(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
B62J 11/00 20200101AFI20220812BHJP
B62J 45/00 20200101ALI20220812BHJP
B62J 35/00 20060101ALI20220812BHJP
B62K 19/40 20060101ALI20220812BHJP
B62J 23/00 20060101ALI20220812BHJP
B62M 7/02 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B62J11/00
B62J45/00
B62J35/00 C
B62K19/40
B62J23/00 Z
B62M7/02 N
(21)【出願番号】P 2018207445
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【氏名又は名称】奥西 祐之
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏志
(72)【発明者】
【氏名】秋田 浩平
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-71586(JP,A)
【文献】特開2016-182838(JP,A)
【文献】特開2012-210849(JP,A)
【文献】特開2009-241803(JP,A)
【文献】特開2016-68839(JP,A)
【文献】特開2018-162035(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2990318(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 11/00
B62J 45/00
B62J 35/00
B62K 19/40
B62J 23/00
B62M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が乗車する運転者シートと、
前記運転者シートよりも前方でかつ下方の領域に配置されるエンジンのシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドの前面に形成される排気口に接続されて、エンジンの排気を排出するための排気管と、
前記シリンダヘッドよりも前方で、前記排気管よりも上方で、前記エンジンの上端面よりも下方に形成されるエンジン前方空間に配置されて、鞍乗型車両を制御する制御ユニットと、
前記エンジン及び前記排気管からの熱気が前記制御ユニットに達することを抑えるユニットカバーと、を含み、
前記ユニットカバーは、前記シリンダヘッドと前記制御ユニットの後面との前後方向間を仕切る後壁と、
前記排気管と前記制御ユニットの下面との上下方向間を仕切る下壁と、
前記制御ユニットの車幅方向両側面をそれぞれ覆う一対の側壁と、を含んで構成される、鞍乗型車両。
【請求項2】
運転者が乗車する運転者シートと、
前記運転者シートよりも前方でかつ下方の領域に配置されるエンジンのシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドの前面に形成される排気口に接続されて、エンジンの排気を排出するための排気管と、
前記シリンダヘッドよりも前方で、前記排気管よりも上方で、前記エンジンの上端面よりも下方に形成されるエンジン前方空間に配置されて、鞍乗型車両を制御する制御ユニットと、
前記エンジン及び前記排気管からの熱気が前記制御ユニットに達することを抑えるユニットカバーと、を含み、
前記ユニットカバーには、前記制御ユニットが配置される内部空間とその上方の外部空間とを連通する上方隙間と、前記上方隙間よりも下方で前記内部空間と外部空間とを連通する下方隙間とが形成される、鞍乗型車両。
【請求項3】
前記排気管は、前記排気口から前方に進むにつれて車幅方向外側に向かう拡幅部が形成される、
請求項1又は2に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
車体の前面視において、前記制御ユニットは、前記排気管に対して車幅方向にずれた位置に配置される、
請求項1~3のいずれか1つに記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記エンジン及び前記排気管は、側面視で全体が露出する、
請求項1~4のいずれか1つに記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
前記運転者シートよりも前方且つ上方に配置される燃料タンクと、
ハンドルを支持するヘッドパイプと、前記ヘッドパイプに接続されて、前記燃料タンクよりも下方に延びるダウンフレームと、を有する車体フレームと、をさらに含み、
前記制御ユニットは、前記燃料タンクよりも下方でかつ前記ダウンフレームよりも後方に配置される、
請求項1~5のいずれか1つに記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
車体の前面視において、前記ダウンフレームには、前記制御ユニットの前面の少なくとも一部を覆う前壁部材が設けられる、
請求項6記載の鞍乗型車両。
【請求項8】
前記ダウンフレームは、一対として、車幅方向に間隔をあけて下方に延びており、
前記前壁部材は、前記ダウンフレームを車幅方向に連結し、前記制御ユニットを支持しており、
前記制御ユニットを前記ダウンフレームに支持する支持部材は、前記一対のダウンフレームの間に配置される他の電装部品を支持する支持部分を備える、
請求項7記載の鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示されるように、自動二輪車の作動を制御する制御ユニット、例えば、ECUやABSユニットは、自動二輪車のシートの下方に配置されている。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで近年、制御ユニットの寸法が大きくなってきていることを考慮すると、シート下の配置スペースに制御ユニットが配置できないことも想定される。また、制御ユニットの寸法に関わらず、シート下に他の搭載物が配置されるなどしており、制御ユニットの配置自由度の向上が望まれる。
【0005】
そこで本発明では、シート下とは別に、制御ユニットの配置スペースを用意して、従来に比べ制御ユニットを配置しやすい鞍乗型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、鞍乗型車両であって、
運転者が乗車する運転者シートと、
前記運転者シートよりも前方でかつ下方の領域に配置されるエンジンのシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドの前面に形成される排気口に接続されて、エンジンの排気を排出するための排気管と、
前記シリンダヘッドよりも前方で、前記排気管よりも上方で、前記エンジンの上端面よりも下方に形成されるエンジン前方空間に配置されて、鞍乗型車両を制御する制御ユニットと、を含む。
【0007】
前記構成によれば、制御ユニットが、排気管の上方に形成されるエンジン前方空間に配置される。このように、排気管を接続するために用意される空間を利用して制御ユニットを配置することができ、配置スペースが限られるなかで、制御ユニットの設置スペースを確保しやすくすることができる。
【0008】
前記第1の態様は、さらに、次のような構成を備えるのが好ましい。
【0009】
(1)前記エンジン及び前記排気管からの熱気が前記制御ユニットに達することを抑えるユニットカバーをさらに含む。
【0010】
(2)前記構成(1)において、前記ユニットカバーは、前記シリンダヘッドと前記制御ユニットの後面との前後方向間を仕切る後壁と、
前記排気管と前記制御ユニットの下面との上下方向間を仕切る下壁と、
前記制御ユニットの車幅方向両側面をそれぞれ覆う一対の側壁と、を含んで構成される。
【0011】
(3)前記構成(1)又は(2)において、前記ユニットカバーには、前記制御ユニットが配置される内部空間とその上方の外部空間とを連通する上方隙間と、前記上方隙間よりも下方で前記内部空間と外部空間とを連通する下方隙間とが形成される。
【0012】
(4)前記排気管は、前記排気口から前方に進むにつれて車幅方向外側に向かう拡幅部が形成される。
【0013】
(5)車体の前面視において、前記制御ユニットは、前記排気管に対して車幅方向にずれた位置に配置される。
【0014】
(6)前記エンジン及び前記排気管は、側面視で全体が露出する。
【0015】
(7)前記運転者シートよりも前方且つ上方に配置される燃料タンクと、
ハンドルを支持するヘッドパイプと、前記ヘッドパイプに接続されて、前記燃料タンクよりも下方に延びるダウンフレームと、を有する車体フレームと、をさらに含み、
前記制御ユニットは、前記燃料タンクよりも下方でかつ前記ダウンフレームよりも後方に配置される。
【0016】
(8)前記構成(7)において、車体の前面視において、前記ダウンフレームには、前記制御ユニットの前面の少なくとも一部を覆う前壁部材が設けられる。
【0017】
(9)前記構成(8)において、前記ダウンフレームは、一対として、車幅方向に間隔をあけて下方に延びており、
前記前壁部材は、前記ダウンフレームを車幅方向に連結し、前記制御ユニットを支持しており、
前記制御ユニットを前記ダウンフレームに支持する支持部材は、前記一対のダウンフレームの間に配置される他の電装部品を支持する支持部分を備える。
【0018】
前記構成(1)によれば、ユニットカバーによって、エンジンの排気熱が制御ユニットに与える影響を抑えることができ、制御ユニットの温度上昇を防いで、制御ユニットをエンジン及び排気管に近接配置することができ、設置スペースをさらに確保しやすくできる。
【0019】
前記構成(2)によれば、各壁によって、シリンダヘッド及び排気管と、制御ユニットとの間に空気層を形成することができる。これによって排気熱に起因する、制御ユニットの周囲環境の温度上昇をさらに防いで、制御ユニットをエンジン及び排気管に近接配置することができ、設置スペースをさらに確保しやすくできる。
【0020】
前記構成(3)によれば、上方隙間と下方隙間とによって、制御ユニットとユニットカバーとの間の空気が、上方に流れる流れを形成しやすく、ユニットカバーの内部空間の熱気を排出させることができ、制御ユニットの温度上昇をさらに抑制することができる。
【0021】
前記構成(4)によれば、排気口前方に配置される制御ユニットに対して、排気管が車幅方向外側に遠ざかる。これによって、排気管の熱気が制御ユニットに与える影響を抑えることができる。
【0022】
前記構成(5)によれば、排気管と制御ユニットとを車幅方向にずらして配置しやすく、排気管の排気熱が制御ユニットに与える影響を抑えることができる。
【0023】
前記構成(6)によれば、排気熱が籠もらずに、排気熱が制御ユニットに与える影響をさらに抑えることができる。
【0024】
前記構成(7)によれば、シリンダヘッドと、燃料タンクと、ダウンフレームと、排気管で囲まれた領域に、制御ユニットが配置される。これによって、制御ユニットが比較的剛性の高い部材で、前後上下に囲まれることになり、制御ユニットの保護効果を高めることができる。
【0025】
前記構成(8)によれば、前方からの飛散物が、制御ユニットおよび制御ユニットのケーブル接続部に衝突することを防ぐことができ、制御ユニットの保護効果を高めることができる。
【0026】
前記構成(9)によれば、制御ユニットと他の電装部品との支持部材を共通化でき、部品点数の低減を図ることができる。また他の電装部品は、一対のダウンフレームの間に配置されることで、ダウンフレームによる保護効果を期待することができる。
【0027】
本発明の第2の態様は、鞍乗型車両であって、
運転者が乗車する運転者シートと、
前記運転者シートよりも前方且つ上方に配置される燃料タンクと、
前記運転者シートよりも前方で、前記燃料タンクよりも下方の領域に配置されるエンジンのシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドよりも前方で、前記燃料タンクよりも後方で、前記シリンダヘッドの下面よりも上方で、前記燃料タンクの下面よりも下方に形成されるエンジン前方空間に配置されて、鞍乗型車両を制御する制御ユニットと、を含む。
【0028】
前記構成によれば、排気管を接続するために用意される空間を利用して制御ユニットを配置することができ、配置スペースが限られるなかで、制御ユニットの設置スペースを確保しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0029】
要するに本発明によると、制御ユニットを配置しやすい鞍乗型車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の全体側面図である。
【
図4】ABSユニット回りの前面拡大斜視図である。
【
図7】ユニットカバーを外した状態の左側面拡大図である。
【
図8】電装品カバーを外した状態の前面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両として、自動二輪車を説明する。なお、説明の都合上、自動二輪車の進行方向を自動二輪車及び各部品の「前方」とし、自動二輪車に搭乗する乗員が前方を見たときの車幅方向における左右を、自動二輪車及び各部品の「左右」として、説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車の全体側面図である。
図1に示されるように、自動二輪車10は、カウルを備えていないネイキッドタイプである。ネイキッドタイプとは、エンジンの周囲が車体外方に露出しているものである。具体的には、エンジンの車幅方向側面が、車幅方向外方に露出しており、排気管も車幅方向外方に露出する。すなわち、側面視において、エンジン側面及び排気管が視認可能となるように構成される。
【0033】
本実施形態では、自動二輪車10は、前輪1と後輪2との間にエンジン3を備えている。エンジン3は、車体フレーム11に支持されており、自動二輪車10はカウルを備えていないため、自動二輪車10の側面視において、エンジン3は露出している。
【0034】
図2は、車体フレーム11の後斜視図である。
図2に示されるように、車体フレーム11は、ステアリング軸を回転自在に支持するヘッドパイプ12と、ヘッドパイプ12から後下方に延びるメインフレーム13と、ヘッドパイプ12から分岐して下方後方に延びる左右一対のダウンフレーム14と、を備えている。
【0035】
自動二輪車10は、走行風によってエンジン3の周囲の空気が入れ替えられることで、エンジン3の周囲温度の上昇を防ぐようになっている。エンジン3は、シリンダヘッド及びシリンダブロックに放熱用のフィンが形成される空冷エンジンであり、メインフレーム13の下方に配置され、メインフレーム13及びダウンフレーム14に支持されている。
【0036】
エンジン3に供給する燃料を貯留する燃料タンク4は、メインフレーム13に支持されている。燃料タンク4の後方には、運転者が乗車する運転者シート5が配置されており、運転者シート5は、メインフレーム13の後端から分岐して後方に延びる左右一対のシートレール15に支持されている。
【0037】
運転者シート5の下方であり、エンジン3の後方には、エンジン3への吸気を浄化するエアクリーナ6が配置されている。
【0038】
図3は、自動二輪車10の前面図である。
図3に示されるように、エンジン3は、例えば本実施形態では、複数の気筒、具体的には、2つの気筒31(左気筒31a、右気筒31b)を有している。エンジン3のピストンの移動方向は、略鉛直方向となっており、気筒31は、鉛直方向に対して略平行に延びている。2つの気筒31の各排気口には、排気管7(左排気管7a、右排気管7b)がそれぞれ接続されている。
【0039】
左排気管7aは、左気筒31aの前壁に開口する排気口311aから前方に進むにつれて車幅方向外側に向かう拡幅部70a(70)を有し、左ダウンフレーム14aの左方を左前下方に湾曲状に延び、側面視で左ダウンフレーム14aと重なる前端部71a(71)において後方に折り返し、車幅方向内方に少し傾斜しながら、下方後方に延び下端部711aに至っている。左排気管7aの下端部711aは、側面視でエンジン3の下方に位置し、左排気管7aは、下端部711aから略水平に後方に延びて、排気マフラー72aに至っている。
【0040】
右排気管7bは、左排気管7aと左右対称に配設され、右気筒31bの前壁に開口する排気口311bから前方に進むにつれて車幅方向外側に向かう拡幅部70b(70)を有し、右ダウンフレーム14bの右方を右前下方に湾曲状に延び、側面視で右ダウンフレーム14bと重なる前端部71b(71)において後方に折り返し、車幅方向内方に少し傾斜しながら、下方後方に延び下端部711bに至っている。右排気管7bの下端部711bは、側面視でエンジン3の下方に位置し、右排気管7bは、下端部711bから略水平に後方に延びて、排気マフラー72bに至っている。
【0041】
自動二輪車10には、ABS機能が搭載されており、ブレーキ作動液の供給量を制御可能なABSユニット8が設けられている。ABSユニット8は、前輪1に設けられたブレーキキャリパと後輪2に設けられたブレーキキャリパへブレーキ圧を供給するようになっており、前輪1と後輪2との間の位置に配置されている。ABSユニット8は、ブレーキ作動液を加圧するポンプと、ブレーキ作動液の供給量を調整するバルブと、ポンプ及びバルブの作動を制御する制御装置とを備えるユニットであり、車輪のロック状態を防止するために、ブレーキ圧の周期的な変化を生じさせるものである。
【0042】
ABSユニット8は、エンジン3のシリンダヘッド32よりも前方で、排気管7よりも上方で、エンジン3の上端面よりも下方に形成される、側面視で逆台形形状のエンジン前方空間80に配置されている。また、ABSユニット8は、ダウンフレーム14の後方に配置されており、燃料タンク4の下方であって、エンジン3の排気口311から延びる排気管7の前端部71より上方に配置されている。ABSユニット8はまた、左右一対のダウンフレーム14の間に配置されており、支持部材83によってダウンフレーム14に支持されている。そして、車体の前面視において、ダウンフレーム14には、ABSユニット8の前面の少なくとも一部を覆う前壁部材81が設けられている。前壁部材81は、左右のダウンフレーム14a、14bを車幅方向に連結し、ABSユニット8を支持している。
【0043】
ABSユニット8は、排気管7の前端部71及び燃料タンク4の前端部より後方に配置され、車幅方向において、エンジン3の車幅方向両端部の間であり、燃料タンク4の車幅方向両端部の間に位置している。そして、車体の前面視において、ABSユニット8は、排気管7に対して車幅方向内方側にずれた位置に配置されている。ABSユニット8はさらに、エンジン3の気筒31よりも上方に配置されている。
【0044】
ABSユニット8は、排気口311から前方に間隔を有して配置され、ABSユニット8の上端は、排気口311の上端より上方に位置し、ABSユニット8の下端は、ヘッドカバー33の下端よりも下方に位置している。また、ABSユニット8の上端は、前輪1の上端より上方に位置しており、走行風がABSユニット8に向けて流れやすくなっている。
【0045】
図4は、ABSユニット回りの前面拡大斜視図、
図5は、ABSユニット回りの後面拡大図、
図6は、ABSユニット回りの左側面拡大図である。
図4~
図6に示されるように、 ABSユニット8は、ユニットカバー9によって覆われている。
図7は、ユニットカバー9を外した状態の左側面拡大図である。ユニットカバー9は、エンジン3及び排気管7からの熱気がABSユニット8に達することを抑えるように設けられ、上壁91、後壁92、下壁93及び側壁94を備えている。上壁91は、ABSユニット8の上面を覆い、後壁92は、シリンダヘッド32とABSユニット8の後面との前後方向間を仕切っている。下壁93は、排気管7とABSユニット8の下面との上下方向間を仕切っている。側壁94は、一対として設けられ、ABSユニット8の車幅方向両側面をそれぞれ覆っている。
【0046】
上壁91、後壁92及び下壁93は、一体として、金属で形成されている。一方、側壁94は、左右別体として形成され、それぞれ樹脂で形成されている。ユニットカバー9は、燃料タンク4の車幅方向寸法よりも小さく形成され、また、エンジン3及び排気管7の車幅方向寸法よりも小さく形成される。これにより、自動二輪車10が障害物等に衝突した場合でも、燃料タンク4等でABSユニット8を保護することができる。また、上方から見た場合に、ユニットカバー9は燃料タンク4によって部分的に隠れやすく、美観の低下を押さえることができる。
【0047】
ユニットカバー9には、ABSユニット8が配置される内部空間90とその上方の外部空間とを連通する上方隙間9aと、上方隙間9aよりも下方で内部空間90と外部空間とを連通する下方隙間9bとが形成されている。上方隙間9aは、左右方向に延びており、ABSユニット8から前輪1のブレーキキャリパに向かって延びる配管は、上方隙間9aの左右一方側(本実施形態では右側)を通過し、ABSユニット8から後輪2のブレーキキャリパに向かって延びる配管は、上方隙間9aの左右他方側(本実施形態では左側)を通過している。上記配管は、ユニットカバー9の上方であって、ダウンフレーム14の背後に配置され、ダウンフレーム14で保護されるようになっている。
【0048】
ABSユニット8をダウンフレーム14に支持する支持部材83は、他の電装部品を支持する支持部分831を備えている。本実施形態では、他の電装品は、グリップヒータコントローラ85である。グリップヒータコントローラ85は、ハンドルのグリップに取り付けられたヒータを制御する。グリップヒータコントローラ85は、車体の側面視において、左右一対のダウンフレーム14a、14bの間に配置されている。
【0049】
図3に示されるように、グリップヒータコントローラ85の前面は、前面視で、電装品カバー87で覆われており、電装品カバー87は、左右一対のダウンフレーム14間に亘って延びている。
図8は、電装品カバー87を外した状態の前面拡大図である。電装品カバー87は左右非対称の形状を有しており、前壁部材に取り付けられ、左ダウンフレーム14aにクランプで支持され、右ダウンフレーム14bには支持されていない。すなわち、電装品カバー87は、右側の構造が左側の構造に比べて簡素化されている。したがって、自動二輪車10がサイドスタンドで支持される際、自動二輪車10の外方から目立ちやすい右側の構造が簡素化されているため、自動二輪車10の停車時の外観を向上させる。
【0050】
前記構成の自動二輪車10によれば、次のような効果を発揮できる。
【0051】
(1)ABSユニット8が、排気管7の上方に形成されるエンジン前方空間80に配置されている。このように、排気管7を接続するために用意される空間を利用してABSユニット8を配置することができ、配置スペースが限られるなかで、ABSユニット8の設置スペースを確保しやすくすることができる。
【0052】
(2)エンジン3及び排気管7からの熱気がABSユニット8に達することを抑えるユニットカバー9が設けられているので、ユニットカバー9によって、エンジン3の排気熱がABSユニット8に与える影響を抑えることができ、ABSユニット8の温度上昇を防いで、ABSユニット8をエンジン3及び排気管7に近接配置することができ、設置スペースをさらに確保しやすくできる。
【0053】
(3)ユニットカバー9の後壁92、下壁93及び側壁94によって、シリンダヘッド32及び排気管7と、ABSユニット8との間に空気層を形成することができる。これによって排気熱に起因する、ABSユニット8の周囲環境の温度上昇をさらに防いで、ABSユニット8をエンジン3及び排気管7に近接配置することができ、設置スペースをさらに確保しやすくできる。
【0054】
(4)ユニットカバー9には、上方隙間9aと下方隙間9bとが形成されているので、上方隙間9aと下方隙間9bとによって、ABSユニット8とユニットカバー9との間の空気が、上方に流れる流れを形成しやすく、ユニットカバー9の内部空間90の熱気を排出させることができ、ABSユニット8の温度上昇をさらに抑制することができる。
【0055】
(5)排気管7は、排気口311から前方に進むにつれて車幅方向外側に向かう拡幅部70が形成されている。その結果、排気口311前方に配置されるABSユニット8に対して、排気管7が車幅方向外側に遠ざかる。これによって、排気管7の熱気がABSユニット8に与える影響を抑えることができる。
【0056】
(6)車体の前面視において、ABSユニット8は、排気管7に対して車幅方向にずれた位置に配置されている。その結果、排気管7とABSユニット8とを車幅方向にずらして配置しやすく、排気管7の排気熱がABSユニット8に与える影響を抑えることができる。
【0057】
(7)エンジン3及び排気管7は、側面視で全体が露出するので、排気熱が籠もらずに、排気熱がABSユニット8に与える影響をさらに抑えることができる。
【0058】
(8)ABSユニット8は、燃料タンク4よりも下方でかつダウンフレーム14よりも後方に配置されている。その結果、シリンダヘッド32と、燃料タンク4と、ダウンフレーム14と、排気管7で囲まれた領域に、ABSユニット8が配置される。これによって、ABSユニット8が比較的剛性の高い部材で、前後上下に囲まれることになり、ABSユニット8の保護効果を高めることができる。
【0059】
(9)車体の前面視において、ダウンフレーム14には、ABSユニット8の前面の少なくとも一部を覆う前壁部材81が設けられている。その結果、前方からの飛散物が、ABSユニット8およびABSユニット8のケーブル接続部に衝突することを防ぐことができ、ABSユニット8の保護効果を高めることができる。
【0060】
(10)ABSユニット8をダウンフレーム14に支持する支持部材83は、グリップヒータコントローラ85を支持する支持部分831を備えている。その結果、ABSユニット8及びグリップヒータコントローラ85の支持部材83を共通化でき、部品点数の低減を図ることができる。また、グリップヒータコントローラ85は、側面視において、一対のダウンフレーム14a、14bの間に配置されることで、ダウンフレーム14による保護効果を期待することができる。
【0061】
(11)エンジン3のピストンの移動方向が略鉛直方向であるため、燃料タンク4の前端部とエンジン3の前面との間の前後方向間に空間を確保することが容易であり、当該空間にABSユニット8を配置することができる。
【0062】
(12)ダウンフレーム14の車幅方向外方に排気管7が配設されているので、排気管7とABSユニット8との間に空間を確保することが容易である。
【0063】
(13)自動二輪車10の側面視において、エンジン3は露出しているので、エンジン3の排気熱がこもりにくい構造とすることができる。
【0064】
(14)グリップヒータコントローラ85は、左右一対のダウンフレーム14の間に配置されているので、側面視でグリップヒータコントローラ85をダウンフレーム14によって隠すことができ、自動二輪車10の美観を向上させることができる。
【0065】
(15)ユニットカバー9の側壁94は、ABSユニット8の車幅方向両側面を覆っているので、側面視でABSユニット8をユニットカバー9で隠すことができ、自動二輪車10の美観を向上させることができる。
【0066】
(16)排気管7はエンジン3の下方において前方から後方に延びているので、エンジン3から排気管7への熱影響を抑制することができる。
【0067】
(17)下方隙間9bは、前方に開口する前方開口9b1と、下方に開口する下方開口9b2とを有している。ここで、前方開口9b1が形成されることによって、内部空間90に走行風が取り込まれやすくなっており、下方開口9b2が形成されることによって、内部空間90に配置されたABSユニット8の底部から上部へ向かう空気の流れを形成しやすくなっている。
【0068】
(18)ABSユニット8から前輪1のブレーキキャリパに向かって延びる配管は、上方隙間9aの左右一方側(本実施形態では右側)を通過し、ABSユニット8から後輪2のブレーキキャリパに向かって延びる配管は、上方隙間9aの左右他方側(本実施形態では左側)を通過している。このように、前輪1へ向かう配管と後輪2へ向かう配管とを左右に分けて配設することによって、配管の配設の裕度を向上させることができる。
【0069】
(19)ユニットカバー9の上壁91、後壁92及び下壁93は金属で形成されているので、ユニットカバー9の遮熱性を向上させることができ、エンジン3の輻射熱からユニットカバー9内のABSユニット8を保護することができる。また、金属製の上壁91、後壁92及び下壁93によって、ABSユニット8に悪影響を及ぼす電磁ノイズを低減できる。
【0070】
(20)ユニットカバー9の側壁94は樹脂で形成されているので、意匠性の高い形状を形成することが容易であり、側面視で自動二輪車10の意匠性を向上させることができる。なお、側壁94は、エンジン3からの輻射熱を直接受けることは少ないので、耐熱性の高い金属を用いる必要は生じない。
【0071】
(21)エンジン3の車幅方向側面が、車幅方向外方に露出するので、熱の入れ替えが促進され、ABSユニット8の温度上昇を好適に抑制することができる。
【0072】
(22)ラジエータが設けられていない空冷エンジンを備える自動二輪車10に本発明が適用されることにより、ラジエータ、ラジエータカバー及びラジエータへ走行風を案内する導風部材を省略することができ、排気管7の上方空間の熱の入れ替えを促進することができる。その結果、ABSユニット8の温度上昇を好適に抑制することができる。
【0073】
(23)ABSユニット8が前輪1とエンジン3との間に配置されることで、比較的前輪1に近い位置にABSユニット8が配置される。その結果、前輪1に対するブレーキ圧変化の時間遅れを抑制し、前輪1の制動に対する応答性を向上させることができる。
【0074】
上記実施形態では、エンジン3は2気筒エンジンであるが、3気筒以上の多気筒エンジンや、単気筒エンジンでもよい。また、ピストンの移動方向が、上方に進むにつれて前方に傾斜して形成されてもよい。これにより、燃料タンク4とシリンダヘッド32との間の上下方向寸法を大きくしやすく、ABSユニット8の温度上昇をさらに抑えることができる。そして、排気管が1つの場合、ABSユニット8は、前面視で排気筒と重なる位置には設けられない。
【0075】
上記実施形態では、ABSユニット8は、車体フレーム11のダウンフレーム14に取り付けられているが、左右一対のダウンフレームが設けられなくてもよく、例えば、一つのダウンフレームでもよく、ダウンフレームを有しないタイプの鞍乗型車両にも適用することができる。例えば、クレードル型、ダイヤモンドフレーム型、バックボーン型、トラス構造型、ツインスパー型等、各種のフレーム構造の車両に適用可能である。ダウンフレームを有しない車体フレームの場合、車体フレームの前端部に位置する前部フレーム、例えばヘッドパイプ等に取り付けられてもよい。
【0076】
上記実施形態では、自動二輪車の作動を制御する制御ユニットとしてABSユニット8を例として説明した。そして、ABSユニット8は、前後輪のブレーキ圧を調整するとしたが、前輪、後輪のいずれか一方のブレーキ圧を調整する場合も本発明に含まれる。また、制御ユニットはABSユニットに限定されず、自動二輪車の作動を制御する制御ユニットであればよく、エンジンECUやサスペンションECU等にも適用できる。なお、制動動作を制御するブレーキ制御ユニット又は発生駆動力を制御するエンジン制御ユニットは、比較的大型化されやすく、前輪に近いエンジン前方空間に配置されることによる効果が大きい。
【0077】
上記実施形態では、他の電装品としてグリップヒータコントローラ85を例として説明したが、他の電装品はグリップヒータコントローラに限定されず、例えばリレー、レギュレータ、キャニスタ等にも適用できる。
【0078】
上記実施形態では、空冷エンジンを備える自動二輪車の制御ユニットの配置構造で特に大きな効果を得ることができる。ラジエータの配置スペースを有効活用して、制御ユニットを配置できる。なお、本発明は、水冷エンジンを備える自動二輪車にも適用できる。
【0079】
上記実施形態では、自動二輪車10はカウルを備えていないネイキッドタイプであるが、本発明は、シリンダの前方に排気管が接続される鞍乗型車両全般に適用可能であって、アッパーカウルのみ有するハーフカウル、ハンドルにカウルが付くビキニカウル、前部全体がカウルで覆われているフルカウル等、カウルを備えている自動二輪車にも適用できる。また、長距離ツーリングに利用されるクルーザータイプ(アメリカンタイプ)にも適用できる。
【0080】
上記実施形態では、鞍乗型車両として自動二輪車を例として説明したが、鞍乗型車両は自動二輪車に限定されず、車体に跨がって乗車する車両全般を含んでおり、本発明は、自動二輪車のみならず、三輪又は四輪の車両にも適用できる。
【0081】
本発明は、上記実施形態で説明した構成には限定されず、特許請求の範囲に記載した内容を逸脱することなく、当業者が考え得る各種変形例を含むことができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明では、制御ユニットを配置しやすい鞍乗型車両を提供できるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0083】
1 前輪
2 後輪
3 エンジン
31 気筒 311 排気口
32 シリンダヘッド
4 燃料タンク
5 運転者シート
6 エアクリーナ
7 排気管
70 拡幅部
71 前端部
72 排気マフラー
8 ABSユニット(制御ユニット)
80 エンジン前方空間
81 前壁部材
83 支持部材
85 グリップヒータコントローラ(他の電装部品)
87 電装品カバー
9 ユニットカバー
90 内部空間
91 上壁 92 後壁 93 下壁 94 側壁
10 自動二輪車(鞍乗型車両)
11 車体フレーム 12 ヘッドパイプ 13 メインフレーム
14 ダウンフレーム