(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】圃場作業システム
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20220812BHJP
A01C 15/00 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
A01C11/02 322Z
A01C15/00 G
(21)【出願番号】P 2019056674
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康司
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-331841(JP,A)
【文献】特開2018-093834(JP,A)
【文献】特開2018-166493(JP,A)
【文献】特開平11-089351(JP,A)
【文献】特開2017-029071(JP,A)
【文献】特開2018-169826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0208058(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/00 - 11/02
A01C 15/00 - 23/04
A01M 7/00 - 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業装置を有する作業車両を圃場において作業を実行させながら走行させる圃場作業システムであって、
前記作業車両の位置での耕盤深さを検出する耕盤深さ検出部と、
前記耕盤深さと、前記作業車両の車両状態と、に基づいて、前記作業車両のスリップ率を演算するスリップ率演算部と、
前記スリップ率に基づいて前記作業装置の動作を制御する作業制御部と、を備え
、
前記スリップ率演算部は、
前記耕盤深さに対するスリップ率を表すスリップ率マップを取得するスリップ率マップ取得部と、
前記スリップ率マップ取得部が取得した前記スリップ率マップを、前記車両状態に応じて補正するスリップ率マップ補正部と、
を備える圃場作業システム。
【請求項2】
前記スリップ率マップ補正部は、入力装置で手動入力された指示情報に基づいて前記スリップ率マップの補正を実行可能である、請求項
1に記載に圃場作業システム。
【請求項3】
前記スリップ率マップ補正部は、前記スリップ率マップの特性を変更する、請求項
1又は
2に記載の圃場作業システム。
【請求項4】
前記スリップ率マップは、前記スリップ率を前記耕盤深さに対応付けた相関データから算出された近似曲線であって、
前記スリップ率マップ補正部は、前記近似曲線の係数もしくは定数を変更する、請求項
1~
3の何れか1項に記載の圃場作業システム。
【請求項5】
前記車両状態は、前記作業車両の移動速度を含む、請求項1~
4の何れか1項に記載の圃場作業システム。
【請求項6】
圃場を走行可能な走行機体と、
前記走行機体に搭載され、前記圃場において作業する作業装置と、
前記走行機体の位置での耕盤深さを検出する耕盤深さ検出部と、
前記耕盤深さと、前記走行機体と前記作業装置を含む車両の車両状態と、に基づいて、前記走行機体のスリップ率を演算するスリップ率演算部と、
前記スリップ率に基づいて前記作業装置の動作を制御する作業制御部と、を備え
、
前記スリップ率演算部は、
前記耕盤深さに対するスリップ率を表すスリップ率マップを取得するスリップ率マップ取得部と、
前記スリップ率マップ取得部が取得した前記スリップ率マップを、前記車両状態に応じて補正するスリップ率マップ補正部と、
を備える作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置を有する作業車両を圃場において作業を実行させながら走行させる圃場作業システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、田植機のスリップ率と田植機が位置する場所の耕盤深さをそれぞれ計測することで圃場の硬度を算出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、衛星航法システムを用いてスリップ率を算出している。しかし、衛星航法システムは価格が高く、スリップ率を算出する手段としては、コスト面の課題がある。また、スリップ率の変動には、特許文献1に記載された耕盤深さと圃場の硬度以外の他の要因もあることが判明しており、他の要因も考慮してスリップ率の算出する必要がある。
【0005】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、簡素な構成にて種々の変動要因を考慮した正確なスリップ率を算出することができる圃場作業システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圃場作業システムは、作業装置を有する作業車両を圃場において作業を実行させながら走行させる圃場作業システムであって、
前記作業車両の位置での耕盤深さを検出する耕盤深さ検出部と、
前記耕盤深さと、前記作業車両の車両状態と、に基づいて、前記作業車両のスリップ率を演算するスリップ率演算部と、
前記スリップ率に基づいて前記作業装置の動作を制御する作業制御部と、を備える。
【0007】
本発明の圃場作業システムによれば、耕盤深さのみならず作業車両の車両状態に基づいてスリップ率を演算するため、種々の変動要因を考慮した正確なスリップ率を算出することができる。また、衛星航法システムを用いることなく、耕盤深さと車両状態に基づいてスリップ率を演算するため、簡素な構成にてスリップ率を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】本実施形態に係る移植機の制御ブロック図である。
【
図5】スリップ率マップの補正の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、走行機体2の進行方向(
図1の左方向)を前方とし、進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0010】
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る移植機1(作業車両の一例)は、走行機体2と、走行機体2を支持する前車輪1a及び後車輪1bと、走行機体2に搭載される駆動源(エンジン)1cと、駆動源1cの駆動を各部に伝達する伝達部1dとを備えている。また、移植機1は、苗を植え付けるための苗植付装置3を走行機体2よりも後方に備えている。そして、移植機1は、苗を植える際に、前方に向けて走行する。
【0011】
走行機体2は、操縦者が座るための座席2aと、操縦者に操作される操作部2bと、予備の苗マットを載せるための予備載部2cとを備えている。例えば、操作部2bは、走行する方向を操作するための操縦ハンドルと、走行する速度を操作するための変速レバーと、苗植付装置3を操作するための作業レバーとを備えている。
【0012】
苗植付装置3は、苗マットから一部の苗を掻き取って植え付ける植付部4と、植付部4に苗マットを供給するために、苗マットが載せられる苗載装置5とを備えている。
【0013】
苗植付装置3は、走行機体2に回動可能に接続されているため、走行機体2に対して昇降動する。走行機体2の後端部にリンクフレーム2dが立設されている。リンクフレーム2dには、ロワーリンク20及びトップリンク21からなる昇降リンク機構22を介して、苗植付装置3が昇降可能に連結されている。苗植付装置3は、昇降シリンダ23の伸縮動にて昇降リンク機構22を上下回動させることで、昇降動する。昇降シリンダ23は、シリンダ基端側が走行機体2に上下回動可能に支持され、ロッド先端側がロワーリンク20に回動可能に連結されている。昇降リンク機構22の関節部分の何れかには、ポテンショメータ等の角度センサ24(
図3を参照)が配置されている。角度センサ24からの検出角によって苗植付装置3の高さを検出し、この苗植付装置3と後車輪1bの差より耕盤からの作土層の厚さ(耕盤深さDともいう)を算出することができる。
【0014】
植付部4は、苗載装置5よりも下方側に配置されている。そして、植付部4は、回転する植付爪40を備えており、植付爪40は、公転されることで、苗載装置5の下端部に位置する苗マットから一部の苗を掻き取って、圃場に植え付ける。
【0015】
植付部4は、駆動源1cから伝達部1dを経由した動力が伝達される植付入力ケース41と、植付入力ケース41に連結する八条用四組(二条で一組)の植付伝動ケース42と、各植付伝動ケース42の後端側に設けられた苗植機構43と、各植付伝動ケース42の下面側に配置された田面均平用のフロート45と、を備えている。苗植機構43には、二本の植付爪40を有するロータリケース44が設けられている。ロータリケース44の一回転によって、二本の植付爪40が各々一株ずつの苗を切り取ってつかみ、圃場に植え付ける。
【0016】
苗載装置5は、苗載台51と、苗載台51の左右方向の横送りを行う苗載台横送り機構と、苗載台51上の苗マットの上下方向の縦送りを行う苗縦送り機構とを備えている。苗載台横送り機構により苗載台51が左右方向に往復で横送り移動されるため、苗載台51上の苗マットは、連続的に往復で横送り搬送される。一方、苗載台51が往復移動端に到達すると、苗縦送り機構の搬送ベルト52により苗載台51上の苗マットが間欠的に縦送り搬送される。
【0017】
また、移植機1は、走行機体2の移動速度を検出する速度検出部25(
図3を参照)と、入力装置26(
図3を参照)とを備えている。速度検出部25は、特に限定されないが、例えば、後車輪1bに設けた回転数センサで計測された回転数から移動速度を検出する。
【0018】
入力装置26は、入力部を備えており、移植機1に対して各種の情報(例えば、指示情報)を入力可能である。また、入力装置26は、表示部を備えており、移植機1の各種の情報を表示可能である。例えば、入力装置26は、タッチパネルを有するタブレット型のパーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成され、タッチパネルを操作することで、各種の情報を入力可能であり、各種情報をタッチパネルに表示可能である。なお、入力装置26は、移植機1の外部に設けられ、移植機1と通信可能のものでもよい。
【0019】
また、移植機1は、走行機体2及び苗植付装置3を制御する制御部6を備えている。制御部6は、各種情報を記憶する記憶部60を備えている。また、制御部6は、移植機1の位置での耕盤深さDを検出する耕盤深さ検出部61と、スリップ率演算部62と、苗植付装置3(作業装置の一例)の動作を制御する作業制御部63と、走行機体2の動作を制御する走行制御部64と、を備えている。
【0020】
耕盤深さ検出部61は、前述の角度センサ24からの検出角に基づいて耕盤深さDを算出する。なお、移植機1のピッチング角(前後傾斜角)を検出して角度センサ24の角度を補正してもよい。
【0021】
スリップ率演算部62は、耕盤深さDと、移植機1の車両状態と、に基づいて、移植機1のスリップ率Sを演算する。ここで、車両状態とは、移植機1の移動速度、移植機1の重量、移植機1の重心、移植機1に取り付けた付属品の有無等、車両に関連する様々な情報を含む。本実施形態では、車両状態として移植機1の移動速度を用いる例を示す。
【0022】
スリップ率演算部62は、スリップ率マップ取得部62aと、スリップ率マップ補正部62bとを備えている。
【0023】
スリップ率マップ取得部62aは、耕盤深さDに対するスリップ率Sを表すスリップ率マップを取得する。スリップ率マップは、予め記憶部60に記憶されている。
図4は、耕盤深さDとスリップ率Sの関係を示すスリップ率マップの概略図である。スリップ率マップは、スリップ率Sを耕盤深さDに対応付けた相関データから算出された近似曲線又は近似直線である。耕盤深さDとスリップ率Sの相関データは、実験やシミュレーションなどから予め得られる。
図4の例では、スリップ率Sは、耕盤深さDの2次関数となっている。
【0024】
スリップ率マップ補正部62bは、スリップ率マップ取得部62aが取得したスリップ率マップを、移植機1の移動速度に応じて補正する。すなわち、スリップ率マップ補正部62bは、移植機1の移動速度に応じて、スリップ率マップの特性を変更する。具体的には、スリップ率マップ補正部62bは、スリップ率マップを示す近似曲線又は近似直線の係数もしくは定数を変更する。近似曲線の係数もしくは定数を変更することで、
図5(a)に示すように近似曲線を平行移動したり、
図5(b)に示すように近似曲線の傾きを変更したりすることができる。例えば、移植機1の移動速度が大きくなると、スリップ率Sが大きくなる傾向があるため、
図5(a)のように近似曲線を平行移動する。なお、近似曲線の一部を平行移動し、一部を傾きを変更するようにしてもよい。
【0025】
また、スリップ率マップ補正部62bは、入力装置26で手動入力された指示情報に基づいてスリップ率マップの補正を実行することもできる。これにより、作業者の判断によってスリップ率マップを適切に補正することができる。
【0026】
スリップ率演算部62は、スリップ率マップ補正部62bで補正された補正後のスリップ率マップから、耕盤深さDに対応付けられたスリップ率Sを取得する。
【0027】
作業制御部63は、スリップ率Sに基づいて苗植付装置3の動作を制御する。具体的には、スリップ率Sに基づいて、植え付ける株数、植付爪40による苗取量を制御する。一般的に、スリップしている箇所では、対地速度が減速しており、目標とする作業間隔よりも密な状態になるため、例えば株間が広くなるように株数を変更する。なお、株数、苗取量を調節する具体的な機構については、公知のため詳しい説明は省略する。
【0028】
また、移植機1には、施肥装置付きの移植機が知られている。作業制御部63は、スリップ率Sに基づいて施肥装置の動作を制御して、施肥量又は施薬量を制御することもできる。一般的に、スリップ率が大きい箇所(すなわち耕盤深さDが大きい箇所)では、土壌が肥沃でぬかるみやすい場所が多い。そのため、減肥などを行うことで農資材の消費量の抑制に繋がる。なお、施肥装置の施肥量を調節する具体的な機構については、公知のため詳しい説明は省略する。
【0029】
また、走行制御部64は、スリップ率Sに基づいて走行機体2の動作を制御する。具体的には、スリップ率Sに基づいて、車両速度、エンジン回転数、ステアリング角度などを調節する。一般的に、スリップ率が大きい箇所はぬかるみやすい箇所であり、ステアリング操作が効きにくくなるため、ステアリング操作角度を大きくしたり、ステアリング操作を早くしたりする。
【0030】
以上のように、本実施形態の圃場作業システムは、苗植付装置3を有する移植機1を圃場において作業を実行させながら走行させる圃場作業システムであって、
移植機1の位置での耕盤深さDを検出する耕盤深さ検出部61と、
耕盤深さDと、移植機1の移動速度と、に基づいて、移植機1のスリップ率Sを演算するスリップ率演算部62と、
スリップ率Sに基づいて苗植付装置3の動作を制御する作業制御部63と、を備えるものである。
【0031】
また、本実施形態の圃場作業システムにおいて、スリップ率演算部62は、耕盤深さDに対するスリップ率Sを表すスリップ率マップを取得するスリップ率マップ取得部62aと、スリップ率マップ取得部62aが取得したスリップ率マップを、移植機1の移動速度に応じて補正するスリップ率マップ補正部62bと、を備えるようにしてもよい。
【0032】
また、本実施形態の圃場作業システムにおいて、スリップ率マップ補正部62bは、入力装置26で手動入力された指示情報に基づいてスリップ率マップの補正を実行可能であるものでもよい。
【0033】
また、本実施形態の圃場作業システムにおいて、スリップ率マップ補正部62bは、スリップ率マップの特性を変更するものでもよい。
【0034】
また、本実施形態の圃場作業システムにおいて、スリップ率マップは、スリップ率Sを耕盤深さDに対応付けた相関データから算出された近似曲線であって、スリップ率マップ補正部62bは、前記近似曲線の係数もしくは定数を変更するものでもよい。
【0035】
また、本実施形態の移植機1は、圃場を走行可能な走行機体2と、走行機体2に搭載され、圃場において作業する苗植付装置3と、走行機体2の位置での耕盤深さDを検出する耕盤深さ検出部61と、耕盤深さDと、走行機体2と苗植付装置3を含む移植機1の車両状態と、に基づいて、走行機体2のスリップ率Sを演算するスリップ率演算部62と、スリップ率Sに基づいて苗植付装置3の動作を制御する作業制御部63と、を備えるものである。
【0036】
本実施形態に係る圃場作業システム及び移植機1によれば、簡素な構成にて種々の変動要因を考慮した正確なスリップ率を算出することができる。また、算出した正確なスリップ率に基づいて苗植付装置3の動作を制御することで、作業へのスリップ率の影響を少なくすることができる。
【0037】
[他の実施形態]
GNSS測位システムを搭載した作業車両においては、GNSSで演算されるスリップ率を補正したり、演算により求めたスリップ率をGNSS測位システムにより補正したりするなど相互補完を行うことで、スリップ率の検出精度を向上させることもできる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1 移植機
2 走行機体
3 苗植付装置
4 植付部
6 制御部
24 角度センサ
25 速度検出部
26 入力装置
61 耕盤深さ検出部
62 スリップ率演算部
62a スリップ率マップ取得部
62b スリップ率マップ補正部
63 作業制御部
D 耕盤深さ
S スリップ率