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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】単離ナノシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/32 20060101AFI20220812BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C08G65/32
C08J5/18 CEZ
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021502649
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008352
(87)【国際公開番号】W WO2020175679
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019035751
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人 科学技術振興機構 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超薄膜化・強靭化「しなやかなタフポリマー」の実現」委託研究、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】前田 利菜
(72)【発明者】
【氏名】上沼 駿太郎
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222809(JP,A)
【文献】特開2009-292727(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013215(WO,A1)
【文献】第40回日本バイオマテリアル学会大会予稿集,日本,日本バイオマテリアル学会,2018年
【文献】UENUMA, Shuntaro et al.,Formation of Isolated Pseudo-Polyrotaxane Nanosheet Consisting of α-Cyclodextrin and Poly(ethylene,Macromolecules,2019年05月14日,Vol.52,p.3881-3887
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00- 67/04
C08J 5/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートであって、
前記直鎖状分子は、その両端又は両端から1~10個のモノマー単位の範囲水又は水溶液中で電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する、単離ナノシート。
【請求項2】
前記第1の直鎖状分子が、前記第1の直鎖状分子の両端から内側に、前記第1の環状分子が存在しない第1及び第2の領域を有し、該第1及び第2の領域の長さが0.5~100nmである請求項1記載の単離ナノシート。
【請求項3】
前記単離ナノシートが、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るナノシートの単層から成るか、又は前記ナノシートを複数層有して成る請求項1又は2記載の単離ナノシート。
【請求項4】
前記直鎖状分子は、前記第1の直鎖状分子のみから本質的になる請求項1~3のいずれか一項記載の単離ナノシート。
【請求項5】
前記非電離基が、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、ヘンイコシル基、ヘンイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基とそれらの異性体、4-イソプロピルベンゼンスルホニル基、1-オクタンスルホニル基、4-ビフェニルスルホニル基、4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基、電離していないカルボン酸基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~4のいずれか一項記載の単離ナノシート。
【請求項6】
単離ナノシートは、直鎖状分子による包接を受けない第2の環状分子をさらに有する請求項1~5のいずれか一項記載の単離ナノシート。
【請求項7】
第2の環状分子は、その開口部に第1の物質を包接してなる請求項6記載の単離ナノシート。
【請求項8】
単離ナノシートは、第2の環状分子により包接されない第2の物質をさらに有する請求項記載の単離ナノシート。
【請求項9】
単離ナノシートが、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るナノシートを複数層有して成り、該複数層のナノシート間に、前記第2の物質をさらに有する請求項8記載の単離ナノシート。
【請求項10】
第1の環状分子が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる請求項1~9のいずれか一項記載の単離ナノシート。
【請求項11】
単離ナノシートの単層の厚さが100nm以下である請求項1~10のいずれか一項記載の単離ナノシート。
【請求項12】
前記単離ナノシートが、前記第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートであり、
前記単離ナノシートの一部の擬ポリロタキサンが修飾されており、
前記修飾は、前記第1の直鎖状分子の末端への第1の置換基の導入であり、前記第1の置換基は、第1の環状分子が脱離しないように封鎖する作用を有する封鎖基又は電離基の作用を有する基である、請求項1に記載の単離ナノシート。
【請求項13】
前記第1の環状分子が、-OR基、-O-R1-X基、-O-CO-NH-R2基、-O-CO-R3基、-O-Si-R4基、及び-O-CO-O-R5基からなる群から選ばれる非イオン性基を有する請求項1に記載の単離ナノシート。
(式中、
前記Rは炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R1は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基から水素が1つ除かれた基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基から水素が1つ除かれた基、炭素数3~12の環状アルキル基から水素が1つ除かれた基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基から水素が1つ除かれた基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基から水素が1つ除かれた基であり、XはOH、NH 、又はSHであり、
前記R2は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R3は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R4は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R5は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基である。)
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項記載の単離ナノシートを有する材料。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項記載の単離ナノシートを有する製品であって、
ドラッグデリバリ用材料、ヘアケア材、コーティング材料、口腔ケア材料、凝集制御材料、酸素バリア性材料、紫外線防御性材料、臭気防止材料、構造材料、人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム材料、表面改質剤、接着剤、創傷部位癒着防止剤、サプリメント用基剤、保湿剤、又は高機能飲料である製品
【請求項16】
第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートの製造方法であって、
a)両端又は両端から1~10個のモノマー単位の範囲水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する直鎖状分子を準備する工程;
b)第1の環状分子を準備する工程;及び
c)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程;
を有することにより、前記単離ナノシートを得る、上記方法。
【請求項17】
前記c)工程後に、g)得られた単離ナノシートの一部の擬ポリロタキサンを修飾する工程;をさらに有する請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有する単離ナノシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚みが100nm以下であるナノシートは、近年、薬剤、触媒、光学材料、電極、生体材料などへの応用開発が進んでいる。材料としては酸化チタン、窒化ボロン、窒化炭素、グラフェンなどが従来用いられてきた(例えば、非特許文献1~5を参照のこと)が、これら無機材料は不純物が混入しやすく精製が困難である。また、生体安全性や適合性に問題があり、薬剤や生体材料への応用は困難であった。
【0003】
生体適合性を有する有機分子を用いてナノシートを合成する方法もいくつか提案されている。例えば、ポリ乳酸(PLA)やポリジメチルシロキサン(PDMS)などを用いて形成される高分子ナノシートを挙げることができる。これらの高分子ナノシートは、高分子溶液を準備し、該溶液を基板上にスピンコートし、得られたシートを基板から剥離させ、さらに得られた剥離シートを粉砕することにより得られている(例えば非特許文献6を参照のこと)。上記の有機分子を用いるナノシートは、薬剤や生体材料への応用が期待できるが、合成プロセスやフィルム成形プロセスが煩雑である。また、製造に莫大なコストがかかることが問題となっている。
【0004】
ナノシートは、ナノ状態として安定に存在することが困難であり、シートが対象物に不規則に付着するか又はシート同士が凝集するという問題や、それらを防ぐための表面の改質・修飾が困難という問題がある。これらの問題の解決も望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Zhang, S.; Sunami et al., Nanomaterials-Basel 2017, 7 (9).
【文献】Tan, C. L. et al., Chem Rev 2017, 117 (9), 6225-6331.
【文献】Li, X. et al., Small 2017, 13 (5).
【文献】Kong, X. K. et al., Chem Soc Rev 2017,46 (8), 2127-2157.
【文献】Yang, G. H. et al., Nanoscale 2015, 7 (34), 14217-14231.
【文献】Okamura, Y. et al., Adv Mater 2013, 25 (4), 545-551.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、生体安全性や適合性に優れ、薬剤や生体材料への応用も可能であり、合成プロセスやフィルム成形プロセスが比較的簡便な単離ナノシートを提供することにある。
また、本発明の追加の目的は、上記目的に加えて、シートが対象物に不規則に付着せず、かつシート同士が凝集しない単離ナノシートを提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の別の目的は、上記単離ナノシートを有する材料を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、上記単離ナノシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートであって、前記直鎖状分子は、その両端又は該両端の近傍にナノシート作成条件下で電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する、単離ナノシートが提供される。
本発明の別の態様によれば、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートの製造方法であって、a)両端又は該両端の近傍にナノシート作成条件下では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する直鎖状分子を準備する工程;b)第1の環状分子を準備する工程;及びc)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程;を有することにより、前記単離ナノシートを得る、上記方法が提供される。
【0009】
本発明のまた別の態様によれば、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートの製造方法であって、a’)直鎖状分子を準備する工程;b)第1の環状分子を準備する工程;c’)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させて、擬ポリロタキサンを得る工程;d)前記直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、ナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を導入し、第1の直鎖状分子とする工程;e)前記擬ポリロタキサンの直鎖状分子及び/又は前記第1の直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、封鎖基を導入する工程;f)得られた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを水又は水溶液中で混合させる工程;を有することにより、前記単離ナノシートを得る、上記方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生体安全性や適合性に優れ、薬剤や生体材料への応用も可能であり、合成プロセスやフィルム成形プロセスが比較的簡便であり、コストが低減されたナノシートを提供することができる。
また、本発明により、上記効果に加えて、シートが対象物に不規則に付着せず、かつシート同士が凝集しない単離ナノシートを提供することができる。
【0011】
さらに、本発明により、上記単離ナノシートを有する材料を提供することができる。
また、本発明により、上記単離ナノシートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ポリマー11と環状分子21とから、擬ポリロタキサン31が形成され、該擬ポリロタキサン31が複数凝集することにより本発明の単離ナノシート41が形成されることを模式的に示す図である。
図2】単離ナノシートを構成する擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの第1の直鎖状分子がU字状に折りたたんだ状態で単離ナノシートが形成されていることを模式的に示す図である。
図3】単離ナノシートを構成する擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの第1の直鎖状分子が4分岐鎖を有し、該4分岐鎖の各鎖に環状分子が包接され且つ該4分岐鎖の各鎖に「環状分子フリーの領域」が存在することを模式的に示す図である。
図4】第1の環状分子を模式的に示す図であり、Dで示す距離が、「第1の環状分子の中心軸方向の厚さ」であることを示す図である。
図5】実施例1の単離ナノシートX1の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図6】実施例2の単離ナノシートX2の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図7】実施例3の単離ナノシートX3の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図8】比較例1で調製した溶液の小角X線散乱測定による構造解析結果を示す図である。
図9】実施例4の単離ナノシートX4の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図10】実施例4の単離ナノシートX4の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図11】単離ナノシートX1がシリコン基板に吸着している様子が観察される実施例5の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図12】実施例9の複数層ナノシートX9の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図13】実施例9の複数層ナノシートX9の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図14】比較例6で調製された溶液の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図15】比較例6で調製された溶液中に観測されるブロック状の粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図16】比較例7で調製された溶液の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図17】比較例7で調製された溶液中に観測されるブロック状の粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図18】比較例8で調製された溶液の小角X線散乱測定の結果を示す図である。
図19】比較例8で調製された溶液中に観測されるブロック状の粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図20】実施例10のナノシートX10の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図21】実施例11のナノシートX11の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図22】実施例12のナノシートX12の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図23】(A)多孔膜、(B)pоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)及び(C)pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)のSEM像。
図24】実施例14のナノシートの吸光度。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願に記載する発明を詳細に説明する。
本願は、単離ナノシートを提供する。
本発明の単離ナノシートは、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る。
本願において、「単離ナノシート」の「単離」とは、溶液中で集合せずに単独に存在することが可能であることを意味する。なお、「単離ナノシート」は、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るナノシートが単独、即ち単層から成ってもいても、該ナノシートが複数層から成っていてもよい。なお、単離ナノシート形成の確認は、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行うことができる。特に、小角X線散乱測定により、形状因子によりシート状であること、具体的には形状因子がシート構造に特徴的なフリンジを示し、底角側に凝集による散乱強度の増大が見られなかったときに単離ナノシートである、と確認することができる(例えば、X線・光・中性子散乱の原理と応用(KS化学専門書)を参照のこと)。
【0014】
また、本願において、「単離ナノシート」の「ナノ」とは、単離ナノシートの単層の厚さが100nm以下、具体的には0.5~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~20nmであることをいう。なお、単離ナノシートが複層からなる場合には構成する単層のナノシートの厚さが100nm以下、具体的には0.5~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~20nmであることをいう。
本願の単離ナノシートにおいて、単層からなるナノシートの厚さ方向は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの長手方向、換言すると、直鎖状分子の長手方向であるのがよい。擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの長手方向、直鎖状分子の長手方向が、本願の単層からなる単離ナノシートの厚さ方向であるのがよい。なお、後述する図2及び図3などに示す特殊な場合もあるが、この場合も、基本的には直鎖状分子の長手方向が、本願の単層からなる単離ナノシートの厚さ方向とすることができる。
なお、本願において、単離ナノシートの「単層」とは、小角X線散乱測定、走査型電子顕微鏡像などにより、一つの層からなることが観測されることを意味する。
【0015】
また、本願において、「擬ポリロタキサン」とは、「ポリロタキサン」と比較して規定すると、「ポリロタキサン」が直鎖状分子の両末端に、包接される環状分子が包接状態から脱離しない作用(封鎖作用)を有する基(封鎖基)を有する一方、「擬ポリロタキサン」はそのような「封鎖作用を有する基(封鎖基)」を有していない点で異なる、と規定される。要するに、本明細書において、「擬ポリロタキサン」とは、直鎖状分子の一方の末端だけに上記封鎖作用を有する基(封鎖基)を有するか、又は直鎖状分子の両末端に上記封鎖作用を有する基(封鎖基)を有さないものを意味する。
【0016】
本願の単離ナノシートを形成する擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの直鎖状分子は、その両端又は該両端の近傍にナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する。なお、鎖状ポリマーの近傍とは、通常、鎖状ポリマーの末端を除き、鎖状ポリマーの末端から1~10個のモノマー単位、より好ましくは1~5個のモノマー単位の範囲を指す。
【0017】
単離ナノシートを構成する擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの直鎖状分子は、第1の直鎖状分子を有するか、例えば、第1の直鎖状分子のみから本質的になるか、又は第1の直鎖状分子のみからになるのがよい。なお、「直鎖状分子が、第1の直鎖状分子のみからなる」とは、単離ナノシートを構成する擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの直鎖状分子として、第1の直鎖状分子以外が存在しないことを意味する。また、「直鎖状分子が、第1の直鎖状分子のみから本質的になる」とは、単離ナノシートを構成する擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの直鎖状分子として、第1の直鎖状分子以外も存在するが、その存在によって単離ナノシートの形成には悪影響を及ぼさない程度に存在することを意味する。
【0018】
本願において、「非電離基」とは、ナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では水又は水溶液中では電離しない基をいう。
非電離基は、上記定義を満たしていれば特に限定されないが、例えば、非電離基が、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、ヘンイコシル基、ヘンイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基とそれらの異性体、4-イソプロピルベンゼンスルホニル基、1-オクタンスルホニル基、4-ビフェニルスルホニル基、4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基(-NH2)、電離していないカルボン酸基 (-COOH)、及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0019】
また、非電離基は、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、パーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはパーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
なお、「電離していない水酸基」、「電離していないアミノ基」、「電離していないカルボン酸基」の「電離していない」とは、上述したとおり、ナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では水又は水溶液中では電離していないことを意味する。
【0020】
本願の単離ナノシートを形成する擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを構成する第1の直鎖状分子は、その両端から内側に、第1の環状分子が存在しない第1及び第2の領域(以下、単に「環状分子フリーの領域」と記載する場合がある)を有するのがよい。即ち、第1の領域は、第1の直鎖状分子の一端から内側に存在し、第2の領域は、第1の直鎖状分子の他端から内側に存在する。
また、第1及び第2の領域の長さは、各々独立に、0.5~100nm、好ましくは1~70nm、より好ましくは1~50nmであるのがよい。
完全な理論に基づくものではないが、上記長さの「環状分子フリーの領域」を有することが、単離ナノシートの形成に有利に働くものと考えられる。
【0021】
ここで、第1及び第2の領域の長さは、次のように求めることができる。
単離ナノシートの「単層」の厚さは、小角X線散乱または原子間力顕微鏡により求めることができる(厚さt)。また、第1の直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)はゲル浸透クロマトグラフィーや核磁気共鳴などから分子量を測定することで求めることができる。形成される単離ナノシートは図1のような形状を有する。ここで、図1は、ポリマー11と環状分子21とから、擬ポリロタキサン31が形成され、擬ポリロタキサン31に包接される環状分子21が隣接する擬ポリロタキサン31に包接される環状分子21と隣接し擬ポリロタキサン31が複数凝集することにより本発明の単離ナノシート41が形成されることを模式的に示す図である。なお、単離ナノシート41は、環状分子21が存在しない第1の領域51及び第2の領域52を有する。
【0022】
したがって、図1で示す形状と得られた単離ナノシートの「単層」の厚さ(t)及び伸びきり鎖長(L1)とから、第1の領域の長さ(l1)と第2の領域の長さ(l2)との和(l1+l2)はL-tと求められ、第1の領域の長さ(l1)と第2の領域の長さ(l2)とが同じ長さであるとして、第1の領域の長さ(l1)と第2の領域の長さ(l2)の平均値は、
1=l2=(L1-t)/2(なお、以降、「式A」という)
として求めることができる。
【0023】
なお、直鎖状分子の伸びきり鎖長(L1)と環状分子の包接率とから単離ナノシートのおおよその厚さ(t’)を求めることができるが、単離ナノシートの厚さtがおおよその厚さt’の1/2程度である場合、図1で示す状態ではなく、図2のような状態で単離ナノシートが形成されているものと考えられる。ここで、図2は、第1の直鎖状分子12に環状分子22が包接されて擬ポリロタキサン又はポリロタキサン32を形成しているが、単離ナノシートを構成する擬ポリロタキサン又はポリロタキサン32は第1の直鎖状分子12がU字状に折りたたんだ状態で単離ナノシート42が形成されていることを示す模式図である(ただし、図2は、説明のため、単離ナノシート42の一部を抜粋して表している)。なお、図2においても、単離ナノシート42は、環状分子21が存在しない第1の領域53及び第2の領域54を有する。
【0024】
したがって、単離ナノシートの厚さtがおおよその厚さt’の1/2程度である場合には、第1の領域の長さ(l1)及び第2の領域の長さ(l2)は下記式Bのように求めることができる。即ち、環状分子が包接されている箇所は、厚さtの2倍であるため、第1の領域の長さ(l1)と第2の領域の長さ(l2)の平均値は、
1=l2=(L1-2t)/4(式B)
として求めることができる。
【0025】
さらに、単離ナノシートを構成する直鎖状分子が4分岐鎖を有する場合、4分岐鎖を有する第1の直鎖状分子の各々の鎖に環状分子が包接されて擬ポリロタキサン又はポリロタキサンが形成される状態、即ち図3で示す状態、の、擬ポリロタキサン又はポリロタキサンが互いに隣接することにより単離ナノシートが形成されているものと考えられる。図3は、4分岐鎖を有する第1の直鎖状分子13の4分岐鎖各々に、環状分子23が包接されて擬ポリロタキサン又はポリロタキサン(以下、「擬ポリロタキサン等」と略記する場合がる)33が形成されていることを示す。また、図3は、擬ポリロタキサン等33aに包接される環状分子23aが隣接する擬ポリロタキサン等33bに包接される環状分子23bと隣接し擬ポリロタキサン等33a及び33bが凝集することにより本発明の単離ナノシート43が形成されること(ただし、図3は、説明のため、単離ナノシートの一部を抜粋して表している)、及び、単離ナノシート43においても環状分子23が存在しない第1の領域55及び第2の領域56を有すること、を模式的に示す。
【0026】
したがって、n分岐鎖(nは3以上の整数である)を有する第1の直鎖状分子を用いて単離ナノシートが形成されている場合、第1の領域の長さ(l1)及び第2の領域の長さ(l2)は下記式Cのように求めることができる。即ち、n分岐鎖を有する直鎖状分子の各鎖の伸びきり鎖長(L2)をゲル浸透クロマトグラフィーや核磁気共鳴、静的光散乱などから分子量を測定することで求めることができる。n個の鎖それぞれに環状分子が包接されているとし、L2×nの領域が環状分子に包接される可能性があり、そのうち、厚さtのn倍だけが包接されている。よって、第1の領域の長さ(l1)と第2の領域の長さ(l2)の平均値は、
1=l2=(nL2-nt)/2n=(L2-t)/2(式C)
として求めることができる。なお、式Cは式Aと同じであり、n分岐鎖を有する場合であっても式Aを用いることができることがわかる。
【0027】
ここで、第1の直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)は、用いる直鎖状分子の重量平均または数平均分子量から求めることができる。また、得られた単離ナノシートからも求めることができる。得られた単離ナノシートから第1の直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)を求めるためには、得られた単離ナノシートの擬ポリロタキサン又はポリロタキサン状態から環状分子を外し、第1の直鎖状分子を得、その後、得られた第1の直鎖状分子の重量平均または数平均分子量を求めることにより得ることができる。
【0028】
非電離基は、上述したように、第1の直鎖状分子の「両端又は該両端の近傍に」「有する」のがよく、例えば、後述の「少なくとも2つの部位」と直接結合されていてもスペーサを介して間接的に結合されていてもよい。
本発明の単離ナノシートが、「擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン」を「複数有して成る」とは、「擬ポリロタキサン」のみを「複数有して成る」場合、「ポリロタキサン」のみを「複数有して成る」場合、少なくとも1種の「擬ポリロタキサン」と少なくとも1種の「ポリロタキサン」を有してなり、「擬ポリロタキサン」と「ポリロタキサン」との合計が「複数」「有して成る」場合を意味する。
【0029】
第1の直鎖状分子は、少なくとも2つの部位を備えてもよい。
本願において、直鎖状分子及び第1の環状分子は、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接する形態を採ることができる分子であれば、特に限定されない。
少なくとも2つの部位を備える第1の直鎖状分子は、少なくとも3つの部位を有してもよい。以下、少なくとも3つの部位を備える第1の直鎖状分子を特に第2の直鎖状分子と称する。直鎖状分子は、例えば少なくとも3つの部位を有する第2の直鎖状分子から本質的になってもよく、また例えば直鎖状分子は、少なくとも3つの部位を有する第2の直鎖状分子のみからなってもよい。
【0030】
少なくとも2つの部位を有する第1の直鎖状分子は、少なくとも2つのブロックを備えるブロックコポリマーであるのがよい。
また、少なくとも3つの部位を有する第2の直鎖状分子は、少なくとも3つのブロックを備えるブロックコポリマーであるのがよい。
【0031】
なお、「ブロックコポリマー」の各ブロックは、1つの繰り返し単位のみからなるのが好ましいが、ある繰り返し単位と次の繰り返し単位との間に第1のスペーサ基を有してもよい。
また、「ブロックコポリマー」の隣接するブロック間に、第1のスペーサ基と同じであっても異なってもよい第2のスペーサ基を有してもよい。
【0032】
第1及び/又は第2のスペーサ基として、例えば、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基(一部、フェニル基などの芳香族環で置換されてもよい); 炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエーテル類; 炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエステル類;炭素数6~24の芳香族基、例えばフェニル基などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0033】
第1の環状分子は、少なくとも2つの部位を備える第1の直鎖状分子の、該少なくとも2つの部位のうちの1つの部位に包接されてもよい。なお、少なくとも2つの部位を備える第1の直鎖状分子が、少なくとも3つの部位を有する第2の直鎖状分子を有するか、該第2の直鎖状分子から本質的になるか、又は該第2の直鎖状分子のみからなる場合、第1の環状分子は、第2の直鎖状分子の、該少なくとも3つの部位のうちの1つの部位に包接されてなってもよい。なお、直鎖状分子、及び/又は、第1及び/又は第2の直鎖状分子がブロックコポリマーである場合、第1の環状分子は、ある「ブロック」に包接されてなってもよい。
【0034】
第1の環状分子が直鎖状分子に包接される部位、例えば第1の直鎖状分子の少なくとも2つの部位のうちの1つの部位、第2の直鎖状分子の少なくとも3つの部位のうちの1つの部位、ブロックコポリマーのある「ブロック」は、その鎖長が、第1の環状分子の厚さよりも長いのがよい。ここで、第1の環状分子の厚さとは、より正確には、第1の環状分子の中心軸方向の厚さである。ここで、「第1の環状分子の中心軸方向の厚さ」について、図を用いて説明する。図4は、第1の環状分子を模式的に示す図である。図4において、Dで示す距離が、「第1の環状分子の中心軸方向の厚さ」である。
第1の環状分子が直鎖状分子に包接される部位、例えば第1の直鎖状分子の少なくとも2つの部位のうちの1つの部位、第2の直鎖状分子の少なくとも3つの部位のうちの1つの部位、及び/又は、ブロックコポリマーのある「ブロック」は、その鎖長が、第1の環状分子の中心軸方向の厚さの2倍以上、好ましくは5倍、より好ましくは14倍であるのがよい。
【0035】
本願において、直鎖状分子は、上述したとおり、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接する形態を採ることができる直鎖状の分子であれば、特に限定されない。
【0036】
直鎖状分子の骨格として、例えば少なくとも2つ又は少なくとも3つの部位を形成する骨格として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよい。例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれるのがよい。特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールであるのがよい。単離ナノシート中の直鎖状分子は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0037】
直鎖状分子は、例えば少なくとも2つ又は少なくとも3つの部位を有する場合、直鎖状分子自体の重量平均分子量が500~500000、好ましくは1000~20000、より好ましくは6000~16000であるのがよい。なお、直鎖状分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)で測定することができる。GPCの測定条件は、直鎖状分子の種類にも依るが、溶離液やカラムの種類、温度、標準物質、流速を適切に選択するのがよい。
【0038】
また、直鎖状分子は、水溶性直鎖状分子であるのが好ましい。水溶性直鎖状分子は、水溶性、例えば水1Lに1g溶解することが可能という特性を有するのであれば、特に限定されない。
【0039】
水溶性直鎖状分子の骨格として、例えば少なくとも2つ又は少なくとも3つの部位を形成する骨格として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリペプチド、及びポリエチレングリコールを含む共重合体を挙げることができるが、これに限定されない。
【0040】
即ち、水溶性直鎖状分子は、上記に挙げたポリマー種からなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、及びポリエチレングリコールを含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
水溶性直鎖状分子の分子量(数平均分子量又は重量平均分子量)は、特に限定されないが、500~500000、好ましくは1000~50000、より好ましくは2000~20000であるのがよい。
【0041】
本願において、第1の環状分子は、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接する形態を採ることができる分子であり、上述したように、例えば第1の直鎖状分子の少なくとも2つの部位のうちの1つの部位、第2の直鎖状分子の少なくとも3つの部位のうちの1つの部位、ブロックコポリマーのある「ブロック」に包接する形態を採ることができる分子であれば、特に限定されない。
【0042】
第1の環状分子として、例えば、α-シクロデキストリン(以降、本明細書において、「シクロデキストリン」を単に「CD」と表す場合がある)、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、およびこれらの誘導体などを挙げることができるがこれらに限定されない。なお、誘導体として、メチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリンなどを挙げることができるがこれらに限定されない。単離ナノシート中の第1の環状分子は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0043】
<<包接率>>
本願において、包接率とは、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の割合をいう。
また、規定包接率とは、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに用いた直鎖状分子及び第1の環状分子から算術的に規定される包接率をいい、具体的には上述の直鎖状分子の長さと上述の第1の環状分子の厚みから規定される。
【0044】
具体的に規定包接率を説明する。
直鎖状分子として、ポリエチレングリコールを用い、環状分子としてα-CDを用いる場合を考慮する。
ポリエチレングリコールの繰り返し単位2つ分がα-CDの厚さと同じであることが分子モデル計算から知られている。したがって、α-CDのモルと繰り返し単位の数との比が1:2のときを規定包接率100%とする。
【0045】
得られる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンに含まれる環状分子の割合、即ち包接率は、得られたナノシート分散液の小角X線散乱(SAXS)測定により求めることができる。
具体的には、得られる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの分散液のSAXSの一次元プロファイルを、シート状構造を仮定した式を用いたフィッティングにより求めたシートの厚さ、および鎖状分子のトランス伸び切り鎖長の比により求めることができる。
【0046】
このようにすることにより、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの包接率を求めることができる。
本願において、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの包接率は、規定包接率を100%とするとき、1~100%、好ましくは5~100%、より好ましくは10~100%、最も好ましくは20~100%であるのがよい。
【0047】
本願において、直鎖状分子が、PEGからなる部位-PPGからなる部位-PEGからなる部位:で表される構成を有するコポリマーであり、第1の環状分子がβ-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリン、好ましくはβ-シクロデキストリンである場合であってもよい。
さらに、本願において、直鎖状分子が、PEGからなる部位:で表される構成のみからなるポリマーであり、非電離基がカルボン酸基又はアミノ基、第1の環状分子がα-シクロデキストリンであるのがよい。
【0048】
本願の単離ナノシートは、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るが、単離ナノシートとしての構成を維持できる限り、上述の「擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン」以外の成分を有してもよい。
【0049】
そのような成分として、第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、第2の環状分子の開口部に包接することができる第1の物質、第1の物質とは異なる、第2の環状分子とは包接状態とはなることができない第2の物質、本発明の「特定」の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン以外の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0050】
これらの「擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン」以外の成分は、単層としての単離ナノシート中に、及び/又は複数層としての単離ナノシート中に、有してもよい。なお、複数層としての単離ナノシート中に有する場合、複数層を形成する各単層の単離ナノシート中に有しても、複数層の層間に有してもよい。
【0051】
第2の環状分子として、例えば第1の環状分子として挙げたものを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0052】
第1の物質は、本発明の単離ナノシートの適用分野、応用分野に依存し、例えば、ヒドロコルチゾン、フェニトイン、ナプロキセン、アデニンアラビノシド、アデノシン、イブプロフェン、ヒドロクロロチアジド、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチル、アダマンタン、アゾベンゼン、アントラセン、ピレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ローダミン、ナイルレッドなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0053】
第2の物質は、本発明の単離ナノシートの適用分野、応用分野に依存して選択することができ、例えば、ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ポリピリジン、ポリフェニレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリシラン、ポリシロキサン類など環状分子と包接錯体を形成しない高分子材料;DNA、タンパク質、ポリペプチドなどの生体高分子および生体分子;シリカナノ粒子、酸化チタンナノ粒子、シリコンナノ粒子などの無機ナノ材料;フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、カーボン量子ドットなどのカーボン材料;金ナノ粒子、ペロブスカイト量子ドット、CdSeS/ZnS量子ドット、酸化鉄ナノ粒子などの金属ナノ材料;などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0054】
また、本発明の単離ナノシートは、シクロデキストリンやポリエチレングリコールなど生体安全性や生体適合性の高い分子から構成できるため、生体内で利用するのに適している。
本発明の単離ナノシートは、例えば、ドラッグデリバリ用材料(例えば、ドラッグデリバリのビヒクル)、生体イメージング、表面改質剤、接着剤、創傷部位癒着防止剤、ヘアケア材、コーティング材料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、サプリメント用基剤、細胞や藻類などの凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、臭気防止材料等として用いることができるが、これらに限定されない。
【0055】
また、本発明は、上述の単離ナノシートを有する材料も提供する。そのような材料は、本発明の単離ナノシートの適用分野、応用分野に依存し、例えば、構造材料、人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム材料、ヘアケア材料、コーティング材料、塗料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、接着剤、サプリメント用基剤、高機能飲料、凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、臭気防止材料などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0056】
本発明は、上述の単離ナノシートの製造方法I及びIIを提供する。
<製造方法I>
本願において、該製造方法Iは、
a)両端又はその近傍にナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する直鎖状分子を準備する工程;
b)第1の環状分子を準備する工程;及び
c)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程;
を有することにより、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートを得ることができる。
なお、「第1の直鎖状分子」、「非電離基」、「第1の環状分子」は上述したとおりである。例えば、「第1の直鎖状分子」は「少なくとも2つの部位を備える」こととしてもよく、「少なくとも3つの部位を備える第2の直鎖状分子」などを用いてもよいことは、上述したとおりである。
【0057】
<工程a)>
工程a)は、両端又はその近傍にナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する直鎖状分子を準備する工程である。
ここで、直鎖状分子は、市販のものを購入しても、調製してもよい。なお、上述したとおり、「少なくとも2つの部位を備える」「直鎖状分子」を用いてもよい。「少なくとも2つの部位を備える」「直鎖状分子」を調製する場合、以下の文献1~4などに記載されている方法により得ることができる。
文献1:Hillmyer, M. A. et al., Macromolecules 1996,29 (22), 6994-7002.
文献2:Ding, J. F. et al., Eur Polym J 1991,27 (9), 901-905.
文献3:Allgaier, J. et al., Macromolecules 2007,40 (3), 518-525.
文献4:Malik, M. I. et al., Eur Polym J 2009,45 (3), 899-910.
【0058】
また、「両端又はその近傍にナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子」は、上述の「直鎖状分子」と同様に、市販のものを購入しても、調製してもよい。
調製する場合、上述の「直鎖状分子」の両端又はその近傍に、非電離基を導入する工程を設けるのがよい。
【0059】
非電離基を導入する工程として、従来公知の手法を用いることができ、例えばDMT/MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)、DCC(N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、EDC(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリスジメチルアミノホスホニウム塩)、PyBOP((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、HATU(O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N′,N′-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート)などの縮合剤を用いたエステル化、アミド化などの縮合反応、求核置換反応、付加反応を挙げることができるがこれに限定されない。
【0060】
<工程b)>
工程b)は、第1の環状分子を準備する工程である。
この工程は、市販の環状分子を購入しても、調製してもよい。誘導体を調製する場合、例えば、文献5:Khan, A. R. et al., Chem Rev 1998, 98 (5), 1977-1996などに記載されている方法により得ることができる。
なお、工程b)は、工程c)よりも前に設ければよい。即ち、工程b)は、工程a)の後に設ける必要はなく、工程a)とb)とは別途に行うことができる。
【0061】
<工程c)>
工程c)は、直鎖状分子と第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程である。
水又は水溶液として、第1の環状分子、直鎖状分子の少なくともどちらか一方が溶解する溶媒であれば、特に限定されない。
工程c)で用いる水又は水溶液として、具体的には、純水、アルコール水溶液、酸水溶液、アルカリ水溶液、緩衝液、培養液、血漿などを挙げることができるが、これらに限定されない。
上記工程a)~c)を有することにより、上述の単離ナノシートを得ることができる。
【0062】
なお、上述の製造方法において、上記工程a)~c)以外の工程を有してもよい。
例えば、上記工程a)~c)以外の工程として、工程a)前に設ける、上述した「少なくとも2つの部位を備える」「直鎖状分子」の調製工程、工程d)後の設ける単離ナノシートの精製工程、工程a)前に設けてもよい環状分子と第1の物質との包接や擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンの合成を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、単離ナノシートが、上述の、第2の環状分子、第1の物質、第2の物質を有する場合、本発明の製造方法は、該第2の環状分子、第1の物質、第2の物質を単離ナノシートへ導入するための工程を有してもよい。
【0063】
さらに、c)工程後に、g)得られた単離ナノシートの一部の擬ポリロタキサンを修飾する工程;をさらに有するのがよい。
該修飾工程は、第1の直鎖状分子に、例えば第1の直鎖状分子の末端に、第1の置換基を導入する工程であってもよい。なお、第1の置換基は、単離ナノシートが得られる限り、第1の環状分子が脱離しないように封鎖する作用を有する封鎖基であっても、非電離基及び/又は電離基の作用を有する基であっても、その他の作用を有する基であってもよい。第1の置換基は、それらの作用のいかなる組合せを有していてもよく、全ての作用を奏するものであってもよい。
【0064】
例えば、封鎖する作用を有し、且つ非電離基の作用を有する基として、アダマンタン基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、ヘンイコシル基、ヘンイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基とそれらの異性体を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0065】
電離基の作用を有する基として、葉酸、ビオチン、フルオレセイン、RGD、GRGDSなどのオリゴペプチド、リツキシマブ、ベバシズマブ、トシリズマブ、インフリキシマブなどのモノクローナル抗体由来の基を導入してもよい。例えば葉酸由来の基を導入する場合、得られた単離シート及び葉酸を、縮合剤、例えばDMT/MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)、DCC(N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、EDC(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリスジメチルアミノホスホニウム塩)、PyBOP((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、HATU(O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N′,N′-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート)の存在下で反応させることにより、行うことができる。
【0066】
該修飾工程は、単離ナノシートが得られる限り、第1の環状分子に第2の置換基を導入する工程であってもよい。
なお、第2の置換基は、-OR基、-O-R1-X基、-O-CO-NH-R2基、-O-CO-R3基、-O-Si-R4基、及び-O-CO-O-R5基からなる群から選ばれる非イオン性基で置換され、
前記Rは炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R1は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基から水素が1つ除かれた基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基から水素が1つ除かれた基、炭素数3~12の環状アルキル基から水素が1つ除かれた基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基から水素が1つ除かれた基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基から水素が1つ除かれた基であり、XはOH、NH2、又はSHであり、
前記R2は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R3は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R4は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基であり、
前記R5は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、少なくとも1個のエーテル基を含む炭素数2~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3~12の環状アルキル基、炭素数2~12の環状アルキルエーテル基、又は炭素数2~12の環状アルキルチオエーテル基を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0067】
<製造方法II>
本願の、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートは、次の製造方法により得ることができる。
即ち、
a’)直鎖状分子を準備する工程;
b)第1の環状分子を準備する工程;
c’)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させて、擬ポリロタキサンを得る工程;
d)前記直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、ナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を導入し、第1の直鎖状分子とする工程;
e)前記擬ポリロタキサンの直鎖状分子及び/又は前記第1の直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、封鎖基を導入する工程;
f)得られた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを水又は水溶液中で混合させる工程;
有することにより、上記単離ナノシートを得ることができる。
【0068】
ここで、工程a’)は、上記工程a)で述べた「直鎖状分子」を用いることができる。
工程b)工程は、上述の「工程b)」と同じである。
工程c’)は、上記工程c)と同様に、直鎖状分子と第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程であり、且つそれにより擬ポリロタキサンを得る工程である。
水又は水溶液として、工程c)で述べたとおり、第1の環状分子、直鎖状分子の少なくともどちらか一方が溶解する溶媒であれば、特に限定されない。
工程c)で用いる水又は水溶液として、具体的には、純水、アルコール水溶液、酸水溶液、アルカリ水溶液、緩衝液、培養液、血漿などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0069】
工程d)は、直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、ナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を導入し、第1の直鎖状分子とする工程である。
非電離基を導入する方法として、上記工程a)で述べた方法を挙げることができるが、それに限定されない。
【0070】
工程e)は、いわゆる封鎖基を導入する工程であり、封鎖基を導入することにより、擬ポリロタキサンの少なくとも一部をポリロタキサンとする工程である。
該工程は、従来公知の手法を用いることができ、例えばHarada et. al, Nature, 1992, 356, 325-327に記載される工程を挙げることができる。
また、封鎖基についても、従来公知のポリロタキサンに用いることができる封鎖基を挙げることができる。例えばM. Okada et. al, J Polym. Sci. A: Polym. Chem, 2000, 38, 4839-4849に記載される封鎖基を挙げることができる。
【0071】
また、本発明は以下の構成を採用することもできる。
<1> 第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートであって、
前記直鎖状分子は、その両端又は該両端の近傍にナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する、単離ナノシート。
<2> 上記<1>において、第1の直鎖状分子が、第1の直鎖状分子の両端から内側に、前記第1の環状分子が存在しない第1及び第2の領域を有し、該第1及び第2の領域の長さが0.5~100nm、好ましくは1~70nm、より好ましくは1~50nmであるのがよい。
【0072】
<3> 上記<1>又は<2>において、単離ナノシートが、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るナノシートの単層から成るか、又は前記ナノシートを複数層有して成る。
<4> 上記<1>~<3>のいずれにおいて、直鎖状分子は、第1の直鎖状分子のみから本質的になる。
【0073】
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、非電離基が、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、ヘンイコシル基、ヘンイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基とそれらの異性体、4-イソプロピルベンゼンスルホニル基、1-オクタンスルホニル基、4-ビフェニルスルホニル基、4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基、電離していないカルボン酸基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。また、非電離基は、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、パーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはパーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0074】
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、第1の直鎖状分子は、少なくとも2つの部位である2つのブロックを備えるブロックコポリマーである。
<7> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、第1の直鎖状分子は、少なくとも3つの部位である3つのブロックを備えるブロックコポリマーである。
【0075】
<8> 上記<6>又は<7>において、第1の環状分子が、少なくとも2つの部位のうちの1つの部位、又は前記少なくとも3つの部位のうちの1つの部位に包接されてなるの。
<9> 上記<6>~<8>のいずれかにおいて、少なくとも2つの部位、又は少なくとも3つの部位が、それぞれ少なくとも2つのブロックを備えるか、又は少なくとも3つのブロックを備えるブロックコポリマー由来である。
【0076】
<10> 上記<9>において、少なくとも3つのブロックが、ポリエチレングリコール(PEG)からなる部位、及びポリプロピレングリコール(PPG)からなる部位から形成される。
<11> 上記<1>~<10>のいずれかにおいて、単離ナノシートは、直鎖状分子による包接を受けない第2の環状分子をさらに有する。
<12> 上記<11>において、第2の環状分子は、その開口部に第1の物質を包接してなる。
【0077】
<13> 上記<1>~<12>のいずれかにおいて、単離ナノシートは、第2の環状分子により包接されない第2の物質をさらに有する。
<14> 上記<13>において、単離ナノシートが、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るナノシートを複数層有して成り、該複数層のナノシート間に、前記第2の物質をさらに有する。
【0078】
<15> 上記<1>~<14>のいずれかにおいて、第1及び第2の環状分子が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる。
なお、誘導体として、メチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリンからなる群から選ばれる。
<16> 上記<1>~<15>のいずれかにおいて、直鎖状分子が、PEGからなる部位-PPGからなる部位-PEGからなる部位:で表される構成を有するコポリマーであるのがよい。また、第1の環状分子がβ-シクロデキストリンである。
【0079】
<17> 上記<1>~<15>のいずれかにおいて、直鎖状分子が、PEGからなる部位-PPGからなる部位-PEGからなる部位:で表される構成のみからなるトリブロックコポリマーであるのがよい。また、第1の環状分子がβ-シクロデキストリンである。
<18> 上記<1>~<17>のいずれかにおいて、単離ナノシートの単層の厚さが100nm以下、具体的には0.5~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~20nmであるのがよい。なお、単離ナノシートが複層からなる場合には構成する単層のナノシートの厚さが100nm以下、具体的には0.5~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~20nmである。
【0080】
<19> 上記<1>~<18>のいずれかの単離ナノシートが接着性を示す。
<20> 上記<1>~<19>のいずれかの単離ナノシートからなるドラッグデリバリ用材料、生体イメージング、表面改質剤、接着剤、創傷部位癒着防止剤、ヘアケア材、コーティング材料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、サプリメント用基剤、細胞や藻類などの凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、又は臭気防止材料。
<21> ドラッグデリバリ用材料、生体イメージング、表面改質剤、接着剤、創傷部位癒着防止剤、ヘアケア材、コーティング材料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、サプリメント用基剤、細胞や藻類などの凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、又は臭気防止材料における上記<1>~<19>のいずれかの単離ナノシートの使用。
<22> 上記<1>~<19>のいずれかの単離ナノシートを有する材料。
<23> 前記材料が、構造材料、人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム材料、ヘアケア材料、コーティング材料、塗料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、接着剤、サプリメント用基剤、高機能飲料、凝集制御材料、酸素バリア性材料、保湿剤、紫外線防御性材料、又は臭気防止材料である<22>に記載の材料。
<24> 第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートの製造方法であって、
a)両端又は該両端の近傍にナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を有する第1の直鎖状分子を有する直鎖状分子を準備する工程;
b)第1の環状分子を準備する工程;及び
c)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させる工程;
を有することにより、前記単離ナノシートを得る、上記方法。
<25> 上記<24>において、c)工程後に、g)得られた単離ナノシートの一部の擬ポリロタキサンを修飾する工程;をさらに有する。
【0081】
<26> 第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートの製造方法であって、
a’)直鎖状分子を準備する工程;
b)第1の環状分子を準備する工程;
c’)前記直鎖状分子と前記第1の環状分子とを水又は水溶液中で混合させて、擬ポリロタキサンを得る工程;
d)前記直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、ナノシート作成条件下では、好ましくは水又は水溶液中では電離しない非電離基を導入し、第1の直鎖状分子とする工程;
e)前記擬ポリロタキサンの直鎖状分子及び/又は前記第1の直鎖状分子の少なくとも一部の両末端に、封鎖基を導入する工程;
f)得られた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを水又は水溶液中で混合させる工程;
を有することにより、前記単離ナノシートを得る、上記方法。
【0082】
<27> 上記<26>において、f)工程後に、g)得られた単離ナノシートの一部の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを修飾する工程;をさらに有する。
<28> 上記<24>~<27>のいずれかにおいて、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンは、第1の直鎖状分子の両端から内側に、第1の環状分子が存在しない第1及び第2の領域を有し、該第1及び第2の領域の長さが0.5~100nm、好ましくは1~70nm、より好ましくは1~50nmである。
<29> 上記<24>~<28>のいずれかにおいて、単離ナノシートが、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成るナノシートの単層から成るか、又は前記ナノシートを複数層有して成る。
【0083】
<30> 上記<24>~<29>のいずれかにおいて、直鎖状分子は、第1の直鎖状分子のみから本質的になる。
<31> 上記<24>~<30>のいずれかにおいて、非電離基が、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、ヘンイコシル基、ヘンイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基とそれらの異性体、4-イソプロピルベンゼンスルホニル基、1-オクタンスルホニル基、4-ビフェニルスルホニル基、4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基、電離していないカルボン酸基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。また、非電離基は、電離していない水酸基、ヘプタフルオロブチロイル基、パーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはパーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0084】
<32> 上記<24>~<31>のいずれかのc)工程又はf)工程において、物質をさらに混合し、第1の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成るナノシートの単層中に該物質が含まれるか、又は前記ナノシートを複数層有して成る複数層間に該物質が含まれる。
<33> 上記<24>~<32>のいずれかにおいて、単離ナノシートが、直鎖状分子による包接を受けない第2の環状分子をさらに有する。
<34> 上記<32>又は<33>において、第2の環状分子は、その開口部に前記物質を包接してなる。
【0085】
<35> 上記<25>及び<27>~<34>のいずれかにおいて、修飾する工程が、第1の直鎖状分子の末端に第1の置換基を導入する工程である。
<36> 上記<25>及び<27>~<35>において、修飾する工程が、第1の環状分子に第2の置換基を導入する工程である。
【実施例
【0086】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
[実施例1:重量平均分子量2kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX1の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、重量平均分子量2kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール1.0gを水16.6mLに溶解させた。なお、該α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールは、非電離基である水酸基を末端に有した。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌することにより目的の単離ナノシートX1を得た。
単離ナノシート形成の確認は、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。測定条件は次のとおりである。
【0087】
小角X線散乱測定は、Rigaku NANOPIXを用いた。ディテクターにはHypix-3000を用いた。測定に用いたX線の波長は0.154nmであった。カメラ長のキャリブレーションには、ベヘン酸銀の回折ピークを利用してキャリブレーションを行った。測定はすべて室温で行った。
【0088】
位相差顕微鏡には、Nikon ECLIPSE Ts2Rを用いた。カメラにはNikon顕微鏡デジタルカメラDS-Fi3を用いた。測定は室温で行った。
原子間力顕微鏡観察にはBruker Nano Multimode 8を用いた。測定用の針としてAntimony doped silicon cantilever tips(Bruker RTESPA-300)を用いた。共振周波数は300 kHz、ばね定数は40Nm-1であった。測定モードはタッピングモードで、すべて室温で測定を行った。
走査型電子顕微鏡観察には、JEOL JSM-7800Fを用いた。加速電圧は1.0keVで、室温、真空下で測定を行った。以下の実施例、比較例では、すべて同様な条件で実験を行った。
【0089】
図5に、単離ナノシートX10の小角X線散乱測定の結果を示す。図5において、シート構造の形状因子が確認され、単離ナノシートであることが確認できた。
単離ナノシートX1の包接率は91%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは14.6nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから16nmであることが求められた。上記式A:l1=l2=(L-t)/2から、第1及び第2の領域の長さの平均値は0.7nmであった。
【0090】
[実施例2:重量平均分子量4kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX2の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、重量平均分子量4kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール1.0gを水16.6mLに溶解させた。なお、該α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールは、非電離基である水酸基を末端に有した。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌することにより目的の単離ナノシートX2を得た。
【0091】
単離ナノシート形成の確認は、実施例1と同様に、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。
図6に、単離ナノシートX2の小角X線散乱測定の結果を示す。図6において、シート構造の形状因子が確認され、単離ナノシートであることが確認できた。
単離ナノシートX2の包接率は91%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは29.0nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。軸分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから32nmであることが求められた。上記式A:l1=l2=(L1-t)/2から、第1及び第2の領域の長さの平均値は1.5nmであった。
【0092】
[実施例3:重量平均分子量6kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX3の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、重量平均分子量6kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール1.0gを水16.6mLに溶解させた。なお、該α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールは、非電離基である水酸基を末端に有した。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌することにより目的の単離ナノシートX3を得た。
単離ナノシート形成の確認は、実施例1と同様に、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。
【0093】
図7に、単離ナノシートX3の小角X線散乱測定の結果を示す。図7において、シート構造の形状因子が確認され、単離ナノシートであることが確認できた。
単離ナノシートX3の包接率は87%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは21nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから48nmであることが求められた。包接率が87%であるのに対し、単離ナノシートの厚さ(t)が21nmと短すぎることから、図2に示すように、直鎖状分子が一回折れたたまれてU字状となり単離ナノシートが形成されていると考えられる。この場合、上述したとおり、式Bを適用することにより、第1及び第2の領域の長さの平均値はそれぞれ1.5nmと計算された。
【0094】
[比較例1:重量平均分子量20kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを用いた包接錯体の作製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、重量平均分子量20kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌したが単離ナノシートは得られなかった。
小角X線散乱測定により調製した溶液の構造解析を行ったところ、図8に示すとおり、単離シート構造に基づくフリンジが観察されなかった。
【0095】
[実施例4:重量平均分子量10kDaの4分岐水酸基末端ポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX4の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、重量平均分子量10kDaの4分岐水酸基末端ポリエチレングリコール1.0gを水16.6mLに溶解させた。なお、4分岐水酸基末端ポリエチレングリコールは、非電離基である水酸基を末端に有した。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌したところ目的の単離ナノシートX4が得られた。単離ナノシート形成の確認は、実施例1と同様に、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。
【0096】
図9において、シート構造の形状因子が確認され、単離ナノシートであることが確認できた。また、図10に、走査型電子顕微鏡観察による画像を示す。図10から、単離ナノシートが確認できた。
単離ナノシートX4の包接率は45%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは9nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。また、4分岐した鎖それぞれの伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから20nmであることが求められた。本実施例ではn分岐鎖を有する直鎖状分子を用いていることから、上述の式C(式Aと同じである)を適用することにより、第1及び第2の領域の長さの平均値は、(20nm-9nm)/2=5.5nmと計算された
【0097】
[実施例5:水酸基を有する直鎖状分子を用いて作製した単離ナノシートX5の固体表面吸着実験]
実施例1により調製した重量平均分子量2kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX1の水分散液に表面に水酸基を有するシリコン基板を3秒浸漬し、引き上げた後の基板表面の走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、図11に示すとおり、シリコン基板にナノシートが吸着している様子が観察された。
この観察から、単離ナノシートX1は、非電離基である水酸基を有するが該水酸基がシリコン基板表面に対して接着性基として作用することが確認できた。
【0098】
[合成例1:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(重量平均分子量2000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量2000)1gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.95g(12mmol)、ヘプタフルオロブチルクロリド(1.5mL,10mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で、非電離基であるヘプタフルオロブチロイル基を末端に有した目的物、ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(重量平均分子量2000)を得た。
【0099】
[実施例6:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(重量平均分子量2000)とα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX6の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、合成例1で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(非電離・接着性官能基末端、重量平均分子量2000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌することにより目的の単離ナノシートX6を得た。
【0100】
単離ナノシート形成の確認は、実施例1と同様に、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。
単離ナノシートX6の包接率は93%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは16nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから17.2nmであることが求められた。上記式A:l1=l2=(L-t)/2から、第1及び第2の領域の長さの平均値は0.6nmであった。
【0101】
[合成例2:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(重量平均分子量6000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量6000)0.4gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.38g(4.8mmol)、ヘプタフルオロブチルクロリド(0.4mL,2.7mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で、非電離基であるヘプタフルオロブチロイル基を末端に有した目的物、ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(重量平均分子量6000)を得た。
【0102】
[実施例7:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(重量平均分子量6000)とα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX7の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、合成例2で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ヘプタフルオロブチレート(非電離・接着性官能基末端、重量平均分子量6000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌することにより目的の単離ナノシートX7を得た。
単離ナノシート形成の確認は、実施例1と同様に、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。
【0103】
単離ナノシートX7の包接率は85%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは21nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから49.2nmであることが求められた。包接率が85%であるのに対し、単離ナノシートの厚さ(t)が21nmと短すぎることから、図2に示すように、直鎖状分子が一回折れたたまれてU字状となり単離ナノシートが形成されていると考えられる。この場合、上述したとおり、式Bを適用することにより、第1及び第2の領域の長さの平均値はそれぞれ1.8nmと計算された。
【0104】
[合成例3:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ピバレート(重量平均分子量2000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量2000)1gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.95g(12mmol)、ピバロイルクロリド(1.2mL,10mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で、非電離基であるピバロイル基を末端に有した目的物、ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ピバレート(重量平均分子量2000)を得た。
【0105】
[実施例8:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ピバレート(重量平均分子量2000)とα-シクロデキストリンを用いた単離ナノシートX8の調製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、合成例3で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-ピバレート(非電離・接着性官能基末端、重量平均分子量2000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌することにより目的の単離ナノシートX8を得た。
【0106】
単離ナノシート形成の確認は、実施例1と同様に、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行った。
単離ナノシートX8の包接率は54%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは9nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから16.6nmであることが求められた。上述したとおり、式Aを適用することにより、第1及び第2の領域の長さの平均値はそれぞれ3.8nmと計算された。
【0107】
[比較合成例1:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-プロピオネート(重量平均分子量2000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量2000)1gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.95g(12mmol)、プロピオニルクロリド(0.93mL,10mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で目的物を得た。
【0108】
[比較例2:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-プロピオネート(重量平均分子量2000)とα-シクロデキストリンを用いた包接錯体の作製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、比較合成例1で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-プロピオネート(重量平均分子量2000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌したが単離ナノシートは得られなかった。
小角X線散乱測定により調製した溶液の構造解析を行ったところ、単離シート構造に基づくフリンジが観察されなかった。
【0109】
[比較合成例2:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-n-ブチレート(重量平均分子量2000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量2000)1gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.95g(12mmol)、n-ブチルクロリド(1.1mL,10mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で目的物を得た。
【0110】
[比較例3:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-n-ブチレート(重量平均分子量2000)とα-シクロデキストリンを用いた包接錯体の作製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、比較合成例2で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-n-ブチレート(重量平均分子量2000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌したが単離ナノシートは得られなかった。
小角X線散乱測定により調製した溶液の構造解析を行ったところ、単離シート構造に基づくフリンジが観察されなかった。
【0111】
[比較合成例3:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-n-バレリレート(非電離・接着性官能基末端、重量平均分子量2000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量2000)1gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.95g(12mmol)、n-バレリルクロリド(1.2mL,10mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で目的物を得た。
【0112】
[比較例4:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-n-バレリレート(重量平均分子量2000)とα-シクロデキストリンを用いた包接錯体の作製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、比較合成例3で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-n-バレリレート(重量平均分子量2000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌したが単離ナノシートは得られなかった。
小角X線散乱測定により調製した溶液の構造解析を行ったところ、単離シート構造に基づくフリンジが観察されなかった。
【0113】
[比較合成例4:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-メタクリレート(重量平均分子量2000)の合成]
α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール(分子量2000)1gを塩化メチレン19mLに溶解させ、トリエチルアミン0.95g(12mmol)、メタクリロイルクロリド(1.1mL,10mmol)を投入した。その後、室温にて7時間撹拌した。イオン交換水50mLを投入し反応を停止させ、塩化メチレンを用いて抽出を行った。塩化メチレンを減圧下留去した後、エタノール250mLから再結晶を行うことで、99%以上の収率で目的物を得た。
【0114】
[比較例5:ポリエチレングリコール-α,ω-ビス-メタクリレート(重量平均分子量2000)とα-シクロデキストリンを用いた包接錯体の作製]
まず、α-シクロデキストリン4.04gを水16.6mLに溶解させた。
次に、比較合成例4で得られたポリエチレングリコール-α,ω-ビス-メタクリレート(重量平均分子量2000)1.0gを水16.6mLに溶解させた。これらの水溶液を混合し、室温にて一週間撹拌したが単離ナノシートは得られなかった。
小角X線散乱測定により調製した溶液の構造解析を行ったところ、単離シート構造に基づくフリンジが観察されなかった。
【0115】
[実施例9:α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標) F68; PEO76PPO29PEO76,M=8400g/mol)とβ-シクロデキストリンを用いた複数層ナノシートX9の調製]
まず、β-シクロデキストリン0.45gを水25mLに溶解させた。
【0116】
次に、トリブロックコポリマーであるPEO76PPO29PEO76 0.1gを先に調製したβ-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌することにより目的の複数層ナノシートX9を得た。
単離ナノシート形成の確認は、走査型電子顕微鏡観察(図12)及び小角X線散乱測定(図13)により行った。
走査型電子顕微鏡観察(図12)により、ナノシートが複数層からなることを実像から確認した。さらに、小角X線散乱測定(図13)においても、ナノシートの積層構造に基づく構造因子が確認され、ナノシートが複数層からなることを確認できた。また、ピーク位置の解析により、複数層ナノシート間の間隔は36nmであることを確認した。
【0117】
[比較例6:α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標) L61; PEO2PPO29PEO2,M=2000g/mol)とβ-シクロデキストリンを用いたナノシート調製の試み]
実施例9とは、用いたトリブロックコポリマーのPEOの繰り返し単位が、実施例6では「76」であるのに対して、本比較例6では「2」である点が異なるだけで、実施例9と同様に、ナノシートの作製を試みた。
即ち、β-シクロデキストリン水溶液(0.45gを水25mLに溶解)を用意し、それにトリブロックコポリマー0.1gを投入し、室温にて一週間撹拌した。
しかしながら、目的のナノシートは得られなかった。
小角X線散乱測定により、トリブロックコポリマー0.1gを投入した溶液の構造解析を行ったところ、シート構造に基づくフリンジや複数層シート構造に基づく構造因子は観察されなかった(図14)。走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、厚く、大きなブロック状の粒子が観測され、ナノシート構造が形成されていないことを確認した(図15)。
【0118】
[比較例7:α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標) L62; PEO5PPO29PEO5,M=2500g/mol)とβ-シクロデキストリンを用いたナノシート調製の試み]
実施例9とは、用いたトリブロックコポリマーのPEOの繰り返し単位が、実施例6では「76」であるのに対して、本比較例7では「5」である点が異なるだけで、実施例9と同様に、ナノシートの作製を試みた。
即ち、β-シクロデキストリン水溶液(0.45gを水25mLに溶解)を用意し、それにトリブロックコポリマー0.1gを投入し、室温にて一週間撹拌した。
しかしながら、目的のナノシートはほとんど得られなかった。
小角X線散乱測定により、トリブロックコポリマー0.1gを投入した溶液の構造解析を行ったところ、シート構造に基づくフリンジがわずかに観察されただけであった(図16)。走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、ブロック状の粒子が数多く観測され、ナノシート構造がほとんど形成されていないことを確認した(図17)。
【0119】
[比較例8:α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標) L64; PEO14PPO29PEO14,M=2900g/mol)とβ-シクロデキストリンを用いたナノシート調製の試み]
実施例9とは、用いたトリブロックコポリマーのPEOの繰り返し単位が、実施例6では「76」であるのに対して、本比較例8では「14」である点が異なるだけで、実施例9と同様に、ナノシートの作製を試みた。
即ち、β-シクロデキストリン水溶液(0.45gを水25mLに溶解)を用意し、それにトリブロックコポリマー0.1gを投入し、室温にて一週間撹拌した。
しかしながら、目的のナノシートはほとんど得られなかった。
小角X線散乱測定により、トリブロックコポリマー0.1gを投入した溶液の構造解析を行ったところ、シート構造に基づくフリンジがわずかに観察されただけであった(図18)。走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、ブロック状の粒子が数多く観測され、ナノシート構造がほとんど形成されていないことを確認した(図19)。
【0120】
[実施例10:α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標) F68; PEO76PPO29PEO76,M=8400g/mol)とγ-シクロデキストリンを用いたナノシートX10の調製]
まず、γ-シクロデキストリン4.04gを水33.2mLに溶解させた。
次に、PEO76PPO29PEO76 1.0gを先に調製したγ-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌したところ、目的のナノシートX10が得られた。
走査型電子顕微鏡観察により、ナノシートが形成されたことを実像から確認した(図20)。
【0121】
[実施例11:α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコール-block-ポリプロピレングリコール-block-ポリエチレングリコール(Pluronic(登録商標) F108; PEO140PPO56PEO140,M=14600 g/molとγ-シクロデキストリンを用いたナノシートX11の調製]
まず、γ-シクロデキストリン4.04gを水33.2mLに溶解させた。
次に、PEO140PPO56PEO140 1.0gを先に調製したγ-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌したところ、目的のナノシートX11が得られた。
走査型電子顕微鏡観察により、ナノシートが形成されたことを実像から確認した(図21)。
単離ナノシートX11の包接率は26%であった。単離ナノシートは、単層からなりその厚さは31nmであることが小角X線散乱測定からわかった(厚さt)。直鎖状分子の伸びきり鎖長(L)がゲル浸透クロマトグラフィーから117.3nmであることが求められた。上述したとおり、式Aを適用することにより、第1及び第2の領域の長さの平均値はそれぞれ43.2nmと計算された。
【0122】
[実施例12:重量平均分子量20kDaのα,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールとγ-シクロデキストリンを用いたナノシートX12の調製]
まず、γ-シクロデキストリン4.04gを水33.2mLに溶解させた。該α,ω-ビス-ヒドロキシポリエチレングリコールは、非電離基である水酸基を末端に有した。
次に、PEO140PPO56PEO140 1.0gを先に調製したγ-シクロデキストリン水溶液に投入し、室温にて一週間撹拌したところ、目的のナノシートX12を得た。
走査型電子顕微鏡観察により、ナノシートが形成されたことを実像から確認した(図22)。
【0123】
実施例13:ナノシートによるコーティングのガスバリア機能
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。EO75PO30EO75(下付き文字はユニット数)はSigma Aldrichより購入した。
シート状ナノ構造体の調製は次の通りである。 β-CDの18mgを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)1mLに溶解させた。EO75PO30EO75 4mgを調製したβ-CD水溶液1mLに加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一週間で沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をβ-CD/EO75PO30EO75と名付ける。
β-CD/EO75PO30EO75の分散水5mL及び20mLを多孔膜(PMMA-milipore:TYPE JCWP 10.0μm、親水性、空孔直径約10μm)に通し、β-CD/EO75PO30EO75を張り付けた。その後室温で自然乾燥させた。これらの試料をpоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)およびpоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)と名付ける。
多孔膜、pоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)およびpоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)のSEM像をそれぞれ図23(A)、23(B)、23(C)に示す。多孔膜に多数の空孔があいていることを、pоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)ではβ-CD/EO75PO30EO75が空孔を通過せず膜にとどまっている様子を確認できた。pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)では、空孔が完全に覆われている様子を確認することができた。
pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)において空孔が完全に覆われている様子を確認できたため、次に、これを用いて酸素透過性を評価するための試料を作成した。作成法は次の通りである。ニトリルゴムの2wt%の濃度で有機溶媒に溶解し、これにpоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)を浸した。その後、試料を取り出して室温で自然乾燥することで、pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)を担持したニトリルゴムフィルムを作成した。
pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)を担持したニトリルゴムフィルムの酸素透過性を測定したところ、酸素透過係数は18.6 cc・mm/(m2・day・atm)であった。酸素透過係数が、通常のニトリルゴムフィルムの値(18.6 cc・mm/(m2・day・atm))の1/300程度に抑えられていることから、β-CD/EO75PO30EO75が酸素バリア性を有していることがわかった。酸素係数の測定装置と測定条件は以下の通りである:
測定装置:MOCON(登録商標)クーロメトリック酸素透過率測定装置(OX-TRAN(登録商標)2/22L)
検出器:自己加湿型クーロメトリックスセンサー
対応規格:JIS K7126-2(プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第2部:等圧法)
(ISO 15105-2)、ASTM D3985・F1927・F1307
測定温度:23℃
相対湿度:0%
有効膜面積:1cm^2
【0124】
実施例14 ナノシートのUVカット機能
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。EO75PO30EO75(下付き文字はユニット数)はSigma Aldrichより購入した。
シート状ナノ構造体は実施例13と同じ手法で調製した。試料をβ-CD/EO75PO30EO75と名付ける。
β-CD/EO75PO30EO75の分散水のUVカット機能を、紫外可視分光光度計(UV3150、株式会社島津製作所)を用いて評価した。入射光の波長は250nmから800nmとし、吸光度を測定した。
測定結果を図24に示す。UVA(315から400nm)およびUVB(290から320nm)の波長領域において透過率が低く、可視波長領域(400nmから700nm)において光が透過していることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24