(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220812BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H01F41/02 B
(21)【出願番号】P 2018116882
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】永杉 茂
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇
(72)【発明者】
【氏名】小田 仁
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334648(JP,A)
【文献】特開昭61-035137(JP,A)
【文献】特開昭48-073702(JP,A)
【文献】特開2007-060765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の打抜部材を積層して積層体を形成する
第1の工程と、
前記複数の打抜部材の間に介在するオイルを前記積層体の外周面又は内周面に押し出すように前記積層体
を加圧する
第2の工程と、
ガスを前記積層体に吹き付けて前記複数の打抜部材の間にガスを流すことにより、前記複数の打抜部材の間に介在するオイルをガスの流れによって前記積層体の外周面又は内周面に押し出す第3の工程と、
加圧で前記積層体の外周面又は内周面に押し出された
オイルと、ガスで前記積層体の外周面又は内周面に押し出されたオイルとを、ガスによって前記積層体から吹き飛ばすことにより、前記積層体からオイルを除去する
第4の工程とを含む、積層鉄心の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程は、前記複数の打抜部材の間に介在するオイルを前記積層体の外周面又は内周面に押し出すように前記積層体を予備加圧することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の工程は、
前記予備加圧の後に、前記複数の打抜部材の間に介在するオイルを前記積層体の外周面又は内周面に押し出すように前記積層体を本加
圧することを含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記積層体の予備加圧時の圧力は前記積層体の本加圧時の圧力よりも大きい、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
オイルの除去処理後の前記積層体を熱処理する
第5の工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記積層体の本加圧時の圧力以下の圧力で前記積層体を加圧しつ
つオイルの除去処理後の前記積層体を熱処理する
第5の工程をさらに含む、請求項
3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記積層体はその高さ方向に延びる貫通孔を含み、
前記
第3の工程は、前記貫通孔の内部にガスを吹き込んで
、ガスを前記積層体に吹き付けて前記複数の打抜部材の間にガスを流すことにより、前記複数の打抜部材の間に介在するオイルをガスの流れによって前記積層体の外周面に押し出すことを含む、請求項
1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層鉄心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、積層鉄心の製造方法を開示している。当該方法では、コイル状に巻回された帯状の金属板(被加工板)であるコイル材をアンコイラーから間欠的に送り出しながら、当該金属板の片面に接着剤を塗布することと、当該金属板をパンチで所定形状に打ち抜いて一の打抜部材を形成することと、当該一の打抜部材を既に打ち抜かれた他の打抜部材に対して接着剤により接着させながら積層することとが、同じ金型内で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パンチの摩耗抑制、打抜部材の打抜性向上等を目的として、コイル材にはプレス加工油(スタンピングオイルともいう。以下では単に「オイル」と称する。)が塗布されていることが一般的である。オイルが積層体に付着した状態のまま、後続の工程で積層体が熱処理されると、ススが発生したり、積層体に変色が生じてしまうことがある。この場合、オイルの大部分が揮発するまで(例えば1日以上)、積層体10を保管場所に保管してから、積層体を熱処理することが一般的であった。しかしながら、保管場所の確保のためのコストを要しうると共に、積層鉄心の製造効率(スループット)が低下しうる。
【0005】
そこで、本開示は、積層体に付着しているオイルを効率的に除去することが可能な積層鉄心の製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一つの観点に係る積層鉄心の製造方法は、複数の打抜部材を積層して積層体を形成することと、複数の打抜部材の間に介在するオイルを積層体の外周面又は内周面に押し出すように積層体を予備加圧することと、押し出されたオイルを除去することとを含む。
【0007】
本開示の他の観点に係る積層鉄心の製造方法は、複数の打抜部材を積層して積層体を形成することと、複数の打抜部材の間に介在するオイルを積層体の外周面又は内周面に押し出すように積層体を本加圧しつつ、押し出されたオイルを除去することとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る積層鉄心の製造方法によれば、積層体に付着しているオイルを効率的に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、固定子積層鉄心の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、固定子積層鉄心の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、オイル除去装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、固定子積層鉄心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、オイル除去装置の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0011】
[固定子積層鉄心の構成]
まず、
図1及び
図2を参照して、固定子積層鉄心1(積層鉄心)の構成について説明する。固定子積層鉄心1は、固定子(ステータ)の一部である。固定子は、固定子積層鉄心1に巻線が取り付けられたものである。固定子が回転子(ロータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。
【0012】
固定子積層鉄心1は、積層体10と、複数の溶接部24とを備える。積層体10は、円筒形状を呈している。積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する貫通孔10aが設けられている。すなわち、貫通孔10aは、積層体10の積層方向(高さ方向)に延びている。貫通孔10a内には、回転子が配置可能である。
【0013】
積層体10は、ヨーク部12と、複数のティース部14とを有する。ヨーク部12は、円環状を呈しており、中心軸Axを囲むように延びている。ヨーク部12の径方向(以下、単に「径方向」という。)における幅、内径、外径及び厚さはそれぞれ、モータの用途及び性能に応じて種々の大きさに設定しうる。
【0014】
積層体10(ヨーク部12)の外周面には、複数の凹溝16(
図1の例では6つの凹溝16)が設けられている。複数の凹溝16は、ヨーク部12の周方向(以下、単に「周方向」という。)において、設定された間隔で並んでいる。凹溝16は、積層体10の外周面から中心軸Ax側に向けて窪んでいる。凹溝16は、積層体10の積層方向(以下、単に「積層方向」という。)において、積層体10の一端面から他端面にかけて直線状に延びている。
【0015】
各ティース部14は、ヨーク部12の内縁から中心軸Ax側に向かうように径方向(ヨーク部12に対して交差する方向)に沿って延びている。すなわち、各ティース部14は、ヨーク部12の内縁から中心軸Ax側に向けて突出している。
図1の例では、6個のティース部14がヨーク部12に一体的に形成されている。各ティース部14は、周方向において、略等間隔で並んでいる。隣り合うティース部14の間には、巻線(図示せず)を配置するための空間であるスロット10bが画定されている。
【0016】
積層体10は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ES(金属板;被加工板)が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10と対応する形状を呈している。以下では、必要に応じて、
図2に示されるように、積層体10の最下層以外を構成する打抜部材Wを「打抜部材W1」と称し、積層体10の最下層を構成する打抜部材Wを「打抜部材W2」と称することがある。
【0017】
積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体10の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0018】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、
図1及び
図2に示されるように、カシメ部18によって締結されている。具体的には、カシメ部18は、
図2に示されるように、打抜部材W1に形成されたカシメ20と、打抜部材W2に形成された貫通孔22とを含む。
【0019】
カシメ20は、打抜部材W1の表面側に形成された窪み20aと、打抜部材W1の裏面側に形成された突起20bとで構成されている。カシメ20は、例えば、全体として山型状を呈している。このような形状のカシメ20は、「V字形カシメ」とも言われる。
【0020】
一の打抜部材W1の窪み20aは、当該一の打抜部材W1の表面側に隣り合う他の打抜部材W1の突起20bと嵌合している。一の打抜部材W1の突起20bは、当該一の打抜部材W1の裏面側において隣り合うさらに他の打抜部材W1の窪み20aと接合される。
【0021】
貫通孔22は、カシメ20の外形に対応した形状を呈する長孔である。カシメ20がV字形カシメである場合、貫通孔22は矩形状を呈する。貫通孔22には、打抜部材W2に隣接する打抜部材W1Nの突起20bが嵌合される。貫通孔22は、積層体10を連続して製造する際、既に製造された積層体10に対し、続いて形成された打抜部材Wがカシメ20(突起20b)によって締結されるのを防ぐ機能を有する。
【0022】
溶接部24は、積層体10の積層方向において凹溝16に沿って延びるように、凹溝16内に形成されている。すなわち、溶接部24は、積層体10の外周面に形成されている。溶接部24は、高さ方向において隣り合う打抜部材W同士を接合する機能を有する。
【0023】
[固定子積層鉄心の製造装置]
続いて、
図3及び
図4を参照して、固定子積層鉄心1の製造装置100について説明する。
【0024】
製造装置100は、帯状の金属板である電磁鋼板ESから固定子積層鉄心1を製造するための装置である。製造装置100は、
図3に示されるように、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、予備加圧装置200と、オイル除去装置300と、溶接装置400と、熱処理炉500と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0025】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて一方向に間欠的に順次送り出す。
【0026】
電磁鋼板ESには、プレス加工油(スタンピングオイルともいう。)が塗布されている。電磁鋼板ESの厚さは、例えば0.1mm~0.5mm程度であってもよい。電磁鋼板ESの厚さは、より優れた磁気的特性を有する固定子積層鉄心1を得る観点から、例えば0.1mm~0.3mm程度であってもよい。
【0027】
打抜装置130は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0028】
積層体10は、打抜装置130から排出されると、打抜装置130と予備加圧装置200との間を延びるように設けられたコンベアCvに載置される。コンベアCvは、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を予備加圧装置200に送り出す。なお、打抜装置130と予備加圧装置200との間において、積層体10はコンベアCv以外によって搬送されてもよい。例えば、積層体10は、コンテナに載置された状態で、人手によって搬送されてもよい。
【0029】
予備加圧装置200は、一対の挟持部材201,202と、昇降機構203とを含む。一対の挟持部材201,202は、矩形状を呈する平板である。一対の挟持部材201,202は、上下方向に並ぶように位置している。下側に位置する挟持部材201の上面には、上方に向けて延びる複数の案内シャフトが設けられていてもよい。上側に位置する挟持部材202には、複数の案内シャフトがそれぞれ挿通可能な複数の貫通孔が設けられていてもよい。
【0030】
昇降機構203は、挟持部材202に接続されている。昇降機構203は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、挟持部材202を上下方向において往復動させる。すなわち、昇降機構203は、案内シャフトに沿って挟持部材202を上下動させることにより、挟持部材201,202を互いに近接及び離間させるように構成されている。なお、昇降機構203は、挟持部材202を上下動させるのであれば、特に限定されるものではなく、例えば、アクチュエータ、エアシリンダ等であってもよい。
【0031】
オイル除去装置300は、
図3及び
図4に示されるように、一対の挟持部材301,302と、昇降機構303と、ブロア304とを含む。一対の挟持部材301,302は、矩形状を呈する平板である。一対の挟持部材301,302は、上下方向に並ぶように位置している。下側に位置する挟持部材301の上面には、上方に向けて延びる複数の案内シャフトが設けられていてもよい。
【0032】
上側に位置する挟持部材302には、
図4に示されるように、一つの貫通孔302aと、複数の貫通孔302bとが設けられている。貫通孔302aは、挟持部材302の中央部に設けられている。挟持部材301,302が積層体10を挟持した状態で、貫通孔302aは、積層体10の貫通孔10aと連通する。複数の貫通孔302bは、挟持部材302の周縁部近傍に設けられている。挟持部材301,302が積層体10を挟持した状態で、複数の貫通孔302bは、積層体10の外周面近傍に位置する。挟持部材302には、複数の案内シャフトがそれぞれ挿通可能な複数の貫通孔が設けられていてもよい。
【0033】
昇降機構303は、挟持部材302に接続されている。昇降機構303の構成は、昇降機構203と同様であるので、説明を省略する。ブロア304は、貫通孔302a,302bと配管等で接続されている。ブロア304は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、貫通孔302a,302bにガス(例えば空気)を送り込むように構成されている。当該ガスの温度は、例えば、5℃~150℃程度であってもよい。ブロア304は、例えば、常温の空気を送風するように構成された送風機であってもよいし、熱風又は温風を送風するように構成されたドライヤであってもよい。
【0034】
図3に戻って、溶接装置400は、一対の挟持部材401,402と、昇降機構403と、溶接トーチ404とを含む。挟持部材401,402及び昇降機構403の構成は、挟持部材201,202及び昇降機構203と同様であるので、説明を省略する。溶接トーチ404は、複数の打抜部材W同士を溶接するように構成されている。溶接トーチ404は、例えばレーザ溶接用のトーチであってもよい。本明細書では、「溶接」も積層体10の熱処理の一つに含まれる。
【0035】
熱処理炉500は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、内部に投入された積層体10を加熱する機能を有する。熱処理炉104による熱処理としては、例えば、バーンオフ、焼鈍、ブルーイング等が挙げられる。バーンオフとは、積層体10を構成する打抜部材Wの表面にオイルが付着している場合に当該オイルを除去する(蒸発させる)処理であり、積層体10が例えば400℃~450℃程度に加熱される。焼鈍とは、積層体10を構成する打抜部材Wの内部に残留している歪みを除去する処理であり、積層体10が例えば700℃~900℃程度に加熱される。ブルーイングとは、積層体10を構成する打抜部材Wの防錆を目的として、打抜部材Wの表面を意図的に酸化させる処理であり、積層体10が例えば350℃~400℃程度に加熱される。
【0036】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130、予備加圧装置200、オイル除去装置300及び溶接装置400をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、当該指示信号をこれらの装置に送信する機能を有する。
【0037】
[固定子積層鉄心の製造方法]
続いて、
図3~
図5を参照して、固定子積層鉄心1の製造方法について説明する。
【0038】
まず、積層体10を形成する(
図5のステップS11参照)。具体的には、
図3に示されるように、コントローラCtrの指示に基づいて、送出装置120によって電磁鋼板ESを打抜装置130に送り出し、打抜装置130によって電磁鋼板ESの被加工部位を所定形状に打ち抜く。これにより、打抜部材Wが形成される。この打抜加工を繰り返すことにより、複数の打抜部材Wが所定枚数積層されて、一つの積層体10が製造される。このとき、打抜部材W1
Nの突起20bは、打抜部材W2の貫通孔22から若干突出していてもよい。
【0039】
続いて、コントローラCtrの指示に基づいて、打抜装置130から排出された積層体10をコンベアCvが予備加圧装置200まで搬送する。積層体10は、貫通孔22から突出する打抜部材W1
Nの突起20bが上向きとなるように(当該突起20bが挟持部材202に向かうように)、挟持部材201上に載置される。次に、コントローラCtrが昇降機構203に指示して、挟持部材202を積層体10に向けて降下させる。これにより、積層体10が、挟持部材201,202によって挟持され、積層体10が予備加圧される(
図5のステップS12参照)。
【0040】
このとき、積層体10には荷重P1が付与される。これにより、打抜部材W同士の間からオイルが積層体10の外周面及び/又は内周面に押し出される。荷重P1は、積層体10のサイズによって種々の大きさとなりうるが、例えば、1トン~40トン程度であってもよい。荷重P1が1トン以上であると、カシメ20及び貫通孔22の再締結(「再カシメ」ともいう)、及び/又は、積層体10の表面から突出している突起20bの平坦化(「ダボ潰し」ともいう)を良好に行える傾向にある。一方、積層体10に必要以上の大きな圧力が付与されると、積層体10が変形してしまうことがありうるが、荷重P1が40トン以下であると、そのような積層体10の変形が生じ難くなる傾向にある。
【0041】
続いて、図示しない搬送機構(例えばロボットハンド)又は人手により、積層体10をオイル除去装置300まで搬送する。積層体10は、挟持部材301上に載置される。次に、コントローラCtrが昇降機構303に指示して、挟持部材302を積層体10に向けて降下させる。これにより、積層体10が、挟持部材301,302によって挟持され、積層体10が本加圧される(
図5のステップS13参照)。
【0042】
このとき、積層体10には荷重P2が付与される。これにより、打抜部材W同士の間からオイルが積層体10の外周面及び/又は内周面に押し出される。荷重P2は、積層体10のサイズによって種々の大きさとなりうるが、荷重P1よりも小さくてもよく、例えば、0トン~10トン程度であってもよい。
【0043】
積層体10の本加圧の際、コントローラCtrがブロア304に指示して、本加圧されている状態の積層体10に対してガスを供給する。具体的には、
図4に示されるように、ブロア304からのガスが貫通孔302aから積層体10の貫通孔10a内に吹き出されると共に、ブロア304からのガスが貫通孔302bから積層体10の外周面に吹き出される。
【0044】
貫通孔302aから貫通孔10a内に吹き出されたガスは、積層体10の内周面から、複数の打抜部材Wの間を流れて、積層体10の外周面に到達する。複数の打抜部材Wの間に介在しているオイルは、ガスの流れによって積層体10の外周面に押し出される。この際、荷重P2が荷重P1よりも小さい場合、予備加圧時と比較して、本加圧時において、複数の打抜部材Wの間に介在するオイルの流動性が高い状態となる。そのため、ガスが複数の打抜部材Wの間をより流通しやすくなるので、オイルをいっそう効率的に除去することが可能となる。
【0045】
貫通孔302bから積層体10の外周面に向けて吹き出されたガスは、予備加圧及び/又は本加圧にて外周面に押し出されたオイルと、ガスによって内周面側から外周面に押し出されたオイルとを吹き飛ばす。これにより、積層体10からオイルの大部分が除去される(
図5のステップS13参照)。
【0046】
続いて、
図3に戻って、図示しない搬送機構(例えばロボットハンド)又は人手により、積層体10を溶接装置400まで搬送する。積層体10は、挟持部材401上に載置される。次に、コントローラCtrが昇降機構403に指示して、挟持部材402を積層体10に向けて降下させる。これにより、積層体10が、挟持部材401,402によって挟持され、積層体10が加圧される(
図5のステップS14参照)。
【0047】
このとき、積層体10には荷重P3が付与される。これにより、打抜部材W同士のスプリングバックに抗して打抜部材W同士が密着されるので、占積率(積層体10全体の体積のうち打抜部材Wの体積が占める割合)が高まる。荷重P3は、積層体10のサイズによって種々の大きさとなりうるが、荷重P2以下であってもよく、例えば、0トン~2トン程度であってもよい。荷重P3が荷重P2以下であると、複数の打抜部材Wの間にオイルが残存していたとしても、溶接の際にオイルが積層体10の外周面に押し出され難くなる。そのため、積層体10を加圧しつつ溶接することで所望の高さの積層鉄心を得ることができるのみならず、オイルの大部分が熱処理前に除去されているので、溶接に際してオイルによる影響が極めて生じ難くなる。
【0048】
積層体10の加圧の際、コントローラCtrが溶接トーチ404に指示して、加圧されている状態の積層体10に対して溶接を行う。具体的には、溶接トーチ404を積層体10の高さ方向に移動させながら、積層体10の外周面に設けられている複数の凹溝16のそれぞれに向けて溶接トーチ404からレーザを照射する。これにより、各凹溝16に溶接部24が形成される(
図5のステップS14参照)。
【0049】
続いて、図示しない搬送機構(例えばロボットハンド)又は人手により、積層体10を熱処理炉500まで搬送する。熱処理炉500は、コントローラCtrの指示信号に基づいて積層体10を熱処理する(
図5のステップS15参照)。これにより、打抜部材Wの内部に残留している歪みが除去されると共に、積層体10にオイルが残存していた場合に当該オイルが除去される。こうして、固定子積層鉄心1が完成する。熱処理炉500から排出された固定子積層鉄心1は、図示しない巻線装置に搬送され、各ティース部14に巻線が設けられることで固定子が完成する。
【0050】
[作用]
以上の実施形態では、予備加圧及び本加圧により、複数の打抜部材Wの間に介在するオイルが積層体10の外周面又は内周面に押し出される。そのため、押し出されたオイルを除去することにより、オイルの大部分を効率的に除去することが可能となる。
【0051】
以上の実施形態では、オイルの除去前に予備加圧が行われるので、オイルの存在により、再カシメ及び/又はダボ潰しが効果的に行える。そのため、固定子積層鉄心1の平面度、平行度及び直角度を高めることが可能となる。
【0052】
以上の実施形態では、ガスを積層体10に吹き付けることによりオイルを積層体10から吹き飛ばしている。そのため、極めて容易且つ簡易な方法でオイルを積層体10から除去することが可能となる。
【0053】
以上の実施形態では、貫通孔302aを通じて積層体10の貫通孔10a内にガスを吹き込んで、オイルを積層体10の外周面から飛ばしている。そのため、複数の打抜部材Wの間を流れるガスによりオイルが押し出されるので、極めて容易且つ簡易な方法で、より効率的にオイルを積層体10から除去することが可能となる。
【0054】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0055】
(1)上記の実施形態では、積層体10に対して予備加圧及び本加圧の双方が行われたが、少なくとも一方が行われてもよい。あるいは、上記の実施形態では、加圧された状態の積層体10を溶接していたが、積層体10の溶接時に積層体10が加圧されていなくてもよい。
【0056】
(2)上記の予備加圧、本加圧及びオイルの除去は、同一の装置で行われてもよい。
【0057】
(3)上記の実施形態では、複数の打抜部材Wが互いにカシメ部18によって締結されていたが、複数の打抜部材Wはカシメ部18を含んでいなくてもよい。すなわち、積層体10を構成する複数の打抜部材Wは、溶接されるまでは、単に重ね合わせられているだけであってもよい。
【0058】
(4)積層体10からオイルをガスで吹き飛ばすために、種々の方法を採用してもよい。例えば、
図6に示されるように、積層体10の貫通孔10a内に配置されたノズル305を貫通孔10a内において上下動させつつ、ブロア304からのガスをノズル305から積層体10の内周面に吹き付けてもよい。同じく、
図6に示されるように、積層体10の外周面の側方に配置されたノズル306を上下動させつつ、ブロア304からのガスをノズル306から積層体10の外周面に吹き付けてもよい。
【0059】
(5)上記の実施形態では、積層体10の内周面側から外周面に向けて、複数の打抜部材Wの間にガスを流通させていたが、積層体10の外周面側から内周面に向けて、複数の打抜部材Wの間にガスを流通させてもよい。
【0060】
(6)積層体10からのオイルを除去するために、種々の方法を採用してもよい。例えば、吸引ポンプ等を用いて積層体10の周囲から気体(揮発したオイルを含む)を吸引するようにしてもよい。積層体10を真空容器内に配置して、積層体10の周囲を真空状態にしてもよい。積層体10を400℃未満の温度で加熱して、積層体10に付着しているオイルの揮発を促進してもよい。布、紙等を用いて作業者が積層体10からオイルを拭き取ってもよい。
【0061】
(7)固定子積層鉄心1のみならず、回転子積層鉄心に対して本開示を適用してもよい。
【0062】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る積層鉄心の製造方法は、複数の打抜部材を積層して積層体を形成することと、複数の打抜部材の間に介在するオイルを積層体の外周面又は内周面に押し出すように積層体を予備加圧することと、押し出されたオイルを除去することとを含む。この場合、予備加圧により、複数の打抜部材の間に介在するオイルが積層体の外周面又は内周面に押し出される。そのため、押し出されたオイルを除去することにより、オイルの大部分を効率的に除去することが可能となる。また、予備加圧は、カシメの再締結(「再カシメ」ともいう)、及び/又は、積層体の表面から突出しているカシメの突起の平坦化(「ダボ潰し」ともいう)を目的として行われることがある。このとき、オイルの除去前に予備加圧が行われるので、オイルの存在により、再カシメ及び/又はダボ潰しが効果的に行える。そのため、積層鉄心の平面度、平行度及び直角度を高めることが可能となる。
【0063】
例2.例1の方法において、オイルを除去することは、複数の打抜部材の間に介在するオイルを積層体の外周面又は内周面に押し出すように積層体を本加圧しつつ、押し出されたオイルを除去することを含んでいてもよい。この場合、予備加圧に加えて、オイルの除去の際しても積層体が本加圧されるので、複数の打抜部材の間に介在するオイルがよりいっそう積層体の外周面又は内周面に押し出される。そのため、オイルをより効率的に除去することが可能となる。
【0064】
例3.例2の方法において、積層体の予備加圧時の圧力は積層体の本加圧時の圧力よりも大きくてもよい。この場合、予備加圧時と比較して、本加圧時において、複数の打抜部材の間に介在するオイルの流動性が高い状態となる。そのため、例えば、複数の打抜部材の間に気流を生じさせることにより、オイルをいっそう効率的に除去することが可能となる。
【0065】
例4.本開示の他の例に係る積層鉄心の製造方法は、複数の打抜部材を積層して積層体を形成することと、複数の打抜部材の間に介在するオイルを積層体の外周面又は内周面に押し出すように積層体を本加圧しつつ、押し出されたオイルを除去することとを含む。この場合、本加圧により、複数の打抜部材の間に介在するオイルが積層体の外周面又は内周面に押し出される。そのため、押し出されたオイルを除去することにより、オイルの大部分を効率的に除去することが可能となる。
【0066】
例5.例1~例4のいずれかの方法は、オイルの除去処理後の積層体を熱処理することをさらに含んでいてもよい。この場合、オイルの大部分が除去されているので、後続の熱処理(例えば、溶接、焼鈍等)に際してオイルによる影響が極めて生じ難くなる。
【0067】
例6.例2~例4のいずれかの方法は、積層体の本加圧時の圧力以下の圧力で積層体を加圧しつつオイルの除去処理後の積層体を熱処理することをさらに含んでいてもよい。この場合、複数の打抜部材の間にオイルが介在していたとしても、熱処理の際にオイルが押し出され難くなる。そのため、積層体を加圧しつつ熱処理することで所望の高さの積層鉄心を得ることができるのみならず、オイルの大部分が熱処理前に除去されているので、熱処理に際してオイルによる影響が極めて生じ難くなる。
【0068】
例7.例1~例6のいずれかの方法において、オイルを除去することは、ガスを積層体に吹き付けてオイルを積層体から吹き飛ばすことを含んでいてもよい。この場合、極めて容易且つ簡易な方法でオイルを積層体から除去することが可能となる。
【0069】
例8.例7の方法において、積層体はその高さ方向に延びる貫通孔を含み、オイルを除去することは、貫通孔の内部にガスを吹き込んでオイルを積層体の外周面から飛ばすことを含んでいてもよい。この場合、複数の打抜部材の間を流れるガスによりオイルが押し出されるので、極めて容易且つ簡易な方法で、より効率的にオイルを積層体から除去することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1…固定子積層鉄心(積層鉄心)、10…積層体、10a…貫通孔、24…溶接部、100…製造装置、130…打抜装置、200…予備加圧装置、300…オイル除去装置、400…溶接装置、500…熱処理炉、Ctr…コントローラ(制御部)、W…打抜部材。