(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】フェライト系合金及びこれを用いた核燃料被覆管の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220812BHJP
C22C 38/40 20060101ALI20220812BHJP
C21D 8/10 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C22C38/00 302L
C22C38/40
C21D8/10 D
(21)【出願番号】P 2020025140
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2020-02-18
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169560
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516343608
【氏名又は名称】ケプコ ニュークリア フューエル カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】242,Daedeok-daero 989beon-gil Yuseong-gu Daejeon 34057,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】518366555
【氏名又は名称】コリア アドバンスト インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,スン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,フン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユン ホウ
(72)【発明者】
【氏名】コ,デ ギュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チャンフィ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チェウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒャンミャン
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-186853(JP,A)
【文献】特開平01-287252(JP,A)
【文献】特開平03-138334(JP,A)
【文献】特開2014-198900(JP,A)
【文献】特開2015-168883(JP,A)
【文献】特公平07-100849(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/129747(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109628830(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料被覆管用のフェライト系合金において、
全体合金に対して、0.5~10重量%のニッケル(Ni);13~18重量%のクロム(Cr);5~7重量%のアルミニウム(Al);0.03~0.2重量%のイットリウム;0.05~0.3重量%のマンガン;0.01~0.1重量%の炭素
;0.2重量%のシリコン;その他は鉄(Fe)と不可避不純物
からなることを特徴とするフェライト系合金。
【請求項2】
核燃料被覆管の製造方法において、
請求項1に記載のフェライト系合金を溶解するステップ(ステップ1)、
前記ステップ1の溶解された合金を再溶解するステップ(ステップ2)、
前記ステップ2の再溶解された合金を最初熱処理するステップ(ステップ3)、
前記ステップ3の熱処理された合金を鍛造するステップ(ステップ4)、
前記ステップ4の鍛造された合金を熱間圧延するステップ(ステップ5)、
前記ステップ5の熱間圧延された合金を中間熱処理するステップ(ステップ6)、
前記ステップ6の熱処理された合金をドリリング(Drilling)するステップ(ステップ7)、
前記ステップ7のドリリングされた合金を
冷間ピルガリング(pilgering)するステップ(ステップ8)、及び
前記ステップ8の
冷間ピルガリングされた合金を最終熱処理する段階(ステップ9)を含むことを特徴とする、核燃料被覆管の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ1の溶解は真空誘導溶解炉を用いることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ2の再溶解は電気スラグ再溶解を用いることを特徴とする、請求項3に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ1の溶解及びステップ2の再溶解は真空アーク再溶解炉を用いることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ4の鍛造ステップは950℃~1200℃で行われることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ5の熱間圧延ステップは950℃~1100℃で行われることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ6の中間熱処理ステップは950℃~1050℃で行われることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ8の冷間ピルガリング工程は常温で3-ロールピルガリングを用いて行われることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ9の最終熱処理工程は600乃至700℃で行われることを特徴とする、請求項2に記載の核燃料被覆管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所の事故の際に優れた抵抗性を有するフェライト系合金及びこれを用いた核燃料被覆管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所では、核燃料被覆管材料としてジルコニウム合金を約60余年間使用してきた。核燃料被覆管に使用されるジルコニウム合金は、高温で非常に速い酸化速度によって多量の水素を発生させて水素爆発による重大事故の発生原因として作用する。
【0003】
原子力発電所の事故の際にジルコニウム合金の欠点を克服して安全性を高める方法として、核燃料焼結体を被覆するチューブ素材を高温酸化特性に優れた合金で代替する方法を採用することができる。前記合金で代替して、事故時に発生する高温の水蒸気環境で酸化速度を減少させ、水素発生量を低減するのである。
【0004】
福島原子力発電所の事故の後、全世界的に学界、研究界及び産業界では、さまざまな素材でジルコニウム被覆管を代替する研究を行ってきた。研究素材としては、ジルコニウム合金被覆管の外面にクロムまたはクロム合金をコートする素材、ジルコニウム-モリブデン-コーティング材多重構造素材、鉄ベースクロームアルミニウムからなるFeCrAl素材、及び炭化ケイ素複合体素材などがある。
【0005】
ジルコニウムの外面にクロムまたはクロム合金をコートする素材の場合、既存の原子力発電所への適用性に優れるうえ、クロムまたはクロム合金コーティング層により高温酸化抵抗性に優れる。しかし、ジルコニウム素材をそのまま使用しており、事故の際に被覆管が破裂すると、内面のジルコニウムが高温の水蒸気環境にそのまま露出してしまうという問題がある。また、被覆管の破裂でも高温酸化抵抗性が維持されるためには、被覆管の内面コーティングが不可欠であるが、通常の原子力発電所用被覆管である「内径8.3mmの4m被覆管」の内径が狭くて長い形態に適用することに技術的な限界がある。
【0006】
ジルコニウム-モリブデン-コーティング材多重構造素材の場合、高温強度が高いため、急激な昇温の際に被覆管の破裂による水蒸気の内部進入速度を遅らせる程度は、クロム及びクロム合金被覆管よりは優れるものの、内部コーティングの技術的限界によりジルコニウム-モリブデン-コーティング材多重構造素材の内部がウラン酸化物の酸素によって酸化するという問題点がある。また、多重構造素材で被覆管を便利に製造及び生産するためには、技術的に解決すべき問題が内在している。
【0007】
炭化ケイ素複合材素材は、中性子吸収断面積が低くて経済性に優れるうえ、 高温酸化抵抗性及び高温強度に優れるため、事故の際に構造的健全性を確保することができるという利点がある。しかし、炭化ケイ素複合材素材は、セラミック複合体素材であって、4m被覆管の製造が難しく、正常運転状態の腐食環境で副産物が非常に速い速度で水に溶出する現象が発生して構造的健全性を維持することが難しいという欠点がある。
【0008】
鉄ベースクロムアルミニウムからなるFeCrAl素材(以下、「FeCrAl素材」という。)の場合、上記の素材とは異なり、単一構造で構成されて内/外面の酸化抵抗性に違いがないという利点があり、フェライト単相を持つ素材であって事故の際に昇温による相変態がなくて劣化(degradation)がないという利点がある。しかし、FeCrAl素材は、ジルコニウム合金に比べて中性子吸収断面積が広いため、経済性の面で被覆管の厚さ減少が要求される。被覆管の厚さが減少しても構造的健全性を維持するためには、FeCrAl素材の強度の増加が不可欠である。また、FeCrAl素材は、正常運転状態での耐食性には優れるが、加圧軽水炉環境では腐食生成物が水に溶出する特性がある。冷却水に存在する金属イオン濃度が高い場合には、冷却水の放射化による放射能漏れ量の増加とクラッド(crud)形成物質の増加により原子力発電所の運用コストを増加させるとともに安全性を阻害するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、事故抵抗性に優れたフェライト系合金を提供することにある。本発明の他の目的は、フェライト系合金を含む核燃料用被覆管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、フェライト系合金において、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)を含み、前記ニッケル(Ni)は、全体合金に対して0.5~10重量%含むことを特徴とするフェライト系合金を提供する。
前記クロムは、全体合金に対して13乃至18重量%含んでもよい。
前記アルミニウムは、全体合金に対して5~7重量%含んでもよい。
前記フェライト系合金は、イットリウムをさらに含んでもよい。
前記フェライト系合金は、マンガンをさらに含んでもよい。
前記フェライト系合金は、炭素をさらに含んでもよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、上記のフェライト系合金を溶解するステップ(ステップ1)、前記ステップ1の溶解された合金を再溶解するステップ(ステップ2)、前記ステップ2の再溶解された合金を最初熱処理するステップ(ステップ3)、前記ステップ3の熱処理された合金を鍛造するステップ(ステップ4)、前記ステップ4の鍛造された合金を熱間圧延するステップ(ステップ5)、前記ステップ5の熱間圧延された合金を中間熱処理するステップ(ステップ6)、前記ステップ6の熱処理された合金をドリリング(Drilling)するステップ(ステップ7)、前記ステップ7のドリリングされた合金をピルガリング(pilgering)するステップ(ステップ8)、及び前記ステップ8のピルガリングされた合金を最終熱処理するステップ(ステップ9)を含むことを特徴とする核燃料被覆管の製造方法を提供する。
前記ステップ1の溶解は真空誘導溶解炉を用い、前記ステップ2の再溶解は電気スラグ再溶解を用いてもよい。
前記ステップ1の溶解及びステップ2の再溶解は、真空アーク再溶解炉を用いてもよい。
前記ステップ4の鍛造ステップは、950℃~1200℃で行われてもよい。
前記ステップ5の熱間圧延ステップは、950℃~1100℃で行われてもよい。
前記ステップ6の中間熱処理ステップは、950℃~1050℃で行われてもよい。
前記ステップ8の冷間ピルガリング工程は、常温で3-ロールピルガリングを用いて行われてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る核燃料被覆管用の鉄ベースフェライト合金は、被覆管の適用において製造が容易であり、既存の核燃料被覆管用ジルコニウム合金に比べて高温酸化特性、機械的強度及びクリープ特性に優れて正常運転状態だけでなく、事故の状況でも優れた安全性を持つ。
【0013】
また、従来のFeCrAl素材に比べて加圧軽水炉の正常運転状態で腐食生成物が水に溶ける量を減少させることにより、運転環境の制御が容易であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】合金の高温酸化抵抗性を評価するための同時熱重量分析器の写真である。
【
図2】実施例1~6で製造された鉄ベースフェライト合金及び比較例1~3の金属材の高温水蒸気酸化試験結果を示すグラフである。
【
図3】実施例2に対する断面の構造と成分観察結果を示す。
【
図4】腐食試験のための原発1次側水化学環境模写腐食試験機の写真である。
【
図5】実施例3、比較例1及び比較例3に対する腐食試験結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1及び2と比較例1のクリープ歪みを測定するために使用されたクリープ試験機の写真である。
【
図7】実施例1及び2と比較例1のクリープ歪みを測定した結果を示すグラフである。
【
図8】実施例1~3と比較例1~3に対して引張強度試験を行った結果を示すグラフである。
【
図9】実施例1~6と比較例1~3に対して硬度試験を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一側面によるフェライト系合金の構成元素についてさらに詳細に説明する。
【0016】
鉄は、全体合金の63.1乃至81.31重量%で使用され、このような数値限定事項は、本発明の合金がフェライト基底を有するためのことである。
【0017】
ニッケルは、稼働運転状態での腐食反応によって従来のFeCrAl素材から生成される鉄含有混合酸化膜が加圧軽水炉の冷却水に溶けて発生する運用上の安定性減少などの問題点を減少させることができる。このような減少は、ニッケルを添加すると、稠密な混合酸化膜が形成されて混合酸化膜が冷却水に溶け出ることが減るためである。ニッケルの添加量は、全体合金の0.5~10重量%であり得る。この時、ニッケルの最大使用量は、合金の基底がフェライトに維持できるように最大10重量%に制御され、10重量%以上のニッケルを添加すると、温度による相変態が発生して劣化による構造的健全性が弱化する。ニッケルの使用量は、好ましくは1~10重量%であり、さらに好ましくは3~10重量%である。
【0018】
クロムは、原子力発電の稼働運転状態である300℃~800℃でクロム酸化膜を形成して腐食抵抗性を向上させる作用を果たす。クロムは、好ましくは全体合金に対して13重量%乃至18重量%を含み、さらに好ましくは全体合金に対して15~18重量%を含む。13重量%以下で添加すると、腐食環境でクロム酸化膜を安定的に形成せずに混合酸化膜を形成し、18重量%以上で添加すると、熱脆化効果による素材の劣化が発生する。
【0019】
アルミニウムは、通常、事故状態である800℃乃至合金の溶融点までアルミニウム酸化膜を形成して高温酸化抵抗性を向上させる作用を果たす。好ましくは、アルミニウムは、全体合金に対して5重量%乃至7重量%含む。鉄合金にアルミニウムを5重量%以上添加する場合には、安定なアルミニウム酸化膜を形成し、全体合金に対して最大7重量%を超える場合には、加工性を弱化させる。また、アルミニウムは、添加された本発明の構成元素であるニッケルと結合してニッケル-アルミニウム金属間化合物を形成することにより、機械的強度及び耐クリープ性を増加させる。
【0020】
微量で添加する元素の場合には、イットリウムは、高温酸化環境でさらに稠密なアルミニウム酸化膜を形成し、基底との接合特性を向上させる作用を果たす。イットリウムの使用量は、全体合金に対して0.03乃至0.2重量%であることが好ましい。
【0021】
マンガンの場合は、鉄合金の製造時に添加される不可避不純物である硫黄と結合してマンガン-硫黄化合物を形成することにより、硫黄による結晶粒系弱化を防止する効果がある。マンガンの使用量は、全体合金に対して0.05~0.3重量%であることが好ましい。
【0022】
炭素の場合は、クロムまたは鉄と結合して金属-炭素セラミック化合物を形成することにより機械的強度を向上させる効果があり、合金の基底がフェライトに維持できるように最大0.3重量%に制御する。炭素の使用量は、全体合金に対して0.01~0.1重量%である。
【0023】
本発明の別の一側面は、前記フェライト合金を用いた核燃料被覆管の製造方法を提供する。
【0024】
ステップ1は、合金を溶解する段階であって、通常の方法である真空誘導溶解炉(Vacuum induction melting furnace)または真空アーク再溶解炉(Vacuum arc remelting furnace)を用いて合金を溶解する。真空誘導溶解炉は、溶解を1回実行し、ステップ2を行い、真空アーク再溶解炉は、最初溶解1回と再溶解2回を実行し、ステップ3を行う。
【0025】
ステップ2は、合金の再溶解段階であって、電気スラグ再溶解(Electric slag remelting)を用いて行う。ただし、本合金を構成する合金元素間の融点に差があるので、均質化のために電気スラグ再溶解を用いる。電気スラグ再溶解を用いると、アルミニウム偏析などの発生を防止することができる。
【0026】
ステップ3は、合金の溶体化熱処理段階であって、1050℃~1150℃の温度で熱処理を行う。溶解及び再溶解工程で冷却中に発生するニッケル-アルミニウム金属間化合物または金属-炭化物セラミック化合物は、強度を向上させる効果があり、加工時に良くない効果が発生するので、溶体化熱処理により熱間加工が容易な状態を造成する。冷却速度が遅ければ、再び金属間化合物または金属-炭化物セラミック化合物が析出できるので、水冷または空冷の方法を用いて600℃以下まで秒あたり5℃以上の急速冷却方法を使用する。
【0027】
ステップ4は、合金の鍛造段階であって、950℃~1200℃の温度で行う。鍛造は、追っての工程のための寸法減少だけでなく、溶融時に発生した樹枝状(dendrite)などの鋳造組織を除去する。950℃以下の温度ではニッケル-アルミニウム金属間化合物が析出できるので、950℃以上で工程を行う。
【0028】
ステップ5は、合金の熱間圧延段階であって、950℃~1100℃で行う。前記工程は冷間工程のための円柱状のマスターバーを製造するために行い、最低温度の選定理由は、ステップ4と同様である。
【0029】
ステップ6は、中間熱処理段階であって、950℃~1050℃で行う。前記工程は、熱間工程で発生した加工硬化効果を除去し、容易な冷間加工のために微細構造を制御するように行い、最低温度の選定理由は、ステップ4と同様である。
【0030】
ステップ7は、ドリリング段階であって常温で行い、マスターバーの中央部に長さ方向に孔を加工して冷間ピルガリング工程が可能な形態に製造するために行う。
【0031】
ステップ8は冷間ピルガリング工程であり、本工程は常温で3-ロールピルガリングを用いて行う。チューブ材を加工する工程には多くの方法があるが、ピルガリング工程は、4m被覆管に対して約0.3mmの厚さに連続的な精密加工が必要な工程であり、0.3mmの厚さに加工する理由は、現在の加圧軽水炉運用環境で核燃料被覆管として本素材を使用するために必要な厚さであるからである。ピルガリング工程は、核燃料被覆管に使用されるための表面の品質を維持するための最適な工程である。
【0032】
ステップ9は最終熱処理工程であり、本工程は600℃~700℃の温度で行う。最終熱処理時間に応じて、基底の微細構造が応力緩和(Stress relief)、部分再結晶(Partial recrystallized)または完全再結晶(Fully recrystallized)状態に決定される。いずれの状態であっても、被覆管に使用可能である。前記ステップでニッケル-アルミニウム金属間化合物を形成して機械的特性を向上させる。600℃未満の温度では、基底の微細構造の再結晶は可能であるが、ニッケル-アルミニウム金属間化合物が形成されず、700℃超過の温度では、再結晶が非常に速く起こって結晶粒の大きさが大きくなり、析出物の大きさ及び形状が変化する機械的に良くない効果が発生する。したがって、600℃~700℃の温度で最終熱処理を行って結晶粒の大きさと析出物の大きさ及び形状を制御するようにする。また、最終熱処理温度は、加圧軽水炉の正常運転状態で腐食生成物が冷却水に溶ける現象に影響を及ぼすが、熱処理温度が高いほど、冷却水に溶けて損失する量が増加する。前記合金は、最終熱処理に応じて200~400Hvの硬度を有する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を説明するためのもので、本発明を限定するものではない。
【0034】
<実施例1>Fe-13Cr-5Al-0.5Ni合金の製造
溶解温度を1800℃以上とし、真空アーク溶解法によって、80.914重量%の鉄をベースとして、13重量%のクロム、5重量%のアルミニウム及び0.5重量%のニッケルの主合金元素、0.05重量%のイットリウム、0.03重量%の炭素、0.2重量%のマンガン及び0.2重量%のシリコンなどの微量添加元素、0.08重量%の酸素、0.02重量%の窒素、0.003重量%の硫黄、並びに0.003重量%の残部及び不可避不純物を含む組成で合金を製造した。実施例1に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0035】
<実施例2>Fe-15Cr-5Al-3Ni合金の製造
溶解温度を1800℃以上とし、真空アーク溶解法によって、76.414重量%の鉄をベースとして、15重量%のクロム、5重量%のアルミニウム及び3重量%のニッケルの主合金元素、0.05重量%のイットリウム、0.03重量%の炭素、0.2重量%のマンガン及び0.2重量%のシリコンなどの微量添加元素、0.08重量%の酸素、0.02重量%の窒素、0.003重量%の硫黄、並びに0.003重量%の残部及び不可避不純物を含む組成で合金を製造した。実施例2に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0036】
<実施例3>Fe-15Cr-5Al-5Ni合金の製造
溶解温度を1800℃以上とし、真空アーク溶解法によって、74.414重量%の鉄をベースとして、15重量%のクロム、5重量%のアルミニウム及び5重量%のニッケルの主合金元素、0.05重量%のイットリウム、0.03重量%の炭素、0.2重量%のマンガン及び0.2重量%のシリコンなどの微量添加元素、0.08重量%の酸素、0.02重量%の窒素、0.003重量%の硫黄、並びに0.003重量%の残部及び不可避不純物を含む組成で合金を製造した。実施例3に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0037】
<実施例4>Fe-15Cr-5Al-10Ni合金の製造
溶解温度を1800℃以上とし、真空アーク溶解法によって、69.414重量%の鉄をベースとして、15重量%のクロム、5重量%のアルミニウム及び10重量%のニッケルの主合金元素、0.05重量%のイットリウム、0.03重量%の炭素、0.2重量%のマンガン及び0.2重量%のシリコンなどの微量添加元素、0.08重量%の酸素、0.02重量%の窒素、0.003重量%の硫黄、並びに0.003重量%の残部及び不可避不純物を含む組成で合金を製造した。実施例4に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0038】
<実施例5>Fe-15Cr-7Al-10Ni合金の製造
溶解温度を1800℃以上とし、真空アーク溶解法によって、67.414重量%の鉄をベースとして、15重量%のクロム、7重量%のアルミニウム及び10重量%のニッケルの主合金元素、0.05重量%のイットリウム、0.03重量%の炭素、0.2重量%のマンガン及び0.2重量%のシリコンなどの微量添加元素、0.08重量%の酸素、0.02重量%の窒素、0.003重量%の硫黄、並びに0.003重量%の残部及び不可避不純物を含む組成で合金を製造した。実施例5に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0039】
<実施例6>Fe-18Cr-7Al-10Ni合金の製造
溶解温度を1800℃以上とし、真空アーク溶解法によって、64.414重量%の鉄をベースとして、18重量%のクロム、7重量%のアルミニウム及び10重量%のニッケルの主合金元素、0.05重量%のイットリウム、0.03重量%の炭素、0.2重量%のマンガン及び0.2重量%のシリコンなどの微量添加元素、0.08重量%の酸素、0.02重量%の窒素、0.003重量%の硫黄、並びに0.003重量%の残部及び不可避不純物を含む組成で合金を製造した。実施例6に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0040】
<比較例1>Zr-Nb系ジルコニウム合金
核燃料被覆管用Zr-Nb系ジルコニウム合金を比較例1として用意した。比較例1の詳細組成は、次のとおりである。比較例1に対する試験片の最終熱処理状態は、約50%の部分再結晶熱処理状態である。
【0041】
<比較例2>310sステンレス鋼
商用の鉄ベースオーステナイト合金である310sステンレス鋼を比較例2として用意した。比較例2に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0042】
<比較例3>FeCrAl-Khantal(登録商標)APMT
商用の鉄ベースフェライト合金であるFeCrAl-Khantal(登録商標)APMTを比較例2として用意した。比較例3に対する試験片の最終熱処理状態は、完全再結晶熱処理状態である。
【0043】
<実験例1>高温酸化抵抗性の測定
前記実施例1~6で製造された核燃料被覆管用鉄ベースフェライト合金及び比較例1~3の金属材の高温酸化抵抗性を評価するために、
図1に示された同時熱重量分析器(STA-F49、Netzsch)を用いて1200℃まで30℃/分の加熱速度で不活性雰囲気中で昇温させた後、4時間水蒸気雰囲気で維持し、不活性雰囲気中で冷却して高温水蒸気酸化試験を行った。試験結果を
図2に導出し、実施例2について断面の構造と成分を観察し、その結果を
図3に示した。
図2の内容から、ジルコニウム合金である比較例3とフェライト系合金である実施例1~6が比較例1及び2に比べて高い高温酸化抵抗性を示すことを確認することができ、Niを添加しても、既存のFeCrAl合金の高温酸化抵抗性が維持されることを確認することができる。
図3の内容から、実施例3が高温酸化環境に晒されたときに表面に酸化アルミニウムを形成して高温酸化抵抗性を向上させるメカニズムを有することを確認することができる。
【0044】
<実験例2>正常運転条件での腐食測定
前記実施例3と比較例1、比較例3に対して360℃の温度及び186barの圧力下で77日間腐食試験を、
図4に示された原発1次側水化学環境模写腐食試験機を用いて行った結果を
図5に示す。
図5の内容から、実施例3及び比較例3が比較例1に比べて正常運転条件腐食抵抗性が高いことを確認することができ、Niを添加したときに比較例3が持つ、水に溶ける現象を減少させることを確認することができる。
【0045】
<実験例3>クリープ歪みの測定
前記実施例1及び2に対して350℃の温度及び300MPaの応力の下で、比較例1に対して350℃の温度及び150MPaの応力下で240時間試験を
図6のクリープ試験機で行った。その結果を
図7に示す。
図7の内容から、実施例1及び2が比較例1に比べて応力を倍増させたにも拘らず、クリープ歪みが低いことから耐クリープ性が高いことがを確認することができる。
【0046】
<実験例4>強度の測定
前記実施例1~3と比較例1及び2に対して常温で引張強度試験を行った結果を
図8に示す。
図8の結果から、実施例1~3は比較例1~2に比べて同等以上の強度を維持し、Niの添加が強度を増加させることを確認することができる。
【0047】
<実験例5>硬度の測定
前記実施例1~6と比較例1~3に対して常温で硬度試験を行った結果を
図9に示す。
図9の結果から、実施例1~6が比較例1~3に比べて同等以上の硬度を維持し、Ni及びAlの添加が硬度を増加させることを確認することができる。