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特許7122453炭化ケイ素強化ジルコニウムベースの被覆方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】炭化ケイ素強化ジルコニウムベースの被覆方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/06 20060101AFI20220812BHJP
   G21C 3/07 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
G21C3/06 310
G21C3/06 210
G21C3/07 100
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021502581
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 US2019041546
(87)【国際公開番号】W WO2020018361
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】62/698,326
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0159186(US,A1)
【文献】特開2017-197828(JP,A)
【文献】特表2017-515096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0365364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/06
G21C 3/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子燃料被覆管(10)を作製する方法であって、
ジルコニウム合金管(12)をセラミック繊維糸(16)で被覆することであって、前記ジルコニウム合金管(12)に直接前記セラミック繊維糸(16)を当てることによって、被覆することと、
第1の被膜(24)を施すことによって前記セラミック繊維糸(16)を前記ジルコニウム合金管(12)に結合させること により、前記ジルコニウム合金管の上に中間層を形成することを含み、
前記中間層は前記セラミック繊維糸と前記第1の被膜から成り、前記第1の被膜は、Nb、Nb合金、Nb酸化物、Cr、Cr合金、Cr酸化物およびそれらの組み合わせから成る群より選択した材料から作製されるものであり、
前記方法はさらに、第2の被膜(26)を施すことによって、前記中間層の上に最外層を形成することを含み、
前記最外層はCrのみから作製されるものである、
方法。
【請求項2】
前記第1の被膜(24)が、蒸着、陰極アーク蒸着、マグネトロンスパッタリング蒸着およびパルスレーザー蒸着から成る群より選択した物理蒸着法、またはコールドスプレーおよびホットスプレー法から成る群より選択した熱蒸着法のうちの1つによって施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の被膜(24)が厚さ1~20ミクロンの層を成す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
記第2の被膜(26)が、(i)蒸着、陰極アーク蒸着、マグネトロンスパッタリング蒸着およびパルスレーザー蒸着から成る群より選択した物理蒸着法、または(ii)コールドスプレーおよびホットスプレー法から成る群より選択した熱蒸着法のうちの1つによって施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の被膜(26)が1~50ミクロンの層を成す、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記セラミック繊維糸(16)が、800℃以上の温度で前記ジルコニウム合金管(12)の構造的な支持を提供するのに十分な密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ジルコニウム合金管(12)が100~1000ミクロンの壁厚を有し、前記セラミック繊維糸(16)がSiC繊維で作製され、厚さ100~600ミクロンの層を成す、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ジルコニウム合金管(12)に直接前記セラミック繊維糸(16)を当てることが、前記ジルコニウム合金管(12)の周りに前記セラミック繊維糸(16)を編組するかまたは巻き回すことによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記セラミック繊維糸(16)がSiC繊維で作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
原子燃料被覆管を作製する方法であって、
ジルコニウム合金管に直接SiC繊維糸を巻き回すことによって、前記ジルコニウム合金管に前記SiC繊維糸の被覆を施すことと、
第1の被膜を施すことによって前記SiC繊維糸を前記ジルコニウム合金管に結合させることにより、前記ジルコニウム合金管の上に中間層を形成することと、
第2の被膜を施すことによって、前記中間層の上に最外層を形成することを含み、
前記被覆は厚さ100~600ミクロンであって、800℃以上の温度で前記ジルコニウム合金管(12)の構造的な支持を提供するのに十分な密度を有するものであり、
前記中間層は厚さ1~20ミクロンであって前記SiC繊維糸と前記第1の被膜から成り、
前記第1の被膜は、Nb、Nb合金、Nb酸化物、Cr、Cr合金、Cr酸化物およびそれらの組み合わせから成る群より選択した材料から作製されるものであって、前記第1の被覆は物理蒸着法を用いて施され、
前記最外層は厚さ1~50ミクロンであってCrのみから作製されるものであり、前記第2の被覆は熱蒸着法を用いて施される、
方法。
【請求項11】
原子燃料被覆管を作製する方法であって、
ジルコニウム合金管に直接SiC繊維糸を巻き回すことによって、前記ジルコニウム合金管に前記SiC繊維糸の被覆を施すことと、
第1の被膜を施すことによって前記SiC繊維糸を前記ジルコニウム合金管に結合させることにより、前記ジルコニウム合金管の上に中間層を形成することと、
第2の被膜を施すことによって、前記中間層の上に最外層を形成することを含み、
前記被覆は厚さ100~600ミクロンであって、800℃以上の温度で前記ジルコニウム合金管(12)の構造的な支持を提供するのに十分な密度を有するものであり、
前記中間層は厚さ1~20ミクロンであって前記SiC繊維糸と前記第1の被膜から成り、
前記第1の被膜は、Nb、Nb合金、Nb酸化物、Cr、Cr合金、Cr酸化物およびそれらの組み合わせから成る群より選択した材料から作製されるものであって、前記第1の被覆は熱蒸着法を用いて施され、
前記最外層は厚さ1~50ミクロンであってCrのみから作製されるものであり、前記第2の被覆は物理蒸着法を用いて施される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年7月16日に出願され、参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/698,326号の優先権を主張するものである。
【0002】
政府の権利に関する陳述
本発明は、米国エネルギー省により授与された契約第DE-NE0008222号に基づく政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
技術分野
本出願は、原子燃料被覆管に関し、より具体的には、セラミック被膜を有するジルコニウム合金管に関する。
【0004】
先行技術の説明
典型的な原子炉の炉心には多数の燃料集合体が収容されており、その各々が複数の細長い燃料棒から構成される。各々の燃料棒は、通常、HeやHなどの気体に取り囲まれた原子燃料ペレットを積み重ねた形態の原子燃料用核分裂性物質を含む。燃料棒は、核分裂性物質を封じ込める機能を果たす被覆を有する。
【0005】
ジルコニウム(Zr)合金は、燃料棒の被覆として使用されてきた。例示的なZr合金が米国特許第3,427,222号、第5,075,075号、および第7,139,360号に開示されており、その関連部分は参照により本明細書に組み込まれる。
【0006】
「設計基準外」事故などの厳しい条件下では、金属被覆は、1093℃を超える蒸気と発熱反応する場合がある。原子炉の温度が1204℃にも達する場合がある「冷却材喪失」事故時には、核燃料を保護するこれらのジルコニウム被覆金属は強度を失い、燃料棒内部の核分裂性ガスによって膨張し、そして破裂する可能性がある。
【0007】
燃料棒被覆管外側の腐食を防止するための材料で被膜を施すことが提案されていて、米国特許第9,336,909号および第8,971,476号に開示されている通りであり、その関連部分は参照により本明細書に組み込まれる。被膜を施されたZr被覆は、設計基準外事故に付随する主要な問題の1つである、1200℃を超える温度での過度の酸化を克服する。クロム(Cr)のみで成膜すると、1333℃より低い温度でZrとCrとの間に低融点の共晶がZr合金のその他の成分のために生じる。この問題を回避するため、最初にニオブ(Nb)で被膜を施すことが提案されている。
【0008】
被膜を用いても金属管であることに変わりはないため、依然として800℃~1100℃で膨張・破裂し、放射性核分裂生成物が原子炉冷却材に放出され、その冷却材が保護されていない管内を侵すことがあり得る。
【0009】
セラミックタイプの材料が被覆材料として提案されている。酸化アルミニウム(III)(Al)および炭化ケイ素(SiC)などのセラミック含有被膜材料は、望ましい安全性を有することが示されている。SiCのモノリス、繊維およびそれらの組み合わせなどの実験的セラミックタイプの材料が、米国特許第6,246,740号、第5,391,428号、第5,338,576号および第5,182,077号、ならびに米国特許出願公開第2006/0039524号、第2007/0189952号および第2015/0078505号に教示されており、その関連部分は参照により本明細書に組み込まれる。
【0010】
セラミック複合材は特に、例えば1200℃を超える温度の「設計基準外」事故下で原子燃料被覆として使用するのに望ましい多くの特性を有する。まずフォームまたはマンドレルの外面の周りに繊維トウを編組みする、または巻き回すことによって、セラミック繊維トウを用いた巻線などのセラミックスリーブを作製し、次にその巻線をZr合金管に嵌合させることによって、Zr合金から成る内側スリーブとセラミック繊維の外側スリーブとを使用することが試みられた。このやり方では、Zr被覆管の外側とセラミックスリーブとの間の空間に隙間が形成されること、さらにマンドレルの取り外し中にセラミック巻線が損傷しうることが分かった。
【0011】
管体に被膜を施した後、それをセラミックスリーブに滑り込ませることが試みられた。しかしながら、図1に示すように、セラミック巻線14’と被膜管12’との間に隙間30’が形成される結果、特に燃料棒コアの高線出力部分において、燃料温度の上昇を招く。
【発明の概要】
【0012】
以下の概要は、開示された実施形態に特有の革新的な特徴の一部の理解を容易にするために提供され、完全な説明であることを意図していない。実施形態の様々な局面の完全な理解は、明細書、特許請求の範囲、要約および図面の全てを、全体としてとらえることによって得ることができる。
【0013】
本明細書に記載の方法は、原子被覆管を形成する改善された方法を提供する。様々な局面において、原子燃料被覆管を作製する方法は、セラミック繊維から形成された糸をジルコニウム合金管の上に直接当てることによって、管をセラミック糸で被覆すること、第1の被膜を施して、セラミック糸を管に物理的に結合させること、および第1の被膜の上に第2の被膜を施すことを含む。様々な局面において、第1の被膜は、Nb、Nb合金、Nb酸化物、Cr、Cr合金、Cr酸化物およびそれらの組み合わせから成る群より選択される。様々な局面において、第1の被膜はセラミック糸をZr合金管に物理的に結合させ、繊維同士の間および繊維とZr合金管との間に隙間があれば、それを充填し、または実質的に充填することができる。様々な局面において、第2または第3の任意の被膜は、Cr、Cr合金、Cr酸化物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択できる。
【0014】
管を被覆することは、管の周りにセラミック糸を巻き回すか、または編組みすること、好ましくは管の外面全体または実質的に外面全体がセラミック糸と接触し、かつセラミック糸によって覆われるように管の周りにセラミック糸をきつく巻き回すかまたは編組みすることによって行われる。様々な局面において、セラミック被覆の密度は、800℃以上の温度で管の構造的な支持を提供するのに十分な密度とされる。様々な局面において、セラミック糸はSiC繊維から作製される。SiC繊維間の間隔は、0~2mm、より好ましくは0.6~1.0mmとすることができる。
【0015】
第1および第2の被膜は、同じまたは異なるプロセスによって施すことができる。例えば、第1または第2の被膜のいずれかを、物理蒸着法または熱蒸着法のうちの1つによって施すことができる。熱蒸着法が第1または第2の被膜のいずれかを施すのに使用される場合、コールドスプレーまたはホットスプレー法のうちの1つとすることができる。物理蒸着法が第1または第2の被膜のいずれかを施すのに使用される場合、陰極アーク蒸着、マグネトロンスパッタリング蒸着およびパルスレーザー蒸着などの蒸発またはスパッタリングのうちの1つとすることができる。物理的蒸着法では、陰極アークおよび電子ビーム源を使用することができる。
【0016】
本明細書に記載される方法は、ジルコニウム合金管と、当該管の上に直接編組みされるか、または巻き回されるSiC被覆などのセラミック被覆から成る支持部材とを備える原子燃料被覆管を製造するものであり、当該支持部材は、例えばNb、Nb合金、Nb酸化物、Cr、Cr合金、Cr酸化物およびそれらの組み合わせから成る群より選択した第1の被膜によって管に結合される。被覆管は、第1の被膜の上に第2の被膜を随意的に含むことができる。第2の被膜は、Cr、Cr合金、Cr酸化物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択できる。被覆管は、第2の被膜の上に第3の被膜を随意的に含むことができる。第3の被膜も、Cr、Cr合金、Cr酸化物、およびそれらの組み合わせから成る群より選択できる。
【0017】
或る特定の局面において、SiC被覆層は、厚さ100~600ミクロンとすることができる。或る特定の局面では、第1の被膜層は厚さ1~20ミクロンとすることができる。或る特定の局面において、第2の被膜層は1~50ミクロンとすることができる。或る特定の局面において、Zr管壁の厚さは100~1000ミクロンとすることができる。
【0018】
従来、Zr合金被覆を使用する際の問題点は、800℃~1000℃の温度で膨張・破裂する可能性であった。本明細書に記載される方法はZr合金管を強化することによってこうした構造的弱点に対処するものであり、まず例えばSiC繊維から形成されたセラミック糸を管の周りに直接巻き付けるか編組みすることによって管外側と繊維支持体内側との間の隙間を最小化し、好ましくは大幅に最小化し、より好ましくはなくす。次いで繊維被覆を、コールドまたはホットスプレー法、または物理蒸着法、或いはこれら2つの方法の組み合わせを用いて1つ以上の被膜を施すことによってZr合金管に結合させることによって、Zr管の構造支持部材を提供する。SiC被覆がZr合金管を構造的に支持するので、1000℃で軟化しても、管が膨張・破裂せず、核分裂生成物が原子炉冷却材に放出されることはない。
【0019】
当然のことながら、本開示は、本概要に開示された実施形態に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲内にある修正を網羅することが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本開示の特徴および利点は、添付図面を参照することによってより理解することができる。
図1図1は、管の外側と繊維巻線の内側との間の隙間、および管のいくつかの構造変形を示す、編組みされたスリーブを有する先行技術の管の断面図である。
図2図2は、管の外側に巻回された編組繊維を示す。
図3図3は、本明細書に記載のZr合金管などの原子被覆管の概略図である。
図4図4は、管の外側の周りに編組繊維が巻き回された、図3の管の概略図である。
図5図5は、第1の被膜が加えられ、繊維を管に結合させた、図4の管および繊維の概略図である。
図6図6は、第2の被膜および第3の被膜が追加された、図5の管の概略図である。
図7図7は、第2の被膜を加えた、図5の管の断面図であり、Zr合金管、管の周りに巻回されたセラミック繊維、および繊維上の第1および第2の被膜を示す。原子燃料ペレットは被覆管内に積み重ねられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、および「the」に先導される単数形は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数形をも包含する。
【0022】
非限定的な例として、本明細書で使用する頂部、底部、左、右、下方、上方、前、後ろ、およびそれらの変形などの方向性を示唆する語句は、添付の図面に示す要素の幾何学的配置に関連し、特段の明示的な記載がない限り、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0023】
特許請求の範囲を含み、本願では、特段の指示がない限り、量、値または特性を表すあらゆる数字は、全ての場合において、「約」という用語により修飾されると理解されたい。したがって、数字と一緒に「約」という用語が明示されていない場合でも、数字の前に「約」という語があるものと読み替えることができる。したがって、別段の指示がない限り、以下の説明で記載されるすべての数値パラメータは、本発明に基づく組成物および方法が指向する所望の特性に応じて変わる可能性がある。最低限のこととして、また均等論の適用を特許請求の範囲に限定する意図はないが、本願に記載された各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の桁数を勘案し、通常の丸め手法を適用して解釈するべきである。
【0024】
また、本明細書で述べるあらゆる数値範囲は、そこに内包されるすべての断片的部分を含むものとする。例えば、「1~10」という範囲は、記述された最小値1と最大値10との間の(最小値と最大値を内包)の全ての断片的部分を含むことを意図している。すなわち、最小値は1以上、最大値は10以下である。
【0025】
原子燃料棒用の複合被覆管10を製造するための改良された方法が本明細書に記載される。図を参照すると、改良された方法によって製造される被覆管10は、ジルコニウム合金管12と、管12の外側20に直接巻き回して編組みまたは巻き付けられたセラミック糸16から形成されるセラミック繊維支持部材14とから成る。被覆14の内側22は実質的に管12の外側20全体と接触し、様々な局面において、管12の外面20全体を覆っている。第1の被膜24は、繊維被覆14を管12に物理的に結合させるように、糸16および繊維被覆14を覆う。糸16同士の間、トウ同士の間、または繊維被覆14と管12との間に何らかの隙間がある限りにおいて、第1の被膜24の粒子18が隙間を充填するか、または管12の所望の構造的な支持を提供するのに十分な程度に隙間を実質的に充填する。様々な局面において、第2の被膜26が第1の被膜24の上に施されてもよい。また、様々な局面において、第3の被膜28が第2の被膜26の上に施されてもよい。完成した被覆管10は、原子燃料ペレット50のスタックを含む。
【0026】
様々な局面において、本方法は、Zr合金管12を所望の長さおよび厚さに製造することを含み得る。或る特定の局面において、本方法は、例えば約100~1000ミクロンの壁厚で管12を形成することを含み得る。
【0027】
Zr合金管12の構造的な支持は、管12外側の上にセラミック繊維製の糸16を巻き回すまたは編組みすることにより、セラミック繊維被覆14を形成することによって提供される。編組みおよび巻き回す手法は、この分野に取り組む当業者に周知である。
【0028】
Zr合金管12の周りに巻回されるセラミック糸は、糸を作るべくトウの形状に巻かれる小さなセラミック繊維から形成される。糸は、例えば、管12の周りに糸を編組みする、編込む、織り込む、または巻き回すことを含む、当技術分野で公知の従来的な技術を使用して所望の形状に形成される。例えば、米国特許第5,391,428号を参照されたい。図2に示すように、繊維糸16が巻き回された結果、凹凸のある表面および糸の隣接部同士の間の隙間30が生じることがある。
【0029】
様々な局面において、セラミック糸はSiC繊維から形成される。SiC繊維は、好ましくは主にSiおよびCを含有するSiC繊維とすることができ、微量または比較的少量のOを含む。例示的な量を以下に記す。
【0030】
Si:50重量%~75重量%(より好ましくは68重量%~72重量%)
【0031】
C:25重量%~60重量%(より好ましくは28重量%~32重量%)
【0032】
O:0.01重量%~14重量%(より好ましくは0.01重量%~1重量%)
【0033】
SiCセラミック被覆で利用するSiCは、1トウ当たり500~5000本の繊維を備えた繊維トウの形態である。SiC層の厚さは100~600ミクロンである。SiC繊維間の間隔は0~2mm、より好ましくは0.6~1.0mmとすることができる。
【0034】
図3~6を参照すると、様々な局面において、Zr合金管12は、まず、例えばSiC繊維製のセラミック糸16で、管12を支持し、且つ800℃を超える温度での膨張を許容しないほど十分な密度の織り方で巻き回されるか、または編組みされる。次いで、物理蒸着法または熱蒸着法を用いて、Zr管上のセラミック材料とセラミック繊維間の空間または隙間とに物理的に結合された第1の被膜が提供される。様々な局面において、第1の被膜は、Nb、Nb合金、Nb酸化物、Cr、Cr合金、Cr酸化物、およびこれらの任意の混合物から選択した第1の材料から作製することができる。第2の被膜が第1の被膜の上に施されて上層を形成してもよい。様々な局面において、第2の被膜は、Cr、Cr酸化物、Cr合金、およびこれらのいずれか2つ以上の混合物から選択した第2の材料から作製することができる。第2の被膜層は、物理蒸着法または熱蒸着法によって施すことができる。或る特定の局面において、第3の被膜が第2の被膜の上に施されてもよく、その場合、第2の被膜ではなく第3の被膜が上層を形成する。様々な局面において、第3の被膜はCr、Cr酸化物、Cr合金、およびこれらのいずれか2つ以上の混合物から選択した第3の材料から作製することができる。第3の被膜層は、物理蒸着法または熱蒸着法によって施すことができる。
【0035】
セラミック繊維、例えば、SiC繊維は、Zr合金管12に対して支持を提供し、800℃~1000℃で軟化した管が膨張・破裂して核分裂生成物が原子炉冷却材に放出されることがないようにする。第1の被膜24は、第2の被膜26によって摩耗からセラミック被覆14を保護すると共に、Zr管12と第2の被膜26との間に保護層を形成して、低融点共晶の形成を防止する。
【0036】
SiC繊維(9.2~9.3Mohs)は、Zr合金(5Mohs)および管を被膜するために使用される好ましい材料、例えば、Cr(8.5Mohs)およびNb(6Mohs)よりもはるかに硬い。SiC繊維はまた、良好な熱安定性および1600℃を超える耐食性を有するが、約1850℃で急速に酸化し始める。様々な曲面において、Crの第2または第3の層26/28はCrの外側被膜層を形成し、硬質であり、約2200℃でも非常な耐食性を示す。
【0037】
本明細書で使用するCrおよびNbは、それぞれ純粋なクロムまたは純粋なニオブとすることができ、好ましくは100%の金属クロムまたはニオブをそれぞれ意味し、冶金的機能を果たさない極微量の意図しない不純物を含むことがある。例えば、純粋なCrは、数ppmの酸素を含むことがある。本明細書で使用する「Cr合金」または「Nb合金」はそれぞれ、CrまたはNbを優勢または主要な元素とする合金を指し、特定の機能を果たす他の元素を少量かつ合理的な量だけ含む。Cr合金は、例えば原子濃度80~99%のクロムから成ることがある。Cr合金中の他の元素は、シリコン、イットリウム、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよび他の遷移金属元素から選択した少なくとも1つの化学元素を含むことがある。そのような元素は、例えば0.1%~20%の原子濃度で存在することがある。本明細書で使用するCr酸化物は、Cr、およびCrおよびOを優勢元素とし、他の元素を少量もしくは微量、または意図しない不純物として含む他の形態を含むことがある。本明細書で使用するNb酸化物は、N、およびNbおよびOを優勢元素とし、他の元素を少量もしくは微量、または意図しない不純物として含む他の形態を含むことがある。
【0038】
セラミック糸がZr合金管上に巻回されたかまたは編組みされた後、第1の被膜は、例えばホットまたはコールドスプレーなどの熱蒸着法、または有利には、陰極アーク物理蒸着、マグネトロンスパッタリング、またはパルスレーザー蒸着(PLD)などの物理蒸着(PVD)法を用いて施される。第1の被膜層24は、第2の被膜層26の前に付着され、或る特定の曲面では、第2の被膜層26の付着前に研削や研磨されてもよい。第1の被膜層24が施され、随意的に研削または研磨された後、第2の被膜層26が施される。第1と同様に、第2の被膜層26は、ホットまたはコールドスプレーなどの熱蒸着法によって、または物理蒸着法によって施すことができ、その後で研削や研磨することができる。
【0039】
適切な熱蒸着法は、様々な局面において、ホットスプレーまたはコールドスプレー法のいずれかを含む。熱溶射法では、被膜材料は、熱源によって、または陽極とタングステン陰極との間の高周波アークによって生成されるプラズマ(すなわち、プラズマアークスプレー)によって溶融される。この軟化した液体または溶融原料は、次いでプロセスガスによって運ばれ、標的表面、すなわち、第1の被膜を施す場合は糸で被覆された管、または第2の被膜を施す場合には第1の被膜に対して噴霧される。
【0040】
コールドスプレー法では、キャリアガスを加熱器に供給し、そこで、ノズルを通過するとき膨張した後のキャリアガスを所望の温度(例えば100℃~1200℃)に保たれるように十分な温度に加熱する。様々な局面において、キャリアガスは、例えば5.0MPaの圧力で200℃~1200℃の温度に予熱すればよい。或る特定の局面において、キャリアガスは200℃~1000℃の温度に予熱する。また、或る特定の局面で300℃~900℃の温度に、他の局面では500℃~800℃の温度に予熱する。この温度は、キャリアとして使用する特定のガスのジュール-トムソン冷却係数によって変わる。ガスの圧力が変化して膨張または圧縮する際にガスが冷却するかどうかは、ジュール-トムソン係数の値による。ジュール-トムソン係数が正の値であれば、キャリアガスは冷却するので、コールドスプレー法の性能に影響を及ぼす可能性がある過度の冷却が起こらないよう、予熱する必要がある。当業者は、過度の冷却を防止するために、周知の計算法を用いて加熱する度合いを決めることができる。例えば、キャリアガスがNの場合、入口温度が130℃であれば、ジュール-トムソン係数は0.1℃/バールである。初期圧力が10バール(約146.9psia)、最終圧力が1バール(約14.69psia)のガスを130℃で管体に衝突させる場合は、約9バール×0.1℃/バール(すなわち約0.9℃)高い約130.9℃にガスを予熱する必要がある。
【0041】
例えば、キャリアガスとしてヘリウムを用いる場合のガスの温度は、圧力3.0~4.0MPaにおいて450℃であるの好ましい。また、窒素のキャリアガスの温度は、圧力5.0MPaで1100℃であるが、圧力が3.0~4.0MPaであれば600℃~800℃でよい。当業者であれば、使用する機器の種類によって温度および圧力の変数が変わり、機器を改造することによって温度、圧力および体積のパラメータを調節できることを理解するであろう。
【0042】
キャリアガスに適しているのは不活性ガスまたは非反応性ガスであり、特に、被膜または標的基材を形成する粒子と反応しないガスである。キャリアガスの例として、窒素(N)、水素(H)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、ヘリウム(He)が挙げられる。
【0043】
キャリアガスの選択にはかなりの自由度がある。混合ガスを使用してもよい。ガスの選択は物理的特性と経済性の双方の制約を受ける。例えば、分子量の小さいガスは速度を大きくできるが、速度を最高にすることは、粒子の跳ね返りによって付着する粒子数が少なくなるので避けるべきである。
【0044】
コールドスプレー法は、加熱されたキャリアガスを制御下で膨張させることにより粒子を推進して基材上に付着させる原理を有する。粒子は、基材または付着済みの層に衝突し、断熱せん断による塑性変形を受ける。後続の粒子の衝突が積み重なって被膜が形成される。また、変形を促進するには、粒子を、キャリアガスへ流入させる前に、ケルビン絶対温度スケールで粉末の融点の3分の1から2分の1の温度に温めてもよい。
【0045】
例示的なコールドスプレー法において、導管を介して加熱器に送り込まれる高圧ガスは、そこで急速に、実質的には瞬時に加熱される。所望の温度に加熱されたガスは、銃のような器具に向かう。第1の被膜のためのCr、Cr合金、Cr酸化物、Nb、Nb合金、Nb酸化物もしくはそれらの混合物、または第2もしくは第3の被膜のためのCr、Cr合金、Cr酸化物もしくはそれらの混合物などの、ホッパーに保持された所望の被膜材粒子は放出後、銃に向かい、圧縮ガス噴流によってノズルを強制的に通過せしめられた後、標的基材へ向かう。スプレーされた粒子は標的表面上に付着し、所望の粒子より成る被膜を形成する。
【0046】
粒子のような材料を基材に付着させて薄い層を形成するための当技術分野で公知の物理蒸着(PVD)法がいくつかあるが、それらを用いて、第1および第2の被膜層の一方または両方を施すことができる。PVDは、次の3つの基本的なステップから成る真空蒸着法を組み合わせたものとして特徴付けられる。(1)高温真空またはガスプラズマによって促進される固体原料からの材料物質の気化、(2)真空中または不完全真空中での蒸気の基材表面への輸送、および(3)基材上での凝縮による薄膜の形成。
【0047】
最も一般的なPVD成膜法は、蒸着(典型的には陰極アークまたは電子ビーム源を使用)と、スパッタリング(「マグネトロン」により磁界で増強された、円筒形または中空の陰極源を使用)である。これらのプロセスはいずれも真空中において作動圧力(典型的には10-2~10-4mbar)で進行し、一般的には、成膜プロセス時に高エネルギー正電荷イオンを成膜対象基材へ打ち込むことにより高密度を実現する。さらに、様々な化合物の成膜組成物を生成するために、金属の付着時に真空チェンバ内に反応性ガスを導入してもよい。その結果、被膜と基材の結合が非常に強くなり、付着層の物理的特性を調整することができる。
【0048】
陰極アーク蒸着では、原料物質と成膜対象基材を、比較的少量のガスのみが入っている真空付着チェンバ内に置く。直流(DC)電源の負のリード線を原料物質(「陰極」)に、正のリード線を陽極に接続する。多くの場合、正のリード線を付着チェンバに接続するので、当該チェンバは陽極となる。電気アークにより、陰極標的から材料物質を気化させる。気化した材料物質がその後基材の上で凝縮し、所望の層が形成される。
【0049】
プラズマ蒸着法の一種であるマグネトロンスパッタリングでは、プラズマを生成し、負に帯電した電極または「標的」上に重なる電場によってプラズマからの正電荷イオンを加速する。陽イオンは、数百電子ボルトから数千電子ボルトの範囲の電位差によって加速され、負電極に標的から原子をはじき出すのに十分な力で衝突する。これらの原子は、典型的な視線方向余弦分布に従って標的面から放出され、マグネトロンスパッタリング陰極の近傍に置かれた表面で凝縮する。
【0050】
物理蒸着法の一種であるパルスレーザー蒸着(PLD)は、高出力パルスレーザービームを真空チェンバ内で集束させて、標的である付着対象材料物質に衝突させる。この材料物質は、標的から(プラズマプルーム状に)気化し、基材に付着して薄膜を形成する。PLDのプロセスは、一般的に次の5段階に分けられる。(1)標的表面のレーザー吸収、(2)標的材料物質のレーザーアブレーションとプラズマの生成、(3)プラズマの動作、(4)アブレーション材料物質の基材への付着、および(5)基材表面における核生成と薄膜の成長。
【0051】
本方法は、第1および第2の被膜層24、26のいずれかまたは両方の付着後に、被膜層の焼鈍をさらに含んでもよい。焼鈍によって、被膜の機械的特性と微細構造が改変される。焼鈍では、被膜を200℃~800℃、好ましくは350℃~550℃の範囲で加熱する。焼鈍することによって被膜中の応力が解放され、被覆管の内圧に耐えるために必要とされる延性が被膜に付与される。管体が膨張すると、それに合わせて被膜も膨張できる必要がある。焼鈍による別の重要な効果は、例えばコールドスプレー過程で生じた変形した粒子を再結晶させることにより、等方性および耐放射線損傷性という利点をもたらす、サブミクロンサイズで等軸の細粒粒子が形成されることである。
【0052】
被膜層は、より平滑な表面に仕上げるために、研削、バフ仕上げ、研磨、または他の公知の手法で処理してもよい。
【0053】
Cr、Cr合金、Cr酸化物、Nb、Nb合金、Nb酸化物またはそれらの混合物から形成される第1の被膜層は、1~20ミクロンとすることができる。Cr、Cr合金および/またはCr酸化物層、ならびにそれらの混合物から形成される第2または第3の被膜層は、1~50ミクロンとすることができる。Zr合金管はSiC支持層によって支持されるため、その壁厚は100~1000ミクロンとすることができる。
【0054】
提案された方法によれば、セラミック、特にSiCセラミックの長所と、被覆に被膜を施すこととを組み合わせることにより、膨張・破裂しない耐食性管体を製造するための低コストの方法が提供される。
【0055】
例えばSiC繊維糸16を管12の周りに直接巻き回して支持被覆14を形成することにより、まず繊維スリーブを形成し、次いでそれを管の上に置くときに通常生じる、管12とセラミック繊維被覆14との間の空隙が著しく減る。本方法では、Zr合金とセラミック被覆の両方の利点を保持しながら、被覆コストを約25%減らせると推定される。低コスト化が可能となるのは、比較的小さな巻線を除いてセラミック複合体の製造ステップをなくし、全てセラミック複合材から成る管体と比較して必要なセラミック材料の量を減らしたためである。Zr合金管12が構造的な支持および気密性の大部分を提供する一方、セラミック被覆14が高温下でZr管12を支持するので、材料の削減が可能となる。
【0056】
本明細書で言及した全ての特許、特許出願、刊行物または他の開示資料は、個々の参考文献がそれぞれ参照により明示的に組み込まれるように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照により本明細書に組み込まれると言及された全ての文献および任意の資料またはそれらの一部分は、本明細書で明示的に記載された既存の定義、言明または他の開示資料と矛盾しない範囲でのみ本明細書に組み込まれる。したがって、本明細書に記載の開示事項は、必要な範囲において、それと矛盾する、参照により本明細書に組み込まれた資料に取って代わり、本出願に明示的に記載される開示事項が決定権をもつ。
【0057】
本発明を、様々な例示的な実施形態を参照して説明してきた。本明細書に記載の実施形態は、開示された発明の様々な実施形態の様々な例示的な特徴を提供するものとして理解される。したがって、特に断らない限り、可能な範囲において、開示した実施形態の1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面は、本発明の範囲から逸脱することなく、当該開示した実施形態における他の1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、材料、構造物、モジュールおよび/または局面との間で、複合、分割、置換えおよび/または再構成が可能であることを理解されたい。したがって、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態のいずれにおいても様々な置換、変更または組み合わせが可能であることを認識するであろう。当業者はまた、本明細書を検討すれば、本明細書に記載された本発明の様々な実施形態に対する多くの等価物に気付くか、あるいは単に定常的な実験を用いてかかる均等物を確認することができるであろう。したがって、本発明は、様々な実施形態の説明によってではなく、特許請求の範囲によって限定される。
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