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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/416 311G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018201517
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020067408
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】村上 美佳
(72)【発明者】
【氏名】岩井 志帆
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-028576(JP,A)
【文献】特開2005-283266(JP,A)
【文献】特開平11-237362(JP,A)
【文献】特開2010-112813(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222001(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0097553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、
前記ガス導入路に連通した主空室と、
前記主空室に連通した測定空室と、を有し、
前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、
各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、
前記ガス導入路から前記主空室に向かって、第1拡散律速部と、前記緩衝空間と、第2拡散律速部とが位置されており、
前記第1拡散律速部の幅Wb1と前記ガス導入路の幅Waとの比Wb1/Waが、0.35≦Wb1/Wa≦0.90である、ガスセンサ。
【請求項2】
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、
前記ガス導入路に連通した主空室と、
前記主空室に連通した測定空室と、を有し、
前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、
各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、
前記ガス導入路から前記主空室に向かって、第1拡散律速部と、前記緩衝空間と、第2拡散律速部とが位置されており、
前記第1拡散律速部の幅Wb1と前記緩衝空間の幅Wcとの比Wb1/Wcが0.35≦Wb1/Wc≦0.90、あるいは前記第2拡散律速部の幅Wb2と前記緩衝空間の幅Wcとの比Wb2/Wcが、0.35≦Wb2/Wc≦0.90である、ガスセンサ。
【請求項3】
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、
前記ガス導入路に連通した主空室と、
前記主空室に連通した測定空室と、を有し、
前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、
各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、
前記ガス導入路から前記主空室に向かって、第1拡散律速部と、前記緩衝空間と、第2拡散律速部とが位置されており、
前記第2拡散律速部の幅Wb2と前記主空室の幅Wdとの比Wb2/Wdが、0.35≦Wb2/Wd≦0.90である、ガスセンサ。
【請求項4】
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、
前記ガス導入路に連通した主空室と、
前記主空室に連通した測定空室と、を有し、
前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、
各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、
前記緩衝空間の長さL1と、前記構造体の先端から前記主空室までの長さL2との比L1/L2が、20%≦L1/L2≦50%である、ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記ガス導入路の温度が600℃以上である、ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気ガスのような酸素の存在下に共存する窒素酸化物(NO)やアンモニア(NH)等の被測定ガスの濃度を測定するガスセンサが提案されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1記載のガスセンサは、特許文献1の図3に示すように、ガス導入孔から主ポンプ電極までは、被測定ガスを導入する導入路と、排気圧の脈動の影響を小さくする緩衝空間と、ガスを絞り込む1つの拡散層と、主ポンプ電極が形成された空室とで構成されている。しかし、拡散層が1つしかないため、導入路を通じて入り込んだ被毒物質が、途中でトラップされることが少なく、内部まで入り込むことで、主ポンプ電極が被毒してしまい、ガス検出精度が低下してしまうおそれがある。
【0004】
また、主ポンプ電極の白金が蒸発して、ガス導入孔から排出されると、保護カバー内に付着してしまい、その結果、NHガスが保護カバー内で分解され、NHの検知性が低下することがあった。
【0005】
そこで、特許文献2記載のガスセンサは、特許文献2の図4に示すように、拡散律速部と内側電極との間における測定室の少なくとも1つの壁面に、液状被毒物質を貯留するトラップ部を形成するようにしている。このトラップ部は、上記壁面に形成された凹み有底の空隙に多孔質を充填して形成されている。
【0006】
特許文献3記載のガスセンサは、特許文献3の図1に示すように、固体電解質内部の被測定ガスが流通するガス流通部の、検出電極から離れた上流側に、有害物質をトラップ(捕捉)する多孔質体によって形成された有害物質トラップ層が形成されている。具体的には、有害物質トラップ層は、外部空間から内部空所へと被測定ガスを導入するガス導入口と、拡散抵抗部間に形成された緩衝空間とに形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5749781号公報
【文献】特許第4931074号公報
【文献】特許第5253165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2記載のガスセンサは、測定室の少なくとも1つの壁面に、液状被毒物質をトラップするトラップ部を形成する必要があり、しかも、上記壁面に形成された凹み有底の空隙に多孔質を充填してトラップ部を形成する必要から、構造が複雑、大型化し、製造過程も複雑になるおそれがある。
【0009】
特許文献3記載のガスセンサは、ガス導入口と緩衝空間とにそれぞれ有害物質トラップ層を形成する必要があり、また、被測定ガスの流通を確保するために、気孔率が40%以上80%以下のアルミナ多孔質体によって有害物質トラップ層を形成する必要がある。そのため、ガスセンサの構造が複雑、大型化し、製造過程も複雑になるおそれがある。
【0010】
本発明は、液状被毒物質を貯留するトラップ部や、有害物質トラップ層等を形成する必要がなく、簡単な構成で主ポンプ電極の被毒を抑え、ガス検出精度の低下を抑制することができるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様によるガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、前記ガス導入路に連通した主空室と、前記主空室に連通した測定空室と、を有し、前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、前記ガス導入路から前記主空室に向かって、第1拡散律速部と、前記緩衝空間と、第2拡散律速部とが位置されており、前記第1拡散律速部の幅Wb1と前記ガス導入路の幅Waとの比Wb1/Waが、0.35≦Wb1/Wa≦0.90である
本発明の他の態様によるガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、前記ガス導入路に連通した主空室と、前記主空室に連通した測定空室と、を有し、前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、前記ガス導入路から前記主空室に向かって、第1拡散律速部と、前記緩衝空間と、第2拡散律速部とが位置されており、前記第1拡散律速部の幅Wb1と前記緩衝空間の幅Wcとの比Wb1/Wcが0.35≦Wb1/Wc≦0.90、あるいは前記第2拡散律速部の幅Wb2と前記緩衝空間の幅Wcとの比Wb2/Wcが、0.35≦Wb2/Wc≦0.90である。
本発明の更に他の態様によるガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、前記ガス導入路に連通した主空室と、前記主空室に連通した測定空室と、を有し、前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、前記ガス導入路から前記主空室に向かって、第1拡散律速部と、前記緩衝空間と、第2拡散律速部とが位置されており、前記第2拡散律速部の幅Wb2と前記主空室の幅Wdとの比Wb2/Wdが、0.35≦Wb2/Wd≦0.90である。
本発明の更に他の態様によるガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路と、前記ガス導入路に連通した主空室と、前記主空室に連通した測定空室と、を有し、前記ガス導入路と前記主空室との間に、前記ガス導入路と連通する緩衝空間と、前記緩衝空間と連通する少なくとも2つの拡散律速部とを有し、各前記拡散律速部の幅は、前記ガス導入路、前記緩衝空間及び前記主空室の各幅より小さく、前記緩衝空間の長さL1と、前記構造体の先端から前記主空室までの長さL2との比L1/L2が、20%≦L1/L2≦50%である。
【発明の効果】
【0012】
上記態様のガスセンサによれば、液状被毒物質を貯留するトラップ部や、有害物質トラップ層等を形成する必要がなく、簡単な構成で主ポンプ電極の被毒を抑え、ガス検出精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係るガスセンサの一構造例を示す断面図である。
図2】ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図3】ガスセンサにおいて、第1条件下での酸素濃度調整室内の反応と測定室内の反応を模式的に示す説明図である。
図4】ガスセンサにおいて、第2条件下での酸素濃度調整室内の反応と測定室内の反応を模式的に示す説明図である。
図5】ガスセンサにおいて、第3条件下での酸素濃度調整室内の反応と測定室内の反応を模式的に示す説明図である。
図6図1におけるVI-VI線上の断面図である。
図7図7A図6におけるVIIA-VIIA線上の断面図であり、図7B図6におけるVIIB-VIIB線上の断面図である。
図8】第1実施例と第2実施例の内訳と判定結果を示す表1である。
図9】第3実施例と第4実施例の内訳と判定結果を示す表2である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限又は上限として含むものとする。
【0015】
本実施の形態に係るガスセンサ10は、図1及び図2に示すように、センサ素子12を有する。センサ素子12は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、該構造体14に形成され、被測定ガスが開口16aを通じて導入されるガス導入路16と、構造体14内に形成され、ガス導入路16に連通する酸素濃度調整室18と、構造体14内に形成され、酸素濃度調整室18に連通する測定室(測定空室)20とを有する。
【0016】
酸素濃度調整室18は、ガス導入路16に連通する主調整室(主空室)18aと、主調整室18aに連通する副調整室18bとを有する。測定室20は副調整室18bに連通している。
【0017】
具体的には、センサ素子12の構造体14は、第1基板層22aと、第2基板層22bと、第3基板層22cと、第1固体電解質層24と、スペーサ層26と、第2固体電解質層28との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層されて構成されている。各層は、それぞれジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質層にて構成されている。
【0018】
センサ素子12の先端部側であって、第2固体電解質層28の下面と第1固体電解質層24の上面との間には、ガス導入路16と、第1拡散律速部30Aと、緩衝空間34と、第2拡散律速部30Bと、主調整室18aと、第3拡散律速部30Cと、副調整室18bと、測定室20とが備わっている。このうち、ガス導入路16と、第1拡散律速部30Aと、緩衝空間34と、第2拡散律速部30Bと、主調整室18aと、第3拡散律速部30Cと、副調整室18bは、この順に連通する態様にて隣接形成されている。ガス導入路16から測定室20に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0019】
ガス導入路16と、緩衝空間34と、主調整室18aと、副調整室18b及び測定室20は、スペーサ層26をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。緩衝空間34と、主調整室18aと、副調整室18bと、測定室20はいずれも、各上部が第2固体電解質層28の下面で、各下部が第1固体電解質層24の上面で、各側部がスペーサ層26の側面で区画されている。
【0020】
また、図1に示すように、第3基板層22cの上面と、スペーサ層26の下面との間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間38が設けられている。基準ガス導入空間38は、上部がスペーサ層26の下面で、下部が第3基板層22cの上面で、側部が第1固体電解質層24の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間38には、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0021】
ガス導入路16は、外部空間に対して開口している部位であり、該ガス導入路16を通じて外部空間からセンサ素子12内に被測定ガスが取り込まれる。
【0022】
第1拡散律速部30Aは、ガス導入路16から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0023】
緩衝空間34は、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を打ち消すことを目的として設けられる。
【0024】
第2拡散律速部30Bは、緩衝空間34から主調整室18aに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0025】
主調整室18aは、ガス導入路16を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。酸素分圧は、主ポンプセル40が作動することによって調整される。
【0026】
主ポンプセル40は、主内側ポンプ電極42と、外側ポンプ電極44と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセルである。主内側ポンプ電極42は、主調整室18aを区画する第1固体電解質層24の上面、第2固体電解質層28の下面、及び、スペーサ層26の側面のそれぞれのほぼ全面に設けられている。外側ポンプ電極44は、第2固体電解質層28の上面の主内側ポンプ電極42と対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられている。主内側ポンプ電極42と外側ポンプ電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料で構成される。例えば平面視ほぼ矩形状の多孔質サーメット電極(例えば、0.1wt%~30.0wt%のAuを含むPt等の貴金属とZrOとのサーメット電極)として形成される。
【0027】
主ポンプセル40は、センサ素子12の外部に備わる第1可変電源46によりポンプ電圧Vp0を印加して、外側ポンプ電極44と主内側ポンプ電極42との間にポンプ電流Ip0を流すことにより、主調整室18a内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を主調整室18a内に汲み入れることが可能となっている。
【0028】
また、センサ素子12は、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル50を有する。この第1酸素分圧検出センサセル50は、主内側ポンプ電極42と、第3基板層22cの上面と第1固体電解質層24とに挟まれる基準電極48と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とによって構成されている。基準電極48は、外側ポンプ電極44等と同様の多孔質サーメットからなる平面視ほぼ矩形状の電極である。また、基準電極48の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、基準ガス導入空間38につながる基準ガス導入層52が設けられている。すなわち、基準電極48の表面に、基準ガス導入空間38の基準ガスが基準ガス導入層52を介して導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル50には、主調整室18a内の雰囲気と基準ガス導入空間38の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して主内側ポンプ電極42と基準電極48との間に起電力V0が発生する。
【0029】
第1酸素分圧検出センサセル50において生じる起電力V0は、主調整室18aに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。センサ素子12は、上記起電力V0によって、主ポンプセル40の第1可変電源46をフィードバック制御する。これにより、第1可変電源46が主ポンプセル40に印加するポンプ電圧Vp0を、主調整室18aの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0030】
第3拡散律速部30Cは、主調整室18aでの主ポンプセル40の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを副調整室18bに導く部位である。
【0031】
副調整室18bは、予め主調整室18aにおいて酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30Cを通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル54による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、副調整室18b内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、このガスセンサ10は、精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0032】
補助ポンプセル54は、電気化学的ポンプセルであり、副調整室18bに面する第2固体電解質層28の下面のほぼ全体に設けられた補助ポンプ電極56と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とによって構成される。
【0033】
なお、補助ポンプ電極56についても、主内側ポンプ電極42と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0034】
補助ポンプセル54は、補助ポンプ電極56と外側ポンプ電極44との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、副調整室18b内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から副調整室18b内に汲み入れることが可能となっている。
【0035】
また、副調整室18b内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極56と、基準電極48と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって電気化学的センサセル、すなわち、補助ポンプ制御用の第2酸素分圧検出センサセル58が構成されている。
【0036】
なお、この第2酸素分圧検出センサセル58にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される第2可変電源60にて、補助ポンプセル54がポンピングを行う。これにより、副調整室18b内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0037】
また、これと共に、補助ポンプセル54のポンプ電流Ip1が、第1酸素分圧検出センサセル50の起電力V0の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として第1酸素分圧検出センサセル50に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30Cから副調整室18b内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御される。ガスセンサ10をNOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル40と補助ポンプセル54との働きによって、副調整室18b内での酸素濃度は各条件の所定の値に精度良く保たれる。
【0038】
第4拡散律速部30Dは、副調整室18bで補助ポンプセル54の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを測定室20に導く部位である。
【0039】
NOx濃度の測定は、主として、測定室20内に設けられた測定用ポンプセル61の動作により行われる。測定用ポンプセル61は、測定電極62と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極62は、測定室20内の例えば第1固体電解質層24の上面に直に設けられ、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、主内側ポンプ電極42よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。測定電極62は、測定電極62上の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0040】
測定用ポンプセル61は、測定電極62の周囲(測定室20内)の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量を測定ポンプ電流Ip2、すなわち、センサ出力として検出することができる。
【0041】
また、測定電極62の周囲(測定室20内)の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層24と、測定電極62と、基準電極48とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第3酸素分圧検出センサセル66が構成されている。第3酸素分圧検出センサセル66にて検出された第2起電力V2に基づいて第可変電源68が制御される。
【0042】
副調整室18b内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部30Dを通じて測定室20内の測定電極62に到達する。測定電極62の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル61によってポンピングされる。その際、第3酸素分圧検出センサセル66にて検出された第2起電力V2が一定となるように第可変電源68の第2電圧Vp2が制御される。測定電極62の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。従って、測定用ポンプセル61の測定ポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。すなわち、測定用ポンプセル61は、測定室20内の特定成分(NO)の濃度を測定する特定成分測定手段を構成する。
【0043】
また、このガスセンサ10は、電気化学的なセンサセル70を有する。このセンサセル70は、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24と、第3基板層22cと、外側ポンプ電極44と、基準電極48とを有する。このセンサセル70によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0044】
さらに、センサ素子12においては、第2基板層22bと第3基板層22cとに上下から挟まれた態様にて、ヒータ72が形成されている。ヒータ72は、第1基板層22aの下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ72が発熱することによって、センサ素子12を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。ヒータ72は、緩衝空間34から酸素濃度調整室18の全域に亘って埋設されており、センサ素子12のガス導入路16を含む所定の場所を600℃以上の所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、ヒータ72の上下面には、第2基板層22b及び第3基板層22cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層74が形成されている(以下、ヒータ72、ヒータ電極、ヒータ絶縁層74をまとめてヒータ部とも称する)。
【0045】
さらに、ガスセンサ10は、図2に模式的に示すように、酸素濃度制御手段100と、温度制御手段102と、条件設定手段104と、濃度算出手段106とを有する。酸素濃度制御手段100は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を制御する。温度制御手段102は、センサ素子12の温度を制御する。条件設定手段104は、酸素濃度調整室18の酸素濃度及びセンサ素子12の温度の少なくとも一方を、導入された被測定ガスの目的成分の種類に応じた条件に設定する。濃度算出手段106は、目的成分の種類に応じた複数の条件下で得られた各センサ出力に基づいて複数のそれぞれ異なる目的成分の濃度を算出する。
【0046】
なお、酸素濃度制御手段100、温度制御手段102、条件設定手段104及び濃度算出手段106は、例えば1つ又は複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路にて構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能が実現されるソフトウェア機能部である。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路で構成してもよい。
【0047】
ガスセンサ10は、上述した酸素濃度制御手段100、温度制御手段102、条件設定手段104及び濃度算出手段106を具備することで、NO、NO及びNHの各濃度を測定することができるようにしたものである。
【0048】
酸素濃度制御手段100は、条件設定手段104にて設定された条件と、第1酸素分圧検出センサセル50(図1参照)において生じる起電力V0とに基づいて、第1可変電源46をフィードバック制御することにより、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0049】
温度制御手段102は、条件設定手段104にて設定された条件と、センサ素子12の温度を計測する温度センサ(図示せず)からの計測値とに基づいて、ヒータ72をフィードバック制御することにより、センサ素子12の温度を、上記条件に従った温度に調整する。
【0050】
条件設定手段104は、NOを分解させることなく、NOを全てNOに変換する条件を第1条件として設定し、また、NOを分解させることなく、NOの一部をNOに変換する条件を第2条件として設定し、さらに、NOを一部分解させて、NHの一部をNOに変換する条件を第3条件として設定する。
【0051】
先ず、第1条件に設定した場合、図3に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOは分解されず、NOのままである。NOについては、2NO→2NO+Oの分解反応が生じる。NHについては、4NH+5O→4NO+6HOの酸化反応によってNOに酸化される。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOが入り込み、NO及びNHは入り込まない。測定室20内では、NO→(1/2)N+(1/2)Oの分解反応が生じ、このうち、Oが汲み出されることによって、センサ出力(測定ポンプ電流Ip2)として検出される。
【0052】
第2条件に設定した場合は、図4に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOは分解されず、NOのままである。NOについては、例えば80%のNOが2NO→2NO+Oの分解反応によってNOに分解され、残りの20%のNOは分解されない。NHについては、4NH+5O→4NO+6HOの酸化反応によってNOに酸化される。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOとNOが入り込むこととなる。測定室20内では、NO→(1/2)N+(1/2)Oの分解反応とNO→(1/2)N+Oの分解反応が生じる。このうち、Oが汲み出されることによって、センサ出力(測定ポンプ電流Ip2)として検出される。この場合、測定室20内に入り込んだNOにより余剰の酸素イオンが持ち込まれることになり、第1条件、第3条件に比べてセンサ出力は大きくなる。
【0053】
第3条件に設定した場合は、図5に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOについては、例えば20%のNOが(1/2)N+(1/2)Oの分解反応によって分解され、残りの80%のNOは分解されない。NOについては、2NO→2NO+Oの分解反応が生じると共に、分解反応で生成されたNOの20%も(1/2)N+(1/2)Oの分解反応によって分解される。NHについては、例えば90%のNHが4NH+5O→4NO+6HOの酸化反応によってNOに酸化され、残りの10%のNHは酸化されない。ここでも酸化反応で生成したNOの20%が(1/2)N+(1/2)Oの分解反応によって分解される。
【0054】
従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOとNHが入り込むこととなる。測定室20内では、NO→(1/2)N+(1/2)Oの分解反応とNH+(3/2)NO→(3/2)HO+(5/4)Nの分解反応が生じる。この場合、測定室20内のNOがNHの分解に消費され、第1条件、及び第2条件に比べてセンサ出力が低下する。
【0055】
そして、第1条件下でのセンサ出力IPと、第1条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)、NO濃度に対応するセンサ出力(NO)及びNH濃度に対応するセンサ出力(NH)との第1関係式(1)は、以下の通りになる。
IP=NO+0.9NO+1.1NH+OS ……(1)
【0056】
同様に、第2条件下でのセンサ出力IPと、第2条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)、NO濃度に対応するセンサ出力(NO)及びNH濃度に対応するセンサ出力(NH)との第2関係式(2)は、以下の通りになる。
IP=NO+1.12NO+1.1NH+OS ……(2)
【0057】
同様に、第3条件下でのセンサ出力IPと、第3条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)、NO濃度に対応するセンサ出力(NO)及びNH濃度に対応するセンサ出力(NH)との第3関係式(3)は、以下の通りになる。
IP=0.9NO+0.8NO+0.72NH+OS ……(3)
【0058】
オフセット電流OS、OS及びOSは共に定数であることから、第1関係式(1)、第2関係式(2)及び第3関係式(3)の3元連立方程式を解くことにより、NO、NO及びNHとが混在した被測定ガス中のNO濃度、NO濃度及びNH濃度を算出することができる。
【0059】
なお、第1条件、第2条件及び第3条件の詳細については、国際公開第2017/222001号を参照されたい。
【0060】
上述の例では、NO、NO及びNHとが混在した被測定ガス中のNO濃度、NO濃度及びNH濃度を検出する例を示したが、NO濃度のみ、あるいはNO濃度のみ、あるいはNH濃度のみを検出するようにしてもよいことは勿論である。
【0061】
そして、本実施の形態に係るガスセンサ10は、図6図7Bに示すように、第1拡散律速部30A、第2拡散律速部30B、第3拡散律速部30C、第4拡散律速部30Dはいずれも、上下2本の横長のスリットとして設けられている。
【0062】
第1拡散律速部30Aの幅Wb1及び第2拡散律速部30Bの幅Wb2はいずれも、ガス導入路16の幅Wa、緩衝空間34の幅Wc及び主調整室18aの幅Wdよりも小さい。各幅Wa、Wb1、Wb2、Wc及びWdは、ガスセンサ10の長手方向をx方向としたとき、ガスセンサ10の短手方向(y方向)に沿った長さをいう。
【0063】
これにより、ガス導入路16の幅方向両端部にそれぞれ第1空間110aが形成され、同様に、緩衝空間34の幅方向両端部にもそれぞれ第2空間110bが形成される。これら第1空間110a及び第2空間110bの存在により、外部から導入された被毒物質が第1空間110aや第2空間110bにトラップされ易くなり、主内側ポンプ電極42の被毒を抑えることができ、ガス検出精度の低下を抑制することができる。また、主内側ポンプ電極42から蒸発した白金も第1空間110a及び第2空間110bにトラップされ易くなることから、保護カバー(図示せず)内に付着する白金の量を低減することができ、NHガスの検知能力の低下を抑制することができる。
【0064】
すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ10は、液状被毒物質を貯留するトラップ部や、有害物質トラップ層等を形成する必要がなく、簡単な構成で主内側ポンプ電極42の被毒を抑え、ガス検出精度の低下を抑制することができる。
【実施例
【0065】
実施例1~7並びに比較例1及び2に係るガスセンサについて、エンジンによる被毒試験(第1実施例)と、NH干渉性の試験(第2実施例)とを実施した。
【0066】
また、実施例11~17並びに比較例11及び12に係るガスセンサについて、エンジンによる被毒試験(第3実施例)と、NH干渉性の試験(第4実施例)とを実施した。
【0067】
[第1実施例及び第2実施例]
<実施例1~7、比較例1及び2の内訳>
実施例1~7、比較例1及び2の内訳を図8の表1に示す。
【0068】
[第1実施例]
(試験方法)
実施例1~7並びに比較例1及び2に係るガスセンサを、被毒物質を模した成分(ZnDTP:0.25cc/リットル)を含む500℃の排気ガス中に、100時間曝した後のポンプ電流Ip0を測定した。
【0069】
(判定方法)
A:ポンプ電流Ip0の感度変化率が5%以内。
B:ポンプ電流Ip0の感度変化率が5%より大きく、10%以内。
C:ポンプ電流Ip0の感度変化率が10%以上。
【0070】
[第2実施例]
(試験方法)
実施例1~7並びに比較例1及び2に係るガスセンサを大気中で3000時間駆動した後、ガスセンサのNH干渉性(NH検知性)の変化を確認した。
【0071】
(判定方法)
A:変化率が10%以内。
B:変化率が10%よりも大きく、20%以内。
C:変化率が20%よりも大きい。
【0072】
第1実施例及び第2実施例の判定結果を図8の表1に示す。表1の結果から、実施例1~6は、第1実施例及び第2実施例共に、判定結果が「A」であった。実施例7は、第1実施例及び第2実施例共に、判定が「B」であった。これに対して、比較例1及び2は、第1実施例及び第2実施例共に、判定が「C」であった。
【0073】
<考察1>
上述の第1実施例及び第2実施例の判定結果から、以下のことが導き出される。
【0074】
(a) 第1拡散律速部30Aの幅Wb1とガス導入路16の幅Waとの比Wb1/Waは、0.35≦Wb1/Wa≦0.94であることが好ましく、さらに好ましくは0.35≦Wb1/Wa≦0.90である。Wb1/Waが0.35未満の場合、クラックの発生リスクが上がる。Wb1/Waが0.94よりも大きい場合、第1空間110a及び第2空間110bに被毒物質や煤を十分にトラップすることができない。
【0075】
(b) 第1拡散律速部30Aの幅Wb1と緩衝空間34の幅Wcとの比Wb1/Wcは、0.35≦Wb1/Wc≦0.93であることが好ましく、さらに好ましくは0.35≦Wb1/Wc≦0.90である。Wb1/Wcが0.35未満の場合、クラックの発生リスクが上がる。Wb1/Wcが0.93よりも大きい場合、第1空間110a及び第2空間110bに被毒物質や煤を十分にトラップすることができない。
【0076】
(c) 第2拡散律速部30Bの幅Wb2と緩衝空間34の幅Wcとの比Wb2/Wcは、0.35≦Wb2/Wc≦0.96であることが好ましく、さらに好ましくは0.35≦Wb2/Wc≦0.90である。Wb2/Wcが0.35未満の場合、クラックの発生リスクが上がる。Wb2/Wcが0.96よりも大きい場合、第1空間110a及び第2空間110bに被毒物質や煤を十分にトラップすることができない。
【0077】
(d) 第2拡散律速部30Bの幅Wb2と主調整室18aの幅Wdとの比Wb2/Wdは、0.35≦Wb2/Wd≦0.92であることが好ましく、さらに好ましくは0.35≦Wb2/Wd≦0.90である。Wb2/Wdが0.35未満の場合、クラックの発生リスクが上がる。Wb2/Wdが0.92よりも大きい場合、主調整室18aの主内側ポンプ電極42の気化による白金を十分にトラップすることができない。
【0078】
[第3実施例及び第4実施例]
<実施例11~17、比較例11及び12の内訳>
実施例11~17、比較例11及び12の内訳を図9の表2に示す。
【0079】
[第3実施例]
(試験方法)
実施例11~17並びに比較例11及び12に係るガスセンサを、被毒物質を模した成分(ZnDTP:0.25cc/リットル)を含む500℃の排気ガス中に、100時間曝した後のポンプ電流Ip0を測定した。
【0080】
(判定方法)
A:ポンプ電流Ip0の感度変化率が5%以内。
B:ポンプ電流Ip0の感度変化率が5%より大きく、10%以内。
C:ポンプ電流Ip0の感度変化率が10%以上。
【0081】
[第4実施例]
(試験方法)
実施例11~17並びに比較例11及び12に係るガスセンサを大気中で3000時間駆動した後、ガスセンサのNH干渉性(NH検知性)の変化を確認した。
【0082】
(判定方法)
A:変化率が10%以内。
B:変化率が10%よりも大きく、20%以内。
C:変化率が20%よりも大きい。
【0083】
第3実施例及び第4実施例の判定結果を図9の表2に示す。表2の結果から、実施例13~15は、第3実施例及び第4実施例共に、判定結果が「A」であった。実施例11、12、16及び17は、第3実施例及び第4実施例共に、判定が「B」であった。これに対して、比較例11及び12は、第3実施例及び第4実施例共に、判定が「C」であった。
【0084】
<考察2>
上述の第3実施例及び第4実施例の判定結果から、以下のことが導き出される。
【0085】
すなわち、緩衝空間34の長さL1とガス導入路16の開口16a(構造体14の先端)から主調整室18aまでの長さL2の比L1/L2は、20~50%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30~40%である。L1/L2が20%未満の場合、被毒物質や煤を十分にトラップすることができない。L1/L2が50%より大きい場合、クラックの発生リスクが上がる。
【0086】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0087】
[1] 本実施の形態に係るガスセンサ10は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、構造体14に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入路16と、ガス導入路16に連通した主調整室18aと、主調整室18aに連通した測定空室20と、を有し、ガス導入路16と主調整室18aとの間に、ガス導入路16と連通する緩衝空間34と、緩衝空間34と連通する少なくとも2つの拡散律速部(第1拡散律速部30A、第2拡散律速部30B)とを有し、第1拡散律速部30A及び第2拡散律速部30Bの幅Wb1、Wb2は、ガス導入路16、緩衝空間34及び主調整室18aの各幅Wa、Wc及びWdより小さい。
【0088】
これにより、液状被毒物質を貯留するトラップ部や、有害物質トラップ層等を形成する必要がなく、簡単な構成で主ポンプ電極の被毒を抑え、ガス検出精度の低下を抑制することができる。
【0089】
[2] 本実施の形態において、ガス導入路16から主調整室18aに向かって、第1拡散律速部30Aと、緩衝空間34と、第2拡散律速部30Bとが位置されていてもよい。
【0090】
[3] 本実施の形態において、第1拡散律速部30Aの幅Wb1とガス導入路16の幅Waとの比Wb1/Waが、0.35≦Wb1/Wa≦0.90であることが好ましい。
【0091】
[4] 本実施の形態において、第1拡散律速部30Aの幅Wb1と緩衝空間34の幅Wcとの比Wb1/Wcが0.35≦Wb1/Wc≦0.90、あるいは第2拡散律速部30Bの幅Wb2と緩衝空間34の幅Wcとの比Wb2/Wcが、0.35≦Wb2/Wc≦0.90であることが好ましい。
【0092】
[5] 本実施の形態において、第2拡散律速部30Bの幅Wb2と主調整室18aの幅Wdとの比Wb2/Wdが、0.35≦Wb2/Wd≦0.90であることが好ましい。
【0093】
[6] 本実施の形態において、緩衝空間34の長さL1と、構造体14の先端から主調整室18aまでの長さL2との比L1/L2が、20%≦L1/L2≦50%であることが好ましい。
【0094】
[7] 本実施の形態において、ガス導入路16の温度が600℃以上であることが好ましい。
【0095】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【0096】
また、本発明の実施にあたっては、本発明の思想を損なわない範囲で自動車用部品としての信頼性向上のための諸手段が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0097】
10…ガスセンサ 12…センサ素子
14…構造体 16…ガス導入路
16a…開口 18…酸素濃度調整室
18a…主調整室 18b…副調整室
20…測定室 24…第1固体電解質層
28…第2固体電解質層 30A…第1拡散律速部
30B…第2拡散律速部 30C…第3拡散律速部
30D…第4拡散律速部 34…緩衝空間
72…ヒータ 110a…第1空間
110b…第2空間 L1…緩衝空間の長さ
L2…ガス導入路の開口から主調整室までの長さ
Wa…ガス導入路の幅 Wb1…第1拡散律速部の幅
Wb2…第2拡散律速部の幅 Wc…緩衝空間の幅
Wd…主調整室の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9