(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/50 20200101AFI20220812BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20220812BHJP
H02H 7/26 20060101ALI20220812BHJP
H02H 3/347 20060101ALI20220812BHJP
H02H 3/38 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
G01R31/50
G01R31/52
H02H7/26 C
H02H3/347 D
H02H3/38 D
(21)【出願番号】P 2021123551
(22)【出願日】2021-07-28
(62)【分割の表示】P 2019505616の分割
【原出願日】2017-03-16
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】306032305
【氏名又は名称】頭本 頼数
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】頭本 頼数
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-64265(JP,A)
【文献】特開2016-70877(JP,A)
【文献】特開2008-309681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50-31/52
H02H 7/26
H02H 3/347
H02H 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出部と、
前記被測定電線路の3相すべてに接続され、測定する2相を切替えられる電圧検出部であって、前記3相のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出部と、
前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流の零クロス点と前記電圧検出部により検出された電圧の零クロス点とに基づいて、位相差を検出する位相差検出部と、
前記位相差検出部により検出された位相差θと、前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流I
0とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流Igrを
Igr=I
0×sinθ/cos(π/3)
により算出する抵抗成分漏洩電流算出部と、
前記位相差検出部により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、前記位相差検出部により検出された位相差を前記電圧検出部に送信する判断処理部とを備え、
前記電圧検出部は、前記判断処理部から送信されてきた位相差に基づいて、前記被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出し、
前記位相差検出部は、前記切り替えた後の2相の間に印加されている電圧に基づいて再度位相差を検出する、
漏洩電流検出装置。
【請求項2】
前記判断処理部は、前記位相差検出部により検出された位相差θが所定の範囲である、π/6≦θ≦5π/6、に含まれているかどうかを判断し、
前記電圧検出部は、前記被測定電線路のR相とT相の間に印加されている電圧を検出している状態において、
位相差θが、5π/6≦θ≦3π/2、に含まれている場合には、T相とS相の間に印加されている電圧を検出するように切り替え、
位相差θが、3π/2≦θ≦13π/6、に含まれている場合には、S相とR相の間に印加されている電圧を検出するように切り替える請求項1記載の漏洩電流検出装置。
【請求項3】
前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流と、前記抵抗成分漏洩電流算出部により算出された抵抗成分漏洩電流と、前記位相差検出部により検出された位相差とに基づいて、前記電圧検出部により電圧が検出されている各相それぞれの抵抗成分漏洩電流を算出する各相抵抗成分漏洩電流算出部を備える請求項1または2に記載の漏洩電流検出装置。
【請求項4】
3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、
前記被測定電線路の3相すべてに接続され、測定する2相を切替えられる電圧検出工程であって、前記3相のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、
前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流の零クロス点と前記電圧検出工程により検出された電圧の零クロス点とに基づいて、位相差を検出する位相差検出工程と、
前記位相差検出工程により検出された位相差θと、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流I
0とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流Igrを
Igr=I
0×sinθ/cos(π/3)
により算出する抵抗成分漏洩電流算出工程と、
前記位相差検出工程により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、前記位相差検出工程により検出された位相差を前記電圧検出工程に送信する判断処理工程とを備え、
前記電圧検出工程は、前記判断処理工程から送信されてきた位相差に基づいて、前記被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出し、
前記位相差検出工程は、前記切り替えた後の2相の間に印加されている電圧に基づいて再度位相差を検出する、
漏洩電流検出方法。
【請求項5】
3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、
前記被測定電線路の3相すべてに接続され、測定する2相を切替えられる電圧検出工程であって、前記3相のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、
前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流の零クロス点と前記電圧検出工程により検出された電圧の零クロス点とに基づいて、位相差を検出する位相差検出工程と、
前記位相差検出工程により検出された位相差θと、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流I
0とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流Igrを
Igr=I
0×sinθ/cos(π/3)
により算出する抵抗成分漏洩電流算出工程と、
前記位相差検出工程により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、前記位相差検出工程により検出された位相差を前記電圧検出工程に送信する判断処理工程と、をコンピュータによって実現するための漏洩電流検出プログラムであって、
前記電圧検出工程は、前記判断処理工程から送信されてきた位相差に基づいて、前記被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出し、
前記位相差検出工程は、前記切り替えた後の2相の間に印加されている電圧に基づいて再度位相差を検出する、
漏洩電流検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気の利用は、便利な反面、適切な管理や使用を誤れば、大変危険な側面も併せ持っており、電気火災や感電事故等の重大な事故を引き起こす可能性も少なくない。
【0003】
例えば、その重大事故の原因の一つとして、電路や機器の絶縁不良に深く関係しているのが漏洩電流Iである。ここで、漏洩電流Iには、対地静電容量に起因する漏洩電流(Igc)と、絶縁抵抗に直接関与している対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流(以下、「Igr」という。)とが含まれている。上述した電気火災等を引き起こす原因は、絶縁抵抗の存在である。よって、Igrのみを正確に検出することができれば、回路の絶縁状態をチェックすることができ、漏電火災等の大惨事を避けることができる。
【0004】
例えば、特許文献1では、被測定電線路Aの全体にクランプし、被測定電線路Aに流れている漏洩電流Iを検出するCTセンサ部と、被測定電線路Aの電圧を検出する電圧検出部と、漏洩電流Iと被測定電線路Aの電圧とに基づいて、位相パルス幅を測定する位相パルス幅測定部と、被測定電線路Aの電圧に基づいて、電源周波数を測定する電源周波数測定部と、位相パルス幅測定部で測定された位相パルス幅と、電源周波数測定部で測定された電源周波数から被測定電線路Aに流れる漏洩電流Iの位相角度を算出する位相角度算出部と、位相角度算出部で算出された漏洩電流Iの位相角度と、漏洩電流Iに基づいて、Igrを算出する漏洩電流算出部などを備える漏洩電流遮断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている漏洩電流遮断装置は、3相をΔ結線し、3相のうち1相を接地する結線方式(いわゆる、Δ結線方式)を前提にしており、3相をY結線し、中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の結線方式(いわゆる、Y結線方式)に適用できるものではない。
【0007】
Y結線方式では、3相に対地電圧が発生しており、電線路の絶縁劣化による漏電電流はこの3相の電圧を考慮する必要がある。つまり、配電線の接地構成や電圧の発生箇所が異なるので、特許文献1に記載されている技術をY結線方式にそのまま適用できるものではない。
【0008】
本発明では、Y結線方式において、Igrを正確に検出することができる漏洩電流検出装置、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様における漏洩電流検出装置は、3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出部と、前記被測定電線路の3相すべてに接続され、測定する2相を切替えられる電圧検出部であって、前記3相のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出部と、漏洩電流検出部により検出された漏洩電流の零クロス点と前記電圧検出部により検出された電圧の零クロス点とに基づいて、位相差を検出する位相差検出部と、前記位相差検出部により検出された位相差θと、前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流I0とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流IgrをIgr=I0×sinθ/cos(π/3)により算出する抵抗成分漏洩電流算出部と、前記位相差検出部により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、前記位相差検出部により検出された位相差を前記電圧検出部に送信する判断処理部とを備え、前記電圧検出部は、前記判断処理部から送信されてきた位相差に基づいて、前記被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出し、前記位相差検出部は、前記切り替えた後の2相の間に印加されている電圧に基づいて再度位相差を検出する。
【0010】
本発明の一態様における漏洩電流検出方法は、3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、前記被測定電線路の3相すべてに接続され、測定する2相を切替えられる電圧検出工程であって、前記3相のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流の零クロス点と前記電圧検出工程により検出された電圧の零クロス点とに基づいて、位相差を検出する位相差検出工程と、前記位相差検出工程により検出された位相差θと、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流I0とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流IgrをIgr=I0×sinθ/cos(π/3)により算出する抵抗成分漏洩電流算出工程と、前記位相差検出工程により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、前記位相差検出工程により検出された位相差を前記電圧検出工程に送信する判断処理工程とを備え、前記電圧検出工程は、前記判断処理工程から送信されてきた位相差に基づいて、前記被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出し、前記位相差検出工程は、前記切り替えた後の2相の間に印加されている電圧に基づいて再度位相差を検出する。
【0011】
本発明の一態様における漏洩電流検出プログラムは、3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、前記被測定電線路の3相すべてに接続され、測定する2相を切替えられる電圧検出工程であって、前記3相のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流の零クロス点と前記電圧検出工程により検出された電圧の零クロス点とに基づいて、位相差を検出する位相差検出工程と、前記位相差検出工程により検出された位相差θと、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流I0とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流IgrをIgr=I0×sinθ/cos(π/3)により算出する抵抗成分漏洩電流算出工程と、前記位相差検出工程により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、前記位相差検出工程により検出された位相差を前記電圧検出工程に送信する判断処理工程と、をコンピュータによって実現するための漏洩電流検出プログラムであって、前記電圧検出工程は、前記判断処理工程から送信されてきた位相差に基づいて、前記被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出し、前記位相差検出工程は、前記切り替えた後の2相の間に印加されている電圧に基づいて再度位相差を検出する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Y結線方式において、Igrを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】漏洩電流に含まれているIgcについての説明に供する図である。
【
図3】第1基準電圧に基づく位相差とIgrの関係についての説明に供する図である。
【
図4】第2基準電圧に基づく位相差とIgrの関係についての説明に供する図である。
【
図5】第3基準電圧に基づく位相差とIgrの関係についての説明に供する図である。
【
図6】各相抵抗成分漏洩電流算出部により各相のIgrを算出する手順についての説明に供する図である。
【
図7】各相抵抗成分漏洩電流算出部の動作についての説明に供する図である。
【
図8】クランプの構成についての説明に供する図である。
【
図9】漏洩電流検出装置によりIgrを検出する手順についての説明に供するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
漏洩電流検出装置1は、3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線Gを引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出し、漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流(以下、「Igr」という。)を算出する。なお、漏洩電流には、Igrの他に、対地静電容量に起因する漏洩電流成分(以下、「Igc」という。)が含まれている。Igcは、被測定電線路の長さに応じて容量が増大するだけでなく、電気機器に使用されているインバータやノイズフィルター等に起因する高調波歪み電流によっても容量が増大する。漏洩電流検出装置1では、漏洩電流から電気火災等を引き起こす原因となるIgrを抽出することを目的としている。
【0016】
以下に、漏洩電流検出装置1の具体的な構成について説明する。漏洩電流検出装置1は、
図1に示すように、漏洩電流検出部11と、電圧検出部12と、位相差検出部13と、抵抗成分漏洩電流算出部14と、判断処理部15とを備える。
【0017】
漏洩電流検出部11は、被測定電線路に流れている漏洩電流Iを検出する。具体的には、漏洩電流検出部11は、クランプ部10を利用して被測定電線路をクランプし、被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する。なお、クランプ部10は、
図1に実線で示すように、被測定電線路の3相を一括して挟み込む形態でもよいし、
図1に点線で示すように、接地線Gのみを挟みこむ形態でもよい。また、クランプ部10は、被測定電線路を構成する電線路を選択的に挟み込む構成であってもよいし、被測定電線路を構成する電線路を一本ずつ選択的に挟み込む構成であってもよい。
【0018】
また、漏洩電流検出部11は、検出した漏洩電流の実効値を算出する。漏洩電流検出部11は、算出した漏洩電流の実効値を位相差検出部13と抵抗成分漏洩電流算出部14に出力する。
【0019】
電圧検出部12は、被測定電線路の3相すべてが接続されており、そのうちのいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する。以下では、R相-T相間から検出した電圧を第1基準電圧VR-Tといい、T相-S相間から検出した電圧を第2基準電圧VT-Sといい、S相-R相間から検出した電圧を第3基準電圧VS-Rという。また、厳密には、電圧検出部12は、検出した電圧の実効値を位相差検出部13に出力する。
【0020】
位相差検出部13は、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流の実効値と電圧検出部12により検出された電圧(例えば、第1基準電圧VR-T)の実効値とに基づいて、位相差θを検出する。具体的には、位相差検出部13は、第1基準電圧VR-Tの零クロスする点と漏洩電流の零クロスする点とに基づいて、第1基準電圧VR-Tと漏洩電流の位相差θを検出する。
【0021】
抵抗成分漏洩電流算出部14は、位相差検出部13により検出された位相差θと、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流の実効値とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する。
【0022】
具体的には、抵抗成分漏洩電流算出部14は、位相差検出部13により検出された位相差θと、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流の実効値I0とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流Igrを(1)式により算出する。なお、(1)式の導出方法については、後述する。
Igr=I0×sinθ/cos(π/3) ・・・(1)
【0023】
<Igcについての考察>
ここで、漏洩電流に含まれているIgcについて
図2を用いて考察する。なお、以下では、R相に発生しているIgcをIgc(r)といい、T相に発生しているIgcをIgc(t)といい、S相に発生しているIgcをIgc(s)という。また、Igc(r)、Igc(t)およびIgc(s)は、平衡しているものとする。
【0024】
図2に示すように、Igc(r)は、R相からπ/2進んだところに発生し、Igc(t)は、T相からπ/2進んだところに発生する。よって、Igc(r)とIgc(t)とを合成したベクトルIgc(rt)は、X軸上に示すことができる。また、Igc(s)は、S相からπ/2進んだところ(X軸上)に発生する。よって、3相すべての静電容量を合成した成分Igc(rts)は、ベクトルIgc(rt)とIgc(s)とによりキャンセルされる。つまり、3相の対地静電容量であるIgc(r)、Igc(t)およびIgc(s)が平衡しているときには、各相の対地静電容量は考慮しなくてよいようになる。これにより、被測定電線路での対地静電容量をキャンセルでき、またフィルタ効果により高調波やノイズの影響を受けない抵抗分漏洩電流Igrを高精度に検出することができる。
【0025】
<判断処理部の動作>
判断処理部15は、位相差検出部13により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、位相差検出部13により検出された位相差を電圧検出部12に送信する。電圧検出部12は、判断処理部15から送信されてきた位相差に基づいて、被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出する。
【0026】
具体的には、判断処理部15は、位相差検出部13により検出された位相差θが所定の範囲である、π/6≦θ≦5π/6、に含まれているかどうかを判断し、当該範囲に含まれていない場合には、位相差θを電圧検出部12に送信する。
【0027】
電圧検出部12は、被測定電線路のR相とT相の間に印加されている電圧(第1基準電圧VR-T)を検出している状態において、位相差θが、5π/6≦θ≦3π/2、に含まれている場合には、T相とS相の間に印加されている電圧(第2基準電圧VT-S)を検出するように切り替える。
【0028】
また、電圧検出部12は、被測定電線路のR相とT相の間に印加されている電圧(第1基準電圧VR-T)を検出している状態において、位相差θが、位相差θが、3π/2≦θ≦13π/6、に含まれている場合には、S相とR相の間に印加されている電圧(第3基準電圧VS-R)を検出するように切り替える。
【0029】
このようにして、漏洩電流検出装置1は、移動原点方式を採用することにより、位相差θがどの範囲でも(1)式によりIgrを算出することができ、Y結線方式において、Igrを正確に検出することができる。
【0030】
<移動原点方式の説明>
ここで、移動原点方式について説明する。なお、以下では、3相の対地静電容量であるIgc(r)、Igc(t)およびIgc(s)が平衡しているものとし、3相各相の対地静電容量は考慮しない。
【0031】
図3は、第1基準電圧V
R-Tに基づいて、位相差検出部13で検出された位相差θがπ/6≦θ≦5π/6の範囲内の場合において、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出されるIgrの説明図である。なお、
図3では、R相及びT相の双方に漏電が発生した場合を示している。
【0032】
R相及びT相の双方に漏電が発生した場合には、R相の抵抗成分漏洩電流Igr(r)とT相の抵抗成分漏洩電流Igr(t)とが発生する。
【0033】
また、漏電電流I0は、3相各相の対地静電容量は考慮しないので、R相電圧VRと同相の抵抗成分漏洩電流Igr(r)と、T相電圧VTと同相のT相の抵抗成分漏洩電流Igr(t)とのベクトル和となることから、第1基準電圧VR-Tを基準(θ=0)としたとき、漏電電流I0は、π/6≦θ≦5π/6の範囲に発生する。
【0034】
また、第1基準電圧VR-Tを基準(θ=0)としたときに、漏電電流I0がπ/6≦θ≦5π/6の範囲に発生したときには、Igrは、R相のみ、T相のみ、またはR相とT相の双方に発生したと判断できる。なお、R相のみに漏電が発生したときはθ=π/6であり、T相のみに漏電が発生したときはθ=5π/6である。R相及びT相の双方に漏電が発生したときはπ/6<θ<5π/6の範囲である。
【0035】
また、
図3に基づけば、R相T相間に発生しているIgr(Igr=Igr(r)+Igr(t))は、以下のように導き出せる。
a=I
0×sinθ ・・・(2)
b=Igr×cos(π/3) ・・・(3)
また、a=bである。
Igr=I
0×sinθ/cos(π/3) ・・・(4)
【0036】
つぎに、位相差θが5π/6≦θ≦3π/2に含まれている場合には、電圧検出部12は、基準電圧を検出する相を切り替えて、T相とS相の間に印加されている電圧(第2基準電圧VT-S)を検出する。
【0037】
図4は、第2基準電圧V
T-Sに基づいて、位相差検出部13で検出された位相差θがπ/6≦θ≦5π/6の範囲内の場合において、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出されるIgrの説明図である。なお、
図4では、T相及びS相の双方に漏電が発生した場合を示している。
【0038】
T相及びS相の双方に漏電が発生した場合には、T相の抵抗成分漏洩電流Igr(t)とS相の抵抗成分漏洩電流Igr(s)とが発生する。
【0039】
また、漏電電流I0は、3相各相の対地静電容量は考慮しないので、T相電圧VTと同相の抵抗成分漏洩電流Igr(t)と、S相電圧VSと同相のS相の抵抗成分漏洩電流Igr(s)のベクトル和となることから、第2基準電圧VT-Sを基準(θ=0)としたとき、漏電電流I0は、π/6≦θ≦5π/6の範囲に発生する。
【0040】
また、第1基準電圧VR-Tを基準(θ=0)としたときに、漏電電流I0が5π/6≦θ≦3π/2の範囲に発生したときには、Igrは、T相のみ、S相のみ、またはT相とS相の双方に発生したと判断できる。なお、T相のみに漏電が発生したときはθ=5π/6であり、S相のみに漏電が発生したときはθ=3π/2である。T相及びS相の双方に漏電が発生したときは、5π/6<θ<3π/2の範囲である。
【0041】
また、
図4に基づけば、T相S相間に発生しているIgr(Igr=Igr(t)+Igr(s))は、以下のように導き出せる。
c=I
0×sinθ ・・・(5)
d=Igr×cos(π/3) ・・・(6)
また、c=dである。
Igr=I
0×sinθ/cos(π/3) ・・・(7)
【0042】
つまり、(7)式は、(4)式と同一なので、位相差θが5π/6≦θ≦3π/2に含まれている場合でもIgrの算出式を変更する必要がない。
【0043】
つぎに、位相差θが3π/2≦θ≦13π/6に含まれている場合には、電圧検出部12は、基準電圧を検出する相を切り替えて、S相とR相の間に印加されている電圧(第3基準電圧VS-R)を検出する。
【0044】
図5は、第3基準電圧V
S-Rに基づいて、位相差検出部13で検出された位相差θがπ/6≦θ≦5π/6の範囲内の場合において、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出されるIgrの説明図である。なお、
図5では、S相及びR相の双方に漏電が発生した場合を示している。
【0045】
S相及びR相の双方に漏電が発生した場合には、S相の抵抗成分漏洩電流Igr(s)とR相の抵抗成分漏洩電流Igr(r)とが発生する。
【0046】
また、漏電電流I0は、3相各相の対地静電容量は考慮しないので、S相電圧VSと同相の抵抗成分漏洩電流Igr(s)と、R相電圧VRと同相のR相の抵抗成分漏洩電流Igr(r)のベクトル和となることから、第3基準電圧VS-Rを基準(θ=0)としたとき、漏電電流I0は、π/6≦θ≦5π/6の範囲に発生する。
【0047】
また、第1基準電圧VR-Tを基準(θ=0)としたときに、漏電電流I0が3π/2≦θ≦13π/6の範囲に発生したときには、Igrは、S相のみ、R相のみ、またはS相とR相の双方に発生したと判断できる。なお、S相のみに漏電が発生したときはθ=3π/2であり、R相のみに漏電が発生したときはθ=13π/6(つまり、θ=π/6)である。S相及びR相の双方に漏電が発生したときは、3π/2<θ<13π/6の範囲である。
【0048】
また、
図5に基づけば、S相R相間に発生しているIgr(Igr=Igr(s)+Igr(r))は、以下のように導き出せる。
e=I
0×sinθ ・・・(8)
f=Igr×cos(π/3) ・・・(9)
また、e=fである。
Igr=I
0×sinθ/cos(π/3) ・・・(10)
【0049】
つまり、(10)式は、(4)式および(7)式と同一なので、位相差θが5π/6≦θ≦3π/2に含まれている場合でもIgrの算出式を変更する必要がない。
【0050】
よって、漏洩電流検出装置1は、移動原点方式を採用することにより、位相差θがどの範囲でも(1)式によりIgrを算出することができるので、位相差θの範囲に応じて、Igrの算出式を変更する必要がないメリットがある。
【0051】
また、基準電圧は、環境の変化(例えば、晴天から雨天に変化)により接地抵抗が変動すると、変化する。つまり、第1基準電圧VR-Tに基づいて、T相-S相間に生じたIgrやS相-R相間に生じたIgrを算出すると誤差が生じる。そこで、漏洩電流検出装置1は、3相すべての電圧を電圧検出部12に取り込み、位相差に基づいて、基準電圧を変更する移動原点方式を採用することにより、基準電圧のベクトルが変化しても、正確なIgrを算出することができる。
【0052】
<各相抵抗成分漏洩電流算出部の動作>
また、漏洩電流検出装置1は、
図1に示すように、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流と、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出された抵抗成分漏洩電流と、位相差検出部13により検出された位相差とに基づいて、電圧検出部12により電圧が検出されている各相それぞれの抵抗成分漏洩電流を算出する各相抵抗成分漏洩電流算出部16を備える。
【0053】
ここで、漏洩電流I
0が10mAであり、位相差が90度の位置に生じている場合を一例として、
図6を用いて説明する。なお、
図6に示す例では、3相各相の対地静電容量はキャンセルされ、漏洩電流I
0がIgrであるとする。
【0054】
各相抵抗成分漏洩電流算出部16は、R相の抵抗成分漏洩電流Igr(r)を10mAと算出し、T相の抵抗成分漏洩電流Igr(t)を10mAと算出する。
【0055】
図7に実験データを示す。実験の諸条件は、以下のとおりである。
・試験日時:2017/2/24、13:00
・温湿度:23°C/39%
・試験場所:佐鳥電機芝別館4F実験室
・装置製造番号:STRI1FZ0007
・装置プログラムVer:1.10.00
・電源:デンケン製 MDAC-5A (2016/9/21校正、2017/9/20期限)
・使用トランス:ユニオン電機製 MCW-6-2040(Y200V→Y400V)
・基準電圧周波数:50Hz
・相電圧:200V
【0056】
図7の実験番号1は、R相に70mAの漏洩電流が発生し、T相に10mAの漏洩電流が発生した場合における、漏洩電流I
0と位相差θを計測し、(1)式に基づいてIgrを算出したものである。実験番号2以降も同様にして、R相に発生する漏洩電流とT相に発生する漏洩電流を適宜変更して、実験を行った。
【0057】
このような実験を複数回繰り返し、R相とT相に発生する漏洩電流の組み合わせを網羅したテーブルを作成する。
【0058】
よって、各相抵抗成分漏洩電流算出部16は、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出されたIgrと、位相差検出部13により検出された位相差θとに基づいて、テーブルを参照し、R相に発生しているIgrRとT相に発生しているIgrTを求めることができる。なお、
図7に示す例では、R相とT相にIgrが発生した場合を示しているが、実際には、T相に発生する漏洩電流とS相に発生する漏洩電流を適宜変更して、実験を行ってテーブルを作成し、また、S相に発生する漏洩電流とR相に発生する漏洩電流を適宜変更して、実験を行ってテーブルを作成する。
【0059】
各相抵抗成分漏洩電流算出部16は、第1基準電圧VR-Tのときには、R相とT相のテーブルを参照し、第2基準電圧VT-Sのときには、T相とS相のテーブルを参照し、第3基準電圧VS-Rのときには、S相とR相のテーブルを参照する。
【0060】
また、各相抵抗成分漏洩電流算出部16は、テーブルを参照する構成ではなく、漏洩電流I
0と位相差θとIgrとを所定の関数に代入して、各相のIgrを算出する構成でもよい。具体的には、各相抵抗成分漏洩電流算出部16は、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流I
0と、位相差検出部13により検出された位相差θを(11)式に代入して、Igr(r)を算出する。つぎに、各相抵抗成分漏洩電流算出部16は、算出したIgr(r)と、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出されたIgrを(12)式に代入して、Igr(t)を算出する。
【数1】
Igr(t)=Igr-Igr(r) ・・・(12)
【0061】
なお、(11)式と(12)式は、第1基準電圧V
R-Tのときに利用する関数である。さらに厳密には、(11)式と(12)式は、位相差θが「π/6≦θ≦π/2」の範囲にある場合に利用する関数である。第1基準電圧V
R-Tにおいて位相差θが「π/2≦θ≦5π/6」の範囲にある場合には、(13)式と(14)式を利用する。
【数2】
Igr(r)=Igr-Igr(t) ・・・(14)
【0062】
また、基準電圧が2基準電圧VT-Sの場合と第3基準電圧VS-Rの場合においても、それぞれ位相差θの範囲に適した関数を利用する。
【0063】
また、各相のIgrを算出する関数は、位相差θに基づいて、抵抗成分漏洩電流算出部14により算出されたIgrから各相に発生しているIgrの割合を求めるものであって、(11)式から(14)式に限定されず、他の関数によって各相のIgrを算出してもよい。
【0064】
<Y結線における2相同時に漏電するケースについて>
上述した2相同時に漏電発生が生じる可能性は低いと予想されるが、負荷機器の動作を考察すると、3相においてある程度変動しながらも各相で劣化が生じ、間欠漏電が発生することがある。
【0065】
また、
図6に示すように、T相とR相の2相同時に地絡が生じている場合には、漏洩電流I
0は、10mAであるが、R相の抵抗成分漏洩電流Igr(r)とT相の抵抗成分漏洩電流Igr(t)を合成したIgrは、(1)式から、20mAとなり、Io<Igr、となる。
【0066】
つまり、漏電検出を漏洩電流I0の値に頼っていると、実は、大きなIgrが発生していることがある。このような場合において、漏洩電流検出装置1は、素早く正確にIgrを検出することができる。
【0067】
<クランプの方法について>
クランプ部10は、
図1に示すように、接地線G以外の被測定電線路のみをクランプする構成でもよいし、
図8に示すように、被測定電線路と接地線Gのすべてをクランプする構成でもよい。前者は、主に、負荷側において、接地線Gと被測定電線路のいずれかの相とを接続して利用するケースに適した接続方法である。後者は、主に、負荷側において、被測定電線路のすべてが接続される三相交流モータを利用するケースに適した接続方法である。
【0068】
<電圧の測定について>
被測定電線路に高電圧(例えば、6600Vなど)が印加されている場合には、接地形計器用変圧器(EVT)を用いて、高電圧を所定の電圧(例えば、200Vや110Vなど)に降圧し、降圧後の電圧が電圧検出部12に入力される。さらに、降圧する際に位相ずれが生じる場合がある。位相差検出部13は、接地形計器用変圧器(EVT)による位相ずれを補正する機能を有する。
【0069】
<絶縁抵抗試験(メガー試験)による漏電管理と、Igr方式による漏電管理の相違について>
絶縁抵抗試験(メガー試験)では、高電圧を印加して測定対象物に負担を与えるため、停電状態にし、かつ、電線路から負荷を切り離して絶縁抵抗を測定している。つまり、メガー試験によって測定される絶縁抵抗は、停電状態であって、かつ、電線路から負荷が切り離された状態のものである。
【0070】
一方、本願発明にかかるIgr方式では、通電状態であって、かつ、電線路に負荷が接続されている状態において絶縁抵抗を測定するものである。
【0071】
よって、メガー試験によって測定される絶縁抵抗は、非通電状態という特殊な状態において測定されるものであるが、Igr方式によって測定される絶縁抵抗は、通電状態において測定されるものであり、文言的には同じでも、内容は異なるものである。
【0072】
さらに、メガー試験では、停電状態にする必要があるため、絶縁抵抗を常時測定(監視)することが困難であるが、Igr方式では、停電状態にする必要がないため、絶縁抵抗を常時測定(監視)することができる。
【0073】
このように、Igr方式による漏電管理は、メガー試験による漏電管理に比して、信頼性の高い絶縁抵抗を常時測定(監視)することができる。
【0074】
<方法>
つぎに、漏洩電流検出装置1によるIgrの検出手順について、
図9に示すフローチャートを用いて説明する。
【0075】
ステップS1において、漏洩電流検出部11は、3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する。
【0076】
ステップS2において、電圧検出部12は、被測定電線路のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する。
【0077】
ステップS3において、位相差検出部13は、ステップS1の工程により検出された漏洩電流と、ステップS2の工程により検出された電圧とに基づいて、位相差を検出する。
【0078】
ステップS4において、判断処理部15は、ステップS3の工程により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断する。位相差が所定の範囲内であると判断した場合(Yes)、ステップS5に進み、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合(No)、ステップS6に進む。
【0079】
ステップS5において、抵抗成分漏洩電流算出部14は、ステップS3の工程により検出された位相差と、ステップS1の工程により検出された漏洩電流の実効値とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流(Igr)を算出する。
【0080】
ステップS6において、電圧検出部12は、位相差に基づいて、被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出する。その後、ステップ3に戻り、ステップS4の工程において、位相差が所定の範囲内であると判断するまで、処理を繰り返す。
【0081】
よって、漏洩電流検出装置1は、移動原点方式を採用することにより、位相差θがどの範囲でも(1)式によりIgrを算出することができ、Y結線方式において、Igrを正確に検出することができる。
【0082】
<プログラム>
また、本実施例では、主に、Y結線方式において、Igrを正確に検出する漏洩電流検出装置1の構成と動作について説明したが、これに限られず、各構成要素を備え、Y結線方式において、Igrを正確に検出するための方法、およびプログラムとして構成されてもよい。
【0083】
また、漏洩電流検出装置1を構成する各機能を実現するためのプログラムをコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
【0084】
具体的には、当該プログラムは、3相(R相、S相、T相)をY結線し中性点を接地して接地線を引き出した3相4線式の被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、被測定電線路のいずれか2相の間に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相差を検出する位相差検出工程と、位相差検出工程により検出された位相差と、漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流の実効値とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する抵抗成分漏洩電流算出工程と、位相差検出工程により検出された位相差が所定の範囲内であるかどうかを判断し、位相差が所定の範囲内ではないと判断した場合、位相差検出工程により検出された位相差を電圧検出工程に送信する判断処理工程と、をコンピュータによって実現するためのプログラムである。電圧検出工程は、判断処理工程から送信されてきた位相差に基づいて、被測定電線路における電圧を検出する相を切り替え、切り替えた後の2相の間に印加されている電圧を検出する。
【0085】
さらに、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータで読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0086】
さらに「コンピュータで読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短期間で動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 漏洩電流検出装置、10 クランプ部、11 漏洩電流検出部、12 電圧検出部、13 位相差検出部、14 抵抗成分漏洩電流算出部、15 判断処理部、16 各相抵抗成分漏洩電流算出部