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特許7121897粘着性面ファスナおよび粘着性面ファスナ付き手袋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】粘着性面ファスナおよび粘着性面ファスナ付き手袋
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20220812BHJP
   A63B 71/14 20060101ALI20220812BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
A44B18/00
A63B71/14
A41D19/00 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017142751
(22)【出願日】2017-07-24
(65)【公開番号】P2019022599
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】595155439
【氏名又は名称】伊藤忠プラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517134951
【氏名又は名称】STI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明裕
(72)【発明者】
【氏名】城所 孝臣
(72)【発明者】
【氏名】和田 弘
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/128689(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3135909(JP,U)
【文献】特開平05-269005(JP,A)
【文献】特開2008-081724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
A63B 71/14
A41D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面に再粘着性樹脂層を設けた粘着性面ファスナからなり、前記再粘着性樹脂層は、前記重ね合わせ面の基材表面にウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤層を介してデュロメータ・タイプCの硬さ20~40の再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体に設けたものである粘着性面ファスナ。
【請求項2】
上記再粘着性ポリウレタンゲル層が、ポリオール成分に対し、理論量より少ないイソシアネート成分の反応物からなる自己粘着性ポリウレタン樹脂である請求項1に記載の粘着性面ファスナ。
【請求項3】
手袋の手首挿入部に履き口を広げるためのスリットが形成されており、前記スリットの幅方向両側のうち一側と一体化されかつ他側に重ねて係止可能なスリット幅調整用の係止片を有する手袋において、
前記係止片は、前記他側の手袋表面とこれに重ねる当該係止片の裏面とが粘着性面ファスナを介して係止可能な係止片であり、前記粘着性面ファスナは、対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面にウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤層を介して、デュロメータ・タイプCの硬さ20~40の再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体に設けたものであることを特徴とする粘着性面ファスナ付き手袋。
【請求項4】
上記手袋が、天然皮革または人工皮革を素材とするスポーツ用手袋である請求項に記載の面ファスナ付き手袋。
【請求項5】
請求項1に記載の粘着性面ファスナの対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面に、未硬化のウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤を介して、デュロメータ・タイプCの硬さ20~40の再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体化する工程が必須である前記粘着性面ファスナの製造方法において、
前記必須工程と同時にまたはその後に、再粘着性ポリウレタンゲル層の表面に、支持層と一体の未硬化の変性シリコーンポリマー接着剤層を重ねて圧接させ、前記変性シリコーンポリマー接着剤層の硬化後に、前記再粘着性ポリウレタンゲル層の表面から変性シリコーンポリマー接着剤層を剥離して、前記再粘着性ポリウレタンゲル層の表面を平坦に成形することを特徴とする請求項1に記載の粘着性面ファスナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粘着性面ファスナおよびその製造方法に関し、さらに粘着性面ファスナを手首挿入用のスリット部分に備えており、例えばゴルフ、野球その他のスポーツをする際、自動車等の運転その他の作業においても適用できる粘着性面ファスナ付き手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴルフ、野球その他のスポーツや運転その他の作業をする際に、クラブ、バットやハンドルなどを握る手の掌等を保護し、しかも良好なフィット感を与えるために、薄革製の手袋が着用されている。
【0003】
このような手袋は、薄革に着脱時に必要な伸縮性が充分にないので、着用した状態で手にフィットするように、しっかりと手を挿し入れて掌や甲に密着させる必要がある。そのため、手袋の手首挿入部に履き口を広げるためのスリットを形成し、指および手首まで容易かつ確実に挿入し装着できるものが用いられている。
【0004】
また、このようなスリットには、幅方向両側のうち一側から延出してこのスリットを跨いで他側の手袋表面に重ね合わせ可能なフラップを設けたものが知られている(特許文献1)。
【0005】
上記のフラップは、重ね合わせる面をボタンなどで係止可能であるが、できるだけ嵩張らずに、また係止操作は容易であるように、手袋表面とこれに重ねる面とが一対の面ファスナを介して係止可能とする態様が需要者に好まれている。
【0006】
上記の面ファスナの係止機構は、フック状、茸状、鋸歯状の繊維が起毛された側と、ループ状に密集して起毛された側とが一対の面になっているものであり、これら対向する面を互いに押し付けることにより、起毛繊維同士が係止されて両面は貼り付いた状態になる。
このような面ファスナを用いると、スリットの開き幅を適宜に広げて手を手袋に充分に挿入してから、スリットの開き幅を任意に狭めて手袋がずれないように、または脱げないように装着することが容易にできる。
【0007】
しかし、上記した従来の面ファスナ付き手袋は、面ファスナの対向する重ね合わせ面を合せて閉じた後、面ファスナを開く時に、起毛繊維とループの係止状態を解放することによりバリバリという耳障りな音が発生し、ゴルフなどのスポーツでは、タイミングによってはプレーヤーの精神集中を妨げるので、マナーに反することにもなる。
【0008】
また、従来の面ファスナは、何度も着脱を繰り返すことにより、起毛した繊維とループを引きはがすための力が、生地に負担をかけるので、生地面が湾曲状に変形しやすく、そのような状態では周囲の服に引っかかりやすくなる場合がある。
【0009】
従来の面ファスナの欠点を補うために、ゴルフ用手袋のスリットに面ファスナや、その他の様々な機構の止着片を取りつける手段が模索され、そのうちの一つとして粘着性樹脂の使用が検討されている(特許文献2、請求項5)。
【0010】
また、粘着性樹脂を用いた粘着性面ファスナの使用例として、衣服の身頃や袖等の重ね合わせ部を取り外し可能に結合できる留め具が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-276293号公報
【文献】国際公開第2010/128689号
【文献】特開平11-46815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記した従来の粘着性面ファスナは、粘着性樹脂層をできるだけ粘着力の高い状態、すなわち軟質に形成し、これを面ファスナの基材に強い力で接着しておくことが求められる。
【0013】
その際、特許文献3に記載されているように、繊維基材(例えば編織布や不織布)に対し、粘着性エラストマーを多孔質性の繊維基材に含浸して粘着層を形成することはできるが、合成皮革などのように多孔質でない基材に対して、含浸による固定はできず、粘着性樹脂層を、様々な基材に対して接着剤を介して安定して固定することは容易でなかった。なぜなら、粘着性樹脂は、その粘着力に必要な柔らかさを確保するために、可塑剤が多く配合されており、この可塑剤が接着剤に移行すると、接着剤を軟化させるので充分な接着力が発揮できないからである。
【0014】
特に、面ファスナは、洗濯などで機械的に曲げ、折れ、ねじれ等の変形が繰り返されると基材との接着性が低下しやすく、基材との接着性の弱い再粘着性樹脂層では充分な使用耐久性も得られ難い。手袋の手首挿入部に履き口を広げるためのスリットを係止する面ファスナにおいても、上記同様の問題点を解決する必要があった。
【0015】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、粘着性面ファスナに使用可能な再剥離性および再粘着性を充分に備えた再粘着性樹脂層を、基材に対して剥がれないように確実に固定できるようにし、本来必要な再剥離性および再粘着性が使用耐久性よく発揮でき、繰り返し使用や洗濯に耐える粘着性面ファスナとし、またこれを効率よく製造できるようにすることである。
【0016】
また、面ファスナでスリットを開閉可能な粘着性面ファスナ付き手袋においても、上記と同じ問題点を解決することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、この発明においては、対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面に再粘着性樹脂層を設けた粘着性面ファスナからなり、前記再粘着性樹脂層は、前記重ね合わせ面の基材表面にウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤層を介して再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体に設けた構成を採用したのである。
【0018】
上記したように構成されるこの発明の粘着性面ファスナは、ホットメルト接着剤が、熱可塑性ポリウレタン樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とするものであり、例えば120℃から140℃程度の比較的低い温度で溶融し、その溶融状態でポリウレタンゲル層の表面に親和性良く薄く広がり、冷却により硬化して再粘着性ポリウレタンゲル層を変質させることなく接着できる。
【0019】
ウレタン系のホットメルト接着剤層が、特に反応性ホットメルト接着剤層であれば、冷却後にも空気中やポリウレタンゲル層に含まれる水分によって分子鎖の延長反応と架橋反応が進行して、その後は加熱しなくても硬化するから、再粘着性ポリウレタンゲル層は、より耐久性よく充分に接着される。
【0020】
また、硬化した後のウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤層には、再粘着性ポリウレタンゲル層から可塑剤の移行は認められない。
そのため、ホットメルト接着剤層は、その自己粘着特性や使用耐久性を損なうことなく、軟質で再粘着性および再剥離性の良い粘着性面ファスナの特性は維持される。
【0021】
別言すれば、粘着性面ファスナの再粘着性ポリウレタンゲル層は、熱可塑性ポリウレタン樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とする特定のホットメルト接着剤層によって相性良く接着固定されており、面ファスナは、その重ね合わせ面を引き剥がす際に静粛であることはもとより、軟らかく手の甲等の身体形状に馴染みやすく、しかも使用耐久性及び洗濯耐久性を備えた粘着性面ファスナとなり、例えばこれを備えたスリット付き手袋になる。
【0022】
上記した再粘着性ポリウレタンゲル層が、より粘着性に優れた軟質性を有するように、ポリオール成分に対し、理論量より少ないイソシアネート成分の反応物からなるポリウレタンゲルであることが好ましい。反応物中のポリウレタンゲル中に、ソフトセグメントを構成するポリオール成分を所要の分子量の官能基数のものを選択して比較的多く用いれば、ある程度まで軟質の自己粘着性ポリウレタンゲルになる。
【0023】
このような再粘着性ポリウレタンゲル層は、可塑剤やソフトセグメントの配合量等を調整し、デュロメータ・タイプCの硬さ20~40に設定することが、衣服や手袋に用いる面ファスナとして所要の粘着性と重ね合わせ面の容易な剥離性を両立させるために好ましい。
【0024】
また、このような再粘着性ポリウレタンゲル層は、粘着性面ファスナとして何度も繰り返し開閉し、長期使用した場合に、空気中に漂う埃等が付着するなどして徐々にその粘着性が低下するが、水洗によって埃等を洗い流せば、当初の粘着性を復活させることができる。
【0025】
付着した埃同士の摩擦による絡まりを抑制して、水洗による洗浄性をより充分に高めるために、上記再粘着性ポリウレタンゲル層が、添加成分としてシリコーンを含有する再粘着性ポリウレタンゲル層であることも好ましい。
【0026】
また、粘着性面ファスナの重ね合わせ面の基材は、少なくとも一方が撓み性のある柔らかい素材であればよく、例えば天然皮革や人工皮革または天然繊維や合成繊維からなる周知の布帛を素材とすることにより、柔軟性のあるウレタン系の反応性ホットメルト接着剤を介して軟質の再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体に設け、素材の柔らかさを活かして手に馴染みやすい面ファスナ付き手袋を構成することができる。
【0027】
このような面ファスナ付き手袋などに用いる粘着性面ファスナの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば粘着性面ファスナの対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面に、未硬化のウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤を介して再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体化する。
【0028】
好ましくはこのような工程と同時にまたはその後に、再粘着性ポリウレタンゲル層の表面に、支持層と一体の未硬化の変性シリコーンポリマー接着剤層を重ねて圧接させる。そして、前記変性シリコーンポリマー接着剤層の硬化後に、前記再粘着性ポリウレタンゲル層の表面から変性シリコーンポリマー接着剤層を剥離して、前記再粘着性ポリウレタンゲル層の表面を平坦に成形する。
このようにすると、平坦面のある再粘着性ポリウレタンゲル層の効率のよい成形と基材への効率のよい固定を行なうことができる。
【0029】
再粘着性ポリウレタンゲル層の表面と変性シリコーンポリマー接着剤層との接着力は、ウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤と再粘着性ポリウレタンゲル層との接着力よりも弱いので、平坦な支持層で成形された変性シリコーンポリマー接着剤層の前記平坦面を再粘着性ポリウレタンゲル層に対して、確実に転写することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明の粘着性面ファスナは、対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面にウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤を介して再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体に設けたので、所要の軟質で自己粘着性を有するポリウレタンゲル層が、本来の自己粘着性を損なうことなく粘着性面ファスナの対向する重ね合わせ面に確実に固定される利点がある。
【0031】
また、上記粘着性面ファスナの製造法では、変性シリコーンポリマー接着剤層を剥離して、平坦面のある再粘着性ポリウレタンゲル層を形成できるから、効率よく粘着性面ファスナを製造できる。
【0032】
また、粘着性面ファスナ付き手袋は、手袋表面とこれに重ねる係止片の裏面とが一対の粘着性面ファスナを介して係止可能であり、粘着性面ファスナの軟質の重ね合わせ面を剥離する際に騒音が発生せず、しかも粘着性面ファスナは、繰り返し実使用に耐える耐久性を備え、軟らかくて手の甲等の形状に馴染みやすい粘着性面ファスナ付き手袋になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態の粘着性面ファスナの断面図
図2】第1実施形態の粘着性面ファスナの製造工程を説明する断面図
図3】第2実施形態の粘着性面ファスナ付き手袋の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態の粘着性面ファスナ1は、対向する重ね合わせ面2a,2aの両方の面を再粘着性ポリウレタンゲル層2で形成している。
この再粘着性ポリウレタンゲル層2は、重ね合わせ面の基材3の表面にウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤層4を介して再粘着性ポリウレタンゲル層2を重ねて一体に設けたものである。
【0035】
図示した以外の実施形態として、対向する重ね合わせ面の片方の重ね合わせ面2aのみを再粘着性ポリウレタンゲル層2で形成し、他方の面はアクリルやポリオレフィン等の合成樹脂層や金属が被覆された平坦で密着性のよいフィルム層などで形成し、粘着、再粘着および再剥離が可能な粘着性面ファスナ1としてもよい。
【0036】
再粘着性ポリウレタンゲル層2の素材であるポリウレタンは、ポリオール成分に対して分子量の小さい架橋性のイソシアネート化合物をさらに理論量より少なく反応させたものが好ましい。これを用いたポリウレタンゲル組成物中のハードセグメント(イソシアネート化合物)の構成重分率は少なくなって、低い硬度になり粘着力を向上させることができる。
【0037】
このようなポリウレタン樹脂としては、比較的軟質な市販の自己粘着性樹脂を利用することができ、例えば、エクシールコーポレーション社製:ハイパーゲルシート(商品名、硬度アスカーC30)等を用いることができる。
【0038】
上記のポリウレタン樹脂は、以下のような原材料を反応させて得られる。
すなわち、官能基数2、分子量700~2,000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール若しくは、官能基数3、分子量6,000~8,000の末端に1級ヒドロキシル基を部分的に有するポリオールと、理論量より少ないポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートを反応させたポリウレタン樹脂である。
【0039】
上記した官能基数が2で、末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオールは、ポリテトラメチレンポリオキシグリコール、ε-カプロラクトン系ポリオール、β-メチル-δ-バレロラクトン系ポリオール、ポリエステル系ポリオール及びカーボネート系ポリオール等の公知の材料から選択的に採用されたものである。
【0040】
官能基数が3で、末端に1級ヒドロキシル基を部分的に有するポリオールとしては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、もしくはヘキサントリオール等の3官能基数の活性水素化合物を開始剤として1,2-ポロピレンオキサイドを開環附加重合させ、次いでエチレンオキサイドを開環附加重合させる公知の化合物を用いることができる。
【0041】
前記したポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートは、官能基数2.5~2.8であるものが好ましい。官能基数2.5未満の場合は、耐熱性に欠け、また官能基数2.8より大きい場合は、ゴム硬度が5より大きくなるために好ましくない。
【0042】
ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートは、理論量より少ない前述のポリオールと公知の技術を用いて反応させ、末端に活性イソシアネート基を残すプレポリマーとして用いてもよいが、末端活性イソシアネート基残量は、29~23重量%、好ましくは29~27重量%がより好ましい。
【0043】
官能基数が2で、末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオールは、理論量より少ないポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートと反応させることが必要である。ポリオールの水酸基(OH)に対するイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比、即ちNCO/OHは0.48~0.41が好ましい。この当量比が0.48を超える場合は、得られる組成物のゴム硬度が5を越え、脆い組成物となるために好ましくなく、0.41未満の場合は、形状保持性に欠け十分な組成物を得られないために好ましくない。
【0044】
また、官能基数が3で、末端に1級ヒドロキシル基を部分的に有するポリオールも、理論量より少ないポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートと反応させることが必要で、上記NCO/OHは0.7~0.61が好ましい。この当量比が0.7を超える場合は、得られる組成物のゴム硬度が5を越え、脆い組成物となるために好ましくなく、0.61未満の場合は、形状保持性に欠けるために好ましくない。
【0045】
このような再粘着性ポリウレタンゲルの原料であるポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートとポリオールとの間のウレタン化反応を行わせるには、適宜のウレタン化触媒を用いることができる。このウレタン化触媒としては、第3級アミン化合物や有機金属化合物等の公知の触媒を用いることが可能である。例えば、トリエチレンジアミン,N,N‘- ジメチルヘキサメチレンジアミン,N,N‘-ジメチルブタンジアミン,オクチル酸鉛,ラウリル酸ジブチル錫等が好適である。
【0046】
このようにして再粘着性ポリウレタンゲル層が、デュロメータ・タイプC硬さ20~40のものであるように所要量の可塑剤を含有するものを採用できる。
【0047】
可塑剤の種類としては、通常のポリウレタン樹脂用の可塑剤、例えばジオクチルフタレート, ジブチルフタレート, トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート等が挙げられる。
【0048】
上記等の可塑剤を添加すると、その添加量が多くなるほど組成物の硬度は低下し、粘着力は向上する。このような可塑剤は、主成分としての前記ポリオールとイソシアネートの合計量100重量部当たり5重量部以上添加することが好ましい。
【0049】
このように配合すれば、粘着性面ファスナとして好ましい粘着力になるが、過剰に軟らかくても粘着力は却って低下することから、より好ましくは前記ポリオールとイソシアネートの合計量100重量部当たり、可塑剤を5~30重量部添加することであり、特に10~20重量部の範囲で可塑剤を添加することが好ましい。
【0050】
また、組成物の耐久性, 安定性の向上を図るために、安定剤として、熱安定剤,酸化防止剤, 紫外線吸収剤, 紫外線安定剤, 充填剤等を、支障のない限りにおいて、1種または2種以上混合して用いることも出来る。さらに、前述したもの以外にも、顔料,染料, 難燃剤,消泡剤,分散剤,界面活性剤,水分吸着剤等を適宜添加することも可能である。
このようにして得られる再粘着性ポリウレタンゲルの熱分解温度は、200~250℃であり、-30℃でも脆化せず、耐熱性および耐寒性にも優れ、黄変し難い性質のものが得られる。
【0051】
また、再粘着性ポリウレタンゲルが、添加成分としてシリコーンを含有する自己粘着性ポリウレタンゲルであることにより、付着した埃同士の摩擦による絡まりを抑制して、水洗による洗浄性を高めることが好ましい。
【0052】
また、このような再粘着性ポリウレタンゲル層は、それを接着する基材面が印刷面である場合を考慮する場合には、透明な層とすることが好ましく、また必要に応じて周知の顔料(インク等)や染料を添加して着色された層とすることもできる。
【0053】
この発明に用いるウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤層は、それぞれ熱可塑性ポリウレタン樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とするものであり、例えば120℃から140℃程度の比較的低い温度で溶融する性質を有している。
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、二官能性ポリオールとジイソシアネート及びグリコールを主原料としてなる分子構造中にウレタン基を含有する高分子のうち熱可塑性を有するものであり、前記ポリオール等の原料のポリエステル系やポリエーテル系等の種類によっても溶融温度を調整可能である。
【0054】
また、再粘着性ポリウレタンゲル層に対して、ウレタン系の反応性ホットメルト接着剤を使用すると、溶融状態から冷却された後にも空気中の水分や前記の再粘着性ポリウレタンゲル層に含まれる水酸基によっても鎖延長と架橋反応が進行して良く接着するので、手袋や係止片の素材との接着が進行し、接着面は確実に耐久性よく一体化する。
【0055】
ウレタン系ホットメルト接着剤の市販品としては、例えばシーダム社製:エセラン(登録商標)、日立化成ポリマー社製の反応性ホットメルト接着剤(融点110℃)、DIC社製:タイフォース(登録商標)、日本マタイ社製:エルファン(登録商標)UHなどを用いることができる。
【0056】
また、この発明に用いるポリエステル系のホットメルト接着剤は、熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分として使用し、上記同様の比較的低い温度で溶融する性質を有しているものである。
【0057】
熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L-乳酸)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、またはこれらの1種以上の混合物等が挙げられる。
ポリエステル系のホットメルト接着剤の市販品としては、例えば日本マタイ社製:エルファン-PH(登録商標)を採用することができる。
【0058】
また、このような自己粘着性ポリウレタンゲルを用いた粘着性面ファスナの対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面に、未硬化のウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤を介して再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体化する工程が必須である前記粘着性面ファスナの製造方法は、以下のようにして、再粘着性ポリウレタンゲル層の表面を、粘着性面ファスナの合わせ面として平坦面に効率よく形成することができる。
【0059】
すなわち、図2に示すように、前記必須工程と同時にまたはその後に、再粘着性ポリウレタンゲル層2の表面に、柔軟性のあるシートまたはフィルムからなる平坦な支持層6と一体の未硬化の変性シリコーンポリマー接着剤層5を重ねて圧接し、変性シリコーンポリマー接着剤層5の硬化後に、端部から変性シリコーンポリマー接着剤層5を再粘着性ポリウレタンゲル層2の表面から剥離すると、再粘着性ポリウレタンゲル層2の表面を簡単かつ確実に平坦に成形することができる。
【0060】
なお、支持層6は、非伸縮性の素材からなる予め平坦に形成されているシート状素材であることが好ましい。このような素材として、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、セルロースプラスチック、ポリアミド、ポリエーテルケトンなどが挙げられる。
【0061】
図3に示すように、この発明の第2実施形態の面ファスナ付き手袋11は、人工皮革製の手袋本体の手首挿入部に履き口12を広げるためのスリット13を形成しており、このスリット13の幅方向両側のうち一側と一体化されかつ他側に重ねて係止される係止片14を設けている。
【0062】
上記係止片14は、スリット13の幅方向両側のうち一側から延出してスリット13を跨いで他側の手袋表面に重ね合わせ可能な長さのものであり、前記他側の手袋表面の甲部分に貼付した合成樹脂(例えばPET樹脂)フィルム15と、これに重ねる当該係止片14の裏面とが一対の粘着性面ファスナ10を構成しており、自己粘着性によって係止可能である。
【0063】
この粘着性面ファスナ10は、対向する重ね合わせ面の少なくとも一方の面が、ウレタン系の反応性ホットメルト接着剤層4(図1参照)を介して一体に重ねられた再粘着性ポリウレタンゲル層2で形成されている。
【0064】
係止片14の基材3は、手袋等の素材と同質のものを採用することが、適度に柔らかくて好ましいが、強度やフレキシブル性の必要性やデザインの要望に応じて、周知の編織布、皮革(天然皮革または人工皮革)状素材、樹脂やゴム製シートなどの素材を用い、フラップ状やベルト状等の周知形状に設けることができる。
【0065】
実施形態の粘着性面ファスナの用途は、手袋の他、衣服などで開閉を要する部分や一時的に重ね合わせて保持することを要する部分、または生活用品などにおいて、従来、面ファスナを適用可能な部分についても使用可能である。
【0066】
実施形態の手袋(係止片を含む)の素材は、スポーツや作業の用途に合わせて採用される周知の手袋素材であり、布状、薄皮状、フィルム状、編織布状、網状などからなり、薄皮状の素材の具体例としては、牛、豚などの天然皮革であっても良く、また人工皮革であっても良い。ここでいう人工皮革は、合成皮革を含めて言う。
【0067】
手袋の形態も五本指のものを図示したが、ミトン手袋や、指先部分の無い手袋、または取り外し自在な形態の手袋など、その他周知の形態の手袋を用いることができる。
スリット13は、V字状に切り込まれた形状のものを示したが、L字型や波型などの他、2以上の複数のスリットであっても良い。
【実施例1】
【0068】
人工皮革製のゴルフ用手袋のスリット幅調整用の係止片の裏側(基材)の表面に、シート状のホットメルト接着剤(シーダム社製:エセラン(登録商標))を重ね、その上に再粘着性ポリウレタンゲル層として、エクシールコーポレーション社製のハイパーゲルシート(硬度アスカーC30、厚さ0.5mm)を重ね、要部を130℃、圧力0.35fkg/cmで20秒加熱加圧することにより、粘着性面ファスナの一方の重ね合わせ面を製造した。
【0069】
また、上記同様にして粘着性面ファスナの手袋上の重ね合わせ面を、前記手袋の手首挿入部に形成されたV字型スリットの幅方向両側のうち一側の甲部分に形成し、前記係止片をスリットの幅方向の他側に縫着して、手袋に再粘着性ポリウレタンゲル層の表面同士が対向して重なり合い、剥離可能に粘着する粘着性面ファスナを作製し、粘着性面ファスナ付き手袋を製造した。
【実施例2】
【0070】
実施例1において、粘着性面ファスナの手袋上の重ね合わせ面を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(厚さ50μm)の縫着によって形成したこと以外は、実施例1と全く同様にして、再粘着性ポリウレタンゲル層とPETフィルム製の表面同士が対向して重なり合い、剥離可能に粘着する粘着性面ファスナを作製し、粘着性面ファスナ付き手袋を製造した。
【0071】
得られた実施例1、2の面ファスナ付き手袋について、使用耐久性を調べるため、1日あたりゴルフ場で18ホールを1回使用する頻度で、各日毎に1回の粘着性面ファスナの水洗を繰り返しながら、合計3日間の使用に用いたが、いずれも粘着性面ファスナの装着や取り外しの時に雑音が発生しなかった。しかも粘着性面ファスナは、軟らかくて手の甲等の形状に馴染みやすく、ゲル状の自己粘着性樹脂が繰り返し使用に耐える確実な係止性とその耐久性を備えた粘着性面ファスナ付き手袋であることが実際の使用状態で確かめられた。
【0072】
次に、以下の実験例により、再粘着性ポリウレタンゲル層と各種樹脂系の反応性ホットメルト接着剤層との接着性の相性の良さを比較して評価した。
[実験例1-4]
実施例1(図1参照)と同様に、合皮、ニットまたはT/Cブロードからなる基材3の表面に、シート状のホットメルト接着剤層4(A,B,C,D)を重ね、その上に再粘着性ポリウレタンゲル層2を有するエクシールコーポレーション社製のハイパーゲルシート(硬度アスカーC30、PETフィルムに固定されている厚さ0.5mmの粘着性シート、以下にHGと略記する。)を重ねて、フラットプレス機を用いた圧力0.35fkg/cmでの140℃、20秒間の直接加熱により全層を一体化して、粘着性面ファスナの一方の重ね合わせ面に相当する試験片(幅20mm、長さ70mm)を作製した。
【0073】
この試験片を用い、ホットメルト接着剤層(A,B,C,D)4と再粘着性ポリウレタンゲル層(HG)2とが剥離するように基材3からHGを引き剥がし、その際に要する引張力を測定して表1中に接着力(N)として示した。
【0074】
なお、各実験例に用いたホットメルト接着剤(A,B,C,D)は、それぞれ以下の市販品を用いた。
ホットメルト接着剤(A):日本マタイ社製ポリウレタン系 エルファンUH203
ホットメルト接着剤(B):日本マタイ社製EVA系 エルファンOH501
ホットメルト接着剤(C):日本マタイ社製ポリエステル系 エルファンPH413
ホットメルト接着剤(D):日本マタイ社製ポリアミド系 エルファンNT120
【0075】
【表1】
【0076】
表1の結果からも明らかなように、ポリウレタン系またはポリエステル系のホットメルト接着剤を介して再粘着性ポリウレタンゲル層を重ねて一体に設けた粘着性面ファスナであれば、EVAやポリオレフィン系、ポリアミド系のホットメルト接着剤に比べて通常なら接着され難い合皮に対しても再粘着性ポリウレタンゲル層が、本来の自己粘着性を損なうことなく確実に固定されており、粘着性面ファスナの重ね合わせ面に設ける層構成として優れた構造であることが評価できた。
【符号の説明】
【0077】
1、10 粘着性面ファスナ
2 再粘着性ポリウレタンゲル層
3 基材
4 反応性ホットメルト接着剤層
5 変性シリコーンポリマー接着剤層
6 支持層
11 手袋
12 履き口
13 スリット
14 係止片
15 合成樹脂フィルム
図1
図2
図3