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特許7122310ヒト血漿から出発するプラスミノーゲン精製のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】ヒト血漿から出発するプラスミノーゲン精製のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/68 20060101AFI20220812BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C12N9/68
C07K1/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019535970
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2017072824
(87)【国際公開番号】W WO2018050618
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】102016000091964
(32)【優先日】2016-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519087217
【氏名又は名称】ケドリオン ソチエタ ペル アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アスチオーネ エステル
(72)【発明者】
【氏名】ファリーナ クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】ラッザロッティ アレッサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】マッダルーノ マルチェラ
(72)【発明者】
【氏名】ナルディーニ クラウディア
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0171103(US,A1)
【文献】特表2004-528853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00-9/99
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製プラスミノーゲンを製造するプロセスであって、
前記精製プラスミノーゲンはウイルスに対して安全であり、NH2-末端グルタミン酸を有する天然型プラスミノーゲン(Glu-Pg)を98重量%超含み、治療目的でヒトに投与するのに適しており
前記プロセスの出発物質はヒト凍結血漿であり、
前記プロセスは、以下を含み:
ii)ヒト血漿を、溶媒/界面活性剤の混合物と接触させる、ウイルス不活化工程;
v)L-リジン固定化架橋アガロース樹脂上の単一アフィニティークロマトグラフィー工程およびε-アミノカプロン酸を含むpH7.4の溶出緩衝液での
溶出工程;そして
ix)ウイルス除去ナノ濾過工程;
前記ウイルス不活性化(ii)は、アフィニティークロマトグラフィーの上流で行われ、そして、前記ナノ濾過(ix)はアフィニティークロマトグラフィーの下流で行われ、
前記プロセスではプロテアーゼ阻害剤を使用せず、
前記アフィニティークロマトグラフィー樹脂が、ECH-リジンセファロース4Fast Flowであり、
ECH-リジンセファロース4Fast Flow樹脂上でのアフィニティークロマトグラフィーにおいて、
0.05Mのリン酸ナトリウムおよび0.1Mの塩化ナトリウムを含むpH7.4の緩衝液が樹脂平衡化のために用いられ;
0.05Mのリン酸ナトリウムおよび0.1Mの塩化ナトリウムを含むpH7.4の緩衝液が樹脂洗浄用に用いられ;
0.05Mのリン酸ナトリウム、0.05Mのε-アミノカプロン酸、および0.1Mの塩化ナトリウムを含むpH7.4の緩衝液がプラスミノーゲン溶出のために用いられる、
プロセス。
【請求項2】
ウイルス不活性化工程(ii)の後、かつ、アフィニティークロマトグラフィー工程(v)の前に行われる、ヒマシ油添加工程(iii)をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アフィニティークロマトグラフィー(v)の下流、および、前記ナノ濾過(ix)の上流で行われる、限外濾過工程(vii)をさらに含む、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
工程(ii)で使用される溶媒/界面活性剤の混合物が、以下の組成を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
1%w/wのTriton X-100および1%w/wのトリ-(n-ブチル)-ホスフェート(TnBP)。
【請求項5】
前記ナノ濾過工程(ix)が、20ナノメートルのウイルスグレードのフィルターを通して行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記出発物質が解凍ヒト凍結血漿である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液製剤の分野、特に、ヒトプラスミノーゲンの精製および製造に関する。
【0002】
技術水準
プラスミノーゲン(Pg)は、血漿チモーゲン(plasma zymogen)として合成され、そして、生理学的活性化剤ウロキナーゼ(uPA)または組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)によってセリンプロテアーゼ プラスミン(Pm)に変換され、線溶系(fibrinolytic system)の活性化を引き起こす。
【0003】
実際、Pmの主なインビボ機能は、フィブリン含有血栓(thrombi)を分解することによって、血管効力(vascular potency)を調節することである。
プラスミノーゲンを合成する主な組織は肝臓であるが、他の起源も確認されている。それらには、副腎(adrenal glands)、腎臓、脳、精巣、心臓、肺、子宮、脾臓、胸腺、および腸が含まれる。
プラスミノーゲンは、810アミノ酸ポリペプチドとして合成される。その天然型は、NH-末端グルタミン酸を有し、そして、それは、Glu-Pgと呼ばれる。
成熟型のプラスミノーゲン(791アミノ酸)は、分泌中の19アミノ酸リーダーペプチドの開裂によるものである。
ヒトプラスミノーゲンのプラスミンへの変換は、Arg561-Val562結合の開裂を含み、561個のアミノ酸のN末端重鎖および230個のアミノ酸のジスルフィド架橋されたカルボキシ末端軽鎖を含む、Glu-Pmの生成をもたらす。
【0004】
プラスミンは、77位のN末端Glu-Pgの加水分解を触媒し、Glu-PgをLys78-Pgと呼ばれる別のプラスミノーゲン型に変換する。
この変換は、細胞表面上のGlu-Pg活性化における最大の増強にとって重要である。
【0005】
最初に報告された異常なヒトプラスミノーゲンは、25年以上前に、血栓症(thrombotic events)の既往歴を有するプラスミノーゲン欠乏のヘテロ接合性(heterozygous)である患者において報告された。
プラスミノーゲン遺伝子におけるホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異(compound heterozygous mutations)は、木質結膜炎(ligneous conjunctivitis)または偽膜性疾患(pseudomembranous disease)と呼ばれる角膜(cornea)、および場合によっては閉塞性水頭症(occlusive hydrocephalus)に影響を及ぼすと、視覚機能を脅かす重度の炎症を引き起こす。
【0006】
プラスミノーゲン精製に関するいくつかの方法が、以前に記載されている。
Deutsch D.G.およびMertz E.(Science 1970、170、1095-1096)は、リジン-セファロース4B樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーに基づく、ヒト血漿からのプラスミノーゲンの精製方法を記載している。
容量340ミリリットルの血漿(水で640ミリリットルに希釈)を、150ミリリットルの樹脂に通過させ、0.3Mリン酸緩衝液および3mM EDTAで洗浄し、そして、プラスミノーゲンの溶出を、0.2Mのε-アミノカプロン酸で行い、そして、ε-アミノカプロン酸は、Sephadex G-25カラムを用いて、冷却下に取り除いた。
【0007】
Grant A.J.(Biochem.Int.1990,20(3)、519-527)は、DeutschおよびMertzと同様の条件で、二重親和性クロマトグラフィーに基づく方法を記載している。そのプロセスは、血漿中に存在する活性化剤による、プラスミノーゲンのプラスミンへの自発的活性化を防止するために、各精製工程においてプロテアーゼ阻害剤を添加することによって、4℃で実施された。
米国特許第3943245号明細書は、イオン交換クロマトグラフィーにおけるように、高イオン強度の緩衝液を用いた、セファロース-L-リジンを使用する改良アフィニティークロマトグラフィーによる、ヒトおよび非ヒト哺乳動物血漿またはコーン画分(Cohn’s fraction)IIIからのプラスミノーゲンの精製を記載している。
【0008】
EP0638314は、0.9%塩化ナトリウムを含有する0.9%グリシン溶液(pH7.2)および、1M塩化ナトリウムを含む0.9%グリシン溶液(pH7.2)500ミリリットルで洗浄した、リジン-セファロースカラム上でのアフィニティークロマトグラフィー工程の前に、コーン画分II+IIIを、溶媒/界面活性剤(S/D)ウイルス不活性化工程に付し、コーン画分II+IIIから出発するプラスミノーゲンの精製、および、吸着されたプラスミノーゲンの溶出を、0.25Mリジンを含有する0.9%グリシン溶液(pH7.2)を用いて行ったことを記載する。
したがって、凍結乾燥したプラスミノーゲン生成物を、60℃~80℃で、72時間以上、乾熱処理して、ウイルスを除去または不活化したLys型プラスミノーゲン含有組成物を製造した。
【0009】
本発明の目的は、治療目的でヒトに投与するのに適した、精製され、かつ、ウイルスに対して安全なプラスミノーゲンを得るための、工業的レベルに拡張可能な方法を提供することである。
【0010】
発明の要約
本発明の主題は、ヒト血漿またはその分画中間体から出発する、プラスミノーゲンの精製方法である。
前記プロセスは、
ii)ヒト血漿を、溶媒/界面活性剤混合物と接触させるウイルス不活化工程:
v)L-リジン固定化架橋アガロース樹脂上の単一アフィニティークロマトグラフィー工程:そして、
ix)ウイルス除去ナノ濾過工程:を含む。
上記ウイルス不活性化(ii)は、アフィニティークロマトグラフィーの上流で行われ、そして、前記ナノ濾過(ix)はアフィニティークロマトグラフィーの下流で行われる。
溶媒/界面活性剤処理(ii)に加えて、エンベロープウイルスから、製品の安全を確実にする、ヒトにおける、治療に適した最終製品を確実にするために、本発明は、また、調製物を、たとえば、HAVのような小さなエンベロープおよび非エンベロープのウイルスから保護する、ナノ濾過工程(ix)も含む。
【0011】
本発明の方法は、プロテアーゼインヒビターのいかなる添加をも必要としない。
以前に報告されたように、プラスミノーゲンの精製のための伝統的な方法は、血漿中にある活性化剤による、プラスミノーゲンのプラスミンへの自発的活性化を防ぐために、プロテアーゼインヒビター(例えばアプロチニン、PMSFおよびダイズトリプシンインヒビター)の使用を示唆する。
それに対して、本発明の方法では、防腐剤は添加されず、そして完全に機能的なプラスミノーゲンは、いかなるプロテアーゼインヒビターも全く存在せずに得られる。
本発明によれば、ウイルス不活化され、および高純度のプラスミノーゲン調製物が、ヒト血漿からまたはその分画中間体から出発して得られる。
本明細書に記載の精製方法は、保存剤として、プロテアーゼ阻害剤を添加することなく、機能的で、無傷のGlu-プラスミノーゲンを製造することを可能にする、効率的で、再現性があり、かつ、工業レベルまで拡張可能である。
樹脂と標的タンパク質との間の特異的相互作用のおかげで、本発明は、高度に純粋なプラスミノーゲン調製物を得るのに十分な、単一のクロマトグラフィーに基づく方法を提供する。
高レベルの純度は、そのようなプラスミノーゲン組成物を、遺伝的プラスミノーゲン欠乏のためのヒト疾患の治療における使用に適したものにする。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の方法のブロック図は、図1に詳細に記載されている。
本発明によれば、出発物質は、ヒト血漿またはその分画中間体であり得、ここで、分画中間体は、寒冷沈降物(CRYOPRECIPITATE)、コーン画分(COHN FRACTION)IIIまたはコーン画分(COHN FRACTION)II+IIIを意味する。
一つの特定の、そして好ましい局面によれば、プラスミノーゲン精製のための出発物質は凍結血漿供給源である。
好ましくは、製造の初期段階において、ヒト凍結血漿は、20±1℃の温度に到達し、そして、加圧CO2またはN2で、pHが7.0~8.0に調整されるまで、連続撹拌下で解凍される。
【0013】
本発明によれば、解凍した血漿は、好ましくは1μmフィルター上の濾過工程(i)により清澄化され、続いて、それは、溶媒/界面活性剤(S/D)の混合物と接触させるウイルス不活化工程(ii)に供される。
このステップ(ii)は、最終製品をエンベロープウイルスから安全に保護することを想定している(envisages)。
好ましい一態様では、S/D混合物は次の組成を有する:
1%w/wのTriton X-100および1%w/wのトリ-(n-ブチル)-ホスフェート(TnBP)。
好ましくは、混合物を30℃±1℃で血漿に添加し、そして30分間撹拌する。S/D処理は、28℃±1℃で少なくとも6時間行われる。治療中、pHをモニターし、最終的に7.0~8.0に調整する。
【0014】
血漿からのS/D混合物の分離を容易にするために、ウイルス不活性化工程(ii)の終わりに、好ましくは、ヒマシ油添加工程(iii)が含まれる。
好ましい実施形態では、ヒマシ油濃度は、S/D血漿の3~5%である。
それを、20℃±1℃で添加し、そして、60分間撹拌し、次いで、溶液を、プラズマ相からS/D相を分離する目的で、少なくとも1時間静置した。
ヒマシ油を添加すると、血漿濾過性が改善され、その後のクロマトグラフィーの間に、S/Dがカラムに負荷される危険性が減少し、したがって樹脂の完全性が維持される。
【0015】
前述の工程(iii)の終わりに、血漿は、好ましくは、濾過工程(iv)にかけられ、そして、従って、3.00~0.5μmの深さのフィルターを通して濾過される。
次のアフィニティークロマトグラフィー工程(v)は、高度に架橋された4%アガロースに基づいており、そして、大量のサンプル量の迅速な処理を可能にする、アフィニティー樹脂ECH-リジンセファロース4 Fast Flow上で実施されるのが好ましい。
【0016】
これまで使用されていた、プラスミノーゲンの工業生産には適していない、リジンセファロース4Bとは異なり、ECH-リジンセファロース4 Fast Flow樹脂は、多くの一般的な薬剤を使用して数回の洗浄サイクルに付することができる。したがって、工業レベルでも、樹脂自体の完全性および機能性に影響を与えることなく、完成品の安全性を保証する。
【0017】
ECH-リジンセファロース4 Fast Flowを使用する利点は、前記樹脂が、高度に架橋された4%アガロースをベースとしており、従って、工業生産に適した大量のサンプル量の迅速処理を可能にすることである。
L-リジンを、セファロース4 Fast Flowに結合された長い親水性スペーサーアーム(スキーム1参照)に共有結合させる、安定なエーテル結合もまた、その完全性および機能性を失うことなく樹脂を数回の洗浄サイクルにかけることを可能にする。
【0018】
【0019】
プラスミノーゲンがヒトに投与されるように設計されているので、各製造後の樹脂の洗浄は最終製品の安全性にとって不可欠であり、それは交差汚染を回避する。
これに関して、本発明に記載のアフィニティークロマトグラフィーは、洗浄剤に対する不安定性が実証されており、当該樹脂がプラスミノーゲンの工業的製造には適さなくした、以前に使用されたリジンセファロース4B樹脂の改良を表す。
長期安定性試験により、ECH-リジンセファロース4 Fast Flowは、リガンド濃度やプラスミノーゲン結合能のいずれにおいても大きな変化なしに、多くの一般的に使用されている洗浄剤で処理できることが示された。例外は、強塩基条件下での長時間の暴露である。
【0020】
この方法の工業的スケーラビリティ(scalability)のためには、最終製品の収率を最大にするために、樹脂の高い結合容量が重要である。
実験の部に示すように、最大38カラム容量(CV)の不活性化血漿を、ECH-リジンセファロース4 Fast Flow樹脂に負荷できる。
したがって、好ましい実施形態では、樹脂の飽和を回避しながら、高いプラスミノーゲン収率を得るために、30~35CVが最適負荷量を表す。
特定の一態様によれば、出発材料は、≦0.1MPaの圧力値で、150~250cm/時間の線形流速比でカラムに負荷される。
より低い流速値は、長い負荷時間を必要とし、確かにこの方法の工業的規模拡大には適さない。
好ましい実施形態では、ECH-リジンセファロース4 Fast Flow樹脂での、アフィニティークロマトグラフィーに使用される緩衝液は以下の通りである:
・樹脂平衡化のために、リン酸ナトリウム0.05M、塩化ナトリウム0.1M、pH7.4;
・樹脂洗浄用の、リン酸ナトリウム0.05M、塩化ナトリウム0.1M、pH7.4:
・プラスミノーゲン溶出のために、リン酸ナトリウム0.05M、ε-アミノカプロン酸0.05M、塩化ナトリウム0.1M pH7.4。
【0021】
実験の部に示されるように、アフィニティークロマトグラフィー工程(v)において使用される上記緩衝液(すなわち緩衝液組成物B)は、他の試験された緩衝液(すなわち緩衝液組成物A)と比較して、より高いプラスミノーゲン収率を得ることを可能にする。
微粒子(particulates)を除去するために、工程(v)のクロマトグラフィー生成物は、好ましくは、0.22μmフィルターを通して、濾過工程(vi)に付され、次いで、プラスミノーゲン精製は、好ましくは、限外濾過工程(vii)を用いて実行され、眼投与に適した、濃縮透析済みタンパク質溶液(a concentrated and dialyzed protein solution)を得ることを可能にする。
【0022】
特に、限外濾過(vii)は、20~25容量の生理食塩水(0.1M塩化ナトリウム)を用いて、30,000ダルトンの透析カセットを用いて、ε-アミノカプロン酸を除去することによって行われる。次に、系を、0.1Mの塩化ナトリウムで洗浄して、0.7~1.3ミリグラム/ミリリットルのタンパク質濃度にする。
pHを、7.1±0.7に調整した後、プラスミノーゲン溶液は、好ましくは、0.1μmフィルターを通して濾過工程(viii)に付し、続いて、ウイルス除去工程(ix)、すなわちナノ濾過に付す。
好ましい一態様では、ナノ濾過(ix)は、20ナノメートルのウイルスグレードのフィルターを通す濾過を含む。
次いで、調製物は、好ましくは、0.22μmフィルター(x)を通して、滅菌濾過し、こうして得られたプラスミノーゲンバルクを、≦-20℃の温度で保存する。
エンベロープウイルスから、製品の安全を保証する、溶媒/界面活性剤処理(ii)の他に、ナノ濾過工程(ix)は、例えばHAVのような小さなエンベロープウイルスおよび非エンベロープウイルスから保護する。
このウイルス除去手順は、確かにこれまでに文献に記載されているものと比較して、プラスミノーゲン精製プロセスの改善を可能にする。
【0023】
Grantにより報告されているように、伝統的な精製方法は、最終製品におけるプラスミノーゲンの完全性を確実にし、そして、その活性化を防ぐために、プロテアーゼインヒビター(例えばアプロチニン、PMSFおよびダイズトリプシンインヒビター)の使用を示唆する。
それとは反対に、本発明の方法は、保存剤を添加することなく、完全に機能的なプラスミノーゲンを得ることを可能にし、したがって、その悪影響を回避する。
プラスミノーゲンは、完全に、その完全性を保持し、そして実験の部に示されるように、アプロチニンの有無にかかわらず得られたプラスミノーゲン間の同等性(comparability)試験は、プラスミノーゲン抗原にも、その活性および収率にも差がないことを示す。
【0024】
別の好ましい態様では、本明細書に記載のプラスミノーゲン調製物は、主にGlu-Pgの形態であり、これは血漿中のプラスミノーゲンの優勢な形態を表す。
Glu-Pgの循環半減期は、Lys-Pgよりも非常に高いので、本発明は、ヒトにおける治療に適したプラスミノーゲン調製物を得るための方法を提供する。
さらなる詳細は、以下の実施例に提供される。
当該実施例は、方法を明確にするのに有用であり、そして、それを、いかようにも限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、原料から、プラスミノーゲン最終製品を得るまでの、本発明の方法の好ましい一実施形態の概略ブロック図を示す。
図2図2は、ECH-リジンセファロース4 Fast Flow樹脂の最大結合容量を、カラム容量(CV)で示したものである。プラスミノーゲン活性は、プール血漿(pool plasma)中に見いだされる元の活性の少なくとも10%に達するまで、通過画分(flow-through)で評価した。
図3図3は、表2に報告されているように、緩衝液組成物A対緩衝液組成物Bによって行われた、クロマトグラフィー工程の代表的なSDS-PAGEを示す。
図4図4は、クロマトグラフィー緩衝液組成物A対緩衝液組成物Bによって、アプロチニンの存在下または非存在下で得られたプラスミノーゲンの代表的なウエスタンブロットを示す。
【0026】
実験の部
実施例1
カラム容量(CV)による樹脂の結合能
工業レベルまで拡張可能なクロマトグラフィーの最も重要な側面の一つは、生成物の機能性を変えることなく、収率を最大にすることを目的とした高い結合能である。
ECH-リジンセファロース4 Fast Flow(直径16mm×高さ15±1cm、1CVは30ミリリットルのカラムに充填)の最大結合能を同定するために、1.3キログラムのS/D血漿にヒマシ油を添加し、次いで3.00~0.5μmの深さのフィルターを通して濾過し、50cm/hでそのような樹脂上に負荷した。
通過画分(flow through)(FT)で、プラスミノーゲン活性を、それがプール血漿中に見出される元の活性の少なくとも10%に達するまで分析した。
図2に示すように、38CVまでは通過画分(flow through)(FT)において、プラスミノーゲン活性は観察されなかったが、39CVから開始して記録された。
10または32CVを負荷して実施された実験は、プラスミノーゲン抗原に関しても、溶出画分、すなわちPLG1における活性に関しても、何も有意差が見出されなかったことを示した(表1)。
それ故、ECH-リジンセファロース4 Fast Flowの結合能は、38CVであると確立されたが、高いプラスミノーゲン収率を保証し、そして、樹脂飽和を回避する負荷容量は、30~35CVの間に設定された。
この実験によって、3~3.5ミリグラムプラスミノーゲン/ミリリットル排出樹脂の間の結合能となった。
【0027】
実施例2
負荷と溶出条件の最適化
クロマトグラフィーに試料を負荷する工程は、最初に、50cm/hで行われた。高負荷容量(30~35CV)の場合、このような流速は、クロマトグラフィーの持続時間が長くなり、工業的方法には適さない。
これに関しては、低い背圧(low back pressure)を維持しながら、負荷流量を200cm/hまで増加させ、それにより、工程時間を、7時間から2時間未満に減少させた。この条件では、プラスミノーゲン収率の80.35%から70%への減少が観察され(表1)、したがって、緩衝液の組成に関するさらなる最適化を調査する必要があった。
【0028】
最初に使用した緩衝液の組成物、すなわち組成物Aを、組成物Bで置き換えたが、これは主に、EDTAの不存在の点で異なっており(表2)、負荷量および流速は変化しなかった。
表1に示すように、緩衝液組成物Bを使用すると、洗浄画分中のプラスミノーゲンの損失が減少し、そして、同時に、溶出画分中のプラスミノーゲン収率が、90.40%まで著しく改善された。
この結果は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)分析によって確認された(図3)。
緩衝液組成物Aを用いて行われた洗浄工程は、プラスミノーゲンの分子量に対応するバンドを示し、この工程中のプラスミノーゲンの損失を実証した。そのようなバンドは、緩衝液組成物Bを用いて行われた洗浄工程の場合には見えなかった。
さらに、緩衝液組成物Bは、洗浄工程における主たる汚染物アルブミンの除去を有意に増加させ、したがって、溶出画分中のその含有量を減少させた(表1)。
【0029】
最適化されたクロマトグラフィー条件は以下の通りであった。
・30~35CVの負荷量;
・200cm/hの流速;
・緩衝液組成物B
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
実施例3-プロテアーゼ阻害剤の有無
その方法が、プロテアーゼ阻害剤のような、任意の保存剤の不在下で、完全に機能的なプラスミノーゲンを得ることを可能にするかどうかを確かめるために、1μmの清澄濾過(clarifying filtration)を行う前に、解凍した血漿に、ウシアプロチニン(20KIU/ミリリットル)を添加しておよび添加せずに、両方にて精製を行った。
表1に示すように、アプロチニンの非存在は、プラスミノーゲン抗原、活性および収率を変化させなかった。さらに、溶出画分中のアルブミン含有量の増加が観察されたが、それは有意ではなかった。
図4は、アプロチニンの存在下または非存在下で、緩衝液組成物A対緩衝液組成物Bを用いて行った、クロマトグラフィーと比較した、ウエスタンブロット分析から得られた結果を示す。
分析された試料のいずれも、プラスミンに対応する活性化バンドを示さず、アプロチニンの不存在下でさえ、プラスミノーゲンは完全にその完全性を保存したことを実証した。
【0033】
実施例4
Glu-Pgに対するELISA
血漿中を循環するGlu-Pgの半減期が、Lys-Pgと呼ばれる他のプラスミノーゲン型よりもはるかに高いことはよく知られている。
本発明で得られたプラスミノーゲンの形態を調べるために、Glu-Pg形態のみを認識することができる特異的抗体を用いて、酵素免疫測定法(ELISA)を、完成品に対して行った。
表3に示すように、このような実験は、アプロチニンの存在下および非存在下の両方で、緩衝液組成物Bを用いて行われたクロマトグラフィー精製が、98%以上のプラスミノーゲンがGlu-Pgの形態である最終生成物を提供することを示した。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例5
プロセスの最良の実施形態
ヒト凍結血漿(1.88キログラム)を、温度が20℃に達するまで連続的に攪拌しながら解凍した。COで、pHを7.5に調整し、そして、1μmフィルターで濾過した後、1.74キログラムの解凍血漿をウイルス不活性化工程に付した。
1%w/wのTriton X-100(17.44g)および1%w/wのTnBP(17.44g)を含む、S/D混合物を、30℃で添加し、そして、30分間撹拌した。
S/D処理を、28℃で、6時間実施し、そしてこの時間の終わりに、65.8gのヒマシ油(3.7%のS/D血漿)を、20℃にて、撹拌条件下で、60分間で添加した。
次いで、S/D相を、血漿相から分離するために、溶液を、1時間静置した。
3.00~0.5μmの深さのフィルターを通して濾過した後、1.0キログラムのS/Dプラズマを、アフィニティー樹脂ECH-リジンセファロース4 Fast Flow(直径16mm×高さ15cmのカラムに充填された)に負荷した。負荷された血漿量は、33CVに相当した。
線形流速は、200cm/hであり、そして、使用した緩衝液は表2に記載したのと同じであった(緩衝液組成物B)。
クロマトグラフィー生成物(0.035キログラム)を、0.22μmフィルターを通して濾過し、そして、ε-アミノカプロン酸を除去するために、30,000ダルトン透析カセットを使用することにより、20~25容量の食塩水(0.1M塩化ナトリウム)で限外濾過を行った。
その後、その系を、タンパク質濃度を1.2ミリグラム/ミリリットルに調整した、0.1M塩化ナトリウム溶液で洗浄し、そして、こうして得られたプラスミノーゲン溶液(0.07キログラム)を、0.1μmフィルターを用いて濾過した。
続いて、ウイルス除去工程を、20ナノメートルのウイルスグレードのナノフィルターPlanova 20Nに溶液を通過させることによって実施し、そして最後の滅菌濾過の後、プラスミノーゲンバルク調製物(0.07キログラム)を、-20℃の温度で保存した。
得られたプラスミノーゲンの98%超がGlu-Pgであった。
図1
図2
図3
図4