(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】落石検出装置および落石検出システム
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20220812BHJP
E21F 17/00 20060101ALI20220812BHJP
G06T 7/155 20170101ALI20220812BHJP
G06T 7/254 20170101ALI20220812BHJP
G06T 7/246 20170101ALI20220812BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21F17/00
G06T7/155
G06T7/254 A
G06T7/246
(21)【出願番号】P 2018098103
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-03-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2017年12月8日付けの建設通信新聞に掲載 (2)2017年12月8日付けの日刊建設工業新聞に掲載 (3)2017年12月8日付けの日刊建設産業新聞に掲載 (4)2017年12月8日に大成建設株式会社が「トンネル切羽落石監視システム「T-iAlert Tunnel」を開発」と題するプレスリリースをウェブサイトにて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-074370(JP,A)
【文献】特開2017-200098(JP,A)
【文献】特開2012-103009(JP,A)
【文献】特開2012-026881(JP,A)
【文献】特開2006-279440(JP,A)
【文献】特開2009-239903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21F 17/00
G06T 7/155
G06T 7/254
G06T 7/246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影した画像に基づいて落石を検出する落石検出装置であって、
前記落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、
前記落石検出領域に写る移動体を前記落石として検出する落石検出部と、を備え、
前記落石検出領域算出部は、
時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の前記差分画像から移動体エリアを抽出し、
各々の前記移動体エリアの和集合を予め決められた範囲だけ広げる膨張処理を行い、膨張処理済みエリアに対して繋がっている画素を一つのグループとして同じ番号を付与するラベリング処理を行い、
グループ分けした各々の膨張処理済みエリアの面積が、予め設定された面積よりも大きい場合にその膨張処理済みエリアを落石検出禁止領域とし、当該落石検出禁止領域の補領域を前記落石検出領域とする、
ことを特徴とする落石検出装置。
【請求項2】
撮影した画像に基づいて落石を検出する落石検出装置であって、
前記落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、
前記落石検出領域に写る移動体を前記落石として検出する落石検出部と、を備え、
前記落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の前記差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の前記移動体エリアの和集合以外の領域を前記落石検出領域とし、前記画像の中で明るく且つ所定の面積を有する部分を前記落石検出領域に含めない、
ことを特徴とす
る落石検出装置。
【請求項3】
撮影した画像に基づいて落石を検出する落石検出装置であって、
前記落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、
前記落石検出領域に写る移動体を前記落石として検出する落石検出部と、を備え、
前記落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の前記差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の前記移動体エリアの和集合以外の領域を前記落石検出領域とし、
前記落石検出部は、前記落石検出領域に写る全ての移動体を落石候補とし、全ての前記落石候補の重心を複数のフレームに亘って追跡することで前記落石候補が真の落石であるか否かを判定する群落石検出部、を備える、
ことを特徴とす
る落石検出装置。
【請求項4】
前記落石検出部は、前記落石検出領域に写る特定の一つの移動体を落石候補とし、前記落石候補を複数のフレームに亘って追跡することで前記落石候補が真の落石であるか否かを判定する個別落石検出部、を備える、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の落石検出装置。
【請求項5】
落石の発生を検出する範囲を照射する照明手段と、
前記範囲を撮影する撮影手段と、
請求項1ないし請求項
4の何れか一項に記載の落石検出装置と、
前記落石が検出された場合に報知する報知手段と、を備える、
ことを特徴とする落石検出システム。
【請求項6】
前記照明手段は、赤外光を照射し、
前記撮影手段は、赤外光のみを通過させる光学フィルタを有する、
ことを特徴とする請求項
5に記載の落石検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石検出装置および落石検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、地盤崩落や落石の危険がある切羽の近くで作業が行われる。これまで、軟らかい地盤でトンネルを施工する場合に、切羽の膨らみ(押し出してくる現象)をレーザー変位計で捉えて作業員に警告する装置が存在する。一方、固い地盤を施工する場合に、切羽の崩落の前兆を監視・警告する装置が存在せず、専属の監視人が安全を常に確認している。そして、ひとたび切羽の安定が損なわれるような兆候を見つけた場合に、監視人が作業員を直ちに退避させる。
【0003】
監視人は、例えば、小さな石(親指大程度)の落下や薄い吹付けコンクリート片の剥がれ落ちを切羽の崩落の兆候として捉え、災害につながる現象が生じる前に作業員に警告するとともに迅速に危険箇所から退避させる。このように切羽を常に監視するのは大変な労力を要するので、災害自体や災害の兆候を監視する装置の開発が強く望まれている。
【0004】
これに関連して、従来、落石を検出する技術が存在する。特許文献1には、トンネルの入り口に設けた落石に対する防護ネットに光ファイバなどの信号線を添わせ、それによって落石を検知し、通行中の車やトンネルを管理するセンターへ報知する技術が記載されている(例えば、段落[0006]参照)。
【0005】
また、特許文献2には、落石監視対象区間毎にセンサ用光ファイバを敷設し、これら区間毎のセンサ用光ファイバを直列又は並列に接続して光ファイバ系を構成し、この光ファイバ系を伝達する光の変化から落石を検知する技術が記載されている(例えば、[0013]参照)。
【0006】
また、特許文献3には、監視領域の斜面に張った落石防護ネットで落石を蓄積場に誘導して集め、蓄積場の体積変化又は集めた落石の重量変化を光ファイバの歪変化に置換して光ファイバの歪量の変化から落石の有無を検知する技術が記載されている(例えば、[0006]参照)。
【0007】
また、特許文献4には、複数のカメラを用いて切羽を異なる角度から撮影した画像を解析して危険箇所を通知する危険箇所通知画像を生成し、切羽に危険箇所通知画像を投影する技術が記載されている(例えば、[0006]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-88998号公報
【文献】特開2000-180219号公報
【文献】特開2002-138418号公報
【文献】特開2018-017640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1~3の技術は、落石を検出する範囲に防護ネットや光ファイバ系を予め設置しなければならなかった。そのため、山岳工法で施工されるトンネルの採掘作業のように、防護ネットや光ファイバ系を設置するスペースがなく、時間の経過とともに移動する場所(例えば、切羽)の落石を検知することが難しかった。
【0010】
また、特許文献4の技術は、切羽の危険箇所を認識させることはできるものの、監視人による監視は引き続き必要であった。
【0011】
このような観点から、本発明は、危険な兆候を検出することができる落石検出装置および落石検出システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明に係る落石検出装置は、撮影した画像に基づいて落石を検出する落石検出装置であって、前記落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、前記落石検出領域に写る移動体を前記落石として検出する落石検出部と、を備える。
前記落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の前記差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の前記移動体エリアの和集合を予め決められた範囲だけ広げる膨張処理を行い、膨張処理済みエリアに対して繋がっている画素を一つのグループとして同じ番号を付与するラベリング処理を行い、グループ分けした各々の膨張処理済みエリアの面積が、予め設定された面積よりも大きい場合にその膨張処理済みエリアを落石検出禁止領域とし、当該落石検出禁止領域の補領域を前記落石検出領域とする。
【0013】
本発明に係る落石検出装置においては、過去のNフレームにおけるフレーム間での差分画像に基づいた落石検出領域を用いて落石の検出を行う。そのため、撮影した画像に作業員や建設機械が写る場合でも、その部分を落石検出禁止領域とすることで落石を的確に検出することが可能である。その結果、切羽などで発生する危険な兆候を検出することができる。
例えば、移動体の隙間部分や過去のNフレームにおいてたまたま動かなかったために移動体として検出しなかった部分を補間し、本当は落石検出禁止領域とすべきだが落石検出領域となってしまう島状の領域を少なくするので、誤検出の発生を抑制できる。なお、落石は自然落下するので、移動速度が建設機械および作業員に比べて速く、フレーム間の移動を合成したとしても、別々の膨張処理済みエリアとして存在する。そのため、ラベリング処理によって別々のグループとして認識され、予め設定された面積(例えば、検出したい落石の面積)よりも大きくならないので、落石検出禁止領域に落石が含まれ難い。
【0016】
また、本発明に係る落石検出装置は、撮影した画像に基づいて落石を検出する落石検出装置であって、前記落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、前記落石検出領域に写る移動体を前記落石として検出する落石検出部と、を備える。
前記落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の前記差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の前記移動体エリアの和集合以外の領域を前記落石検出領域とする。前記落石検出領域算出部は、前記画像の中で明るく且つ所定の面積を有する部分を前記落石検出領域に含めないのがよい。
【0017】
このようにすると、作業員が着用する安全ベスト、ヘルメット等の部分を落石検出禁止領域とすることができるので、落石を的確に検出することが可能である。
【0018】
前記落石検出部は、前記落石検出領域に写る特定の一つの移動体を落石候補とし、前記落石候補を複数のフレームに亘って追跡することで前記落石候補が真の落石であるか否かを判定する個別落石検出部を備えるのがよい。
【0019】
このようにすると、真の落石であるものとそうでないものとを分けて検出することができるので、誤検出の発生を抑制できる。
【0020】
また、本発明に係る落石検出装置は、撮影した画像に基づいて落石を検出する落石検出装置であって、前記落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、前記落石検出領域に写る移動体を前記落石として検出する落石検出部と、を備える。
前記落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の前記差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の前記移動体エリアの和集合以外の領域を前記落石検出領域とする。
前記落石検出部は、前記落石検出領域に写る全ての移動体を落石候補とし、全ての前記落石候補の重心を複数のフレームに亘って追跡することで前記落石候補が真の落石であるか否かを判定する群落石検出部を備えるのがよい。
【0021】
このようにすると、落石および落石候補が多数あった場合でも真の落石を検出することができるので、落石の見逃しを防止することができる。
【0022】
また、本発明に係る落石検出システムは、落石の発生を検出する範囲を照射する照明手段と、前記範囲を撮影する撮影手段と、前記落石検出装置と、前記落石が検出された場合に報知する報知手段とを備える。
【0023】
本発明に係る落石検出システムにおいては、過去のNフレームにおけるフレーム間での差分画像に基づいた落石検出領域を用いて落石の検出を行う。そのため、撮影した画像に作業員や建設機械が写る場合でも、その部分を落石検出禁止領域とすることで落石を的確に検出することが可能である。そして、落石の発生を報知するので、作業のさらなる安全性を確保することができる。
【0024】
前記照明手段は、赤外光を照射し、前記撮影手段は、赤外光のみを通過させる光学フィルタを有するのがよい。
【0025】
このようにすると、建設機械のライトが発する可視光線等の影響による落石の誤検出が発生し難くなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、危険な兆候を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る落石検出システムの概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る落石検出装置の概略構成図である。
【
図3】落石検出領域の算出方法を説明するための図である。
【
図4】落石個別追跡法による落石の検出方法を説明するための図であり、(a)~(c)は撮影された画像(フレーム)のイメージである。
【
図5】落石個別追跡法による落石の検出方法を説明するための図であり、(a)~(b)は差分画像のイメージである。
【
図6】落石群追跡法による落石の検出方法を説明するための図であり、(a)~(b)は撮影された画像(フレーム)のイメージである。
【
図7】落石群追跡法による落石の検出方法を説明するための図であり、差分画像のイメージである。
【
図8】本発明の実施形態に係る落石検出システムの全体動作を示すフローチャートの例示である。
【
図9】落石個別追跡法による落石検出の動作を示すフローチャートの例示である。
【
図11】
図10の画像に対応する合成移動体エリアを示したものである。
【
図12】膨張処理を説明するための図である、(a)は膨張処理を行う前の状態を示し、(b)は膨張処理を行った後の状態を示す。
【
図13】
図11の合成移動体エリアに対応する膨張処理済みエリアを示したものである。
【
図14】
図13の膨張処理済みエリアに対応する落石検出禁止領域および落石検出領域を示したものである。
【
図15】落石群追跡法による落石検出の動作を示すフローチャートの例示である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0029】
<実施形態に係る落石検出システムの構成>
図1を参照して、実施形態に係る落石検出システム1の構成について説明する。落石検出システム1は、撮影した映像(画像を含む。以下同じ)から落石を検出し、さらに落石を検出したことを報知するシステムである。落石検出システム1は、落石の検出を必要とする様々な場面で使用することができ、検出対象の落石は、形状、大きさ、色など特に限定されるものではない。
【0030】
ここでは、
図1に示すように、施工中の山岳トンネルにおける切羽9の監視に落石検出システム1を用いることを想定する。つまり、落石検出システム1によって、崩落の予兆となる小石程度の落石8(例えば、数cm程度)を監視する。
落石検出システム1では、フレーム間差分法(またはフレーム差分法)を用いて落石8を検出する。フレーム間差分法では、連続する二つのフレーム間でのフレーム間差分画像(以下では、省略して「差分画像」と呼ぶ場合がある)を生成し、閾値処理を行うことで移動体の領域を取り出す。詳細は後記する。
【0031】
落石検出システム1は、落石警報装置2と、落石検出装置3とを備えて構成される。落石警報装置2は、切羽9の近く(例えば、切羽9からの距離Lは数m~十数m)に設置され、また、落石検出装置3は、切羽9での作業を妨げない程度に離れた場所に設置される。落石検出装置3の設置場所は、トンネルの外であってもよい。
【0032】
落石警報装置2と落石検出装置3とは、例えば通信ケーブル4によって接続されており、落石警報装置2から落石検出装置3へは切羽9を撮影した画像が送信される。また、落石検出装置3から落石警報装置2へは画像を解析した結果(落石8を検出したか否か)が通知される。なお、落石検出システム1の構成はここで示すものに限定されず、例えば、落石警報装置2が落石検出装置3の機能を有していてもよい(つまり、落石警報装置2を含めて落石検出装置3であってもよい)。
【0033】
落石警報装置2は、落石8を検出した場合に作業員に対して危険を知らせるものであり、切羽9を撮影可能な位置に設置される。落石警報装置2は防水、防塵機能を有し、トンネル内での長時間の使用に耐えられる設計である。
落石警報装置2は、脚部21と、照明部22と、撮影部23と、報知部24とを備える。なお、落石警報装置2の構成はここで示すものに限定されず、例えば、落石警報装置2の一部の機能が他の装置として構成されてもよい。
【0034】
脚部21は、地面に落石警報装置2を固定するものである。脚部21は、例えば伸縮自在であり、落石警報装置2の高さを調整することができる。落石警報装置2を固定する手段はここでの脚部21に限定されず、落石警報装置2は、脚部21に代えて、例えば天井から吊るすための腕部を有していてもよい。
【0035】
照明部22は、光を発する光源であって、例えば、LED(Light Emitting Diode)照明、有機EL照明(OLED)である。照明部22は、落石8の発生を検出する範囲(つまり、撮影部23の撮影範囲)を照らすように設置されている。照明部22の数や形状は特に限定されず、例えば、複数の照明部22が撮影部23の周りを囲むように配置されている。照明部22は、撮影部23の感度(カメラ感度)に対応した波長成分を少なくとも含む光源であり、例えば、可視光、赤外光などであってよい。ここでの照明部22は、建設機械のライトが発する光(可視光)などと干渉しないように、近赤外光を照射する。
【0036】
撮影部23は、落石8を認識できる解像度を有しており、また、落石8の移動が分かる程度に連続撮影が可能である。撮影部23は、例えばデジタルビデオカメラであり、1秒間に数十枚の画像(以下では、「フレーム」と呼ぶ場合がある)を撮影する。本実施形態では、切羽9の監視に使用することを想定しているので、撮影部23は切羽9を撮影するように設置されている。撮影部23によって撮影された画像は、落石検出装置3に送られる。なお、撮影部23は、照明部22が発した光(ここでは、近赤外光)のみを通過させる光学フィルタをレンズに設置したものであるのがよい。また、撮影部23は、ズーム機能を有していてもよい。
【0037】
報知部24は、落石8が検出されたことを視覚や聴覚を介して作業員に報知する。報知部24は、例えば、回転灯やブザーである。また、ヘルメットに表示機能や警告音を鳴らすブザーを設けても良い。
【0038】
図2を参照して(適宜、
図1参照)、落石検出装置3について説明する。落石検出装置3は、落石警報装置2(
図1参照)によって撮影された画像を解析し、落石8を検出する。落石検出装置3は、例えば、PC(Personal Computer)であって、記憶部31と、制御部32とを備えている。落石検出装置3の設置場所は特に限定されない。落石検出装置3の設置場所がトンネル内である場合、落石検出装置3は防水、防塵機能を有するものであるのがよい。
【0039】
記憶部31には、落石8の検出に必要な情報が記憶されており、例えば、撮影条件情報31aと、検出対象情報31bとが記憶されている。撮影条件情報31aは、例えば、撮影部23の情報(画角、解像度、フレームレートなど)、切羽9から落石警報装置2までの距離Lなどの情報である。検出対象情報31bは、例えば、検出する落石8のサイズ(最小と最大)、落下速度などの情報である。
【0040】
制御部32は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部32がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部31には、制御部32の機能を実現するためのプログラムが格納される。
制御部32は、主に、画像取得部33と、落石検出部34と、落石検出通知部38とを備える。また、落石検出部34は、落石検出領域算出部35と、個別落石検出部36と、群落石検出部37とを備える。なお、
図2に示す制御部32の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、本発明を限定するものではない。
【0041】
画像取得部33は、撮影部23で撮影した画像を落石警報装置2からリアルタイムに取得する。ここでの画像取得部33は、通信ケーブル4(
図1参照)を介して落石警報装置2から画像を受信するが、画像を取得するための通信手段は特に限定されない。画像取得部33は、例えば、無線通信を介して落石警報装置2から画像を受信してもよい。
【0042】
落石検出部34は、フレーム間差分法(またはフレーム差分法)を用いて落石8を検出する。フレーム間差分法では、連続する二つのフレーム間でのフレーム間差分画像を生成し、閾値処理を行うことで移動体の領域を取り出す。以下では、落石8の可能性がある移動体を特に「落石候補」と呼ぶ。そして、落石検出部34は、落石候補を数フレームに亘って追跡して、落石候補が真の落石であるか否かを判定する。
【0043】
落石検出領域算出部35は、落石候補を検出する領域をリアルタイムに算出するものである。
図3を参照して、落石検出領域算出部35の処理の概要を説明する。
落石検出領域算出部35は、過去Nフレーム分の画像(N≧3であり、例えばN=10程度がよい)に対して、時系列で連続した二つのフレームFの差分画像Gを生成し、閾値処理を行うことで各々の差分画像Gから移動体の領域(移動体エリアH)を抽出する。
図3では、人間が一方の腕を挙げる様子を示しており、移動体エリアHとしては主に挙げた腕の領域が抽出される。なお、ここでは挙げた腕以外の胴体、頭、他方の腕なども少しだけ動いているので、これらの部分についても移動体エリアHとして抽出されている。
【0044】
また、落石検出領域算出部35は、移動体エリアHの和集合(合成移動体エリアI)を求め、詳細は後記するラベリング処理や膨張処理を行った合成移動体エリアIを落石検出禁止領域K1とし、落石検出禁止領域K1の補領域を落石検出領域K2とする。
図3では、過去Nフレームの間に動かした腕の領域ならびに胴体、頭および他方の腕の領域などが主に合成移動体エリアIとなる。合成移動体エリアIに基づく落石検出禁止領域K1からは落石候補の検出を行わず、落石検出領域K2から落石候補の検出を行う。
【0045】
図2に示す個別落石検出部36および群落石検出部37は、ともにフレーム間差分法を用いて落石8を検出するものであるが、落石候補の追跡方法に違いがある。個別落石検出部36では、特定の一つの落石候補に着目して、その後の数フレームに亘って追跡を行う(落石個別追跡法)。個別落石検出部36による落石候補の特定の方法は、特に限定されず、例えば、最初に検出した落石候補を追跡してもよいし、また、予め設定した基準のサイズに最も近い落石候補を追跡してもよい。一方、群落石検出部37では、全ての落石候補に着目して、その後の数フレームに亘って追跡を行う(落石群追跡法)。
【0046】
図4および
図5を参照して、個別落石検出部36の処理の概要を説明する。
図4(a)~(c)は、撮影された画像(フレームF)のイメージであり、それぞれのフレームFには落石8が写っている。
図4のX軸、Y軸は、落石8の位置の変化を明確にするために示してある(
図5についても同様)。
図4(a)~(c)に示すように、落石8は、時間が経過するにつれて下方に移動(自然落下)している。
【0047】
図5(a)~(b)は、差分画像Gのイメージであり、それぞれの差分画像Gには、一組の落石候補Ca,Cbが原則として写し出される。落石候補Caは、移動前の落石8に対応するものであり、また、落石候補Cbは、移動後の落石8に対応するものである。なお、落石8が汚れていたり、落石8が回転したりすることで、一時的に背景と同系色になった場合に、何れかまたは両方の落石候補Ca,Cbが検出されない場合もある。
【0048】
個別落石検出部36は、差分画像Gに二つの落石候補Ca,Cbが検出された場合、二つの落石候補Ca,Cbの重心Cgの位置を当該差分画像Gにおける落石候補Cの位置とする。ここでの重心Cgは、落石候補Ca,Cbを2次元画像としてとらえた場合の数学的な重心であり、例えば、落石候補Ca,Cbの形状や面積などに基づいて求められる。一方、個別落石検出部36は、差分画像Gに何れかの落石候補Ca,Cbだけが検出された場合、検出された何れかの落石候補Ca,Cbの重心Cgの位置を当該差分画像Gにおける落石候補Cの位置とする。
【0049】
また、個別落石検出部36は、算出した落石候補Cの位置が、一つ前の差分画像Gで算出した落石候補Cの位置に対して自然落下領域D1に含まれているか否かを判定する。自然落下領域D1は、落石8が自然落下した場合におけるフレーム間の移動範囲を示すものであり、例えば、一つ前の落石候補Cの位置に対して、一定の角度以内で且つ一定の落差の範囲である。そのため、自然落下領域D1は、一つ前の落石候補Cの重心Cgの概ね下方に設定される。個別落石検出部36は、例えば、複数フレームに亘って連続して落石候補Cの位置が自然落下領域D1に含まれている場合に、当該落石候補Cが真の落石であると判定する。
【0050】
図5(a)に示す差分画像G((N-2),(N-1))は、
図4(a)に示すフレームF(N-2)と
図4(b)に示すフレームF(N-1)の差分画像である。また、
図5(b)に示す差分画像G((N-1),N))は、
図4(b)に示すフレームF(N-1)と
図4(c)に示すフレームF(N)の差分画像である。
個別落石検出部36は、例えば、
図5(a)の差分画像G((N-2),(N-1))における重心Cgの下方に示した自然落下領域D1に、
図5(b)の差分画像G((N-1),N))における重心Cgが含まれているか否かを判定する。また、個別落石検出部36は、
図5(b)の差分画像G((N-1),N))における重心Cgの下方に示した自然落下領域D1に図示しない次の差分画像Gにおける重心Cgが含まれているか否かを判定する。
【0051】
図6および
図7を参照して、群落石検出部37の処理の概要を説明する。
図6(a)~(b)は、撮影された画像(フレームF)のイメージであり、それぞれのフレームFには複数の落石8が写っている。
図6のX軸、Y軸は、落石8の位置の変化を明確にするために示してある(
図7についても同様)。
図6(a)~(b)に示すように、複数の落石8は、時間が経過するにつれて下方に移動(自然落下)している。
【0052】
図7は、差分画像Gのイメージであり、各々の落石8に対応して、複数の落石候補Ca,Cbが原則として写し出される。個別落石検出部36の説明と同様であって、落石候補Caは、移動前の落石8に対応するものであり、また、落石候補Cbは、移動後の落石8に対応するものである。なお、落石8が汚れていたり、落石8が回転したりすることで、一時的に背景と同系色になった場合に、一部または全部の落石候補Ca,Cbが検出されない場合もある。
【0053】
群落石検出部37は、差分画像Gに存在する全ての落石候補Ca,Cbの重心Chの位置を当該差分画像Gにおける落石候補Cの位置とする。ここでの重心Chは、落石候補Ca,Cbを2次元画像としてとらえた場合の数学的な重心であり、例えば、落石候補Ca,Cbの数、形状、面積などに基づいて求められる。
また、群落石検出部37は、個別落石検出部36のときと同様に、算出した落石候補Cの位置が、一つ前の差分画像Gで算出した落石候補Cの位置に対して自然落下領域D2に含まれているか否かを判定する。自然落下領域D2は、落石8が自然落下した場合におけるフレーム間の移動範囲を示すものであり、例えば、一つ前の落石候補Cの位置に対して、一定の角度以内で且つ一定の落差の範囲である。そのため、自然落下領域D2は、一つ前の落石候補Cの重心Chの概ね下方に設定される。自然落下領域D1と自然落下領域D2とは、範囲の大きさが異なっていてもよい。群落石検出部37は、例えば、複数フレームに亘って連続して落石候補Cの位置が自然落下領域D2に含まれている場合に、当該落石候補Cが真の落石であると判定する。
【0054】
図7に示す差分画像G((N-2),(N-1))は、
図6(a)に示すフレームF(N-2)と
図6(b)に示すフレームF(N-1)の差分画像である。
群落石検出部37は、例えば、
図7の差分画像G((N-2),(N-1))における重心Chの下方に示した自然落下領域D2に、図示しない次の差分画像Gにおける重心Chが含まれているか否かを判定する。
【0055】
図2に示す落石検出通知部38は、個別落石検出部36および群落石検出部37の何れかあるいは両方によって落石候補Cが真の落石であると判定された場合に、落石警報装置2(
図1参照)に対して落石8を検出したことを通知する。落石警報装置2は、落石8の検出の通知を受信した場合に、報知部24を動作させて作業員に落石8を報知する。
【0056】
<実施形態に係る落石検出システムの動作>
図8~
図15を参照して(適宜、
図1~
図7を参照)、実施形態に係る落石検出システム1の動作について説明する。
図1に示すように、落石検出システム1の落石警報装置2は、撮影部23で切羽9を撮影できる位置(例えば、切羽9から数m~十数mの場所)に設置される。切羽9では、例えば、ダイナマイト等の爆薬を用いたトンネルの掘削工事が作業員によって行われる。そのため、撮影部23で撮影を行った場合に、切羽9のみならず作業員や建設機械までもが撮影されることになる。
【0057】
(落石検出システムの動作の全体フロー)
実施形態に係る落石検出システム1の全体動作を示すフローチャートを
図8に示す。
監視人によって落石検出の開始を指示されると、落石検出装置3は、落石警報装置2の報知部24が警報を発していない状態(オフ状態)にする(ステップS1)。そして、落石検出装置3は、監視人によって落石検出の終了を指示されるまで、「落石個別追跡法による落石検出」および「落石群追跡法による落石検出」を行い、何れかの方法で落石8を検出した場合に落石警報装置2の報知部24を作動させる(ステップS2~S6)。
【0058】
落石個別追跡法および落石群追跡法による落石検出における検出感度は任意であり、例えば、監視人によって予め設定される。検出感度は、例えば複数のパラメータで複合的に決めることができ、監視人がこれらのパラメータを設定することによって検出感度が決定される。検出感度の第1パラメータは、例えば差分画像Gにおいて落石候補Cがあるか否かを判断するための画素値(例えば、輝度値)に関する閾値である。第1パラメータを小さくすることにより高感度となるので、ほんのわずかな変化も検出することができ、例えば反射率の低い黒い石を検出することが可能になる。ただし、高感度にしすぎると、光の微妙な変動やカメラの画素間の感度ばらつき等で誤検出することがあるので、最適な値は実験などで求めるのがよい。検出感度の第2パラメータは、例えば差分画像Gにおいて落石候補Cがあるか否かを判断するための領域に関する閾値である。第2パラメータを小さくすることにより(落石候補Cとして判断する領域の面積を小さくすることにより)、高感度となるので、より小さな落石8を検出することができる。なお、落石個別追跡法による落石検出における検出感度を「A」とし、落石群追跡法による落石検出における検出感度を「B」とした場合、検出感度「B」は検出感度「A」よりも低く設定するのがよい(つまり、A>B)。
【0059】
(落石個別追跡法による落石検出)
図8のステップS2に示す「落石個別追跡法による落石検出」の動作を示すフローチャートを
図9に示す。最初に、落石検出装置3の制御部32(
図2参照)は、落石検出処理で使用するパラメータの初期化を行う(ステップS101)。制御部32は、例えば、CRK、PRA、初期N画像分の落石検出禁止領域K1の初期化を行う。
【0060】
CRK(Count Rakuseki Kouho)は、落石候補Cを検出した回数であり、「0~NN」の範囲の値が設定される。NNは、落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数である。
PRA(Previous Rakuseki Ari)は、前のフレームFで落石候補Cを検出したか否かを示す情報(フラグ)である。前のフレームFで落石候補Cを検出している場合にはPRAに「1」が設定され、一方、前のフレームFで落石候補Cを検出していない場合(つまり、今回のフレームFではじめて落石候補Cを検出した場合)にはPRAに「0」が設定される。
落石検出禁止領域K1は、フレームFに設定される落石検出を行わない領域であり、落石検出禁止領域K1がゼロとは、落石検出禁止領域K1がないことを意味する。
【0061】
ステップS101におけるパラメータの初期化に続いて、落石検出装置3は、ステップS102~ステップS115までの処理を、落石警報装置2の撮影部23のフレームレートに対応する時間間隔(サイクル)で繰り返し行う。つまり、落石検出装置3は、撮影部23で新しい画像を撮影する度に、ステップS102~ステップS115までの一連の処理をリアルタイムに実行する。
【0062】
落石検出装置3の画像取得部33は、落石警報装置2の撮影部23で撮影した新たな画像(フレームF(N))を取得し(ステップS102)、落石検出領域算出部35は、新たな画像(フレームF(N))を用いて落石検出領域K2(
図3参照)を求める(ステップS103)。なお、本実施形態では、過去Nフレーム分の画像を用いて落石検出を行う。そのため、処理を開始した直後においては、以降の処理を行わずにNフレーム分の画像を溜めるようにしてもよいし、また、過去Nフレーム分の画像が同じものとして取得した画像を過去Nフレーム分の画像として使用してもよい。
【0063】
ステップS103における落石検出領域K2(
図3参照)の算出処理について説明する。最新のフレームF(N)の各画素の画素値(例えば、輝度値)を「Image0」として、1フレーム前のフレームF(N-1)の各画素の画素値(例えば、輝度値)を「Image1」とした場合、落石検出領域算出部35は、例えば、以下の式(1)を用いて差分画像G((N―1),N)を算出する。差分画像G((N-1),N)は、1フレーム前のフレームF(N-1)から今回撮影した新たなフレームF(N)までに動いた部分を画像化したものである。
・ImageSub = ( Image0 - Image1) * 2 + 128 ・・式(1)
【0064】
ここで、動いた部分の検出感度を上げるために「Image0 - Image1」に適当な倍率(ここでは2倍)を掛けている。また、計算結果がマイナスの値にならないように、「Image0 - Image1」に「+ 128」を加算している。その結果、差分画像G((N―1),N)の各画素の画素値は、二つのフレームF(N-1),F(N)の画素値の差の2倍に「128」を加えたものとなり、フレーム間でまったく動かない部分の画素値は「128」となる。
【0065】
過去に撮影した残りのフレームF(1)~フレームF(N-1)については、これよりも前の時点におけるサイクルの処理で、それぞれの差分画像G(1,2)~差分画像G((N-2),(N-1))が既に算出されている。例えば、差分画像G((N-2),(N-1))については、一つ前のサイクルの処理(つまり、現時点でのフレームF(N-1)が最新のフレームF(N)であったときの処理)で算出されている。
【0066】
ここでは、
図10に示すフレームF(1)~フレームF(N)が撮影されたとする。フレームF(1)~フレームF(N)には、切羽9の他に建設機械5や作業員6が写っている。フレームF(1)~フレームF(N)に写る建設機械5は、作業員6が乗るかご5aと、アーム5bと、ケーブル5cを有する。エンジンが駆動中の建設機械5は、わずかに振動している。また、作業員6は、作業を行っているために静止しておらず、動いている。そのため、図示しない差分画像G(1,2)~差分画像G((N-1),N)には、建設機械5の振動や作業員6の動作が写し出される。
【0067】
続いて、落石検出領域算出部35は、差分画像G(1,2)~差分画像G((N-1),N)において、「ImageSub」として算出した画素値が「128±閾値Th2」を超えた部分を、フレーム間で動きがあった部分として抽出する。以下では、「ImageSub」が「128±閾値Th2」を超えた部分を移動体エリアH((N-1),N)と称する。
そして、落石検出領域算出部35は、過去Nフレーム分の画像における移動体エリアH(1,2)~移動体エリアH((N-1),N)の和集合を取り、過去Nフレームの間で動いた部分を抽出する。以下では、移動体エリアH(1,2)~移動体エリアH((N-1),N)の和集合を合成移動体エリアIと称する。
図10に示すフレームF(1)~フレームF(N)の合成移動体エリアIを
図11に示す。
【0068】
なお、落石検出領域算出部35は、合成移動体エリアIの補正を行ってもよい。例えば、非常に明るい物体(例えば、画素値が飽和して「255」になっているような場合)があると、差分画像Gでは動いた部分を検出できないことがある。このように非常に明るい部分は、例えば、作業員6が着用する安全ベスト、ヘルメット等であるので、落石8である可能性が非常に低い。そこで、落石検出領域算出部35は、過去Nフレーム分のフレームF(1)~フレームF(N)の中にこのような明るい部分がある場合には、当該部分を合成移動体エリアIに加えるのがよい。
【0069】
合成移動体エリアIは、過去Nフレーム分の画像において移動体が動いた領域を抽出するものであるが、移動体のすべての動きを検出できるわけではない。そこで、落石検出領域算出部35は、合成移動体エリアIに対して膨張処理を行う。膨張処理は、予め決められた画素数分だけ合成移動体エリアIを周囲に広げる処理である。膨張処理は、例えば、合成移動体エリアIを構成する画素を中心にして特定の画素数分だけ円状に増やす方法や横方向にX画素および縦方向にY画素といったように特定の画素数分だけ長方形状に増やす方法であってよい。
【0070】
図12を参照して、膨張処理について説明する。
図12(a)は膨張処理を行う前の状態を示し、
図12(b)は膨張処理を行った後の状態を示す。
図12(a)に示す合成移動体エリアIに対して、
図12(b)に示す膨張処理済みエリアJは、膨張処理エリアIa分だけ広がっている。これにより、合成移動体エリアIにおいて移動体の動きで検出できなかった部分があったとしても、膨張処理済みエリアJではその部分が概ね解消される。特に、ケーブル5c(
図10参照)のように細い物体は、移動体の動きとして正確に検出されないことがあるが、膨張処理を行うことによりその問題が解消される。
【0071】
また、
図11に示すように、合成移動体エリアIに島状の空間Ibが存在していた場合に、その空間Ibが落石検出領域K2(
図3参照)として残ると、落石候補Cとして検出される場合がある。そして、この空間Ibが何らかの理由によりフレーム間で繋がると、真の落石と判定される虞があり、誤検出の原因となる。例えば、
図11に示す空間Ibは、建設機械5のかご5aの隙間に対応するものである。しかしながら、膨張処理を行うことにより、膨張処理済みエリアJ(
図13参照)では誤検出の原因となる空間Ibが埋まり、落石候補Cとして検出されることがない。なお、島状の空間Ibは、移動体の隙間部分の他に、過去のNフレームにおいてたまたま動かなかったために移動体として検出しなかった部分によっても発生し得るが、膨張処理によって同様に空間Ibを埋めることができる。
【0072】
続いて、落石検出領域算出部35は、膨張処理済みエリアJに対してラベリング処理を行う。ラベリング処理は、繋がっている画素を一つのグループとして同じ番号を付与する処理である。ラベリング処理は、例えば、膨張処理済みエリアJの各画素を順番に選択し、選択した画素に隣接した画素が同じく膨張処理済みエリアJである場合に、これらに同じ番号を付していく。また、落石検出領域算出部35は、グループ分けした各々の膨張処理済みエリアJの面積が、予め設定された面積Sthよりも大きい場合に、その膨張処理済みエリアJを落石検出禁止領域K1とする。面積Sthは、例えば、検出したい落石8のサイズの最大値よりも大きい値である。そして、落石検出領域算出部35は、落石検出禁止領域K1の補領域を落石検出領域K2として求める(
図14参照)。
図14に示すように、建設機械5および作業員6に対応する部分が落石検出禁止領域K1となり、それ以外のエリアが落石検出領域K2となる。
【0073】
このラベリング処理から落石検出領域K2の算出までの一連の処理によれば、実際に落石8があった場合に、落石8があった領域を落石検出禁止領域K1に含めずに、落石検出領域K2とすることができる。つまり、落石8は自然落下するので、移動速度が建設機械5および作業員6に比べて速く、フレーム間の移動を合成したとしても、別々の膨張処理済みエリアJとして存在する。そのため、ラベリング処理によって別々のグループとして認識され、検出したい落石の面積Sthよりも大きくならないので、落石検出禁止領域K1に含まれることがない。
【0074】
図9に示すステップS103に続いて、個別落石検出部36は、落石検出領域K2内で落石候補Cを検出する(ステップS104)。ステップS104における落石検出領域K2内での落石候補Cの検出処理について説明する。
まず、個別落石検出部36は、差分画像G((N-1),N)の落石検出領域K2に限定した画像を作成し、各画素の画素値(例えば、輝度値)を「ImageSubReduceDomain」とする。そして、個別落石検出部36は、「ImageSubReduceDomain」の値が「128±閾値Th3」を超えた部分で、ある程度の大きさ(ノイズ除去)のものを落石候補Cとする。
【0075】
閾値Th3は、落石候補Cの検出感度であり、値を小さくすれば微弱な変化を検出できるが、感度を高くしすぎると、落石8でない切羽面の光量変動を過検出する。また、検出する画像面積を小さくすればするほど小さな落石8を検出できるが、小さくしすぎるとノイズを拾ってしまう。ここでは、これらのパラメータを可変設定できるようにすることで、検出感度の調整が可能となっている。
【0076】
なお、ステップS103における「落石検出領域の算出処理」での閾値Th2と、ステップS104における「落石候補の検出処理」での閾値Th3とは、必ずしも同じである必要はない。実際のカメラノイズ、切羽面の反射変動を踏まえて実験的に決めるのがよいが、一般的には、ステップS103の閾値Th2の方がステップS104の閾値Th3より小さい(感度が高い)ほうがよい。このようにすることで、移動体エリアHの検出で多少過検出しても、後で大きさによるフィルタ処理で消すことができることと、移動体の検出漏れを防ぐことができるためである。
【0077】
次に、個別落石検出部36は、落石候補Cがあったか否かを判定する(ステップS105)。落石候補Cがなかった場合(ステップS105で“No”)に、処理をステップS106に進め、「CRK = CRK - 1」を行って、落石候補Cを検出した回数を「-1」する(ステップS106)。ただし、CRKがマイナスの値になった場合にはゼロとする。そして、処理をステップS102に戻す(つまり、次のサイクルの処理に移行する)。
【0078】
落石候補Cがあった場合(ステップS105で“Yes”)に、「PRA = True?」であるか否か(前のフレームFで落石候補Cを検出したか否か)を判定する(ステップS107)。前のフレームFで落石候補Cを検出していない場合(ステップS107で“No”)に、個別落石検出部36は、落石候補Cの位置座標を記録するとともに、「PRA = 1」とする(ステップS108)。そして、処理をステップS102に戻す(つまり、次のサイクルの処理に移行する)。
【0079】
前のフレームFで落石候補Cを検出している場合(ステップS107で“Yes”)に、個別落石検出部36は、前回のサイクルで検出した落石候補Cの位置の下方の限定領域で落石候補Cを探す(ステップS109)。限定領域は、落石8がフレーム間で移動すると予測される範囲を含む範囲であり、かつ、簡潔に計算できる範囲である。言い換えると、限定領域は、自然落下領域D1を含む範囲であり、例えば、プログラムが複雑にならないような簡単な任意の形状(円形、扇状、四角形など)であるのがよい。個別落石検出部36は、限定領域に落石候補Cがなかった場合(ステップS110で“No”)に処理をステップS106に進め、「CRK = CRK - 1」を行って、落石候補Cを検出した回数を「-1」する(ステップS106)。また、個別落石検出部36は、限定領域に落石候補Cがあった場合(ステップS110で“Yes”)に、前回のサイクルで検出した落石候補Cの位置座標と今回のサイクルで検出した落石候補Cの位置座標とを比較し、一定の角度以内で且つ一定の落差があるか(つまり、今回の落石候補Cの位置座標が自然落下領域D1に含まれているか)を調べる(ステップS111)。また、個別落石検出部36は、次回のサイクルの検査に備え、落石候補Cの位置座標を今回のサイクルでの落石候補Cのものに更新する(ステップS111)。
【0080】
個別落石検出部36は、一定の角度以内で且つ一定の落差の条件に合致していない場合(ステップS112で“No”)に処理をステップS106に進め、「CRK = CRK - 1」を行って、落石候補Cを検出した回数を「-1」する(ステップS106)。また、個別落石検出部36は、一定の角度以内で且つ一定の落差の条件に合致している場合(ステップS112で“Yes”)に、「CRK = CRK + 1」を行って、落石候補Cを検出した回数を「+1」する(ステップS113)。そして、個別落石検出部36は、落石候補Cを検出した回数が落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数NN以上であるか否かを判定する(ステップS114)。このようにすることで、何らかの理由により落石候補Cが一時的に検出されない場合でも、次のサイクルで落石候補Cを引き続き追跡できる。
【0081】
落石候補Cを検出した回数が落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数NNまで達していない場合(ステップS114で“No”)に、個別落石検出部36は、処理をステップS102に戻し、次のサイクルの処理を行う。また、落石候補Cを検出した回数が落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数NNまで達している場合(ステップS114で“Yes”)に、個別落石検出部36は、落石候補Cを真の落石と判断し、落石警報装置2に警報を発生させる制御を行う(ステップS115)。
【0082】
(落石群追跡法による落石検出)
図8のステップS4に示す「落石群追跡法による落石検出」の動作を示すフローチャートを
図15に示す。
図9に示す「落石個別追跡法による落石検出」と
図15に示す「落石群追跡法による落石検出」との違いは、「落石群追跡法による落石検出」では
図9に示すステップS109,S110の処理がない点と、ステップS111の処理がステップS111Aに変更されている点である。以下では、これらの相違点について説明し、それ以外の同様の処理については説明を省略する。
【0083】
なお、ここでは群落石検出部37が主体となって落石群追跡法による落石検出を行う場合を想定している。つまり、
図9に示す「落石個別追跡法による落石検出」と
図15に示す「落石群追跡法による落石検出」とで共通できる処理について、個別落石検出部36と群落石検出部37とで別々に処理を行う。しかしながら、個別落石検出部36および群落石検出部37の何れか一方で共通処理を行い、共通処理を行わない他方は共通処理の結果を受け取るようにしてもよい。
【0084】
前のフレームFで落石候補Cを検出している場合(ステップS107で“Yes”)に、群落石検出部37は、前回のサイクルでの落石候補Cの位置座標と今回のサイクルでの落石候補Cの位置座標とを比較し、一定の角度以内で且つ一定の落差があるか(つまり、今回の落石候補Cの位置座標が自然落下領域D2に含まれているか)を調べる(ステップS111A)。ここで、複数の落石候補Cが存在した場合の落石候補Cの位置座標は、全ての落石候補Cの画像面積の重心Ch(
図7参照)である。また、群落石検出部37は、次回のサイクルの検査に備え、落石候補Cの位置座標を今回の落石候補Cのものに更新する(ステップS111A)。
【0085】
群落石検出部37は、一定の角度以内で且つ一定の落差の条件に合致していない場合(ステップS112で“No”)に処理をステップS106に進め、「CRK = CRK - 1」を行って、落石候補Cを検出した回数を「-1」する(ステップS106)。また、群落石検出部37は、一定の角度以内で且つ一定の落差の条件に合致している場合(ステップS112で“Yes”)に、「CRK = CRK + 1」を行って、落石候補Cを検出した回数を「+1」する(ステップS113)。そして、群落石検出部37は、落石候補Cを検出した回数が落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数NN以上であるか否かを判定する(ステップS114)。
【0086】
落石候補Cを検出した回数が落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数まで達していない場合(ステップS114で“No”)に、群落石検出部37は、処理をステップS102に戻し、次のサイクルの処理を行う。また、落石候補Cを検出した回数が落石候補Cを真の落石と判定する繰り返し回数NNまで達している場合(ステップS114で“Yes”)に、群落石検出部37は、落石候補Cを真の落石と判断し、落石警報装置2に警報を発生させる制御を行う(ステップS115)。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る落石検出システム1は、過去のNフレームにおけるフレーム間での差分画像Gに基づいた落石検出領域K2を用いて落石8の検出を行う。そのため、撮影した画像に作業員6や建設機械5が写る場合でも、その部分を落石検出禁止領域K1とすることで落石8を的確に検出することが可能である。その結果、切羽9などで発生する危険な兆候を検出することができる。
【0088】
また、本実施形態に係る落石検出システム1は、落石個別追跡法による落石検出に加えて、落石群追跡法による落石検出を行うので、短時間に多数の落石8があった場合でも、落石候補Cを追跡することができる。
【0089】
また、監視人による監視と、本実施形態に係る落石検出システム1による落石8の検出とを併用することも可能である。その場合、監視人から見えにくい箇所などの見落としのリスクが解消するので、作業のさらなる安全性を確保することができる。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【0091】
本実施形態では、個別追跡法と群追跡法とを併用し、何れかあるいは両方の方法によって落石候補Cが真の落石であると判定された場合に、落石8を検出したことを通知していた。しかしながら、個別追跡法と群追跡法とを併用せずに、個別追跡法および群追跡法の何れか一方のみを用いて、落石候補Cが真の落石であるか否かを判定してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 落石検出システム
2 落石警報装置
3 落石検出装置
5 建設機械
6 作業員
8 落石
9 切羽
21 脚部
22 照明部(照明手段)
23 撮影部(撮影手段)
24 報知部(報知手段)
31a 撮影条件情報
31b 検出対象情報
33 画像取得部
34 落石検出部
35 落石検出領域算出部
36 個別落石検出部
37 群落石検出部
38 落石検出通知部
K1 落石検出禁止領域
K2 落石検出領域