(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】梯子形ケーブルトレイの止水構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
H02G 3/22 20060101AFI20220812BHJP
H02G 3/04 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H02G3/22
H02G3/04 056
(21)【出願番号】P 2018104636
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】512118347
【氏名又は名称】株式会社ジェイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100083596
【氏名又は名称】橘高 郁文
(72)【発明者】
【氏名】尾形 曜
(72)【発明者】
【氏名】細越 順喜
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 洋一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-126164(JP,A)
【文献】特開2014-147212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
H02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本のケーブルが収納され、建屋の壁を貫通するように延設されている2本の親桁とその下部に配設されている複数本の子桁とからなる梯子形ケーブルトレイの前記壁付近に設けられている止水構造であって、
前記梯子形ケーブルトレイの貫通口が設けられ、前記梯子形ケーブルトレイの周囲の前記壁の壁面に密着して固定されている壁面板と、
当該壁面板から所定間隔離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイの内部にその下部から上部に亘って充填されている第1のシール部材と、
当該第1のシール部材から予め定められた間隔の前記梯子形ケーブルトレイの内部にその下部から上部に亘って
流し込んで充填されている
第1の止水部材と、
当該
第1の止水部材の端部から所定間隔離れた位置までの前記梯子形ケーブルトレイの内部にその下部から上部に亘って充填されている第2のシール部材とを有し、
前記壁面板の前記貫通口と前記梯子形ケーブルトレイとの境界部分には第3のシール部材が配設され、前記壁面板の前記貫通口の周囲部分の表面から、前記ケーブルトレイの内部に充填されている前記
第1の止水部材の表面部分に至る表面部分にはその全面に亘って
第2の止水部材が配設されていることを特徴とする梯子形ケーブルトレイの止水構造。
【請求項2】
前記
第1の止水部材と前記第2の止水部材
とは、二液混合型のポリウレア樹脂によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の梯子形ケーブルトレイの止水構造。
【請求項3】
前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とはシーリング材とパテ材とによって構成され、前記第3のシール部材は前記パテ材によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の梯子形ケーブルトレイの止水構造。
【請求項4】
前記シーリング材は、シリコン樹脂系シーリング材または変成シリコン樹脂系シーリング材によって構成され、前記パテ材は、非硬化型の一定形状を自己保持する程度の粘度を有するパテ材によって構成されていることを特徴とする請求項3に記載の梯子形ケーブルトレイの止水構造。
【請求項5】
多数本のケーブルが収納され、建屋の壁を貫通するように延設されている2本の親桁とその下部に配設されている複数本の子桁とからなる梯子形ケーブルトレイの前記壁付近における梯子形ケーブルトレイの止水施工方法であって、
前記壁の壁面から所定間隔だけ離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイに施工する第1のシール部材の施工範囲と、当該第1のシール部材の施工範囲の端部から予め定められた間隔だけ離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイに施工する止水部材の施工範囲と、当該止水部材の施工範囲の端部から所定間隔だけ離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイに施工する第2のシール部材の施工範囲とを決定する第1の工程と、
前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲とに位置する前記多数本のケーブルの隙間と前記親桁の内側の空間にシーリング材を充填する第2の工程と、
前記シーリング材が充填されている前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲の上面部に、前記梯子形ケーブルトレイの上端部に至るまでパテ材を充填する第3の工程と、
前記壁面から前記第2のシール部材の施工範囲内に位置する前記梯子形ケーブルトレイの下端側を全面に亘って覆う当て板の上面部の前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲との下側に位置する2ヶ所の部分にそれぞれ、前記壁側から順次パテ材→シーリング材→パテ材が位置するようなブロック状の部材を予め形成しておく第4の工程と、
前記ブロック状の部材が2ヶ所に形成されている前記当て板を、当該2つのブロック状の部材の上面部がそれぞれ、前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲とにそれぞれ既に配設されている前記シーリング材の下端面と密着するように、前記当て板を前記梯子形ケーブルトレイの下端側にクランプ等の固定手段によって固定する第5の工程と、
前記梯子形ケーブルトレイの前記止水部材の施工範囲に、二液混合型のポリウレア樹脂の二液を混合し、前記当て板の上面部から前記梯子形ケーブルトレイの上端部に至るまで流し込んで充填する第6の工程と、
前記二液混合型のポリウレア樹脂が固まった後、前記固定手段を外して前記当て板のみを前記梯子形ケーブルトレイの下端部から取り外す第7の工程と、
前記梯子形ケーブルトレイ用の貫通口を有する壁面板を、前記梯子形ケーブルトレイが貫通している前記壁の前記壁面上に密着するように固定し、当該壁面板と前記梯子形ケーブルトレイとの境界部分に前記パテ材を配設する第8の工程と、
前記壁面板の前記貫通口の周囲部分の表面から、前記梯子形ケーブルトレイの前記二液混合型のポリウレア樹脂が充填され固化している前記止水部材の施工範囲内に至る前記梯子形ケーブルトレイの表面部分に、前記二液混合型のポリウレア樹脂を二液を混合してから全面に亘って塗布する第9の工程とを有することを特徴とする梯子形ケーブルトレイの止水施工方法。
【請求項6】
前記第7の工程の後で前記第8の工程の前に、前記第1のシール部材および前記第2のシール部材の表面を前記パテ材を用いて平滑化する工程をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の梯子形ケーブルトレイの止水施工方法。
【請求項7】
前記当て板は、ポリアセタール板、ポリエチレン板またはテフロン(登録商標)板であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の梯子形ケーブルトレイの止水施工方法。
【請求項8】
前記シーリング材は、シリコン樹脂系シーリング材または変成シリコン樹脂系シーリング材であり、前記パテ材は、非硬化型の一定形状を自己保持する程度の粘度を有するパテ材であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の梯子形ケーブルトレイの止水施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場等の室内に既に設置され、多数本のケーブルが収納されている既設の梯子形ケーブルトレイに施工可能な梯子形ケーブルトレイの止水構造およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等内の離隔した場所に配置されている機器と機器とを接続するための通信ケーブル等のケーブルを多数本まとめて収納するケーブルトレイの止水構造およびその施工方法は既に提案されている(特開2017-73946)。
【0003】
従来のケーブルトレイの止水構造およびその施工方法を、以下、図面を用いて説明する。
【0004】
この従来のケーブルトレイの止水構造は、
図12に示すように底板部117aを有する断面が「コ」の字状となるように構成されているケーブルトレイ117の止水構造である。
【0005】
ケーブルトレイ117は、壁119を貫通するように水平方向に延設されており、その内部には多数本のケーブル115が収納されている。
【0006】
ケーブルトレイ117が貫通している壁119の壁面には、開口部閉止枠103が取り付けられ、この開口部閉止枠103に、開口部閉止枠カバー105、防火材逃がし枠107、シール材押え板111a、止水処理枠109とが順次取り付けられ、止水処理枠109の端部にはシール材押え板111bが取り付けられている。そして、シール材押え板111a,111bとケーブルトレイ117との間にはシール材が充填されており、また、止水処理枠109内に位置しているケーブルトレイ117内の複数本のケーブル115の間にもシール材が充填されている。以上のように構成されている防火材逃がし枠107、止水処理枠109、シール材押え板111a,111bの表面にはその全体の表面を連続して覆うシール材129が配設されている。
【0007】
このような従来のケーブルトレイの止水構造は以下のようにして形成される。
【0008】
先ず
図13に示すように、壁119を貫通して延設されている底板部117aを有するケーブルトレイ117上に複数本のケーブルを収納した後、ケーブルトレイ117が貫通している壁119の壁面に、
図14に示すようにケーブルトレイ117の貫通口を有する開口部閉止枠103を取り付けて、この開口部閉止枠103に、開口部閉止枠カバー105、防火材逃がし枠107、シール材押え板111aを順次取り付けていく。
【0009】
シール材押え板111aを取り付けた後、
図14に示すように、シール材押え板111aとケーブルトレイ117との間と、この部分に位置する複数本のケーブル115間の隙間とにペースト状のシール材125を充填して内ダムを形成する。
【0010】
その後、
図15に示すように、止水処理枠109を取り付け、さらにシール材押え板111bを取り付けて、このシール材押え板111bの部分にも、シール材押え板111aの部分と同様にペースト状のシール材125を充填して外ダムを形成する。
【0011】
その後、
図15に示したように、止水処理枠109内に位置する複数本のケーブル115の間の隙間に液状の流し込み材であるシール材127を充填してケーブルトレイ117内の防水部を完成させる。
【0012】
以上のようにしてケーブルトレイ117内の防水部という基本的な防水部を完成させた後、ケーブルトレイ117や、その外側に配設されている部材の必要な部分にシール材を適宜配設してケーブルトレイの防水施工を終了する。
【0013】
ここで、開口部閉止枠103、開口部閉止枠カバー105、防火材逃がし枠107、止水処理枠109、シール材押え板111a,111bは、それぞれ耐水圧性能を有する鋼材によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上説明した従来のケーブルトレイの止水構造を形成する過程においては、
図15に示したように、ケーブルトレイ117内の基本的な防水部分を形成するために、液状の流し込み材であるシール材127で複数本のケーブル115間の隙間を充填しなければならない。
【0016】
従って、底板部117aを有する断面が「コ」の字状のケーブルトレイ117には、この止水構造を形成することが出来るが、平行している2本の親桁と複数本の子桁とからなる所謂「梯子形ケーブルトレイ」には、液状の流し込み材であるシール材127が下方から流れ落ちてしまうために、この止水構造を形成することが出来ない。
【0017】
さらに、この従来のケーブルトレイの止水構造では、開口部閉止枠103、開口部閉止枠カバー105、防火材逃がし枠107、止水処理枠109、シール材押え板111a,111bなどの部材が耐水圧性能を有する鋼材によって構成されているために、止水構造部分の重量がかなり重くなってしまう。このため既に建屋内に配設されているケーブルトレイに、この止水構造を形成した場合には、壁119や既設のケーブルトレイの支持体への負担が増加して、場合によっては、これらの部分の補強工事が必要になってしまう虞もある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上の問題を解消するために、本発明は、多数本のケーブルが収納され、建屋の壁を貫通するように延設されている2本の親桁とその下部に配設されている複数本の子桁とからなる梯子形ケーブルトレイの前記壁付近に設けられている止水構造であって、前記梯子形ケーブルトレイの貫通口が設けられ、前記梯子形ケーブルトレイの周囲の前記壁の壁面に密着して固定されている壁面板と、当該壁面板から所定間隔離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイの内部にその下部から上部に亘って充填されている第1のシール部材と、当該第1のシール部材から予め定められた間隔の前記梯子形ケーブルトレイの内部にその下部から上部に亘って流し込んで充填されている第1の止水部材と、当該第1の止水部材の端部から所定間隔離れた位置までの前記梯子形ケーブルトレイの内部にその下部から上部に亘って充填されている第2のシール部材とを有し、前記壁面板の前記貫通口と前記梯子形ケーブルトレイとの境界部分には第3のシール部材が配設され、前記壁面板の前記貫通口の周囲部分の表面から、前記ケーブルトレイの内部に充填されている前記第1の止水部材の表面部分に至る表面部分にはその全面に亘って第2の止水部材が配設されていることを特徴とする。ここで、前記第1の止水部材と前記第2の止水部材とは、二液混合型のポリウレア樹脂によって構成されていてもよいし、さらに、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とはシーリング材とパテ材とによって構成され、前記第3のシール部材は前記パテ材によって構成されていてもよい。ここで、前記シーリング材は、シリコン樹脂系シーリング材または変成シリコン樹脂系シーリング材によって構成され、前記パテ材は、非硬化型の一定形状を自己保持する程度の粘度を有するパテ材によって構成されていてもよい。
【0019】
また、以上の問題を解消するために、本発明は、多数本のケーブルが収納され、建屋の壁を貫通するように延設されている2本の親桁とその下部に配設されている複数本の子桁とからなる梯子形ケーブルトレイの前記壁付近における梯子形ケーブルトレイの止水施工方法であって、前記壁の壁面から所定間隔だけ離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイに施工する第1のシール部材の施工範囲と、当該第1のシール部材の施工範囲の端部から予め定められた間隔だけ離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイに施工する止水部材の施工範囲と、当該止水部材の施工範囲の端部から所定間隔だけ離れた位置までの間の前記梯子形ケーブルトレイに施工する第2のシール部材の施工範囲とを決定する第1の工程と、前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲とに位置する前記多数本のケーブルの隙間と前記親桁の内側の空間にシーリング材を充填する第2の工程と、前記シーリング材が充填されている前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲の上面部に、前記梯子形ケーブルトレイの上端部に至るまでパテ材を充填する第3の工程と、前記壁面から前記第2のシール部材の施工範囲内に位置する前記梯子形ケーブルトレイの下端側を全面に亘って覆う当て板の上面部の前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲との下側に位置する2ヶ所の部分にそれぞれ、前記壁側から順次パテ材→シーリング材→パテ材が位置するようなブロック状の部材を予め形成しておく第4の工程と、前記ブロック状の部材が2ヶ所に形成されている前記当て板を、当該2つのブロック状の部材の上面部がそれぞれ、前記第1のシール部材の施工範囲と前記第2のシール部材の施工範囲とにそれぞれ既に配設されている前記シーリング材の下端面と密着するように、前記当て板を前記梯子形ケーブルトレイの下端側にクランプ等の固定手段によって固定する第5の工程と、前記梯子形ケーブルトレイの前記止水部材の施工範囲に、二液混合型のポリウレア樹脂の二液を混合し、前記当て板の上面部から前記梯子形ケーブルトレイの上端部に至るまで流し込んで充填する第6の工程と、前記二液混合型のポリウレア樹脂が固まった後、前記固定手段を外して前記当て板のみを前記梯子形ケーブルトレイの下端部から取り外す第7の工程と、前記梯子形ケーブルトレイ用の貫通口を有する壁面板を、前記梯子形ケーブルトレイが貫通している前記壁の前記壁面上に密着するように固定し、当該壁面板と前記梯子形ケーブルトレイとの境界部分に前記パテ材を配設する第8の工程と、前記壁面板の前記貫通口の周囲部分の表面から、前記梯子形ケーブルトレイの前記二液混合型のポリウレア樹脂が充填され固化している前記止水部材の施工範囲内に至る前記梯子形ケーブルトレイの表面部分に、前記二液混合型のポリウレア樹脂を二液を混合してから全面に亘って塗布する第9の工程とを有することを特徴とするものである。ここで、前記第7の工程の後で前記第8の工程の前に、前記第1のシール部材および前記第2のシール部材の表面を前記パテ材を用いて平滑化する工程をさらに有していてもよい。また、前記当て板は、ポリアセタール板、ポリエチレン板またはテフロン(登録商標)板であってもよい。また、前記シーリング材は、シリコン樹脂系シーリング材または変成シリコン樹脂系シーリング材であり、前記パテ材は、非硬化型の一定形状を自己保持する程度の粘度を有するパテ材であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既設の梯子形ケーブルトレイに適用可能な、従来の止水構造に比して簡易な構造で軽量であり、既設の梯子形ケーブルトレイの支持体や壁への負担をあまり増化させることなく配設することができる梯子形ケーブルトレイの止水構造およびその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施例1の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施例1の構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1の施工方法の説明図である。
【
図4】本発明の実施例1の施工方法の説明図であり、(a)は斜視図、(b)はそのA-A断面図である。
【
図5】本発明の実施例1の施工方法の説明図であり、(a)は斜視図、(b)はそのA-A断面図である。
【
図6】本発明の実施例1の施工方法の説明図であり、(a)は斜視図、(b)はそのA-A断面図である。
【
図7】本発明の実施例1の施工方法の説明図である。
【
図8】本発明の実施例1の施工方法の説明図である。
【
図9】本発明の実施例1の施工方法の説明図であり、(a)は斜視図、(b)はそのA-A断面図である。
【
図10】本発明の実施例1の施工方法の説明図である。
【
図11】本発明の実施例1の施工方法の説明図である。
【
図12】従来のケーブルトレイの止水構造の構成を示す斜視図である。
【
図13】従来のケーブルトレイの止水構造の施工方法の説明図である。
【
図14】従来のケーブルトレイの止水構造の施工方法の説明図である。
【
図15】従来のケーブルトレイの止水構造の施工方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1の構成を示した斜視図である。
【0024】
図1において、複数本のケーブル2を収納してあるケーブルトレイ1は、建屋の壁3を貫通して水平方向に延設されている。このケーブルトレイ1は、2本の平行に配置されている親桁1aと、この親桁1aの延在方向と直交する方向に延在するように配設されている複数本の子桁1bによって構成されている梯子形ケーブルトレイである。
【0025】
20はケーブルトレイ1の内部に配設されている第2のシール部材、30はケーブルトレイ1の内部に配設されている止水部材を示しており、また40はケーブルトレイ1の表面上に配設されている止水部材である。
【0026】
止水部材40を配設する前の状態の本実施例1の構成を
図2に示す。
【0027】
図2に示したように、止水部材40を配設する前の本実施例1に係る止水構造は、建屋の壁3の壁面に密着して固定されている壁面板4と、この壁面板4とケーブルトレイの境界部分に配設されている第3のシール部材5と、ケーブルトレイ1の内部に配設されている第1のシール部材10と、止水部材30と、第2のシール部材20とによって構成されている。
【0028】
ここで、止水部材30が配設される範囲(親桁1aの延在方向の長さ)は、既設のケーブルトレイ1の大きさ等の条件によってあらかじめ定められた範囲であり、また第1のシール材10および第2のシール材20が配設される範囲(親桁1aの延在方向の長さ)も同様に諸条件によって決定される所定範囲となっている。この第1のシール材10および第2のシール材20は、止水部材30を形成する際の液体状の止水部材の漏出を防ぐダム材として機能する。
【0029】
なお、本実施例1では止水部材30を形成する材料としては、硬化した後の止水機能に優れ、施工時においては、主剤と硬化剤との混合比率を変化させることにより、液体状態の止水部材の硬化速度および最高液温をある程度制御することができる二液混合型のポリウレア樹脂が選ばれている。このような二液混合型のポリウレア樹脂を使用すれば、液体状態における液温を制御してケーブル2の被覆材の熱による劣化を抑制した状態で止水部材30を形成することができる。
【0030】
また、第1のシール部材10および第2のシール部材20は、非硬化型の一定形状を自己保持する程度の粘度を有するパテ材と、ペースト状のシーリング材とを組み合わせることによって形成してある。このパテ材とシーリング材とは共に、止水部材30の材料である二液混合型のポリウレア樹脂と化学反応を起こさない材料を選んで使用する必要があり、例えば、パテ材については、オレフィン系樹脂、ポリブデン系樹脂、炭化水素系樹脂混入水酸化マグネシウム材等の材料によって構成されているパテ材であれば、本実施例1のパテ材として用いることができ、また、シーリング材については、シリコン樹脂系または変成シリコン樹脂系のシーリング材であれば、本実施例1のシーリング材として用いることができる。
【0031】
次に、以上のように構成された本実施例1の施工方法について図面を用いて説明する。
【0032】
図3に示したように、既に壁3を貫通した状態で水平方向に延在するように配設されている親桁1aと子桁1bとからなる梯子形ケーブルトレイ1に対して施工する場合、先ず、壁3の壁面側から順に第1のシール部材10の施工範囲、止水部材30の施工範囲、第2のシール部材20の施工範囲を諸条件を考慮して決定する。例えば、ケーブルトレイ1の幅(子桁1bの長さ)が300mmで厚さ(親桁1aの高さ)が100mmであれば、親桁1aの長手方向に、第1のシール部材10の施工範囲を100mm程度、止水部材30の施工範囲を150mm程度、第2のシール部材20の施工範囲を100mm程度とし、それぞれの範囲の端部の位置を決定する。
【0033】
次に、以上のようにして決定された第1および第2のシール部材の施工範囲内に位置する多数本のケーブル2間の隙間に
図4(a)に示したようにシーリング材21を充填する。
図4(b)は、
図4(a)のA-A断面図である。
図4(b)に示したように、このシーリング材21の充填は、多数本のケーブル2の下端部から上端部に至る範囲に行う。
【0034】
次に、
図5(a)とそのA-A断面図である
図5(b)に示したように、この第1および第2のシール部材の施工範囲内に位置する2本の親桁1aの内側の凹部にシーリング材21を充填する。
【0035】
以上のようにシーリング材21を充填した後、その上面側に、
図6(a)に示したようにパテ材22を親桁1aの上端部に至るまで充填する(
図6(b)は、
図6(a)のA-A断面図)。
【0036】
次に、
図7(a)に示したように、第1のシール部材の施工範囲、止水部材の施工範囲、第2のシール部材の施工範囲までのケーブルトレイ1の下端側を全面に亘って覆い壁3の壁面に当接する当て板50を予め用意しておき、その当て板50の上面部の第1のシール部材の施工範囲と第2のシール部材の施工範囲との下側に位置する2ヶ所の部分に、それぞれパテ材22とシーリング材21とからなるブロック状の部材を形成する。このブロック状の部材は、壁3側から順次パテ材22→シーリング材21→パテ材22となるように構成する。また、このブロック状の部材の高さは、当て板50をケーブルトレイ1の下端部に密着させた際、ブロック状の部材の上端面がその上側に配設されているケーブル2の隙間に充填されているシーリング材21の下端面に密着するような高さに選ばれている。
【0037】
以上のようにして、ブロック状の部材が2ヶ所に形成されている当て板50を、
図7(b)に示したようにケーブルトレイ1の下端部に密着させる。この状態での縦断面図を
図8に示す。
図8に示したような状態で、
図2に示した第1のシール部材10と第2のシール部材20との形成過程が終了する。
図8に示したように、この状態では、左右に形成されたシール部材10,20がダム材として機能し、また当て板50がケーブルトレイ1の下端面側を閉止しているので、これらに囲まれている止水部材30(
図2参照)の施工範囲に液状の止水部材を流し込んでも、その液状の止水部材は外側に漏出しない。
【0038】
図7(b)に示した状態で、当て板50を、
図9(a)に示したようにクランプ51やベルト等の固定手段によってケーブルトレイ1に固定する。次に、二液混合型のポリウレア樹脂の主剤と硬化剤を混合した液体31を、
図9(a)に示すように止水部材の施工範囲にケーブル2の上端部に至るまで流し込む。
【0039】
【0040】
この状態でしばらく待ち、流し込んだポリウレア樹脂の液体31が硬化してその温度が下り指で触れても大丈夫な程度になったら、さらに、
図11(a)に示したように、主剤と硬化剤を混合したポリウレア樹脂の液体31をケーブルトレイ1の親桁1aの上端部に至るまで流し込んで、その硬化を待つ。
【0041】
このように、ポリウレア樹脂の液体31を2回に分けて流し込むのは、ポリウレア樹脂は硬化時にその液温が上昇するため、この液温によるケーブル2の被覆材への影響を少しでも減少させるためである。
【0042】
次に、当て板50をケーブルトレイ1に固定していたクランプ51を取り外して、当て板50だけを、
図11(b)に示したようにケーブルトレイ1から取り外す。以上のようにして
図2に示した第1のシール部材10、止水部材30、第2のシール部材20の施工を終了する。なお、ケーブルトレイ1から当て板50を取り外した後、パテ材22を用いて第1のシール部材10と第2のシール部材20との地側の形を整えておく。このように第1のシール部材10および第2のシール部材20の表面の凹凸をパテ材22によって均して平滑化しておけば、後述する最終工程でその表面にポリウレア樹脂を塗布して配設した場合に塗り斑が生じないので、硬化したポリウレア樹脂の水圧に対する防水効果を高めることができる。
【0043】
次に、
図2に示したように、ケーブルトレイ1の貫通口を有する鋼板等により構成されている壁面板4をケーブルトレイ1の周囲の壁面に密着するように固定して、この壁面板4とケーブルトレイ1との境界部分に第3のシール部材5を配設する。この第3のシール部材は、本実施例1においては、第1および第2シール部材に使用されているパテ材22によって構成されている。
【0044】
そして、最後に、壁面板4の貫通口の周囲部分の表面から止水部分30の表面部分に至る表面部分に、その全面に亘って、主剤と硬化剤を混合したポリウレア樹脂の液体(止水部材30と同じポリウレア樹脂の液体)を塗布し、その硬化を待って止水施工を完了する。なお、本実施例1を施工する以前に、ケーブルトレイ1の周囲の壁面に耐火施工として、二液混合型のポリウレア樹脂の液体の塗布が可能な珪酸カルシウム板等の部材が既に配設されている場合には、この耐火用に施工されている部材を本実施例1における壁面板4と見做して、新たに壁面板4を配設することなく本実施例1の施工を行うことができる。
【0045】
ここで、止水部材30の形成過程で使用する当て板50に関しては、二液混合型のポリウレア樹脂が硬化した後に、簡単に剥離することができる材質で形成された当て板50を使用すれば、施工工事を容易に行うことができる。このため、本実施例1においては、この当て板50としてポリアセタール板を用いている。なお、この当て板50としては、ポリアセタール板ではなく、ポリエチレン板またはテフロン(登録商標)板を用いても同様の効果を得ることができる。
【0046】
また、以上説明してきたように、本実施例1においては、施工範囲ケーブルトレイの下端部に全面に亘って当て板を密着させることが出来れば、本実施例1に係る止水構造を形成することが出来る。従って、貫通している壁の直前の場所で水平方向において湾曲している既設のケーブルトレイに対しても、本実施例1に係る止水構造を形成することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 梯子形ケーブルトレイ
1a 親桁
1b 子桁
2 ケーブル
3 壁
4 壁面板
5,10,20 シール部材
21 シーリング材
22 パテ材
30,40 止水部材
31 ポリウレア樹脂の液体
50 当て板