(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】男性性腺機能低下症治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5025 20060101AFI20220812BHJP
A61P 15/10 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
A61K31/5025
A61P15/10
(21)【出願番号】P 2019175811
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】399015388
【氏名又は名称】学校法人九州文化学園
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏光
(72)【発明者】
【氏名】和田 守正
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-087964(JP,A)
【文献】特表2014-528932(JP,A)
【文献】特表2017-507975(JP,A)
【文献】特表2013-510824(JP,A)
【文献】Oncogene,2012年,Vol.31,pp.1408-1418
【文献】新潟がんセンター病院医誌,2018年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00
A61P 35/00
A61P 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHR-6494を有効成分として含有する男性性腺機能低下症治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、男性性腺機能低下症治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、大腸癌や男性性腺機能低下症は、加齢に伴って発症するリスクが高くなることが知られている。
【0003】
近年においては、特許文献1や特許文献2などに見られるように、大腸癌治療剤や男性性腺機能低下症治療剤に関する研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-163590号公報
【文献】特開2018-199701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、大腸癌や男性性腺機能低下症の治療(抑制)に有効に寄与する成分を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明では、CHR-6494を有効成分として含有する男性性腺機能低下症治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、CHR-6494によって、男性性腺機能低下症を治療(抑制)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】対照マウスと処置マウスの腸ポリープの数を示すグラフ。
【
図2】野生型マウスと処置マウスと対照マウスの体重と精巣重量及び精巣上体重量を示す表。
【
図3】処置マウスと対照マウスの精巣及び副睾丸の組織を示す写真。
【
図4】対照マウスと処置マウスの血中テストステロン値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、CHR-6494が大腸癌や男性性腺機能低下症の治療(抑制)に有効に寄与するか否かについて、家族性大腸腫瘍疾患モデルであるApcMin/+マウスを用いて調べた。
【0011】
ここで、CHR-6494(化学式[C16H16N6]、CAS NO.1333377-65-3)は、HASPIN阻害剤として知られる化学物質である。また、ApcMin/+マウスは、Apc遺伝子のコドン850にナンセンス突然変異を有する家族性大腸癌モデルマウスである。Apc遺伝子は、大腸癌発症の初期段階に関与している家族性大腸ポリポーシスの原因遺伝子である。JacksonLaboratories(米国メイン州Bar Harbor)によって開発されたApcMin/+マウス(C57BL/6J)を用いた。
【0012】
12匹の雄のApcMin/+マウスについて、6匹を処置マウスとし、6匹を対照マウスとした。
【0013】
処置マウスは、10%ジメチルスルホキシド及び20%2-ヒドロキシプロピル-b-シクロデキストリンの溶液(Sigma-Aldrich Japan,東京)で希釈したCHR-6494(Cayman Chemical,米国ミシガン州Ann Arbor)を50mg/kgで約200μL腹腔内に注射処置した(これを、「本処置」という。)。
【0014】
対照マウスは、10%ジメチルスルホキシド及び20%2-ヒドロキシプロピル-b-シクロデキストリンの溶液を200μL腹腔内に注射処置した(これを、「対照処置」という。)。
【0015】
そして、処置マウスには、5週齢の雄のApcMin/+マウスに上記本処置を5日間施した後に未処置で5日間飼育し、さらに、5日間の本処置と5日間の未処置を繰り返し行い、あわせて50日間の処置を行った。
【0016】
一方、対照マウスには、5週齢の雄のApcMin/+マウスに上記対照処置を5日間施した後に未処置で5日間飼育し、さらに、5日間の対照処置と5日間の未処置を繰り返し行い、あわせて50日間の処置を行った。
【0017】
上記の50日間にわたる処置を行い、腸ポリープの数や体重を調べるとともに、精巣及び副睾丸の組織を観察し、血清テストステロン値を測定した。
【0018】
腸ポリープの数は、摘出した小腸の切片を縦方向に切開し、リン酸緩衝食塩水で洗浄し、濾紙上に平らに置き、10%中性緩衝ホルマリン中で24時間固定した後に、1%メチレンブルーで染色し、肉眼及び光学顕微鏡によって調べた。
【0019】
精巣及び副睾丸の組織の観察は、ブアン液で固定した精巣を7μm厚の切片に切断し、シランコートスライドにマウントした後に、スライドを染色して顕微鏡で観察した。
【0020】
血清テストステロン値は、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法によって測定した。
【0021】
なお、データは、平均値±標準偏差で表し、平均は、スチューデントのt検体を用いて比較し、有意差は、P<0.05のレベルで決定した。
【0022】
対照マウスと処置マウスの腸ポリープの数を
図1に示す。
【0023】
対照マウスでは、58.5±17.5であったのに対して、処置マウスでは、24.6±13.8であった。
【0024】
これにより、処置マウスでは、対照マウスよりも有意に少ない数のポリープであることがわかる。
【0025】
野生型マウスと処置マウスと対照マウスの体重と精巣重量及び精巣上体重量を
図2に示す。
【0026】
対照マウスは、悪液質を発症しており、体重が18.8±1.7gであったのに対して、処置マウスは、23.6±4.2gであった。
【0027】
これにより、処置マウスでは、対照マウスよりも有意に体重が回復したことがわかる。
【0028】
処置マウスと対照マウスの精巣及び副睾丸の組織の写真を
図3に示す。
【0029】
対照マウスの精巣及び副睾丸の組織の写真(
図3A、B)から対照マウスが性腺機能低下症を発症していることがわかり、精巣重量が0.04±0.03gで精巣上体重量が0.006±0.0014gであった。
【0030】
これに対して、処置マウスでは、精巣及び副睾丸の組織の写真(
図3C、D)や精巣重量が0.08±0.03gで精巣上体重量が0.0097±0.0012gであることから、対照マウスよりも有意に性腺機能低下症から回復したことがわかる。
【0031】
対照マウスと処置マウスの血中テストステロン値を
図4に示す。
【0032】
対照マウスは、17.0±6.6pg/mLであったのに対して、処置マウスは、144.2±120.0pg/mLであった。
【0033】
これにより、処置マウスでは、対照マウスよりも有意に回復したことがわかる。
【0034】
以上に説明したように、対照マウスすなわちApcMin/+マウスは、加齢に伴って腸ポリープ数が増加し、悪液質を発症し、また、性腺機能低下症を発症したのに対して、処置マウスすなわちCHR-6494を投与したマウスでは、加齢に伴う腸ポリープ数の増加や悪液質及び性腺機能低下症の発症が有意に抑制されていることがわかった。
【0035】
これらのことから、CHR-6494は、大腸癌や男性性腺機能低下症の発症を治療(抑制)する成分として有効に寄与するといえ、大腸癌治療剤(大腸癌抑制剤)や男性性腺機能低下症治療剤(男性性腺機能低下症抑制剤)として有用であるといえる。