(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】成形方法および成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/72 20060101AFI20220812BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20220812BHJP
B29C 43/52 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B29C45/72
B29C33/02
B29C43/52
(21)【出願番号】P 2018014809
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【氏名又は名称】森本 悟道
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(73)【特許権者】
【識別番号】508067736
【氏名又は名称】マイクロ波化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(72)【発明者】
【氏名】澤田 聡
(72)【発明者】
【氏名】安達 健次
(72)【発明者】
【氏名】清水 信彦
(72)【発明者】
【氏名】木本 幸胤
(72)【発明者】
【氏名】塚原 保徳
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-138546(JP,A)
【文献】特開2003-311799(JP,A)
【文献】特開2002-299356(JP,A)
【文献】特開昭55-028803(JP,A)
【文献】特開2006-321137(JP,A)
【文献】実開昭62-172023(JP,U)
【文献】特開2008-030199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 43/00 - 43/58
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を用いて熱可塑性樹脂を目標形状に成形する方法であって、少なくとも金型内で流動中の熱可塑性樹脂にマイクロ波を照射し熱可塑性樹脂の流動を助勢する樹脂流動助勢工程を含むことを特徴とする成形方法。
【請求項2】
流動中の熱可塑性樹脂にマイクロ波を照射し金型内での熱可塑性樹脂の温度降下速度を低下させて熱可塑性樹脂の温度を制御し、それによる熱可塑性樹脂の流動の助勢を介して熱可塑性樹脂の流動を制御する、請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】
金型内で流動する前の熱可塑性樹脂を、加熱溶融する、請求項1または2に記載の成形方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂の加熱溶融用にも、マイクロ波の照射を行う、請求項3に記載の成形方法。
【請求項5】
加熱溶融された熱可塑性樹脂を金型内に注入する、請求項1または2に記載の成形方法。
【請求項6】
マイクロ波を、金型の内面の少なくとも一部を形成する金型本体とは別の部材を透過させて照射する、請求項1~5のいずれかに記載の成形方法。
【請求項7】
複数箇所から、金型内で流動中の熱可塑性樹脂にマイクロ波を照射する、請求項1~6のいずれかに記載の成形方法。
【請求項8】
前記複数個所は、金型内の任意の位置と前記金型内の任意の位置における任意の時間での熱可塑性樹脂の温度とに応じて選択された所定の位置にそれぞれ設けられ、前記複数箇所の箇所毎にまたは箇所の群毎に、照射するマイクロ波の出力または照射する時間、またはマイクロ波の出力と照射する時間の両方、を制御する、請求項7に記載の成形方法。
【請求項9】
成形される熱可塑性樹脂が、熱可塑性樹脂に機能を付与するフィラーまたは熱可塑性樹脂の特性を変化させるフィラーを含む、請求項1~8のいずれかに記載の成形方法。
【請求項10】
金型内に、成形される熱可塑性樹脂および該熱可塑性樹脂と一体化される基材を配する、請求項1~9のいずれかに記載の成形方法。
【請求項11】
プレス成形方法である、請求項1~10のいずれかに記載の成形方法。
【請求項12】
射出成形方法である、請求項1、2、5~10のいずれかに記載の成形方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂を目標形状に成形する金型と、
前記金型の内面の少なくとも一部を形成しマイクロ波を透過可能な材料からなる金型本体とは別の金型内面形成部材と、
少なくとも金型内で流動中の熱可塑性樹脂に前記金型内面形成部材を透過させてマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段と、
を有することを特徴とする成形装置。
【請求項14】
前記マイクロ波照射手段が、マイクロ波発振器、該マイクロ波発振器で発振されたマイクロ波を伝送するケーブル、該ケーブルに接続され前記金型内面形成部材に近接させて設けられたマイクロ波照射アンテナを有する、請求項13に記載の成形装置。
【請求項15】
前記金型内面形成部材が互いに異なる複数箇所に設けられている、請求項13または14に記載の成形装置。
【請求項16】
前記金型内面形成部材が互いに異なる複数箇所に設けられており、
前記複数個所は、金型内の任意の位置と前記金型内の任意の位置における任意の時間での熱可塑性樹脂の温度とに応じて選択された所定の位置にそれぞれ設けられ、複数の前記マイクロ波照射アンテナ毎にまたは該マイクロ波照射アンテナの群毎に、前記マイクロ波発振器から伝送されるマイクロ波の出力と照射する時間を制御可能な制御手段を有する、請求項
14に記載の成形装置。
【請求項17】
前記マイクロ波を透過可能な材料がセラミックである、請求項13~16のいずれかに記載の成形装置。
【請求項18】
前記金型本体に、該金型本体の温度を調節可能な温調手段が付設されている、請求項13~17のいずれかに記載の成形装置。
【請求項19】
前記金型は、熱可塑性樹脂が流動可能な温度より低い温度に制御可能な冷却手段を有する、請求項13~18のいずれかに記載の成形装置。
【請求項20】
成形される熱可塑性樹脂が、熱可塑性樹脂に機能を付与するフィラーまたは熱可塑性樹脂の特性を変化させるフィラーを含む、請求項13~19のいずれかに記載の成形装置。
【請求項21】
前記金型が、成形される熱可塑性樹脂と基材を一体化して目標形状に成形する金型からなる、請求項13~20のいずれかに記載の成形装置。
【請求項22】
プレス成形装置である、請求項13~21のいずれかに記載の成形装置。
【請求項23】
射出成形装置である、請求項13~21のいずれかに記載の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料を金型を用いて目標形状に成形する成形方法および成形装置に関し、とくに、金型内で流動中の樹脂の流動性を向上させることにより、成形品の形状設計の自由度の拡大が可能で、成形品のそりや収縮変形の低減にも寄与可能な成形方法および成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固形の樹脂材料にマイクロ波を使って加熱し、逐次排出する樹脂加熱溶融装置と、金型と、金型を型締めする型締装置と、を用いた射出成形方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に記載された射出成形方法では、直接金型に溶融樹脂を逐次排出することで、樹脂射出成形機を用いるロスが改善されている。この種の射出成形方法では、樹脂加熱溶融装置から排出される溶融した樹脂を、金型に設けられたスプールランナを通じて型締装置により型締めされた金型のキャビティ内に充填させる。
【0003】
また、複数の型の型面によりキャビティを区画し、キャビティ内に型面間距離の短い狭部と狭部よりも型面間距離の長い広部を配置することにより、キャビティ全体に樹脂を行き渡らせるようにした射出プレス成形方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
さらに、熱硬化性プラスチック材料が注入されたモールドに対し高周波を照射することにより、素早い加熱が可能であり、高品質な熱硬化性プラスチック成形品を成形できるようにした熱硬化性プラスチックの成形方法も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-113699号公報
【文献】特開2004-358884号公報
【文献】特開2012-086560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような射出成形方法では、溶融樹脂を金型の溶融樹脂入口部から金型のキャビティ内に逐次排出することにより成形品を生成するため、溶融樹脂の流動抵抗による金型細部への入り込み不足を考慮した寸法形状に成形品を設計する必要があり、例えば、溶融樹脂入口部側の寸法を成形品の必要強度以上に大きくする等、一般的な射出成形方法の課題である、溶融樹脂材料の流動抵抗の考慮等の成形品の形状設計についての制限に対する課題を解決できていなかった。また、特許文献2に記載されているような射出プレス成形方法でも同様の課題を完全に解決するには至っていない。さらに、特許文献3に記載されているような高周波誘電加熱装置を用いた成形方法では、熱硬化性プラスチック材料が注入されたモールド全体を高周波誘電加熱するようにしているので、モールド内における樹脂の流動性向上等については特に考慮されておらず、成形品の形状設計についての自由度拡大や成形品のそりや収縮変形の低減等については多くは望めなかった。
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における限界に鑑み、複雑な成形形状であっても細部まで良好に樹脂を流動させることができ、成形品の形状設計について自由度を拡大可能であり、しかも成形品各部まで良好に樹脂を流動させて、成形品のそりや収縮変形の低減等をはかることも可能な、成形方法および成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る成形方法は、金型を用いて樹脂を目標形状に成形する方法であって、少なくとも金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射し樹脂の流動を助勢する樹脂流動助勢工程を含むことを特徴とする方法からなる。流動中の樹脂へのマイクロ波の照射は、後述する本発明に係る成形装置によって容易にかつ確実に行うことができる。
【0009】
このような本発明に係る成形方法においては、少なくとも、既に成形のために金型内に存在し、金型内で流動されつつある樹脂に対して、つまり、成形のために流動可能な温度にまで既に加熱されて金型内に存在し成形のために金型内で流動されつつある樹脂に対して、マイクロ波が照射され、該マイクロ波の照射によって、積極的に樹脂がより加熱されるというよりはむしろ樹脂の温度降下が抑制されて、成形すべき形状の細部に至るまでの望ましい樹脂の流動を確保すべく、流動中の樹脂の流動が助勢される。この樹脂流動助勢工程を含むことにより、複雑な成形形状であっても、目標とする成形形状に成形のための特別な配慮を行うことなく、キャビティ内の形状の細部まで行き渡るように良好に樹脂を流動させることが可能になり、成形品の形状設計についての自由度を大幅に拡大することが可能になる。また、成形品の細部に至るまで樹脂を確実に流動させることが可能になるので、成形品のそりや収縮変形の低減をはかることも可能になる。とくに、後述の如く樹脂が各種フィラーを含む場合、一般的に樹脂の粘度が高くなり流動しにくくなるが、成形品の細部にいたるまで望ましい流動が可能になるので、成形品各部の成形収縮率のバラツキが小さくなり、また、成形収縮率も小さくなり、金型から取り出した後の成形品のそり・収縮変形の低減をはかることも可能になる。
【0010】
上記本発明に係る成形方法においては、流動中の樹脂にマイクロ波を照射し金型内での樹脂の温度降下速度を低下させて樹脂の温度を制御し、それによる樹脂の流動の助勢を介して樹脂の流動を望ましい状態に制御することが可能である。すなわち、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射し樹脂の温度降下を抑制することで、キャビティ内の形状の細部に至るまでの望ましい樹脂の流動を確保できるので、キャビティ内に樹脂を行き渡らせることができる。
【0011】
また、本発明に係る成形方法においては、金型内で流動する前の樹脂を、加熱溶融することができる。例えば、ペレット、チップ、フレーク、パウダーやある種の形状を有する固体の樹脂を金型内に配置し、その樹脂を金型内で加熱溶融して流動可能として目標とする形状に成形するに際し、この樹脂の加熱溶融用にも、マイクロ波の照射を行うことが可能である。このマイクロ波の照射による加熱溶融により金型内で流動可能となった樹脂が金型内で流動される際、流動されつつある樹脂に対して上述の如く本発明に係るマイクロ波の照射が行われ、樹脂の流動が助勢される。ただし、上記樹脂の加熱溶融用には、別の加熱手段、例えば金型に付設された温調手段を使用することも可能である。また、このように金型内で流動する前の樹脂を加熱溶融することができるようにすれば、樹脂が流動可能な温度より低い温度に金型の温度を設定できるので、キャビティに樹脂が充填された後、脱型までに要する時間の短縮をはかることも可能になる。
【0012】
あるいは、本発明に係る成形方法においては、加熱溶融された樹脂を金型内に注入することも可能である。例えば、前述の特許文献1に記載されているような樹脂加熱溶融装置を用いて予め加熱溶融された樹脂を、金型内に注入し、本発明方法により、金型内で流動中の樹脂に対してマイクロ波を照射するようにすることもできる。このようにすれば、予め加熱溶融された樹脂を金型内に注入することにより、本発明における成形自体の設備としては、本発明に係る樹脂の流動を助成するマイクロ波照射用の設備以外に、樹脂を加熱溶融する設備を不要化することも可能である。
【0013】
本発明に係る成形方法において、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射する手法としては、後述の本発明に係る成形装置においても説明するように、とくに、マイクロ波を、金型の内面の少なくとも一部を形成する金型本体とは別の部材を透過させて照射する手法を挙げることができる。このような手法により、所定のキャビティ形状を確保した状態にて、目標とするマイクロ波の照射が可能になり、該マイクロ波の照射により、樹脂の流動を助勢して成形を行うことができる。
【0014】
本発明におけるマイクロ波の照射に関しては、複数箇所から、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射することが好ましい。複数箇所からの照射により、成形品のサイズが大きくなった場合にも、成形領域全域にわたって本発明による望ましい樹脂流動助勢工程を実施可能となる。この場合、上記複数個所は、金型内の任意の位置と金型内の任意の位置における任意の時間での樹脂の温度とに応じて選択された所定の位置にそれぞれ設けられ、上記複数箇所の箇所毎にまたは箇所の群毎に、照射するマイクロ波の出力または照射する時間、またはマイクロ波の出力と照射する時間の両方、を制御することも好ましい。このように制御することにより、流動抵抗の大きな形状への流れ込み部(流動先のキャビティ体積が小さくなっている箇所、立ち上がり箇所、分岐箇所等)、金型の合わせ面への流れ込み部、成形品の形状端への流れ込み部等、成形品の各部形状に応じた所定の位置でのマイクロ波の出力や照射する時間の制御が可能になり、成形領域全域にわたって望ましい樹脂流動状態を達成することができる。
【0015】
また、本発明に係る成形方法において、成形対象となる樹脂としては、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射して樹脂の流動を助勢できるものであれば特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂ともに使用可能である。ただし、後述の如きプレス成形や射出成形を考慮する場合、成形される樹脂としては熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。すなわち、金型内で流動中の熱可塑性樹脂にマイクロ波を照射して熱可塑性樹脂の流動を助勢しつつ成形を行う。熱可塑性樹脂としては、例えば、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABS樹脂、PE(ポリエチレン)、PA(ポリアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、POM(ポリオキシメチレン[一般的にはポリアセタール])、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等を採用できる。金型内で流動中の熱可塑性樹脂に前述の複数箇所からのマイクロ波の照射方法を用いることで、前述のような作用、効果に加えて、金型の合わせ面への流れ込み部、成形品の形状端への流れ込み部等における所定のマイクロ波照射による樹脂への加熱作用を抑制することで、成形品形状以外の不要部分(バリなど)の発生を抑えたり、キャビティへの充填から成形品脱型までの時間を短縮することが可能になる。
【0016】
また、本発明に係る成形方法においては、成形される樹脂としては、樹脂単独の場合は勿論のこと、樹脂に機能を付与するフィラーまたは樹脂の特性を変化させるフィラーを含む場合も本発明に含まれる。すなわち、金型内のフィラーを含む樹脂に対して、マイクロ波照射により樹脂の流動を助勢し成形できる。このようなフィラーとして、各種不連続強化繊維(炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等)、カーボンナノチューブ、アルミナ、酸化チタン等を挙げることができ、これらフィラーは成形品の用途に応じて選択されればよい。
【0017】
また、本発明に係る成形方法では、金型内に、成形される樹脂および該樹脂と一体化される基材を配することもできる。すなわち、成形される樹脂と一体化する基材と共に、樹脂をマイクロ波照射により金型内での樹脂の流動性を助勢し成形できる。このような樹脂と一体化される基材には、各種強化繊維基材(例えば、織物基材や一方向基材、各種積層基材)、各種インサート部材(インサートに供される各種部材)が含まれる。
【0018】
また、本発明に係る成形方法は、各種成形方法に適用可能である。代表的には、プレス成形方法や、射出成形方法に適用したものが本発明に含まれる。すなわち、プレス成形方法や射出成形方法において、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射することにより樹脂の流動を助勢し成形できる。また、いわゆる射出圧縮成形方法も、本発明に係る成形方法に含まれ、該射出圧縮成形方法は、上記プレス成形方法または射出成形方法のいずれかの形態の一つとして捉えることができる。
【0019】
本発明は、樹脂を目標形状に成形する金型と、前記金型の内面の少なくとも一部を形成しマイクロ波を透過可能な材料からなる金型本体とは別の金型内面形成部材と、少なくとも金型内で流動中の樹脂に前記金型内面形成部材を透過させてマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段と、を有することを特徴とする成形装置についても提供する。このような成形装置においては、前述の成形方法について述べたように、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射し樹脂の流動を助勢することで、キャビティ内に樹脂を行き渡らせることができる。また、この本発明に係る成形装置を用いた成形における特徴は、金型内に充填された樹脂の温度を「直接」制御できることにもある。この「直接」とは、後述の如く、成形工程での任意の「時間」と、樹脂が流動充填するキャビティ内の任意の「位置」との2つにおいて樹脂の温度を制御することである。
【0020】
上記本発明に係る成形装置においては、上記マイクロ波照射手段が、マイクロ波発振器、該マイクロ波発振器で発振されたマイクロ波を伝送するケーブル、該ケーブルに接続され上記金型内面形成部材に近接させて設けられたマイクロ波照射アンテナを有する構成を採用できる。とくに、金型キャビティ内面に近い箇所にマイクロ照射アンテナを設けた成形装置を用いることで、金型内の樹脂にマイクロ波を効率よく照射し樹脂の流動を助勢しながら成形できる。
【0021】
また、上記金型内面形成部材が互いに異なる複数箇所に設けられている構成を採用できる。これによって、成形品のサイズが大きくなった場合でも、成形領域全域にわたって樹脂流動助勢工程を実施することができる。
【0022】
また、上記複数個所は、金型内の任意の位置と前記金型内の任意の位置における任意の時間での樹脂の温度とに応じて選択された所定の位置にそれぞれ設けられ、複数の上記マイクロ波照射アンテナ毎にまたは該マイクロ波照射アンテナの群毎に、前記マイクロ波発振器から伝送されるマイクロ波の出力と照射する時間を制御可能な制御手段を有する構成を採用できる。このような構成により、金型内に充填された樹脂の温度を任意の「位置」と任意の「時間」で「直接」制御できることができるようになる。成形工程の任意の「時間」に、樹脂の温度を直接制御することで、例えば下記の2項が実現可能となる。
(1)成形工程の前段において、金型内に充填された樹脂を溶融可能な状態に加熱すること、
(2)成形工程の最中では、樹脂の温度を流動可能な状態に維持すること。
また、成形工程の任意の「位置」で、受精の温度を直接制御することで、例えば下記の3項が実現可能となる。
(1)流動抵抗の大きな形状への流れ込み部で樹脂を加熱することで、その部分への樹脂の流れ込みを容易にすること、
(2)金型の合わせ面(パーティングライン)への流れ込み部で樹脂の加熱を抑制することで、成形品形状以外の不要部分(バリなど)の発生を抑えることができること、
(3)成形品の形状端への流れ込み部で樹脂の加熱を抑制することで、キャビティへの充填から脱型までの時間を短縮することができること。
【0023】
また、上記マイクロ波を透過可能な材料としては、とくに限定されないが、耐熱性と強度を備えたセラミックであることが好ましい。汎用性の高い材料であるセラミックを使うことで装置設計の自由度を向上できる。
【0024】
また、上記金型本体には、該金型本体の温度を調節可能な温調手段が付設されていることが好ましい。温調手段としては、熱媒流通方式、電気ヒータ方式いずれも使用可能である。このような構成においては、例えば、金型内での樹脂の加熱溶融用にも、マイクロ波の照射を行い、金型本体の温度は温調手段によって調節することが可能になるので、樹脂を金型自体により加熱溶融する機能を不要化することが可能となる。また、熱硬化性樹脂に対しては、金型温度を、樹脂の温度・粘度プロファイルから最も流動性に適した粘度となる温度に調整し、マイクロ波を照射し成形に供することもできる。
【0025】
また、上記金型は、熱可塑性樹脂が流動可能な温度より低い温度に制御可能な冷却手段を有することが好ましい。本発明に係る成形装置では、金型内で流動中の熱可塑性樹脂にマイクロ波を照射して熱可塑性樹脂の流動を助勢しつつ成形を行うが、金型が上記のような冷却手段を有することで熱可塑性樹脂の流動成形性能を向上させ成形することができる。すなわち、マイクロ波の照射により、1)短時間で流動可能な状態(温度)になる、2)より遠くまで流動できる、3)より薄く流動できる、4)より複雑な形状に流動充填できる、5)より短時間で充填できる、等が達成でき、上記冷却手段を有することで、6)より短時間で脱型でき、連続的に成形を繰り返す場合には、成形サイクルを短縮できる。例えば、脱型するための冷却時間に応じてマイクロ波加熱を停止させ、樹脂流動性を適切に抑止できることや、成形品の形状端への流れ込み部での樹脂の加熱を抑制することで、キャビティ充填から脱型までの時間を短縮することができる。なお、前述の温調手段に、この冷却手段の機能を持たせることも可能である。あるいは、マイクロ波の照射を、上記のような目的をもって、特定の時間的や空間的に止めることによっても、上記冷却手段の機能を持たせることが可能である。
【0026】
また、本発明に係る成形方法同様、成形される樹脂が、樹脂に機能を付与するフィラーまたは樹脂の特性を変化させるフィラーを含む形態とすることもできる。金型内のフィラーを含む樹脂に対して、マイクロ波照射により樹脂の流動を助勢しながら成形できる。適用できるフィラーとしては前述したとおりである。
【0027】
また、上記金型が、成形される樹脂と基材を一体化して目標形状に成形する金型からなる形態とすることもできる。成形される樹脂と一体化する基材と共に、樹脂をマイクロ波照射により樹脂の流動性を助勢しながら成形できる。
【0028】
さらに、本発明に係る成形装置は、各種成形装置に適用可能であり、代表的には、プレス成形装置や、射出成形装置に適用したものが本発明に含まれ、いわゆる射出圧縮成形装置も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0029】
このように、本発明に係る成形方法および成形装置によれば、金型内で流動中の樹脂にマイクロ波を照射し樹脂の温度降下を抑制して樹脂の流動を適切に助勢できるようにしたので、目標とする成形形状に成形するための特別な設計上の配慮を行う必要がなく、細部まで良好に樹脂を流動させることが可能になり、成形品の形状設計についての自由度を大幅に拡大することができるとともに、成形品のそりや収縮変形の低減等をはかることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施態様に係る成形装置の概略全体構成図である。
【
図2】
図1の装置を用いた成形の一工程を示す概略構成図である。
【
図8】本発明の別の実施態様に係る成形装置の概略全体構成図である。
【
図9】
図8の装置を用いた成形の一工程を示す概略構成図である
【
図14】
図1の装置を用いた別の成形の一工程を示す概略構成図である。
【
図15】
図14の成形における離型工程を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る成形方法および成形装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれら実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明の一実施態様に係る成形装置を示しており、本発明をプレス成形に適用した一例を示している。
図1において、1はプレス成形装置全体を示しており、該プレス成形装置1は、樹脂(例えば前述の熱可塑性樹脂)を目標形状に成形する金型2と、金型2の内面の少なくとも一部を形成しマイクロ波を透過可能な材料からなる金型本体とは別の金型内面形成部材3と、少なくとも金型2内で流動中の樹脂に金型内面形成部材3を透過させてマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段4を有している。
【0033】
金型2は、第1金型2a(本実施態様では上型)と第2金型2b(本実施態様では下型)からなり、固定プラテン5に固定された第2金型2bに対し、可動プラテン6に装着された第1金型2aを上下動させることにより、金型2内の樹脂(後述)をプレス成形、成形後の成形品(後述)を脱型できるようになっている。また、金型2には、金型本体の温度を調節可能な温調手段としての温調機7が付設されている。温調機7としては、熱媒循環方式、電気ヒータ方式のいずれも使用可能である。
【0034】
金型内面形成部材3は、本実施態様では、互いに異なる複数箇所に設けられており、周囲の金型内面に対し段差が生じないように各装着孔8内に強固に固着されている。また、本実施態様では、金型内面形成部材3を構成するマイクロ波を透過可能な材料としてセラミックが用いられている。ただし、マイクロ波を透過可能でかつ溶融樹脂に対して高い耐熱性と十分な離型性を有していれば、他の材料の使用も可能である。
【0035】
マイクロ波照射手段4は、本実施態様では、目標とする出力で複数のマイクロ波を発振可能なマイクロ波発振器9、該マイクロ波発振器9で発振されたマイクロ波を伝送する複数のケーブル10、該ケーブル10に接続され各金型内面形成部材3に近接させて各装着孔8内に設けられた複数のマイクロ波照射アンテナ11を備えている。図示例では、複数のマイクロ波照射アンテナ11は図示の断面内に設けられた形態で例示されているが、図の紙面と垂直の方向に沿って複数配置されていてもよい。マイクロ波発振器9は、いわゆるマグネトロンと呼ばれる高周波発生器からなり、発生されるマイクロ波の周波数は例えば0.902~24.25GHzであるが、この周波数は、使用する樹脂の種類に応じて、あるいは、マイクロ波の使用目的に応じて(例えば、樹脂の加熱溶融のために使用する場合や溶融樹脂の温度降下を抑えて樹脂の流動を助勢するために使用する場合に応じて)、適宜選択あるいは制御可能である。複数のマイクロ波照射アンテナ11から照射されるマイクロ波は、各金型内面形成部材3を透過させて、後述の如く少なくとも金型2内で流動中の樹脂に照射される。このようなマイクロ波照射手段4においては、金型内面形成部材3が互いに異なる複数箇所に設けられており、該複数個所は、金型2内の任意の位置と金型2内の任意の位置における任意の時間での樹脂の温度とに応じて選択された所定の位置にそれぞれ設けられ、複数のマイクロ波照射アンテナ11毎にまたは該マイクロ波照射アンテナ11の群毎に、マイクロ波発振器9から伝送されるマイクロ波の出力と照射する時間を制御可能な制御手段12が設けられていてもよい。
【0036】
なお、本実施態様に係る成形装置(プレス成形装置1)においては、金型本体の温度を調節可能な温調手段としての温調機7は、熱可塑性樹脂が流動可能な温度より低い温度に金型2を制御可能な冷却手段としての機能も有している。また、後述の
図3に明示するように、上下金型(第1金型2aと第2金型2b)が所定の距離に達した時に、上下金型で囲まれた空間を構成する金型構造とされており、このような構造とされることで、不要な空間へのマイクロ波照射の防止のためのマイクロ波の遮蔽性が実現されている。この構造は、金型2のキャビティ内を減圧状態(あるいは真空状態)にすることが要求される場合にも有効である。さらに、マイクロ波発振器9が金型2の近傍、とくに金型2のキャビティ近傍に設けられることで、例えば、高低差の大きな金型形状であっても、一連の構成を有するマイクロ波照射手段4を容易に望ましい形態で設けることができるようになっている。
【0037】
上記のようなプレス成形装置1を用いて、本発明に係る成形方法は、例えば次のように実施される。
本実施態様では、まず、
図2の樹脂材セット工程に示すように、開いた金型2の第2金型2b上の所定位置に、各々所定形状で所定樹脂量の複数の固形状の樹脂材21がセットされる。次いで、
図3のマイクロ波照射開始工程に示すように、第1金型2aが第2金型2bに近づけられながら、マイクロ波発振器9からのマイクロ波が、各ケーブル10を介して各マイクロ波照射アンテナ11に伝送され、各マイクロ波照射アンテナ11から各金型内面形成部材3を透過させて樹脂材21に照射され、樹脂材21の加熱溶融が開始される。すなわち、本実施態様では、金型2内にセットされた固形状の樹脂材21の加熱溶融のためにも、マイクロ波の照射が行われる。ただし前述したように、固形状の樹脂材21を金型2内にセットするのではなく、予め別装置で加熱溶融された樹脂を金型内に注入することも可能である。上記金型2内にセットされた固形状の樹脂材21を加熱溶融するためにマイクロ波を照射する際、あるいはこの工程の前から、併せて、温調機7により金型2を所定の温度に加熱してもよい。
【0038】
引き続いて、
図4の加圧加熱溶融工程に示すように、第1金型2aがさらに下降されて、上記の加熱溶融された樹脂材21への加圧が開始され、溶融された樹脂材21が金型2内で流動する樹脂22とされる。金型2内で流動する樹脂22に対して同様に加熱溶融とともに加圧が進められる。そして、この金型2内で流動する樹脂22に対する加圧加熱は、
図5に示す、第1金型2aが金型2内のキャビティが目標とする成形品形状になるまで第2金型2bに向けて下降された加圧加熱完了工程まで続行される。この加熱溶融された樹脂22が金型2内で流動する際には、樹脂22の流動に伴って流動中の樹脂22の温度が降下しようとするが、この樹脂22の温度降下速度が、流動中の樹脂22にマイクロ波を照射することにより低下され、流動中の樹脂22の温度が金型2内での流動により適した温度に制御される。したがって、金型2内での樹脂22の流動が助勢され、つまり、望ましい流動を行わせるためにより適切な状態とされ、樹脂の流動が最適な状態に制御されることになる。その結果、成形すべき形状に対して隈なく樹脂22を流動させることが可能になり、従来技術で問題であった、目標とする成形形状に成形するための特別な設計上の配慮を行う必要がなくなり、細部まで良好に樹脂を流動させることが可能になって、成形品の形状設計についての自由度を大幅に拡大することができる。また、細部まで隈なく良好に樹脂を流動させることが可能になることにより、成形品のそりや収縮変形の低減をはかることも可能になる。
【0039】
上記
図5に示した加圧加熱完了工程までに行われた金型2内で流動中の樹脂22へのマイクロ波照射による樹脂流動の助勢により、本発明で目標とした金型内での樹脂流動の制御は実質的に完了する。次に
図6の保圧冷却工程に示すように、金型2を型締め状態としたまま(つまり、第1金型2aを第2金型2bに向けて加圧した状態のまま)、マイクロ波の照射が停止され、場合によっては金型2の温調も停止されるか繰り返し成形のため相対的に低い温度に温調された状態にて(つまり、熱可塑性樹脂が流動可能な温度より低い温度に金型2を制御可能な冷却手段の機能も有する温調機7によって冷却され)、金型2内で目標とする形状に流動、充填された樹脂が冷却されて、目標とする形状の成形品23として固化される。次いで、
図7の離型工程に示すように、金型2が開かれ、目標とする成形形状に成形された成形品23が、吸着等を利用した取出機24を用いて金型2外へと取り出される。
【0040】
次に、
図8に、本発明の別の実施態様に係る成形装置の一例、とくに本発明を射出成形に適用した一例を示す。
図8において、31は射出成形装置全体を示しており、該射出成形装置31は、樹脂(例えば前述の熱可塑性樹脂)を目標形状に成形する金型32と、金型32の内面の少なくとも一部を形成しマイクロ波を透過可能な材料からなる金型本体とは別の金型内面形成部材33と、少なくとも金型32内で流動中の樹脂に金型内面形成部材33を透過させてマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段34を有している。
【0041】
金型32は、第1金型32aと第2金型32bからなり、本実施態様では、固定プラテン35に固定された第1金型32aに対し、可動プラテン36に装着された第2金型32bを水平方向に相対移動させることにより、金型32内に射出成形用のキャビティを形成し、成形後の成形品(後述)を脱型できるようになっている。第2金型32bには、脱型時に成形品を第2金型32bから離型させるための押出ピン32cが設けられている。また、金型32には、金型本体の温度を調節可能な温調手段としての温調機37が付設されている。温調機37としては、前述の実施態様同様、熱媒循環方式、電気ヒータ方式のいずれも使用可能である。また、前述の実施態様同様、温調機37は、熱可塑性樹脂が流動可能な温度より低い温度に金型32を制御可能な冷却手段としての機能も有している。
【0042】
金型内面形成部材33は、本実施態様では、互いに異なる複数箇所に設けられており、周囲の金型内面に対し段差が生じないように各装着孔38内に強固に固着されている。また、本実施態様では、金型内面形成部材33を構成するマイクロ波を透過可能な材料としてセラミックが用いられている。ただし、マイクロ波を透過可能でかつ溶融樹脂に対して高い耐熱性と十分な離型性を有していれば、他の材料の使用も可能である。
【0043】
マイクロ波照射手段34は、本実施態様では、目標とする出力で複数のマイクロ波を発振可能なマイクロ波発振器39、該マイクロ波発振器39で発振されたマイクロ波を伝送する複数のケーブル40、該ケーブル40に接続され各金型内面形成部材33に近接させて各装着孔38内に設けられた複数のマイクロ波照射アンテナ41を備えている。図示例では、複数のマイクロ波照射アンテナ41は図示の断面内に設けられた形態で例示されているが、図の紙面と垂直の方向に沿って複数配置されていてもよい。マイクロ波発振器39は、いわゆるマグネトロンと呼ばれる高周波発生器からなり、発生されるマイクロ波の周波数は例えば0.902~24.25GHzであるが、この周波数は、使用する樹脂の種類等に応じて、適宜選択あるいは制御可能である。複数のマイクロ波照射アンテナ41から照射されるマイクロ波は、各金型内面形成部材33を透過させて、後述の如く少なくとも金型32内で流動中の樹脂に照射される。このようなマイクロ波照射手段34においては、金型内面形成部材33が互いに異なる複数箇所に設けられており、該複数個所は、金型32内の任意の位置と金型32内の任意の位置における任意の時間での樹脂の温度とに応じて選択された所定の位置にそれぞれ設けられ、複数のマイクロ波照射アンテナ41毎にまたは該マイクロ波照射アンテナ41の群毎に、マイクロ波発振器39から伝送されるマイクロ波の出力と照射する時間を制御可能な制御手段42が設けられていてもよい。
【0044】
本実施態様においては、第1金型32aと第2金型32bで形成される金型32のキャビティ内に、射出成形機43で加熱溶融された樹脂を射出できるようになっている。射出成形機43としては、周知の一般的なものを使用できる。
【0045】
上記のような射出成形装置31を用いて、本発明に係る成形方法は、例えば次のように実施される。
本実施態様では、まず、
図9の射出工程に示すように、射出成形機43から加熱溶融された溶融樹脂51が、第1金型32aと第2金型32bで所定の形状に形成された金型32のキャビティ52内に向けて射出される。次いで、
図10のマイクロ波照射開始工程に示すように、溶融樹脂51がある程度キャビティ52内に充填された段階から、マイクロ波発振器39からのマイクロ波が、各ケーブル40を介して各マイクロ波照射アンテナ41に伝送され、各マイクロ波照射アンテナ41から各金型内面形成部材33を透過させて金型32内で流動中の溶融樹脂51に照射される。溶融樹脂51の流動に伴って流動中の溶融樹脂51の温度は降下しようとするが、この溶融樹脂51の温度降下速度が、流動中の溶融樹脂51にマイクロ波を照射することにより低下され、流動中の溶融樹脂51の温度が金型32内での流動により適した温度に制御される。したがって、金型32内での溶融樹脂51の流動が助勢され、つまり、望ましい流動を行わせるためにより適切な状態とされ、溶融樹脂51の流動が最適な状態に制御されることになる。この溶融樹脂51の流動の助勢が、
図11に示す射出完了工程まで続けられ、溶融樹脂51は、成形すべき形状、つまり、キャビティ52(
図10)の形状の全域にわたって望ましい状態で流動される。したがって、従来技術で問題であった、目標とする成形形状に成形するための特別な設計上の配慮を行う必要がなくなり、細部まで良好に樹脂を流動させることが可能になって、成形品の形状設計についての自由度を大幅に拡大することができる。また、細部まで隈なく良好に樹脂を流動させることが可能になることにより、成形品各部の物性の均一化をはかることも可能になる。なお、上記のように金型32内の溶融樹脂51にマイクロ波を照射する際には、併せて、温調機37により金型32の温度を適宜制御してもよい。
【0046】
上記
図11に示した射出完了工程までに行われた金型32内で流動中の溶融樹脂51へのマイクロ波照射による樹脂流動の助勢により、本発明で目標とした金型内での樹脂流動の制御は実質的に完了する。次に
図12の保圧冷却工程に示すように、金型32を閉じて金型32の圧力を保持した状態としたまま(例えば、射出成形機43による射出圧力を保持したまま)、マイクロ波の照射が停止され、場合によっては金型32の温調も停止されるか繰り返し成形のため相対的に低い温度に温調された状態にて(つまり、熱可塑性樹脂が流動可能な温度より低い温度に金型32を制御可能な冷却手段の機能も有する温調機37によって冷却され)、金型32内で目標とする形状に流動、充填された樹脂が冷却され、目標とする形状の成形品53として固化される。次いで、
図13の離型工程に示すように、金型32が開かれ、目標とする成形形状に成形された成形品53が、押出ピン32cにより押し出されながら、適当な取出機(図示略)を用いて金型32外へと取り出される。
【0047】
なお、前述したように、本発明には、上記のようなプレス成形装置1および方法や射出成形装置31および方法に本発明を適用したものに加え、いわゆる射出圧縮成形装置および方法に本発明を適用したものも含まれる。
【0048】
本発明に係る成形には、樹脂単独の成形に加え、樹脂に機能を付与する前述の如き各種フィラーまたは樹脂の特性を変化させる前述の如き各種フィラーを含む場合も含まれ、また、金型内に、成形される樹脂および該樹脂と一体化される前述の如き各種基材を配する成形も含まれる。これらのうち、
図14、
図15に、成形される樹脂と基材を一体化する成形の場合の一例を示し、前述の実施態様におけるプレス成形装置1を用いた成形の一例を示す。
図14、
図15においては、
図1、
図2.
図7で用いた符号と同一の符号を使用している。
【0049】
例えば、
図14の樹脂材および基材セット工程に示すように、開いた金型2の第2金型2b上の所定位置に、各々所定形状で所定樹脂量の複数の固形状の樹脂材21がセットされるとともに、予め定められた所定の樹脂材21上に、一体化される基材61(例えば、強化繊維で形成された織物基材)がセットされる。この状態から、
図3に示したマイクロ波照射開始工程、
図4に示した加圧加熱溶融工程、
図5に示した加圧加熱完了工程、
図6に示した保圧冷却工程と同様の工程が順次実行される。これらの工程で、金型2内の樹脂にマイクロ波が照射されることにより、とくに流動中の加熱溶融樹脂にマイクロ波が照射されることにより、溶融樹脂が金型2のキャビティ内に望ましい状態で隅々まで流動されるとともに、基材61と一体化され(例えば、強化繊維織物基材に含侵されることにより一体化され)、保圧冷却工程を経て一体化成形品として成形される。基材61と一体化された一体化成形品62は、
図15に示すように、
図7に示したのと同様の取出機24で金型2外に取り出される。前述の実施態様における射出成形装置31を用いる場合においても、同様に基材を予め金型内に配しておくことで、同様に基材との一体化成形が可能である。
【0050】
なお、以上の本発明の実施態様は、本発明の実施の形態を例示したものであって、本発明はこれら実施態様に何ら限定されるものではない。本発明で規定した範囲に含まれる変形例は、全て本発明の範囲に含まれる。
【0051】
また、以上の本発明の実施態様は、主として熱可塑性樹脂を成形する場合について説明したが、本発明は熱硬化性樹脂の成形(例えば、SMC:Sheet Mold Compounding)にも適用可能である。この場合には、金型温度を、熱硬化性樹脂の温度・粘度プロファイルから最も流動性に適した粘度となる温度に調整しておき、樹脂や樹脂基材の投入/プレス~基材流動/充填工程の後、マイクロ波照射による加熱を行い樹脂を硬化させるという成形プロセスが想定される。このような成形プロセスにおいては、金型の温度は、従来の樹脂硬化に必要な温度として設定するのではなく、樹脂の流動性を第1に考慮して設定できることが利点となり、優れた樹脂の流動性により、目標とする望ましい成形を容易に行うことができる。樹脂の硬化に必要な温度は、マイクロ波照射によって達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る成形方法および成形装置は、金型内でより良好な樹脂流動が求められるあらゆる成形に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 プレス成形装置
2、32 金型
2a、32a 第1金型
2b、32b 第2金型
3、33 金型内面形成部材
4、34 マイクロ波照射手段
5、35 固定プラテン
6、36 可動プラテン
7、37 温調機
8、38 装着孔
9、39 マイクロ波発振器
10、40 ケーブル
11、41 マイクロ波照射アンテナ
12、42 制御手段
21 樹脂材
22 流動する樹脂
23、53 成形品
24 取出機
31 射出成形装置
32c 押出ピン
51 溶融樹脂
52 キャビティ
61 基材
62 一体化成形品