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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】3次元造形方法および3次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/366 20210101AFI20220812BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220812BHJP
   B22F 12/43 20210101ALI20220812BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220812BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220812BHJP
【FI】
B22F10/366
B22F10/28
B22F12/43
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018116749
(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公開番号】P2019218599
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】前花 英一
(72)【発明者】
【氏名】野田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荒舘 亜弓
(72)【発明者】
【氏名】厨川 常元
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正義
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502596(JP,A)
【文献】特開2001-259873(JP,A)
【文献】特開2011-241450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形対象物の上に金属の粉末の層を形成する層形成工程と、
前記層形成工程において形成された前記粉末の層にレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、を含み、
前記レーザ光は、周波数が5~200kHz、パルス幅が5~200μs、ピーク出力が20~100、平均出力が20~100Wであるパルス状の出力波形を有しており、
前記レーザ光が前記粉末の層の上を走査する際において、前記粉末の層上で前記レーザ光の連続する2つのパルスによる照射スポットが重なる率である重なり率は、50~99.9%であり、
前記パルス幅は、パルスの頂部における出力と底部における出力との中間値を示す時間幅とし、
照射スポット径をD(μm)、周波数をF(kHz)、走査速度をS(mm/s)、前記パルス幅をA(μs)としたとき、パルスの繰り返し時間T(s)、パルス幅における移動距離Lp(μm)、パルスの繰り返し距離Lt(μm)、および前記重なり率R(%)は、以下の式
T=1/(F×1000)
Lt=S×T×1000
Lp=S×A/1000
R=(1-((Lt-Lp)/D))×100
によって求められることを特徴とする3次元造形方法。
【請求項2】
前記出力波形は、出力値が0Wよりも大きいベース出力と前記ピーク出力との間で繰返し変化する波形であることを特徴とする請求項に記載の3次元造形方法。
【請求項3】
造形対象物の上に金属の粉末の層を形成する層形成装置と、
前記層形成装置によって形成された前記粉末の層にレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、を備え、
前記レーザ光は、周波数が5~200kHz、パルス幅が5~200μs、ピーク出力が20~100、平均出力が20~100Wであるパルス状の出力波形を有しており、
前記レーザ光が前記粉末の層の上を走査する際において、前記粉末の層上で前記レーザ光の連続する2つのパルスによる照射スポットが重なる率である重なり率は、50~99.9%であり、
前記パルス幅は、パルスの頂部における出力と底部における出力との中間値を示す時間幅とし、
照射スポット径をD(μm)、周波数をF(kHz)、走査速度をS(mm/s)、前記パルス幅をA(μs)としたとき、パルスの繰り返し時間T(s)、パルス幅における移動距離Lp(μm)、パルスの繰り返し距離Lt(μm)、および前記重なり率R(%)は、以下の式
T=1/(F×1000)
Lt=S×T×1000
Lp=S×A/1000
R=(1-((Lt-Lp)/D))×100
によって求められることを特徴とする3次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形方法および3次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元造形技術として、粉末床溶融結合法(以下、「PBF(Powder Bed Fusion)法」という)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
PBF法は、粉末をローラやブレードを用いて水平に敷き詰めたのちに、プログラムされたレーザ光を走査させることで粉末が溶融・結合し、その軌跡によって目的の形状を持った造形層を作る。その後、造形層を繰り返し積層することで、立体的な複雑形状が作られる。この手法では、粉末が溶融し製品の一部として塊となった部分と、その間を埋めている未溶融の粉末とが、下層部分に充墳されたままの状態で、順に新たな粉末が積層されていく。そして、最終的な立体製品が完成されるまで、未溶融の粉末が取り除かれることはない。この充填された未溶融の粉末が、その上層の構造体となる粉末の足場となることで、梁部分と柱部分とが入り組んだ形状を有する構造(以下、「梁構造」という)を造形することができる。
【0004】
このように、PBF法は、除去加工では実現できない中空の複雑形状を作り出すことが可能である。特に、ラティス構造やポーラス構造等の梁構造は、PBF法によって製作可能となる。この梁構造を既存の部品の形状の一部に適用することで、高強度かつ軽量な部品の製作が期待できるなど、様々な恩恵が得られる。例えば、梁構造を金属部品の一部に取り入れることによって、骨細胞の侵入を促しやすくするとともに中実構造と同等な強度特性を維持しつつ軽量化を達成した人工骨の製造が可能となる。その他にも、梁構造の適用による様々な製品の開発に注目が集まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-124200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PBF法等の3次元造形技術において造形幅を狭小化するためには、加工パラメータとして、レーザ光の出力の引き下げや、レーザ光の走査速度(造形速度)の引き上げが、溶融領域が狭くなるので一般的に有効である。しかしながら、この方向の加工パラメータの調整は、ボーリング欠陥と呼ばれる目的の造形幅よりも大きい球状の塊を誘発しやすく、連続性のある造形体を得ることは困難である。
【0007】
熱源によって金属の粉末の粒子が直下の構造体に接合されるためには、粉末の粒子自体の溶融と、その直下の構造体における溶融池の形成とが必要であり、粉末の粒子と溶融池との混合、凝固によって接合が完了する。この場合において、出力の引き下げ等によって熱量が十分でないと、構造体に溶融池が形成されず、熱容量の小さい粉末の粒子のみが溶融し、表面張力によって周囲の粒子を取り込んで大きな塊になる。これがボーリング欠陥の原因の一つと考えられる。
【0008】
したがって、3次元造形技術で得られる造形体における連続性が確保される最小幅(造形幅)は、一般的に150μmを超えてしまい、梁構造を構成する梁部分や柱部分の微細化には限界があった。
【0009】
本発明は、より狭小な造形幅を有する造形体を造形することができる3次元造形方法および3次元造形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る3次元造形方法は、造形対象物の上に金属の粉末の層を形成する層形成工程と、前記層形成工程において形成された前記粉末の層にレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、を含む。前記レーザ光は、周波数が5~200kHz、パルス幅が5~200μs、ピーク出力が20~100、平均出力が20~100Wであるパルス状の出力波形を有している。そして、前記レーザ光が前記粉末の層の上を走査する際において、前記粉末の層上で前記レーザ光の連続する2つのパルスによる照射スポットが重なる率である重なり率は、50~99.9%である。
前記パルス幅は、パルスの頂部における出力と底部における出力との中間値を示す時間幅とする。
照射スポット径をD(μm)、周波数をF(kHz)、走査速度をS(mm/s)、前記パルス幅をA(μs)としたとき、パルスの繰り返し時間T(s)、パルス幅における移動距離Lp(μm)、パルスの繰り返し距離Lt(μm)、および前記重なり率R(%)は、以下の式
T=1/(F×1000)
Lt=S×T×1000
Lp=S×A/1000
R=(1-((Lt-Lp)/D))×100
によって求められる。
なお、本発明において、X~Yは、X以上Y以下を意味するものとする。
【0011】
本発明に係る3次元造形装置は、造形対象物の上に金属の粉末の層を形成する層形成装置と、前記層形成装置によって形成された前記粉末の層にレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、を備えている。前記レーザ光は、周波数が5~200kHz、パルス幅が5~200μs、ピーク出力が20~100、平均出力が20~100Wであるパルス状の出力波形を有している。そして、前記レーザ光が前記粉末の層の上を走査する際において、前記粉末の層上で前記レーザ光の連続する2つのパルスによる照射スポットが重なる率である重なり率は、50~99.9%である。
前記パルス幅は、パルスの頂部における出力と底部における出力との中間値を示す時間幅とする。
照射スポット径をD(μm)、周波数をF(kHz)、走査速度をS(mm/s)、前記パルス幅をA(μs)としたとき、パルスの繰り返し時間T(s)、パルス幅における移動距離Lp(μm)、パルスの繰り返し距離Lt(μm)、および前記重なり率R(%)は、以下の式
T=1/(F×1000)
Lt=S×T×1000
Lp=S×A/1000
R=(1-((Lt-Lp)/D))×100
によって求められる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より狭小な造形幅を有する造形体を造形することができる3次元造形方法および3次元造形装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る3次元造形装置の構成を示す図である。
図2】レーザ光の出力波形を示すグラフである。
図3】本実施形態に係る3次元造形方法の内容を示すフローチャートである。
図4】パルス発振レーザを使用して造形する実験を行った場合の平均出力と造形幅との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を適宜省略する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る3次元造形装置100の構成を示す図である。
本実施形態に係る3次元造形装置100は、金属の粉末90の層にレーザ光25を照射することで3次元の造形体91を作る3次元造形装置である。ここでは、3次元造形装置100は、PBF法による3次元造形装置である。
【0016】
図1に示すように、3次元造形装置100は、層形成装置10と、レーザ光照射装置20と、制御装置60とを備える。層形成装置10は、チャンバ70内に収容されている。
【0017】
層形成装置10は、層形成室11と、造形ステージ12と、粉末供給室13と、供給ステージ14と、リコータ15とを備える。
【0018】
層形成室11は、上端に開口を有する筐体形状を呈している。層形成室11内に、造形ステージ12が収納されており、上下方向に昇降可能に支持されている。造形ステージ12は、昇降装置16によって昇降され得る。造形ステージ12上には、造形対象物としての基材80が配置される。
【0019】
粉末供給室13は、層形成室11に隣接して配置されている。粉末供給室13は、上端に開口を有する筐体形状を呈している。粉末供給室13内に、供給ステージ14が収納されており、上下方向に昇降可能に支持されている。粉末供給室13内の供給ステージ14上には、粒子状の粉末90が積層されている。供給ステージ14は、昇降装置17によって昇降され得る。供給ステージ14が上昇することによって、粉末90が粉末供給室13の上端開口から上方へ盛り上げられる。
【0020】
リコータ15は、粉末供給室13の上端開口の近傍に配置されており、例えばローラやブレード等を備えている。リコータ15は、図示しないモータによってX方向(水平方向)に移動し、粉末供給室13と層形成室11との間を往復する。
【0021】
リコータ15は、X方向(右方向)に移動することによって、粉末供給室13の上端開口から上方へ盛り上げられた粉末90を水平方向に移動させて層形成室11に供給する。そして、層形成室11の造形ステージ12上に堆積された粉末90によって、造形ステージ12上に粉末90の層が形成される。
【0022】
金属の粉末90としては、例えば、アルミ、鉄、ステンレス、チタン、および窒化金属等の合金が使用され得る。
【0023】
レーザ光照射装置20は、層形成装置10によって形成された粉末90の層にレーザ光25を照射する。レーザ光照射装置20は、レーザ光源21と、ミラー(ガルバノミラー)22,23と、レンズ系24とを備えている。
【0024】
レーザ光源21は、レーザ光25を出射する。レーザ光源21としては、例えば、ファイバーレーザやCOレーザ等が使用され得る。レンズ系24は、レーザ光25を収束させる。また、ミラー22,23の角度を駆動手段(図示せず)によって変化させることで、レーザ光25の照射方向を変化させる操作が行われる。つまり、ミラー22,23の回動によって、レーザ光25が照射される位置が調整される。
【0025】
レーザ光25が粉末90の層の上を走査する走査速度(造形速度)は、10~1000mm/sであることが好ましく、50~150mm/sであることがより好ましい。走査速度を下限値10mm/s(50mm/s)以上とすることで、レーザ光25による熱影響が広範囲となることを抑制でき、造形幅をより狭小とすることができる。一方、走査速度を上限値1000mm/s(150mm/s)以下とすることで、溶融状態を維持することができる。
【0026】
3次元造形においては、直前のレーザ光25の照射によって次に造形すべき造形対象物の対象位置が加熱される。造形対象物におけるレーザ光25の吸収率は、温度に依存し、高温ほど吸収率が高い。したがって、走査速度を前記した上限値以下とすることで、走査速度が速すぎて造形対象物の物性値である熱伝導率の影響によって十分に温められていない箇所にレーザ光25が照射されることを防止できる。ただし、造形対象物の材料によって熱伝導率が異なるため、前記した走査速度の上限値は、造形対象物の材料によって変わるものである。
【0027】
図2は、レーザ光25の出力波形を示すグラフである。
図2に示すように、レーザ光25はパルス発振レーザである。すなわち、レーザ光25はパルス状の出力波形を有している。パルス発振レーザの使用によって、より小さい出力で照射可能であるため、造形の母材となる造形対象物(基材80または既に造形された部分)に与える熱影響を小さくでき、造形体91の変形をより抑えることができる。
【0028】
粉末90の層上でレーザ光25の連続する2つのパルスによる照射スポットが重なる率である重なり率は、50~99.9%であることが好ましく、70~99%であることがより好ましい。重なり率を下限値50%(70%)以上とすることで、レーザ光25の丸い照射スポットのために正確な造形形状が得られなくなることを防止できる。一方、重なり率を上限値99.9%(99%)以下とすることで、後記するパルス発振レーザによる効果を得ることができる。
【0029】
重なり率は、以下のようにして求めることができる。
照射スポット径をD(μm)、周波数をF(kHz)、走査速度をS(mm/s)、パルス幅をA(μs)としたとき、パルスの繰り返し時間T(s)、パルス幅における移動距離Lp(μm)、パルスの繰り返し距離Lt(μm)、および重なり率R(%)は、次の式によって求められる。
T=1/(F×1000)
Lt=S×T×1000
Lp=S×A/1000
R=(1-((Lt-Lp)/D))×100
ここで、パルス幅における移動距離(Lp)とは、例えば1発目のパルス開始点の照射スポット中心位置と、その1発目のパルス終了点の照射スポット中心位置との距離である。また、パルスの繰り返し距離(Lt)とは、例えば1発目のパルス開始点の照射スポット中心位置と、2発目のパルス開始点の照射スポット中心位置との距離である。
【0030】
本実施形態で使用されるレーザ光25の出力特性は、次の通りである。
すなわち、周波数は、5~200kHzであることが好ましく、10~100kHzであることがより好ましい。周波数を下限値5kHz(10kHz)以上とすることで、レーザ光25による熱影響範囲を小さくして、造形幅をより狭小とすることができる。一方、周波数を上限値200kHz(100kHz)以下とすることで、粉末90の溶融状態の時間が短くて固相状態になってしまうことを抑制できる。これにより、粉末90同士が溶融して混ざり合うため、正確な造形形状を得ることができる。
【0031】
パルス幅Aは、5~200μsであることが好ましく、10~100μsであることがより好ましい。ここで、パルス幅Aは、パルスの頂部における出力(ピーク出力Pp)と底部における出力(ベース出力Pb)との中間値を示す時間幅とする。パルス幅Aを下限値5μs(10μs)以上とすることで、粉末90の溶融状態の時間が短くて固相状態になってしまうことを抑制できる。これにより、粉末90同士が溶融して混ざり合うため、正確な造形形状を得ることができる。一方、パルス幅Aを上限値200μs(100μs)以下とすることで、レーザ光25による熱影響範囲を小さくして、造形幅をより狭小とすることができる。
【0032】
ピーク出力Ppは、10~500Wであることが好ましく、20~100Wであることがより好ましい。ピーク出力Ppを下限値10W(20W)以上とすることで、粉末90のみならず造形対象物としての母材を溶融できるため、確実な接合が可能となる。一方、ピーク出力Ppを上限値500W(100W)以下とすることで、出力が高過ぎて粉末90が溶融を通り越して蒸発にまで達し、その膨張圧で粉末90の破壊に至ることを防止できる。また、周囲の粉末90を弾き飛ばしてしまって造形の失敗につながることを防止できる。
【0033】
本実施形態では、レーザ光25の出力波形は、出力値が0Wよりも大きいベース出力Pbとピーク出力Ppとの間で繰返し変化する波形である。ただし、ベース出力Pb=0として実施されることも可能である。
【0034】
レーザ光25の平均出力Paは、5~300Wであることが好ましく、20~100Wであることがより好ましい。ここで、平均出力Paは、出力波形の積分値を積分区間の時間で除した値とする。平均出力Paを下限値5W(20W)以上とすることで、溶融状態を維持することができる。一方、平均出力Paを上限値300W(100W)以下とすることで、レーザ光25による熱影響が広範囲となることを抑制でき、造形幅をより狭小とすることができる。
【0035】
レーザ光25の照射スポット径は、10~100μmであることが好ましく、12~50μmであることがより好ましい。照射スポット径を下限値10μm(12μm)以上とすることで、実際上の使用が確保される。一方、照射スポット径を上限値100μm(50μm)以下とすることで、レーザ光25による熱影響範囲を小さくして、造形幅をより狭小とすることができる。
【0036】
図1に示すように、チャンバ70は、例えばステンレス等の金属で形成された容器である。チャンバ70は、密閉可能に構成されており、排気機構(図示せず)によってチャンバ70内を排気することで減圧可能とされている。また、排気機構は、加工時にレーザによって溶融した粉末から発生する金属ヒューム(金属蒸気)を排出させるための排出口を兼ねている。真空引きすることによって酸素が除去されたチャンバ70内には、アルゴン、窒素等の不活性ガスが供給されるようになっている。また、チャンバ70には、図示しないレーザ光25の通過用の窓が設けられている。
【0037】
制御装置60は、図示しないCPU(中央演算処理装置)、およびメモリ、ハードディスク等の記憶部を備えている。記憶部には、3次元造形したい構造の3次元形状データと、加工条件データとが保存される。3次元形状データおよび加工条件データは、制御装置60において作成されてもよいし、外部の装置で作成されて制御装置60に入力されてもよい。制御装置60は、加工条件データに基づいて、レーザ光源21、ミラー22,23、およびレンズ系24を制御して、レーザ光25の出力特性、走査速度、走査間隔、および照射位置を調整する。
【0038】
制御装置60には、表示装置63と、入力装置64とが接続されている。表示装置63は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)等である。表示装置63は、画像、操作画面、メッセージ等の各種情報を表示する。入力装置64は、例えばキーボードやマウス等であり、3次元形状データや加工条件データの作成または入力のためのユーザの操作の受付け、3次元造形作業の開始指示等の各種情報の入力を行う。
【0039】
図3は、本実施形態に係る3次元造形方法の内容を示すフローチャートである。
図3に示すように、まず、基材80が造形ステージ12にセットされて固定される(S1)。そして、チャンバ70内が真空引きされた後、チャンバ70内に不活性ガスが供給される。
【0040】
続いて、層形成装置10によって、造形対象物としての基材80の上に粉末90の層が形成される(S2)。ここで、リコータ15がX方向(図1の右方向)に移動することによって、粉末90が水平方向に移動して層形成室11に供給されるとともに、粉末90の層の表面が平坦に整えられる。
【0041】
続いて、レーザ光25の照射による加熱が行われる(S3)。すなわち、制御装置60は、レーザ光照射装置20を制御して、粉末90の層にレーザ光25を照射させる。これにより、粉末90が溶融・結合して固化された造形領域が形成される。
【0042】
そして、ステップS4では、3次元造形が最後の層まで終了したか否かが判断される。すなわち、制御装置60は、粉末90の層の所定領域にレーザ光25を照射することで固化された造形領域の層を一層ずつ積層して造形する3次元造形が最後の層(最上層)まで終了したか否かを判断する。
【0043】
3次元造形が最後の層まで終了していないと判断される場合には(S4でNo)、制御装置60は、処理をステップS2に戻して、次の層についての3次元造形(S2、S3、S4)を実施するように制御する。なお、前の層において造形に利用されなかった粉末90は除去されることなく、その上に再度、粉末90が適量供給されて一定厚さの次の層が形成される(S2)。一方、3次元造形が最後の層まで終了したと判断される場合には(S4でYes)、制御装置60は、3次元造形作業を終了させる。
【0044】
前記したように、本実施形態に係る3次元造形装置100で使用されるレーザ光25は、周波数が5~200kHz、パルス幅Aが5~200μs、ピーク出力Ppが10~500Wであるパルス状の出力波形を有している。そして、粉末90の層上でレーザ光25の連続する2つのパルスによる照射スポットが重なる率である重なり率は、50~99.9%である。
【0045】
このような構成では、粉末90の層に特定の出力特性を有するパルス発振レーザであるレーザ光25が照射される。したがって、パルス状の出力波形によって平均出力が低くなるために造形幅(肉盛ビード)を狭小化できるとともに、低出力条件下においても造形の連続性を維持できる。したがって、本実施形態によれば、より狭小な造形幅を有する造形体を造形することができる。
【0046】
一方、CW(連続発振)レーザが使用される場合には、低出力条件下においては、前記したようにボーリングと呼ばれる欠陥によって、造形の連続性が損なわれる。また、3次元造形においては粉末90の粒子と溶融池との混合、凝固によって接合が完了するが、CWレーザが使用される場合には溶融池の先端がまれに急勾配な形状になることがある。これによって、溶融池から立ち昇っている蒸気流が進行方向前方に向かって大きく傾斜して合流すべき粉末90の粒子を弾き飛ばしてしまい、造形に必要な粒子が枯渇して造形の連続性が損なわれるおそれがある。
【0047】
これに対して、本実施形態では、溶融池の先端が急勾配な形状になる場合があるが、パルス幅Aに応じて蒸気流は発生と消失とを繰り返すため、前方の粉末90の粒子を弾き飛ばすことを蒸気流の消失によって抑制できる。また、パルス状の出力波形の周波数に応じて溶融池が小刻みに揺れ動くことで、造形幅の均一性を高めることができる。さらに、高いピーク出力Ppによって多くの粉末90の粒子を周囲から引き寄せて合流させることができる。このようにして、低出力条件下においても造形の連続性を維持できる。
【0048】
また、パルス発振レーザの場合、発振停止状態(出力値が0W)からレーザ媒質を急激に励起すると、緩和発振現象によって発振立ち上がりに数μs幅以下のスパイク状の高出力部が生じるおそれがある。本実施形態では、レーザ光25の出力波形を、出力値が0Wよりも大きいベース出力Pbとピーク出力Ppとの間で繰返し変化する波形にしたことで、緩和発振現象によるスパイク状の高出力部の発生を抑制できる。
【0049】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではない。本発明は、前記実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。また、前記実施形態の構成の一部について、追加、削除、置換をすることができる。
【0050】
例えば、前記した実施形態では、3次元造形装置100は、PBF法による3次元造形装置であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。3次元造形装置100は、例えば、造形対象物の上に粉末90を落下させて供給することで堆積することによって金属の粉末の層を形成する層形成装置を備えるものであってもよい。
【0051】
(実験例)
次に、本発明の効果を、以下の実験例を用いて説明する。但し、本発明の技術的範囲が以下の実験例のみに限定されるものではない。
パルス発振レーザによる造形幅(肉盛ビード幅)の狭小化について実験を行った。
連続する2つのパルスによる照射スポットの重なり率は、95%以上になるようにした。具体的には、100mm/sの走査速度(造形速度)では25kHzの周波数、200mm/sの走査速度(造形速度)では50kHzの周波数を採用した。また、パルス発振レーザの照射スポット径は、16.5μmとした。さらに、ピーク出力Ppを47~77W、パルス幅Aを10~30μsの範囲で任意に設定することで、複数のパルス状の出力波形を作り出し、各出力波形による造形を行った。なお、粒子径が25~38μmのチタンの粉末90、およびチタンの基材80を使用した。
【0052】
図4は、パルス発振レーザを使用して造形する実験を行った場合の平均出力と造形幅との関係を示す図である。図4において、黒塗りのプロットは、連続性を有する造形となった条件を示し、白抜きのプロットは、不連続な造形となった条件を示す。
なお、図4においては、CW(連続発振)レーザを使用して実験した場合の傾向線を実線または破線で合わせて示した。ここで、実線は、連続性を有する造形となった条件を示し、破線は、不連続な造形となった条件を示す。
【0053】
図4に示すように、まず、溶融領域が狭くなる低出力、高走査速度の条件において、造形幅が狭小化する傾向があることが確認できる。
そして、100mm/sの走査速度においては、同じ平均出力のCWレーザを使用した場合よりもパルス発振レーザを使用した場合の方が造形幅が狭小になる傾向があることがわかる。また、造形の連続性を考慮すれば、パルス発振レーザを使用した場合には、造形幅は最小幅で100μmを下回る約95μmを達成できていることがわかる。つまり、パルス発振レーザによる造形幅の狭小化の効果が確認できる。
なお、本実験では、200mm/sの走査速度においては、パルス発振レーザによる明確な効果は確認できなかった。
【符号の説明】
【0054】
10 層形成装置
20 レーザ光照射装置
25 レーザ光
90 粉末
100 3次元造形装置
A パルス幅
Pp ピーク出力
Pb ベース出力
Pa 平均出力
図1
図2
図3
図4