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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】履帯
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/26 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
B62D55/26 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018081469
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019188909
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】久禮 一樹
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-122690(JP,U)
【文献】実開昭49-002031(JP,U)
【文献】特開平08-337185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/26
B62D 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地面を有する履板を複数備え、複数の前記履板が一方向に並んで一体化された履帯において、
前記接地面から突出するグローサを複数備え、
複数の前記グローサが前記一方向に等間隔に並んで配置され、
複数の前記グローサは、第一グローサと、第二グローサと、第三グローサとを有し、
2つの前記第一グローサの間に、2つの前記第二グローサと、1つの前記第三グローサとが、前記第二グローサ、前記第三グローサ、前記第二グローサの順に並んで配置され、
前記第一グローサの前記接地面からの突出高さは、前記第三グローサの前記突出高さよりも大きく、
前記第二グローサの前記突出高さは、前記第三グローサの前記突出高さよりも小さい、履帯。
【請求項2】
前記第二グローサの前記突出高さは、前記第一グローサの前記突出高さの四分の一であり、
前記第三グローサの前記突出高さは、前記第一グローサの前記突出高さの二分の一である、請求項1に記載の履帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、履帯に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第9004619号明細書(特許文献1)には、実質的に平行な第1、第2および第3グローサバーを含む移動機械トラックシューが開示されており、第1、第2および第3グローサバーが異なるグローサ高さを有し得ることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9004619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
履帯式走行装置を備える作業機械において、履帯のグローサの高さが経時後の摩耗などによって低くなると、車体の牽引力が低くなり、作業機械による作業量が低下することがある。
【0005】
本開示では、車体の牽引力の低下を抑制できる、履帯が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の局面に従うと、接地面を有する履板を複数備え、複数の履板が一方向に並んで一体化された履帯が提供される。履帯は、接地面から突出するグローサを複数備えている。複数のグローサは、上記一方向に等間隔に並んで配置されている。複数のグローサは、第一グローサと、第一グローサの隣の第二グローサとを有し、第一グローサの接地面からの突出高さが第二グローサの突出高さと異なっている。
【0007】
本開示の一の局面に従うと、第一履板と第二履板とを含む履板セットが提供される。第一履板は、第一接地面と、第一接地面から突出する第一グローサとを有している。第二履板は、第二接地面と、第二接地面から突出する第二グローサとを有している。第一履板における第一グローサの位置と第二履板における第二グローサの位置とが、互いに対応している。第一グローサの第一接地面からの突出高さが、第二グローサの第二接地面からの突出高さと異なっている。
【発明の効果】
【0008】
本開示に従えば、グローサが摩耗しても車体の牽引力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の履帯を備えるブルドーザの構成を概略的に示す側面図である。
図2】第一の例の履板の構成を示す側面図である。
図3】第二の例の履板の構成を示す側面図である。
図4】履帯における、履板の配置を示す模式図である。
図5】グローサの高さおよび間隔、ならびに牽引係数の関係を示すグラフである。
図6図4に示す履板の、経時後の状態を示す模式図である。
図7】第二実施形態の履帯における、履板の配置を示す模式図である。
図8】第三実施形態の履帯における、履板の配置を示す模式図である。
図9】グローサの高さおよび間隔、ならびに牽引係数の関係を示すグラフである。
図10】第四実施形態の履帯における、履板の配置を示す模式図である。
図11】第五実施形態の履帯における、履板の配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。
(第一実施形態)
まず、実施形態の履帯を適用可能な作業機械の一例であるブルドーザの構成について説明する。
【0011】
図1は、実施形態の履帯を備えるブルドーザ1の構成を概略的に示す側面図である。図1に示すブルドーザ1は、遠隔操縦専用の作業機械である。ブルドーザ1の操縦は、遠隔操縦装置からの無線信号により行う。ブルドーザ1は、オペレータが搭乗して車両を操作するための運転室を備えていない。ブルドーザ1は、搭乗したオペレータによる操縦機能を搭載していない。
【0012】
図1に示すように、ブルドーザ1は、車両本体2と、走行体18とを備えている。車両本体2は、走行体18上に設置されている。走行体18は、車幅方向に離れた左右一対の履帯9を有している。履帯9は、後述する履板24が取り付けられた履帯用リンクが無端状に複数連結されることにより、楕円形状に形成されている。走行体18は、駆動輪10を有している。履帯9の一部は、駆動輪10の外周に巻かれている。駆動輪10の回動により、履帯9が駆動され、ブルドーザ1が走行する。
【0013】
ブルドーザ1は、掘削ブレード3と、リッパ装置11とを備えている。掘削ブレード3は、車両本体2の前方位置に配置されている。掘削ブレード3は、土砂の掘削および整地などの作業を行うための作業機である。リッパ装置11は、車両本体2の後方位置に配置されている。リッパ装置11は、岩石などの硬質材料を貫通し破砕するための作業機である。
【0014】
なお、本実施形態では、ブルドーザ1が直進走行する方向を、ブルドーザ1の前後方向という。ブルドーザ1の前後方向において、車両本体2から掘削ブレード3が突き出している側を、前方向とする。ブルドーザ1の前後方向において、車両本体2からリッパ装置11が突き出している側を、後方向とする。ブルドーザ1の左右方向とは、平面視において前後方向と直交する方向である。前方向を見て左右方向の右側、左側が、それぞれ右方向、左方向である。ブルドーザ1の上下方向とは、前後方向および左右方向によって定められる平面に直交する方向である。上下方向において地面のある側が下側、空のある側が上側である。
【0015】
ブルドーザ1のうち、前方作業機である掘削ブレード3、後方作業機であるリッパ装置11、および履帯式走行装置である走行体18を除いた車両本体2は、突起部がなく、作業時に周囲との干渉が起こりにくい形状とされている。車両本体2の上面は、前後方向および左右方向に亘って、ほぼ平坦な面を形成している。
【0016】
掘削ブレード3は、左右両側でフレーム4により支持されている。掘削ブレード3は、チルトシリンダ5およびリフトシリンダ6によって駆動される。チルトシリンダ5およびリフトシリンダ6は、コントローラからの指令信号に従って、伸縮動作する。
【0017】
掘削ブレード3は、リフトシリンダ6の伸縮により、上下動される。掘削ブレード3のピッチ角は、チルトシリンダ5の伸縮により変更される。ピッチ角の変更により、前後方向に対する掘削ブレード3の傾きが変わる。なお、掘削ブレード3のピッチ角とは、ブルドーザ1を側方視したときの、鉛直方向または水平方向などの基準面に対し掘削ブレード3の刃先が傾斜する角度をいう。
【0018】
リッパ装置11は、シャンク12を有している。シャンク12の下端に、リッパポイント13が設けられている。リッパ装置11は、リッパポイント13を岩石などに突き刺して、走行体18による牽引力によって岩石の切削または破砕を行う。リッパ装置11は、チルトシリンダ15およびリフトシリンダ16によって駆動される。
【0019】
チルトシリンダ15およびリフトシリンダ16の下方に、リッパアーム14が設けられている。リッパアーム14の一端は、車両本体2に回動可能に取り付けられている。リッパアーム14の他端には、ビーム17が、リッパアーム14に対して回動可能に取り付けられている。シャンク12は、リッパアーム14に対して、ビーム17を中心として回動可能に設けられている。
【0020】
車両本体2の前側には、エンジン室7が配置されている。エンジン室7内には、車両の駆動源である内燃エンジンが配置されている。
【0021】
内燃エンジンが生み出す動力は、車両本体2内のドライブトレインを経て、駆動輪10に伝達される。駆動輪10の回動により、履帯9が駆動され、ブルドーザ1が走行する。内燃エンジンの動力はまた、油圧ポンプに伝達される。油圧ポンプは、掘削ブレード3を駆動するチルトシリンダ5およびリフトシリンダ6、ならびにリッパ装置11を駆動するチルトシリンダ15およびリフトシリンダ16などの、各アクチュエータに圧油を供給する。
【0022】
エンジン室7の上部には、図示しないアンテナが設けられている。アンテナは、通信アンテナ、およびGNSSアンテナを含んでいる。車両本体2にはまた、通信装置が搭載されている。通信装置は、上述した通信アンテナと、コントローラとを含んでいる。通信アンテナは、遠隔地より送信された指令信号を受信する。コントローラは、受信した指令信号に基づいて、内燃エンジン、作業機(掘削ブレード3およびリッパ装置11)、ならびに走行体18などを制御する。通信装置はまた、ブルドーザ1の情報を含む信号を、遠隔地に送信する。ブルドーザ1は、カメラおよび測位装置などを備えている。通信装置は、ブルドーザ1の周辺を撮像したビデオ信号、車両の位置情報および地形情報を含む情報信号などを、遠隔地に送信する。
【0023】
車両本体2の後側には、燃料タンク8が配置されている。燃料タンク8は、その内部に、内燃エンジンに供給する燃料を貯留している。ブルドーザ1が、オペレータが搭乗するための運転室を備えておらず、搭乗したオペレータの後方視界性を考慮する必要がないために、燃料タンク8は上下方向において車両本体2の上面にまで延びている。燃料タンク8の上面8aは、車両本体2の上面を構成している。これにより、燃料タンク8の容量が増大しているので、ブルドーザ1は、作業を長時間継続して行うことが可能になっている。
【0024】
図2は、第一の例の履板24の構成を示す側面図である。図2に示すように、履板24は、プレート状のベース部25を有している。ベース部25は、地面に接触する側の接地面26と、接地面26に対し反対側の非接地面28とを有している。プレート状のベース部25の一方の表面が接地面26を構成し、一方の表面とは反対側の他方の表面が非接地面28を構成している。
【0025】
ベース部25には、ベース部25を厚み方向に貫通する貫通孔30が複数形成されている。貫通孔30は、接地面26から非接地面28にまで亘って、ベース部25を貫通している。図示しないボルトが接地面26側から貫通孔30に挿通されてねじ止めされることにより、上述した履帯用リンクに履板24が取り付けられる。図1に示す履帯9は、図示しないピンにより履帯用リンクが連続して連結され、ループ状のチェーンとされたものである。履帯9は、その楕円形状の周方向に複数の履板24がベルト状に並んで、複数の履板24が一体化されて構成されている。複数の履板24は、履帯9の回転方向に並べられており、履帯9の外周面を構成している。接地面26は、履帯9の接地面を構成している。
【0026】
履板24は、前縁38と、後縁36とを有している。前縁38は、履帯9の回転方向における前側の、履板24の縁を構成している。後縁36は、前縁38とは反対側の、履帯9の回転方向における後側の、履板24の縁を構成している。前縁38および後縁36は、図2中の紙面垂直方向に延びている。ここでの履帯9の回転方向とは、ブルドーザ1の前進時の回転方向を意味する。
【0027】
履板24は、前縁38の近傍に、前方湾曲部56を有している。前方湾曲部56は、非接地面28が突起し接地面26が凹むように、前縁38の近傍の履板24の一部が湾曲して形成されている。履板24は、後縁36の近傍に、後方湾曲部54を有している。後方湾曲部54は、接地面26が突起し非接地面28が凹むように、後縁36の近傍の履板24の一部が湾曲して形成されている。
【0028】
複数の履板24が並んで一体化された履帯9において、前方湾曲部56は、隣の履板24の後方湾曲部54と重ねられている。後方湾曲部54と前方湾曲部56とは、隣り合う履板24の間の隙間寸法を小さくできるように、略同一の曲率を有していてもよい。
【0029】
履板24は、グローサ32を有している。グローサ32は、接地面26から突出している。グローサ32は、接地面26に対して略垂直に延び、図2中の紙面垂直方向に延びている。グローサ32は、頂面48と、前側面50と、後側面52とを有している。前側面50は、履帯9の回転方向の前方に向いている。後側面52は、履帯9の回転方向の後方に向いている。頂面48は、接地面26から最も離れたグローサ32の先端面を構成しており、接地面26と略平行に図2中の紙面垂直方向に延びている。
【0030】
グローサ32は、接地面26からグローサ32が突出する高さである突出高さH1を有する。突出高さH1は、接地面26から頂面48までの垂直距離を示す。図2に示す、突出高さH1のグローサ32を有する履板24を、履板24Aとも称する。
【0031】
図3は、第二の例の履板24の構成を示す側面図である。第二の例の履板24は、図2に示す第一の例の履板24とほぼ同一の構成を有しており、突出高さH2のグローサ32を有している点において異なっている。図3に示す、突出高さH2のグローサ32を有する履板24を、履板24Bとも称する。
【0032】
履板24Aにおけるグローサ32の位置と履板24Bにおけるグローサ32の位置とは互いに対応している。履板24Aにおける前縁38からグローサ32の前側面50までの長さと、履板24Bにおける前縁38からグローサ32の前側面50までの長さとは同じである。履板24Aにおける後縁36からグローサ32の後側面52までの長さと、履板24Bにおける後縁36からグローサ32の後側面52までの長さとは同じである。
【0033】
履板24Bのグローサ32が接地面26から突出する突出高さH2は、履板24Aのグローサ32の突出高さH1と異なっている。突出高さH2は、突出高さH1の二分の一である。履板24Aと履板24Bとは、いずれも接地面26から突出するグローサ32を有しているが、履板24Bのグローサ32の接地面26からの突出高さH2は、履板24Aのグローサ32の接地面26からの突出高さH1と異なっている。履板24Aのグローサ32は、履板24Bのグローサ32の二倍分、接地面26から突出している。
【0034】
図4は、履帯9における、履板24の配置を示す模式図である。図2,3を参照して説明した履板24(24A,24B)は、図4および以降の図においては、ベース部25が簡略化されて横長の矩形として図示され、グローサ32が簡略化されて縦長の矩形として図示されている。
【0035】
図1に示す履帯9において、複数の履板24は、履帯9の回転方向(図4においては図中の左右方向)に並んで一体化されている。複数の履板24は、複数の履板24Aと、履板24Aと同数の履板24Bとを含み、履板24Aと履板24Bとが交互に並べられている。履板24Aの隣に履板24Bが配置されている。履板24Bの隣に履板24Aが配置されている。2つの履板24Aの間に、1つの履板24Bが配置されている。2つの履板24Bの間に、1つの履板24Aが配置されている。
【0036】
上述した通り、履板24Aのグローサ32は、突出高さH1を有している。履板24Bのグローサ32は、突出高さH2を有している。本実施形態の履帯9では、突出高さの異なるグローサ32が、履帯9の回転方向に交互に配置されている。グローサ32の突出高さが、隣のグローサ32と異なっている。グローサ32の突出高さが、隣のグローサ32の二分の一、または隣のグローサ32の二倍である。突出高さの等しい2つのグローサ32の間に、当該2つのグローサ32とは突出高さの異なる1つのグローサ32が配置されている。隣り合う履板24が、突出高さの異なるグローサ32を有している。
【0037】
図4に示すグローサ間隔Lは、隣り合う履板24のグローサ32の間隔を示している。より詳しくは、隣り合うグローサ32での対応する2点間の距離が、グローサ間隔Lである。たとえば、履帯9の回転方向における、履板24Aのグローサ32の中心線と履板24Bのグローサ32の中心線との距離が、グローサ間隔Lである。ここでグローサ32の中心線とは、履帯9の回転方向(図2~4においては図中の左右方向)に直交する方向(図2~4においては図中の上下方向)に延びる、グローサ32を二等分する線をいう。グローサ32の中心線は、グローサ32の前側面50と後側面52との中間に設定されている。
【0038】
全てのグローサ32についてグローサ間隔Lが等しくなるように、複数の履板24が配置されている。複数のグローサ32は、履帯9の回転方向に等間隔に並んで配置されている。複数の履板24に亘って、複数のグローサ32が等間隔に並んで配置されている。
【0039】
図5は、グローサ32の高さおよび間隔、ならびに牽引係数の関係を示すグラフである。図5に示すグラフの横軸は、上述したグローサ間隔Lを示す。グラフの縦軸は、牽引係数を示す。牽引係数は、車体がスリップせずに推進できる能力を示す。牽引係数とは、牽引力を車体重量で除した値であり、牽引係数が高いほど、車両の牽引力が大きいことになる。
【0040】
図5に実線で示す「高さ1倍」のグラフは、突出高さH1を有する履板24Aのグローサ32についての、グローサ間隔Lと牽引係数との関係を示す。図5に破線で示す「高さ1/2倍」のグラフは、突出高さH2を有する履板24Bのグローサ32についての、グローサ間隔Lと牽引係数との関係を示す。
【0041】
図5より、「高さ1倍」のほうが、「高さ1/2倍」よりも牽引係数が大きいことがわかる。グローサ32の突出高さが大きいほど、地面へのグローサ32の貫入量が大きく、牽引力が大きいことがわかる。
【0042】
牽引係数は、特定のグローサ間隔Lにおいてピークをとっている。ピークを取る位置は、グローサ32の突出高さによって異なっている。ピークを取る位置において、グローサ32の突出高さとグローサ間隔Lとの比が同じである。「高さ1倍」のグラフにおいて牽引係数がピークを取るときのグローサ間隔Lの二分の一のグローサ間隔Lで、「高さ1/2倍」の牽引係数がピークをとっている。
【0043】
「高さ1倍」のグラフ上で、牽引係数がピークをとる点を点P0とする。「高さ1/2倍」のグラフ上で、点P0と同じグローサ間隔Lの点を点P1とし、牽引係数がピークをとる点を点P2とする。点P1よりも、点P2のほうが牽引係数が大きい。グローサ32の突出高さが大きい「高さ1倍」のときに牽引係数が最大になるグローサ間隔Lのままグローサ32の突出高さが減少するよりも、グローサ32の突出高さの減少に伴ってグローサ間隔Lを小さくできれば、牽引係数が減少する度合いを小さくでき、より高い牽引係数を保つことができる。
【0044】
図6は、図4に示す履板24の、経時後の状態を示す模式図である。図4に示す初期の状態では、履板24Aのグローサ32は、履板24Bのグローサ32の突出高さH2の二倍の突出高さH1を有している。一方、図6に示す経時後の状態では、履板24Aのグローサ32が、摩耗によって突出高さが小さくなっている。履板24Aと履板24Bとは、同じ突出高さH2を有している。
【0045】
図4に示す初期の状態では、車両の走行に寄与するグローサ32は、突出高さの大きい履板24Aのグローサ32である。走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH1であり、間隔は2Lである。一方、図6に示す経時後の状態では、走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH2であり、間隔はLである。走行に寄与するグローサ32の突出高さが二分の一になるとき、グローサ32の間隔も二分の一になっている。つまり、図5に示す点P0から、点P1ではなく、点P2に移っている。
【0046】
突出高さH1のグローサ32と、突出高さH2のグローサ32とを、等間隔に交互に並んで配置することにより、初期の状態においては走行に寄与するグローサ32の間隔が広くなるため、より大きい牽引力を発揮できる。突出高さH1のグローサ32が摩耗して二分の一の突出高さH2となったとき、走行に寄与するグローサ32の間隔もまた二分の一に狭くなる。グローサ32の摩耗が進展した後でも、走行に寄与するグローサ32の間隔を自動的に適した位置に移動することで、グローサ32の間隔と突出高さとの比を、牽引力がピークを取る値に近づけることができる。したがって、車体の牽引力の低下を抑制することができる。
【0047】
(第二実施形態)
図7は、第二実施形態の履帯9における、履板24の配置を示す模式図である。第二実施形態の履帯9において、複数の履板24は、複数の履板24Aと、履板24Aの二倍の数の履板24Bとを含んでいる。履板24Aの隣に履板24Bが配置されている。履板24Bの隣に履板24Aが配置されている。2つの履板24Aの間に、2つの履板24Bが配置されている。
【0048】
履板24Aのグローサ32は、突出高さH1を有している。履板24Bのグローサ32は、突出高さH2を有している。履板24Bのグローサ32の突出高さH2は、履板24Aのグローサ32の突出高さH1の三分の一である。
【0049】
初期の状態では、車両の走行に寄与するグローサ32は、突出高さの大きい履板24Aのグローサ32である。走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH1であり、間隔は3Lである。一方、経時後の状態では、走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH2であり、間隔はLである。走行に寄与するグローサ32の突出高さが三分の一になるとき、グローサ32の間隔も三分の一になっている。
【0050】
突出高さH1のグローサ32と、突出高さH2の二つのグローサ32とを、等間隔に並んで配置することにより、初期の状態においては走行に寄与するグローサ32の間隔が広くなるため、より大きい牽引力を発揮できる。突出高さH1のグローサ32が摩耗して三分の一の突出高さH2となったとき、走行に寄与するグローサ32の間隔もまた三分の一に狭くなる。グローサ32の摩耗が進展した後でも、走行に寄与するグローサ32の間隔を自動的に適した位置に移動することで、グローサ32の間隔と突出高さとの比を、牽引力がピークを取る値に近づけることができる。したがって、車体の牽引力の低下を抑制することができる。
【0051】
(第三実施形態)
図8は、第三実施形態の履帯9における、履板24の配置を示す模式図である。第三実施形態の履帯9において、複数の履板24は、複数の履板24Aと、履板24Aと同数の履板24Bと、履板24Aの二倍の数の履板24Cとを含んでいる。履板24Aの隣に履板24Cが配置されている。履板24Bの隣に履板24Cが配置されている。履板24Cの隣に履板24Aおよび履板24Bが配置されている。2つの履板24Aの間に、2つの履板24Cと1つの履板24Bとが、履板24C、履板24B、履板24Cの順に並んで配置されている。
【0052】
履板24Aのグローサ32は、突出高さH1を有している。履板24Bのグローサ32は、突出高さH2を有している。履板24Cのグローサ32は、突出高さH3を有している。履板24Bのグローサ32の突出高さH2は、履板24Aのグローサ32の突出高さH1の二分の一である。履板24Cのグローサ32の突出高さH3は、履板24Bのグローサ32の突出高さH2の二分の一である。
【0053】
図9は、グローサ32の高さおよび間隔、ならびに牽引係数の関係を示すグラフである。図9に示すグラフは、図5に、二点鎖線で示す「高さ1/4倍」のグラフを追記したものである。「高さ1/4倍」のグラフは、突出高さH3を有する履板24Cのグローサ32についての、グローサ間隔Lと牽引係数との関係を示す。「高さ1/4倍」の牽引係数は、「高さ1/2倍」のグラフにおいて牽引係数がピークを取るときのグローサ間隔Lの二分の一、すなわち「高さ1倍」のグラフにおいて牽引係数がピークを取るときのグローサ間隔Lの四分の一のグローサ間隔Lで、ピークを取っている。
【0054】
図9に示す点P0,P1およびP2は、図5と同様の各点である。高さ「1/4倍」のグラフ上で、点P2と同じグローサ間隔Lの点を点P3とし、牽引係数がピークをとる点を点P4とする。点P3よりも、点P4のほうが牽引係数が大きい。
【0055】
初期の状態では、車両の走行に寄与するグローサ32は、突出高さの大きい履板24Aのグローサ32である。走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH1であり、間隔は4Lである。履板24Aのグローサ32が摩耗して二分の一の突出高さH2になった状態では、走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH2であり、間隔は2Lである。走行に寄与するグローサ32の突出高さが二分の一になるとき、グローサ32の間隔も二分の一になっている。つまり、図9に示す点P0から、点P1ではなく、点P2に移っている。
【0056】
グローサ32の摩耗がさらに進行して、履板24Aおよび履板24Bのグローサ32が突出高さH3になった状態では、走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH3であり、間隔はLである。走行に寄与するグローサ32の突出高さが二分の一になるとき、グローサ32の間隔も二分の一になっている。つまり、図9に示す点P2から、点P3ではなく、点P4に移っている。
【0057】
突出高さH1の2つのグローサ32の間に、突出高さH2の1つのグローサ32と、突出高さH3の2つのグローサ32とを、突出高さH3、H2、H3の順に等間隔に並んで配置することにより、初期の状態においては走行に寄与するグローサ32の間隔が広くなるため、より大きい牽引力を発揮できる。突出高さH1のグローサ32が摩耗して二分の一の突出高さH2となったとき、走行に寄与するグローサ32の間隔もまた二分の一に狭くなる。突出高さH1のグローサ32がさらに摩耗して四分の一の突出高さH3となったとき、走行に寄与するグローサ32の間隔もまた四分の一に狭くなる。
【0058】
グローサ32の摩耗が進展した後でも、走行に寄与するグローサ32の間隔を自動的に適した位置に移動することで、グローサ32の間隔と突出高さとの比を、牽引力がピークを取る値に近づけることができる。したがって、車体の牽引力の低下を抑制することができる。
【0059】
(第四実施形態)
図10は、第四実施形態の履帯9における、履板24の配置を示す模式図である。第四実施形態の履帯9において、複数の履板24は、複数の履板24Aと、履板24Aと同数の履板24Bと、履板24Aの四倍の数の履板24Cとを含んでいる。履板24Aの隣に履板24Cが配置されている。履板24Bの隣に履板24Cが配置されている。2つの履板24Aの間に、4つの履板24Cと1つの履板24Bとが、履板24C、履板24C、履板24B、履板24C、履板24Cの順に並んで配置されている。
【0060】
履板24Aのグローサ32は、突出高さH1を有している。履板24Bのグローサ32は、突出高さH2を有している。履板24Cのグローサ32は、突出高さH3を有している。履板24Bのグローサ32の突出高さH2は、履板24Aのグローサ32の突出高さH1の二分の一である。履板24Cのグローサ32の突出高さH3は、履板24Bのグローサ32の突出高さH2の三分の一である。
【0061】
初期の状態では、車両の走行に寄与するグローサ32は、突出高さの大きい履板24Aのグローサ32である。走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH1であり、間隔は6Lである。履板24Aのグローサ32が摩耗して二分の一の突出高さH2になった状態では、走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH2であり、間隔は3Lである。走行に寄与するグローサ32の突出高さが二分の一になるとき、グローサ32の間隔も二分の一になっている。
【0062】
グローサ32の摩耗がさらに進行して、履板24Aおよび履板24Bのグローサ32が突出高さH3になった状態では、走行に寄与するグローサ32の、突出高さはH3であり、間隔はLである。走行に寄与するグローサ32の突出高さが六分の一になるとき、グローサ32の間隔も六分の一になっている。
【0063】
このようにグローサ32を配置することにより、上記と同様に、初期の状態においては走行に寄与するグローサ32の間隔が広くなるため、より大きい牽引力を発揮できる。グローサ32の摩耗が進展した後でも、走行に寄与するグローサ32の間隔を自動的に適した位置に移動することで、グローサ32の間隔と突出高さとの比を、牽引力がピークを取る値に近づけることができる。したがって、車体の牽引力の低下を抑制することができる。
【0064】
(第五実施形態)
図11は、第五実施形態の履帯9における、履板24の配置を示す模式図である。これまでの実施形態において、履板24は、各々の履板24が1つのグローサ32を有するシングルグローサである。第五実施形態の履板24(履板24D)は、ベース部25の接地面26から突出する2つのグローサ32,33を有するダブルグローサである。グローサ32は、突出高さH1を有している。グローサ33は、突出高さH2を有する。突出高さH2は、突出高さH1の二分の一である。履板24Dは、接地面26からの突出高さの異なる2つのグローサ32,33を有している。
【0065】
グローサ32,33は、等間隔に並んで配置されている。グローサ32の隣に、突出高さの異なるグローサ33が配置されている。複数の履板24Dが一体化された履帯9において、突出高さの等しい2つのグローサ32の間に、当該2つのグローサ32とは突出高さの異なる1つのグローサ32が配置されている。
【0066】
履板24Dは、異高2列のグローサ32,33を有する点において従前のセミダブルグローサと類似の構造を有しているが、複数の履板24Dに亘ってグローサが等間隔に配置される点で、従前のセミダブルグローサとは異なっている。1つの履板24Dに含まれるグローサ32とグローサ33との間隔は、図11に示すようにLである。グローサ33と、隣の履板24Dのグローサ32との間隔は、同じくLである。全てのグローサ32,33についてグローサ間隔Lが等しくなるように、複数の履板24Dが配置されている。
【0067】
このようにグローサ32,33を配置することにより、上記と同様に、初期の状態においては走行に寄与するグローサ32の間隔が広くなるため、より大きい牽引力を発揮できる。グローサ32の摩耗が進展した後でも、走行に寄与するグローサ32,33の間隔を自動的に適した位置に移動することで、グローサ32,33の間隔と突出高さとの比を、牽引力がピークを取る値に近づけることができる。したがって、車体の牽引力の低下を抑制することができる。
【0068】
上記の各実施形態においては、複数のグローサが等間隔に並んで配置されるとの説明を行なったが、ここでの「等間隔」とは、各グローサと隣のグローサとの間隔が厳密に等間隔である場合を含み、グローサ間隔が厳密に等間隔ではないがある程度の範囲内にある場合も含むものとする。たとえば、グローサ間隔が規定値に対してプラスマイナス5%以内であってもよい。
【0069】
初期状態におけるグローサの突出高さについて、隣のグローサの突出高さの「二分の一」「三分の一」などの値を挙げて説明したが、これらの値を中心とする許容範囲内にある場合も含むものとする。たとえば、第一実施形態において、突出高さH2は突出高さH1の45%以上55%以下であってもよい。第二実施形態において、突出高さH2は突出高さH1の30%以上36%以下であってもよい。
【0070】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 ブルドーザ、2 車両本体、9 履帯、18 走行体、24,24A,24B,24C,24D 履板、25 ベース部、26 接地面、28 非接地面、30 貫通孔、32,33 グローサ、36 後縁、38 前縁、48 頂面、50 前側面、52 後側面、54 後方湾曲部、56 前方湾曲部、L グローサ間隔、P0,P1,P2,P3,P4 点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11