(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20220812BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220812BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220812BHJP
【FI】
G11B5/84 A
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2017205054
(22)【出願日】2017-10-24
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】巣河 慧
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-001811(JP,A)
【文献】特開2009-050920(JP,A)
【文献】特開2010-170650(JP,A)
【文献】特開2019-008858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
C09K 3/14
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水と、酸および/またはその塩とを含み、
前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、
前記アミド基を有する単量体が、N-
n-ブチルアクリルアミド
、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N
-n-ブチルメタクリルアミド
、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、のいずれかであり、
pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカの平均粒子径(D50)が1~100nmであり、組成物中の濃度が1~50質量%である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が50~95mol%、アミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合が1~40mol%、スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が0.01~20mol%の範囲にある請求項1または2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記
スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体である請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
前記
研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.5~3.0の範囲にある請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
前記
酸および/またはその塩が、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、有機ホスホン酸および/またはその塩からなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
前記研磨剤組成物が酸
化剤をさらに含有している請求項
1~7
のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられる請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用される研磨剤組成物に関する。特に、ガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用される研磨剤組成物に関する。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用される研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル-リンめっき皮膜表面を研磨するための研磨剤組成物として、磁気記録密度向上を目的として、種々の研磨特性向上が求められている。例えば、スクラッチについては、スクラッチ部分が書き込みや読み込みのエラー原因となったり、スクラッチの周りに生じたバリの部分で、ヘッドの衝突等の原因となったりすることもある。
【0003】
そこで、スクラッチ低減の観点から、研磨剤組成物の機械研磨を担う砥粒部分として、コロイダルシリカがアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に使用されるようになってきている。その際、工業的な研磨においては、研磨剤組成物の機械研磨を担う砥粒部分と、化学研磨を担う薬剤部分とが、実際の研磨の直前に混合して使用されることが多い。
【0004】
しかし、砥粒部分としてのコロイダルシリカと薬剤成分が混合されると、コロイダルシリカは凝集傾向になる。この対策として、粗大粒子や凝集粒子を除去したり、研磨剤の腐食性の調整(特許文献1)、粒子の形状の調整(特許文献2)、凝集粒子の含有量の調整(特許文献3)などの提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-120850号公報
【文献】特開2009-172709号公報
【文献】特開2010-170650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに磁気記録密度向上の観点から、スクラッチ低減だけでなく、新たにハレーション低減とうねり低減も求められてきている。
ここでいうハレーションとは、後述の実施例に記載の基板全表面欠陥検査機((株)日立ハイテクファインシステムズ社製NS2000H)で特定の検査条件において、基板表面に微細な欠陥として検出することができ、ハレーションカウントとして定量評価できる。
【0007】
ハレーションは、基板表面のなんらかの微細な不均一性が基板の広い範囲に存在することに起因する現象と考えられており、その原因としては、研磨パッド、キャリア、基板、研磨剤組成物のそれぞれの持つ特性の不調和が考えられている。最近、ハレーションの存在が磁気記録密度向上の阻害要因として新たに問題となってきており、ハレーション低減が求められている。
【0008】
一方、うねりに関しては、従来から、基板表面全体のうねりの平均値を低減させることが求められている。それに加えて、さらに基板表面の中心部から外周部に向かうにつれて平均値およびバラツキが増加傾向になる場合もあり、磁気記録密度向上の阻害要因として問題となってきている。
【0009】
本発明の課題は、生産性を低下させることなく、研磨後の基板のうねり低減のみならずハレーション低減も達成するための磁気ディスク基板用研磨剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、以下の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いることにより、生産性を低下させることなく、うねり低減とハレーション低減を実現し、本発明に到達した。
【0011】
[1] コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水と、酸および/またはその塩とを含み、前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記アミド基を有する単量体が、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、のいずれかであり、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0012】
[2] 前記コロイダルシリカの平均粒子径(D50)が1~100nmであり、組成物中の濃度が1~50質量%である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0013】
[3] 前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が50~95mol%、アミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合が1~40mol%、スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が0.01~20mol%の範囲にある前記[1]または[2]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0014】
[4] 前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である前記[1]~[3]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0016】
[5] 前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体である前記[1]~[4]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0017】
[6] 前記研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.5~3.0の範囲にある前記[1]~[5]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0018】
[7] 前記酸および/またはその塩が、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、有機ホスホン酸および/またはその塩からなる群より選ばれる1種または2種以上である前記[1]~[6]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0019】
[8] 前記研磨剤組成物が酸化剤をさらに含有している前記[1]~[7]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0020】
[9] 無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられる前記[1]~[8]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、研磨速度を維持しながら、研磨後のうねり低減とハレーション低減を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない範囲において、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
1.研磨剤組成物
本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水と、を含むものである。
【0024】
(1)コロイダルシリカ
本発明で使用されるコロイダルシリカは、平均粒子径(D50)が1~100nmであることが好ましい。より好ましくは、2~80nmである。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法で得られる。またはテトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で、酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法でも得られる。
【0025】
コロイダルシリカは球状、鎖状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカとしては、球状または球状に近いコロイダルシリカが好ましい。
【0026】
研磨剤組成物中のコロイダルシリカの濃度は、1~50質量%であることが好ましい。より好ましくは、2~40質量%である。
【0027】
(2)水溶性高分子化合物
本発明で使用される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体と、アミド基を有する単量体と、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である。
【0028】
(2-1)カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0029】
(2-2)アミド基を有する単量体
アミド基を有する単量体としては、α,β-エチレン性不飽和アミドを用いることが好ましい。より具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸アミドが挙げられる。
【0030】
さらに好ましくは、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどが挙げられる。N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどの好ましい具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。なかでも、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドなどが好ましい。
【0031】
(2-3)スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0032】
(2-4)共重合体
本発明で使用される水溶性高分子化合物は、これらの単量体成分を組み合わせて重合することにより、共重合体とすることが好ましい。共重合体の組み合わせとしては、アクリル酸および/またはその塩とN-アルキルアクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせ、アクリル酸および/またはその塩とN-アルキルメタクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とN-アルキルアクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とN-アルキルメタクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせなどが好ましく用いられる。
【0033】
なかでも、N-アルキルアクリルアミドまたはN-アルキルメタクリルアミドのアルキル基が、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基からなる群より選択される少なくとも1つであるものが特に好ましく用いられる。
【0034】
水溶性高分子化合物中の、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、50~95mol%が好ましく、60~93mol%がより好ましく、70~90mol%がさらに好ましい。アミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、1~40mol%が好ましく、3~30mol%がより好ましく、5~20mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、0.01~20mol%が好ましく、0.1~10mol%がより好ましく、0.2~5mol%がさらに好ましい。
【0035】
(2-5)水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0036】
上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0038】
ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても又は2種類以上を併用してもよい。
【0039】
上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0040】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0041】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0042】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール及びチオフェノール等が挙げられる。
【0043】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。
【0044】
また、重合反応は、加圧又は減圧下で行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は2~20時間、特に3~10時間程度で行うことが好ましい。
【0045】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0046】
中和後、もしくは中和を行わなかった場合の水溶性高分子化合物のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、1~13が好ましく、2~9がさらに好ましく、より好ましくは3~8である。
【0047】
(2-6)重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、1,000~1,000,000であり、好ましくは、2,000~800,000であり、さらに好ましくは、3,000~600,000である。尚、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0048】
(2-7)濃度
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物中の濃度は、固形分換算で好ましくは0.0001~2.0質量%であり、より好ましくは0.001~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.005~0.5質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が、0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分に得られず、2.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することになるので経済的でない。
【0049】
(3)酸および/またはその塩
本発明では、pH調整のために、または任意成分として酸および/またはその塩を使用することができる。使用される酸および/またはその塩としては、無機酸および/またはその塩と有機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0050】
無機酸および/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸および/またはこれらの塩が挙げられる。
【0051】
有機酸および/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸および/またはこれらの塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸および/またはこれらの塩、有機ホスホン酸および/またはその塩などが挙げられる。これらの酸および/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0052】
有機ホスホン酸および/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0053】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸とリン酸の組み合わせ、リン酸と有機ホスホン酸の組み合わせ、またはリン酸と有機ホスホン酸塩との組み合わせなどが挙げられる。
【0054】
(4)酸化剤
本発明では、研磨促進剤として酸化剤を使用することができる。使用される酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの、等を用いることができる。
【0055】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸およびその塩などが好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0056】
研磨剤組成物中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5.0質量%である。
【0057】
2.研磨剤組成物の物性(pH)
本発明の研磨剤組成物のpH値(25℃)の範囲は、0.1~4.0である。好ましくは、0.5~3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、うねりを抑制することができる。研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0058】
本発明の研磨剤組成物は、ハードディスクといった磁気記録媒体などの種々の電子部品の研磨に使用することができる。特に、アルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に用いられる。さらに好適には、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いることができる。無電解ニッケル-リンめっきは、通常、pH値(25℃)が4~6の条件下でめっきされる。pH値(25℃)が4以下の条件下で、ニッケルが溶解傾向に向かうためめっきしにくくなる。一方、研磨においては、例えば、pH値(25℃)が4.0以下の条件下でニッケルが溶解傾向となるため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることができる。
【0059】
3.磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、アルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下、アルミディスク)の研磨での使用に適している。
【0060】
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミディスク)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法(ポリッシングと呼ばれている)がある。例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤および下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤および下定盤に貼り付けた研磨パッドでアルミディスクを挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。
【0061】
研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【0062】
研磨では、通常、平均粒子径の大きい研磨材を含有する研磨剤組成物を用いて対象物の表面を深めに粗く削っていく粗研磨といわれる工程を行い、続いて、粗研磨が施された表面を対象として、平均粒子径の小さい研磨材を含有する研磨剤組成物を用いて少しずつ削っていく仕上げ研磨といわれる工程を行う。また、粗研磨の工程が複数の研磨工程で行われる場合がある。本発明の研磨剤組成物は、仕上げ研磨の工程に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0064】
[研磨剤組成物の調製方法]
実施例1~11、比較例1~8で使用した研磨剤組成物は、表1に記載の材料を、表1に記載の含有量または添加量で含んだ研磨剤組成物である。尚、表1でアクリル酸の略号をAA、N-tert-ブチルアクリルアミドの略号をTBAA、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の略号をATBSとした。
【0065】
【0066】
コロイダルシリカIは、平均粒子径(D50)が21nmの市販品である。コロイダルシリカIIは、平均粒子径(D50)が29nmの市販品である。
【0067】
研磨剤組成物のpH値(25℃)が1.2になるように、硫酸を0.8質量%実施例1~10・比較例1~8に含有させた。一方、実施例11では、研磨剤組成物のpH値(25℃)が1.2になるように、リン酸を0.8質量%、硫酸を0.6質量%含有させた。全ての実施例・比較例に、酸化剤として過酸化水素を0.6質量%含有させた。
【0068】
[水溶性高分子化合物]
水溶性高分子化合物は、表1に記載した通り、合成番号1~12の重合体を使用した。尚、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
【0069】
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)+G2500PWXL(東ソー(株)製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容量比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:210nm(UV)
サンプル:濃度5mg/ml(注入量100μl)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(ピークトップ分子量:Mp)11.5万、
2.8万、4100、1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp.)
【0070】
[コロイダルシリカの粒子径]
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒子径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0071】
[研磨条件]
無電解ニッケル-リンめっきされた外径95mmのアルミニウム磁気ディスク基板を粗研磨したものを研磨対象として研磨を行った。
研磨機:スピードファム(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製 P2用パッド
定盤回転数:上定盤 -8.3min-1
下定盤 25.0min-1
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 300秒
加工圧力: 11kPa
各成分を混合して研磨剤組成物を調製した後、目開き0.45μmのフィルターを通して研磨機に導入し、研磨試験を実施した。研磨試験の結果を表2と表3に示した。
【0072】
[研磨したディスク表面の評価]
[研磨速度]
研磨速度は、研磨後に減少したアルミニウム磁気ディスク基板の質量を測定し、下記式に基づいて計算した。
研磨速度(μm/min)=アルミニウム磁気ディスク基板の質量減少(g)/研磨時間(min)/アルミニウム磁気ディスク基板の片面の面積(cm2)/無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度(g/cm3)/2×104
(ただし、上記式中、アルミニウム磁気ディスク基板の片面の面積は65.9cm2,無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度は8.0g/cm3)
【0073】
[研磨後の基板周辺部のうねり平均値とバラツキ評価方法]
基板外周部のうねりの平均値とバラツキは、アメテック株式会社製3次元光学プロファイラーNew View 8300を使用して測定した。
測定条件は以下の通りである。
レンズ 10倍Mirau型
ZOOM 1.0倍
Measurement Type Surface
Measure Mode CSI
Scan Length 5μm
Camera Mode 1024×1024
Filter Band Pass
Cut Off Short 20.000μm
Long 100.000μm
測定ポイント
半径 46.15mm
角度 10°毎に36点
基板周辺部のうねりは、上記測定条件で測定した。上記36点の観測ポイントのうねりの平均値およびSTDEV(標準偏差)を求めた。
【0074】
[研磨後の基板表面のハレーション評価方法]
ハレーションは、基板全表面欠陥検査機(株)日立ハイテクファインシステムズ社製NS2000Hを使用して測定した。
測定条件は以下の通りである。
PMT/APD Power Control Voltage
Hi-Light1 OFF
Hi-Light2 900V
Scan Pitch 3μm
Inner/Outer Radius 18.0000-47.0000mm
Positive Level 76mV
H2 White Spot Level 80.0mV
ハレーションは、上記測定条件において、基板表面上の微細な欠陥として検出され、ハレーションカウントとして定量評価できる。
【0075】
【0076】
【0077】
[考察]
表2は、研磨剤組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)の平均粒子径が21nmの場合の結果であるが、カルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体からなる共重合体を使用した実施例(実施例1~8)は、カルボン酸基を有する単量体からなる単独重合体(比較例1、4)、カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体からなる共重合体(比較例3、5、6)、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体からなる共重合体(比較例2)を使用した各比較例よりも研磨速度、うねり、ハレーションのバランスが優れている。
【0078】
また、表3は、研磨剤組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)の平均粒子径が29nmの場合の結果であるが、カルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体からなる共重合体を使用した実施例(実施例9、10、11)は、カルボン酸基を有する単量体からなる単独重合体(比較例7)、カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体からなる共重合体(比較例8)を使用した各比較例よりも研磨速度、うねり、ハレーションのバランスが優れている。
【0079】
尚、表2の研磨試験結果に対して表3の研磨試験結果は、全体的にハレーションカウントが大きくなっているが、これは砥粒として使用したコロイダルシリカの平均粒子径の相違によるものである。
【0080】
以上のことから明らかなように、研磨剤組成物中の水溶性高分子化合物として、カルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体を含有する共重合体を使用することにより、研磨速度、うねり、ハレーションのバランスを良好なものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に使用することができる。