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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】金型プレス装置及び金型プレス方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 1/26 20060101AFI20220812BHJP
   B30B 15/16 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B30B1/26 F
B30B1/26 A
B30B15/16 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018147176
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020019063
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(73)【特許権者】
【識別番号】000128876
【氏名又は名称】株式会社アマダプレスシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】成川 広
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3186989(JP,U)
【文献】特表2008-517769(JP,A)
【文献】特開2011-245533(JP,A)
【文献】特開平11-221700(JP,A)
【文献】特開2013-071132(JP,A)
【文献】特開平11-058091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 1/26
B30B 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を加工する金型の上型を保持し前記上型を上下に動作させるスライドと、
前記スライドに対向し前記上型と対になる前記金型の下型を保持するボルスタと、
前記スライドを上下に移動させるコンロッドと、
前記コンロッドを上下に移動させるための動力を発生する少なくとも第1の駆動手段及び第2の駆動手段と、
前記コンロッドを介して前記第1の駆動手段及び/又は前記第2の駆動手段の動力を前記スライドに伝達するクランク軸と、
前記クランク軸の一端に回転軸が接続されたメインギヤを有し、前記第1の駆動手段の動力を前記クランク軸に伝達する第1の伝達手段と、
前記メインギヤを有し、前記第2の駆動手段の動力を前記クランク軸に伝達する第2の伝達手段と、
前記スライドの下降を開始してから前記対象物への加工を開始するまでの非加工期間、及び、前記対象物への加工を終了してから前記スライドの上昇が終了するまでの非加工期間では前記クランク軸に前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替え、前記対象物への加工を開始してから加工を終了するまでの加工期間では前記クランク軸に前記第1の駆動手段の動力、又は、前記第1の駆動手段及び前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替える切替手段と、
を備え、
前記第1の伝達手段におけるギヤ比が前記第2の伝達手段におけるギヤ比よりも大きくなることを特徴とする金型プレス装置。
【請求項2】
型プレス装置による金型プレス方法であって、
前記金型プレス装置は、
対象物を加工する金型の上型を保持し前記上型を上下に動作させるスライドと、
前記スライドに対向し前記上型と対になる前記金型の下型を保持するボルスタと、
前記スライドを上下に移動させるコンロッドと、
前記コンロッドを上下に移動させるための動力を発生する少なくとも第1の駆動手段及び第2の駆動手段と、
前記コンロッドを介して前記第1の駆動手段及び/又は前記第2の駆動手段の動力を前記スライドに伝達するクランク軸と、
前記クランク軸の一端に回転軸が接続されたメインギヤを有し、前記第1の駆動手段の動力を前記クランク軸に伝達する第1の伝達手段と、
前記メインギヤを有し、前記第2の駆動手段の動力を前記クランク軸に伝達する第2の伝達手段と、
前記スライドの下降を開始してから前記対象物への加工を開始するまでの非加工期間、及び、前記対象物への加工を終了してから前記スライドの上昇が終了するまでの非加工期間では前記クランク軸に前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替え、前記対象物への加工を開始してから加工を終了するまでの加工期間では前記クランク軸に前記第1の駆動手段の動力、又は、前記第1の駆動手段及び前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替える切替手段と、
を備え、
前記第1の伝達手段におけるギヤ比が前記第2の伝達手段におけるギヤ比よりも大きく、
前記スライドの下降を開始してから前記対象物への加工を開始するまでの非加工期間、及び、前記対象物への加工を終了してから前記スライドの上昇が終了するまでの非加工期間では前記クランク軸に前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように前記切替手段によって切り替える工程と、
前記対象物への加工を開始してから加工を終了するまでの加工期間では前記クランク軸に前記第1の駆動手段の動力、又は、前記第1の駆動手段及び前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように前記切替手段によって切り替える工程と、
を備えることを特徴とする金型プレス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型プレス装置及び金型プレス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクランク構造のサーボプレス装置は、スライド、クランク軸、伝達機構であるメインギヤ及びピニオンギヤ、サーボモータを有する。サーボプレス装置では、サーボモータの回転速度が制御されることにより、スライドの上下運動の速度が制御される。サーボモータは、モータごとに回転数とトルクが決定される。伝達機構におけるギヤ比は、サーボモータの回転数に応じて決定される。ギヤ比を大きくするとトルクを大きくすることができるが、回転数は下がる。一方、ギヤ比を小さくするとモータの回転をそのままクランク軸に伝達することができる。このため、サーボモータにおいては所望のトルク、回転数に合わせて伝達機構(ギヤ)が装備される。
【0003】
ここで、1つのサーボモータでトルクを大きくしたい場合にはギヤ比を大きくする必要があるが、ギヤ比を大きくすると回転数が下がり、生産性が低下する。複数のクランク構造を有するプレス装置において、トルクを大きくしたい場合に、複数のクランク構造に対応した複数のモータ及び複数のギヤを設ける構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-245533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のクランク構造のプレス装置において複数のモータを有する構成では、それぞれのモータに接続されたギヤについては同じギヤ比に設定されているため、回転数を決まった回転数までしか上げることができず、生産性を向上させることができない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、複数のモータを有する場合に、大きなトルクを必要とする状況においても生産性を向上させることができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の趣旨を有する。
【0008】
[趣旨1]
本発明の金型プレス装置は、
対象物を加工する金型の上型を保持し前記上型を上下に動作させるスライドと、
前記スライドに対向し前記上型と対になる前記金型の下型を保持するボルスタと、
前記スライドを上下に移動させるコンロッドと、
前記コンロッドを上下に移動させるための動力を発生する少なくとも第1の駆動手段及び第2の駆動手段と、
前記コンロッドを介して前記第1の駆動手段及びは前記第2の駆動手段の動力を前記スライドに伝達するクランク軸と、
前記第1の駆動手段の動力を前記クランク軸に伝達する第1の伝達手段と、
前記第2の駆動手段の動力を前記クランク軸に伝達する第2の伝達手段と、
を備え、
前記第1の伝達手段におけるギヤ比が前記第2の伝達手段におけるギヤ比よりも大きくなる。
【0009】
[趣旨2]
前記スライドの下降を開始してから前記対象物への加工を開始するまでの非加工期間、及び、前記対象物への加工を終了してから前記スライドの上昇が終了するまでの非加工期間では前記クランク軸に前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替え、前記対象物への加工を開始してから加工を終了するまでの加工期間では前記クランク軸に前記第1の駆動手段の動力、又は、前記第1の駆動手段及び前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替える切替手段を備えてもよい。
【0010】
[趣旨3]
前記クランク軸は、第1のクランク軸と第2のクランク軸とを有し、
前記第1のクランク軸は、前記第1の伝達手段を介して前記第1の駆動手段に接続され、
前記第2のクランク軸は、前記第2の伝達手段を介して前記第2の駆動手段に接続されてもよい。
【0011】
[趣旨4]
前記クランク軸の一端は、前記第1の伝達手段を介して前記第1の駆動手段に接続され、
前記クランク軸の他端は、前記第2の伝達手段を介して前記第2の駆動手段に接続されてもよい。
【0012】
[趣旨5]
趣旨1に記載の金型プレス装置による金型プレス方法であって、
前記スライドの下降を開始してから前記対象物への加工を開始するまでの非加工期間、及び、前記対象物への加工を終了してから前記スライドの上昇が終了するまでの非加工期間では前記クランク軸に前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替える工程と、
前記対象物への加工を開始してから加工を終了するまでの加工期間では前記クランク軸に前記第1の駆動手段の動力、又は、前記第1の駆動手段及び前記第2の駆動手段の動力が伝達されるように切り替える工程と、
を備える。
【0013】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のモータを有する場合に、大きなトルクを必要とする状況においても生産性を向上させることができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のプレス装置の構成を示す斜視図
図2】実施形態のプレス装置の制御ブロック図
図3】実施形態の(a)伝達機構の構成を上側から見た模式図、(b)伝達機構の構成を正面側から見た模式図
図4】(a)(b)実施形態の他の伝達機構の構成を正面側から見た模式図及び上側から見た模式図
図5】実施形態のスライドのストロークの長さの時間変化と各期間を示すグラフ
図6】(a)駆動モータが1つの場合の伝達機構の構成を正面側から見た模式図、(b)駆動モータが2つでギヤ比が等しい場合の伝達機構の構成を正面側から見た模式図、(c)実施形態の駆動モータが2つでギヤ比が異なる場合の伝達機構の構成を正面側から見た模式図
図7】実施形態の変形例を示す図で、(a)(b)2つのクランク軸を有する場合の伝達機構の構成を正面側から見た模式図、(c)1つのクランク軸の両端に2つの駆動モータが接続されている場合の伝達機構の構成を上側から見た模式図、(d)3つ以上の駆動モータを有する場合の伝達機構の構成を正面側から見た模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態]
(プレス装置の説明)
図1は、例えば、一体型ストレートサイドフレーム型又はCフレーム型のプレス装置Sの概略図である。図1には、上下方向、左右方向及び前後方向も示す。図2は、プレス装置Sのブロック図である。図1図2を用いてプレス装置Sについて説明する。プレス装置Sは、筐体2の内外に、第1の駆動手段である駆動モータ4M1、第2の駆動手段である駆動モータ4M2、伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10、スライド12を有して構成される。また、プレス装置Sは、コントローラ14、記憶部15、表示部16、入力部18、を有している。
【0017】
駆動モータ4M1、4M2は、例えばサーボ制御されるサーボモータであり、回転量及び回転方向を制御しつつ伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10を介して後述する金型3を上下移動させるものである。駆動モータ4M1と駆動モータ4M2は、例えば同じ仕様(同じ容量)のモータである。伝達機構6は、例えばギヤやベルト等の伝達部材を有して構成され、駆動モータ4M1、4M2のモータ軸の回転をクランク軸8へと伝達するものである。駆動モータ4M1、4M2への制御信号はコントローラ14から送られるようになっている。伝達機構6については、図3を用いて後述する。
【0018】
クランク軸8及びコンロッド10は、伝達機構6により伝達されたモータ軸の回転移動を往復移動(本実施形態では、上下移動。)に変換するためのものである。モータ軸の回転によりクランク軸8が回転し、クランク軸8に一端近傍が連結されたコンロッド10にその回転が伝達されてコンロッド10が上下移動(昇降移動)するようになっている。
【0019】
コンロッド10の他端近傍にはスライド12が連結されている。コンロッド10の上下移動に伴いスライド12がギブ26に沿って上下移動するようになっている。プレス装置Sにおいては、スライド12と対向するようにボルスタ22が配置されている。スライド12のボルスタ22と対向する側の面(本実施形態では下面。)に金型3の一部としての上型3aが装着される。ボルスタ22のスライド12と対向する側の面(本実施形態では上面。)に金型3の一部として、上型3aと対になる下型3bが装着される。
【0020】
上型3aと下型3bとの間に加工の対象物としてのワークWを配置し、上型3aと下型3bとで押圧することにより、プレス装置SによるワークWに対するプレス加工が行われる。詳しくは、コントローラ14により制御されて駆動モータ4M1、4M2が回転する。駆動モータ4M1、4M2の回転が伝達機構6、クランク軸8を介してコンロッド10へと伝達され、スライド12が上下移動する。スライド12の下方移動によって上型3aと下型3bとが押圧され、ワークWのプレス加工が行われる。すなわち、プレス装置Sにおいて、駆動モータ4M1、4M2、伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10、スライド12がプレス部を構成する。伝達機構6には、クランク軸8の回転数を検知するための回転数検知手段であるロータリーエンコーダ25が設けられている。なお、ロータリーエンコーダ25は、駆動モータ4M1、4M2のそれぞれの回転軸に設けられていてもよい。
【0021】
コントローラ14は、記憶部15に記憶されている各種プログラムに従ってプレス装置Sを制御する。表示部16は、プレス装置Sの状態を示すデータを表示する。入力部18は、プレス装置Sを操作するために必要なデータを入力するために用いられる。
【0022】
(伝達機構6の構成)
図3は、本実施形態の伝達機構6を示す図であり、(a)は伝達機構6をプレス装置Sの上側から見た模式図、(b)は伝達機構6をプレス装置Sの正面側から見た模式図である。伝達機構6は、第1の伝達手段である伝達機構6aと第2の伝達手段である伝達機構6bとを有する。本実施形態の特徴は、駆動モータ4M1からクランク軸8に至るまでの伝達経路を形成する伝達機構6aにおけるギヤ比と、駆動モータ4M2からクランク軸8に至るまでの伝達経路を構成する伝達機構6bにおけるギヤ比とを異ならせる点にある。
【0023】
伝達機構6aは、メインギヤ61、アイドルギヤ63、ピニオンギヤ65を有する。伝達機構6bは、メインギヤ61、ピニオンギヤ67を有する。メインギヤ61は、回転軸61rに固定され、回転軸61rはクランク軸8に接続されている。メインギヤ61の外周には複数の歯(不図示)が形成されている。ピニオンギヤ65は、回転軸65rに固定され、回転軸65rは駆動モータ4M1の回転軸に接続されている。ピニオンギヤ65の外周には複数の歯(不図示)が形成されている。
【0024】
アイドルギヤ63は、メインギヤ61とピニオンギヤ65との間に設けられ、駆動モータ4M1の回転をクランク軸8に伝達するためのギヤである。アイドルギヤ63は、回転軸63rに固定された第1のギヤ63a及び第2のギヤ63bを有する回転軸63r方向の2段構造となっている。第1のギヤ63aの外周には複数の歯(不図示)が形成されており、第1のギヤ63aの複数の歯はメインギヤ61の複数の歯とかみ合っている。第2のギヤ63bの外周には複数の歯(不図示)が形成されており、第2のギヤ63bの複数の歯はピニオンギヤ65の複数の歯とかみ合っている。
【0025】
ピニオンギヤ67は、回転軸67rに固定され、回転軸67rは駆動モータ4M2の回転軸に接続されている。ピニオンギヤ67の外周には複数の歯(不図示)が形成されており、ピニオンギヤ67の複数の歯はメインギヤ61の複数の歯とかみ合っている。
【0026】
また、ピニオンギヤ65、ピニオンギヤ67、第1のギヤ63aは、歯数が等しい。第2のギヤ63bの歯数は第1のギヤ63aよりも多く、メインギヤ61の歯数は第2のギヤ63bの歯数よりも多い。ギヤ比とは、2つのギヤの歯数の比である。
【0027】
伝達機構6をこのような構成とすることにより、駆動モータ4M2からクランク軸8に至るまでの伝達経路における伝達機構6bのギヤ比よりも、駆動モータ4M1からクランク軸8に至るまでの伝達経路における伝達機構6aのギヤ比の方が大きくなる。このため、大きなトルクが必要な場合には、クランク軸8までのギヤ比が大きい駆動モータ4M1が用いられ、高い回転数が必要な場合には、クランク軸8までのギヤ比が小さい駆動モータ4M2が用いられる。ギヤ比の具体的な値を用いた説明は後述する。
【0028】
(他の構成)
図4は、駆動モータ4M1からクランク軸8までの伝達機構6aのギヤ比と駆動モータ4M2からクランク軸8までの伝達機構6bのギヤ比とを異ならせる他の実施形態を説明する図であり、アイドルギヤを用いない構成である。図3と同じ構成には同じ符号を付している。図4(a)では、伝達機構6aは、メインギヤ61、ピニオンギヤ71を有する。伝達機構6bは、メインギヤ61、ピニオンギヤ73を有する。ピニオンギヤ71は、駆動モータ4M1に接続され、複数の歯(不図示)はメインギヤ61の複数の歯とかみ合っている。ピニオンギヤ73は、ピニオンギヤ71よりも歯数が多く、メインギヤ61よりも歯数が少ないギヤであり、駆動モータ4M2に接続され、複数の歯(不図示)はメインギヤ61の複数の歯とかみ合っている。図4(a)の場合でも、駆動モータ4M2からクランク軸8に至るまでの伝達機構6bのギヤ比よりも、駆動モータ4M1からクランク軸8に至るまでの伝達機構6aのギヤ比の方が大きくなる。
【0029】
図4(b)では、伝達機構6aは、メインギヤ81、ピニオンギヤ85を有する。伝達機構6bは、メインギヤ83、ピニオンギヤ87を有する。メインギヤ81及びメインギヤ83は、いずれも回転軸81rに固定されており、回転軸81r方向の2段構造となっている。メインギヤ81は、メインギヤ83よりも歯数の多いギヤである。
【0030】
ピニオンギヤ85は、駆動モータ4M1に接続され、複数の歯(不図示)はメインギヤ81の複数の歯とかみ合っている。ピニオンギヤ87は、駆動モータ4M2に接続され、複数の歯(不図示)はメインギヤ83の複数の歯とかみ合っている。ピニオンギヤ85の歯数とピニオンギヤ87の歯数は等しく、メインギヤ81、83の歯数よりも少ない。図4(b)の場合でも、駆動モータ4M2からクランク軸8に至るまでの伝達機構6bのギヤ比よりも、駆動モータ4M1からクランク軸8に至るまでの伝達機構6aのギヤ比の方が大きくなる。
【0031】
このように、本実施形態では、駆動モータ4M1からクランク軸8までの伝達機構6aのギヤ比と駆動モータ4M2からクランク軸8までの伝達機構6bのギヤ比とが異なるギヤ比であればよく、ギヤ比を異ならせる構成は上述した構成に限定されない。
【0032】
(加工処理への適用)
図5は、プレス装置Sを用いてワークWに加工処理を行う際の駆動モータ4M1、4M2の制御を説明する図である。図5は、縦軸にスライド12のストロークの長さを示し、横軸に時間を示すグラフである。コントローラ14は、ロータリーエンコーダ25の検知結果に基づいてクランク軸8の回転角度を求めることにより、所定の基準の位置からのスライド12のストロークの長さを求めることができる。
【0033】
プレス装置Sが停止しているとき、スライド12は所定の位置に停止している。所定の位置を以下、ホームポジションという。期間Aは、スライド12がホームポジションから下降を開始してからワークWへの加工が開始されるまでの期間であり、ワークWへの加工が行われていない非加工期間である。期間Aでは、スライド12は速やかに加工が開始される位置まで下降する必要がある。このため、期間Aでは駆動モータにおいては、高いトルクを得ることよりも速さが優先され、回転数を上げることが求められる。
【0034】
コントローラ14は、期間Aにおいては駆動モータ4M2を駆動する。コントローラ14は駆動モータ4M1の駆動がクランク軸8に伝達しないように制御する。例えば、駆動モータ4M1の駆動を停止させたり、駆動モータ4M1とクランク軸8との間の伝達機構6aの接続を切断させる等してフリーランとしたりする。なお、駆動モータ4M1の駆動を停止させた場合においても駆動モータ4M2に対して抵抗を与えないものとする。
【0035】
期間Bは、ワークWへの加工が開始されてからワークWへの加工が終了するまでの加工期間である。期間Bでは、ワークWに所定の加工を行うために遅い速度で大きなトルクが必要とされる。このため、期間Bでは駆動モータにおいては、速さよりも高いトルクを得ることが優先され、高いトルクを得ることが求められる。コントローラ14は、期間Bにおいては駆動モータ4M1及び駆動モータ4M2の両方を駆動することによりこれらを協働させる。
【0036】
期間Cは、ワークWへの加工が終了してからスライド12の上昇が終了しホームポジションに戻るまでの期間であり、期間A同様、ワークWへの加工が行われていない非加工期間である。期間Cでは、スライド12は速やかに下降を開始した位置(ホームポジション)まで上昇させる必要がある。このため、期間Aと同様に期間Cでは駆動モータにおいては、高いトルクを得ることよりも速さが優先され、回転数を上げることが求められる。
【0037】
コントローラ14は、期間Cにおいては期間Aと同様に駆動モータ4M2を駆動する。コントローラ14は駆動モータ4M1の駆動がクランク軸8に伝達しないように制御する。その他については期間Aと同様であり説明を省略する。
【0038】
切替手段であるコントローラ14は、図5におけるポイントP1において、駆動モータ4M2のみの駆動から、2つの駆動モータ4M1、4M2の駆動に切り替える。一方、コントローラ14は、ポイントP2において、2つの駆動モータ4M1、4M2の駆動から駆動モータ4M2のみの駆動に切り替える。
【0039】
非加工期間である期間A、期間Cでは、駆動モータ4M1の伝達機構6aのギヤ比よりもギヤ比が小さい伝達機構6bに接続された駆動モータ4M2のみを駆動することで、スライド12を所定の位置まで速やかに下降又は上昇させることができる。これにより従来よりも生産性を向上させることができる。また、非加工期間である期間A、期間Cでは、2つの駆動モータ4M1、4M2を駆動する場合に比べて消費電力を低減することも可能である。一方、加工期間である期間Bでは、2つの駆動モータ4M1、4M2を駆動することで、ワークWへの加工に必要なトルクを得ることができる。
【0040】
なお、加工期間である期間Bにおいて、上述した実施形態では2つの駆動モータ4M1、4M2を用いているが、ギヤ比が大きく、大きなトルクを得られる駆動モータ4M1のみを用いてもよい。
【0041】
(従来例との比較)
図6は、本実施形態と従来例とを比較した図である。以下の説明において、Tは駆動モータ4M1、4M2のトルクを示し、これをトルクの単位とする。すなわち、駆動モータ4M1、4M2のトルクは、1Tと表現する。Tcは駆動モータ4M1、4M2のトルクが伝達機構6を介してクランク軸8に伝達された際のクランク軸8におけるトルクを示す。Nは駆動モータ4M1、4M2の回転数を示す。SPMは駆動モータ4M1、4M2の回転数が伝達機構6を介してクランク軸8に伝達された際のクランク軸8における回転数を示す。なお、駆動モータ4M1、4M2は、回転数が変わったとしてもトルクは一定として以下の説明を行う。
【0042】
図6(a)は1つの駆動モータ4M1を有するプレス装置Sについて説明した図であり、従来例を示す。図6(a)では、ピニオンギヤ163とメインギヤ161とのギヤ比を1:5とする(図の円中の値。他の図においても同様とする)。このとき、クランク軸8で得られるトルクTcは5Tとなる(Tc=5T)。一方、クランク軸8で得られる回転数SPMは、駆動モータ4M1の回転数Nの5分の1であるN/5となる(SPM=N/5)。このように、図6(a)の従来例の伝達機構では、大きなトルクが得られる一方、回転数は下がる。すなわち、生産性が低下する。
【0043】
図6(b)は図6(a)に対してモータを1つ追加し、2つの駆動モータ4M1、4M2を有するプレス装置Sとした図であり、同じ性能の駆動モータ及び伝達機構を同じギヤ比とした図である。図6(b)では、駆動モータ4M1に接続されたピニオンギヤ163と、駆動モータ4M2に接続されたピニオンギヤ165と、を有し、ピニオンギヤ163とメインギヤ161とのギヤ比、及びピニオンギヤ165とメインギヤ161とのギヤ比は、いずれも1:5とする。このとき、クランク軸8で得られるトルクTcは10Tとなる(Tc=5T+5T)。これは、駆動モータが1つの場合の図6(a)で得られるトルクTc(=5T)の2倍となっている。
【0044】
一方、クランク軸8で得られる回転数SPMは、駆動モータ4M1、4M2の回転数Nの5分の1となる(SPM=N/5)。このように、図6(b)の従来例でも、大きなトルクが得られる一方、図6(a)同様に回転数は下がり、生産性が低下する。
【0045】
図6(c)は本実施形態のプレス装置Sについて説明した図であり、図3で説明した構成を示す。図6(c)では、ピニオンギヤ65とアイドルギヤ63の第2のギヤ63bとのギヤ比を1:2、アイドルギヤ63の第1のギヤ63aとメインギヤ61とのギヤ比を1:4とする。また、ピニオンギヤ67とメインギヤ61とのギヤ比を1:4とする。
【0046】
まず、非加工期間のように、駆動モータ4M2のみが用いられる場合、クランク軸8で得られるトルクTcは4Tとなる(Tc=4T)。クランク軸8で得られる回転数SPMは、駆動モータ4M2の回転数Nの1/4となる(SPM=N/4)。スライド12を速やかに所定の位置に移動させるために速い速度が求められる非加工期間では、図6(b)の場合に比べて、回転数が1.25倍(=N/4÷N/5)となっている。
【0047】
加工期間のように、駆動モータ4M1、4M2が用いられる場合、クランク軸8で得られるトルクTcは12Tとなる(Tc=4T+4×2×T=12T)。クランク軸8で得られる回転数SPMは、駆動モータ4M1、4M2の回転数Nの4分の1となる(SPM=N/4)。ワークWに加工を行うために大きなトルクが必要とされる加工期間では、図6(b)よりも大きなトルク(12T>10T)が得られる。
【0048】
このように、本実施形態では、駆動モータ4M1からクランク軸8までの伝達機構6aのギヤ比と駆動モータ4M2からクランク軸8までの伝達機構6bのギヤ比とを異ならせる。具体的には、高い回転数が求められる期間に用いられる高速低トルク用の駆動モータ4M2における伝達機構6bのギヤ比を、高いトルクが求められる期間に用いられる低速高トルク用の駆動モータ4M1における伝達機構6aのギヤ比よりも小さくする。これにより、非加工期間では高い回転数が得られ、加工期間では高いトルクが得られる。
【0049】
以上、本実施形態によれば、複数のモータを有する場合に、大きなトルクを必要とする状況においても生産性を向上させることができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能であり、例えば以下のような変形例がある。
【0051】
図7は変形例を示す図である。図3等と同じ構成には同じ符号を付し説明を省略する。上述した実施形態では、1つのクランク軸8を有するプレス装置Sについて説明したが、図7(a)に示すように、2つのクランク軸、すなわち、第1のクランク軸8a、第2のクランク軸8bを有するプレス装置Sについても適用可能である。
【0052】
メインギヤ61aはクランク軸8aに接続され、メインギヤ61bはクランク軸8bに接続されている。また、メインギヤ61aの複数の歯(不図示)とメインギヤ61bの複数の歯(不図示)とはかみ合っている。この場合、アイドルギヤ63の第1のギヤ63aの複数の歯がメインギヤ61aの複数の歯にかみ合い、ピニオンギヤ67の複数の歯がメインギヤ61bの複数の歯にかみ合うように構成する。2つのメインギヤ61a、61bの歯数は等しく、他のギヤとの歯数の関係は上述したとおりである。このように、2つのクランク軸8a、8bを有する場合においても、2つの駆動モータ4M1、4M2から2つのクランク軸8a、8bまでの伝達機構6a、6bのギヤ比を異ならせる構成であればよい。また、図7(b)に示すように、2つのメインギヤ61a、61bの間に1以上の中間ギヤ61cを設けてもよい。
【0053】
図7(c)に示すように、1つのクランク軸8の両端に駆動モータを設ける構成としてもよい。例えば、クランク軸8の一端にメインギヤ91が接続され、メインギヤ91の複数の歯にはピニオンギヤ65の複数の歯がかみ合う。一方、クランク軸8の他端にメインギヤ91よりも歯数が少ないメインギヤ93が接続され、メインギヤ93の複数の歯にはピニオンギヤ67の複数の歯がかみ合う。このように、クランク軸8の両端に駆動モータ4M1、4M2を設ける場合においても、2つの駆動モータ4M1、4M2からクランク軸8までの伝達機構6のギヤ比を異ならせる構成であればよい。
【0054】
図7(d)に示すように、3つ以上の駆動モータを設ける構成としてもよい。例えば、図3で説明したプレス装置Sが、更に駆動モータ4M3と、駆動モータ4M3に接続されたピニオンギヤ69と、を有してもよい。ピニオンギヤ69は複数の歯(不図示)を有し、ピニオンギヤ69の歯数はピニオンギヤ65、67と同じ数である。ピニオンギヤ69の複数の歯はメインギヤ61の複数の歯にかみ合っている。これにより、3以上の駆動モータを有する場合であっても、3以上の駆動モータのうち少なくとも2以上の駆動モータが異なるギヤ比であればよい。
【0055】
以上、本実施形態によれば、複数のモータを有する場合に、大きなトルクを必要とする状況においても生産性を向上させることができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
2 筐体
3 金型
3a 上型
3b 下型
4M1、4M2、4M3 駆動モータ
6、6a、6b 伝達機構
8 クランク軸
8a 第1のクランク軸
8b 第2のクランク軸
10 コンロッド
12 スライド
14 コントローラ
15 記憶部
16 表示部
18 入力部
22 ボルスタ
25 ロータリーエンコーダ
26 ギブ
61、61a、61b メインギヤ
61c 中間ギヤ
61r 回転軸
63 アイドルギヤ
63a 第1のギヤ
63b 第2のギヤ
63r 回転軸
65、69 ピニオンギヤ
65r、67r 回転軸
71、73 ピニオンギヤ
81、83 メインギヤ
81r 回転軸
85、87 ピニオンギヤ
91、93 メインギヤ
161 メインギヤ
163、165 ピニオンギヤ
S プレス装置
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7