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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】鋸工具の製造方法及び鋸工具
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20220812BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20220812BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20220812BHJP
   B24D 5/12 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C25D15/02 C
C25D15/02 J
C25D15/02 M
C25D15/02 F
C25D5/02 D
B24D3/06 B
B24D5/12 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018219016
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020084256
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(73)【特許権者】
【識別番号】504279326
【氏名又は名称】株式会社アマダマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川上 達也
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-145726(JP,A)
【文献】国際公開第2005/099950(WO,A1)
【文献】特開2008-044018(JP,A)
【文献】特開2017-052087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
B28D 1/08
B28D 5/00
B24D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と前記胴部の一縁側に形成された切り歯部とを有する母材に対し、前記胴部の側面と前記切り歯部の中間位置までの側面とに跨ってマスキングテープによりマスキングするマスキング工程と、
個槽の中に、マスキングした前記母材を前記切り歯部が上方になる縦姿勢で収容し、前記マスキングテープと前記切り歯部における前記中間位置よりも根元側の端面とで囲まれた空間に球状粒子を投入して前記空間を満たす球状粒子群を形成する粒子投入工程と、
前記粒子投入工程よりも後に、前記個槽の中に砥粒を投入し、前記球状粒子群及び前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の表面を覆う砥粒群を形成する砥粒投入工程と、
前記砥粒投入工程よりも後の、前記母材を収容した前記個槽を、めっき液中に浸漬し、前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の部分に、前記砥粒が固着されためっき層を電着によって形成するめっき層形成工程と、
を含むことを特徴とする鋸工具の製造方法。
【請求項2】
前記めっき層形成工程の後に実行する水洗工程をさらに含み、
前記球状粒子を、前記めっき層による保持力が前記砥粒よりも弱い球体として前記めっき層形成工程において形成した前記めっき層によって固着し、
前記水洗工程において、前記めっき層によって固着された砥粒を残し、前記中間位置よりも根元側の前記端面において前記めっき層によって固着された前記球状粒子を離脱させることを特徴とする請求項1記載の鋸工具の製造方法。
【請求項3】
前記球状粒子として、平均粒径が前記砥粒の平均粒径とほぼ同じものを用い、前記めっき層の厚さを、前記砥粒の平均粒径の約半分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鋸工具の製造方法。
【請求項4】
前記めっき層形成工程の後に実行する水洗工程をさらに含み、
前記めっき層形成工程において、
前記めっき層を、前記水洗工程で前記めっき層により固着された砥粒を離脱させず、かつ前記中間位置よりも根元側の前記端面において前記めっき層により固着された前記球状粒子を埋没する厚さで形成することを特徴とする請求項1記載の鋸工具の製造方法。
【請求項5】
前記球状粒子として、平均粒径が、前記砥粒の平均粒径の半分未満のものを用い、前記めっき層の厚さを、前記砥粒の平均粒径の約半分とすることを特徴とする請求項1又は請求項4記載の鋸工具の製造方法。
【請求項6】
胴部と前記胴部の一縁側に形成された切り歯部とを有する母材に対し、前記胴部の側面と前記切り歯部の中間位置までの部位とに跨ってマスキングテープによりマスキングするマスキング工程と、
個槽の中に、マスキングした前記母材を前記切り歯部が上方になる縦姿勢で収容し、前記マスキングテープと前記切り歯部における前記中間位置よりも根元側の端面とで囲まれた空間に絶縁粉体を投入して前記空間を満たす絶縁粉体群を形成する粉体投入工程と、
前記粉体投入工程よりも後に、前記個槽の中に砥粒を投入し、前記絶縁粉体群及び前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の表面を覆う砥粒群を形成する砥粒投入工程と、
前記砥粒投入工程よりも後の、前記母材を収容した前記個槽を、めっき液中に浸漬し、前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の部分に、前記砥粒が固着されためっき層を電着によって形成するめっき層形成工程と、
を含むことを特徴とする鋸工具の製造方法。
【請求項7】
前記めっき層形成工程の後に実行する、前記絶縁粉体群を除去する水洗工程をさらに含むことを特徴とする請求項6記載の鋸工具の製造方法。
【請求項8】
胴部と、
前記胴部の一縁側に形成された切り歯部と、
前記切り歯部の高さ方向の中間の所定位置よりも先端側に形成された砥粒固着部と、
を備え、
前記切り歯部における前記所定位置よりも根元側の端面に砥粒が固着されてなく、前記端面に、表面に複数の球面状の凹部を有するめっき層が形成されていることを特徴とする鋸工具。
【請求項9】
胴部と、
前記胴部の一縁側に形成された切り歯部と、
前記切り歯部の高さ方向の中間の所定位置よりも先端側に形成された砥粒固着部と、
を備え、
前記切り歯部における前記所定位置よりも根元側の端面に砥粒が固着されてなく、前記端面に、整列した複数の球状粒子及び前記複数の球状粒子を埋没するめっき層が形成されていることを特徴とする鋸工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒が電着により固定されている砥粒固着部を有する鋸工具の製造方法及び鋸工具に関する。
【背景技術】
【0002】
砥粒がめっき層によって固着されている砥粒固着部を有する鋸工具が知られている。特許文献1には、切り歯部に砥粒固着部を有する帯鋸刃が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6196043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
砥粒固着部を形成する際には、母材における砥粒を付着させたくない範囲にマスキング処理を施す。特許文献1に記載されているような、母材の一縁部に切り歯部を有する帯鋸刃においては、母材の胴部の外面、及び切り歯部の根元部分と胴部とに跨る範囲にマスキングテープを貼り付けて絶縁し、電着で砥粒が固着しないようにする。
しかしながら、このマスキング方法は、砥粒を固着させる必要がないガレット部の端面を絶縁することができず、ガレット部の端面に無駄な砥粒が固着する。そのため、砥粒の消費量を少なくするよう、鋸工具の製造方法及び鋸工具を改善することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、砥粒の消費量が少ない鋸工具の製造方法及び鋸工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は次の手順及び構成を有する。
1) 胴部と前記胴部の一縁側に形成された切り歯部とを有する母材に対し、前記胴部の側面と前記切り歯部の中間位置までの側面とに跨ってマスキングテープによりマスキングするマスキング工程と、
個槽の中に、マスキングした前記母材を前記切り歯部が上方になる縦姿勢で収容し、前記マスキングテープと前記切り歯部における前記中間位置よりも根元側の端面とで囲まれた空間に球状粒子を投入して前記空間を満たす球状粒子群を形成する粒子投入工程と、
前記粒子投入工程よりも後に、前記個槽の中に砥粒を投入し、前記球状粒子群及び前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の表面を覆う砥粒群を形成する砥粒投入工程と、
前記砥粒投入工程よりも後の、前記母材を収容した前記個槽を、めっき液中に浸漬し、前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の部分に、前記砥粒が固着されためっき層を電着によって形成するめっき層形成工程と、
を含むことを特徴とする鋸工具の製造方法である。
2) 前記めっき層形成工程の後に実行する水洗工程をさらに含み、
前記球状粒子を、前記めっき層による保持力が前記砥粒よりも弱い球体として前記めっき層形成工程において形成した前記めっき層によって固着し、
前記水洗工程において、前記めっき層によって固着された砥粒を残し、前記中間位置よりも根元側の前記端面において前記めっき層によって固着された前記球状粒子を離脱させることを特徴とする1)に記載の鋸工具の製造方法である。
3) 前記球状粒子として、平均粒径が前記砥粒の平均粒径とほぼ同じものを用い、前記めっき層の厚さを、前記砥粒の平均粒径の約半分とすることを特徴とする1)又は2)に記載の鋸工具の製造方法である。
4) 前記めっき層形成工程の後に実行する水洗工程をさらに含み、
前記めっき層形成工程において、
前記めっき層を、前記水洗工程で前記めっき層により固着された砥粒を離脱させず、かつ前記中間位置よりも根元側の前記端面において前記めっき層により固着された前記球状粒子を埋没する厚さで形成することを特徴とする1)に記載の鋸工具の製造方法。
5) 前記球状粒子として、平均粒径が、前記砥粒の平均粒径の半分未満のものを用い、前記めっき層の厚さを、前記砥粒の平均粒径の約半分とすることを特徴とする1)又は4)に記載の鋸工具の製造方法である。
6) 胴部と前記胴部の一縁側に形成された切り歯部とを有する母材に対し、前記胴部の側面と前記切り歯部の中間位置までの部位とに跨ってマスキングテープによりマスキングするマスキング工程と、
個槽の中に、マスキングした前記母材を前記切り歯部が上方になる縦姿勢で収容し、前記マスキングテープと前記切り歯部における前記中間位置よりも根元側の端面とで囲まれた空間に絶縁粉体を投入して前記空間を満たす絶縁粉体群を形成する粉体投入工程と、
前記粉体投入工程よりも後に、前記個槽の中に砥粒を投入し、前記絶縁粉体群及び前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の表面を覆う砥粒群を形成する砥粒投入工程と、
前記砥粒投入工程よりも後の、前記母材を収容した前記個槽を、めっき液中に浸漬し、前記切り歯部における前記中間位置よりも先端側の部分に、前記砥粒が固着されためっき層を電着によって形成するめっき層形成工程と、
を含むことを特徴とする鋸工具の製造方法である。
7) 前記めっき層形成工程の後に実行する、前記絶縁粉体群を除去する水洗工程をさらに含むことを特徴とする6)に記載の鋸工具の製造方法である。
) 胴部と、
前記胴部の一縁側に形成された切り歯部と、
前記切り歯部の高さ方向の中間の所定位置よりも先端側に形成された砥粒固着部と、
を備え、
前記切り歯部における前記所定位置よりも根元側の端面に砥粒が固着されてなく、前記端面に、表面に複数の球面状の凹部を有するめっき層が形成されていることを特徴とする鋸工具である。
) 胴部と、
前記胴部の一縁側に形成された切り歯部と、
前記切り歯部の高さ方向の中間の所定位置よりも先端側に形成された砥粒固着部と、
を備え、
前記切り歯部における前記所定位置よりも根元側の端面に砥粒が固着されてなく、前記端面に、整列した複数の球状粒子及び前記複数の球状粒子を埋没するめっき層が形成されていることを特徴とする鋸工具である
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、砥粒の消費量が少ない、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る鋸工具の実施例である砥粒鋸刃53を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は(b)におけるS1c-S1c位置での断面図、(d)は(b)におけるS1d-S1d位置での断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る鋸工具の製造方法の実施例で用いる電気メッキ装置1を示す概略図である。
図3図3は、砥粒鋸刃53の製造過程におけるマスキングテープ6によるマスキング処理を説明するための側面図である。
図4図4は、図3におけるS4-S4位置での断面図である。
図5図5は、マスキング処理を施した母材530を収めた電気メッキ装置1の個槽16に球状粒子21を投入する球状粒子投入工程を説明するための断面図である。
図6図6は、球状粒子投入工程後の母材530における切り歯部534付近を示す部分斜視図である。
図7図7は、球状粒子投入工程後の個槽16の状態を示す断面図である。
図8図8は、球状粒子投入工程後の個槽16に砥粒を投入する砥粒投入工程を説明するための断面図である。
図9図9は、砥粒投入工程後の電着によって母材530に形成された球状粒子層21S及び砥粒層22Sを示す、図1におけるA1部に対応する縦断面図である。
図10図10は、電着工程後の水洗工程における球状粒子21の離脱を説明するための、図1におけるA1部に対応する縦断面図である。
図11図11は、砥粒鋸刃53の変形例1である砥粒鋸刃53Aを示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は(b)におけるS11c-S11c位置での断面図、(d)は(b)におけるS11d-S11d位置での断面図である。
図12図12は、図11におけるA2部の縦断面図である。
図13図13は、鋸工具53,53Aの切断加工時の撓みを説明するための模式図である。
図14図14は、砥粒鋸刃53の変形例2である砥粒鋸刃53Bの製造工程で用いる個槽16Aを示す側面図である。
図15図15は、砥粒鋸刃53Bの製造工程において、個槽16Aに絶縁粉体25及び砥粒22を投入した状態を示す断面図である。
図16図16は、砥粒鋸刃53Bを示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は(b)におけるS16c-S16c位置での断面図、(d)は(b)におけるS16d-S16d位置での断面図である。
図17図17は、図16におけるA3部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例)
本発明の実施の形態に係る鋸工具の実施例を、図1に示される砥粒鋸刃53により説明する。
図1おいて、(a)は砥粒鋸刃53の上面図、(b)は側面図、(c)は(b)におけるS1c-S1c位置での断面図、d)は(b)におけるS1d-S1d位置での断面図である。
砥粒鋸刃53は、歯切りタイプの鋸工具であって、切り歯部534に砥粒固着部532を有する。
【0010】
図1に示されるように、砥粒鋸刃53の母材530は、帯状の胴部531と胴部531の幅方向の一方の縁部に形成された切り歯部534とを有する。切り歯部534は、胴部531の長手方向に繰り返し形成されている。母材530の素材は、例えば、普通鋼よりも高強度の工具鋼やばね鋼などであり、ここでは、普通鋼よりも優れた靱性を有するばね鋼とする。
位置P1は、胴部531の切り歯部534が形成されていない縁部530aを基準とする幅方向の位置として規定されている。位置P1は、切り歯部534における幅方向(歯の高さ方向)の中間に位置する。
【0011】
すなわち、砥粒鋸刃53は、母材530と砥粒固着部532とめっき層23とを有する。
砥粒固着部532は、切り歯部534における位置P1よりも先端側の表面に切り歯部534を覆うように形成されている。めっき層23は、切り歯部534における位置P1よりも根元側の端面534aに形成されている。
【0012】
詳しくは、砥粒固着部532は、砥粒22(図9参照)が、切り歯部534に、母材530の幅方向及び厚さ方向に突出して固着している部分である。
めっき層23は、切り歯部534における高さ位置P1よりも根元側の、歯底部533を含む範囲の上方端面に形成されており、根元側の範囲の側面には形成されていない。
砥粒固着部532及びめっき層23は、マスキング工程,電着工程,及び水洗工程を経て母材530に形成されている。
【0013】
次に、母材530に砥粒固着部532を形成して砥粒鋸刃53を製造する鋸工具の製造方法を詳述する。
【0014】
まず、図2を参照して、電着工程で用いる電気めっき装置1を説明する。
電気めっき装置1は、めっき用電源11,めっき槽12,電極14,攪拌装置15,及び個槽16を備えている。
【0015】
めっき槽12には、めっき液13が収容される。電極14及び攪拌装置15は、めっき槽12にめっき液13が必要量だけ収容された状態で、めっき液13に浸漬するように配置される。図2は、電極14及び攪拌装置15がそれぞれ一対配置された例を示している。
【0016】
個槽16は、めっき槽12に設けられた不図示の個槽支持具により、めっき液13に浸漬されるように支持されている。
個槽16は、上部が開放された籠であって、母材530を完全に収容できるように母材530の形状に合わせて形成されている。
個槽16は、不図示の枠体と、枠体間に張られ、めっき液を自由に流通し母材530に固着する砥粒22を通過不能とする目開きのメッシュ16aと、を有する。
【0017】
電気めっき装置1において、一対の電極14,14は陽電極としてめっき用電源11に接続される。攪拌装置15は、モータ15aを備え、モータ15aの動作によってめっき槽12に収容されためっき液13を攪拌する。
【0018】
個槽16には、あらかじめ、後述するマスキング処理が施された母材530と球状粒子群21G及び砥粒群22Gとを収容して、個槽16を含む個槽体WT(図8参照:詳細後述)を構成しておく。そして、個槽体WTをめっき液13中に浸漬した状態で母材530を陰電極として電着を行う。
【0019】
図3及び図4は、母材530に対しマスキング処理をした状態を示している。
図3は母材530の側面図であり、図4は、図3におけるS4-S4位置での断面図である。
母材530において、切り歯部534が形成された一縁側とは反対側の、切り歯部534が形成されていない側の縁部530aから所定距離隔てた幅方向の所定位置を位置P1とする。すなわち、切り歯部534の高さ方向の中間位置に位置P1を、砥粒固着部532の根元側の端部位置として設定する。
そして、縁部530aの端面及び胴部531の側面と切り歯部534の位置P1までの側面とに跨る両側面範囲を、マスキングテープ6を貼り付けて覆うマスキング処理を施す。マスキングテープ6は、市販のめっき用マスキングテープであり、厚さ0.1mmである。
【0020】
図4に示されるように、貼り付けたマスキングテープ6の切り歯部534側の端部は、切り歯部534の高さ方向の中間の位置P1にある。そのため、切り歯部534における位置P1より低い部分の端面534aと、母材530の両側面に貼られたマスキングテープ6との間に略弓形柱状の空間Vaが形成される。
母材530においてマスキングテープ6が貼られた部分は、めっきが付着しないので、めっきに固着する砥粒も付着しない。
母材530においてマスキングテープ6が貼られていない部分には、後の電着工程で形成するめっき層の密着性向上のため、下地めっきをあらかじめ形成しておいてもよい。
母材530は、適宜位置にめっき用電源と接続する給電線の接点を設けておく。
【0021】
次に、電気めっき装置1を用い、母材530に砥粒固着部532を形成する実施例の鋸工具の製造方法における電着の手順を説明する。
まず、電着の準備作業を説明する。
【0022】
めっき液13は、スルファミン酸浴のめっき液とし、例えば、スルファミン酸ニッケル400(g/L)、塩化ニッケル0~30(g/L)、ホウ酸30~40(g/L)を含みpH3.5~4.5に調整したものを使用する。
電着作業中は、不図示のヒータによりめっき槽12の温度制御を行い、めっき液13を温度50(℃)で維持しておく。めっき液13は、温度のばらつきができるだけ小さくなるように攪拌装置15で攪拌しておく。
【0023】
個槽16に投入する粒子として、球状粒子21及び砥粒22を用意する。
まず、砥粒22は、粒度60/80(中央粒径226μm)のダイヤモンド粒子とし、球状粒子21は、球状のジルコンビーズで粒度60/80相当のものを用いる。球状粒子21は、砥粒22と平均粒径がほぼ同じものを使用する。ほぼ同じとは、球状粒子21の中央粒径が、砥粒の中央粒径に対し±20%の範囲内にあるものを意味する。なお、中央粒径とは、JISB 4130に記載の粒度分布において使用する4枚のふるいの目開きの中央値とする。
【0024】
上記準備後、電着作業を開始する。電着作業において電着の前に(粒子投入工程)及び(砥粒投入工程)を実行する。
(粒子投入工程)
図5に示されるように、まず、個槽16の内部に、マスキング処理をした母材530を、切り歯部534が上方となる縦姿勢で入れる。次いで、球状粒子21を上方から球状粒子投入具JAなどにより個槽16の内部に投入する。
詳しくは、図6に示されるように、空間Va内に球状粒子21を投入して空間Vaを満たす球状粒子群21G2を形成する。空間Vaに入らずに下へ落下した球状粒子21は、図5に示されるように、球状粒子群21G1として個槽16とマスキングテープ6付きの母材530との隙間に下方から溜まってゆく。
球状粒子21を継続して投入し、球状粒子群21G2の上端が位置P1よりも少し下方の位置P2に達するようにする(図7参照)。
【0025】
(砥粒投入工程)
球状粒子群21G2が位置P2まで溜まったら、図8に示されるように、砥粒22を、砥粒投入具JBなどにより上方から個槽16の内部に投入する。
詳しくは、砥粒22を投入して、球状粒子群21G1及び球状粒子群21G2の上に重なる砥粒群22Gを形成する。砥粒群22Gの上端は、切り歯部534の上端よりも上方にある。
砥粒群22Gの投入を終え、球状粒子群21G1,21G2及び砥粒群22Gが所定の厚さの層として形成された個槽16の全体を、以下、個槽体WTと称する。
【0026】
図2に示されるように、球状粒子群21G1,21G2及び砥粒群22Gを所定の厚さの層として形成した個槽体WTを、めっき槽12に収容されているめっき液13の液中に完全に浸漬する。そして、めっき用電源11と母材530とを電気接続する。
個槽16は、めっき液は通過可能で球状粒子21及び砥粒22が通過不能なメッシュ16aで形成されている。そのため、球状粒子群21G1,21G2及び砥粒群22Gの隙間にめっき液は浸透する。
この状態で、電極14を陽極、母材530を陰極として両極間に所定の電圧を印加し、めっき層形成工程である電着を行う。
【0027】
図9に示されるように、この電着で、母材530におけるマスキングテープ6を貼っていない部分に、砥粒22の平均粒径の約半分の厚さのめっき層23を形成する。約半分とは、砥粒22の中央粒径に対し35%~65%の厚さを意味する。
マスキングテープ6を貼っていないためにめっき層23が形成される部分は、切り歯部534における位置P1よりも先端側の外面と、位置P1より根元側の空間Vaに面する端面534aである。
【0028】
めっき層23が形成された部分において、切り歯部534における位置P1よりも先端側の外面には、めっき層23により砥粒22が整列して固着されて一層分の砥粒層22Sが形成される。一方、端面534aには、形成されためっき層23によって端面上に球状粒子21が整列して固着される。球状粒子21の粒径は砥粒22の粒径とほぼ同じものを用いているので、砥粒22の粒径の約半分に設定しためっき層23の厚さに対応して、1層の球状粒子層21Sが形成される。
【0029】
次いで、めっき層23を形成した母材530を個槽16から取り出して水洗工程を実行する。
水洗工程は、マスキングテープ6を剥がし、母材530の全表面を流体の液流の圧力によって洗う工程である。これにより、母材530に付着した塵埃、偶発的に固着された2列目以上の不要な砥粒22、及び球状粒子21を除去する。水は流体の一例であり、水以外の流体も使用可能であるが、以下、この工程を便宜的に水洗工程と称する。
【0030】
砥粒22は、滑らかな表面の球体ではなく表面に凹凸があることから、めっき層23に埋もれている約半分の部分がめっき層23にからまってしっかり保持されている。そのため、水洗工程では、水の勢いで流されることはなく砥粒層22Sはめっき層23と共に母材530上に残る。
一方、球状粒子21は、砥粒22と同様にめっき層23に約半分の部分が埋もれているものの、滑らかな表面の球体であるため、めっき層23による保持力は弱い。そのため、めっき層23に保持された球状粒子21は、水の勢いでめっき層23から離脱する(図10参照)。
【0031】
これにより、水洗工程を経て、母材530の端面534aには、球状粒子21が離脱した球面状の凹部23aが整列形成されためっき層23が残存するのみとなる。もちろん、端面534aに砥粒22は固着されていない。
すなわち、実施例の鋸工具の製造方法によれば、マスキングテープ6の貼り付けのみでは阻止できなかった端面534aへの砥粒22の固着を阻止して、砥粒の消費量を少なくできる。
【0032】
端面534aに形成されためっき層の表面が平坦な場合、そのめっき層の形成で内部応力が生じた場合に応力が開放されにくい。そのため、生じた内部応力は、めっき層の形成後も残留応力として残って砥粒鋸刃の疲労強度を低下させるように作用することも想定される。
これに対し、実施例の鋸工具の製造方法によれば、砥粒鋸刃53の端面534aに形成されるめっき層23には、球状粒子21が離脱した凹部23aが整列形成される。そのため、めっき層23は、表面が平坦な場合と異なり、内部応力を開放する微少変形が容易である。従って、めっき層23には残留応力が生じにくく、めっき層23の残留応力が砥粒鋸刃53の疲労強度に影響が及ぶ可能性は極めて小さい。
【0033】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0034】
(変形例1)
実施例で用いた球状粒子21の替わりに、図12に示される球状微粒子24を用いて図11に示される変形例1の砥粒鋸刃53Aを製造してもよい。図12は、図11におけるA2部の縦断面図である。
砥粒鋸刃53Aは、例えば、高硬度脆性材料を切断する砥粒帯鋸刃に適用できる。図11に示されるように、砥粒鋸刃53Aは、端面534aに微粒子層24Sが形成されている。
【0035】
変形例1では、球状粒子21を球状微粒子24に置き換えて、実施例と同じ手順で電着を行う。形成するめっき層23の厚さも砥粒22の粒径の約半分の厚さとする。
【0036】
図11において、砥粒鋸刃53Aは、切り歯部534において、位置P1より先端側の部分には、砥粒鋸刃53と同様の砥粒層22Sが形成されている。
一方、位置P1よりも根元側は、端面534aにおいて球状微粒子24が整列して敷き詰められ、球状微粒子24を完全に覆うようにめっき層23が形成されている。
球状微粒子24は、電着で形成するめっき層23の厚さよりも十分小さいので完全にめっき層23内に埋没しており、水洗工程で離脱しない。
すなわち、砥粒鋸刃53Aの端面534aに形成される微粒子層24Sは、端面534aにほぼ隙間無く整列した複数の球状微粒子24の1層と、その複数の球状微粒子24を完全に覆うめっき層23とを含んで形成されている。
【0037】
球状微粒子24は、母材530及びめっき層23のヤング率よりも高いヤング率を有する材料によって形成された、砥粒22によりも小さい粒径の粒子とする。
例えば、球状微粒子24の平均粒径を、砥粒22の平均粒径の半分未満とする。具体例として、球状微粒子24は、ジルコンビーズで、粒度200/230(平均粒径74μm)のものとする。この場合、球状微粒子24は、平均粒径が砥粒22の平均粒径の約30%程度である。
【0038】
ジルコンビーズのヤング率は約330(GPa)であり、母材530の材質例としてのばね鋼のヤング率は約206(GPa)である。また、電気めっきによるめっき層23を形成するニッケルのヤング率は約200(GPa)である。
すなわち、めっき層23のヤング率は母材530のヤング率よりもわずかに低く、ジルコンビーズのヤング率は母材530よりも顕著に高い。
そのため、砥粒鋸刃53Aは、ジルコンビーズによる微粒子層24Sが形成されていることにより、切り歯部534の歯のピッチを狭めるように長手を湾曲させる力が付与されたときの変形量を抑制することができる。
これについて図13を参照して説明する。
【0039】
図13は、角柱状のワークWを、矢印DRa方向に循環走行する帯鋸とされた砥粒鋸刃53,53Aによって上方から下方に向け付勢力DRbを付与して切断中の状態を示す模式図である。
図13では、砥粒鋸刃53の外形を実線で示し、砥粒鋸刃53Aの外形を鎖線で示し、切断中のワークWの左右方向中央の位置P3を両方の鋸刃で一致させ、切削抵抗により生じる湾曲の変形度合いを誇張して示している。
【0040】
砥粒鋸刃53,53Aについて、ワークWの位置P3に対する左右端部における変形量をそれぞれ距離H53,H53Aとすると、距離H53Aは距離H53よりも小さくなる。すなわち、砥粒鋸刃53Aの方が、砥粒鋸刃53よりも、ワークWの切断中の湾曲変形が小さい。
これは、砥粒鋸刃53Aが、切り歯部534の隣接する歯の間の端面534aに、母材530よりも高いヤング率のジルコンビーズである球状微粒子24が敷き詰められ実質的にジルコン層が形成されていることによる。切削抵抗に伴い歯間ピッチを小さくしようとする湾曲変形が、ジルコン層が変形しにくいことによって抑制されることによる。
また、砥粒鋸刃53Aは、微粒子層24Sに含まれるめっき層23が仮に残留応力を有していても、湾曲変形が抑制されることでの効果が勝り、高い疲労強度を有する。
【0041】
(変形例2)
実施例で用いた球状粒子21の替わりに絶縁粉体25を用いると共に、図14に示される個槽16の替わりに個槽16A)を用いて、図16に示される変形例2の砥粒鋸刃53B(図16)を製造してもよい。砥粒鋸刃53Bは、例えば、高硬度脆性材料を切断する砥粒帯鋸刃に適用できる。
【0042】
絶縁粉体25は、例えば、粒径が40μm以下のエポキシ樹脂粉である。絶縁粉体25は、メッシュ16aを通過するので、個槽16の替わりに図14及び図15に示される個槽16Aを用いる。図15は、実施例で説明した図8と対比可能な図であり、電着する状態の個槽体WT2としての状態を示す縦断面図である。
【0043】
個槽16Aは、少なくとも、薄板で形成された板材部16Aaと、板材部16Aaの上方に連結形成され砥粒22が通過不能のメッシュ部16Abと、から形成されている。
【0044】
個槽体WT2は、粉体投入工程において、個槽体WTに対し、個槽16を個槽16Aに置き換えると共に、球状粒子群21G1,21G2の替わりに絶縁粉体群25G1,25G2を形成したものである。
この内、絶縁粉体群25G2は、切り歯部534における位置P1よりも根元側の部分の端面534aと、母材530の両側面に貼られたマスキングテープ6との間に略弓形柱状の空間Vaに溜まった絶縁粉体25の集合である。
【0045】
絶縁粉体群25G2において、隣接する絶縁粉体25同士間の隙間は極めてわずかである。さらに、絶縁粉体群25G2の上に積層される砥粒群22Gの重さによって、絶縁粉体群25G2は圧縮され隙間はより少なくなりわずかに残る隙間もさらに狭くなる。
そのため、個槽体WT2をめっき液13に浸漬した状態で、めっき液13がメッシュ部16Ab及び砥粒群22G内を通過して絶縁粉体群25G2に到達しても、絶縁粉体群25G2内には実質的に進入できない。
【0046】
これにより、電着を行った際に、絶縁粉体群25G2に接した端面534aにはめっき層が形成されない。
すなわち、図16におけるA3部の縦断面図である図17に示されるように、変形例2の砥粒鋸刃53Bは、位置P1よりも根元側の端面534aにめっき層は形成されず、固着する粒子もない。
電着後、水洗をすることで、余分な砥粒22及び絶縁粉体25は除去され、端面534aが露出する。
【0047】
砥粒群22Gを形成した後、電着前に、砥粒群22Gに対し上方から下方への圧縮力を付与する、衝撃を付与する、などして、絶縁粉体群25G2をより高密度化してもよい。
これにより、めっき液13の絶縁粉体群25G2内への進入をより確実に防止できる。
【0048】
上述のように、変形例2の砥粒鋸刃53Bの製造方法は、端面534aへの砥粒22の固着を防止して砥粒22の消費量を抑制するのみならず、端面534aへのめっき層23の形成を阻止してめっき液の消耗を抑制し、コストダウンを図ることができる。
また、端面534aにめっき層23が形成されていないので、めっき層23の残留応力による砥粒鋸刃の疲労強度への影響は、実質的に無視できる。
【0049】
上述の実施例、並びに、変形例1及び変形例2は、さらに別の態様に変形してよい。
砥粒22の材質はダイヤモンド砥粒に限定されない。砥粒22の材質は、CBN(立方晶窒化ホウ素)或いは酸化アルミニウムであってもよい。球状粒子21,球状微粒子24,及び絶縁粉体25の材質も限定されない。
【0050】
砥粒群22Gにおける砥粒22は、1層に形成されているものに限定されない。めっき層23の厚みを大きくして2層以上に形成してもよい。
【0051】
鋸工具は、上述の帯状の砥粒鋸刃53,53A,53Bに限定されない。胴部531は帯状ではなく円盤状であってもよい。鋸工具は、押し又は引きの動作で被加工部材を削る砥粒固着部532を有する工具であれば、全体の外形形状は限定されない。
【0052】
実施例では、砥粒22は表面が凹凸により滑らかではなく球状粒子21は表面が滑らかであることによる、めっき層23との固着度合いの違いを利用して、水洗工程における球状粒子21のみの離脱を行っている。
換言するならば、球状粒子21の粒径によらず、形成するめっき層23の厚さを、水洗工程で砥粒22がめっき層23に対し残留し球状粒子21のみがめっき層23から離脱するように制御してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 電気めっき装置
11 めっき用電源
12 めっき槽
13 めっき液
14 電極(陽電極)
15 攪拌装置
15a モータ
16,16A 個槽
16a メッシュ
16Aa 板材部
16Ab メッシュ部
21 球状粒子
21G,21G1,21G2 球状粒子群
21S 球状粒子層
22 砥粒
22G 砥粒群
22S 砥粒層
23 めっき層
23a 凹部
24 球状微粒子
24S 微粒子層
25 絶縁粉体
25G1,25G2 絶縁粉体群
53,53A,53B (歯切りタイプの)砥粒鋸刃
530 母材(陰電極)
530a 縁部
531 胴部
532 砥粒固着部
533 歯底部
534 切り歯部
534a 端面
6 マスキングテープ
H53,H53A 距離
JA 球状粒子投入具
JB 砥粒投入具
P1,P2,P3 位置
Va 空間
W ワーク
WT,WT2 個槽体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17