(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】軟強磁性粒子材料を含有する熱可塑性ポリマー複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220812BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220812BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20220812BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20220812BHJP
B29C 70/88 20060101ALI20220812BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20220812BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20220812BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20220812BHJP
【FI】
C08J5/18
C08L101/00
C08K3/10
B29C70/50
B29C70/88
B29C48/00
B29C48/08
H02J50/10
(21)【出願番号】P 2019532978
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(86)【国際出願番号】 IB2017058060
(87)【国際公開番号】W WO2018116127
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-16
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】グラフ,マイケル エス.
(72)【発明者】
【氏名】ナヤー,サティンダー ケー.
(72)【発明者】
【氏名】アチャリャ,バラト アール.
(72)【発明者】
【氏名】ブルゾーン,チャールズ エル.
(72)【発明者】
【氏名】シェルハース,ヴェルリン
(72)【発明者】
【氏名】ローウェル,ティモシー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】デーン,デレク ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ノヴォトニー,クリント ジェイ.
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-246224(JP,A)
【文献】特開2008-016458(JP,A)
【文献】特開平06-252586(JP,A)
【文献】特開2016-139053(JP,A)
【文献】特開平02-042702(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064694(WO,A1)
【文献】特開2008-050383(JP,A)
【文献】米国特許第05726106(US,A)
【文献】特開昭55-115319(JP,A)
【文献】特開2001-035717(JP,A)
【文献】特開平10-279719(JP,A)
【文献】特開2015-092543(JP,A)
【文献】特開2016-006163(JP,A)
【文献】特開2015-202038(JP,A)
【文献】特開昭55-167138(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102832005(CN,A)
【文献】特開平06-132692(JP,A)
【文献】特開平01-093103(JP,A)
【文献】Arunkumar Lagashetty and A Venkataraman,Polymer Nanocomposites,RESONANCE - JOURNAL OF SCIENCE EDUCATION,Indian Academy of Science,2005年07月,第10巻第7号,第49頁-第57頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08J 9/00 - 9/42
B29C 44/00 - 44/60
B29C 67/20
B29C 41/00 - 41/36
B29C 41/46 - 41/52
B29C 70/00 - 70/88
B29C 48/00 - 48/96
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
H01F 1/12 - 1/38
H01F 1/44
H05K 9/00
H02J 50/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー複合体
シートであって、
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、
前記熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料と、を含み、
前記軟強磁性粒子材料の重量分率が、前記ポリマー複合体
シートの総重量に基づいて、0.80~0.98であり、前記熱可塑性ポリマーは、5×10
4g/モル~5×10
7g/モルの数平均分子量を有し、
粒子分率が52体積%超であり、前記ポリマー複合体シートの保磁力が240A/m以下である、ポリマー複合体
シート。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が塑性変形されており、任意に、前記熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つによって塑性変形されている、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項3】
前記ポリマー複合体
シートの密度が、1.5g/cm
3~6g/cm
3である、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項4】
前記軟強磁性粒子材料が、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークは、第1主面と、前記フレークの前記第1主面に対して垂直な厚さと、を有し、任意に、前記軟強磁性粒子フレーク材料のフレークが、メジアン径D50及びメジアン最大厚さTmを有し、メジアンアスペクト比D50/Tmが、5/1~1000/1である、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項5】
前記軟強磁性粒子フレーク材料のフレークが、メジアン径D50を有し、前記熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が、平均孔径Pを有し、D50>2Pであり、任意に、D50が、25マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pが、50ナノメートル~25マイクロメートルである、請求項4に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項6】
前記軟強磁性粒子材料が、Fe-Cr合金、Fe-Si合金、FeCoB、Fe系非晶質合金、ナノ結晶質Fe系酸化物及びナノ結晶質Fe系窒化物、ニッケル系合金、CoNbZr並びにホウ素系非晶質合金のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、スチレン及びスチレン系ランダムコポリマー及びブロックコポリマー、塩素化ポリマー、フッ素化ポリマー、並びにエチレン及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマーのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーが、120℃~200℃の間に少なくとも1つの融点を有する、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項9】
前記ポリマー複合体
シートは、第1主面と、20マイクロメートル~5000マイクロメートルの厚さと、を有するシートの形態であり、任意に、前記軟強磁性粒子材料が、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークが、第1主面と、前記フレークの前記第1主面に対して垂直な厚さと、を有し、前記フレークの前記第1主面の大部分が、隣接する前記ポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内になるように配向されている、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項10】
前記ポリマー複合体
シートが20マイクロメートル~300マイクロメートルの厚さを有するシートの形態であ
り、前記ポリマー複合体
シートが、10mmの曲率半径を形成するように曲がることができる、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項11】
前記軟磁性粒子材料の保磁力が1000A/m以下であるか、磁気飽和誘導が600mT~1000mTであるか、又は1MHzにおける比透磁率の大きさが70よりも大きい、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項12】
前記軟強磁性粒子材料の体積分率が、前記ポリマー複合体
シートの総体積に基づいて、0.10~0.80である、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【請求項13】
第1主面を有するポリマー複合体シートの製造方法であって、
5×10
4g/モル~5×10
7g/モルの数平均分子量を有する熱可塑性ポリマー、前記熱可塑性ポリマーが可溶である溶媒、及び軟強磁性粒子材料を準備することと、
前記熱可塑性ポリマー、前記溶媒及び前記軟強磁性粒子材料を混合して、前記軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成することと、
前記軟強磁性粒子を含有する前記熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成することと、
前記溶媒からの前記熱可塑性ポリマーの相分離を誘起することと、
前記溶媒の少なくとも一部分を除去し、それにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、前記熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料とを有するポリマー複合体シートを形成することを含み、前記軟強磁性粒子材料の重量分率が、前記ポリマー複合体シートの総重量に基づいて、0.80~0.98であり、任意に、前記相分離を誘起する工程が、熱誘起相分離及び溶媒誘起相分離のうちの少なくとも1つを含み、
圧縮力の適用と同時に、振動エネルギーを前記ポリマー複合体シートに適用することを更に含み、前記振動エネルギーは、超音波エネルギーである、製造方法。
【請求項14】
前記混合する工程が、20℃~300℃の温度で実施され、任意に、前記相分離を誘起する工程が、前記混合する工程の温度より5℃~300℃低い温度で実施される、請求項13に記載のポリマー複合体シートの製造方法。
【請求項15】
前記形成する工程が、押出成形、ロールコーティング及びナイフコーティングのうちの少なくとも1つによって実施される、請求項13に記載のポリマー複合体シートの製造方法。
【請求項16】
前記溶媒を前記除去する工程の後に、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つを適用し、これにより、前記ポリマー複合体シートを高密度化すること、を更に含む、請求項13に記載のポリマー複合体シートの製造方法。
【請求項17】
前記ポリマー複合体シートの保磁力が200A/m以下である、請求項1に記載のポリマー複合体
シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、軟強磁性(ferromagnetic)粒子材料と、を含む、ポリマー複合体に関する。ポリマー複合体は、例えば、磁束場指向性材料(magnetic flux field directional materials)として使用することができる。本発明はまた、本開示のポリマー複合体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
磁場を変化させるのに有用な様々な複合体が、当該技術分野において開示されている。このような複合体は、例えば、米国特許第5,827,445号、同第5,828,940号及び同第9,105,382(B2)号並びに米国特許公開第2005/0012652(A1)号及び同第2006/0099454(A1)号に記載されている。更に、多孔質ポリマー材料を形成するための様々な方法が、当該技術分野において開示されている。このような複合体は、例えば、米国特許第5,196,262号及び同第6,524,742(B1)号に記載されている。
【発明の概要】
【0003】
一態様において、本開示は、ポリマー複合体であって、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料と、を含み、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体の総重量に基づいて、0.80~0.98であり、熱可塑性ポリマーは、5×104g/モル~5×107g/モルの数平均分子量を有する、ポリマー複合体を提供する。
【0004】
別の態様において、本開示は、第1主面を有するポリマー複合体シートの製造方法であって、(i)5×104g/モル~5×107g/モルの数平均分子量を有する熱可塑性ポリマー、熱可塑性ポリマーが可溶である溶媒、及び軟強磁性粒子材料を準備することと、(ii)熱可塑性ポリマー、溶媒及び軟強磁性粒子材料を混合して、軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成することと、(iii)軟強磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成することと、(iv)溶媒からの熱可塑性ポリマーの相分離を誘起することと、(v)溶媒の少なくとも一部分を除去し、それにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料とを有するポリマー複合体シートを形成することを含み、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体シートの総重量に基づいて、0.80~0.98である、方法を提供する。
【0005】
場合により、方法は、圧縮力の適用と同時に、振動エネルギーをポリマー複合体シートに適用すること、を更に含む。好ましくは、振動エネルギーは、超音波エネルギーである。
【0006】
以上が本開示の例示的な実施形態の様々な態様及び利点の概要である。上記の「発明の概要」は、本開示の特定の例示的な実施形態の、図示される各実施形態又は全ての実装を説明することを意図するものではない。以下の図面及び「発明を実施するための形態」は、本明細書に開示される原理を使用する特定の好ましい実施形態を、より詳細に例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
以下の本開示の様々な実施形態の詳細な説明を添付図面と併せて検討することで、本開示をより完全に理解し得る。
【
図1】本開示の例示的な一実施形態による例示的なポリマー複合体断面のSEM画像を示す。
【
図2】本開示の例示的な一実施形態による、ポリマー複合体が高密度化された後の、
図1の例示的なポリマー複合体断面のSEM画像を示す。 明細書及び図面中の参照文字が繰り返して使用されている場合、本開示の同じ又は類似の特徴又は要素を表すことを意図している。図面は、縮尺どおりに描かれていない場合がある。
【0008】
多くの他の変更形態及び実施形態を当業者であれば考案することができ、それらは本開示の原理の趣旨及び範囲に入ることは理解されるべきである。本明細書で用いる全ての科学用語及び技術用語は、別途明記しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味を有する。本明細書で与えられる定義は、本明細書で頻繁に用いる特定の用語の理解を助けるためのものであり、本開示の範囲の限定を意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の定義された用語の用語解説に関して、これらの定義は、特許請求の範囲又は本明細書の他の箇所において異なる定義が提供されていない限り、本出願全体について適用されるものとする。
【0010】
用語解説
特定の層に関する「接近する」という用語は、2つの層が互いに隣り合い(すなわち、隣接し)かつ直接接触しているか、又は互いと近接してはいるが直接接触はしていない(すなわち、これらの層の間に1つ以上の追加的な層が介在している)位置において、別の層と接合しているか、又はそれに取付けられていることを意味する。
【0011】
開示されるコーティングされた物品における様々な要素の場所について、配向の用語、例えば「~の上に(atop)」、「~上に(on)」、「~の上方に(over)」、「~を覆う(covering)」、「最上部の(uppermost)」、「~の下にある(underlying)」などを使用することによって、水平に配置され、上を向いた基材に対する、要素の相対位置について言及する。しかしながら、別途指示のない限り、基材又は物品は、製造中又は製造後において何らかの特定の空間的向きを有するべきであるということが意図されるわけではない。
【0012】
本開示の物品の基材又は他の要素に対する、ある層の位置を説明するために、「オーバーコーティングされた」という用語を使用することによって、その層が、基材又は他の要素の上にあるが、必ずしも基材又は他の要素と近接してはいないことについて言及する。
【0013】
他の層に対する、ある層の位置を説明するために、「~によって分離された」という用語を使用することによって、その層が、他の2つの層の間に位置するが、必ずしもどちらかの層と近接したり、又は隣接したりしてはいないことについて言及する。
【0014】
数値又は形状への言及に関する用語「約」又は「おおよそ」は、数値又は特性若しくは特徴の±5パーセントを意味するが、明示的に、正確な数値を含む。例えば、「約」1Pa・secの粘度とは、0.95~1.05Pa・secの粘度を指すが、1Pa・secちょうどの粘度も明示的に含むものとする。同様に、「実質的に正方形」の外辺部とは、各横方向縁部が、他のいずれかの横方向縁部の長さの95%~105%の長さを有する4つの横方向縁部を有する幾何形状を説明することを意図するが、これはまた、各横方向縁部が正確に同じ長さを有する幾何形状を含むものとする。特に指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用する量又は成分、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合、「約」という用語によって修飾されていると解するものとする。
【0015】
特性又は特徴に関する用語「実質的に」は、その特性又は特徴が、その特性又は特徴の反対のものが呈される程度よりも高い程度で呈されることを意味する。例えば、「実質的に」透明な基材は、それが透過しない(例えば、吸収する及び反射する)放射線よりも多くの放射線(例えば、可視光)を透過する基材を指す。それゆえに、その表面上に入射する可視光のうちの50%より多くを伝達する基材は、実質的に透明であるが、その表面上に入射する可視光のうちの50%以下を伝達する基材は、実質的に透明ではない。
【0016】
本明細書及び添付の実施形態において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に内容により明確な指示がない限り、複数の対象を含む。したがって、例えば「化合物(a compound)」を含有する微細繊維への言及は、2種以上の化合物の混合物を含む。本明細書及び添付の実施形態において使用されるとき、用語「又は」は、その内容が特に明確に指示しない限り、一般的に「及び/又は」を包含する意味で用いられる。
【0017】
本明細書全体を通して、「一実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」、又は「ある実施形態」に対する言及は、「実施形態」という用語の前に、「例示的な」という用語が含まれているか否かに関わらず、その実施形態に関連して説明される具体的な特色、構造、材料、又は特徴が、本開示の特定の例示的な実施形態のうちの少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して、様々な箇所における「1つ以上の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、又は「ある実施形態において」などの表現の出現は、必ずしも本開示の特定の例示的な実施形態のうちの同一の実施形態に言及するものとは限らない。更に、特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ以上の実施形態では任意の好適な方法で組み合わされてもよい。
【0018】
本開示の例示的な実施形態は、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な修正及び変更を採ってもよい。したがって、本開示の実施形態は、以下に記載の例示的な実施形態に限定されるものではないが、特許請求の範囲に記載されている限定及びそれらの任意の均等物により支配されるものであることを理解すべきである。
【0019】
解決すべき課題の説明
電話、タブレット、ビデオゲーム、ラップトップコンピュータなどのモバイル/ハンドヘルドデバイスをはじめとするが、これらに限定されない、様々な電子機器に対して、例えば、ワイヤレス充電などの新規及び改善された機能性を含めることが絶えず求められている。これらの携帯用電子機器の機能性追加に対する要求が大きくなるにつれ、対応する構成要素のために、当該機器内の利用可能なスペースは、減少する。更に、これらの新規及び改善された機能により、これらの機器への給電に必要な電池容量に対する要求も増大する。その結果、より高いワイヤレス充電(WPC)能力がますます必要とされている。
【0020】
ワイヤレス充電は、モバイル/ハンドヘルドデバイスに最近追加された機能の1つである。WPCに関する典型的な1つの要件は、電子機器内の特定の場所に磁場を集中及び/又は導くのとともに、他の領域を磁場から遮蔽する必要があることである。この目的のために、磁束場指向性材料(FFDM)を使用することができる。FFDMは、それ自体を介して、またWPCデバイスのレシーバコイルを介して、磁束密度を導くことができ、これにより、電池ケースなどの近傍にある金属部品に磁束が到達するのを防ぐ。電子機器の電池の再充電に関する電力需要、例えば、より高い電力及び大きな電力伝送レートの要件が増大するにつれて、FFDMは、増加する磁束の量を集中させ、方向転換できる必要がある。
【0021】
多数の電子機器設計のために、更に、FFDMは、機器内の所望のスペースに適合するように容易に構成される必要がある。この点において、可撓性材料が望ましい。しかしながら、最も一般的に使用されている現在のフェライトシートのFDDM材料は、剛直で、非可撓性になりやすい。
【0022】
更に、非晶質又はナノ結晶質のリボン(ナノリボン)は、高い磁束密度を方向転換する能力を有するが、消費者向け電子機器に組み込むには高価である。これらはまた、導電率が比較的大きく、その結果として渦電流損が誘導されることから、低周波用途に限定される。フェライトシートは、比較的低い飽和磁束密度に限定されており、製造する際に、破損なく、成形すること、加工すること、又は取り扱うことが非常に困難である。したがって、ワイヤレス電力伝送には、従来の複合体材料を使用するのが好ましい。しかしながら、加工上の制限により、現在の複合体材料において必要とされる磁性フレークの最大充填量は、約50体積パーセントでしかなく、高電力伝送用途における有用性を制限している。
【0023】
また、複合体材料を製造するために現在使用されているプロセスでは、例えば、フェライトと比較して、より高価な材料となる。コスト面の不利にもかかわらず、複合体材料は、低電力伝送レート(約5W)で、一部のFDDM用途に利用されている。しかしながら、これらの材料は、次世代デバイスにおける高い電力伝送レート(15W以上)に必要とされる高い磁束密度を局限化し、方向転換する能力が限られている。更に、WPCプロトコルは、より高い、場合により1MHzを超える周波数を伴うので、FFDMは、現在の複合体材料では達成されない厳しい材料要件、例えば、より低い抵抗率を満たす必要がある。全体として、形成特性の改善(例えば、可撓性の改善)、電力伝送レベルの増加及び低コストのうちの少なくとも1つを可能にする、改善されたFDDM材料が必要とされている。
【0024】
以下に、本開示の様々な例示的な実施形態を、図面を具体的に参照しながら説明する。本開示の例示的な実施形態には、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を加えてもよい。したがって、本開示の実施形態は、以下に記載の例示的な実施形態に限定されるものではないが、特許請求の範囲に記載されている限定及びそれらの任意の均等物により支配されるものであることを理解すべきである。
【0025】
したがって、例示的な一実施形態において、本開示は、例えば、改善された性能を有するFDDMとして機能することができる独自のポリマー複合体を提供する。本開示のポリマー複合体は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料と、を含む。
【0026】
軟強磁性粒子材料を含有する熱可塑性ポリマー溶媒混合物の誘起相分離を含む、ポリマー複合体の独自の製造方法では、製造プロセス中に形成される熱可塑性ポリマーのネットワーク構造により、軟強磁性粒子材料の充填量が極めて高く(最大約80体積パーセント)、ポリマー複合体中のポリマー含有量が低い(約4重量パーセントまで)ものにすることが可能である。結果として、このポリマー複合体の約100マイクロメートル厚のフィルムを使用することにより、高飽和磁束密度、例えば、0.67Tを達成することができ、これらのポリマー複合体により、電子機器の高出力ワイヤレス充電能力を改善することが可能である。熱可塑性ポリマーのネットワーク構造を含む複合体の独自の構造によりまた、本開示のポリマー複合体の改善された可撓性及び形成特性も可能である。
【0027】
一実施形態において、本開示は、ポリマー複合体であって、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料と、を含み、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体の総重量に基づいて、0.80~0.98であり、熱可塑性物質は、5×104g/モル~5×107g/モルの数平均分子量を有する、ポリマー複合体を提供する。熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、3次元網状構造とみなすことができる。
【0028】
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、本質的に多孔質であり、連続的な多孔質ネットワーク構造を有し得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の少なくとも一部分は、連続的な熱可塑性ポリマーのネットワーク構造である。いくつかの実施形態において、少なくとも10体積パーセント、少なくとも30体積パーセント、少なくとも50体積パーセント、少なくとも70体積パーセント、少なくとも90体積パーセント、少なくとも95体積パーセント又は更には熱可塑性ポリマーのネットワーク構造全体が、連続的な熱可塑性ポリマーのネットワーク構造である。
【0029】
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料に関連するポリマー複合体の体積の部分は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の一部とはみなされないことに留意されたい。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に均一に分散されている。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料が異方性軟強磁性粒子材料である場合、異方性軟強磁性粒子材料は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内にランダムに分散され得る。「ランダム」とは、その異方性に関して粒子材料の配向がないことを意味する。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料が異方性軟強磁性粒子材料である場合、異方性軟強磁性粒子材料は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に均一かつランダムに分散され得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料が異方性軟強磁性粒子材料である場合、異方性軟強磁性粒子材料は、その異方性軟強磁性粒子材料が熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内で配向されるように分散され得る。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料が異方性軟強磁性粒子材料である場合、異方性軟強磁性粒子材料は、その異方性軟強磁性粒子材料が熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内で配向されるように均一に分散され得る。
【0031】
ここで図面を参照すると、
図1は、本開示の例示的なポリマー複合体の断面のSEM顕微鏡写真を示す。
図1のポリマー複合体は、約30マイクロメートル~約100マイクロメートルの範囲の長さ寸法及び全体的に約1マイクロメートル~約5マイクロメートルの厚さを有するフレーク形状の軟強磁性粒子材料を含む。フレークの長さ寸法は、概ね、ポリマー複合体の上面に対して平行である。画像が断面のものであるので、フレークは、針状の物体が概ね互いに平行に走っているものとして現れる。熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、フレークとフレークの間に観察され、相互連結した複数の熱可塑性フィブリルを含む。
【0032】
この例示的な実施形態において、熱可塑性フィブリルは、全体的に、約5マイクロメートル~約15マイクロメートルの長さを有し、全体的に、約1マイクロメートル~約3マイクロメートルの厚さ、すなわち、幅を有する。軟強磁性粒子材料を含有する熱可塑性ポリマー溶媒混合物の誘起相分離と、それに続く、溶媒の抽出とを伴う、
図1のポリマー複合体を製造するために使用されるプロセスに基づくと、
図1に示す熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、連続的な熱可塑性ポリマーのネットワーク構造である。
【0033】
いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、相互連結した複数の熱可塑性フィブリルを含む。相互連結した熱可塑性フィブリルは、軟強磁性粒子材料の表面に直接接着し、軟強磁性粒子材料に対する結合剤として作用し得る。すなわち、いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、軟強磁性粒子材料の結合剤である。
【0034】
理論に束縛されることを望むものではないが、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の形成は、従来の複合体材料、すなわち、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造を有さない複合体と比較して、軟強磁性粒子材料のより高い質量/体積充填量を可能にするとともに、本開示のポリマー複合体に改善された可撓性をもたらすと考えられる。驚くべきことに、この独自の構造により、おそらく、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の可撓性の性質が増したことに起因して、最終用途における取扱い特性が良好になるとともに、おそらく、ポリマー複合体内の軟強磁性粒子材料の高充填量を得ることができることに起因して、磁性FFDMとしての性能が改善される。
【0035】
本開示のポリマー複合体の磁性FFDM特性を高めるために、ポリマー複合体中の軟強磁性粒子材料の量を増加させることが望ましい。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料の重量分率は、ポリマー複合体の総重量に基づいて、0.80~0.98、0.85~0.97又は更に0.90~0.96であり得る。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料の体積分率は、ポリマー複合体の総体積に基づいて、0.10~0.80、0.20~0.80、0.30~0.80、0.10~0.75、0.20~0.75、0.30~0.75、0.10~0.70、0.20~0.70又は更には0.30~0.70であり得る。
【0036】
更に、本開示のポリマー複合体の磁性FFDM特性を高めるために、高密度のポリマー複合体を有することが望ましい。ポリマー複合体の密度を増加させることは、限定するものではないが、より高い密度の軟強磁性粒子材料を使用すること、ポリマー複合体中の軟強磁性粒子材料をより高い重量分率で使用すること、及び/又はポリマー複合体の熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の一部分を高密度化すること、を含む、様々な方法で達成することができる。
【0037】
本開示のポリマー複合体の熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、圧縮力又は引張力のうちの少なくとも1つを適用することによって崩壊させることができ、これにより、ポリマー複合体を高密度化することができるので、本開示のポリマー複合体の独自の構造は、従来の複合体には使用され得ないポリマー複合体の代替的な高密度化手段を提供する。高密度化プロセスは、高い密度を達成することができるが、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造のうちの熱可塑性ポリマーの塑性変形を生じさせることが可能な温度で実施されてもよく、これにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の少しの部分を残すことが可能である。
【0038】
このプロセスにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の可撓性に関連して改善された取扱い特性をなお維持しながら、(崩壊されていないポリマー複合体と比較して)FFDM特性が強化された高密度材料が得られる。一般に、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が溶融する温度で熱可塑性ポリマーのネットワーク構造を崩壊させることは、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の喪失をもたらし得るため、望ましくない。いくつかの実施形態において、ポリマー複合体は、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度より高い温度にさらされない。
【0039】
いくつかの実施形態において、ポリマー複合体は、熱可塑性ポリマーの融解温度より高い温度にさらされない。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーに2種以上の熱可塑性ポリマーが使用される場合、ポリマー複合体は、熱可塑性ポリマーの最高ガラス転移温度より高い温度にさらされない。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーに2種以上の熱可塑性ポリマーが使用される場合、ポリマー複合体は、熱可塑性ポリマーの最高融解温度より高い温度にさらされない。
【0040】
図2は、
図1の例示的なポリマー複合体の、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が崩壊した後の断面SEM画像を示す。
図1と比較すると、ポリマー複合体は、高密度化されており、軟強磁性粒子(本実施形態の軟強磁性粒子フレーク材料)は、ともに圧縮されている。フレーク間の間隔は、有意に減少している。
【0041】
図1と比較すると、
図2の熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が圧縮力の適用により崩壊したため、有意に減少した。圧縮力の適用は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の塑性変形が生じる温度で実施された。
図2では、高密度ポリマー複合体が形成されているが、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の小さな領域が依然として識別可能である。
【0042】
いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、塑性変形され得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つによって塑性変形され得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、圧縮力のみによって塑性変形され得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、引張力のみによって塑性変形され得る。
【0043】
ポリマー複合体の可撓性は、曲げ弾性率試験などの様々な技術によって、又は、ポリマー複合体シートが、所定の半径、すなわち、所定の曲率半径を有する円筒形物体の周囲に沿って曲がる能力を調べることによって、決定することができる。いくつかの実施形態において、ポリマー複合体が20マイクロメートル~300マイクロメートルの厚さを有するシートの形態である場合、ポリマー複合体は、10mm、5mm又は更には3mmの曲率半径を形成するように曲がることができる。いくつかの実施形態において、ポリマー複合体が150マイクロメートルの厚さを有するシートの形態である場合、ポリマー複合体は、10mm、5mm又は更には3mmの曲率半径を形成するように曲がることができる。
【0044】
ネットワーク構造が少なくとも圧縮力によって塑性変形されるいくつかの実施形態において、圧縮力が適用される際、振動エネルギーが与えられてもよい。これらの実施形態のいくつかにおいて、ポリマー複合体シートは、不定(任意)の長さのストリップの形態であり、圧縮力を適用する工程は、ストリップがニップを通過する時に実施される。かかるニップを通過する際に引張荷重が適用されてもよい。
【0045】
例えば、ニップは、2つのロール(そのうちの少なくとも1つは、振動エネルギーを適用する)の間、ロールとバーと(そのうちの少なくとも1つは、振動エネルギーを適用する)の間、又は2つのバー(そのうちの少なくとも1つは、振動エネルギーを適用する)の間に形成され得る。圧縮力及び振動エネルギーの適用は、連続的なロールツーロール方式、又はステップアンドリピート方式で達成することができる。
【0046】
特定の実施形態において、圧縮力を適用する工程は、例えば、プレートとプラテン(そのうちの少なくとも1つは、振動エネルギーを適用する)の間に位置決めされた、限定された長さを有する個別のシートに対して実施される。
【0047】
いくつかの実施形態において、振動エネルギーは、例えば、20kHzの超音波範囲であるが、他の範囲も好適であると考えられる。圧縮力の適用中に振動エネルギーを利用する場合、優れた磁気特性を依然として得ると同時に、52体積%より大きい粒子分率を達成することができる。保磁力が240A/m以下、又は更には200A/m以下のポリマー複合体シートを得ることができる。
【0048】
ポリマー複合体が、第1主面を有するシートの形態であり、軟強磁性粒子が、長さ寸法/厚さ寸法に基づいて少なくとも1のアスペクト比、すなわち、1よりも大きいアスペクト比を有する場合(形状、例えば、フレークに関して異方性である粒子)、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の変形、例えば、塑性変形により、軟強磁性粒子の長さ寸法を、ポリマー複合体の第1主面に対して配向し得る。
【0049】
異方性軟強磁性粒子の長さ寸法をポリマー複合体シートの第1主面に対して整列又は配向させることにより、ポリマー複合体のFFDM特性を改善し得る。いくつかの実施形態において、ポリマー複合体は、第1主面を有するシートの形態であり、軟強磁性粒子材料は、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークは、第1主面と、フレークの第1主面に対して垂直な厚さと、を有し、フレークの第1主面の大部分が、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内になるように配向されている。
【0050】
「大部分」とは、フレークの第1主面の少なくとも50パーセントのフレークが、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内になるように配向されていることを意味する。いくつかの実施形態において、フレークの第1主面のうちの少なくとも30パーセント、少なくとも50パーセント、少なくとも70パーセント、少なくとも80パーセント、少なくとも90パーセント、少なくとも95パーセント、少なくとも98パーセント又は更には100パーセントが、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して、少なくとも25度、少なくとも20度、少なくとも15度又は更には少なくとも更に10度以内になるように配向されている。
【0051】
いくつかの実施形態において、ポリマー複合体は、第1主面と、20マイクロメートル~5000マイクロメートルの厚さと、を有するシートの形態であり、軟強磁性粒子材料は、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークは、第1主面と、フレークの第1主面に対して垂直な厚さと、を有し、フレークの第1主面の大部分が、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内になるように配向されている。
【0052】
ポリマー複合体の密度は、使用される軟強磁性粒子材料の密度及び量、熱可塑性ポリマーの密度、並びに熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の多孔率(porosity)に応じて変動し得る。一般に、密度が高いほど、ポリマー複合体の磁気特性、例えば、FFDM特性が大きくなる。
【0053】
いくつかの実施形態において、ポリマー複合体の密度は、1.5g/cm3~6g/cm3、1.5g/cm3~5.5g/cm3、1.5g/cm3、3.0g/cm3、1.5g/cm3~2.5g/cm3、3.0g/cm3~6.0g/cm3、3.0g/cm3~5.5g/cm3、3.0g/cm3~5.0g/cm3、3.5g/cm3~6.0g/cm3、3.5g/cm3~5.5g/cm3又は更には3.5g/cm3~5.0g/cm3である。
【0054】
ポリマー複合体の厚さ、例えば、ポリマー複合体シートの厚さは、特に限定されない。しかしながら、多くの用途、例えば、モバイル/ハンドヘルド電子機器において、ポリマー複合体の厚さ、例えば、ポリマー複合体シートの厚さは、5000マイクロメートル未満、3000マイクロメートル未満又は更には1000マイクロメートル未満、かつ20マイクロメートル超、40マイクロメートル超又は更には60マイクロメートル超であることが望ましい。
【0055】
いくつかの実施形態において、ポリマー複合体の厚さ、例えば、ポリマー複合体シートの厚さは、20マイクロメートル~5000マイクロメートル、20マイクロメートル~3000マイクロメートル、20マイクロメートル~1000マイクロメートル、20マイクロメートル~500マイクロメートル、20マイクロメートル~300マイクロメートル、40マイクロメートル~5000マイクロメートル、40マイクロメートル~3000マイクロメートル、40マイクロメートル~1000マイクロメートル、40マイクロメートル~500マイクロメートル、40マイクロメートル~300マイクロメートル、60マイクロメートル~5000マイクロメートル、60マイクロメートル~3000マイクロメートル、60マイクロメートル~1000マイクロメートル、60マイクロメートル~500マイクロメートル又は更には60マイクロメートル~300マイクロメートルである。
【0056】
ポリマー複合体の磁気特性に影響を与えるポリマー複合体の態様としては、ポリマー複合体に使用される軟強磁性粒子材料の種類及び量、粒子形状、例えば、フレーク、並びに粒子の配向(形状異方性である場合)が挙げられるが、これらに限定されない。ポリマー複合体シートの第1主面に対する、軟強磁性粒子フレーク材料のフレークの第1主面の配向は、ポリマー複合体シートの磁気特性の強化をもたらし得る。
【0057】
「配向」とは、フレークの第1主面が、複合体シートの第1主面と位置合わせされることを意味する。完全な位置合わせ、すなわち、完全な配向は、フレークの第1主面がポリマー複合体シートの第1主面に対して平行である場合、すなわち、フレークの第1主面とポリマー複合体の第1主面との間の角度が0度である場合である。
【0058】
いくつかの実施形態において、ポリマー複合体は、600mT~1000mT、600mT~900mT、700~100mT又は更には700~900mTの磁気飽和誘導を有する。
【0059】
電磁気学において、材料内での磁場の形成を支持する材料の能力は、透磁率μと呼ばれ、適用された磁場に応じて材料が磁化し得る程度を表す。比透磁率は、材料の透磁率μと、自由空間、すなわち、真空の透磁率μoとの比である。自由空間の透磁率μoは、1.257×10-6H/mと定義することができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、1MHzの周波数における本開示のポリマー複合体の比透磁率の大きさμ/μoは、70超、150超又は更には500超であり得る。いくつかの実施形態において、50MHz~1000MHzの周波数における比透磁率の大きさは、70超、150超又は更には500超である。いくつかの実施形態において、50MHz~300MHzの周波数における比透磁率の大きさは、70超、150超又は更には500超である。
【0061】
ポリマー複合体は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造に形成される熱可塑性ポリマーを含む。熱可塑性ポリマーは、特に限定されない。したがって、いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリ乳酸)、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6,6及びポリペプチド)、ポリエーテル(ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシド)、ポリカーボネート(ビスフェノール-A-ポリカーボネート)、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリレート(例えば、アクリレート官能基を含有するモノマーの付加重合から形成される熱可塑性ポリマー)、ポリメタクリレート(例えば、メタクリレート官能基を含有するモノマーの付加重合から形成される熱可塑性ポリマー)、ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレン)、スチレン及びスチレン系ランダムコポリマー及びブロックコポリマー、塩素化ポリマー(ポリ塩化ビニル)、フッ素化ポリマー(ポリフッ化ビニリデン;テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びフッ化ビニリデンのコポリマー;エチレン、テトラフルオロエチレン、及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマー;並びにポリテトラフルオロエチレン)、並びにエチレン及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマーのうちの少なくとも1つが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
熱可塑性ポリマーは、ホモポリマー及びコポリマー(例えばブロックコポリマー又はランダムコポリマー)のうちの少なくとも1つであってよい。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーは、2種以上の熱可塑性ポリマーの混合物であり、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンとの混合物又はポリエチレンとポリアクリレートとの混合物である。いくつかの実施形態において、ポリマーは、ポリエチレン(例えば、超高分子量ポリエチレン)、ポリプロピレン(例えば、超高分子量ポリプロピレン)、ポリ乳酸、ポリ(エチレン-co-クロロトリフルオロエチレン)及びポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも1つであってよい。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーは、単一の熱可塑性ポリマーであり、すなわち、2種以上の熱可塑性ポリマーの混合物ではない。
【0063】
熱可塑性ポリマーの分子量は、溶媒から相分離することができ、ネットワーク構造の形成をもたらすのに十分な分子量を有する必要があることを除き、特に限定されない。一般に、熱可塑性ポリマーの数平均分子量は、5×104g/モルより高いことを必要とし得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーの数平均分子量は、5×104g/モル~5×107g/モル、5×104g/モル~1×107g/モル、5×104g/モル~5×106g/モル、1×105g/モル~1×107g/モル、1×105g/モル~5×106g/モル、1×106g/モル~1×107g/モル、3×106g/モル~1×107g/モル、5×106g/モル~1×107g/モル、1×106g/モル~5×107g/モル、3×106g/モル~5×107g/モル、5×106g/モル~5×107g/モル又は更には1×106g/モル~5×106g/モルであり得る。
【0064】
超高分子量を有する熱可塑性ポリマーが特に有用であり得る。いくつかの実施形態において、超高分子量とは、少なくとも3×106g/モルの数平均分子量を有する熱可塑性ポリマーと定義される。数平均分子量は、限定するものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を含む、当該技術分野において既知の技術によって測定することができる。GPCは、熱可塑性ポリマーに対しての良溶媒中、分子量分布の狭いポリマー標準、例えば、分子量分布の狭いポリスチレン標準の使用を伴って、実施することができる。
【0065】
熱可塑性ポリマーは、一般に、部分的に結晶質であることを特徴とし、融点を示す。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーは、120℃~350℃の間、120℃~300℃の間、120℃~250℃の間又は更には120℃~200℃の間に融点を有する。熱可塑性ポリマーの融点は、当該技術分野において既知の技術によって測定することができ、これには、5mg~10mgの試料を用いて、試料が窒素雰囲気下にある間、10℃/分の加熱走査速度で実施される示差走査熱量測定(DSC)試験にてオンセット温度を測定することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
ポリマー複合体の熱可塑性ポリマーは、熱可塑性ポリマーと適切な溶媒とを混合して混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成することと、続いて、熱可塑性ポリマーを溶媒から相分離することと、次いで溶媒の少なくとも一部分を除去することと、を含む、プロセスを介して、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造に形成される。このプロセスは、典型的には、相分離の前に、軟強磁性粒子材料を混和性ポリマー溶媒溶液に添加することによって実施される。熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、このプロセスの相分離工程中に形成され得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液の誘起相分離によって製造される。
【0067】
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造には、本質的に多孔性があり、すなわち、孔を含む。孔は連続的であってもよく、これにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の内側領域から熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の表面への流体連通、及び/又は熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の第1の表面と熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の反対側の第2の表面との間の流体連通が可能になる。
【0068】
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の孔径は、特に限定されない。いくつかの実施形態において、孔径は、マイクロメートル尺度のものであり、すなわち、約1マイクロメートル~1000マイクロメートルである。いくつかの実施形態において、孔径は、ナノメートル尺度のものであり、すなわち、約10ナノメートル~1000ナノメートルである。
【0069】
いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の平均孔径又はメジアン孔径P、は、10ナノメートル~1000マイクロメートル、10ナノメートル~500マイクロメートル、10ナノメートル~250マイクロメートル、10ナノメートル~100マイクロメートル、10ナノメートル~50マイクロメートル、10ナノメートル~25マイクロメートル、100ナノメートル~1000マイクロメートル、50ナノメートル~1000マイクロメートル、50ナノメートル~500マイクロメートル、50ナノメートル~250マイクロメートル、50ナノメートル~100マイクロメートル、50ナノメートル~50マイクロメートル、50ナノメートル~25マイクロメートル、100ナノメートル~1000マイクロメートル、100ナノメートル~500マイクロメートル、100ナノメートル~250マイクロメートル、100ナノメートル~100マイクロメートル、100ナノメートル~50マイクロメートル、100ナノメートル~25マイクロメートル、250ナノメートル~1000マイクロメートル、250ナノメートル~500マイクロメートル、250ナノメートル~250マイクロメートル、250ナノメートル~100マイクロメートル、250ナノメートル~50マイクロメートル又は更には250ナノメートル~25マイクロメートルである。
【0070】
断面の撮像(例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡)及び適切なソフトウェア、例えば、ImageJソフトウェア(例えば、http://imagej.netからオンラインで入手可能なオープンソースソフトウェア)を使用した画像解析を含む、従来の孔径分析技術を使用して、孔径及び孔径分布を統計的に分析することができる。また、X線マイクロトモグラフィ及び水銀ポロシメトリ-、バブルポイント及びキャピラリーフローポロメトリーを使用して、孔径及び/又は孔径分布を分析することができる。
【0071】
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の孔の連続的性質は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造からの溶媒の除去を促進し得る。本開示において、「熱可塑性ポリマーのネットワーク構造」という用語は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の孔の少なくとも一部分が液体及び固体を含まず、例えば、空気などの1つ以上の気体を含有することを本質的に意味する。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の孔の10体積パーセント~100体積パーセント、30体積パーセント~100体積パーセント、50体積パーセント~100体積パーセント、60体積パーセント~100体積パーセント、70体積パーセント~100体積パーセント、80体積パーセント~100体積パーセント、90体積パーセント~100体積パーセント、95体積パーセント~100体積パーセント、又は更には98体積パーセント~100体積パーセントは、液体及び固体を含まず、例えば、空気などの1つ以上の気体を含有する。
【0072】
混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成するために、溶媒は、熱可塑性ポリマーを溶解することが必要とされる。したがって、特定の熱可塑性ポリマーに対する溶媒は、この要件に基づいて選択される。熱可塑性ポリマー溶媒混合液は、熱可塑性ポリマーの溶媒中への溶解を促進するために加熱してもよい。熱可塑性ポリマーを溶媒から相分離した後、溶媒の蒸発、又は蒸気圧の低い第2の溶媒による溶媒の抽出と、それに続く第2の溶媒の蒸発と、を含む、当該技術分野において既知の技術を使用して、溶媒の少なくとも一部分を熱可塑性ポリマーのネットワーク構造から除去する。
【0073】
いくつかの実施形態において、少なくとも10重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも30重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも50重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも60重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも70重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも80重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも90重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも95重量パーセント~100重量パーセント又は更には少なくとも98重量パーセント~100重量パーセントの溶媒及び第2の溶媒(使用される場合)が、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造から除去される。
【0074】
本開示のポリマー複合体は、軟強磁性粒子材料を含む。強磁性粒子材料を説明する際の「軟(質)」は、当該技術分野における従来の意味を有し、非磁性粒子材料が、磁場内、例えば、弱い磁場内に置かれたときに、磁気を帯びる能力に関する。軟強磁性粒子材料の誘導された磁気は、磁場が取り除かれると、実質的に消滅する。すなわち、材料は、適用される磁場において可逆的な磁性を呈する。
【0075】
いくつかの実施形態において、軟磁性粒子材料の保磁力は、1A/m~1000A/m、10A/m~1000A/m又は更には30A/m~1000A/mである。いくつかの実施形態において、軟磁性粒子材料の保磁力は、1000A/m以下である。軟強磁性粒子材料は、狭いヒステリシスループ、すなわち、低い値の保磁力Hc、高い磁気飽和誘導、高い透磁率を有し得、高周波数用途については、渦電流損を最小にするために、低い導電率を有することが望ましい。
【0076】
いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料は、Fe-Cr合金、Fe-Si合金(Tianjin Ecotech Trade Co.,Ltd.(Tianjin,China)からSENDUSTの商品名で市販されているFe-Si-Al、及びFe-Si-Crが挙げられるが、これらに限定されない)、FeCoB、Fe系非晶質合金、ナノ結晶質Fe系酸化物及びナノ結晶質Fe系窒化物が挙げられるが、これらに限定されない鉄;Ni-Fe合金及びNi-Si合金が挙げられるが、これらに限定されないニッケル系合金;CoNbZr;並びにホウ素系非晶質合金の少なくとも1つを含み得る。
【0077】
軟強磁性粒子材料の形状は、特に限定されないが、フレーク状の粒子が特に有益であり得る。フレークは、第1主面及び第2主面を有し、かつ第1主面及び第2主面のうちの少なくとも1つに対して実質的に垂直な厚さを有する、不規則な形状の板状構造とみなすことができる。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料は、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークは、第1主面と、フレークの第1主面に対して垂直な最大厚さTと、を有する。
【0078】
軟強磁性粒子フレーク材料のフレークは、メジアン径D50(長さ寸法Lに関する)及び最大厚さTによって特徴付けることができる。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子材料は、異方性軟強磁性粒子材料であり得る。異方性軟強磁性粒子のアスペクト比は、例えば、粒径分析によって決定されるメジアン径D50を、例えば、画像解析によって決定される異方性粒子の最大厚さで割ったものとして定義することができる。
【0079】
特定の群の軟強磁性粒子材料に関して、最大厚さの値は、中央(メジアン)値Tmとすることができる。D50/Tmの比は、メジアンアスペクト比である。いくつかの実施形態において、メジアンアスペクト比D50/Tmは、5/1~1000/1、10/1~1000/1、20/1~1000/1、5/1~500/1、10/1及び~500/1、20/1~500/1、5/1~200/1、10/1~200/1又は更には20/1~200/1である。
【0080】
いくつかの実施形態において、ポリマー複合体の断面画像で観察され測定されるフレークの画像長さLiをフレークの長さとすることができ、ポリマー複合体の断面画像で観察され測定されるフレークの画像厚さTiをフレークの最大厚さとすることができる。画像は、例えば、光学顕微鏡写真又はSEMであってよい。特定の群の軟強磁性粒子フレーク材料に関して、Li及びTiの値は、標準的な統計解析法を使用したフレークのサブセットの平均値Lia(平均画像長さ)及び平均値Tia(平均画像厚さ)とすることができる。いくつかの実施形態において、Lia/Tiaは、5/1~1000/1、10/1~1000/1、20/1~1000/1、5/1~500/1、10/1~500/1、20/1~500/1、5/1~200/1、10/1~200/1又は更には20/1~200/1である。
【0081】
いくつかの実施形態において、D50は、5マイクロメートル~5000マイクロメートル、5マイクロメートル~1000マイクロメートル、5マイクロメートル~500マイクロメートル、5マイクロメートル~200マイクロメートル、10マイクロメートル~5000マイクロメートル、10マイクロメートル~1000マイクロメートル、10マイクロメートル~500マイクロメートル、10マイクロメートル~200マイクロメートル、25マイクロメートル~5000マイクロメートル、25マイクロメートル~1000マイクロメートル、25マイクロメートル~500マイクロメートル又は更には25マイクロメートル~200マイクロメートルである。
【0082】
いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子フレーク材料のフレークは、メジアン径D50を有し、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、平均孔径Pを有し、D50>2Pである。いくつかの実施形態において、D50は、25マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pは、50ナノメートル~25マイクロメートルであり、D50>2Pである。いくつかの実施形態において、D50は、10マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pは、50ナノメートル~25マイクロメートルであり、D50>2Pである。いくつかの実施形態において、D50は、25マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pは、50ナノメートル~25マイクロメートルであり、D50>4Pである。いくつかの実施形態において、D50は、10マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pは、50ナノメートル~25マイクロメートルであり、D50>4Pである。いくつかの実施形態において、D50は、25マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pは、50ナノメートル~25マイクロメートルであり、D50>6Pである。いくつかの実施形態において、D50は、10マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pは、50ナノメートル~25マイクロメートルであり、D50>6Pである。
【0083】
本開示はまた、第1主面を有するポリマー複合体シートの製造方法であって、(i)5×104g/モル~5×107g/モルの数平均分子量を有する熱可塑性ポリマー、熱可塑性ポリマーが可溶である溶媒、及び軟強磁性粒子材料を準備することと、(ii)熱可塑性ポリマー、溶媒及び軟強磁性粒子材料を混合して、軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成することと、(iii)軟強磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成することと、(iv)溶媒からの熱可塑性ポリマーの相分離を誘起することと、(v)溶媒の少なくとも一部分を除去し、それにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料とを有するポリマー複合体シートを形成することを含み、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体シートの総重量に基づいて、0.80~0.98である、製造方法を提供する。
【0084】
溶媒は、特定の温度で、熱可塑性ポリマーを溶解し、混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成することができるように選択される。溶液を高温に加熱することにより、熱可塑性ポリマーの溶解を促進することができる。
【0085】
いくつかの実施形態において、混合する工程は、20℃~300℃、20℃~250℃、20℃~200℃、20℃~150℃、40℃~300℃、40℃~250℃、40℃~200℃、40℃~150℃、60℃~200℃又は更には60℃~150℃の温度で実施される。
【0086】
軟強磁性粒子材料は、熱可塑性ポリマーを溶解する前に、熱可塑性ポリマーを溶解した後、又はその前後間の任意の時点で、混合する工程の開始時に添加され得る。剪断力が軟強磁性粒子材料の粒径分布に変化をもたらす可能性があることから、軟強磁性粒子材料がさらされる剪断力の大きさを最小にするために、ポリマーが完全に溶解し、混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液が形成された後に、軟強磁性粒子材料を添加することが有利であり得る。
【0087】
溶媒、例えば、第1の溶媒は、混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成するように選択される必要があることを除き、特に限定されない。溶媒は、2つ以上の個々の溶媒のブレンドであってもよい。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーがポリオレフィン、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンのうちの少なくとも1つである場合、溶媒には、鉱油、テトラリン、デカリン、1,2-ジクロロベンゼン、シクロヘキサン-トルエン混合物、ドデカン、パラフィン油、ケロシン、p-キシレン/シクロヘキサン混合物(1/1 重量/重量)、カンフェン、1,2,4トリクロロベンゼン、オクタン、オレンジ油、植物油、ヒマシ油及びパーム核油のうちの少なくとも1つが、選択され得る。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーがポリフッ化ビニリデンである場合、溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及び1,2,3-トリアセトキシプロパンのうちの少なくとも1つであり得る。
【0088】
溶媒は、蒸発によって除去することができ、この除去方法には、蒸気圧の高い溶媒が特に適している。しかしながら、第1の溶媒が低い蒸気圧を有する場合、蒸気圧の高い第2の溶媒を使用して第1の溶媒を抽出し、続いて、第2の溶媒の蒸発を行うことができる。例えば、いくつかの実施形態において、鉱油を第1の溶媒として使用する場合、高温(例えば、約60℃)のイソプロパノール、又はメチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OCH3)、エチル-ノナフルオロブチルエーテル(C4F9OC2H5)、及びtrans-1,2-ジクロロエチレンのブレンド(3M Company(St.Paul,Minnesota)からNOVEC 72DEの商品名で入手可能)を第2の溶媒として使用して、第1の溶媒を抽出し、続いて、第2の溶媒の蒸発を行うことができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、植物油又はパーム核油のうちの少なくとも1つを第1の溶媒として使用する場合、高温、例えば、約60℃のイソプロパノールを第2の溶媒として使用することができる。いくつかの実施形態において、エチレンカーボネートを第1の溶媒として使用する場合、水を第2の溶媒として使用することができる。
【0090】
熱可塑性ポリマー、溶媒及び軟強磁性粒子材料を混合して、軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成した後に、軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成する。
【0091】
軟強磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成することは、一般に、相分離を誘起する工程の前に実施される。シートに形成する工程は、当該技術分野において既知の技術によって実施することができ、これにはナイフコーティング、ロールコーティング、例えば、画定されたニップに通すロールコーティング、及び押出成形、例えば、ダイに通す押出成形、例えば、適切なシート寸法、すなわち、ダイ間隙の幅及び厚さを有するダイに通す押出成形が挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態において、軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液は、ペースト様の稠度を有し、押出成形、例えば、適切なシート寸法、すなわち、ダイ間隙の幅及び厚さを有するダイに通す押出成形によってシートに形成される。
【0092】
軟強磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成した後に、熱可塑性ポリマーを相分離させる。相分離は、熱可塑性ポリマーの相分離を誘起することによって実施される。相分離を誘起するには、いくつかの技術を使用することができ、これには熱誘起相分離及び溶媒誘起相分離のうちの少なくとも1つが挙げられるがこれらに限定されない。
【0093】
いくつかの実施形態において、相分離を誘起する工程は、熱誘起相分離及び溶媒誘起相分離のうちの少なくとも1つを含む。熱誘起相分離は、誘起相分離が行われる温度が、熱可塑性ポリマー、溶媒及び軟強磁性粒子材料を混合する工程の混合温度よりも低いときに生じ得る。これは、混合工程が室温近くで実施される場合、軟強磁性粒子材料を含有する混和性ポリマー溶媒溶液を冷却することによって達成してもよく、又は、まず、軟強磁性粒子材料を含有する混和性ポリマー溶媒溶液を高温まで加熱し(混合中又は混合後のいずれか)、続いて、軟強磁性粒子材料を含有する混和性ポリマー溶媒溶液の温度を下げることによって達成してもよく、これにより、熱可塑性ポリマーの相分離が誘起される。いずれの場合も、冷却工程は、溶媒からの熱可塑性ポリマーの相分離をもたらす。
【0094】
溶媒誘起相分離は、軟強磁性粒子材料を含有する混和性ポリマー溶媒溶液に第2の溶媒として熱可塑性ポリマーに対しての貧溶媒を添加することによって実施することができ、又は、軟強磁性粒子材料を含有する混和性ポリマー溶媒溶液の溶媒の少なくとも一部分を除去することによって、例えば、軟強磁性粒子材料を含有する混和性ポリマー溶媒溶液の溶媒の少なくとも一部分を蒸発させることによって、達成することができ、これにより、熱可塑性ポリマーの相分離が誘起される。
【0095】
相分離技術の組み合わせ、例えば、熱誘起相分離と溶媒誘起相分離の組み合わせも利用することができる。熱誘起相分離は、混合工程が高温で実施される場合、熱可塑性ポリマーの溶解も促進するため、有利であり得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、相分離を誘起する工程は、混合工程の温度より5℃~300℃低い温度、混合工程の温度より5℃~250℃低い温度、混合工程の温度より5℃~200℃低い温度、混合工程の温度より5℃~150℃低い温度、混合工程の温度より15℃~300℃低い温度、混合工程の温度より15℃~250℃低い温度、混合工程の温度より15℃~200℃低い温度、混合工程の温度より15℃~130℃低い温度又は更には混合工程の温度より25℃~110℃低い温度で実施される。
【0097】
相分離の誘起後、溶媒の少なくとも一部分がポリマー複合体から除去され、これにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料と、を有するポリマー複合体シートであって、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体シートの総重量に基づいて、0.80~0.98である、ポリマー複合体シートが形成される。
【0098】
溶媒は、蒸発によって除去することができ、この除去方法には、蒸気圧の高い溶媒が特に適している。しかしながら、第1の溶媒が低い蒸気圧を有する場合、蒸気圧の高い第2の溶媒を使用して第1の溶媒を抽出し、続いて、第2の溶媒の蒸発を行うことができる。いくつかの実施形態において、少なくとも10重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも30重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも50重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも60重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも70重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも80重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも90重量パーセント~100重量パーセント、少なくとも95重量パーセント~100重量パーセント又は更には少なくとも98重量パーセント~100重量パーセントの溶媒が熱可塑性ポリマーのネットワーク構造から除去される。
【0099】
相分離を誘起する工程又は溶媒の少なくとも一部分を除去する工程のいずれかの後、形成された熱可塑性ポリマーのネットワーク構造は、ポリマー複合体を高密度化するために、崩壊され得る。これは、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つをポリマー複合体、例えば、ポリマー複合体シートに適用することによって達成することができる。いくつかの実施形態において、ポリマー複合体の製造方法は、溶媒を除去する工程の後に、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つを適用し、これにより、ポリマー複合体シートを高密度化すること、を更に含む。
【0100】
圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つは、当該技術分野において既知の技術によって適用され得る。例えば、圧縮力は、ポリマー複合体、例えば、ポリマー複合体シートを、ポリマー複合体の厚さよりも小さい間隙を有する一対のニップロールのニップに通すことによって、例えば、カレンダー加工することによって、達成することができる。熱可塑性ポリマーのネットワーク構造を有しない従来の複合体とは異なり、ポリマー複合体の最終密度は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の崩壊の程度、例えば、先の圧縮力の例においては、ポリマー複合体厚さに対するニップ厚さに応じて、制御することができる。
【0101】
別の例において、テンタリングプロセスを介して、引張力をポリマー複合体、例えば、ポリマー複合体シートに適用してもよい。熱可塑性ポリマーのネットワーク構造を有しない従来の複合体とは異なり、ポリマー複合体の最終密度は、熱可塑性ネットワーク構造の崩壊の程度、例えば、先の引張力の例においては、ポリマー複合体シートの延伸の量に応じて、制御することができる。
【0102】
異方性軟強磁性粒子材料が使用される場合、ポリマー複合体、例えば、ポリマー複合体シートを製造するために使用されるプロセス、及び/又はポリマー複合体を崩壊させてポリマー複合体を高密度化するために使用されるプロセスはまた、軟強磁性粒子材料、例えば、軟強磁性粒子フレーク材料を配向し得る。ポリマー複合体が、第1主面を有するポリマー複合体シートの形態である場合、ポリマー複合体の製造方法は、異方性軟強磁性粒子材料の最大長さ寸法が、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内、少なくとも20度以内、少なくとも15度以内又は更には少なくとも10度以内になるように配向されるように、異方性軟強磁性粒子材料を配向すること、を更に含み得る。
【0103】
いくつかの実施形態において、異方性軟強磁性粒子材料の最大長さ寸法は、ポリマー複合体シートの製造に使用されるプロセスの機械方向に配向され得る。ポリマー複合体が、第1主面を有するポリマー複合体シートの形態であり、軟強磁性粒子材料が、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークが、第1主面を有する場合、ポリマー複合体の製造方法は、フレークの第1主面の大部分が、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内、少なくとも20度以内、少なくとも15度以内又は更には少なくとも10度以内になるように配向されるように、軟強磁性粒子フレーク材料を配向すること、を更に含み得る。いくつかの実施形態において、軟強磁性粒子フレーク材料の第1主面は、ポリマー複合体シートを製造するために使用されるプロセスの機械方向に配向され得る。
【0104】
例示的実施形態の列挙
本開示の選択した実施形態は、以下を含むがそれらに限定されない。
【0105】
第1の実施形態において、本開示は、ポリマー複合体であって、
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、
その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料と、を含み、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体の総重量に基づいて、0.80~0.98であり、熱可塑性ポリマーは、5×104g/モル~5×107g/モルの数平均分子量を有する、ポリマー複合体を提供する。
【0106】
第2の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーが、1×105g/モル~1×107g/モルの数平均分子量を有する、第1の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0107】
第3の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーが、1×106g/モル~5×106g/モルの数平均分子量を有する、第1の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0108】
第4の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が塑性変形している、第1~第3の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0109】
第5の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つによって塑性変形されている、第4の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0110】
第6の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体の総重量に基づいて、0.85~0.97である、第1~第5の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0111】
第7の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体の総重量に基づいて、0.90~0.96である、第1~第6の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0112】
第8の実施形態において、本開示は、ポリマー複合体の密度が1.5g/cm3~6g/cm3である、第1~第7の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0113】
第9の実施形態において、本開示は、ポリマー複合体の密度が1.5g/cm3~5.5g/cm3である、第1~第8の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0114】
第10の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料が、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークが、第1主面と、フレークの第1主面に対して垂直な厚さと、を有する、第1~第9の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0115】
第11の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子フレーク材料のフレークが、メジアン径D50及びメジアン最大厚さTmを有し、メジアンアスペクト比D50/Tmが、5/1~1000/1である、第10の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0116】
第12の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子フレーク材料のフレークが、メジアン径D50を有し、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が、メジアン孔径Pを有し、D50>2Pである、第10又は第11の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0117】
第13の実施形態において、本開示は、D50が、25マイクロメートル~5000マイクロメートルであり、Pが、50ナノメートル~25マイクロメートルである、第12の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0118】
第14の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料が、Fe-Cr合金、Fe-Si合金、FeCoB、Fe系非晶質合金、ナノ結晶質Fe系酸化物及びナノ結晶質Fe系窒化物、ニッケル系合金、CoNbZr並びにホウ素系非晶質合金のうちの少なくとも1つである、第1~第13の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0119】
第15の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、スチレン及びスチレン系ランダムコポリマー及びブロックコポリマー、塩素化ポリマー、フッ素化ポリマー、並びにエチレン及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマーのうちの少なくとも1つを含む、第1~第14の実施形態のいずれか1に記載のポリマー複合体を提供する。
【0120】
第16の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーが、80℃~350℃の少なくとも1つの融点を有する、第1~第15の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0121】
第17の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーが、120℃~300℃の間に少なくとも1つの融点を有する、第1~第16の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0122】
第18の実施形態において、本開示は、ポリマー複合体が、第1主面と、20マイクロメートル~5000マイクロメートルの厚さと、を有するシートの形態である、第1~第17の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0123】
第19の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料が、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークが、第1主面と、フレークの第1主面に対して垂直な厚さと、を有し、フレークの第1主面の大部分が、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内になるように配向されている、第18の実施形態に記載のポリマー複合体を提供する。
【0124】
第20の実施形態において、本開示は、ポリマー複合体が20マイクロメートル~300マイクロメートルの厚さを有するシートの形態である場合、ポリマー複合体が10mmの曲率半径を形成するように曲がることができる、第1~第19の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0125】
第21の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料の保磁力が、1000A/m以下であり、場合により、軟強磁性粒子材料の保磁力が、1A/m~1000A/mである、第1~第20の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0126】
第22の実施形態において、本開示は、磁気飽和誘導が、600mT~1000mTである、第1~第21の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0127】
第23の実施形態において、本開示は、1MHzにおける比透磁率の大きさが70よりも大きい、第1~第22の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0128】
第24の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造が、混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液の誘起相分離によって製造され、場合により、誘起相分離は、熱誘起相分離及び溶媒誘起相分離のうちの少なくとも1つである、第1~第23の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0129】
第25の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の孔の10体積パーセント~100体積パーセントが、液体及び固体を含まない、第1~第24の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0130】
第26の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料の体積分率が、ポリマー複合体の総体積に基づいて、0.10~0.75である、第1~第25の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0131】
第27の実施形態において、本開示は、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造の孔の10体積パーセント~100体積パーセント、30体積パーセント~100体積パーセント、50体積パーセント~100体積パーセント、60体積パーセント~100体積パーセント、70体積パーセント~100体積パーセント、80体積パーセント~100体積パーセント、90体積パーセント~100体積パーセント、95体積パーセント~100体積パーセント、又は更には98体積パーセント~100体積パーセントが、液体及び固体を含まない、第1~第26の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体を提供する。
【0132】
第28の実施形態において、本開示は、第1主面を有するポリマー複合体シートの製造方法であって、
5×104g/モル~5×107g/モルの数平均分子量を有する熱可塑性ポリマー、熱可塑性ポリマーが可溶である溶媒、及び軟強磁性粒子材料を準備することと、
熱可塑性ポリマー、溶媒及び軟強磁性粒子材料を混合して、軟強磁性粒子材料を含有する混和性熱可塑性ポリマー溶媒溶液を形成することと、
軟強磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマー溶媒溶液をシートに形成することと、
溶媒からの熱可塑性ポリマーの相分離を誘起することと、
溶媒の少なくとも一部分を除去し、それにより、熱可塑性ポリマーのネットワーク構造と、その熱可塑性ポリマーのネットワーク構造内に分散された軟強磁性粒子材料とを有するポリマー複合体シートを形成することを含み、軟強磁性粒子材料の重量分率が、ポリマー複合体シートの総重量に基づいて、0.80~0.98である、製造方法を提供する。
【0133】
第29の実施形態において、本開示は、相分離を誘起する工程が、熱誘起相分離及び溶媒誘起相分離のうちの少なくとも1つを含む、第28の実施形態に記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0134】
第30の実施形態において、本開示は、混合する工程が、20℃~300℃の温度で実施される、第28又は第29の実施形態に記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0135】
第31の実施形態において、本開示は、相分離を誘起する工程が、混合工程の温度より5℃~300℃低い温度で実施される、第28~第30の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0136】
第32の実施形態において、本開示は、形成する工程が、押出成形、ロールコーティング及びナイフコーティングのうちの少なくとも1つによって実施される、第28~第31の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0137】
第33の実施形態において、本開示は、相分離を誘起する工程の後、又は溶媒を除去する工程の後に、圧縮力及び引張力のうちの少なくとも1つを適用し、これにより、ポリマー複合体シートを高密度化すること、を更に含む、第28~第32の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0138】
第34の実施形態において、本開示は、軟強磁性粒子材料が、軟強磁性粒子フレーク材料であり、各フレークが、第1主面と、フレークの第1主面に対して垂直な厚さと、を有する、第28~第33の実施形態のいずれか1つに記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0139】
第35の実施形態において、本開示は、フレークの第1主面の大部分が、隣接するポリマー複合体シートの第1主面に対して少なくとも25度以内になるように配向されるように、軟強磁性粒子フレーク材料を配向すること、を更に含む、第34の実施形態に記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0140】
第36の実施形態において、本開示は、粒子分率が52体積%超であり、ポリマー複合体シートの保磁力が240A/m以下である、第1~第27の実施形態に記載のポリマー複合体シートを提供する。
【0141】
第37の実施形態において、本開示は、ポリマー複合体シートの保磁力が200A/m以下である、第36の実施形態に記載のポリマー複合体シートを提供する。
【0142】
第38の実施形態において、本開示は、圧縮力の適用と同時に、振動エネルギーをポリマー複合体シートに適用すること、を更に含む、第33の実施形態に記載のポリマー複合体シートの製造方法を提供する。
【0143】
本開示の例示的な実施形態の実施を、以下の詳細な実施例に関して更に説明する。これらの実施例は、様々な具体的な好ましい実施形態及び技術を更に示すために提供される。しかしながら、本開示の範囲内に留まりつつ、多くの変更及び修正を加えることができるということが理解されるべきである。
【実施例】
【0144】
熱可塑性ポリマーのネットワーク構造及び軟強磁性粒子材料を含む、ポリマー複合体を調製し、高密度化し、試験した。以下の実施例に示すように、寸法及び電磁特性を、ワイヤレス電力伝送効率とともに評価した。これらの実施例は、単に例示目的のものであり、添付の特許請求の範囲の限定を意図するものではない。本明細書の実施例及び他の箇所における全ての部、百分率、比などは、特に断りのない限り、重量に基づくものである。
【0145】
本開示の幅広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは近似値であるが、具体的な実施例において示される数値は、可能な限り正確に報告している。しかしながら、いずれの数値にも、それらのそれぞれの試験測定値において見出される標準偏差から結果として必然的に生じる、特定の誤差が本質的に含まれる。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは特許請求の範囲の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0146】
材料
特に記載のない限り、実施例及び本明細書のその他の箇所における全ての部、百分率、比などは、重量によるものである。使用した溶媒及び他の試薬は、特に断りのない限り、Sigma-Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)から入手することができる。加えて、表1は、以下の実施例で使用された全ての材料に関する、略称及び供給元を提示するものである。
【表1】
【0147】
試験方法
以下の試験方法を使用して、本開示の実施例のうちの一部を評価した。
【0148】
密度測定試験法
乾燥したポリマー複合体を約8cm×20cmのストリップに切り出した。ASTM F-1315(オリジナル:1990、承認:2014年3月1日)標準法に従って、密度測定用に、1つの大きなストリップから3つの各々約6cm×7cmの片を切り出した。既知の長さ及び幅でダイにより試料を切り出すことによって、試料の面積を算出した。TMI Model 49-70 Precision Micrometer(Testing Machines,Inc.(New Castle,DE)から入手可能)を使用して、フィルムの厚さを測定した。ポリマー複合体の面積及び厚さから、体積を算出した。最後に、分析用てんびんを使用して、フィルムの質量を測定した。測定した質量及び体積から、密度を算出した。
【0149】
構成成分の既知の密度(PEの密度=0.94g/cm3、MP1の密度=6.9g/cm3)及び実際の組成(PE=5重量%及びMP1=95重量%)を用いて、空隙(孔)を含まない複合体の理論密度を算出した。理論密度及び測定密度を使用して、空隙率(%)を以下のように算出した。
空隙率(%)=[1-(測定密度/理論密度)]×100
【0150】
算出された空隙率から、体積に基づくMP1充填量(%)を以下のように算出した。
MP1充填量(%)=[(Mp/ρp)/(Mp/ρp+Me/ρe)]×(1-空隙率)×100
式中、Mp及びMeは、それぞれ、複合体中のMP1及びPEの質量分率である。同様に、ρp及びρeは、それぞれ、MP1及びPEの密度である。
【0151】
電磁試験法
I.静的磁気特性:
磁気測定の前に、ポリマー複合体の試料を6mmのディスクに切り出した。Lake Shore Cryotronics(Westerville,Ohio)振動試料型磁力計7400-Sを使用して、磁気ヒステリシスループ(M-H曲線)を記録した。磁場Hを試料の平面に適用した。磁場範囲をH=±4kOeに設定し、飽和磁化Msを完全飽和(|H|=4kOe)で測定した。磁場Hは、0.14Oeの工程で測定し、保磁力場Hcは、M=0に隣接するM-H曲線上の6つの点に基づいた線形フィッティングにより、M=0の近傍で特定した。
【0152】
II. 動的磁気特性:
ポリマー複合体の試料を外径18mm及び内径5mmのトロイドに切り出した。Keysight Technologies(Santa Clara,California)の磁性試験治具16454A及びインピーダンス測定器E4990Aを使用して、比透磁率μrの実部と虚部とを測定した。Keysightの16454A用マニュアルに従って、データを解析した。
【0153】
III. DC電気特性:
ポリマー複合体試料を、面外測定用に18mmディスクに、面内測定用に約50×20mmのストリップに切り出した。2400 Keithley Instruments(Cleveland,OH)ソースメータを使用して、面内及び面外のDC抵抗率を測定した。電流限界を150nAに設定した。抵抗率ρは、等式:R=ρl/S(式中、Rは、測定された抵抗値であり、lは、試料中で電流が流れる距離であり、Sは、電流路の断面積である)を使用して算出した。
【0154】
IV. AC電気特性:
ポリマー複合体試料が3mm×4mmのストリップである、マイクロストリップラインを使用して、面内抵抗率を測定した。試験を0.3~20MHzの周波数範囲で実施した。外部磁場H=1.6kOeを試料の平面に適用して、試料を磁気的に飽和させ、誘導効果を最小にした。Rohde&Schwarz(Munich,Germany)ベクトル・ネットワーク・アナライザZNB20を使用して、試料の抵抗を測定した。面外抵抗率は、Keysight Technologies(Santa Clara,California)誘電試験治具16453A及びインピーダンス測定器E4990Aを使用し、直径6mmの試料ディスクを用いて、測定した。面内及び面外の両方の測定に関して、抵抗率は、R=ρl/S(式中、Rは、測定された抵抗値であり、lは、試料中で電流が流れる距離であり、Sは、電流路の断面積である)を使用して算出した。
【0155】
ワイヤレス電力伝送効率試験法
Qi規格であるワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC:Wireless Power Consortium)1.1仕様に従った5ワットでの全ワイヤレス電力伝送系の効率を(コイル間の電力伝送効率とは対照的に)測定することによって、磁束を集中させて方向を変えるポリマー複合体の有効性を評価した。これらの測定に関して、32mm×48mmのポリマー複合体試料を使用した。
【0156】
試験システムは、Qi規格に準拠した5ワットワイヤレス充電設計キット(Wurth Elektronik(Wurth Elektronik GmbH&Co.(KG,Germany))/Texas Instruments(Dallas,TX)モデル:760308)を使用して、カスタム構築した。この設計キットは、トランスミッタコイル(Wurth Electronicsモデル:760308111)及びレシーバコイル(Wurth Electronicsモデル:760308103202)を含む。装置の構成は、次のとおりである。トランスミッタコイルアイソレータ(フェライトシート3mm×52mm×52mm)、アイソレータの上に配置されたトランスミッタコイル、トランスミッタコイルの上に配置された2.4mm厚×70mm×70mmのアクリルシート、トランスミッタコイルと垂直に整列してアクリレートシートの上に配置されたレシーバコイル、レシーバコイルの上に配置されたポリマー複合体試料、ポリマー複合体試料の上に配置された約1mm厚×32mm×48mmのステンレス鋼プレート(電池ケースを模したもの)。
【0157】
レシーバコイルを、定電圧モードで5.0Vに設定されたAgilent(Santa Clara,CA)のDC電源E3645Aによって駆動した。定電流モードで動作するBK Precision Corp.(Yorba Linda,California)のDC電子負荷8600を使用して、受信電力をモニタリングした。磁束を集中させ方向付ける磁性複合体材料の有効性を定量するために、試料をレシーバコイルの上に置き、約1mm厚×32mm×48mmステンレス鋼プレート(電池ケースを模したもの)をポリマー複合体試料の上に置いた。測定された入力電流及び出力電流からワイヤレス電力伝送効率を算出し、出力電流での電圧を0.6Ampに設定する。
WPT効率(%)=(出力電圧)(出力電流)/(入力電圧)(入力電流)×100
【0158】
調製例
実施例1(Ex.1) ポリマー複合体フィルム
MP1粒子及びPEを個々に秤量して、95:5の総MP1:PE重量比を得た。次いで、個々の構成成分をLancaster Mixture(K-Lab,Kercher Industries,Inc.(Lebanon,PA))の混合ボウルに入れた。混合ボウルとシャフトの両方を50%設定で回転させることによって、粉末を一緒に、45分間、乾式ブレンドした。45分後、鉱油(MO)を秤量して、63:37の固体(PE+MP1):鉱油重量比を得た。
【0159】
粉末を混合しながら、上部のマルチオリフィスポートを通して鉱油をゆっくり分注した。全ての鉱油が分注されたら、ブレンドを更に45分間、混合して、濃厚なペースト様稠度を得た。次いで、ブレンドを5ガロン(約19.5リットル)のペール缶にすくい取った。
【0160】
流量制御プレート付きのペール缶充填用ポンプ(X20 Graco Inc.(Minneapolis,MN))を使用して、ブレンドを、177℃の8インチ(20.3cm)のドロップダイ(Nordson Extrusion Die Industries(Chippewa Falls,WI USA))に接続された約204℃の2軸押出成形機(25mmの同時回転2軸押出成形機(Berstorff(Germany)))のオープンバレルゾーン#2に供給した。
【0161】
ダイから出てくる熱いフィルムを、40℃の平滑なキャスティングホイール上で急冷した。キャスティングホイールの速度を調節して、厚さ約0.3mm~0.6mmの様々な厚さを有するフィルムを作製した。次いで、8インチ(20.3cm)×18インチ(45.7cm)のフィルムを、20分間、3回、各々ES流体に浸漬させることによって、これらのフィルム中の鉱油をES流体により抽出した。
【0162】
続いて、フィルムをドラフトチャンバ内に吊すことによって、ES流体を各試料から蒸発させた。これにより、実施例1(Ex.1)のポリマー複合体が作製された。次いで、これを、上に列挙する試験法を用いた更なる特性評価及び高密度化に使用した。
【0163】
Ex.1のポリマー複合体の断面のSEM画像を
図1に示す。
図1にみられるように、調製した試料(高密度化前)中の磁性フレークは、相分離プロセス中に作製された、相互に絡まったポリマーフィブリル(熱可塑性ポリマーのネットワーク構造)によって一緒に保持されている。Ex.1は、大きな空隙(孔)率を有する。
【0164】
実施例2(Ex.2) 高密度化されたポリマー複合体フィルム
Ex.1のストリップを、カレンダー加工機のニップロールに、ニップロール間で一定の間隙を画定して通した。最終フィルムの厚さが約150マイクロメートルになるまでニップ間隙を調整した。これにより、Ex.2の高密度化されたポリマー複合体フィルムが作製された。
【0165】
次いで、このフィルムを6cm×7cmの小片に切り出し、密度測定(上に列挙される試験方法)及びSEM分析に使用した。高密度化した試料であるEx.2(
図2)のSEM断面画像は、ポリマーフィブリルによって依然として一緒に保持されている、高度に充填されたフレークを示している。しかしながら、フィルム中の空隙(孔)の大部分は、高密度化プロセス中になくなった。
【0166】
実施例3(Ex.3) 超音波で高密度化されたポリマー複合体フィルム
MP1粒子及びPEを別々に秤量して、95:5の総MP1:PE重量比を得た。次いで、個々の構成成分をLancaster Mixture(K-Lab,Kercher Industries,Inc.(Lebanon,PA))の混合ボウルに入れた。混合ボウルとシャフトとの両方を50%設定で回転させることによって、粉末を一緒に、45分間、乾式ブレンドした。45分後、鉱油(MO)を秤量して、55.5:44.5の固体(PE+MP1):鉱油重量比を得た。
【0167】
粉末を混合しながら、上部のマルチオリフィスポートを通して鉱油をゆっくり分注した。全ての鉱油が分注されたら、ブレンドを更に45分間、混合して、濃厚なペースト様稠度を得た。次いで、ブレンドを5ガロンのペール缶(約19.5リットル)にすくい取った。
【0168】
流量制御プレート付きのペール缶充填用ポンプ(X20 Graco Inc.(Minneapolis,MN))を使用して、ブレンドを、177℃の8インチ(20.3cm)のドロップダイ(Nordson Extrusion Die Industries(Chippewa Falls,WI))に接続された約204℃の2軸押出成形機(25mmの同時回転2軸押出成形機(Berstorff(Germany)))のオープンバレルゾーン#2に供給した。
【0169】
ダイから出てくる熱いフィルムを、40℃の平滑なキャスティングホイール上で急冷した。キャスティングホイールの速度を調節して、厚さ約0.3mm~0.6mmの様々な厚さを有するフィルムを作製した。次いで、8インチ(20.3cm)×18インチ(45.7cm)のフィルムを、20分間、3回、各々ES流体に浸漬させることによって、これらのフィルム中の鉱油をES流体により抽出した。続いて、フィルムをドラフトチャンバ内に吊すことによって、ES流体を各試料から蒸発させた。
【0170】
一組のニップロールを有する超音波援カレンダー加工機を使用して、1.5インチ(3.8cm)幅の材料のストリップを高密度化した。下のロールの水平軸は、垂直軸に固定され、上のロールの水平軸は、垂直方向に20KHzで超音波振動する。超音波で振動させたロールは、連続モードで使用されるDCX電源モデル(Branson Ultrasonics(Danbury,CT))によって給電された。
【0171】
超音波で援用した高密度化のラインスピードは、5フィート/分(152cm/分)とし、間隙設定は、0.006インチ(0.15mm)に設定した。材料をニップロールに2回、すなわち、最初に100%の振幅(0.05mmのピーク間振幅を表す)、次いで60%の振幅で通過させた。厚さ150~200マイクロメートルの範囲の最終フィルムを製造するために、ニップ間隙及び振幅設定を選択した。
【0172】
これにより、Ex.3の高密度化されたポリマー複合体フィルムが作製された。次いで、このフィルムを6cm×7cmの小片に切り出し、密度測定(上に列挙される試験方法)及び磁気の特性評価に使用した。
【0173】
結果
以下の表2は、高密度化する前のEx.1及び高密度化した後のEx.2のフィルムにおいて測定された厚さ、密度、空隙率、及びセンダストフレーク(MP1)の体積充填量を示す。比較のために、結合剤としてポリウレタンを用いた同じセンダストフレークを有するCE-1の同パラメータ。Ex.2(高密度化されたポリマー複合体フィルム)の充填量は、市販品のCE-1の充填量より有意に高い。Ex.1の試料をニップロールに数回通すことにより、及び/又はカレンダー加工機のニップ間隙を減らすことにより、100マイクロメートル厚のフィルムは、最大68%という高い体積充填量を有することが示された。
【表2】
【0174】
表3は、実施例のフィルムの主な電磁特性[DC抵抗率、6.78MHzで測定された透磁率の実部(μ’)及び虚部(μ”)、飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)、及び損失正接(Tan(α))]を示す。
【表3】
【0175】
これらの結果は、Ex.2の高密度化されたポリマー複合体フィルムの飽和磁化が、CE-1の飽和磁化よりも有意に高いことを示している。
【0176】
表4は、実施例及び比較例の各々の厚さ及びワイヤレス電力伝送効率(WPT効率)を示す。
【表4】
【0177】
本明細書では特定の例示的な実施形態について詳細に説明してきたが、当業者には上述の説明を理解した上で、これらの実施形態の修正形態、変形形態、及び均等物を容易に想起できることが、諒解されるであろう。したがって、本開示は、ここまで説明してきた例示的な実施形態に、過度に限定されるものではないことを理解されたい。
【0178】
本明細書で使用する場合、末端値による数値範囲での記述には、その範囲内に包含されるあらゆる数値が含まれる(例えば1~5には1、1.5、2、2.75、3、3.8、4、及び5が含まれる)。したがって、特に指示がない限り、前述の明細書、添付の実施形態の列挙、及び以下の特許請求の範囲において示す数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に依存して変化し得る。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは請求項記載の実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0179】
更には、本明細書で参照される全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許を参照により組み込むことが詳細かつ個別に指示されている場合と同じ程度に、それらの全容が参照により組み込まれる。様々な例示的な実施形態について説明してきた。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。