IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許7122162熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、およびフレキシブル金属張積層板
<>
  • 特許-熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、およびフレキシブル金属張積層板 図1
  • 特許-熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、およびフレキシブル金属張積層板 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、およびフレキシブル金属張積層板
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220812BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220812BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
B32B27/34
C08G73/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018106091
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019210342
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】河野 富美弥
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅義
(72)【発明者】
【氏名】番家 翔人
(72)【発明者】
【氏名】多和田 誠
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129200(JP,A)
【文献】特開2013-028146(JP,A)
【文献】特開2011-195771(JP,A)
【文献】特開2017-132898(JP,A)
【文献】特開2006-270029(JP,A)
【文献】特開平11-152331(JP,A)
【文献】特開2009-028993(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046180(WO,A1)
【文献】特開2008-101187(JP,A)
【文献】特表2015-515402(JP,A)
【文献】特開2014-208793(JP,A)
【文献】特開平11-199668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
B32B 1/00-43/00
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水率が1.2wt%以下、線熱膨張係数が15ppm~35ppm、かつ膜厚が3.0μm以上であり、ガラス転移温度が150℃~350℃であり、芳香族酸二無水物成分としてp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を有し、芳香族ジアミン成分として2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを有することを特徴とする熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項2】
吸水率が1.2wt%以下、線熱膨張係数が15ppm~35ppm、かつ膜厚が3.0μm以上であり、ガラス転移温度が150℃~350℃であり、芳香族酸二無水物成分として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を有し、芳香族ジアミン成分としてビス(4-アミノフェニル)テレフタレートを有することを特徴とする熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項3】
300℃の貯蔵弾性率が0.13GPa~3.5GPa、かつ380℃の貯蔵弾性率が0.001GPa~0.05GPaであることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項4】
イミド基濃度が28%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項5】
非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片方の面に、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムが積層されていることを特徴とする多層ポリイミドフィルム。
【請求項6】
記熱可塑性ポリイミドフィルムの総厚みをL2、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの総厚みをL1としたとき、L2/L1≧0.45を満たすことを特徴とし、非熱可塑性ポリイミドフィルムの片面のみに熱可塑性ポリイミドフィルムを有する場合は、L2は当該熱可塑性ポリイミドフィルム1層の厚みを意味し、非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に熱可塑性ポリイミドフィルムを有する場合は、L2は当該熱可塑性ポリイミドフィルム2層の合計厚みを意味する、請求項5に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが6μm以上40μm以下である請求項またはに記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムに金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板。
【請求項9】
請求項5~7のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルムに金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリイミドフィルム、熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた多層ポリイミドフィルム、および、熱可塑性ポリイミドフィルムまたは多層ポリイミドフィルムに金属箔を積層して得られるフレキシブル金属張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、機械強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れているため、電子基板材料用途で多く利用されている。例えば、ポリイミドフィルムを基板材料とし、少なくとも片面に銅箔を積層したフレキシブル銅張積層板(以下、FCCLともいう)や、さらに回路を作製したフレキシブルプリント基板(以下、FPCともいう)などが製造され、各種電子機器に使用されている。近年の電子機器の高速信号伝送に伴う回路を伝達する電気信号の高周波化において、基板材料であるポリイミドの低誘電率化、低誘電正接化の要求が高まっている。一般的に、電子回路における信号の伝播速度は基板材料の誘電率が増加すると低下する。また誘電率と誘電正接が増加すれば信号の伝送損失も増大する。したがって、基板材料であるポリイミドの低誘電率化、低誘電正接化、さらには、FPCとした状態での伝送損失が小さいことなどが、電子機器の高性能化に不可欠となっている。
【0003】
高周波化に適応可能な回路基板材料やそれに用いるフィルムの検討としては、ポリイミド樹脂に誘電率が低い樹脂粉末を混合した絶縁樹脂層の開発が主流であり、フッ素樹脂を含有するポリイミド樹脂の両面にポリイミド層を積層し、さらに銅箔を配したフレキシブル銅張積層板等が開発されている。特許文献1にはポリイミドにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉を含有させた基板材料としての多層ポリイミドフィルムが開示されている。
【0004】
一方、FCCLの基板材料には、基板材料と金属箔との接着性も必要であるため、接着層を有する多層構造となることが一般的である。特許文献2には、耐熱フィルム上に形成した導電性金属層(金属箔)との密着力を有し、寸法安定性に優れる接着層を有する多層フィルムを用いるプリント回路用基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-526399号公報
【文献】特開2005-026542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなポリイミド樹脂へのフッ素樹脂の配合による取組みでは、ポリイミド樹脂中へのフッ素樹脂の均一分散が難しい。結果として、フィルムの場所により特性がばらつきやすく、例えば、誘電率、誘電正接が異なって、回路基板としては使用しくいことが課題である。
【0007】
特許文献2のような多層ポリイミドフィルムを用いる取組みでは、伝送損失低減の検討は行われておらず、誘電率、誘電正接がフィルムにおいて均一であり、さらには寸法安定性、引き剥がし強度と伝送損失の低減を両立する高周波回路基板(FCCL)に用いることが可能なフィルムの開発は困難であった。
【0008】
本発明の目的は、樹脂層の誘電率、誘電正接および吸水率、吸湿率を小さくすることにより伝送損失の低減が可能な高周波回路基板に好適に使用することができる熱可塑性ポリイミドフィルム、およびそれを用いた多層ポリイミドフィルム、および前記熱可塑性ポリイミドフィルムおよび多層ポリイミドフィルムに金属箔を積層して得られるフレキシブル金属張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、低吸水率かつ低線熱膨張係数をもつ熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることで、伝送損失の低減が可能な高周波回路基板に好適に使用することができる熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、およびフレキシブル金属張積層板を提供することができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0011】
<1>本発明における熱可塑性ポリイミドフィルムは、吸水率が1.2wt%以下、線熱膨張係数が15ppm~35ppm、かつ膜厚が3.0μm以上である。
<2>300℃の貯蔵弾性率が0.13GPa~3.5GPa、かつ380℃の貯蔵弾性率が0.001GPa~0.05GPaである<1>に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<3>イミド基濃度が28%以下である<1>または<2>に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<4>芳香族酸二無水物成分として、少なくともp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか1つを含み、芳香族ジアミン成分として、少なくとも4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、または2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンのいずれか1つを含む<1>~<3>のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<5>芳香族酸二無水物成分としてp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を有し、芳香族ジアミン成分として2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを有する<4>に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<6>芳香族酸二無水物成分として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を有し、芳香族ジアミン成分としてビス(4-アミノフェニル)テレフタレートを有する<4>に記載の熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<7>非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片方の面に、熱可塑性ポリイミドフィルムフィルムが積層されており、前記熱可塑性ポリイミドの総厚みをL2、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの総厚みをL1としたとき、L2/L1≧0.45を満たす多層ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<8> 非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片方の面に、<1>~<6>のいずれかに記載の熱可塑性ポリイミドフィルムが積層されている多層ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<9>前記熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが6μm以上40μm以下である<7>または<8>に記載の多層ポリイミドフィルムを用いることが好ましい。
<10><1>~<6>のいずれかに記載の熱可塑性ポリイミドフィルムに金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板を用いることが好ましい。
<11><8>または<9>の多層ポリイミドフィルムに金属箔が積層されたフレキシブル金属張積層板を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱可塑性ポリイミドフィルム及び、多層ポリイミドフィルムによれば低伝送損失の材料を提供できる。そのため、エレクトロニクス製品の高周波化に対応でき、特に高周波用途に好適に用いることができる。例えば、1GHz以上という高周波回路用基板等を開発する場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る熱可塑性ポリイミドフィルムを用いるフレキシブル金属張積層板の一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る多層ポリイミドフィルムを用いるフレキシブル金属張積層板の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0015】
本発明のポリイミドの使用例のひとつとして、電子回路の基板材料として使用されることが想定される。そのため、熱可塑性ポリイミドフィルムおよび、熱可塑性ポリイミドまたは非熱可塑性ポリイミドからなる多層ポリイミドフィルムは、金属箔と積層され金属張積層板として使用される。このとき、前記熱可塑性ポリイミドフィルムおよび多層ポリイミドフィルムは線熱膨張係数(以下、CTEともいう)が、前記金属箔と同程度であることが求められる。熱可塑性ポリイミドフィルムおよび多層ポリイミドフィルムのCTEと金属箔のCTEが同程度でない場合には、積層後のFCCLがカールする問題や、加工工程で熱可塑性ポリイミドフィルムおよび多層ポリイミドフィルムと金属箔の間で剥がれ、ヒビわれ等の不具合が発生しやすくなる。
【0016】
一方、高周波回路では電気信号の伝送損失を抑制するために低誘電率、低誘電正接、低吸水率である材料が求められる。熱可塑性ポリイミドフィルムは非熱可塑性ポリイミドフィルムよりも比較的、誘電率、誘電正接、吸水率が低い特性をもつ。しかし、一般的に熱可塑性ポリイミドフィルムはその熱可塑性を発現する柔軟な骨格構造から、CTEが高い傾向にある。このため、熱可塑性ポリイミドフィルムのみでの使用や、多層ポリイミドフィルムの大部分を熱可塑性ポリイミドフィルムにすることは前記FCCLでの問題が生じるため、適用困難であった。
【0017】
熱可塑性ポリイミドに良好な接着性を持たせた場合、CTEが高くなる傾向であるが、本発明者らは充分な接着性を有するとともに、CTEが低く、さらに誘電率、誘電正接、吸水率が低い特性を有する新規な熱可塑性ポリイミドフィルムを開発した。当該熱可塑性ポリイミドフィルムは、さらに多層ポリイミドフィルムと金属箔を積層した際の不具合がなく、高周波回路に適用可能である。
【0018】
以下、熱可塑性ポリイミドフィルム、および多層ポリイミドフィルムのコア層となる非熱可塑性ポリイミドフィルムについて説明する。
【0019】
(熱可塑性ポリイミド)
熱可塑性ポリイミドとは、一般的にDSC(示差走査熱量測定)で、ガラス転移温度を有するポリイミドをいう。本発明での熱可塑性ポリイミドは、前記ガラス転移温度が、150℃~350℃であるものをいう。
【0020】
熱可塑性ポリイミドフィルムに含有される熱可塑性ポリイミドとしては、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を好適に用いることができる。中でも、寸法安定性、密着性の点から、熱可塑性ポリイミドが特に好適に用いられる。
【0021】
本発明に用いられる熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸は、イミド化することにより熱可塑性ポリイミドを形成することができ、得られる熱可塑性ポリイミドフィルムの吸水率が1.2wt%以下、かつ線熱膨張係数が15ppm~35ppmを満たすものであれば特に限定されず、公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。
【0022】
熱可塑性ポリイミドで用いる芳香族酸二無水物成分としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの誘導体を含み、これらを単独で、または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0023】
中でも、誘電率、誘電正接、線熱膨張係数を低くする点で3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸二無水物であることが好ましい。このような酸二無水物は、剛直な構造であるため、線熱膨張係数を低くすることができる。
【0024】
熱可塑性ポリイミドで用いる芳香族ジアミン成分は特に制限されないが、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニル N-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、及びそれらの誘導体などが挙げられ、これらを単独で、または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0025】
中でも、誘電率、誘電正接、線熱膨張係数を低くする点で4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンからなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジアミンであることが好ましい。
【0026】
中でも、吸水率が低く、線熱膨張係数を容易に低減できる観点から、芳香族酸二無水物成分として、少なくともp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか1つを含み、芳香族ジアミン成分として、少なくとも4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、または2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンのいずれか1つを含む熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
芳香族酸二無水物成分としてp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を有し、芳香族ジアミン成分として2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを有する熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることがさらに好ましい。また芳香族酸二無水物成分として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を有し、芳香族ジアミン成分としてビス(4-アミノフェニル)テレフタレートを有する熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることがさらに好ましい。
【0028】
熱可塑性ポリイミドの重合方法、重合用溶媒、反応温度や反応時間は特に限定されるのもではない。本発明に係る熱可塑性ポリイミドの特性を制御する目的で、必要に応じて無機物あるいは有機物のフィラー、さらにはその他樹脂を添加しても良い。
【0029】
誘電率、誘電正接、吸水率を低くするために、熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度が28%以下であること好ましい。中でも、イミド基濃度は27%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。
【0030】
イミド基濃度はポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100
で計算される値である。
上述の所定の酸二無水物や芳香族ジアミンを用いることにより、容易にイミド基濃度を低くすることができ、誘電率や誘電正接を低減することができる。
【0031】
(熱可塑性ポリイミドフィルム)
一般的にポリイミドは、ポリイミドの前駆体、即ちポリアミド酸からの脱水転化反応により得られる。当該転化反応を行う方法としては、熱によってのみ行う熱キュア法と、化学硬化剤を使用する化学キュア法の2法が最も広く知られている。中でも、化学硬化剤を使用する化学キュア法は生産性が向上し、フィルムの機械強度が確保できる。ここで、化学硬化剤とは、脱水剤及びイミド化触媒を含むものである。
【0032】
脱水剤とは、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤であり、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N′-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物またはそれら2種以上の混合物を好ましく用いることができる。その中でも特に、脂肪族酸無水物及び芳香族酸無水物が良好に作用する。化学脱水剤の好適な導入量は、化学脱水剤を含有させる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して0.5モル~4.0モル、好ましくは0.7モル~4.0モル、特に好ましくは1.0モル~4.0モルである。前記範囲内であれば、導体の腐食を抑制できたり、硬化速度を充分に発現できるなど、好適である。
【0033】
また、イミド化触媒とは硬化剤のポリアミド酸に対する脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であるが、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミンを用いることができる。そのうち、イミダゾ-ル、ベンズイミダゾ-ル、イソキノリン、キノリン、またはβ-ピコリンなどの含窒素複素環化合物であることが好ましい。さらに、脱水剤及びイミド化触媒からなる溶液中に、有機極性溶媒を導入することも適宜選択されうる。イミド化触媒の好適な導入量は、イミド化触媒を含有させる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して0.05モル~2.0モル、好ましくは0.1モル~2.0モル、特に好ましくは0.2モル~2.0モルである。前記範囲内であれば、ポリイミド層にイミド化触媒が残存しにくい、長期耐熱性に優れる、硬化速度を充分に発現できるなど、好適である。
【0034】
本発明に係る熱可塑性ポリイミドフィルムは、高周波での電気信号の伝送損失を良好にするために、誘電率が3.5以下であり、誘電正接が0.011以下であることが求められる。中でも誘電率は3.4以下が好ましい。また誘電正接は0.01以下が好ましい。
【0035】
また、水の誘電率および誘電正接は非常に大きいため、樹脂中の水分が少ないことが求められる。このため、熱可塑性ポリイミドの吸水率が1.2wt%以下であることが好ましい。吸湿率は、1.2wt%以下であることが好ましく、0.8wt%以下であることがより好ましい。
【0036】
フレキシブル金属張積層板のエッチング前後の寸法変化率を抑制するため、熱可塑性ポリイミド層の線熱膨張係数(CTE)は15ppm~35ppmであることが好ましく、17ppm~30ppmであることがより好ましく、17ppm~26ppmであることがさらに好ましい。線熱膨張係数を15ppm以上とすることにより、フレキシブル金属張積層板を作製するために熱可塑性ポリイミド層の上に形成する金属との線熱膨張係数と近くすることができ、金属の寸法変化に追随することができる。
【0037】
フレキシブル金属張積層板の加熱前後の寸法変化率を抑制するため300℃の貯蔵弾性率が0.13GPa~3.5GPaであることが好ましい。中でも、0.13GPa~2.5GPaがより好ましく、0.13GPa~2.0GPaがさらに好ましい。
0.13GPa以上とすることで、加熱前後の寸法変化率を小さくすることができる。
【0038】
フレキシブル金属張積層板の銅箔引き剥がし強度を高めるため、380℃の貯蔵弾性率が0.001GPa~0.05GPaであることが好ましい。中でも、0.001GPa~0.03GPaがより好ましい。
【0039】
本発明の熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは、単独で用いる場合、3μm以上である。熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは、例えば、6μm~100μmが好ましく、12μm~54μmがより好ましく、16.5μm~48μmがさらに好ましい。厚みがこの範囲内の場合は、フレキシブル配線板としては、適切な硬さと折り曲げ性を有することになり、またハンドリング性も良好であり、搬送中に裂けて製造工程を通らなくなるようなトラブルも発生しにくくなる。
【0040】
(非熱可塑性ポリイミド)
非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)に含有される非熱可塑性ポリイミドは、ポリアミド酸を前駆体として用いてイミド化することにより製造される。イミド化することにより非熱可塑性ポリイミドとなるポリアミド酸を構成するモノマーとしては、非熱可塑性を示すことができれば、特に限定はない。
【0041】
非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)に含有される非熱可塑性ポリイミドを設計するために好適に用いられる芳香族酸二無水物成分の例としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、などが挙げられ、これらを単独又は複数併用することができる。
【0042】
非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)に含有される非熱可塑性ポリイミドに好適に用いられる芳香族ジアミン成分の例としては、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル、などが挙げられ、これらを単独又は複数併用することができる。
【0043】
非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)に含有される非熱可塑性ポリイミドの重合方法、重合用溶媒、反応温度や反応時間は特に限定されるのもではない。ポリアミド酸をポリイミドとする際の硬化剤や硬化条件等も特に限定されない。
【0044】
(非熱可塑性ポリイミドフィルム)
非熱可塑性ポリイミドフィルムをコア層とすることにより、多層ポリイミドフィルムを構成することができる。非熱可塑性ポリイミドフィルムは非熱可塑性ポリイミドフィルムとしての特性を損なわない範囲で、非熱可塑性ポリイミドとともに他の樹脂を含有していてもよい。
【0045】
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)の誘電正接は0.011以下であることが好ましい。誘電正接が上記範囲である場合、多層ポリイミドフィルムの誘電正接を容易に0.011以下に制御できる。また非熱可塑性ポリイミドフィルムの誘電率は3.5以下であることが好ましい。誘電率が上記範囲である場合、多層ポリイミドフィルムの誘電率を容易に3.6以下に制御できる。
【0046】
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)の吸湿率も低い方が好ましい。具体的には0.1wt%~1.7wt%であることがより好ましく、0.1wt%~1.4wt%であることが特に好ましい。また、非熱可塑性ポリイミドフィルムは、吸水率も低い方が好ましく、0.1wt%~1.7wt%であることが好ましく、0.1wt%~1.4wt%であることが特に好ましい。
【0047】
フレキシブル金属張積層板のエッチング前後の寸法変化率を抑制するため、コア層の線熱膨張係数は1ppm~15ppmであることが好ましく、2ppm~12ppmであることがより好ましい。
【0048】
(多層ポリイミドフィルム)
本発明の多層ポリイミドフィルムとしては、非熱可塑性ポリイミドフィルムをコア層とし、コア層の少なくとも片方の面に熱可塑性ポリイミドフィルムを接着層として有するものを用いることができる。多層ポリイミドフィルムに用いられる熱可塑性ポリイミドフィルムは、吸水率が1.2%以下であって、かつCTEが15ppm~35ppmである。
【0049】
多層ポリイミドフィルムは高周波回路用基板等に用いられるため、吸水率が低い方が好ましい。具体的には0.1wt%~1.3wt%であることがより好ましく、0.1wt%~1.0wt%であることが特に好ましい。多層ポリイミドフィルムは、誘電率が低いほうが好ましい。具体的には、3.6以下であることがより好ましく、3.5以下であることが特に好ましい。
【0050】
本発明の多層ポリイミドフィルムの誘電正接も低いほうが好ましい。具体的には0.001~0.011であることがより好ましく、0.001~0.009であることが特に好ましい。
【0051】
本発明の多層ポリイミドフィルムの全厚みは、特に限定されない。例えば、12μm~54μmが好ましく、16.5μm~48μmがより好ましい。全厚みがこの範囲内の場合は、フレキシブル配線板としては、適切な硬さと折り曲げ性を有することになり、またハンドリング性も良好であり、搬送中に裂けて製造工程を通らなくなるようなトラブルも発生しにくくなる。
【0052】
ここで、熱可塑性ポリイミドフィルム(接着層)の総厚みをL2、非熱可塑性ポリイミドフィルム(コア層)の総厚みをL1としたとき、L2/L1≧0.45を満たすことが好ましい。あるいは、多層ポリイミドフィルムにおける片面の熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが3.0μmであることが好ましい。多層ポリイミドフィルムにおける熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みの割合を大きくする、あるいは熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みを大きくすることにより、誘電正接を低減することができる。
【0053】
なお、「総厚み」とは、多層ポリイミドフィルムを形成する全体の厚みであり、例えば、コア層1層の場合は1層の厚みを意味する。またコア層の片面のみに接着層を有する(接着層1層)場合は、L2は接着層1層の厚みを意味し、コア層の両面に接着層を有する(接着層2層)場合は、L2は接着層2層の合計厚みを意味する。なお、本明細書において単に「厚み」とは、1層の厚みを意味する。
【0054】
本発明のコア層の厚みは、上記L1、L2の範囲を満たせば特に限定されない。例えば、5μm~44μmが好ましく、9μm~36μmがより好ましい。コア層の厚みは上記厚みの好ましい範囲内で、任意に決めることができる。
【0055】
接着層の厚みは、上記L1、L2の範囲を満たす、あるいは3μm以上とすればよい。例えば、3μm~40μmが好ましく、6μm~40μmがより好ましく、7μm~38μmがさらに好ましい。接着層の厚みは上記厚みの好ましい範囲内で、任意に決めることができる。接着層の厚みがこの範囲内の場合は金属箔表面の粗度にもよるが金属箔との密着性が良く、またエッチングした後の寸法変化率も良好となる傾向にある。
【0056】
本発明の多層ポリイミドフィルムの製造方法において、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミド層を設ける手段については特に限定されず、従来公知の方法が使用できる。例を挙げると、(i)コア層となる非熱可塑性ポリイミド層に、接着層となる熱可塑性ポリイミド層を形成する方法、(ii)コア層と接着層を多層押出し等で同時成形しする方法等が好適に例示される。
【0057】
前記(i)の手段で、接着層の前駆体溶液を塗工し、接着層溶液中の有機溶剤の大部分を除去するため、比較的低い温度で加熱を行う。温度は50℃~200℃の範囲が好ましい。最後に、多層ポリイミドフィルム中における接着層中に僅かに残った溶剤の除去と、接着層のポリアミド酸のイミド化を行うため、多層ポリイミドフィルムを高い温度で加熱処理を行う。この段階での加熱処理温度は250℃以上が好ましい。250℃以上の温度で加熱処理を行う場合、寸法変化率、引き剥がし強度が良好となる。接着層中に溶剤が殆ど残っていない場合、この段階で熱可塑性ポリイミドの融点以上の温度をかけて加熱を行い、溶剤除去、接着層中の熱可塑性ポリイミドのイミド化、接着層の融解を一工程でまとめて行っても良い。熱可塑性ポリイミドの融点以上の温度は390℃程度と高温であるため、加熱後に急冷すると多層ポリイミドフィルムの急激な収縮が起こり、外観が悪化する可能性があるため、徐々に雰囲気温度を下げて徐冷する方が好ましい。
【0058】
前記(ii)の手段で多層ポリイミドフィルムを製造する場合、コア層と接着層を多層押出し等で同時成形した後、加熱して溶剤除去、イミド化、融解を行う。温度ステップについては(i)と同様にして行えば良い。
【0059】
前記加熱手段としては特に限定されず、例えば、熱風方式、遠赤外線方式などをが挙げられ、これらを併用しても良い。また、加熱方法についても、バッチ処理、連続処理のどちらを用いても良いが、多層ポリイミドフィルムの生産性の観点からすると、連続処理が好ましい。
【0060】
本発明に係る接着層及びその製造方法では、熱キュア法、化学キュア法のいずれを採用しても構わないが、製造効率を考慮すると、コア層には化学キュア法を採用する方が特に好ましい。
【0061】
(金属箔)
本発明において用いることができる金属箔としては特に限定されるものではない。例えば、電子機器・電気機器用途に本発明のフレキシブル金属張積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔を挙げることができる。一般的なフレキシブル積層板では、圧延銅箔、電解銅箔といった銅箔が多用されるが、本発明においても好ましく用いることができる。なお、これらの金属箔の表面には、防錆剤や耐熱性付与剤あるいは接着剤が塗布されていてもよい。
【0062】
また、上記金属箔の厚みについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能が発揮できる厚みであればよい。金属箔の表面は平滑な方が伝送損失低減のためには好ましく、Ra1.0μm以下の銅箔が好ましく用いられる。高速伝送用の平滑な銅箔は各社から市販されている。本発明で使用される多層ポリイミドフィルムは、接着層が熱可塑性ポリイミドであるため銅箔との密着性が高く、一般にアンカー効果が得られにくくなる平滑な銅箔とも良好な密着を得られる点で優れている。
【0063】
(フレキシブル金属張積層板)
本発明のフレキシブル金属張積層板を製造するための熱可塑性ポリイミドと金属箔を貼り合わせる方法としては、例えば、多層ポリイミドフィルムと金属箔を貼り合わせる方法や、金属箔上に熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸をキャストして、イミド化する方法を用いることができる。
【0064】
多層ポリイミドフィルムと金属箔を貼り合わせる方法としては、例えば、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)による連続処理を用いることができる。中でも、装置構成が単純であり保守コストの面で有利であるという点から、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置を用いることが好ましい。また、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置で金属箔と貼り合わせた場合に特に寸法変化が発生しやすいことから、本発明の多層ポリイミドフィルムは、熱ロールラミネート装置で金属箔と張り合わせた場合に顕著な効果を発現する。ここでいう「一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置」とは、材料を加熱加圧するための金属ロールを有している装置であればよく、その具体的な装置構成は特に限定されるものではない。
【0065】
上記熱ラミネートを実施する手段の具体的な構成は特に限定されるものではないが、得られる積層板の外観を良好なものとするために、加圧面と金属箔との間に保護材料を配置することが好ましい。保護材料としては、熱ラミネート工程の加熱温度に耐えうる材料、すなわち、耐熱性プラスチック、銅箔、アルミニウム箔、SUS箔等の金属箔等が挙げられ、ラミネート温度よりも50℃以上の高い耐熱性を有する材料が好ましく用いられる。また、保護材料の厚みはラミネート時の緩衝並びに保護の役目を十分に果たすことができれば、特に限定されない。例えば、保護材料の厚みは75μm以上であることが好ましい。
【実施例
【0066】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明について更に具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0067】
(フィルムの厚み)
接触式厚み計Mitsutoyo社製LASER HOLOGAGEを使用してフィルムの厚みを測定した。
【0068】
(吸湿率の測定)
吸湿率は、ティー・エイ・インスツメント・ジャパン社製STD Q600により、20℃~120℃まで20℃/minで加熱し、120℃で2時間保持した条件下における重量減少から算出した。サンプルは23℃/55%RHで1週間静置して調湿したものを測定した。
【0069】
(吸水率の測定)
50mm×50mmにカットしたサンプルを150℃×20分において乾燥し、デシケータ内で冷却した後、乾燥後重量を測定した。その後蒸留水に浸漬し、24時間後に取り出して重量を測定し、吸水後重量を測定した。吸水前後の重量差/乾燥後重量×100の式から算出した値を吸水率とした。
【0070】
(誘電率と誘電正接の測定)
誘電率と誘電正接は、HEWLETTPACKARD社製のネットワークアナライザ8719Cと株式会社関東電子応用開発製の空洞共振器振動法誘電率測定装置CP511を用いて測定した。サンプルを2mm×100mmに切り出し、23℃/55%RH環境下で24時間調湿後に測定を行った。測定は10GHzで行った。
【0071】
(線熱膨張係数(CTE)の測定)
ポリイミドフィルムの線熱膨張係数は、幅3mm、長さ10mmに切り出したサンプルを用い、SIIナノテクノロジー社製熱機械的分析装置、商品名:TMA/SS6100により、荷重29.4mNの引張りモードで0℃~460℃まで一旦昇温させた後、10℃まで冷却し、さらに10℃/minで昇温させて、2回目の昇温時の、100~200℃の範囲内の平均値を求めることにより測定し、これをCTEの値とした。
【0072】
(動的粘弾性測定(DMA))
SIIナノテクノロジー社製熱機械的分析装置、商品名:DMS6100を用いて(サンプルサイズ 幅9mm、長さ50mm)、周波数1、5、10Hzで昇温速度3℃/minで20~400℃の温度範囲で測定した。温度に対して貯蔵弾性率をプロットした曲線の300℃および、380℃の貯蔵弾性率の値を読み取った。
【0073】
(熱ロールラミネート方法によるFCCLの作製方法)
多層ポリイミドフィルムの両面に厚み12μmの圧延銅箔(GHY5-93F-HA;JX日鉱日石社製)、さらにその両側に保護材料(アピカル125NPI;カネカ製、厚み125μm)を配して、熱ロールラミネート機を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力245N/cm2(25kgf/cm)、ラミネート速度1.0m/分の条件で連続的に熱ラミネートを行い、フレキシブル金属張積層板を作製した。
【0074】
(キャスト法によるFCCLの作製方法)
厚み12μmの圧延銅箔(GHY5-93F-HA;JX日鉱日石社製)に、熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液をバーコーターにより、乾燥後の厚み25μmとなるように塗工した。その後、120℃で30分、250℃で30分、350℃で30分加熱処理することにより、片面銅箔のフレキシブル金属張積層板を作製した。フィルム特性は銅箔をすべてエッチングした後に評価した。
【0075】
(引き剥がし強度)
JIS C6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って、サンプルを作製し、3mm幅の金属箔部分を、90度の剥離角度、200mm/分の条件で剥離し、その荷重(N/cm)を測定した。測定結果が10N/cm以上を◎、7N/cm以上10N/cm未満を○、7N/cm未満を×とした。
【0076】
(寸法変化率の測定)
JIS C6481に基づいて、フレキシブル銅張積層板に4つの穴を形成し、各穴のそれぞれの距離を測定した。次に、エッチング工程を実施してフレキシブル銅張積層板から金属箔を除去した後に、23℃/55%RHで24時間放置して調湿した。その後、エッチング工程前と同様に、上記4つの穴について、それぞれの距離を測定した。金属箔除去前における各穴の距離の測定値をD1とし、金属箔除去後における各穴の距離の測定値をD2として、次式によりエッチング前後の寸法変化率を求めた。
寸法変化率(%)={(D2-D1)/D1}×100
【0077】
続いて、エッチング後の測定サンプルを250℃で30分加熱した後、23℃/55%RHで24時間放置した。その後、上記4つの穴について、それぞれの距離を測定した。加熱後における各穴の距離の測定値をD3として、次式により加熱前後の寸法変化率を求めた。
寸法変化率(%)={(D3-D2)/D2}×100
【0078】
なお、上記寸法変化率は、MD方向及びTD方向の双方について測定し、その平均値を寸法変化率とした。また、エッチング前後の寸法変化率と加熱前後の寸法変化率を足した値をTotalとし、エッチング前から加熱後の最終状態までの寸法変化率を算出した。
【0079】
各寸法変化率の値が-0.03%以上0.03%以下を◎、-0.05%以上-0.03%未満および0.03%以上0.05%以下を○、-0.05%未満および0.05%以上を×とする。
【0080】
以下に、合成例で用いたモノマーの略称を示す。
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
4,4’-ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
PDA:p-フェニレンジアミン
BAPT:ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート
TMHQ:p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
【0081】
(合成例1)
容量3000mlのガラス製フラスコにDMFを1667.7g投入し、TMHQ170.1g、TFMB95.1g、4,4’-ODA14.9gを溶解した。均一撹拌後に、別途調製しておいた4,4’-ODAのDMF溶液(4,4’-ODA:DMF=5.0g:95.0g)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が290ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度14重量%、23℃での回転粘度が290ポイズのポリイミド前駆体溶液を得た。
【0082】
(合成例2)
容量3000mlのガラス製フラスコにDMFを1268.7g投入し、BPDA122.3g、BAPT72.4g、BAPP80.2gを溶解した。均一撹拌後に、別途調製しておいたBAPPのDMF溶液(BAPP:DMF=5.0g:95.0g)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が250ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度14重量%、23℃での回転粘度が250ポイズのポリイミド前駆体溶液を得た。
【0083】
(合成例3)
容量3000mlのガラス製フラスコにDMFを1615.1g投入し、BPDA167.6g、BAPT99.2g、TPE-R78.3gを溶解した。均一撹拌後に、別途調製しておいたTPE-RのDMF溶液(TPE-R:DMF=5.0g:95.0g)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が260ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度14重量%、23℃での回転粘度が260ポイズのポリイミド前駆体溶液を得た。
【0084】
(合成例4)
容量3000mlのガラス製フラスコにDMFを1273.0g投入し、BPDA116.9g、BAPP158.2gを溶解した。均一撹拌後に、別途調製しておいたBAPPのDMF溶液(BAPP:DMF=5.0g:95.0g)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が230ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度14重量%、23℃での回転粘度が230ポイズのポリイミド前駆体溶液を得た。
【0085】
(合成例5)
容量3000mlのガラス製フラスコにDMFを1582.7g投入し、PMDA146.0g、4,4’-ODA130.0gを溶解した。均一撹拌後に、別途調製しておいた4,4’-ODAのDMF溶液(4,4’-ODA:DMF=5.0g:95.0g)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が250ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度14重量%、23℃での回転粘度が250ポイズのポリイミド前駆体溶液を得た。
【0086】
(合成例6)
容量3000mlのガラス製フラスコにDMFを1566.6g投入し、4,4’-ODA75.2g、BAPTを130.9g、PMDAを159.0gを溶解した。均一撹拌後に、別途調製しておいたPMDAのDMF溶液(PMDA:DMF=5.0g:95.0g)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が200ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度14重量%、23℃での回転粘度が200ポイズのポリイミド前駆体溶液を得た。
【0087】
合成例1~合成例6の組成比およびイミド基濃度を表1に示す。
【0088】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液を固形分濃度12%となるようにDMFで希釈した溶液を、最終厚みが25μmとなるようにガラス板上にキャストした後、100℃で5分間、120℃で5分間乾燥を行った。続いて、200℃で10分間、250℃で5分間、350℃で5分間加熱を行い、その後放冷したあとガラス板状から熱可塑性ポリイミドフィルムをはがして、単層の熱可塑性ポリイミドフィルムを得た。
【0089】
また、9μm厚の高耐熱性ポリイミドフィルム(アピカル(登録商標)9FP、カネカ製)をコア層として、このコア層の両面に、合成例1で得られたポリアミド酸溶液を固形分濃度8.0重量%になるまでDMFで希釈した溶液を、最終片面厚みが8μmとなるようにポリアミド酸溶液を塗布した後、120℃で5分間、180℃で5分間乾燥を行った。続いて、200℃で5分間、250℃で30秒間、300℃で30秒間加熱を行い、全厚みが25μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムを用い、上述の熱ロールラミネート方法によってFCCLを作製した。
【0090】
(実施例2)
合成例2で得られたポリアミド酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、単層の熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルムおよびFCCLを得た。
【0091】
(実施例3)
合成例3で得られたポリアミド酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、単層の熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルムおよびFCCLを得た。
【0092】
(実施例4)
キャスト法によりFCCLを作製した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0093】
(比較例1)
合成例4で得られたポリアミド酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、単層の熱可塑性ポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルムおよびFCCLを得た。
【0094】
(比較例2)
合成例5で得られたポリアミド酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、単層のポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルムおよびFCCLを得た。
【0095】
(比較例3)
合成例6で得られたポリアミド酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、単層のポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルムおよびFCCLを得た。
【0096】
(比較例4)
TPI片面厚みを2μm(L2=4μm)とした以外は、実施例1と同様にして、多層ポリイミドフィルム(全厚み13μm)およびFCCLを得た。
【0097】
単層の熱可塑性ポリイミドフィルムの特性および多層ポリイミドフィルムの特性を表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
(考察)
表2の結果からわかるように、実施例1から実施例4は、熱可塑性ポリイミドフィルムの吸湿率、吸水率、高周波領域の誘電率、誘電正接のいずれも優れていた。これより、高周波領域での伝送損失を低減できると考えられる。また、いずれもCTEが低く、特に実施例1はFCCLとしたときのエッチング前後の寸法変化率に優れていた。また、380℃の貯蔵弾性率が低いので、引き剥がし強度も良好となった。また実施例1から実施例4では、多層ポリイミドフィルムを作製した際の誘電率、誘電正接も優れていた。
【0101】
比較例1はCTEが高く、FCCLのエッチング前後の寸法変化率が大きくなった。また、300℃の貯蔵弾性率が0GPaと低く、耐熱性に劣る結果となった。
【0102】
比較例2、比較例3は吸湿率、吸水率、高周波領域の誘電率、誘電正接がいずれも高くなった。このため、高周波領域での伝送損失が大きいと考えられる。また、380℃の貯蔵弾性率が高いため、FCCLと密着しなかった。寸法変化率はFCCLを作製できなかったため、測定できなかった。
【0103】
熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが2μm(L2/L1=4/9=0.44)である比較例4と、熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが8μm(L2/L1=16/9=1.78)である実施例1とを比較すると、多層ポリイミドフィルムを作製した際に、比較例4では誘電率が3.3、静電正接が0.012と高くなったのに対し、実施例1では誘電率3.2、静電正接0.010と低くなった。これは、実施例1では、熱可塑性ポリイミドフィルムの割合が大きいために誘電正接の値が小さくなり、このため、多層ポリイミドフィルムの誘電率、誘電正接が低く、高周波領域での伝送損失が小さくなったと考えられる。
【0104】
また、実施例1と比較例4では、380度の貯蔵弾性率が同じであるにもかかわらず、引き剥がし強度は実施例1が◎、比較例4では○となり、実施例1のほうがより向上した。これは、実施例1は熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが厚く、接着力がより向上したためと考えられる。一般的に、熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みが厚くなるにつれてCTEが大きくなるが、本発明の熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることにより、CTEの増加を抑制することができるため、厚みを厚くしたり、また多層ポリイミドフィルムに占める割合を多くした場合であってもCTEも低く、誘電率や誘電正接も低いポリイミドフィルムを作製することができる。
【符号の説明】
【0105】
1:非熱可塑性ポリイミドフィルム
2:熱可塑性ポリイミドフィルム
3:金属箔
4:多層ポリイミドフィルム
5:フレキシブル金属張積層板
図1
図2