを変化させる。
【0111】
例えば、設計出力部321は、所定の行動a1として、設計対象の建物のCADデータに含まれる複数の柱から、所定の柱を取り除く。または、設計出力部321は、所定の行動a2として、設計対象の建物のCADデータの所定の箇所に柱を追加する。または、設計出力部321は、所定の行動a3として、設計対象の建物のCADデータに含まれる柱を太くする。または、設計出力部321は、所定の行動a3として、設計対象の建物のCADデータに含まれる柱を細くする。これにより、設計対象の建物の構造設計の候補が生成される。
【0112】
シミュレーション部322は、設計対象の建物のCADデータを変化させたことにより得られたCADデータの各々を評価する。具体的には、シミュレーション部322は、設計出力部321によって生成された構造設計の候補に対して、建物の構造計算に関するシミュレーションを行い、構造設計の候補の構造的な強度を評価する。また、シミュレーション部322は、構造設計の候補に対して、建物の材料の数量に関するシミュレーションである歩掛計算を行い、構造設計の候補のコストを評価する。そして、シミュレーション部322は、シミュレーション結果に応じて報酬rを設定する。
【0113】
例えば、シミュレーション部322は、構造設計及び歩掛に関する所定の評価関数を用いて、所定の行動a1~a4によって得られたCADデータの各々を評価する。例えば、所定の行動a1によって得られたCADデータについて、歩掛が小さい場合であっても構造的な強度が低い場合には、評価を表す報酬r1は小さくなる。また、所定の行動a2によって得られたCADデータについて、歩掛が小さくかつ構造的な強度が高い場合には、評価を表す報酬r2は大きくなる。
【0114】
学習部324は、シミュレーション部322によって得られたシミュレーション結果に基づいて、建物の初期条件から建物の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させて、学習済みモデルを得る。具体的には、学習部324は、シミュレーション結果のうちの建物の構造設計に対する評価値に基づいて、前回得られた構造設計の候補から次回の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させて、学習済みモデルを更新することを繰り返す。
【0115】
例えば、学習部324は、シミュレーション結果に基づいて、以下の式(1)に従って、行動価値関数Q(s,a)を学習させる(インターネット(URL:http://www.sist.ac.jp/~kanakubo/research/reinforcement_learning.html)を参照。)。
【0116】
【0117】
ここで、stは時刻tにおける環境を表す。また、atは時刻tにおける行動を表す。行動atにより、環境はst+1に変化する。また、rt+1は、環境の変化応じて付与される報酬である。
【0118】
上記式(1)におけるmaxの付いた項は、環境st+1下で、最も(その時に分かっている)Q値の高い行動aを選んだ場合のQ値にγを掛けたものとなる。また、γは、0<γ≦1のパラメータであり割引率と称される。αは学習係数であり、0<α≦1の範囲である。
【0119】
上記式(1)に示す更新式に応じて、モデルである行動価値関数Q(s,a)が学習され、学習済みモデルとしての行動価値関数Q(s,a)が生成される。なお、行動価値関数Q(s,a)は、構造設計の候補の構造的な強度に関する評価値及び構造設計の候補のコストに関する評価値に応じて、逐次更新される。
【0120】
学習済みモデル記憶部326には、学習部324によって得られた行動価値関数Q(s,a)が格納される。行動価値関数Q(s,a)は、例えば、状態sと行動aとの組み合わせ毎にQ値が格納されたQテーブルによって表現される。このため、行動価値関数Q(s,a)と現在の建物の構造sに応じて、次に取る行動a(例えば、柱、梁、及び床等の大きさ等を変化させる行動)が決定される。
【0121】
設計出力部321は、前回得られた構造設計の候補から次回の構造設計の候補を生成する際に、学習済みモデル記憶部326に格納された学習済みモデルである行動価値関数Q(s,a)に基づいて、設計対象の建物の構造設計の候補を出力する。設計出力部321は、行動価値関数Q(s,a)を用いることにより、構造的な強度に関する評価値及びコストに関する評価値が高い候補を生成することができる。このため、構造設計の次の候補を生成する際には、前回よりも適切な候補が生成されやすくなる。
【0122】
設計出力部321による構造設計の候補の生成、シミュレーション部322による構造設計の候補の評価、及び学習部324による学習処理は、所定の回数繰り返される。これにより、構造設計の複数の候補が生成される。
【0123】
本実施形態では、構造設計の候補が生成される毎に、シミュレーション部322によって得られた構造設計の候補の評価値である報酬に基づき、行動価値関数Q(s,a)が逐次更新される。これにより、学習部324による学習処理が多く繰り返されるほど、評価値が高くなるような構造設計の候補が生成される。このため、構造設計として適切な候補を、効率的に生成することができるようになる。
【0124】
次に、設計出力部321は、設計出力部321の処理、シミュレーション部322の処理、及び学習部324による処理が所定の回数繰り返された後に、それまでに生成された複数の構造設計の候補を選別する。具体的には、設計出力部321は、構造設計データベース330に格納された構造設計の実績情報に基づいて、それまでに生成された複数の構造設計の候補を選別する。例えば、構造設計データベース330には、上記
図2に示されるような情報が、実績情報として格納されている。
【0125】
行動価値関数Q(s,a)を用いることにより、構造的な強度に関する評価値及びコストに関する評価値が高い候補が生成される一方で、新たに設計する建物の構造設計は、過去の構造設計と類似している方が好ましい場合がある。そのため、本実施形態では、行動価値関数Q(s,a)を用いて生成された複数の構造設計の候補から、過去の構造設計の実績情報になるべく近い候補を、出力対象の構造設計の候補として残すように選別する。
【0126】
具体的には、設計出力部321は、行動価値関数Q(s,a)を用いて生成された複数の構造設計の候補の各々について、構造設計の候補と構造設計データベース330に格納された実績情報との間の類似度を算出する。例えば、類似度は、構造種別、建物用途、床種別、基礎種別、及び階数等と、検定比、積載荷重、地震荷重、柱支配面積、及び柱スパン等とに応じて算出される。構造設計の候補と過去に建設された建物の実績情報とが似ているほど、類似度は大きくなる。
【0127】
次に、設計出力部321は、類似度が予め設定された閾値より大きい構造設計の候補を、出力対象の構造設計の候補として選別する。そして、設計出力部321は、実績情報に応じて選別された構造設計の複数の候補を、結果として出力する。
【0128】
送受信部320は、設計出力部321によって出力された複数の構造設計の候補を、クライアント端末211へ送信する。
【0129】
クライアント端末211の送受信部238は、構造設計支援装置213から送信された、複数の構造設計の候補を受信する。そして、クライアント端末211の制御部236は、複数の構造設計の候補を表示装置240に表示する。
【0130】
ユーザは、表示装置240に表示された複数の構造設計の候補の中から、最も適切と思われる構造設計の候補を最終案として選択する。これにより、初期条件のみを設定することにより、設計対象の建物の構造設計が得られたことになる。そして、ユーザは、クライアント端末211の操作装置220を操作し、最終案として選択された構造設計を構造設計支援装置213へ送信する。
【0131】
構造設計支援装置213の送受信部320は、クライアント端末211から送信された最終案の構造設計を、構造設計データベース330へ格納する。なお、最終案の構造設計を構造設計データベース330へ格納する際には、最終案の構造設計に対して重み情報を付与して格納するようにしてもよい。これにより、例えば、重み情報に応じて、構造設計の候補を選別することができる。
【0132】
<構造設計支援システムの作用>
【0133】
次に、構造設計支援システム310の作用を説明する。クライアント端末211から、設計対象の建物の初期条件が構造設計支援装置213へ送信されると、構造設計支援装置213は、
図16に示す構造設計支援処理ルーチンを実行する。
【0134】
<構造設計支援処理ルーチン>
【0135】
ステップS300において、送受信部320は、クライアント端末211から送信された、設計対象の建物の初期条件を取得する。
【0136】
ステップS302において、設計出力部321は、上記ステップS300で取得された初期条件に対応する設計対象の建物の構造又は前回の本ステップS302で生成された構造設計の候補を変化させて、設計対象の建物の構造設計の候補を生成する。設計出力部321は、初期条件に対応する設計対象の建物の構造を変化させて構造設計の候補を生成する際には、例えば、建物の構造をランダムに変化させて構造設計の候補を生成する。また、設計出力部321は、前回の本ステップS302で得られた構造設計の候補から次の構造設計の候補を生成する際には、学習済みモデル記憶部326に格納された学習済みモデルである行動価値関数Q(s,a)に基づいて、次の構造設計の候補を出力する。
【0137】
ステップS304において、シミュレーション部322は、上記ステップS302で生成された構造設計の候補に対して、建物の構造計算に関するシミュレーションを行い、構造設計の候補の構造的な強度を評価する。また、シミュレーション部322は、上記ステップS302で生成された構造設計の候補に対して、建物のコストに関するシミュレーションである歩掛計算を行い、構造設計の候補のコストを評価する。そして、シミュレーション部322は、シミュレーション結果に応じて報酬rを設定する。
【0138】
ステップS306において、学習部324は、上記ステップS304で得られたシミュレーション結果に基づいて、建物の初期条件又は前回生成された構造設計の候補から建物の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させて、学習済みモデルとしての行動価値関数Q(s,a)を得る。
【0139】
ステップS308において、学習部324は、上記ステップS306で得られた学習済みモデルである行動価値関数Q(s,a)を、学習済みモデル記憶部326へ格納して、学習済みモデルを更新する。
【0140】
ステップS310において、上記ステップS302~上記ステップS308の処理が所定回数繰り返されたか否かを判定する。上記ステップS302~上記ステップS308の処理が所定回数繰り返された場合には、ステップS312へ進む。一方、上記ステップS302~上記ステップS308の処理が所定回数繰り返されていない場合には、ステップS302へ戻る。
【0141】
ステップS312において、設計出力部321は、構造設計データベース330に格納された実績情報を読み出す。
【0142】
ステップS314において、設計出力部321は、上記ステップS302で生成された複数の構造設計の候補と、上記ステップS312で読み出された実績情報との間の類似度を算出する。そして、設計出力部321は、類似度が予め設定された閾値より大きい構造設計の候補を、出力対象の構造設計の候補として選別する。
【0143】
ステップS316において、送受信部320は、上記ステップS314で得られた複数の構造設計の候補を、クライアント端末211へ送信する。
【0144】
クライアント端末211の送受信部238は、構造設計支援装置213から送信された、複数の構造設計の候補を受信する。そして、クライアント端末211の制御部236は、複数の構造設計の候補を表示装置240に表示する。
【0145】
ユーザは、表示装置240に表示された複数の構造設計の候補の中から、最も適切と思われる構造設計の候補を最終案として選択する。そして、ユーザは、クライアント端末211の操作装置220を操作し、最終案として選択された構造設計を構造設計支援装置213へ送信する。
【0146】
構造設計支援装置213の送受信部320は、クライアント端末211から送信された最終案の構造設計を、構造設計データベース330へ格納する。
【0147】
以上詳細に説明したように、第3の実施形態では、設計対象の建物の初期条件に応じて設計対象の建物の構造を変化させた場合の建物の構造設計に対して、建物の構造計算に関するシミュレーション及び建物の材料の数量に関するシミュレーションを行う。そして、第3の実施形態では、シミュレーション結果に応じた建物の構造設計に対する評価値に基づいて、建物の初期条件から建物の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させる。そして、第3の実施形態では、得られた学習済みモデルに基づいて、設計対象の建物の構造設計を出力する。強化学習を用いることにより、建物の構造設計の候補の各々から建物の構造設計を出力する学習済みモデルを得ることができる。また、強化学習によって得られた学習済みモデルに基づき、建物の構造設計の候補を複数出力することにより、構造設計を適切に支援することができる。
【0148】
また、設計対象の初期条件を入力するのみで、設計対象の建物の構造設計の候補を得ることができる。また、シミュレーション結果のうちの構造計算に関する評価値及びコストに関する評価値に基づいて学習済みモデルが生成され、その学習済みモデルによって構造設計の候補が出力されるため、構造計算に関する評価値及びコストに関する評価値の観点から適切と思われる構造設計の候補を得ることができる。
【0149】
また、第3の実施形態では、シミュレーション結果に基づいて、前回得られた設計対象の建物の構造設計から次回の設計対象の建物の構造設計を出力するためのモデルを強化学習させて、学習済みモデルを更新することを繰り返す。このため、逐次更新される学習済みモデルを用いることにより、適切かつ効率的に構造設計の候補を得ることができるようになる。
【0150】
また、強化学習により得られた学習済みモデルは、他の設計対象の建物の構造設計の際にも用いられるため、処理が行われる毎に学習済みモデルが更新される。このため、適切かつ効率的に構造設計の候補を得ることができるようになる。
【0151】
また、第3の実施形態では、強化学習により得られた学習済みモデルに基づき出力された構造設計の各々から、実績情報との間の類似度が閾値以上である構造設計を出力する。これにより、実績情報と類似する構造設計の候補が選別されるため、過去の建設工事の構造設計と類似する構造設計の候補を得ることができる。
【0152】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0153】
例えば、上記実施形態では、建物の材料の数量に関する情報の一例として歩掛を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、建物の材料の数量に関する情報であれば、他の情報を用いても良い。
【0154】
また、上記第2の実施形態では、建物の材料の数量に関する情報の一例である歩掛を用いて、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かに関する情報を出力する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、建物の材料の数量に関する情報とは異なる情報を用いて、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かに関する情報を出力するようにしてもよい。この場合には、例えば、建物規模、階数、床面積、構造種別、構造計算ルート、荷重表、スパン、階高、壁量、ブレース分担率、材料強度、材端条件、積載荷重、仕上げ荷重、追加荷重等、地震荷重、風荷重、土水圧荷重、建物の図面認識結果、建物用途、柱軸力、柱ピッチ(間隔)、建物の材料、建物の設計者、設計年次、建設地、積算結果、検定比、床種別、屋根種別、及びブレースの有無等を用いて、設計対象の建物の構造設計が適切であるか否かに関する情報を出力するようにしてもよい。
【0155】
また、上記第2の実施形態では、学習モデルの一例としてのニューラルネットワークモデルをディープラーニングによって学習させる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ニューラルネットワークモデルとは異なる他のモデルを、ディープラーニングとは異なる他の学習方法によって学習させてもよい。
【0156】
また、上記第2の実施形態では、学習済みモデルから出力された各歩掛の確率に応じて、確率が最も高い歩掛と構造設計装置212によって算出された歩掛とを比較する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図17に示されるように、設計建物情報と構造設計装置212によって算出された歩掛とを、学習済みモデルへ入力し、その組み合わせが適切である確率(OKである確率)と、その組み合わせが適切でない確率(NGである確率)とを出力するように学習済みモデルを構成してもよい。
【0157】
また、上記第2の実施形態では、設計建物情報と歩掛とに応じて、設計対象の建物の構造が適切であるか否かに関する情報を単に出力する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。
【0158】
例えば、学習用データのうちの学習用の建物の歩掛に関する情報を、学習用の建物の各箇所に対応する歩掛に関する情報として設定するようにしてもよい。この場合には、学習済みモデルは、設計対象の建物の各箇所の歩掛を算出するように構成し、推定部268は、設計対象の建物の各箇所の構造設計が適切であるか否かに関する情報を更に出力するようにしてもよい。これにより、例えば、特定箇所の梁又は柱の断面が小さい状態で設計されている等の指摘が自動的になされるため、構造設計者の構造設計の支援を自動的に行うことができる。例えば、設計建物情報に応じて、この程度の規模の建物であれば、X階の梁の歩掛はA程度であることを示す情報を更に出力することにより、設計対象の建物のうち、何れの箇所が不適切であるのかを把握することができる。また、何れの箇所が不適切であるのかに関する情報に基づき、建物の歩掛に関するアドバイスを更に行うように学習済みモデルを構成してもよい。例えば、不適切であると判定された箇所のコンクリート量が足らない旨をアドバイスするようにしてもよい。
【0159】
また、構造設計全般に関するアドバイスを行うように学習済みモデルを構成してもよい。この場合には、例えば、解析条件設定についてのアドバイス(例えば、類似事例と比較して、デフォルトから高い確率で変更されている項目を教えてくれる)、設定値の傾向に対するアドバイス(例えば、Aを変更したらBも変更している等)、配筋量(例えば、柱、大梁、小梁、及び耐震壁等)の妥当性に対するアドバイス、荷重設定のアドバイス(例えば、類似事例と比較して漏れを指摘する等)、設定断面(梁サイズ)の妥当性に対するアドバイス、及び設定断面(柱サイズ)の妥当性に対するアドバイスが出力されるようにモデルを構成するようにしてもよい。また、過去案件事例検索として、実績情報である過去の建設工事の案件を検索できるように構成してもよい。
【0160】
解析条件設定についてのアドバイス及び設定値の傾向に対するアドバイスについては、建物規模、階数、床面積、構造種別、及び構造計算ルート等が因子として想定されるため、これらの情報に基づきアドバイスが行われる。
【0161】
また、配筋量の妥当性に対するアドバイスについては、荷重表、スパン、階高、壁量、ブレース分担率、階数、材料強度、及び材端条件等が因子として想定されるため、これらの情報に基づきアドバイスが行われる。
【0162】
また、荷重設定のアドバイスについては、積載荷重、仕上げ荷重、追加荷重等、地震荷重、風荷重、土水圧荷重、建物の図面認識結果、建物用途、及び建物規模等が因子として想定されるため、これらの情報に基づきアドバイスが行われる。
【0163】
また、設定断面(梁サイズ)の妥当性に対するアドバイスについては、積載荷重、仕上げ荷重、スパン、階数、構造種別、及び材端条件等が因子として想定されるため、これらの情報に基づきアドバイスが行われる。
【0164】
また、設定断面(柱サイズ)の妥当性に対するアドバイスについては、柱軸力、階数、柱ピッチ(間隔)、及び構造種別等が因子として想定されるため、これらの情報に基づきアドバイスが行われる。
【0165】
また、過去案件事例検索については、例えば、建物規模、階数、床面積、構造種別、及び建物の図面認識結果に応じて検索が行われるように構成される。
【0166】
構造設計に関するアドバイスを行う際には、例えば、実績情報に対応する複数の建物をクラスタリングすることにより複数の建物を予め分類し、その分類結果と設計対象の建物との比較結果に応じて、構造設計に関するアドバイスを行うようにしてもよい。複数の建物をクラスタリングする際に用いられるモデルの一例としては、例えば、k平均法を用いることができる。
【0167】
また、上記ではプログラムが記憶部(図示省略)に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM及びマイクロSDカード等の記録媒体の何れかに記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0168】
10 構造情報表示装置
12,220 操作装置
20,230 コンピュータ
22,260,330 構造設計データベース
24,232 受付部
26 情報取得部
28 表示部
30,240 表示装置
210 ,310構造設計支援システム
211 クライアント端末
212 構造設計装置
213 構造設計支援装置
234 設計部
236 制御部
238,250,266,320 送受信部
252 歩掛計算部
262,324 学習部
264,326 学習済みモデル記憶部
268 推定部
321 設計出力部
322 シミュレーション部