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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】過剰雑音の出ないフォトダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/107 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
H01L31/10 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020570174
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 US2019033937
(87)【国際公開番号】W WO2020013923
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】PCT/US2018/041574
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501228071
【氏名又は名称】エスアールアイ インターナショナル
【氏名又は名称原語表記】SRI International
【住所又は居所原語表記】333 Ravenswood Avenue, Menlo Park, California 94025, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ウィンストン ケー.
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-119274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0096665(US,A1)
【文献】特開昭58-157179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0048772(US,A1)
【文献】I. Vurgaftman et al.,"Band parameters for III-V compound semiconductors and their alloys",JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2001年,Vol.89, No.11,pp.5815-5875
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/107
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトダイオードを備える装置であって、
前記フォトダイオードは、
1)前記フォトダイオードが電流を伝導するために電気的にバイアスをかけられたときに、i)電子またはii)正孔から選択された1つのみの電流キャリア型が衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積することを許容する、超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、
2)吸収領域を形成する第3の半導体合金と、
3)前記増倍領域および前記吸収領域が半導体基板に対し格子整合し、前記増倍領域および前記吸収領域が前記半導体基板から開始して交互かつ互いに積層する、前記半導体基板と、
で構築され、
それにより、前記増倍領域、前記吸収領域および前記半導体基板における合金は、最小波長カットオフが、1.0μm~4.9μmであって、かつ暗電流に起因する雑音のレベルが、所望の前記最小波長カットオフを有する電磁放射信号を正確に検知できるようなレベルである、前記フォトダイオードを提供するように、整合されている、装置。
【請求項2】
前記増倍領域を構成する前記第1の半導体合金は、電子による衝突電離が抑制されるように前記超格子が伝導帯内にセットされたInGaAsSbであり、前記吸収領域を構成する前記第3の半導体合金はInGaAsSbであり、前記半導体基板はGaSbで構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記増倍領域を構成する前記第1の半導体合金は、In0.09Ga0.91As0.08Sb0.92の組成を有する合金で構成され、前記吸収領域を構成する前記第3の半導体合金は、InGaAsSbの合金であるが、前記増倍領域と同じ組成を有しない、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
i)基板およびii)半導体層を含む前記フォトダイオードは、前記増倍領域のInGaAsSb層と、前記吸収領域のInGaAsSb層との双方を成長させるのに実質的に同じ製造ステップを用いて相補型金属酸化物半導体(CMOS)過程により製造される、請求項2に記載の装置の製造方法
【請求項5】
前記第1の半導体合金は、AlGaAsSbの第2の半導体合金と対にされて前記増倍領域を構成する、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記増倍領域の前記第2の半導体合金は、Al0.14Ga0.86As0.01Sb0.99の組成を有する合金で構成される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記フォトダイオードは、3.3μm以上の波長カットオフを有する線形モードアバランシェフォトダイオードである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記増倍領域を構成する半導体合金の前記格子整合対は、In0.17Ga0.83As0.16Sb0.84およびAl0.26Ga0.74As0.02Sb0.98であり、前記吸収領域を構成する前記第3の半導体合金はInGaAsSbであり、双方の領域がGaSb基板に格子整合している、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記吸収領域を構成する半導体合金は、InP基板に格子整合したInGaAs-GaAsSb超格子である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記増倍領域を構成する半導体合金の前記格子整合対は、InGaAsP-InAlAs超格子である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
フォトダイオードを作成することを含む方法であって、
前記フォトダイオードは、
1)前記フォトダイオードが電流を伝導するために電気的にバイアスをかけられたときに、i)電子またはii)正孔から選択された1つのみの電流キャリア型が衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積することを許容する、超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、
2)吸収領域を形成する第3の半導体合金と、
3)前記増倍領域および前記吸収領域が半導体基板に対し格子整合し、前記増倍領域および前記吸収領域が前記半導体基板から開始して交互かつ互いに積層する、前記半導体基板と、
で構築され、
それにより、前記増倍領域、前記吸収領域および前記半導体基板における合金は、最小波長カットオフが、1.0μm~4.9μmであって、かつ暗電流に起因する雑音のレベルが、所望の前記最小波長カットオフを有する電磁放射信号を正確に検知できるようなレベルである、前記フォトダイオードを提供するように、整合されている、方法。
【請求項12】
前記増倍領域を構成する前記第1の半導体合金は、電子による衝突電離が抑制されるように前記超格子が伝導帯内にセットされたInGaAsSbであり、前記吸収領域を構成する前記第3の半導体合金はInGaAsSbであり、前記半導体基板はGaSbで構成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記増倍領域を構成する前記第1の半導体合金は、In0.09Ga0.91As0.08Sb0.92の組成を有する合金で構成され、前記吸収領域を構成する前記第3の半導体合金は、InGaAsSbの合金であるが、前記増倍領域と同じ組成を有しない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
i)基板およびii)半導体層を含む前記フォトダイオードは、前記増倍領域のInGaAsSb層と、前記吸収領域のInGaAsSb層との双方を成長させるのに実質的に同じ製造ステップを用いて相補型金属酸化物半導体(CMOS)過程により製造される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の半導体合金は、AlGaAsSbの第2の半導体合金と対にされて前記増倍領域を構成する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記増倍領域の前記第2の半導体合金は、Al0.14Ga0.86As0.01Sb0.99の組成を有する合金で構成される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記フォトダイオードは、3.3μm以上の波長カットオフを有する線形モードアバランシェフォトダイオードである、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記増倍領域を構成する半導体合金の前記格子整合対は、In0.17Ga0.83As0.16Sb0.84およびAl0.26Ga0.74As0.02Sb0.98であり、前記吸収領域を構成する前記第3の半導体合金はInGaAsSbであり、双方の領域がGaSb基板に格子整合している、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記吸収領域を構成する半導体合金は、InP基板に格子整合したInGaAs-GaAsSb超格子である、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記増倍領域を構成する半導体合金の前記格子整合対は、InGaAsP-InAlAs超格子である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、一部継続出願としてその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年7月11日に出願された、「LINEAR MODE AVALANCHE PHOTODIODES WITHOUT EXCESS NOISE」と題する国際PCT特許出願PCT/US18/41574の優先権および利益を主張する。
【0002】
本開示の実施形態は一般にフォトダイオードに関する。
【背景技術】
【0003】
光検出器の機能は、入射光を感知し、入射光束に比例した電流、すなわち入射光束に比例した光電流を出力することである。理想は、光検出器が、入射光子ごとに1つの出力電子または正孔を生成し、あらゆる出力電子または正孔が入射光子の結果であることである。入射束が小さい多くの用途では、後続の電子装置によって使用され得る前に出力電流を増幅する必要がある。光子計数を達成するための以前の一部の光検出器では、単一光子を検出するために、光電流を10倍ないし10倍にする利得機構が必要である。電流の振幅を増大させることの他に、増幅器は、電流に雑音を追加するという欠点も有する。
【0004】
実際、多くのタイプの光検出器では、室温における電子増幅器からの雑音電流が、単一光子の流れの検出(光子計数)に必要な電流よりもかなり大きい。これらのタイプの光検出器の増幅器雑音は温度によって押し上げられるため、増幅器を極低温に冷却するとその雑音は小さくなるが、この手法を受け入れることができる用途の数は限られている。
【0005】
電流増倍機構の1つが衝突電離(impact ionization)である。この機構に基づく光検出器はアバランシェフォトダイオード(APD)として知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書においては、フォトダイオードのさまざまな方法、装置およびシステムが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態において、線形モードアバランシェフォトダイオードなどのフォトダイオードは、電子または正孔などの1つのみの電流キャリア型が、バイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積することを可能にする超格子増倍領域を有することにより過剰雑音をなくすことができ、ここで、層は格子整合している。フォトダイオードは、i)超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、ii)吸収領域と、iii)半導体基板とで構築することができる。複数のフォトダイオードを有する検出器は、1.7μm~4.9μmのいずれかで変動するカットオフ波長と、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するために、これらの構造層を用いて作製することができる。
【0008】
フォトダイオードは、i)超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、ii)吸収領域と、iii)半導体基板とで構築することができる。吸収領域は複数の半導体合金の超格子構造も有することができる。所与のフォトダイオードは、フォトダイオードが電流を伝導するために電気的にバイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積するために、i)電子またはii)正孔から1つのみの電流キャリア型が選択されることを可能にする、超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対で構築することができる。フォトダイオードは、吸収領域を形成する第3の半導体合金と、半導体基板とを有することになる。増倍領域および吸収領域は、半導体基板に格子整合させることができる。代替的に、増倍領域および吸収領域は、半導体基板から開始して互いに積層する。
【0009】
増倍領域、吸収領域および半導体基板における合金は、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するフォトダイオードを提供するように整合している。
【0010】
この設計の多くの変形が論考される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、キャリアが正孔であるときに価電子帯に超格子を有することによって過剰雑音が実質的に排除される、整合された超格子構造体(以後、「整合超格子構造体」と称する)を含む線形モードAPDのブロック図の実施形態を示す図である。
【0012】
図2a図2aは、距離とともに運動エネルギーを蓄積する、バイアス下のバルク半導体の価電子帯の正孔のグラフの実施形態を示す図である。
【0013】
図2b図2bは、バイアスがかけられた超格子内のウェルを通した価電子帯ホッピング(hopping)における正孔のグラフ、およびワニエ-シュタルクラダー(Wannier-Stark ladder)内の状態のエネルギーレベルの実施形態を示す図である。
【0014】
図3図3は、過剰雑音指数Fの理論値を、電子注入に関する平均利得Mおよびβ/α比の関数として示したグラフの実施形態を示す図である。
【0015】
図4図4は、エネルギーが垂直方向にプロットされ、距離が水平方向にプロットされた半導体のバンド図のグラフ、および衝突電離して新たな電子-正孔対を形成するのに必要な運動エネルギー量の実施形態を示す図である。
【0016】
図5図5は、キャリアが電子であるときに伝導帯に超格子を有することによって過剰雑音が実質的に排除される、整合超格子構造体を含む線形モードAPDのブロック図の実施形態を示す図である。
【0017】
図6a図6aは、場によって加速され、運動エネルギーを蓄積する、電場が印加されたバルク半導体内の電子のグラフの実施形態を示す図である。
【0018】
図6b図6bは、局在(localized)ワニエ-シュタルク状態を制御することによって衝突電離を抑制する整合超格子のグラフの実施形態を示す図である。
【0019】
図7図7は、電子増倍は抑制されるが、正孔増倍は抑制されない、整合超格子設計を含む線形モードAPDのグラフの実施形態を示す図である。
【0020】
図8図8は、インサイチュメモリ(in-situ memory)を備える整合超格子構造体を含む線形モードAPDアレイおよび並列列読出しの図の実施形態を示す図である。
【0021】
図9図9は、整合超格子構造体を含む線形モードAPDを有する読出し回路概略図の実施形態を示す図である。
【0022】
図10図10は、例示的なInGaAs-GaAsSb超格子バンド図のブロック図を示す。
【0023】
図11A図11Aは、 超格子および格子整合が、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するようにすることによって、過剰雑音をなくしたフォトダイオードを構築する実施形態の流れ図を示す。
図11B図11Bは、 超格子および格子整合が、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するようにすることによって、過剰雑音をなくしたフォトダイオードを構築する実施形態の流れ図を示す。
【0024】
この設計は、さまざまな変更、等価物および代替形態の対象となるが、この設計の特定の実施形態は、図面に例として示されており、次に、それらの実施形態が詳細に説明される。この設計は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、逆に、それらの特定の実施形態を使用した全ての変更、等価物および代替形態をカバーすることが意図されていることを理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明では、本設計の完全な理解を提供するために、特定のデータ信号、言及された構成要素、フレーム数の例など、多数の特定の詳細が記載されることがある。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細がなくても本設計を実施することができることが明白となろう。他の事例として、本設計を不必要に不明瞭にすることを防ぐために、よく知られている構成要素または方法は詳細には記載されておらず、むしろブロック図に示されている。さらに、第1のフォトダイオードなど特に数に言及することがある。しかしながら、それらの数に関する特定の言及を、文字通り順序として解釈すべきではなく、むしろ、第1のフォトダイオードは第2のフォトダイオードとは異なるのだと解釈すべきである。このように、記載された特定の詳細が単なる例であることもある。それらの特定の詳細は、本設計の趣旨および範囲から外れることがあるが、それでも、本設計の趣旨および範囲内に含まれることが企図される。用語「結合された」は、その構成要素に直接に接続されていること、または別の構成要素を介してその構成要素に間接的に接続されていることを意味すると定義される。
【0026】
図1図9は、例示的なフォトダイオード構造および技法の第1の組について論考する。図10図11Bは、追加のフォトダイオード構造および技法の第2の組について論考する。追加のフォトダイオード構造および技法の第2の組は、第1の組において論考された概念および技法を踏まえ、これを組み込む。
【0027】
一般に、方法、装置およびシステムが論じられる。線形モードアバランシェフォトダイオードなどのフォトダイオードは、電子または正孔などの1つのみの電流キャリア型が、バイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積することを可能にする超格子増倍領域を有することにより過剰雑音をなくすことができ、ここで、層は格子整合している。フォトダイオードは、i)超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、ii)吸収領域と、iii)半導体基板とで構築することができる。吸収領域は複数の半導体合金の超格子構造も有することができる。所与のフォトダイオードは、フォトダイオードが電流を伝導するために電気的にバイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積するために、i)電子またはii)正孔から1つのみの電流キャリア型が選択されることを可能にする、超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対で構築することができる。フォトダイオードは、吸収領域を形成する第3の半導体合金と半導体基板とを有することになる。増倍領域および吸収領域は、半導体基板に対し格子整合させることができる。代替的に、増倍領域および吸収領域は、半導体基板から開始して互いに積層する。増倍領域、吸収領域および半導体基板における合金は、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するフォトダイオードを提供するように整合している。
【0028】
第1の組において論考された概念および技法を踏まえ、これを組み込む、例示的なフォトダイオード構造および技法の第2の組が以下に論考される。
【0029】
図10は、例示的なInGaAs-GaAsSb超格子バンド図のブロック図を示す。フォトダイオードの層1000は、電子がInGaAs-GaAsSb層内に、正孔がGaAsSb層内に大部分が閉じ込められるように構築することができる。図は、電子または正孔などの1つのみの電流キャリア型が、バイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積するようにInxGa1-xAs合金と相互作用するGaAs1-ySby合金を概説する。
【0030】
線形モードアバランシェフォトダイオード(LM-APD)などのフォトダイオードは、電子または正孔などの1つのみの電流キャリア型が、バイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積することを可能にする超格子利得領域を有することにより過剰雑音をなくすことができる。ここで、異なる領域は格子整合している。
【0031】
フォトダイオードは、i)超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、ii)吸収領域と、iii)半導体基板とで構築することができる。
【0032】
本明細書におけるこれらの格子整合技法を用いたフォトダイオードを用いて、>2.0μmのカットオフ波長および>250Kの動作温度を有する短波長赤外線(SWIR)線形モードアバランシェフォトダイオード(LM-APD)を作成することができる。
【0033】
本明細書における複数の例示的なフォトダイオード構造は、線形モードアバランシェフォトダイオード(LM-APD)を、動作温度>250Kで2μmを超える波長に拡張することができる。
【0034】
A.第1の例示的なフォトダイオードにおいて、第1の半導体合金および第2の半導体合金は、増倍領域を構成する半導体合金の格子整合対を形成することができる。この特定の増倍領域は、ヒ化インジウムガリウムアンチモニド(InGaAsSb)と、ヒ化アルミニウムガリウムアンチモニド(AlGaAsSb)とからなることができる。吸収領域を構成する第3の半導体合金はInGaAsSbである。半導体基板は、ガリウムアンチモニド(GaSb)で構成される。双方の領域は、GaSb基板に格子整合している。
【0035】
増倍領域は、i)In0.09Ga0.91As0.08Sb0.92の第1の半導体合金と、ii)Al0.14Ga0.86As0.01Sb0.99の組成を有する合金で構成された増倍領域のための第2の半導体合金との組成を有する合金から構成することができる。別の例では、増倍領域を構成する半導体合金の格子整合対は、例えば、In0.17Ga0.83As0.16Sb0.84およびAl0.26Ga0.74As0.02Sb0.98の異なる構成を有することができる。また、フォトダイオードの構造は、GaSbに格子整合しているInGaAsSb吸収領域を有することができる。
【0036】
増倍領域の超格子は、GaSb基板に格子整合している。増倍領域のInGaAsSb-AlGaAsSb超格子が特に関心対象であることに留意されたい。なぜなら、そのバンドオフセットがより大きいことにより、過剰雑音のないより高い利得につながり得るためである。
【0037】
複数のフォトダイオードを有する検出器は、1.7μm~4.9μmのいずれかで変動するカットオフ波長を有するために、これらの構造層を用いて作製することができる。
【0038】
B.増倍領域を構成する半導体合金の格子整合対も、ヒ化リン化インジウムガリウム(InGaAsP)およびヒ化インジウムアルミニウム(InAlAs)の第1および第2の半導体合金を有する超格子を含むことができる。吸収領域を構成する第3の半導体合金は、リン化インジウム(InP)基板に格子整合したヒ化インジウムガリウム(InGaAs)およびヒ化ガリウムアンチモニド(GaAsSb)超格子とすることができる。
【0039】
このフォトダイオードの構造は、他の例示的な構造のInGaAs吸収領域を、InP基板に格子整合したInGaAs-GaAsSbタイプII超格子吸収領域と置き換えることができる。この吸収領域を用いて作製された検出器は、少なくとも2.4μm波長のカットオフ波長を有することができる。InGaAsP-InAlAs超格子増倍領域は吸収領域に整合する。
【0040】
概して、i)超格子増倍領域における第1の半導体合金およびii)第2の半導体合金の格子整合対と、吸収領域と、iii)半導体基板とで構築されたフォトダイオードを作成することができる。
【0041】
超格子増倍領域における第1の半導体合金と第2の半導体合金との格子整合対は、フォトダイオードが電流を伝導するために電気的にバイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積するために、i)電子またはii)正孔から1つのみの電流キャリア型が選択されることを可能にするように整合している。第3の半導体合金は吸収領域を形成することができる。増倍領域および吸収領域も半導体基板に格子整合している。代替的に、増倍領域および吸収領域は、半導体基板から開始して互いに積層してもよい。
【0042】
増倍領域、吸収領域および半導体基板における合金は、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するように構築されたフォトダイオードを提供するように格子整合している(例えば、暗電流の量を最小限にするように整合している)。整合は、電磁放射信号がフォトダイオードによって適切に検知されるように、暗電流から結果として生じる雑音が最小限にされるように設定される。
【0043】
暗電流は、光子が感光デバイスに入らない場合であっても、フォトダイオードのような感光デバイスを通って流れる比較的小さな電流とすることができることに留意されたい。実施形態において、増倍領域内の合金と、吸収領域と、半導体基板とは、4.9μm以下の最小波長カットオフを有するように構築されたフォトダイオードを提供するように格子整合している。実施形態において、増倍領域内の合金と、吸収領域と、半導体基板とは、少なくとも3.3μmの最小波長カットオフを有するように構築されたフォトダイオードを提供するように格子整合している。
【0044】
i)基板およびii)半導体層を含むフォトダイオードは、相補型金属酸化物半導体(CMOS)過程により製造することができる。フォトダイオードは、増倍領域のヒ化インジウムガリウムアンチモニド(InGaAsSb)層と、吸収領域のInGaAsSb層との双方を成長させるのに実質的に同じ製造ステップを用いてCMOS互換過程により製造することができる。これらの半導体との超格子整合は、1.7μm、3.3μmおよびそれを超えるような、より高い最大カットオフ波長における吸収を得ることができる。
【0045】
実施形態において、フォトダイオードは、i)超格子が伝導帯内にセットされたIn0.09Ga0.91As0.08Sb0.92の組成を有する増倍領域と、ii)増倍領域および吸収領域の交互積層を有するInGaAsSb吸収領域とで構築することができる。増倍領域および吸収領域の交互積層は、ガリウムアンチモニド(GaSb)基板上に成長する。
【0046】
フォトダイオードに、1.7μm、3.3μmおよびそれを超えるような最大カットオフ波長を有する能力を与えるように、ガリウムアンチモニド基板上に成長させることができる半導体の異なる組が構築される。ガリウムアンチモニド基板は、その基板上に、より高い波長において電流キャリアの吸収を有する半導体を成長させることができる。
【0047】
半導体領域のうちの1又は2以上が超格子を有する。一例において、増倍領域の超格子構造体における2つの半導体は、ヒ化アルミニウムガリウムアンチモニド(Al0.14Ga0.86As0.01Sb0.99)の第1の半導体合金と、超格子が伝導帯内にセットされたヒ化インジウムガリウムアンチモニド(In0.09Ga0.91As0.08Sb0.92)の第2の半導体合金とからなる。電子は、増倍のための第1の電流キャリア組とすることができる。超格子構造体は、この例では増倍領域として用いることができ、他の例示的なフォトダイオードでは吸収領域として用いることができる。
【0048】
吸収領域の組成は、類似の合金から作製することができるが、厳密でないことに留意されたい。
【0049】
一例において、吸収領域は、吸収領域のインジウムガリウム層の類似の合金を、増倍領域と同じまたは類似にすることができる。加えて、増倍領域の他の合金部分は、この変化に整合するように対にされた半導体である。合金におけるインジウム成分に対する変更の理由は、増倍領域および吸収領域の双方のために同じ層を成長させる方が容易であるためであることに留意されたい。
【0050】
例示的な構築されたフォトダイオードは、少なくとも1.6μmのカットオフ波長を有するInGaAs吸収領域と、InGaAsP-InAlAs超格子増倍領域とを有することができ、全てがInP基板に格子整合している。
【0051】
フォトダイオードの上記の実施形態は、潜在的に、高分解能の撮像用途について、15μmまで下げたピクセルピッチを達成することができる。
【0052】
SWIR帯への例示的な線形モードAPDの適合のさらなる詳細
2.0μmを超える波長への強力な光感応を有するような低過剰雑音LM-APD設計のためにさまざまな手法を用いることができる。2つの例示的な手法、i)InPにおけるInGaAs-GaAsSbタイプII超格子吸収体、およびii)GaSbにおけるInGaAsSb吸収体が以下でより詳細に論考される。双方のフォトダイオード構造が、動作温度>250Kの2μmを超える波長の動作温度制約を満たすことができる。第3のフォトダイオード手法であるInPにおけるInGaAs吸収体についても以下でさらに論考される。これは、1.6μm~2.5μmの波長を感知する撮像装置のために用いることができる。
【0053】
InPにおけるInGaAs-GaAsSbタイプII超格子吸収領域を用いたAPDを含むフォトダイオードは、SWIR帯において電子および/または正孔を吸収することができる。InGaAs-GaAsSbタイプII超格子吸収領域は、各々がInPに格子整合した層から構成されるため、拡張InGaAsの不整合問題を一切有しない。
【0054】
InP基板上に構築されたInGaAs-GaAsSbタイプII超格子は、短期的に2.4μm、長期的に4.2μmの達成可能なカットオフ波長を有することができる。この場合、量子効率(QE)は、カットオフが増大すると共に減少することに留意されたい。
【0055】
GaSb基板におけるタイプI超格子を有するInGaAsSbを用いたフォトダイオードは、短期的に2.3μm、長期的に4.9μmの達成可能なカットオフ波長を有することができる。増倍領域超格子は、利得が高くなるほど大きなバンドオフセットを有する。
【0056】
整合
例において、InGaAs-GaAsSb超格子の有効バンドギャップは、2つの構成層の厚みを変更することによって調節される。InGaAs層の厚みを増大させることによって、電子ミニバンドが下降するのに対し、GaAsSb層の厚みを増大させることにより、軽いおよび重い正孔ミニバンドが上昇する。これらの変化のいずれも、有効バンドギャップを減少させる。電子は、InGaAsウェル内に集中し、正孔はGaAsSb反転ウェル内に集中するため、電子波動関数および正孔波動関数間の重なりは、層が厚くなり、波動関数がウェル内でより局所化するにつれ減少する。局所化は、QEを減少させる2つの影響を有する。第1に、波動関数の重なりに依拠する遷移確率が下がり、結果として吸収効率が下がる。第2に、キャリアがウェル間をトンネリングすることがより困難になり、これにより、光生成電子-正孔対の多くが吸収領域を離れることができる前に再結合することに起因して、キャリア輸送がより低速になる。層ごとに5nmを有する超格子は、このトレードオフに対し妥当な妥協点をもたらし、結果として、2.39μmのカットオフ波長および2.23μmにおける43%のQEを有するフォトダイオードとなった。歪み補償されたInGaAs-GaAsSb超格子を、このトレードオフの回避法として用いることができるが、長い波長における高いQEを取得することにはほとんど成功しない。
【0057】
格子整合InGaAs-GaAsSb超格子フォトダイオードの暗電流は、低バイアスに設定されるように整合している。ここでは再結合生成電流が優位であり、類似のバンドギャップを有する類似の温度の拡張InGaAsフォトダイオードのものに類似している。格子整合InGaAs-GaAsSb超格子フォトダイオードは、拡張InGaAsフォトダイオードの貫通転位を有していないが、界面において、例えばInSb沈殿物を形成する意図しない混合に起因する場合がある高い暗電流を有する。増倍超格子における意図しないAIP形成は、前駆物質ガスが成長チャンバ内に導入されるタイミングを含む成長条件を最適化することによって解決することができることに留意されたい。
【0058】
例において、InGaAs-GaAsSb超格子吸収領域は、SWIR LM-APDのために用いることができる。InGaAs-GaAsSb超格子吸収領域は、2.4-μmカットオフおよび43%QEのための設計を、低暗電流のための成長条件で最適化された吸収領域超格子と共に用いることができる。
【0059】
GaSb基板におけるInGaAsSb吸収領域
InGaAsSb吸収領域手法は、(低欠陥密度のために)GaSb基板に(高吸収係数および高QEのために)格子整合した空間的直接バンドギャップ半導体を用いる。
【0060】
InPの代わりにGaSb基板への格子整合も、新たな増倍超格子を用いることになる。In0.17Ga0.83As0.16Sb0.84およびAl0.26Ga0.74As0.02Sb0.98で構成される増倍超格子は、伝導帯バンドオフセットのみを有する。増倍超格子オフセットは、例示的なInGaAsP-InAlAs超格子の場合の0.399eVと比較して、0.502eVである。より深いウェルに電子をより良好に閉じ込めると、電子がウェルを脱出することができる前により高い電場を超格子に印加することができるため、より高い利得を達成することができる。
【0061】
InGaAsSb吸収領域に関する懸念事項は、いくつかの合金濃度の場合に合金位相が分離することである。この合金位相分離は、混和性ギャップと呼ばれ、約2.3+μm~4.4μmのバンドギャップ波長を有する合金について生じる。InGaAsSb吸収領域は2.3-μm合金を用いることができ、これにより位相分離が回避される。より長いカットオフ波長における直接遷移(k空間内および実空間内)を有する吸収体を取得するために、フォトダイオード構造は、波長に応じていくつかの戦略を用いることができる。
a. 設計は、成長温度および成長速度を変更し、2.3μmよりもわずかに長いカットオフ波長を取得することができる。
b. 設計は、混和性ギャップの長波長端において格子整合合金を成長させ、4.4μm~4.9μmのカットオフ波長を取得することができる。
c. 2.3μm~4.9μmのカットオフを取得するために、設計は、混和性ギャップのいずれかの端部において合金の(タイプI)超格子からなる吸収層を用いることができる。吸収超格子は、設計が安定している2つの合金からなり、混和性ギャップ内の任意の合金を模倣する2つの合金の相対的厚みによって決定される有効バンドギャップを有することになる。
【0062】
要約すると、InGaAsSb合金は、直接ギャップ半導体の強力な吸収特性を有することになり、ほとんど5μmのカットオフに格子整合して成長させることができる。増倍超格子は、GaSbに格子整合している。この超格子は、バンドオフセットがより大きいことに起因して、より高い利得を与える可能性を有することに留意されたい。
【0063】
論考したように、複数の例示的な手法を用いて、LM-APDを、250Kを超える動作温度において2.0μmを超える波長に拡張することができる。上記で論考した第1の例示的なフォトダイオードは、本明細書に論考した他のLM-APD構造からのわずかな設計変更しか必要としない2.4-μm波長カットオフを有する。このフォトダイオードは、より長いカットオフを達成するための選択肢が限られており、これまでのところ、格子整合吸収領域について高いレベルにある暗電流を有する。上記で論考した第1の例示的なフォトダイオードは、潜在的に過剰雑音のないより高い利得を与える新たな増倍領域超格子を用いた2.3μm波長カットオフを有する。第2の例示的なフォトダイオード手法のためのカットオフ波長は、QEを犠牲にすることなく、より長い波長(4.9μm)に拡張することができる。
【0064】
本発明のLM-APDの場合、15μmまで下げたピクセルピッチを達成することもできることに留意されたい。バイアスをかけるLM-APDの感度および温度が(ガイガーモードAPDと比較して)低いことも、大きなアレイにおいて高い収率を達成するのに重要である。
【0065】
成長方法
フォトダイオードは、高密度の貫通転位、したがって非常に高い暗電流を回避するように成長させることができる。これらの成長方法は全て、基板格子パラメータを、例えばInPのパラメータから拡張InGaAs合金のパラメータに漸進的に変更する一連のバッファ層を必要とし、これは、ほとんどの貫通転位が拡張InGaAs層に入ることを防ぐ。これらのバッファ層の厚みは、合算すると5μm~10μmとなり得る。正しく成長させると、バッファ層は、拡張InGaAsを通る貫通転位の密度を大幅に低減するが、これを完全になくすことはない。
【0066】
波長拡張InGaAsを超格子利得領域と係合させる前に、設計は、超格子が吸収領域の上にあるかまたは下にあるかを考慮する必要がある。InGaAsが上である場合、拡張InGaAsにおける貫通転位も超格子を貫通し、これらは早期降伏の核生成中心となる可能性が高い。超格子が下である場合、光生成キャリアは、厚いバッファ層を横切らなくてはならず、ここに格子不整合から生じる転位の多くが集中する。詳細に依拠して、(1)これらの転位は、大きな暗電流を引き起こす生成中心となることができ、(2)光生成電子および正孔を捕捉し、消滅させ、それらの検出を防ぐことができ、または(3)光生成キャリアの1つのタイプを捕捉し、後の時点に再放出して、低速な応答時間およびメモリ効果を与えることができる。
【0067】
図11A図11Bは超格子および格子整合が、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するようにすることによって、過剰雑音をなくしたフォトダイオードを構築する実施形態の流れ図を示す。フォトダイオードを構築する方法1100を実行することができる。例示的なステップは異なる順序で行うことができ、必ずしも全てのステップを用いず、これらのステップのみに限定されない。
【0068】
ステップ1102において、超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対と、吸収領域と、半導体領域とで構築されたフォトダイオードを作成することができる。
【0069】
ステップ1104において、フォトダイオードが電流を伝導するために電気的にバイアスをかけられたときに衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積するために、i)電子またはii)正孔から1つのみの電流キャリア型が選択されることを可能にする、超格子増倍領域における第1の半導体合金および第2の半導体合金の格子整合対。第3の半導体合金が吸収領域を形成することができる。増倍領域および吸収領域は、半導体基板に対し格子整合し、代替的に、増倍領域および吸収領域は、半導体基板から開始して互いに積層する。
【0070】
ステップ1106において、増倍領域、吸収領域および半導体基板における合金は、1.0μm~4.9μmの最小波長カットオフと、所望の最小波長カットオフを有する電磁放射信号をフォトダイオードによって正確に検知することができるようなレベルにおける暗電流から結果として生じる雑音とを有するように構築されたフォトダイオードを提供するように整合している(暗電流の量を最小限にするように整合している)。フォトダイオードは、3.3μm以上の波長カットオフを有する線形モードアバランシェフォトダイオードとすることができる。これらの合金構成は、全てのより低い波長に反応する動作範囲を有することができる。
【0071】
ステップ1108において、i)基板およびii)半導体層を含むフォトダイオードは、増倍領域のInGaAsSb層と、吸収領域のInGaAsSb層との双方を成長させるのに実質的に同じ製造ステップを用いて相補型金属酸化物半導体(CMOS)過程により製造することができる。
【0072】
ステップ1110において、増倍領域における第1の半導体合金は、電子が衝突電離するように超格子が伝導帯内にセットされたInGaAsSbで構成することができ、吸収領域における第3の半導体合金はInGaAsSbで構成することができ、半導体基板はGaSbで構成される。増倍領域を構成する第1の半導体合金は、In0.09Ga0.91As0.08Sb0.92の組成を有する合金で構成することができ、吸収領域を構成する第3の半導体合金は、InGaAsSbの類似の合金であるが、増倍領域と同じ組成を有しないことに留意されたい。
【0073】
ステップ1112において、論考したように、第1の半導体合金は、AlGaAsSbの第2の半導体合金と対にされて増倍領域を構成する。第1の半導体合金および第2の半導体合金は、InGaAsSbおよびAlGaAsSbの増倍領域を構成する半導体合金の格子整合対を形成することができる。増倍領域の第2の半導体合金は、Al0.14Ga0.86As0.01Sb0.99の組成を有する合金で構成することができる。
【0074】
ステップ1114において、増倍領域を構成する半導体合金の格子整合対は、In0.17Ga0.83As0.16Sb0.84およびAl0.26Ga0.74As0.02Sb0.98とすることができる。吸収層を構成する第3の半導体はInGaAsSbであり、双方の領域がGaSb基板に格子整合している。この構造は、2.3μmの例示的なカットオフ波長を達成することができる。
【0075】
ステップ1116において、吸収領域を構成する半導体合金は、InP基板に格子整合したInGaAs-GaAsSb超格子とすることができる。増倍領域を構成する半導体合金の格子整合対は、InGaAsP-InAlAs超格子とすることができる。
【0076】
例示的なフォトダイオード構造および技法の第1の組が以下で論考される。
【0077】
システム内で、整合超格子構造体を含む複数の線形モードアバランシェフォトダイオードのアレイを使用することができる。それぞれの線形モードアバランシェフォトダイオードは、1000倍増幅以上の利得を生み出し、一方、増幅による利得 に起因して非極低温以上の温度で存在する熱雑音の3倍未満の過剰雑音指数を生み出すように構成されていることによって、光を感知し、電流を出力する。この線形モードアバランシェフォトダイオードは、線形モードアバランシェフォトダイオードの第1のキャリアに関しては衝突電離を抑制し、一方、第2のキャリアに関しては、1)衝突電離を増大させること、2)衝突電離を実質的に維持すること、および3)衝突電離をより低い程度で抑制することのうちの少なくとも1つを達成するように整合された超格子構造体を使用することによって、光の中の1つまたは複数の光子を検出する。その衝突電離が抑制される第1のキャリアは、i)電子またはii)正孔のどちらかであり、第2のキャリアはそれぞれ電子または正孔である。複数の線形モードアバランシェフォトダイオードに電力を供給するために、電源が使用される。
【0078】
図1および図5は、キャップ層、吸収層、超格子増倍領域内の整合超格子構造体、およびコレクタ層を含む線形モードAPD100、500を示す。電圧コントローラが線形モードAPD100、500に逆バイアスを印加する。線形モードAPD100、500は、1000倍増幅以上の潜在的に指数関数的な利得を生み出し、一方、増幅による利得に起因して非極低温以上の温度で存在する熱雑音の3倍未満の過剰雑音指数を生み出すように構成されていることによって、光を感知し、電流を出力する。この超格子構造体は、線形モードAPD100、500の第1のキャリアに関しては衝突電離を抑制し、一方、もう一方のキャリアに関しては衝突電離を維持するように整合されている。その衝突電離が抑制される第1のキャリアは、i)電子またはii)正孔のどちらかであり、その衝突電離を維持するもう一方のキャリアは電子または正孔である。キャリアが正孔であるときには価電子帯に超格子を形成し(図1参照)、キャリアが電子であるときには伝導帯に超格子を形成することによって(図5参照)、キャリアの衝突電離を抑制する。非極低温は、例えばマイナス50℃よりも高い温度とすることができる。
【0079】
したがって、整合超格子構造体を含む線形モードAPD100、500は、超格子増倍領域において、i)第1のキャリアが正孔であるときには価電子帯に超格子を実装することによって、およびii)第1のキャリアが電子であるときには伝導帯に超格子を実装することによって、第1のキャリアの衝突電離を抑制するように構成されている。衝突電離による利得は、バンドギャップエネルギー(Eg)よりも大きな運動エネルギー(KE)を有するもう一方のキャリアだけが、整合超格子の使用を通して開始することができ、電子または正孔のどちらかである第1のキャリアが、衝突電離のための大きな電場下で十分な運動エネルギーを蓄積することは妨げられる。
【0080】
超格子構造体と電圧コントローラの間には、超格子構造に印加される固定電場または可変電場に関する協働が存在する。整合超格子構造体を形成する、2種類以上の材料の層の周期的構造体が、衝突電離をウェル半導体またはバリア半導体の厚い層だけで持続させることになる電場を有するように、電圧コントローラによって超格子にバイアスがかけられたときに、そのそれぞれのウェルに少なくとも1つの量子状態を有するように設計される。整合超格子構造体用の周期的な一組の材料はさらに、印加バイアス下にあるときに、隣り合うウェルの量子状態の波動関数の大きな空間的重なりを有するように設計されており、この空間的重なりは、第1のウェルから第2のウェルへのホッピングによって第1のキャリアが超格子を横断し、印加バイアスによって供給されたエネルギー量であり、衝突電離して、ウェルからウェルへのホップのたびに新たな電子-正孔対を形成するのに必要な運動エネルギーよりも小さいエネルギー量を第1のキャリアが実質的に失って終わるような空間的重なりである。電圧コントローラからの1つの範囲のバイアスは、これらの目的を促進する。
【0081】
大きな空間的重なりは、特定のウェルの局在状態(localized state)にあるキャリアが、隣り合う状態の低エネルギー局在状態に急速に減衰することを促進する。この過程は、ホッピングとして知られている。このエネルギー差は、フォノンの放出として失われる。キャリアは、1つのウェルから次のウェルへとホップし、印加バイアスによって供給されたエネルギーを段ごとにフォノンとして失うことにより、超格子を横断する。
【0082】
増倍領域内の整合超格子構造体は、バンドエネルギー構造の精密な整形を可能にするために周期的な数百組のナノメートル厚さの層を有することができる整合された材料によって、一方のバンドのみにバンド不連続性(雑音のない利得)を与えることができる。増倍領域内の整合超格子構造体を形成している材料は周期的に繰り返す。
【0083】
超格子構造体を形成するために半導体の格子整合対の中から選択することができる、基板上に成長させた2種類以上の材料の層の周期的構造体を使用することにより、整合超格子構造体を含む線形モードAPD100、500は、超格子増倍領域において第1のキャリアの衝突電離だけを抑制するように整合されている。それらの格子整合対は、i)衝突電離を抑制する被抑制キャリアに対応するバンドに少なくとも大部分が含まれ、ii)最高には、衝突電離を抑制する被抑制キャリアに対応するバンドに完全に含まれるように設定されたバンドオフセットを有する。超格子構造体の1つの周期を形成する半導体の格子整合対は、第1の半導体材料と第2の半導体材料の少なくとも一対の互層からなる。超格子は、多数の周期の繰返しからなり、1周期のそれぞれの層の対応する厚さは同じである。第1の半導体の層は全て、ドーピングがなければ実質的に同じ厚さを有する。第2の半導体の層は全て、ドーピングがなければ実質的に同じ厚さを有する。しかしながら、第1の半導体の層の厚さと第2の半導体の層の厚さは異なることができる。
【0084】
低エネルギーにおいて、もう一方のバンドの抑制されていないキャリアは超格子には入らず、そのため、そのキャリアの輸送は、質的に、あたかもバルク半導体内で起こっているように進むことに留意されたい。もう一方のバンドの抑制されていないキャリアは衝突電離して、線形モードAPDに必要な利得を提供する。第1のキャリアのこれとは反対のバンドで起こる衝突電離は抑制されているため、過剰雑音は排除される。
【0085】
整合超格子を含む線形モードAPD100、500は、UV、可視および短波IR(約2500nm)光波を含む広範囲の光検出で動作することができる。
【0086】
一実施形態では、線形モードAPD100、500が、室温付近で、単一光子を高い量子効率で検出することができる。しかしながら、整合超格子を含まない以前の光検出器では、光検出器が発生させる雑音が、光子に起因する検出信号を圧倒しうる。整合超格子を含む線形モードAPD100、500は、設定された期間の経過後まで線形モードアバランシェフォトダイオードが別の光子を検出することができない不感時間(deadtime)を単一光子の検出後に生じる不利益なしで、単一光子を検出することができる。したがって、検出事象後にピクセル「不感時間」が生じない(=「リアルタイム」データ取得)。整合超格子を含む線形モードアバランシェフォトダイオードは、単一光子の信号を測定可能な電圧に増幅し、その一方で、増倍過程においてごくわずかの雑音しか追加しない電子装置の雑音等価入力電流よりも高く、光電流を増倍する。
【0087】
整合超格子を含むAPD100、500は線形増幅器として振る舞い、そのため、ガイガーモードAPDとは対照的に、整合超格子を含む線形モードAPD100、500は、ほぼ同時に到着した多数の光子を分解することができ、光子を検出した後に不感時間を生じない。APD100、500は、検出器感度の究極を達成する1光子あたり104電子の利得、低い過剰雑音および高い量子効率を有するInPベースの室温線形モードAPDを実現することができる。整合超格子を含む線形モードAPD100、500は同時に、例えば室温以上の温度で、不感時間を生じることなく、最小限の過剰雑音で、単一光子感度を達成することができる。
【0088】
次に、一般的なAPDは通常、潜在的に光電流を途方もなく大幅に増倍することができる大きな内部利得Mを有する。しかしながら、M≒_50というあまり大きくない値においても、増倍過程によって追加される、過剰雑音として知られる雑音が増幅後の信号を圧倒するため、その性能は期待に背くものであった。過剰雑音の原因は、電子開始衝突電離(electron-initiated impact ionization)と正孔開始(hole-initiated)衝突電離が同時に存在することである。それらは相まって、衝突電離過程における小さな揺らぎを拡大する正のフィードバックループを生み出す。APDを特徴づけるために使用される2つのパラメータは、電子開始衝突電離係数α_および正孔開始衝突電離係数βである。α_またはβのどちらかがゼロである(単極利得(unipolar gain)である)とき、過剰雑音指数Fは、Mの全ての値に対して≦_2であるが、両極利得(bipolar gain)に関する大きなMに関して、FはMに比例する(図3参照)。
【0089】
図3は、過剰雑音指数Fの理論値を、電子注入に関する平均利得Mおよびβ/α比の関数として示したグラフ300を示す。0.03のβ/α曲線は、室温におけるAPDの現在の最良値である。M>50に関して、Fは、Mの増大とともに増大することを、このβ/α曲線は示している。この整合超格子は、β/α_<<10-4を有することができる。
【0090】
整合超格子を含む線形モードAPDは単極利得を有し、光電子増倍管(PMT)のように振る舞うが、デバイスが占有する面積および半導体デバイスに関連したラジッドネス(ruggedness)という途方もなく大きなシステム利点を有する。検出器内の低い雑音とともに高い利得を提供することにより、単極利得APDは、線形モードで光子を計数することができ、その出力を、市販の電子増幅器に結合して、単一光子の到着を雑音よりも高いレベルで検出することができ、同時に到着した多数の光子を区別することができる波形を与えることができる。
【0091】
線形モード光子計数のための十分な低過剰雑音利得を提供することができる室温APD技術を使用しない場合の代替策は、ガイガーモードでの光子計数である。このモードにおいて、APDには、そのAPDの降伏電圧よりも高いバイアスがかけられおり、APDは、単一光子の到着によってまたは暗電流によってAPDがトリガされるまで電流が流れない準安定状態にある。トリガされると、APD電流は、容易に検出することができる値にまで急速に増大する。ガイガーモードAPDは単一光子を検出することができるが、2つの深刻な欠点を有する。(1)ガイガーモードAPDは、トリガされた後に、光に反応しない約100ナノ秒以上の不感時間を有し、(2)ガイガーモードAPDは、パルシング後に、アバランシェ中のトラップ状態によって捕捉されたキャリアの再放出を有し、これが、トリガされた後の多くのマイクロ秒の間、より高い暗計数率(dark count rate)を与える。信号光子の到着が時間的に集中するLIDARなどの用途に関して、これら欠点のうちの最初の欠点は偽陰性率を高め、2番目の欠点は偽陽性率を高める。
【0092】
次に、図1および図5は、電子輸送と正孔輸送の間に非常に大きな非対称を生み出すことによって過剰雑音が実質的に排除される、整合超格子構造体を含む線形モードAPD100、500を示す。この超格子構造体は、特別な衝突電離特性を持たない成分を使用した望ましい単極衝突電離を有し、したがって、潜在的に、APD100、500に対して使用することができ、広範囲の波長を検出するために集合的に使用される材料システムにまたがる、一組の材料を有する。利得領域は、2種類以上の格子整合半導体合金からなる。これらの整合した2種類以上の格子整合半導体合金は、それらのバンドオフセット全体が価電子帯だけまたは伝導帯だけに含まれるという特性を有する。価電子帯だけまたは伝導帯だけに含まれるバンドオフセットに関しては、図1および図5を参照されたい。
【0093】
図2aは、距離とともに運動エネルギーを蓄積する、バイアス下のバルク半導体の価電子帯の正孔のグラフの実施形態を示す。図2bは、バイアスがかけられた超格子内のウェルを通した価電子帯ホッピングにおける正孔のグラフ、およびワニエ-シュタルクラダー内の状態のエネルギーレベルの実施形態を示す。図1図2aおよび図2bは、超格子が価電子帯だけにある電子増倍による利得を示す。同様に、図5図6a、図6bおよび図7は、超格子が価電子帯の代わりに伝導帯だけにある正孔増倍による利得を示す。
【0094】
APDにおける衝突電離
図4は、エネルギーが垂直方向にプロットされ、距離が水平方向にプロットされた半導体のバンドグラフ400、および衝突電離して新たな電子-正孔対を形成するのに必要な運動エネルギー量を示す。自由電子は伝導帯に存在し、自由正孔は価電子帯に存在する。伝導帯と価電子帯は、電子状態または正孔状態が存在することができない幅Egのバンドギャップによって分離されている。印加電場があることにより、バンドは、図4に示されているように、場の大きさに比例して傾いている。左上の電子は、印加電場によって加速されたときに右へ移動する。電子の瞬時位置と伝導帯との間の垂直距離が、電子の瞬時運動エネルギーである。電子の運動エネルギーがバンドギャップエネルギーよりも大きくなると、電子は、衝突電離によって電子-正孔対を生成するのに十分なエネルギーを有する。電子が衝突電離すると、大部分の運動エネルギーは電子-正孔対の生成に使用され、その結果、ごくわずかな運動エネルギーしか持たない2つの電子および1つの正孔ができる。電子開始衝突電離は、1センチメートルあたりの電子開始衝突電離の平均数である係数αによって特徴づけられる(図1参照)。
【0095】
正孔が加速して電子-正孔対を生成する価電子帯でも、同様の一連の事象が起こりうる。この場合には、正孔開始衝突電離の後に、2つの正孔および1つの電子ができる(図5参照)。この過程は、正孔開始衝突電離係数βによって特徴づけられる。
【0096】
図1は、超格子増倍領域に置かれたこれらの2つのバンドのグラフを示す。電場によって電子と正孔の両方が加速され、そのため、電子と正孔の両方が、衝突電離による新たな電子-正孔対の生成を開始する。一般的なケースは次のセクションで論じるが、β=0であるケースは容易に理解することできる。単一の電子が衝突電離し、その結果として2つの電子および1つの正孔ができる。これらの2つの電子はそれぞれ加速し、衝突電離後に4つの電子を残す。これらの4つの電子は8つ、16個、32個、...と増え、そのため、電子の数は、距離zとともにeαzとして指数関数的に増加する。電子が生み出されるたびに正孔も生み出されるため、正孔の数も指数関数的に増加する。β=0のときにはこれらの正孔が衝突電離しないため、これらの正孔は電子の数を増やさない。そのため、β=0のとき、半導体は、指数関数的利得eαzを提供し、唯一の雑音は、衝突電離するまでに電子が移動する距離の変動に起因する。同様に、α=0は、指数関数的利得eβzを与える。
【0097】
APDにおける過剰雑音
以前の一部の技法では、大部分の半導体に関してαとβの値が非常に似ており、そのため、指数関数的利得の単純なケースが当てはまらない。光生成電子が、z=0で、吸収層から、バイアスがかけられた半導体層に注入され、z=zで最初の衝突電離を開始する場合を考える。
【0098】
この衝突電離によって第2の電子および正孔が生成される。電子とは反対の電荷を有する正孔は、電子とは反対方向にドリフトし、最初に半導体層の端部に到達しない場合には、衝突電離して、z=0とz=zの間のz=zにおいて新たな電子-正孔対を生成する。結晶欠陥またはフォノンによって正孔がいつ、どこで散乱するのかに関するランダム性のため、衝突電離するまでに正孔がどれくらいドリフトするかについては、あるランダムな変動が存在する。層の端部に到達する直前に正孔が衝突電離するか否かを判定することによって、この変動は、端部の近くで大きな差となりうる。z=zで新たに生成された電子はz=zに向かってドリフトし、おそらくは途中で衝突電離して、より多くの電子-正孔対を生成する。最初の衝突電離により出現した2つの電子が続いて生成する電子-正孔対を考えないとしても、z=zで衝突電離した単一の初期光電子が、z=zを通過する後続の電子を生成することは明らかなはずである。しかしながら、z=zを通過する第2の電子が、上記の衝突電離シーケンスによって生成された初期光電子の副生物であるのか、または層に注入された第2の光電子であるのかを区別することは不可能である。この第1の状況の信号は、初期電子のみの注入に起因し、第2の状況の信号は、わずかに異なる時刻の2つの電子の注入に起因する。衝突電離は、これらの可能な入力間の差を不明瞭にするため、この過程は信号に雑音を追加する。この雑音は過剰雑音として知られている。APDの過剰雑音についてはよく研究されている。
【0099】
図3は、過剰雑音指数Fを、利得領域への電子注入に関するβ/αおよび平均APD利得Mの関数として示す。β/α=0の曲線は、全てのMについて最も小さいFを与え、これは、上で説明したβ=0のケースである。Fが、この理想的なケース対して予想される値1ではなく値2を有するという結果は、この計算においてなされた、衝突電離がポアソン過程であるとする仮定に基づく。β/αが大きくなるにつれて、過剰雑音指数は、Mが小さいうちはF=2を維持するが、Mが大きくなると増大する。これらの曲線のより緻密な観察は、F=3で利得Mを達成するためには、α/β≒Mである必要があるという規則を与える。ある条件下で単一光子をほとんど過剰雑音なしで検出するのに十分な利得10を達成するためには、β/α=10-4の半導体が必要となる。今までのところ、αとβの差がこのように大きな単一成分半導体は知られておらず、そのため、この差を達成するため、および第1のキャリアタイプ(電子または正孔)に対してだけ開始される利得を達成するためには、合金を含む工学的に設計された材料が必要となる。
【0100】
図3では、α/βまたはβ/αが非常に小さくない限り、Fが大きくなるにつれて、Mも大きくなる。現在の設計は、α/βまたはβ/αをどのようにして非常に小さくし、したがって、大きなMに対してどのようにしてFを小さくするかにある。
【0101】
α≠0とβ≠0を同時に有することの別の結末はアバランシェ降伏である。降伏は、有限の電圧および有限サイズの増倍領域に対して、電子または正孔の数が任意に大きくなったときに起こる。α=0またはβ=0に関して以前に論じたとおり、電子および正孔の数は、zとともに指数関数的に増加する。有限の電圧(このことはαおよびβが有限であり続けることを含意する)および有限のサイズ(このことはzが有限であり続けることを含意する)に対して、この数は、急速に増えはするが、有限であり続ける。
【0102】
しかしながら、α≠0かつβ≠0であるとき、状況は変化する。z=0で増倍領域に単一電子が注入され、z=zで衝突電離を開始すると仮定する。この衝突電離で生成された正孔は-z方向にドリフトし、z=0の増倍領域の端部に到達する前に衝突電離しうる。これが起こると、正孔は、0とzの間のzで電子を生み出す。まさにこの状況が、後に繰り返される初期状況である。降伏のしきい値において、このようなループは自続性(self-sustaining)となり、その結果、注入された単一電子は、無限の数の後続の電子を生み出す。それぞれのキャリアによって初期化された最初の衝突電離だけを考えるこの単純化された状況では、時間とともに、キャリアの蓄積が指数関数的に起こる。全ての衝突電離を考えるより現実的な状況は、時間の経過に伴うはるかに速い増加を与えることになる。
【0103】
論じたとおり、線形モードアバランシェフォトダイオードは、1000倍(10)増幅以上の利得を生み出し、一方、増幅による利得に起因して非極低温以上の温度で存在する(β/α≦0.1)熱雑音の3倍未満の過剰雑音を生み出すように構成されていることによって、光子を感知し、電流を出力する。(図3の右下の部分の陰影が付けられた動作エリアを参照されたい。)一実施形態では、使用可能な最小の利得が、200倍増幅以上であり、一方、存在する熱雑音の3倍未満の過剰雑音を発生させるものであることがある。
【0104】
一実施形態では、i)伝導帯のみ、またはii)価電子帯のみで増幅が起こるような態様の整合超格子構造体を含む線形モードアバランシェフォトダイオードが、10,000倍(10)増幅以上の利得を生み出し、一方、増幅による利得に起因して室温以上の温度で存在する熱雑音の3倍未満の過剰雑音を発生させるように構成されている。(β/α≦0.1)10,000倍増幅の利得を有する整合超格子構造体を含む線形モードアバランシェフォトダイオードは、設定された期間の経過後まで線形モードアバランシェフォトダイオードが別の光子を検出することができない不感時間を単一光子の検出後に生じる不利益なしで、単一光子を検出することができる。(したがって、検出事象後にピクセル「不感時間」が生じない(=「リアルタイム」データ取得」)。不感時間がある場合、APDによって捕捉される波形は、それぞれの光子の検出後に、後続の光子を検出することができない時間的間隔を有する。
【0105】
図2aおよび図2bは、バイアスがかけられたバルク半導体内とバイアスがかけられた超格子内の正孔輸送の比較を示す。図2aのグラフ200を参照すると、バルク半導体内では、電場が正孔を、広がった状態(extended state)で左方へ加速する。正孔が加速されると、正孔の運動エネルギーは増大し、ついには、衝突電離するのに十分なエネルギーを有する。図2bのグラフ250を参照すると、バイアスがかけられた超格子内で許される状態は、大部分は1つのウェル内にあるが、左方へ数ウェル分延びるワニエ-シュタルク状態である。ウェルAの基底状態は、ウェルBの最初の励起状態でもある。この広がった状態の正孔は、フォノンまたは光子を放出することによって緩和してウェルBの基底状態に移ることができる。このようにして、正孔は、左方へ輸送されることができ、その一方で、局所基底状態に留まり、衝突電離するのに十分なエネルギーを持つことはない。
【0106】
図1図2b、図5図6bおよび図7に示されているように、超格子、例えば整合した2種類の合金からなる超格子は、一方のバンドにウェルおよびバリアを有するが、もう一方のバンドには持たず、そのため、これらの2つのバンド内でのキャリア輸送は非常に異なる。オフセットを有するバンド内の輸送は、1つのウェルに局在する状態から隣り合うウェルに局在する状態へのホッピング(フォノン支援トンネリングとしても知られている)による。印加電場によってキャリアに付与されたエネルギーは、フォノンまたは中波もしくは長波赤外光子を経て放散し、そのため、キャリアは、衝突電離するのに十分な運動エネルギーを蓄積しない。したがって、超格子はβ=0を有する。
【0107】
オフセットのないバンド内のキャリアは、ホッピングに必要な局在状態を持たない。そのため、バイアス下にある通常の半導体の場合と同様に、キャリアは、電場の中をドリフトしたときにキャリアが運動エネルギーを蓄積する広がった状態にあり、キャリアは、その運動エネルギーがバンドギャップエネルギーよりも大きくなったときに衝突電離する(図1、4および5参照)。整合線形モードAPD構造体は、衝突電離する電子の能力と衝突電離する正孔の能力の間の大きな非対称を有し、高い利得(>10)および室温における低い過剰雑音(F<2)を有するAPD100、500を与えることができる。
【0108】
上記の議論から、過剰雑音のない指数関数的利得は、α=0またはβ=0のときに生じうる。これを達成するため、バンドギャップエネルギーよりも大きな運動エネルギーを有するキャリアだけが衝突電離を開始することができることに留意されたい。整合超格子構造体は、電子または正孔のどちらかが、衝突電離するための運動エネルギーを反対極性のキャリアが蓄積しうる十分に大きな電場下で十分な運動エネルギーを蓄積することを妨げる。したがって、衝突電離による利得は、電子または正孔のどちらかが、衝突電離するために必要な運動エネルギーを反対極性のキャリアが蓄積しうる十分に大きな電場下で十分な運動エネルギーを蓄積することが、超格子構造体によって妨げられる整合超格子の使用を通して、バンドギャップエネルギーよりも大きな運動エネルギーを有するキャリアだけが開始することができる。
【0109】
整合線形モードAPD100、500は、第1のキャリアに関しては衝突電離を抑制し、一方、もう一方のキャリアに関しては衝突電離を維持することによって、過剰雑音を排除する。大きなα/βまたは小さなα/βを有する線形モードAPDを製作する試みは、第1のキャリアに関しては衝突電離を強化し、一方、もう一方のキャリアに関しては衝突電離を維持することに基づく。第1のキャリアの衝突電離係数(impact ionization rate)の所与の小さな変化に関して、抑制のためにそれを使用すると、α/βはより大きく変化する。例えば、キャリアの衝突電離係数を50%高くするとα/βが3/2倍になり、それに対して、衝突電離係数を50%低くするとβ/αが2倍になる。
【0110】
図2aおよび図2bにおける正孔の議論と同様に、図6aは、電場によって加速され、運動エネルギーを蓄積する、電場が印加されたバルク半導体内の電子のグラフ600の実施形態を示す。図6bは、局在ワニエ-シュタルク状態を制御することによって衝突電離を抑制する整合超格子のグラフ650の実施形態を示す。超格子は、2種類以上の材料の層の周期的構造体であることができる。通常、材料層の厚さはナノメートルで示されうる。適切なバンドオフセットおよび層厚により、電気バイアス下の超格子は、単一のウェルに大部分が局在するワニエ-シュタルク状態を形成する。これらの状態のエネルギーレベルは、破線およびそれらの波動関数によって示されており、波動関数は、陰影によって塗りつぶされた曲線によって示されている。バリアエネルギーよりも高いエネルギーのところには、場の中で電子が加速することができる広がった状態の連続体(continuum)が存在する。電子がこの連続体を占めることを防ぐことが肝要である。超格子の設計が適正であれば、ワニエ-シュタルク状態と連続体は、エネルギーの大きなkTによって分離されている。したがって、ワニエ-シュタルク状態にある電子が熱励起されて、それらの電子が電場によって加速されうるこの連続体に入る可能性は低い。
【0111】
ウェル0内のワニエ-シュタルク状態にある電子に関しては、ウェル1内の状態が低エネルギーであり、したがってより好都合であることに留意されたい。この電子は、フォノンまたは光子を放出してエネルギーを保存することにより、ウェル0からウェル1へ遷移することができる。この過程はホッピングとして知られている。ホッピングの確率は、ウェル0の波動関数とウェル1の波動関数の重なりに比例する。より薄いウェルおよびバリア、ならびにバリアの伝導帯レベルとウェルの伝導帯レベルの間のより小さな差は、より大きな重なりにつながるが、これらは、局在状態を、排除しようとしている広がった状態に戻しうる。ウェル0の状態からウェル1の状態への電子ホッピングは、2つの有用な機能を達成する。ウェル0の状態からウェル1の状態への電子ホッピングは、電子を、z方向に1超格子周期「a」だけ移動させ、電子からエネルギーqEaを除去する。ここでqは電子電荷、Eは印加電場である。このエネルギーはまさに、バルク半導体内の距離「a」にわたって電場が電荷qに付与する運動エネルギーである。超格子内の電子は、その運動エネルギーを変化させることなく、場の中で距離aだけ移動したことになる。ウェル1に入った後、電子は、衝突電離するのに必要な運動エネルギーを獲得することなく、ウェル2へ、次いでウェル3へ、...とホップすることができる。
【0112】
ウェル層およびバリア層の厚さは、以下の設計目標によって決定される:所望のキャリア増倍を与えるのに必要な印加電場においてワニエ-シュタルク状態が形成され、そのワニエ-シュタルク状態のエネルギーレベルは、ウェル内において、キャリアが熱励起されず、連続体に入らない十分に低いものであり、隣り合うウェル内の状態は大きな重なりを有し、そのため、ホッピングが高速となりうる。
【0113】
上記の議論は、伝導帯の超格子によって電子開始衝突電離を抑制する。したがって、同様に、価電子帯の超格子によって正孔開始衝突電離を抑制することもできる(図2bおよび図1を参照されたい)。しかしながら、超格子によって一方のバンドの衝突電離を抑制することは、APDにおける過剰雑音を排除する解決策の半分であることに留意されたい。ウェル用に1つ、バリア用に1つの2つの半導体を特段の検討なしに選択すると、価電子帯と伝導帯の両方に超格子が生じる可能性が非常に高い。衝突電離は、設計によって一方のバンドで抑制されるが、もう一方のバンドの衝突電離が抑制されること、または少なくとも低減されることもある。そのため、衝突電離を抑制するバンドにバンドオフセットが完全に含まれる一対の半導体を選択することが有利であろう。
【0114】
もう一方のバンドはオフセットを持たず、概ねバルク半導体のように振る舞うことになる。しかしながら、2つの大きな違いがある。第1に、2種類の材料の衝突電離係数がおそらく異なる。その有効衝突電離係数は、個々のバルク半導体の係数と係数の間の値をとることになる。第2に、キャリアの実効質量(effective mass)がおそらく異なる。実効質量超格子は、逆格子空間(reciprocal space)のΓ点の近くのキャリアに対するウェルおよびバリアを持たないことになる。
【0115】
半導体対のバンドオフセットが抑制されたバンドに完全に含まれる超格子内の抑制されていない方のバンドは、これらの2つの層に関して異なる実効質量を依然として有する。したがって、それは、(逆格子空間内のガンマ点の近くの)運動エネルギーをほとんど持たないキャリアに対するウェルはないが、キャリアが運動エネルギーを獲得するにつれて徐々にウェルが形成される実効質量超格子を形成する。超格子を形成する材料の詳細に応じて、伝導帯ウェルは、価電子帯ウェルと同じ層にあることがあり(I型アライメント)、またはそれとは反対の層にあることもある(II型アライメント)。APDに関する最悪のケースでは、実効質量超格子の出現が、抑制されていない方のバンドのキャリアを抑制し始めうる。ある中間運動エネルギーを有するキャリアに対する実効質量超格子が消失するようにバンドオフセットを選択することによって、この効果を改善することができる。
【0116】
次に、繰返しになるが、図1は、超格子増倍領域に置かれたこれらの2つのバンドのグラフを示す。超格子は、Ev価電子帯に完全に含まれる(したがって電子は増倍するが、正孔は増倍しない)ように設定されている。したがって、Ec伝導帯は本質的に、下方へ傾斜した直線である。図1は、逆バイアス下の提案のAPD100のエピタキシャル構造およびエネルギーバンド図を示す。p--InGaAs吸収層で光子(赤い波形矢印)が吸収され、吸収層は、電子(黒丸)-正孔(白丸)対を生成する。正孔はp-InPキャップ層に拡散し、電子は増倍に拡散する。電子は、電場によって加速され、ついには、十分な運動エネルギーを蓄積して2次電子-正孔対を衝突電離する。次いで、それぞれの電子は加速し、ついには、別の電子-正孔対を生成する。衝突電離によって生成された正孔は、価電子帯超格子を通してホップするときに運動エネルギーを失うため、衝突電離することができない。したがって、α_とβ_の非常に大きな非対称が生み出される。
【0117】
片側バンドアライメントは普通ではないように見えることがあるため、III-V(IIIおよびVはそれぞれ周期表のNIB列およびVB列を指す)半導体基板InPまたはGaSbのどちらかと格子整合したいくつかの対が存在する。有望な対は、InPおよびIn0.53Al0.30Ga0.17Asであり、これらの合金の成長はともにルーチン的に実施されている。この合金は、III族成分に関してはIn53%、Al30%、Ga17%からなり、V族成分に関しては全体がAsからなる。図1は、正孔の同時増倍なしで衝突電離によって電子を増倍するためのInP-InAlGaAs増倍層の周囲に構築されたAPD100を示す。InGaAs吸収層において高い量子効率で光生成された電子が増倍層に注入される。これらの電子は、増倍領域を横断するときに衝突電離する。2次電子も衝突電離しうるが、2次正孔は衝突電離することができない。これは、2次正孔が、1つの量子ウェルから次のウェルにホップするときに運動エネルギーを失うためである。正孔の同時増倍のない衝突電離による電子増倍の結果、最初のそれぞれの光電子は、小さな過剰雑音で指数関数的に増加する。
【0118】
価電子帯または伝導帯のどちらかにバンドオフセットが完全に含まれる整合した半導体対を見つける困難な系統的探索が実施された。現状技術の性能を有するデバイス内の全ての半導体層が、基板のタイプおよび寸法と同じタイプおよび同じ寸法を有する結晶構造を有する必要があることが、この半導体デバイスに対する制約となりうる。この制約は、格子整合として知られている。格子整合していないと、層間の界面に由来する結晶欠陥が性能を低下させる。そのため、適切な対の探索は、関心のそれぞれの基板に関して別々に実行する必要があった。近赤外および短波赤外(波長約0.8~3μm)の線形モードAPDに関して、最も興味深い基板はInPおよびGaSbである。
【0119】
これらの2つの基板InPおよびGaSbに関して、本発明の発明者は、現在のエピタキシャル成長技術によって成長させることができるであろう全ての格子整合合金について、伝導帯エネルギーおよび価電子帯エネルギーを推定した。等しい伝導帯エネルギーまたは等しい価電子帯エネルギーのどちらかを有する対に関して、本発明の発明者は、5種類以上の元素からなる合金を含む対、間接バンドギャップを有する合金を含む対、および相分離することが知られている合金を含む対を除外する傾向を持つ。5種類以上の元素からなる合金を含む対を除外するのは、化学量論組成を制御することが難しいと考えられるためである。
【0120】
この探索は、xの範囲にわたって合金の組成を特徴づけるパラメータxに依存する合金A(x)が、第2の合金A(x)とxの範囲にわたって同じ伝導帯エネルギーまたは価電子帯エネルギーを有するケースを与えた。この等しい伝導帯または価電子帯の条件は、xの範囲と同期したxの範囲にわたって満たされることを本発明の発明者は見出した。このような範囲内では、その範囲の終点が最も興味深い。そこでは、等しくない方のバンドのバンドオフセットが最大化されるためである。
【0121】
特定の合金対を以下に示す。1つの範囲にわたって伝導帯エネルギーまたは価電子帯エネルギーが同じとなりうるケースでは、その範囲に関して等しくない方のバンドに対して最も大きなバンドオフセットを有する対を示す。
【0122】
本発明の発明者は、適切な特性を有するという点と対のエピタキシャル成長を実行するのに実際的であるという点の両方で、線形モードAPD設計に対して有用な半導体対を見つけた。
【0123】
InP基板
超格子構造体は、超格子増倍領域に半導体の格子整合対を有し、格子整合対は、InP基板に対しても整合されており、格子整合対は、
【0124】
超格子が価電子帯に設定されており、正孔が第1のキャリアである、InPの第1の半導体合金およびIn0.53Al0.30Ga0.17Asの第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、
【0125】
超格子が価電子帯に設定されており、正孔が第1のキャリアである、InPの第1の半導体合金およびIn0.19Ga0.81As0.69Sb0.31の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、
【0126】
超格子が価電子帯に設定されており、正孔が第1のキャリアである、InPの第1の半導体合金およびGaAs0.12Sb0.610.27の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、
【0127】
超格子が価電子帯に設定されており、正孔が第1のキャリアである、In0.81Ga0.19As0.420.58の第1の半導体合金およびIn0.37Ga0.63As0.85Sb0.15の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、
【0128】
超格子が価電子帯に設定されており、正孔が第1のキャリアである、In0.94Ga0.07As0.120.88の第1の半導体合金およびGaSb0.650.35の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、または
【0129】
超格子が伝導帯に設定されており、電子が第1のキャリアである、In0.52Al0.48Asの第1の半導体合金およびIn0.79Ga0.21As0.460.54の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体
からなるグループから選択される。
【0130】
GaSb基板
超格子構造体は、超格子増倍領域に半導体の格子整合対を有し、格子整合対は、GaSb基板に対しても整合されており、格子整合対は、
【0131】
超格子が価電子帯に設定されており、正孔が第1のキャリアである、GaSbの第1の半導体合金およびIn0.57Al0.43As0.55Sb0.45の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、
【0132】
超格子が伝導帯に設定されており、電子が第1のキャリアである、Al0.14Ga0.86As0.01Sb0.99の第1の半導体合金およびIn0.09Ga0.91As0.08Sb0.92の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、
【0133】
超格子が伝導帯に設定されており、電子が第1のキャリアである、Al0.44Ga0.56As0.04Sb0.96の第1の半導体合金およびIn0.28Ga0.72As0.26Sb0.74の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体、または
【0134】
超格子が伝導帯に設定されており、電子が第1のキャリアである、In0.40Al0.60As0.42Sb0.58の第1の半導体合金およびIn0.79Ga0.21As0.72Sb0.28の第2の半導体合金を含む、超格子構造体内の2種類の半導体
からなるグループから選択される。
【0135】
これらの合金の特性は、さまざまな不確実性を用いて多くの研究機関によってなされた測定に基づくため、これらの組成はおおよそである。
【0136】
界面における2種類の合金の意図しない混合のために、これらの合金が成長することが難しいことがあることを認識して、本発明の発明者は、デバイスの物理的原理に不利な影響を与えることなく構造体に対する制約を緩和することになる方法を考える。
【0137】
本発明の発明者が使用する原則は、一方のバンドのオフセットを完全に排除する必要はないということである。オフセットは、設計層厚に関して、そのバンドの連続体から離れたkBTよりも低い閉じ込められた状態が存在しない十分に小さいものであればよい。kBは、ボルツマン定数、Tは、意図された動作温度である。価電子帯の場合、重い正孔の閉じ込められた状態を排除すれば軽い正孔の閉じ込められた状態も自動的に排除されるため、重い正孔の状態だけを考えれば十分である。
【0138】
1.ウェルとバリアの間にスペーサ層を含むこと
明確にするため、本発明の発明者は、一例として、In0.52Al0.48AsバリアおよびIn0.79Ga0.21As0.460.54ウェルからなる例示的な合金層を検討した。粗い表面形態および低いホトルミネセンスは、InGaAsP-InAlAs超格子の界面におけるAlPの意図しない形成の結果であることがある。ウェル層とバリア層の間に挿入された、ウェル層の54%よりも少ないPを含むInGaAs(P)の格子整合スペーサ層は、Al含有層を、ウェルよりもP含量が低いP含有層と隣り合わせにすることにより、AlP形成を低減させることになる。スペーサの価電子帯オフセットが十分に小さく、スペーサが十分に薄い場合、このスペーサは、価電子帯に対する効果をほとんど持たない。任意の閉じ込められた正孔。InPと格子整合したIn0.53Ga0.47Asスペーサが、AlP形成を防ぐための最良のスペーサであることは明白であるが、価電子帯ウェルの形成に関しては最悪である。
【0139】
成長は、超格子に対する方向を規定するため、InAlAsバリア層の成長の直後にスペーサを置くことと、InGaAsPウェル層の直後にスペーサを置くこととは等価ではない。3.5nmのInGaAsPウェルと1.5nmのInAlAsバリアのベースライン超格子から出発して、本発明の発明者は、変更された以下の3つの超格子周期をモデル化した(最後に記載された層を最初に成長させる)(a)InGaAs(P)-InGaAsP-InAlAs、(b)InGaAsP-InGaAs(P)-InAlAs、および(c)InGaAs(P)-InGaAsP-InGaAs(P)-InAlAs。InAlAsバリア層の厚さは、最初の1.5nmのまま一定とし、残りの層の厚さの和は、ウェルの最初の厚さ3.5nmとなるようにした。ケース(a)および(b)についてはスペーサの厚さが1.5nmであり、ケース(c)については、それぞれのスペーサの厚さが0.5nmである。InGaAs(P)スペーサ層は、P含量0%、13%、27%または40%についてモデル化し、層の残りの成分は、InPとの格子整合を維持するように調整した。このモデル化は、正孔の量子閉じ込めを防ぐためには、スペーサ層が、ケース(a)に関しては少なくとも13%、ケース(b)に関しては少なくとも27%、ケース(c)に関しては少なくとも40%のPを含む必要があることを示した。40%を超えるPを含むスペーサ層がAlPの形成を防ぐ効果、および0.5nmの層を成長させることができるかどうかは疑わしく、そのため、ケース(a)および(b)が、界面における混合を低減させるための有望な候補となることになる。この例に関しては、界面の半分がスペーサを有するだけであるため、混合がInGaAsP上のInAlAsの界面またはInAlAs上のInGaAsPの界面とで主に起こる場合に、それは最もよく機能することになる。
【0140】
2.全てがヒ化物の超格子構造体
1つの層から次の層へ移る際に変更しなければならない原子分率が多いほど、超格子の成長は難しい。ウェルとバリアの両方が純粋なリン化物、純粋なヒ化物または純粋なアンチモン化物である超格子は、上に挙げた10個のどの超格子よりも容易に成長することになる。
【0141】
その例として、本発明の発明者は、ウェルが、一方のバンドには局在量子状態を持つが、もう一方のバンドには持たない緩和された特性を有する、全てがヒ化物の格子整合超格子を成長させる可能性を検討する。InGaAlAsウェルとInAlAsバリアは有望とは思われなかった。これは、成長させるのに実際的な層厚に対して電子と重い正孔の両方が閉じ込められたためである。しかし、結合されたウェルを周期ごとに有する超格子は、電子と重い正孔の閉じ込めを分離するための手段であるように見えた。電場は、電子を、例えば右の結合されたウェルにプッシュし、一方、重い正孔を、左の結合されたウェルにプッシュする。結合されたウェルにより、右ウェルパラメータは、電子に対してより大きな効果を有し、左ウェルパラメータは、重い正孔に対してより大きな効果を有することになる。1.5nm Q-1.5nm InAlAs-3.0nm Q-1.5nm InAlAsからなる周期を有する超格子は、閉じ込められた電子状態を有し、良好なウェル-ウェル波動関数重なりを有し、重い正孔の閉じ込められた状態を持たない。ここで、Q=In0.53Ga0.23Al0.24AsおよびInAlAs=In0.52Al48Asである。
【0142】
電子または正孔が抑制される超格子は、上に挙げた対の中から選択された合金「A」と合金「B」の互層からなる。全ての「A」層は同じ厚さを有し、全ての「B」層も同じ厚さを有し、「B」層の厚さは、「A」層の厚さと同じであっても、またはそうでなくてもよい。
【0143】
図1の代替設計として、図5図6bおよび図7は、電子増倍は抑制されるが、正孔増倍は抑制されない整合超格子設計を有する線形モードAPD500を示す。電子は、増倍を開始するのに十分な運動エネルギーを蓄積することができない。正孔だけが利得を開始することができ、潜在的な指数関数的増倍を引き起こすことができる。APDの過剰雑音は、電子と正孔の同時増倍に起因する。しかしながら、電子と正孔のどちらかの増倍を抑制することは、雑音を最小化し、その一方で利得を提供する。この整合超格子は、30~50℃の室温などの非極低温において、およびこの範囲より高い温度でさえも、キャリアの増倍を達成する。この超格子は、衝突電離をウェル半導体またはバリア半導体の厚い層だけで持続させることになる電場を有するように超格子にバイアスがかけられたときに、そのそれぞれのウェルに少なくとも1つの量子状態を有するように設計されている。価電子帯超格子の場合、少なくとも、軽い正孔に対する1つの量子状態および重い正孔に対する1つの量子状態が存在するはずである。
【0144】
次に、第1のキャリアの衝突電離だけを抑制するため、この設計は、それらのバンドオフセットの大部分が、被抑制キャリアに対応するバンド内にある半導体の対を選択することができる。超格子対のバンドオフセットが、完全に被抑制キャリアに対応するバンド内にある必要はない。オフセットが、超格子のウェルおよびバリアの厚さにおいて量子状態をサポートするのには十分ではない限りにおいて、反対のバンドには、十分なオフセットが存在することができる。このことは、超格子組成に許容範囲を与える。
【0145】
図5をグラフとして見ると、超格子が、EC伝導帯に完全に含まれる(したがって正孔は増倍するが、電子は増倍しない)ように設定されているとき、Ev価電子帯は本質的に、下方へ傾斜した直線となる。しかしながら、一方のバンド内、例えば伝導帯内に材料の大部分を置くように、しかしながら潜在的にそのバンド内に材料が完全に置かれることがないように、材料の係数を整合させることができる。視覚的に、それは、もう一方のバンド、すなわち価電子帯が、実線の直線とはならず、ウェルを形成するには深さが十分ではない小さなごくわずかなパルスを時に有する大体まっすぐな線となることを意味することになる。したがって、超格子対のバンドオフセットが、被抑制キャリアに対応するバンドに大部分が含まれるように設定されているときに、もう一方のキャリアのバンドは、超格子のi)ウェル層、ii)バリア層、またはiii)ウェル層もしくはバリア層のどちらかの厚さにおいて量子状態をサポートするのには十分ではない限りにおいて、十分なオフセットを有することができる。
【0146】
整合超格子構造体を含む室温線形モードAPDの追加の利点
提案のAPDは、その出力が市販の電子増幅器に結合されたときに光電流波形を単一光子感度で捕捉することを可能にする十分な利得を有する低雑音の光電流増幅器として動作することができる。このデバイスは、波長の大きなバンドにわたって単一光子を高い量子効率で検出することにより、室温において究極の検出器感度を達成することになる。
【0147】
提案のデバイスは、単一光子を検出するのにガイガーモード動作を必要としない。このことの結果を示すため、SRIの線形モードAPDのアレイは、レーザの単一ショットから完全な3次元点群(point cloud)LIDAR像を得ることができる(図8および図9を参照されたい)。対照的に、ガイガーモードAPDのアレイは、N個のそれぞれのレンジビン(range bin)に対してレーザショットを必要とし、このことが、取得時間およびレーザエネルギーをN倍に増大させる。
【0148】
電子開始または正孔開始衝突電離を抑制するためのさまざまな実施態様
する必要がある選択は、電子開始衝突電離を抑制したいのかまたは正孔開始衝突電離を抑制したいのかの選択である。例えば、伝導帯のみの超格子および/または価電子帯のみの超格子。この選択に影響を与える主な因子は、衝突電離が、ワニエ-シュタルク状態ではなく連続体状態の被抑制キャリアを発生させる可能性である。この可能性を推定するため、本発明の発明者は、バルクInP内の衝突電離の運動学(kinemetics)を検討した。電子開始衝突電離に関して実効質量近似下で、以下の反応に対するエネルギー保存方程式および2次元運動量保存方程式を解いた。
e→e+e+H (I)
e→e+e+h (II)
【0149】
上式で、eは電子、Hは重い正孔、hは軽い正孔であり、初期電子は運動エネルギーEを有する。反応が許されるEのしきい値を計算した。重い正孔を生成する反応Iは、1.50eVのしきいエネルギーを有し、軽い正孔を生成する反応IIは、1.99eVのしきいエネルギーを有する。しきいエネルギーの最小値はInPのバンドギャップエネルギー(1.34eV)であり、しきいエネルギーは、最終的なそれぞれの粒子に最終的な運動量を与えるのに必要な量だけ高くなっており、そのため、エネルギーおよび運動量は保存される。初期電子エネルギーが増大して1.50eVのしきい値よりも大きくなると、最終状態の密度が高まるにつれて、電子が衝突電離することができる率が高まる。電子エネルギーが反応IIのしきい値に達する可能性は低い。運動学によれば、反応Iでは、しきいエネルギーの近くで衝突電離が起こったときに、重い正孔が、価電子帯端よりも0.10eV低いエネルギーを有する。これは、重い正孔を、電子開始衝突電離に使用するInP-InGaAlAs対のウェル(深さ0.23eV)に入れる。
【0150】
正孔開始衝突電離に関しては以下の反応を考える。
h→h+e+H (III)
h→h+e+h (IV)
H→H+e+H (V)
H→H+e+h (VI)
【0151】
しきい値は、反応IIIに関しては1.52eV、反応IVに関しては2.06eVである。本発明の発明者は、軽い正孔が重い正孔を生成すると予想する。しきい値の近くで衝突電離が起こったとき、電子は、伝導帯端よりも0.03eV高いエネルギーを有することになる。重い正孔開始衝突電離では、しきい値が、反応Vに関して2.63eV、反応VIに関して6.07eVである。しきい値の近くで衝突電離が起こったとき、電子は、伝導帯端よりも0.04eV高いエネルギーを有することになる。両方のケースで、電子は、正孔開始衝突電離に使用するInAlAs-InGaAsP対のウェル(深さ0.40eV)の底に近づくことになる。
【0152】
正孔開始衝突電離構造体は、超格子の連続体状態への不必要なキャリア注入を防ぐ目的にははるかに優れているが、電子開始構造体が適当である可能性もある。
【0153】
この解析は、これらの2つの構造体を比較する際に考慮する必要がある別の因子があることを指摘している。正孔が衝突電離を開始しているときは、重い正孔を生成するためのしきい値の方が低い。APDの価電子帯は重い正孔で満たされることになる。重い正孔開始衝突電離の2.63eVのしきい値を電子開始衝突電離の1.50eVと比較すると、正孔開始構造体に対するβは、電子開始構造体に対するαよりも約1.8倍低い。そのため、同じ電場で動作している両方の構造体を用いて同じ利得を得るためには、正孔開始構造体は、1.8倍厚い増倍領域および1.8倍高い電圧を必要とすることになる。
【0154】
この設計は、電子アバランシェ利得を抑制する伝導帯超格子の方が、正孔アバランシェ利得を抑制する価電子帯超格子よりも優れていると評価する。
【0155】
正孔開始構造体の別の利点は、正孔が、光吸収層から超格子増倍領域に注入されることである。正孔は、下方から注入される。このことは、低い暗電流を得るためならびにp-i-nフォトダイオードおよびAPDの表面降伏を排除するために一般的に使用されている選択p-ドーピングのための亜鉛拡散によって、APDを製作することを可能にする。
【0156】
どちらかの構造体が明らかに優れているということはない。この選択はおそらく、意図された用途の詳細に依存することになる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
用途
さまざまなシステムが、整合超格子構造体を含む複数の線形モードアバランシェフォトダイオードのアレイを使用することができる。それぞれの線形モードアバランシェフォトダイオードは、1000倍増幅以上の利得を生み出し、一方、増幅による利得に起因して非極低温以上の温度で存在する熱雑音の3倍未満の過剰雑音指数を生み出すように構成されていることによって、光を感知し、電流を出力するように構成されている。この線形モードアバランシェフォトダイオードは、線形モードアバランシェフォトダイオードの第1のキャリアに関しては衝突電離を抑制し、一方、第2のキャリアに関しては、1)衝突電離を増大させること、2)衝突電離を実質的に維持すること、および3)衝突電離をより低い程度で抑制することのうちの少なくとも1つを達成するように整合された超格子構造体を使用することによって、光の中の1つまたは複数の光子を検出する。その衝突電離が抑制される第1のキャリアは、i)電子またはii)正孔のどちらかであり、第2のキャリアは電子または正孔である。複数の線形モードアバランシェフォトダイオードに電力を供給するために、電源が使用される。
【0158】
これらのシステムは、i)LIDARシステム、ii)暗視ゴーグルまたはヘッドセットシステム、iii)光通信システム、iv)分光システム、v)量子鍵配送システム、vi)高降伏電圧トランジスタを使用したシステム、vii)低雑音マイクロ波発生システム、およびviii)生物医学システムを含むことができる。
【0159】
整合超格子構造体を含む線形モードアバランシェフォトダイオードは、i)伝導帯のみ、またはii)価電子帯のみで増幅が起こるような態様で、10,000倍増幅以上の利得を生み出し、一方、増幅による利得に起因して室温以上の温度で存在する熱雑音の10パーセント未満の過剰雑音を発生させるように構成されている。10,000倍増幅の利得を有する整合超格子構造体を含む線形モードアバランシェフォトダイオードは、設定された期間の経過後まで線形モードアバランシェフォトダイオードが別の光子を検出することができない不感時間を単一光子の検出後に生じる不利益なしで、単一光子を検出することができるように構成されている。
【0160】
本明細書に記載された線形モードAPDによって可能にされる例示的な機能は以下のものを含む。
【0161】
図8は、インサイチュメモリを備える整合超格子構造体を含む線形モードAPDアレイおよび並列列読出しの図800の実施形態を示す。アレイのそれぞれのピクセルは、異なるx-y方向を見ており、z方向を捕捉する。アレイは、それぞれの時間ビン(time bin)のインサイチュ記憶用に設計されており、光パルスと光パルスの間にそれぞれの時間ビンを逐次的に読み出す。それぞれの50μm×50μmピクセルの100個の時間ビンで、レーザパルスなどの光パルスを捕捉することができる。それぞれの時間ビンは、整合超格子構造体を含む線形モードAPDを含む読出し回路を有する。図9は、整合超格子構造体を含む線形モードAPDを有する例示的な読出し回路図の図900の実施形態を示す。読出しは、100フレーム/秒で実行することができる。50μm×50μmピクセル構造体を有する読出し回路は、例えば100個の時間ビンを記憶することができる。
【0162】
整合超格子構造体を含む線形モードAPDアレイを使用するシステムは以下のものを含むことができる。
【0163】
単一ショット光検出および測距(light detection and ranging)(LIDAR) - LIDARでは、レーザからの短い光バーストによって風景(scene)を照らし、このパルスの反射を検出する。レーザ光の発射と反射の検出との間の時間が、反射体までの距離を与える。SRI線形モードAPDでは不感時間が生じないため、単一のAPDを用いた反射光波形を連続取得することができる。適正な光学系を備える線形モードAPDアレイのそれぞれのAPDは、異なる方向から到着した光を検出することができる。線形モードAPDアレイのそれぞれのAPDは、光学系によって決まる固有の方向に位置する物体から反射された光の完全な波形を取得することができる。したがって、線形モードAPDアレイは、光学系によって決まる視野の全体に入った、単一のレーザショットの全ての反射を収集することができる。収集されたデータは、風景の3次元像を表し、到着時刻はz方向を与え、それぞれのAPDはxおよびy方向を与える。
【0164】
z方向に沿ったデータを表す波形を時間ビンに分解することができ、読出し回路の別々のキャパシタに電荷として記憶されたそれぞれの時間ビンにわたって、APDの出力電流を積分することができる。本発明の発明者は、50μm×50μmピクセルが、電流を積分するためおよびキャパシタの電荷を読み出すために必要な電子回路に加えて、100個のストレージキャパシタを有することができると判定した。
【0165】
ガイガーモードAPDの不感時間のため、全ての反射を取得する目的には2つの方法が使用される。第1の方法では、スーパーピクセル(superpixel)を形成するための並列接続されたガイガーモードAPDのアレイを使用して、不感時間を改善することができる。スーパーピクセルの大きなサイズは、スーパーピクセルを直線アレイに配列することを制限する。そのため、直線アレイに対して直角方向の撮像は、風景全体を照らし、狭視野APDアレイを回転させることによって、または広視野APDアレイと同一直線上にある一筋(stripe)の風景を照らし、その筋を移動させることによって、実行する。この方法では、完全な3次元像を取得するのに多数のレーザショットが必要となる。
【0166】
第2の方法は、独立したガイガーモードAPDの2次元アレイを使用する。線形モードAPDアレイの場合と同様に、それぞれのAPDは、異なる方向からの反射光を収集する。レーザショット後、所定の遅延で、所定の時間の間、降伏よりも高いバイアスをかけることにより、全てのガイガーモードAPDのゲートが開かれる。このアレイの出力は、APDのゲートが開いている時間間隔中の光子到着のx-y像を与える。その間隔中に1つの光子が到着したのかまたは多くの光子が到着したのかによらず、特定のAPDからの出力は同じである。ゲート遅延を変更することにより、多数のレーザショットを使用して完全な3次元像を取得することができる。
【0167】
単一ショットで3次元像を取得することの利点は、(1)より高速な取得時間、および(2)風景内およびLIDARシステムと風景の間の両方の、動きに起因する歪みおよびぶれの欠如である。より高速な取得は3次元映像を可能にする。動きに対する不感受性はより鮮明な像を与え、LIDARシステムに対する非常に安定したプラットホームの必要性を緩和する。
【0168】
オブスキュラントを通した撮像 - 原理は、単一ショットLIDARの原理と同じである。違いは、霧の中の水滴または煙の粒子などのオブスキュラント(obscurant)による反射がランダムに起こることである。これは、これらの粒子がランダムに分布しており、また、ブラウン運動、沈降または対流を受けていることにより時間とともに急速に変化しているためである。関心の物体は、オブスキュラントよりもはるかに大きく、そのため、よりゆっくりと動き、速度を急速に変えることができない。そのため、同じ点から出た反射または直線上にある一連の点から出た反射だけを、連続するいくつかの3次元像にわたって保持し続けることによって、オブスキュラントからの反射の多くを除くことができる。
【0169】
低光レベル撮像 - 低光レベル撮像では、検出器からの光電流を、電子増幅器のノイズフロアよりも高くなるように十分に増大させることがしばしば望ましい。これを達成するために、線形モードAPDを、単一光子を検出するには十分でないあまり大きくない利得で動作させることができる。これを達成するための代替の方法は、集光アパーチャを大きくし、積分時間を長くする方法である。アパーチャを大きくすると、光学構成部品が大きくなり、システムも、よりかさ高で高価なものとなる。積分時間を長くすると、三脚などの安定した機械的支持体上に撮像装置を置く必要が生じる。積分時間よりも速く変化している動的な風景に対して積分を使用することはできない。
【0170】
低光レベル撮像の重要なケースは暗視である。太陽光または照明装置がない場合の唯一の照明源は、月明かり、大気光および星明りである。大気光は、その日の早いうちに太陽光によっておよび宇宙線によって生み出されたイオンの再結合によって電離層で起こる、ほぼ近赤外および短波赤外域の可視領域での発光である。利得なしでの撮像で、使用可能な像を、一般的な手持ちカメラの集光光学系を使用して、標準的なビデオレートで得るためには、満月の光が必要である。10ないし10超の利得を有する暗視ゴーグルおよび像増強器(image intensifier)を使用して、月のない本曇りの夜に撮像することができる。照明源は、雲によって散乱、減衰した大気光および星明りである。過剰雑音のない線形モードAPDによって提供される利得は、暗視ゴーグルおよび像増強器のそれと同等であり、そのため、このAPDが、月のない本曇りの夜に撮像することが期待される。重大な違いは、APDのサイズがはるかに小さいことである。別の重大な違いは、暗視ゴーグルの出力が、別個のカメラなしではアーカイビング用または画像処理用に読み出すことができない燐光スクリーン上の像であるのに対して、線形モードAPDのアレイから製作された撮像装置の出力はディジタル化されることである。
【0171】
分光法ならびに化学および生物作用物質の検出 - 動作上、分光法は、低光レベル撮像と等価であり、この場合、風景が、回折格子などの分散素子の出力である。信号光子検出に十分な利得に対してあまり大きくない利得を与え、大きなダイナミックレンジを与えるように、線形モードAPDのアレイの利得を調整することができる。さらに、単一ショットLIDAR用途と同様に、アレイ内の個々のAPDが見ている波形を記憶することもできる。単一ショットLIDARに似て、この能力は、単一の事象によってトリガされた時間分解スペクトル全体の取得を可能にする。
【0172】
単一光子検出レベルで分光法を実行する能力を使用して、非常に低い濃度の分子を検出することができる。時間分解分光法は、分子の環境に関する情報を提供しうる分子の動態を監視する能力を追加する。特定の化学分子および生物分子の痕跡量を検出する能力は、これらの分子が違法薬物、化学戦もしくは生物戦作用剤または爆発物であることがありうる安全保障の分野、これらの分子が製造工程の不純物または不必要な副産物であることがありうる品質管理の分野、およびこれらの分子が開発中の新たな薬物であることがありうる生物医学研究の分野で有益である。
【0173】
量子鍵配送 - 量子鍵配送では、単一光子を、高い量子効率で、好ましくは室温付近の温度で検出することが必要である。現在使用可能な室温単一光子検出技術は、光電子増倍管およびガイガーモードAPDである。光電子増倍管は、特に電気通信に通常使用される波長において、非常に低い量子効率を有する。ガイガーモードAPDは、その不感時間のため、事実上、低い量子効率を有する。過剰雑音のない線形モードAPDは、高い量子効率で単一光子を検出することができると考えられる。
【0174】
光通信 - 全てとまでは言えないが大部分の光通信システムにおける支配的雑音は、受信器電子回路における熱雑音であり、そのため、光通信における基本的課題は、受信器の雑音等価入力を上回る十分なパワーで光信号を受信器に到達させることである。これを保証するために一般的に使用されている方法は、レーザが生み出すパワーを増大させる方法、光リンクの長さを短くして損失を低減させる方法、およびリンクに中継器を置く方法である。受信器における過剰雑音のない線形モードAPDは、より低コストでより破壊的でない方式で入来光信号を増大させる。一方、高いパワー出力を有するレーザは高価であり、増大したレーザパワーは、光ファイバまたは大気伝送媒質の非線形効果などの新たな問題点を導入することがあり、リンクの長さは、用途または地理によってしばしば固定されており、短くすることができず、中継器は、特に電力に容易にアクセスできない海洋底のような領域で非常に高価である。
【0175】
高降伏電圧トランジスタ - トランジスタの出力電力は、その降伏電圧によって制限される。上で論じたとおり、単一キャリアによって開始される衝突電離(α=0またはβ=0)は、指数関数的に増大するが、任意には大きくならないキャリア密度に帰着する。さらに、伝導帯と価電子帯の両方に局在ワニエ-シュタルク状態を設計することによって達成されるα=β=0を有する超格子に関しては、キャリア密度の指数関数的増大が抑制される。超格子を通したキャリア輸送はホッピングによる。隣り合うワニエ-シュタルク状態間の波動関数の重なりを大きくすることにより、ホッピング時間を短縮して、飽和速度に匹敵する実効速度をキャリアに与えることができる。
【0176】
バイポーラトランジスタの最も高い電場は、コレクタのコレクタ-ベース接合の近くに存在する。バイポーラトランジスタの電流の流れは通常、半導体の表面に対して垂直であるため、バイポーラトランジスタのコレクタの代わりに、超格子の垂線が電流の流れと一致するα=β=0の超格子を使用することは簡単であろう。
【0177】
低雑音マイクロ波発生 - 衝突電離は、リードダイオード(Read diode)および衝突電離アバランシェ走行時間(impact ionization avlanche transit time)(IMPATT)ダイオードを含む種類のマイクロ波ダイオードの動作の決定的に重要な部分である。利得を提供する衝突電離および適切な移相変化を提供するキャリア走行時間により、それらは、マイクロ波を発生させる負性微分抵抗素子として使用される。これらの発生器は低コストであり、高い電力を生み出すことができるが、それらの出力の高い位相雑音は用途を限定している。雑音の源は、衝突電離機構における過剰雑音である。このダイオードの衝突電離層として本明細書に記載された超格子を使用すると、過剰雑音が抑制され、これらのダイオードの周囲に構築されたマイクロ波発生器は、低コスト、高電力および低雑音となりうる。
【0178】
本明細書における「実施形態」、「例」などへの言及は、記載された実施形態または例は、特定の特徴、構造または特性を含むことがあるが、全ての実施形態がその特定の特徴、構造または特性を含むわけではないことを示す。このような句は必ずしも同じ実施形態を指してはいない。さらに、1つの実施形態に関して特定の特徴、構造または特性が記載されているときには、明示的に指摘されているか否かに関わらず、別の実施形態に関してこのような特徴、構造または特性に影響を及ぼすことは、当業者の知識に含まれると考えられる。
【0179】
上記の設計およびその実施形態をかなり詳細に説明したが、本明細書に記載された設計および実施形態が本発明を限定することは、本発明の出願者が意図するところではない。追加の適合および/または変更が可能であり、より幅の広い態様では、これらの適合および/または変更も包含される。したがって、以下の特許請求項によって与えられる範囲を逸脱しない範囲で、上記の設計および実施形態から外れることができる。この範囲は、特許請求項が適切に解釈されたときに、それらの特許請求項によってのみ限定される。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B