IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フュージョン ファーマシューティカルズ インク.の特許一覧

特許7122357がんの治療のための方法、組成物、及びキット
<>
  • 特許-がんの治療のための方法、組成物、及びキット 図1
  • 特許-がんの治療のための方法、組成物、及びキット 図2
  • 特許-がんの治療のための方法、組成物、及びキット 図3
  • 特許-がんの治療のための方法、組成物、及びキット 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】がんの治療のための方法、組成物、及びキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220812BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220812BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220812BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220812BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C07K16/28 ZNA
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020167443
(22)【出願日】2020-10-02
(62)【分割の表示】P 2017544657の分割
【原出願日】2016-02-19
(65)【公開番号】P2021020909
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】62/118,350
(32)【優先日】2015-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/150,235
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520294789
【氏名又は名称】フュージョン ファーマシューティカルズ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ホラッシュ, ジョスリン
(72)【発明者】
【氏名】ラウ, スティーヴン
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-521759(JP,A)
【文献】CHAMPIAT, S., et al.,Journal of Thoracic Oncology,2014年02月,Vol.9, No.2,pp.144-153.
【文献】LUKE, J. J., et al.,Expert Opinion on Pharmacotherapy,2013年10月21日,Vol.14, No.18,pp.2457-2462.
【文献】CHEN, S., et al.,Cancer Immunology Research,2014年11月11日,Vol.3, No.2,pp.149-160.
【文献】STAGG, J., et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences,2011年04月26日,Vol.108, No.17,pp.7142-7147.
【文献】MOMTAZ, P., et al.,Pharmacogenomics and Personalized Medicine,2014年,Vol.7,pp.357-365.
【文献】AZIJLI, K., et al.,Anticancer Research,2014年,Vol.34,pp.1493-1506.
【文献】TYKODI, S. S.,OncoTargets and Therapy,2014年,Vol.7,pp.1349-1359.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 43/00
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする対象における固形腫瘍を、治療上有効な量の、PD1又はそのリガンドに結合することによりPD1活性を阻害する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて治療するための、治療上有効な量の拮抗性FGFR3抗体又はその拮抗性FGFR3結合断片を含むキットであって、拮抗性FGFR3抗体又はその拮抗性FGFR3結合断片がB-701を含む、キット。
【請求項2】
拮抗性FGFR3抗体又はその拮抗性FGFR3結合断片が、対象の重量に基づき、約10から50mg/kgの用量で存在する、請求項に記載のキット。
【請求項3】
拮抗性FGFR3抗体又はその拮抗性FGFR3結合断片を使用するための使用説明書をさらに含む、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
使用説明書が、対象の重量に基づき約10から50mg/kgの用量のB-701を2から4週毎に投与することを含む、請求項に記載のキット。
【請求項5】
使用説明書が、対象の重量に基づき約20から40mg/kgの用量のB-701を2から4週毎に投与することを含む、請求項に記載のキット。
【請求項6】
使用説明書が、対象の重量に基づき約30mg/kgの用量のB-701を3週毎に投与することを含む、請求項に記載のキット。
【請求項7】
PD1活性を阻害する抗体またはその抗原結合断片が、拮抗性PD1抗体又はその拮抗性PD1結合断片である、請求項1に記載のキット。
【請求項8】
拮抗性PD1抗体又はその拮抗性PD1結合断片が、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、CT-011、MEDI-0680、及びRMP1-14からなる群から選択される、請求項に記載のキット。
【請求項9】
PD1活性を阻害する抗体またはその抗原結合断片が、拮抗性PD1リガンド抗体又はその拮抗性PD1リガンド結合断片である、請求項1に記載のキット。
【請求項10】
拮抗性PD1リガンド抗体又はその拮抗性PD1リガンド結合断片が、MEDI-4736、RG7446、BMS-936559、MSB0010718C、及びMPDL3280Aからなる群から選択される、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、図面を含むその開示の全体が出典明示によりここに援用される、2015年2月19日出願の米国仮出願第62/118350号及び2015年4月20日出願の米国仮出願第62/150235号に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、がんを治療するためにFGFR3阻害剤とPD1阻害剤の組み合わせを利用する方法、組成物、及びキットに関する。
【発明の概要】
【0003】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、治療上有効な量のFGFR3阻害剤と治療上有効な量のPD1阻害剤を投与することを含む、それを必要とする対象における固形腫瘍又は血液腫瘍を治療する方法である。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤はFGFR3に結合する。他の実施態様では、FGFR3阻害剤は、FGFR3のリガンドに結合する。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は拮抗性FGFR3抗体であり、これら実施態様のあるものでは、拮抗性FGFR3抗体は、配列番号1を含むCDR-H1、配列番号2を含むCDR-H2、配列番号3を含むCDR-H3、配列番号7を含む重鎖可変領域、配列番号9を含む重鎖、配列番号4を含むCDR-L1、配列番号5を含むCDR-L2、配列番号6を含むCDR-L3、配列番号8を含む軽鎖可変領域、及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖の一又は複数を含む。これら実施態様のあるものでは、FGFR3拮抗性抗体はB-701である。他の実施態様では、拮抗性FGFR3抗体は、PRO-001及びIMC-D11からなる群から選択される。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は小分子汎FGFR阻害剤であり、これら実施態様のあるものでは、汎FGFR阻害剤は、インフィグラチニブ(infigratinib)、AZD4547、LY2874455、Debio1347、ARQ087、及びJNJ-42756493からなる群から選択される。所定の実施態様では、PD1阻害剤はPD1に結合する。他の実施態様では、PD1阻害剤はPD1のリガンドに結合する。所定の実施態様では、PD1阻害剤は拮抗性PD1抗体であり、これら実施態様のあるものでは、拮抗性PD1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、CT-011、MEDI-0680、及びRMP1-14からなる群から選択される。他の実施態様では、PD1阻害剤は拮抗性PD1リガンド抗体であり、これら実施態様のあるものでは、拮抗性PD1リガンド抗体は、MEDI-4736、RG7446、BMS-936559、MSB0010718C、及びMPDL3280Aからなる群から選択される。
【0004】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤を含有する組成物である。これら実施態様のあるものでは、組成物は薬学的組成物であり、所定の実施態様では、組成物は一又は複数の薬学的に許容される担体を含有する。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤はFGFR3に結合する。他の実施態様では、FGFR3阻害剤は、FGFR3のリガンドに結合する。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は拮抗性FGFR3抗体であり、これら実施態様のあるものでは、拮抗性FGFR3抗体は、配列番号1を含むCDR-H1、配列番号2を含むCDR-H2、配列番号3を含むCDR-H3、配列番号7を含む重鎖可変領域、配列番号9を含む重鎖、配列番号4を含むCDR-L1、配列番号5を含むCDR-L2、配列番号6を含むCDR-L3、配列番号8を含む軽鎖可変領域、及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖の一又は複数を含む。これら実施態様のあるものでは、FGFR3拮抗性抗体はB-701である。他の実施態様では、拮抗性FGFR3抗体は、PRO-001及びIMC-D11からなる群から選択される。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は小分子汎FGFR阻害剤であり、これら実施態様のあるものでは、汎FGFR阻害剤は、インフィグラチニブ、AZD4547、LY2874455、Debio1347、ARQ087、及びJNJ-42756493からなる群から選択される。所定の実施態様では、PD1阻害剤はPD1に結合する。他の実施態様では、PD1阻害剤はPD1のリガンドに結合する。所定の実施態様では、PD1阻害剤は拮抗性PD1抗体であり、これら実施態様のあるものでは、拮抗性PD1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、CT-011、MEDI-0680、及びRMP1-14からなる群から選択される。他の実施態様では、PD1阻害剤は拮抗性PD1リガンド抗体であり、これら実施態様のあるものでは、拮抗性PD1リガンド抗体は、MEDI-4736、RG7446、BMS-936559、MSB0010718C、及びMPDL3280Aからなる群から選択される。
【0005】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、がんを治療する際に使用するためのFGFR3阻害剤とPD1阻害剤を含むキットである。これらの実施態様のあるものでは、キットは使用説明書を更に含む。
【0006】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、がんの治療のための医薬を製剤化する際に使用するためのFGFR3阻害剤とPD1阻害剤の使用である。これら実施態様のあるものでは、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤は単一医薬に製剤化される。他の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤は、互いに組み合わせて投与される別々の医薬に製剤化される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】FGFR3及び/又はPD1阻害剤抗体の投与後のMC38同系腫瘍マウスにおける腫瘍体積の変化。
【0008】
図2】FGFR3及び/又はPD1阻害剤抗体の投与後のMC38同系腫瘍マウスにおける腫瘍体積の変化を示す2週間の有効性スナップショット。
【0009】
図3】FGFR3及び/又はPD1阻害剤抗体の投与後のルイス肺癌腫瘍細胞を移植したマウスにおける腫瘍体積の変化。
【0010】
図4】FGFR3及び/又はPD1阻害剤抗体の投与後のMadison109腫瘍細胞を移植したマウスにおける腫瘍体積の変化。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[詳細な説明]
次の本発明の説明は、本発明の様々な実施態様を例証することを単に意図したものである。而して、検討される特定の変更は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく様々な均等態様、変更、及び修正を実施することができることは明らかであり、そのような均等実施態様がここに含まれるべきであることが理解される。
【0012】
ヒトには4つの1回膜貫通チロシンキナーゼ線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR1-4)がある(Brooks 2012)。FGFRは、しばしば構成的活性化をもたらす突然変異のために、多くのがん型において過剰発現され、それらを治療介入の魅力的な標的にしている。例えば、FGFR2b抗体FPA144(FivePrime)は、固形腫瘍、特に胃がんの治療用に現在開発中である。がん治療用に初期開発中の他のFGFR2モノクローナル抗体には、GP369(Aveo)及びHuGAL-FR21(Galaxy)が含まれる(Zhao 2010;Bai 2010)。ヒト化抗FGFR4も、腫瘍増殖を阻害することが報告されている(Bumbaca 2011)。
【0013】
FGFR3は発がん性と腫瘍抑制性の両方の性質を有する。FGFR3はある種のがんで頻繁に突然変異するが、幾つかの正常組織では、細胞増殖を制限し、細胞分化を促進することができる(Lafitte 2013)。ここではB-701又はBM2と呼ぶヒトFGFR3拮抗性モノクローナル抗体MFGR1877S(CAS番号1312305-12-6)は、臨床開発に入った最初のFGFR抗体であった。B-701は、MGFR1877Aの凍結乾燥形態である。B-701は、現在、転移性膀胱がん(尿路上皮細胞癌)及び軟骨無形成症(低身長症)の治療用に初期開発中である。B-701は、元々はファージディスプレイにより同定され、ついでヒトIgG1骨格を用いて組換えられた。B-701は、膀胱がん及び軟骨無形成症に見出される最も優勢な変異(具体的には、FGFR3-IIIbR248C、FGFR3-IIIbK652E、FGFR3-IIIY375C、FGFR3-IIIbS249C、及びFGFR3-IIIbG372C)を含む、野生型及び変異FGFR3の双方に高親和性で結合するが、他のFGFRと交差反応性は示さない。B-701は、t(4:14)転座多発性骨髄腫の患者において安全性が以前評価された(臨床試験NCT01122875)。現在、臨床又は前臨床開発中の他のFGFR3阻害剤抗体には、PRO-001(Prochon)及びIMC-D11(ImClone)が含まれる。がん及び他の疾患の治療に使用するための更なるFGFR3抗体は、例えば、米国特許第8187601号(Aveo)及び第7498416号(Fibron)に開示されている。
【0014】
プログラム細胞死タンパク質1(PD1)は、その2つのリガンドPDL1又はPDL2の何れかによる活性化後に組織内のT細胞エフェクター機能を制限するCD28スーパーファミリー由来の免疫チェックポイント受容体である(Pardoll 2012)。PD1は、抗原特異的T細胞におけるアポトーシスを促進することによって免疫系をダウンレギュレートする一方、調節性(すなわち、サプレッサー)T細胞におけるアポトーシスを減少させる。ある腫瘍細胞は、PD1のリガンドをアップレギュレートすることによって、腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫応答を遮断する。PD1経路の遮断は、免疫系を活性化して腫瘍を攻撃させ、様々な腫瘍型において持続的な腫瘍退縮を誘導することが示されている。従って、幾つかのPD1アンタゴニスト抗体が、現在、臨床開発の様々な段階にある。例えば、完全ヒトIgG4モノクローナルPD1抗体ニボルマブ(オプジーボ(登録商標),Bristol-Myers Squibb及び小野薬品;ONO-4538,BMS-936558,MDX-1106としても知られる)は、他の薬剤に反応しなくなった患者における再選択不可能な又は転移性メラノーマの治療用に承認されている。ニボルマブはまた様々な化学療法レジメンとの併用で非小細胞肺がん(NSCLC)の治療用に評価中である。ヒト化IgG4 PD1抗体のペンブロリズマブ(Keytruda(登録商標),Merck;MK-3475としても知られている)は、メラノーマの治療用に承認されている。開発中の他のPD1抗体には、CT-011(Curetech)及びMEDI-0680/AMP-514(AstraZeneca)が含まれる。
【0015】
様々なPD1リガンド(PDL)抗体もがん治療用に開発中である。例えば、モノクローナルIgG1k PDL1抗体MEDI-4736(AstraZeneca)は、単独で又はモノクローナルCTLA4抗体トレメリムマブ(AstraZeneca)もしくはMEDI-0680との併用でNSCLCの治療用に現在開発中であり、モノクローナルIgG1k PDL1抗体RG7446(Roche)は、単独で又はアバスチン(Avastin)(登録商標)及びゼルボラフ(Zelboraf)(登録商標)との併用で様々ながんの治療に使用するために開発中であり、完全ヒトモノクローナルIgG4抗体BMS-936559/MDX-1105(BMS)は、NSCLC及び他のがん型の治療用に現在開発中であり、完全ヒトIgG1 PDL1抗体MSB0010718C(Merck Serono)は様々ながん型の治療用に開発中であり、Fc修飾モノクローナルIgG1抗体MPDL3280A(Genentech)は、NSCLCの治療用に現在開発中である。
【0016】
以下の実施例に記載されるように、PD1アンタゴニスト抗体と組み合わせたFGFR3アンタゴニスト抗体の投与は、何れかの抗体単独の投与よりもMC38同系腫瘍モデルマウスにおいてより遅い腫瘍増殖結果をもたらした。過去の研究では、FGFR3経路の遮断は、免疫系を増強するよりもむしろ弱めることを示していたので(例えば、国際公開第04/110487号を参照)、これらの結果は驚くべきことである。PD1阻害の抗がん特性は、がん細胞を攻撃する免疫系の活性化に由来すると考えられているので、当業者は、FGFR3の阻害はPD1の阻害の有効性を低下させると予想したであろう。加えて、FGFR3アンタゴニスト抗体のB-701での治療は、MC38腫瘍モデルマウスにおいて調節性T細胞に対するCD8+細胞のより高い比をもたらし、B-701が免疫チェックポイント阻害剤の効力を増強しうるという初期の知見を裏付けている。下記の実施例はまたPD1アンタゴニスト抗体と組み合わせたFGFR3アンタゴニスト抗体の投与を記載しており、何れかの抗体単独の投与よりもMadison109及びルイス肺癌腫瘍細胞を移植したマウスにおいてより遅い腫瘍増殖結果をもたらしている。本出願は、一又は複数のFGFR3阻害剤と免疫チェックポイント分子の一又は複数の阻害剤との組み合わせを使用する、固形腫瘍を治療するための組成物、方法、及びキットの形態で、これら知見の実際的な応用を提供する。
【0017】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤を投与することを含む、それを必要とする対象における固形又は血液がんを治療する方法である。ここにまた提供されるのは、FGFR3阻害剤を投与することを含む、それを必要とする対象におけるがんを治療するためのPD1阻害剤の有効性を増加させる方法と、PD1阻害剤を投与することを含む、それを必要とする対象においてがんを治療するためのFGFR3阻害剤の有効性を増加させる方法である。PD1又はFGFR3阻害剤の有効性の増加とは、何れかの阻害剤の治療効果の増加、特定レベルの治療効果を得るために何れかの阻害剤の必要な用量、投与頻度、又は投与間隔の減少、又はそれらの組み合わせを意味しうる。
【0018】
ここで使用される「固形がん」という用語は、分離した腫瘍塊を形成するがんを意味する。本方法の範囲内の固形がんの例には、結腸、直腸、腎臓、膀胱、前立腺、脳、乳房、肝臓、肺、皮膚(例えばメラノーマ)及び頭頸部のがんが含まれる。
【0019】
ここで使用される「血液がん」という用語は、免疫系の細胞又は骨髄を含む血液形成組織に生じ、一般に固形腫瘍を形成しないがんを意味する。本方法の範囲内の血液がんの例には、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病)、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、骨髄腫、及び骨髄異形成症候群が含まれる。
【0020】
固形がんに関してここで使用される「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」という用語は、腫瘍増殖の部分的又は完全な阻害、腫瘍サイズの縮小、完全な又は部分的な腫瘍根絶、悪性増殖の減少又は予防、がん細胞の部分的又は完全な根絶、あるいはそれらの幾つかの組み合わせを意味しうる。血液がんに関してここで使用される「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」という用語は、がんの完全な又は部分的な退縮又は寛解、予防、緩徐化、又は減少、がん細胞の部分的な又は全体的な根絶、又はそれらの幾つかの組み合わせを意味しうる。「患者」及び「対象」という語句はここでは交換可能に使用される。
【0021】
ここで使用される「それを必要とする対象」とは、固形がん又は血液がんと診断され、固形がん又は血液がんを有すると疑われ、及び/又は固形がん又は血液がんに関連した一又は複数の症状を示す哺乳動物対象、好ましくはヒトを意味する。所定の実施態様では、対象は、がん治療のための一又は複数の治療的介入、例えば化学療法を以前に受けていてもよい。
【0022】
ここで使用される「FGFR3阻害剤」は、FGFR3の活性を部分的又は完全に阻害する任意の分子を指す。FGFR3阻害剤は、FGFR3を特異的に阻害しうるか、又はFGFR3に加えて他のタンパク質の活性を阻害しうる。例えば、FGFR3阻害剤はまた他のFGFRの活性を阻害しうる。
【0023】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は、FGFR3に結合することによってFGFR3活性を阻害する。このようなFGFR3阻害剤の例には、例えば、拮抗性FGFR3抗体又はその融合タンパク質、FGFR3リガンドの不活性形態(例えば、FGFR3リガンドの切断型又はその他の変異型)又はその融合タンパク質、小分子、siRNA、及びアプタマーが含まれる。これら実施態様のあるものでは、FGFR3阻害剤はFGFR3に特異的に結合し、これは、その阻害剤が他のFGFRとの結合性を殆ど又は全く示さないことを意味する。他の実施態様では、FGFR3阻害剤は、FGFR3に加えて、一又は複数のFGFRに結合する。
【0024】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の好ましい実施態様では、FGFR3阻害剤はFGFR3アンタゴニスト抗体であり、これら実施態様の幾つかでは、FGFR3アンタゴニスト抗体はFGFR3に特異的に結合する。ここで使用される「抗体」という用語は、特定の抗原、例えばFGFR3又はPD1に結合する免疫グロブリン分子又はその免疫学的に活性な部分を意味する。本方法、組成物、及びキットにおいて使用するものが完全長免疫グロブリン分子である実施態様では、抗体は2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、各重鎖と軽鎖は3つの相補性決定領域(CDR)を含む。抗体が免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分である実施態様では、抗体は、例えば、Fab、Fab’、Fv、Fab’F(ab’)、ジスルフィド結合Fv、scFv、単一ドメイン抗体(dAb)、又はダイアボディでありうる。本方法、組成物、及びキットにおいて使用するための抗体は、天然抗体、合成抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、二重特異性(bispecific)抗体、二重特異性(dual-specific)抗体、抗イディオタイプ抗体、又はその断片で、特定の抗原、例えばFGFR3又はPD1に結合する能力を保持しているものを含みうる。例示的な抗体には、IgA、IgD、IgG1、IgG2、IgG3、IgM等が含まれる。ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の好ましい実施態様では、FGFR3抗体はIgG2抗体である。
【0025】
所定の実施態様では、本方法、組成物、及びキットにおいて使用するためのFGFR3アンタゴニスト抗体は、配列番号1~3に記載の配列を有する一又は複数の相補性決定領域(CDR)を含む重鎖可変領域を含む。これら実施態様のあるものでは、FGFR3アンタゴニスト抗体は、これらCDR配列の3つ全てを含み、これら実施態様のあるものでは、FGFR3アンタゴニスト抗体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。所定の実施態様では、FGFR3アンタゴニスト抗体は、配列番号5~7に記載の配列を有する一又は複数のCDRを含む軽鎖可変領域を含む。これら実施態様のあるものでは、FGFR3アンタゴニスト抗体は、これらCDR配列の3つ全てを含み、これら実施態様のあるものでは、FGFR3アンタゴニスト抗体は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。所定の実施態様では、FGFR3アンタゴニスト抗体は、配列番号1~3及び5~7に記載の6つのCDR配列の全てを含み、これら実施態様のあるものでは、FGFR3アンタゴニスト抗体は、配列番号4の重鎖可変領域と配列番号8の軽鎖可変領域とを含む。所定の実施態様では、抗体は、配列番号9の重鎖と配列番号10の軽鎖を含むB-701である。配列番号7に記載の可変領域に加えて、重鎖配列番号9はヒトIgG1を含む。同様に、配列番号10の軽鎖は、配列番号8に記載の可変領域とヒトIgκ鎖C(UniProt P01834)を含む。
【0026】
配列番号1(H1-CDR):GFTFTSTGIS。
【0027】
配列番号2(H2-CDR):GRIYPTSGSTNYADSVKG。
【0028】
配列番号3(H3-CDR):ARTYGIYDLYVDYTEYVMDY。
【0029】
配列番号4(L1-CDR):RASQDVDTSLA。
【0030】
配列番号5(L2-CDR):SASFLYS。
【0031】
配列番号6(L3-CDR):QQSTGHPQT。
【0032】
配列番号7:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFTSTGISWVRQAPGKGLEWVGRIYPTSGSTNYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARTYGIYDLYVDYTEYVMDYWGQGTLV。
【0033】
配列番号8:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVDTSLAWYKQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSTGHPQTFGQGTKVEIKR。
【0034】
配列番号9:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFTSTGISWVRQAPGKGLEWVGRIYPTSGSTNYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARTYGIYDLYVDYTEYVMDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK。
【0035】
配列番号10:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVDTSLAWYKQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSTGHPQTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC。
【0036】
他の実施態様では、本方法、組成物、及びキットにおいて使用するためのFGFR3アンタゴニスト抗体は、米国特許第8187601号(Aveo)又は米国特許第7498416号(Fibron)に開示されているようなPRO-001、IMC-D11、又はFGFR3拮抗性抗体でありうる。
【0037】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は、FGFR3のリガンドに結合することによってFGFR3活性を阻害する。そのようなFGFR3阻害剤の例には、例えば、FGFR3リガンドに特異的に結合する抗体又はその融合タンパク質、FGFR3細胞外ドメインの全部又は一部を含むFGFR3の可溶型又はその融合タンパク質、下流のシグナル伝達に必要とされる細胞内ドメインの全て又は一部を欠くFGFR3の切断型又はその融合タンパク質、小分子、siRNA、及びアプタマーが含まれる。
【0038】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は汎FGFR阻害剤であり、これはFGFR3に加えて一又は複数のFGFRに結合しその活性を阻害することを意味する。これら実施態様のあるものでは、FGFR3阻害剤は、インフィグラチニブ(BGJ398,Novartis)、AZD4547(AstraZeneca)、LY2874455(Eli Lilly)、Debio1347(Debiopharm)、ARQ087(ArQule)、JNJ-42756493(Janssen)、及びPRN1371(Principia)からなる群から選択される小分子汎FGFR阻害剤でありうる。
【0039】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は、下流のチロシンキナーゼ活性を遮断することによってFGFR3活性を阻害する。例えば、ドビチニブ、ルシチニブ、ポナチニブ、ニンテダニブ、ポナチニブ、又はENMD-2076などの非選択的チロシンキナーゼ阻害剤をFGFR3阻害剤として利用することができる。
【0040】
ここで使用される「PD1阻害剤」は、PD1の活性を部分的に又は完全に阻害する任意の分子を指す。PD1阻害剤は、PD1を特異的に阻害しうるか、又はPD1に加えて他のタンパク質の活性を阻害しうる。例えば、PD1阻害剤は他の免疫チェックポイント分子の活性をまた阻害しうる。
【0041】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、PD1阻害剤は、PD1に結合することによってPD1活性を阻害する。このようなPD1阻害剤の例には、例えば、拮抗性PD1抗体又はその融合タンパク質、PD1リガンドの不活性型(例えばPDL1又はPDL2の切断型又は他の変異型)又はその融合タンパク質(例えば、AMP-224(GlaxoSmithKline,Amplimmune)、小分子、siRNA、及びアプタマーが含まれる。
【0042】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、PD1阻害剤はPD1抗体であり、これら実施態様のあるものではPD1アンタゴニスト抗体はPD1に特異的に結合する。所定の実施態様では、PD1拮抗性抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、CT-011、MEDI-0680、及びRMP1-14からなる群から選択される。
【0043】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、PD1阻害剤は、PD1の一又は複数のリガンド、すなわちPDL1又はPDL2に結合することによってPD1活性を阻害する。そのようなPD1阻害剤の例には、例えば、PD1リガンド抗体又はその融合タンパク質、PD1細胞外ドメインの全部又は一部を含むPD1の可溶型又はその融合タンパク質、下流のシグナル伝達に必要とされる細胞内ドメインの全部又は一部を欠くPD1の切断型又はその融合タンパク質、小分子、siRNA、及びアプタマーが含まれる。
【0044】
ここに提供される方法、組成物、及びキットの所定の実施態様では、PD1阻害剤はPD1リガンド抗体であり、これら実施態様のあるものでは、PD1リガンド抗体はPD1リガンドに特異的に結合する。所定の実施態様では、PD1リガンド抗体は、MEDI-4736、RG7446、BMS-936559、MSB0010718C、及びMPDL3280Aからなる群から選択される。
【0045】
ここに提供される方法の所定の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤は、同じ組成物の一部として共に投与される。他の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤は、別々に、すなわち別々の組成物として投与される。これら実施態様では、阻害剤は同時に又は逐次的に投与され得、同じ又は異なる経路を介して投与されうる。阻害剤が逐次的に投与される実施態様では、阻害剤は、同じ又は異なる間隔で投与されうる。例えば、ある阻害剤は、他の阻害剤よりも頻繁に投与され得、あるいはより長い時間過程にわたって投与されうる。これら実施態様のあるものでは、一つの阻害剤が、第2の阻害剤の最初の投与の前に一又は複数回投与されうる。第2の阻害剤の投与が開始されると、第1の阻害剤の投与は、第2の阻害剤の投与過程の全部又は一部の間、終了されるか又は継続されうる。FGFR3阻害剤がFGFR3アンタゴニスト抗体である所定の実施態様では、抗体は、1日2回以上、毎日、週2回以上、毎週、隔週(すなわち2週間毎)、3週間毎に、又は毎月、投与されうる。所定の実施態様では、抗体は、毎週、隔週、又は3週間毎に投与される。PD1阻害剤がPD1アンタゴニスト抗体である所定の実施態様では、抗体は、1日2回以上、毎日、週2回以上、毎週、隔週、3週間毎、又は毎月、投与されうる。所定の実施態様では、PD1阻害剤は隔週、投与される。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤及び/又はPD1阻害剤は、予め決定された特定の時間過程の間、投与されうる。例えば、FGFR3及び/又はPD1阻害剤は、1日、2日、1週間、2週間、4週間、又は8週間の時間過程の間、投与されうる。他の実施態様では、FGFR3及び/又はPD1阻害剤は、無期限に、又は特定の治療的ベンチマークに達するまで投与されうる。例えば、FGFR3及び/又はPD1阻害剤は、腫瘍増殖が停止又は逆転されるまで、一又は複数の腫瘍が排除されるまで、あるいはがん細胞の数が特定レベルに減少するまで、投与されうる。
【0046】
ここで使用される組成物の「治療上有効な量」は、がんの治療など、対象において所望の治療効果を生じる組成物の量である。所定の実施態様では、治療上有効な量は、最大の治療効果をもたらす組成物の量である。他の実施態様では、治療上有効な量は、最大の治療効果より少ない治療効果をもたらす。例えば、治療上有効な量は、最大の治療効果をもたらす投薬量に関連する一又は複数の副作用を回避しながら、治療効果を生じる量でありうる。特定の組成物の治療上有効な量は、限定されないが、治療組成物の特性(例えば、活性、薬物動態、薬力学、及び生物学的利用能)、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、性別、病型及び病期、病歴、全身健康状態、与えられた投薬量に対する応答性、及び他の現在の投薬)、組成物中の任意の薬学的に許容される担体の性質、及び投与経路を含む様々な要因に基づいて変わるであろう。臨床及び薬理学分野の当業者であれば、日常的な実験を通じて、すなわち組成物の投与に対する対象の応答を監視し、それに応じて投与量を調節することによって、治療上有効な量を決定することができるであろう。更なるガイダンスについては、例えば、その全体の開示が出典明示によりここに援用されるRemington:The Science and Practice of Pharmacy,22版,Pharmaceutical Press,London,2012、及びGoodman&Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,12版,McGraw-Hill,New York,NY,2011を参照のこと。
【0047】
ここに提供される方法の所定の実施態様では、FGFR3阻害剤又はPD1阻害剤の治療上有効な量は、分子が単剤療法として、すなわち、単独で投与される場合に治療反応(例えば、腫瘍増殖の減少又は排除)を生じさせることができる投薬量でありうる。これら実施態様のあるものでは、治療上有効な量は、がん治療のために最適であるか又は最適に近いと以前に決定された投薬量でありうる。例えば、FGFR3阻害剤がB-701である場合、該抗体は2~4週間毎に約10~50mg/kgの投薬量で投与され得、これら実施態様のあるものでは、抗体は2~4週間毎に約20~40mg/kg、又は3週間毎に約30mg/kgの投薬量で投与されうる。他の実施態様では、治療上有効な量のFGFR3阻害剤又はPD1阻害剤は、単剤療法としての使用に対して分子が通常投与される投薬量より少なく、すなわち準最適用量でありうる。これら実施態様のあるものでは、FGFR3又はPD1阻害剤の準最適投薬量の投与は、単独で投与される場合の標準投薬量に対して副作用の減少をもたらしうる。例えば、準最適投薬量のFGFR3又はPD1阻害剤の投与は、何れかの阻害剤単独の最適投薬量の投与に対して、掻痒症、大腸炎、又は肺炎の発症又は重症度の低下をもたらしうる。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤のうちの一方が、単独で投与される場合にがん治療に最適であると決定された投薬量で投与され得、他方は、単独で投与される場合に治療に準最適である投薬量で投与される。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤又はPD1阻害剤の投薬量は、治療レジメンの過程にわたって変わりうる。例えば、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤の一方又は両方が、治療開始時(例えば、負荷段階)に高用量で投与され得、その後の治療では低投薬量が続く。
【0048】
FGFR3阻害剤、PD1阻害剤、又はFGFR3阻害剤とPD1阻害剤の両方を含有する組成物は、限定されないが、非経口、経口、エアロゾル、経腸、経鼻、点眼、非経口、又は経皮(例えば、局所用クリーム又は軟膏、パッチ)を含む当該分野で知られている任意の投与経路によって対象に送達されうる。「非経口」は、静脈内、腹腔内、皮下、眼窩下、注入、動脈内、嚢内、心臓内、皮内、筋肉内、肺内、脊髄内、胸骨内、くも膜下腔内、子宮内、くも膜下、嚢下、経粘膜、又は経気管を含む、一般に注射に関連する投与経路を意味する。FGFR3阻害剤が例えばB-701を含むFGFR3アンタゴニスト抗体である所定の実施態様では、FGFR3阻害剤は静脈内投与される。PD1阻害剤がPD1アンタゴニスト抗体である所定の実施態様では、PD1阻害剤は腹腔内投与される。
【0049】
所定の実施態様では、FGFR3阻害剤、PD1阻害剤、又はFGFR3阻害剤とPD1阻害剤の両方を含有する組成物は、経口投薬単位、例えば錠剤、丸薬、又はカプセルに形成されうる。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤、PD1阻害剤、又はFGFR3及びPD1阻害剤組成物は、例えば、徐放性カプセルなどの時間放出送達ビヒクルを介して投与されうる。ここで使用される「時間放出ビヒクル」は、投与直後ではなく、ある期間にわたって活性剤を放出する任意の送達ビヒクルを指す。他の実施態様では、FGFR3阻害剤、PD1阻害剤、又はFGFR3及びPD1阻害剤組成物は、即時放出送達ビヒクルを介して投与されうる。
【0050】
ここに提供される方法の所定の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤を投与される対象は、FGFR3及びPD1阻害剤での治療前、治療中又は治療後に、例えば化学療法又は免疫療法を含む更なる療法を受けうる。対象がFGFR3及びPD1阻害剤での治療中に更なる治療を受ける実施態様では、更なる治療は、FGFR3阻害剤及び/又はPD1阻害剤と同時に又は逐次的に施されうる。
【0051】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、治療上有効な量のFGFR3阻害剤と治療上有効な量のPD1阻害剤を含有する組成物である。所定の実施態様では、これら組成物は、一又は複数の薬学的に許容される担体を更に含み、あるいは一又は複数の薬学的に許容される担体と共に投与されるために製剤化される。またここに提供されるのは、例えばがんを治療するための、ここに開示される方法を実施する際に使用するための、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤を含むキットである。
【0052】
ここに提供される組成物及びキットの所定の実施態様では、FGFR3阻害剤又はPD1阻害剤は、単独で投与した場合に治療反応を生じさせる(例えば、腫瘍増殖を減少又は排除する)ことができる投薬量で組成物又はキット中に存在しうる。これら実施態様のあるものでは、FGFR3又はPD1阻害剤は、がん治療に最適であるか又は最適に近いと以前に決定された投薬量で存在しうる。例えば、FGFR3阻害剤がB-701である場合、組成物又はキットは、対象に約10~50mg/kgのB-701の投薬量を送達するように製剤化され得、これら実施態様のあるものでは、組成物又はキットは、対象に約20~40mg/kg又は約30mg/kgのB-701の投薬量を送達するように製剤化されうる。他の実施態様では、FGFR3又はPD1阻害剤は、がん治療のための組成物又はキットに通常存在するであろう投薬量よりも低い投薬量(すなわち、準最適用量)で存在してもよい。
【0053】
ここで使用される「薬学的に許容される担体」は、興味のある化合物又は分子を身体の一つの組織、器官、又は一部から身体の他の組織、器官、又は一部へ運搬又は輸送することに関与する薬学的に許容される物質を意味する。薬学的に許容される担体は、限定されないが、液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、緩衝剤、カプセル化材料、界面活性剤、安定化剤、結合剤、もしくは顔料、又はそれらの幾つかの組み合わせを含む様々な成分を含みうる。担体の各成分は、それが組成物の他の成分と適合しなければならず、それが遭遇しうる身体の任意の組織、器官、又は一部との接触に適していなければならないという点で「薬学的に許容される」ものでなければならず、それが毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、又はその治療上の利点を過度に上回る任意の他の合併症のリスクを有してはいけないことを意味する。
【0054】
ここに提供される組成物との関連で使用されうる薬学的に許容される担体の例には、限定されないが、(1)糖類、例えば、ラクトース、グルコース、スクロース、又はマンニトール;(2)デンプン、例えば、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン;(3)セルロースとその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;(4)粉末化トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えばカカオバター及び座薬ワックス;(9)油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;(13)崩壊剤、例えば、寒天又は炭酸カルシウム;(14)緩衝又はpH調整剤、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カルシウム、及びリン酸緩衝液;(15)アルギン酸;(16)発熱性物質除去水;(17)等張性生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)アルコール、例えば、エチルアルコール及びプロパンアルコール;(20)パラフィン;(21)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、又はラウリル硫酸ナトリウム;(22)着色剤又は顔料;(23)流動促進剤、例えばコロイド状二酸化ケイ素、タルク、及びデンプン又は三塩基性リン酸カルシウム;(24)アセトンなどの薬学的組成物に使用される他の非毒性適合物質;並びに(25)それらの組み合わせが含まれる。
【0055】
FGFR3阻害剤、PD1阻害剤、又はFGFR3阻害剤とPD1阻害剤の組み合わせを含有する組成物は、例えば、水性又は非水性液体中の溶液又は懸濁液、水中油又は油中水液体エマルジョン、カプセル剤、カシェー剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤又はシロップ剤又はトローチ剤を含む、適切な投薬形態に製剤化されうる。所定の実施態様では、組成物は、例えば、時間放出カプセルのような時間放出送達ビヒクルとして製剤化されうる。ここで使用される「時間放出ビヒクル」は、投与直後ではなく、ある期間にわたって活性薬剤を放出する任意の送達ビヒクルを指す。他の実施態様では、組成物は、即時放出送達ビヒクルとして製剤化されうる。
【0056】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、ここに開示される方法を実施するためのキットである。所定の実施態様では、ここに提供されるキットは、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤を含む。所定の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤は、単一の組成物でキット中に存在しうる。他の実施態様では、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤は、別々の組成物中に存在しうる。該キットは、更なる治療用又は非治療用の組成物を含みうる。所定の実施態様では、キットは、有形媒体の説明書を含む。
【0057】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、がんの治療に使用するためのFGFR3阻害剤とPD1阻害剤である。また提供されるのは、PD1阻害剤と組み合わせてがんの治療に使用するためのFGFR3阻害剤と、FGFR3阻害剤と組み合わせてがんの治療に使用するためのPD1阻害剤である。
【0058】
所定の実施態様においてここに提供されるのは、がんを治療するための医薬の製造におけるFGFR3阻害剤とPD1阻害剤の使用である。また提供されるのは、PD1阻害剤と組み合わせてがんを治療するための医薬の製造におけるFGFR3阻害剤の使用と、FGFR3阻害剤と組み合わせてがんを治療するための医薬の製造におけるPD1阻害剤の使用である。
【0059】
ここで使用される「約」という用語は、記載された値又は値の範囲の10%以内を意味する。
【0060】
当業者は、ここに記載の様々な実施態様を組み合わせることができることを認識するであろう。例えば、満足のいく又は改善された治療レベルを達成するために、ここに開示されている様々な治療方法のステップを組み合わせることができる。
【0061】
次の実施例は、請求項記載の発明をより良く例証するために提供されるもので、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。特定の材料が言及されている点で、それは単なる例示のためのものであり、本発明を限定するものではない。当業者であれば、発明能力を発揮しないで、本発明の範囲を逸脱することなく、均等の手段又は反応物を開発することができる。本発明の範囲に依然として含めながら、ここに記載された手順において多くの変形態様を作製することが可能であることは理解されるであろう。そのような変形態様は本発明の範囲に含まれることが本発明者の意図である。
【実施例
【0062】
実施例1:固形腫瘍発達に対するFGFR3及び免疫チェックポイントアンタゴニストの効果
FGFR3陽性MC38マウス結腸直腸腫瘍細胞株において、FGFR3発現を、FGFR3用の市販ELISAキットを使用して確認した。続いて、細胞株を増殖させ、1×10個のMC38腫瘍細胞を、8~12週齢の雌C57BL/6マウスの側腹部に皮下移植した。腫瘍が80~120mmの平均サイズに達したところで、動物をペアマッチングさせ、表1に記載のように処置を開始した。
【0063】
【0064】
表1に記載のように、第1群の対照マウスには、週2回(「biwk」)の静脈内投与によりPBSを投与した。第2群のマウスには、5mg/kgの腹腔内投与を介して週2回、ラット抗PD1モノクローナル抗体であるRMP1-14を投与し、第3、第4及び第7群には、30mg/kg又は50mg/kgの静脈内投与によって毎週(「qwk」)又は週2回、ヒト抗FGFR3モノクローナル抗体であるBM2を投与した。第5、第6及び第8群には、様々な用量及び頻度でBM2と組み合わせて5mg/kgのRMP1-14を投与した。第9群のマウスには、第1、4及び7日目に腹腔内投与によってマウス抗細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA4)モノクローナル抗体である9H10を投与し、第10群には9H10及びRMP1-14を投与した。PD1と同様に、CTLA4はT細胞活性化の大きさを下方制御する免疫チェックポイント受容体である(Pardoll 2012)。マウスにおけるCTLA4の抗体遮断は、抗腫瘍免疫を誘導することが示されている。CTLA4抗体のイピリムマブは、進行性メラノーマの治療用に承認されており、前立腺及び肺がんを含む様々な他のがん型の治療用に現在開発中である一方、CTLA4抗体のトレメリムマブはメラノーマの治療用に現在開発中である(Grosso&Jure-Kunkel 2013)。
【0065】
腫瘍体積を、ノギス測定を使用して週2回モニターし、研究D18の全ての動物の結果を図1に要約する。治療期間の開始時に開始した50mg/kgのB-701の週1回の投与は腫瘍増殖に殆ど効果をもたらさなかった(第4群)が、B-701の50mg/kgの遅延した週1回投与と30mg/kgの週2回投与は双方とも、RMP1-14単独に対して観察されたのと同様の程度まで腫瘍増殖を減速させた(第7群及び第3群を第2群と比較せよ)。図2は、研究終了後にとられたD14研究の結果のスナップショットであり、研究を完了したか又は腫瘍進行のために取り除かれた動物由来のデータのみを含む。図2は、7日目及び14日目の投与時点でのB-701及びB-701組合せ処置群を強調しているが、これらを免疫細胞の浸潤を調べるために実施例2でのその後の研究のために選択したためである。
【0066】
FGFR3阻害が免疫応答を低下させることは以前に示されている。PD1阻害は、がん細胞に対するT細胞応答をアップレギュレートすることによってがん細胞増殖を阻害すると考えられているので、当業者は、PD1の抗がん効果を増大させるためにFGFR3阻害剤を投与することは想到していなかったはずである。しかし、驚くべきことに、週2回の30mg/kg又は週1回の50mg/kgのBM2又は及びRMP1-14の組合せを投与したマウス(第5、第6及び第8群)は、何れかの抗体を単独で投与したマウス(第2~4群)よりも18日にわたり著しく遅い腫瘍増殖を示した。RMP1-14を9H10と組み合わせた場合、より強力な効果が観察されたが、この組み合わせは、少なくとも一部の患者では耐容性が低いおそれがあり、FGFR3阻害剤とPD1阻害剤のような代替的な組み合わせを臨床的に重要なものにする。
【0067】
FGFR3の突然変異と発現は、膀胱がんにおける非炎症性腫瘍表現型と関連していることが示されており、従って、免疫チェックポイント阻害剤に応答する可能性が低い腫瘍を示す可能性がある(Sweiss 2015)。BM2などの薬剤によるFGFR3活性の遮断は、腫瘍の免疫状態を改善し、腫瘍がチェックポイント阻害剤に応答する可能性を高くする可能性がある。従って、BM2を用いた処置は、チェックポイント阻害剤を用いた処置の前にあるいはその前とそれと同時に実施することができる。
【0068】
実施例2:免疫細胞浸潤に対するFGFR3アンタゴニストの効果
その後の研究において、MC38腫瘍細胞を8~12週齢であった雌C57BL/6マウスの側腹部に皮下移植した。腫瘍が80~120mmの平均サイズに達したところで、動物をペアマッチングさせ、2つの処置群(1処置群につきn=6マウス)に分割した。第1群の対照マウスには週2回(「biwk」)の静脈内投与によりPBSを投与し、第2群のマウスには30mg/kgの静脈内投与により週2回B-701を投与した。処置の7日後と14日後に、各処置群からの3匹の動物を屠殺し、腫瘍を収集した。腫瘍の半分をパラフィン包埋のために処理し、第二の半分を、単個細胞懸濁液を調製するために使用し、フローサイトメトリー用に処理し、その結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
表2に示されるように、B-701による処置は、7日目と14日目の双方において、調節性T細胞に対するCD8+細胞のより高い比(すなわち、それぞれ21.5及び15.3)をもたらし、B-701が免疫チェックポイント阻害剤の有効性を高め得るという最初の知見を裏付けている。
【0071】
実施例3:肺腫瘍発達に対するFGFR3及び免疫チェックポイントアンタゴニストの効果
FGFR3陽性のMadison109及びルイス肺癌マウスの肺がん細胞株において、FGFR3用の市販ELISAキットを使用して、FGFR3発現を確認した。続いて、細胞株を増殖させ、1×10個のルイス肺癌腫瘍細胞を、8~12週齢であった雌C57BL/6マウスの側腹部に皮下移植した。加えて、1×10個のMadison109腫瘍細胞を、8~12週齢であったCR雌BALB/cマウスの側腹部に皮下移植した。
【0072】
腫瘍が100~200mmの平均サイズに達したところで、動物をペアマッチングさせ、ルイス肺癌腫瘍を有するマウスについては表3に、Madison109腫瘍を有するマウスについては表4に記載のように処置を開始した。腫瘍は、週2回ノギスを使用して測定した。処置の7日及び14日後、各群から3匹のマウスを屠殺し、腫瘍を組織学的検査用に処理した(各腫瘍の半分をパラフィンに包埋し、残りの半分を最適切断温度(O.C.T.)コンパウンド中で凍結させた)。残りの動物には、示した通りに投薬し、21日目(Madison109)又は22日目(ルイス肺癌)に屠殺した。
【0073】
【0074】
【0075】
腫瘍増殖曲線を、全研究(図3(ルイス肺癌腫瘍を有するマウス)及び図4(Madison109腫瘍を有するマウス)参照)を完了した動物のデータから導いた。図3及び図4に示されるように、両方の研究において、抗PD-1とB-701を組み合わせた場合に最大の有効性が観察され、FGFR3の拮抗作用が免疫チェックポイント阻害の効果を増強することが更に裏付けられた。ルイス肺癌の研究の場合、併用治療は実際に研究の8日目に有意に良好な腫瘍増殖阻害をもたらした(図3の菱形の線を参照)。加えて、ルイス肺癌研究の8日目及び11日目では、併用療法が、ビヒクル群から有意な腫瘍増殖抑制をもたらした唯一のレジメンであった(図3の菱形の線を参照)。
【0076】
上述したように、上記は本発明の様々な実施態様を例証することのみを意図したものである。上で検討された特定の変更は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく様々な均等態様、変更、及び修正を実施することができることは明らかであり、そのような均等実施態様がここに含まれるべきであることが理解される。ここで引用された全ての参考文献は、それがここに完全に記載されているかのように、出典明示により援用される。
(文献)
1.Bai等 Cancer Res 70:7630(2010)
2.Bumbaca等 MAbs 3:376(2011)
3.Brooks等 Clin Cancer Res 18:1855-1862(2012)
4.Grosso&Jure-Kunkel Cancer Immun 13:5(2013)
5.Lafitte等 Mol Cancer 12:83(2013)
6.Pardoll Nature Reviews Cancer 12:252-264(2012)
7.Sweiss等 “Molecular drivers of the non-T cell-inflamed tumor microenvironment in urothelial bladder cancer”J Clin Oncol (Meeting Abstracts)33(15)suppl(May20 Supplement)4511(2015)
8.Zhao等 Clin Cancer Res 16:5750(2010)
図1
図2
図3
図4
【配列表】
0007122357000001.app