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特許7122256血漿2’-デオキシウリジン(dUrd)の増加およびチミジル酸合成酵素阻害のための方法
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  • 特許-血漿2’-デオキシウリジン(dUrd)の増加およびチミジル酸合成酵素阻害のための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】血漿2’-デオキシウリジン(dUrd)の増加およびチミジル酸合成酵素阻害のための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20220812BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20220812BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20220812BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20220812BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220812BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K31/282
A61K31/4745
A61K31/513
A61K39/395 N
A61P35/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018557782
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 IB2018000206
(87)【国際公開番号】W WO2018150264
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2019-09-26
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】62/458,868
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509041902
【氏名又は名称】アイソフォル・メディカル・エービー
【住所又は居所原語表記】Biotech Center,Arvid Wallgrens Backe 20,413 46 Gothenburg,Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,ゴーラン,ユー.
(72)【発明者】
【氏名】グスタフソン,ベント
(72)【発明者】
【氏名】オディン,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ウェッターグレン,イボンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェディン,アンダース
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】冨永 みどり
【審判官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040269(JP,A)
【文献】特表2012-503639(JP,A)
【文献】特表2010-503717(JP,A)
【文献】特表2015-504079(JP,A)
【文献】米国特許第5376658(US,A)
【文献】NCT02244632,ClinicalTrials.gov archive,[online],2017年 3月 8日,[2019年7月19日検索],インターネット,<URL:https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT02244632?A=9&B=9&C=merged#StudyPageTop>
【文献】Annals of Oncology,2008年,Vol.19, No.5,pp.909-914
【文献】Journal of Clinical Oncology,2004年,Vol.22, No.1,pp.31-38
【文献】Acta Oncologica,2000年,Vol.39,pp.59-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[6R]-5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(6R-MTHF)を含む医薬組成物であって、以下の工程:
a.ヒト対象に、400mg/mまたは500mg/mの5-フルオロウラシル(5-FU)を、ボーラス注射として静脈内投与する工程;及び
b.工程(a)に続いて、前記ヒト対象に、30、60、120または240mg/mの6R-MTHFを含む前記医薬組成物を、2回のボーラス注射に分割して、静脈内投与する工程であって、各ボーラス注射の投与の間隔を約30分間あける、工程
を含む、結腸直腸癌を治療するための方法において用いるための、医薬組成物。
【請求項2】
前記6R-MTHFが、薬学的に許容される塩として提供される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記薬学的に許容される塩が、凍結乾燥物である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記方法が、L-5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(LV)の等モル投与後のヒト対象における2’-デオキシウリジン(dUrd)血漿濃度と比較して、増加したdUrdの血漿濃度をもたらす、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記方法が、オキサリプラチン、イリノテカンおよびベバシズマブからなる群から選択される少なくとも1つの抗がん剤の治療有効量を投与する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記方法が、L-5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(LV)の等モル投与後のヒト対象におけるチミジル酸合成酵素(TS)阻害と比較して、増加したTS阻害をもたらす、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記方法において、工程(a)の約30分後及び約60分後に、前記ヒト対象に、ボーラス注射として静脈内投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記6R-MTHFが、90%より高い化学的純度を有し、前記6R-MTHFが、[6S]-5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(6S-MTHF)異性体よりも95%を上回っている、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参考として全体が本明細書に組み込まれる2017年2月14日出願の米国特許仮出願番号第62/458868号への優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ヒトにおけるがんなどの固形腫瘍の治療に関し、5-フルオロウラシル(5-FU)をベースにした化学療法における[6R]-5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(6R-MTHF)の投与を含む。
【背景技術】
【0003】
5-フルオロウラシル(5-FU)は、1957年に最初に導入され、未だに結腸直腸がん(CRC)を含む固形腫瘍の主力となる治療である。5-FUは、主にチミジル酸合成酵素(TS)の阻害によって、ある程度はまた代謝物のRNAへの組み込みによって細胞傷害活性を発揮する(Ford et al. (2002) Clinical Cancer Research 2002; 8(1): 103-109)。5-FU単独の奏効率は非常に限定的で(10~15%)、5-FUの抗がん活性を増加させるために調節戦略が開発された(Johnston et al. Anticancer Drugs 2001, 12: 639-646)。最も広く使用された戦略の1つは、葉酸塩である5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(フォリン酸またはロイコボリンまたはLV)と5-FUとの同時投与を含む(Romanini et al. (1991) Cancer Res., 51: 789-793; Keyomarsi et al. (1988) J. Biol. Chem., 263: 14402-14409)。LVは、DNA合成に必要な酵素であるチミジル酸合成酵素(TS)を阻害する3元複合体を安定化する(Longley et al. (2003) Nat. Rev. Cancer, 3(5):330-8)。LVを5-FUに添加することによって、奏効率は20%超まで増加した(同文献)。
【0004】
還元型葉酸塩である、フォトレキソリン(fotrexorin)カルシウム(CoFactor(登録商標))((dl)-5,10-メチレンプテロイル-モノグルタミン酸カルシウム塩または[6R,S]-5,10-メチレン-THFCa塩)は、ラセミ体メチレンTHFとしても知られ、LVの代わりに還元型葉酸メチレンTHFを直接投与することが臨床的活性に関して著しい利点をもたらすであろうという仮説に基づいて、LVの代替物として提案されたことがある。CoFactor(登録商標)は、2つのジアステレオ異性体の1:1混合物である(Odin, E., Carlsson, G., Frosing, R., Gustavsson, B., Spears, C.P., Larsson, P.A., 1998. Chemical stability and human plasma pharmacokinetics of reduced folates. Cancer Invest. 16, 447-455)。[6R]異性体は直接活性のあるTSの補助基質であることから、ロイコボリンの代わりにCoFactor(登録商標)を投与することは、臨床上の安全性および有効性の両方について患者間および患者内の変動が少ないため有利であると期待される。
【0005】
実際に、過去に治療を受けていない転移性結腸直腸がんにおける第II相臨床試験では、CoFactor(登録商標)の奏効率は35%であることが見いだされ(Saif, M.W, Merritt, J, Robbins J, Stewart J., Schupp, J, 2006. Phase III Multicenter Randomized Clinical Trial to Evaluate the Safety and Efficacy of CoFactor(R)/5-Fluorouracil/Bevacizumab Versus Leucovorin/5-Fluoro-uracil/ Bevacizumab as Initial Treatment for Metastatic Colorectal Carcinoma Clinical Colorectal Cancer, Vol. 6, No. 3, 229-234, 2006)、別の第I/II相臨床試験では、5-FUと併用したCoFactor(登録商標)は、膵臓がんでは患者の40%において、安定した疾患または腫瘍応答として定義された臨床的有用性を示すことが示された(Saif, M.W., Makrilia N., Syrigos K., 2010. CoFactor: Folate Requirement for Optimization of 5-Fluouracil Activity in Anticancer Chemotherapy. Journal of Oncology Vol. 1-5)。しかし、肝臓で不必要な解毒の負担が表れることは別として、非天然(6S)異性体は、TSの補助基質としての効果に関して、天然[6R]異性体の部分的な競合的阻害剤である(Leary, R.P., Gaumont, Y., Kisliuk, R.L., 1974. Effects of the diastereoisomers of methylenetetra-hydro--folate on the reaction catalyzed by thymidylate synthetase. Biochem. Biophys. Res. Commun. 56, 484-488)。さらに、第IIb相臨床試験では、結腸直腸がんにおけるCoFactor(登録商標)は、有効性および安全性のいずれに関しても試験群間に有意差を見いだすことはできなかったので、ロイコボリンよりも有効であることは示されず、結腸直腸がんでの第III相臨床試験計画は、完了前に中止された(報道発表:ADVENTRX Provides Update on Cofactor Program. Nov 2, 2007)。
【発明の概要】
【0006】
3元複合体を安定化し、TSの阻害を増強する組成物および方法の必要性は依然として非常に大きい。本発明者らは、驚くべきことに、6R-MTHFの投与が等モル濃度のLVの投与と比較して2’-デオキシウリジン(dUrd)の血漿レベルを増加させることを発見した。驚くべきことに、本発明者らは、6R-MTHFの投与が等モル濃度のLVの投与と比較してTSの阻害を増加させることを発見した。
【0007】
本発明者らは、5-FUと同時投与したとき、驚くべきことに6R-MTHFの等モル用量がLVと比較して有意に高い血漿中のdUrdレベルを生じることを発見した。血漿2’-デオキシウリジン(dUrd)の上昇はTS阻害のマーカーである(Ford et al (2002)Clinical Cancer Research, 8(1): 103-109)。本発明は、驚くべきことに、6R-MTHFの投与を含む血漿dUrdレベルを増加させるための方法を提供する。この血漿dUrdを増加させる方法は、等モル濃度のLVと比較してそのレベルを増加させる。本発明はまた、6R-MTHFの投与を含むTS阻害を増加させるための方法を提供する。
【0008】
TS-阻害の代替マーカーとしての血漿dUrd上昇は、次第に一般に好まれるバイオマーカーになった。その分析はまた、血液採取およびLC-MS/MS分析により、実施が比較的容易である。5-FUのようなTS阻害剤による治療は、TS基質dUMPの細胞内プールの上昇を引き起こし、これは対応するヌクレオシドのdUrdレベル上昇に反映され、これは主として細胞外であり、血漿中で測定することができる。さらに、血漿dUrdの上昇はTS阻害剤の投与の後に示されたため、TS阻害の代替マーカーである(Ford et al (2002))。
【0009】
血漿dUrdレベルの上昇は、5-FU治療中における現在の体内の総合的な腫瘍TS阻害状態を直接表しており、転移を含む存在する腫瘍部位全てを反映していると発明者らは理解している。
【0010】
上記は、腫瘍中ではTSの基本的な活性が粘膜におけるよりもずっと高いという発見および代謝物である5-フルオロデオキシウリジン1リン酸(FdUMP)のTSへの結合および5-FU治療中のTS阻害効果の両方が腫瘍においては粘膜および体のその他の細胞におけるよりもはるかに高いという発見によって強く裏付けられる。外来性の葉酸(MTHF)の添加がない場合、腫瘍ではFdUMPの結合がほとんど認められないことにも注目すべきである(Peters et al. (1991)Eur J Cancer, 27(3): 263-267).
【0011】
したがって、例えば、腫瘍もしくは粘膜の生検または単離されたTS酵素のインビトロにおける研究にのみ限定される、H-FdUMPのTS結合をベースにした古い測定法よりも、TS阻害の代替マーカーとしての血漿dUrdレベルは、明らかにはっきりしている。これらの放射標識ベースの結合測定法は今日では使用されたとしても稀で、非常に大きな変動幅と強く関連しており(Peters et al. (1991)Eur J Cancer, 27(3): 263-267)、測定のために必要な材料を入手することも困難である。
【0012】
腫瘍が、腫瘍壊死を起こすのに必要なアポトーシス状態に入るのには、90%を上回る程度のTS阻害が必要であると本発明者らは考えている。さらに、6R-MTHFは、90%およびそれ以上のレベルのTS阻害を得るために必要なレベルまで上記阻害性3元複合体を安定化する能力を有すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】5-FUを、6R-MTHF(「6R」として示す)30および60mg/mと共に投与した後のTS阻害の増加を、ラセミ体(d,l-LVまたはLV)60mg/mに匹敵するl-LV(「LLV」)30mg/m(「LLV30」として示す)と比較した図である。
図2】5-FUを6R-MTHF(「6R」として示す)30および60mg/mと共に投与した後、血漿dUrdレベルをLLV30mg/m(d,l-LVもしくはLV60mg/mまたはLV60)と比較した図である。
図3】l-LV30mg/m(「LLV30」として示す)(d,l-LVもしくはLVの60mg/m)または6R-MTHF30mg/m(「M30」として示す)のボーラス注射と一緒に投与した5-FU500mg/mのボーラス注射の24時間後の血漿dUrdレベル増分として示した、LVおよび6R-MTHFの等モル比較を示した図である。増分は、LLVサイクル(n=48)および6R-MTHFサイクル(n=18)での24時間(t24)のdUrd血漿濃度マイナス注射直前(t)の血漿dUrd濃度の間の個々の差として計算した。LLVは、LLVと、非天然の(あまり)活性型ではないd-LVとの50:50混合物であるLVの活性型天然異性体である。6R-MTHFおよびLLVの分子量は、等モル比較をベースにすると十分類似している。群間の差は、マンホイットニーのU検定で検定した(p<0.05)。
図4】LLV30mg/m(「LLV30」として示す)(d,l-LVもしくはLVの60mg/m)または6R-MTHF30mg/m(「M30」として示す)もしくは60mg/m(「M60」として示す)のボーラス注射と一緒に投与した5-FU500mg/mのボーラス注射の24時間後の血漿dUrdレベル増分の6R-MTHF用量依存性の増加を示した図である。増分は、LLVサイクル(30mg/m n=48)および6R-MTHFサイクル(30mg/m n=18;60mg/m n=16)での24時間(t24)のdUrd血漿濃度マイナス注射直前(t)の血漿dUrd濃度の個々の差として計算した。群間の差は有意で、フリードマン2元配置分散分析で検定した(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態では、任意選択により1つまたは複数の適切な賦形剤および/またはクエン酸もしくはアスコルビン酸もしくはそれらの塩形態などの抗酸化剤によって安定化した、[6R]-5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(6R-MTHF)またはその薬学的に許容される塩を、水中で溶解する固形物または凍結乾燥物として使用する。一実施形態では、6R-MTHFは1回または複数回のIVボーラスとして投与し、各ボーラスは、5~1000mg/mBSA(体表面積)、例えば、5mg/mBSA、例えば、7mg/mBSA、例えば、10mg/mBSA、例えば、15mg/mBSA、例えば、30mg/mBSA、例えば、60mg/mBSA、例えば、120mg/mBSA、例えば、240mg/mBSA、例えば、480mg/mBSA、例えば、720mg/mBSAまたは例えば、960mg/mBSAを含有する。本明細書では、「ボーラス」とは、単回投与がある期間に亘って一定の濃度で投与される静脈内注入とは違って、医薬組成物の単回投与が一度に投与される静脈内投与の方法を意味する。
【0015】
投薬量は、療法の形態、調製物の適用形態ならびに患者の年齢、体重、栄養状態および症状によって変化する。治療は、最適量を下回る、より少ない量で開始することができ、最適な効果を実現するために増加させることできる。療法で使用した好ましい用量の範囲は、1日当たり10mgと3000mgの間、特に1日当たり50mgと500mgの間である。投与は、単回投与として、または反復投与として達成することができる。
【0016】
一実施形態では、6R-MTHFは遊離酸の形態、薬学的に許容される塩の形態、特に酸性塩、およびアルカリもしくはアルカリ土類金属塩であってもよい。
【0017】
別の実施形態では、MTHFは両ジアステレオ異性体、特にジアステレオ異性体として純粋な、天然の6R-MTHFを含む。本明細書では、用語「ジアステレオ異性体として純粋な」とは、その他の異性体よりも約80%を上回って、好ましくは約90%を上回って、好ましくは約95%を上回って、より好ましくは約97%を上回って、さらにより好ましくは約99%を上回って、より好ましくは約99.5%以上を上回って、最も好ましくは100%までの異性体としての6R-MTHFまたはその塩を意味し、残部はその他の異性体である6S-MTHFである。
【0018】
別の実施形態では、6R-MTHFは化学的に純粋である。本明細書では、用語「化学的に純粋」とは、HPLCによって判定して、化学的純度が約80%、好ましくは約90%、より好ましくは約95%、より好ましくは約97%、より好ましくは化学的純度が約98%、最も好ましくは化学的純度が99%または99%より高い、例えば、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9または100%までの化合物を意味する。化学的な不純物は、未処理の開始材料(溶媒を含む)、6R-MTHFの分解生成物(テトラヒドロ葉酸およびその分解生成物など)などを含み得る。
【0019】
任意選択により、6R-MTHFを含む医薬組成物は、例えば、少なくとも1つの抗がん化合物をさらに含んでいてもよい。抗がん化合物は、限定されないが、1つまたは複数の化学療法剤、例えば、限定されないが、核酸、特にフッ素化した核酸(例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)またはその類似体もしくはプロドラッグ)、葉酸代謝拮抗剤(例えば、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、ロメトレキソール)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン、トポテカン)、代謝拮抗薬(例えば、メトトレキセート、ゲムシタビン、テザシタビン)、5-FUモジュレーター、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、カルムスチン)、核酸生合成阻害剤(例えば、マイトマイシン、アントラサイクリン(例えば、エピルビシン、ドキソルビシン)、白金誘導体(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン)、微小管破壊薬(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン)、ホルモン遮断薬(例えば、タモキシフェン)、限定されないが、受容体および非受容体チロシンキナーゼを含むキナーゼの阻害剤(例えば、イレッサ、タルセバ、SU5416、PTK787、グリベック)、プロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)、免疫モジュレーター(例えば、レバミソール)、抗炎症薬、血管新生阻害剤、サイトカイン(例えば、インターロイキン、腫瘍壊死因子)ならびにサイトカイン、ホルモンまたはサイトカインもしくはホルモンの受容体の活性を阻害する薬(例えば、抗VEGF抗体ベバシズマブもしくは「アバスチン」)を含むことができる。抗がん化合物はまた、モノクローナル抗体、例えば、限定されないが、サイトカイン、ホルモンまたはホルモン受容体に結合するモノクローナル抗体(例えば、EGFもしくはVEGF成長因子の活性を遮断する抗体、例えば、アバスチン、アービタックス、ハーセプチン)などを含むことができる。一実施形態では、6R-MTHFは、少なくとも1つの抗がん化合物の治療有効量と組み合わせて投与される。6R-MTHFを少なくとも1つの抗がん化合物の治療有効量と組み合わせて投与するとき、当業者であれば、少なくとも1つの抗がん化合物は6R-MTHFの前、後または同時に投与することができることを理解するであろう。
【実施例
【0020】
以下の実施例は、本発明の性質を単に示すものであって、いかなる様式によっても本発明の範囲も添付の特許請求の範囲も限定しないものとする。
【0021】
実施例1
5-FUおよび葉酸塩による治療
1.試験デザイン
6R-MTHFの安全性および有効性を、ステージIVの結腸直腸がん(mCRC)の患者における非盲検多施設共同第I/II相用量コホート試験(ISO-CC-005)で分析し、ステージIVの結腸直腸がんの患者における、5-FU(500mg/m)単独の標準的用量と組み合わせた、またはベバシズマブ、オキサリプラチンもしくはイリノテカンの固定用量と組み合わせた、[6R]-5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸([6R]-MTHF)の安全で許容できるi.v.ボーラス用量を決定した。。患者(n>3)の群の中で、6R-MTHFを30~240mg/mBSAの漸増用量を、細胞傷害性の5-FU単独または5-FUと標準的投与レベルで投与したオキサリプラチン、ベバシズマブもしくはイリノテカンとの様々な組み合わせの存在下で評価した。この試験は、2017年末までに完了する予定である。試験デザインおよび各試験群の概要を以下の表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
ヨーテボリでは、ほぼ20年に亘って、CRCの全患者の臨床治療および臨床成績データを収集してきた。血漿および組織試料は、長期保存のための適切な物理的条件下でバイオバンクに保存されてきた。データベースおよびバイオバンクは、適当な倫理学的規制認可の下で稼働する。標準的5-FU用量、500mg/mおよびi.v.ボーラスLV、60mg/m(LLVの30mg/mと同等)で治療された患者をデータバンクから無作為に抽出した。
【0024】
全患者について、保存した血漿試料をdUrdの判定のために使用した。
【0025】
本試験は、歴史的な群比較試験である。患者は全て、ボーラス注射として投与された5-FU500mgの標準的用量と、やはりボーラス注射として投与された葉酸塩である6R-MTHFまたはLVのそれぞれで治療された。
【0026】
2.6R-MTHFで治療した患者
全ての患者を、5-FUによる2つの連続的治療サイクルの間、測定した。dUrdの値は5-FUの注射直前(t)および24時間後(t24)に測定した。患者のt24とtの間の差の平均値および標準偏差を、6R-MTHF30および60mg/mの各用量レベルでそれぞれ計算した。6R-MTHF240mg/mについても、いくつかの値を測定して計算した。
【0027】
3.LVで治療した患者
5-FUおよびLV60mg/mで治療した転移性結腸直腸がん(mCRC)の24人の患者を、データベースから無作為に抽出し、各患者についてdUrdのレベルを2つの治療サイクルのtおよびt24で測定し、6R-MTHF患者と同じ方法でt24とtの間の差について平均値および標準偏差を計算した。LVは天然(l-ホルミル-テトラヒドロ葉酸)と非天然(d-ホルミル-テトラヒドロ葉酸)異性体との50:50混合物であるため、活性型異性体は投与したLV用量の半分となる。LVおよび6R-MTHFの分子量は非常に類似しているので、LV60mgは6R-MTHF30mgと等モルと考えることができる。
【0028】
4.統計学的方法
全4群の間の差は、フリードマン2元配置分散分析によって検定し、その後、2つの等モル群LV60mg/mと6R-MTHF30mg/mの間の差を、マンホイットニーのU検定によって検定した。0.05未満のP値は有意と見なした。
【0029】
3.血漿dUrdの判定
【0030】
血漿dUrdは、液体クロマトグラフィーの後に以下に大まかに概要を示したタンデム質量分析を含む方法によって判定した。血漿試料は、-80℃冷凍庫から取り出し、トリクロロ酢酸を血漿に添加し、試料を混合して遠心分離した。上清を分子量10kDaカットオフの膜フィルターで濾過し、再度30分間遠心分離した。次に、試験管の底の溶液をLC-MS/MS分析のために準備した。ブランク血漿試料および異なる内部標準濃度を使用して、検定試料を同じ方法で調製した。LC-MS/MSへの注入体積は40μlであった。デオキシウリジンおよびクロロデオキシウリジンは、エレクトロスプレーネガティブモードによってイオン化した。MSパラメータは、全葉酸塩の最大応答のために最適化した。MS/MS取得法(多重反応モニタリング)を利用した。
【0031】
実施例2
TS阻害
最初の3群間の差は有意であり(p=0.04)、2つの等モル群LV60mg/mおよび[6R]-MTHF30mg/m(p=0.03)の間の差も有意であった。5-FUと[6R]-MTHFの等モル用量は、LVよりも有意に高いレベルのdUrdをもたらす。また、血漿dUrdレベルの増加によって反映されるように、[6R]-MTHF用量の増加とTS阻害レベルの増加の間に用量反応関係があるようである(表2および図1を参照のこと)。
【0032】
【表2】
【0033】
この試験は、LVよりも5-FUと6R-MTHFとのバイオモジュレーションの方が高い血漿dUrdおよびTS阻害の増加を引き起こすことを示している。この所見はさらに、6R-MTHF用量を増加させた後のTSの用量依存阻害によって支持される。
【0034】
LVボーラス用量60mg/mは、スカンジナビアで広く使用されるいわゆる北欧治療計画で使用される標準的用量である。臨床結果は、LVを注入によって、しばしば400mgを2時間に亘って投与する他の治療計画で得られた結果と同様である(Gustavsson et al., (2015) Clinical Colorectal cancer, 14: 1-10)。6R-MTHF後にずっと高いTS阻害が認められることは興味深い(図2)。
図1
図2
図3
図4