(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20220812BHJP
B60C 15/04 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B60C15/00 K
B60C15/04 C
B60C15/04 G
(21)【出願番号】P 2018185234
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高山 佳久
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103968(JP,A)
【文献】特開2016-117484(JP,A)
【文献】特開2014-091508(JP,A)
【文献】特開平01-160712(JP,A)
【文献】特開2006-188222(JP,A)
【文献】特開2018-103965(JP,A)
【文献】特開平11-321250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/00
B60C 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接地するトレッド部と、
前記トレッド部に連なり、前記トレッド部のタイヤ径方向内側に位置するタイヤサイド部と、
前記タイヤサイド部に連なり、前記タイヤサイド部のタイヤ径方向内側に位置するビード部と、
前記タイヤの骨格を形成するカーカスと
を含むタイヤであって、
前記ビード部は、コア部と、前記コア部のタイヤ径方向外側に位置する凸部とによって構成されるビードコアを有し、
前記カーカスは、
本体部と、
前記本体部に連なり、前記ビードコアの前記コア部を介してタイヤ幅方向外側に折り返された折り返し部と、
を有し、
前記凸部は、前記本体部と前記折り返し部と前記コア部との間に形成される空間に向けて突出し、
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、前記凸部は、前記ビードコアのタイヤ幅方向内側に位置する内側部分と、前記ビードコアのタイヤ幅方向外側に位置する外側部分とを有し、
前記内側部分は、前記ビードコアの長手方向に平行であり、
前記外側部分は、前記ビードコアの長手方向に対して傾斜し、
前記ビード部は、前記本体部と前記折り返し部と前記凸部との間に形成される空間を埋める充填部を有し、
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、前記ビードコアの面積に対する前記充填部の面積の割合は、5%以上、95%以下であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、前記充填部の面積は、3mm
2以上、40mm
2以下であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、前記ビードコアの面積は、6mm
2以上、70mm
2以下であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記充填部は、前記ビードコアの外周面を覆うラッピング部材によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード部の構造を簡略化したタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護の要求が高まるに連れて、タイヤについても、さらなる軽量化が求められている。タイヤの軽量化手法の一つとして、ビードフィラー(スティフナーとも呼ばれる)を省略した構造が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ビードフィラーを省略すると、次のような問題がある。具体的には、車両が高速で走行レーンを変更(レーンチェンジ)すると、特に、リムフランジ付近のビード部の倒れ込みが大きくなる。
【0005】
この結果、ステアリング操作に対する車両の追従性の遅れ、車両のロール増大、及びレーン変更後の揺り戻しが生じ、操縦安定性を損ねる。
【0006】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、ビード部の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保し得るタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、路面に接地するトレッド部(トレッド部20)と、前記トレッド部に連なり、前記トレッド部のタイヤ径方向内側に位置するタイヤサイド部(タイヤサイド部30)と、前記タイヤサイド部に連なり、前記タイヤサイド部のタイヤ径方向内側に位置するビード部(ビード部60)と、前記タイヤの骨格を形成するカーカス(カーカス40)とを含むタイヤであって、前記ビード部は、コア部(コア部282)と、前記コア部のタイヤ径方向外側に位置する凸部(凸部284)とによって構成されるビードコア(ビードコア280)を有し、前記カーカスは、本体部(本体部41)と、前記本体部に連なり、前記ビードコアの前記コア部を介してタイヤ幅方向外側に折り返された折り返し部(折り返し部42)とを有し、前記凸部は、前記本体部と前記折り返し部と前記コア部との間に形成される空間に向けて突出し、前記ビード部は、前記本体部と前記折り返し部と前記凸部との間に形成される空間を埋める充填部(充填部300)を有し、タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、前記ビードコアの面積に対する前記充填部の面積の割合は、5%以上、95%以下である。
【発明の効果】
【0008】
上述したタイヤによれば、ビード部の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、空気入りタイヤ10の一部断面図である。
【
図2】
図2は、ビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、ビードフィラーレスタイヤの操縦安定性の評価試験結果を示す図である。
【
図4】
図4は、第1変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。
【
図5】
図5は、第2変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。
【
図6】
図6は、第3変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。
【
図7】
図7は、第5変形例に係る空気入りタイヤ10の一部断面図である。
【
図8】
図8は、第5変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。
【
図9】
図9は、第6変形例に係る空気入りタイヤ10の一部断面図である。
【
図10】
図10は、第7変形例に係る空気入りタイヤ10の一部断面図である。
【
図11】
図11は、第8変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0011】
(1)タイヤの全体概略構成
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤ10の一部断面図である。具体的には、
図1は、空気入りタイヤ10のタイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面図である。なお、
図1では、タイヤ赤道線CLを基準とした一方側のみを示す。また、
図1では、断面ハッチングの図示は省略されている(以下同)。
【0012】
図1に示すように、空気入りタイヤ10は、トレッド部20、タイヤサイド部30、カーカス40、ベルト層50及びビード部60を備える。
【0013】
トレッド部20は、路面(不図示)と接地する部分である。トレッド部20には、空気入りタイヤ10の使用環境や装着される車両の種別に応じたパターン(不図示)が形成される。
【0014】
タイヤサイド部30は、トレッド部20に連なり、トレッド部20のタイヤ径方向内側に位置する。タイヤサイド部30は、トレッド部20のタイヤ幅方向外側端からビード部60の上端までの領域である。タイヤサイド部30は、サイドウォールなどと呼ばれることもある。
【0015】
カーカス40は、空気入りタイヤ10の骨格を形成する。カーカス40は、タイヤ径方向に沿って放射状に配置されたカーカスコード(不図示)を有するラジアル構造である。但し、ラジアル構造に限定されず、カーカスコードがタイヤ径方向に交錯するように配置されたバイアス構造でも構わない。
【0016】
ベルト層50は、トレッド部20のタイヤ径方向内側に設けられる。ベルト層50は、コードが交錯する一対の交錯ベルトと、交錯ベルトのタイヤ径方向外側に設けられる補強ベルトとを含む。補強ベルトは、キャップ&レイヤーなどとも呼ばれることもある。なお、ベルト層50は、キャップ&レイヤーとは異なる形状の補強ベルトを含んでもよい。
【0017】
ビード部60は、タイヤサイド部30に連なり、タイヤサイド部30のタイヤ径方向内側に位置する。ビード部60は、円環状であり、ビード部60を介してカーカス40がタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返されている。
【0018】
このように、空気入りタイヤ10は、概ね一般的な乗用自動車(ミニバン、SUV(Sport Utility Vehicle)を含む)に装着されるタイヤと同様の構造を有する。
【0019】
空気入りタイヤ10は、上述したように、乗用自動車向けであり、特に、以下の仕様を満たすことが好ましい。
【0020】
・タイヤ幅: 135mm以上、195mm以下
・リム径: 12インチ以上、15インチ以下
・偏平率: 65%以上、80%以下
・ロードインデックス: 91以下
・エアボリューム: 30~65リットル
より具体的には、空気入りタイヤ10は、表1に示すようなタイヤサイズであることが好ましい。但し、当該サイズに限定されず、上述した仕様を満たすのであれば、他のタイヤサイズであっても構わない。
【0021】
【0022】
空気入りタイヤ10は、リムホイール100に組み付けられる。具体的には、ビード部60は、リムホイール100の径方向外側端に形成されるリムフランジ110(
図1において不図示、
図2参照)に係止される。
【0023】
なお、空気入りタイヤ10は、リムホイール100に組み付けられることによって形成された内部空間に空気が充填されるタイヤであるが、当該内部空間に充填される気体は、空気に限らず、窒素ガスなどの不活性ガスでもよい。
【0024】
(2)ビード部60の構成
次に、ビード部60の具体的構成について説明する。
図2は、ビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。具体的には、
図2は、ビード部60及びリムホイール100のタイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【0025】
図2に示すように、ビード部60は、ビードコア280と、充填部300とを有する。
【0026】
ビードコア280は、タイヤ周方向に延びる円環(リング)状の部材であり、金属(スチール)のコードによって形成される。
【0027】
カーカス40は、ビード部60を介して、タイヤ幅方向外側に折り返される。具体的には、カーカス40は、本体部41と折り返し部42とを含む。
【0028】
本体部41は、トレッド部20、タイヤサイド部30(
図1参照)及びビード部60に亘って設けられ、ビード部60において折り返されるまでの部分である。
【0029】
折り返し部42は、本体部41に連なり、ビードコア280を介してタイヤ幅方向外側に折り返された部分である。
【0030】
図2に示すように、ビードコア280は、カーカス40の本体部41と折り返し部42との間に形成される空間に介在する。
【0031】
ビードコア280は、コア部282と凸部284とを含む。折り返し部42は、コア部282を介して、タイヤ幅方向外側に折り返される。
【0032】
凸部284は、コア部282のタイヤ径方向外側に位置し、コア部282と一体に設けられる。凸部284は、タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280のコア部282との間に形成される空間に向けて、コア部282から突出する。凸部284は、内側部分286と外側部分288とを有する。
【0033】
内側部分286は、凸部284のタイヤ幅方向内側に位置し、ビードコア280の長手方向LD1に平行に設けられる。外側部分288は、凸部284のタイヤ幅方向外側に位置する。外側部分288は、内側部分286のタイヤ径方向外側端に向かって、ビードコア280の長手方向LD1に対して傾斜する。
【0034】
カーカス40の本体部41は、内側部分286に接する。カーカス40の折り返し部42は、外側部分288の一部に接する。
【0035】
ビードコア280の外周面は、ラッピング部材290で覆われている。ラッピング部材290は、例えば、ビニロンコードからなる。
【0036】
凸部284の内側部分286及び外側部分288は、ラッピング部材290を含んでいる。なお、ビードコア280の外周面にラッピング部材290を設けなくてもよい。この場合、凸部284の内側部分286及び外側部分288は、ラッピング部材290を含んでいない。
【0037】
充填部300は、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280の凸部284との間に形成される空間を埋める。充填部300は、他の部分のゴムよりも硬質なゴムからなる。本実施形態では、折り返し部42が本体部41に接する接触領域のタイヤ径方向内側端は、リムフランジ110に対向する位置付近に設けられる。
【0038】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、ビードコア280の面積に対する充填部300の面積の割合は、5%以上、95%以下に設定される。好ましくは、ビードコア280の面積に対する充填部300の面積の割合は、10%以上、90%以下に設定される。より好ましくは、ビードコア280の面積に対する充填部300の面積の割合は、20%以上、85%以下に設定される。
【0039】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、ビードコア280の面積は、6mm2以上、70mm2以下に設定される。好ましくは、ビードコア280の面積は、10mm2以上、50mm2以下に設定される。より好ましくは、ビードコア280の面積は、25mm2以上、45mm2以下に設定される。
【0040】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、充填部300の面積は、3mm2以上、40mm2以下に設定される。好ましくは、充填部300の面積は、5mm2以上、30mm2以下に設定される。より好ましくは、充填部300の面積は、10mm2以上、20mm2以下に設定される。
【0041】
ビード部60は、リムフランジ110と接する外側表面部61を有する。外側表面部61は、ビード部60のタイヤ外側表面の一部である。
【0042】
外側表面部61は、タイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿ったビード部60の断面において、タイヤ幅方向内側に凹むように湾曲している。
【0043】
(3)作用・効果
次に、空気入りタイヤ10の作用及び効果について説明する。具体的には、空気入りタイヤ10のようにビード部60にビードフィラーが設けられていないタイヤ(ビードフィラーレスタイヤ)の操縦安定性について説明した上で、本実施形態に係る空気入りタイヤ10の作用及び効果について説明する。
【0044】
(3.1)ビードフィラーレスタイヤの操縦安定性
図3は、ビードフィラーレスタイヤの操縦安定性の評価試験結果を示すグラフである。具体的には、
図3は、ビードフィラーが設けられている一般的な空気入りタイヤ(従来例)、及びビードフィラーレスタイヤ(比較例)の評価試験結果を示す。
【0045】
なお、
図3に示すビードフィラーレスタイヤ(比較例)は、上述した本実施形態に係る空気入りタイヤ10とは異なり、ビードフィラーが設けられていない点を除き、従来例に係る空気入りタイヤタイヤと同様の構成である。
【0046】
評価試験の条件などは、以下のとおりである。
【0047】
・装着車両: 前輪駆動方式のミニバン
・積載条件: 車両総重量相当(定員乗車、最大積載量の荷物)
・試験方法: シングルレーンチェンジ(シビア)
シングルレーンチェンジ(シビア)とは、以下の条件を満たす。
【0048】
・進入速度: 100km/h
・横G: 0.5.~0.6
・車線変更数: 1車線
・車線変更時間: 2秒
【0049】
図3では、従来例及び比較例のそれぞれについて、車両のステアリングホイールの操舵角と、車両に発生したヨー角とが示されている。
【0050】
まず、レーンチェンジ前半のヨー角に注目すると、比較例では、従来例よりもヨー角の立ち上がりが遅れている(図中の(1) )。なお、従来例及び比較例において同様の操舵角が与えられている。
【0051】
次に、レーンチェンジが進行し、車両が一定のヨー角に到達すると、ドライバーは、ステアリングホイールを戻す動作に入る(図中の(2) )。ここで、比較例では、当該ステアリングホイールの操作、つまり、操舵角に対する車両の回頭性が遅れるため、当該操舵角での保持時間が長くなっている。すなわち、比較例では、車両が一定のヨー角に到達するまで、従来例よりも長い距離(時間)を要する。
【0052】
レーンチェンジの後半では、変更後のレーンに留まるために、レーンチェンジ方向と逆方向への操舵(カウンターステア)角が与えられているが、比較例では、上述したように、車両が一定のヨー角に到達するまで、従来例よりも長い距離(時間)を要するため、カウンターステアの角度も大きくなっている(図中の(3) )。この結果、比較例では、車両のロール量が大きくなり、車両の揺り戻しも大きくなる。
【0053】
図3に示す試験結果を考慮すると、ビードフィラーを省略することによってタイヤの軽量化を図る場合、操縦安定性を維持するためには、レーンチェンジ前半での車両の回頭性を向上させることが重要である。そして、シミュレーションも含めて検討した結果、特に、リムフランジ110付近のビード部の倒れ込み(剖出)を抑制することによって、操縦安定性を維持し得ることが判明した。
【0054】
(3.2)空気入りタイヤ10の作用・効果
上述したように、本実施形態では、ビードコア280の凸部284が、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280のコア部282との間に形成される空間に向けて突出する。充填部300は、本体部41と折り返し部42と凸部284との間に形成される空間を埋める。タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、ビードコア280の面積に対する充填部300の面積の割合は、5%以上、95%以下である。
【0055】
このような構成により、ビードフィラーを省略したとしても、リムフランジ110付近の剛性を高くすることができ、リムフランジ110付近のビード部60の倒れ込みが抑制されることが判明した。
【0056】
特に、従来の空気入りタイヤでは、ビードフィラーが、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280のコア部282との間に形成される空間を埋めていた。これに対して、本実施形態では、ビードコア280の凸部284が、当該空間の一部を埋めており、充填部300が、当該空間の残りの部分を埋めている。それゆえ、ビードフィラーと同様に、他の部分のゴムよりも硬質なゴムからなる充填部300の量を減らすことができるため、タイヤの軽量化を実現しつつ、リムフランジ110付近の剛性を高くすることができる。
【0057】
このように、上述した構成を有する空気入りタイヤ10は、ビード部60の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保することができる。
【0058】
上述した構成に加えて、タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、充填部300の面積が3mm2以上、40mm2以下であれば、タイヤの軽量化を実現しつつ、リムフランジ110付近のビード部60の倒れ込みを効果的に抑制できる。それゆえ、このような構成であっても、ビード部60の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保することができる。
【0059】
同様に、上述した構成に加えて、タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、ビードコア280の面積が6mm2以上、70mm2以下であれば、タイヤの軽量化を実現しつつ、リムフランジ110付近のビード部60の倒れ込みを効果的に抑制できる。それゆえ、このような構成であっても、ビード部60の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保することができる。
【0060】
(4)その他の実施形態
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0061】
例えば、上述したビードコア280は、次のように変更してもよい。
図4は、第1変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。具体的には、
図4は、ビード部60及びリムホイール100のタイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【0062】
第1変形例では、
図4に示すように、充填部は、硬質ゴムの代わりに、ビードコア280の外周面を覆っているラッピング部材290によって形成される。ラッピング部材290は、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280の凸部284との間に形成される空間を埋める。
【0063】
充填部として、ビードコア280の外周面を覆っているラッピング部材290を利用することができるため、別途硬質ゴムを用意する必要がなく、空気入りタイヤ10の製造工程を簡略化することができる。
【0064】
図5は、第2変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。具体的には、
図5は、ビード部60及びリムホイール100のタイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【0065】
第2変形例では、
図5に示すように、カーカス40の折り返し部42は、ビードコア280の凸部284には接していない。充填部310は、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280の凸部284との間に形成される空間を充填する。
【0066】
このような構成により、空気入りタイヤ10の加硫工程において、カーカス40の折り返し部42をビードコア280の凸部284に接するように押し付けると、折り返し部42に歪みが生じる場合に、折り返し部42と凸部284との間に、充填部310を介在させることにより、歪みの発生を抑制することができる。それゆえ、リムフランジ110付近の剛性が低くなるのを回避することができる。
【0067】
図6は、第3変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。具体的には、
図6は、ビード部60及びリムホイール100のタイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【0068】
第3変形例では、
図6に示すように、ビードコア280aは、コア部282aと凸部284aとを含む。ビードコア280aのコア部282aは、ビードコア280のコア部282と同じ構成をとる。
【0069】
凸部284aは、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280aのコア部282aとの間に形成される空間に向けて、コア部282aから突出する。凸部284aは、内側部分286aと外側部分288aとを有する。
【0070】
内側部分286aは、凸部284aのタイヤ幅方向内側に位置する。内側部分286aは、ビードコア280aのタイヤ径方向外側端に向かって、ビードコア280aの長手方向LD2に対して傾斜する。外側部分288aは、凸部284aのタイヤ幅方向外側に位置する。外側部分288aは、ビードコア280aのタイヤ径方向外側端に向かって、ビードコア280aの長手方向LD2に対して傾斜する。
【0071】
カーカス40の本体部41は、内側部分286aに接していない。カーカス40の折り返し部42は、外側部分288aに接する。
【0072】
充填部320は、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280aの凸部284aとの間に形成される空間を埋める。
【0073】
このような構成により、空気入りタイヤ10の加硫工程において、カーカス40の本体部41をビードコア280aの凸部284aに接するように押し付けると、本体部41に歪みが生じる場合に、本体部41と凸部284aとの間に、充填部320を介在させることにより、歪みの発生を抑制することができる。それゆえ、リムフランジ110付近の剛性が低くなるのを回避することができる。
【0074】
第4変形例では、
図2に示した外側表面部61の曲率半径Rが、30mm以上、300mm以下に設定される。なお、曲率半径Rは、50mm以上、200mm以下であることがより好ましい。
【0075】
曲率半径Rとは、タイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿ったビード部60の断面において、ビード部60よりもタイヤ幅方向外側に位置する中心を基準として外側表面部61の位置を通過する円弧の半径である。曲率半径Rは、外側表面部61のタイヤ径方向外側端Dの位置を基準とする。つまり、リムフランジ110と接触するビード部60のタイヤ外側表面のうち、最もタイヤ径方向外側の位置を意味する。また、曲率半径Rは、リムホイール100に組み付けられておらず、荷重が負荷されていない空気入りタイヤ10の形状を基準とする。
【0076】
タイヤ径方向外側端Dの位置におけるゴムゲージ、具体的には、タイヤ径方向外側端Dから折り返し部42のタイヤ幅方向外側端までの厚さは、3.5mm以上、9.5mmであることが好ましい。
【0077】
なお、外側表面部61が複数の曲率半径を有する場合、つまり、外側表面部61が、曲率が異なる複数の部分によって構成されている場合、曲率半径Rは、それぞれの曲率を有する部分の長さに応じた当該複数の曲率半径の平均として表現できる。
【0078】
外側表面部61がこのような曲率を有することによって、リムフランジ110付近のビード部60に負荷される荷重が分散され、ビード部60の倒れ込みを抑制し得る。これにより、車両のロール量及び揺り戻しが低減する。つまり、空気入りタイヤ10が装着された車両の操縦安定性を確保し得る。
【0079】
なお、曲率半径Rは、リムフランジ110と接触する外側表面部61のタイヤ径方向外側端Dの位置を基準とする。これにより、リムフランジ110が存在しなくなる位置における外側表面部61の曲率半径Rが特定され、ビード部60の倒れ込み抑制に必要な外側表面部61の曲率半径Rを確実に規定できる。
【0080】
第5変形例では、次のように、空気入りタイヤ10が構成される。
【0081】
図7に示す点Aは、トレッド部20におけるタイヤ赤道線CL上の位置である。点Bは、タイヤ最大幅位置である。タイヤ最大幅位置とは、タイヤ幅方向に沿った幅が最大となる空気入りタイヤ10の最大幅位置である。L1は、点Aを通るタイヤ幅方向と平行な仮想直線である。L2は、点Bを通るタイヤ幅方向と平行な仮想直線である。L3は、仮想直線L1と仮想直線をL2との中間を通るタイヤ幅方向と平行な仮想直線である。点Cは、仮想直線L3とカーカス40との交点である。詳しくは、点Cは、タイヤ径方向外側のカーカス40上に位置する。L4は、点Cを通るタイヤ径方向と平行な仮想直線である。L5は、点Cにおいてカーカス40に接する仮想直線である。
【0082】
本変形例において、仮想直線L4と仮想直線L5とのなす角度θ1は、30度以上、70度以下である。但し、角度θ1は、これに限定されない。角度θ1は、40度以上、65度以下であってもよい。
【0083】
図8に示す点Dは、外側表面部61のタイヤ径方向外側端の位置である。詳しくは、点Dは、外側表面部61がリムフランジ110との接触状態から離れる、空気入りタイヤ10の外側表面上に位置する離反点である。L6は、点Dを通り、外側表面部61に直角に交わる仮想垂線である。点Eは、仮想垂線L6と折り返し部42との交点である。L7は、点Eにおいて折り返し部42に接する仮想直線である。
【0084】
本変形例において、BLは、リムホイール100のリム径位置を通るタイヤ幅方向と平行な直線(ビードベースライン)である。本変形例において、仮想直線L7と、ビードベースラインBLとのなす角度θ2は、50度以上、80度以下である。但し、角度θ2は、これに限定されない。角度θ2は、60度以上、78度以下であってもよく、65度以上、75度以下であってもよい。
【0085】
角度θ1及び角度θ2が上述した範囲内にあれば、リムフランジ110付近のビード部60の倒れ込みが抑制されることが判明した。つまり、角度θ1及び角度θ2を有する空気入りタイヤ10は、ビード部60の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保し得る。
【0086】
なお、
図8に示す点Dから点Eまでの距離Qは、2mm以上、7mm以下あってもよい。これにより、同様の効果が得られる。
【0087】
第6変形例では、次のように、空気入りタイヤ10が構成される。
【0088】
図9に示す点Aは、トレッド部20におけるタイヤ赤道線CL上の位置である。L1は、点Aを通るタイヤ幅方向と平行な仮想直線である。点Jは、ベルト層50のうち、もっともタイヤ径方向外側に設けられたベルト50cのタイヤ幅方向外側の端部である。なお、本変形例では、ベルト層50は、ベルト50a~50cを含む。ベルト50bは、ベルト50aのタイヤ径方向外側に配置されている。ベルト50cは、ベルト50bのタイヤ径方向外側に配置されている。
【0089】
L10は、点Jを通るタイヤ径方向と平行な仮想直線である。点Nは、仮想直線L1と仮想直線L2との交点である。Xは、点Aから点Nまでの距離である。Yは、点Nから点Jまでの距離である。L11は、点Jを通り、タイヤ外側表面に直角に交わる仮想垂線である。点Kは、仮想垂線L11とタイヤ外側表面との交点である。
【0090】
本変形例において、点Jから点Kまでの距離Uは、2mm以上、10mm以下である。但し、距離Uはこれに限定されない。距離Uは、2.5mm以上、9mm以下であってもよく、3mm以上、8mmであってもよい。また、距離Yと距離Xとの比Y/Xは、0.03以上、0.25以下である。但し、比Y/Xはこれに限定されない。比Y/Xは、0.05以上、0.20以下であってもよい。
【0091】
上述したように、本変形例において、点Jから点Kまでの距離Uは、2mm以上、10mm以下である。また、距離Yと距離Xとの比Y/Xは、0.03以上、0.25以下である。ビードフィラーを省略した場合でも、上記の要件を満たすタイヤであれば、リムフランジ110付近のビード部60の倒れ込みが抑制されることが判明した。つまり、上記の要件を満たす空気入りタイヤ10は、ビード部60の構造を簡略化した場合でも、十分な操縦安定性を確保し得る。
【0092】
なお、点Jから点Kまでの距離Uが、2.5mm以上、9mm以下、または3mm以上、8mm以下であっても同様の効果が得られる。また、比Y/Xが、0.05以上、0.20以下であっても同様の効果が得られる。
【0093】
第7変形例では、次のように、空気入りタイヤ10が構成される。
【0094】
図10に示すように、カーカス40のタイヤ幅方向外側には、ビードフィラーシート400が設けられる。ビードフィラーシート400は、ビードコア280のタイヤ径方向外側において、カーカス40に沿って設けられる。
【0095】
本変形例では、ビードフィラーシート400のタイヤ径方向内側の部分は、折り返し部42と接し、ビードフィラーシート400のタイヤ径方向外側の部分は、本体部41と接する。つまり、ビードフィラーシート400は、折り返し部42のタイヤ径方向外側端を覆うように設けられる。
【0096】
なお、ビードフィラーシート400のタイヤ径方向外側端401は、タイヤ径方向において、タイヤ幅方向に沿った幅が最大となる空気入りタイヤ10の最大幅位置Wmaxよりタイヤ径方向内側に位置すればよい。また、ビードフィラーシート400のタイヤ径方向内側端403は、タイヤ径方向において、ビードコア280のタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向外側の端部281よりもタイヤ径方向外側に位置すればよい。
【0097】
すなわち、ビードフィラーシート400は、タイヤ径方向において、ビードコア280の端部281と、空気入りタイヤ10の最大幅位置Wmaxとの間に設けられることが好ましい。
【0098】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、トレッド部20におけるタイヤ赤道線CL上の位置を点Aとし、タイヤ径方向において、点Aから、ビード部60のタイヤ径方向内側端60aまでの長さをTとした場合、ビードフィラーシート400の長さ、すなわち、ビードフィラーシート400のタイヤ径方向外側端401からタイヤ径方向内側端403までのビードフィラーシート400に沿った長さは、0.1T以上、0.5T以下であることが好ましい。
【0099】
タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、ビードフィラーシート400の厚さは0.2mm以上、2.5mm以下であることが好ましい。また、ビードフィラーシート400は、50%モジュラス(M50)が3MPa以上、15MPa以下であることが好ましい。
【0100】
第8変形例では、次のように、空気入りタイヤ10が構成される。
【0101】
図11は、第8変形例に係るビード部60及びリムホイール100の拡大断面図である。具体的には、
図11は、ビード部60及びリムホイール100のタイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【0102】
第8変形例では、
図11に示すように、ビードコア280bは、コア部282bと凸部284bとを含む。コア部282bは、タイヤ幅方向外側に位置する外側部分282b1を有する。外側部分282b1は、ビードコア280bのタイヤ径方向外側端に向かって、ビードコア280bの長手方向LD3に対して傾斜する。
【0103】
凸部284bは、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280bのコア部282bとの間に形成される空間に向けて、コア部282bから突出する。
【0104】
凸部284bは、タイヤ幅方向外側に位置する外側部分284b1を有する。外側部分284b1は、ビードコア280bのタイヤ径方向外側端に向かって、ビードコア280bの長手方向LD3に対して傾斜する。コア部282bの外側部分282b1及び凸部284bの外側部分284b1は一直線状に連なり、ビードコア280bの外側部分280b1を形成する。このように、ビードコア280bのタイヤ幅方向外側面は面一に形成される。
【0105】
カーカス40の折り返し部42は、凸部284bの外側部分284b1の一部に接していない。
【0106】
充填部330は、カーカス40の本体部41と折り返し部42とビードコア280bの凸部284bとの間に形成される空間を埋める。
【0107】
このような構成により、空気入りタイヤ10の加硫工程において、カーカス40の折り返し部42をビードコア280bの凸部284bの外側部分284b1の全てに接するように押し付けると、折り返し部42に歪みが生じる場合に、折り返し部42と凸部284bとの間に、充填部330を介在させることにより、歪みの発生を抑制することができる。それゆえ、リムフランジ110付近の剛性が低くなるのを回避することができる。
【0108】
その他の変形例として、タイヤ径方向及びタイヤ幅方向に沿った断面において、ビードコア280のコア部282の形状は、四角形に限定されず、円形や六角形であってもよい。
【0109】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0110】
10 空気入りタイヤ
20 トレッド部
30 タイヤサイド部
40 カーカス
41 本体部
42 折り返し部
50 ベルト層
50a~c ベルト
60 ビード部
60a タイヤ径方向内側端
61 外側表面部
65 リムライン
100 リムホイール
110 リムフランジ
280, 280a, 280b ビードコア
280b1 外側部分
281 端部
282, 282a, 282b コア部
282b1 外側部分
284, 284a, 284b 凸部
284b1 外側部分
286, 286a 内側部分
288, 288a 外側部分
290 ラッピング部材
300, 310, 320, 330 充填部
400 ビードフィラーシート
401 タイヤ径方向外側端
403 タイヤ径方向内側端