(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/184 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
B62D1/184
(21)【出願番号】P 2018077710
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】作田 雅芳
(72)【発明者】
【氏名】長谷 篤宗
(72)【発明者】
【氏名】西峰 有佑
(72)【発明者】
【氏名】大園 直広
(72)【発明者】
【氏名】明法寺 祐
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-040985(JP,A)
【文献】特開2015-051655(JP,A)
【文献】特開2017-185987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/184
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトを回転可能に支持する筒状のインナジャケットと、
前記ステアリングシャフトの軸方向の一方側における前記インナジャケットの端部に対して前記軸方向の他方側における端部が嵌合されたアウタジャケットであって、前記アウタジャケットにおける前記軸方向の他方側の端部から前記軸方向に延びるスリットと、前記アウタジャケットにおける前記軸方向の他方側の端部において前記スリットの両側に設けられた一対の被締付部とを有するアウタジャケットと、
前記一対の被締付部を締め付けることで前記アウタジャケットに前記インナジャケットを保持させる締付機構とを含み、
前記スリットが、前記アウタジャケットにおける前記軸方向の他方側の端部に設けられた開放端と、前記開放端よりも前記軸方向の一方側に設けられた閉塞端とを有し、
前記アウタジャケットが、少なくとも前記スリットの前記閉塞端に隣接する第1領域と、前記第1領域よりも前記軸方向の他方側で前記スリットに隣接する第2領域とを有し、
前記閉塞端が、前記第1領域により形成されており、
前記第1領域の厚みが、前記第2領域の厚みよりも薄い、ステアリング装置。
【請求項2】
前記閉塞端が、前記軸方向の一方側に向けて凸状の円弧状部を有し、
前記第1領域が、前記円弧状部に隣接する、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記アウタジャケットの外面において前記第1領域と前記第2領域との境界には、前記第1領域の厚みを前記第2領域の厚みよりも薄くするための段差が設けられている、請求項1または2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のステアリング装置は、円筒状のインナーコラムと中空円筒状のアウターコラムとを含む。インナーコラムの車体後方側の外周面には、アウターコラムの内周面がテレスコピック位置調整可能に外嵌されている。アウターコラムは、一対のクランプ部材と、クランプ部材の間に延びるスリットとを有する。車体取付けブラケットの側板によって一対のクランプ部材が締め付けられると、車幅方向におけるスリットの間隔が縮まり、アウターコラムの内周面が縮径する。これにより、インナーコラムの外周面がアウターコラムの内周面によって強く締め付けられ、アウターコラムによってインナーコラムが保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アウターコラムを縮径し易くして、アウターコラムにインナーコラムを強固に保持させる技術が求められている。特許文献1に記載のステアリング装置では、スリットの間隔を縮小させるのに必要な力を小さくするために、アウターコラムにおいてスリットから車幅方向に離間した部分に薄肉部が形成されている。
この発明は、かかる背景のもとでなされたものであり、アウタジャケットによるインナジャケットの保持力の向上を図ることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、ステアリングシャフト(3)と、前記ステアリングシャフトを回転可能に支持する筒状のインナジャケット(14)と、前記ステアリングシャフトの軸方向(X)の一方側(XL;XU)における前記インナジャケットの端部(14b;14a)に対して前記軸方向の他方側(XU;XL)における端部(13a;13b)が嵌合されたアウタジャケット(13)であって、前記アウタジャケットにおける前記軸方向の他方側の端部から前記軸方向に延びるスリット(40)と、前記アウタジャケットにおける前記軸方向の他方側の端部において前記スリットの両側に設けられた一対の被締付部(41)とを有するアウタジャケットと、前記一対の被締付部を締め付けることで前記アウタジャケットに前記インナジャケットを保持させる締付機構(20)とを含み、前記スリットが、前記アウタジャケットにおける前記軸方向の他方側の端部に設けられた開放端(40a)と、前記開放端よりも前記軸方向の一方側に設けられた閉塞端(40b)とを有し、前記アウタジャケットが、少なくとも前記スリットの前記閉塞端に隣接する第1領域(61)と、前記第1領域よりも前記軸方向の他方側で前記スリットに隣接する第2領域(62)とを有し、前記閉塞端が、前記第1領域により形成されており、前記第1領域の厚み(T1)が、前記第2領域の厚み(T2)よりも薄い、ステアリング装置(1;1P;1Q)である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記閉塞端が、前記軸方向の一方側に向けて凸状の円弧状部(50)を有し、前記第1領域が、前記円弧状部に隣接する、請求項1に記載のステアリング装置である。
請求項3に記載の発明は、前記アウタジャケットの外面(70)において前記第1領域と前記第2領域との境界には、前記第1領域の厚みを前記第2領域の厚みよりも薄くするための段差(65)が設けられている、請求項1または2に記載のステアリング装置である。
【0007】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、アウタジャケットの一対の被締付部は、締付機構によって締め付けられる。これにより、一対の被締付部の間のスリットの幅が狭められてアウタジャケットが縮径する。アウタジャケットが縮径することによって、インナジャケットがアウタジャケットに締め付けられて保持される。
アウタジャケットが縮径する際、アウタジャケットにおいてスリットの閉塞端に隣接する部分が撓みの基点となる。そのため、アウタジャケットの縮径し易さは、アウタジャケットにおいてスリットの閉塞端の隣接する部分の撓み剛性に依存する。アウタジャケットにおいて比較的厚みが薄い第1領域が閉塞端を形成する状態で閉塞端に隣接するので、第1領域が閉塞端から離間して設けられている構成と比較して、スリットの閉塞端に隣接する部分の撓み剛性を低下させることができる。これにより、アウタジャケットを縮径させやすくすることができる。
【0009】
その結果、アウタジャケットによるインナジャケットの保持力の向上を図ることができる。
なお、この明細書において「第1領域(第2領域)がスリットに隣接する」とは、第1領域(第2領域)との間にアウタジャケットの別の領域が介在しておらず、第1領域(第2領域)がスリットを区画していることを意味するのであって、第1領域(第2領域)がスリットから離間して設けられていることを意味するものではない。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、閉塞端が軸方向の一方側に向けて凸状の円弧状部を有する。アウタジャケットにおいてスリットの閉塞端に隣接する部分のうち、円弧状部に隣接する部分が、アウタジャケットの縮径し易さに最も影響する。アウタジャケットにおいて比較的厚みが薄い第1領域が円弧状部に隣接するため、アウタジャケットを一層縮径させ易くできる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、第1領域の厚みを第2領域の厚みよりも薄くするための段差が、アウタジャケットの外面に設けられている。したがって、段差を設けるための加工をアウタジャケットの外側から行うことができるので、第1領域を薄肉化する加工を平易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るステアリング装置の概略斜視図である。
【
図3】
図3は、ステアリング装置の概略断面図であり、
図1に示すIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】
図4は、ステアリング装置に備えられたアウタジャケットのスリットの周辺を、鉛直方向の下側から見た図である。
【
図5】
図5は、アウタジャケットの概略断面図であり、
図4に示すV-V線に沿う断面図である。
【
図6】
図6は、アウタジャケットの概略断面図であり、
図5に示すVI-VI線に沿う断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態に係るステアリング装置に備えられたアウタジャケットの概略断面図であり、スリットの周辺の断面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係るステアリング装置に備えられたアウタジャケットの概略断面図であり、
図7に示すVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3実施形態に係るステアリング装置に備えられたアウタジャケットのスリットの周辺を、鉛直方向の下側から見た図である。
【
図10】
図10は、変形例に係る第1領域の構成を説明するための図であり、スリット周辺の部分の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングシャフト3と、コラムジャケット4と、インターミディエイトシャフト5と、転舵機構6と、ロア側支持機構7と、アッパ側支持機構8とを備える。
【0014】
ステアリングシャフト3には、ステアリングホイール等の操舵部材2と連結されている。ステアリングシャフト3は、インターミディエイトシャフト5を介して転舵機構6に連結されている。転舵機構6は、転舵輪(図示せず)と連結されている。ステアリング装置1は、操舵部材2の操舵に連動して、転舵機構6を介して転舵輪を転舵する。
ステアリングシャフト3は、一端に操舵部材2が連結されるアッパシャフト9と、アッパシャフト9と相対摺動可能に嵌合されたロアシャフト10とを含む。ステアリングシャフト3の中心軸線C2が延びる方向をコラム軸方向Xという。操舵部材2側(車両後方側)を上側XUと定義し、転舵機構6側(車両前方側)を下側XLと定義する。ステアリングシャフト3は、コラムジャケット4内に挿通されている。コラムジャケット4は、複数の軸受11,12を介してステアリングシャフト3を回転可能に支持する。
【0015】
コラムジャケット4は、車体15に取り付けられる中空のアウタジャケット13と、アウタジャケット13に嵌合された円筒状のインナジャケット14とを含む。
インナジャケット14の軸方向下端部14bに対して、アウタジャケット13の軸方向上端部13aが外嵌されている。すなわち、アウタジャケット13がロアジャケットであり、インナジャケット14がアッパジャケットである。アウタジャケット13に対してインナジャケット14がコラム軸方向Xに移動することにより、コラムジャケット4は、コラム軸方向Xに伸縮可能である。
【0016】
アッパ側のインナジャケット14の軸方向上端部14aは、軸受11を介してコラム軸方向Xに一体移動可能にアッパシャフト9に連結されている。アウタジャケット13の軸方向下端部13bは、軸受12を介してロアシャフト10を回転可能に支持している。
ロア側支持機構7は、ロア側のアウタジャケット13を回転可能に支持する。ロア側支持機構7は、車体15に固定される固定ブラケット16と、アウタジャケット13に固定されたコラムブラケット17と、固定ブラケット16とコラムブラケット17とを連結するチルト支軸18とを含む。
【0017】
チルト支軸18の中心軸周りにステアリングシャフト3およびコラムジャケット4を回動(チルト)させることで、操舵部材2の位置を上下方向(チルト方向Y)に調整できるようになっている(いわゆるチルト調整)。また、ステアリングシャフト3およびコラムジャケット4をコラム軸方向Xに伸縮させることで、操舵部材2の位置を車両の前後方向に調整できるようになっている(いわゆるテレスコ調整)。
【0018】
図2は、ステアリング装置1の概略斜視図である。
図3は、
図1に示すIII-III線に沿う断面図である。
図1~
図3に示すように、アッパ側支持機構8は、車体15に固定される固定ブラケット19と、締付機構20とを含む。
固定ブラケット19は、車体15に取り付けられる取付板21Aと、取付板21Aに固定された天板21と、天板21の両端から鉛直方向の下方に延びる一対の側板22とを含む。
【0019】
締付機構20は、固定ブラケット19の一対の側板22を介して、アウタジャケット13を両側から締め付けることにより、チルトロックおよびテレスコロックを達成する。締付機構20は、操作レバー23と、締付軸24と、回転カム25と、一方の締付部材26(非回転カム)と、ナット28と、他方の締付部材29と、ワッシャ30と、針状ころ軸受31とを備えている。
【0020】
操作レバー23は、運転者が回転操作する操作部材として機能する。締付軸24は、操作レバー23と一体回転可能である。締付軸24の中心軸C1が、操作レバー23の回転中心に相当する。
アウタジャケット13には、アウタジャケット13の軸方向上端部13aからコラム軸方向Xの下側XLに向けて延びるスリット40が形成されている。これにより、アウタジャケット13は、弾性的に縮径可能である。
【0021】
アウタジャケット13の軸方向上端部13aには、一対の側板状の被締付部41が設けられている。一対の被締付部41は、締付軸24の軸方向である締付軸方向Jに互いに対向している。被締付部41は、締付軸方向Jにおけるスリット40の両側に1つずつ配置されている。
締付軸24は、固定ブラケット19の一対の側板22にそれぞれ設けられチルト方向Yに延びるチルト用長孔33を挿通している。
【0022】
アウタジャケット13の一対の被締付部41は、一対の側板22の内側面22b間に配置され、対応する側板22の内側面22bにそれぞれ沿う板状をなしている。各側板22の内側面22bが、対応する被締付部41の外側面41aに対向している。
アウタジャケット13の各被締付部41には、締付軸24が挿通される円孔からなる締付軸挿通孔34が形成されている。締付軸24と、アウタジャケット13と、インナジャケット14と、ステアリングシャフト3とは、チルト調整時に、チルト方向Yに一体に移動する。
【0023】
締付軸24は、固定ブラケット19の一対の側板22のチルト用長孔33およびアウタジャケット13の一対の被締付部41の締付軸挿通孔34を挿通するボルトからなる。締付軸24の一端に設けられた大径の頭部24aは、操作レバー23と一体回転可能に固定されている。
回転カム25および一方の締付部材26は、締付軸24の頭部24aと一方の側板22の外側面22aとの間に介在している。回転カム25および一方の締付部材26は、互いにカム係合することによって操作レバー23の回転力を締付軸24の軸力(一対の側板22を締め付けるための締付力)に変換する力変換機構27を構成している。回転カム25には、カム突起25Aが形成されており、一方の締付部材26には、カム突起25Aが乗り上げるカム突起26Aが形成されている。回転カム25は、操作レバー23と一体回転に連結され締付軸24に対して締付軸方向Jの移動が規制されている。
【0024】
締付機構20のナット28は、締付軸24の他端のねじ部24bに、ねじ嵌合している。ナット28と固定ブラケット19の他方の側板22との間に、他方の締付部材29と、ワッシャ30と、針状ころ軸受31とが介在している。
ワッシャ30および針状ころ軸受31は、他方の締付部材29とナット28との間に介在する。ワッシャ30は、ナット28と他方の締付部材29との間に介在する。針状ころ軸受31は、ワッシャ30と他方の締付部材29との間に介在する。
【0025】
回転カム25と、一方の締付部材26と、他方の締付部材29と、ワッシャ30と、針状ころ軸受31とは、締付軸24の外周によって支持されている。
一方の締付部材26および他方の締付部材29は、それぞれ対応する側板22の外側面22aに対向する締付板部26a,29aと、それぞれ対応するチルト用長孔33に嵌合されたボス部26b,29bとを有している。各ボス部26b,29bと対応するチルト用長孔33との嵌合によって、各締付部材26,29の回転が規制されている。
【0026】
また、一方の締付部材26および他方の締付部材29は、締付軸24によって締付軸方向Jに移動可能に支持されている。
操作レバー23のロック方向への回転に伴って、回転カム25が一方の締付部材26に対して回転することにより、回転カム25のカム突起25Aが一方の締付部材26のカム突起26Aを乗り上げる。そのため、回転カム25と一方の締付部材26とが締付軸方向Jに互いに離間し、一方の締付部材26と他方の締付部材29とが互いに近づく。これにより、締付部材26,29(の締付板部26a,29a)によって、固定ブラケット19の一対の側板22の外側面22aが押圧されて締め付けられる。
【0027】
これにより、固定ブラケット19の各側板22の内側面22bが、アウタジャケット13の対応する被締付部41の外側面41aを締め付ける。その結果、アウタジャケット13のチルト方向Yの移動が規制されて、チルトロックが達成される。また、両被締付部41が締め付けられることによって、スリット40が狭められてアウタジャケット13が弾性的に縮径する。アウタジャケット13は、縮径することによって、インナジャケット14を締め付けて保持する。これにより、インナジャケット14のコラム軸方向Xの移動が規制されて、テレスコロックが達成される。その結果、操舵部材2の位置が、車体15に対して固定される。
【0028】
図4は、スリット40の周辺を鉛直方向の下側から見た図である。
図5は、アウタジャケット13の概略断面図であり、
図4に示すV-V線に沿う断面図である。
図6は、アウタジャケット13の概略断面図であり、
図5に示すVI-VI線に沿う断面図である。
図4に示すように、スリット40は、アウタジャケット13の軸方向上端部13aに設けられた開放端40aと、開放端40aよりもコラム軸方向Xの下側XLに設けられた閉塞端40bと、閉塞端40bと開放端40aとの間の中間部40cとを有する。閉塞端40bは、一対の被締付部41よりもコラム軸方向Xの下側XLに位置している。閉塞端40bは、コラム軸方向Xの下側XL(一対の被締付部41とは反対側)に向けて凸状の円弧状部50によって構成されている。中間部40cは、円弧状部50のコラム軸方向上側端と開放端40aとの間で直線状に延びる。
【0029】
アウタジャケット13は、少なくともスリット40の閉塞端40b(円弧状部50)に隣接する第1領域61と、第1領域61よりもコラム軸方向Xの上側XUでスリット40に隣接する第2領域62とを有する。第1領域61は、コラム軸方向Xにおいてスリット40の中間部40cの一部と隣接する位置にまで及んでいる。第1領域61は、第2領域62よりも厚みが薄い薄肉部である。第2領域62は、アウタジャケット13においてスリット40に隣接する領域のうち、第1領域61以外の領域のことである。ただし、一対の被締付部41は、第2領域62には含まれない。
【0030】
スリット40の閉塞端40bは、アウタジャケット13の第1領域61により形成されている。また、スリット40の開放端40aは、アウタジャケット13の第2領域62により形成されている。スリット40の中間部40cは、第1領域61により形成されている部分と、第2領域62により形成されている部分とを有する。
図6を参照して、アウタジャケット13の外面70において、第1領域61と第2領域62との境界には、段差65が設けられている。段差65によって、第1領域61におけるアウタジャケット13の厚みT1が第2領域62におけるアウタジャケット13の厚みT2よりも薄くされている。第1領域61におけるアウタジャケット13の外面70は、第2領域62におけるアウタジャケット13の外面70よりも、径方向Rにおいて中心軸線C2側(径方向内方)に位置している。
【0031】
第1領域61は、たとえば、アウタジャケット13における車両の鉛直方向の下側に位置している(
図5参照)。第1領域61は、中心軸線C2まわりの周方向においてアウタジャケット13の約半周に亘っている。
第1実施形態によれば、一対の被締付部41が締付機構20によって締め付けられてアウタジャケット13が縮径する。アウタジャケット13が縮径する際、スリット40の閉塞端40bに隣接する部分が撓みの基点となる。そのため、アウタジャケット13の縮径し易さは、アウタジャケット13においてスリット40の閉塞端40bの隣接する部分の撓み剛性に依存しやすい。アウタジャケット13において比較的厚みT1が薄い第1領域61が閉塞端40bに隣接するので、第1実施形態とは異なり第1領域61が閉塞端40bから離間して設けられている構成と比較して、閉塞端40bに隣接する部分の撓み剛性を低下させることができる。これにより、アウタジャケット13を縮径させやすくすることができる。
【0032】
その結果、アウタジャケット13によるインナジャケット14の保持力の向上を図ることができる。
また、第1実施形態によれば、スリット40の閉塞端40bがコラム軸方向Xの下側XL(軸方向の一方側)に向けて凸状の円弧状部50を有する。アウタジャケット13においてスリット40の閉塞端40bに隣接する部分のうち、円弧状部50に隣接する部分が、アウタジャケット13の縮径し易さに最も影響する。第1実施形態では、アウタジャケット13において比較的厚みT1が薄い第1領域61が円弧状部50に隣接するため、アウタジャケット13を一層縮径させ易くできる。
【0033】
また、第1実施形態によれば、第1領域61の厚みT1を第2領域62の厚みT2よりも薄くするための段差65が、アウタジャケット13の外面70に設けられている。したがって、段差65を設けるための加工をアウタジャケット13の外側から行うことができるので、第1領域61を薄肉化する加工を平易化することができる。
また、第1実施形態によれば、周方向においてアウタジャケット13の半周に亘るように第1領域61を設けることによって、閉塞端40bの曲げ剛性を充分に低減しつつ、アウタジャケット13の強度を保つことができる。
【0034】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るステアリング装置1Pについて説明する。
図7は、ステアリング装置1Pに備えられたアウタジャケット13の概略断面図であり、スリット40の周辺の断面図である。
図8は、
図7に示すVIII-VIII線に沿う断面図である。
図7および
図8に示す第2実施形態のステアリング装置1Pでは、第1実施形態で説明した部材と同じ部材には、同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0035】
第2実施形態に係るステアリング装置1Pが第1実施形態に係るステアリング装置1と異なる点は、段差65がアウタジャケット13の外面70ではなくアウタジャケット13の内面71に設けられている点である。そのため、第1領域61におけるアウタジャケット13の内面71は、第2領域62におけるアウタジャケット13の内面71よりも、径方向Rにおいて中心軸線C2とは反対側(径方向外方)に位置している。
【0036】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、アウタジャケット13において比較的厚みT1が小さい第1領域61が円弧状部50に隣接するため、アウタジャケット13を一層縮径させ易くできる。さらに、アウタジャケット13において比較的厚みT1が小さい第1領域61が円弧状部50に隣接するため、アウタジャケット13を一層縮径させ易くできる。
【0037】
<第3実施形態>
図9は、本発明の第3実施形態に係るステアリング装置1Qに備えられたアウタジャケット13のスリット40の周辺を鉛直方向の下側から見た図である。
図9に示す第3実施形態のステアリング装置1Qでは、第1実施形態および第2実施形態で説明した部材と同じ部材には、同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
第3実施形態に係るステアリング装置1Qが第1実施形態に係るステアリング装置1と主に異なる点は、アウタジャケット13がアッパジャケットであり、インナジャケット14がロアジャケットである点である。
第3実施形態では、スリット40は、アウタジャケット13の軸方向下端部13bからコラム軸方向Xの上側XUに向けて延びる。また、スリット40の開放端40aは、アウタジャケット13の軸方向下端部13bに設けられ、スリット40の閉塞端40bは、開放端40aよりもコラム軸方向Xの上側XUに設けられる。そして、閉塞端40bの円弧状部50は、コラム軸方向Xの上側XU(一対の被締付部41とは反対側)に向けて凸状である。
【0039】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同じ効果を奏する。
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、上述の実施形態では、第1領域61は、閉塞端40bよりもコラム軸方向Xの上側XUにまで及んでいるとした。しかしながら、上述の実施形態とは異なり、第1領域61は、スリット40において閉塞端40b(円弧状部50)のみに隣接する領域であってもよい。また、
図10に示す変形例のように、第1領域61は、閉塞端40bに隣接していれば、閉塞端40bを縁取る部分のみに設けられていてもよい。
【0040】
また、第1領域61は、被締付部41のコラム軸方向下側端よりもコラム軸方向Xの上側XUに及んでいてもよい。つまり、段差65が、被締付部41同士の間に位置していてもよい。
また、第2領域62におけるアウタジャケット13の厚みT2は、均一である必要はない。すなわち、第2領域62において段差65に隣接する部分のアウタジャケット13の厚みが、第1領域61におけるアウタジャケット13の厚みT1よりも厚ければよい。たとえば、厚みT2は、第2領域62において段差65に隣接する部分よりもコラム軸方向Xの上側XUにおいて、厚みT1よりも薄くされていてもよい。
【0041】
また、第2実施形態と第3実施形態を組み合わせることもできる。すなわち、アウタジャケット13がアッパジャケットであり、インナジャケット14がロアジャケットであり、かつ、段差65がアウタジャケット13の内面71に設けられている構成のステアリング装置も有り得る。
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1;1P;1Q…ステアリング装置、3…ステアリングシャフト、13…アウタジャケット、13a…軸方向上端部、13b…軸方向下端部、14…インナジャケット、14a…軸方向上端部、14b…軸方向下端部、40…スリット、40a…開放端、40b…閉塞端、41…被締付部、50…円弧状部、61…第1領域、62…第2領域、65…段差、70…外面、T1…厚み、T2…厚み、X…コラム軸方向、XL…下側、XU…上側