(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220812BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2018245370
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆志
(72)【発明者】
【氏名】村上 美佳
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-034435(JP,A)
【文献】特開2018-169324(JP,A)
【文献】特開2007-139749(JP,A)
【文献】特開2000-028576(JP,A)
【文献】特開2009-236833(JP,A)
【文献】特開2012-168030(JP,A)
【文献】特開2013-234896(JP,A)
【文献】特開2016-188853(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0285838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに備わるセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、一方端部にガス導入口を備える長尺板状のセラミックス体と、
前記セラミックス体の内部に備わり、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの内部空室と、
前記セラミックス体の外面に形成された外側ポンプ電極と、前記少なくとも1つの内部空室に面して設けられた内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と前
記内側ポンプ電極の間に存在する固体電解質からなり、前記少なくとも1つの内部空室と外部との間で酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、
前記セラミックス体の前記一方端部側の所定範囲に埋設されてなるヒータと、
を有する素子基体と、
前記素子基体の前記一方端部側の所定範囲において先端面と4つの側面とを被覆する、多孔質の先端保護層と、
を備え、
前記先端保護層が、前記ガス導入口に延在する延在部を有してなり、
前記延在部が、前記ガス導入口を区画する前記セラミックス体の内壁面と固着してなり、
前記先端保護層のうち前記延在部に連続する部分の表面によって区画されてなる、前記ガス導入口と連通する空隙が、前記先端保護層内に形成されてなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
前記センサ素子の長手方向における前記空隙の延在距離をL1とし、前記センサ素子の前記一方端部側における前記先端保護層の厚みをL2とするとき、
0.15≦L1/L2≦0.8
である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセンサ素子であって、
前記セラミックス体の前記一方端部の位置における前記空隙の素子厚み方向におけるサイズをt1とし、前記ガス導入口の前記素子厚み方向における開口高さをt2としたとき、
0.1≦t1/t2≦0.7
である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記セラミックス体の先端面から前記ガス導入口の最奥部までの距離をL3とし、前記センサ素子の長手方向における、前記先端面からの前記延在部の形成範囲をL4とするとき、
100μm≦L3≦500μm、
かつ、
0.08≦L4/L3≦0.75
である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに関し、特に、ガスセンサに備わるセンサ素子の先端部の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定ガス中の所望ガス成分の濃度を知るためのガスセンサとして、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、表面や内部にいくつかの電極を備えるセンサ素子を有するものが、広く知られている。係るガスセンサは主として、エンジンなどの内燃機関の排気管に取り付けられ、該内燃機関からの排ガスに含まれる所定ガス成分の検知や、さらには当該ガス成分の濃度測定に用いられる。
【0003】
そのようなセンサ素子として、被測定ガスを導入するガス導入口が備わる側の端部に、多孔質体からなる保護層(多孔質保護層)が設けられるものが公知である(例えば、特許文献1ないし特許文献3参照)。
【0004】
多孔質保護層は、内燃機関からの排ガスにガス成分ともども含まれる、被毒物質と総称されるマグネシウム、亜鉛、リン、シリコン、鉛、硫黄その他の微粒子をトラップする目的や、排ガス中の水蒸気が凝縮した水滴がガスセンサ素子に付着することにより、ガスセンサ素子にクラックが生じるいわゆる被水割れを防止する目的で、設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-234896号公報
【文献】特許第5530950号公報
【文献】特開2016-188853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガスセンサが上述した用途で使用される場合、センサ素子は、内燃機関使用時の昇温と停止時の冷却の繰り返しによる熱衝撃を頻繁に受けることになる。ガスセンサを長期的に安定して動作させるためには、多孔質保護層を、そのような繰り返しの熱衝撃を受けたとしても剥離さらには脱離が生じないように、設ける必要がある。
【0007】
ガスセンサを長期的に使用する途中で、このような剥離さらには脱離が生じた場合、製品設計時の想定を超えて被測定ガスの導入経路が増大し、被測定ガスに作用する拡散抵抗が小さくなってしまい、結果としてセンサ素子からの出力が所定値よりも増大してしまうことになり、好ましくない。
【0008】
また、内燃機関からの排ガスには、ガス成分のみならず、被毒物質と総称されるマグネシウム、亜鉛、リン、シリコン、鉛、硫黄その他の微粒子なども含まれているが、ガスセンサを継続的に使用すると、係る被毒物質の付着が進んで多孔質保護層に目詰まりが生じてしまい、結果として、ガスセンサの性能が劣化してしまうという問題もある。
【0009】
特許文献1および特許文献2には、多孔質の拡散律速部あるいは拡散抵抗層をガス導入部とするとともに、該ガス導入部に隣接する部分を空間とする態様にて先端部に多孔質保護層を設けたガスセンサ素子が、開示されている。
【0010】
また、特許文献3には、先端部に設けたスリット状の拡散律速部をガス導入口とするとともに、先端面に隣接させる態様にて多孔質保護層を設けたガスセンサ素子が、開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1ないし特許文献3のいずれにも、先端面に向けて開口するガス導入口を備えるセンサ素子において、該ガス導入口に対する多孔質保護層の密着性を積極的に確保するとともに、ガスセンサの性能に対する多孔質保護層の目詰まりの影響を低減したガスセンサは、開示も示唆もなされてはいない。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、先端面側における、多孔質の先端保護層と素子基体との密着性が好適に確保されてなるとともに、多孔質保護層の目詰まりに起因する性能劣化が好適に抑制されてなる、ガスセンサのセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに備わるセンサ素子であって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、一方端部にガス導入口を備える長尺板状のセラミックス体と、前記セラミックス体の内部に備わり、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの内部空室と、前記セラミックス体の外面に形成された外側ポンプ電極と、前記少なくとも1つの内部空室に面して設けられた内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と前記内側ポンプ電極の間に存在する固体電解質からなり、前記少なくとも1つの内部空室と外部との間で酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、前記セラミックス体の前記一方端部側の所定範囲に埋設されてなるヒータと、を有する素子基体と、前記素子基体の前記一方端部側の所定範囲において先端面と4つの側面とを被覆する、多孔質の先端保護層と、を備え、前記先端保護層が、前記ガス導入口に延在する延在部を有してなり、前記延在部が、前記ガス導入口を区画する前記セラミックス体の内壁面と固着してなり、前記先端保護層のうち前記延在部に連続する部分の表面によって区画されてなる、前記ガス導入口と連通する空隙が、前記先端保護層内に形成されてなる、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るセンサ素子であって、前記センサ素子の長手方向における前記空隙の延在距離をL1とし、前記センサ素子の前記一方端部側における前記先端保護層の厚みをL2とするとき、0.15≦L1/L2≦0.8である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るセンサ素子であって、前記セラミックス体の前記一方端部の位置における前記空隙の素子厚み方向におけるサイズをt1とし、前記ガス導入口の前記素子厚み方向における開口高さをt2としたとき、0.1≦t1/t2≦0.7である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記セラミックス体の先端面から前記ガス導入口の最奥部までの距離をL3とし、前記センサ素子の長手方向における、前記先端面からの前記延在部の形成範囲をL4とするとき、100μm≦L3≦500μm、かつ、0.08≦L4/L3≦0.75である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1ないし第4の態様によれば、熱衝撃の印加に起因した多孔質の先端保護層の素子先端面側における剥離さらには脱離が好適に抑制されてなり、先端保護層と素子基体との密着性が好適に確保されてなるとともに、被毒物質による先端保護層の目詰まりに起因する感度低下についても好適に抑制されたセンサ素子を、実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】センサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。
【
図2】センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
【
図3】センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である。
【
図4】ガス導入口105の先端面101e側における各部のサイズを説明するための図である。
【
図5】センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【
図6】プラズマ溶射による先端保護層2の形成について概略的に示す図である。
【
図7】センサ素子10が緩衝層180を有する場合のガスセンサ100の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<センサ素子およびガスセンサの概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るセンサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。また、
図2は、センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。センサ素子10は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知し、その濃度を測定するガスセンサ100の主たる構成要素である。センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。
【0020】
ガスセンサ100は、センサ素子10のほか、ポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とを主として備える。
【0021】
図1に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体1の一方端部側が、多孔質の先端保護層2にて被覆された構成を有する。
【0022】
素子基体1は概略、
図2に示すように、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170を備え、さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層2が設けられてなる。なお、以降においては、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の長手方向における両端面を除く4つの側面を単に、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の側面と称する。
【0023】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。また、係るセラミックス体101の外部および内部には、センサ素子10の種々の構成要素が設けられてなる。係る構成を有するセラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。なお、
図2に示すセンサ素子10の構成はあくまで例示であって、センサ素子10の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0024】
図2に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の一方端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層2を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0025】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0026】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の他方端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0027】
例えば、係るセンサ素子10の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0028】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0029】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0030】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0031】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0032】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0033】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0034】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の
図2における図面視下方側において、一方端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。より詳細には、ヒータ150はその周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0035】
ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体である。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。
【0036】
本実施の形態に係るセンサ素子10はその使用時、ヒータ150によって、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。さらには、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでのガス流通部全体が500℃以上となるように、加熱される場合もある。これらは、各ポンプセルを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高め、各ポンプセルの能力が好適に発揮されるようにするためである。係る場合、最も高温となる第一の内部空室102付近の温度は、700℃~800℃程度となる。
【0037】
以降においては、セラミックス体101の2つの主面のうち、
図2において図面視上方側に位置する、主に主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をポンプ面と称し、
図2において図面視下方に位置する、ヒータ150が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をヒータ面と称することがある。換言すれば、ポンプ面は、ヒータ150よりもガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルに近接する側の主面であり、ヒータ面はガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルよりもヒータ150に近接する側の主面である。
【0038】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の他方端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。よって、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
【0039】
さらに、センサ素子10においては、セラミックス体101のポンプ面およびヒータ面に、上述した主面保護層170(170a、170b)が備わっている。主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の主面(ポンプ面およびヒータ面)や、ポンプ面側に備わる外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、ポンプ面側の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0040】
なお、本実施の形態において、気孔率は、評価対象物のSEM(走査電子顕微鏡)像に対し公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで求めるものとする。
【0041】
図2においては、電極端子160の一部を露出させるほかはポンプ面およびヒータ面の略全面にわたって主面保護層170が設けられてなるが、これはあくまで例示であり、
図2に示す場合よりも、主面保護層170は、一方端部E1側の外部ポンプ電極141近傍に偏在させて設けられてもよい。
【0042】
<先端保護層の詳細>
センサ素子10においては、上述のような構成を有する素子基体1の一方端部E1側から所定範囲の最外周部に、純度99.0%以上のアルミナからなる多孔質層である先端保護層2が設けられてなる。
【0043】
以下においては、先端保護層2のうち、セラミックス体101の先端面101eとの接触部分を端面部201と称し、主面保護層170が設けられた2つの主面(ポンプ面、ヒータ面)を含む4つの側面との接触部分を側面部202と称する。
【0044】
先端保護層2を設けるのは、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を得るためである。先端保護層2を設けることで、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体1にクラック(被水割れ)が生じることが、抑制される。また、先端保護層2には、異物や被毒物質をトラップして素子基体1内部に入り込むことを防ぐ役割もある。
【0045】
なお、先端保護層2はあくまで多孔質層であるので、その存在に関わらず、ガス導入口105と外部との間における気体の流出入は絶えず起こっている。すなわち、ガス導入口105からの素子基体1(セラミックス体101)の内部への被測定ガスの導入は、被毒物質による目詰まりが顕著に生じない限りは、基本的には問題なく行われる。
【0046】
先端保護層2は、150μm以上600μm以下の厚みに形成されるのが好ましい。先端保護層2の厚みを150μm未満とするのは、先端保護層2自体の強度が低下するために、熱衝撃に対する耐性が小さくなり耐被水性が低下するほか、振動その他の要因で作用する衝撃に対する耐性も低下するために、好ましくない。一方、先端保護層2の厚みを600μm超とするのは、先端保護層2の熱容量が大きくなるためにヒータ150による加熱に際して消費電力が増大するという理由や、ガス拡散時間が大きくなってしまいセンサ素子10の応答性が悪くなるという理由から、好ましくない。
【0047】
なお、端面部201においては、センサ素子10の長手方向における、セラミックス体101の先端面101eから先端保護層2の最表面までの距離L2が、先端保護層2の厚みであるとする。
【0048】
また、先端保護層2の気孔率は、15%~40%であることが好ましい。係る場合、素子基体1との密着性、特に、先端保護層2の大部分が接触する主面保護層170との密着性が好適に確保される。先端保護層2の気孔率を15%未満とするのは、拡散抵抗が高くなり、センサ素子10の応答性が悪くなるため、好ましくない。一方、気孔率を40%超とするのは、素子基体1との密着性(具体的には先端面101eおよび主面保護層170との密着性)が低下して、先端保護層2の強度が確保されなくなるため好ましくない。
【0049】
なお、先端保護層2に存在する個々の気孔の気孔径は、概ねサブμmオーダー程度であり、最大でもせいぜい数μm程度である。
【0050】
図3および
図4は、ガス導入口105の近傍における先端保護層2の構成をより詳細に説明するための図である。
図3は、
図2において破線にて示す、センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図であり、
図4は、ガス導入口105の素子長手方向に垂直な断面における各部のサイズを説明するための図である。
【0051】
図2においては図示を簡略化していたが、
図3に示すように、センサ素子10においては、先端保護層2が、セラミックス体101の先端面101eと密着している端面部201からガス導入口105内へと延在する延在部201aを有する。延在部201aは、セラミックス体101においてガス導入口105を四方から区画している内壁面101fと固着してなる。ただし、
図3においては図示の都合上、対向する2つの内壁面101fに対する固着のみが示されている。
【0052】
ただし、先端保護層2(の端面部201)は、セラミックス体101の先端面101eよりも外側において、ガス導入口105の実質的な開口部分(延在部201aによって占有されていない部分)に連通する空隙(以下、連通空隙)gが形成されるように設けられてなる。換言すれば、先端保護層2は、ガス導入口105内の空間が先端面101eからセラミックス体101の外側にまで延在するように、設けられてなる。
【0053】
より詳細には、連通空隙gは、先端保護層2のうち延在部201aに連続する部分の表面201bにて区画されることによって、形成されてなる。
図3においては、素子厚み方向において対向する一対の表面201bを示している。なお、連通空隙gの先端部(先端面101eからの最遠位置)g1は面状であってもよいし、点状であってもよい。
【0054】
センサ素子10においては、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温となる部分を囲繞する先端保護層2に、上述した態様にて延在部201aを設けることで、素子基体1の端面をなしているセラミックス体101の先端面101eに対する先端保護層2の密着性が、従来よりも十分に確保されてなる。これにより、センサ素子10においては、長期的な使用のなかで昇温と冷却との繰り返しによる熱衝撃を頻繁に受けたとしても、先端保護層2が素子基体1の先端面側において剥離し、さらには脱離することが、好適に抑制されてなる。すなわち、センサ素子10は、長期的に使用を継続したとしても、先端保護層の剥離さらには脱離に起因した感度の変化が生じにくい、高い信頼性を有するものであるといえる。
【0055】
一方で、ガス導入口105においては、延在部201aに囲繞された部分における空間の断面サイズが、延在部201aのない部分における空間の断面のサイズよりも小さくなっている。被測定ガスは多孔質層である先端保護層2を通過して先端保護層2の気孔よりも十分に広いガス導入口105に到達し、さらにガス導入口105からセンサ素子10の内部へと導入されるところ、係る先端保護層2の一部を延在部201aとしてガス導入口105内にまで設けた結果として、ガス導入口105に至るまでの被測定ガスの通過経路が限定され、被測定ガスがガス導入口105内の空間(延在部201aの存在しない部分)に到達しづらくなっているようにも思料される。
【0056】
具体的には、被測定ガスがセンサ素子10の内部へと導入されるには必ず、延在部201aあるいは延在部201aによって囲繞された部分に到達する必要があることから、延在部201aにおいて被毒物質による目詰まりが生じると直ちに、被測定ガスの流入量の低下、ひいては、ガスセンサ100の検出感度の低下が、顕著に生じる可能性が高い。換言すれば、ガス導入口105内に延在部201aを設けることは一見、ガスセンサ100の検出感度の低下を生じさせるリスクを、高めてしまっているようにも解される。
【0057】
そこで、センサ素子10においては、先端面101eのところで先端保護層2によってガス導入口105を完全に塞ぐのではなく、ガス導入口105に連通する連通空隙gが形成されるよう、先端保護層2を設けることで、上述のようなリスクに対処している。換言すれば、連通空隙gを設けることによって、ガス導入口105の開口部分を実質的に先端保護層2の内部にまで延在させている。
【0058】
係る構成を採用することにより、被測定ガスは、必ずしも直接にガス導入口105にまで到達せずとも、その手前の連通空隙gにまで到達すれば、延在部201aを通過することなくセンサ素子10の内部へと導入されることになる。すなわち、センサ素子10においては、連通空隙gを設けることで、ガス導入口105の内部に先端保護層2の延在部201aを設けつつも、ガス導入口105に至るまでの被測定ガスの通過経路が好適に確保されてなる。
【0059】
しかも、連通空隙gをガス導入口105の一部とみなすと、連通空隙gを設けた場合の方が、連通空隙gを設けない場合に比して先端保護層2とガス導入口105とが接する部分の面積が大きいので、先端保護層2における被毒物質による目詰まりが被測定ガスの流入量さらにはガスセンサ100の検出感度に及ぼす影響は、相対的に小さい。このことは、連通空隙gを設けることによって、延在部201aを備えるにもかかわらず、ガスセンサ100においては検出感度の低下が好適に抑制されてなることを意味する。
【0060】
より詳細には、連通空隙gの先端部g1と先端面101eとの距離(連通空隙gの延在距離)をL1とし、端面部201における先端保護層2の厚みをL2(
図2参照)とし、先端面101eの位置における連通空隙gの素子厚み方向におけるサイズ(連通空隙高さ)をt1とし、ガス導入口105の素子厚み方向におけるサイズである開口高さをt2(
図4参照)としたとき、連通
空隙gは、
0.15≦L1/L2≦0.8;
0.1≦t1/t2≦0.7;
をみたすように設けられる。ここで、L1、t1、t2は、先端保護層2に存在する個々の気孔の気孔径(概ねサブμmオーダー程度であり最大でもせいぜい数μm)に比して十分に大きな数十μm程度の値となるように設けられる。このことは、連通空隙gと先端保護層2の個々の気孔とが、その存在形態のみならずサイズにおいても明確に区別されることを意味する。
【0061】
L1/L2<0.15の場合、あるいはt1/t2<0.1の場合、連通空隙gが幅狭あるいは短小となって、連通空隙gを設ける効果が好適に得られないため好ましくない。
【0062】
L1/L2>0.8とするのは、先端保護層2の端面部201の耐久性が低下するため、好ましくない。
【0063】
t1/t2>0.7とするのは、先端保護層2の延在部201aのガス導入口105の内壁面101fに対する密着性が低下するため、好ましくない。
【0064】
また、ガス導入口105は、セラミックス体101の先端面101eから最奥部(第一の拡散律速部110の開始部)までの距離L3が、100μm≦L3≦500μmをみたすように設けられる。
【0065】
L3<100μmとするのは、先端保護層2(特に延在部201a)の形成時に、飛散した先端保護層2の形成粒子が第一の拡散律速部110に入り込んでしまい、目詰まりを生じさせ、拡散抵抗を設計時の想定よりも高くしてしまうことが起こりやすくなるため、好ましくない。
【0066】
一方、L3>500μmとするのは、所定の素子サイズを維持するのであれば拡散律速部を短縮する必要が生じ、所望の拡散抵抗を実現するのが難しくなり、拡散律速部のサイズを確保するのであれば素子サイズが長尺化してしまうために、好ましくない。
【0067】
そして、延在部201aは、素子長手方向における、先端面101eからの延在部201aの形成範囲L4が距離L3の8%以上75%以下(0.08≦L4/L3≦0.75)となるように、換言すれば、ガス導入口105の内部における先端面側からの延在部201aの付着割合が8%以上75%以下となるように、形成される。
【0068】
L4/L3<0.08であるのは、延在部201aによる密着性確保の効果が十分に得られないため、好ましくない。
【0069】
一方、L4/L3>0.75とすると、延在部201aがスリット状の拡散律速部に類似する形態となり、センサ素子10の各ポンプセルの動作が設計時の想定と異なってしまうため、好ましくない。また、延在部201aの形成が困難でありコストを要するという問題も生じる。
【0070】
好ましくは、ガス導入口105の開口幅wに対する開口高さ(厚み)t2の比であるアスペクト比t2/wが0.015~0.15であり、開口面積S=w・t2が0.1mm2~0.9mm2とされる。
【0071】
また、t2/w<0.015またはS<0.1mm2とするのは、延在部201aの形成が困難なため好ましくない。
【0072】
一方、t2/w>0.15またはS>0.9mm2とするのは、開口幅wと開口高さt2の少なくとも一方を増大させることによって可能ではあるが、係る場合、内部空所のサイズ・形状との乖離が顕著となり、内部空所との同時形成が困難となるために、生産性が下がる、という点から好ましくない。
【0073】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサを構成するセンサ素子の素子基体のうち、少なくとも、使用時に高温となる部分の周囲に、多孔質層である先端保護層を設け、しかも、素子基体の一方端部側において先端保護層の一部をガス導入口の内部にまで延在させ、その内面に固着させるようにする一方で、ガス導入口から先端保護層内に向けて空隙を連通させるようにすることで、熱衝撃の印加に起因した、素子基体の先端面側における先端保護層の剥離さらには脱離が好適に抑制されてなるとともに、被毒物質による先端保護層の目詰まりに起因する感度低下についても好適に抑制されたセンサ素子を、実現することができる。
【0074】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子10を製造するプロセスの一例について説明する。
図5は、センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0075】
素子基体1の作製に際しては、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含み、かつ、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を、複数枚用意する(ステップS1)。
【0076】
ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、セラミックス体101の対応する部分に内部空間が形成されることになるグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、それぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はなく、最終的に形成される素子基体1におけるそれぞれの対応部分に応じて、厚みが違えられていてもよい。
【0077】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータ150および絶縁層151のパターンや、電極端子160のパターンや、主面保護層170のパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140を形成するための昇華性材料(消失材)の塗布あるいは配置も併せてなされる。
【0078】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0079】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、グリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0080】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0081】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断して、それぞれが最終的に個々の素子基体1となる単位体に切り出す(ステップS5)。
【0082】
続いて、得られた単位体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより、素子基体1が作製される。すなわち、素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170とが、一体焼成されることによって、生成されるものである。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、素子基体1においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0083】
以上の態様にて素子基体1が作製されると、続いて、係る素子基体1に対し、先端保護層2の形成が行われる。先端保護層2の形成は、プラズマ溶射の手法により行われる。
図6は、プラズマ溶射による先端保護層2の形成について概略的に示す図である。
【0084】
先端保護層2の形成は、先端保護層2の形成材料であるアルミナの粉末を含むスラリーを、所定の形成対象位置にプラズマ溶射することによりなされる(ステップS7)。
【0085】
具体的には、
図6に示すように、素子基体1を、先端面101eの側を上方とする態様にて所定の傾斜角αの傾斜姿勢としたうえで、傾斜角αを変動させつつ矢印AR1にて示すように、素子長手方向を軸中心として連続的に回転させる。そして、係る回転の間に溶射ガン1000から矢印AR2にて示すように先端面101eの側に向けてスラリーを溶射する。これにより、素子基体1の側面および端面(セラミックス体101の先端面101e)さらにはガス導入口105の内部の所定範囲に付着する。
【0086】
アルミナ粉末としては、最大粒径が50μm以下で、D50が23μm以下のものを用いるのが好適である。
【0087】
傾斜角αおよび素子基体1の回転速度を適宜に調整することで、最終的に形成される先端保護層2において付着割合が8%~75%の範囲内の所定値となるように、かつ、連通空隙gが所望のサイズにて形成されるように、ガス導入口105を区画する内壁面101fにスラリーを付着させることができる。
【0088】
係る溶射膜の形成により、センサ素子10が得られる。
【0089】
このようにして得られたセンサ素子10は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0090】
<変形例>
上述の実施の形態においては、3つの内部空室を備えたセンサ素子を対象としているが、3室構造であることは必須ではない。すなわち、素子基体の一方端部側の端面および側面の所定範囲を囲繞する多孔質層である先端保護層に、ガス導入口の内部に延在する延在部を設ける態様は、内部空室が2つあるいは1つのセンサ素子にも適用可能である。
【0091】
また、上述の実施の形態においては、先端保護層2が素子基体1に対し直接に設けられているが、これは必須の態様ではない。
図7は、センサ素子10が素子基体1と先端保護層2との間に緩衝層180を有する場合のガスセンサ100の概略構成図である。
【0092】
図7に示すセンサ素子10においては、素子基体1の
一方端部E1側の4つの側面の外側に(先端面101e以外の外周に)、緩衝層180を備える。そして、この緩衝層180のさらに外側に、先端保護層2が設けられてなる。
図7においては、緩衝層180のうち、ポンプ面側の部分180aとヒータ面側の部分180bとを示している。
【0093】
緩衝層180は、アルミナにて構成される多孔質層であり、30%~50%という比較的大きな気孔率にて、20μm~50μmの厚みを有するように設けられる。
【0094】
緩衝層180を設ける場合、先端保護層2の気孔率は、緩衝層180の気孔率よりも小さいことが好ましい。緩衝層180の気孔率の方が大きい場合、先端保護層2と下地層たる緩衝層180との間に、いわゆるアンカー効果が作用する。係るアンカー効果が作用することにより、センサ素子10においては、その使用時に先端保護層2と素子基体1との熱膨張率の差に起因して先端保護層2が素子基体1から剥離することが、より好適に抑制される。
【0095】
緩衝層180は、先端保護層2や主面保護層170ともども、センサ素子10の被毒や被水を防ぐ役割を有する。特に、緩衝層180の気孔率が先端保護層2の気孔率より大きい場合、緩衝層180は、先端保護層2や主面保護層170に比して高い断熱性を有することとなる。このことは、センサ素子10の耐被水性の向上に資するものとなっている。
【0096】
また、緩衝層180は、先端保護層2を素子基体1に対し形成する際の下地層としての役割も有する。係る観点からは、緩衝層180は、素子基体1の各側面の、少なくとも先端保護層2により囲繞される範囲に形成されればよい。
【0097】
なお、
図7に示すような、緩衝層180を含むセンサ素子10の作製は、
図5に示した手順にて得られた個々の素子体に対し、最終的に緩衝層180となるパターンを形成する工程(塗布および乾燥)をさらに行い、その後焼成することにより、実現される。係るパターンの形成は、所望される緩衝層180が最終的に形成されるよう、あらかじめ調製されたペーストを用いて行う。すなわち、
図7に示すセンサ素子10の素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170と、
緩衝層180とが、一体焼成されることによって生成されるものである。
【実施例】
【0098】
センサ素子10として、連通空隙gの延在距離L1と、端面部201における先端保護層2の厚みL2と、セラミックス体101の先端面101eから最奥部までの距離L3と、先端面101eからの延在部201aの形成範囲L4と、連通空隙高さt1と、ガス導入口105の開口高さt2との組み合わせを種々に違えた5種類のセンサ素子10(実施例1~実施例5)を作製した。ただし、いずれのセンサ素子10においても、厚みL2は200μm、距離L3は300μm、開口高さt2は200μmとした。また、延在部201aが存在しない箇所におけるガス導入口105の開口部のアスペクト比t2/Wは0.08とし、開口部の面積Sは0.5mm2とした。
【0099】
実施例1~実施例5のセンサ素子についてのL1~L4およびt1~t2の値を表1に示す。
【0100】
【0101】
L1~L4およびt1~t2の組み合わせが違えられることで、実施例1~実施例5のセンサ素子10においては、先端保護層2の延在部201aの内壁面101fに対する付着割合(L4/L3)と、先端保護層2の厚みL2に対する連通空隙gの延在距離L1の比L1/L2と、ガス導入口105の開口高さt2に対する連通空隙高さt1の比t1/t2との組み合わせが、相異なっている。
【0102】
また、比較例として、延在部201aおよび連通空隙gが設けられないセンサ素子を作製した。延在部201aの形成以外の作製条件は実施例1~実施例5と同じとした。
【0103】
得られたそれぞれの実施例および比較例のセンサ素子について、熱衝撃に対する耐性を評価するべく、昇降温および雰囲気変化が周期的に繰り返される冷熱サイクル試験を行い、試験後における先端保護層2の先端面101eからの剥離の有無(剥離耐性)を判定した。また、加速被毒試験を行い、試験後における耐被毒性を判定した。冷熱サイクル試験においては、(950℃、5分間)→(300℃、5分間)という温度プロファイルを昇降温の1サイクルとして、これを600サイクル繰り返した。試験ガス雰囲気は、950℃の時はλ=1.1の排ガス雰囲気、300℃の時は大気とした。先端保護層2の剥離の有無の確認には、X線CTを用いた。
【0104】
それぞれのセンサ素子についての付着割合(L4/L3の値)と、剥離耐性についての判定結果を表2に一覧にして示す。なお、表2においては、X線CTにおいて剥離が確認されたセンサ素子について、「×」(バツ印)を付し、確認されなかったセンサ素子については「〇」(丸印)を付している。
【0105】
【0106】
表2に示すように、実施例1~実施例5に係るセンサ素子については、先端保護層2の剥離は確認されず、比較例に係るセンサ素子のみ、係る剥離が確認された。
【0107】
加速被毒試験においては、エンジンからの排ガス(HC、NOx、CO2、H2Oなど含む)に疑似被毒物質としてZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)を0.25cc/L添加した500℃の雰囲気中に、それぞれのセンサ素子を配置した。
【0108】
また、センサ素子の動作の妥当性を評価するべく、加速被毒試験の前後において、それぞれのセンサ素子の主ポンプセルP1におけるポンプ電流Ip0を測定した。ポンプ電流Ip0の測定は、O2濃度が20.5mol%で残余が窒素であるモデルガス雰囲気下で行った。
【0109】
そして、試験前後におけるポンプ電流Ip0の差分値の、試験前のポンプ電流Ip0の値に対する比(ポンプ電流変化率)を算出し、係る比の大小によって、それぞれのセンサ素子についての耐被毒性の良否を判定した。
【0110】
それぞれのセンサ素子についての連通空隙gの有無と、耐被毒性の判定結果を一覧にして示す。
【0111】
【0112】
耐被毒性の判定に関しては、ポンプ電流変化率が5%以内であった場合には、センサ素子の耐被毒性は極めて良好であると判定し、表3において「◎」(二重丸印)を付している。ポンプ電流変化率が5%を超え10%以内であった場合には、センサ素子は実用的に許容される程度の耐被毒性を有していると判定し、表3において「〇」(丸印)を付している。ポンプ電流変化率が10%を超えた、いずれにも該当しないセンサ素子については、表3において「×」(バツ印)を付している。
【0113】
表3においては、実施例1ないし実施例5のセンサ素子には全て、耐被毒性につき「◎」または「〇」が付されているのに対し、比較例のセンサ素子については「×」が付されている。
【0114】
表2および表3に示す結果からは、上述の実施の形態のように、センサ素子に対して先端保護層を設けるにあたって、素子先端面との密着性を確保するべく先端面からガス導入口の内部に先端保護層を延在させ、該ガス導入口の内壁面に係る延在部を固着させる構成を採用する場合において、先端保護層に向けてガス導入口から連通する連通空隙が形成されるようにすることで、被毒物質が測定感度に与える影響を好適に抑制出来ることがわかる。
【符号の説明】
【0115】
1 素子基体
2 先端保護層
10 センサ素子
100 ガスセンサ
101 セラミックス体
101e (セラミックス体)先端面
101f 内壁面
102 第一の内部空室
103 第二の内部空室
104 第三の内部空室
105 ガス導入口
110 第一の拡散律速部
115 緩衝空間
120 第二の拡散律速部
130 第三の拡散律速部
140 第四の拡散律速部
141 外部ポンプ電極
142 内部ポンプ電極
143 補助ポンプ電極
145 測定電極
147 基準電極
150 ヒータ
170(170a、170b) 主面保護層
201 (先端保護層の)端面部
201a (先端保護層の)延在部
202 (先端保護層の)側面部
1000 溶射ガン
P1 主ポンプセル
P2 補助ポンプセル
P3 測定用ポンプセル
g 連通空隙