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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】自動変速機用潤滑油
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20220812BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20220812BHJP
   C10M 125/24 20060101ALN20220812BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20220812BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20220812BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20220812BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220812BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220812BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220812BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M133/16
C10M125/24
C10M159/20
C10M137/04
C10M139/00 A
C10N40:04
C10N10:04
C10N30:00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020543105
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 IB2018059033
(87)【国際公開番号】W WO2019162744
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】15/902,080
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391050525
【氏名又は名称】シェブロンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 浩一
(72)【発明者】
【氏名】不知 昌美
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直也
(72)【発明者】
【氏名】太田 悟
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160183(JP,A)
【文献】特開2017-137393(JP,A)
【文献】特開2009-120760(JP,A)
【文献】特表2012-518059(JP,A)
【文献】特開2015-147890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)主要量の潤滑粘度の油であって、該潤滑粘度の油の量が潤滑油組成物の少なくとも40重量%である、上記潤滑粘度の油、
b)少なくとも1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤、
c)0.01~0.5重量%のリン酸、
d)組成物に350ppm以下の金属を提供する金属清浄剤、
e)少なくとも1つ以上の有機リン化合物、及び
f)ホウ素含有アルケニル又はアルキルスクシンイミド
を含み、
前記非後処理スクシンイミドからの窒素の、リン酸からのリンに対する重量比率が1から3であり、
前記非後処理スクシンイミド分散剤が、数平均分子量400から1200のポリイソブチレンから誘導されるポリイソブテニル基を有す
潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属清浄剤が25~350重量ppmのカルシウムを前記潤滑油組成物に提供する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤が0.3~8重量%の割合で存在し、又は前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤がビススクシンイミドである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記ビススクシンイミドが、数平均分子量950のポリイソブチレン(PIB)から誘導される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記有機リン化合物が、0.01~0.5重量%のリンを前記潤滑油組成物に提供する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記1つ以上の有機リン化合物が、アミン塩ホスフェート及び芳香族亜リン酸水素を含む群から選択される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記潤滑油組成物中の総リンが500ppm以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
a)主要量の潤滑粘度の油であって、該潤滑粘度の油の量が潤滑油組成物の少なくとも40重量%である、上記潤滑粘度の油、
b)少なくとも1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤、
c)0.01~0.5重量%のリン酸、
d)前記組成物に350ppm以下の金属を提供する金属清浄剤、
e)少なくとも1つ以上の有機リン化合物、及び
f)ホウ素含有アルケニル又はアルキルスクシンイミド
を含み、
前記非後処理スクシンイミドからの窒素の、リン酸からのリンに対する重量比率が1から3であり、前記非後処理スクシンイミド分散剤が、数平均分子量400から1200のポリイソブチレンから誘導されるポリイソブテニル基を有する潤滑油組成物で前記変速機を潤滑させることを含む、自動変速機又は無段変速機を備えた燃焼機関におけるシャダー防止性能を改善し、摩擦を低減する方法。
【請求項9】
前記自動変速機又は無段変速機が湿式ペーパークラッチを備えている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤が、0.3~8重量%の割合で存在し、又は前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤がビススクシンイミドである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の有機リン化合物が、0.01~0.5重量%のリンを前記潤滑油組成物に提供する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の有機リン化合物が、アミン塩ホスフェート及び芳香族亜リン酸水素を含む群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記潤滑油組成物中の総リンが500ppm以下である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の潤滑油組成物を自動変速機又は無段変速機において使用する方法。
【請求項15】
前記自動変速機又は無段変速機が湿式ペーパークラッチを備えている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記湿式ペーパークラッチが、セルロース繊維及び/又はアラミド繊維を含有する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、自動変速機、特に、湿式クラッチシステム、特に少量のセルロース繊維及び/又はアラミド繊維を含む湿式ペーパークラッチを使用する自動車の自動変速機及び/又は無段変速機用の変速機油に有用な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される自動変速機のトルクコンバータ、歯車機構、湿式クラッチ、及び油圧機構などを円滑に稼働させるために、自動変速機油と呼ばれる自動変速機用の潤滑油が使用されてきた。
【0003】
潤滑剤添加剤が湿式クラッチと鋼板の摩擦特性に影響を与えることは周知である。相加効果は、クラッチ材料、例えばセルロース、アラミド(天然及び合成)繊維、シリカ及び鋼板表面での物理的及び化学的吸収の両方によって引き起こされる。自動車用自動変速機で使用するために、湿式クラッチペーパーをセルロースに富んだものからアラミドに富んだものに変更する業界の動きがあった。セルロースとアラミドの比率は、湿式クラッチの熱及び酸化安定性性能にとって重要である。高アラミド湿式クラッチペーパーは、優れた耐久性能を発揮する。しかしながら、アラミド繊維のコストは高い。
【0004】
さらに、規制の変更により、地球温暖化を防止するために、燃費の向上とCO排出量の削減が現代の自動車には求められている。エンジンと変速機系の設計の改善に加えて、潤滑油の性能の改善もこの問題に対処するために必要とされている。自動車用自動変速機の場合、始動時のトルクコンバータによる動力損失を最小限に抑える必要があり、燃費効率向上のためにロックアップクラッチ系が導入されている。ロックアップトルクコンバータは、トルクコンバータ系のロックアップ湿式ペーパークラッチに取り付けられている。これらにより、低速でより短い時間での流体カップリング後に湿式クラッチを繋ぎ得るため、動力損失を低減し、優れた燃費を提供することができる。
【0005】
潤滑剤側では、変速機にロックアップペーパー湿式クラッチを備えた自動変速機に適正な潤滑剤を有することも非常に重要である。潤滑剤が提供するトルク容量とシャダー防止摩擦性能が不十分である場合、変速機の湿式クラッチのロックアップからの動力損失又は高ノイズを伴う不快な振動が発生する。したがって、ロックアップペーパー湿式クラッチ系を備えた自動変速機用の潤滑剤は、良好な燃費と円滑な運転及び作動状態の両方を提供するはずである。
【0006】
本発明者らは、シャダー防止性能などの優れた湿式ペーパークラッチ摩擦特性を有し、優れた湿式クラッチトルク容量及び湿式クラッチ摩擦特性の耐久性も維持できる潤滑油組成物を発見した。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、
i)主要量の潤滑粘度の油、
ii)少なくとも1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤、
iii)0.01~0.5重量%のリン酸、
iv)組成物に350ppm以下の金属を提供する金属清浄剤、
v)少なくとも1つ以上の有機リン化合物
を含み、
前記非後処理スクシンイミドからの窒素の、リン酸からのリンに対する比率が1から3である
潤滑油組成物が提供される。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、
i)主要量の潤滑粘度の油、
ii)少なくとも1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤、
iii)0.01~0.5重量%のリン酸、
iv)組成物に350ppm以下の金属を提供する金属清浄剤、
v)少なくとも1つ以上の有機リン化合物
を含み、
前記非後処理スクシンイミドからの窒素の、リン酸からのリンに対する比率が1から3である潤滑油組成物で変速機を潤滑させることを含む、自動変速機又は無段変速機を備えた燃焼機関におけるシャダー防止性能を改善し、摩擦を低減する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義:
以下の用語は、本明細書全体で使用され、別段の指定がない限り、以下の意味を有するものとする。
【0010】
基油の「主要量」という用語は、基油の量が潤滑油組成物の少なくとも40重量%である場合を指す。いくつかの実施形態において、基油の「主要量」は、潤滑油組成物の50重量%を超える、60重量%を超える、70重量%を超える、80重量%を超える、又は90重量%を超える基油の量を指す。
【0011】
以下の記載において、本明細書で開示されるすべての数は、それに関連して「約」又は「およそ」という語が使用されているかどうかに関係なく、およその値である。それらは、1%、2%、5%、又は場合によっては10~20%変動する可能性がある。
【0012】
「全塩基価」又は「TBN」という用語は、ASTM標準第D2896号又は同等の手順に従って、腐食性酸を中和し続ける組成物の能力を示す、油サンプルのアルカリ度のレベルを指す。この試験では、導電率の変化を測定し、結果をmgKOH/g(製品1グラムを中和するために必要なKOHのミリグラム数に相当)として表す。したがって、TBNが高いことは、過塩基性の強い製品であることを反映するもので、その結果、酸を中和するための塩基備蓄量が高くなることを反映している。
【0013】
「PIB」という用語は、ポリイソブチレンを指す。
【0014】
潤滑粘度の油
本明細書に開示される潤滑油組成物は、概して、少なくとも1つの潤滑粘度の油を含む。本明細書に開示される潤滑粘度の油として、当業者に既知のあらゆる基油を使用することができる。潤滑油組成物を調製するのに適したいくつかの基油は、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術」(Chemistry and Technology of Lubricants)、第2版、ロンドン、スプリンガー、第1章及び第2章(1996)、及びA Sequeria Jr、「潤滑油基油及びワックス処理」(Lubricant Base Oil and Wax Processing)、ニューヨーク、マルセルデッカー、第6章(1994)、及びD.V.Brock、潤滑工学(Lubrication Engineering)、第43巻、184-5頁(1987)に記載されており、これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる。一般に、潤滑油組成物中の基油の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいた場合約70~約99.5重量%であってよい。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物中の基油の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいた場合、約75~約99重量%、約80~約98.5重量%、又は約80~約98重量%である。
【0015】
ある特定の実施形態において、基油は、任意の天然又は合成の潤滑基油留分であるか、又はそれを含む。合成油のいくつかの非限定的な例には、エチレンなどの少なくとも1つのα-オレフィンの重合から、又はFisher-Tropschプロセスなどの一酸化炭素及び水素ガスを用いた炭化水素合成手順から調製される、ポリアルファオレフィン即ちPAOなどの油が含まれる。ある特定の実施形態において、基油は、基油の総重量に基づいた場合約10重量%未満の割合で1つ以上の重質留分を含む。重質留分は、100℃で少なくとも約20cStの粘度を有する潤滑油留分を指す。ある特定の実施形態において、重質留分は、100℃で少なくとも約25cSt又は少なくとも約30cStの粘度を有する。さらなる実施形態において、基油中の1つ以上の重質留分の量は、基油の総重量に基づいた場合、約10重量%未満、約5重量%未満、約2.5重量%未満、約1重量%未満、又は約0.1重量%未満である。さらに別の実施形態において、基油は重質留分を含まない。
【0016】
特定の実施形態において、潤滑油組成物は、主要量の潤滑粘度の基油を含む。いくつかの実施形態において、基油は、100℃で約1.5センチストークス(cSt)~約20cSt、約2センチストークス(cSt)~約20cSt、又は約2cSt~約16cStの動粘度を有する。本明細書に開示される基油又は潤滑油組成物の動粘度は、ASTM D 445に従って測定することができ、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
他の実施形態において、基油は、ベースストック又はベースストックのブレンドであるか、又はそれを含む。さらなる実施形態において、ベースストックは、蒸留、溶媒精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、及び再精製を含むがこれらに限定されない様々な異なるプロセスを使用して製造される。いくつかの実施形態において、ベースストックは、再精製されたストックを含む。さらなる実施形態において、再精製されたストックは、製造、汚染、又は以前の使用を通じて導入された材料を実質的に含まないものとする。
【0018】
いくつかの実施形態において、基油は、米国石油協会(API)公報1509、第14版、1996年12月(すなわち、乗用車用モーターオイル及びディーゼルエンジンオイルのためのAPI基油交換可能性ガイドライン)で指定されたグループI~Vのうちの1つ以上に属するベースストックの1つ以上を含み、これについては参照により本明細書に組み込まれる。APIガイドラインでは、ベースストックを、様々な異なるプロセスを使用して製造され得る潤滑剤成分として定義している。グループI、II及びIIIのベースストックは鉱油であり、それぞれ特定範囲の飽和成分の量、硫黄含有量及び粘度指数を有する。グループIVのベースストックは、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVのベースストックには、グループI、II、III、又はIVに含まれていない他のすべてのベースストックが含まれる。
【0019】
いくつかの実施形態において、基油は、グループI、II、III、IV、V又はそれらの組合せにおける1つ以上のベースストックを含む。他の実施形態において、基油は、グループII、III、IV又はそれらの組合せにおける1つ以上のベースストックを含む。さらなる実施形態において、基油は、グループII、III、IV又はそれらの組合せにおける1つ以上のベースストックを含み、この場合基油は、100℃にて約1.5センチストークス(cSt)~約20cSt、約2cSt~約20cSt、又は約2cSt~約16cStの動粘度を有する。いくつかの実施形態において、基油は、グループIIの基油である。
【0020】
基油は、潤滑粘度の天然油、潤滑粘度の合成油及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。いくつかの実施形態において、基油は、合成ワックス及びスラックワックスの異性化によって得られるベースストック、並びに原油の芳香族及び極性成分を(溶媒抽出ではなく)水素化分解することによって生成される水素化分解ベースストックを含む。他の実施形態において、潤滑粘度の基油は、動物油、植物油、鉱油(例えば、液状石油及びパラフィン系、ナフテン系又は混合パラフィン系ナフテン系の溶媒処理又は酸処理された鉱油)などの天然油、石炭又は頁岩に由来する油、及びそれらの組合せを含む。動物油のいくつかの非限定的な例には、骨油、ラノリン、魚油、ラード油、イルカ油、アザラシ油、サメ油、獣脂油、及び鯨油が含まれる。植物油のいくつかの非限定的な例には、ヒマシ油、オリーブ油、落花生油、菜種油、コーン油、ゴマ油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、ベニバナ油、麻油、亜麻仁油、桐油、オイチシカ油、ホホバ油、及びメドウフォーム油が含まれる。かかる油は部分的又は完全に水素化されていてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、潤滑粘度の合成油には、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば、重合及び共重合オレフィン、アルキルベンゼン、ポリフェニル、アルキル化ジフェニルエーテル、アルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似体及び同族体などが含まれる。他の実施形態において、合成油には、アルキレンオキシドポリマー、インターポリマー、コポリマー、及びそれらの誘導体が含まれ、この場合末端ヒドロキシル基は、エステル化、エーテル化などによって修飾され得る。さらなる実施形態において、合成油は、ジカルボン酸と様々なアルコールとのエステルを含む。ある特定の実施形態において、合成油は、C~C12のモノカルボン酸並びにポリオール及びポリオールエーテルから作製されたエステルを含む。さらなる実施形態において、合成油には、リン酸トリ-n-ブチル及びリン酸トリイソブチルなどのリン酸トリアルキルエステル油が含まれる。
【0022】
いくつかの実施形態において、潤滑粘度の合成油は、ケイ素系の油(例えば、ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-、ポリアリールオキシ-シロキサン油及びシリケート油)を含む。他の実施形態において、合成油には、リン含有酸の液体エステル、高分子テトラヒドロフラン、ポリアルファオレフィンなどが含まれる。
【0023】
ワックスの水素異性化から誘導された基油も、単独で、又は前述の天然基油及び/又は合成基油と組み合わせて使用され得る。上記のワックス異性化油は、水素異性化触媒上での天然又は合成ワックス又はそれらの混合物の水素異性化によって生成される。
【0024】
さらなる実施形態において、基油は、ポリ-アルファ-オレフィン(PAO)を含む。一般に、ポリ-アルファ-オレフィンは、約1.5~約30、約2~約20、又は約2~約16の炭素原子を有するアルファ-オレフィンから誘導され得る。適切なポリ-アルファ-オレフィンの非限定的な例には、オクテン、デセン、それらの混合物などに由来するものが含まれる。これらのポリ-アルファ-オレフィンは、100℃で約1.5~約15、約1.5~約12、又は約1.5~約8センチストークの粘度を有し得る。いくつかの例では、鉱油などの他の基油と一緒にポリ-アルファ-オレフィンを使用することができる。
【0025】
さらなる実施形態において、基油は、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール誘導体を含み、この場合ポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシル基は、エステル化、エーテル化、アセチル化などによって修飾され得る。適切なポリアルキレングリコールの非限定的な例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプロピレングリコール、及びそれらの組合せが含まれる。適切なポリアルキレングリコール誘導体の非限定的な例には、ポリアルキレングリコールのエーテル(例えば、ポリイソプロピレングリコールのメチルエーテル、ポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)、ポリアルキレングリコールのモノ-及びポリ-カルボン酸エステル、及びそれらの組合せが含まれる。場合によっては、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール誘導体は、ポリ-アルファ-オレフィン及び鉱油などの他の基油と一緒に使用されてもよい。
【0026】
さらなる実施形態において、基油は、ジカルボン酸(例、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と様々なアルコール(例、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルのいずれかを含む。これらのエステルの非限定的な例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステルなどが含まれる。
【0027】
さらなる実施形態において、基油は、フィッシャー・トロプシュ法によって調製された炭化水素を含む。フィッシャー・トロプシュ法では、フィッシャー・トロプシュ触媒を使用して、水素と一酸化炭素を含むガスから炭化水素を調製する。これらの炭化水素は、基油として有用であるために、さらなる処理を必要とする場合がある。例えば、炭化水素は、当業者に知られているプロセスを使用して、脱ロウ、水素異性化、及び/又は水素化分解されてもよい。
【0028】
さらなる実施形態において、基油は、未精製油、精製油、再精製油、又はそれらの混合物を含む。未精製油とは、天然原料又は合成原料からさらなる精製処理を行わずに直接得られるものである。未精製油の非限定的な例には、レトルト操作から直接得られるシェール油、一次蒸留から直接得られる石油、及びエステル化工程から直接得られ、さらなる処理を行わずに使用されるエステル油が含まれる。精製油は、1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製工程でさらに処理されていることを除き、未精製油に類似している。溶媒抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、濾過、パーコレーションなど、多くのかかる精製工程は当業者に知られている。再精製油は、精製油を得るために使用される工程と類似した工程を精製油に適用することによって得られる。上記の再精製油は、再生油又は再処理油としても知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物の除去に向けられた工程によってさらに処理されることが多い。
【0029】
窒素含有無灰スクシンイミド分散剤
一実施態様では、1つ以上の窒素含有無灰スクシンイミド分散剤が潤滑油組成物中に存在する。一実施態様では、1つ以上の窒素含有無灰スクシンイミド分散剤は、非後処理分散剤である。
【0030】
窒素含有無灰分散剤の典型的な例は、ポリオレフィンから誘導されたアルケニル又はアルキルスクシンイミド、及びそれらの誘導体を含む。スクシンイミドは、高分子量のアルケニル基又はアルキル基で置換された無水コハク酸と、1分子あたり平均3~10(好ましくは4~7)の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。一実施態様において、高分子量のアルケニル基又はアルキル基は、好ましくは、約900~5000の数平均分子量を有するポリオレフィンであり、ポリブテンが特に好ましい。一実施態様において、高分子量のアルケニル基又はアルキル基は、好ましくは、数平均分子量が、900~4000、900~3500、900~3000、900~2500、900~2000、900~1500、900~1000、90~1000、1000のポリオレフィンである。
【0031】
いくつかの実施態様では、ポリブテンと無水マレイン酸との間の反応によりポリブテニル無水コハク酸を得る工程において、塩素が使用される塩素化方法が利用される。しかしながら、この方法では、反応性は良いものの、最終的にはスクシンイミドの最終生成物中に多量の塩素(約2000ppmなど)が残ってしまう。他方、塩素を伴わない熱反応を利用すれば、最終生成物中に残留する塩素量を非常に低レベル(40ppm以下など)に抑えることができる。また、慣用的ポリブテン(主にβ-オレフィン構造を有するもの)に比べて、反応性の高いポリブテン(少なくとも約50%がメチルビニリデン構造を有するもの)を使用すると、熱反応法でも反応性が高まるという点で有利である。反応性が高いと分散剤中の未反応のポリブテンが少なくなり、有効成分(スクシンイミド)の濃度が高い分散剤が得られ得る。したがって、反応性の高いポリブテンを用いた熱反応によりポリブテニル無水コハク酸を得た後、このポリブテニル無水コハク酸をポリアミンと反応させてスクシンイミドを製造することが好ましい。スクシンイミドは、ホウ酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸などとさらに反応させることにより、いわゆる変性スクシンイミドの形態で使用され得る。ホウ酸又はホウ素化合物との反応により得られるホウ素含有アルケニル(又はアルキル)スクシンイミドは、熱及び酸化安定性の点で特に有利である。スクシンイミドは、1分子あたりのイミド構造の数により、モノ型、ビス型、及びポリ型があるが、本発明の目的で使用されるスクシンイミドとしては、ビス型が好ましい。
【0032】
窒素含有無灰分散剤の他の例には、エチレン-α-オレフィンコポリマー(分子量が1000~15,000のものなど)から誘導されるポリマースクシンイミド分散剤、及びアルケニルベンジルアミンベースの無灰分散剤が含まれる。
【0033】
特に好ましい窒素含有無灰分散剤は、アルキル又はアルケニルコハク酸又は同無水物とアルキレンポリアミンとの反応から誘導されるモノ型及びビス型のアルキル又はアルケニルスクシンイミドである。これらの化合物は、一般に、式(I)
【化1】

[式中、Rは、約450~3000の分子量を有する実質的に炭化水素の鎖であり、すなわち、Rは、約30~約200の炭素原子を含むヒドロカルビル鎖、好ましくはアルケニル基であり、Alkは、炭素原子数2~10、好ましくは2~6のアルキレン鎖であり、R、R、及びRは、C~Cのアルキル若しくはアルコキシ又は水素、好ましくは水素から選択され、xは0~10の整数、好ましくは0~3である]
又は式(II):
【化2】

[式中、R及びRは両方とも、約450~3000の分子量を有する実質的に炭化水素の鎖であり、すなわち、R及びRは、約30~約200の炭素原子を含むヒドロカルビル鎖、好ましくはアルケニル鎖であり、Alkは炭素原子数2~10、好ましくは2~6のアルキレン鎖であり、RはC~Cアルキル若しくはアルコキシ又は水素、好ましくは水素から選択され、yは0~10、好ましくは0~3の整数である]
を有すると考えられる。一実施形態では、R、R及びRはポリイソブチル基である。
【0034】
一実施形態では、アルキレン又はアルケニレンコハク酸又は同無水物とアルキレンポリアミンとの実際の反応生成物は、モノスクシンイミド及びビススクシンイミドを含む化合物の混合物を含むことになる。生成されるモノアルケニルスクシンイミド及びビスアルケニルスクシンイミドは、スクシニック(succinic)基に対するポリアミンの電荷モル比、及び使用される特定のポリアミンにより異なり得る。ポリアミンとスクシニック基の電荷モル比が約1:1の場合、主にモノアルケニルスクシンイミドが生成され得る。ポリアミンとスクシニック基の電荷モル比が約1:2の場合、主にビスアルケニルスクシンイミドが生成され得る。スクシンイミド分散剤の例には、例えば、参照により本明細書に完全に組み込まれている、米国特許第3,172,892号、第4,234,435号及び第6,165,235号に記載されているものが含まれる。
【0035】
一実施形態において、置換基が由来するポリアルケンは、典型的には、2~約16の炭素原子、通常は2~6の炭素原子の重合性オレフィンモノマーのホモポリマー及び共重合体である。コハク酸アシル化剤と反応してカルボン酸分散剤組成物を形成するアミンは、モノアミン又はポリアミンであり得る。
【0036】
好ましい実施態様において、アルケニルスクシンイミドは、ポリアルキレン無水コハク酸をアルキレンポリアミンと反応させることにより調製され得る。ポリアルキレン無水コハク酸は、ポリアルキレン(好ましくはポリイソブテン)と無水マレイン酸との反応生成物である。上記のポリアルキレン無水コハク酸の調製において、慣用的ポリイソブテン、又は高メチルビニリデンポリイソブテンを使用することができる。この調製では、熱、塩素化、フリーラジカル、酸触媒、又はその他のプロセスを使用することができる。適切なポリアルキレン無水コハク酸の例は、米国特許第3,361,673号に記載されている熱PIBSA(ポリイソブテニル無水コハク酸)、米国特許第3,172,892号に記載されている塩素化PIBSA、米国特許第3,912,764号に記載されている熱及び塩素化PIBSAの混合物、米国特許第4,234,435号に記載されている高コハク酸比PIBSA、米国特許第5,112,507号及び第5,175,225号に記載されているポリPIBSA、米国特許第5,565,528号及び第5,616,668号に記載されている高コハク酸比PolyPIBSA、米国特許第5,286,799号、第5,319,030号、及び第5,625,004号に記載されているフリーラジカルPIBSA、米国特許第4,152,499号、第5,137,978号、及び第5,137,980号に記載されている高メチルビニリデンポリブテンから作られたPIBSA、欧州特許出願公開第EP 355 895号に記載されている高メチルビニリデンポリブテンから作られた高コハク酸比PIBSA、米国特許第5,792,729号に記載されているターポリマーPIBSA、米国特許第5,777,025号及び欧州特許出願公開第EP 542 380号に記載されているスルホン酸PIBSA、米国特許第5,523,417号及び欧州特許出願公開第EP 602 863号に記載されている精製PIBSAである。これらの各文書の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ポリアルキレン無水コハク酸は、好ましくはポリイソブテニル無水コハク酸である。好ましい一実施形態において、ポリアルキレン無水コハク酸は、数平均分子量が1200以下、好ましくは400~1200、好ましくは500~1100、550~1100、600~1100、650~1100、700~1100、750~1100、800~1000、850~1000、900~1000、950~1000のポリイソブチレンから誘導されるポリイソブテニル無水コハク酸である。
【0037】
スクシンイミドを調製するために使用される好ましいポリアルキレンアミンは、式(III):
【化3】

[式中、zは0~10の整数であり、Alkは2~10、好ましくは2~6の炭素原子のアルキレン基であり、R、R、及びR10は、C~Cのアルキル若しくはアルコキシ又は水素から選択されるものであり、好ましくは水素であり、zは0~10、好ましくは0~3の整数である]
で示される。
【0038】
アルキレンアミンには、主にメチレンアミン、エチレンアミン、ブチレンアミン、プロピレンアミン、ペンチレンアミン、ヘキシレンアミン、ヘプチレンアミン、オクチレンアミン、他のポリメチレンアミン、並びにピペラジンやアミノアルキル置換ピペラジンなどのアミンの環状及び高級同族体も含まれる。それらの実例として、具体的にはエチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、プロピレンジアミン、デカメチルジアミン、オクタメチレンジアミン、ジヘプタメチレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジトリメチレントリアミン、2-ヘプチル-3-(2-アミノプロピル)-イミダゾリン、4-メチルイミダゾリン、N、N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,3-ビス(2-アミノエチル)イミダゾリン、1-(2-アミノプロピル)-ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン及び2-メチル-1-(2-アミノブチル)ピペラジンが挙げられる。上記のアルキレンアミンの2つ以上を縮合することによって得られるようなより高級同族体も同様に有用である。
【0039】
エチレンアミンは特に有用である。それらは、化学技術百科事典、Kirk-Othmer(カークオスマー)、第5巻、898-905頁(Interscience Publishers、New York、1950)の「エチレンアミン」という見出しの下である程度詳細に説明されている。「エチレンアミン」という用語は、一般的な意味で使用され、大部分が式(IV):
N(CHCHNH)α
式IV
(式中、αは1~10の整数である)
に適合するポリアミンのクラスを示す。一実施形態において、αは3~5の整数である。したがって、これには、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどが含まれる。
【0040】
本発明のアルケニルスクシンイミド組成物に使用される個々のアルケニルスクシンイミドは、米国特許第2,992,708号、同第3,018,250号、同第3,018,291号、同第3,024,237号、同第3,100,673号、同第3,172,892号、同第3,202,678号、同第3,219,666号、同第3,272,746号、同第3,361,673号、同第3,381,022号、同第3,912,764号、同第4,234,435号、同第4,612,132号、同第4,747,965号、同第5,112,507号、同第5,241,003号、同第5,266,186号、同第5,286,799号、同第5,319,030号、同第5,334,321号、同第5,356,552号、同第5,716,912号に開示されているような慣用的プロセスによって調製することができ、これらの開示はすべて、あらゆる目的のために、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0041】
「アルケニルスクシンイミド」という用語には、Wollenbergら、米国特許第4,612,132号、Wollenbergら、米国特許第4,746,446号などによって開示されているボレート又は炭酸エチレンを含む後処理プロセス並びに他の後処理プロセスなど後処理スクシンイミドも含まれ、上記開示はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。好ましくは、カーボネート処理されたアルケニルスクシンイミドは、分子量が450~3000、好ましくは900~2500、より好ましくは1300~2300、好ましくは2000~2400のポリブテン、並びにこれらの分子量の混合物から誘導されたポリブテンスクシンイミドである。好ましくは、それは、例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,716,912号に教示されたように、反応条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンの不飽和酸性試薬コポリマー、及びポリアミンを反応させることにより調製される。
【0042】
一実施形態において、分散剤系は、潤滑油組成物の重量の1~20重量%、好ましくは1~15重量%、好ましくは1~10重量%、好ましくは1~8重量%、好ましくは1~6重量%、好ましくは1~5重量%、好ましくは1~4.4重量%、好ましくは1~4重量%、好ましくは1~3重量%、好ましくは1.5~4.0重量%、好ましくは1.5~3.5重量%、好ましくは1.5~3.0重量%、好ましくは2.0~3.0重量%を構成する。
【0043】
別の実施形態において、非後処理分散剤は、非後処理スクシンジンイミド分散剤である。他の実施形態において、非後処理スクシンジンイミド分散剤は、潤滑油組成物中に0.3~8重量%、0.3~5重量%、0.3~4.4重量%、0.5~4.4重量%、0.5~3.0重量%、0.6~2.0重量%の割合で存在する。
【0044】
本発明のアルケニルスクシンイミド組成物に使用される個々のアルケニルスクシンイミドは、米国特許第2,992,708号、同第3,018,250号、同第3,018,291号、同第3,024,237号、同第3,100,673号、同第3,172,892号、同第3,202,678号、同第3,219,666号、同第3,272,746号、同第3,361,673号、同第3,381,022号、同第3,912,764号、同第4,234,435号、同第4,612,132号、同第4,747,965号、同第5,112,507号、同第5,241,003号、同第5,266,186号、同第5,286,799号、同第5,319,030号、同第5,334,321号、同第5,356,552号、同第5,716,912号に開示されているような慣用的プロセスによって調製することができ、これらの開示はすべて、あらゆる目的のために、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0045】
「アルケニルスクシンイミド」という用語には、Wollenbergら、米国特許第4,612,132号、Wollenbergら、米国特許第4,746,446号などによって開示されているボレート又は炭酸エチレンを含む後処理プロセス並びに他の後処理プロセスなど後処理スクシンイミドも含まれ、上記開示はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。好ましくは、カーボネート処理されたアルケニルスクシンイミドは、分子量が450~3000、好ましくは600~2500、好ましくは700~2500、好ましくは800~2500、好ましくは900~2500、より好ましくは900~2400、好ましくは900~2300、並びにこれらの分子量の混合物を有するポリブテンから誘導されたポリブテンスクシンイミドである。好ましくは、それは、例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,716,912号に教示されたように、反応条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンの不飽和酸性試薬コポリマー、及びポリアミンを反応させることにより調製される。
【0046】
一実施形態では、分散剤は後処理されない。別の実施形態では、分散剤は、ホウ素化合物で後処理される。
【0047】
一実施態様において、ホウ素は、潤滑油組成物中500重量ppm未満、450重量ppm未満、400重量ppm未満、350重量ppm未満、300重量ppm未満、250重量ppm未満、200重量ppm未満、150重量ppm未満、100重量ppm未満で存在する。
【0048】
リン酸/亜リン酸
一実施形態では、無機リン酸又は亜リン酸が潤滑油組成物中に存在する。別の実施形態では、酸はリン酸である。
【0049】
一実施形態では、無機リン酸又は亜リン酸は、溶液中に75~90重量%の割合で存在する。
【0050】
一実施形態では、無機リン酸又は亜リン酸は、潤滑油組成物中0.01~1.0重量%の割合で存在する。他の実施形態において、無機リン酸又は亜リン酸は、潤滑油組成物中0.01~0.5重量%、0.01~0.1重量%、0.01~0.08重量%、0.01~0.07重量%、0.01~0.06重量%、0.02~0.06重量%、0.03~0.05重量%の割合で存在する。
【0051】
一実施形態において、潤滑油組成物中のリン酸のリンに対する非後処理スクシンイミドの窒素の比は、1.0~10.0である。他の実施形態において、本発明の潤滑油組成物における窒素/リン比は、1.0~8.0、1.0~6.0、1.0~5.0、1.0~4.0、1.0~3.5、1.0~3.0、1.0~2.5、1.5~2.5、1.5~2.0である。
【0052】
一実施形態において、潤滑油組成物中の総リン含有量は、500ppm以下である。
【0053】
金属清浄剤
一実施形態では、潤滑油組成物は、金属清浄剤化合物を含有する。適切な金属清浄剤のいくつかの非限定的な例には、硫化又は非硫化アルキル又はアルケニルフェネート、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート、ホウ素化スルホネート、マルチヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は非硫化金属塩、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート、硫化又は非硫化のアルキル又はアルケニルナフテネート、アルカン酸の金属塩、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩、並びにそれらの化学的及び物理的混合物が含まれる。適切な金属清浄剤の他の非限定的な例には、金属スルホネート、フェネート、サリチレート、ホスホネート、チオホスホネート及びそれらの組合せが含まれる。金属は、スルホネート、フェネート、サリチレート又はホスホネート清浄剤を作るのに適した任意の金属であり得る。適切な金属の非限定的な例には、アルカリ土類金属、アルカリ金属及び遷移金属が含まれる。いくつかの実施形態では、金属は、Ca、Mg、Ba、K、Na、Liなどである。
【0054】
いくつかの適切な清浄剤は、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術」(Chemistry and Technology of Lubricants)、第2版、ロンドン、スプリンガー、第3章、75-85頁(1996);及びLeslie R.Rudnick、「潤滑剤添加剤:化学及び用途」(Lubricant Additives:Chemistry and Applications)、ニューヨーク、Marcel Dekker、第4章、113-136頁(2003)に記載されており、両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
一般に、金属清浄剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいた場合、約0.001重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.01重量%~約2重量%、約0.01重量%~約1重量%、約0.02重量%~約0.5重量%、約0.02重量%~約0.4重量%、又は約0.03重量%~約0.3重量%である。
【0056】
一実施形態において、金属清浄剤は、TBNが420mgKOH/gmであり、カルシウム含有量が16重量%のスルホン酸カルシウム清浄剤である。
【0057】
別の実施形態において、カルシウムは、潤滑油組成物中に350重量ppm以下で存在する。他の実施形態において、カルシウムは、潤滑油組成物中に25~350、30~340、34~337重量ppmで存在する。
【0058】
摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物に含まれる摩擦調整剤としては、既知の各種の摩擦調整剤を用いることができるが、低分子量C~C30の炭化水素置換スクシンイミド、脂肪酸アミド、又はポリオールが好ましい。摩擦調整剤は、単独で、又は摩擦調整剤の組合せとして使用することができる。いくつかの実施態様において、摩擦調整剤は、潤滑油組成物中に0.01~5重量%の量で存在する。他の実施態様において、摩擦調整剤は、潤滑油組成物中に、0.01~3.0、0.01~2.0重量%、0.01~1.5重量%、0.01~1.0重量%、0.01~1.0重量%の量で存在する。
【0059】
(FM1):スクシンイミド摩擦調整剤:
本発明の一実施態様において、本発明の摩擦調整剤はビススクシンイミドである。
本発明の一実施態様において、本発明のビススクシンイミド摩擦調整剤は、式(V)によって表されるアルケニル置換スクシンイミド又はその後処理された誘導体である:
【化4】

[式中、R及びR’はそれぞれ独立して、下記式(VI)で表されるβ位に分岐構造を有するアルケニル基であり、Rは、水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数7~13のアラルキル基、又は5~8員複素環基であり、xは1~6の整数であり、yは0~20の整数であり:
【化5】

式中、Rの炭素原子数がRの炭素原子数より3大きいか又はRの炭素原子数がRの炭素原子数より1小さい条件下で、RとRはそれぞれ脂肪族ヒドロカルビル基であり、RとRの合計炭素原子数は3~45の範囲にあるものとする]。
【0060】
別の実施態様において、本発明は、以下の式(VII)のアルケニル置換スクシンイミド又はその後処理された誘導体を含む摩擦調整剤に存する:
【化6】

(式中、RとR’はそれぞれ独立して、炭素原子数3~24の単一の直鎖状α-オレフィンの二量体から誘導されるβ位に分岐構造をもつアルケニル基であり、Qは、炭素原子数1~20で、少なくともその両末端にアミノ基を有するアルキレン-ポリアミンの残基である)。
【0061】
本発明によって提供される摩擦調整剤は、摩擦係数が増加し、潤滑油組成物に対し摩擦係数安定性が長期にわたることにより証明されているように、改善された摩擦性能を付与するのに効果的である。したがって、本発明の摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物は、自動変速機が比較的長期間にわたって振動するのを防ぐことができる。
【0062】
本発明の摩擦調整剤は、前述の式(V)又は(VII)自体によって表されるアルケニル置換スクシンイミドであり得る。そうでなければ、摩擦調整剤は、ホウ酸、リン酸、カルボン酸又は炭酸エチレンなどの既知の後処理剤でアルケニル置換スクシンイミドを後処理することにより得られる後処理されたアルケニル置換スクシンイミドであり得る。
【0063】
(FM2):エトキシル化アミン
本発明の一実施態様において、本発明の摩擦調整剤は、エトキシル化アミンである。
R-N(C2H4OH)2(VIII)
【0064】
一般式(VIII)において、Rは、水素、アルキル基又はアルケニル基を表す。異なるアルキル基又はアルケニル基を有する化合物の混合物を使用することも可能である。アルキル基又はアルケニル基は、直鎖又は分枝状のいずれであってもよく、好ましい炭素原子数は8~22であ得る。
【0065】
(FM3):ポリオール:
本発明の一実施態様において、本発明のポリオールは、以下の式(IX)で表されるジオール化合物である。
【化7】
【0066】
一般式(IX)において、Rは、水素、アルキル基又はアルケニル基を表す。異なるアルキル基又はアルケニル基を有する化合物の混合物を使用することも可能である。アルキル基又はアルケニル基は、直鎖又は分枝状のいずれかであり、好ましい炭素原子数は10~30であり得る。
【0067】
リン化合物
リン化合物は、潤滑油組成物に使用可能な耐摩耗剤として知られているものであり得る。リン化合物の例としては、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル、チオリン酸及びチオリン酸エステル等が挙げられる。リン酸エステル及び亜リン酸エステルのアミン塩も使用できる。
【0068】
リン酸エステルの例としては、リン酸トリアリール、リン酸トリアルキル、トリアルキルアリールホスファルキルホスフェート(trialkylaryl phosphalkyl phosphate)、リン酸トリアリールアルキル、及びリン酸トリアルケニルが挙げられる。具体例としては、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ベンジルジフェニル、リン酸エチルジフェニル、リン酸トリブチル、リン酸エチルジブチル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸ジクレジルフェニル、リン酸エチルフェニルジフェニル、リン酸ジ(エチルフェニル)フェニル、リン酸プロピルフェニルジフェニル、リン酸ジ(プロピルフェニル)フェニル、リン酸トリエチルフェニル、リン酸トリプロピルフェニル、リン酸ブチルフェニルジフェニル、リン酸ジ(ブチルフェニル)フェニル、リン酸トリブチルフェニル、リン酸トリヘキシル、リン酸トリ(2-エチルヘキシル)、リン酸トリデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリミリスチル、リン酸トリパルミチル、リン酸トリステアリル、及びリン酸トリオレイルが挙げられる。
【0069】
酸性リン酸エステルの例には、酸性リン酸2-エチルヘキシル、酸性リン酸エチル、酸性リン酸ブチル、酸性リン酸オレイル、酸性リン酸テトラコシル、酸性リン酸イソデシル、酸性リン酸ラウリル、酸性リン酸トリデシル、酸性リン酸ステアリル、及び酸性リン酸イソステアリルが含まれる。
【0070】
亜リン酸エステルの例には、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリクレジル、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)、亜リン酸トリ(2-エチルヘキシル)、亜リン酸トリデシル、亜リン酸トリラウリル、亜リン酸トリイソオクチル、亜リン酸ジフェニルイソデシル、亜リン酸トリステアリル、亜リン酸トリオレイル、亜リン酸水素ジブチル、亜リン酸水素ジラウリル、亜リン酸水素ジオレイル、亜リン酸水素ジステアリル、及び亜リン酸水素ジフェニルが含まれる。これらのリン酸エステルの中でも、リン酸トリクレジル及びリン酸トリフェニルが好ましい。
【0071】
リン酸エステルとアミン塩を形成するアミンの例としては、モノ置換アミン、ジ置換アミン、及びトリ置換アミン等が挙げられる。モノ置換アミンの例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、及びベンジルアミンが挙げられる。ジ置換アミンの例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリルモノエタノールアミン、デシルモノエタノールアミン、ヘキシルモノプロパノールアミン、ベンジルモノエタノールアミン、フェニルモノエタノールアミン、及びトリルモノプロパノールアミンが挙げられる。トリ置換アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイルモノエタノールアミン、ジラウリルモノプロパノールアミン、ジオクチルモノエタノールアミン、ジヘキシルモノプロパノールアミン、ジブチルモノプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オクチルジプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、トリルジプロパノールアミン、キシリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びトリプロパノールアミンが挙げられる。
【0072】
チオリン酸エステルの例としては、トリチオ亜リン酸アルキル、チオリン酸アリール又はアルキルアリール、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛が挙げられる。これらのうち、トリチオ亜リン酸ラウリル、トリリン酸トリフェニル、及びジラウリルジチオリン酸亜鉛が特に好ましい。
【0073】
これらの極圧剤は、単独使用又は2種以上併用することができ、一般に、変速機油組成物の総量に基づいた場合、例えば効果とコストのバランスといった観点から、0.01~10質量%、好ましくは0.05~5質量%の量で使用される。
【0074】
一実施形態において、リン化合物は、アミン塩ホスフェート化合物、芳香族リン酸水素化合物、又はそれらの組合せである。
【0075】
一実施態様において、アミン塩ホスフェート化合物は、潤滑油組成物中に、0.01~0.5重量%、0.02~0.3重量%、0.02~0.2重量%、0.03~0.02重量%、0.04~0.02重量%、0.05~0.18重量%、0.05~0.15重量%の割合で存在する。
【0076】
別の実施態様において、潤滑油組成物中のアミン塩ホスフェートと芳香族リン酸水素化合物の組合せは、0.01~0.5重量%、0.02~0.3重量%、0.02~0.2重量%、0.03~0.2重量%、0.04~0.2重量%、0.05~0.2重量%、0.05~0.20重量%の割合で存在する。
【0077】
一実施形態において、潤滑油組成物中の総リン含有量は、500ppm以下である。一実施形態において、潤滑油組成物中の総リン含有量は、450、425、400ppm以下である。一実施形態において、潤滑油組成物中の総リン含有量は、450~50ppm、450~100ppm、450~150ppm、400~50ppm、400~100ppm、400~150ppmである。
【0078】
一実施形態において、潤滑油組成物は、硫黄系の極圧剤を含有する。別の実施形態において、潤滑油組成物は、硫黄系の極圧剤を含まない。
【0079】
他の添加剤
必要に応じて、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の任意の望ましい特性を付与又は改善することができる少なくとも添加剤又は調整剤(以下、「添加剤」と呼ぶ)をさらに含むことができる。本明細書に開示される潤滑油組成物には、当業者に知られている任意の添加剤を使用することができる。いくつかの適切な添加剤は、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術」(Chemistry and Technology of Lubricants)、第2版、ロンドン、スプリンガー、(1996);及びLeslie R.Rudnick、「潤滑剤添加剤:化学及び用途」(Lubricant Additives:Chemistry and Applications)、ニューヨーク、Marcel Dekker(2003)に記載されており、両方とも参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、添加剤は、酸化防止剤、耐摩耗剤、清浄剤、防錆剤、解乳化剤、摩擦調整剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、発泡防止剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、曇り止め添加剤、氷結防止剤、染料、マーカー、静電気散逸剤、殺生物剤、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。一般に、潤滑油組成物中の各添加剤の濃度は、使用する場合、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.001重量%~約15重量%、約0.01重量%~約10重量%、又は約0.1重量%~約8重量%の範囲であり得る。さらに、潤滑油組成物中の添加剤の総量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.001重量%~約20重量%、約0.01重量%~約10重量%、又は約0.1重量%~約8重量%の範囲であり得る。
【0080】
所望により、本明細書に開示される潤滑油組成物は、基油の酸化を低減又は防止することができる酸化防止剤をさらに含むことができる。当業者に知られている任意の酸化防止剤を潤滑油組成物に使用することができる。適切な酸化防止剤の非限定的な例には、アミン系酸化防止剤(例、アルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル又はアラルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化p-フェニレンジアミン、テトラメチル-ジアミノジフェニルアミンなど)、フェノール系酸化防止剤(例、2-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2、6-ジ-tert-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-ジ-tert-ブチル-o-クレゾール)など)、硫黄系酸化防止剤(例、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、硫化フェノール酸化防止剤など)、リン系酸化防止剤(例、ホスファイトなど)、ジチオリン酸亜鉛、油溶性銅化合物及びそれらの組合せが含まれる。酸化防止剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.01重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%で変動し得る。いくつかの適切な酸化防止剤は、Leslie R Rudnick、「潤滑油添加剤:化学及び用途」(Lubricant Additives:Chemistry and Applications)、ニューヨーク、Marcel Dekker、第1章、1-28頁(2003)に記載されており、これについては参照により本明細書に組み込まれる。
【0081】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、潤滑油組成物の流動点を低下させることができる流動点降下剤を場合によっては含むことができる。当業者に知られている任意の流動点降下剤を潤滑油組成物に使用することができる。適切な流動点降下剤の非限定的な例には、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ジ(テトラ-パラフィンフェノール)フタレート、テトラ-パラフィンフェノールの縮合物、ナフタレンと塩素化パラフィンの縮合物、及びそれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態において、流動点降下剤は、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、ポリアルキルスチレンなどを含む。流動点降下剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.01重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%の範囲で変動し得る。いくつかの適切な流動点降下剤は、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術」(Chemistry and Technology of Lubricants)、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、187-189頁(1996);及びLeslie R.Rudnick、「潤滑剤添加剤:化学及び用途」(Lubricant Additives:Chemistry and Applications)、ニューヨーク、Marcel Dekker、第11章、329-354頁(2003)に記載されており、両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、場合によっては、油中の泡を破壊することができる発泡防止剤又は消泡剤を含むことができる。当業者に知られている任意の発泡防止剤又は消泡剤を潤滑油組成物に使用することができる。適切な消泡剤の非限定的な例には、シリコーン油又はポリジメチルシロキサン、フルオロシリコーン、アルコキシル化脂肪酸、ポリエーテル(例、ポリエチレングリコール)、分枝状ポリビニルエーテル、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ポリアルコキシアミン及びそれらの組合せが含まれる。一部の実施形態において、消泡剤は、モノステアリン酸グリセロール、パルミチン酸ポリグリコール、モノチオリン酸トリアルキル、スルホン化リシノール酸のエステル、ベンゾイルアセトン、サリチル酸メチル、モノオレイン酸グリセロール、又はジオレイン酸グリセロールを含む。消泡剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.0001重量%~約1重量%、約0.0005重量%~約0.5重量%、又は約0.001重量%~約0.1重量%の範囲で変動し得る。いくつかの適切な消泡剤は、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術」(Chemistry and Technology of Lubricants)、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、190-193頁(1996)に記載されており、これについては参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、腐食を低減することができる腐食防止剤を所望により含むことができる。当業者に知られている任意の腐食防止剤を潤滑油組成物に使用することができる。適切な腐食防止剤の非限定的な例には、ドデシルコハク酸のハーフエステル又はアミド、リン酸エステル、チオホスフェート、アルキルイミダゾリン、サルコシン、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール及びそれらの組合せが含まれる。腐食防止剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.001重量%~約5重量%、約0.005重量%~約1重量%、又は約0.005重量%~約0.5重量%の範囲で変動し得る。いくつかの適切な腐食防止剤は、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術」(Chemistry and Technology of Lubricants)、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、193-196頁(1996)に記載されており、これについては参照により本明細書に組み込まれる。
【0084】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、摺動金属表面が極圧の条件下で焼き付くことを防ぐことができる極圧(EP)剤を場合によっては含むことができる。当業者に知られている任意の極圧剤を潤滑油組成物に使用することができる。一般に、極圧剤は、金属と化学的に結合して、高荷重下で対向する金属表面の凹凸が溶着するのを防ぐ表面膜を形成することができる化合物である。適切な極圧剤の非限定的な例には、硫化動物性又は植物性脂肪又は油、硫化動物性又は植物性脂肪酸エステル、リンの三価又は五価酸の完全又は部分エステル化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化ディールス・アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルとモノ不飽和オレフィンの硫化又は共硫化混合物、脂肪酸、脂肪酸エステルとアルファ-オレフィンの共硫化ブレンド、官能基置換ジヒドロカルビルポリスルフィド、チアアルデヒド、チアケトン、エピチオ化合物、硫黄含有アセタール誘導体、テルペンと非環式オレフィンの共硫化ブレンド、及びポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩、及びそれらの組合せが含まれる。極圧剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.01重量%~約5重量%、約0.05重量%~約3重量%、又は約0.1重量%~約1重量%の範囲で変動し得る。いくつかの適切な極圧剤は、Leslie R Rudnick、「潤滑油添加剤:化学及び用途」(Lubricant Additives:Chemistry and Applications)、ニューヨーク、Marcel Dekker、第8章、223-258頁(2003)に記載されており、これについては参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
一実施形態において、潤滑油組成物は、硫黄系極圧剤を含まない。
【0086】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、場合によっては、鉄金属表面の腐食を抑制することができる防錆剤を含むことができる。当業者に知られている任意の防錆剤を潤滑油組成物に使用することができる。適切な防錆剤の非限定的な例には、油溶性モノカルボン酸(例、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、セロチン酸など)、油溶性ポリカルボン酸(例、トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸などから生成されたもの)、アルケニル基が10以上の炭素原子を含むアルケニルコハク酸(例、テトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸など)、600~3000ダルトンの範囲の分子量を有する長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸及びその組合せが含まれる。防錆剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づくとして、約0.01重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%の範囲で変動し得る。
【0087】
適切な防錆剤の他の非限定的な例には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレアート、及びポリエチレングリコールモノオレアートなどの非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤が含まれる。適切な防錆剤のさらなる非限定的な例には、ステアリン酸及び他の脂肪酸、ジカルボン酸、金属石鹸、脂肪酸アミン塩、重スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、及びリン酸エステルが含まれる。
【0088】
いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、少なくとも多機能性添加剤を含む。適切な多機能性添加剤のいくつかの非限定的な例には、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデン有機ホスホロジチオアート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン-モリブデン錯体化合物、及び硫黄含有モリブデン錯体化合物が含まれる。
【0089】
特定の実施形態において、潤滑油組成物は、少なくとも粘度指数向上剤を含む。適切な粘度指数向上剤のいくつかの非限定的な例には、ポリメタクリレート型ポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、水和スチレン-イソプレンコポリマー、ポリイソブチレン、及び分散剤型粘度指数向上剤が含まれる。
【0090】
いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、少なくとも金属不活性化剤を含む。適切な金属不活性化剤のいくつかの非限定的な例には、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、及びメルカプトベンズイミダゾールが含まれる。
【0091】
本明細書に開示されている添加剤は、複数の添加剤を有する添加剤濃縮物の形態であり得る。添加剤濃縮物は、適切な粘度の炭化水素油などの適切な希釈剤を含み得る。かかる希釈剤は、天然油(例、鉱油)、合成油及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。鉱油のいくつかの非限定的な例には、パラフィン系油、ナフテン系油、アスファルト系油、及びそれらの組合せが含まれる。合成基油のいくつかの非限定的な例には、ポリオレフィン油(特に水素化アルファオレフィンオリゴマー)、アルキル化芳香族、ポリアルキレンオキシド、芳香族エーテル、及びカルボン酸エステル(特にジエステル油)及びそれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態において、希釈剤は、天然又は合成の両方の軽質炭化水素油である。一般に、希釈油は、40℃で約13センチストークス~約35センチストークスの粘度を有し得る。
【0092】
一般に、希釈剤は、本発明の潤滑油可溶性添加剤を容易に可溶化し、潤滑油基油ストック又は燃料に容易に溶解し得る油添加剤濃縮物を提供することが望ましい。さらに、希釈剤が、例えば高揮発性、高粘度、及びヘテロ原子などの不純物を含む何らかの望ましくない特性を、潤滑油基油ストックに、したがって最終的には完成した潤滑油又は燃料に導入することのないのが望ましい。
【0093】
本発明はさらに、不活性希釈剤と、全濃縮物に基づくとして2.0重量%~90重量%、好ましくは10重量%~50重量%の本発明による油溶性添加剤組成物とを含む油溶性添加剤濃縮組成物を提供する。
【0094】
以下の例は、本発明の実施形態の実例を示すために提示されているが、本発明を記載された特定の実施形態に限定することを意図するものではない。別段の指示がない限り、すべての部及びパーセンテージは重量によるものである。すべての数値は近似値である。数値範囲が与えられている場合、記載された範囲外の実施形態が依然として本発明の範囲内に含まれる可能性があることを理解すべきである。各例で説明されている具体的詳細は、本発明の必要な特徴として解釈されるべきではない。
【0095】

分散剤1:MW 950 PIBから誘導された非後処理ビス-スクシンイミド、N 2.0重量%。
分散剤2:MW 950 PIBから誘導されたホウ素化(borated)ビススクシンイミド。
分散剤3:MW 1300 PIBから誘導されたホウ素化ビススクシンイミド。
リン酸:85重量%HPO、P 27重量%。
清浄剤:Caスルホネート、TBN 420、Ca 16重量%。
摩擦調整剤1(FM1):ビススクシンイミド摩擦調整剤。
摩擦調整剤2(FM2):エトキシル化アミン。
摩擦調整剤3(FM3):ポリオール。
リン化合物1(P1):ホスフェートのアミン塩。
リン化合物2(P2):芳香族亜リン酸水素。
基油:グループ2基油。
酸化防止剤:フェノール系とアミン系の酸化防止剤の混合物。
腐食防止剤:チアジアゾール又はトリアゾール。
シールスウェル:エステル型シールスウェル。
VII:分散剤ポリメタクリレート(PMA)。
【0096】
潤滑油組成物を、本発明の例1~4及び比較例1~5に従って調製し、表1にまとめる。
【表1】
【0097】
本発明の例1~4及び比較例1~5について、JASO M349-2012試験手順を使用して、湿式クラッチシャダー防止性能について評価した。結果を下の表2に示す。
【0098】
湿式クラッチシャダー防止性能試験JASO M349-2012
JASO M-349:2012に記載されている「路上走行車-自動変速機油のシャダー防止性能の試験方法」に従って、シャダー防止性能耐久性を低速摩擦装置によって測定した。試験方法の詳細は以下の通りである。
【0099】
o試験条件
・摩擦材:セルロースディスク/鋼板
・油量:約150mL
o試運転条件
・接触圧力:1MPa
・油温:80℃
・滑り速度:0.6m/秒
・滑り時間:30分
oμ-V性能試験条件
・接触圧力:1MPa
・油温:40、80、120℃
・滑り速度:0m/秒~1.5m/秒の間で連続的に増加及び減少
o耐久性試験条件
・接触圧力:1MPa
・油温:120℃
・滑り速度:0.9m/秒
・時間:30分
・休憩時間:1分
・性能測定時間:μ-V特性を、0時間から、24時間毎(又はクラッチ故障等により必要に応じて6時間毎)に測定した
・注:シャダー防止性能について、0.9m/秒のdμ/dVが0に達するまでの時間を測定することによって評価した。測定された期間が長いほど、シャダー防止性能は良好である。
【表2】
【0100】
例1~4は、比較例1~5よりも優れた改善されたシャダー防止性能を示し、本発明の例のdμ/dvは、48時間後でさえ正である。
【0101】
金属-金属摩擦及び摩耗試験(JASO M358-2005):
本発明の例1~4及び比較例1の摩擦係数については、JASO M358:2005に記載されている「ベルトCVT液の金属対金属摩擦特性の標準試験方法」に従って、ブロックオンリング試験機を用いて金属-金属摩擦係数に関する測定を行った。試験方法の詳細は以下の通りである。
【0102】
o試験条件
・リング:Falex S-10試験リング(SAE 4620スチール)
・ブロック:Falex H-60試験ブロック(SAE 01スチール)
o油の量
・約110mL(試験油レベルは試験リングの中心である)
o試運転条件
・油温:110℃
・負荷:890N下で5分及び1112N下で25分
・滑り速度:0.5m/秒で5分~1.0m/秒で25分
o試験条件
・油温:110℃
・負荷:1112N
・滑り速度:それぞれ1.0、0.5、0.25、0.125、0.075、0.025m/秒で5分
・摩擦係数:滑り速度が変化する前30秒間の摩擦係数
【0103】
結果を下の表3に示す。
【表3】
【0104】
データは、試験リングと試験ブロックの摩耗損失がすべての試験油で小さいことを示すが、有機リン化合物を含まない試験油である比較例4は、リングとブロックの両方の表面に損傷を与える。有機リン化合物が存在しない場合、耐荷重性能が不足し、これにより、ギアの潤滑剤には許容できない表面損傷が生じる。
【0105】
本明細書に開示された実施形態に対して様々な修正がなされ得ることが理解されるであろう。したがって、上記の説明は、限定として解釈されるべきではなく、好ましい実施形態の単なる例示として解釈されるべきである。例えば、上記で説明され、本発明を動作させるための最良のモードとして実装される機能は、説明を目的とするものに過ぎない。本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、他の取り合わせ及び方法が当業者によって実施され得る。さらに、当業者であれば、本明細書に添付される特許請求の範囲及びその精神内で他の修正を想定するはずである。
なお、下記[1]から[19]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
a)主要量の潤滑粘度の油、
b)少なくとも1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤、
c)0.01~0.5重量%のリン酸、
d)組成物に350ppm以下の金属を提供する金属清浄剤、
e)少なくとも1つ以上の有機リン化合物
を含み、
前記非後処理スクシンイミドからの窒素の、リン酸からのリンに対する比率が1から3である
潤滑油組成物。
[2]
自動変速機又は無段変速機用の組成物である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]
前記自動変速機又は無段変速機が湿式ペーパークラッチを備えている、[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]
前記湿式クラッチがセルロース繊維及び/又はアラミド繊維を含有する、[3]に記載の潤滑油組成物。
[5]
前記金属清浄剤が25~350重量ppmのカルシウムを前記潤滑油組成物に提供する、[1]に記載の潤滑油組成物。
[6]
前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤が0.3~8重量%の割合で存在する、[1]に記載の潤滑油組成物。
[7]
前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤がビススクシンイミドである、[1]に記載の潤滑油組成物。
[8]
前記ビススクシンイミドが、分子量950のポリイソブチレン(PIB)から誘導される、[1]に記載の潤滑油組成物。
[9]
前記スクシンイミド分散剤が、分子量900~1500のポリイソブチレン(PIB)から誘導されたホウ素化ビススクシンイミドである、[1]に記載の潤滑油組成物。
[10]
前記有機リン化合物が、0.01~0.5重量%のリンを前記潤滑油組成物に提供する、[1]に記載の潤滑油組成物。
[11]
前記1つ以上の有機リン化合物が、アミン塩ホスフェート及び芳香族亜リン酸水素を含む群から選択される、[1]に記載の潤滑油組成物。
[12]
前記潤滑油組成物中の総リンが500ppm以下である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[13]
a)主要量の潤滑粘度の油、
b)少なくとも1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤、
c)0.01~0.5重量%のリン酸、
d)前記組成物に350ppm以下の金属を提供する金属清浄剤、
e)少なくとも1つ以上の有機リン化合物
を含み、
前記非後処理スクシンイミドからの窒素の、リン酸からのリンに対する比率が1から3である潤滑油組成物で前記変速機を潤滑させることを含む、自動変速機又は無段変速機を備えた燃焼機関におけるシャダー防止性能を改善し、摩擦を低減する方法。
[14]
前記自動変速機又は無段変速機が湿式ペーパークラッチを備えている、[13]に記載の方法。
[15]
前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤が、0.3~8重量%の割合で存在する、[13]に記載の方法。
[16]
前記1つ以上の非後処理スクシンイミド分散剤がビススクシンイミドである、[13]に記載の方法。
[17]
前記1つ以上の有機リン化合物が、0.01~0.5重量%のリンを前記潤滑油組成物に提供する、[13]に記載の方法。
[18]
前記1つ以上の有機リン化合物が、アミン塩ホスフェート及び芳香族亜リン酸水素を含む群から選択される、[13]に記載の方法。
[19]
前記潤滑油組成物中の総リンが500ppm以下である、[13]に記載の方法。