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特許7121948帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置、帯板状電極板のしわ発生状況情報取得方法、帯板状電極板のしわ発生状況情報表示装置及びロールプレス装置制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置、帯板状電極板のしわ発生状況情報取得方法、帯板状電極板のしわ発生状況情報表示装置及びロールプレス装置制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220812BHJP
   G01B 11/16 20060101ALI20220812BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
G01B11/16 Z
G01B11/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018149019
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020024861
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000149619
【氏名又は名称】大野ロール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313015214
【氏名又は名称】森 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箭内 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】森 茂
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-100286(JP,A)
【文献】特開平03-249514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
G01B 11/16
G01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄い金属箔表面に活物質を塗布した電池材料となる帯板状電極板、活物質が塗布された塗工部と金属箔からなる未塗工部を帯状に有し、前記帯板状電極板へレーザー発振器からレーザー光線を発射し、基準点から電極板表面までの、一定時間後の距離変化量Aを測定し、前記帯板状電極板がレーザー光線と直角方向に一定時間に移動した長さBを測定して、塗工部と未塗工部のそれぞれの距離変化量A及び前記帯板状電極板の移動した長さBについての測定値データーを取得し、
当該2つの測定値データーから塗工部及び未塗工部の伸び率データーを取得し、当該伸び率データーから塗工部及び未塗工部の伸び差情報を取得すること
を特徴とする帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載された帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置に於いて、距離変化量Aを累積した値を累積値Cとして、該測定値B及び累積値Cを200個から1000個累計し、塗工部及び未塗工部の伸び率λを、λ={(C-B)/B}×100の式により求めることを特徴とする帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置を備えたロールプレス装置制御装置に於いて、該伸び発生状態情報取得装置で、取得された塗工部及び未塗工部の伸び差を少なくなるように制御することを特徴とする帯板状電極板の伸び発生状態情報取得装置を備えたロールプレス装置制御装置
【請求項4】
生産ライン上を移動する薄い金属箔表面に活物質を塗布した電池材料となる帯板状電極板、活物質が塗布された塗工部と金属箔からなる未塗工部を帯状に有し、
帯板状電極板へレーザー発振器からレーザー光線を発射し、基準点から電極板表面までの距離を測定するレーザー変位計によって塗工部と未塗工部のそれぞれの距離変化量Aについての測定値データーが取得され、及びレーザー光線と直角方向に一定時間に移動した帯板状電極板の移動長さBを測定する回転センサーによって帯板状電極板の移動長さBについての測定値データーが取得され、当該2つの測定値データーから伸び差情報が取得され、伸び差情報に基づいてしわ発生状況情報が取得されること
を特徴とする生産ライン上を移動する帯板状電極板のしわ発生状況情報取得方法。
【請求項5】
生産ライン上を移動する薄い金属箔表面に活物質を塗布した電池材料となる帯板状電極板は、活物質が塗布された塗工部と金属箔からなる未塗工部を帯状に有し、
帯板状電極板へレーザー発振器からレーザー光線を発射し、基準点から前記電極板表面までの距離を測定することで塗工部と未塗工部のそれぞれの距離変化量Aについての測定値データーを取得し、及びレーザー光線と直角方向に一定時間に移動した帯板状電極板の移動長さBを測定することで帯板状電極板の移動長さBについての測定値データーを取得し、
当該2つの測定値データーから塗工部及び未塗工部の伸び率データーを取得し、
画面表示器の画面に、横軸を測定した位置にし、縦軸をそれぞれの伸び率データーにして表示し、帯板状電極板のしわ発生状況情報を表示すること
を特徴とする生産ライン上を移動する帯板状電極板のしわ発生状況情報表示装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池に用いる電極板を製造する設備において、電極板表面に生ずるしわを含めた伸び率をレーザー変位計により測定する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、鋼板が圧延機やブライドルロールで伸ばされた伸び率を正確に測定するため圧延機の入側と出側に回転式測長器を取付け、入出側の測定された長さの差から伸び率を求めることが述べられている。
【0003】
特許文献2には、複数の棒状光源からの光が鋼板表面で反射し、反射した光をカメラで撮影し、基準平面板との比較により急峻度を求めることが述べられている。

特許文献3には、厚みが0.4mm以下の冷延鋼板に生ずる微小な鋼板表面の凹凸をレーザー変位計を用いて、詳細に測定することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開 2007-108036
【文献】特開 2011-099821
【文献】特開 2009-243907
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオンなどで出来た二次電池は、アルミや銅等の金属箔の表面に電子を受け渡しする能力を持った活物質を長手方向に塗工して作られている。活物質が塗工された電極板は電池として組み立てられたとき通電端子部となる未塗工部を有している。電極板は幅方向に塗工部と未塗工部を帯状に有しているので、塗工部と未塗工部を同時にプレスロールでプレスすると、塗工部が上下プレス用ロールに挟まれ活物質と金属箔が薄くなり、長手方向により長く延伸する。しかし、未塗工部は厚みが塗工部より薄いので、プレス用ロールに挟まれ、押圧されない。その為、長手方向へ延伸することがないので、電極板は幅方向の帯状に延伸して長くなった部分と延伸せず長さが変わらない部分が同居することで、電極板にしわが発生する。しわの原因となる塗工部と未塗工部で伸び差がどの程度生じているのか、電極板が移動している状態で測定することが困難であった。
【0006】
電極板に使われる未塗工部の金属箔は厚みが20μ、又はそれより薄い板厚のものが用いられているので特許文献1の手段を用いると、このような薄い箔の表面にある重さを有する回転式測長器を載せれば、金属箔の形状は変化してしまう。被測定体の上に測長器を載せることが出来れば、外形表面長さを正確に測定することはできる。しかし、電極板では圧延鋼板とは測定条件が異なり、測長器を使って正確な長さを測定することが出来ない。電極板では非接触式測定器でないと、正確な測定は困難である。
【0007】
特許文献2の手段を用いると、金属箔の部分は棒状光源からの光を反射させることは可能であるが、活物質が塗布された塗工部は活物質が黒に近い色であり、光沢が無いので棒状光源からの光を金属箔の様に反射することが出来ない。光源からの光の反射条件の違いで正確な伸びを測定出来ない。

特許文献3の手段では、薄板鋼板を圧延する設備の中には鋼板の幅方向の張力分布を接触式ロールで測定し、生産された鋼板を定盤上に載せて、鋼板表面の形状をレーザー距離計で測定することが述べられている。薄い鋼板が薄く圧延されながら移動する状態で、鋼板の表面の凹凸をレーザー距離計で伸びを測ることは述べられていない。
【0008】
本発明は、リチウムイオン電池等に用いられる電極板の長手方向の伸び長さを正確に測定するためにレーザー変位計を用いた測定装置と方法を堤供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、具体的には、一方方向へ移動する電極板表面へ一定の位置に配置されたレーザー発信器からレーザー光線を照射して前記電極板表面までの距離を測定する測定方法において、基準点から前記電極板表面の凹凸による距離の変化量を測定値Aとし、変化が生じた時間に前記電極板が移動した長さを測定値Bとして、限りなく短い時間に測定された,AとB二つの該測定値から前記電極板の凹凸を含んだ表面長さを計算値Cとして求め、該測定値Bと該計算値Cを一定量累計し、λ=(C-B)/Bの式により求められたλが前記電極板の伸び率とすることを特徴とする伸び率測定方法を提案する。
【0010】
本発明は上述された電極板の伸び率測定方法において、電極箔に活物質を塗工した塗工部と前記活物質が塗工されていない未塗工部を複数条有する電極板の該塗工部の1個所以上と該未塗工部の1か所以上にレーザー発振器を配置し、前記電極板の移動方向に連続的に前記電極板表面までの距離を前記電極板の移動方向に連続的に測定することを特徴とする電極板伸び率測定方法を提案する。
【0011】
本発明は上述された電極板の伸び率測定方法において、被測定体の前記電極板がガイドロール上を水平に移動する状態で、前記電極板の移動方向に対し垂直にレーザー光線を発信されるよう前記電極板とレーザー発信器を配置し、前記レーザー発振器は1秒間に1000回以上の前記電極板までの距離測定を行い、同時に前記電極板の水平方向の移動距離を測定可能な装置を配置したことを特徴とする電極板伸び率測定装置を提案する。
【0012】
本発明は上述された電極板の伸び率測定方法において、電極板の上下幅方向に複数個レーザー発信機を配置し、前記電極板の幅方向の複数個所で連続的に前記電極板の厚みを測定すると同時に、前記レーザー発振器の測定データーと前記電極板の移動量から前記電極板伸び率λを求め、電極板の幅方向で複数個所同時に伸び率λを測定可能な装置を配置したことを特徴とする電極板伸び率測定装置を提案する。
【0013】
本発明は上述された電極板の伸び率測定方法において、移動する電極板の基準点からのレーザー発振器で測定した位置までの前記電極板の長さと前記レーザー発振器により求められた前記電極板の伸びの状態を示す値を関連付けて記憶する装置を有することを特徴とする電極板伸び率測定装置を提案する。
【発明の効果】
【0014】
電極板の塗工部と未塗工部をロールプレス機で加圧、圧縮した際、金属箔の伸び差が発生する。レーザー光線を電極板の塗工部と未塗工部に照射して塗工部と未塗工部の表面凹凸状態をレーザー光線の反射波から求める。凹凸状態を基準点からの距離の変化値としてデーターにし、この距離の変化データーと電極板の長手方向への移動量から電極板の凹凸を含めた外形長さを計算で求め、この結果から電極板の伸び率λを計算、表示する。求めた伸び率λから電極板のしわの発生状況が数値で分かり、制御に利用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】伸び発生状態情報取得装置の全体システムの例を示す図である。
図2】レーザー変位計を使った測定のフローの例を示す図である。
図3】の発生状態情報取得装置を有するロールプレス設備の全体概要を示す図である。
図4(a)】活物質をストライプ状に塗工した電極板の例を示す図である。
図4(b)】電極板幅方向の断面図である。
図5】金属帯板材の圧延ロールによる圧延状態の一例を示す図である。
図6】電極板に生じたしわの一例を示す平面図である。
図7図6の電極板R,S,T断面図である。
図8】電極板の表面まで距離をレーザー発振器で測定する一例を示す図である。
図9】移動する電極板表面の凹凸をレーザー発振器で測定する一例を示す図である。
図10】電極板表面の移動長さXとレーザー発振器測定値Yから計算する方法を説明する図である。
図11】電極板伸び率λを画面で表示する例を示す図である。
図12】未塗工部圧延装置をロールプレス機内に備えた一例を示す図である。
図13】未塗工部圧延装置の一実施例を示す図である。
図14(a)】電極板の幅方向の厚みを複数個所で連続的に測定するレーザー発振器を配置した一例を示す傾斜図である。
図14(b)】図14(a)のD-D矢視図である。
図15】電極板をロールプレス機で加圧する状態を示す一例である。
図16(a)】金属帯板材の平坦度の一例を示す図である。
図16(b)】図16(a)のX断面図である。
図17】電極板の伸び率と基準点からの距離との関連付けのフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例のレーザー変位計200を用いた電極板300の伸びの長さ計測する伸び発生状態情報取得装置の全体システムを説明する図である。図2は、レーザー変位計を使った測定のフローの例を示す図である。
【0018】
レーザー変位計200は、レーザー発振器201、演算装置204、回転センサー155を有して構成されている。伸び発生状態情報取得装置1は、レーザー発振器201、回転センサー155から送られる測定データーを演算装置204で演算し、図2に示す様なS1~S7になるフローで測定を行う。詳しくは以下の実施例で説明を行う。
【0019】
図3は、電極板300をプレスするロールプレス設備の全体概要を示す。
【0020】
ロールプレス機100の入側にはリチウムイオン電池用の電極板300がコイル状に巻かれたプレス前のコイルを装着するコイル巻出し機151が設けられ、ロールプレス機100の出側にはロールプレス後の電極板300をコイル状に巻き取るコイル巻き取り機152が設けられている。電極板300をより圧縮し易くするため電極板300を150度程度まで昇温可能な加熱ロール102、巻き取られる電極板300の張力を一定に制御するダンサーロール153、電極板300を支えスムーズに搬送する複数のガイドロール154と電極板300の表面形状をレーザー光線202で測定するレーザー変位計200が配置されている。
【0021】
ロールプレス機100には上下プレスロール101を備え、金属箔301表面に活物質302が塗工された電極板300(図4(b))をプレスロール101の間に挟み、押圧しながら通過させ、活物質302の圧縮加工を行う。ロールプレス機100には上下プレスロール101を保持する軸受箱103とプレス押圧力を支え、外側から軸受箱103を保持するハウジング104が備えられている。
【0022】
図4は、活物質をストライプ状に塗工した電極板300の例を示す図である。
【0023】
図4(a)は、電極板300の平面を示し、図4(b)は、電極板300の幅方向の断面を示す。
【0024】
電極板300は、一例としてリチウムイオン電池のものを例示する。帯状の金属箔301(アルミ箔、銅箔等)の表面に図4に示すように活物質302をストライプ状に塗工する。未塗工部301は電池に組み立てられる過程で通電端子部になるので活物質302は塗工されず、金属箔301が露出している。図4(b)に示す電極板300の断面図では厚みを持って記載してあるが、金属箔301の厚みは10から20ミクロン程度であり、塗工部302の厚みは上下の活物質と金属箔301の厚み全体でプレス前は200から250ミクロンである。電極板300を上下プレスロール101によりロールプレスすると、塗工部302は活物質が圧縮され100から140ミクロン程度に薄くなる。未塗工部301a,301bは上下プレスロール101と接触せず、プレス荷重がかからないので延伸しない。
【0025】
図5は、金属帯板材の圧延ロールによる圧延状態の一例を示す図である。
【0026】
通常、金属の薄い帯板材500(以下金属帯板材と言う)を圧延しても伸びの差から生ずる表面凹凸が課題となり、急峻度という手段を使い平坦度を評価している。電極板300では塗工部302と未塗工部301の厚みの違いで、プレスされる部分とプレスされない部分が生じ、大きな伸びの差が発生する。電極板300表面には金属帯板材とは異なった表面凹凸が発生する。以下、金属帯板材の圧延と電極板300のロールプレスの違いについて詳しく述べる。
【0027】
図15は、電極板をロールプレス機で加圧する状態を示す一例である。
【0028】
図16(a)は、金属帯板材の平坦度の一例を示す図である。
【0029】
図16(b)は、図16(a)の断面図である。
【0030】
金属帯板材の場合には、図5に示す様に、上下円筒形状の圧延ロール501で金属帯板材500の幅方向に均一な圧延力(線圧)が被圧延材に発生するように、圧延ロール501間の押圧力を制御する。しかし、均一な圧延力を幅方向に付与しても、ロールの軸方向の温度差により発生するロール径の変化や圧延力で発生するロール軸のたわみなど微妙な条件の違いにより、被圧延材の中央部、又は端部に伸び差が発生し、その伸び差が表面凹凸となって現れる。圧延に於いては、平坦度を比較する手段として、図16に示すように、鋼板の長手方向での表面凹凸を測定し、凹凸の山と谷からピッチ(P)あたりの山高さ(H)を算出し急峻度を求める方法が用いられる。急峻度=H/Pの式で求める。
【0031】
ロール径の変化やたわみ量の変化などは圧延時間などの条件変化により徐々に発生する。
【0032】
金属帯板材の圧延後の表面凹凸はある長さ(100m以上)山と山のピッチがほぼ同じで、山の高さも同じ状態が続く。金属帯板材の表面凹凸の大小は急峻度で評価出来る。山と山のピッチも板厚に影響されるが、金属帯板材の厚さが0.3mmでは山と山のピッチは300から600mmとなる。その為、表面凹凸形状を10mm程度の測定間隔で測っても、急峻度の測定精度には大きな影響を与えない。
【0033】
図15に示す様に、電極板300をロールプレス機100でプレスする場合、電極板300の塗工部302は帯板材と同じように均一な圧延力(線圧)が発生するよう上下プレスロール101間の押圧力が制御され、プレス後は長手方向に伸びが発生する。しかし、未塗工部301の部分は全く上下プレスロール101と接触しないので、圧延による伸びが発生しない。その為、塗工部302と未塗工部301の境に大きな伸び差が発生する。
【0034】
図6は、電極板に生じたしわの一例を示す平面図である。
【0035】
図6に示す様に、大きな伸び差が原因となり、塗工部302と未塗工部301で異なった表面凹凸、しわが発生する。金属帯板材500と電極板300の表面凹凸が発生する原因とは大きく異なる。
【0036】
更に、電極板300の塗工部302は金属箔301表面の上下に活物質を貼り合わせているので、3層構造(サンドイッチ構造)になっている。電極板300に同じ伸び差が発生しても表面凹凸はサインウエーブの様な均一な波形ではなく、活物質の硬さや乾燥条件の違いで不均一な波形になる。このような違いがあるので、電極板300では金属帯板材500の圧延で伸び状態(平坦度)を評価する時に用いた急峻度の考えを使うことが出来ない。
【0037】
図7は、図6の電極板R,S,T断面図である。
【0038】
図7に塗工部302と未塗工部301で表面凹凸形状が大きく違ってくることを電極板300のR断面、S断面、T断面を代表的断面形状として表示する。
【0039】
この様に、電極板300は未塗工部301の影響で幅方向の位置で表面凹凸形状の違いが発生する。その為、電極板300の表面凹凸の大小を判断する手段として、ロールプレスにより発生した表面外形長さを正確に測定、演算により求め、表面凹凸形状に影響されず実際に電極板が伸びた長さで表面凹凸の大小を評価する手段が適している。
【0040】
その際、未塗工部の金属箔301は厚みが薄く、柔らかいので表面凹凸のピッチが6~10mm程度と塗工部と比較しても短い。金属帯板材などと比較すると山と山のピッチが概略1/50程度になる。異なる表面凹凸形状を有する電極板300表面外形長さを、移動する状態で正確に測定する手段について以下述べる。
【0041】
電極板300はロールプレス機100でプレスされた後、図3に示す様にガイドロール154で保持されながら、水平に移動する。ガイドロール154に密着して電極板300が水平に移動するので、ガイドロール154の回転数などから電極板300の移動速度を測定する。更に、電極板300が一定の張力を与えられた状態で移動するように電極板300の張力を制御するダンサーロール153が機能し、電極板300はガイドロール154間で振動などの無い状態で移動する。
【0042】
図8は、電極板の表面まで距離をレーザー発振器で測定する例を示す図である。
【0043】
レーザー発振器201は電極板300の移動方向に対して垂直にレーザー光線202が照射される位置に取り付ける。レーザー発振器201から発射したレーザー光線202は電極板300で反射し、再度レーザー発振器201で受信する。レーザー発振器201が固定された位置が基準位置203となる。図8に示す様に、レーザー発振器201から照射されたレーザー光線202が電極板300の表面で反射するまでの距離Y1が測定される。
【0044】
電極板300は一定の速度で入側から出側に移動するので、図8の様に、電極板300の移動に従い、レーザー発振器から照射されたレーザー光線201は電極板300表面に当たり高速で反射し、基準位置203から電極板300の凹凸のある表面までの距離をY2、Y3、Y4と電極板がXだけ水平に移動するごとに連続的に測定する。
【0045】
図9は、移動する電極板表面の凹凸をレーザー発振器で測定する例を示す図である。
【0046】
図9は、図8の動きをより分かり易くするため、電極板300が固定され、レーザー発振器201が基準位置203の位置を水平に移動したと仮定して表示している。
【0047】
図10は、電極板表面の移動長さXとレーザー発振器測定値Yから計算する方法を説明する図である。
【0048】
図10において、レーザー発振器201による基準点203から電極板300表面までの距離測定値(Y)と電極板300の水平方向の移動量(X)から、凹凸を持つ電極板300表面の外形長さを計算により求める方法について述べる。電極板300が水平方向にXだけ移動した時、距離測定値Y1がY2に変化した場合、電極板300の凹凸変化量はY1-Y2である。この時の電極板300の外形の曲線を直線に仮定することで、直角三角形の長辺の長さ(C)が電極板300の凹凸の外形長さとなる。よって、辺の長さC1はピタゴラスの定理によって式1により計算される。

式1
【0049】
実際の外形曲線と計算により求めた近似外形長さの偏差を少なくするには、Yを測定する時間を限り無く短くし、Xの移動量を極めて小さくし、分割する数を増やせば、辺の長さと実際の外形長さとの偏差は0に限りなく近づいて行く。
【0050】
120m/分で移動する電極板300の場合、移動量Xが1mm毎に変化量Y測定するためには、毎秒2m移動するので、毎秒2000回のレーザー発振器201による測定と演算が必要になる。このような高速の測定と演算が可能なレーザー変位計200を配置する必要がある。又は、より高精度に測定が必要な場合は、電極板300の移動速度を下げることで、実際の外形長さと計算値の偏差を限り無く0に近づけることが出来る。
【0051】
次に、移動量Xが1mm毎に変化量Yを計測する必要性について述べる。電極板300に用いられる金属箔301の素材は薄く、アルミ箔や銅箔などを用いるので鋼板より凹凸の周期長さが極端に短くなる。電極板300の未塗工部301に使われる20ミクロン厚みのアルミ箔では表面凹凸のピッチが6~10mm程度になる。
【0052】
また、一般社団法人 日本伸銅協会技術標準で定められた「銅及び銅合金の板状の平坦度測定方法」では以下の様に規定している。対象とする銅材は厚さ50ミクロンから500ミクロンで幅が15mmから700mmまでを対象としている。この薄い銅板を切り出して500mm以上の測定台へ配置し、レーザー変位計200を用いて表示する凹凸形状の変化量を1ミクロン単位に測定することを求めている。同時に、長手方向は1mm毎に測定することを求めている。
【0053】
この様に、箔状の薄い金属の表示する凹凸形状を正確に測定し、伸び量を求めるには、長手方向に1mmごとに高さ方向の変化をデーター化する必要がある。日本伸銅協会では図16に示す様に、切り出したサンプル材から凹凸の高さの差(H)とピッチ(P)を求め、急峻度で伸びの状態を表している。
【0054】
ロールプレス機では生産しながら、電極板300伸びの状態を把握する必要があり、切り出して測定した時と同じ条件で伸び長さを測定出来る様、長手方向に1mm毎に電極板300表面凹凸の高さの変化を測る必要がある。電極板300が高速で移動する場合、120m/分になるので、1mmピッチで基準からの電極板300表面までの距離を測定するには、レーザー変位計200で毎秒2000回の距離計測を行い、演算する必要がある。低速の場合、電極板300の移動速度は60m/分程度となるので、1mmピッチで同様に測定するには、毎秒1000回の距離測定が必要となる。
【0055】
急峻度で伸び状態を表示する方法は表示する凹凸形状が同じ状態で続くことを仮定している。電極板300は活物質302が両面に貼り合わされており、表示する凹凸形状が同じ状態で続くことを仮定するのは難しい。その為、上記で述べた様に、表示する凹凸形状のある外形長さを算出する方法を用い、電極板300の伸び長さを求め数値化する。
【0056】
演算装置204で式1により演算されたC1、C2、C3、C4をn個加算した累計値がCとなる。求められたC値が表示する凹凸形状を含んだ外形長さになる。電極板300が移動した距離B=n×Xとして求めれば移動距離Bが求まる。伸びが大きいと外形長さが長くなるのでC値は大きくなり、伸びがなければ、外形長さC値と移動長さB値は同じになる。電極板300の伸び率λは式2により求められる。伸び率λは基準長さBに対する伸びの比を表す。

式2
【0057】
伸び率λの値が0%に近いほど、電極板300の凹凸が少ない。伸び差のない電極板300であると判断できる。伸び差の発生状態を比較する場合、実際の凹凸を含めた伸び長さC-Bを移動長さBで割ることで、単位長さ当たりの伸び率λとして求めることが出来る。複数個のλを幅方向で比較することで、電極板300の全体的な伸び差(しわ)の状況を評価できる。長手方向のどの場所でもλ値を比較すれば同じ条件で、伸び差(しわ)の発生状態を評価できる。このように電極板300に発生するしわ発生状況情報を取得することができる。
【0058】
電極板300は幅方向に活物質302が塗工された塗工部302と塗工されていない未塗工部301が帯状になっていて、プレスロール101の押圧力で塗工部302の部分の電極板300の金属箔301のみが伸ばされる。塗工部302と未塗工部301に発生した伸び差の大きさを伸び率λで比較するためには、図8に示す様なレーザー発振器201を塗工部302の少なくとも1個所に配置する。幅方向の同じ位置にある未塗工部301にも少なくとも1個所にレーザー発振器201を配置する。特に塗工部302と未塗工部301の境界線付近により多くの伸び差(しわ)が発生ずるので、境界線付近の電極板300の塗工部302と未塗工部301それぞれにレーザー発振器201を配置し、伸び率λを求め表示する。
【0059】
求められた電極板300の塗工部302と未塗工部301それぞれの伸び率λを使って、伸び差(しわ)が塗工部302と未塗工部301のどちら側に発生しているか判断する。判断基準は伸び率λが大きい数値の方に伸び差(しわ)がより発生している。電極板300の伸びを制御する設備があるロールプレス機100においては制御機能を使って、伸び率λがより小さくなるよう制御を行う。
【0060】
塗工部302と未塗工部301の伸び差(しわ)を減らす具体的手段について次に述べる。電極板300の塗工部302と未塗工部301は境界線に沿って大きな伸び差が発生するので、金属板の圧延の様に広い範囲に発生する場合と異なった制御手段が必要になる。
【0061】
図12は、未塗工部圧延装置をロールプレス機内に備えた例を示す図である。
【0062】
図13は、未塗工部圧延装置の一実施例を示す図である。
【0063】
具体的な事例として図12図13を用いて説明する。
【0064】
プレスロール101の入側に未塗工部301の金属箔だけを圧延で伸ばすことの出来る未塗工部圧延装置400を配置する。未塗工部圧延装置400はロールプレス機100内に配置され、円筒形状の上ロール401と未塗工部301だけを押圧可能な様、ロール軸方向に径差を有する下ロール402と下ロール402を保持する軸受404、未塗工部301を上下ロール401,402で挟み、目的の押圧力を発生させる押上げ機403より構成されている。
【0065】
電極板300の塗工部302と未塗工部301で伸び差が発生すると、伸び差が少なくなる様に押上げ機403の力を制御し、上下ロール401,402間の押圧力を調整する。伸び差が目的の範囲に減少したら、上下ロール401,402間の押圧力を一定になるよう制御する。実施例では上下二本のロールを配置して未塗工部301を圧延する機構としたが、この機構に限定されず、未塗工部301だけを押圧可能な径差を持つロールとロール間の押圧力を制御可能な機構を持つことで、塗工部302と未塗工部301の伸び差の修正を可能とする。電極板300の塗工部302と未塗工部301の伸び差を減少させる手段は、上記手段に限定されない。
図1図2を用いて、レーザー変位計200の全体システムと測定フローを説明する。プレスロール101の回転で電極板300がガイドロール154上を移動し、プレスロール101の出側に設けられたレーザー発振器201により測定された測定データーYはシーケンサーなどの演算装置204に送られる。ガイドロール154に取り付けられた回転センサー155からのパルスを演算装置204に送り、式1で必要となる移動量Xをガイドロール154の径と回転センサー155の回転角度から求める。送られてきたXとYデーターから演算装置204で高速演算し、求められた伸び率λを画面表示器205に表示する。短い演算フローであるが、外形長さを正確に求めるため、1秒間に1000回から2000回測定し、瞬時に演算表示することが必要になる。移動量Xの測定方法は回転センサー155に限定されるものではない。
【0066】
更に、レーザー発振器201で測定した位置を基準点からの距離として記憶出来るよう電極板300の長手方向に基準点を設ける。具体的には電極板300に開口部を設け、開口部を通過した光を認識する光センサー155などを配置する。開口部が通過した時、光センサー156から演算装置204へ信号を送り、基準点として認識する。ガイドロール154に取り付けられた回転センサー155で電極板300が基準点からの距離を演算し、電極板300の長手方向の位置を認識する。基準点の認識方法は開口部を通過する光認識に限定されず、先行電極板300と後方電極板300の接続点を基準点とすることも可能である。上記方法で測定した電極板300の伸び率λを基準点からの長手方向の距離を関係付けてデーターとして演算装置204の記憶装置などに記憶させる。図17に示す様に、S1からS8になるフローにより電極板300の長手方向位置と、伸び率データーが関連付けて演算装置204に記録される。
【0067】
次工程で品質の問題が生じた時などは、電極板300の伸び率データーを活用することが可能となる。記憶される伸び率は式2で演算されたλに限定されるものではなく、図16に示す様な伸びにより生ずる山の高さ(H)を伸び値として演算装置204に記憶させることも可能である。
【0068】
図11は、電極板伸び率λを表示画面で表示する例を示す図である。
幅広の塗工部302を持つ電極板300のロールプレス作業を行う時、塗工部302全幅とて未塗工部301にレーザー発振器201を配置して伸び率λをそれぞれ測定、演算し電極板300幅方向の伸び状態を作業者が容易に判断出来るよう、図11の様な表示を画面表示器205に表示する。測定した位置を横軸に表示し、伸び率λを縦軸して測定結果を表示する。電極板300の幅方向の伸び率λから伸び差(しわ)の発生状態が一目で判断することが可能となる。画面表示器205は電極板300が移動し、次々と変化する伸び率λを連続的に表示可能とする。
【0069】
上記説明ではロールプレス設備の中で電極板300の表面の凹凸を含んだ外形長さを求め、基準の長さから伸び率λを計算し、表示することが述べられている。この測定装置と方法はロールプレス設備に限定されず、ロールプレス設備の上流にある活物質塗工装置や乾燥装置の中でも、ロールプレス設備と同じ様に、金属箔301に活物質302を塗布し、乾燥させるので熱等により伸び差が発生しやすい。電極板300に発生した伸び差の状態を伸び率λで表示可能な伸び発生状態情報取得装置及び方法は有効である。
【0070】
図14(a)は、電極板の幅方向の厚みを複数個所で連続的に測定するレーザー発振器を配置した例を示す傾斜図。
【0071】
図14(b)は、図14(a)の正面図である。
【0072】
電極板300の厚み測定と伸び率λ測定を同時に行うことも可能である。図14(a)に示す様に、電極板300の幅方向の厚みをレーザー変位計200で測定する板厚計がある。この板厚計には電極板300の上下にレーザー発振器201を配置し、図14(b)に示す様に、上下のレーザー光線202が一直線になる様、調整する。上下の基準位置203の2倍の距離から上下レーザー発振器201が測定した電極板300までの距離Yを引いた残りが電極板300の厚みとなる。電極板300の幅方向に複数個のレーザー発振器201を上下に配置すれば、電極板300の幅方向の厚み差も同時に測定できる。この厚み測定方法はすでに実施されている。更にこのレーザー発振器201からの距離データーY変化量と、上記で述べた電極板300の移動方向の移動長さXを加味して、電極板300の外周長さCを求め、基準移動量Bから長手方向の伸び率λも幅方向で複数点連続的に測定が可能となる。

【符号の説明】
【0073】
1…伸び発生状態情報取得装置、100…ロールプレス機、101…プレスロール、102…加熱ロール、104…ハウジング、151…コイル巻出し機、152…コイル巻出し機、153…ダンサーロール、154…ガイドロール、155…回転センサー、156…光センサー、200…レーザー変位計、201…レーザー発振器、202…レーザー光線、203…基準位置、204…演算装置、205…画面表示器、300…電極板、301…金属箔(未塗工部)、302…活物質(塗工部)400…未塗工部圧延装置、401…上ロール、402…下ロール、403…押上げ機 500…金属帯板材 501…圧延ロール
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14(a)】
図14(b)】
図15
図16(a)】
図16(b)】
図17