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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】耐食性ホットスタンプ部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20220812BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20220812BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20220812BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20220812BHJP
【FI】
C25D7/00 S
C25D5/26 C
C25D5/26 F
C25D5/26 G
C25D5/26 H
C22C18/04
C22C18/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021532412
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 CN2019078414
(87)【国際公開番号】W WO2020113844
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】201811485903.8
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910138561.0
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521246150
【氏名又は名称】蘇州普熱斯勒先進成型技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】Suzhou Pressler Advanced Forming Technologies Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Plant 2, No. 519 Hengchangjing Rd, Zhoushi Town, Kunshan, Jiangsu Province, 215300, China
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】安 健
(72)【発明者】
【氏名】陳 漢杰
(72)【発明者】
【氏名】李 東成
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-500782(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104588473(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0037181(US,A1)
【文献】特開2015-024414(JP,A)
【文献】特開2017-172031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-30/00
C25D 5/00- 7/12
C21D 1/00- 1/84
B21D 22/00-26/14
F27D 7/00- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裸鋼板を必要なブランク形状にブランキングしてブランク材とする工程と、
前記ブランク材を真空加熱炉に入れ、前記真空加熱炉内を真空度0.1~500Paの範囲に達させ、窒素を前記真空加熱炉に吹き込み、前記真空加熱炉内を1気圧に達させた後、前記ブランク材をAC3以上に加熱させ、前記ブランク材をオーステナイト化させる工程と
オーステナイト化された前記ブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる工程と、
前記部品を超音波洗浄もしくは酸洗いし、電気めっきにより前記部品の表面に防食被覆を形成させる工程と、
前記部品に脱水素処理を施す工程と、
を含むことを特徴とする耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項2】
裸鋼板を必要なブランク形状にブランキングしてブランク材とする工程と、
前記ブランク材を真空加熱炉に入れ、前記真空加熱炉内を真空度0.1~500Paの範囲に達させ、窒素を前記真空加熱炉に吹き込み、前記真空加熱炉内を1気圧に達させた後、前記ブランク材をAC3以上に加熱させ、前記ブランク材をオーステナイト化させる工程と
オーステナイト化された前記ブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる工程と、
前記部品を、先に5~10A/dmの電流密度で0.5~2分間電気めっきし、次に1~3A/dmの電流密度で1~15分間電気めっきすることにより、前記部品の表面に防食被覆を形成させる工程と、
を含むことを特徴とする耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項3】
前記部品を電気めっきする前に、先に前記部品を超音波洗浄もしくは酸洗いすることをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項4】
「前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程の後、前記部品に脱水素処理も施すことを特徴とする、請求項2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項5】
前記脱水素処理には、部品を140℃~200℃に加熱し、部品をこの温度にて10~30分間保持することが含まれることを特徴とする、請求項1または4に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項6】
前記真空加熱炉の真空度は、0.1~100Paの範囲であるであることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項7】
前記真空加熱炉が前記ブランク材を加熱及び保温する合計時間は、60~300秒の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項8】
前記ブランク材は、前記真空加熱炉内で880℃~950℃の範囲に加熱されることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項9】
加熱が完了した後の前記ブランク材を前記真空加熱炉から金型内に移すまでの時間は、5~10秒であることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項10】
前記ブランク材が金型内で成形される始める温度は、650℃~850℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項11】
前記金型は、冷却水路を備え、前記冷却水路で成形時に前記ブランク材を30℃/s以上の速度で冷却させることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項12】
前記防食被覆は、亜鉛被覆、亜鉛-鉄合金被覆、亜鉛アルミニウム合金被覆又は亜鉛-ニッケル合金被覆であることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項13】
前記部品を酸洗いする時間は、5~15秒の範囲であることを特徴とする、請求項1または3に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項14】
前記真空加熱炉において、20℃/s~50℃/sの速度で前記ブランク材を加熱することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項15】
前記電気めっきする時、補助陽極もしくはコンフォーマル陽極を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項16】
前記「オーステナイト化された前記ブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる」工程と「前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程との間に前記部品にレーザートリミング又は穴あけをする工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、「耐食性ホットスタンプ部品の製造方法及び装置」と題し、2018年12月06日に出願された、中国特許出願番号第201811485903.8号及び「耐食性ホットスタンプ部品の製造方法及び装置」と題し、2019年2月25日に出願された、中国特許出願番号第201910138561.0号の優先権を主張し、その全内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明は、ホットスタンプ成形技術分野に関し、特に、耐食性ホットスタンプ部品の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、自動車の就役過程で、ホットスタンプ部品は、ホットスタンプ部品自体の耐食性を向上させるために塗装が施されているが、被覆が破壊されると、ホットスタンプ部品が塗膜下腐食を起こしやすくなり、さらに被覆の剥離を招いていた。なお、ホットスタンプ部品の切り口及びその他部品と緊結箇所が塗装時の被覆の厚さ不足又は不均一でも容易に腐食が起きていた。
【0004】
上記の問題を解決するため、無被覆鋼板(裸鋼板とも言う)の代わりに、耐食性に優れた亜鉛めっき22MnB5鋼板又はAl-Siめっき22MnB5鋼板を使用して熱間成形を行うことが多い。亜鉛めっき鋼板の表面には、亜鉛系めっき層と呼ばれるZn-Alめっき層或はZn-Fe-Alめっき層を有し、亜鉛系めっき層は、鋼製部品に能動的又は陰極腐食保護を提供し、鋼製部品が腐食環境で72時間のみならず96時間白錆(白錆はめっき層の発錆をいう)が発生せず、赤錆(赤錆は鋼材の発錆をいう)発生までの時間が長くなることを保証できる。Al-Siめっき層も鋼製部品の腐食に対するバリアを提供できるため、亜鉛めっき鋼板又はAl-Siめっき鋼板で製造されたホットスタンプ部品は、塗装を施すことで二重の耐腐食性を持つ。
【0005】
ただし、ホットスタンププロセスにおいて、鋼板ブランク材が高温で加熱されてから金型内に入れられて成形し、高温状態なるまで加熱された過程で、亜鉛めっき鋼板又はAl-Siめっき層鋼板にいくつかの問題が生じていた。具体的に亜鉛めっき鋼板の場合、まず亜鉛は自体の溶融温度が低いため、容易に液化することで、液体亜鉛が金属脆化により破裂が生じてしまい;次いで加熱昇温の過程で、めっき層内の亜鉛に蒸発及び酸化現象があることで、亜鉛の含有量が減少し、かつ酸化物の密着性が低下し、その後のホットスタンプ部品の塗装効果に影響を与えていた。
【0006】
高温液体による金属が脆化する問題を解決するため、特許文献1には、工程(1)~(5)を含む亜鉛系被覆鋼板又は鋼帯のホットスタンプ成形法が開示され、すなわち(1)ホットスタンプ成形用の鋼板又は鋼帯を製造し、前記ホットスタンプ成形用の鋼板又は鋼帯に亜鉛或は亜鉛-鉄合金を被覆する工程、(2)鋼板又は鋼帯を連続焼鈍炉に入れ、5℃/sを超える加熱速度で鋼板又は鋼帯をAc3より高い温度に加熱し、設定された時間に保温して、鋼板又は鋼帯をオーステナイト化・均質化させる加熱工程、(3)鋼板又は鋼帯を加熱炉から取り出した直後650℃~700℃まで予冷する工程、(4)650℃~700℃の温度で、ホットスタンプ部品の形状及び寸法に合わせて鋼板又は鋼帯を断裁するブランキング工程、(5)ブランキングされた鋼板又は鋼帯をホットスタンプ金型に素早く移動して、ホットスタンプ成形・クエンチングし、成形温度が400~650℃の範囲であるホットスタンプおよびインモールドクエンチング工程。ホットスタンプ成形が完了した後、ブランク材は金型内で冷却され、金型において、或は金型から取り出された後、室温まで冷却してマルテンサイト変態を完了する。400℃~650℃の温度で成形する時、亜鉛めっき板の変形抵抗が大きく、その成形性能は高温での成形ほど良くないため、亜鉛めっき鋼板の温間成形の機械的特性に劣り、スタンピングプロセスで割れしやすい。また、金属亜鉛の融点が低いため、亜鉛めっき鋼板を5℃/sを超える速度で加熱すると、亜鉛層の液化及び揮発が容易に発生し、その後のホットスタンプ部品の塗装効果に影響を与えていた。
【0007】
亜鉛めっき層が加熱過程で揮発しやすいという課題を解決するため、特許文献2にはホットプレス鋼の製造方法及びホットプレス鋼材が開示されている。その具体的な工程は、溶融めっき又は電気めっき方法により亜鉛めっき層に一層の高融点緻密層を形成する。当該緻密層は、加熱時の酸化を防ぎ、耐腐食性を向上させることができる。ただし当該塗膜は、リン酸塩処理性が低く、すなわちリン酸亜鉛、リン酸マンガンとは反応できないため、その後白色のボディ全体への電気泳動処理は困難になる。表面の高融点緻密層を通じて亜鉛層の揮発を防ぐことはできるが、液体亜鉛が高温で液化しやすいという問題を解決することはできていなかった。
【0008】
特許文献3には、亜鉛めっき・温間成形の高強度の中Mn鋼製部品の製造方法を開示し、オンライン溶融亜鉛めっきと次に温間成形する方法を提案する。当該方法は、中Mn鋼を真空加熱炉で750℃~850℃までに加熱してオーステナイト化し、保護ガスが充満している冷却室で500℃まで冷却され、さらに加熱されたブランク材を480℃~500℃の恒温亜鉛浴に入れて溶融亜鉛めっきを施し、最後に乾燥させてブランク材を金型に送り、温間成形する。この方法は、中Mn鋼を溶融亜鉛めっきしてから温間成形を行い、溶融亜鉛めっきの加熱及び温間成形の加熱を併せて1回の加熱で行うことで、省エネルギーと亜鉛層の溶融の防止を目的とする。ただし、このような工程方法は、特殊形状のブランク材への溶融亜鉛めっきが実際の製造において操作が難しく、品質の安定性が低いなどの欠点がある以外に、熱間成形鋼材22MnB5ブランク材に対して500℃以下の温度でスタンプ成形を行うと高いマルテンサイト組織分率を得ることはできないだけではなく、鋼板の成形性は、650℃以上で成形されたものより遥かに劣る。これは、高強度鋼22MnB5材料のマルテンサイト変態のMs点が通常420℃以上で、480℃~500℃の温度範囲内で中温ホットスタンプ成形には適さないためである。
【0009】
Al-Siめっき層鋼板にとって、Ac3(加熱時、フェライトがオーステナイトへの変態を完了する温度)まで加熱する過程で、Al-Siめっき層鋼板内のAl-Si層と鋼基材が互いに拡散し、アルミニウム・鉄・シリコン合金が形成され、このアルミニウム・鉄・シリコン合金の腐食電位が基本的に鋼基材の腐食電位と同じであるため、Al-Siめっき層鋼板の耐腐食性を大幅に低下した。
【0010】
なお、亜鉛めっき鋼板又はAl-Siめっき層鋼板であることを問わず、ホットスタンプを経た後、めっき層に異なる程度のひび割れが生じ、ひび割れが著しくなった時、鋼材基材まで進展する。さらに重要なことは、めっき層鋼板のホットスタンプ時、ブランク材とめっき層が高温軟化状態にあるため、ブランク材が金型で成形された時必然的に金型表面にこすれ、軟化しためっき層が極めてこすれて除去されやすい。このため、めっき層鋼板がホットプレスを経た後も本来の耐腐食性を失う。かつ被覆鋼板のレーザーテイラー溶接を行う時、溶接を容易にするため、通常溶接継目周辺の被覆を除去しなければならないが、溶接を経た後、溶接継目部位に被覆の保護がなく、溶接継目の耐腐食性が極めて劣る。
【0011】
従来のホットスタンプ加熱炉は、通常、保護雰囲気として窒素を導入した有酸素加熱炉(雰囲気炉とも言う)であり、一般的に酸素含有量を0.5%以下に抑えるよう要求する。熱間成形プロセスでは、ブランク材の一般的な加熱時間は3~4分であり、加熱が完了した後、炉を開けてブランク材を取り出し及び投入する必要がある。炉扉を開ける過程で、大気中の酸素が雰囲気炉内に流入し、酸素含有量が大幅に増加するため、大量の窒素を導入して酸素を排出する必要がある。実際の製造プロセスにおいて、雰囲気炉内の酸素含有量は一般的に2%程度にしか抑えることができないため、一般的な雰囲気保護炉では完全に酸化を防止することは困難である。
【0012】
上記をまとめ、従来のホットスタンプ工程及びホットスタンプ部品には、以下の問題がある。
【0013】
1.裸鋼板が加熱時に大量の酸化皮が発生し、成形時に金型の表面を損傷することで、部品の表面品質を破壊し、金型の寿命に影響を与える。
【0014】
2.ホットプレス後の裸鋼板のショットピーニングは、部品の変形につながりやすい。
【0015】
3.めっき鋼板を加熱炉で加熱して溶けた時、炉内ローラなどの支持装置を汚染しやすく、炉内ローラの表面ノジュールなどの支持装置の損傷及びセラミックローラの破損を引き起こす。
【0016】
4.めっき鋼板が加熱時に被覆の溶け及び軟化を招き、成形時に被覆が金型にこすれ、金型の表面に多量の付着物が形成され、部品表面にスクラッチが付きやすい。
【0017】
5.めっき鋼板が加熱された後で部品として成形し、そのめっき層が著しく損傷されることで、耐腐食性が原板材よりもはるかに劣っている。
【0018】
6.Al-Siめっき層の液化を避けるため、Al-Siめっき鋼板は、500℃~700℃でゆっくりと加熱する必要があるため、加熱時間が長くなり、製造効率に影響を与える。
【0019】
7.亜鉛めっきブランク材が直接熱間成形中で、液体亜鉛の発生を避けるために低温成形を用いることで、低温成形温度域(Temperature window)が狭すぎ(成形温度がマルテンサイト変態の開始温度に近すぎ、亜鉛融点と22MnB5のMs点の温度がほぼ同じ)で、実際の製造中の製品の機械的特性を安定させることができない。
【0020】
8.被覆鋼板のレーザーテイラー溶接の時、通常溶接継目周辺の被覆を除去しなければならないが、溶接を経た後、溶接継目部位に被覆の保護がなく、溶接継目の耐腐食性が極めて劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】中国特許出願公開第107127238号明細書
【文献】特許第6191420号公報
【文献】中国特許出願公開第106282878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
先行技術の欠陥を克服するために、本発明の実施形態は、上記問題の少なくとも1つを解決するための耐食性ホットスタンプ部品の製造方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本出願の実施形態では、以下の工程を含む耐食性ホットスタンプ部品の製造方法を開示する。
裸鋼板を必要なブランク材形状にブランキングする工程、
ブランク材を無酸素加熱炉に入れてAC3以上に加熱させ、ブランク材をオーステナイト化させる工程、
オーステナイト化されたブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる工程、
部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる工程。
【0024】
具体的に、「部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる」工程の後、部品に脱水素処理も施す。
【0025】
具体的に、前記脱水素処理には、部品を140℃~200℃に加熱し、部品をこの温度にて10~30分間保持することが含まれる。
【0026】
具体的に、前記無酸素加熱炉としては、不活性ガス保護炉又は真空加熱炉が挙げられる。
【0027】
具体的に、前記真空加熱炉の真空度は、0.1~500Paの範囲である。
【0028】
具体的に、前記真空加熱炉の真空度は、0.1~100Paの範囲である。
【0029】
具体的に、前記無酸素加熱炉がブランク材を加熱及び保温する合計時間は、60~300秒の範囲である。
【0030】
具体的に、ブランク材は、無酸加熱炉内で880℃~950℃の範囲に加熱される。
【0031】
具体的に、加熱が完了した後のブランク材を無酸化加熱炉から金型内に移すまでの時間は、5~10秒である。
【0032】
具体的に、ブランク材が金型内で成形される始める温度は、650℃~850℃である。
【0033】
具体的に、前記金型は、冷却水路を備え、前記冷却水路で成形時にブランク材を30℃/s以上の速度で冷却させる。
【0034】
具体的に、前記防食被覆としては、亜鉛被覆、亜鉛-鉄合金被覆、亜鉛アルミニウム合金被覆又は亜鉛-ニッケル合金被覆が挙げられる。
【0035】
具体的には、「部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる」工程において、前記表面処理には、電気めっきが含まれる。
【0036】
具体的に、前記表面処理は、部品を電気めっきする前に、先に部品を超音波洗浄もしくは酸洗いすることをさらに含む。
【0037】
具体的に、部品を酸洗いする時間は、5~15秒の範囲である。
【0038】
具体的には、「部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる」工程において、先に5~10A/dmの電流密度で部品を0.5~2分間電気めっきし、次に1~3A/dmの電流密度で部品を1~15分間電気めっきする。
【0039】
具体的には、「部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる」工程において、電気めっきする時、補助陽極もしくはコンフォーマル陽極を用いる。
【0040】
具体的には、「オーステナイト化されたブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる」工程と「部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる」工程との間に部品にレーザートリミング又は穴あけをする工程をさらに含む。
【0041】
本出願の実施形態は、本実施形態に記載の製造方法を用い、ブランキング機構と、加熱機構と、成形機構と、表面処理機構と、を備える耐食性ホットスタンプ部品の製造装置も開示する。ここで、
前記ブランキング機構は、裸鋼板を必要なブランク形状にブランキングするために用いられ;
前記加熱機構は、ブランキングした後のブランク材を加熱するために用いられ;
前記成形機構は、加熱が完了した後のブランク材を成形して部品を形成させるために用いられ;
前記表面処理機構は、部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させるために用いられる。
【発明の効果】
【0042】
従来技術と比較すると、本発明は次の利点を有する。
1.裸鋼板をブランキングしてから成るブランク材を加熱及び成形するため、ブランク材のめっき層(裸鋼板にめっき層がない)合金化及び溶融への加熱速度の影響を考慮する必要がないため、20℃/s~50℃/sの速度でブランク材を急速に加熱できる。在来の方法では、アルミニウム被覆鋼板の被覆の合金化又は溶融を防ぐため、通常7~10℃/sの速度でしか被覆鋼板を加熱できない。したがって本発明の方法は、ブランク材の加熱時間を約60~120秒短縮できることで、生産効率を向上させることができる。なお、ブランク材の表面に溶融物がないため、加熱炉や金型の表面を傷つけず、成形後の部品表面にスクラッチ傷が付かない。
【0043】
2.ブランク材は、無酸素環境内で高温にまで加熱され、加熱過程中に酸化されることなく、加熱炉から金型に移す過程で僅かな酸化が起き、この過程におけるブランク材表面の酸化層の厚さがナノメートルで、在来の有酸素加熱下では、ブランク材の表面酸化層の厚さが30~100ミクロンの範囲に達する。在来の加熱酸化と比較すると、本実施形態内のブランク材の酸化程度は、ほとんど無視できるため、ブランク材から成形された部品のショットピーニング工程を省くことができ、ショットピーニングによる部品変形等の問題を防ぐことができる。
【0044】
3.先に裸鋼板を加熱して部品を成形し、次に部品の表面処理を施して防食被覆を得るという技術的手段を講じ、かつ部品の被覆が高温加熱を経ていないため、被覆組織の緻密性も影響を受けず、平滑な緻密性が保たれ、その構造と成分にも変化が起きないため、耐腐食性に影響を受けず、非常に優れている。
【0045】
4.本実施形態の方法で成形された部品は、先にトリミング又は穴あけを経てから電気めっきが施され、部品上のトリミング、穴あけ箇所にめっき層を有するため、部品のトリミング、穴あけ箇所の耐腐食性が極めて良好である。
【0046】
5.部品に水素脆化の少ない電気めっき工程(電気めっきを施す前、低濃度の酸溶液で部品を短時間酸洗いし、電気めっき時、酸性電気めっき工程を用い、陰極電流効率が高く、水素生成が少なく;なお、電気めっき時、先に大電流で短時間電気めっきして、部品表面に緻密層を形成させ、電気めっき時間を短縮させ、水素が部品の基材に侵入するのを減らす)及び脱水素処理を施すと、部品への水素脆化のリスクを大幅に軽減する。
【0047】
本発明の上記目的と他の目的、特徴及び利点をより理解しやすくするため、以下は好ましい実施形態を挙げて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0048】
以下、本発明の実施形態又は従来技術内の技術的手段を明確に説明するため、実施形態又は従来技術の描写に使用する必要がある添付図面を簡単に説明する。以下に描写する添付図面は、本発明のいくつかの実施例のみであり、当業者にとって創造性の活動をしない前提で、それら添付属図面に基づいてその他の添付属図面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の実施形態における耐食性ホットスタンプ部品の製造方法のフローチャートである。
図2】10Paの真空度にて加熱され後の裸鋼板の表面酸化効果を示す図である。
図3】100Paの真空度にて加熱された後の裸鋼板の表面酸化効果を示す図である。
図4】1気圧にて加熱された後の裸鋼板の表面酸化効果を示す図である。
図5】本発明の実施形態における実施例1に係る部品の亜鉛被覆金属組織写真である。
図6】本発明の実施形態における比較例4のAl-Si鋼板の被覆金属組織写真である。
図7】本発明の実施形態における比較例4に係るAl-Si鋼板が加熱された後の被覆金属組織写真である。
図8】本発明の実施形態における比較例4に係るAl-Si鋼板のホットスタンプ成形後の被覆金属組織写真である。
図9】本発明の実施形態における比較例4に係る溶融亜鉛めっき鋼板の被覆金属組織写真である。
図10】本発明の実施形態における比較例4に係る溶融亜鉛めっき鋼板が加熱された後の被覆金属組織写真である。
図11】本発明の実施形態における比較例4に係る溶融亜鉛めっき鋼板がホットスタンプされた後の被覆金属組織写真である。
図12】本発明の実施形態における比較例4に係る裸鋼板のホットスタンプ後720時間の減量塩水噴霧試験を経た腐食状態写真である。
図13】本発明の実施形態におけるにおける比較例4に係るAl-Si鋼板のホットスタンプ後720時間の減量塩水噴霧試験を経た腐食状態写真である。
図14】本発明の実施形態における比較例4に係る溶融亜鉛めっき鋼板のホットスタンプ後720時間の減量塩水噴霧試験を経た腐食状態写真である。
図15】本発明の実施形態における実施例1に係る部品の720時間の減量塩水噴霧試験を経た腐食状態写真である。
図16】本発明の実施形態における比較例4に係る裸鋼板のホットスタンプ後720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動被覆スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図17】本発明の実施形態における比較例4に係るAl-Si鋼板のホットスタンプ後720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動被覆スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図18】本発明の実施形態における比較例4に係る溶融亜鉛めっき鋼板のホットスタンプ後720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動被覆スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図19】本発明の実施形態における実施例1に係る部品の720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動被覆スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図20】本発明の実施形態における比較例4に係る裸鋼板のホットスタンプ後720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動後の基材スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図21】本発明の実施形態における比較例4に係るAl-Si鋼板のホットスタンプ後720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動後の基材スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図22】本発明の実施形態における比較例4に係る溶融亜鉛めっき鋼板のホットスタンプ後720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動後の基材スクラッチ箇所腐食状態写真である。
図23】本発明の実施形態における実施例1に係る部品の720時間の塩水噴霧試験を経た電気泳動後の基材スクラッチ箇所腐食状態写真である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態内の図面を参照して、本発明の実施形態内の技術的手段を明確かつ完全に説明するが、説明する実施形態は本発明の一部の実施形態であり、全ての実施形態でないことは言うまでもない。本発明中の実施形態に基づいて、当業者は創造性の活動をしない前提で得られた全ての他の実施形態は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0051】
図1に示すように、本発明の実施形態は、以下の工程を含む耐食性ホットスタンプ部品の製造方法を提供する。
【0052】
まず、22MnB5の裸鋼板を必要なブランク材の形状にブランキングし、具体的なブランキング方法としては、コールドスタンピング及びレーザーカットが挙げられる。裸鋼板は、一般的に表面にめっき層のない鋼板と理解できる。
【0053】
次に、ブランク材を無酸素加熱炉に入れてAC3(加熱時、フェライトがオーステナイトへの変態を完了する温度)以上に加熱することで、ブランク材をオーステナイト化させる。ここで、前記無酸素加熱炉内のブランク材の最高温度は、860℃~1000℃であり、ブランク材が無酸素加熱炉内で880℃~950℃に加熱される。具体的には、ブランキングされたブランク材を無酸素加熱炉に入れてオーステナイト状態にまで加熱させて保温し、ブランク材中のオーステナイトを均質化させる。前記無酸素加熱炉としては、不活性ガス保護炉又は真空加熱炉が挙げられ、ここで真空加熱炉の真空度が0.1~500Paの範囲であり、好ましくは真空加熱炉の真空度が0.1Pa~100Paの範囲である。具体的には、真空加熱炉の炉扉を閉めた後、真空ポンプを起動させ炉内を40秒~120秒真空引き、真空加熱炉内の真空度を0.1~100Paの範囲に達させ、次に純度が99.999%の窒素を真空加熱炉に吹き込み、真空加熱炉内を1気圧に達させた後炉内発熱体に通電して、発熱体でブランク材を加熱させる。ブランク材への加熱過程で、加熱時間を短縮させるため、発熱体の表面温度を1200℃~2000℃に上げることができる。ブランク材の温度がオーステナイト化温度以上に達した後、発熱体の表面温度が下がり、ブランク材を保温してオーステナイトを均質化させる。異なるブランク材の厚さに応じてブランク材への加熱及び保温時間が60~300秒である。無酸素加熱炉でブランク材を高温状態になるまで加熱することで、ブランク材の酸化現象を大幅に減らすことができるため、成形後の部品の表面品質が極めて良好で、ショットピーニング工程を省くことができ、かつ加熱後の部品表面にも残留酸化物がほぼなく、部品の電気めっき前の酸洗い時間を大幅に減らし、部品の電気めっきプロセス中で水素脆化が起きるリスクも大幅に軽減する。
【0054】
次に、エンドエフェクタでオーステナイト化されたブランク材を速やかに金型内に入れて成形することで、部品を形成させる。具体的には、ブランク材を加熱炉から金型内に移す時間は、5~10秒であり、高温のブランク材を空気に晒させる時間を減らし、高温のブランク材が酸化されるのを防ぎ、高温のブランク材の温度も大幅に下がるのも防ぐ。本実施形態において、この成形方法は、ホットスタンプ成形であり、ブランク材を無酸素加熱炉から取り出した時の温度が880~950℃の範囲であり、ブランク材が金型内で成形され始める温度は650~850℃の範囲であり、鋼板が優れた成形性を得るのに貢献する。前記金型は、冷却水路を備え、部品の成形時30℃/s以上の速度で冷却させ、部品に優れた機械的特性を持たせるよう確保する。
【0055】
次に部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる。具体的に前記表面処理は、部品に電気めっきを施すことを含み、前記防食被覆が電気めっき層を含み、さらに前記防食被覆としては亜鉛被覆、亜鉛アルミニウム合金被覆、亜鉛-鉄合金被覆又は亜鉛-ニッケル合金被覆が挙げられる。ここで、純亜鉛は、犠牲陽極保護効果を有するが、腐食速度が速いため、アルミニウム含有量が3%~10%の範囲にある時、亜鉛アルミニウム合金被覆が高い耐腐食性を持ち、かつアルミニウム含有量が増えるにつれ、耐食性が全体的に増加の傾向となる。ただし、アルミニウムの質量百分率が15~25%の範囲内にある時、亜鉛アルミニウム合金被覆の耐食性が再び低下するため、前記亜鉛アルミニウム合金被覆において、アルミニウムの重量パーセントは3%~10%の範囲であることが好ましい。純亜鉛被覆と比較すると、少量の鉄を含有する亜鉛-鉄合金の耐食性が数倍以上上がり、鉄の質量百分率が10%~18%の場合、亜鉛-鉄合金被覆と鋼板の結合力が最も良く、スケールと割れ・剥がれが起きにくい。成形後の部品の場合、亜鉛-鉄合金被覆内の鉄含有量が0.3%~0.6%の時、部品も純亜鉛被覆の耐腐食より5倍アップの効果を得ることができる。これにより、前記亜鉛-鉄合金被覆において、鉄の質量百分率は1%未満又は10~20%の範囲であることが好ましい。なお、亜鉛-鉄合金被覆を有する部品は、鉄元素を有するため、その後の溶接工程での部品の溶接性能により優れている。不動態化後、ニッケル<10%(質量百分率)を含有する合金被覆の耐食性は、亜鉛めっき層より3~5倍アップし、ニッケル10%~15%(質量百分率)を含有する亜鉛-ニッケル合金被覆の耐食性が純亜鉛被覆の6~10倍である。亜鉛-ニッケル合金被覆に適度な空隙があり、脱水素しやすく、被覆自体の水素脆化性も小なく、かつ亜鉛-ニッケル合金の電気めっき後の耐中性塩水噴霧時間が720時間を超えるため、電気泳動塗装工程を省くことができるので、前記亜鉛-ニッケル合金被覆内のニッケルの重量パーセントは5~15%の範囲であることが好ましい。
【0056】
さらに、超強力鋼は、水素脆化の感受性を持つので、部品の電気めっき過程中に水素脆化のリスクを低減するため、電気めっきする前、超音波もしくは弱酸で部品を5~10秒間洗浄することができる。なお、部品電気めっき過程中に低水素脆化の電気めっき工程を用い、めっき層の厚さの要件に応じて先に5~10A/dmの電流密度で部品を0.5~2分間めっきし、部品の表面に一層の緻密な薄い電気めっき層を形成させ、水素原子が鋼基材に入るのを阻害し、その後1~3A/dmの電流密度で部品を5~15分間電気めっきし、部品の表面に必要な厚さの電気めっき亜鉛層を形成させる。部品の電気めっきが完了した後、部品を140℃~200℃の範囲まで加熱し、この温度にて部品を10~30分間保持し、部品に脱水素処理を施すことで部品の機械的特性を向上する。
【0057】
さらに、「オーステナイト化されたブランク材を金型に入れて成形させることで、部品を形成させる」工程と「部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させる」工程との間に部品にレーザートリミング又は穴あけをする工程をさらに含む。先に部品を電気めっきしてからトリミング又は穴あけをする工程と比較すると、先にトリミング又は穴あけをしてから電気めっきする技術的手段は、電気めっき液を節約できる。さらに重要なことは、部品のトリミング又は穴あけ箇所も電気めっきされることで、電気めっき層が生じ、部品のトリミング又は穴あけ箇所を電気めっき層で保護して耐腐食性を向上させることである。
【0058】
以下の4つの具体的実施例で本実施形態を詳細に説明する。
【0059】
(実施例1)
1.厚さ1.4mmの22MnB5裸鋼板をブランキングして必要な形状のブランク材を得た。
2.ブランク材を真空加熱炉に入れ、真空加熱炉の炉扉を閉めた後、真空ポンプを起動させ、真空加熱炉の真空度が100Paになるまで炉チャンバーを80秒真空引き、次に炉内の圧力が1気圧になるまで真空加熱炉に99.999%の窒素を導入し、次に炉内の発熱体をオンにしてブランク材を加熱する。ブランク材を930℃まで加熱し、この温度にてブランク材を保持し、ブランク材を加熱及び保温する合計時間は140秒であった。ブランク材の保温時間が終了した後に炉扉を開けて取り出した。
3.オーステナイト化されたブランク材を冷却水のある金型に速やかに入れて熱間成形して、部品を形成させた。
4.部品をレーザートリミングした。
5.酸性亜鉛めっき工程で部品を電気めっきした。ここで、電気めっきする前、超音波で部品を20秒洗浄し、酸洗いが5~10%の塩酸で5~10秒酸洗いし、電気めっき亜鉛工程は、酸性電気めっき工程であり、陰極分極効率の高い酸性塩化カリウムで電気めっきし、ここで電気めっき液の各成分及びその含有量は塩化カリウム200g/L、亜鉛イオン32g/L、ホウ酸27g/L、浴温26℃、PH値4.5であり、8A/dmの大電流で30秒めっきした後2A/dmの小電流で8分間の通常の電気めっきを施し、形成しためっき層の厚さは5umであった。
6.電気めっき後の部品に脱水素処理を施し、具体的には電気めっき後の部品を160℃に加熱し、この温度にて部品を20分間保持した。
【0060】
(実施例2)
1.厚さ1.4mmの22MnB5裸鋼板をブランキングして必要な形状のブランク材を得た。
2.ブランク材を真空加熱炉に入れ、真空加熱炉の炉扉を閉めた後、真空ポンプを起動させ、真空加熱炉の真空度が10Paになるまで炉チャンバーを40秒真空引き、次に炉内の圧力が1気圧になるまで真空加熱炉に99.999%の窒素を導入し、次に炉内の発熱体をオンにしてブランク材を加熱する。ブランク材を930℃まで加熱すると共に保温し、ブランク材を加熱及び保温する合計時間は140秒であった。ブランク材の保温時間が終了した後に炉扉を開けて取り出した。
3.オーステナイト化されたブランク材を冷却水のある金型に入れて熱間成形して、部品を形成させた。
4.部品をレーザートリミングした。
5.アルカリ性亜鉛めっき工程で部品を電気めっきした。ここで、電気めっきする前、質量濃度8%の塩酸で部品を10秒洗浄し、電気めっき亜鉛工程は、アルカリ性電気めっき工程であり、ここで電気めっき液の各成分及びその含有量は水酸化ナトリウム130g/L、亜鉛イオン12g/L、PH値9であり、6A/dmの大電流で60秒めっきした後2A/dmの小電流で15分間の通常の電気めっきを施し、形成しためっき層の厚さは8umであった。
6.電気めっき後の部品に脱水素処理を施し、具体的には電気めっき後の部品を190℃に加熱し、この温度にて部品を15分間保持した。
【0061】
(実施例3)
1.厚さ1.4mmの22MnB5裸鋼板をブランキングして必要な形状のブランク材を得た。
2.ブランク材を真空加熱炉に入れ、真空加熱炉の炉扉を閉めた後、真空ポンプを起動させ、真空加熱炉の真空度が50Paになるまで炉チャンバーを90秒真空引き、次に炉内の圧力が1気圧になるまで真空加熱炉に99.999%の窒素を導入し、次に炉内の発熱体をオンにしてブランク材を加熱する。ブランク材を930℃まで加熱すると共に保温し、ブランク材を加熱及び保温する合計時間は140秒であった。ブランク材の保温時間が終了した後に炉扉を開けて取り出した。
3.オーステナイト化されたブランク材を冷却水のある金型に速やかに入れて熱間成形して、部品を形成させた。
4.部品をレーザートリミングした。
5.アルカリ性亜鉛めっき工程で部品を電気めっきした。ここで、電気めっきする前、超音波で部品を20秒洗浄し、電気めっき液の各成分及びその含有量は硫酸亜鉛80g/L、塩化第二鉄7g/L、リン酸二水素ナトリウム36g/L、ピロリン酸カリウム25g/L、PH 値8.5であり、電流密度が2.1A/dm、めっき層の厚さが6umであり、めっき層における鉄の質量分率は 0.3%~0.6%であった。
6.電気めっき後の部品に脱水素処理を施し、具体的には電気めっき後の部品を170℃に加熱し、この温度にて部品を25分間保持した。
【0062】
(比較例4)
裸鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、Al-Si被覆鋼板を炉内温度が930℃の在来の雰囲気ローラーハース加熱炉内で4分間加熱して、ブランク材をオーステナイト化させてからホットスタンプ成形を行なった。
【0063】
実施例1~3の部品及び比較例4の熱間成形後の部品について金属組織被覆を観察し、部品に対し720時間の塩水噴霧試験及びスクラッチ試験を行い、機械的特性試験及び水素含有量試験の比較を行った。
【0064】
図2図4に示すように、異なる真空度で裸鋼板を加熱し、裸鋼板の酸化結果は、10Pa及び100paの真空度下で基本的に酸化が起こらず、通常の大気圧下では裸鋼板の酸化が著しいことを示している。
【0065】
図5図11は、異なる被覆の鋼板が加熱及び熱間成形後の被覆断面金属組織写真である。比較例4におけるAl-Si被覆鋼板及び溶融亜鉛めっき被覆鋼板の原材被覆は緻密であるが、加熱及びホットスタンプ成形を経た後、被覆の損傷が激しい。実施例1~3内の裸鋼板は、加熱及びホットスタンプ成形を経てから電気めっきしたため、亜鉛被覆は緻密で損傷がなかった。
【0066】
図12図23、及び表1の結果から分かるように、720時間の減量塩水噴霧試験を経た後、比較例4における裸鋼板に対応する部品腐食が最も激しく、次いで溶融亜鉛めっき鋼板であり、Al-Si鋼板の腐食速度は1.38×10-4g/mmであり、実施例1~3における裸鋼板から成形された部品の腐食速度は5.74×10-6g/mmと低く、その耐腐食性が比較例4におけるAl-Si鋼板に対応する部品の耐腐食性より20倍以上高い。スクラッチ腐食幅の試験は、熱間成形前の各部品の表面スクラッチ幅が均しく1mm程度であるが、720時間の塩水噴霧腐食を経た後、比較例4における裸鋼板及びAl-Si被覆鋼板基材の腐食幅が各々1.54mm及び3.22mmであり、実施例1における電気めっき亜鉛部品は犠牲陽極保護効果を有するため、その基材に腐食がなかったことを示している。
【0067】
【表1】
【0068】
表2は、実施例1と比較例4の熱間成形部品の機械的特性結果及び水素含有量試験結果を示す。表から分かるように裸鋼板ホットスタンプ後の亜鉛めっき及び裸鋼板ホットスタンプ後の亜鉛めっき・加熱・脱水素処理後の引張強度、降伏強度及び伸びは、いずれも熱間成形の製造基準を満たし、裸鋼板の熱間成形後の亜鉛めっきの水素含有量もAl-Si鋼板とほぼ同じである。
【0069】
【表2】
【0070】
本実施形態は、本実施形態に記載の製造方法を用い、ブランキング機構と、加熱機構と、成形機構と、表面処理機構と、を備える耐食性ホットスタンプ部品の製造装置も提供する。ここで、
前記ブランキング機構は、裸鋼板を必要なブランク形状にブランキングするために用いられ;
前記加熱機構は、ブランキングした後のブランク材を加熱するために用いられ;
前記成形機構は、加熱が完了した後のブランク材を成形して部品を形成させるために用いられ;
前記表面処理機構は、部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させるために用いられる。
【0071】
本発明では本発明の原理及び実施形態を説明するために具体的実施例を使用し、以上の実施例が本発明の方法及びその中核的な思想の理解を助けるためにのみ使用され、同時に当業者は本発明の思想に基づいて、具体的実施形態及び応用範囲を変更することができる。上記をまとめ、本明細書の内容は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0072】
(付記)
(付記1)
裸鋼板を必要なブランク材形状にブランキングする工程と、
前記ブランク材を無酸素加熱炉に入れてAC3以上に加熱させ、前記ブランク材をオーステナイト化させる工程と、
オーステナイト化された前記ブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる工程と、
前記部品に表面処理を施し、前記部品の表面に防食被覆を形成させる工程と、
を含むことを特徴とする耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0073】
(付記2)
「前記部品に表面処理を施し、前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程の後、前記部品に脱水素処理も施すことを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0074】
(付記3)
前記脱水素処理には、部品を140℃~200℃に加熱し、部品をこの温度にて10~30分間保持することが含まれることを特徴とする、付記2に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0075】
(付記4)
前記無酸素加熱炉としては、不活性ガス保護炉又は真空加熱炉が挙げられることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0076】
(付記5)
前記真空加熱炉の真空度は、0.1~500Paの範囲であることを特徴とする、付記4に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0077】
(付記6)
前記真空加熱炉の真空度は、0.1~100Paの範囲であるであることを特徴とする、付記5に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0078】
(付記7)
前記無酸素加熱炉が前記ブランク材を加熱及び保温する合計時間は、60~300秒の範囲であることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0079】
(付記8)
前記ブランク材は、無酸化加熱炉内で880℃~950℃の範囲に加熱されることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0080】
(付記9)
加熱が完了した後の前記ブランク材を無酸化加熱炉から金型内に移すまでの時間は、5~10秒であることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0081】
(付記10)
前記ブランク材が金型内で成形される始める温度は、650℃~850℃であることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0082】
(付記11)
前記金型は、冷却水路を備え、前記冷却水路で成形時に前記ブランク材を30℃/s以上の速度で冷却させることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0083】
(付記12)
前記防食被覆としては、亜鉛被覆、亜鉛-鉄合金被覆、亜鉛アルミニウム合金被覆又は亜鉛-ニッケル合金被覆が挙げられることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0084】
(付記13)
「前記部品に表面処理を施し、前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程において、前記表面処理には、電気めっきが含まれることを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0085】
(付記14)
前記表面処理は、前記部品を電気めっきする前に、先に前記部品を超音波洗浄もしくは酸洗いすることをさらに含むことを特徴とする、付記13に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0086】
(付記15)
前記部品を酸洗いする時間は、5~15秒の範囲であることを特徴とする、付記14に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0087】
(付記16)
「前記部品に表面処理を施し、前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程において、先に5~10A/dmの電流密度で前記部品を0.5~2分間電気めっきし、次に1~3A/dmの電流密度で前記部品を1~15分間電気めっきすることを特徴とする、付記13に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0088】
(付記17)
「前記部品に表面処理を施し、前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程において、電気めっきする時、補助陽極もしくはコンフォーマル陽極を用いることを特徴とする、付記13に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0089】
(付記18)
前記「オーステナイト化された前記ブランク材を速やかに金型に入れて成形させることで、部品を形成させる」工程と「前記部品に表面処理を施し、前記部品の表面に防食被覆を形成させる」工程との間に前記部品にレーザートリミング又は穴あけをする工程をさらに含むことを特徴とする、付記1に記載の耐食性ホットスタンプ部品の製造方法。
【0090】
(付記19)
付記1~18のいずれか一つに記載の製造方法を用い、
裸鋼板を必要なブランク形状にブランキングするためのブランキング機構と、
ブランキングした後のブランク材を加熱するための加熱機構と、
加熱が完了した後のブランク材を成形して部品を形成させるための成形機構と、
部品に表面処理を施し、部品の表面に防食被覆を形成させるための表面処理機構と、
を備えることを特徴とする、耐食性ホットスタンプ部品の製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23