(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】鉛玉シート、鉛玉シートの製造方法、鉛玉シートの設置方法
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20220812BHJP
G21F 1/08 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
G21F3/00 Z
G21F1/08
G21F3/00 L
(21)【出願番号】P 2018076297
(22)【出願日】2018-04-11
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】304035908
【氏名又は名称】株式会社アールエフ
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】丸山 次郎
(72)【発明者】
【氏名】駒村 千弘
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-113999(JP,U)
【文献】特開2017-083395(JP,A)
【文献】特開平02-302697(JP,A)
【文献】特開2018-066646(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0206608(US,A1)
【文献】実開平05-002100(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 3/00
G21F 1/08- 1/12
G21F 7/00
A61N 5/10
A61B 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合する中実の複数の鉛玉により形成され、端部に段差部を有することを特徴とする鉛玉シート。
【請求項2】
型に中実の複数の鉛玉を入れ、
前記型内に接着剤を入れて前記接着剤により前記複数の鉛玉を互いに接合し、前記複数の鉛玉により鉛玉シートを形成し、
前記鉛玉シートを前記型から取り出すことを特徴とする鉛玉シートの製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の鉛玉シートの製造方法において、内面の開口端部に型側段差部を有する前記型により、前記鉛玉シートの端部にシート側段差部を形成することを特徴とする鉛玉シートの製造方法。
【請求項4】
互いに接合する中実の複数の鉛玉により形成されて端部に段差部を有する鉛玉シートを、前記段差部によって隣接する壁部間の隙間を覆う姿勢で前記壁部上に設置することを特徴とする鉛玉シートの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の遮蔽技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の目的で放射線を射出する放射線装置がある。放射線装置としては、病変の画像診断のために患者にX線を照射するX線撮影装置や、患部の治療のために患部へX線やガンマ線を照射する放射線治療装置、試料の原子構造をX線回折により解析するために試料にX線を照射するX線回折装置等がある。
【0003】
放射線装置が設置される放射線装置室では、放射線を室内で遮蔽する必要がある。放射線の遮蔽方法としては、室内に鉛板を設け、鉛板により放射線を遮蔽する方法がある。
【0004】
また、他の放射線の遮蔽方法として、特許文献1には、原子炉圧力容器の周囲に円筒状の遮蔽壁を設けるとともに、遮蔽壁の内部に放射線吸収素材からなる遮蔽部材を充填し、遮蔽部材により放射線を遮蔽する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、鉛板21,22を用いる放射線の遮蔽方法を説明するための斜視図である。
放射線の遮蔽方法として鉛板21,22を用いる場合、鉛板21,22の合わせ目に隙間23ができてしまう。そこで、隙間23からの放射線の漏洩を防ぐため、隙間23を覆う鉛板100を鉛板21,22上に設置する必要がある。
【0007】
放射線装置室内において隙間23は複数個所に生じるところ、各隙間23の放射線の要求遮蔽量は異なり、各隙間23で必要な鉛板100の厚みは異なる。鉛板100の厚みの調整は、鉛板100が設置される隙間23の放射線の要求遮蔽量に応じて、所定の厚みの鉛板100A~100Cを積層させることで行われる。
【0008】
具合的には、基材となる鉛板100A上において、隙間23を覆う領域(
図1の場合、鉛板100Aの左端側の領域)に、放射線の要求遮蔽量に応じて必要数の鉛板100B,100Cを貼り付けて積層させる。
【0009】
この方法では、各隙間23に対応する鉛板100毎に、必要数の鉛板100B,100Cを貼り付けて鉛板100の厚みを調整する必要があるため、鉛板100の生産に手間がかかるという問題があった。
【0010】
図2は、鉛板21,22を用いる他の放射線の遮蔽方法を説明するための斜視図である。
隙間23毎に鉛板100の厚みを調整する手間を省くため、全ての隙間23に対応可能な厚みのある鉛板110を各隙間23で使用する方法もある。
【0011】
この方法では、鉛板110における隙間23を覆わない領域(
図2の右側の領域)が厚くなるうえ、そもそも各隙間23で、放射線の要求遮蔽量に対して鉛板110の厚みが必要以上の厚みとなる。従って、この方法では、鉛板110の重量が必要以上に大きくなり、運搬や生産において大きなデメリットがある。
【0012】
特許文献1の放射線の遮蔽方法は、遮蔽壁の制作コストが高く、また現場での制作に時間がかかるという問題がある。
【0013】
本発明は、放射線を遮蔽することが可能で、かつ汎用性の高い放射線の遮蔽部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の鉛玉シートは、互いに接合する中実の複数の鉛玉により形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の鉛玉シートは、鉛玉を接合して形成するので、任意の形に形成できるとともに、鉛板に比べて軽量化を図ることができる。本発明の鉛玉シートは、鉛玉が中実であるので、鉛玉が中空の場合に比べ、厚みあたりの放射線の遮蔽能力を高くでき、厚みを薄くできる。すなわち、本発明の鉛玉シートは、薄くかつ軽くでき、運搬性や設置の際の施工性を良好にできるとともに、鉛の使用量を必要最小限にできる。
本発明の鉛玉シートを、従来の鉛板に代えて遮蔽部材として利用する場合、例えば平面視L字状に形成することで、従来鉛板を設置する場合に入隅に生じる合わせ目を無くすことができる。また、本発明の鉛玉シートは、現場に搬送して直ぐに設置できるので、遮蔽壁を形成して内部に遮蔽部材を充填する特許文献1に比べ、設置コストを低減できる。
本発明の鉛玉シートを、鉛板等の遮蔽部材の合わせ目を覆うために利用する場合、合わせ目を覆う部分のみを厚くした形状にすることで、必要最小限の鉛の使用量で薄くかつ軽くでき、運搬性や設置の際の施工性を良好にできる。
本発明の鉛玉シートは、例えば鉛玉を型に入れて接着剤で接合するだけで任意の形状に形成でき、生産性が良好である。
【0016】
本発明の鉛玉シートでは、端部に段差部を有することが好ましい。
【0017】
本発明の鉛玉シートは、鉛板等の遮蔽部材の合わせ目を覆うために利用できるところ、遮蔽部材の合わせ目を覆うのに必要な厚みを段差部により形成できるので、必要最小限の体積にできる。そして、本発明の鉛玉シートでは、型を利用して形成する際に、端部に段差部を設けるので、型から鉛玉シートを外しやすくできる。
【0018】
本発明の鉛玉シートの製造方法は、型に中実の複数の鉛玉を入れ、前記型内に接着剤を入れて前記接着剤により前記複数の鉛玉を互いに接合し、前記複数の鉛玉により鉛玉シートを形成し、前記鉛玉シートを前記型から取り出すことを特徴とする。
【0019】
本発明では、鉛玉を型に入れて接着剤で接合するだけで、鉛玉シートを任意の形状に形成でき、鉛玉シートの生産性を良好にできる。生産した鉛玉シートは、前述の鉛玉シートの発明と同様の作用・効果を奏する。
【0020】
本発明の鉛玉シートの製造方法では、内面の開口端部に型側段差部を有する前記型により、前記鉛玉シートの端部にシート側段差部を形成することが好ましい。
【0021】
本発明により生産する鉛玉シートは、遮蔽部材の合わせ目を覆うために利用できるところ、遮蔽部材の合わせ目を覆うのに必要な厚みを段差部により形成できるので、必要最小限の体積にできる。本発明では、鉛玉シートの端部に段差部を設けるので、型から鉛玉シートを外しやすくできる。
【0022】
本発明の鉛玉シートの設置方法では、互いに接合する中実の複数の鉛玉により形成されて端部に段差部を有する鉛玉シートを、前記段差部によって隣接する壁部間の隙間を覆う姿勢で前記壁部上に設置することを特徴とする。
【0023】
本発明では、必要最小限の鉛の使用量で薄くかつ軽く形成された鉛玉シートを用いて壁部間の隙間を塞ぐので、鉛玉シートの設置の際の施工性を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】鉛板を用いる従来の放射線の遮蔽方法を説明するための斜視図である。
【
図2】鉛板を用いる従来の他の放射線の遮蔽方法を説明するための斜視図である。
【
図3】本実施形態における鉛玉シートの概略を示す斜視図である。
【
図4】鉛板の隙間を覆うための鉛玉シートの斜視図である。
【
図5】鉛玉シートの設置例を説明するための斜視図である。
【
図8】型から取り出した鉛玉シートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図3は、鉛玉シート1Aの概略を示す斜視図である。
鉛玉シート1Aは、X線、ガンマ線、ベータ線等の放射線の遮蔽部材として利用できる。鉛玉シート1Aは、互いに接着剤により接合する複数の鉛玉10により形成される。鉛玉シート1Aは、任意の形状に形成できる。鉛玉シート1Aは、略均一な厚みのシート状に形成される。鉛玉10は、中実であり、直径は0.1~0.5mmの範囲内が好ましい。
【0026】
本実施形態の鉛玉シート1Aは、鉛玉10を接合して形成するので、鉛板に比べて軽量化を図ることができる。
本実施形態の鉛玉シート1Aは、鉛玉10が中実であるので、鉛玉10が中空の場合に比べ、厚みあたりの放射線の遮蔽能力を高くでき、鉛玉シート1Aの厚みを薄くできる。すなわち、本実施形態の鉛玉シート1Aは、薄くかつ軽くでき、運搬性や設置の際の施工性を良好にできる。
【0027】
図4は、鉛玉シート1Bの斜視図である。
図4では、鉛玉シート1Bの端部形状を示すために、鉛玉シート1Bの外郭線を直線にして描いている。
鉛玉シート1Bは、鉛板21,22の隙間23(
図5参照)を覆うために用いられる。
鉛玉シート1Bの一面11(
図4の右側の面)は、平面状に形成される。鉛玉シート1の他面12(
図4の左側の面)は、平面状に形成されるとともに、面内の一方向(
図4の上下方向)における端部(
図4の上端部)には、他面12から突出する段差部13が形成される。段差部13は、鉛玉シート1Bの端に向かうに従って高くなる段形状である。段差部13により、鉛玉シート1Bの端部に厚みがつけられている。段差部13は、3段以上でもよい。段差の大きさおよび各段の上記一方向の長さは適宜に設定できる。段差部13は1段でもよい、すなわち、段差部13の代わりに、単に他面12から突出する突出部が形成されていてもよい。
【0028】
図5は、鉛玉シート1Bの設置例を説明するための斜視図である。
歯科用X線撮影装置等の放射線装置が設置される放射線装置室内において、内壁の内側には、X線等の放射線の遮蔽部材として鉛板21,22が設けられ、室外への放射線の漏洩防止が図られる。互いに直交する姿勢で隣接する鉛板21,22間には、
図5の上下方向に沿って、鉛板21,22の合わせ目である隙間23が生じているものとする。
【0029】
本実施形態では、鉛玉シート1Bを、段差部13によって隙間23を覆う姿勢かつ段差部13の延びる方向が隙間23と平行となる姿勢で、鉛板21上に設置する。段差部13が突出しない側の鉛玉シート1Bの面11を、両面テープや接着剤により鉛板21に貼り付けることが好ましい。鉛玉シート1Bにブラケットを取り付け、該ブラケットを利用して鉛玉シート1Bを鉛板21上に設置してもよい。
【0030】
本実施形態では、段差部13により隙間23部分における放射線の遮蔽を十分に行うことができ、隙間23からの放射線の漏洩を防止できる。
本実施形態では、鉛玉シート1Bを鉛板21,22による入隅に突き当てて鉛板21上に貼るだけで設置でき、鉛玉シート1Bを容易に設置できる。
【0031】
鉛玉シート1Bを製造するには、まず、
図6に示すように、型3Bの開口部に中実の複数の鉛玉10を投入する。型3Bは、一端(
図6の上端)に開口部が形成された箱状である。型3Bの面31は、鉛玉シート1Bの一面11(
図4)に対応しており平面状である。
【0032】
型3Bの面31と対向する面32は、鉛玉シート1Bの他面12(
図4)に対応して全体として平面状に形成され、かつ一端側には、鉛玉シート1Bの段差部13(シート側段差部)に対応する段差部321(型側段差部)が形成されている。段差部321により、型3Bの内部空間が型3Bの開口部に向かうに従って拡がっているので、鉛玉シート1Bの型3Bからの取出しが容易である。
【0033】
型3Bの内面には、シート素材33が貼り付けられている。シート素材33に対し、後述する接着剤は高い剥離性を有する。
【0034】
続いて、
図7に示すように、型3B内に開口部から例えば水溶性の接着剤を型3Bに一杯となるまで投入する。そして、接着剤を乾燥させることにより、接着剤によって複数の鉛玉10を互いに接着接合させる。これにより、型3B内に、複数の鉛玉10により構成される鉛玉シート1Bが形成される。接着剤は、該接着剤を溶かす溶剤が存在するものを利用するものとする。
【0035】
続いて、
図8に示すように、鉛玉シート1Bを型3Bから取り出すことで、鉛玉シート1Bを製造できる。
【0036】
溶かした鉛を型に入れて鉛板を形成する場合、鉛を高温で溶かす必要があり、コストがかかる。本実施形態の鉛玉シート1Bでは、型3Bに鉛玉10をそのまま投入できるので、製造コストを低減でき、また、製造が容易である。
【0037】
鉛玉シート1Bは、複数の鉛玉10によって形成されているので、空隙が多く、鉛の使用量を抑えることができる。また、鉛玉シート1Bは、型3Bによって放射線の遮蔽に必要な領域だけに段差部13を設けることができるので、必要最小限の体積にでき、この点からも、鉛の使用量を抑えることができる。
【0038】
なお、型3Bの内面に袋状のシート素材33を敷き、接着剤乾燥後にシート素材33ごと鉛玉シート1Bを型3Bから取り出し、その後、シート素材33から鉛玉シート1Bを取り出してもよい。
【0039】
鉛玉シート1Bの利用後は、鉛玉シート1B同士を接着する接着剤を溶剤で除去することで、鉛玉10の再利用が可能である。鉛玉10の再利用を図らない場合、接着剤として、該接着剤を溶かす溶剤が存在しないものを利用してもよい。
【0040】
図9は、鉛玉シート1Cの斜視図である。
図9では、個々の鉛玉10の形状の図示を省略し、鉛玉シート1Cの外形のみを描いている。
鉛玉シート1Cは、放射線装置室内に壁状の放射線の遮蔽部材として設けられる。鉛玉シート1Cは、複数の鉛玉10が接着剤により接合されて形成される。鉛玉シート1Cは、互いに直交する壁部21C,22Cを有し、平面視L字状に形成される。
【0041】
鉛板21,22を互いに直交するように設ける場合、鉛板21,22の合わせ目に隙間23が生じ、隙間23を覆う鉛板100,110(
図1、
図2)または鉛玉シート1Bを設置する必要がある。しかし、鉛板21,22に代えて鉛玉シート1Cを設置することで、隙間23が生じず、鉛板100,110または鉛玉シート1Bの設置を不要にできる。
【0042】
図10は、鉛玉シート1Cの型3Cの斜視図である。
鉛玉シート1Cの型3Cは、平面視L字状であり、一端(
図10の上端)が開口する箱状である。型3Cの内面上には不図示のシート素材33が設けられている。鉛玉シート1Cの製造方法は、鉛玉シート1Bと同様、まず、型3Cに鉛玉10および接着剤を投入する。続いて、接着剤を乾燥等により硬化させて鉛玉10同士を接着接合させ、型3C内に鉛玉シート1Cを形成する。その後、型3Cから鉛玉シート1Cを取り出すことで鉛玉シート1Cを製造する。
【0043】
放射線装置室内に設けられる遮蔽部材としての鉛玉シート1Cとして、平面視L字状のものを例示したが、鉛玉シート1Cの形状は、型3Cにより任意の形状に形成でき、平板状であってもよい。
【0044】
前記実施形態において、鉛玉シート1Bの利用例として、互いに垂直に設置される鉛板21,22の合わせ目である隙間23を覆うために利用する例を説明した。しかし、鉛玉シート1Bを、互いに平行な鉛板21,22の合わせ目の隙間23を覆うために利用してもよい。鉛玉シート1Bも、型3Bにより任意の形状に形成できる。
【符号の説明】
【0045】
1A~1C…鉛玉シート、3B,3C…型、10…鉛玉、13…段差部(シート側段差部)、21,22…鉛板(壁部)、321…段差部(型側段差部)。